(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046498
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】作成プログラム、作成方法および作成装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20240327BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151923
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏川 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩一
(72)【発明者】
【氏名】天野 嘉春
(72)【発明者】
【氏名】吉田 彬
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】電力プロファイルをより短時間に立案する。
【解決手段】実施形態の作成プログラムは、取得する処理と、構築する処理と、変換する処理と、求解する処理とをコンピュータに実行させる。取得する処理は、複数のエネルギー管理装置のそれぞれより運用方策と運用方策に関する経費または利益を含む運用方策案情報を取得する。構築する処理は、取得した運用方策案情報に基づき、複数のエネルギー管理装置それぞれの運用方策の選択を2値変数で表して、所定の制約条件を満たしつつ経費を最小化または利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築する。変換する処理は、構築した制約付き2値最適化問題を制約なし2値2次最適化問題に変換する。求解する処理は、変換した制約なし2値2次最適化問題をアニーリングマシンで求解する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のエネルギー管理装置のそれぞれより運用方策と当該運用方策に関する経費または利益を含む運用方策案情報を取得し、
取得した前記運用方策案情報に基づき、前記複数のエネルギー管理装置それぞれの前記運用方策の選択を2値変数で表して、所定の制約条件を満たしつつ前記経費を最小化または前記利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築し、
構築した前記制約付き2値最適化問題を制約なし2値2次最適化問題に変換し、
変換した前記制約なし2値2次最適化問題をアニーリングマシンで求解する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする作成プログラム。
【請求項2】
前記変換する処理は、前記制約付き2値最適化問題を、タイムステップごとの制約式を表現して制約なし2値最適化問題に変換し、当該制約なし2値最適化問題の目的関数に前記制約式を付与することで、前記制約なし2値2次最適化問題に変換する、
ことを特徴とする請求項1に記載の作成プログラム。
【請求項3】
少なくとも時間を指定した要求を外部より受信する処理をさらに前記コンピュータに実行させ、
前記取得する処理は、前記要求において指定された時間内における運用方策と当該運用方策に関する経費または利益を含む運用方策案情報を取得する、
ことを特徴とする請求項1に記載の作成プログラム。
【請求項4】
前記要求は、制約条件を示す情報を含み、
前記構築する処理は、前記要求に含まれる制約条件を満たしつつ前記経費を最小化または前記利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築する、
ことを特徴とする請求項3に記載の作成プログラム。
【請求項5】
複数のエネルギー管理装置のそれぞれより運用方策と当該運用方策に関する経費または利益を含む運用方策案情報を取得し、
取得した前記運用方策案情報に基づき、前記複数のエネルギー管理装置それぞれの前記運用方策の選択を2値変数で表して、所定の制約条件を満たしつつ前記経費を最小化または前記利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築し、
構築した前記制約付き2値最適化問題を制約なし2値2次最適化問題に変換し、
変換した前記制約なし2値2次最適化問題をアニーリングマシンで求解する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする作成方法。
【請求項6】
複数のエネルギー管理装置のそれぞれより運用方策と当該運用方策に関する経費または利益を含む運用方策案情報を取得し、
取得した前記運用方策案情報に基づき、前記複数のエネルギー管理装置それぞれの前記運用方策の選択を2値変数で表して、所定の制約条件を満たしつつ前記経費を最小化または前記利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築し、
構築した前記制約付き2値最適化問題を制約なし2値2次最適化問題に変換し、
変換した前記制約なし2値2次最適化問題をアニーリングマシンで求解する、
処理を実行する制御部を含むことを特徴とする作成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、作成プログラム、作成方法および作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー供給システムは、電力・ガス・重油・日射量・空気熱などの各種の形態でシステム境界から入出力されるエネルギーおよび物質を、冷水・温水・蒸気・用水などの用役へと変換し、下流のプロセスへ供給するシステムである。
【0003】
アグリゲーターは、エネルギー供給システムを電力資源とみなして、需要家ごとにEMS(Energy Management System)を介して分散配置された負荷装置、蓄エネルギー装置、発電装置などのエネルギーリソースの電力消費・発電パターン(電力プロファイル)を集約する。
【0004】
アグリゲーターにおける電力プロファイルの立案は、本分野における古典的な問題である。この電力プロファイルの立案については、混合整数線形計画(MILP)問題として定式化する従来技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-140615号公報
【特許文献2】特開2020-27383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術では、アグリゲーターが管理する需要家が多数ある場合、短時間(例えば、30分、45分、1時間等)での電力プロファイルの立案が困難であるという問題がある。
【0007】
例えば、需給調整市場の1つでは、比較的に短時間(例えば、30分)における電力量の合計を指定量に一致させるような電力プロファイルの立案が求められる場合がある。しかしながら、MILPは、離散変数の増加(需要家とその需要家が有するエネルギーリソース)に応じて分岐限定法で探索すべき解空間の指数的な増加、すなわち組み合わせ爆発が生じる。したがって、需給調整市場が要求する時間内にMILP問題を解くことは困難になる。
【0008】
1つの側面では、電力プロファイルをより短時間に立案することができる作成プログラム、作成方法および作成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの案では、作成プログラムは、取得する処理と、構築する処理と、変換する処理と、求解する処理とをコンピュータに実行させる。取得する処理は、複数のエネルギー管理装置のそれぞれより運用方策と運用方策に関する経費または利益を含む運用方策案情報を取得する。構築する処理は、取得した運用方策案情報に基づき、複数のエネルギー管理装置それぞれの運用方策の選択を2値変数で表して、所定の制約条件を満たしつつ経費を最小化または利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築する。変換する処理は、構築した制約付き2値最適化問題を制約なし2値2次最適化問題に変換する。求解する処理は、変換した制約なし2値2次最適化問題をアニーリングマシンで求解する。
【発明の効果】
【0010】
電力プロファイルをより短時間に立案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、複数の需要家を有するアグリゲーターの一例を説明する説明図である。
【
図2】
図2は、調整依頼に対する電力プロファイルの立案の一例を説明する説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態にかかる電力プロファイル作成装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、運用方策の一例を説明する説明図である。
【
図5】
図5は、電力プロファイルの一例を説明する説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態にかかる電力プロファイル作成装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、電力プロファイルによる電力調整の一例を説明する説明図である。
【
図8】
図8は、実施形態にかかる電力プロファイル作成装置の変形例を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、コンピュータ構成の一例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、実施形態にかかる作成プログラム、作成方法および作成装置を説明する。実施形態において同一の機能を有する構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。なお、以下の実施形態で説明する作成プログラム、作成方法および作成装置は、一例を示すに過ぎず、実施形態を限定するものではない。また、以下の各実施形態は、矛盾しない範囲内で適宜組みあわせてもよい。
【0013】
図1は、複数の需要家を有するアグリゲーターの一例を説明する説明図である。
図1に示すように、エネルギー供給システムにおけるアグリゲーター1は、供給されたエネルギーを利用する複数の需要家2を有する。
【0014】
ここで、アグリゲーター1は、各需要家2と契約し、需要家2が有する負荷装置22、蓄エネルギー装置23、発電装置24などのエネルギーリソースの電力プロファイルを立案してEMS21を介してリソース制御を行う事業者である。このアグリゲーター1については、役割によってリソースアグリゲーターと、アグリゲーションコーディネーターとに区分できる。リソースアグリゲーターは、需要家2と契約を直接締結してリソース制御を行う事業者である。アグリゲーションコーディネーターは、リソースアグリゲーターが各需要家2を制御した電力量を集約し、一般送配電事業者や小売電気事業者と直接電力取引を行う事業者である。本実施形態におけるアグリゲーター1は、リソースアグリゲーターであるものとする。
【0015】
図2は、調整依頼に対する電力プロファイルの立案の一例を説明する説明図である。
図2に示すように、アグリゲーター1の電力プロファイル作成装置は、アグリゲーションコーディネーターより電力プロファイルの調整依頼を受信する(S1)。この調整依頼は、いわゆるデマンドレスポンス(DR)と呼ばれるものであり、各需要家2における需要を調整するために所定の時間単位(例えば30分、45分など)で時間を指定して行われる。このDRの一例としては、対価としてインセンティブ(報奨金)を支払うことで指定した時間内の需要を抑制するネガワット取引がある。逆に、DRは、需要を増加させるものであってもよい。
【0016】
調整依頼を受信すると、アグリゲーター1の電力プロファイル作成装置は、電力プロファイルにおける電力量の目標値を設定する(S2)。ついで、電力プロファイル作成装置は、設定した目標値と、調整対象の時間とを各需要家2のエネルギー管理装置としてのEMSへ送信する。例えば、ネガワット取引の場合は、節電電力量が目標値として設定され、各需要家2のEMSへ送信される。また、需要を増加させる場合は、増加電力量が目標値として設定され、各需要家2のEMSへ送信される。
【0017】
需要家2のEMSは、電力プロファイルの目標値を受信すると(S3)、制御対象の機器(負荷装置22、蓄エネルギー装置23、発電装置24等)のモデル化を行う(S4)。このモデル化により、需要家2のEMSは、制御対象の機器を用いた場合に生じる単位時間あたりの電力量などが得られる。また、需要家2のEMSは、過去の使用履歴(実績)などをもとに、調整対象の時間における制御対象の機器のエネルギー需要予測を行う(S5)。
【0018】
ついで、需要家2のEMSは、受信した目標値内でモデル化した機器を用いる運用方策を導出し(S6)、導出した運用方策を、その運用方策に従って機器を用いた場合に生じる経費(利益)とともに需要家2へ通知する。なお、経費(利益)については、アグリゲーター1と需要家2との契約等によってEMSに予め設定されているものとする。
【0019】
アグリゲーター1の電力プロファイル作成装置は、各需要家2のEMSが導出した運用方策案と、運用方策案に対する経費(利益)を含む情報を集約する(S7)。ついで、電力プロファイル作成装置は、集約した運用方策案から電力プロファイルに用いる運用方策を選択し、各需要家2に関する電力プロファイルを作成する(S8)。
【0020】
この運用方策の選択において、電力プロファイル作成装置は、複数の需要家2それぞれの運用方策の選択を2値変数で表して、DRとして依頼された制約条件を満たしつつ経費を最小化または利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築する。ついで、電力プロファイル作成装置は、構築した制約付き2値最適化問題を制約なし2値2次最適化(QUBO:Quadratic Unconstrained Binary Optimization)問題に変換する。
【0021】
電力プロファイル作成装置は、このように変換したQUBO問題をアニーリングマシンに適用することで、DRとして依頼された制約条件を満たしつつ経費を最小化または利益を最大化する運用方策を選択し、各需要家2に関する電力プロファイルを作成する。ついで、電力プロファイル作成装置は、作成した電力プロファイルをもとに各需要家2のEMSを指示する(S9)。このようにして、需要家2は、調整依頼に対応したリソース制御を実現する。
【0022】
図3は、実施形態にかかる電力プロファイル作成装置の機能構成例を示すブロック図である。
図3に示すように、アグリゲーター1の電力プロファイル作成装置10と、需要家2のEMS21とは、インターネット等のネットワークNを介して互いに通信可能に接続される。
【0023】
需要家2のEMS21には、ルームエアコン22a、ヒートポンプ給湯機22b、コージェネレーションシステム23a、蓄電池システム23bおよびPVシステム24aが接続されている。なお、ルームエアコン22aおよびヒートポンプ給湯機22bは、負荷装置22の一例である。また、コージェネレーションシステム23aおよび蓄電池システム23bは、蓄エネルギー装置23の一例である。また、PVシステム24aは、発電装置24の一例である。
【0024】
電力プロファイル作成装置10は、制御部11と、メモリ12と、プロセッサ13と、記憶装置14と、ネットワークインターフェース15と、アニーリングマシン16とを有する。
【0025】
制御部11は、電力プロファイル調整依頼受信部111と、電力プロファイル目標値設定部112と、運用方策集約部113と、電力プロファイル選択部114と、電力プロファイル指示部115と、データベース116と、最適化ソルバ117とを有する。制御部11は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードワイヤードロジック等によって実現される。
【0026】
メモリ12は、制御部11が処理に用いる演算データ等の各種データを記憶する揮発性メモリなどである。プロセッサ13は、制御部11の制御のもと、各種演算を行う処理部である。記憶装置14は、各種プログラムや設定情報などを制御部11が読み書き可能に記憶する不揮発性メモリやハードディスクドライブなどである。ネットワークインターフェース15は、制御部11の制御のもと、ネットワークNを介して外部機器と通信する通信インタフェースである。アニーリングマシン16は、制御部11の制御のもと、アニーリングにより最適化問題の最適解(近似解)を求解する処理部である。
【0027】
電力プロファイル調整依頼受信部111は、外部(例えばアグリゲーションコーディネーター等)よりネットワークNを介して電力プロファイルの調整依頼を受信する処理部である。例えば、電力プロファイル調整依頼受信部111は、調整対象の時間と、その時間内における節電量とが示された調整依頼(DR)を受信する。
【0028】
なお、以下の説明では、調整依頼(DR)については、需要を抑制する(経費を最小化する)場合を例示するが、このDRについては需要を増加させる(利益を最大化する)ものであってもよい。
【0029】
電力プロファイル目標値設定部112は、電力プロファイル調整依頼受信部111が電力プロファイルの調整依頼を受信した場合、調整依頼に応じた電力量の目標値を設定する処理部である。例えば、電力プロファイル目標値設定部112は、1MW分の電力量を節電する調整依頼を受信した場合、ベースラインに対して1MW少なくした電力量を目標値として設定する。
【0030】
運用方策集約部113は、電力プロファイル調整依頼受信部111が受信した調整依頼に基づいて、複数の需要家2それぞれのEMS21より運用方策と、この運用方策に関する経費または利益とを含む情報を取得して集約する処理部である。具体的には、運用方策集約部113は、受信した調整依頼をもとに設定した目標値と、調整対象の時間とを各需要家2のEMS21へ送信する。ついで、運用方策集約部113は、各需要家2のEMS21が導出した運用方策を、その運用方策に従って機器を用いた場合に生じる経費(利益)とともに受信して集約する。
【0031】
図4は、運用方策の一例を説明する説明図である。
図4に示すように、運用方策案情報D1は、「A1」、[A2」…「Z1」、「Z2」の需要家2からの情報を集約したものである。この運用方策案情報D1には、向こう3時間を30分間隔で区切った調整対象の時間における需要家2ごとの運用方策(調整した電力量)と、その経費(値段[円/W])とが含まれる。
【0032】
電力プロファイル選択部114は、集約した運用方策案情報D1から電力プロファイルに用いる運用方策を選択し、各需要家2に関する電力プロファイルを作成する処理部である。具体的には、電力プロファイル選択部114は、運用方策案情報D1をもとに、複数の需要家2それぞれの運用方策の選択を2値変数で表して、調整依頼における制約条件を満たしつつ経費を最小化するための制約付き2値最適化問題を構築する。ついで、電力プロファイル選択部114は、構築した制約付き2値最適化問題を制約なし2値2次最適化(QUBO)問題に変換する。
【0033】
ここで、制約付き2値最適化問題の構築と、2値2次最適化(QUBO)問題への変換とについて、詳細に説明する。
【0034】
まず、運用方策案情報D1には、需要家h∈Hからi∈I個の取りうる運用方策δhiを、それぞれ運用経費μhi円で実現しうるという情報が含まれるものとする。
【0035】
電力プロファイル選択部114は、上記の情報をもとに、各需要家2から高々1つまでの運用方策を選択し、DR時間t∈Tにおいて所与の電力量Et(Eは上にドット付き)を満たす制約付き2値最適化問題を次の式(1a)、(1b)、(1c)のとおりに構築する。
【0036】
【0037】
ついで、電力プロファイル選択部114は、構築した問題をアニーリングマシン16へ適用するため、制約なし2値最適化問題に変換する。具体的には、電力プロファイル選択部114は、制約付き2値最適化問題を制約なしに変換する際に目的関数へと紐付けるときに、式(1b)、(1c)について、タイムステップごとの制約式をつぎのとおりに表現する。
【0038】
【0039】
【0040】
ついで、電力プロファイル選択部114は、ラグランジュの未定乗数法により制約式を目的関数へ付与した結果、次の式(2)に示す2値2次最適化(QUBO)問題を得る。
【0041】
【0042】
電力プロファイル選択部114は、このようにして得られた2値2次最適化(QUBO)問題を最適化ソルバ117に渡し、アニーリングマシン16での求解を依頼する。電力プロファイル選択部114は、この求解結果をもとに運用方策を選択し、各需要家2に関する電力プロファイルを作成(立案)する。
【0043】
図5は、電力プロファイルの一例を説明する説明図である。
図5に示すように、電力プロファイルD2には、2値2次最適化(QUBO)問題を解いて得られた2値変数の結果(選択あり/選択なし)をもとに、調整対象の時間において選択された運用方策の組み合わせが示されている。
【0044】
電力プロファイル指示部115は、電力プロファイル選択部114が作成した電力プロファイルD2をもとに、各需要家2のEMS21を指示する。具体的には、電力プロファイル指示部115は、電力プロファイルD2をもとに各需要家2におけるリソース制御を行う。これにより、需要家2は、受信した調整依頼を満たし、かつ、経費を最小化(または利益を最大化)するようにエネルギーリソースを運用することができる。
【0045】
データベース116は、集約した運用方策案情報D1、作成した電力プロファイルD2などを管理するデータベースである。最適化ソルバ117は、アニーリングマシン16に最適化問題を適用し、アニーリングによる最適解(近似解)を求解する処理部である。具体的には、最適化ソルバ117は、電力プロファイル選択部114から依頼された2値2次最適化(QUBO)問題をアニーリングマシン16に適用し、その問題の最適解(近似解)を求解する。ついで、最適化ソルバ117は、得られた求解結果を電力プロファイル選択部114へ返す。
【0046】
図6は、実施形態にかかる電力プロファイル作成装置の動作例を示すフローチャートである。
図6に示すように、処理が開始されると、電力プロファイル調整依頼受信部111は、電力プロファイルの調整依頼(DR指示)を受信する(S11)。
【0047】
ついで、電力プロファイル目標値設定部112は、DR指示に基づいて電力量の目標値を設定する(S12)。ついで、運用方策集約部113は、DR指示に基づいて、複数の需要家2それぞれのEMS21より運用方策と、この運用方策に関する経費または利益とを含む情報を取得して運用方策案情報D1に集約する(S13)。
【0048】
ついで、電力プロファイル選択部114は、運用方策案情報D1をもとに、複数の需要家2それぞれの運用方策の選択を2値変数で表して、制約付き2値最適化問題を構築する。ついで、電力プロファイル選択部114は、構築した制約付き2値最適化問題を制約なし2値2次最適化(QUBO)問題に変換する(S14)。
【0049】
ついで、電力プロファイル選択部114は、変換したQUBO問題を最適化ソルバ117に渡し、アニーリングマシン16での求解を行う(S15)。ついで、電力プロファイル選択部114は、求解結果をもとに運用方策を選択し、調整依頼(DR指示)に対応した電力プロファイルD2を導出する(S16)。電力プロファイル指示部115は、導出された電力プロファイルD2をもとに各需要家2におけるリソース制御を行い、処理を終了する。
【0050】
図7は、電力プロファイルによる電力調整の一例を説明する説明図である。
図7の例では、18時~21時の3時間において、30分間隔で4,000の需要家2を対象に1MWのネガワット取引(DR指示)が行われているものとする。
【0051】
このDR指示に対し、実施形態にかかる電力プロファイル作成装置10では、変換した制約なし2値2次最適化(QUBO)問題をアニーリングマシン16で求解することから、15分の計算時間で運用方策の選択を行うことができた。これにより、需要家2は、電力調整の計画・実行・評価のサイクルを、需給調整市場の要件(例えば30分間隔)に整合する形で実施することが可能となる。
【0052】
図8は、実施形態にかかる電力プロファイル作成装置の変形例を示すブロック図である。
図8に示すように、変形例にかかる電力プロファイル作成装置10aは、アニーリングマシン16を備えておらず、ネットワークNを介してアニーリングマシン16が接続している点が電力プロファイル作成装置10と異なっている。この電力プロファイル作成装置10aにおいて、最適化ソルバ117は、ネットワークNを介して接続するアニーリングマシン16に対してQUBO問題の求解を依頼し、その最適解を得る。このように、アニーリングマシン16等の特殊な演算装置については、自機に備えなくてもよく、外部に処理を委託してもよい。
【0053】
以上のように、電力プロファイル作成装置10は、複数の需要家2それぞれのEMS21より運用方策と、この運用方策に関する経費または利益を含む運用方策案情報を取得する。電力プロファイル作成装置10は、取得した運用方策案情報に基づき、複数の需要家2それぞれの運用方策の選択を2値変数で表して、所定の制約条件を満たしつつ経費を最小化または利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築する。電力プロファイル作成装置10は、構築した制約付き2値最適化問題を制約なし2値2次最適化問題に変換し、変換した制約なし2値2次最適化問題をアニーリングマシンで求解する。
【0054】
このように、電力プロファイル作成装置10は、変換した制約なし2値2次最適化問題をアニーリングマシンで求解することから、所定の制約条件を満たしつつ経費を最小化または利益を最大化する運用方策を組み合わせた電力プロファイルをより短時間に立案することができる。
【0055】
また、電力プロファイル作成装置10は、制約付き2値最適化問題を、タイムステップごとの制約式を表現して制約なし2値最適化問題に変換し、この制約なし2値最適化問題の目的関数に制約式を付与することで、制約なし2値2次最適化問題に変換する。これにより、電力プロファイル作成装置10では、制約付き2値最適化問題を制約なし2値2次最適化問題に変換することができる。
【0056】
また、電力プロファイル作成装置10は、少なくとも時間を指定した要求を外部より受信し、この要求において指定された時間内における運用方策と運用方策に関する経費または利益を含む運用方策案情報を複数の需要家2それぞれのEMS21より取得する。これにより、電力プロファイル作成装置10は、要求時に指定された時間内にかかる、電力プロファイルを立案することができる。
【0057】
また、要求は制約条件を示す情報を含み、電力プロファイル作成装置10は、要求に含まれる制約条件を満たしつつ経費を最小化または利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築する。これにより、電力プロファイル作成装置10は、要求された制約条件を満たす電力プロファイルを立案することができる。
【0058】
なお、図示した各装置の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0059】
また、電力プロファイル作成装置10の制御部11で行われる電力プロファイル調整依頼受信部111、電力プロファイル目標値設定部112、運用方策集約部113、電力プロファイル選択部114、電力プロファイル指示部115および最適化ソルバ117の各種処理機能は、CPU(またはMPU、MCU(Micro Controller Unit)等のマイクロ・コンピュータ)上で、その全部または任意の一部を実行するようにしてもよい。また、各種処理機能は、CPU(またはMPU、MCU等のマイクロ・コンピュータ)で解析実行されるプログラム上、またはワイヤードロジックによるハードウエア上で、その全部または任意の一部を実行するようにしてもよいことは言うまでもない。また、電力プロファイル作成装置10で行われる各種処理機能は、クラウドコンピューティングにより、複数のコンピュータが協働して実行してもよい。
【0060】
ところで、上記の実施形態で説明した各種の処理は、予め用意されたプログラムをコンピュータで実行することで実現できる。そこで、以下では、上記の実施形態と同様の機能を有するプログラムを実行するコンピュータ構成(ハードウエア)の一例を説明する。
図9は、コンピュータ構成の一例を説明する説明図である。
【0061】
図9に示すように、コンピュータ200は、各種演算処理を実行するCPU201と、データ入力を受け付ける入力装置202と、モニタ203と、スピーカ204とを有する。また、コンピュータ200は、記憶媒体からプログラム等を読み取る媒体読取装置205と、各種装置と接続するためのインタフェース装置206と、有線または無線により外部機器と通信接続するための通信装置207とを有する。また、アグリゲーター1は、各種情報を一時記憶するRAM208と、ハードディスク装置209とを有する。また、コンピュータ200内の各部(201~209)は、バス210に接続される。
【0062】
ハードディスク装置209には、上記の実施形態で説明した機能構成(例えば電力プロファイル調整依頼受信部111、電力プロファイル目標値設定部112、運用方策集約部113、電力プロファイル選択部114、電力プロファイル指示部115および最適化ソルバ117)における各種の処理を実行するためのプログラム211が記憶される。また、ハードディスク装置209には、プログラム211が参照する各種データ212が記憶される。入力装置202は、例えば、操作者から操作情報の入力を受け付ける。モニタ203は、例えば、操作者が操作する各種画面を表示する。インタフェース装置206は、例えば印刷装置等が接続される。通信装置207は、LAN(Local Area Network)等の通信ネットワークと接続され、通信ネットワークを介した外部機器との間で各種情報をやりとりする。
【0063】
CPU201は、ハードディスク装置209に記憶されたプログラム211を読み出して、RAM208に展開して実行することで、上記の機能構成(例えば電力プロファイル調整依頼受信部111、電力プロファイル目標値設定部112、運用方策集約部113、電力プロファイル選択部114、電力プロファイル指示部115および最適化ソルバ117)に関する各種の処理を行う。なお、プログラム211は、ハードディスク装置209に記憶されていなくてもよい。例えば、コンピュータ200が読み取り可能な記憶媒体に記憶されたプログラム211を読み出して実行するようにしてもよい。コンピュータ200が読み取り可能な記憶媒体は、例えば、CD-ROMやDVDディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の可搬型記録媒体、フラッシュメモリ等の半導体メモリ、ハードディスクドライブ等が対応する。また、公衆回線、インターネット、LAN等に接続された装置にこのプログラム211を記憶させておき、コンピュータ200がこれらからプログラム211を読み出して実行するようにしてもよい。
【0064】
以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0065】
(付記1)複数のエネルギー管理装置のそれぞれより運用方策と当該運用方策に関する経費または利益を含む運用方策案情報を取得し、
取得した前記運用方策案情報に基づき、前記複数のエネルギー管理装置それぞれの前記運用方策の選択を2値変数で表して、所定の制約条件を満たしつつ前記経費を最小化または利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築し、
構築した前記制約付き2値最適化問題を制約なし2値2次最適化問題に変換し、
変換した前記制約なし2値2次最適化問題をアニーリングマシンで求解する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする作成プログラム。
【0066】
(付記2)前記変換する処理は、前記制約付き2値最適化問題を、タイムステップごとの制約式を表現して制約なし2値最適化問題に変換し、当該制約なし2値最適化問題の目的関数に前記制約式を付与することで、前記制約なし2値2次最適化問題に変換する、
ことを特徴とする付記1に記載の作成プログラム。
【0067】
(付記3)少なくとも時間を指定した要求を外部より受信する処理をさらに前記コンピュータに実行させ、
前記取得する処理は、前記要求において指定された時間内における運用方策と当該運用方策に関する経費または利益を含む運用方策案情報を取得する、
ことを特徴とする付記1に記載の作成プログラム。
【0068】
(付記4)前記要求は、制約条件を示す情報を含み、
前記構築する処理は、前記要求に含まれる制約条件を満たしつつ前記経費を最小化または前記利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築する、
ことを特徴とする付記3に記載の作成プログラム。
【0069】
(付記5)複数のエネルギー管理装置のそれぞれより運用方策と当該運用方策に関する運用経費を含む運用方策案情報を取得し、
取得した前記運用方策案情報に基づき、前記複数のエネルギー管理装置それぞれの前記運用方策の選択を2値変数で表して、所定の制約条件を満たしつつ前記経費を最小化または前記利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築し、
構築した前記制約付き2値最適化問題を制約なし2値2次最適化問題に変換し、
変換した前記制約なし2値2次最適化問題をアニーリングマシンで求解する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする作成方法。
【0070】
(付記6)前記変換する処理は、前記制約付き2値最適化問題を、タイムステップごとの制約式を表現して制約なし2値最適化問題に変換し、当該制約なし2値最適化問題の目的関数に前記制約式を付与することで、前記制約なし2値2次最適化問題に変換する、
ことを特徴とする付記5に記載の作成方法。
【0071】
(付記7)少なくとも時間を指定した要求を外部より受信する処理をさらに前記コンピュータが実行し、
前記取得する処理は、前記要求において指定された時間内における運用方策と当該運用方策に関する経費または利益を含む運用方策案情報を取得する、
ことを特徴とする付記5に記載の作成方法。
【0072】
(付記8)前記要求は、制約条件を示す情報を含み、
前記構築する処理は、前記要求に含まれる制約条件を満たしつつ前記経費を最小化または前記利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築する、
ことを特徴とする付記7に記載の作成方法。
【0073】
(付記9)複数のエネルギー管理装置のそれぞれより運用方策と当該運用方策に関する経費または利益を含む運用方策案情報を取得し、
取得した前記運用方策案情報に基づき、前記複数のエネルギー管理装置それぞれの前記運用方策の選択を2値変数で表して、所定の制約条件を満たしつつ前記経費を最小化または前記利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築し、
構築した前記制約付き2値最適化問題を制約なし2値2次最適化問題に変換し、
変換した前記制約なし2値2次最適化問題をアニーリングマシンで求解する、
処理を実行する制御部を含むことを特徴とする作成装置。
【0074】
(付記10)前記変換する処理は、前記制約付き2値最適化問題を、タイムステップごとの制約式を表現して制約なし2値最適化問題に変換し、当該制約なし2値最適化問題の目的関数に前記制約式を付与することで、前記制約なし2値2次最適化問題に変換する、
ことを特徴とする付記9に記載の作成装置。
【0075】
(付記11)少なくとも時間を指定した要求を外部より受信する処理をさらに前記制御部が実行し、
前記取得する処理は、前記要求において指定された時間内における運用方策と当該運用方策に関する経費または利益を含む運用方策案情報を取得する、
ことを特徴とする付記9に記載の作成装置。
【0076】
(付記12)前記要求は、制約条件を示す情報を含み、
前記構築する処理は、前記要求に含まれる制約条件を満たしつつ前記経費を最小化または前記利益を最大化するための制約付き2値最適化問題を構築する、
ことを特徴とする付記11に記載の作成装置。
【符号の説明】
【0077】
1…アグリゲーター
2…需要家
N…ネットワーク
10、10a…電力プロファイル作成装置
11…制御部
12…メモリ
13…プロセッサ
14…記憶装置
15…ネットワークインターフェース
16…アニーリングマシン
21…EMS
22…負荷装置
22a…ルームエアコン
22b…ヒートポンプ給湯機
23a…コージェネレーションシステム
23b…蓄電池システム
24a…PVシステム
23…蓄エネルギー装置
24…発電装置
111…電力プロファイル調整依頼受信部
112…電力プロファイル目標値設定部
113…運用方策集約部
114…電力プロファイル選択部
115…電力プロファイル指示部
116…データベース
117…最適化ソルバ
200…コンピュータ
201…CPU
202…入力装置
203…モニタ
204…スピーカ
205…媒体読取装置
206…インタフェース装置
207…通信装置
208…RAM
209…ハードディスク装置
210…バス
211…プログラム
212…各種データ
D1…運用方策案情報
D2…電力プロファイル