(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046504
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】画像診断支援装置、画像診断支援方法、及び画像診断支援プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
A61B8/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151937
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】517346521
【氏名又は名称】株式会社Lily MedTech
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】唐 天漢
(72)【発明者】
【氏名】東 隆
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601BB03
4C601BB09
4C601DD08
4C601DD21
4C601EE09
4C601GB13
4C601GC02
4C601GC10
4C601JB45
4C601JC21
(57)【要約】
【課題】超音波CTにおいて、減衰情報を求めることができる画像診断支援装置等を提供する。
【解決手段】画像診断支援装置は、被検者の生体部位の周囲を取り囲むように配置した複数の超音波素子から超音波信号を順次送信して得た複数の反射波データを取得する取得部と、前記複数の反射波データに基づいて、前記被検者の生体部位を撮像した超音波反射像を生成する生成部と、前記複数の反射波データの各々について、画素毎に、当該画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出し、前記画素毎に、前記複数の反射波データの各々において当該画素から複数の所定方向に向かって算出されたプロファイルに基づいて、超音波信号が減衰したことを表す減衰情報を推定する減衰情報推定部と、前記超音波反射像及び前記画素毎の前記減衰情報を出力する出力部と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の生体部位の周囲を取り囲むように配置した複数の超音波素子から超音波信号を順次送信して得た複数の反射波データを取得する取得部と、
前記複数の反射波データに基づいて、前記被検者の生体部位を撮像した超音波反射像を生成する生成部と、
前記複数の反射波データの各々について、画素毎に、当該画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出し、
前記画素毎に、前記複数の反射波データの各々において当該画素から複数の所定方向に向かって算出されたプロファイルに基づいて、超音波信号が減衰したことを表す減衰情報を推定する減衰情報推定部と、
前記超音波反射像及び前記画素毎の前記減衰情報を出力する出力部と、
を含む画像診断支援装置。
【請求項2】
前記減衰情報推定部は、前記複数の所定方向間のプロファイルの差分が大きいほど、減衰が大きくなるように、前記減衰情報を推定する請求項1記載の画像診断支援装置。
【請求項3】
前記複数の所定方向は、前記超音波信号の送信方向と、前記送信方向に対して傾斜する方向を含む請求項1記載の画像診断支援装置。
【請求項4】
前記減衰情報推定部は、前記送信方向のプロファイルと、当該送信方向に対応して算出された、前記傾斜する方向の各々のプロファイルの平均との差分を、前記画素からの距離毎に算出したものの総和を、前記複数の反射波データの送信方向の各々について計算し、計算値の総和を求め、計算値の総和が大きいほど、減衰が大きくなるように、前記減衰情報を推定する請求項3記載の画像診断支援装置。
【請求項5】
前記プロファイルは、前記超音波信号の送信方向の変化に伴って生じる、前記生体部位内の散乱体の後方に生じる音響陰影の変化情報を含む請求項1記載の画像診断支援装置。
【請求項6】
前記出力部は、前記散乱体の影頭情報と陰尾情報を識別可能に表示する、請求項5記載の画像診断支援装置。
【請求項7】
前記生体部位は、乳房である請求項1記載の画像診断支援装置。
【請求項8】
被検者の生体部位の周囲を取り囲むように配置した複数の超音波素子から超音波信号を順次送信して得た複数の反射波データを取得し、
前記複数の反射波データに基づいて、前記被検者の生体部位を撮像した超音波反射像を生成し、
前記複数の反射波データの各々について、画素毎に、当該画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出し、
前記画素毎に、前記複数の反射波データの各々において当該画素から複数の所定方向に向かって算出されたプロファイルに基づいて、超音波信号が減衰したことを表す減衰情報を推定し、
前記超音波反射像及び前記画素毎の前記減衰情報を出力する
処理をコンピュータが実行する画像診断支援方法。
【請求項9】
被検者の生体部位の周囲を取り囲むように配置した複数の超音波素子から超音波信号を順次送信して得た複数の反射波データを取得し、
前記複数の反射波データに基づいて、前記被検者の生体部位を撮像した超音波反射像を生成し、
前記複数の反射波データの各々について、画素毎に、当該画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出し、
前記画素毎に、前記複数の反射波データの各々において当該画素から複数の所定方向に向かって算出されたプロファイルに基づいて、超音波信号が減衰したことを表す減衰情報を推定し、
前記超音波反射像及び前記画素毎の前記減衰情報を出力する
処理をコンピュータに実行させる画像診断支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、画像診断支援装置、画像診断支援方法、及び画像診断支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
マンモグラフィは乳がんの診断のために最も広く使われている画像診断装置である。しかしながらマンモグラフィは乳腺組織が多い高濃度乳房の症例には感度が低くなってしまう問題が知られている。
【0003】
検査の見落としを防ぐ方法として、超音波エコー等を補助検査として併用することができる。しかし、超音波エコー等では、技師のスキルの依存度が高い。また、画像は技師によって撮像位置が決定されるため、同じ撮像位置で同じ画像を再現することは困難である。
【0004】
被検体の周囲に配置され、超音波の送信及び受信の少なくともいずれか一方を行う複数の素子と、超音波を送信する送信素子を切り替えながら、前記複数の素子の少なくとも一部を介して、前記被検体から反射される反射超音波の測定データを収集するデータ収集部と、を備える。前記データ収集部において、撮像領域の各点における音圧強度の積算値が均一になるよう調整する超音波撮像システムが知られている(特許文献1)。
【0005】
また、被検体に入射した超音波の被検体からの反射波を受信した受信信号に基づいて超音波画像を生成する演算処理部を備え、演算処理部が、受信信号に基づいて超音波の入射方向に沿った各位置における減衰特徴値を算出し、入射方向に沿った各位置の減衰特徴値を信号処理し、信号処理された減衰特徴値を用いて減衰特徴画像を生成し、超音波画像と減衰特徴画像とを重畳表示または並行表示する画像生成装置が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2020/138483A1
【特許文献2】特開2017-184847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
陰影や増強を含む後方エコー(Posterior echoes)を利用して、減衰情報を抽出し、良悪性の判別や、反射像で検出しい難い症例(Ductal Carcinoma In Situ.など)の検出に用いることが考えられる。特に、ハンドヘルド超音波(HHUS)では、後方エコーの情報が用いられることが多い。
【0008】
しかし、上記特許文献1のように、超音波CT(Computer Tomography)において、被検者の生体部位の周囲を取り囲むように配置した複数の超音波素子から超音波信号を送信して反射波データを得る場合には、後方エコーを視認できないため、後方エコーを利用した超音波の従来の診断基準に基づく診断はできない。
【0009】
また、特許文献2では、超音波CTにおいて、被検者の生体部位の周囲を取り囲むように配置した複数の超音波素子を用いることは考慮されていない。
【0010】
一つの側面では、超音波CTにおいて、減衰情報を求めることができる画像診断支援装置、画像診断支援方法、及び画像診断支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の第1態様は、画像診断支援装置であって、被検者の生体部位の周囲を取り囲むように配置した複数の超音波素子から超音波信号を順次送信して得た複数の反射波データを取得する取得部と、前記複数の反射波データに基づいて、前記被検者の生体部位を撮像した超音波反射像を生成する生成部と、前記複数の反射波データの各々について、画素毎に、当該画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出し、前記画素毎に、前記複数の反射波データの各々において当該画素から複数の所定方向に向かって算出されたプロファイルに基づいて、超音波信号が減衰したことを表す減衰情報を推定する減衰情報推定部と、前記超音波反射像及び前記画素毎の前記減衰情報を出力する出力部と、を含む。
【0012】
本開示の第2態様は、画像診断支援方法であって、被検者の生体部位の周囲を取り囲むように配置した複数の超音波素子から超音波信号を順次送信して得た複数の反射波データを取得し、前記複数の反射波データに基づいて、前記被検者の生体部位を撮像した超音波反射像を生成し、前記複数の反射波データの各々について、画素毎に、当該画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出し、前記画素毎に、前記複数の反射波データの各々において当該画素から複数の所定方向に向かって算出されたプロファイルに基づいて、超音波信号が減衰したことを表す減衰情報を推定し、前記超音波反射像及び前記画素毎の前記減衰情報を出力する処理をコンピュータが実行する。
【0013】
本開示の第3態様は、画像診断支援プログラムであって、被検者の生体部位の周囲を取り囲むように配置した複数の超音波素子から超音波信号を順次送信して得た複数の反射波データを取得し、前記複数の反射波データに基づいて、前記被検者の生体部位を撮像した超音波反射像を生成し、前記複数の反射波データの各々について、画素毎に、当該画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出し、前記画素毎に、前記複数の反射波データの各々において当該画素から複数の所定方向に向かって算出されたプロファイルに基づいて、超音波信号が減衰したことを表す減衰情報を推定し、前記超音波反射像及び前記画素毎の前記減衰情報を出力する処理をコンピュータに実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
一つの側面では、超音波CTにおいて、反射波データから減衰情報を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】画像診断支援システムの構成例を示す説明図である。
【
図2】超音波反射像の撮像処理に関する説明図である。
【
図3】本実施形態の画像処理装置として機能するコンピュータの一例の概略ブロック図である。
【
図4】本実施形態の画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】複数の反射波データにおける一画素についての複数の方向のプロファイルを説明するための図である。
【
図7】本実施形態の画像処理装置における画像診断支援処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図8】複数の反射波データにおける一画素についての複数の方向のプロファイルを説明するための図である。
【
図9】実施例において用いた生体部位モデルを示す図である。
【
図10】実施例において複数の反射波データの各々について算出したプロファイルを示すグラフである。
【
図11】各画素の減衰情報の推定結果を出力する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、開示の技術の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一又は等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
[第1実施形態]
<システム構成>
図1は、画像診断支援システムの構成例を示す説明図である。本実施形態では、被検者の乳房を対象とした超音波画像診断を行う画像診断支援システムについて説明する。画像診断支援システムは、画像診断支援装置2を含む。
【0018】
なお、本実施形態では画像診断の対象とする生体部位の一例として乳房を挙げるが、他の生体部位であってもよい。
【0019】
画像診断支援装置2は、超音波エコー検査のための画像診断支援装置であり、画像処理装置20及び撮像装置30を備える。画像処理装置20は、画像診断支援装置2のコンソールとして機能するコンピュータであり、乳房の超音波反射像を生成(再構成)し、乳房の複数位置において撮像された複数の反射像を表示する。なお、画像処理装置20は超音波画像診断用のコンピュータ(コンソール)に限定されず、パーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータであってもよい。
【0020】
撮像装置30は、超音波信号の送受信を行う撮像装置である。
図1に示すように、撮像装置30は、被検者がうつ伏せになった状態で乳房を撮像可能に構成されている。具体的には、撮像装置30はベッド状の形状を有し、天板31に乳房を挿入するための孔32が設けられている。孔32の下方には水槽33が設けられ、被検者は孔32から水槽33に乳房を挿入する。
【0021】
水槽33には、リングアレイ34が設けられている。リングアレイ34は、複数の超音波素子341(トランスデューサ)を備えるリング状の振動子アレイである(
図2参照)。リングアレイ34には複数の超音波素子341が等間隔で配置され、各超音波素子341は超音波信号を送信すると共に、反射波を受信する。
図2の例では、斜線付きの丸が、超音波信号を送信する超音波素子341を示しており、ドット付きの丸が、反射波を受信する超音波素子341を示している。画像処理装置20は、各超音波素子341から得た複数方向の反射波データを再構成し、超音波反射像を生成する。また、リングアレイ34は上下方向に移動可能に構成されており、画像診断支援装置2はリングアレイ34を上下に移動させて垂下した乳房の各位置(高さ)における超音波反射像を撮像し、複数位置の超音波反射像を生成する。
【0022】
本実施形態に係る画像診断支援装置2として、国際公開第2017/051903号に記載の超音波診断支援システムを採用することができる。
【0023】
上述の如く、画像診断支援装置2は乳房の超音波反射像を撮像する。本実施形態において画像診断支援装置2は、反射波データから減衰情報を推定する。
【0024】
<本実施形態に係る画像処理装置の構成>
図3は、本実施形態の画像処理装置20のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0025】
図3に示すように、画像処理装置20は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、ストレージ14、入力部15、表示部16及び通信インタフェース(I/F)17を有する。各構成は、バス19を介して相互に通信可能に接続されている。
【0026】
CPU11は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU11は、ROM12又はストレージ14からプログラムを読み出し、RAM13を作業領域としてプログラムを実行する。CPU11は、ROM12又はストレージ14に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM12又はストレージ14には、画像診断支援処理を実行するための画像診断支援プログラムが格納されている。画像診断支援プログラムは、1つのプログラムであっても良いし、複数のプログラム又はモジュールで構成されるプログラム群であっても良い。
【0027】
ROM12は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM13は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ14は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0028】
入力部15は、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0029】
画像処理装置20は、撮像装置30から、通信I/F17を経由して乳房の各コロナ断面の反射波データを受ける。
【0030】
表示部16は、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部16は、タッチパネル方式を採用して、入力部15として機能しても良い。
【0031】
通信インタフェース17は、他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0032】
次に、画像処理装置20の機能構成について説明する。
図4は、画像処理装置20の機能構成の例を示すブロック図である。
【0033】
画像処理装置20は、機能的には、
図4に示すように、ファン画像再構成部202と、減衰情報推定部203と、出力部206とを含んで構成されている。
【0034】
上記
図2は、超音波反射像の撮像処理に関する説明図である。
図2では、画像診断支援装置2がリングアレイ34を介して超音波信号を送受信し、乳房の超音波反射像を生成(撮像)する様子を概念的に図示している。
【0035】
上述の如く、画像診断支援装置2の撮像装置30は、複数(例えば150個)の超音波素子341を等間隔で設けたリングアレイ34を有し、各超音波素子341を介して超音波信号を送受信する。例えば、画像診断支援装置2は、
図2においてハッチングで図示するように、所定個の超音波素子341から撮像領域に対して超音波信号を送信する。また、送信は、隣接する超音波素子341を複数含む送信開口を設定する。送信波形は、平面波である。以下の説明において、素子は開口と言い換えることができる。
【0036】
超音波素子341は、上記の撮像領域からの反射波を受信する。なお、超音波信号を送信する素子と、反射波を受信する素子とは異なっていてもよい。画像診断支援装置2は、超音波素子341が反射波を受信して得た反射波データを、超音波反射像を生成(再構成)するための原画像データとして取得する。本実施の形態では便宜上、超音波素子341が一つの開口より送信してから得られた反射波データに基づいて再構成された画像を「ファン画像」と呼ぶ。ここでファン画像は二次元の行列である。
【0037】
画像診断支援装置2は、リングアレイ34の円周に沿って並ぶ各超音波素子341から超音波信号を順次送信することで、複数の方向それぞれから生体部位に送信した超音波信号を送信して得た複数のファン画像を取得する。そして、画像診断支援装置2(画像処理装置20)のファン画像再構成部201は、開口合成法により当該複数のファン画像を再構成し、2次元の超音波反射像を生成する。以下、当該2次元の超音波反射像を断層像ともいう。
【0038】
具体的には、画像処理装置20のファン画像再構成部202は、一の断層像を生成するに当たり、任意の超音波素子341を始点として、当該超音波素子341の隣に位置する終点の超音波素子341に至るまで、例えば時計回りに超音波信号を送信する所定個(例えば、5個)の超音波素子341を順次変えていき、全方位のファン画像(例えば30のファン画像)を取得する。上記
図2に示すように、各ファン画像は矩形状の空間をカバーし、隣接する超音波素子341で取得したファン画像同士は撮像領域が互いに部分的に重複する。ファン画像再構成部202は、
図5に示すように、各方向のファン画像を重ね合わせ、一の超音波反射像を生成する。
【0039】
また、本実施の形態では超音波素子341が乳房の周囲に円環状に配置されているものとして説明するが、その配置形状は円環状に限定されず、他の形状で配置されていてもよい。すなわち、画像診断支援装置2は、乳房(生体部位)の周囲を取り囲むように配置した複数の超音波素子341から複数回に分けて超音波信号を順次送信することで複数のファン画像を取得可能であればよく、超音波信号の送信回数や超音波素子341の配置形状は特に限定されない。
【0040】
また、上記ではファン画像の形状(撮像領域)が矩形状であるものとして説明したが、ファン画像の形状は矩形状に限定されない。すなわち、複数のファン画像は、各々が略同一平面上の断層画像撮像領域の少なくとも一部を含み、異なるファン画像の少なくとも1枚と撮像領域の一部が重複している画像の集合となる。
【0041】
ファン画像再構成部202は、上述した2次元の超音波反射像を生成することを、乳房の各位置(高さ)について繰り返し、複数位置の超音波反射像を生成する(
図5参照)。
【0042】
減衰情報推定部203は、複数の反射波データの各々について、画素毎に、当該画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出し、画素毎に、複数の反射波データの各々において当該画素から複数の所定方向に向かって算出されたプロファイルに基づいて、超音波信号が減衰したことを表す減衰情報を推定する。ここで、プロファイルは、超音波信号の送信方向の変化に伴って生じる、被検体内の散乱体の後方に生じる音響陰影の変化情報を含む。
【0043】
具体的には、減衰情報推定部203は、複数の所定方向間のプロファイルの差分が大きいほど、減衰が大きくなるように、減衰情報を推定する。複数の所定方向は、超音波信号の送信方向と、送信方向に対して傾斜する方向を含む。
【0044】
より具体的には、減衰情報推定部203は、送信方向のプロファイルと、当該送信方向に対応して算出された傾斜する方向のプロファイルとの差分を、当該画素からの距離毎に算出したものの総和を、複数の反射波データの送信方向の各々について計算し、計算値の総和を求め、計算値の総和が大きいほど、減衰が大きくなるように、当該画素の減衰情報を推定する。
【0045】
例えば、
図6に示すように、以下の式に従って、ある反射波データから画素pxについて算出される傾斜する方向B1のプロファイルpr_B1と、別の反射波データから画素pxについて算出される送信方向A2のプロファイルpr_A2との差分を、画素pxからの距離毎に算出したものの総和を、複数の反射波データの送信方向Anの各々について計算し、計算値の総和Sを求め、計算値の総和Sが大きいほど、減衰が大きくなるように、減衰情報を推定する。
【0046】
S=ΣΣ(pr_B1-pr_A2)
【0047】
ただし、一つ目のΣは、複数の反射波データ(複数の送信方向)についての合計を求めるものであり、二つ目のΣは、画素pxからの各距離についての合計を求めるものである。また、傾斜する方向B1と、送信方向A2とは、対応する方向である。
【0048】
出力部206は、ファン画像再構成部202によって生成された超音波反射像、及び減衰情報推定部203によって推定された画素毎の前記減衰情報を出力する。例えば、出力部206は、複数位置の超音波反射像を表示部16により表示すると共に、複数位置の超音波反射像の各々に対応する画素毎の減衰情報を表示部16により表示する。
【0049】
<本実施形態に係る画像診断支援装置の作用>
次に、本実施形態に係る画像診断支援装置2の作用について説明する。
【0050】
画像処理装置20のCPU11がROM12又はストレージ14から画像診断支援プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、
図7に示す画像診断支援処理が行なわれる。
【0051】
まず、ステップS101において、CPU11は、ファン画像再構成部202として、撮像装置30のリングアレイ34を、複数の断層のうち、対象となる断層に対応する乳房の位置(高さ)に移動させる。
【0052】
ステップS102において、CPU11は、ファン画像再構成部202として、撮像装置30のリングアレイ34の各超音波素子341から超音波信号を送信し、各超音波素子341から送信した超音波信号の反射波を受信して複数の反射波データを得る。
【0053】
ステップS103において、CPU11は、ファン画像再構成部202として、得られた複数の反射波データから複数のファン画像を再構成する。
【0054】
ステップS104において、CPU11は、ファン画像再構成部202として、取得した複数のファン画像を再構成した超音波反射像を生成する。具体的には、CPU11は、乳房の対象位置(高さ)における超音波反射像を生成する。
【0055】
ステップS105において、CPU11は、減衰情報推定部203として、対象となる断層における複数の反射波データの各々について、画素毎に、当該画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出する。
【0056】
ステップS106において、CPU11は、減衰情報推定部203として、画素毎に、複数の反射波データの各々において当該画素から複数の所定方向に向かって算出されたプロファイルに基づいて、減衰情報を推定する。また、CPU11は、画素毎に推定された減衰情報を合成して、減衰像を生成する。
【0057】
ステップS107において、CPU11は、対象となる断層の情報として、超音波反射像及び減衰像を出力する。
【0058】
ステップS108において、CPU11は、全ての断層について上記ステップS101~S107の処理を実行したか否かを判定する。複数の断層の全てについて上記ステップS101~S107の処理を実行した場合には、ステップS109へ進む。一方、上記ステップS101~S107の処理を実行していない断層が存在する場合には、上記ステップS101へ戻り、当該断層を、対象の断層として、上記ステップS101~S107の処理を実行する。
【0059】
全ての断層について上記ステップS101~S107の処理を実行することにより、CPU11は、リングアレイ34を上下方向に移動させながら超音波信号を送受信し、乳房の互いに異なる位置(高さ)において各方向から乳房を撮像したファン画像を取得する。また、CPU11は、一方向(上下方向)に沿う乳房の互いに異なる位置(高さ)における複数位置の超音波反射像を生成する。
【0060】
ステップS109では、CPU11は、出力部206として、複数位置の超音波反射像から三次元反射像を生成し、複数位置の減衰像から三次元減衰像を生成し、三次元反射像及び三次元減衰像を再構成し、画像診断支援処理を終了する。そして、例えば、医師が、表示部16に表示された、三次元反射像、及び三次元減衰像や、これらの断層像を見ながら、被検者に対する診断を行う。
【0061】
以上より、本実施形態によれば、複数の反射波データの各々について、画素毎に、当該画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出し、画素毎に、複数の反射波データの各々において当該画素から複数の所定方向に向かって算出されたプロファイルに基づいて、超音波信号が減衰したことを表す減衰情報を推定する。これにより、超音波CTにおいて、減衰情報を求めることができる。
【0062】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る画像診断支援システムについて説明する。なお、第2実施形態に係る画像診断支援システムは、第1実施形態と同様の構成であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0063】
第2実施形態では、減衰情報を推定する際に用いる、傾斜する方向のプロファイルの数が、第1実施形態と異なっている。
【0064】
第2実施形態に係る画像診断支援装置2の減衰情報推定部203は、複数の反射波データの各々について、画素毎に、当該画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出し、画素毎に、複数の反射波データの各々において当該画素から複数の所定方向に向かって算出されたプロファイルに基づいて、超音波信号が減衰したことを表す減衰情報を推定する。
【0065】
具体的には、減衰情報推定部203は、送信方向のプロファイルと、当該送信方向に対応して算出された、傾斜する方向の各々のプロファイルの平均との差分を、当該画素からの距離毎に算出したものの総和を、複数の反射波データの送信方向の各々について計算し、計算値の総和を求め、計算値の総和が大きいほど、減衰が大きくなるように、当該画素の減衰情報を推定する。
【0066】
例えば、
図8に示すように、以下の式に従って、ある反射波データから画素pxについて算出される、傾斜する方向C3のプロファイルpr_C3、及び別の反射波データから画素pxについて算出される、傾斜する方向B1のプロファイルpr_B1の平均と、更に別の反射波データから画素pxについて算出される、送信方向A2のプロファイルpr_A2との差分を、画素pxからの距離毎に算出したものの総和を、複数の反射波データの送信方向の各々について計算し、計算値の総和Sを求め、計算値の総和Sが大きいほど、減衰が大きくなるように、減衰情報を推定する。
【0067】
S=ΣΣ{(pr_C3+pr_B1)/2-pr_A2}
【0068】
ただし、一つ目のΣは、複数の反射波データ(複数の送信方向)についての合計を求めるものであり、二つ目のΣは、画素pxからの各距離についての合計を求めるものである。また、傾斜する方向B1、C3と、送信方向A2とは、対応する方向である。
【0069】
なお、第2実施形態に係る画像診断支援システムの他の構成及び作用については、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0070】
<実施例>
次に、第2実施形態に係る画像診断支援システムの実施例について説明する。
【0071】
まず、本実施例では、シミュレーションのために、
図9に示すような、一ヵ所に腫瘍領域を含む生体部位モデルを用いた。
図9の例では、実線の円が、リングアレイ34の配置位置を示し、薄いグレー部分が、乳房の領域を示し、濃いグレー部分が、腫瘍領域を示している。
【0072】
図10では、複数の反射波データの各々について、ある画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出した例を示している。
図10では、ある画素について、送信方向Aのプロファイルと、当該送信方向Aに対応して算出された、傾斜する方向B、Cの各々のプロファイルと、傾斜する方向B、Cの各々のプロファイルの平均とを示している。
図10の左側のグラフと、右側のグラフから、送信方向Aのプロファイルと、傾斜する方向B、Cの各々のプロファイルの平均との差分に違いがあることが分かる。
【0073】
図11では、画素毎に推定された減衰情報が表示される例を示している。
図9の腫瘍領域に対応して減衰が大きく推定されていることが分かる。
【0074】
また、
図11の例では、腫瘤のような散乱体によって生じる陰影の影頭情報と影尾情報を識別可能に表示している。散乱体の影頭情報は、従来の反射像で、信号の進行方向における散乱体の境界線情報である。一方、影尾情報は、本発明により取得される、減衰情報を示す。通常、反射像では、コントラストの高低により、病変の性質が推定される。例えば、乳腺とのコントラスト比が高い場合、嚢胞や乳管がん、粘液がんなどを疑うことができる。一方、DCISや乳管癌/硬性型、小葉癌は、コントラスト比が低い場合もあり、反射像のみで完全に見分けることは難しい。これに対し、減衰情報では、病変の性状が、後方増強の有無や後方陰影の有無など異なる現象に現される。たとえば、嚢胞は後方増強が大きい一方、充実型や硬性型の乳管癌には、後方陰影が生じる。したがって、影頭の情報と影尾の情報の組み合わせから、病変の性状を推定することが可能となる。本発明では、反射波のみを利用することで、反射情報と減衰情報を取得でき、従来の反射情報のみの反射像よりも、性状情報を識別可能にすることができる。影頭の情報(反射情報)と尻尾(減衰率)の独立する二つの情報は、例えは
図11のように2つのカラーコードの差異で表示することができる。また、診断上の分類をして表示してもよい。
【0075】
<変形例>
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0076】
例えば、上記各実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した各種処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、画像診断支援処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0077】
また、上記各実施形態では、画像診断支援プログラムがストレージ14に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【0078】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0079】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0080】
(付記項1)
メモリと、
前記メモリに接続された少なくとも1つのプロセッサと、
を含み、
前記プロセッサは、
被検者の生体部位の周囲を取り囲むように配置した複数の超音波素子から超音波信号を順次送信して得た複数の反射波データを取得し、
前記複数の反射波データに基づいて、前記被検者の生体部位を撮像した超音波反射像を生成し、
前記複数の反射波データの各々について、画素毎に、当該画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出し、
前記画素毎に、前記複数の反射波データの各々において当該画素から複数の所定方向に向かって算出されたプロファイルに基づいて、超音波信号が減衰したことを表す減衰情報を推定し、
前記超音波反射像及び前記画素毎の前記減衰情報を出力する
ように構成される画像診断支援装置。
【0081】
(付記項2)
画像診断支援処理を実行するようにコンピュータによって実行可能なプログラムを記憶した非一時的記憶媒体であって、
前記画像診断支援処理は、
被検者の生体部位の周囲を取り囲むように配置した複数の超音波素子から超音波信号を順次送信して得た複数の反射波データを取得し、
前記複数の反射波データに基づいて、前記被検者の生体部位を撮像した超音波反射像を生成し、
前記複数の反射波データの各々について、画素毎に、当該画素から複数の所定方向に向かってプロファイルを算出し、
前記画素毎に、前記複数の反射波データの各々において当該画素から複数の所定方向に向かって算出されたプロファイルに基づいて、超音波信号が減衰したことを表す減衰情報を推定し、
前記超音波反射像及び前記画素毎の前記減衰情報を出力する
非一時的記憶媒体。
【符号の説明】
【0082】
2 画像診断支援装置
10 サーバ
11 CPU
14 ストレージ
20 画像処理装置
30 撮像装置
202 ファン画像再構成部
203 減衰情報推定部
206 出力部
341 超音波素子