(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046512
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240327BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20240327BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240327BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240327BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240327BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/1397
H01M4/62 Z
H01M4/58
H01M4/38 Z
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151946
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 由宇
(72)【発明者】
【氏名】阪口 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】山下 直人
(72)【発明者】
【氏名】向井 孝志
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017BB08
5H017BB12
5H017BB14
5H017BB17
5H017CC01
5H017EE04
5H017HH01
5H017HH08
5H050AA19
5H050BA15
5H050BA16
5H050CA10
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA06
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA10
5H050EA12
5H050EA15
5H050EA24
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】電極の製造過程である真空乾燥時において、電極剥離が生じることを抑制し、製造歩留まりを向上できる電極の製造方法を提供する。
【解決手段】電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、を混練してスラリーを得る工程(S1)と、上記スラリーを基板上に塗布する工程(S2)と、塗布したスラリーを真空乾燥させる工程(S3)と、を含み、上記混練を、150℃以上200℃以下で加熱する加熱撹拌処理および脱泡撹拌処理により行う、電極の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、を混練してスラリーを得る工程と、前記スラリーを基板上に塗布する工程と、前記塗布したスラリーを真空乾燥させる工程と、を含み、前記混練を、150℃以上200℃以下で加熱する加熱撹拌処理および脱泡撹拌処理により行う、電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極の製造方法において、前記加熱撹拌処理を、180℃以上200℃以下で行う、電極の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電極の製造方法において、前記電極活物質、前記導電助剤および前記バインダーに関し、質量基準における含有比率を、電極活物質:導電助剤:バインダー=x:y:zで表したとき、これら含有比率(質量%)が、50≦x≦95、2.5≦y≦45、2.5≦z≦45の範囲である、電極の製造方法。
【請求項4】
電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、固体電解質と、を混練してスラリーを得る工程と、前記スラリーを基板上に塗布する工程と、前記塗布したスラリーを真空乾燥させる工程と、を含み、前記混練を、150℃以上200℃以下で加熱する加熱撹拌処理および脱泡撹拌処理により行う、電極の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電極の製造方法において、前記加熱撹拌処理を、180℃以上200℃以下で行う、電極の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の電極の製造方法において、前記電極活物質、前記導電助剤、前記バインダーおよび前記固体電解質に関し、質量基準における含有比率を、電極活物質:導電助剤:バインダー:固体電解質=x:y:z:vで表したとき、これら含有比率(質量%)が、50≦x≦92.5、2.5≦y≦45、2.5≦z≦45、2.5≦v≦45の範囲である、電極の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の電極の製造方法において、前記電極活物質が、正極活物質である、電極の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の電極の製造方法において、前記電極活物質が、コンバージョン型活物質または合金反応型活物質である、電極の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の電極の製造方法において、前記電極活物質が、CuCl2、FeF2およびSから選ばれる材料からなる、電極の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の電極の製造方法において、集電体材料としてステンレス鋼を用いた電極の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の電極の製造方法において、前記バインダーとして非水系バインダーを用いた電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の製造方法に係り、特に、電池用の電極に好適な電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気を駆動源とする車両等に搭載される電源やパソコンおよび携帯端末等の電気製品等に搭載される電源として、リチウムイオン二次電池等の比較的高い出力と高い容量が実現できる二次電池が使用されている。この二次電池のなかでも、特に、リチウムイオン二次電池は、軽量で高エネルギー密度が得られ、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)等の車両の駆動用高出力電源として好ましく、今後ますます需要が拡大することが予想される。
【0003】
近年、二次電池の一形態として、液状の電解質(電解液)に代えて粉末状、ペレット形状、焼結により成形されたプレート形状等の固体電解質を使用する形態の電池、いわゆる全固体電池とも呼称される形態の二次電池が実用化に向けて、種々研究、開発されている。
【0004】
また、燃料となる水素と酸素を外部から供給し、これらを反応させて水が生成する際に生起するエネルギーを電気的に取り出す燃料電池もまた、エネルギー効率が高く、排出物が水しかないクリーンなエネルギーとして期待されている。
【0005】
これら電池に用いられる電極としては通常、電極活物質に導電助剤やバインダーを配合してスラリーを調製し、このスラリーを、例えば、集電体などの基体上に塗布した後、真空乾燥させて板状に成形し、得られた板状体をプレス後、電極形状に打ち抜いたり切断したりして加工することで製造できる。
【0006】
スラリーを調製するための混練方法としては従来、真空減圧や超音波、遠心分離などの脱泡撹拌方法が用いられてきた(例えば、特許文献1、2等参照)。
【0007】
ところが、これらの脱泡撹拌方法にはそれぞれ長所、短所があり、十分に混練された電極材料を開発する際には、どの方法を用いるとしても、その短所が求める品質の電極材料を得るための障壁となる場合があった。
【0008】
これに対して、新たに提案された自転公転式ミキサーを用いる方法では、上記した脱泡撹拌方法と比較して効率的かつ十分に混練および脱泡することができ、良好な品質の電極材料が得られることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5148036号公報
【特許文献2】特開2019-216060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、自転公転式ミキサーを用いることで、それまで作製が不可能であった電極をも製造することができるようになったが、スラリーの真空乾燥工程において電極材料部が基板から剥がれる、いわゆる電極剥離が生じてしまい、製造歩留まりが低下することがあった。
【0011】
そこで、本発明は、このような電極剥離が生じることを抑制し、製造歩留まりを向上できる電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本実施の形態における電極の製造方法は、電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、を混練してスラリーを得る工程と、前記スラリーを基板上に塗布する工程と、前記塗布したスラリーを真空乾燥させる工程と、を含み、前記混練を、150℃以上200℃以下で加熱する加熱撹拌処理および脱泡撹拌処理により行う。
【0013】
また、他の実施の形態における電極の製造方法は、電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、固体電解質と、を混練してスラリーを得る工程と、前記スラリーを基板上に塗布する工程と、前記塗布したスラリーを真空乾燥させる工程と、を含み、前記混練を、150℃以上200℃以下で加熱する加熱撹拌処理および脱泡撹拌処理により行う。
【発明の効果】
【0014】
本実施の形態において開示される電極の製造方法によれば、その製造時における、真空乾燥の際に電極剥離が生じることを抑制し、製造歩留まりを向上した電極の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施の形態の電極の製造方法を説明するフローである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<事前の検討事項>
上記課題に記載したように、自転公転式ミキサーを用いることで、これまで作製が不可能であった電極を製造することが可能となったが、電極の真空乾燥時に電極剥離が生じ、製造歩留まりが低下することがあった。
【0017】
本出願人らは、このような製造歩留まりの低下がどのような原因により生じるかを鋭意検討したところ、原料を混練してスラリーを得る過程で、原料中に含まれる水分が十分に除去されていないことに起因すると推定した。すなわち、真空乾燥時において150℃程度に加熱するが、このとき、原料に残留している水分が揮発して、電極材料と集電体(基板)との結着力を弱め、電極材料が基板から剥がれる、いわゆる電極剥離が生じるのではないかと考えた。
【0018】
そこで、本発明者らは、真空乾燥の前段階であるスラリーを得る混練工程において、150℃以上で加熱しながら加熱撹拌することに加え、脱泡撹拌したところ、その後の真空乾燥時において電極剥離が抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
<実施の形態>
以下、実施の形態を実施例や図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一または関連の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
[電極の製造方法]
本発明の一実施形態である電極の製造方法は、上記のように、電極活物質と、導電助剤と、バインダーと、を混練してスラリーを得る工程と、スラリーを基板上に塗布する工程と、塗布したスラリーを真空乾燥させる工程と、を含んでなる。以下、各工程について、
図1を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
〔スラリーを得る工程(S1)〕
スラリーを得るのに先立って、電極材料として含有させる各種原料を用意する。ここで用意する原料としては、例えば、電極活物質、導電助剤、バインダー等が挙げられる。その他、本発明の効果としてもたらされる作用はじめ利点を阻害しない範囲で、別途成分を追加・配合することができる。
【0022】
用意した各種原料を混合・混練して、均一な状態となるようにしてスラリーとする(
図1-工程(S1))。ここで得られるスラリーは、十分に脱泡された状態とすることが好ましく、本実施の形態では、この工程を、加熱撹拌処理(
図1-加熱撹拌工程(S1-1))および脱泡撹拌処理(
図1-脱泡撹拌工程(S1-2))により行う。なお、加熱撹拌処理と脱泡撹拌処理は、その処理順序は問わず、同時に行うこともできる。以下の説明では、加熱撹拌処理を行った後、脱泡撹拌処理を行う場合を例に説明する。
【0023】
工程(S1-1)は、電極材料中に含まれる水分を除去できる温度に加熱しながら撹拌を実施する点に特徴を有する。このときの加熱温度としては、効率的に水分を除去する目的から、例えば、150℃以上200℃以下が好ましく、180℃以上200℃以下がより好ましい。
【0024】
加熱温度の上限を200℃に抑えることで、原料、特にバインダーが分解はじめ変質することのないように、また、溶媒に発火をきたすことなく、混合することができる。
【0025】
また、工程(S1-1)においては、公知の撹拌条件を適用することができ、特に限定されるものではないが、例えば、撹拌子を用いて混合原料を撹拌することができ、このとき、撹拌子の回転数は50rpm~200rpmが好ましく、100rpm~200rpmがより好ましく、150rpm~200rpmがさらに好ましい。
【0026】
工程(S1-2)においては、例えば、真空減圧処理、超音波処理、遠心分離処理、自転公転式撹拌処理等の公知の脱泡撹拌処理方法を適用することができ、なかでも自転公転式撹拌処理が好ましい。自転公転式撹拌方法を適用する場合の処理条件としては、例えば、自転公転式ミキサーにおける自転速度は100rpm~1000rpmが好ましく、500rpm~750rpmがより好ましい。加えて、公転速度は200rpm~2000rpmが好ましく、1000rpm~1500rpmがより好ましい。
【0027】
このときの温度は150℃未満とすればよく、常温(25℃)で行うこともできる。また、圧力は常圧(1気圧)で行うことができ、減圧する場合には、例えば、1.0kPa~0.50kPa程度とすることもできる。
【0028】
上記のように、加熱撹拌処理と脱泡撹拌処理を併用してスラリーを得ることで、原料が均一に混合され、脱泡も十分に行われると同時に、原料中の水分をも十分に除去することができる。この段階で水分を除去しておくことで、後述する真空乾燥工程において、電極剥離等の不具合の発生を抑制できる。
【0029】
なお、加熱撹拌処理と脱泡撹拌処理を同時に行う場合には、上記説明した工程(S1-2)を、150℃~200℃に加熱した環境で行うようにすればよい。
【0030】
〔電極材料の原料〕
電極材料の構成原料について、以下に説明する。この原料としては、上記したように、通常、電極活物質、導電助剤およびバインダーが用いられる。
【0031】
電極活物質としては、正極を形成する際には正極活物質を、負極を形成する際には負極活物質を、各々公知の材料を特に限定することなく用いることができる。
【0032】
正極活物資としては、例えば、MnO2、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2等が挙げられる。
【0033】
一方、負極活物質としては、例えば、Zn、Li、黒鉛(グラファイト)、Si系材料、、Li4Ti5O12等が挙げられる。
【0034】
また、導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラックやグラファイト、カーボンナノチューブ等の炭素材料が好ましいものとして挙げられるが、公知の導電助剤を特に限定することなく用いることができる。
【0035】
さらに、バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダーや、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダー等が挙げられるが、公知のバインダーを特に限定することなく用いることができる。
【0036】
ただし、バインダー成分を分散あるいは溶解する際には溶媒を必要とするが、ハロゲン化物などのコンバージョン型活物質に対しては、水を溶媒とした場合、活物質の失活や、スラリーの酸性化をきたす。活物質が失活すると、可逆的な電気容量の低下を招く恐れがある。また、ハロゲン化合物を含む酸性化したスラリーと接触した状態では、耐酸性に優れるステンレス鋼箔を用いたとしても、ステンレス鋼箔の表面に存在する不働態皮膜が破壊され、腐食が進行するため、良好な電極を得ることができない。
【0037】
このような理由から、当該コンバージョン型活物質に対しては、有機溶媒によりバインダー成分を分散あるいは溶解した非水系バインダーを用いることが好ましい。なお、非水系バインダーに用いられる溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エステルケトン類、エーテル類、アミン類などが挙げられる。
【0038】
なお、非水系バインダーに対しては、必要に応じて、粘度を調整するための溶媒を用いることもできる。この目的に使用される溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)、ピロリドン、N-メチルチオピロリドン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホアミド、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0039】
このとき、上記した原料である電極活物質と、導電助剤と、バインダーを含有させる場合、これらの質量基準における含有比率(質量%)を、電極活物質:導電助剤:バインダー=x:y:zで表したとき、50≦x≦95、2.5≦y≦45、2.5≦z≦45の範囲とすることが好ましい。さらに、これら比率は、65≦x≦95、2.5≦y≦20、2.5≦z≦15の範囲とすることがより好ましい。
【0040】
そして、上記した原料を混練してスラリーを得る工程においては、最初の混合時には固形分率を30%程度以下となるように上記成分および溶媒を配合しておき、上記加熱撹拌工程(S1-1)の後において、固形分率が30%以上70%以下となるように調整することが好ましく、40%以上50%以下となるように調整することがより好ましい。
【0041】
スラリーの固形分率を上記範囲に調整することで、固形分率が過少となりスラリーが分離したり、固形分率が過多となってスラリーが硬化し、次の塗布工程(S2)において、膜切れを起こして、電極として均一且つ必要な面積の膜が得られなくなったりする事態を回避できる。
【0042】
〔スラリーを塗布する工程(S2)〕
続いて、上記工程(S1)で得られたスラリーを、板状の電極を得るために基板上に塗布する(
図1-塗布工程(S2))。
【0043】
この工程(S2)では、得られたスラリーを所望の厚さの塗膜となるように基板上に塗布できればよく、公知の塗布方法を、特に制限されずに使用できる。この塗布方法としては、例えば、エクストルージョンコート、グラビアコート、リバースロールコート、ディップコート、アプリケータコート、ドクターコート、スクリーン印刷等が挙げられる。
【0044】
この塗布におけるスラリーの厚さとしては、例えば、10μm~150μmが好ましく、10μm~100μmがより好ましく、10μm~50μmがさらに好ましい。
【0045】
また、スラリーを塗布する基板としては、安定した塗膜を形成できる平板状であれば、特に限定されずに用いることができる。この基板の表面には、金属膜等からなる集電体を設けてもよく、集電体上にスラリーを塗布することで、次の工程である真空乾燥工程、さらにその後のプレス工程や打ち抜き、切断等の加工工程等を経ることにより、そのまま電極を形成することができ、好ましい。
【0046】
集電体としては、電池において化学変化を起こさない電子伝導体であればよく、公知の材料を特に限定せずに用いることができる。
【0047】
正極集電体としては、典型的には、良好な導電性を有する金属材料が好ましく、例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼、銅や、これら各々にカーボンコートを施したもの(プライマーコート箔)等の金属材がよく知られる。コンバージョン型活物質を用いる場合は特に、幅広い電圧範囲で充放電を行うことで高い容量が得られることから、広い電位窓を有する集電体が好ましい。このような集電体の材料としては、ステンレス鋼(例えば、ステンレス鋼箔)が好ましい。ステンレス鋼にはその組織構造によってフェライト型、マルテンサイト型、オーステナイト型などがあるが、特に限定されない。正極集電体の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm~50μm程度が適当であり、8μm~30μm程度がより好ましい。
【0048】
また、負極集電体の素材としては、典型的には、良好な導電性を有する金属材料が好ましく、例えば、銅(例えば、銅箔)や銅を主体とする合金を用いることができる。負極集電体の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm~50μm程度が適当であり、8μm~30μm程度がより好ましい。
【0049】
〔スラリーを真空乾燥する工程(S3)〕
次いで、上記工程(S2)で得られた集電体に塗布されたスラリーを真空乾燥して、電極活物質層(塗膜)を得る(
図1-真空乾燥する工程(S3))。
【0050】
この工程(S3)は、例えば、1.0kPa以下に減圧するとともに、150℃以上に加熱することで実施できる。このときの圧力は1.0kPa~0.50kPaが好ましく、温度は150℃~170℃が好ましい。
【0051】
本実施の形態においては、上記した工程(S1)を行うことにより、工程(S3)における電極剥離等の発生を抑制できる。
【0052】
以上、本実施の形態における、電極製造における特徴的な部分を説明したが、さらにこの後工程として、必要に応じてローラープレス等により圧縮成形して所定の厚みにしてから、所定の幅、長さに打ち抜きや切断により加工して電池用の電極を得ることができる。このようにして得られた電極は、公知の方法により、その他構成要素と組み合わせて電池とすることができる。
【0053】
<改良例>
以上、電極の製造方法について説明したが、本実施の形態においては、電極材料を次に説明するような、全固体電池用にも使用することができる。この改良例の実施においては、電極材料が異なることを除いては、その製造にかかる操作および適用条件は上記説明した電極の製造方法と同一であるため、その繰り返しの説明については省略する。
【0054】
〔電極材料の原料〕
この改良例における電極材料の原料について、以下説明する。この原料としては、通常、電極活物質、導電助剤、バインダーおよび固体電解質が用いられる。この改良例においては、上記説明した原料に、固体電解質が追加されている点が特徴である。そして、この電極材料は、正極層と負極層との間に固体電解質層を配置して構成される全固体電池用に好適である。
【0055】
ここでは、正極を形成する際には正極活物質を、負極を形成する際には負極活物質を用い、それらには公知の材料を特に限定することなく用いることができる。
【0056】
ここで用いられる正極活物質としては、上記説明したものの他、コンバージョン型(分解再生成反応型とも称される)、あるいは合金反応型の活物質が好ましいものとして挙げられ、例えば、CuCl2、FeF2、S、AgCl、FeCl3、NiCl2、CoCl2、FeCl2、Li2S、LiCl、LiF、AgF、Br2、LiBr、CoF3、CuF2、CuF、BiF3、CuCl2、NiF2、LiI、I2、CoF2、FeF3、MnF3、CrF3、CuS、Li2Se、Se、CuSe、Cu2O、CoS2、Cu2S、NiS、FeS2、Te、Li2Te、VF3、FeS、CoSe2、MnS2、MnCl2、Co3S4、FeSe、TiF3、MnS等が好ましい。なかでも、CuCl2、FeF2、Sが好ましい。
【0057】
なお、コンバージョン型活物質としては、例えば、ハロゲン化遷移金属(CuCl2、FeF2、FeCl3など)やハロゲン化アルカリ金属(LiCl、LiFなど)が該当し、リチウムと金属化合物との間で生じる分解・生成をともなう化学反応により、充放電が行われる。一方、合金反応型活物質としては、例えば、Si、SiO、Sn、SnCl2などが該当し、Li合金相の形成に伴う反応によって充放電が行われる。
【0058】
これら正極活物質は粒子として含有され、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、0.1μm~20μm程度が好ましく、0.4μm~10μm程度がより好ましい。
【0059】
また、ここで用いられる負極活物質としては、例えば、Si系、Li系、Sn系、Mg系、Al系等のコンバージョン型、あるいは、合金反応型、溶解析出反応型の活物質が挙げられる。なかでも、重量当たりまたは体積当たりのエネルギー密度の高さの点で、Si系、Li系、Mg系、Al系の活物質が好ましい。
【0060】
なお、溶解析出反応型活物質とは、例えば、金属Liや金属Naなどが該当し、これら金属相の溶解・析出にともなって充放電が行われる。
【0061】
Si系の負極活物質としては、Siや、SiとOの構成比が1:a(ここで0.05<a<1.95)で表されるSiとSiO2の混合体、SiとCの構成比が1:b(ここで0<b<1)で表されるSiとSiCの混合体、SiとNの構成比が1:c(ここで0<c<4/3)で表されるSiとSi3N4の混合体、等が挙げられる。
【0062】
また、Si系負極活物質のその他の例として、SiとSi以外の元素とからなる合金材料が挙げられる。ここでいうSi以外の元素としては、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、Ti等が挙げられる。
【0063】
Sn系の負極活物質としては、例えば、Sn、Sn酸化物、Sn窒化物、Sn含有合金等、およびこれらの固溶体等が挙げられる。これらに含有されるSn原子の一部が1種または2種以上のSn以外の元素で置換されていてもよい。
【0064】
Sn酸化物としては、酸化スズ(SnOd(0<d<2))、二酸化スズ(SnO2)等が挙げられる。Sn含有合金としては、Ni-Sn合金、Mg-Sn合金、Fe-Sn合金、Cu-Sn合金、Ti-Sn合金等が挙げられる。Sn化合物としては、SnSiO3、Ni2Sn4、Mg2Sn等が挙げられる。
【0065】
Li系の負極活物質としては、Li、In-Li合金、Al-Li合金、Mg-Li合金、Zn-Li合金、Sn-Li合金、Sb-Li合金等が挙げられる。
【0066】
Mg系の負極活物質としては、Mg、Ni-Mg合金、Sn-Mg合金、Fe-Mg合金、Cu-Mg合金、Ti-Mg合金等が挙げられる。
【0067】
Al系の負極活物質としては、Al、Ni-Al合金、Sn-Al合金、Fe-Al合金、Cu-Al合金、Ti-Al合等が挙げられる。
【0068】
これら負極活物質は粒子として含有され、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、例えば1μm~20μm程度が適当であり、2μm~10μm程度が特に好ましい。
【0069】
ここで用いることができる固体電解質としては、種々の酸化物系固体電解質または硫化物系固体電解質が挙げられる。
【0070】
酸化物系固体電解質としては、NASICON構造、ガーネット型構造あるいはペロブスカイト型構造などを有する結晶性酸化物が好ましいものとして挙げられる。例えば、一般式LixAOy(ここでAは、B、C、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Nb、Mo、Ta、またはWであり、xおよびyは正の数である。)で表されるものを挙げることができる。具体例として、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、LiAlO2、Li4SiO4、Li2SiO3、Li3PO4、Li2SO4、Li2TiO3、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、Li2ZrO3、LiNbO3、Li2MoO4、Li2WO4、等が挙げられる。また、Li2O-B2O3-P2O5系、Li2O-SiO2系、Li2O-B2O3系、Li2O-B2O3-ZnO系、等の特定の結晶構造を有さないガラスまたはガラスセラミックスにおいても好ましいものが挙げられる。
【0071】
高いイオン伝導性を有するという観点からは特に、硫化物系固体電解質の使用が好ましい。例えば、Li2S-SiS2系、Li2S-P2S3系、Li2S-P2S5系、Li2S-GeS2系、Li2S-B2S3系、Li3PO4-P2S5系、Li4SiO4-Li2S-SiS2系、等のガラスまたはガラスセラミックスが挙げられる。
【0072】
より高いイオン伝導性を実現するという観点からいえば、Li2Sとハロゲン化リチウム(例えばLiCl、LiBr、LiI)とから構成されるLi2Sベースの固溶体の利用が好ましい。好ましいものとして、LiBr-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、LiBr-LiI-Li2S-P2S5、等が挙げられる。
【0073】
これら固体電解質は粒子状にて使用され、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)としては、例えば0.1μm~10μmが好ましく、0.4μm~5μmがより好ましい。
【実施例0074】
以下、本実施の形態について、実施例を参照しながら、さらに詳細に説明する。
【0075】
(実施例1~9、比較例1)
まず、正極活物質として塩化銅(CuCl2)、導電助剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)、固体電解質としてLi2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2、を用意した。
【0076】
これら原料を、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用い、上記原料の配合が表1に記載のものとなるように混練して、スラリーを得た。混練は、まず、180℃で加熱しながら、撹拌子の回転数を50rpmとした状態で2時間脱水撹拌し、次いで、自転公転式ミキサー(あわとり練太郎(株式会社シンキー製、商品名))により、常圧、自転速度500rpm、公転速度1000rpmで5分間脱泡撹拌して、塗布用のスラリーを得た。ここで得られた塗布用のスラリー形成後の固形分率を、表1に示した。なお、比較例1においては、混練の際、加熱撹拌処理は行わず、すぐに脱泡撹拌処理を行って、スラリーを得た。
【0077】
銅またはステンレス鋼製の基板上に、このスラリーを150μm厚となるようにバーコーターを用いて塗布し、60℃または80℃で12時間、真空乾燥させて塗膜とした。得られた塗膜を厚さ70μmとなるようプレスして、これを打ち抜き加工して、さらに150℃で真空乾燥させて、正極を得た。
【0078】
【0079】
このとき、スラリーを得る工程において加熱撹拌工程を実施した実施例1~9では、真空乾燥時に電極剥離が生じることは無かった。一方、比較例1では、加熱撹拌工程を経ないままに、原料を自転公転式ミキサーで混練したところ、真空乾燥時に電極剥離が生じた。
【0080】
以上、本発明について、実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれら実施の形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。