(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046523
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】チタン合金焼結体の製造方法及びチタン合金焼結体
(51)【国際特許分類】
C22C 1/04 20230101AFI20240327BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20240327BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240327BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20240327BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20240327BHJP
B22F 1/148 20220101ALI20240327BHJP
【FI】
C22C1/04 E
C22C14/00 Z
B22F1/00 R
B22F3/02 S
B22F3/10 F
B22F3/10 C
B22F1/148
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151959
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】木村 正宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 厚
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA06
4K018BA03
4K018BB04
4K018BB06
4K018BC11
4K018CA29
4K018DA03
4K018DA32
4K018DA38
4K018FA06
4K018FA08
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】酸素量を低減して疲労強度を高めたチタン合金焼結体及びこのチタン合金焼結体に製造方法を提供する。
【解決手段】金属粉末とバインダとの混練物を製造する混練工程と、前記混練物を射出成形して成形体を製造する射出工程と、前記成形体を脱脂して前記バインダを除去する脱脂工程と、前記バインダを除去した前記成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程と、を有する金属粉末射出成形法によるチタン合金焼結体の製造方法であって、前記焼結工程は、焼結温度が800から995℃、焼結時間が6から200時間で行われる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末とバインダとの混練物を製造する混練工程と、
前記混練物を射出成形して成形体を製造する射出工程と、
前記成形体を脱脂して前記バインダを除去する脱脂工程と、
前記バインダを除去した前記成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程と、を有する金属粉末射出成形法によるチタン合金焼結体の製造方法であって、
前記焼結工程は、焼結温度が800から995℃、焼結時間が6から200時間で行われることを特徴とするチタン合金焼結体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のチタン合金焼結体の製造方法において、
前記焼結工程は、真空下で行われ、
前記真空は、焼結時の雰囲気圧力が1×10-3Pa以下であることを特徴とするチタン合金焼結体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のチタン合金焼結体の製造方法において、
前記金属粉末は、低酸素金属粉末を用いることを特徴とするチタン合金焼結体の製造方法。
【請求項4】
質量%でアルミニウムを5.50から6.50%、バナジウムを3.50から4.50%、鉄を0.40%以下、酸素を0.2%以下、炭素を0.08%以下、窒素を0.05%以下、水素を0.015%以下で、残部がチタンからなり、相対密度が97.0%以上、であることを特徴とするチタン合金焼結体。
【請求項5】
請求項4に記載のチタン合金焼結体において、
平均結晶粒径が5.0から50.0μmであり、
結晶組織の針状比が3以下であることを特徴とするチタン合金焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン合金焼結体の製造方法およびチタン合金焼結体に関し、特に、低酸素化を図ることができるチタン合金焼結体の製造方法及びチタン合金焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チタンは地殻中の金属元素として、アルミニウム、鉄及びマグネシウムに次いで埋蔵量の多い元素であり、軽量、高強度及び耐食性に優れると共に、人体に対する悪影響が少ない金属であることが知られている。しかし、チタンは、室温で最密六方晶の構造となるため変形を伴う加工が困難であり、高強度であることから機械加工も簡単でないため、製造コストを抑制することが難しいという問題があった。
【0003】
このため、製造コストを抑制するために、機械加工せずに製品成形のみでニアネットシェイプとすることができるチタンを金属粉末射出成形(MIM)によるチタンの製造に期待が高まっている。
【0004】
このような金属粉末射出成形によるチタン合金焼結体の製造方法やチタン合金焼結体は、種々の方法及び形態が知られており、例えば、特許文献1に記載されているように、チタンまたはチタン合金にて構成される金属粉末を使用してグリーン体が成形され、このグリーン体が焼結段階で圧縮され固化されるチタンまたはチタン合金を用いた粉末冶金による部材の製造方法において、前記グリーン体の形成のために、ASTM規格のB822-10に準拠したレーザ光散乱を使って測定された平均粒子サイズが25μm未満でチタンまたはチタン合金にて構成される金属粉末が使用され、前記焼結段階は最高1100℃までの焼結温度で、5時間以下の焼結時間で、常圧に対して低減された圧力の雰囲気中で実施されるチタン合金焼結体の製造方法が知られている。
【0005】
このようなチタン合金焼結体の製造方法によれば、グリーン体製造用の金属粉末の平均粒子サイズが25μm未満のチタンまたはチタン合金が使用され、焼結段階が、最高1100℃までの焼結温度で、5時間以下の焼結時間で、常圧に対して低減された圧力にある環境下で実施されるので、この処置によって、このようにして得られた素材の粒子構造や、材料特性にも合目的的な影響を与えることができる。
【0006】
また、特許文献2に記載されているように、表面における平均結晶粒径が30μm超500μm以下であり、表面におけるビッカース硬度が300以上800以下であることを特徴とするチタン合金焼結体が知られている。
【0007】
このようなチタン合金焼結体によれば、長期わたって過酷な環境に曝された場合であっても、表面に劣化が生じることがなく、その結果、鏡面性(意匠性)の高いチタン合金焼結体を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2019-516021号公報
【特許文献2】特開2019-44225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、チタン合金焼結体は、その酸素量によって引張強さと延びの特性が変化することが知られており、酸素量の増加によって引張強さは高くなり、伸びは低くなることが知られている。これに対し、従来のチタン合金焼結体の製造方法で製造されるチタン合金焼結体は、酸素量を0.2質量%以下に抑えることは困難であり、疲労強度を高めるのが難しいという問題があった。
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、酸素量を低減して疲労強度を高めたチタン合金焼結体の製造方法及びチタン合金焼結体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るチタン合金焼結体の製造方法は、金属粉末とバインダとの混練物を製造する混練工程と、前記混練物を射出成形して成形体を製造する射出工程と、前記成形体を脱脂して前記バインダを除去する脱脂工程と、前記バインダを除去した前記成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程と、を有する金属粉末射出成形法によるチタン合金焼結体の製造方法であって、前記焼結工程は、焼結温度が800から995℃、焼結時間が6から200時間で行われることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るチタン合金焼結体の製造方法において、前記焼結工程は、真空下で行われ、前記真空は、焼結時の雰囲気圧力が1×10-3Pa以下であると好適である。
【0013】
また、本発明に係るチタン合金焼結体の製造方法において、前記金属粉末は、低酸素金属粉末を用いると好適である。
【0014】
また、本発明に係るチタン合金焼結体は、質量%でアルミニウムを5.50から6.50%、バナジウムを3.50から4.50%、鉄を0.40%以下、酸素を0.2%以下、炭素を0.08%以下、窒素を0.05%以下、水素を0.015%以下で、残部がチタンからなり、相対密度が97.0%以上、であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るチタン合金焼結体において、平均結晶粒径が5.0から50.0μmであり、結晶組織の針状比が3以下であると好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るチタン合金焼結体の製造方法によれば、焼結工程において、焼結温度を980℃、焼結時間を48時間としているので、低酸素のチタン合金焼結体を得ることができる。また、本発明に係るチタン合金焼結体は、相対密度が97.0%以上、酸素量が0.2質量%以下となっているので、疲労強度の高いチタン合金焼結体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るチタン合金焼結体の製造方法のフロー図。
【
図2】ミクロ組織の観察結果であって、(A)は、本実施形態に係るチタン合金焼結体、(B)は、比較例の観察結果。
【
図3】本実施形態に係るチタン合金焼結体及び比較例の焼結時間と相対密度の関係を示すグラフ。
【
図4】本発明の実施形態に係るチタン合金焼結体及び比較例の引張強度試験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係るチタン合金焼結体の製造方法のフロー図であり、
図2は、ミクロ組織の観察結果であって、(A)は、本実施形態に係るチタン合金焼結体、(B)は、比較例の観察結果であり、
図3は、本実施形態に係るチタン合金焼結体及び比較例の焼結時間と相対密度の関係を示すグラフであり、
図4は、本発明の実施形態に係るチタン合金焼結体及び比較例の引張強度試験結果を示すグラフである。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係るチタン合金焼結体の製造方法は、金属粉末とバインダとの混練物を製造する工程(S101)と、混練物を射出成形して成形体を製造する工程(S102)と、成形体を脱脂して前記バインダを除去する工程(S103)と、バインダを除去した成形体を焼結してチタン合金焼結体を得る工程(S104)と、チタン合金焼結体を後加工及び検査を行う工程(S105)と、を備えている。
【0021】
金属粉末とバインダとの混練物を製造する工程(S101)は、金属粉末とバインダを練り合わせて混練物を製造する。金属粉末は、従来周知の純チタン又チタン合金が好適に用いられ、含有酸素量が0.13質量%以下の低酸素粉末がより好適に用いられる。例えば、Ti-6V-4Al材については、ASTM grade23(Extra-Low Interstitial)相当粉末であることが好ましい。
【0022】
バインダは、後述する射出成形するために必要な流動性を持たせる添加剤であり、汎用の合成樹脂からなる結合剤に滑剤及び可塑剤を添加したものが好適に用いられる。なお、金属粉末とバインダとの割合は、製造されるチタン合金焼結体の性質や形状等に応じて適宜調整することが可能であるが、例えば、金属粉末とバインダとの割合を60vol%:40vol%とすると好適である。
【0023】
混練物の製造は、金属粉末にバインダを添加し、加熱、加圧して混合した後、冷却固化した混練物を粉砕して造粒して流動性を有する混練物を得る。
【0024】
混練物を射出成形して成形体を製造する工程(S102)は、混練物を金型に射出成形したのち、冷却固化させて所定の形状の成形体を製造する。射出成形に用いられる金型は、従来周知の成形体の形状に応じた金型を用いることができる。
【0025】
成形体を脱脂して前記バインダを除去する工程(S103)は、後述する焼結に先立って成形体に含まれるバインダを除去して脱脂体を得る工程であり、成形体を不活性ガスフロー下で加熱してバインダを蒸発・熱分解させる加熱脱脂処理、又は、有機溶剤によってバインダを抽出する溶媒脱脂処理などが行われる。
【0026】
バインダを除去した成形体を焼結してチタン合金焼結体を得る工程(S104)は、脱脂体を1×10-3Pa以下の真空下で800から995℃、より好ましくは980℃程度まで6から200時間より好ましくは48時間加熱して焼結する。なお、脱脂体に含まれる残存したバインダは、焼結によって加熱される工程で除去される。このように脱脂および焼結を通して成形体からバインダが除去されるため、焼結体は成形体に比べて10から20%程度収縮する。
【0027】
また、チタン合金焼結体を得る工程(S104)は、モリブデン製の容器内にジルコニア製のセッタを配置し、当該セッタ上に脱脂体を載置し、モリブデン製の蓋体で容器を閉塞したのち、当該容器内を真空にして焼結が行われる。
【0028】
チタン合金焼結体を後加工及び検査を行う工程(S105)は、焼結によって得られたチタン合金焼結体を後加工や検査などを行う工程であり、具体的には、チタン合金焼結体に熱処理を行ったり、寸法精度を確保するために研磨などが行われる。
【実施例0029】
次に、実施例を参照して、本発明についてさらに詳しく説明を行う。
【0030】
チタン合金焼結体の製造方法は、金属粉末とバインダとの混練物を作製する工程(S101)は、チタン合金粉末として、質量%で、アルミニウムを6.22%、バナジウムを4.04%、鉄を0.2%、酸素が0.091%、炭素が0.004%、窒素が0.012%水素が0.002%で、残部がチタンからなり、平均粒径は27.3μmのチタン合金粉末を用いた。バインダは、特許第5163596号記載のバインダを用い、チタン合金粉末に対し40容積%の割合で混合、混練した。その後、混練物を射出成形して成形体を製造する工程(S102)と、成形体を脱脂して前記バインダを除去する工程(S103)を加熱脱脂により実施した。
【0031】
バインダを除去した成形体を焼結してチタン合金焼結体を得る工程(S104)は、脱脂体を1×10-3Pa以下の真空下で、昇温し980℃にて48時間加熱して焼結する。脱脂および焼結を通して成形体からバインダが除去されるため、焼結体は成形体に比べて15%程度収縮した。また、チタン合金焼結体の相対密度は97.5%であった。
【0032】
また、チタン合金焼結体を得る工程(S104)は、モリブデン製の容器内にジルコニア製のセッタを配置し、当該セッタ上に脱脂体を載置し、モリブデン製の蓋体で容器を閉塞したのち、当該容器内を真空にして焼結を行った。
【0033】
チタン合金焼結体を後加工及び検査を行う工程(S105)は、焼結によって得られたチタン合金焼結体を疲労試験片へ、切削、及び研磨加工を行った。引張試験片は検査のみで、後加工はしていない。
【0034】
まず、本実施形態に係るチタン合金焼結体の実施例及び比較例の粒径観察試験を行なった。ここで、比較例は、本実施形態に係るチタン合金焼結体に用いる低酸素粉末に比べて酸素量の多い通常の金属粉末を用いて混練物を構成し、焼結温度が1100℃、焼結時間が6時間として焼結を行った焼結体である。粒径観察試験は、実施例及び比較例の表面を400倍で撮影した写真を印刷し、手書きで粒状組織の輪郭をなぞり、コンピュータに画像として取り込んだのち、測定ソフト(Winroof)で円相当径、絶対最大長、対角幅及び針状比を計測した。また、計測データから円相当径5μm未満のものは除外して、平均円相当径、平均絶対最大長、平均対角幅及び平均針状比を算出した。平均円相当径は、物体の面積と同じ面積の等価円の直径を求めたものであり、絶対最大長は、物体の長さのうち最も長い部分の長さを求めたものであり、対角幅は、最大絶対長に平行な2本の直線で物体を挟んだときの2直線間の最短距離を求めたものであり、針状比は、絶対最大長を対角幅で除したものである。
【0035】
本実施形態に係るチタン合金焼結体の製造方法によって得られたチタン合金焼結体は、
図2に示すように、ミクロ組織が従来の比較例と比べて粒度が全体的に丸いことが観察される。
図2(A)に示すように、本実施形態に係るチタン合金焼結体のミクロ繊維における結晶組織の針状比は、3.0以下となっていることが確認できる。これに対し、
図2(B)に示すように、従来の比較例は、結晶組織が全体的に細長く、針状比は3.0以上を示し、本実施形態に係るチタン合金焼結体は比較例と比べて結晶組織が全体的に微細で丸くなっていることが確認できた。
【0036】
なお、実施例の粒径観察結果は以下の通りとなった。
【表1】
【0037】
次に、
図3に示すように、相対密度は、低酸素粉末を用いたチタン合金焼結体では、48時間焼結することにより、比較例と同等の98%以上の相対密度を得られることが確認できた。
【0038】
また、酸素、窒素及び炭素分析の結果は、以下の表に示すように、本実施形態に係るチタン合金焼結体は、窒素量および炭素量は比較例と同等であることが認められ、酸素量が0.18%と、比較例と比べて大幅に酸素量が低いことが認められた。これは、溶製材のJIS規格の60種及びASTM規格のGr5の条件を満たすものである。
【表2】
【0039】
次に、本実施形態に係るチタン合金焼結体及び比較例について、引張強度試験及び疲労強度試験を行った。引張強度試験は、評点距離は15mmとした。
図4に示すように、実施例の引張強度は、比較例と同等の結果となっており、伸びは、比較例と比べて実施例が高くなっていることが確認できる。
【0040】
疲労強度試験の試験条件は以下の通りに行なった。
(1)試験温度: :常温
(2)規格 :ASTM E466
(3)応力比 :R=0.1
(4)波形 :正弦波
(5)打ち切りサイクル:1.0×107サイクル
(6)周波数 :10Hz
【0041】
疲労強度試験の結果は、1.0×107サイクルでの疲労強度は、実施例では350MPaとなり、比較例では280MPaとなった。
【0042】
このように、本実施形態に係るチタン合金焼結体の製造方法によれば、酸素量を低減して疲労強度を高めたチタン合金焼結体を得ることができることが確認できた。