IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イワフジ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-グラップル装置 図1
  • 特開-グラップル装置 図2
  • 特開-グラップル装置 図3
  • 特開-グラップル装置 図4
  • 特開-グラップル装置 図5
  • 特開-グラップル装置 図6
  • 特開-グラップル装置 図7
  • 特開-グラップル装置 図8
  • 特開-グラップル装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046553
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】グラップル装置
(51)【国際特許分類】
   B66C 1/44 20060101AFI20240327BHJP
   B66C 21/00 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
B66C1/44 B
B66C21/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151998
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】508150337
【氏名又は名称】イワフジ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130199
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 充弘
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健朗
【テーマコード(参考)】
3F004
【Fターム(参考)】
3F004AA01
3F004AB15
3F004EA04
(57)【要約】
【課題】リフティングラインとグラップル装置の本体部との干渉や、リフティングライン用滑車からのリフティングラインの脱索を抑制し、グラップル装置の姿勢を安定させる架線集材システムのグラップル装置を提供する。
【解決手段】グラップルアーム部312とパワーユニットPUが収容される機器収容部311とを有するグラップル本体部31と、グラップル本体部の上方に配置される揺動ハンガー機構部32とを備える。グラップル装置3がホールバックラインHBLによって搬器2の鉛直下方の位置から横方向に移動する状態において、リフティングラインLFLの傾斜に追従して揺動ハンガー機構部が傾斜するように、揺動ハンガー機構部とグラップル本体部とが揺動自在に連結される。ホールバックライン取付部34は、グラップル装置を左右方向から見て、揺動ハンガー機構部の一対のリフティングライン用滑車322,322の間の中央部に配置される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材伐採地から木材集材地へ伐採された木材を搬送する架線集材システムを構成するグラップル装置であって、
開閉自在なグラップルアーム部と、前記グラップルアーム部を駆動するパワーユニットが収容される機器収容部と、を有するグラップル本体部と、
前記グラップル本体部の上方に配置される揺動ハンガー機構部と、を備え、
先柱側と元柱側の間に架け渡されたスカイラインに沿って移動可能な搬器から、リフティングラインによって昇降自在に吊り下げられるとともに、前記搬器の移動方向に対して交差する横方向に移動させるためのホールバックラインが取り付けられており、
前記揺動ハンガー機構部は、前記リフティングラインが掛け渡される滑車を有しており、
前記グラップル装置が前記ホールバックラインによって前記搬器の鉛直下方の位置から横方向に移動する状態において、前記リフティングラインの傾斜に追従して前記揺動ハンガー機構部が傾斜するように、前記揺動ハンガー機構部と前記グラップル本体部とが揺動自在に連結されている、
グラップル装置。
【請求項2】
前記グラップル装置が前記搬器の鉛直下方の位置にある鉛直吊下状態において、前記グラップル装置が移動する方向を前記グラップル装置の前後方向とし、
前記グラップル装置の前後方向および鉛直方向に直交する方向を前記グラップル装置の左右方向として、
前記グラップル本体部および前記揺動ハンガー機構部は、前後方向に延びる連結軸部によって揺動自在に連結されており、
前記揺動ハンガー機構部には、前後方向に間隔をおいて前記滑車が一対設けられており、
前記ホールバックラインが取り付けられるホールバックライン取付部は、前記グラップル装置を左右方向から見て、前記連結軸部上であって、かつ前記一対の滑車の間に配置されている、
請求項1に記載のグラップル装置。
【請求項3】
前記ホールバックライン取付部は、前記グラップル装置を左右方向から見て、前記一対の滑車の間の中央部に配置されている、
請求項2に記載のグラップル装置。
【請求項4】
前記ホールバックライン取付部は、前記連結軸部の軸心まわりに回動自在に設けられている、
請求項3に記載のグラップル装置。
【請求項5】
前記揺動ハンガー機構部は、前記滑車のシーブの回転により発電を行うグラップル用発電機を有し、
前記グラップル本体部は、前記グラップルアーム部を開閉駆動させる油圧シリンダと、前記グラップル用発電機によって発電された電力を蓄電するグラップル用蓄電器と、を有し、
前記パワーユニットは、前記グラップル用発電機で発電された電力により作動する電動モータと、前記電動モータで駆動される油圧ポンプと、バルブとを有し、
前記パワーユニットにより前記油圧シリンダが駆動されるように構成されている、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のグラップル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架線集材システムに備えられたグラップル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木材の伐採を行う木材伐採地から木材の集材を行う木材集材地へ伐採された木材を搬送する架線集材システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の架線集材システムは、エンドレスタイラー式として構成されている。具体的には、特許文献1の架線集材システムは、先柱側と元柱側の間に架け渡されたスカイラインと、スカイラインに沿って移動可能に取り付けられる搬器と、搬器からリフティングラインによって昇降自在に吊り下げられるグラップル装置と、架線集材機とを備えている。グラップル装置には、一対のリフティングライン用の滑車が取り付けられている。リフティングライン用の滑車には、リフティングラインが掛け渡されている。架線集材機には、リフティングラインの繰り出しと引き込みとを行うウインチと、エンドレスライン用のウインチと、ホールバックライン用のウインチが設けられている。エンドレスラインは、グラップル装置をスカイラインに沿って移動させるために設けられている。
【0004】
ホールバックラインは、架線集材機のウインチドラムから引き出されて、その端部がグラップル装置の側面に取り付けられている。ホールバックラインは、スカイラインから離れた位置に設けられたホールバックライン用の滑車に掛け渡されている。架線集材機がホールバックラインの繰り出しまたは引き込みを行うことにより、グラップル装置は、スカイラインの架け渡し方向(搬器の移動方向)に交差する横方向に移動することができる。この場合、ホールバックライン用ウインチのウインチドラムの駆動を、リフティングライン用ウインチのウインチドラムの駆動に同調して行うことによって、リフティングラインの張力が調整されるように構成されている。
【0005】
グラップル装置は、上側部分の本体部と、下側部分のアーム部とを備えている。アーム部には、開閉自在な一対のグラップルアーム、油圧シリンダ等が搭載されている。アーム部には、ホールバックラインの端部が連結されている。本体部の内部には、アーム部の油圧シリンダを駆動するためのパワーユニット、パワーユニットの電動モータに電力を供給する蓄電器、蓄電器を充電するための発電機等が搭載されている。また、本体部の上部には、上述の一対のリフティングライン用の滑車が設けられている。リフティングライン用の滑車は、グラップル装置を搬器から鉛直下方の位置に吊り下げた鉛直吊下状態においてその回転軸心方向が水平方向を向くように設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-75807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、グラップル装置を上記の鉛直吊下状態として木材を運搬する場合、グラップル装置には、リフティングラインによる張力、およびグラップル装置自体に加わる重力が作用する。グラップル装置に加わる重力には、グラップル装置自体の重量および運搬される木材の重量等が寄与する。この状態では、リフティングラインは鉛直方向に延びており、グラップル装置も鉛直方向に向いている。言い換えると、リフティングラインの水平に対する傾斜角度とグラップル装置の姿勢は一致している。また、この状態では、リフティングライン用滑車の回転軸心方向が水平方向を向いており、リフティングライン用滑車のシーブ外周面にはリフティングラインが適正に沿った状態となっている。
【0008】
一方、ホールバックラインの引き込みによりグラップル装置をスカイラインに対して横方向に移動させた状態で木材を運搬する場合、グラップル装置には、リフティングラインによる張力、およびグラップル装置自体に加わる重力に加えて、ホールバックラインによる横方向の張力が作用する。このため、グラップル装置の姿勢は、リフティングラインによる張力、ホールバックラインによる張力、およびグラップル装置自体に加わる重力の作用の釣り合いにより変動する。
【0009】
ホールバックラインによる横方向の張力が作用している状態では、リフティングラインは斜め横方向に傾斜した状態となり、グラップル装置も斜めに傾斜した姿勢となる。しかしながら、グラップル装置には運搬する木材の重量等が下向きに加わるため、グラップル装置とリフティングラインは平行にならず、グラップル装置の姿勢がリフティングラインの傾斜角度よりも起立した姿勢となる場合がある。言い換えると、グラップル装置にホールバックラインの張力が加わった状態では、リフティングラインの水平に対する傾斜角度とグラップル装置の姿勢が一致しない状態になる場合がある。
【0010】
グラップル装置にホールバックラインの張力が作用して、リフティングラインの傾斜とグラップル装置の傾斜が一致しない状態になると、リフティングライン用滑車の回転軸心方向とリフティングラインが直交しない状態となる。そして、リフティングラインの傾斜とグラップル装置の傾斜の差異が増大した場合、リフティングライン用滑車のシーブ外周面にリフティングラインが適正に沿わなくなり、リフティングラインがグラップル装置に設けられているカバー類と干渉したり、リフティングラインがリフティングライン用滑車から脱索したりするおそれがあった。
【0011】
また、グラップル装置の姿勢は、リフティングラインによる張力、ホールバックラインによる張力、およびグラップル装置自体に加わる重力の作用の釣り合いにより変動する。このため、グラップル装置による木材の運搬中において、リフティングラインによる張力、およびホールバックラインによる張力が変動すると、グラップル装置の姿勢が不安定に変動する場合があった。
【0012】
さらに、従来のグラップル装置では、ホールバックラインの端部の取り付け位置は、一対のリフティングライン用滑車の一方側(例えば、先柱側に設けたリフティングライン用滑車側)に近づけられていた。このため、ホールバックラインの引き込みによりグラップル装置に横方向の張力を作用させると、グラップル装置の姿勢がスカイラインの架け渡し方向(搬器の移動方向)に対して回転した状態(ねじれた状態)になり、リフティングラインもねじれた状態となる。リフティングラインのねじれ量を抑制するため、ホールバックラインの引き込み量が制約を受けることとなり、グラップル装置をスカイラインに対して横方向に移動させる範囲が制約を受けることとなる。このため、架線集材システムを設置することによって集材できる集材範囲が制約を受けることとなっていた。
【0013】
本発明の目的は、グラップル装置にホールバックラインによる張力が作用した状態における、リフティングラインとグラップル装置との干渉や、リフティングライン用滑車からのリフティングラインの脱索を抑制するとともに、グラップル装置の姿勢が不安定に変動することを抑制し、さらに、架線集材システムによって集材できる集材範囲を拡大することが可能な、架線集材システムのグラップル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の課題を解決するために本明細書に開示する発明は、以下のように構成されている。すなわち、第1の発明は、木材伐採地から木材集材地へ伐採された木材を搬送する架線集材システムを構成するグラップル装置であって、開閉自在なグラップルアーム部と前記グラップルアーム部を駆動するパワーユニットが収容される機器収容部とを有するグラップル本体部と、前記グラップル本体部の上方に配置される揺動ハンガー機構部と、を備え、先柱側と元柱側の間に架け渡されたスカイラインに沿って移動可能な搬器から、リフティングラインによって昇降自在に吊り下げられるとともに、前記搬器の移動方向に対して交差する横方向に移動させるためのホールバックラインが取り付けられており、前記揺動ハンガー機構部は、前記リフティングラインが掛け渡される滑車を有しており、前記グラップル装置が前記ホールバックラインによって前記搬器の鉛直下方の位置から横方向に移動する状態において、前記リフティングラインの傾斜に追従して前記揺動ハンガー機構部が傾斜するように、前記揺動ハンガー機構部と前記グラップル本体部とが揺動自在に連結されている。
【0015】
第1の発明によれば、グラップル装置がホールバックラインによって搬器の鉛直下方の位置から横方向に移動する状態において、リフティングラインの傾斜に追従して揺動ハンガー機構部が傾斜するように、揺動ハンガー機構部とグラップル本体部とが揺動自在に連結されている。
【0016】
グラップル装置にホールバックラインの張力が作用して、リフティングラインが斜め横方向に傾斜した状態になると、揺動ハンガー機構部は、リフティングラインの傾斜に追従するようにグラップル本体部に対して傾斜する。このため、滑車のシーブ外周面にリフティングラインが適正に沿う状態が維持されることとなり、リフティングラインがグラップル装置と干渉したり、リフティングラインが滑車から脱索したりすることを抑制することができる。
【0017】
また、グラップル装置による木材の運搬中において、リフティングラインによる張力、およびホールバックラインによる張力が変動しても、揺動ハンガー機構部が、リフティングラインの傾斜に追従するようにグラップル本体部に対して傾斜するため、グラップル本体部の姿勢の変動を抑制することができる。
【0018】
第2の発明は、第1の発明において、前記グラップル装置が前記搬器の鉛直下方の位置にある鉛直吊下状態において、前記グラップル装置が移動する方向を前記グラップル装置の前後方向とし、前記グラップル装置の前後方向および鉛直方向に直交する方向を前記グラップル装置の左右方向として、前記グラップル本体部および前記揺動ハンガー機構部は、前後方向に延びる連結軸部によって揺動自在に連結されており、前記揺動ハンガー機構部には、前後方向に間隔をおいて前記滑車が一対設けられており、前記ホールバックラインが取り付けられるホールバックライン取付部は、前記グラップル装置を左右方向から見て、前記連結軸部上であって、かつ前記一対の滑車の間に配置されている。
【0019】
第2の発明によれば、ホールバックライン取付部は、グラップル装置を左右方向から見て、連結軸部上であって、かつ一対の滑車の間に配置されている。
【0020】
ホールバックライン取付部が連結軸部上に配置されていることにより、グラップル装置にホールバックラインの張力が作用して、リフティングラインが斜め横方向に傾斜した状態になっても、グラップル本体部および揺動ハンガー機構部には、それぞれホールバックラインの張力が直接作用しない。
【0021】
このため、揺動ハンガー機構部は、ホールバックラインの張力の作用を直接受けずに、リフティングラインの傾斜に追従するようにグラップル本体部に対して傾斜する。これにより、滑車のシーブ外周面にリフティングラインが適正に沿う状態が維持されることとなり、リフティングラインがグラップル装置と干渉したり、リフティングラインが滑車から脱索したりすることを抑制することができる。
【0022】
また、グラップル本体部は、ホールバックラインによる張力が変動しても、ホールバックラインの張力の変動の影響を直接受けない。このため、グラップル装置による木材の運搬中において、グラップル装置の姿勢が安定することとなり、木材を安定した姿勢で運搬することができる。
【0023】
第3の発明では、第2の発明において、前記ホールバックライン取付部は、前記グラップル装置を左右方向から見て、前記一対の滑車の間の中央部に配置されている。
【0024】
第3の発明によれば、ホールバックライン取付部は、グラップル装置を左右方向から見て、一対の滑車の間の中央部に配置されている。
【0025】
ホールバックラインの引き込みによりグラップル装置に横方向の張力を作用させた場合、ホールバックラインの張力は、グラップル装置の前後方向に対して均等に作用する。このため、グラップル装置の姿勢がスカイラインの架け渡し方向(搬器の移動方向)に対して回転した状態(ねじれた状態)になりにくく、リフティングラインもねじれた状態になりにくい。これにより、ホールバックラインの引き込み量が制約を受けることがなく、グラップル装置をスカイラインに対して横方向に移動させる範囲を増大させることができ、架線集材システムによって集材できる集材範囲を増大させることができる。
【0026】
第4の発明では、第3の発明において、前記ホールバックライン取付部は、前記連結軸部の軸心まわりに回動自在に設けられている。
【0027】
第4の発明によれば、グラップル装置に加わるホールバックラインの張力の方向が変動しても、ホールバックライン取付部は、連結軸部の軸心まわりに回動する。このため、グラップル本体部および揺動ハンガー機構部は、それぞれホールバックラインの張力の影響をより受けにくくなる。
【0028】
これにより、揺動ハンガー機構部は、リフティングラインの傾斜に追従するようにグラップル本体部に対して傾斜しやすくなり、リフティングラインがグラップル装置と干渉したり、リフティングラインが滑車から脱索したりすることを抑制することができる。
【0029】
また、グラップル本体部は、ホールバックラインの張力の影響をより受けにくくなるため、グラップル装置による木材の運搬中において、グラップル装置の姿勢が安定することとなり、木材を安定した姿勢で運搬することができる。
【0030】
第5の発明では、第1~第4のいずれか一つの発明において、前記揺動ハンガー機構部は、前記滑車のシーブの回転により発電を行うグラップル用発電機を有し、前記グラップル本体部は、前記グラップルアーム部を開閉駆動させる油圧シリンダと、前記グラップル用発電機によって発電された電力を蓄電するグラップル用蓄電器と、を有し、前記パワーユニットは、前記グラップル用発電機で発電された電力により作動する電動モータと、前記電動モータで駆動される油圧ポンプと、バルブとを有し、前記パワーユニットにより前記油圧シリンダが駆動されるように構成されている。
【0031】
第5の発明によれば、グラップル装置にグラップル用発電機およびグラップル用蓄電器の両方を搭載しているので、グラップルアーム部を駆動するための駆動源として、大容量の蓄電器を搭載しなくてもよくなる。これにより、グラップル用蓄電器の小型化および軽量化を図ることができる。
【0032】
また、グラップル用蓄電器をグラップル本体部に設け、グラップル用発電機を揺動ハンガー機構部に設けることにより、グラップル装置を昇降させる際に回転する滑車のシーブの回転力をグラップル用発電機に伝達させやすくなる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係るグラップル装置によれば、グラップル装置にホールバックラインによる張力が作用した状態における、リフティングラインとグラップル装置との干渉や、リフティングライン用滑車からのリフティングラインの脱索を抑制できるとともに、グラップル装置の姿勢が不安定に変動することを抑制することができ、さらに、架線集材システムによって集材できる集材範囲を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の一実施形態に係る架線集材システムの概略構成を示す図である。
図2】本実施形態のグラップル装置の側面図である。
図3】本実施形態のグラップル装置の揺動ハンガー機構部および連結軸部を主に示す要部側面図である。
図4図3のA-A線断面図である。
図5】本実施形態のグラップル装置の揺動ハンガー機構部およびホールバックライン取付部のグラップル本体部に対する可動領域を示す背面図である。
図6】本実施形態のグラップル装置のグラップルアーム部を駆動させるための機器構成図である。
図7】本実施形態のグラップル装置に加わる力の釣り合いを説明するための背面図である。
図8】本実施形態のグラップル装置における一対のリフティングライン用滑車のそれぞれに加わる張力とホールバックラインに加わる張力との関係を説明するための平面図である。
図9】本実施形態の架線集材システムの集材範囲の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[実施形態1]
以下、図面を参照し、本発明の実施形態に係る架線集材システム100およびグラップル装置3について詳しく説明する。
【0036】
図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。なお、説明を分かりやすくするために、以下で参照する図面においては、構成が簡略化または模式化して示されたり、一部の構成部材が省略されたりしている。また、各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。また、矢印Fはグラップル装置3の前方を示し、矢印Bは後方を示す。矢印Lはグラップル装置3の左方を示し、矢印Rは右方を示す。矢印Uは上方を示し、矢印Dは下方を示す。
【0037】
図1は、本発明の一実施形態に係る架線集材システム100の概略構成を示す図である。本実施形態の架線集材システム100は、エンドレスタイラー式として構成されている。図1に示すように、架線集材システム100は、スカイラインSKLに沿って移動可能に取り付けられる搬器2と、搬器2からリフティングラインLFLにより昇降自在に吊り下げられるグラップル装置3と、架線集材機1と、を備えている。また、架線集材システム100は、グラップル装置3および架線集材機1を無線で操縦するための無線操縦システムSを備えている。
【0038】
スカイラインSKLは、先柱側と元柱側の間に架け渡されている。具体的には、スカイラインSKLは、木材集材地P1に設けられた元柱位置P3と、木材伐採地P2よりも遠い位置に設けられた先柱位置P4との間に架け渡されている。スカイラインSKLは平面視した場合に略一直線状となるように延びており、例えば、スカイラインSKLの一端が元柱位置P3の樹木等に連結され、スカイラインSKLの他端が先柱位置P4の樹木等に連結されている。
【0039】
スカイラインSKLには、搬器2が一対のスカイライン用滑車22,22を介して移動可能に取り付けられている。搬器2には、無限軌道を構成するエンドレスラインELLの両端部が連結されている。エンドレスラインELLは、複数のエンドレスライン用滑車E、および架線集材機1のエンドレスライン用ウインチ11のウインチドラムに掛け渡されている。エンドレスライン用滑車Eは、木材集材地P1の近傍や、先柱位置P4の近傍、架線集材機1の近傍等に設置されている。
【0040】
架線集材機1は、エンドレスラインELL、リフティングラインLFL、および、ホールバックラインHBLについて、繰り出しと引き込みを行う。架線集材機1は、エンドレスライン用ウインチ11と、リフティングライン用ウインチ12と、ホールバックライン用ウインチ13と、を備えている。各ウインチは、図示省略の油圧モータにより駆動される。油圧モータは、エンジン部14で駆動される図示省略の油圧ポンプからの油圧によって駆動される。架線集材機1に備えられたエンドレスライン用ウインチ11によってエンドレスラインELLを動かすことにより、搬器2をスカイラインSKLに沿って移動させることができる。
【0041】
具体的には、エンドレスラインELLをE1方向へ引き込むようにエンドレスライン用ウインチ11を駆動することにより、搬器2がスカイラインSKLに沿ってS1方向に移動する。また、エンドレスラインELLをE2方向へ繰り出すようにエンドレスライン用ウインチ11を駆動することにより、搬器2がスカイラインSKLに沿ってS2方向に移動する。架線集材機1は、無線操縦システムSの一部としての第2作業機側無線通信部15を有している。
【0042】
搬器2は、搬器本体部21を有している。搬器本体部21の下部前側には、無線中継器4が取り付けられている。搬器本体部21の下部後側には、リフティングライン用滑車23が取り付けられている。無線中継器4は、リフティングラインLFLが掛け渡されるリフティングライン用滑車41を有している。リフティングライン用滑車41とリフティングライン用滑車23には、架線集材機1から引き出されたリフティングラインLFLの中間部分が掛け渡されている。リフティングライン用滑車41とリフティングライン用滑車23との間に位置するリフティングラインLFLの中間部分には、グラップル装置3が設けられている。グラップル装置3は、一対のリフティングライン用滑車322,322を介してリフティングラインLFLに吊り下げられている。
【0043】
リフティングラインLFLの一端は、例えば木材伐採地P2の樹木等に連結されている。リフティングラインLFLの他端は、架線集材機1のリフティングライン用ウインチ12のウインチドラムに巻回されている。リフティングラインLFLは、上述したリフティングライン用滑車41、リフティングライン用滑車23、一対のリフティングライン用滑車322,322、木材集材地P1の近傍に設けられたリフティングライン用滑車L等に掛け渡されている。
【0044】
架線集材機1に備えられたリフティングライン用ウインチ12がリフティングラインLFLの引き込みと繰り出しとを行うことにより、グラップル装置3を昇降させることが可能となっている。具体的には、リフティングラインLFLをL1方向に繰り出すようにリフティングライン用ウインチ12を駆動することにより、リフティングライン用滑車41とリフティングライン用滑車23との間に位置するリフティングラインLFLの中間部分の長さが長くなってグラップル装置3が下降する。逆に、リフティングラインLFLを引き込むようにリフティングライン用ウインチ12を駆動することにより、リフティングラインLFLの中間部分の長さが短くなってグラップル装置3が上昇する。
【0045】
グラップル装置3には、搬器2の移動方向(前後方向)に対して交差する横方向(本実施形態では左方向)に移動させるためのホールバックラインHBLが取り付けられている。具体的には、グラップル装置3の左側面には、架線集材機1から引き出されたホールバックラインHBLの一端部が連結されている。ホールバックラインHBLの他端は、ホールバックライン用ウインチ13のウインチドラムに巻回されている。ホールバックラインHBLは、スカイラインSKLから離れた位置に設けられたホールバックライン用第1滑車Ha、架線集材機1の近傍に設けられたホールバックライン用滑車H等に掛け渡されている。
【0046】
図2は、本実施形態のグラップル装置3の側面図である。図2に示すように、グラップル装置3は、グラップル本体部31と揺動ハンガー機構部32とを備えている。揺動ハンガー機構部32は、グラップル本体部31の上方に配置されている。グラップル本体部31は、開閉自在なグラップルアーム部312と機器収容部311とを有する。
【0047】
グラップルアーム部312は、機器収容部311の下端に取り付けられる揺動ジョイント部312aと、揺動ジョイント部312aの下端に設けられるアームベース312bと、アームベース312bに取り付けられる一対のアーム部材312c,312cとを有する。各アーム部材312cの基端部は、アームベース312bに対して上下方向に回動自在に連結されている。一対のアーム部材312c,312cが連動して上下方向に回動することにより、一対のアーム部材312c,312cが開閉される。一対のアーム部材312c,312cを閉じることによって木材を把持し、その状態で木材伐採地P2から木材集材地P1へ伐採された木材を搬送することが可能である。また、一対のアーム部材312c,312cを開くことによって把持した木材を離して、木材集材地P1へ降ろすことが可能である。
【0048】
揺動ハンガー機構部32は、スカイラインSKLに沿って移動される搬器2から、リフティングラインLFLによって昇降自在に吊り下げられる。揺動ハンガー機構部32は、グラップル装置3を昇降させるためのリフティングラインLFLが掛け渡されるリフティングライン用滑車322を有している。リフティングライン用滑車322は、グラップル本体部31が搬器2の鉛直下方の位置にある鉛直吊下状態のときに搬器2の移動方向(前後方向)に間隔をおいて並ぶように、一対設けられている。
【0049】
揺動ハンガー機構部32とグラップル本体部31とは、グラップル装置3がホールバックラインHBLによって搬器2の鉛直下方の位置から横方向(左右方向)に移動する状態において、リフティングラインLFLの傾斜に追従して揺動ハンガー機構部32が傾斜するように、揺動自在に連結されている。具体的には、揺動ハンガー機構部32とグラップル本体部31の機器収容部311とは、上記鉛直吊下状態において、前後方向に延びる連結軸部33によって揺動自在に連結されている。揺動ハンガー機構部32は、連結軸部33に沿って延びるハンガー本体321と、ハンガー本体321の長手方向両端部から下方に延びて連結軸部33の両端部を支持する一対の支持部材323,323とを有している。リフティングライン用滑車322は、ハンガー本体321の長手方向両端部のそれぞれに取り付けられている。
【0050】
連結軸部33には、ホールバックライン取付部34が取り付けられている。ホールバックライン取付部34は、グラップル装置3を左右方向から見て、連結軸部33上であって、かつ一対のリフティングライン用滑車322,322の間に配置されている。さらに詳細には、ホールバックライン取付部34は、グラップル装置3を左右方向から見て、一対のリフティングライン用滑車322,322の間の中央部に配置されている。ホールバックライン取付部34のリング部材343には、グラップル本体部31を左右方向に移動させるためのホールバックラインHBLの一端部が取り付けられる。
【0051】
図3は、本実施形態のグラップル装置3の揺動ハンガー機構部32および連結軸部33を主に示す要部側面図である。図4は、図3のA-A線断面図である。図3および図4に示すように、連結軸部33は、外筒中央部材331と、外筒中央部材331の両端部に固定される一対の外筒端部材332,332と、外筒中央部材331および一対の外筒端部材332,332に挿通される中心軸334とを有している。中心軸334は、一対の外筒端部材332,332のそれぞれにおいて、軸受333を介して回転自在に支持されている。中心軸334と外筒中央部材331との間には隙間が設けられている。中心軸334は、外筒中央部材331と一対の外筒端部材332,332とをつなぎ合わせた長さよりも長く形成されている。中心軸334は、その両端部が外筒端部材332,332よりも外側に突出部分を有するようにして、外筒端部材332,332に軸受333,333を介して支持されている。中心軸334の当該突出部分には、揺動ハンガー機構部32の支持部材323,323が取り付けられている。
【0052】
中心軸334の両端には雄ねじ部が形成されており、この雄ねじ部にナットから成る取付部材338が取り付けられる。一対の支持部材323,323のそれぞれは、外筒端部材332と取付部材338との間に配置されている。一対の取付部材338,338によって、中心軸334は、外筒中央部材331、外筒端部材332,332および支持部材323,323に対して保持されている。また、中心軸334と支持部材323とは、固定用部材337によって一体となっている。揺動ハンガー機構部32が外筒中央部材331および外筒端部材332,332に対して外筒中央部材331の軸心回りに回動するとき、中心軸334は揺動ハンガー機構部32とともに回動する。
【0053】
ホールバックライン取付部34は、筒部材341と、筒部材341に設けられる留め具342と、留め具342に取り付けられるリング部材343とを有している。ホールバックライン取付部34の筒部材341は、連結軸部33の外筒中央部材331に対して回動自在に嵌め込まれている。外筒中央部材331には段差部331aが設けられている。この段差部331aは、筒部材341が外筒中央部材331に嵌め込まれた状態において、筒部材341の一方の開口端側の抜け止めとなっている。また、外筒中央部材331には、筒部材341の他方の開口端の位置に合わせた位置ずれ防止部材335が取り付けられている。段差部331aと位置ずれ防止部材335とによって、筒部材341は、外筒中央部材331の軸心方向に位置ずれしないように構成されている。これにより、ホールバックライン取付部34が連結軸部33の中央部の位置を維持できるように構成されている。
【0054】
連結軸部33の外筒中央部材331の下部には、複数のカバー取付ベース336と、収容フレーム部311aが取り付けられている。この収容フレーム部311aを利用して、機器収容部311の内部の機器が取り付けられる。また、カバー取付ベース336を利用して、機器収容部311のカバー部311b(図2参照)が取り付けられる。これにより、外筒中央部材331と機器収容部311とは一体的となるように構成されている。
【0055】
図5は、本実施形態のグラップル装置3の揺動ハンガー機構部32およびホールバックライン取付部34のグラップル本体部31に対する可動領域を示す背面図である。図5に示すように、揺動ハンガー機構部32は、連結軸部33を回動中心として、グラップル本体部31の機器収容部311に対して略180°の回動範囲を有している。揺動ハンガー機構部32を機器収容部311に対して最大限まで回動させた場合、リフティングライン用滑車322のシーブ322aの外周面は、略水平方向まで傾くように構成されている。
【0056】
ホールバックライン取付部34は、揺動ハンガー機構部32と同様、連結軸部33を回動中心としてグラップル本体部31の機器収容部311に対して略180°の回動範囲を有している。ホールバックライン取付部34を機器収容部311に対して最大限まで回動させた場合、ホールバックライン取付部34のリング部材343は、略水平方向まで傾くように構成されている。ホールバックライン取付部34は、搬器2の移動方向(前後方向)に対して直交する左右両側に位置変更可能となるように、連結軸部33の軸心まわりに回動自在に設けられている。ホールバックライン取付部34の機器収容部311に対する回動と、揺動ハンガー機構部32の機器収容部311に対する回動とは独立している。
【0057】
図6は、本実施形態のグラップル装置3のグラップルアーム部312を駆動させるための機器構成図である。図6において、各機器間の実線の矢印は、電力供給の流れを示し、破線の矢印は制御信号の流れを示す。グラップル装置3の揺動ハンガー機構部32は、リフティングライン用滑車322のシーブ322aの回転により発電を行うグラップル用発電機3aと、図示省略の増速機構とを有している。グラップル本体部31は、パワーユニットPUと、発電リレー3bと、グラップル用蓄電器3cと、第1作業機側無線通信部3dと、グラップルアーム部312を開閉駆動させる油圧シリンダ3iと、機器収容部311に対してグラップルアーム部312を旋回させるためのローテータ3hとを有している。
【0058】
発電リレー3b、パワーユニットPU、グラップル用蓄電器3c、第1作業機側無線通信部3d、およびローテータ3hは、機器収容部311に収容されている。発電リレー3bと揺動ハンガー機構部32に設けられたグラップル用発電機3aとは、電力ケーブル3jによって接続されている。電力ケーブル3jは、揺動ハンガー機構部32のハンガー本体321と機器収容部311との間において外部に露出している。電力ケーブル3jは、その一部が連結軸部33の外筒中央部材331の外周面に沿うように配線されている(図2参照)。発電リレー3bは、グラップル用蓄電器3c(例えばリチウムイオンバッテリ)に電気的に接続されている。つまり、グラップル用発電機3aは、発電リレー3bを介してグラップル用蓄電器3cに電気的に接続されている。これにより、グラップル用発電機3aによって発電された電力がグラップル用蓄電器3cに蓄電されるように構成されている。
【0059】
本実施形態では、リフティングライン用滑車322のシーブ322aの回転エネルギーをグラップル用発電機3aによって電気的エネルギーに変換する回生発電が行われる。具体的には、グラップル装置3がリフティングラインLFLに沿って移動すると、一対のリフティングライン用滑車322,322のシーブ322a,322aが回転し、この回転が図示省略の増速機構によって増速される。そして、増速機構によって増速された回転がグラップル用発電機3aに伝達されることによって、グラップル用発電機3aによる発電が行われる。
【0060】
パワーユニットPUは、グラップルアーム部312を駆動するために設けられている。パワーユニットPUは、グラップル用発電機3aで発電された電力により作動する電動モータ3eと、電動モータ3eで駆動される油圧ポンプ3fと、バルブ3gとを有している。油圧ポンプ3fからの作動油は、バルブ3g、ローテータ3h、油圧ホース3k(図2参照)を通じて油圧シリンダ3iに供給される。
【0061】
グラップル用蓄電器3cは、パワーユニットPUの電動モータ3eおよび第1作業機側無線通信部3dと電気的に接続されている。グラップル用蓄電器3cの電力は、電動モータ3eおよび第1作業機側無線通信部3dにそれぞれ供給される。
【0062】
第1作業機側無線通信部3dは、無線操縦システムSの一部を構成している。本実施形態では、図1および図6に示すように、無線操縦システムSは、無線操作装置5と、グラップル装置3に設けられる第1作業機側無線通信部3dと、架線集材機1に設けられる第2作業機側無線通信部15と、無線操作装置5からの操作信号を受信して第1作業機側無線通信部3dおよび第2作業機側無線通信部15に送信する無線中継器4と、を備えている。無線中継器4は、搬器2に取り付けられている。
【0063】
図7は、本実施形態のグラップル装置3に加わる力の釣り合いを説明するための背面図である。図7では、リフティングラインLFLの張力T1、ホールバックラインHBLの張力T2、およびグラップル装置3に加わる重力Wが釣り合った状態が示されている。図7は、グラップル装置3がホールバックラインHBLの張力T2によって搬器2の鉛直下方の位置から横方向(左方向)に移動する状態を示していている。グラップル装置3に加わる重力Wには、グラップル本体部31の重量と、運搬される木材の重量が寄与している。グラップル本体部31、揺動ハンガー機構部32、およびホールバックライン取付部34は、それぞれ、連結軸部33を回動支点として連結軸部33の軸心回りに回動が可能である。そのため、グラップル本体部31、揺動ハンガー機構部32、およびホールバックライン取付部34の回動は各々独立したものとなる。
【0064】
グラップル本体部31が搬器2の鉛直下方の位置にある鉛直吊下状態においてグラップルアーム部312により木材を真っすぐに吊り下げた状態では、グラップル本体部31は、連結軸部33からグラップルアーム部312の下端まで鉛直方向に延びる姿勢となる。この状態から架線集材機1のホールバックライン用ウインチ13を駆動させて、左方向にホールバックラインHBLの引き込みを行う。すると、グラップル装置3にホールバックラインHBLの張力T2が作用して、グラップル装置3が左方向に移動される。この場合、グラップル本体部31は、重力により鉛直方向に延びる姿勢を維持する。一方で、グラップル装置3を左方向に移動させた場合、搬器2とグラップル装置3とは左方向に離れた状態になる。搬器2とグラップル装置3とは、リフティングラインLFLによって繋がっているため、リフティングラインLFLは、斜め横方向に傾斜した状態になる。そして、グラップル装置3のリフティングライン用滑車322には、搬器2の方に向かって斜め上方のリフティングラインLFLの張力T1が作用する。
【0065】
ここで、本実施形態では、グラップル本体部31およびホールバックライン取付部34と独立して、揺動ハンガー機構部32が連結軸部33を支点として揺動可能となっている。そして、揺動ハンガー機構部32には、リフティングライン用滑車322,322が設けられている。これにより、リフティングラインLFLの傾斜に追従して揺動ハンガー機構部32が右方向に傾斜する。より具体的には、リフティングラインLFLの張力T1の方向にリフティングライン用滑車322のシーブ322aの外周面が沿うように、揺動ハンガー機構部32が右方向に傾く。そして、揺動ハンガー機構部32は、リフティングライン用滑車322の回転軸心方向Оと、張力T1とが直交するような姿勢で維持される。左方向へのグラップル装置3の移動量を増加させていくと、揺動ハンガー機構部32のグラップル本体部31に対する右方向への傾きが増加する。
【0066】
なお、架線集材機1のホールバックライン用ウインチ13を駆動させて、ホールバックラインHBLの引き込みと繰り出しを行う場合、ホールバックライン用ウインチ13の駆動を、リフティングライン用ウインチ12の駆動に同調して行うことによって、グラップル装置3が吊り下げられているリフティングラインLFLの張力T1が調整される。
【0067】
図8は、本実施形態のグラップル装置3における一対のリフティングライン用滑車322,322のそれぞれに加わる張力T1f,T1rとホールバックラインHBLに加わる張力T2との関係を説明するための平面図である。リフティングライン用滑車322は、グラップル本体部31が搬器2の鉛直下方の位置にある鉛直吊下状態のときに搬器2の移動方向(前後方向)に間隔をおいて並ぶように、一対設けられている。図8では、無線中継器4のリフティングライン用滑車41側が前側としている。前側のリフティングライン用滑車322には、前側リフティングライン張力T1fが加わる。また、後側のリフティングライン用滑車322には、後側リフティングライン張力T1rが加わる。
【0068】
本実施形態では、一対のリフティングライン用滑車322,322は、連結軸部33の長手方向両端部付近に設けられている。ホールバックライン取付部34は、グラップル装置3を左右方向から見て、連結軸部33上であって、かつ一対のリフティングライン用滑車322,322の間に配置されている。特に、ホールバックライン取付部34は、グラップル装置3を左右方向から見て、一対のリフティングライン用滑車322,322の間の中央部に配置されている。
【0069】
これにより、ホールバックラインHBLの引き込みによりグラップル装置3に横方向(左右方向)の張力T2を作用させた場合、ホールバックラインHBLの張力T2は、グラップル装置3の前後方向に対して均等に作用する。すなわち、前側リフティングライン張力T1fと後側リフティングライン張力T1rは、ほぼ等しくなる。また、連結軸部33は、地面に対してホールバックラインHBLと交差する向きにねじられることにより、リフティングラインLFLのリフティングライン用滑車322、322への巻き付き角が均等になる。これにより、図8の状態では、リフティングラインLFLのうち、一対のリフティングライン用滑車322,322から搬器2に向かって上下方向に延びる一対の中間部分が鉛直軸心回りに互いにねじれることが抑制されている。
【0070】
図9は、本実施形態の架線集材システム100の集材範囲の一例を示す平面図である。グラップル装置3の鉛直吊下状態において、架線集材機1のエンドレスライン用ウインチ11を駆動してエンドレスラインELLの引き込みまたは繰り出しを行うと、グラップル装置3は、搬器2とともにスカイラインSKLの架け渡し方向(前後方向)に移動する。架線集材機1のホールバックライン用ウインチ13を駆動してホールバックラインHBLの引き込みまたは繰り出しを行うことにより、グラップル装置3は、スカイラインSKLから離れた位置に配置されたホールバックライン用第1滑車Haに向かって、左右方向に移動することができる。そして、このようなグラップル装置3の移動により、例えば第1作業領域R1と第2作業領域R2の木材を集材することが可能となっている。
【0071】
ここで、第1作業領域R1は、上記特許文献1のような従来のグラップル装置と同様の集材範囲を示している。本実施形態では、従来と異なり、グラップル装置3が、グラップル本体部31と揺動ハンガー機構部32とを備えているので、従来よりもリフティングライン用滑車322の傾きの自由度が高い。また、本実施形態では、上述のとおり、リフティングラインLFLのうち、一対のリフティングライン用滑車322,322から搬器2に向かって上下方向に延びる一対の中間部分が鉛直軸心回りに互いにねじれることが抑制されている。そのため、本実施形態では、ホールバックラインHBLの引き込み量が制約を受けることがないので従来よりも集材範囲が広くなっており、第2作業領域R2の木材も集材することが可能である。
【0072】
第1作業領域R1および第2作業領域R2は、ホールバックライン用第1滑車Haの設置位置を調整することによって、任意の三角領域を形成することが可能となっている。特に、本実施形態では、グラップル装置3のホールバックライン取付部34は、搬器2の移動方向(前後方向)に対して直交する横方向(左右方向)の両側に位置変更可能となるように、連結軸部33の軸心まわりに回動自在に設けられている。これにより、ホールバックライン用第1滑車Haの設置位置を、スカイラインSKLに対して左右方向の反対側に変更するとともに、ホールバックライン取付部34の位置も併せて変更しやすい。これにより、第3作業領域R3の集材範囲を設定することも容易となっている。
【0073】
以上のとおり、上記実施形態に係るグラップル装置3は、開閉自在なグラップルアーム部312とグラップルアーム部312を駆動するパワーユニットPUが収容される機器収容部311とを有するグラップル本体部31と、グラップル本体部31の上方に配置される揺動ハンガー機構部32とを備えている。グラップル装置3は、先柱側と元柱側の間に架け渡されたスカイラインSKLに沿って移動可能な搬器2から、リフティングラインLFLによって昇降自在に吊り下げられる。また、グラップル装置3には、搬器2の移動方向に対して交差する横方向に移動させるためのホールバックラインHBLが取り付けられている。揺動ハンガー機構部32は、リフティングラインLFLが掛け渡されるリフティングライン用滑車322を有している。グラップル装置3がホールバックラインHBLによって搬器2の鉛直下方の位置から横方向(左右方向)に移動する状態において、リフティングラインLFLの傾斜に追従して揺動ハンガー機構部32が傾斜するように、揺動ハンガー機構部32とグラップル本体部31とが揺動自在に連結されている。
【0074】
上記構成によれば、グラップル装置3にホールバックラインHBLの張力T2が作用して、リフティングラインLFLが斜め横方向に傾斜した状態になると、揺動ハンガー機構部32は、リフティングラインLFLの傾斜に追従するようにグラップル本体部31に対して傾斜する。このため、リフティングライン用滑車322のシーブ322aの外周面にリフティングラインLFLが適正に沿う状態が維持されることとなり、リフティングラインLFLがグラップル装置3と干渉したり、リフティングラインLFLがリフティングライン用滑車322から脱索したりすることを抑制することができる。
【0075】
また、グラップル装置3による木材の運搬中において、リフティングラインLFLによる張力T1、およびホールバックラインHBLによる張力T2が変動しても、揺動ハンガー機構部32が、リフティングラインLFLの傾斜に追従するようにグラップル本体部31に対して傾斜するため、グラップル本体部31の姿勢の変動を抑制することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、グラップル装置3が搬器2の鉛直下方の位置にある鉛直吊下状態において、グラップル本体部31および揺動ハンガー機構部32は、前後方向に延びる連結軸部33によって揺動自在に連結されている。揺動ハンガー機構部32には、前後方向に間隔をおいてリフティングライン用滑車322が一対設けられている。ホールバックラインHBLが取り付けられるホールバックライン取付部34は、グラップル装置3を左右方向から見て、連結軸部33上であって、かつ一対のリフティングライン用滑車322,322の間に配置されている。
【0077】
上記構成によれば、ホールバックライン取付部34が連結軸部33上に配置されていることにより、グラップル装置3にホールバックラインHBLの張力T2が作用して、リフティングラインLFLが斜め横方向に傾斜した状態になっても、グラップル本体部31および揺動ハンガー機構部32には、それぞれホールバックラインHBLの張力T2が直接作用しない。
【0078】
このため、揺動ハンガー機構部32は、ホールバックラインHBLの張力T2の作用を直接受けずに、リフティングラインLFLの傾斜に追従するようにグラップル本体部31に対して傾斜する。これにより、リフティングライン用滑車322のシーブ322aの外周面にリフティングラインLFLが適正に沿う状態が維持されることとなり、リフティングラインLFLがグラップル装置3と干渉したり、リフティングラインLFLがリフティングライン用滑車322から脱索したりすることを抑制することができる。
【0079】
また、グラップル本体部31は、ホールバックラインHBLによる張力T2が変動しても、ホールバックラインHBLの張力T2の変動の影響を直接受けない。このため、グラップル装置3による木材の運搬中において、グラップル装置3の姿勢が安定することとなり、木材を安定した姿勢で運搬することができる。
【0080】
また、上記実施形態では、ホールバックライン取付部34は、グラップル装置3を左右方向から見て、一対のリフティングライン用滑車322,322の間の中央部に配置されている。
【0081】
上記構成によれば、ホールバックラインHBLの引き込みによりグラップル装置3に横方向(左右方向)の張力T2を作用させた場合、ホールバックラインHBLの張力T2は、グラップル装置3の前後方向に対して均等に作用する。このため、グラップル装置3の姿勢がスカイラインSKLの架け渡し方向(前後方向)に対して回転した状態(ねじれた状態)になりにくく、リフティングラインLFLもねじれた状態になりにくい。これにより、ホールバックラインHBLの引き込み量が制約を受けることがなく、グラップル装置3をスカイラインSKLに対して横方向に移動させる範囲を増大させることができ、架線集材システム100によって集材できる集材範囲を増大させることができる。
【0082】
また、上記実施形態では、ホールバックライン取付部34は、連結軸部33の軸心まわりに回動自在に設けられている。
【0083】
上記構成によれば、グラップル装置3に加わるホールバックラインHBLの張力T2の方向が変動しても、ホールバックライン取付部34は、連結軸部33の軸心まわりに回動する。このため、グラップル本体部31および揺動ハンガー機構部32は、それぞれホールバックラインHBLの張力T2の影響をより受けにくくなる。
【0084】
これにより、揺動ハンガー機構部32は、リフティングラインLFLの傾斜に追従するようにグラップル本体部31に対して傾斜しやすくなり、リフティングラインLFLがグラップル装置3と干渉したり、リフティングラインLFLがリフティングライン用滑車322から脱索したりすることを抑制することができる。
【0085】
また、グラップル本体部31は、ホールバックラインHBLの張力T2の影響をより受けにくくなるため、グラップル装置3による木材の運搬中において、グラップル装置3の姿勢が安定することとなり、木材を安定した姿勢で運搬することができる。
【0086】
また、上記実施形態では、揺動ハンガー機構部32は、リフティングライン用滑車322のシーブ322aの回転により発電を行うグラップル用発電機3aを有する。グラップル本体部31は、グラップルアーム部312を開閉駆動させる油圧シリンダ3iと、グラップル用発電機3aによって発電された電力を蓄電するグラップル用蓄電器3cとを有する。パワーユニットPUは、グラップル用発電機3aで発電された電力により作動する電動モータ3eと、電動モータ3eで駆動される油圧ポンプ3fと、バルブ3gとを有する。そして、パワーユニットPUにより油圧シリンダ3iが駆動される。
【0087】
上記構成によれば、グラップル装置3にグラップル用発電機3aおよびグラップル用蓄電器3cの両方を搭載しているので、グラップルアーム部312を駆動するための駆動源として、大容量の蓄電器を搭載しなくてもよい。これにより、グラップル用蓄電器3cの小型化および軽量化を図ることができる。
【0088】
また、グラップル用蓄電器3cをグラップル本体部31に設け、グラップル用発電機3aを揺動ハンガー機構部32に設けることにより、グラップル装置3を昇降させる際に回転するリフティングライン用滑車322のシーブ322aの回転力をグラップル用発電機3aに伝達させやすくなる。
【0089】
今回、開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。本発明の技術的範囲は、上述した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【0090】
例えば、上記実施形態では、ホールバックライン取付部34は、連結軸部33の長手方向中央部に設けられていた。本発明はこれに限らず、ホールバックライン取付部は、グラップル本体部の機器収容部に設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 架線集材機
2 搬器
3 グラップル装置
3a グラップル用発電機
3c グラップル用蓄電器
3e 電動モータ
3f 油圧ポンプ
3g バルブ
3i 油圧シリンダ
31 グラップル本体部
32 揺動ハンガー機構部
33 連結軸部
34 ホールバックライン取付部
100 架線集材システム
311 機器収容部
312 グラップルアーム部
322 リフティングライン用滑車
322a シーブ
P1 木材集材地
P2 木材伐採地
P3 元柱位置
P4 先柱位置
PU パワーユニット
HBL ホールバックライン
LFL リフティングライン
SKL スカイライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9