(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046554
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】冷凍青果用品質向上剤、ならびにそれを用いた冷凍青果およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/05 20060101AFI20240327BHJP
A23L 3/37 20060101ALI20240327BHJP
A23L 29/231 20160101ALI20240327BHJP
A23L 29/244 20160101ALI20240327BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20240327BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20240327BHJP
【FI】
A23B7/05
A23L3/37 A
A23L29/231
A23L29/244
A23L29/269
A23L29/262
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152001
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100150326
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 知久
(72)【発明者】
【氏名】黒瀧 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 亮人
(72)【発明者】
【氏名】満保 萌恵
(72)【発明者】
【氏名】田中 杏奈
(72)【発明者】
【氏名】梁瀬 有美
(72)【発明者】
【氏名】松元 一頼
【テーマコード(参考)】
4B022
4B041
4B169
【Fターム(参考)】
4B022LA05
4B022LB04
4B022LF05
4B022LJ04
4B022LJ05
4B022LJ06
4B041LC03
4B041LD01
4B041LD10
4B041LH05
4B041LH08
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4B169CA04
4B169CA08
4B169HA11
4B169KA10
4B169KB03
4B169KC22
4B169KC39
(57)【要約】
【課題】 冷凍後の食感の低下を抑制することができ、青果本来の歯切れや硬さを保持し得る、冷凍青果用品質向上剤、ならびにそれを用いた冷凍青果およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の冷凍青果用品質向上剤は水溶性食物繊維および水不溶性食物繊維を含有する。本発明においては、青果にこのような冷凍青果用品質向上剤を含有する処理液を付与し、そして当該処理液が付与された青果を冷凍することにより、冷凍青果を製造することができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性食物繊維および水不溶性食物繊維を含有する、冷凍青果用品質向上剤。
【請求項2】
前記水溶性食物繊維が、イヌリンおよびペクチンからなる群から選択される少なくとも1種の食物繊維である、請求項1に記載の冷凍青果用品質向上剤。
【請求項3】
前記水不溶性食物繊維が、微生物およびパルプからなる群から選択される少なくとも1種の材料由来の食物繊維である、請求項1に記載の冷凍青果用品質向上剤。
【請求項4】
さらに、浸透圧調整助剤を含有する、請求項1に記載の冷凍青果用品質向上剤。
【請求項5】
前記浸透圧調整助剤がフルクトース、グルコース、ラクトース、およびトレハロースからなる群から選択される少なくとも1種の糖である、請求項4に記載の冷凍青果用品質向上剤。
【請求項6】
さらに酸化防止剤を含有する、請求項1に記載の冷凍青果用品質向上剤。
【請求項7】
冷凍用褐変性青果のために使用される、請求項1に記載の冷凍青果用品質向上剤。
【請求項8】
冷凍用褐変性果実のために使用される、請求項1に記載の冷凍青果用品質向上剤。
【請求項9】
青果に請求項1から8のいずれかに記載の冷凍青果用品質向上剤が含浸されている、冷凍青果。
【請求項10】
冷凍青果の製造方法であって、
(a)青果に、請求項1から9のいずれかに記載の冷凍青果用品質向上剤を含有する処理液を付与する工程、および
(b)該処理液が付与された青果を冷凍する工程、
を含む、方法。
【請求項11】
前記(a)工程が、前記青果に前記冷凍青果用品質向上剤を含有する処理液を含浸させることにより行われる、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍青果用品質向上剤、ならびにそれを用いた冷凍青果およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冷凍食品に対する需要がますます高くなっている。冷凍食品は、種々の食品を冷凍状態で製造、流通、販売および保存することができ、食品の長期保存が可能となっている。また、食品を急速冷凍することによって食品の鮮度を保つことも可能である。さらに、半調理食品や調理済食品の冷凍食品は、電子レンジの普及によって消費者は複雑な調理作業を行うことなく、例えば盛り付けのみで高品質の調理済の食品を味わうこともできる。
【0003】
一方、果実のような青果については、現状、冷凍食品として流通するものはまだ決して多いとは言えない。一般に果実を冷凍すると、解凍後に柔らかくなって食感が損なわれる、変色が進行して見栄えが悪くなるなどの問題が指摘されているためである。
【0004】
このような問題に対し、例えば、含有成分であるセロオリゴ糖の含有量を調節することにより、野菜や果実などの植物性飲食品でなる冷凍飲食品からの離水を抑制し、冷凍前後での食感や味質の変化を小さくさせることが提案されている(特許文献1)。ここで、セロオリゴ糖は、植物性の飲食品の細胞壁を安定化させるため発現すると考えられている。
【0005】
しかし、このような技術を用いたとしても、冷凍青果における食感の低下は未だ十分に改善されたとは言い難い。当該食感の低下は、他の冷凍食品と比較して、冷凍青果の普及を妨げる大きな原因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、冷凍後の食感の低下を抑制することができ、青果本来の歯切れや硬さを保持し得る、冷凍青果用品質向上剤、ならびにそれを用いた冷凍青果およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水溶性食物繊維および水不溶性食物繊維を含有する、冷凍青果用品質向上剤である。
【0009】
1つの実施形態では、上記水溶性食物繊維は、イヌリンおよびペクチンからなる群から選択される少なくとも1種の食物繊維である。
【0010】
1つの実施形態では、上記水不溶性食物繊維は、微生物およびパルプからなる群から選択される少なくとも1種の材料由来の食物繊維である。
【0011】
1つの実施形態では、本発明の冷凍青果用品質向上剤はさらに、浸透圧調整助剤を含有する。
【0012】
さらなる実施形態では、上記浸透圧調整助剤はフルクトース、グルコース、ラクトース、およびトレハロースからなる群から選択される少なくとも1種の糖である。
【0013】
1つの実施形態では、本発明の冷凍青果用品質向上剤はさらに酸化防止剤を含有する。
【0014】
1つの実施形態では、本発明の冷凍青果用品質向上剤は冷凍用褐変性青果のために使用される。
【0015】
1つの実施形態では、本発明の冷凍青果用品質向上剤は冷凍用褐変性果実のために使用される。
【0016】
本発明はまた、青果に上記冷凍青果用品質向上剤が含浸されている、冷凍青果である。
【0017】
本発明はまた、冷凍青果の製造方法であって、
(a)青果に、上記冷凍青果用品質向上剤を含有する処理液を付与する工程、および
(b)該処理液が付与された青果を冷凍する工程、
を含む、方法である。
【0018】
1つの実施形態では、上記(a)工程は、上記青果に上記冷凍青果用品質向上剤を含有する処理液を含浸させることにより行われる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、解凍後の食感の低下が抑えられた冷凍青果を簡便に製造することができる。得られた冷凍青果は-18℃以下で保存可能であり、製造工場や倉庫、物流トラックでの保存に加え、家庭用冷凍庫のような一般消費者が行う保存にも適している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳述する。
【0021】
(冷凍青果用品質向上剤)
本発明の冷凍青果用品質向上剤は、水溶性食物繊維および水不溶性食物繊維を含有する。
【0022】
ここで、本明細書中に用いられる用語「水溶性食物繊維」は、水に対して完全に溶解する性質を有する食物繊維、および水に完全には溶解しないが吸水してゲル化する食満繊維の両方を指していう。これに対し、本明細書中に用いられる用語「不溶性食物繊維」は、食物繊維のうち上記水溶性食物繊維を除いたものであって、例えば水に対して溶解せず、かつ吸水はするものの、ゲル化することなく、たとえ水中に添加しても水中で添加前の形態を保持し得る食物繊維を指して言う。
【0023】
水溶性食物繊維は、後述する処理液中で溶解し、青果の内部に浸透して、当該青果中の氷結晶の肥大化を抑制する役割を果たす。水溶性食物繊維の例としては、フラクタン(例えば、イヌリン、レバンおよびグラミナン、ならびにそれらの組み合わせ)、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、グルコマンナン、ペクチンおよびアルギン酸、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0024】
本発明においては、後述する冷凍青果を解凍した際の軟化した食感を効果的に抑えることができるとの理由から、水溶性食物繊維はイヌリンおよびペクチン、ならびにそれらの組み合わせであることが好ましい。
【0025】
イヌリンはD-フルクトースから構成される多糖類の1種であり、例えばキクイモ(Heilianthus tuberosus L.)の塊根、ダリヤ(Dahlia variabilis Desf.)の球根などのキク科植物が有する炭水化物として知られている。イヌリンはヒトの消化器では分解できず、大腸の腸内細菌叢によって代謝されるため、栄養成分表示では食物繊維として扱われている。イヌリンの分子量は、例えば520~11000、好ましくは2000~8000である。
【0026】
ペクチンは、植物の細胞壁や中葉に含まれる複合多糖類であって、ガラクツロン酸がα-1,4-結合したポリガラクツロン酸を主成分として含有する多糖類である。ペクチンもまたヒトの消化器では分解できず、大腸の腸内細菌叢によって代謝される。ペクチンの重量平均分子量は、例えば50,000~360,000である。ペクチンには、例えば、酸(例えば、pH3.5以下)や糖(Bx55以上)の存在によりゲル化する性質を有するHMペクチン、およびカルシウムやマグネシウムなどのミネラルでゲル化する性質を有するLMペクチンが挙げられる。本発明においては、青果(例えば果実)に含まれる糖によって容易にゲル化が進行し易いとの理由から、ペクチンはHMペクチンであることが好ましい。
【0027】
水不溶性食物繊維は、水に溶解しないかまたは水に対して難溶性の食物繊維全般を包含し、後述する冷凍青果を解凍した際に軟化した食感を与えることを抑制する役割を果たす。水不溶性食物繊維はまた、その乾燥体の自重に対して10重量%以上の水を保持することができるという特徴を有する。
【0028】
水不溶性食物繊維の例としては、微生物由来の食物繊維、パルプ由来の食物繊維、不溶性βグルカン、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、およびキトサン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0029】
微生物由来の食物繊維は、例えば、微生物により菌体外で産生されるもの、および/または微生物の細胞壁などを構成する成分を含み、パウダー、分散体などの任意の形態を有していてもよい。微生物由来の食物繊維の具体的な例としては、酵母、麹菌などの真菌由来の食物繊維、乳酸菌などの細菌由来の食物繊維、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
ここで、例えば、酵母パウダーは調味料等に使用され得る酵母エキスの製造用に使用した酵母(例えば、トルラ酵母、パン酵母、ビール酵母、および清酒酵母、ならびにそれらの組み合わせ)を加熱処理した後、粉末状に加工したものである。酵母パウダーはβ-グルカンなどで構成された細胞壁を含む粒子であり、水および油を保持し易いという性質を有する。酵母パウダーは市販により入手可能であり、食品分野における安全性が広く知られた材料である。
【0031】
パルプ由来の食物繊維は、植物由来のパルプを乾燥して粉末化したものである。パルプ由来の食物繊維の具体的な例としては、バンブーファイバー、アップルファイバー、シトラスファイバー、ビートファイバー、小麦ファイバー、オート麦ファイバー、ポテトファイバー、オート麦ファイバー、およびサトウキビファイバー、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0032】
ここで、例えば、バンブーファイバーは竹由来のパルプ部分を乾燥し粉末化したものであり、市販により入手可能であり、食品分野における安全性が広く知られている。バンブーパウダーは吸水性および吸油性に優れており、例えば、30μm~500μmの平均繊維長を有する。バンブーファイバーは市販により入手可能であり、食品分野における安全性が広く知られた材料である。
【0033】
本発明においては、冷解凍時の食感の軟化抑制効果に優れ、風味への影響が少ないとの理由から、水不溶性食物繊維は酵母パウダーおよびバンブーファイバー、ならびにそれらの組み合わせであることが好ましい。
【0034】
水不溶性食物繊維の平均粒子径は特に限定されないが、好ましくは0.5μm~600μm、より好ましくは0.5μm~200μmである。水不溶性食物繊維がこのような範囲内の平均粒子径を有していることにより、青果の内部にまで一層浸透することができる。
【0035】
さらに本発明において、水不溶性食物繊維はまた、その乾燥体の自重に対して10重量%以上の水を保持することができるという特徴を有する。
【0036】
水不溶性食物繊維の含有量は特に限定されないが、例えば本発明の冷凍青果用品質向上剤に含まれる上記水溶性食物繊維100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~1000質量部、より好ましくは5質量部~200質量部である。水不溶性食物繊維の含有量が0.1質量部を下回ると、青果内部に浸透した水不溶性食物繊維の水分保持効果が十分でなく、冷解凍後に多量のドリップを生じることがある。水不溶性食物繊維の含有量が1000質量部を上回ると、水不溶性食物繊維が青果表面に多量に付着し、表面がざらざらとして食感に違和感を与えることがある。
【0037】
本発明の冷凍青果用品質向上剤はまた、浸透圧調整助剤を含有していてもよい。
【0038】
浸透圧調整助剤は、本発明の冷凍青果用品質向上剤を含む処理液と処理される青果との間の浸透圧の差を利用して、処理液から青果への有効成分(例えば、上記イヌリンおよび/または水不溶性食物繊維)の移動および含浸を助ける役割を果たす。浸透圧調整助剤の例としては、フルクトース、グルコース、ラクトース、トレハロース、還元水飴、粉末還元水飴、イソマルトオリゴ糖、マルトース、ソルビトール、マルチトール、キシロース、スクロース、パラチノース、ガラクトースおよびデキストリン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。より効果的に有効成分の移動および含浸を行うことができるとの理由から、浸透圧調整助剤はフルクトース、グルコース、ラクトース、およびトレハロース、ならびにそれらの組み合わせであることが好ましい。
【0039】
浸透圧調整助剤の含有量は特に限定されないが、例えば本発明の冷凍青果用品質向上剤に含まれる上記水溶性食物繊維100質量部に対して、好ましくは1質量部~5000質量部、より好ましくは5質量部~1000質量部である。浸透圧調整助剤の含有量が1質量部を下回ると、水溶性食物繊維の青果への浸透が十分でなく、冷解凍時の食感改善効果が弱まることがある。浸透圧調整助剤の含有量が5000質量部を上回ると、浸透圧によって青果の水分が奪われ、食感を損なうことがある。
【0040】
本発明の冷凍青果用品質向上剤はまた、酸化防止剤を含有していてもよい。
【0041】
酸化防止剤は、食品工業において一般に使用されるものであり、後述する冷凍青果の保存中の変色を抑制する役割を果たす。酸化防止剤の例としては、アルコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、精製塩、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、カテキン、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸パルミチン酸エステル、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、チャ抽出物、没食子酸、フェルラ酸、ローズマリー抽出物、ブドウ種子抽出物、セージ抽出物、クローブ抽出物、ミックストコフェロール、ルチン、クエルセチン、ヒマワリ種子抽出物、α-リポ酸、アンヒドロフルクトースおよびオリザノール、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。より効果的に冷凍青果の変色を抑制することができるとの理由から、酸化防止剤は、アルコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、およびアスコルビン酸カルシウム、ならびにそれらの組み合わせが好ましい。
【0042】
酸化防止剤の含有量は特に限定されないが、例えば本発明の冷凍青果用品質向上剤に含まれる上記水溶性食物繊維100質量部に対して、好ましくは5質量部~2000質量部、より好ましくは20質量部~1500質量部である。酸化防止剤の含有量が5質量部を下回ると、得られる冷凍青果に対する変色防止効果が低下し、褐変が進行易くなることがある。酸化防止剤の含有量が2000質量部を上回ると、得られる冷凍青果の味質に違和感を生じることがある。
【0043】
本発明の冷凍青果用品質向上剤は、上記各成分に悪影響を及ぼさない範囲において他の成分を含有していてもよい。
【0044】
他の成分の例としては、pH調整剤、乳化剤、ゲル化剤、保存料、増粘剤、安定剤、甘味料、発色剤、着色料、調味料、糖類、および加工用助剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。これら他の成分のより具体的な例としては、必ずしも限定されないが、加工デンプン、乾燥卵白、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルコール製剤、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、増粘多糖類(例えば、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、カラギナン)、乳酸カルシウム、乳化油脂、クチナシ色素、カロチノイド色素、アスパラギン酸、グリシン、プロピレングリコール、マルトース、トレハロースなどが挙げられる。他の成分の含有量は特に限定されず、当業者によって適切な量が選択され得る。
【0045】
本発明の冷凍青果用品質向上剤において、上記水溶性食物繊維および水不溶性食物繊維、ならびに必要に応じて添加され得る浸透圧調整助剤、酸化防止剤、および他の成分は、予め混合されたものであってもよく、あるいは各成分または一部の成分が別々に小分けされ、使用時に一緒に混合されるものであってもよい。
【0046】
本発明の冷凍青果用品質向上剤は、果実、野菜などの青果を冷凍して冷凍青果を製造する際に使用される。青果は、例えば未処理の状態で冷凍すると褐変し易い青果(冷凍用褐変性青果)、特に褐変し易い果実(冷凍用褐変性果実)に対して有効である。
【0047】
果実の例としては、リンゴ、桃、ビワ、ブドウ、カリン、ナシ、マルメロ、メドラー、アンズ、ウメ、サクランボ、スモモ、アーモンド、イチョウ、クリ、クルミ、ペカン、アケビ、イチジク、カキ、キイチゴ、キウイフルーツ、グミ、クランベリー、コケモモ、ザクロ、サルナシ、スグリ、ナツメ、ニワウメ、フサスグリ、ブラックベリー、ブルーベリー、ポーポー、ラズベリー、ユスラウメ、イヨカン、ウンシュウミカン、オレンジ、スウィーティー、カボス、カラタチ、キシュウミカン、キンカン、クネンボ、グレープフルーツ、コウジ、サンボウカン、シークヮーサー、シトロン、デコポン、スダチ、ダイダイ、タチバナ、タンカン、ナツミカン、ハッサク、ハナユ、ヒュウガナツ、ブッシュカン、ブンタン、ベルガモット、ポンカン、ミカン、ユズ、ライム、レモン、オリーブ、ヤマモモ、トロピカルフルーツ、アキー、アセロラ、アテモヤ、アボカド、カニステル、カムカム、キワノ、グアバ、ココナッツ、サポジラ、スターフルーツ、タマリロ、チェリモヤ、ドラゴンフルーツ、ドリアン、ナツメヤシ、パイナップル、パッションフルーツ、バナナ、パパイヤ、ババコ、ジャックフルーツ、パンノキ、バンレイシ、ピタンガ、フェイジョア、フトモモ、ペピーノ、ホワイトサポテ、マンゴー、マンゴスチン、ミラクルフルーツ、ランブータン、リュウガン、およびライチ、それらの組み合わせが挙げられる。
【0048】
野菜の例としては、アズキ、イチゴ、インゲンマメ、エンドウ、エダマメ、オクラ、カボチャ、キュウリ、キワノ、ゴマ、ササゲ、シカクマメ、シロウリ、スイカ、ズッキーニ、ソラマメ、ダイズ、タマリロ、ゴーヤー、トウガラシ、トウガン、トウモロコシ、トマト、ナス、ナタマメ、ピーマン、ヘチマ、ペピーノ、マクワウリ、メロン、ユウガオ、ラッカセイ、レンズマメ、アスパラガス、ウド、コールラビ、ザーサイ、サトイモ、ジャガイモ、ショウガ、タケノコ、ニンニク、ユリ根、ヨウサイ、ラッキョウ、レンコン、ワサビ、カラシナ、キャベツ、クレソン、ケール、コマツナ、コルニッション、サイシン、サンチュ、サントウナ、シュンギク、セリ、セロリ、タアサイ、タカナ、タマネギ、チシャ、チンゲンサイ、ニラ、ノザワナ、ネギ、ハクサイ、パセリ、フキ、フダンソウ、ホウレンソウ、ミズナ、ミブナ、ミツバ、メキャベツ、ルッコラ、レタス、ハナッコリー、カブ、ゴボウ、サツマイモ、サトイモ、ジャガイモ、ダイコン、ニンジン、ヤマイモ、レンコン、アーティチョーク、カリフラワー、キク、菜の花、フキノトウ、ブロッコリー、およびミョウガ、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0049】
本発明においては、解凍後の食感の低下を効果的に抑制することができ、かつ変色の抑制も効果的に得られるという理由から、青果は、リンゴ、桃、ビワ、およびブドウの褐変性果実であることが好ましい。
【0050】
このように本発明の冷凍青果用品質向上剤は、冷凍青果における食感の低下や変色を抑制することにより当該冷凍青果の品質を向上させることができる。
【0051】
(冷凍青果およびその製造方法)
次に、上記冷凍青果用品質向上剤を用いて冷凍青果を得るための方法について説明する。
【0052】
本発明では、まず青果に上記冷凍青果用品質向上剤を含有する処理液が付与される。
【0053】
処理液は、水に上記冷凍青果用品質向上剤を添加されてなる液状の分散体である。
【0054】
処理液を構成する水は、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、蒸留水、RO水、水道水などのいずれであってもよい。処理液における冷凍青果用品質向上剤の濃度は、処理する青果の種類および量によって変動するため特に限定されないが、例えば、処理液中に含まれる上記水溶性食物繊維の含有量が、処理液の全体質量を基準として、好ましくは0.5質量%~15質量%、より好ましくは1質量%~10質量%である。本発明においては処理液がこのような濃度範囲に調製されていることにより、解凍後も良好な食感を提供することができる。
【0055】
青果の処理液への付与は、例えば、処理液の含浸(例えば、処理液を含有する浸漬浴への青果の浸漬)、および/または処理液の噴霧によって行われる。青果内部に処理液を十分に含浸させることができるとの理由から、青果を処理液中に浸漬することが好ましい。
【0056】
青果を処理液に浸漬する場合、処理液を含む浸漬浴の温度は、浸漬する青果の種類および量によって変動するため特に限定されないが、好ましくは3℃~15℃である。処理液を含む浸漬浴への浸漬時間もまた、浸漬する青果の種類および量によって変動するため特に限定されないが、好ましくは10秒間~24時間である。
【0057】
なお、処理液の付与にあたり、青果は予め機械作業または手作業により外皮が取り除かれていてもよく、および/または適切なサイズに切断されていてもよい。
【0058】
本発明においては、次に処理液が付与された青果が冷凍される。
【0059】
具体的には、上記処理液が付与された青果は、好ましくは適度に液切りが行われた後、例えば-18℃以下、好ましくは-25℃以下、より好ましくは-80℃~-30℃の冷凍環境下に配置される。冷凍環境下への配置は、青果の種類および量によって変動するため特に限定されないが、少なくとも1分間以上をかけて行われる。
【0060】
このようにして、冷凍青果を製造することができる。
【0061】
得られた冷凍青果は、例えば-18℃以下の冷凍環境下(例えば、冷凍倉庫、ストッカー)に保管され、輸送もまた同様の環境下で行われることが好ましい。
【0062】
冷凍青果の解凍には、食感の低下を不用意に促進させることを避けるため、例えば自然解凍が採用される。あるいは、3℃~15℃に温度調節した場所に5時間~24時間静置して解凍が行われてもよい。上記のようにして製造された冷凍青果は、冷凍前の青果が有する食感の低下を抑制またはそのまま保持することができる。
【実施例0063】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0064】
実施例および比較例で使用した材料には以下の市販製品を使用した:
(1)「イヌリン」:フジ日本精糖株式会社製フジFF
(2)「HMペクチン」:三晶株式会社製GENU Pectin type BETA BI-J
(3)「酵母パウダー」:富士食品工業株式会社製モイステックスSTD
(4)「バンブーパウダー」:レッテンマイヤージャパン株式会社製VITACEL BAF90
(5)「還元水飴」:物産フードサイエンス株式会社製スイートNT
(6)「粉末還元水飴」:物産フードサイエンス株式会社製スイートP EM 50M
(7)「イソマルトオリゴ糖」:昭和産業株式会社製イソマルトオリゴ糖
(8)「デキストリンDE4」:松谷化学工業株式会社製パインデックス#100
(9)「デキストリンDE17.8」:松谷化学工業株式会社製TK-16
(10)「アップルパウダー」:レッテンマイヤージャパン株式会社製VITACEL AF401/3。
【0065】
(実施例1~4および比較例1~12:製剤(E1)~(E4)および(C1)~(C12)の作製、処理液(SE1)~(SE4)および(SC1)~(SC12)の調製、ならびに冷凍リンゴ(RE1)~(RE4)および(RC1)~(RC12)の作製および評価)
以下の表1に示す材料を用いて製剤(E1)~(E4)および(C1)~(C12)を作製した。
【0066】
【0067】
次いで、得られた製剤(E1)~(E4)および(C1)~(C12)を、それぞれイオン交換水中に添加して、処理液(SE1)~(SE4)および(SC1)~(SC12)を調製した。なお、処理液(SE1)~(SE4)および(SC1)~(SC12)に含まれる各材料の含有量は以下の表2に示す通りであった。
【0068】
【0069】
上記のように調製した処理液(SE1)~(SE4)および(SC1)~(SC12)を用いて、冷凍リンゴを以下のようにして作製しかつ評価した。
【0070】
リンゴ(サンふじ)の皮および芯を除去した後、16等分にカットした。次いで、カットしたリンゴおよび上記で調製した処理液を、それらの質量比が1:2となるようにしてジッパー付きの袋に入れた。その後、カットしてリンゴが完全に処理液に浸るように袋から空気を抜き、5℃にて24時間冷蔵保管した。
【0071】
次いで、袋から取り出したリンゴを-40℃にて2時間急速冷凍し、-20℃のストッカー内で7日間冷凍保管することにより、冷凍リンゴ(RE1)~(RE4)および(RC1)~(RC12)を得た。
【0072】
このようにして得られた冷凍リンゴ(RE1)~(RE4)および(RC1)~(RC12)について以下のように解凍し、評価した。
【0073】
冷凍リンゴ(RE1)~(RE4)および(RC1)~(RC12)をストッカーから取り出し、25℃に温度調節した恒温槽に入れて2時間そのまま静置して解凍を行った。
【0074】
解凍したリンゴを5名のパネラーが実際に食し、歯切れ(シャキシャキ感)の程度、および硬さについて以下の評価基準に従って協議により採点した。これらの冷凍リンゴに加え、処理液の浸漬を行わなかったこと以外は上記と同様にして冷凍したリンゴ(無添加区)についても同様に評価した。
【0075】
<歯切れ(シャキシャキ感)>
「4点」:冷凍前のリンゴと略同等の鮮度のある歯切れ感があった。
「3点」:冷凍前のリンゴよりも僅かに劣る歯切れ感はあるものの、鮮度が低下したようには感じられなかった。
「2点」:冷凍前のリンゴよりも僅かに劣る歯切れ感はあるものの、そのまま商品として十分販売可能なものであった。
「1点」:冷凍前のリンゴよりも歯切れ感が劣っており、そのまま商品として販売することが難しいものであった。
「0点」:冷凍前のリンゴよりも明らかに歯切れ感が失われており、そのまま食することが難しいものであった。
【0076】
<硬さ>
「4点」:冷凍前のリンゴと略同等の鮮度のある硬さがあった。
「3点」:冷凍前のリンゴよりも硬さが僅かに劣るものの、鮮度が低下したようには感じられなかった。
「2点」:冷凍前のリンゴよりも硬さが僅かに劣るものの、そのまま商品として十分販売可能なものであった。
「1点」:冷凍前のリンゴよりも硬さが劣っており、そのまま商品として販売することが難しいものであった。
「0点」:冷凍前のリンゴよりも明らかに硬さが失われており、そのまま食することが難しいものであった。
【0077】
<総合評価>
上記歯切れ(シャキシャキ感)および硬さの評価で得られた点数(評価点数)を合計して、以下の基準により分類した。
「最優秀」:合計点数が8点であった。
「優秀」:合計点数が6~7点であった。
「優良」:合計点数が4~5点であった。
「不良」:合計点数が2~3点であった。
「最不良」:合計点数が0~1点であった。
【0078】
結果を表3に示す。
【0079】
【0080】
表1~3に示すように、実施例1~4で作製した製剤(E1)~(E4)を用いて得られた冷凍リンゴ(RE1)~(RE4)はいずれも、比較例1~12で作製した製剤(C1)~(C12)を用いて得られた冷凍リンゴ(RC1)~(RC12)と比較して、解凍後も歯切れがよくかつ硬さも良好であり、商品として十分流通に値するものであることを確認した。
【0081】
一方、比較例1~12で作製した製剤(C1)~(C12)を用いて得られた冷凍リンゴ(RC1)~(RC12)は、無添加区の冷凍リンゴと同等または略同等の「最不良」または「不良」の総合評価を受けた。
【0082】
このことから、実施例1~4で作製した製剤(E1)~(E4)は、冷凍リンゴの歯切れおよび硬さを著しく向上させていることがわかる。
【0083】
(実施例5~9および比較例13~19:製剤(E5)~(E9)および(C13)~(C19)の作製、処理液(SE5)~(SE9)および(SC13)~(SC19)の調製、ならびに冷凍リンゴ(RE5)~(RE9)および(RC13)~(RC19)の作製および評価)
以下の表4に示す材料を用いて製剤(E5)~(E9)および(C13)~(C19)を作製した。
【0084】
【0085】
次いで、得られた製剤(E5)~(E9)および(C13)~(C19)を、それぞれイオン交換水中に添加して、処理液(SE5)~(SE9)および(SC13)~(SC19)を調製した。なお、処理液(SE5)~(SE9)および(SC13)~(SC19)に含まれる各材料の含有量は以下の表5に示す通りであった。
【0086】
【0087】
上記のように調製した処理液(SE5)~(SE9)および(SC13)~(SC19)を用いて、上記実施例1~4と同様にして、冷凍リンゴを作製し、かつ歯切れ(シャキシャキ感)、硬さおよび総合評価について評価した。結果を表6に示す。
【0088】
【0089】
表4~6に示すように、実施例5~9で作製した製剤(E5)~(E9)を用いて得られた冷凍リンゴ(RE5)~(RE9)はいずれも、比較例13~19で作製した製剤(C13)~(C19)を用いて得られた冷凍リンゴ(RC13)~(RC19)と比較して、解凍後も歯切れがよくかつ硬さも良好であり、商品として非常に優れたものであることを確認した。
【0090】
また、実施例5~9で作製した製剤(E5)~(E9)は、水溶性食物繊維および水不溶性食物繊維に加えて、グルコース、ラクトース、トレハロースおよびフルクトースのような浸透圧調整助剤を併用したことにより、冷凍リンゴ(RE5)~(RE9)の総合評価は、実施例1~4で作製した製剤(E1)~(E4)を用いて得られた冷凍リンゴ(RE1)~(RE4)よりも総合評価が高くなっていた。このことから、浸透圧調整助剤の併用によって、本発明の冷凍青果用品質向上剤の性能が一層高められたことがわかる。
【0091】
なお、浸透圧調整助剤としてグルコースを使用した製剤(E5)および(C13)を用いて得られた冷凍リンゴ(RE5)および(RC13)はいずれも、グルコースに起因する幾分不自然な甘さが感じられた。
【0092】
(実施例10~13:製剤(E10)~(E13)の作製、処理液(SE10)~(SE13)の調製、ならびに冷凍リンゴ(RE10)~(RE13)の作製および評価)
以下の表7に示す材料を用いて製剤(E10)~(E13)を作製した。
【0093】
【0094】
次いで、得られた製剤(E10)~(E13)を、それぞれイオン交換水中に添加して、処理液(SE10)~(SE13)を調製した。なお、処理液(SE10)~(SE13)に含まれる各材料の含有量は以下の表8に示す通りであった。
【0095】
【0096】
上記のように調製した処理液(SE10)~(SE13)を用いて、上記実施例1~4と同様にして冷凍リンゴ(RE10)~(RE13)を作製した。
【0097】
その後、上記実施例1~4と同様にして解凍したリンゴを5名のパネラーが実際に目視観察し、色調について以下の評価基準に従って協議により採点した。また、同パネラーが実際に食して上記実施例1~4と同様にして歯切れ(シャキシャキ感)の程度、および硬さについて採点した。これらの冷凍リンゴに加え、処理液の浸漬を行わなかったこと以外は上記と同様にして冷凍したリンゴ(無添加区)についても同様に評価した。
【0098】
<色調>
「4点」:冷凍前のリンゴと略同等の鮮度のある色調を有していた。
「3点」:冷凍前のリンゴよりも僅かに変色が確認されたものの、鮮度が低下したようには感じられなかった。
「2点」:冷凍前のリンゴよりも僅かに変色が確認されたものの、そのまま商品として十分販売可能なものであった。
「1点」:冷凍前のリンゴよりも変色が目立ち、そのまま商品として販売することが難しいものであった。
「0点」:冷凍前のリンゴよりも明らかに変色しており、そのまま食することが難しいものであった。
【0099】
結果を表9に示す。
【0100】
【0101】
表7~9に示すように、実施例10~13で作製した製剤(E10)~(E13)を用いて得られた冷凍リンゴ(RE10)~(RE13)はいずれも解凍後も歯切れがよくかつ硬さも良好であり、商品として非常に優れたものであることを確認した。
【0102】
また、実施例11~13で作製した製剤(E11)~(E13)は、水溶性食物繊維、水不溶性食物繊維、および浸透圧調整助剤に加えて、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、およびアスコルビン酸カルシウムのような酸化防止剤を併用したことにより、冷凍リンゴ(RE11)~(RE13)の色調は、実施例10で作製した製剤(E10)を用いて得られた冷凍リンゴ(RE10)よりも優れていた。このことから、酸化防止剤の併用によって、本発明の冷凍青果用品質向上剤の性能がさらに一層高められたことがわかる。