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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046581
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】受光素子および光検出装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023061884
(22)【出願日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2022151410
(32)【優先日】2022-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】河原 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】町長 賢一
【テーマコード(参考)】
5F149
【Fターム(参考)】
5F149AB07
5F149AB16
5F149BA05
5F149BB03
5F149DA35
5F149FA05
5F149GA06
5F149HA03
5F149JA03
5F149LA01
5F149XB18
5F149XB24
(57)【要約】
【課題】暗電流を低減できる受光素子および光検出装置を提供する。
【解決手段】受光素子は、第1主面を有する基板と、前記第1主面の上に設けられた受光層と、前記受光層の上に設けられたコンタクト層と、前記コンタクト層を画素ごとに分離する溝と、を有し、前記受光層は、前記第1主面の上に設けられた第1半導体層と、前記第1半導体層の上に設けられた第2半導体層と、を有し、前記第1半導体層は、InGaAs層およびGaAsSb層を含むタイプII型の量子井戸層を有し、前記第2半導体層は、AlGaIn1-x-yAs層(0≦x<1、0≦y<1、0<x+y<1)を有し、前記溝の底面は前記第2半導体層内にあり、前記受光層は、前記底面に露出する部分にn型領域を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面を有する基板と、
前記第1主面の上に設けられた受光層と、
前記受光層の上に設けられたコンタクト層と、
前記コンタクト層を画素ごとに分離する溝と、
を有し、
前記受光層は、
前記第1主面の上に設けられた第1半導体層と、
前記第1半導体層の上に設けられた第2半導体層と、
を有し、
前記第1半導体層は、InGaAs層およびGaAsSb層を含むタイプII型の量子井戸層を有し、
前記第2半導体層は、AlGaIn1-x-yAs層(0≦x<1、0≦y<1、0<x+y<1)を有し、
前記溝の底面は前記第2半導体層内にあり、
前記受光層は、前記底面に露出する部分にn型領域を有する、受光素子。
【請求項2】
前記n型領域におけるn型キャリアの濃度は5×1017cm-3以上である、請求項1に記載の受光素子。
【請求項3】
前記n型領域の厚さは0.05μm以上である、請求項1または請求項2に記載の受光素子。
【請求項4】
前記第1主面に垂直な平面視で、前記n型領域と前記コンタクト層との間の距離は1.0μm以上である、請求項1または請求項2に記載の受光素子。
【請求項5】
前記基板は、n型のInP基板である、請求項1または請求項2に記載の受光素子。
【請求項6】
前記n型領域は、n型不純物として水素を含有する、請求項1または請求項2に記載の受光素子。
【請求項7】
前記基板は、前記第1主面とは反対の第2主面を有し、
前記第2主面に設けられた反射防止膜を有する、請求項1または請求項2に記載の受光素子。
【請求項8】
前記第2半導体層は、InGaAs層を有する、請求項1または請求項2に記載の受光素子。
【請求項9】
前記第2半導体層は、前記InGaAs層の上に設けられたAlInAs層を有し、
前記溝の底面は前記AlInAs層内にある、請求項8に記載の受光素子。
【請求項10】
前記第2半導体層は、前記InGaAs層の上に設けられたInP層を有し、
前記溝の底面は前記InP層内にある、請求項8に記載の受光素子。
【請求項11】
前記第2半導体層は、AlInAs層を有する、請求項1または請求項2に記載の受光素子。
【請求項12】
第1主面と、前記第1主面とは反対の第2主面とを有するn型のInP基板と、
前記第1主面の上に設けられた受光層と、
前記受光層の上に設けられたコンタクト層と、
前記コンタクト層を画素ごとに分離する溝と、
前記第2主面に設けられた反射防止膜と、
を有し、
前記受光層は、
前記第1主面の上に設けられた第1半導体層と、
前記第1半導体層の上に設けられた第2半導体層と、
を有し、
前記第1半導体層は、InGaAs層およびGaAsSb層を含むタイプII型の量子井戸層を有し、
前記第2半導体層は、AlGaIn1-x-yAs層(0≦x<1、0≦y<1、0<x+y<1)を有し、
前記溝の底面は前記第2半導体層内にあり、
前記受光層は、前記底面に露出する部分に、水素を含有し、n型キャリアの濃度が5×1017cm-3以上のn型領域を有し、
前記n型領域の厚さは0.1μm以上であり、
前記第1主面に垂直な平面視で、前記n型領域と前記コンタクト層との間の距離は1.0μm以上である、受光素子。
【請求項13】
請求項1、請求項2または請求項12に記載の受光素子と、
前記受光素子に接続された回路基板と、
を有する、光検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、受光素子および光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線を検知する受光素子として、タイプII型の量子井戸層を受光層に有する受光素子が開示されている。受光素子においては、画素分離用の溝が形成され、画素毎にメサが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-144278号公報
【特許文献2】特開2013-175686号公報
【特許文献3】特開2015-149422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の受光素子では、更なる暗電流の低減が困難である。
【0005】
本開示は、暗電流を低減できる受光素子および光検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の受光素子は、第1主面を有する基板と、前記第1主面の上に設けられた受光層と、前記受光層の上に設けられたコンタクト層と、前記コンタクト層を画素ごとに分離する溝と、を有し、前記受光層は、前記第1主面の上に設けられた第1半導体層と、前記第1半導体層の上に設けられた第2半導体層と、を有し、前記第1半導体層は、InGaAs層およびGaAsSb層を含むタイプII型の量子井戸層を有し、前記第2半導体層は、AlGaIn1-x-yAs層(0≦x<1、0≦y<1、0<x+y<1)を有し、前記溝の底面は前記第2半導体層内にあり、前記受光層は、前記底面に露出する部分にn型領域を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、暗電流を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係る受光素子を示す断面図である。
図2図2は、第1実施形態に係る受光素子の製造方法を示す断面図(その1)である。
図3図3は、第1実施形態に係る受光素子の製造方法を示す断面図(その2)である。
図4図4は、第1実施形態に係る受光素子の製造方法を示す断面図(その3)である。
図5図5は、第1実施形態に係る受光素子の製造方法を示す断面図(その4)である。
図6図6は、第1実施形態に係る受光素子の製造方法を示す断面図(その5)である。
図7図7は、第1実施形態に係る受光素子の製造方法を示す断面図(その6)である。
図8図8は、第1実施形態に係る受光素子の製造方法を示す断面図(その7)である。
図9図9は、第1実施形態に係る受光素子の製造方法を示す断面図(その8)である。
図10図10は、メサの詳細な構造の一例を示す断面図である。
図11図11は、模擬試料を示す断面図である。
図12図12は、n型キャリアの濃度と暗電流との関係を示す図である。
図13図13は、水素原子の濃度プロファイルの測定結果を示す図である。
図14図14は、暗電流の測定結果を示す図である。
図15図15は、第2実施形態に係る光検出装置を示す断面図である。
図16図16は、第3実施形態に係る受光素子を示す断面図である。
図17図17は、第4実施形態に係る受光素子を示す断面図である。
図18図18は、第5実施形態に係る受光素子を示す断面図である。
図19図19は、第6実施形態に係る受光素子を示す断面図である。
図20図20は、寸法パラメータと暗電流密度との関係を示す図である。
図21図21は、量子効率の測定に用いた測定システムを示す図である。
図22図22は、波長と量子効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0010】
〔1〕 本開示の一態様に係る受光素子は、第1主面を有する基板と、前記第1主面の上に設けられた受光層と、前記受光層の上に設けられたコンタクト層と、前記コンタクト層を画素ごとに分離する溝と、を有し、前記受光層は、前記第1主面の上に設けられた第1半導体層と、前記第1半導体層の上に設けられた第2半導体層と、を有し、前記第1半導体層は、InGaAs層およびGaAsSb層を含むタイプII型の量子井戸層を有し、前記第2半導体層は、AlGaIn1-x-yAs層(0≦x<1、0≦y<1、0<x+y<1)を有し、前記溝の底面は前記第2半導体層内にあり、前記受光層は、前記底面に露出する部分にn型領域を有する。
【0011】
後述のように、受光層が、溝の底面に露出する部分にn型領域を有することで、結晶リークが抑制され、暗電流を低減できる。また、第1半導体層は、例えば1.0μm以上2.5μm以下の波長範囲に高い感度を有する。
【0012】
〔2〕 〔1〕において、前記n型領域におけるn型キャリアの濃度は5×1017cm-3以上であってもよい。この場合、暗電流を低減しやすい。
【0013】
〔3〕 〔1〕または〔2〕において、前記n型領域の厚さは0.05μm以上であってもよい。この場合、暗電流を低減しやすい。
【0014】
〔4〕 〔1〕から〔3〕のいずれかにおいて、前記第1主面に垂直な平面視で、前記n型領域と前記コンタクト層との間の距離は1.0μm以上であってもよい。この場合、暗電流を低減しやすい。
【0015】
〔5〕 〔1〕から〔4〕のいずれかにおいて、前記基板は、n型のInP基板であってもよい。この場合、第1半導体層、第2半導体層およびコンタクト層を結晶成長させやすい。また、基板とコンタクト層との間で受光層に電圧を印加できる。
【0016】
〔6〕 〔1〕から〔5〕のいずれかにおいて、前記n型領域は、n型不純物として水素を含有してもよい。水素が用いられる場合、活性化アニールを行わずとも、n型キャリアが得られる。
【0017】
〔7〕 〔1〕から〔6〕のいずれかにおいて、前記基板は、前記第1主面とは反対の第2主面を有し、前記第2主面に設けられた反射防止膜を有してもよい。後述のように、反射防止膜の形成時に受光層に温度負荷がかかったとしても、n型領域があることで、結晶リークの増加が抑制される。
【0018】
〔8〕 〔1〕から〔7〕のいずれかにおいて、前記第2半導体層は、GaIn1-yAs層(0<y<1)を有してもよい。この場合、第2半導体層は、例えば1.0μm以上1.6μm以下の波長範囲に高い感度を有する。
【0019】
〔9〕 〔8〕において、前記第2半導体層は、前記GaIn1-yAs層の上に設けられたAlIn1-xAs層(0<x<1)を有し、前記溝の底面は前記AlIn1-xAs層内にあってもよい。この場合、AlIn1-xAs層のバンドギャップがGaIn1-yAs層のバンドギャップよりも大きいため、表面リークを抑制しやすい。
【0020】
〔10〕 〔8〕において、前記第2半導体層は、前記GaIn1-yAs層の上に設けられたInP層を有し、前記溝の底面は前記InP層内にあってもよい。この場合、InP層のバンドギャップがGaIn1-yAs層のバンドギャップよりも大きく、また、InP層に含まれるPが酸化しにくいため、表面リークを更に抑制しやすい。
【0021】
〔11〕 〔1〕から〔7〕のいずれかにおいて、前記第2半導体層は、AlIn1-xAs層(0<x<1)を有してもよい。この場合、AlIn1-xAs層のバンドギャップがGaIn1-yAs層のバンドギャップよりも大きいため、表面リークを抑制しやすい。
【0022】
〔12〕 本開示の他の一態様に係る受光素子は、第1主面と、前記第1主面とは反対の第2主面とを有するn型のInP基板と、前記第1主面の上に設けられた受光層と、前記受光層の上に設けられたコンタクト層と、前記コンタクト層を画素ごとに分離する溝と、前記第2主面に設けられた反射防止膜と、を有し、前記受光層は、前記第1主面の上に設けられた第1半導体層と、前記第1半導体層の上に設けられた第2半導体層と、を有し、前記第1半導体層は、InGaAs層およびGaAsSb層を含むタイプII型の量子井戸層を有し、前記第2半導体層は、AlGaIn1-x-yAs層(0≦x<1、0≦y<1、0<x+y<1)を有し、前記溝の底面は前記第2半導体層内にあり、前記受光層は、前記底面に露出する部分に、水素を含有し、n型キャリアの濃度が5×1017cm-3以上のn型領域を有し、前記n型領域の厚さは0.1μm以上であり、前記第1主面に垂直な平面視で、前記n型領域と前記コンタクト層との間の距離は1.0μm以上である。この場合、特に暗電流を低減しやすい。
【0023】
〔13〕 本開示の更に他の一態様に係る光検出装置は、〔1〕から〔12〕のいずれかの受光素子と、前記受光素子に接続された回路基板と、を有する。光検出装置が上記の受光素子を有することで、暗電流が低減され、良好なS/N比が得られる。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態について詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。
【0025】
まず、実施形態に想到した経緯について説明する。本願発明者らは、タイプII型の量子井戸層を受光層に有する従来の受光素子における暗電流の経路を解明すべく鋭意検討を行った。この結果、基板に反射防止膜を形成する前では結晶リークが抑えられているのに対して、反射防止膜の形成後には結晶リークが大きくなっていることが判明した。なお、タイプII型の量子井戸層に代えて砒化インジウムガリウム(InGaAs)の単層の受光層が用いられた場合には、このような結晶リークの増加が生じなかった。
【0026】
本願発明者らは、タイプII型の量子井戸層が用いられた場合、反射防止膜の形成時の温度負荷が結晶リークの増加を引き起こしていると考え、温度負荷により変化する事項を特定すべく更に鋭意検討を行った。この結果、受光層に意図的には不純物が導入されていないが、不可避的なn型不純物である水素(H)の量が変化していることが判明した。すなわち、反射防止膜の後では前よりも水素の量が減少していることが判明した。なお、メサの形成と反射防止膜の形成との間にメサおよび画素分離用の溝を覆うように酸化シリコン(SiO)膜が形成されており、SiO膜の形成時に水素は受光層の表層部に混入し得る。そして、n型キャリアの濃度が高い領域を意図的に受光層に設けることで、反射防止膜の形成後においても結晶リークが低く抑えられ、暗電流を抑制できることが明らかになった。n型キャリアの濃度が高い領域が存在することで結晶リークが抑制される機構は明らかではないが、n型キャリアの存在により結晶リークが生じる経路のバンド構造が変化し、電荷のトンネルが抑制されるためであると考えられる。
【0027】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。第1実施形態は受光素子に関する。図1は、第1実施形態に係る受光素子を示す断面図である。
【0028】
第1実施形態に係る受光素子100には、例えば、30μmピッチで256×320画素が形成されている。画素ピッチが、例えば50μmまたは90μmであってもよい。受光素子100に、例えば、512×640画素が形成されていてもよく、32×128画素が形成されていてもよい。
【0029】
図1に示されるように、受光素子100は、基板10と、受光層20と、p型コンタクト層25と、パッシベーション膜31と、反射防止膜32と、p電極40と、第1n電極51と、第2n電極52と、配線53と、インジウム(In)バンプ61と、Inバンプ62とを有する。
【0030】
基板10は、例えばn型のリン化インジウム(InP)基板である。基板10は、例えば硫黄(S)を5×1018cm-3程度の濃度で含有する。基板10は、第1主面10aと、第1主面10aとは反対の第2主面10bとを有する。基板10の厚さは、例えば300μm程度である。第1主面10aにn型のバッファ層が設けられていてもよい。バッファ層は、例えば厚さが0.5μm程度のInP層である。バッファ層は、例えばシリコン(Si)を1×1018cm-3程度の濃度で含有する。受光層20およびp型コンタクト層25は第1主面10aの上に積層されている。反射防止膜32は第2主面10bに設けられている。
【0031】
受光層20は、第1半導体層21と、第2半導体層22とを有する。第1半導体層21は基板10の上に設けられ、第2半導体層22は第1半導体層21の上に設けられている。第1半導体層21は、例えば砒化インジウムガリウム(InGaAs)とヒ素アンチモン化ガリウム(GaAsSb)とが交互に積層されたタイプII型の量子井戸層である。例えば、InGaAs層の厚さは2nm以上6nm以下であり、GaAsSb層の厚さは2nm以上6nm以下である。InGaAs層およびGaAsSb層のペア数は、例えば100以上350以下である。例えば、第1半導体層21に含まれるInGaAs層の組成はIn0.53Ga0.47Asであり、GaAsSb層の組成はGaAs0.51Sb0.49である。In0.53Ga0.47AsおよびGaAs0.51Sb0.49はInPに格子整合する。第2半導体層22は、例えばInGaAs層である。第2半導体層22の厚さは、例えば1μm程度である。例えば、第2半導体層22に含まれるInGaAs層の組成はIn0.53Ga0.47Asである。第2半導体層22に含まれるInGaAs層の組成がIn1-yGaAs(0.454≦y≦0.499)であっても、第2半導体層22とInPとの間の格子歪を特に小さく抑制できる。
【0032】
p型コンタクト層25は、例えばp型のInGaAs層である。p型コンタクト層25は、例えば亜鉛(Zn)を1×1019cm-3程度の濃度で含有する。p型コンタクト層25の厚さは、例えば0.2μmである。第2半導体層22に意図的な不純物の注入は行われていないが、不可避的不純物の混入等により第2半導体層22は弱いn型の導電型を有する。従って、第2半導体層22とp型コンタクト層25との間にpn接合が存在する。
【0033】
p型コンタクト層25および第2半導体層22に、画素分離するための第1溝71と、基板10を露出させるための第2溝72とが形成されている。
【0034】
第1溝71は、p型コンタクト層25および第2半導体層22の一部に形成されており、第1溝71の底面に第2半導体層22が露出している。すなわち、第1溝71の底面は第2半導体層22にある。第1溝71により、画素ごとにメサ70が形成され、画素分離されている。第1溝71の深さは0.5μm程度であり、幅は5μm程度である。メサ70の平面形状は、例えば一辺の長さが20μmの正方形状である。第2溝72は、p型コンタクト層25、第2半導体層22、第1半導体層21および基板10の一部に形成されており、第2溝72の底面において、基板10が露出している。第2溝72により、画素領域11と電極接続領域12とが互いから分離されている。メサ70は画素領域11に形成されている。電極接続領域12にメサ73が形成されている。
【0035】
パッシベーション膜31は、p型コンタクト層25、受光層20および基板10を覆う。パッシベーション膜31は、例えば酸化シリコン(SiO)膜である。パッシベーション膜31の厚さは、例えば0.3μm程度である。パッシベーション膜31に、メサ70のp型コンタクト層25を露出する開口部31aと、画素領域11と電極接続領域12との間で基板10を露出する開口部31bとが形成されている。
【0036】
メサ70の各々においてp型コンタクト層25の上にp電極40が形成されている。p電極40は開口部31aを通じてp型コンタクト層25に接する。p電極40は、例えばチタン(Ti)層、白金(Pt)層および金(Au)層を順に積層した金属積層膜により構成されている。
【0037】
画素領域11と電極接続領域12との間で基板10の上に第1n電極51が形成されている。第1n電極51は開口部31bを通じて基板10に接する。メサ73の上においてp型コンタクト層25の上に第2n電極52が形成されている。第1n電極51および第2n電極52は、例えばTi層、Pt層およびAu層を順に積層した金属積層膜により構成されている。
【0038】
配線53は、第1n電極51と第2n電極52とを接続する。配線53はパッシベーション膜31の上に形成されている。配線53は、例えばニッケル(Ni)層およびAu層を順に積層した金属積層膜により構成されている。
【0039】
p電極40の上にInバンプ61が設けられている。画素領域11における画素の各々においては、メサ70の上面に平面形状が円形状のp電極40が形成されており、p電極40の上に平面形状が円形状のInバンプ61が形成されている。
【0040】
電極接続領域12においては、第2n電極52の上にInバンプ62が設けられている。第2n電極52の上に平面形状が円形状のInバンプ62が形成されている。
【0041】
p電極40および第2n電極52は、それぞれInバンプ61および62を介して、読み出し回路基板300(図15参照)に設けられた電極に接続される。Inバンプ61および62の高さは、例えば10μm程度である。
【0042】
受光層20は、第1溝71の底面に露出する部分に、n型の導電型を備えたn型領域24を有する。n型領域24の上面は第1溝71の底面の少なくとも一部である。n型領域24は、平面視で、メサ70を囲むように環状に形成されている。n型領域24はn型不純物を含有し、例えば型キャリアを含有する。n型不純物は、例えば水素(H)である。n型領域24は第2半導体層22のみにあってもよく、第1半導体層21および第2半導体層22の両方にあってもよい。n型領域24の厚さは、例えば0.05μm以上である。平面視で、n型領域24はメサ70から離れている。なお、n型領域24は、例えば受光層20へのイオン注入により形成され、受光層20の他の領域には意図的な不純物の注入は行われていないが、受光層20の表層部にパッシベーション膜31の形成時等に不可避的に不純物が混入してもよい。不可避的に混入する不純物の深さは深くても0.1μm程度である。また、受光層20のn型領域24以外の領域におけるn型キャリアの濃度は、例えば1×1015cm-3未満である。
【0043】
反射防止膜32は、例えば酸窒化シリコン(SiON)膜である。例えば、反射防止膜32の屈折率は1.8程度であり、膜厚は148nm程度である。
【0044】
次に、第1実施形態に係る受光素子100の製造方法について説明する。図2から図9は、第1実施形態に係る受光素子の製造方法を示す断面図である。
【0045】
まず、図2に示されるように、基板10の第1主面10aに、エピタキシャル成長により、第1半導体層21、第2半導体層22およびp型コンタクト層25を順に形成する。上記の化合物半導体層のエピタキシャル成長には、有機金属気相エピタキシャル成長(metal organic vapor phase epitaxy:MOVPE)法が用いられる。基板10の厚さは、例えば350μm程度である。第1半導体層21の形成前に、基板10の第1主面10aにn型のバッファ層を形成してもよい。
【0046】
次に、図3に示されるように、画素分離のための第1溝71を形成する。具体的には、p型コンタクト層25の上に、プラズマ化学気相成長(chemical vapor deposition:CVD)法により膜厚が0.5μmの不図示の窒化シリコン(SiN)膜を成膜し、成膜されたSiN膜の上に、フォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行うことにより、不図示のレジストパターンを形成する。このレジストパターンは、第1溝71が形成される領域に開口部を有しており、レジストパターンの開口部におけるSiN膜を、バッファードフッ酸を用いたウェットエッチングにより除去することにより、SiN膜によりマスクを形成する。この後、不図示のレジストパターンを有機溶剤等により除去する。この後、SiN膜が除去された領域のp型コンタクト層25および第2半導体層22の一部を反応性イオンエッチング(reactive ion etching:RIE)等のドライエッチングにより除去する。このRIEでは、例えば四塩化ケイ素(SiCl)ガスおよびアルゴン(Ar)ガスの混合ガスを用いる。このようにして、画素分離するための第1溝71が形成される。第1溝71の形成に伴ってメサ70が形成され、各々の画素が分離される。なお、この工程において、後述する第2溝72が形成される領域の化合物半導体層も同様に除去される。この後、不図示のSiN膜はバッファードフッ酸により除去する。
【0047】
次に、図4に示されるように、基板10の外周に沿って第2溝72を形成する。具体的には、p型コンタクト層25等の上に、プラズマCVD法により膜厚が0.5μmの不図示のSiN膜を成膜し、成膜されたSiN膜の上に、フォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行うことにより、不図示のレジストパターンを形成する。このレジストパターンは、第2溝72が形成される領域に開口部を有しており、レジストパターンの開口部におけるSiN膜を、バッファードフッ酸を用いたウェットエッチングにより除去することにより、SiN膜によりマスクを形成する。この後、不図示のレジストパターンを有機溶剤等により除去し、更に、SiN膜が除去された領域の第2半導体層22、第1半導体層21および基板10の一部をRIE等のドライエッチングにより除去することにより、基板10の表面を露出させる。この後、不図示のSiN膜はバッファードフッ酸により除去する。このようにして、第2溝72が形成され、メサ70からみて、第2溝72の外側にメサ73が形成される。
【0048】
ドライエッチングでは、化合物半導体層にダメージが生じる。このため、第2溝72の形成の後、ダメージが生じた部分を除去するためのドライエッチングを行う。このドライエッチングでは、例えば質量比が硫酸:過酸化水素水:水=1:1:60の混合溶液を用いる。
【0049】
次に、図5に示されるように、p型コンタクト層25、受光層20および基板10を覆うように、膜厚が0.3μmのSiO膜81を成膜する。次に、SiO膜81の上に、フォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行うことにより、レジストパターン82を形成する。レジストパターン82の厚さは、例えば3μm程度である。レジストパターン82は、n型領域24が形成される領域に開口部83を有している。
【0050】
次に、レジストパターン82を選択イオン注入用マスクとして用いて、水素イオンのイオン注入を行い、受光層20にn型領域24を形成する。例えば、水素イオンのドーズ量は3×1015cm-2とし、加速電圧は46keVとする。SiO膜81はイオン注入時のp型コンタクト層25、第2半導体層22および基板10の表面荒れを抑制する。
【0051】
次に、図6に示されるように、レジストパターン82およびSiO膜81を除去する。次に、パッシベーション膜31を形成する。具体的には、全面に、プラズマCVD法により不図示のSiO膜を成膜し、成膜されたSiO膜の上に、フォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行うことにより、不図示のレジストパターンを形成する。SiO膜は、例えば150℃の基板温度で形成する。このレジストパターンは、p電極40が形成される領域と、第1n電極51が形成される領域とに開口部を有しており、レジストパターンの開口部におけるSiO膜をRIE等のドライエッチングにより除去する。この結果、メサ70のp型コンタクト層25の表面を露出する開口部31aと、基板10の表面を露出する開口部31bとを備えたパッシベーション膜31が形成される。
【0052】
次に、図7に示されるように、p型コンタクト層25の上にp電極40を形成し、基板10の上に第1n電極51を形成し、メサ73の上にパッシベーション膜31を介して第2n電極52を形成する。p電極40、第1n電極51および第2n電極52は、リフトオフ法により形成する。具体的には、p電極40が形成される領域と、第1n電極51が形成される領域と、第2n電極52が形成される領域とに開口部を有する不図示のレジストパターンを形成し、電子線(electron beam:EB)蒸着によりTi層、Pt層およびAu層が順に積層された金属積層膜を成膜し、その後に有機溶剤等に浸漬させる。この結果、レジストパターンとともにレジストパターンの上の金属積層膜が除去され、残存している金属積層膜からp電極40、第1n電極51および第2n電極52が形成される。
【0053】
更に、第1n電極51と第2n電極52とを接続する配線53をリフトオフ法により形成する。具体的には、配線53が形成される領域に開口部を有する不図示のレジストパターンを形成し、EB蒸着によりNi層およびAu層が順に積層された金属積層膜を成膜し、その後に有機溶剤等に浸漬させる。この結果、レジストパターンとともにレジストパターンの上の金属積層膜が除去され、残存している金属積層膜から配線53が形成される。
【0054】
次に、図8に示されるように、基板10の第2主面10bを研磨により鏡面にする。次に、第2主面10bに反射防止膜32を形成する。反射防止膜32はプラズマCVD法により形成する。反射防止膜32は、例えば200℃の基板温度で形成する。反射防止膜32の形成にかかる時間は、例えば40分間程度である。
【0055】
次に、図9に示されるように、p電極40の上にInバンプ61を形成し、第2n電極52の上にInバンプ62を形成する。Inバンプ61および62はリフトオフ法により形成する。この後、チップに分割することにより受光素子100を形成する。
【0056】
このようにして、第1実施形態に係る受光素子100を製造することができる。
【0057】
第1実施形態に係る受光素子100では、受光層20が第1溝71の底面に露出する部分に、n型の導電型を備えたn型領域24を有する。このため、受光層20に不可避的に含まれるn型不純物が反射防止膜32の形成時に減少したとしても、受光層20に十分なn型不純物が存在し、結晶リークを抑制できる。従って、第1実施形態によれば、暗電流を低減できる。
【0058】
また、第1半導体層21は、例えば1.0μm以上2.5μm以下の波長範囲に高い感度を有し、第2半導体層22は、例えば1.0μm以上1.6μm以下の波長範囲に高い感度を有する。
【0059】
基板10としてn型のInP基板が用いられることで、第1半導体層21、第2半導体層22およびp型コンタクト層25を結晶成長させやすい。また、基板10とp型コンタクト層25との間で受光層20に電圧を印加できる。
【0060】
なお、n型領域24におけるn型キャリアの濃度は、5×1017cm-3以上であってもよく、1×1018cm-3以上であってもよく、1×1019cm-3以上であってもよい。n型キャリアの濃度が低すぎる場合、暗電流を抑制する効果が得にくいおそれがある。例えば、n型キャリアの濃度が5×1017cm-3以上である場合、暗電流を5pA以下に抑制しやすい。n型キャリアの濃度は、例えばCV測定により測定できる。
【0061】
n型領域24の厚さは、0.05μm以上であってもよく、0.1μm以上であってもよく、0.4μm以上であってもよい。n型領域24が薄すぎる場合、暗電流を抑制する効果が得にくいおそれがある。ここでいうn型領域24の厚さとは、n型キャリアの濃度が1×1015cm-3以上の領域の厚さである。
【0062】
第1主面10aに垂直な平面視で、n型領域24とp型コンタクト層25との間の距離L1は、1.0μm以上であってもよく、1.2μm以上であってもよく、1.5μm以上であってもよい。n型領域24とp型コンタクト層25との間の距離L1が短すぎる場合、暗電流を抑制する効果が得にくいおそれがある。なお、図10に示されるように、メサ70の側面は曲面となっていてもよい。図10は、メサ70の詳細な構造の一例を示す断面図である。
【0063】
ここで、本願発明者らが行った種々の試験について説明する。
【0064】
(第1試験)
第1試験では、n型キャリアの濃度と暗電流との関係について調査した。第1試験では、パッシベーション膜31となるSiO膜の形成条件の変更と、メサ70の形成後の熱処理の有無とにより受光層20中のn型キャリアの濃度が異なる複数の試料を作製した。熱処理の温度は200℃、時間は4分間とした。ただし、n型領域24は形成しなかった。そして、各試料について、213Kの温度下で、p電極40と第2n電極52との間に-1.2Vの電圧を印加したときの暗電流を測定した。なお、n型キャリアの濃度は、各試料について直接測定するのではなく、図11に示される模擬試料を、各試料と同じSiO膜の形成条件、熱処理の有無で作製し、模擬試料のCV測定を行うことで測定した。模擬試料は、基板10に相当する基板510と、基板10の上のInGaAs層520と、InGaAs層520の上のパッシベーション膜531と、パッシベーション膜531の上の電極540とを有する。n型キャリアの濃度は、InGaAs層520のパッシベーション膜531との界面から0.1μmまでの領域521でのn型キャリアの濃度である。この結果を図12に示す。図11は、模擬試料を示す断面図である。図12は、n型キャリアの濃度と暗電流との関係を示す図である。
【0065】
図12に示されるように、n型キャリアの濃度が低くなるほど、暗電流が大きくなった。第1試験では、n型キャリアの濃度が5×1017cm-3以上の場合に、暗電流が5pAとなった。
【0066】
(第2試験)
第2試験では、第1実施形態に倣って試料を作製し、反射防止膜32の形成前と形成後とで、n型領域24における水素原子の濃度プロファイルの測定と、暗電流の測定とを行った。第2半導体層22の厚さは0.8μmとし、p型コンタクト層25の厚さは0.2μmとし、n型領域24の厚さは0.5μmとし、パッシベーション膜31の厚さは0.3μmとした。n型領域24の形成に際しては、ドーズ量は3×1015cm-2とし、加速電圧は46keVとした。水素原子の濃度プロファイルは、二次イオン質量分析法(secondary ion mass spectrometry:SIMS)により測定した。暗電流は、213Kの温度下で測定した。これらの結果を図13および図14に示す。図13は、水素原子の濃度プロファイルの測定結果を示す図である。図14は、暗電流の測定結果を示す図である。
【0067】
図13に示されるように、反射防止膜32の形成前と形成後との間で、水素原子の濃度プロファイルが変化したが、反射防止膜32の形成後においてもn型領域24に高濃度で水素原子が存在した。また、図14に示されるように、反射防止膜32の形成前と形成後との間で暗電流の大きさはほとんど変化しなかった。
【0068】
第1試験および第2試験の結果から、第1実施形態により暗電流が抑制されることが確認できる。
【0069】
なお、n型領域24の形成に用いられる不純物は水素に限定されない。例えば、硫黄(S)またはシリコン(Si)が用いられてもよい。ただし、水素が用いられる場合は活性化アニールを行わずとも、n型キャリアが得られるが、硫黄またはシリコンが用いられる場合は活性化アニールを行わなければn型キャリアが得られない。活性化アニールを行うことで、表面リークが増加するおそれがあるため、例えばn型領域24の形成に用いられる不純物は水素である。
【0070】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態に係る受光素子100を含む光検出装置に関する。図15は、第2実施形態に係る光検出装置を示す断面図である。
【0071】
第2実施形態に係る光検出装置200は、受光素子100と、読み出し回路基板(read out integrated circuit:ROIC)300とを有する。読み出し回路基板300は、配線基板320と、画素電極340と、共通電極350とを有する。画素電極340および共通電極350は、配線基板320の一方の面に配列している。読み出し回路基板300は、受光素子100から出力された信号を読み出す回路、例えばマルチプレクサを含む。読み出し回路基板300は回路基板の一例である。
【0072】
光検出装置200は、更に、p電極40と画素電極340とを接続する接続部材240と、第2n電極52と共通電極350とを接続する接続部材250とを有する。接続部材240は、Inバンプ61と、接合前に読み出し回路基板300の画素電極340上に設けられていたInバンプとを含んで構成されている。接続部材250は、Inバンプ62と、接合前に読み出し回路基板300の共通電極350上に設けられていたInバンプとを含んで構成されている。
【0073】
第2実施形態によれば、受光素子100における暗電流を抑制し、優れたS/N比が得られる。
【0074】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態は、主として、受光層の構成の点で第1実施形態と相違する。図16は、第3実施形態に係る受光素子を示す断面図である。
【0075】
第3実施形態に係る受光素子600は、受光層20に代えて受光層620を有する。受光層620は、第1半導体層21と、第2半導体層622とを有する。第2半導体層622は、例えばAlInAs層である。第2半導体層622の厚さは、例えば1μm程度である。例えば、第2半導体層622に含まれるAlInAs層の組成はAl0.47In0.53Asである。第2半導体層622に含まれるAlInAs層の組成がAlIn1-xAs(0.464≦x≦0.509)であっても、第2半導体層622とInPとの間の格子歪を特に小さく抑制できる。
【0076】
第1溝71は、p型コンタクト層25および第2半導体層622の一部に形成されており、第1溝71の底面に第2半導体層622、例えばAlInAs層が露出している。すなわち、第1溝71の底面が第2半導体層622にある。n型領域24は第2半導体層622のみにあってもよく、第1半導体層21および第2半導体層622の両方にあってもよい。
【0077】
第2半導体層622に意図的な不純物の注入は行われていないが、不可避的不純物の混入等により第2半導体層622は弱いn型の導電型を有する。従って、第2半導体層622とp型コンタクト層25との間にpn接合が存在する。
【0078】
第3実施形態の他の構成は第1実施形態と同一である。
【0079】
第3実施形態に係る受光素子600では、受光層620が第1溝71の底面に露出する部分に、n型の導電型を備えたn型領域24を有し、n型領域24の上面は第1溝71の底面の少なくとも一部である。このため、受光層620に不可避的に含まれるn型不純物が反射防止膜32の形成時に減少したとしても、受光層620に十分なn型不純物が存在し、結晶リークを抑制できる。従って、第3実施形態によっても、暗電流を低減できる。
【0080】
更に、第3実施形態では、第2半導体層622がAlInAs層を有し、AlInAsのバンドギャップはInGaAsのバンドギャップよりも大きい。例えば、InPに格子整合する組成で比較すると、In0.53Ga0.47Asのバンドギャップが0.73eVであるのに対し、Al0.47In0.53Asのバンドギャップは1.42eVである。このため、第3実施形態によれば、第1実施形態よりも表面リークを抑制できる。暗電流に占める表面リークの割合は、画素が小さいほど高くなる。従って、第3実施形態の効果は、画素が小さくなるほど顕著となる。
【0081】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、主として、受光層の構成の点で第1実施形態と相違する。図17は、第4実施形態に係る受光素子を示す断面図である。
【0082】
第4実施形態に係る受光素子700は、受光層620に代えて受光層720を有する。受光層720は、第1半導体層21と、第2半導体層722とを有する。第2半導体層722は、例えば、InGaAs層722Aと、AlInAs層722Bとを有する。AlInAs層722BはInGaAs層722Aの上に設けられている。InGaAs層722AおよびAlInAs層722Bの厚さは、例えばいずれも1μm程度である。例えば、InGaAs層722Aの組成はIn0.53Ga0.47Asであり、AlInAs層722Bの組成はAl0.47In0.53Asである。InGaAs層722Aの組成がIn1-yGaAs(0.454≦y≦0.499)であっても、InGaAs層722AとInPとの間の格子歪を特に小さく抑制できる。AlInAs層722Bの組成がAlIn1-xAs(0.464≦x≦0.509)であっても、AlInAs層722BとInPとの間の格子歪を特に小さく抑制できる。
【0083】
第1溝71は、p型コンタクト層25およびAlInAs層722Bの一部に形成されており、第1溝71の底面にAlInAs層722Bが露出している。すなわち、第1溝71の底面はAlInAs層722Bにある。n型領域24の上面は第1溝71の底面の少なくとも一部である。n型領域24は、AlInAs層722Bのみにあってもよく、InGaAs層722AおよびAlInAs層722Bにあってもよく、第1半導体層21および第2半導体層722にあってもよい。
【0084】
AlInAs層722Bに意図的な不純物の注入は行われていないが、不可避的不純物の混入等によりAlInAs層722Bは弱いn型の導電型を有する。従って、AlInAs層722Bとp型コンタクト層25との間にpn接合が存在する。
【0085】
第4実施形態の他の構成は第1実施形態と同一である。
【0086】
第4実施形態に係る受光素子700では、受光層720が第1溝71の底面に露出する部分に、n型の導電型を備えたn型領域24を有し、n型領域24の上面は第1溝71の底面の少なくとも一部である。このため、受光層720に不可避的に含まれるn型不純物が反射防止膜32の形成時に減少したとしても、受光層720に十分なn型不純物が存在し、結晶リークを抑制できる。従って、第4実施形態によっても、暗電流を低減できる。
【0087】
更に、第4実施形態では、第2半導体層622がAlInAs層722Bを有するため、第3実施形態と同じく、第1実施形態よりも表面リークを抑制できる。
【0088】
また、AlInAs層722Bは、例えば0.9μm以下の波長範囲に高い感度を有するが、1.0μm以上1.6μm以下の波長範囲の光を吸収しない。このため、第3実施形態では、1.0μm以上1.6μm以下の波長範囲での感度が第1実施形態よりも低くなるおそれがある。一方、第4実施形態では、第2半導体層622がAlInAs層722BだけでなくInGaAs層722Aを有するため、1.0μm以上1.6μm以下の波長範囲に第1実施形態と同程度の感度が得られる。
【0089】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について説明する。第5実施形態は、主として、受光層の構成の点で第4実施形態と相違する。図18は、第5実施形態に係る受光素子を示す断面図である。
【0090】
第5実施形態に係る受光素子701では、受光層720がInGaAs層722AおよびAlInAs層722Bに加えて、p型AlInAs層722Cを有する。p型AlInAs層722CはAlInAs層722Bの上に設けられている。p型AlInAs層722Cは、例えばZnを1×1019cm-3程度の濃度で含有する。p型AlInAs層722Cの厚さは、例えば0.1μm程度である。p型AlInAs層722Cの組成はAl0.47In0.53Asである。p型AlInAs層722Cの組成がAlIn1-xAs(0.464≦x≦0.509)であっても、p型AlInAs層722CとInPとの間の格子歪を特に小さく抑制できる。第5実施形態では、AlInAs層722Bとp型AlInAs層722Cとの間にpn接合が存在する。
【0091】
第1溝71は、p型コンタクト層25、p型AlInAs層722CおよびAlInAs層722Bの一部に形成されており、第1溝71の底面にAlInAs層722Bが露出している。すなわち、第4実施形態と同じく、第1溝71の底面はAlInAs層722Bにある。n型領域24の上面は第1溝71の底面の少なくとも一部である。
【0092】
第5実施形態の他の構成は第4実施形態と同一である。
【0093】
第5実施形態によっても第4実施形態と同じ効果が得られる。
【0094】
第3実施形態において、第2半導体層622とp型コンタクト層25との間にp型AlInAs層722Cに相当するp型AlInAs層が設けられていてもよい。
【0095】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態について説明する。第6実施形態は、主として、受光層の構成の点で第5実施形態と相違する。図19は、第6実施形態に係る受光素子を示す断面図である。
【0096】
第6実施形態に係る受光素子800は、受光層720に代えて受光層820を有する。受光層820は、第1半導体層21と、第2半導体層822とを有する。第2半導体層822は、例えば、InGaAs層722Aと、InP層822Bと、p型InP層822Cとを有する。InP層822BはInGaAs層722Aの上に設けられている。p型InP層822CはInP層822Bの上に設けられている。InP層822Bの厚さは、例えば1μm程度である。p型InP層822Cは、例えばZnを1×1018cm-3程度の濃度で含有する。p型InP層822Cの厚さは、例えば0.1μm程度である。
【0097】
第1溝71は、p型コンタクト層25、p型InP層822CおよびInP層822Bの一部に形成されており、第1溝71の底面にInP層822Bが露出している。すなわち、第1溝71の底面はInP層822Bにある。n型領域24の上面は第1溝71の底面の少なくとも一部である。n型領域24は、InP層822Bのみにあってもよく、InGaAs層722AおよびInP層822Bにあってもよく、第1半導体層21および第2半導体層822にあってもよい。
【0098】
InP層822Bに意図的な不純物の注入は行われていないが、不可避的不純物の混入等によりInP層822Bは弱いn型の導電型を有する。従って、InP層822Bとp型InP層822Cとの間にpn接合が存在する。
【0099】
第6実施形態の他の構成は第5実施形態と同一である。
【0100】
第6実施形態に係る受光素子800では、受光層820が第1溝71の底面に露出する部分に、n型の導電型を備えたn型領域24を有し、n型領域24の上面は第1溝71の底面の少なくとも一部である。このため、受光層820に不可避的に含まれるn型不純物が反射防止膜32の形成時に減少したとしても、受光層820に十分なn型不純物が存在し、結晶リークを抑制できる。従って、第6実施形態によっても、暗電流を低減できる。
【0101】
更に、第6実施形態では、第2半導体層822がInP層822Bを有し、InPのバンドギャップはInGaAsのバンドギャップよりも大きい。例えば、InPに格子整合する組成で比較すると、In0.53Ga0.47Asのバンドギャップが0.73eVであるのに対し、InPのバンドギャップは1.35eVである。このため、第6実施形態によれば、第1実施形態よりも表面リークを抑制できる。
【0102】
また、InPのバンドギャップはAlInAsのバンドギャップより小さいものの、InPに含まれるPは、AlInAsに含まれるAsよりも酸化しにくい。このため、第5実施形態よりも表面リークを抑制できる。
【0103】
第3実施形態、第4実施形態、第5実施形態および第6実施形態は、第1実施形態と同じく、第2実施形態のような光検出装置に用いることができる。つまり、第2実施形態に係る光検出装置200が受光素子100に代えて、受光素子600、700、701または800を有してもよい。
【0104】
本開示において、第2半導体層は、InGaAs層またはAlInAs層に限定されない。第2半導体層がAlGaIn1-x-yAs層(0≦x<1、0≦y<1、0<x+y<1)を有していてもよい。
【0105】
次に、本願発明者らが行った他の試験について説明する。
【0106】
(第3試験)
第3試験では、メサ70の寸法と暗電流密度との関係について調査した。第3試験では、第1実施形態、第3実施形態、第5実施形態または第6実施形態を模した複数の試料を準備した。また、第1実施形態、第3実施形態、第5実施形態または第6実施形態のそれぞれについて、メサ70の寸法が異なる4種類の試料を作製した。具体的には、各辺の長さが20μm、40μm、80μmまたは160μmである正方形状の平面形状を有するメサ70を第1実施形態、第3実施形態、第5実施形態または第6実施形態毎に作製した。そして、各試料について暗電流Idを測定した。この結果を図20に示す。図20に示されるグラフにおいて、横軸は平面視でのメサ70の周囲長Pを面積Aで除して得られる寸法パラメータ(P/A)であり、縦軸は暗電流Idの密度(Id/A)である。図20は、寸法パラメータと暗電流密度との関係を示す図である。
【0107】
図20に示されるグラフでは、傾きが表面リークを反映する。そして、第3実施形態および第5実施形態では、グラフの傾きが同程度であり、第3実施形態および第5実施形態では、第1実施形態よりもグラフの傾きが小さく、第6実施形態では、第3実施形態および第5実施形態よりもグラフの傾きが小さい。この結果は、第3実施形態と第5実施形態との間では、表面リークが同程度であり、第3実施形態および第5実施形態では、第1実施形態よりも表面リークが抑制され、第6実施形態では、第3実施形態および第5実施形態よりも表面リークが抑制されることを示している。
【0108】
(第4試験)
第4試験では、第1実施形態または第3実施形態を模した試料を作製し、波長と量子効率との関係について調査した。
【0109】
ここで、量子効率の測定方法について説明する。図21は、量子効率の測定に用いた測定システムを示す図である。図21に示されるように、測定システムは、ハロゲンランプ90と、積分球91と、ミラー92と、チョッパー93と、ローパスフィルタ94と、分光器95と、デュワー96と、プリアンプ97と、ロックインアンプ98と、コンピュータ99とを有する。ハロゲンランプ90は、波長が350nm以上3500nm以下の光束を放出する。積分球91は、ハロゲンランプ90から放出された光束を集光し、ミラー92に向けて出射する。ミラー92は積分球91から出射された光を分光器95に向けて反射する。チョッパー93はミラー92と分光器95との間に配置されており、ローパスフィルタ94はチョッパー93と分光器95との間に配置されている。試料9はデュワー96に取り付けられ、デュワー96により冷却される。分光器95はチョッパー93およびローパスフィルタ94を通過した光を分光し、試料9に照射する。プリアンプ97は試料9からの出力信号を増幅する。ロックインアンプ98はチョッパー93とともに、プリアンプ97からの出力信号に含まれるノイズを低減した電流を測定する。コンピュータ99は、ロックインアンプ98から出力信号(電流値)を分析して量子効率を算出する。
【0110】
量子効率の測定の際には、デュワー96により試料9を-60℃の温度に冷却し、試料9には-2Vの電圧を印加した。また、校正試料を用いて入射光量を測定し、波長と入射光量との関係を取得した。そして、コンピュータ99により波長および電流値のデータを収集し、波長毎の量子効率を算出した。この結果を図22に示す。図22は、波長と量子効率との関係を示す図である。
【0111】
図22に示されるように、第3実施形態では、1.0μm以上1.6μm以下の波長帯域において、第1実施形態よりも量子効率が低くなった。これは、第2半導体層622に含まれるAlInAs層が1.0μm以上1.6μm以下の波長範囲に感度を有しないためである。一方、第4実施形態、第5実施形態および第6実施形態では、第1実施形態と同程度の量子効率が得られると考えられる。
【0112】
以上、実施形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0113】
9:試料
10:基板
10a:第1主面
10b:第2主面
11:画素領域
12:電極接続領域
20、620、720、820:受光層
21:第1半導体層
22、622、722、822:第2半導体層
24:n型領域
25:p型コンタクト層
31:パッシベーション膜
31a、31b:開口部
32:反射防止膜
40:p電極
51:第1n電極
52:第2n電極
53:配線
61、62:Inバンプ
70、73:メサ
71:第1溝
72:第2溝
81:SiO
82:レジストパターン
83:開口部
90:ハロゲンランプ
91:積分球
92:ミラー
93:チョッパー
94:ローパスフィルタ
95:分光器
96:デュワー
97:プリアンプ
98:ロックインアンプ
99:コンピュータ
100、600、700、701、800:受光素子
200:光検出装置
240、250:接続部材
300:読み出し回路基板
320:配線基板
340:画素電極
350:共通電極
510:基板
520:InGaAs層
521:領域
531:パッシベーション膜
540:電極
722A:InGaAs層
722B:AlInAs層
722C:p型AlInAs層
822B:InP層
822C:p型InP層
L1:距離
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