(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046590
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極組成物及びリチウムイオン電池用正極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240327BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240327BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240327BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083600
(22)【出願日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2022150848
(32)【優先日】2022-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石賀 絢香
(72)【発明者】
【氏名】磯村 省吾
(72)【発明者】
【氏名】森 悠輔
(72)【発明者】
【氏名】石賀 渉
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CA21
5H050CA29
5H050CB08
5H050DA11
5H050EA23
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA11
5H050HA14
5H050HA15
(57)【要約】
【課題】集電体との接着性に優れ、電極の捲回時や繰り返し充放電に伴う活物質層の体積変化に追随できる柔軟性を有し、厳しい条件での圧延処理が不要であるリチウムイオン電池用正極組成物を提供すること。
【解決手段】バインダー樹脂、導電助剤及び正極活物質を含むリチウムイオン電池用正極組成物であって、
前記バインダー樹脂がビニル樹脂であり、
前記ビニル樹脂が、カルボキシル基を有するビニルモノマー(a1)及び下記一般式(1)
で表されるビニルモノマー(a2)を必須構成単量体とする重合体であり、
前記バインダー樹脂のガラス転移温度が-40~-5℃であり、
前記バインダー樹脂の結晶化度が20未満であるリチウムイオン電池用正極組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂、導電助剤及び正極活物質を含むリチウムイオン電池用正極組成物であって、
前記バインダー樹脂がビニル樹脂であり、
前記ビニル樹脂が、カルボキシル基を有するビニルモノマー(a1)及び下記一般式(1)
CH2=C(R1)COOR2 (1)
[式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数4~36の分岐アルキル基である。]
で表されるビニルモノマー(a2)を必須構成単量体とする重合体であり、
前記バインダー樹脂のガラス転移温度が-40~-5℃であり、
前記バインダー樹脂の結晶化度が20未満であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極組成物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂の重量平均分子量が、50,000~200,000である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極組成物。
【請求項3】
前記バインダー樹脂の引張破断ひずみが1000%以上であり、
前記引張破断ひずみは、前記バインダー樹脂をダンベル状(ASTM D683記載の試験片形状TypeII)に打ち抜き、ASTM D683(試験片形状TypeII)に準拠した引張試験において試験片が破断するまでのひずみを下記式によって算出した値である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極組成物。
引張破断ひずみ(%)=[(破断時試験片長さ-試験前試験片長さ)/試験前試験片長さ]×100
【請求項4】
前記バインダー樹脂とアルミ箔との剥離強度が4~10N/25mmである請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極組成物。
【請求項5】
前記リチウムイオン電池用正極組成物における前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の重量を基準として1~5重量%であり、
前記リチウムイオン電池用正極組成物における前記正極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の重量を基準として90~98重量%である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極組成物。
【請求項6】
バインダー樹脂、導電助剤、正極活物質及び水性溶媒を含むスラリーを作製する混合工程と、前記スラリーを集電体に塗布する塗布工程と、前記塗布工程後にスラリーを乾燥して前記集電体上に正極活物質層を形成する乾燥工程とを含むリチウムイオン電池用正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極組成物及びリチウムイオン電池用正極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度という特長を持つことから、携帯情報機器分野などにおいて広く利用され、携帯電話、ノート型パソコンを始めとする携帯端末用標準電池としての地位が確立されている。その用途は拡大する一方で、従来用途に加えてハイブリッド自動車や電気自動車などへの適用も検討されており一部では既に実用化されている。
【0003】
リチウムイオン電池用正極の製造方法としては、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を導電助剤及び正極活物質と混合し、さらにN-メチルピロリドン等の有機溶剤を加えてペースト状にし、これを集電体上に塗布、乾燥する方法が知られている(特許文献1)。
しかし、これらの方法で得られる電極は結着力や柔軟性が十分とは言えず、電極の捲回時や繰り返し充放電に伴う活物質層の体積変化により活物質層が集電体から剥離して電池性能が低下するという問題があった。
バインダー樹脂として、PVDFの代わりにスチレンーブタジエンゴム(SBR)等を代替することも検討されているが、耐酸化性に乏しいため代替は困難であった。
【0004】
また、近年、電池の高容量化を目的として、電極の空隙率を下げるために、ロールプレス等の圧延処理条件が厳しくなっている。特に正極においては、諸々の制約からバインダー樹脂としてPVDFのような機械的変形性に乏しい結晶性樹脂を用いている場合がほとんどで、圧延処理の条件が大きな課題であった。バインダー樹脂を活物質や導電剤粒子表面に化学結合させることにより、圧延工程を省略もしくは簡略化したリチウムイオン電池電極板製造方法も提案されている(特許文献2)が、電池材料の選定に制約が大きく、対策として十分とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-36889号公報
【特許文献2】特開2002-100360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みて為されたものであり、集電体との接着性に優れ、電極の捲回時や繰り返し充放電に伴う活物質層の体積変化に追随できる柔軟性を有し、厳しい条件での圧延処理が不要であるリチウムイオン電池用正極組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
本発明は、バインダー樹脂、導電助剤及び正極活物質を含むリチウムイオン電池用正極組成物であって、前記バインダー樹脂がビニル樹脂であり、前記ビニル樹脂が、カルボキシル基を有するビニルモノマー(a1)及び下記一般式(1)
CH2=C(R1)COOR2 (1)
[式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数4~36の分岐アルキル基である。]
で表されるビニルモノマー(a2)を必須構成単量体とする重合体であり、前記バインダー樹脂のガラス転移温度が-40~-5℃であり、前記バインダー樹脂の結晶化度が20未満であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極組成物、及び、バインダー樹脂、導電助剤、正極活物質及び水性溶媒を含むスラリーを作製する混合工程と、前記スラリーを集電体に塗布する塗布工程と、前記塗布工程後にスラリーを乾燥して前記集電体上に正極活物質層を形成する乾燥工程とを含むリチウムイオン電池用正極の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、集電体との接着性に優れ、電極の捲回時や繰り返し充放電に伴う活物質層の体積変化に追随できる柔軟性を有し、厳しい条件での圧延処理が不要であるリチウムイオン電池用正極組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[リチウムイオン電池用正極組成物]
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物は、バインダー樹脂、導電助剤及び正極活物質を含むリチウムイオン電池用正極組成物である。
前記バインダー樹脂がビニル樹脂であり、前記ビニル樹脂が、カルボキシル基を有するビニルモノマー(a1)及び下記一般式(1)
CH2=C(R1)COOR2 (1)
[式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数4~36の分岐アルキル基である。]
で表されるビニルモノマー(a2)を必須構成単量体とする重合体である。
【0010】
カルボキシル基を有するビニルモノマー(a1)としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸等の炭素数3~15のモノカルボン酸;(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の炭素数4~24のジカルボン酸;アコニット酸等の炭素数6~24の3価~4価又はそれ以上の価数のポリカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル酸が好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0011】
上記一般式(1)で表されるビニルモノマー(a2)において、R1は水素原子又はメチル基を表す。R1はメチル基であることが好ましい。
R2は炭素数4~36の分岐アルキル基であり、R2の具体例としては、1-アルキルアルキル基(1-メチルプロピル基(sec-ブチル基)、1,1-ジメチルエチル基(tert-ブチル基)、1-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1-メチルペンチル基、1-エチルブチル基、1-メチルヘキシル基、1-エチルペンチル基、1-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、1-メチルオクチル基、1-エチルヘプチル基、1-メチルノニル基、1-エチルオクチル基、1-メチルデシル基、1-エチルノニル基、1-ブチルエイコシル基、1-ヘキシルオクタデシル基、1-オクチルヘキサデシル基、1-デシルテトラデシル基、1-ウンデシルトリデシル基等)、2-アルキルアルキル基(2-メチルプロピル基(iso-ブチル基)、2-メチルブチル基、2-エチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、2-メチルペンチル基、2-エチルブチル基、2-メチルヘキシル基、2-エチルペンチル基、2-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、2-メチルオクチル基、2-エチルヘプチル基、2-メチルノニル基、2-エチルオクチル基、2-メチルデシル基、2-エチルノニル基、2-ヘキシルオクタデシル基、2-オクチルヘキサデシル基、2-デシルテトラデシル基、2-ウンデシルトリデシル基、2-ドデシルヘキサデシル基、2-トリデシルペンタデシル基、2-デシルオクタデシル基、2-テトラデシルオクタデシル基、2-ヘキサデシルオクタデシル基、2-テトラデシルエイコシル基、2-ヘキサデシルエイコシル基等)、3~34-アルキルアルキル基(3-アルキルアルキル基、4-アルキルアルキル基、5-アルキルアルキル基、32-アルキルアルキル基、33-アルキルアルキル基及び34-アルキルアルキル基等)、並びに、プロピレンオリゴマー(7~11量体)、エチレン/プロピレン(モル比16/1~1/11)オリゴマー、イソブチレンオリゴマー(7~8量体)及びα-オレフィン(炭素数5~20)オリゴマー(4~8量体)等に対応するオキソアルコールのアルキル残基のような1又はそれ以上の分岐アルキル基を含有する混合アルキル基等が挙げられる。
これらのうち、電解液の吸液の観点から好ましいのは2-アルキルアルキル基であり、更に好ましいのは2-エチルヘキシル基及び2-デシルテトラデシル基である。
【0012】
また、前記バインダー樹脂を構成する単量体には、ビニルモノマー(a1)及び上記一般式(1)で表されるビニルモノマー(a2)の他に、活性水素を含有しない共重合性ビニルモノマー(a3)が含まれていてもよい。
活性水素を含有しない共重合性ビニルモノマー(a3)としては、下記(a31)~(a35)が挙げられる。
(a31)炭素数1~20のモノオールと(メタ)アクリル酸から形成されるカルビル(メタ)アクリレート
上記モノオールとしては、(i)脂肪族モノオール[メタノール、エタノール、n-又はi-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、n-オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等]、(ii)脂環式モノオール[シクロヘキシルアルコール等]、(iii)芳香脂肪族モノオール[ベンジルアルコール等]及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0013】
(a32)ポリ(n=2~30)オキシアルキレン(炭素数2~4)アルキル(炭素数1~18)エーテル(メタ)アクリレート[メタノールのエチレンオキシド(以下EOと略記)10モル付加物(メタ)アクリレート、メタノールのプロピレンオキシド(以下POと略記)10モル付加物(メタ)アクリレートなど]
【0014】
(a33)窒素含有ビニル化合物
(a33-1)アミド基含有ビニル化合物
(i)炭素数3~30の(メタ)アクリルアミド化合物、例えばN,N-ジアルキル(炭素数1~6)もしくはジアラルキル(炭素数7~15)(メタ)アクリルアミド[N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジベンジルアクリルアミドなど]、ジアセトンアクリルアミド
(ii)上記(メタ)アクリルアミド化合物を除く、炭素数4~20のアミド基含有ビニル化合物、例えばN-メチル-N-ビニルアセトアミド、環状アミド(ピロリドン化合物(炭素数6~13、例えば、N-ビニルピロリドンなど))
【0015】
(a33-2)(メタ)アクリレート化合物
(i)ジアルキル(炭素数1~4)アミノアルキル(炭素数1~4)(メタ)アクリレート[N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレートなど]
(ii)4級アンモニウム基含有(メタ)アクリレート〔3級アミノ基含有(メタ)アクリレート[N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど]の4級化物(前記の4級化剤を用いて4級化したもの)など〕
【0016】
(a33-3)複素環含有ビニル化合物
ピリジン化合物(炭素数7~14、例えば2-又は4-ビニルピリジン)、イミダゾール化合物(炭素数5~12、例えばN-ビニルイミダゾール)、ピロール化合物(炭素数6~13、例えばN-ビニルピロール)、ピロリドン化合物(炭素数6~13、例えばN-ビニル-2-ピロリドン)
【0017】
(a33-4)ニトリル基含有ビニル化合物
炭素数3~15のニトリル基含有ビニル化合物、例えば(メタ)アクリロニトリル、シアノスチレン、シアノアルキル(炭素数1~4)アクリレート
【0018】
(a33-5)その他ビニル化合物
ニトロ基含有ビニル化合物(炭素数8~16、例えばニトロスチレン)など
【0019】
(a34)ビニル炭化水素
(a34-1)脂肪族ビニル炭化水素
炭素数2~18又はそれ以上のオレフィン[エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセンなど]、炭素数4~10又はそれ以上のジエン[ブタジエン、イソプレン、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエンなど]など
【0020】
(a34-2)脂環式ビニル炭化水素
炭素数4~18又はそれ以上の環状不飽和化合物、例えばシクロアルケン(例えばシクロヘキセン)、(ジ)シクロアルカジエン[例えば(ジ)シクロペンタジエン]、テルペン(例えばピネン、リモネン及びインデン)
【0021】
(a34-3)芳香族ビニル炭化水素
炭素数8~20またはそれ以上の芳香族不飽和化合物及びそれらの誘導体、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン、スチレンスルホン酸リチウム
【0022】
(a35)ビニルエステル、ビニルエーテル、ビニルケトン、不飽和ジカルボン酸ジエステル
(a35-1)ビニルエステル
脂肪族ビニルエステル[炭素数4~15、例えば脂肪族カルボン酸(モノ-又はジカルボン酸)のアルケニルエステル(例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ジアリルアジペート、イソプロペニルアセテート、ビニルメトキシアセテート)]
芳香族ビニルエステル[炭素数9~20、例えば芳香族カルボン酸(モノ-又はジカルボン酸)のアルケニルエステル(例えばビニルベンゾエート、ジアリルフタレート、メチル-4-ビニルベンゾエート)、脂肪族カルボン酸の芳香環含有エステル(例えばアセトキシスチレン)]
【0023】
(a35-2)ビニルエーテル
脂肪族ビニルエーテル〔炭素数3~15、例えばビニルアルキル(炭素数1~10)エーテル[ビニルメチルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニル2-エチルヘキシルエーテルなど]、ビニルアルコキシ(炭素数1~6)アルキル(炭素数1~4)エーテル[ビニル-2-メトキシエチルエーテル、メトキシブタジエン、3,4-ジヒドロ-1,2-ピラン、2-ブトキシ-2’-ビニロキシジエチルエーテル、ビニル-2-エチルメルカプトエチルエーテルなど]、ポリ(2~4)(メタ)アリロキシアルカン(炭素数2~6)[ジアリロキシエタン、トリアリロキシエタン、テトラアリロキシブタン、テトラメタアリロキシエタンなど]〕
芳香族ビニルエーテル(炭素数8~20、例えばビニルフェニルエーテル、フェノキシスチレン)
【0024】
(a35-3)ビニルケトン
脂肪族ビニルケトン(炭素数4~25、例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン)
芳香族ビニルケトン(炭素数9~21、例えばビニルフェニルケトン)
【0025】
(a35-4)不飽和ジカルボン酸ジエステル
炭素数4~34の不飽和ジカルボン酸ジエステル、例えばジアルキルフマレート(2個のアルキル基は、炭素数1~22の、直鎖、分枝鎖もしくは脂環式の基)、ジアルキルマレエート(2個のアルキル基は、炭素数1~22の、直鎖、分枝鎖もしくは脂環式の基)
【0026】
上記(a3)として例示したもののうち電解液の吸液および耐電圧の観点から好ましいのは、(a31)、(a32)、(a33)および(a34)であり、更に好ましいのは、(a31)のうちのメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(a34)のうちのスチレンスルホン酸リチウムである。
【0027】
前記バインダー樹脂において、カルボキシル基を有するビニルモノマー(a1)、上記一般式(1)で表されるビニルモノマー(a2)及び活性水素を含有しない共重合性ビニルモノマー(a3)の含有量は、前記バインダー樹脂の重量を基準として、(a1)が0.1~80重量%、(a2)が0.1~99.9重量%、(a3)が0~99.8重量%であることが好ましい。
モノマーの含有量が上記範囲内であると、電解液への吸液性が良好となる。
より好ましい含有量は、(a1)が1~50重量%、(a2)が5~70重量%、(a3)が5~80重量%であり、さらに好ましい含有量は、(a1)が1~30重量%、(a2)が50~96重量%、(a3)が5~50重量%である。
【0028】
前記バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-40~-5℃である。
前記バインダー樹脂のTgが-40℃未満であると得られる電極の強度が弱くなり、-5℃を超えると得られる電極の柔軟性が悪化する。
得られる電極の強度の観点から、前記バインダー樹脂のTgは好ましくは-35~-15℃である。
前記バインダー樹脂のTgは、前記バインダー樹脂を構成するモノマーの種類と比率で調整することができる。
【0029】
前記バインダー樹脂のTgは、セイコー電子工業(株)製DSC20、SSC/580を用いて、ASTMD3418-82に規定の方法(DSC法)で測定する。
<測定条件>
(1)30℃から20℃/分で150℃まで昇温
(2)150℃で10分間保持
(3)20℃/分で-60℃まで冷却
(4)-60℃で10分間保持
(5)20℃/分で150℃まで昇温
(6)(5)の過程にて測定される示差走査熱量曲線を解析し、変曲点の位置をガラス転移温度とする。
【0030】
前記バインダー樹脂の結晶化度は、20未満である。
前記バインダー樹脂の結晶化度が20以上であると得られる電極の柔軟性が悪化する。
得られる電極の柔軟性の観点から、前記バインダー樹脂の結晶化度は好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下である。
前記バインダー樹脂の結晶化度は、前記バインダー樹脂を構成するモノマーで調整することができる。例えば、分子間相互作用の大きな官能基を持つモノマー(カルボン酸、アミン等)や分極率の大きなモノマーを使用すれば結晶化度は大きくなり、長鎖炭化水素を有するモノマーを使用すれば結晶化度は小さくなる。
【0031】
前記バインダー樹脂の結晶化度は、「JIS K7122-1987 プラスチックの転移熱測定方法」に準じて、示差走査熱量(DSC)測定にて吸熱ピークの面積から測定融解熱量(J/g)を求め、測定された測定融解熱量に基づき以下の式により結晶化度を算出することにより定める。
結晶化度=(測定融解熱量/完全結晶体融解熱量)×100
上式中、測定融解熱量は、Al容器に計量した10mgの試料を窒素雰囲気下、25℃~200℃まで昇温速度20℃/minで加熱し、次に冷却速度20℃/minで25℃まで冷却後、同様の条件でセカンドスキャンを行った際の融解熱量(J/g)から結晶化熱量(J/g)を差し引いた値のことである。
上式中、完全結晶体融解熱量は、上式中、測定融解熱量は、Al容器に計量した10mgの試料を窒素雰囲気下、25℃~200℃まで昇温速度10℃/minで加熱し、次に冷却速度5℃/minで25℃まで冷却後、再び10℃/minで昇温・冷却したときの融解熱量(J/g)のことである。
【0032】
前記バインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)は、50,000~200,000であることが好ましい。前記バインダー樹脂の重量平均分子量が50,000~200,000であると得られる電極の強度が優れる。前記バインダー樹脂の重量平均分子量は、より好ましくは80,000~150,000である。
【0033】
前記バインダー樹脂の重量平均分子量は、以下の条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。なお、試料となる重合体をオルトジクロロベンゼン、N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)等の溶媒に溶解して0.25重量%の溶液を調製し、不溶解分を口径1μmのPTFEフィルターで濾過したものを試料溶液とする。
装置:AllianceGPC V2000(Waters社製)
溶媒:オルトジクロロベンゼン、DMF、THF
標準物質:ポリスチレンサンプル
濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10um,MIXED-B 2本直列(ポリマーラボラトリーズ社製)
カラム温度:135℃
【0034】
前記バインダー樹脂の引張破断ひずみは、1000%以上であることが好ましい。
前記バインダー樹脂の引張破断ひずみが1000%以上であると電極の柔軟性が向上する。電極の柔軟性の観点から、前記バインダー樹脂の引張破断ひずみは1000~2000%であることがより好ましい。
なお、後述する引張破断ひずみ測定において、試験片の標線間距離が50cmになった時点で安全装置が働いて測定が中止されるため、引張破断ひずみ4000%を超えては測定できない。
【0035】
引張破断ひずみ測定用試験片は以下の通り作製する。
樹脂濃度25重量%のバインダー樹脂溶液(溶媒にはトルエンを使用)を10cm×10cm×2cmの型に流し込み、100℃、0.01MPで3時間の減圧乾燥(>-90kPa)を行い、樹脂シートを得た。この樹脂シートをダンベル状(ASTM D683:試験片形状TypeII)に打ち抜き、10cm×10cmの離型紙に挟み、120℃に温調した加圧プレス機で30秒間、圧15MPaでプレスして厚み100μmの樹脂シートを作製した。
【0036】
前記引張破断ひずみは、前記樹脂シートを試験片として、ASTM D683(試験片形状TypeII)に準拠した引張試験において試験片が破断するまでのひずみを下記式によって算出した値である。
引張破断ひずみ(%)=[(破断時試験片長さ-試験前試験片長さ)/試験前試験片長さ]×100
【0037】
前記バインダー樹脂の引張破断ひずみは、前記バインダー樹脂を構成する単量体に占める多官能単量体の量で調整することができる。また、前記バインダー樹脂における結晶性ビニル樹脂の含有量でも調節することができる。なお、「結晶性ビニル樹脂」とは、示差走査熱量測定(DSC測定ともいう)により得られる示差走査熱量曲線の昇温過程において、DSC曲線に極大があり、吸熱ピークを有するビニル樹脂のことをいう。
【0038】
前記バインダー樹脂とアルミ箔との剥離強度は、4~10N/25mmであることが好ましい。
前記バインダー樹脂とアルミ箔との剥離強度が4~10N/25mmであると、正極活物質層と集電体との接着性が向上する。正極活物質層と集電体との接着性の観点から、前記バインダー樹脂とアルミ箔との剥離強度が5~8N/25mmであることがより好ましい。
【0039】
剥離強度測定用試験片は以下の通り作製する。
樹脂濃度25重量%のバインダー樹脂溶液(溶媒にはトルエンを使用)を10cm×10cm×2cmの型に流し込み、100℃、0.01MPで3時間の減圧乾燥(>-90kPa)を行い、トルエンを留去して樹脂シートを得た。この樹脂シートを10cm×10cmの離型紙に挟み、120℃に温調した加圧プレス機で30秒間、圧15MPaでプレスして厚み100μmの樹脂シートを作製した。
【0040】
前記バインダー樹脂とアルミ箔との剥離強度は、前記樹脂シートを厚さ20μmのアルミ箔と重ね、100℃、10MPaで30秒プレスして得られる接着フィルムに対して、180℃剥離強度試験(JISK6854-2:1999接着剤-はく離接着強さ試験方法に準拠)を行うことで測定する。
【0041】
前記バインダー樹脂とアルミ箔との剥離強度は、前記バインダー樹脂のTgで調整できる。具体的には、前記バインダー樹脂のTgを-25~-15℃にすることで前記剥離強度の数値範囲となることが多い。
【0042】
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物は、導電助剤を含む。導電助剤としては、導電性を有する材料であれば特に制限はない。
導電助剤としては、金属[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト(薄片状黒鉛(UP))、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)及びカーボンナノファイバー(CNF)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
これらの導電助剤は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物が用いられてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアセチレンブラックが好ましい。
【0043】
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物は、正極活物質を含む。
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO2、LiNiO2、LiAlMnO4、LiMnO2及びLiMn2O4等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO4、LiNi1-xCoxO2、LiMn1-yCoyO2、LiNi1/3Co1/3Al1/3O2及びLiNi0.8Co0.15Al0.05O2)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMaM’bM’’cO2(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4及びLiNiPO4)、遷移金属酸化物(例えばMnO2及びV2O5)、遷移金属硫化物(例えばMoS2及びTiS2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0044】
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物における前記バインダー樹脂の重量割合は、結着性能と電気特性の観点の観点から、前記リチウムイオン電池用正極組成物の重量を基準として1~5重量%であることが好ましい。
また、前記リチウムイオン電池用正極組成物における前記正極活物質の重量割合は、電池性能の観点から、前記リチウムイオン電池用正極組成物の重量を基準として90~98重量%であることが好ましい。
【0045】
[リチウムイオン電池用正極の製造方法]
本発明は、バインダー樹脂、導電助剤、正極活物質及び水性溶媒を含むスラリーを作製する混合工程と、前記スラリーを集電体に塗布する塗布工程と、前記塗布工程後にスラリーを乾燥して前記集電体上に正極活物質層を形成する乾燥工程とを含むリチウムイオン電池用正極の製造方法である。
バインダー樹脂、導電助剤及び正極活物質としては、それぞれ上述のバインダー樹脂、導電助剤及び正極活物質が使用できる。
【0046】
(混合工程)
本発明は、前記バインダー樹脂、導電助剤、正極活物質及び水性溶媒を含むスラリーを作製する混合工程を含む。
混合工程では、前記バインダー樹脂、導電助剤、正極活物質及び水性溶媒を含むスラリーを作製する。前記リチウムイオン電池用正極組成物と水性溶媒とを混合する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
また、混合する順序にも制限はなく、バインダー樹脂、導電助剤、正極活物質及び水性溶媒を、どの順序で混合してもよい。
【0047】
水性溶媒としては、水を必須構成成分とする液体であれば制限なく使用でき、後述する、水、有機溶剤の水溶液、界面活性剤の水溶液、水溶性ポリマーの水溶液及びこれらの2以上の混合物等が用いることができる。
【0048】
(塗布工程)
本発明は、前記混合工程で得た前記スラリーを集電体に塗布する塗布工程を含む。
塗布する方法としては、特に限定されず、公知の、バーコーター等の塗工装置を用いることができる。
【0049】
集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料、並びに、焼成炭素、導電性高分子材料、導電性ガラス等が挙げられる。
集電体の形状は特に限定されず、上記の材料からなるシート状の集電体、及び、上記の材料で構成された微粒子からなる堆積層であってもよい。
集電体の厚さは、特に限定されないが、50~500μmであることが好ましい。
【0050】
(乾燥工程)
本発明は、前記塗布工程後にスラリーを乾燥して前記集電体上に正極活物質層を形成する乾燥工程を含む。
乾燥工程で前記スラリーに含まれる水性溶媒を除去することが好ましい。水性溶媒を除去する方法としては、オーブンや真空オーブンを用いた乾燥が好ましい。水性溶媒を除去する雰囲気としては、空気、不活性ガス、真空状態などが挙げられる。また、水性溶媒を除去する温度は、60~250℃が好ましい。
【0051】
本明細書には、以下の事項が開示されている。
【0052】
本開示(1)は、バインダー樹脂、導電助剤及び正極活物質を含むリチウムイオン電池用正極組成物であって、
前記バインダー樹脂がビニル樹脂であり、
前記ビニル樹脂が、カルボキシル基を有するビニルモノマー(a1)及び下記一般式(1)
CH2=C(R1)COOR2 (1)
[式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数4~36の分岐アルキル基である。]
で表されるビニルモノマー(a2)を必須構成単量体とする重合体であり、
前記バインダー樹脂のガラス転移温度が-40~-5℃であり、
前記バインダー樹脂の結晶化度が20未満であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極組成物である。
【0053】
本開示(2)は、前記バインダー樹脂の重量平均分子量が、50,000~200,000である本開示(1)に記載のリチウムイオン電池用正極組成物である。
【0054】
本開示(3)は、前記バインダー樹脂の引張破断ひずみが1000%以上であり、
前記引張破断ひずみは、前記バインダー樹脂をダンベル状に打ち抜き、ASTM D683(試験片形状TypeII)に準拠した引張試験において試験片が破断するまでのひずみを下記式によって算出した値である本開示(1)又は(2)に記載のリチウムイオン電池用正極組成物である。
引張破断ひずみ(%)=[(破断時試験片長さ-試験前試験片長さ)/試験前試験片長さ]×100
【0055】
本開示(4)は、前記バインダー樹脂とアルミ箔との剥離強度が4~10N/25mmである本開示(1)~(3)のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極組成物である。
【0056】
本開示(5)は、前記リチウムイオン電池用正極組成物における前記バインダー樹脂の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の重量を基準として1~5重量%であり、
前記リチウムイオン電池用正極組成物における前記正極活物質の重量割合が、前記リチウムイオン電池用正極組成物の重量を基準として90~98重量%である本開示(1)~(4)のいずれに記載のリチウムイオン電池用正極組成物である。
【0057】
本開示(6)は、本開示(1)~(5)に記載の前記リチウムイオン電池用正極組成物における前記バインダー樹脂、導電助剤、正極活物質及び水性溶媒を含むスラリーを作製する混合工程と、前記スラリーを集電体に塗布する塗布工程と、前記塗布工程後にスラリーを乾燥して前記集電体上に正極活物質層を形成する乾燥工程とを含むリチウムイオン電池用正極の製造方法である。
【実施例0058】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。
【0059】
(製造例1:バインダー樹脂(A-1)の製造)
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口コルベンに、2-エチルヘキシルメタクリレート65.0重量部、2-エチルヘキシルアクリレート30.0重量部、アクリル酸4.6重量部、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート0.4重量部、トルエン70重量部を仕込み65℃に昇温した。さらに、トルエン10重量部及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.200重量部を混合した。得られた単量体混合液について、コルベン内に窒素を吹き込みながら、重合開始剤混合液を滴下ロートで4時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。温度を75℃に昇温し、重合を2時間継続し、トルエンを加えて樹脂濃度25重量%のバインダー樹脂(A-1)溶液を得た。
【0060】
(製造例2~8:バインダー樹脂(A-2)~(A-6)及び(AX-2)、(AX-3)の製造)
モノマーの種類、仕込み重量部数を表1に示すように変更した他は製造例1と同様にしてバインダー樹脂(A-2)~(A-6)及び(AX-2)、(AX-3)を製造した。
【0061】
(製造例9~14:バインダー樹脂(A-7)~(A-10)及び(AX-4)、(AX-5)の製造)
モノマーの種類、仕込み重量部数を表2に示すように変更し、またトルエンをイソプロピルアルコールに変更した他は製造例1と同様にしてバインダー樹脂(A-7)~(A-10)及び(AX-4)、(AX-5)を製造した。
【0062】
【0063】
【0064】
(樹脂シートの作製)
製造例で得た樹脂濃度25重量%のバインダー樹脂溶液を10cm×10cm×2cmの型に流し込み、100℃、0.01MPで3時間の減圧乾燥を行い、トルエン又はイソプロピルアルコールを留去してバインダー樹脂シートを得た。この樹脂シートを所定の大きさに切り取り、10cm×10cmの離型紙に挟み、120℃に温調した加圧プレス機で30秒間、圧15MPaでプレスして厚み100μmの樹脂シートを作製して、前記引張破断ひずみの測定及びアルミ箔との剥離強度の測定に供した。結果を表3及び4に示した。
なお、バインダー樹脂(AX-1)としては、ポリフッ化ビニリデン(以下 PVDF)[キシダ化学(株)、商標 #1100]を使用した。
また、表4に記載の引張破断ひずみについて「測定不可」とあるのは、前記引張試験において標線間距離50cmまで試験片が破断しなかったことを示す。
【0065】
【0066】
【0067】
(実施例1~10、比較例1~5:リチウムイオン電池用正極組成物の作製及び正極の作製)
正極活物質粒子(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末、体積平均粒子径4μm)90重量部、アセチレンブラック(AB)[デンカ(株)DENKA BLACK Li-100]5重量部、前記バインダー樹脂溶液(25重量%溶液)5重量部およびトルエン100重量部を仕込み、あわとり練太郎による攪拌を2000rpmで1分間行い、正極用スラリー組成物を調整した。この正極用スラリー組成物をアプリケーターで厚み20μmのアルミ箔に乾燥後の膜厚が100μmになるように塗布し、100℃で2時間乾燥させ、正極シートを得た。この正極シートをΦ15mmに打ち抜いて、リチウムイオン電池用正極を作製した。
【0068】
<碁盤目試験>
碁盤目試験は、以下の方法で測定した。
前記正極用スラリー組成物をアプリケーターで厚み0.5mmのアルミ板に乾燥後の膜厚が180μmになるように塗布し、100℃で2時間乾燥させ、電極シートを得た。この電極シートをJISK5400―5-6に準拠して測定した。結果を表5に示した。
[評価基準]
◎:全く剥がれない
〇:剥がれが10%未満
△:剥がれが10%以上、30%未満
×:剥がれが30%以上
【0069】
<折り曲げ試験>
折り曲げ試験は、電極の柔軟性を示すものであり、下記方法によって観測した。
前記正極用スラリー組成物をアプリケーターで厚み20μmのアルミ箔に乾燥後の膜厚が180μmになるように塗布し、100℃で2時間乾燥させ、電極シートを得た。
両端が固定された所定Φ(mm)の棒に、得られた電極シートを巻き付け、さらに電極シートに100gの重しを吊り下げた。Φ(mm)の大きさを小さくしていき、電極が割れ始めたΦ(mm)を観測した。結果を表5に示した。
【0070】
<成型圧の測定>
成型圧は、電極の成型性を示すものであり、下記方法によって測定した。
実施例1~6及び比較例1~3で作製した正極の空隙率を20%にするのに必要なプレス圧(kN)を測定した。なお、一度のプレスで空隙率20%にならない場合、電極を新しいものに取り換えて、プレス圧を上げて再度測定するものとする。
前記空隙率(%)は以下式で算出した。
空隙率[%]=電極空隙体積[cm3]/(プレス後の電極の膜厚[μm]/104×電極面積[cm2])
なお、電極空隙体積[cm3]は、電極重量と電極構成材料の重量を乗じたものを電極構成材料の密度で割って求めた。
【0071】
(リチウムイオン電池用負極の作製)
黒鉛97重量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム1.5重量部、SBR[日本ゼオン(株)、BM-400B,固形分40重量%]1.5重量部及びイオン交換水100重量部を仕込み、あわとり練太郎による攪拌を2000rpmで1分間行い、負極用スラリー組成物を調整した。この負極用スラリー組成物をアプリケーターで厚み30μmの銅箔に乾燥後の膜厚が100μm程度になるように塗布し、100℃で2時間乾燥させ、電極シートを得た。この電極シートをΦ16mmに打ち抜いて、リチウムイオン電池用負極を作製した。
【0072】
(電解液の作製)
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を体積割合でEC:DEC=1:1で混合した混合溶媒に、電解質としてLiPF6を1mol/Lの割合で溶解させて電解液を作製した。
【0073】
(性能評価用電池の作製)
作製したリチウムイオン電池用正極を、Φ16mmに打ち抜いた前記リチウムイオン電池用負極と共に2032型コインセル内の両端に配置した。
正極側の集電体としては、厚さ20μmのアルミ箔を用いた。
電極間にセパレータ(セルガード3501)を挿入し、評価用電池セルを作製した。
評価用電池セルに上記電解液を注液密封し、評価用電池を作製した。
【0074】
<電池評価>
室温下、充放電測定装置[HJ0501SM8A][北斗電工(株)製]を用いて、0.1Cで4.2CまでCC-CV(カットオフ電流0.01C)で充電を行い、1時間休止した後、0.1Cで2.5Vまで放電を行った。この時の充電容量を初回充電容量X0とし、放電容量を初回容量Y0とした。その後、充放電を繰り返し、50サイクル目の放電容量Y1を得た。
初回クーロン効率(%)=初回放電容量(Y0)/初回充電容量(X0)×100とした。
【0075】
50サイクル放電容量維持率(%)=Y1 /Y0×100として、下記の基準によりサイクル特性の評価を行った。結果を表5に示した。
[評価基準]
◎:放電容量維持率が91%以上
○:放電容量維持率が89%以上91%未満
△:放電容量維持率が89%未満
【0076】
【0077】
表5から、各実施例の正極は、集電体との接着性に優れ、電極の捲回時や繰り返し充放電に伴う活物質層の体積変化に追随できる柔軟性を有し、厳しい条件での圧延処理が不要であることが分かる。
本発明のリチウムイオン電池用正極組成物から得られるリチウムイオン電池は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター及びハイブリッド自動車、電気自動車用に用いられるリチウムイオン電池として有用である。