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特開2024-46597R-T-B系焼結磁石の製造方法およびR-T-B系焼結磁石
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046597
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法およびR-T-B系焼結磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240327BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20240327BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240327BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240327BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20240327BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B22F1/00 Y
B22F3/00 F
B22F1/14 200
B22F1/14 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116168
(22)【出願日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2022151435
(32)【優先日】2022-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 卓
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018BC01
4K018BC20
4K018BC40
4K018KA45
5E040AA04
5E040AA19
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB11
5E040HB15
5E040NN01
5E040NN06
5E062CD04
5E062CE04
5E062CG01
5E062CG02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】焼結密度が高いR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】R214B化合物を含む主相21と、複数の主相の間に存在し、R-Cl-O相29、R-Cl-O-B相23、Rリッチ相25、Bリッチ相27を含む粒界相と、を含むR-T-B系焼結磁石の製造方法は、希土類金属元素と、遷移金属元素と、ホウ素と、金属ハロゲン化物と、を含む組成物を、金属ハロゲン化物の融点以上の熱処理温度で温度熱処理して合金粉末を得る工程と、非プロトン性溶媒を含み、かつ、金属ハロゲン化物を溶解させる洗浄液を用いて合金粉末を洗浄する工程と、合金粉末を成形して成形体を得る工程と、成形体を焼結して焼結体を得る工程と、を含む。前記金属ハロゲン化物は、アルカリ金属元素のハロゲン化物、アルカリ土類金属元素のハロゲン化物および希土類金属元素のハロゲン化物から選択される少なくとも一種である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物を熱処理して合金粉末を得る工程と、
洗浄液を用いて前記合金粉末を洗浄する工程と、
前記合金粉末を成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼結して焼結体を得る工程と、
を含むR-T-B系焼結磁石の製造方法であって、
前記組成物は、希土類金属元素と、遷移金属元素と、ホウ素と、金属ハロゲン化物と、を含み、
前記金属ハロゲン化物がアルカリ金属元素のハロゲン化物、アルカリ土類金属元素のハロゲン化物、および、前記希土類金属元素のハロゲン化物から選択される少なくとも一種であり、
前記熱処理における熱処理温度が前記金属ハロゲン化物の融点以上の温度であり、
前記洗浄液が非プロトン性溶媒を含み、かつ、前記金属ハロゲン化物を溶解させることができる洗浄液であるR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記非プロトン性溶媒がDMF、NMP、THFおよびDMSOから選択される少なくとも一種を含む請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
希土類金属元素と、遷移金属元素と、ホウ素と、を含むR-T-B系焼結磁石であって、
214B化合物を含む主相と、複数の主相の間に存在する粒界相と、を含み、R-Cl-O相およびR-Cl-O-B相から選択される1種以上を含むR-T-B系焼結磁石。
【請求項4】
前記R-Cl-O-B相を含む請求項3に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項5】
塩素を0.02質量%以上0.70質量%以下含む請求項3に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項6】
リチウムを0.05質量%以上0.90質量%以下含む請求項3に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項7】
前記主相が前記R-Cl-O相および前記R-Cl-O-B相から選択される1種以上を含む請求項3~6のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項8】
前記粒界相が前記R-Cl-O-B相を含む請求項3~6のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項9】
原子数割合で前記R-Cl-O-B相における希土類金属元素の合計含有割合を[R]b1、塩素の含有割合を[Cl]b1として、
0.200≦[Cl]b1/[R]b1≦2.00である請求項8に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項10】
原子数割合で前記R-Cl-O-B相におけるホウ素の含有割合を[B]b1として、
10at%≦[B]b1≦20at%である請求項8に記載のR-T-B系焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-T-B系焼結磁石の製造方法およびR-T-B系焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石の作製に用いられる合金粉末を作製する方法として、ストリップキャスティング等の鋳造法を用いて合金を鋳造したのちにジェットミリングなどの粉砕法で粉砕する方法が知られている。しかし、この方法では、得られる合金粉末の粒子径を小さくすることには限界がある。具体的には、得られる合金粉末の粒子径を約1μm以下にすることが困難である。R-T-B系焼結磁石の作製に用いられる合金粉末の粒子径が小さいほど、R-T-B系焼結磁石の磁気特性、特に保磁力が向上しやすくなるため、粉砕法に替わる製造方法が求められている。
【0003】
特許文献1には、Ca還元拡散法を用いることにより粉砕法を用いずに平均粒子径が1~10μmの合金粉末を得る方法が記載されている。しかし、Ca還元拡散法を用いる場合には洗浄時にプロトン性溶媒である水または弱酸を用いる必要がある。その際に粒子の表面に酸化層が形成される。酸化層が多く形成された合金粉末を用いる場合には焼結が進行しにくい。そのため、Ca還元拡散法を用いて得られる合金粉末を焼結しても高密度な焼結体が得られにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59-219404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の例示的な実施形態の目的は、焼結密度が高いR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の例示的な実施形態のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、
組成物を熱処理して合金粉末を得る工程と、
洗浄液を用いて前記合金粉末を洗浄する工程と、
前記合金粉末を成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼結して焼結体を得る工程と、
を含むR-T-B系焼結磁石の製造方法であって、
前記組成物は、希土類金属元素と、遷移金属元素と、ホウ素と、金属ハロゲン化物と、を含み、
前記金属ハロゲン化物がアルカリ金属元素のハロゲン化物、アルカリ土類金属元素のハロゲン化物、および、前記希土類金属元素のハロゲン化物から選択される少なくとも一種であり、
前記熱処理における熱処理温度が前記金属ハロゲン化物の融点以上の温度であり、
前記洗浄液が非プロトン性溶媒を含み、かつ、前記金属ハロゲン化物を溶解させることができる洗浄液である。
【0007】
前記非プロトン性溶媒がDMF、NMP、THFおよびDMSOから選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の例示的な実施形態のR-T-B系焼結磁石は、希土類金属元素と、遷移金属元素と、ホウ素と、を含むR-T-B系焼結磁石であって、
214B化合物を含む主相と、複数の主相の間に存在する粒界相と、を含み、R-Cl-O相およびR-Cl-O-B相から選択される1種以上を含む。
【0009】
前記R-T-B系焼結磁石が前記R-Cl-O-B相を含んでもよい。
【0010】
前記R-T-B系焼結磁石が塩素を0.02質量%以上0.70質量%以下含んでもよい。
【0011】
前記R-T-B系焼結磁石がリチウムを0.05質量%以上0.90質量%以下含んでもよい。
【0012】
前記主相が前記R-Cl-O相および前記R-Cl-O-B相から選択される1種以上を含んでもよい。
【0013】
前記粒界相が前記R-Cl-O-B相を含んでもよい。
【0014】
原子数割合で前記R-Cl-O-B相における希土類金属元素の合計含有割合を[R]b1、塩素の含有割合を[Cl]b1として、
0.200≦[Cl]b1/[R]b1≦2.00であってもよい。
【0015】
原子数割合で前記R-Cl-O-B相におけるホウ素の含有割合を[B]b1として、
10at%≦[B]b1≦20at%であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例2のR-T-B系焼結磁石の反射電子像である。
図2】実施例2のR-T-B系焼結磁石の二次電子像である。
図3】実施例2のR-T-B系焼結磁石の反射電子像である。
図4】実施例6のR-T-B系焼結磁石の反射電子像である。
図5】実施例6のR-T-B系焼結磁石の二次電子像である。
図6】実施例6のR-T-B系焼結磁石の反射電子像である。
図7】実施例6のClマッピング画像である。
図8】実施例6のOマッピング画像である。
図9】実施例6のNdマッピング画像である。
図10】実施例6のFeマッピング画像である。
図11】実施例6のBマッピング画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るR-T-B系焼結磁石の製造方法について説明する。なお、粉末とは、粒子の集合体を表す。
【0018】
[組成物の準備]
まず、R-T-B系焼結磁石の原料となる組成物を準備する。組成物は、希土類金属元素と、遷移金属元素と、ホウ素と、金属ハロゲン化物と、を含む。
【0019】
一般的に、希土類金属元素はSc、Yおよびランタノイドである。組成物に含まれる希土類金属元素の種類には特に制限はないが、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される一種以上であってもよく、Pr、Nd、TbおよびDyから選択される一種以上であってもよく、Ndであってもよい。組成物に含まれる希土類金属元素の種類および含有割合は目的とするR-T-B系焼結磁石の組成に応じて調整する。
【0020】
組成物に含まれる遷移金属元素には特に制限はないが、遷移金属元素の種類はFe、Ni、Co、CrおよびMnから選択される一種以上であってもよく、Feであってもよい。本実施形態では遷移金属元素に希土類金属元素は含まれないものとする。組成物に含まれる遷移金属元素の種類および含有割合は目的とするR-T-B系焼結磁石の組成に応じて調整する。
【0021】
組成物に含まれるホウ素の含有割合は目的とするR-T-B系焼結磁石の組成に応じて調整する
【0022】
組成物に含まれる金属ハロゲン化物は、アルカリ金属元素のハロゲン化物、アルカリ土類金属元素のハロゲン化物、および、上記の希土類金属元素のハロゲン化物から選択される少なくとも一種である。なお、アルカリ土類金属元素にはCa、Sr、Ba、Raの他に、Be、Mgも含まれる。
【0023】
ハロゲン化物の種類には特に限定はない。例えば、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等であってもよい。
【0024】
アルカリ金属元素のハロゲン化物としては、LiCl、KCl、NaCl、LiF等が挙げられる。アルカリ土類金属元素のハロゲン化物としては、CaCl2、MgCl2、BaCl2、SrCl2等が挙げられる。ハロゲン化物はLiClであってもよい。
【0025】
組成物はアルカリ金属元素の単体およびアルカリ土類金属元素の単体を実質的に含まない。具体的には、組成物におけるアルカリ金属元素の単体およびアルカリ土類金属元素の単体の合計含有量が0.01質量%以下である。
【0026】
アルカリ金属元素の単体の融点およびアルカリ土類金属元素の単体の融点は、アルカリ金属元素のハロゲン化物の融点およびアルカリ土類金属元素のハロゲン化物の融点と比較して高い。例えば、カルシウムの単体の融点は842℃であるのに対し、カルシウムのハロゲン化物の融点は772℃であり、カルシウムのハロゲン化物とナトリウムのハロゲン化物との混合物の融点は約500℃である。
【0027】
したがって、アルカリ金属元素の単体および/またはアルカリ土類金属元素の単体を実質的に含む組成物を用いる場合には、後述する熱処理温度を高温にする必要がある。そのため、後述する熱処理時に希土類元素が蒸発しやすくなり、熱処理により得られる合金粉末の組成にバラツキが生じやすい。さらに、熱処理により得られる合金粉末に含まれる粒子の粒径が大きくなりやすく、かつ、凝集しやすくなる。
【0028】
次に、組成物の作製方法について説明する。
【0029】
まず、組成物の原料を準備する。希土類金属元素の原料、遷移金属元素の原料およびホウ素の原料については特に制限はない。各元素の単体であってもよく、各元素を含む合金であってもよく、各元素を含む化合物であってもよい。各原料は周知の方法で準備してよい。
【0030】
上記の各原料の形状には特に制限はない。例えば粉末状、粒状、塊(インゴット)等が挙げられる。原料に含まれる粒子の粒子径は小さい方が好ましい。後述する工程により得られる合金粉末に含まれる粒子の粒子径が小さくなりやすいためである。例えば、平均粒子径が1μm以下であってもよい。
【0031】
金属ハロゲン化物の原料の形状には特に制限はない。たとえば粉末状であってもよい。また、金属ハロゲン化物の原料は十分に乾燥して水分を取り除いてもよい。
【0032】
次に、準備した各原料を混合して組成物を得る。混合方法には特に制限はない。
【0033】
[合金粉末の作製]
組成物を熱処理することで合金粉末を得る。熱処理温度は金属ハロゲン化物の融点以上の温度とする。金属ハロゲン化物の原料が金属ハロゲン化物と他の物質との混合物である場合には、状態図により示される混合物の共晶点を金属ハロゲン化物の融点とする。
【0034】
熱処理温度は金属ハロゲン化物の融点によっても変化する。例えば300℃以上1200℃以下とする。熱処理温度および熱処理時間には特に制限はない。例えば、熱処理温度は500℃以上800℃以下としてもよい。また、熱処理時間は0.5時間以上6時間以下としてもよい。
【0035】
熱処理により金属ハロゲン化物が融解して溶融塩となる。溶融塩中で希土類金属元素の原料およびホウ素の原料が遷移金属元素の原料と反応し、遷移金属元素の原料に拡散する。このことによりR214B化合物を含む合金粉末が生成し、当該合金粉末が溶融塩中に分散した状態となる。
【0036】
上記の反応および拡散のメカニズムは明らかではない。しかし、希土類金属元素の原料およびホウ素の原料が溶融塩に溶解して液相となることで、遷移金属元素の原料との反応が促され、遷移金属元素の原料への均一な拡散が促されると考えられる。また、溶融塩は生成した合金粉末に含まれる粒子の凝集を抑制することで平均粒子径が1μm未満である微粉末の生成に寄与していると考えられる。
【0037】
なお、金属ハロゲン化物を添加せずに熱処理を行う場合には、R214B化合物を含む合金粉末が作製できず、R214B化合物を含む合金塊が作製される。
【0038】
溶融塩中での希土類金属元素の合計濃度には特に制限はない。例えば0.5mol/L以上4.0mol/L以下であってもよい。R214B化合物の生成に必要な溶融塩中での希土類金属元素の合計濃度は、各原料の酸素量により変化する。溶融塩中での希土類金属元素が各原料の酸素と反応すると希土類金属元素の酸化物や酸塩化物が生成してしまう。すなわち、希土類金属元素が消費されてしまう。そのため、各原料の酸素量が多いほど、溶融塩中での希土類金属元素の合計濃度を高くする必要がある。
【0039】
[合金粉末の洗浄]
金属ハロゲン化物を溶解させることができる洗浄液で上記の合金粉末を洗浄して金属ハロゲン化物を除去する。金属ハロゲン化物の溶解度が1.0g/100g以上である洗浄液であってもよく、金属ハロゲン化物の溶解度が10g/100g以上である洗浄液であってもよい。金属ハロゲン化物を溶解させることができない洗浄液で上記の合金粉末を洗浄しても金属ハロゲン化物を除去できない。
【0040】
ここで、洗浄液は非プロトン性溶媒を含む洗浄液とする。非プロトン性溶媒とは、ヒドロキシ基を有さない溶媒のことである。非プロトン性溶媒を含む洗浄液を用いて合金粉末を洗浄することにより、合金粉末に含まれる各粒子の表面の酸化を防止することができる。その結果、最終的に密度が高いR-T-B系焼結磁石が得られる。
【0041】
非プロトン性溶媒の種類には特に制限はない。例えばFA(ホルムアミド)、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)、THF(テトラヒドロフラン)およびDMSO(ジメチルスルホキシド)から選択される少なくとも一種であってもよい。特に非プロトン性溶媒の安定性を考慮すればDMF、NMP、THFおよびDMSOから選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0042】
DMF、NMP、THFおよびDMSOと比較してFAは安定性が低くギ酸に分解しやすい。FAを含む洗浄液で洗浄する場合には、FAのギ酸への分解を抑制する必要がある。
【0043】
プロトン性溶媒(例えば水、アルコール等)および/または酸を多く含む洗浄液で洗浄する場合には、合金粉末に含まれる各粒子の表面の酸化を防止することが難しい。各粒子の表面が酸化して酸化層が形成される場合には、後述する焼結体の密度を十分に向上させることが困難である。
【0044】
洗浄液における非プロトン性溶媒の合計含有量は、99質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0045】
組成物がアルカリ金属元素の単体、および/または、アルカリ土類金属元素の単体を実質的に含む場合には、非プロトン性溶媒を主に含む上記の洗浄液では上記の金属元素の単体を溶解させることができない。プロトン性溶媒を主に含む洗浄液であれば上記の金属元素の単体を溶解させることができる。したがって、組成物が上記の金属元素の単体を含む場合には、プロトン性溶媒を主に含む洗浄液を用いる必要がある。しかしながら、プロトン性溶媒を主に含む洗浄液で洗浄することにより、合金粉末に含まれる各粒子の表面が酸化して酸化層が形成される。そのため、当該合金粉末を焼結しても得られる焼結体の密度を十分に高くさせることができない。
【0046】
さらに、合金粉末の洗浄時に超音波洗浄を用いてもよい。そして、超音波洗浄時の出力を上昇させることで、合金粉末に含まれる各粒子を細かくすることができ、最終的に得られるR-T-B系焼結磁石の主相内にR-Cl-O相およびR-Cl-O-B相から選択される1種以上を含みやすくなる。さらに、超音波洗浄時の出力を上昇させることで、合金粉末がより強力に洗浄される。その結果、金属ハロゲン化物がより強力に除去される。例えば、金属ハロゲン化物がLiClである場合には、最終的に得られるR-T-B系焼結磁石におけるリチウム、塩素および/または酸素の含有量を小さくすることができる。
【0047】
[合金粉末の乾燥]
まず、合金粉末に付着している水を除去してもよい。具体的には、水をアセトン等の有機溶媒で置換してもよい。その後、合金粉末を乾燥する。乾燥方法には特に制限はない。例えば室温以上300℃以下で乾燥してもよい。乾燥時の雰囲気にも特に制限はない。例えば、真空中であってもよく、アルゴン雰囲気中または窒素雰囲気中であってもよい。
【0048】
この時点で得られる合金粉末は、周知のR-T-B系合金を粉砕して得られる合金粉末と比較して粉末粒子の粒子径を小さくすることができる。具体的には、粒子径を0.1μm以上20.0μm以下とすることができ、0.1μm以上1.0μm未満とすることができる。さらに、上記の非プロトン性溶媒を含む洗浄液を用いることで、各粒子に酸化層が形成されにくいようにすることができる。各粒子に酸化層が形成されにくいため、後述する焼結体の相対密度を向上させることができる。
【0049】
[成形]
次に、合金粉末を成形して成形体を得る。成形体を得る方法には特に制限はなく、周知の方法を用いることができる。例えば、加圧成形などが挙げられる。
【0050】
加圧成形を行う場合、成形圧については特に制限はない。例えば100MPa以上500MPa以下としてもよい。
【0051】
[焼結]
次に、成形体を焼結して焼結体を得る。焼結体を得る方法には特に制限はなく、周知の方法を用いることができる。例えば通常の熱処理により焼結を行う場合において、焼結温度には特に制限はない。例えば800℃以上1200℃以下としてもよい。焼結時間には特に制限はない。例えば0.5時間以上6時間以下とすればよい。焼結時の雰囲気には特に制限はない。例えば真空中であってもよく、アルゴン雰囲気中であってもよい。
【0052】
焼結体が十分に焼結されているかを確認する目安として相対密度を確認してもよい。焼結体の重量および体積を実測して算出される実測密度を、R214B化合物の理論密度で割ることにより相対密度が算出される。相対密度が75%以上である場合に焼結体が十分に焼結されているといえる。相対密度が80%以上であってもよく、85%以上であってもよく、90%以上であってもよい。
【0053】
得られた焼結体をそのままR-T-B系焼結磁石としてもよい。また、得られた焼結体に対して、加工、着磁などを適宜行いR-T-B系焼結磁石としてもよい。
【0054】
以下、本発明の実施形態に係るR-T-B系焼結磁石について図面を参照しながら説明する。
【0055】
[組成]
R-T-B系焼結磁石の組成には特に制限はない。少なくとも希土類金属元素と、遷移金属元素と、ホウ素と、を含む。
【0056】
一般的に、希土類金属元素はSc、Yおよびランタノイドである。組成物に含まれる希土類金属元素の種類には特に制限はないが、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される一種以上であってもよく、Pr、Nd、TbおよびDyから選択される一種以上であってもよく、Ndであってもよい。R-T-B系焼結磁石に含まれる希土類金属元素の種類および含有割合は目的とするR-T-B系焼結磁石の特性に応じて調整する。
【0057】
R-T-B系焼結磁石に含まれる遷移金属元素には特に制限はないが、遷移金属元素の種類はFe、Ni、Co、CrおよびMnから選択される一種以上であってもよく、Feであってもよい。本実施形態では遷移金属元素に希土類金属元素は含まれないものとする。R-T-B系焼結磁石に含まれる遷移金属元素の種類および含有割合は目的とするR-T-B系焼結磁石の特性に応じて調整する。
【0058】
R-T-B系焼結磁石に含まれるホウ素の含有割合は目的とするR-T-B系焼結磁石の特性に応じて調整する
【0059】
R-T-B系焼結磁石は、さらに酸素および塩素を含む。酸素の含有量には特に制限はない。例えば、0.10質量%以上2.00質量%以下であってもよく、0.10質量%以上0.80質量%以下であってもよく、0.10質量%以上0.15質量%以下であってもよい。
【0060】
塩素の含有量には特に制限はない。例えば、0.01質量%以上5.0質量%以下であってもよく、0.02質量%以上0.70質量%以下であってもよく、0.04質量%以上0.20質量%以下であってもよい
【0061】
R-T-B系焼結磁石がさらにリチウムを含んでいてもよい。リチウムの含有量には特に制限はない。例えば、0.05質量%以上0.90質量%以下であってもよく、0.06質量%以上0.17質量%以下であってもよい。
【0062】
[微細構造]
以下、微細構造を説明するために2種類のR-T-B系焼結磁石の微細構造を示す。
【0063】
(R-T-B系焼結磁石100)
図3に示すようにR-T-B系焼結磁石100は、R214B化合物を含む主相21と、複数の主相21の間に存在する粒界相と、を含む。なお、図1図3は後述する実施例2のR-T-B系焼結磁石の断面についてSEMを用いて観察して得られる反射電子像であり、図3図1の反射電子像の一部を拡大した反射電子像である。観察装置については特に制限はない。例えばSEM以外にもTEM、STEMなどを用いてもよい。
【0064】
主相21の平均円相当径には特に制限はない。例えば、平均円相当径が1.0μm以上100.0μm以下であってもよい。なお、円相当径とは、面積が等しい円の直径のことである。
【0065】
214B化合物とは、R214B型結晶構造を有する化合物のことである。Rは希土類金属元素から選択される少なくとも1種以上、Tは遷移金属元素から選択される少なくとも1種以上、Bはホウ素である。ホウ素の一部を炭素に置換してもよい。
【0066】
そして、R-T-B系焼結磁石100がR-Cl-O-B相23を含む。R-Cl-O-B相23は、希土類金属元素と、塩素と、酸素と、ホウ素と、を少なくとも含む相である。R-T-B系焼結磁石100の断面におけるR-Cl-O-B相23の面積割合については特に制限はない。例えば0.1%以上20.0%以下であってもよい。図3に示すように粒界相がR-Cl-O-B相23を含んでもよい。
【0067】
粒界相に含まれるR-Cl-O-B相23の平均円相当径には特に制限はない。例えば、平均円相当径が0.1μm以上10.0μm以下であってもよい。
【0068】
原子数割合でR-Cl-O-B相23における希土類金属元素の合計含有割合を[R]b1、塩素の含有割合を[Cl]b1として、0.200≦[Cl]b1/[R]b1≦2.00であってもよい。
【0069】
原子数割合でR-Cl-O-B相23におけるホウ素の含有割合を[B]b1として、10at%≦[B]b1≦20at%であってもよい。
【0070】
R-Cl-O-B相23における各元素の含有割合は平均含有割合であってもよい。後述する主相21およびRリッチ相25に関しても同様である。
【0071】
R-Cl-O-B相23における各元素の含有割合を測定する方法には特に制限はない。例えばSEM等の観察装置に付属させたEPMA、SEM-EDS、STEM-EDS等を用いて点分析を行ってもよい。
【0072】
また、各元素の平均含有割合を測定する場合には、各元素の平均含有割合を算出するために十分な点数の測定箇所で点分析を行い、各測定箇所での含有割合を平均してもよい。各相が十分に均一である場合には、各相において一か所の測定箇所で点分析を行い得られた含有割合を各相における平均含有割合とみなしてもよい。
【0073】
粒界相がR-Cl-O-B相23を含むことにより、焼結時におけるR214B化合物の粒成長を抑制することができ、R-T-B系焼結磁石の保磁力を向上させることができる。加えて、R-Cl-O-B相23が酸素を含有するために、平均組成としては酸素の含有量が多い焼結体であっても、主相21が含有する酸素量およびRリッチ相25が含有する酸素量は少なくなる。すなわち、焼結過程でR-Cl-O-B相23が主相21に含まれる酸素やRリッチ相25に含まれる酸素と反応することにより、焼結を促進することができる。
【0074】
R-T-B系焼結磁石100にR-Cl-O-B相23を含ませる方法には特に制限はない。上記のR-T-B系焼結磁石の製造方法で金属ハロゲン化物として金属塩化物を用いる場合には、最終的に得られるR-T-B系焼結磁石100にR-Cl-O-B相23が含まれ得る。
【0075】
R-Cl-O-B相23以外にR-T-B系焼結磁石100に含まれる相については特に制限はない。R-T-B系焼結磁石に含まれ得ることが周知である相が適宜、含まれていてもよい。例えばRリッチ相25、Bリッチ相27、R-C-O相29などの相が含まれ得る。Rリッチ相25、Bリッチ相27、R-C-O相29などの相が粒界相に含まれていてもよい。
【0076】
また、図1図3には記載がないが、R-T-B系焼結磁石100に後述するR-Cl-O相、および/または、後述するR-Cl相が含まれていてもよい。R-Cl-O相には、R、ClおよびOが原子数比で概ねR:Cl:O=1:1:1で含まれる化合物であるR-Cl-O化合物が含まれる。
【0077】
Rリッチ相25における希土類金属元素の含有割合は、70at%以上95at%以下であってもよい。Bリッチ相27におけるホウ素の含有割合は20at%以上60at%以下であってもよい。Rリッチ相25およびBリッチ相27における塩素の含有割合は0.1at%以上5.0at%以下であってもよい。
【0078】
(R-T-B系焼結磁石200)
図4に示すようにR-T-B系焼結磁石200は、R214B化合物を含む主相121と、複数の主相121の間に存在する粒界相と、を含む。なお、図4図6は後述する実施例6のR-T-B系焼結磁石の断面についてSEMを用いて観察して得られる反射電子像であり、図6図4の反射電子像の一部を拡大した反射電子像である。観察装置については特に制限はない。例えばSEM以外にもTEM、STEMなどを用いてもよい。また、図7図11図4と同様の観察範囲において、SEM-EDSを用いて作成した元素マッピング画像である。元素マッピング画像を用いてR-T-B系焼結磁石200に含まれる相を同定してもよい。
【0079】
主相121の平均円相当径には特に制限はない。例えば、平均円相当径が0.1μm以上20.0μm以下であってもよい。
【0080】
そして、R-T-B系焼結磁石200がR-Cl-O相およびR-Cl-O-B相から選択される1種以上を含む。R-Cl-O相は、希土類金属元素と、塩素と、酸素と、を少なくとも含み、ホウ素が実質的に含まれない相である。R-Cl-O-B相は、希土類金属元素と、塩素と、酸素と、ホウ素と、を少なくとも含む相である。R-T-B系焼結磁石100の断面におけるR-Cl-O相およびR-Cl-O-B相の合計面積割合については特に制限はない。例えば1%以上10%以下であってもよい。R-T-B系焼結磁石200がR-Cl相124を含んでもよい。R-Cl相124は、希土類金属元素と、塩素と、を少なくとも含み、酸素と、ホウ素と、が実質的に含まれない相である。
【0081】
なお、R-Cl-O相およびR-Cl相124に関する上記の「実質的に含まれない」とは、含有割合が1.0at%以下であることを指す。
【0082】
以下、R-Cl-O相とR-Cl-O-B相とをまとめてR-Cl-O(-B)相と呼ぶことがある。特に主相内にR-Cl-O(-B)相が含まれる場合には、R-Cl-O(-B)相が小さいために、Bの含有量が1.0at%以下であるか否かが特定できない場合があるためである。
【0083】
図4に示すように主相121がR-Cl-O(-B)相122、123を含んでもよい。主相121がさらにR-Cl相124を含んでもよい。R-Cl-O相には、R、ClおよびOが原子数比で概ねR:Cl:O=1:1:1で含まれる化合物であるR-Cl-O化合物が含まれる。
【0084】
主相121に含まれるR-Cl-O(-B)相の平均円相当径には特に制限はない。例えば、0.01μm以上1.0μm以下であってもよい。
【0085】
R-Cl-O(-B)相122、123等の各相における各元素の含有割合を測定する方法には特に制限はない。例えばSEM等の観察装置に付属させたEPMA、SEM-EDS、STEM-EDS等を用いて点分析を行ってもよい。
【0086】
R-T-B系焼結磁石200にR-Cl-O(-B)相122、123を含ませる方法には特に制限はない。上記のR-T-B系焼結磁石の製造方法で金属ハロゲン化物として金属塩化物を用いる場合には、最終的に得られるR-T-B系焼結磁石200にR-Cl-O(-B)相122、123が含まれ得る。
【0087】
R-Cl-O(-B)相122、123、R-Cl相124以外にR-T-B系焼結磁石200に含まれる相については特に制限はない。R-T-B系焼結磁石に含まれ得ることが周知である相が適宜、含まれていてもよい。例えば、Rリッチ相、Bリッチ相、R-C-O相などの相が含まれ得る。Rリッチ相、Bリッチ相、R-C-O相などの相が粒界相に含まれていてもよい。
【0088】
Rリッチ相における希土類金属元素の含有割合は、70at%以上95at%以下であってもよい。Bリッチ相におけるホウ素の含有割合は20at%以上60at%以下であってもよい。Rリッチ相およびBリッチ相における塩素の含有割合は0.1at%以上5.0at%以下であってもよい。
【0089】
[結晶構造]
XRDを用いてR-T-B系焼結磁石のX線回折プロファイルを作成する場合には、R214B型結晶構造に由来するピーク、RT44型結晶構造に由来するピークに加えて、R-Cl-O化合物の結晶構造に由来するピークが観察される場合がある。R-Cl-O相がR-Cl-O化合物の結晶を含む結晶相であってもよく、R-Cl-O-B相がR-Cl-O化合物の結晶を含む結晶相であってもよい。
【実施例0090】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0091】
<実施例1~3、比較例2~5、参考例1>
[鉄粉末の作製]
まず、硝酸鉄101.8gおよび硝酸カルシウム14.9gを水819mLに溶解させて水溶液を得た。その後、得られた水溶液を撹拌しながら濃度1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を441mL滴下して懸濁液を得た。懸濁液をろ過して残渣を回収した。回収した残渣を洗浄した後に熱風乾燥オーブンを用いて空気中、120℃で一晩乾燥させて鉄酸化物粉末を得た。鉄酸化物粉末を水素気流中500℃で6時間還元して鉄粉末を作製した。
【0092】
[合金粉末の作製]
鉄粉末0.48gと、ネオジム粉末0.60gと、十分に乾燥した塩化リチウム粉末2.07gと、ホウ素粉末0.10gと、を鉄製のるつぼに入れ、混合して組成物を得た。なお、鉄粉末以外の粉末は適宜、準備した。次に、組成物をAr雰囲気中、800℃で3時間、熱処理して合金粉末を得た。なお、塩化リチウムの融点は605℃~613℃である。
【0093】
[合金粉末の洗浄]
得られた合金粉末をるつぼから取り出した。その後、洗浄液として表1に記載の溶媒を用いて超音波洗浄により洗浄した。超音波洗浄機の出力は50Wとした。表1のEGはエチレングリコール、FAはホルムアミド、DMFはN,N-ジメチルホルムアミド、NMPはN-メチル-2-ピロリドン、THFはテトラヒドロフランである。溶媒量および洗浄時間は塩化リチウムを除去するのに十分な溶媒量および洗浄時間とした。有機溶媒を洗浄液として用いる場合には無水の有機溶媒を用いた。
【0094】
[合金粉末の乾燥]
合金粉末に付着している水をアセトンで置換した。その後、合金粉末を常温(20℃)で24時間、真空乾燥した。
【0095】
[合金粉末の成形]
合金粉末をφ4.5mmの金型に0.1g程度、入れた。次に150MPaの圧力で合金粉末を加圧して成形体を作製した。
【0096】
[焼結]
得られた成形体を真空中、1050℃で3時間加熱することで成形体を焼結し、焼結体であるR-T-B系焼結磁石を作製した。
【0097】
[相対密度の測定]
得られたR-T-B系焼結磁石の重量は電子天秤を用いて測定した。得られたR-T-B系焼結磁石の体積はマイクロメーターで測定した焼結体の寸法から算出した。得られた重量および体積から実測密度を算出した。R214B化合物(Nd2Fe14B化合物)の理論密度7.62g/cm3を用いて実測密度を理論密度で割ることにより相対密度を算出した。相対密度が75%以上である場合を良好とし、80%以上である場合をさらに良好とし、85%以上である場合を特に良好とし、90%以上である場合を最も良好とした。結果を表1に示す。
【0098】
[磁気特性の測定]
各実施例のR-T-B系焼結磁石に対して振動試料型磁力計(VSM、玉川製作所製)を用い、室温にて0~25000Oeの磁場を印加し磁気特性(残留磁化および保磁力)を測定した。残留磁化は3.0kG以上である場合を良好とし、3.5kGを上回る場合をさらに良好とし、4.0kGを上回る場合を特に良好とした。保磁力は5.0kOe以上である場合を良好とし、6.0kOeを上回る場合をさらに良好とし、6.5kOeを上回る場合を特に良好とした。
【0099】
<比較例1>
比較例1は、合金粉末をCa還元拡散法で作製した点以外は比較例2と同条件で実施した。
【0100】
まず、酸化ネオジム粉末2.146gと、Bの含有割合が19.1重量%のフェロボロン粉末0.349gと、鉄粉末3.287gと、金属カルシウム粉末1.010gと、を準備した。次に各粉末を混合して混合物を得た。
【0101】
次に、混合物を円筒状のステンレス製容器に入れた。ステンレス製容器を電気炉の均熱帯に設置し、Arガス気流中で1000℃まで昇温させて7時間保持した。次に750℃まで冷却させて6時間保持した。次にArガス気流を停止し、750℃のまま電気炉内をロータリーポンプで6時間減圧処理した。
【0102】
次に、炉内に再びArガス気流を流しながら室温まで冷却して合金粉末を得た。合金粉末の洗浄以降の工程は比較例2と同様とした。結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1より、各実施例のR-T-B系焼結磁石は焼結が十分に進行し相対密度が十分に高かった。そして、実施例2のR-T-B系焼結磁石は高い磁気特性を有していた。これに対し、各比較例および参考例1では焼結が十分に進行せず、焼結体の相対密度が十分に高くならなかった。
【0105】
参考例1で焼結が十分に進行しなかったのは、FAが分解してギ酸が発生してしまったために合金粉末の表面に酸化層が形成されたためであると考えられる。
【0106】
次に、実施例2のR-T-B系焼結磁石の断面を観察した。
【0107】
実施例2のR-T-B系焼結磁石をエポキシ系樹脂に埋め込んだ。そして、R-T-B系焼結磁石を切断し、得られた断面を研磨した。研磨には市販の研磨紙を用いた。具体的には、番手が180~2000である市販の研磨紙を複数種類、準備した。そして、番手の低い研磨紙から順番に用いてR-T-B系焼結磁石の断面を研磨した。最後に、バフおよびダイヤモンド砥粒を用いて研磨した。なお、研磨時に水などの液体は用いなかった。粒界相に含まれる成分が腐食することを避けるためである。
【0108】
得られたR-T-B系焼結磁石の断面にイオンミリング処理を行い、最表面の酸化膜や窒化膜等の影響を取り除いた。次に、FE-SEMを用いて焼結体の断面を観察して反射電子像を得た。観察倍率は1000倍とした。結果を図1に示す。
【0109】
図1の一部の箇所について観察倍率を2000倍として二次電子像および反射電子像を得た。結果を図2および図3に示す。
【0110】
また、観察により得られた反射電子像のコントラストから、主相および粒界相が含まれることを確認した。また、主相および粒界相に対して適宜FE-SEMに付属したEPMAによる点分析を行うことにより、粒界相にRリッチ相、Bリッチ相、R-C-O相およびR-Cl-O-B相が含まれることを確認した。点分析の測定箇所を図1に示す。そして、点分析の測定結果を表2に示す。
【0111】
点1~12の点分析では、Nd、Fe、B、C、NおよびOの含有割合を分析した。点13、14の点分析では、Nd、Fe、B、Cl、C、NおよびOの含有割合を分析した。
【0112】
点1~12はClを含まない、または、Clの含有割合が小さい。Clの含有割合の分析はノイズの影響を受けやすい。そのため、点1~12についてClの含有割合を正確に分析するためには手間がかかる。したがって、点1~12の点分析ではClの含有割合を分析しなかった。
【0113】
点分析の測定結果は含有割合を測定した各元素の含有割合について小数点2桁目を四捨五入している。そのため、含有割合を測定した各元素の含有割合の合計が100.0at%にならない場合がある。
【0114】
点1~点3が主相、点4~点6がRリッチ相、点7-点9がBリッチ相、点10~点12がR-C-O相、点13~点14がR-Cl-O-B相に属する。
【0115】
【表2】
【0116】
表2、図1図3より、実施例2のR-T-B系焼結磁石が主相の他にR-Cl-O-B相を含むことが確認された。さらに、Rリッチ相、Bリッチ相およびR-C-O相を含むことが確認された。また、R-Cl-O-B相はR-Cl-O-B相以外の相と比較して[Cl]/[R]が高く、0.200以上2.00以下であることが確認された。
【0117】
なお、図3ではRリッチ相25がまだら模様を有している。これは炭素が多く含まれる部分がまだら模様に分布しているものと考えられる。
【0118】
実施例2について、粒界相に含まれるR-Cl-O-B相の平均円相当径を測定した。その結果、平均円相当径が9.3μmであった。
【0119】
実施例1、3についても実施例2と同様にR-Cl-O-B相が粒界相に含まれることを確認した。
【0120】
さらに、実施例1~3について、XRDを用いてR-T-B系焼結磁石のX線回折プロファイルを作成した。その結果、いずれの実施例においても、R214B型結晶構造に由来するピーク、RT44型結晶構造に由来するピークに加えて、R-Cl-O化合物の結晶構造に由来するピークが観察された。
【0121】
<実施例4~6>
以下に示す点以外は実施例2と同様にして実施した。
【0122】
[合金粉末の作製]
鉄粉末0.90gと、ネオジム粉末と、十分に乾燥した塩化リチウム粉末3.11gと、ホウ素粉末0.08gと、を鉄製のるつぼに入れ、混合して組成物を得た。ネオジム粉末の添加量は、実施例4では0.76g、実施例5では0.70g、実施例6では0.59gとした。
【0123】
また、合金粉末を洗浄する際の超音波洗浄機の出力を300Wとした。結果を表3に示す。
【0124】
【表3】
【0125】
表3より、合金粉末の組成および製造条件等を変化させても良好な磁気特性を有するR-T-B系焼結磁石が得られることが確認された。
【0126】
実施例4~6は、互いに相対密度が異なる。実施例4は実施例1~3と比較して相対密度が低く、実施例5は実施例1~3と比較して相対密度が同等であり、実施例6は実施例1~3と比較して相対密度が高い。その結果、実施例4は他の実施例よりも磁気特性が低く、実施例6は他の実施例よりも磁気特性が高い。
【0127】
実施例6のR-T-B系焼結磁石の断面を観察した。
【0128】
実施例6のR-T-B系焼結磁石をエポキシ系樹脂に埋め込んだ。そして、R-T-B系焼結磁石を切断し、得られた断面を研磨した。研磨には市販の研磨紙を用いた。具体的には、番手が180~2000である市販の研磨紙を複数種類、準備した。そして、番手の低い研磨紙から順番に用いてR-T-B系焼結磁石の断面を研磨した。最後に、バフおよびダイヤモンド砥粒を用いて研磨した。なお、研磨時に水などの液体は用いなかった。粒界相に含まれる成分が腐食することを避けるためである。
【0129】
得られたR-T-B系焼結磁石の断面にイオンミリング処理を行い、最表面の酸化膜や窒化膜等の影響を取り除いた。次に、FE-SEMを用いて焼結体の断面を観察して二次電子像および反射電子像を得た。観察倍率は3000倍とした。反射電子像を図4に示す。二次電子像を図5に示す。
【0130】
さらに、図4の一部の箇所について観察倍率を5000倍として反射電子像を得た。結果を図6に示す。さらに、図4についてSEM-EDSを用いて元素マッピングを行った。結果を図7図11に示す。
【0131】
また、観察により得られた反射電子像のコントラストから、主相および粒界相が含まれることを確認した。また、主相および粒界相に対して適宜FE-SEMに付属したEPMAによる点分析を行うことにより、主相にR-Cl相およびR-Cl-O(-B)相が含まれることを確認した。点分析の測定箇所を図6に示す。そして、点分析の測定結果を表4に示す。
【0132】
点31~35の点分析では、Nd、Fe、B、Cl、C、NおよびOの含有割合を分析した。
【0133】
点31~34はNが未検出であった。すなわち、点31~34はNを含まない、または、Nの含有割合が小さい。点32~35はBが未検出であった。すなわち、点32~35はBを含まない、または、Bの含有割合が小さい。点33はOが未検出であった。すなわち、点33はOを含まない、または、Oの含有割合が小さい。点34~35はClが未検出であった。すなわち、点34~35はClを含まない、または、Clの含有割合が小さい。
【0134】
点分析の測定結果は検出された各元素の含有割合について小数点2桁目を四捨五入している。そのため、各元素の含有割合の合計が100.0at%にならない場合がある。
【0135】
点31、32がR-Cl-O(-B)相、点33がR-Cl相、点34が主相、点35が何らかの粒界相に属する。
【0136】
【表4】
【0137】
図6および表4より、実施例6のR-T-B系焼結磁石は実施例2のR-T-B系焼結磁石と比較して主相の1個当たりのサイズが小さい。そして、主相がR-Cl-O(-B)相を含む。
【0138】
図6図1と比較して倍率が高く点分析のスポットが小さい。さらに、主相が含むR-Cl-O(-B)相、R-Cl相は、いずれも小さい。そのため、点31~点35の点分析では点1~点14の点分析と比較して、各元素の正確な含有割合を測定することが難しい。そして、含有割合の比較的小さい元素が未検出となりやすい。例えば、点34は主相粒子である。そのため、点34にはBが6at%程度、含まれることが想定される。しかし、点分析では点34からBが検出されない。
【0139】
また、表4に示される点31~点33の組成の測定結果は周囲の主相の影響を受ける。その結果、表4に示される点31~点33の組成は実際の点31~点33の組成よりもFeの含有割合が特に高くなっていると考えられる。
【0140】
実施例6について、主相に含まれるR-Cl-O(-B)相の平均円相当径を測定した。その結果、平均円相当径が0.6μmであった。
【0141】
実施例4、5についても実施例6と同様にR-Cl-O(-B)相が主相に含まれることを確認した。
【0142】
<実施例1~6の組成>
実施例1~6の各R-T-B系焼結磁石について、磁石全体の組成を測定した。結果を表5に示す。なお、Nd、Fe、B、Li、Caの含有割合はICPで測定した。Clの含有割合は焼成イオンクロマトグラフィーで測定した。Oの含有割合は不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法で測定した。表5はNd、Fe、Bの含有割合を小数点1桁で記載し、Li、Cl、Oの含有割合を小数点2桁で記載した。したがって、全ての元素の含有割合の合計が100.0質量%にならない場合がある。
【0143】
【表5】
【0144】
表5より、実施例4~6は特にLi、ClおよびOの含有割合が実施例1~3と比較して小さくなっていることが確認できた。なお、全ての実施例においてCaが検出されなかった。
【符号の説明】
【0145】
100、200…R-T-B系焼結磁石
21、121…主相
122、123…R-Cl-O(-B)相
23…R-Cl-O-B相
124…R-Cl相
25…Rリッチ相
27…Bリッチ相
29…R-C-O相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11