IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社の特許一覧

特開2024-46620植物性ミルク乳酸菌発酵物、及び、植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046620
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】植物性ミルク乳酸菌発酵物、及び、植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/00 20210101AFI20240327BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20240327BHJP
   A23L 11/50 20210101ALI20240327BHJP
   A23C 11/10 20210101ALI20240327BHJP
【FI】
A23L11/00 E
A23J3/16
A23L11/50
A23C11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023150491
(22)【出願日】2023-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2022151554
(32)【優先日】2022-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 麻佑子
【テーマコード(参考)】
4B001
4B020
【Fターム(参考)】
4B001AC08
4B001BC14
4B001DC50
4B020LB27
4B020LC01
4B020LC04
4B020LC10
4B020LG04
4B020LG05
4B020LK05
4B020LK07
4B020LK18
4B020LP18
(57)【要約】
【課題】発酵時間が短縮化できるとともに、苦味が抑制され、食感も良好な植物性ミルク乳酸菌発酵物、及び、植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、タンパク質の含有量をAw/w%とし、ペプチドの含有量をBw/w%とした場合に、Aが5.00~12.50であり、B/A×100が2~7である。本発明に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法は、植物性ミルクにタンパク質とペプチドとを添加し原料を調製する調製工程と、前記原料に乳酸菌を添加し、前記原料を発酵させる発酵工程と、と備え、前記調製工程において、前記原料におけるタンパク質の含有量をAw/w%とし、前記原料におけるペプチドの含有量をBw/w%とした場合に、Aを5.00~12.50とし、B/A×100を2~7とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質とペプチドとを含有する植物性ミルク乳酸菌発酵物であって、
前記タンパク質の含有量をAw/w%とし、前記ペプチドの含有量をBw/w%とした場合に、Aが5.00~12.50であり、B/A×100が2~7である植物性ミルク乳酸菌発酵物。
【請求項2】
前記植物性ミルクが豆乳である請求項1に記載の植物性ミルク乳酸菌発酵物。
【請求項3】
前記タンパク質と前記ペプチドとが、植物性素材由来物である請求項1又は請求項2に記載の植物性ミルク乳酸菌発酵物。
【請求項4】
前記タンパク質と前記ペプチドとが、大豆由来物である請求項1又は請求項2に記載の植物性ミルク乳酸菌発酵物。
【請求項5】
植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法であって、
植物性ミルクにタンパク質とペプチドとを添加し原料を調製する調製工程と、
前記原料に乳酸菌を添加し、前記原料を発酵させる発酵工程と、と備え、
前記調製工程において、前記原料におけるタンパク質の含有量をAw/w%とし、前記原料におけるペプチドの含有量をBw/w%とした場合に、Aを5.00~12.50とし、B/A×100を2~7とする植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性ミルク乳酸菌発酵物、及び、植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ヨーグルトは日本でも大量に消費されている。また、必要な栄養素を効率よく摂取でき、濃厚な風味も楽しめるなどの理由から、タンパク質の含有量を高めたヨーグルトも愛好されてきている。
よって、ヨーグルトなどの発酵物について、タンパク質の含有量を高めるための様々な技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、乳発酵物から水性画分を除去した水切原料と、乳蛋白質とを含む濃厚ヨーグルトの製造方法であって、前記水切原料を準備する準備工程と、ヨーグルト製造用乳原料に、前記乳蛋白質を添加する工程と、前記乳蛋白質が添加された乳原料に、前記水切原料を添加する工程と、前記乳蛋白質と前記水切原料とが添加された乳原料を均質化する工程と、前記均質化した乳原料に、ヨーグルト製造用乳酸菌を接種して発酵させる発酵工程とを備え、前記発酵工程が、前記均質化した乳原料をpH4.9~5.2まで発酵させる濃厚ヨーグルトの製造方法が開示されている。
また、特許文献2には、タンパク質の含有率が5.6重量%以上である濃縮発酵乳の製造方法であって、発酵乳ミックスを110~145℃で0.1~30秒間加熱殺菌して、殺菌済の発酵乳ミックスを得る加熱殺菌工程、および、上記殺菌済の発酵乳ミックスにスターターを加えて発酵させ、カードを得る発酵工程、を含むことを特徴とする濃縮発酵乳の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6092907号公報
【特許文献2】特開2018-157784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2では、乳を原料とする乳発酵物に関して、タンパク質の含有量を高める方法が検討されている。
【0006】
近年の健康への関心や環境意識の高まりなどから、植物性ミルクを乳酸菌で発酵させて製造される植物性ミルク乳酸菌発酵物(植物性ヨーグルトなど)に注目が集まりつつある。そこで、本発明者は、特許文献1、2のような乳を原料とする乳発酵物ではなく、植物性ミルク乳酸菌発酵物に関して、タンパク質の含有量を高めることができる技術を創出したいと考えた。
【0007】
そして、本発明者は、植物性ミルク乳酸菌発酵物のタンパク質の含有量を増やすために、原料の植物性ミルクにタンパク質を添加したところ、発酵時間が長期化してしまい、工場などにおける製造条件に適さなくなることを見出した。
よって、本発明者は、植物性ミルク乳酸菌発酵物のタンパク質の含有量を増やすことに起因する発酵時間の長期化を抑制するための解決策を検討することとした。
【0008】
ただ、発酵時間の長期化を抑制できたとしても、植物性ミルク乳酸菌発酵物の香味に悪影響(具体的には、「苦味」が強くなる)を及ぼしてしまうような事態は極力回避する必要がある。また、植物性ミルク乳酸菌発酵物については「食感」も重要視されていることから、好ましい食感も確保しなければならない。
【0009】
そこで、本発明は、発酵時間が短縮化できるとともに、苦味が抑制され、食感も良好な植物性ミルク乳酸菌発酵物、及び、植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)タンパク質とペプチドとを含有する植物性ミルク乳酸菌発酵物であって、前記タンパク質の含有量をAw/w%とし、前記ペプチドの含有量をBw/w%とした場合に、Aが5.00~12.50であり、B/A×100が2~7である植物性ミルク乳酸菌発酵物。
(2)前記植物性ミルクが豆乳である前記1に記載の植物性ミルク乳酸菌発酵物。
(3)前記タンパク質と前記ペプチドとが、植物性素材由来物である前記1又は前記2に記載の植物性ミルク乳酸菌発酵物。
(4)前記タンパク質と前記ペプチドとが、大豆由来物である前記1から前記3のいずれか1つに記載の植物性ミルク乳酸菌発酵物。
(5)植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法であって、植物性ミルクにタンパク質とペプチドとを添加し原料を調製する調製工程と、前記原料に乳酸菌を添加し、前記原料を発酵させる発酵工程と、と備え、前記調製工程において、前記原料におけるタンパク質の含有量をAw/w%とし、前記原料におけるペプチドの含有量をBw/w%とした場合に、Aを5.00~12.50とし、B/A×100を2~7とする植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、発酵時間が短縮化されているとともに、苦味が抑制され、食感も良好である。
本発明に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法は、発酵時間が短縮化されているとともに、苦味が抑制され、食感も良好な植物性ミルク乳酸菌発酵物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物、及び、植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0013】
[植物性ミルク乳酸菌発酵物]
本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、植物性ミルクを乳酸菌で発酵させて得られる発酵物である。そして、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、タンパク質とペプチドとを含有し、両者の含有量や含有比率などが所定範囲内となっている。
以下、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物を構成する各要素について説明する。
【0014】
(植物性ミルク)
植物性ミルクとは、植物性素材を原料とする濁度のある乳化液である。
そして、植物性ミルクとは、例えば、豆類を原料とする豆乳類、エンドウマメミルク、穀類を原料とするオーツミルク、ライスミルク、種実類を原料とするアーモンドミルク、ココナッツミルクなどが挙げられる。
なお、豆乳類については、繊維質が除去されていない(又は、一部しか除去されていない)豆乳類も含まれるが、厳密には、豆乳類の日本農林規格(平成28年2月24日農林水産省告示第489号)に規定されている「豆乳」、「調製豆乳」、又は、「豆乳飲料」が好ましい。
【0015】
(タンパク質とペプチド)
本発明者は、植物性ミルク乳酸菌発酵物のタンパク質の含有量を増やすために、原料の植物性ミルクにタンパク質を添加したところ、発酵時間が長期化してしまい、工場などにおける製造条件に適さなくなることを確認した。
そして、本発明者は、植物性ミルク乳酸菌発酵物について鋭意検討した結果、原料として更にペプチドを使用することで、発酵時間が改善(短縮化)できることを究明した。
しかしながら、本発明者は、一定量を超えるペプチドを使用すると、苦味が発生するとともに、食感がもろくなりやすいという新たな問題が発生することを確認した。
そこで、本発明者は、植物性ミルク乳酸菌発酵物の「タンパク質の含有量」と「タンパク質の含有量に対するペプチドの含有量の比率」とを精緻に特定することによって、「発酵時間の短縮化」(詳細には、高タンパク質化に伴い長期化する発酵時間の短縮化)、「苦味の抑制」(詳細には、ペプチドに起因する苦味の抑制)、「好ましい食感」(詳細には、ペプチドに起因する食感の悪化の抑制)という3つの効果を同時に発揮できることを見出した。
【0016】
(タンパク質の含有量)
タンパク質とは、アミノ酸が鎖状に多数結合したものであって、本明細書では、10,000Da(ダルトン)を超えるものを示す。
植物性ミルク乳酸菌発酵物におけるタンパク質の含有量(Aw/w%)は、5.00w/w%以上が好ましく、6.00w/w%以上、7.00w/w%以上、8.00w/w%以上、9.00w/w%以上、9.83w/w%以上がより好ましい。タンパク質の含有量が所定値以上であることによって、所望する高タンパク質の発酵物とすることができる。
植物性ミルク乳酸菌発酵物におけるタンパク質の含有量(Aw/w%)は、12.50w/w%以下が好ましく、12.20w/w%以下、12.10w/w%以下、12.01w/w%以下、12.00w/w%以下、11.50w/w%以下、11.00w/w%以下、10.50w/w%以下がより好ましい。タンパク質の含有量が所定値以下であることによって、本発明の各効果(発酵時間の短縮化、苦味の抑制、好ましい食感)をよりしっかりと発揮させることができる。
【0017】
(ペプチドの含有量)
ペプチドとは、アミノ酸が短い鎖状に結合したものであって、本明細書では、10,000Da(ダルトン)以下のものを示す。
ペプチドは、タンパク質の含有量に対する比率(後に詳述する)が所定範囲内となるように含有していればよいものの、ペプチドの含有量は、例えば、以下のとおりである。
植物性ミルク乳酸菌発酵物におけるペプチドの含有量(Bw/w%)は、0.10w/w%以上が好ましく、0.15w/w%以上、0.19w/w%以上、0.20w/w%以上、0.30w/w%以上、0.37w/w%以上がより好ましい。
植物性ミルク乳酸菌発酵物におけるペプチドの含有量(Bw/w%)は、0.60w/w%以下が好ましく、0.58w/w%以下、0.56w/w%以下、0.50w/w%以下、0.45w/w%以下、0.40w/w%以下がより好ましい。
【0018】
(タンパク質の含有量に対するペプチドの含有量の比率:B/A×100)
本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物におけるタンパク質の含有量をAw/w%とし、ペプチドの含有量をBw/w%とした場合に、B/A×100(タンパク質の含有量に対するペプチドの含有量の比率)は、以下のとおりである。
B/A×100は、2以上が好ましく、2.5以上、3以上、3.5以上、4以上がより好ましい。B/A×100が所定値以上であることによって、発酵時間を短縮化することができる。
B/A×100は、7以下が好ましく、6.5以下、6.2以下、6以下がより好ましい。B/A×100が所定値以上であることによって、苦味を抑制し、食感を良好なものとすることができる。
つまり、B/A×100を所定範囲内とすることによって、「発酵時間の短縮化」、「苦味の抑制」、「好ましい食感」の3つの効果を同時に発揮させることができる。
【0019】
本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物のタンパク質とペプチドは、植物性素材に由来するもの(植物性素材由来物)であるのが好ましい。ここで、植物性素材とは、一般的に食品に使用される植物の素材であれば特に限定されないものの、例えば、大豆、エンドウマメ、オーツ麦、米、アーモンド、ココナッツなどが挙げられる。
なお、植物性ミルク乳酸菌発酵物におけるタンパク質の含有量は、例えば、燃焼法、ケルダール法、BCA法、Bradford法、Lowry法などによって測定することができる。また、植物性ミルク乳酸菌発酵物におけるペプチドの含有量は、高速液体クロマトグラフィー/質量分析法などによって測定することができる。
【0020】
(その他)
本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で食品素材として通常配合される食品原料および食品添加物として許容可能な物であれば含有することができるが、当然、含有していなくてもよい。
食品原料および食品添加物として含有できる物としては、例えば、水、糖(例えば、三温糖、上白糖、グラニュー糖、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、スタキオース、ラフィノースなど)、植物油脂、高甘味度甘味料(例えば、アセスルファムカリウム、スクラロース、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテーム、トレハロースなど)、酸化防止剤(例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなど)、酸味料(例えば、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、フィチン酸など、及びそれらの塩)、食物繊維(例えば、イヌリン、難消化性デキストリン、大豆食物繊維など)、加工澱粉、増粘多糖類又はゲル化剤(例えば、ペクチン、カラギーナン、グァーガム、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ゼラチン、寒天など)を用いることができる。
【0021】
本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、植物性ミルクを原料として乳酸菌により発酵させたものであれば特に限定されないものの、嗜好性などの理由から、例えば、「植物性(ミルク)ヨーグルト」であるのが好ましい。
そして、植物性ヨーグルトの中でも、植物性ミルクとして豆乳類を使用したものは、いわゆる「豆乳(類)ヨーグルト」となる。なお、商品価値を高める上で、植物性ヨーグルトは、牛乳を乳酸菌発酵して作られるヨーグルトと同等の滑らかな物性や食感を有することが望ましい。
【0022】
以上説明したように、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物は、発酵時間が短縮化されているとともに、苦味が抑制され、食感も良好である。
【0023】
[植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法]
次に、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法を説明する。
本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法は、調製工程、発酵工程を含み、調製工程と発酵工程との間に、均質化工程、殺菌冷却工程を含んでもよい。
また、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法は、発酵工程の前、又は、発酵工程の後に、充填工程を含んでもよい。
以下、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法を構成する各工程について説明する。
【0024】
(調製工程)
調製工程とは、植物性ミルクにタンパク質とペプチドとを添加し原料を調製する工程である。そして、調製工程で使用する植物性ミルクは、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の説明に記載したとおりである。
なお、調製工程の原料には、適宜、前記した食品原料および食品添加物を含有させてもよい。
【0025】
(調製工程:原料におけるタンパク質の含有量)
原料におけるタンパク質の含有量(Aw/w%)は、5.00w/w%以上が好ましく、6.00w/w%以上、7.00w/w%以上、8.00w/w%以上、9.00w/w%以上、9.83w/w%以上がより好ましい。原料におけるタンパク質の含有量が所定値以上であることによって、所望する高タンパク質の発酵物とすることができる。
原料におけるタンパク質の含有量(Aw/w%)は、12.00w/w%以下が好ましく、11.50w/w%以下、11.00w/w%以下、10.50w/w%以下がより好ましい。原料におけるタンパク質の含有量が所定値以下であることによって、本発明の各効果(発酵時間の短縮化、苦味の抑制、好ましい食感)をよりしっかりと発揮させることができる。
なお、「原料におけるタンパク質の含有量」とは、調製された原料中のタンパク質の総量であって、添加したタンパク質だけではなく、植物性ミルク由来のタンパク質も含めた量である。そして、例えば、使用した他の原料に植物タンパク質が含まれていた場合は、そのタンパク質も含めた量である。
【0026】
(調製工程:原料におけるペプチドの含有量)
ペプチドは、原料におけるタンパク質の含有量に対する比率(後に詳述する)が所定範囲内となるように添加させればよいものの、原料におけるペプチドの含有量は、例えば、以下のとおりである。
原料におけるペプチドの含有量(Bw/w%)は、0.10w/w%以上が好ましく、0.15w/w%以上、0.19w/w%以上、0.20w/w%以上、0.30w/w%以上、0.37w/w%以上がより好ましい。
原料におけるペプチドの含有量(Bw/w%)は、0.60w/w%以下が好ましく、0.58w/w%以下、0.56w/w%以下、0.50w/w%以下、0.45w/w%以下、0.40w/w%以下、0.37w/w%以下がより好ましい。
なお、「原料におけるペプチドの含有量」とは、調製された原料中のペプチドの総量であって、添加したペプチドの量だけではなく、植物性ミルク由来のペプチドも含めた量であるが、例えば、使用する植物性ミルクにペプチドが含まれない場合は、添加したペプチドの量が原料におけるペプチドの量となる。そして、例えば、使用した他の原料にペプチドが含まれていた場合は、そのペプチドも含めた量である。
【0027】
(調製工程:原料におけるタンパク質の含有量に対するペプチドの含有量の比率)
原料におけるタンパク質の含有量をAw/w%とし、原料におけるペプチドの含有量をBw/w%とした場合に、B/A×100(原料におけるタンパク質の含有量に対するペプチドの含有量の比率)は、以下のとおりである。
B/A×100は、2以上が好ましく、2.5以上、3以上、3.5以上、4以上がより好ましい。B/A×100が所定値以上であることによって、発酵時間を短縮化することができる。
B/A×100は、7以下が好ましく、6.5以下、6.2以下、6以下がより好ましい。B/A×100が所定値以上であることによって、苦味を抑制し、食感を良好なものとすることができる。
つまり、B/A×100を所定範囲内とすることによって、「発酵時間の短縮化」、「苦味の抑制」、「好ましい食感」の3つの効果を同時に発揮させることができる。
【0028】
なお、調製工程で原料に添加するタンパク質とペプチドは、植物性素材に由来するもの(植物性素材由来物)であるのが好ましい。ここで、植物性素材とは、一般的に食品に使用される植物の素材であれば特に限定されないものの、例えば、大豆、エンドウマメ、オーツ麦、米、アーモンド、ココナッツなどが挙げられる。
【0029】
(均質化工程)
均質化工程では、調製工程で調製した原料を均質化する工程である。
そして、均質化方法は、例えば、市販のホモジナイザーなどを用いる方法が挙げられる。
なお、均質化工程は、必要に応じて適宜実施すればよい。
【0030】
(殺菌冷却工程)
殺菌冷却工程では、原料に対して殺菌処理を施した後、冷却する工程である。
そして、殺菌冷却工程での殺菌処理は、例えば、80~150℃(好ましくは、80~120℃)に原料を加熱するという加熱殺菌を実施すればよい。その後、殺菌冷却工程での冷却処理は、乳酸菌の添加前に乳酸菌による発酵に適した温度(例えば、40~45℃)になるまで冷却すればよい。
なお、殺菌冷却工程は、必要に応じて適宜実施すればよい。
【0031】
(発酵工程)
発酵工程では、原料に乳酸菌を添加し、原料を発酵させる工程である。
発酵工程での発酵温度(発酵液の温度)は、使用する乳酸菌によって適宜設定すればよい。なお、発酵液の温度は、例えば、40~45℃とすればよいが、これに限定されない。
発酵工程での発酵時間は、使用する乳酸菌の種類等に応じて適宜設定すればよい。ただ、本発明では、この発酵時間の短縮化が可能であり、例えば、発酵開始からpHが4.6~4.7まで下がる時間を発酵時間とすると、本発明を未適用の場合に6.5時間かかるものが、本発明を適用すると6時間以下となる。
【0032】
(発酵工程:乳酸菌)
発酵工程で使用する乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)及びラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)等のラクトバチルス属に属する乳酸菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等のストレプトコッカス属に属する乳酸菌、並びにビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)等のビフィドバクテリウム属に属する乳酸菌を用いることができる。乳酸菌は、1種を単独で使用してもよく、複数種を併用してもよい。
【0033】
(充填工程)
充填工程とは、発酵後の発酵液(又は発酵前の原料)を容器に充填する工程である。
発酵工程の後に充填工程を実施する場合(容器に充填する前に発酵を行う場合)は、いわゆる「前発酵タイプ」となり、充填工程の後に発酵工程を実施する場合(容器に充填した後に発酵を行う場合)は、いわゆる「後発酵タイプ」となる。
なお、充填工程で使用する容器は、特に限定されず、現在流通しているどのような容器でもよく、例えば、プラスチック容器、紙容器、パウチ容器、ガラス容器などが挙げられる。
【0034】
(その他の工程)
前発酵タイプの場合、発酵工程の後であって充填工程の前に、香料、ソース、果肉等を発酵後の発酵液に添加する添加工程を設けてもよい。なお、添加工程で添加するものについては、従来のヨーグルト製造で用いられているものであれば特に限定されない。
また、各工程の前後で、適宜、異物混入の有無や分量などを検査する検査工程を設けてもよい。
【0035】
前記した各工程における処理は、ヨーグルトなどの食品を製造するために一般的に用いられている設備によって行うことができる。
また、本実施形態に係る植物組成物の製造方法は、以上説明したとおりであるが、明示していない条件については、一般的に食品分野(特に、ヨーグルト分野)で実施されている公知の条件を適用すればよく、前記した処理内容によって得られる効果を奏する限りにおいて、その条件を適宜変更できることは言うまでもない。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係る植物性ミルク乳酸菌発酵物の製造方法によると、発酵時間が短縮化されているとともに、苦味が抑制され、食感も良好な植物性ミルク乳酸菌発酵物を製造することができる。
【実施例0037】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0038】
≪実施例1≫
[サンプルの準備]
表1に示す配合量で各原料と水を配合し、ホモジナイザー(株式会社エスエムテー製)を使用して均質化処理を行った後、加熱殺菌処理を行った。
そして、原料(発酵前液)を40~45℃となるまで冷却した後、原料に乳酸菌スターターを一定量となるように添加し、発酵を実施した。
発酵開始から30分ごとに原料(発酵液)のpHを測定し、pHが4.6~4.7となるまで発酵処理を続けた。なお、発酵時の原料温度は40~45℃とした。
発酵処理の後、発酵後液を10℃以下まで冷却してサンプルとし、以下に示す各試験を実施した。
【0039】
[試験内容]
各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネル6名が下記評価基準に則って「苦味」と「食感」について、1~5点の5段階評価で各々のパネルが点数付けし、その平均値を算出した。
また、全ての評価は、サンプルを口に含んで評価した。
【0040】
(官能評価:苦味の評価基準)
苦味の官能評価は、「苦味がほとんど感じられず、とても好ましく喫食できる」場合を5点、「苦味が少なく、好ましく喫食できる」場合を4点、「苦味のバランスが何とか保たれており、好ましく喫食できる」場合を3点、「苦味が強く感じられ、好ましく喫食することはできない」場合を2点、「苦味が強すぎて好ましく喫食することはできない」場合を1点と評価した。
そして、苦味の評価は、点数が高いほど、苦味が抑制されており、好ましいと判断できる。
なお、苦味の評価については、3点以上を合格と判断した。
【0041】
(官能評価:食感の評価基準)
食感の官能評価は、「喫食したときにもろさがほとんど感じられず、ヨーグルトとして好ましく喫食できる」場合を5点、「喫食したときに感じられるもろさが少なく、ヨーグルトとして好ましく喫食できる」場合を4点、「喫食したときにややもろさが感じられるが、ヨーグルトとしての食感が何とか保たれている」場合を3点、「喫食したときにもろさが強く感じられ、好ましく喫食することができない」場合を2点、「喫食したときに感じられるもろさが強すぎて、好ましく喫食することができない」場合を1点と評価した。
そして、食感の評価は、点数が高いほど、ヨーグルトとしての食感が保持されており、好ましいと判断できる。一方、点数が低いほど、もろすぎて(やわらかすぎて)、ヨーグルトとしての食感としては不十分と感じる。
なお、食感の評価については、3点以上を合格と判断した。
【0042】
(発酵時間)
前記のサンプルの準備の項目で示したとおり、発酵開始から30分ごとに原料のpHを測定し、pHが4.6~4.7となるまで発酵を行っており、表1の各サンプルの発酵時間については、発酵開始からpHが4.6~4.7となるまでの時間である。
そして、発酵時間の評価は、短い方が短縮化されており、好ましいと判断できる。
【0043】
(植物性ミルク乳酸菌発酵物の硬度)
各サンプルについて、硬度測定装置(株式会社サン科学「SUN RHEO METER CR-100」)を用いて硬度(gf)を測定した。
そして、硬度の評価は、硬度の数値が一定の範囲(具体的には、150~180gf)にあると、硬すぎずもろくないヨーグルトの食感を確保できており、好ましいと判断できる。
なお、硬度の測定における硬度測定装置の条件は、以下のとおりであった。
MODE20、MAX10kg、進入深度20.0mm、P/T PRESS 60mm/m、REP 10h 0m 0s
【0044】
表1に、各サンプルの原料の配合量などを示すとともに、各評価の結果を示す。
なお、表1の算出値の「タンパク質」は、原料におけるタンパク質の含有量であって、原豆乳の添加量と原豆乳におけるタンパク質の含有比率、および、粉末状大豆タンパクの添加量と粉末状大豆タンパクにおけるタンパク質の含有比率、に基づき算出した値である。また、表1の算出値の「ペプチド」は、原料におけるペプチドの含有量であって、大豆ペプチドの添加量と大豆ペプチドにおけるペプチドの含有比率、に基づき算出した値である。
そして、表1の算出値の「ペプチド/タンパク質×100」は、原料におけるタンパク質の含有量に対するペプチドの含有量の比率であって、前記した算出値である「タンパク質」と「ペプチド」に基づいて算出した値である。
【0045】
【表1】
【0046】
(結果の検討)
表1のサンプルA~Fの結果を確認すると、「ペプチド/タンパク質×100」の値が大きくなるほど、発酵時間が短縮化することが確認できた。しかしながら、「ペプチド/タンパク質×100」の値が大きくなり過ぎると、苦味の評価が低下するとともに、食感の評価(硬度の数値)も低下することが確認できた。
そして、発酵時間の短縮化という効果を発揮しつつ、苦味と食感に関して合格基準に達するには、「ペプチド/タンパク質×100」の値が所定範囲内となる必要があることが確認できた。
全ての試験結果を勘案すると、サンプルA~Fの中でも、サンプルB~D(特に、サンプルB~C)が好ましいことが確認できた。
【0047】
≪実施例2≫
[サンプルの準備]
表2に示す配合量で各原料と水を配合し、ホモジナイザー(株式会社エスエムテー製)を使用して均質化処理を行った後、加熱殺菌処理を行った。
そして、原料(発酵前液)を40~45℃となるまで冷却した後、原料に乳酸菌スターターを一定量となるように添加し、発酵を実施した。
発酵開始から15分ごとに原料(発酵液)のpHを測定し、pHが4.6~4.7となるまで発酵処理を続けた。なお、発酵時の原料温度は40~45℃とした。
発酵処理の後、発酵後液を10℃以下まで冷却してサンプルとし、以下に示す各試験を実施した。
【0048】
[試験内容]
実施例2における試験内容は、実施例1と同じであった。
ただし、発酵時間の評価における「30分ごと」を「15分ごと」に変更した点のみ異なっていた。
【0049】
表2に、各サンプルの原料の配合量などを示すとともに、各評価の結果を示す。
なお、表2の各数値の算出方法は、実施例1で説明したとおりである。
【0050】
【表2】
【0051】
(結果の検討)
表2のサンプル2-A~2-Dの結果を確認すると、表1の結果と同様、「ペプチド/タンパク質×100」の値が大きくなるほど、発酵時間が短縮化することが確認できた。また、「ペプチド/タンパク質×100」の値が大きくなり過ぎると、苦味の評価が低下するとともに、食感の評価(硬度の数値)も低下することも確認できた。
なお、表2の各サンプルは、表1の各サンプルよりもタンパク質の含有量を増加させたことから、発酵時間は比較的長めになった。しかしながら、サンプル2-Aの7時間という発酵時間を基準とすると、サンプル2-B~2-Dについては、発酵時間の短縮化の効果が十分に発揮されていた。
そして、表1の結果と同様、発酵時間の短縮化という効果を発揮しつつ、苦味と食感に関して合格基準に達するには、「ペプチド/タンパク質×100」の値が所定範囲内となる必要があることが確認できた。
全ての試験結果を勘案すると、サンプル2-A~2-Dの中でも、サンプル2-B~2-Cが好ましいことが確認できた。
【0052】
≪実施例3≫
[サンプルの準備]
表3に示す配合量で各原料と水を配合し、ホモジナイザー(株式会社エスエムテー製)を使用して均質化処理を行った後、加熱殺菌処理を行った。
そして、原料(発酵前液)を40~45℃となるまで冷却した後、原料に乳酸菌スターターを一定量となるように添加し、発酵を実施した。
発酵開始から15分ごとに原料(発酵液)のpHを測定し、pHが4.6~4.7となるまで発酵処理を続けた。なお、発酵時の原料温度は40~45℃とした。
発酵処理の後、発酵後液を10℃以下まで冷却してサンプルとし、以下に示す各試験を実施した。
【0053】
[試験内容]
実施例3における試験内容は、実施例1と同じであった。
ただし、発酵時間の評価における「30分ごと」を「15分ごと」に変更した点のみ異なっていた。
【0054】
表3に、各サンプルの原料の配合量などを示すとともに、各評価の結果を示す。
なお、表3の算出値の「タンパク質」は、原料におけるタンパク質の含有量であって、オーツミルクの添加量とオーツミルクにおけるタンパク質の含有比率、および、エンドウタンパクの添加量とエンドウタンパクにおけるタンパク質の含有比率、に基づき算出した値である。また、表3の算出値の「ペプチド」は、原料におけるペプチドの含有量であって、エンドウペプチドの添加量とエンドウペプチドにおけるペプチドの含有比率、に基づき算出した値である。
【0055】
【表3】
【0056】
(結果の検討)
表3のサンプル3-A~3-Eの結果を確認すると、表1、2の結果と同様、「ペプチド/タンパク質×100」の値が大きくなるほど、発酵時間が短縮化することが確認できた。また、「ペプチド/タンパク質×100」の値が大きくなり過ぎると、苦味の評価が低下するとともに、食感の評価(硬度の数値)も低下することも確認できた。
そして、表3の各サンプルは、表1、2の各サンプルとは異なり、オーツミルク、エンドウタンパク、エンドウペプチドを使用したが、前記のとおり、表1、2と同様の傾向の効果が発揮されることが確認できた。したがって、表3の結果によると、本発明の効果は、所定の原料を使用した場合にのみ発揮されるものではなく、様々な原料を使用しても発揮されることが確認できた。
なお、全ての試験結果を勘案すると、サンプル3-A~3-Eの中でも、サンプル3-B~3-Dが好ましいことが確認できた。