(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046627
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】生分解性ポリエステルの製造方法およびその方法により製造された生分解性ポリエステル
(51)【国際特許分類】
C08G 63/78 20060101AFI20240327BHJP
C08G 63/181 20060101ALI20240327BHJP
C08G 63/85 20060101ALI20240327BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240327BHJP
【FI】
C08G63/78 ZBP
C08G63/181
C08G63/85
C08L101/16
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023151838
(22)【出願日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】10-2022-0119728
(32)【優先日】2022-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】515253049
【氏名又は名称】ハンファ トタルエナジーズ ペトロケミカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【弁理士】
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【弁理士】
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【弁理士】
【氏名又は名称】藤野 香子
(72)【発明者】
【氏名】金仁鎬
(72)【発明者】
【氏名】李度勳
(72)【発明者】
【氏名】金完根
【テーマコード(参考)】
4J029
4J200
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB04
4J029AC02
4J029AD10
4J029AE03
4J029BA03
4J029BA04
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4J029CA01
4J029CA02
4J029CA03
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
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4J029CB05A
4J029CB06A
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4J029HB01
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4J029JF471
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4J200DA17
4J200EA17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】変色が抑制された生分解性ポリエステルの製造方法およびその方法により製造された生分解性ポリエステルを提供する。
【解決手段】生分解性ポリエステルの製造方法は、
(1)芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを含むジカルボン酸成分(a)と、鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオールを含むジオール成分(b)と、変色抑制剤を含む反応混合物(c)とを、触媒の存在下で、エステル化反応またはトランスエステル化反応させて、プレポリマーを得る段階と、
(2)前記プレポリマーを、安定化剤および前記触媒の存在下で、縮重合反応させて生分解性ポリエステルを得る段階とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを含むジカルボン酸成分(a)と、鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオールを含むジオール成分(b)と、変色抑制剤を含む反応混合物(c)とを、触媒の全量または一部の存在下で、エステル化反応またはトランスエステル化反応させて、プレポリマーを得る段階と、
(2)前記段階(1)で得られた前記プレポリマーを、安定化剤および前記触媒の残り一部の存在下で、または追加の前記触媒なしで、縮重合反応させて生分解性ポリエステルを得る段階とを含み、
前記変色抑制剤が下記化学式1で表される化合物を、前記ジカルボン酸成分(a)の総モル数を基準に、Yが水素またはメチル基のとき、1.5モル%~3.5モル%の含有量で含み、Yがヒドロキシ基のとき1.0モル%~2.0モル%の含有量で含み、前記生分解性ポリエステルが、190℃にて2.16kg荷重で測定する際、100g/10分以下の溶融流れ指数(Melt flow index)を有し、色特性L*が60以上、a*およびb*のそれぞれが8以下であることを特徴とする、生分解性ポリエステルの製造方法:
【化1】
前記化学式1において、m、n、l≧1であり、k≧0であり、Yは水素、ヒドロキシ基またはメチル基である。
【請求項2】
前記芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチルフタレート、およびジメチルナフタレンジカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の生分解性ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記脂肪族ジカルボン酸は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、およびそのエステル化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の生分解性ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸を含み、
前記脂肪族ジカルボン酸は、アジピン酸を含むことを特徴とする、請求項1に記載の生分解性ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記芳香族ジカルボン酸の含有量は、前記ジカルボン酸成分(a)の総モル数を基準に、20モル%~60モル%であり、
前記脂肪族ジカルボン酸の含有量は、前記ジカルボン酸成分(a)の総モル数を基準に、40モル%~80モル%であることを特徴とする、請求項1に記載の生分解性ポリエステルの製造方法。
【請求項6】
前記ジオール成分(b)は、エチレングリコール、1,2-プロパンジオールおよび1,3-プロパンジオールからなる群より選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の生分解性ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
前記ジオール成分(b)は、エチレングリコールを含むことを特徴とする、請求項6に記載の生分解性ポリエステルの製造方法。
【請求項8】
前記ジオール成分(b)対前記ジカルボン酸成分(a)のモル比は、1.1:1~1.5:1であることを特徴とする、請求項1に記載の生分解性ポリエステルの製造方法。
【請求項9】
前記化学式1で表される化合物は、グリセロール、トリメチロールプロパンおよびペンタエリトリトールからなる群より選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の生分解性ポリエステルの製造方法。
【請求項10】
前記触媒は、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、酢酸亜鉛、およびアンチモンオキシドからなる群より選択される少なくとも1つを含み、
前記触媒の含有量は、前記ジカルボン酸成分(a)1モルを基準に、0.01g~5.0gであることを特徴とする、請求項1に記載の生分解性ポリエステルの製造方法。
【請求項11】
前記反応混合物(c)の前記エステル化反応またはトランスエステル化反応は、1つの反応器において温度範囲を異にして行われるが、1次エステル化またはトランスエステル化反応が180℃~200℃範囲の温度にて行われ、2次エステル化またはトランスエステル化反応が220℃~235℃範囲の温度にて行われることを特徴とする、請求項1に記載の生分解性ポリエステルの製造方法。
【請求項12】
前記安定化剤は、亜リン酸、トリフェニルホスフェート、およびトリエチルホスホノアセテートからなる群より選択される少なくとも1つを含み、
前記安定化剤の含有量は、前記ジカルボン酸成分(a)1モルを基準に、0.01g~5.0gであることを特徴とする、請求項1に記載の生分解性ポリエステルの製造方法。
【請求項13】
前記プレポリマーの縮重合反応は、220℃~235℃範囲の温度、1torr未満の真空度で60分~420分間行われることを特徴とする、請求項1に記載の生分解性ポリエステルの製造方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の製造方法により製造され、前記脂肪族ジカルボン酸および前記芳香族ジカルボン酸から誘導されるジカルボン酸残基と、鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオールから誘導されるジオール残基とを含み、190℃にて2.16kg荷重で測定する際、100g/10分以下の溶融流れ指数を有するとともに、色特性L*が60以上、a*およびb*のそれぞれが8以下である、生分解性ポリエステル。
【請求項15】
使い捨てフィルムまたはシート、食器、農業用フィルムまたはシートからなる群より選択される用途に使用される、請求項14に記載の生分解性ポリエステル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変色が抑制された生分解性ポリエステルの製造方法およびその方法により製造された生分解性ポリエステルに関するものである。詳細には、本発明は、脂肪族ジカルボン酸と、芳香族ジカルボン酸、および鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオール化合物を用いて変色が抑制された生分解性ポリエステルを製造する方法およびその方法により製造された生分解性ポリエステルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する深刻性が世界的に認識されており、これに伴い環境規制が強化されている中、環境汚染を減らしながら汎用プラスチックを代替し得る素材に関する研究が活発に進められている。中でも、特定の条件下で自然に分解され得る生分解性プラスチックは、様々な使い捨て生活用品を製造することのできる代替物質として多大な関心を集めている。特に、1,4-ブタンジオールと、アジピン酸、テレフタル酸、またはジメチルテレフタレートとを反応させて製造し得るポリ(ブチレンアジペート-co-テレフタレート、PBAT)は、生分解性ポリエステルとして現在広く使用されている。
【0003】
ポリ(ブチレンアジペート-co-テレフタレート)の物性は、製造社によって差があるが、共通して目的としている特性としては、高い分子量および固有粘度、低い酸価、高い耐加水分解性、変色抑制などがある。このような特性は、基本的に当該生分解性ポリエステルの耐久性および加工性に関連しており、素材固有特性であるガラス転移温度、溶融温度、結晶化度、剛性、延性、生分解速度等を調節して、新規用途に適した生分解性ポリエステルを開発するためには、ジカルボン酸の種類を変えたり、含有量を調節したりする方法が適用されるべきである。
【0004】
例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンイソソルビドサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート等のように、1,4-ブタンジオールをベースとする生分解性ポリエステルの開発が報告されている(非特許文献1、非特許文献2、特許文献1等を参照)。
【0005】
一方、鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオール化合物、特にエチレングリコールは、1,4-ブタンジオールに比べ価格競争力に優れているにもかかわらず、これを用いた生分解性ポリエステルの製造方法については、ほとんど報告されていない。エチレングリコールベースの生分解性ポリエステルは、1,4-ブタンジオールベースのポリエステルとは異なる物性を有するので、既存の生分解性樹脂を代替するか、他の応用分野に適用され得る可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0112111号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nikolic, M.S. et al., 2001, 「Synthesis and characterization of biodegradable poly(butylene succinate-co-butylene adipate)s」
【非特許文献2】Qi, J. et al., 2019, 「An investigation of the thermal and (bio)degradability of PBS copolyesters based on isosorbide」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、変色が効果的に抑制された生分解性ポリエステルを製造する方法を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、前記製造方法により製造され、変色が効果的に抑制された生分解性ポリエステルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実現例により、(1)(a)芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを含むジカルボン酸成分と、(b)鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオールを含むジオール成分と、(c)変色抑制剤を含む反応混合物とを、触媒の全量または一部の存在下で、エステル化反応またはトランスエステル化反応させてプレポリマーを得る段階と、(2)前記段階(1)で得られたプレポリマーを安定化剤および前記触媒の残り一部の存在下で、または追加の触媒なしで、縮重合反応させて生分解性ポリエステルを得る段階とを含むが、変色抑制剤が下記化学式1で表される化合物を、ジカルボン酸成分(a)の総モル数を基準に、Yが水素またはメチル基のとき、1.5モル%~3.5モル%の含有量で含み、Yがヒドロキシ基のとき1.0モル%~2.0モル%の含有量で含み、生分解性ポリエステルが190℃にて2.16kg荷重で測定する際、100g/10分以下の溶融流れ指数(Melt flow index)を有し、色特性L*が60以上、a*およびb*のそれぞれが8以下であることを特徴とする、生分解性ポリエステルの製造方法が提供される。
【0011】
【化1】
前記式において、m、n、l≧1であり、k≧0であり、Yは水素、ヒドロキシ基またはメチル基である。
【0012】
本発明の具体例において、芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチルフタレート、およびジメチルナフタレンジカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。
【0013】
本発明の具体例において、脂肪族ジカルボン酸は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、およびそのエステル化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。
【0014】
本発明の好ましい具体例において、芳香族ジカルボン酸はテレフタル酸を含み、脂肪族ジカルボン酸はアジピン酸を含み得る。
【0015】
本発明の具体例において、芳香族ジカルボン酸の含有量は、ジカルボン酸成分の総モル数を基準に、20モル%~60モル%であり、脂肪族ジカルボン酸の含有量は、ジカルボン酸成分の総モル数を基準に、40モル%~80モル%であり得る。
【0016】
本発明の具体例において、ジオール成分(b)は、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、および1,3-プロパンジオールからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。
【0017】
本発明の好ましい具体例において、ジオール成分(b)はエチレングリコールを含み得る。
【0018】
本発明の具体例において、ジオール成分(b)対ジカルボン酸成分(a)のモル比は1.1:1~1.5:1であり得る。
【0019】
本発明の具体例において、化学式1で表される化合物は、グリセロール、トリメチロールプロパンおよびペンタエリトリトールからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。
【0020】
本発明の具体例において、触媒は、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、酢酸亜鉛、およびアンチモンオキシドからなる群より選択される少なくとも1つを含んで良く、触媒の含有量はジカルボン酸成分(a)1モルを基準に、0.01g~5.0gであり得る。
【0021】
本発明の具体例において、安定化剤は、亜リン酸、トリフェニルホスフェート、およびトリエチルホスホノアセテートからなる群より選択される少なくとも1つを含んで良く、安定化剤の含有量は、ジカルボン酸成分(a)1モルを基準に、0.01g~5.0gであり得る。
【0022】
本発明の具体例において、反応混合物のエステル化またはトランスエステル化反応は、1つの反応器において温度範囲を異にして行われて良く、1次エステル化またはトランスエステル化反応は、180℃~200℃の範囲の温度にて行われ、2次エステル化またはトランスエステル化反応は、220℃~235℃の範囲の温度にて行われ得る。
【0023】
本発明の具体例において、プレポリマーの縮重合反応は、220℃~235℃範囲の温度、1torr未満の真空度で60分~420分間行われ得る。
【0024】
本発明の他の実現例により、前記製造方法により製造され、脂肪族ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸から誘導されるジカルボン酸残基および鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオールから誘導されるジオール残基を含み、190℃にて2.16kg荷重で測定する際、100g/10分以下の溶融流れ指数を有するとともに、色特性L*が60以上、a*およびb*のそれぞれが8以下である生分解性ポリエステルが提供される。
【0025】
本発明の具体例において、生分解性ポリエステルは、使い捨てフィルムまたはシート、食器、農業用フィルムまたはシートからなる群より選択される用途に使用され得る。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一実現例による生分解性ポリエステルの製造方法は、変色が効果的に抑制された生分解性ポリエステルを提供し得る。
【0027】
また、前記製造方法により製造される生分解性ポリエステルは、変色が効果的に抑制され、様々な分野に活用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0029】
本発明の一実現例により、(1)(a)芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを含むジカルボン酸成分、(b)鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオールを含むジオール成分、および(c)変色抑制剤を含む反応混合物を、触媒の全量または一部の存在下で、エステル化反応またはトランスエステル化反応させてプレポリマーを得る段階と、(2)段階(1)で得られたプレポリマーを、安定化剤および前記触媒の残り一部の存在下で、または追加の触媒なしで、縮重合反応させて生分解性ポリエステルを得る段階とを含む、生分解性ポリエステルの製造方法が提供される。
【0030】
[段階(1)]
本発明の実現例による生分解性ポリエステルの製造方法の段階(1)において、(a)芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを含むジカルボン酸成分、(b)鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオールを含むジオール成分、および(c)変色抑制剤を含む反応混合物を、触媒の全量または一部の存在下でエステル化反応またはトランスエステル化反応させてプレポリマーを得る。
【0031】
前記段階(1)において、反応混合物は、(a)芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを含むジカルボン酸成分、(b)鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオールを含むジオール成分、および(c)変色抑制剤を含む。
【0032】
本発明の具体例において、反応混合物の一成分であるジカルボン酸成分(a)は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを含む。なお、芳香族ジカルボン酸はそのエステル化合物を含み、脂肪族ジカルボン酸はそのエステル化合物を含み得る。具体的に、ジカルボン酸のエステル化合物は、ジカルボン酸の両末端の水素が炭素数1~6のアルキルで置換されたエステル化合物のことを意味し得る。
【0033】
本発明の具体例において、芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチルフタレート、およびジメチルナフタレンジカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1つを含み得るが、特にこれらに限定されるものではない。本発明の好ましい具体例において、芳香族ジカルボン酸はテレフタル酸を含み得る。
【0034】
本発明の具体例において、脂肪族ジカルボン酸は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、およびそのエステル化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含み得るが、特にこれらに限定されるものではない。本発明の好ましい具体例において、脂肪族ジカルボン酸はアジピン酸を含み得る。
【0035】
本発明の好ましい具体例において、芳香族ジカルボン酸はテレフタル酸を含み、脂肪族ジカルボン酸はアジピン酸を含み得る。
【0036】
本発明の具体例において、芳香族ジカルボン酸の含有量は、ジカルボン酸成分の総モル数を基準に、20モル%~60モル%であり得る。好ましくは、芳香族ジカルボン酸の含有量は、ジカルボン酸成分の総モル数を基準に、40モル%~60モル%であり得る。
【0037】
本発明の具体例において、脂肪族ジカルボン酸の含有量は、ジカルボン酸成分の総モル数を基準に、40モル%~80モル%であり得る。好ましくは、脂肪族ジカルボン酸の含有量は、ジカルボン酸成分の総モル数を基準に、40モル%~60モル%であり得る。
【0038】
芳香族ジカルボン酸の含有量が、ジカルボン酸成分の総モル数を基準に60モル%を超えると、生成する生分解性ポリエステルの生分解性が低下する可能性がある。一方、脂肪族ジカルボン酸の含有量が、ジカルボン酸成分の総モル数を基準に80モル%を超えると、生成する生分解性ポリエステルの機械的物性が低下し得る。
【0039】
本発明の具体例において、反応混合物の他の成分であるジオール成分(b)は、鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオールを含む。
【0040】
本発明の具体例において、ジオール成分(b)は、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、および1,3-プロパンジオールからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。本発明の好ましい具体例において、ジオール成分(b)は、エチレングリコールを含み得る。
【0041】
本発明の具体例において、ジオール成分(b)対ジカルボン酸成分(a)のモル比は、1.1:1~1.5:1であり得る。このモル比が小さいほど経済性の面で有利ではあるが、小さすぎると、ジオールとジカルボン酸の当量比の不均衡により重合速度が低下し得る。
【0042】
前記段階(1)において、反応混合物は変色抑制剤(c)を含む。なお、変色抑制剤は、反応混合物に含まれることが好ましいが、変色抑制剤がエステル化反応またはトランスエステル化反応の際、または縮重合反応の際、別途添加されることが本発明から排除されることではない。
【0043】
本発明の具体例において、変色抑制剤は、下記化学式1で表される化合物を含み得る。
【0044】
【化2】
前記式において、m、n、l≧1であり、k≧0であり、Yは水素、ヒドロキシ基またはメチル基である。
【0045】
本発明の具体例において、化学式1で表される化合物は、グリセロール、トリメチロールプロパンおよびペンタエリトリトールからなる群より選択される少なくとも1つを含み得るが、これらに特に限定されるものではない。
【0046】
前記で例示した化学式1で表される化合物は、ポリエステル製造の際、3方以上の分岐構造を形成することができるため、分岐化剤として知られており、主にポリエステルの分子量を増加させたり、せん断減粘効果(shear thinning effect)を向上させたりするための手段として使用されている。
【0047】
ところで、本発明において化学式1で表される化合物は、鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオールを用いて、ポリエステル製造の際に発生し得る変色現象を解決するための変色抑制剤として作用する。
【0048】
鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオールを用いたポリエステルの製造時の変色問題は、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸との間のエステル結合が熱による副反応または解重合に起因して化学構造に変化が起こったことが原因であり得る。例えば、文献(Venkatachalam, S. et al., 2012, 「Degradation and Recyclability of Poly (Ethylene Terephthalate)」)に報告されているように、ポリエチレンテレフタレートの変色は、主鎖のβ分割(β-scission)による長鎖長のコンジュゲートジエン(conjugated diene)形成によるものと理解される。
【0049】
ところで、本発明における縮重合反応の温度は、ポリエチレンテレフタレートの場合(約260℃以上)よりも低い220℃~235℃の範囲であるため、脂肪族ジオールと芳香族ジカルボン酸との間のエステル結合よりは、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸との間のエステル結合の方から変色原因物質が生成されたものと考えられる。化学式1で表される化合物は、このような脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸との間のエステル結合の分解を抑制するものと理解される。
【0050】
化学式1で表される化合物は、Yが水素またはメチル基のとき、ジカルボン酸成分(a)の総モル数を基準に、1.5モル%~3.5モル%の含有量で使用され得る。ポリエステルの変色をより効果的に抑制するために、化学式1で表される化合物は、Yが水素またはメチル基のとき、ジカルボン酸成分(a)の総モル数を基準に、1.6モル%~2.5モル%の含有量で使用されるのが好ましい。
【0051】
化学式1で表される化合物は、Yが水素またはメチル基のとき、その含有量がジカルボン酸成分(a)の総モル数を基準に1.5モル%未満であると、縮重合反応開始後、数十分以内に反応物の変色が急速に起こることがあり、その含有量が3.5モル%を超えると、反応物がゲル化する可能性がある。
【0052】
また、化学式1で表される化合物は、Yがヒドロキシ基のとき、ジカルボン酸成分(a)の総モル数を基準に1.0モル%~2.0モル%の含有量で使用され得る。ポリエステルの変色をより効果的に抑制するために、化学式1で表される化合物は、Yがヒドロキシ基のとき、ジカルボン酸成分(a)の総モル数を基準に、1.1モル%~1.5モル%の含有量で使用されるのが好ましい。
【0053】
化学式1で表される化合物は、Yがヒドロキシ基のとき、その含有量がジカルボン酸成分(a)の総モル数を基準に1.0モル%未満であると、縮重合反応開始後、数十分以内に反応物の変色が急速に起こることがあり、その含有量が2.0モル%を超えると、反応物がゲル化する可能性がある。
【0054】
前記段階(1)において、反応混合物を触媒の全量または一部の存在下で、エステル化反応またはトランスエステル化反応させてプレポリマーを得る。
【0055】
本発明の具体例において、触媒は、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、酢酸亜鉛、およびアンチモンオキシドからなる群より選択される少なくとも1つを含み得るが、これらに特に限定されるものではない。
【0056】
触媒は、ジカルボン酸成分(a)1モルを基準に、0.01g~5.0gの含有量で使用され得る。好ましくは、触媒は、ジカルボン酸成分(a)1モルを基準に、0.1g~1.0gの含有量で使用され得る。
【0057】
前記段階(1)において、反応混合物は、触媒の全量の存在下でエステル化反応またはトランスエステル化反応させて、プレポリマーを得られる。この場合、追加の触媒なしで、プレポリマー中に残存する触媒が、後述する縮重合反応に使用され得る。または、反応混合物は、触媒の一部の存在下でエステル化反応またはトランスエステル化反応させて、プレポリマーを得られる。この場合、触媒の残りの一部の存在下でプレポリマーが縮重合反応し得る。
【0058】
本発明の具体例において、反応混合物のエステル化またはトランスエステル化反応は、1つの反応器において温度範囲を異にして行われ得る。例えば、1次エステル化またはトランスエステル化反応は、180℃~200℃範囲の温度にて60分~90分間、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとが縮合反応によってオリゴマーを形成するようにする。2次エステル化またはトランスエステル化反応は、220℃~235℃範囲の温度にて60分~90分間行われ、ポリエステルプレポリマーを形成するようにする。
【0059】
[段階(2)]
本発明の実現例による生分解性ポリエステルの製造方法の段階(2)において、段階(1)で得られたプレポリマーを安定化剤および前記触媒の残り一部の存在下で、または追加の触媒なしで、縮重合反応させて、生分解性ポリエステルを得る。
【0060】
本発明の具体例において、安定化剤は、亜リン酸、トリフェニルホスフェート、およびトリエチルホスホノアセテートからなる群より選択される少なくとも1つを含み得るが、これらに特に限定されるものではない。
【0061】
安定化剤は、ジカルボン酸成分(a)1モルを基準に、0.01g~5.0gの含有量で使用され得る。好ましくは、安定化剤は、ジカルボン酸成分(a)1モルを基準に、0.1g~4.0gの含有量で使用され得る。
【0062】
本発明の具体例において、安定化剤は段階(2)で使用されるが、その一部が段階(1)で使用されてもよい。
【0063】
触媒に関する具体的な内容は、前記段階(1)で説明した通りである。
【0064】
前記段階(2)において、プレポリマーは縮重合反応によって重合度が増加し得る。縮重合反応は、220℃~235℃範囲の温度、1torr未満の真空度で60分~420分間行われ得る。この際、縮重合反応の温度が235℃を超えると、脂肪族-芳香族ポリエステルは、数十分以内で急速に変色が発生し得るため、220℃~230℃の温度範囲で反応が進行することが好ましい。
【0065】
前記段階(2)で得られる生分解性ポリエステルは、190℃にて2.16kg荷重で測定する際、100g/10分以下の溶融流れ指数を有するとともに、色特性L*が60以上、a*およびb*のそれぞれが8以下であり得る。
【0066】
本発明の他の実現例により、前記製造方法によって製造され、190℃にて2.16kg荷重で測定する際、100g/10分以下の溶融流れ指数を有するとともに、色特性L*が60以上、a*およびb*のそれぞれが8以下である生分解性ポリエステルが提供される。
【0067】
本発明の実現例による生分解性ポリエステルは、脂肪族ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸から誘導されるジカルボン酸残基、および鎖の長さが炭素数4未満の短い脂肪族ジオールから誘導されるジオール残基を含み得る。
【0068】
本発明の一実現例による脂肪族-芳香族ポリエステルは、生分解度評価の国際標準ISO 14855-1に基づく試験条件下で生分解され得る。
【0069】
本発明の実現例による生分解性ポリエステルは、既存のポリ(ブチレンアジペート-co-テレフタレート)が利用される使い捨てフィルムまたはシート、食器、農業用フィルムまたはシートなどのような様々な生活用品分野に応用され得る。
【実施例0070】
以下、実施例と比較例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を例示するためのものであるのみ、本発明の範囲がこれらのみに限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
コンデンサが備えられている反応器に、エチレングリコール1.61モル、アジピン酸0.60モル、テレフタル酸0.55モルを注入した。この混合物にテトラブチルチタネート0.3g、グリセロール1.72gを投入し、190℃にて60分間1次エステル化反応を行った。次いで、反応器温度を230℃まで上げて90分間2次エステル化反応を行った。
【0072】
次に、プレポリマーにテトラブチルチタネート0.27g、亜リン酸0.05gをさらに投入し、230℃、1torr未満の真空度で150分間縮重合反応を行い、脂肪族-芳香族ポリエステルを得た。
【0073】
(実施例2)
グリセロールの量を2.30gに変更したことを除いて、実施例1と同様の方法により脂肪族-芳香族ポリエステルを得た。
【0074】
(実施例3)
変色抑制剤として、グリセロールの代わりにペンタエリトリトールを2.30g使用し、縮重合反応を180分間行ったことを除いて、実施例1と同様の方法により脂肪族-芳香族ポリエステルを得た。
【0075】
(比較例1)
グリセロールの量を1.15gに変更し、縮重合反応を240分間行ったことを除いて、実施例1と同様の方法により反応して脂肪族-芳香族ポリエステルを得た。
【0076】
(比較例2)
変色抑制剤として、グリセロールの代わりにペンタエリトリトールを3.45g使用し、縮重合反応を60分間行ったことを除いて、実施例1と同様の方法により反応して脂肪族-芳香族ポリエステルを得た。
【0077】
(比較例3)
変色抑制剤として、グリセロールの代わりにペンタエリトリトールを1.15g使用し、縮重合反応を240分間行ったことを除いて、実施例1と同様の方法により脂肪族-芳香族ポリエステルを得た。
【0078】
(比較例4)
変色抑制剤として、グリセロールの代わりにペンタエリトリトールを0.57g使用し、縮重合反応を240分間行ったことを除いて、実施例1と同様の方法により脂肪族-芳香族ポリエステルを得た。
【0079】
(比較例5)
変色抑制剤を用いずに縮重合反応を240分間行ったことを除いて、実施例1と同様の方法により脂肪族-芳香族ポリエステルを得た。
【0080】
前記実施例と比較例の重合条件をまとめると、下記表1の通りである。
【0081】
【0082】
(試験例)
前記実施例と比較例から得られた脂肪族-芳香族ポリエステルを以下の方法により試験し、その結果を下記表2に記載した。
【0083】
(1)溶融流れ指数(melt flow index;MFI)
ASTM D1238に基づいて、230℃にて2.16kgの荷重で脂肪族-芳香族ポリエステルの溶融流れ指数を測定した。溶融流れ指数が200g/10分を超える場合、測定値の誤差は±10%レベルとし、おおよその値を表に表記した。
【0084】
(2)色特性
分光光度計(spectrophotometer SE 7700、日本電色工業社)を用いて脂肪族-芳香族ポリエステルの色特性を測定した。
【0085】
(3)ゲル
脂肪族-芳香族ポリエステル1gを50mlのクロロホルム溶媒に完全に溶かした後、ステンレス網(60メッシュ)に通してろ過されるゲルの有無から生成物のゲル化の有無を確認した。
【0086】
【0087】
前記表1および表2から分かるように、化学式1の化合物を用いた実施例1~3と比較例1および3~5とを比較すると、実施例の場合、色特性L*値が高く示されており、a*とb*の値はゼロに近く示されている。また、190℃にて2.16kg荷重で測定する際の溶融流れ指数は100g/10分以下であった。
【0088】
一方、化学式1の化合物を本発明の範囲を超える量で使用した比較例2の場合、生成物の色特性は優れていたが、ゲル化が起こった。