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  • 特開-鋼製下地材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046634
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】鋼製下地材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240327BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240327BHJP
   C22C 38/14 20060101ALN20240327BHJP
【FI】
C22C38/00 301R
C21D9/46 J
C22C38/00 301T
C21D9/46 E
C22C38/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023154055
(22)【出願日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2022151271
(32)【優先日】2022-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】村上 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】岡 安英
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】橘 美枝
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA05
4K037EA15
4K037EA19
4K037EA27
4K037EA31
4K037FA03
4K037FE02
4K037FE06
4K037FG00
4K037FJ04
4K037FK03
4K037GA05
(57)【要約】
【課題】高温において座屈が生じにくい鋼製下地材を提供する。
【解決手段】鋼製下地材は、500℃における降伏強度が250MPa以上、かつ、600℃における降伏強度が125MPa以上である鋼板を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
500℃における降伏強度が250MPa以上、かつ、600℃における降伏強度が125MPa以上である鋼板を有する、鋼製下地材。
【請求項2】
前記鋼板は、室温での降伏強度が250MPa以上である、請求項1に記載の鋼製下地材。
【請求項3】
さらに、前記鋼板の表面に形成された金属めっきを有する、請求項1または請求項2に記載の鋼製下地材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物に使用される鋼製下地材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物において、主に屋内の天井や壁の下地材として、鋼製下地材が広く用いられている。鋼製下地材は、汎用的に使用されるため、JIS A 6517:2010に形状、材料および部材としての強度等の特性が規定されている。このJIS規格では、鋼製下地材の材料として、JIS G 3302:2019の「溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯」またはJIS G 3321:2019の「溶融55%アルミニウム-亜鉛合金めっき鋼板及び鋼帯」を満たすものを使用することが規定されている。
【0003】
また、建築物については、火災発生時において被害の拡大を防止するために建築基準法によって、部位ごとに必要な耐火性能、例えば非損傷性、遮熱性、遮炎性が定められている。
【0004】
建築用鋼製下地材を用いた間仕切り壁や外壁、天井では、耐火性能のうち、遮熱性、遮炎性を担保するため、鋼製下地材に耐火被覆材を取り付け、耐火構造としている。例えば、壁構造では、一定間隔で配置した鋼製下地材で作製された柱と、これらの柱に貼り付けられた石膏ボードなどの耐火被覆材とを備えるものとしている。
【0005】
このような耐火構造を有する建築物で火災が発生した場合、耐火被覆材が熱や炎を遮ることで鋼製下地材を保護し、ひいては建築物を保護する。しかしながら、火災によって耐火被覆材が割れるなど損傷した場合には、遮熱性や遮炎性といった耐火構造の耐火性能が失われる。
【0006】
そこで、建築用鋼製下地材を用いた壁構造の耐火性能を評価した際に、耐火被覆材が割れる要因について検討した結果、次のように考えられることが明らかになってきた。火災発生初期には耐火構造において熱が耐火被覆材により遮られるため、建築用鋼製下地材は常温に保たれる。しかし、火災発生から時間が経過するに従って徐々に耐火被覆材から鋼製下地材に熱が伝導し、鋼製下地材が加熱され、熱膨張が生じる。建築物において鋼製下地材は両端が他の部材に拘束されているため、この熱膨張によって他の部材から鋼製下地材が座屈により変形し、鋼製下地材に貼り付けられた耐火被覆材に応力が加わって割れが生じると考えられる。
【0007】
このような鋼製下地材および耐火被覆材を用いた耐火構造において耐火被覆材の損傷を防ぐ技術が特許文献1に開示されている。具体的に特許文献1には、鉄骨柱と、該鉄骨柱を囲むように配置された板状体が角部で互いに連結されて筒状体となった耐火被覆材と、該耐火被覆材と前記鉄骨柱との間に配置され前記耐火被覆材と前記鉄骨柱とを離隔するスペーサとを備え、該スペーサは、前記鉄骨柱と前記耐火被覆材の両者に接触すると共に両者のいずれか一方のみに固定され、前記鉄骨柱と前記耐火被覆材が前記鉄骨柱の軸方向に相対移動可能であり、加熱による両者の材長変化に該両者が追従しないようになっていることを特徴とする鉄骨柱の乾式耐火構造が開示されている。
【0008】
特許文献1には、該スペーサは、前記鉄骨柱又は前記耐火被覆材のいずれか一方のみに固定され、前記鉄骨柱と前記耐火被覆材が前記鉄骨柱の軸方向に相対移動可能になっていることにより、鉄骨柱が熱膨張した場合にも、耐火被覆材には応力が作用することがなく、鉄骨柱の熱膨張に起因する損傷の危険がないことが記載されている。
【0009】
ここで、上述したように、耐火被覆材が損傷する要因としては、高温において鋼製下地材が変型し、鋼製下地材に貼り付けられた耐火被覆材に応力が加わって割れが生じることだと考えられるが、鋼製下地材についてJIS A 6517:2010では高温における特性は規定されていない。つまり、当該JIS規格を満たしているだけでは、鋼製下地材の変型を抑制することはできない。また、建築用鋼製下地材は、一般に、壁構造、天井構造ともに建築物の構造を担う耐力壁には用いられず、非耐力壁にのみ適用される。例えば、非特許文献1には、間仕切壁の仕様(非耐力壁)における下地として軽量鉄骨が用いられることが記載されている。非特許文献2には、鋼製壁下地材が非構造体であることが記載されている。このような理由により、従来は、耐火性能において、建物の倒壊に関わる非損傷性を担保する必要がなく、火災時に強度が低下しても性能面で問題がないと想定されていたと考えられる。そのため、建材用途で、高温特性に優れた耐火用亜鉛めっき鋼板(例えば、特許文献2など)を建築用鋼製下地材へ適用することは、従来検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6970381号公報
【特許文献2】特許第3267324号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】国土交通省、「官庁施設における木造耐火建築物の整備指針 資料編 第2章 ケーススタディ」、第13頁、[online]、平成25年3月、国土交通省、[検索日2023年9月7日]、インターネット<URL:https://www.mlit.go.jp/common/000993926.pdf>
【非特許文献2】八潮建材工業株式会社、「製品カタログ 建築用鋼製下地材」、第6頁、[online]、2020年1月、八潮建材工業株式会社、[検索日2023年9月7日]、インターネット<URL:https://www.yasio.jp/doc/catalog/catalog_seihinLT_202001.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載の技術では、鋼製下地材と耐火被覆材との間にスペーサを導入しているため、スペーサ分の空間を設ける必要があり、建築物の居住空間を狭めることとなる。
【0013】
また、鋼製下地材および耐火被覆材を備えた耐火構造については、コストの低減という経済的観点、および近年注目されている炭素排出量の削減という環境的観点から、使用する素材の量の低減が要求されている。そのため、耐火構造の防火・耐火性能を、より薄い断熱材で確保することができれば、経済的にも環境的にも有利であると考えられる。
【0014】
本発明者らがこのような問題に鑑みて検討したところ、鋼製下地材として高温において座屈を生じにくいものを使用することにより、鋼製下地材および耐火被覆材を備える建築物の耐火構造において、鋼製下地材と耐火被覆材との間にスペーサを導入することなく、かつ使用する耐火被覆材が薄くても耐火性能を確保することが可能であることを知見した。そのため、本発明は、高温において座屈を生じにくい鋼製下地材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、種々検討した結果、上記目的は、以下の発明により達成されることを見出した。
【0016】
本発明の一局面に係る鋼製下地材は、500℃における降伏強度が250MPa以上、かつ、600℃における降伏強度が125MPa以上である鋼板を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温において座屈を生じにくい鋼製下地材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、降伏強度と温度との関係を示すグラフである。
図2図2は、FEMによって求めた加熱時間と加熱面の長さ方向の歪み量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る鋼製下地材について説明する。
【0020】
本実施形態に係る鋼製下地材は、500℃における降伏強度が250MPa以上、かつ、600℃における降伏強度が125MPa以上である鋼板を有する。
【0021】
このような構成によれば、高温において座屈を生じにくい鋼製下地材を提供することができる。
【0022】
上述したように、建築用鋼製下地材は、一般に、壁構造、天井構造ともに建築物の構造を担う耐力壁には用いられず、非耐力壁にのみ適用される。そのため、従来は、建材用途において、高温でも強度を確保できる鋼板を建築用鋼製下地材へ適用することは検討されていなかった。本発明者らは、十分な高温強度を有し、高温での座屈を生じにくい鋼板を、鋼製下地材として使用することにより、鋼製下地材および耐火被覆材を備える建築物の耐火構造において、使用する耐火被覆材が薄くても耐火性能を確保することが可能であることを見出した。さらには、高温でも鋼製下地材の座屈に起因する耐火被覆材の割れを抑制できることから、鋼製下地材と耐火被覆材との間にスペーサを導入する必要がないため、建築物の居住空間をより広くできるという利点があることも明らかにした。
【0023】
その理由については以下のように考える。建築物で火災が発生した場合において、耐火構造を構成する鋼製下地材が加熱されると熱膨張が生じる。このとき、建築物において鋼製下地材は他の部材に両端部が拘束されているため、熱膨張により他の部材から鋼製下地材に圧縮力が作用する。火災の発生から時間が経過して、鋼製下地材に作用する圧縮力が降伏強度を超えると、鋼製下地材が座屈により変形する。この鋼製下地材の変形により、鋼製下地材に貼り付けられた耐火被覆材に応力が加わって割れが生じると、耐火構造の耐火性能が失われる。ここで、本実施形態に係る鋼板は、従来の鋼板に比べて500℃および600℃という高温における降伏強度が高いため、加熱されても座屈が生じにくい。そのため、建築物の耐火構造において、本実施形態に係る鋼製下地材と耐火被覆材との間にスペーサを導入しなくても、耐火被覆材の割れ等の損傷の発生を火災発生後長時間にわたって抑制することができる。これにより、耐火性能を確保しつつ建築物の居住空間をより広く確保することができる。
【0024】
また、本実施形態に係る鋼製下地材によれば、耐火構造に使用する耐火被覆材を、鋼製下地材に従来の鋼板を使用した耐火構造と同じものを使用することで、火災の発生から鋼製下地材における座屈の発生までの時間を従来の鋼板を使用した場合よりも遅らせることができ、耐火性能を向上させることができる。
【0025】
さらに、本実施形態に係る鋼製下地材によれば、耐火構造に使用する耐火被覆材を、鋼製下地材に従来の鋼板を使用した場合よりも薄くしたり、少なくしたりしても、火災の発生から鋼製下地材における座屈の発生までの時間を従来の鋼板を使用した場合と同等とすることができる。すなわち耐火被覆材が少なくても従来と同等の耐火性能を確保することができ、これにより、コストの低減、炭素排出量の削減、およびより広い居住空間の確保を実現することができる。
【0026】
〈鋼板〉
本実施形態に係る鋼製下地材に用いられる鋼板は、500℃における降伏強度が250MPa以上、かつ、600℃における降伏強度が125MPa以上である。このような構成の鋼板を鋼製下地材として用いることによって、高温において座屈を生じにくい鋼製下地材を提供することができる。
【0027】
500℃における降伏強度は、好ましくは280MPa以上であり、より好ましくは300MPa以上である。500℃における降伏強度の上限は特に定めないが、実現可能な数値として、好ましくは500MPa以下である。
【0028】
600℃における降伏強度は、好ましくは150MPa以上であり、より好ましくは175MPa以上である。600℃における降伏強度の上限は特に定めないが、実現可能な数値として、好ましくは300MPa以下である。
【0029】
また、本実施形態に係る鋼製下地材に用いられる鋼板の室温での降伏強度は、好ましくは250MPa以上であり、より好ましくは300MPa以上である。本実施形態において、室温とは20℃である。室温における降伏強度の上限は特に定めないが、実現可能な数値として、好ましくは1000MPa以下である。
【0030】
本実施形態に係る鋼板の降伏強度は、JIS G 0567:2020に規定される測定方法によって測定された値である。
【0031】
また、本実施形態に係る鋼製下地材は、上述したような鋼板と、その鋼板の表面に形成された金属めっきを有してもよい。なお、一般的に耐食性を上げるといった観点から、鋼板の表面に金属めっきを形成することができるが、上述したような鋼板の500℃、600℃、室温における降伏強度はめっきの有無によっては変わらない。つまり、本実施形態における鋼板の表面に金属めっきが形成されためっき鋼板は、500℃における降伏強度が250MPa以上、かつ、600℃における降伏強度が125MPa以上であることが好ましい。めっき鋼板の500℃における降伏強度は、より好ましくは280MPa以上であり、さらに好ましくは300MPa以上であり、500MPa以下が好ましい。また、めっき鋼板の600℃における降伏強度は、より好ましくは150MPa以上であり、さらに好ましくは175MPa以上であり、300MPa以下が好ましい。室温での降伏強度は、好ましくは250MPa以上であり、より好ましくは300MPa以上であり、500MPa以下が好ましい。
【0032】
本実施形態に係る鋼板の化学組成は、特に定めないが、前記鋼板に含まれる元素としては、C(炭素)、Si(ケイ素)、Mn(マンガン)、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)、P(リン)、S(硫黄)、N(窒素)、B(ボロン)等が挙げられる。
【0033】
〈金属めっき〉
本実施形態に係る鋼製下地材において鋼板の表面に形成される金属めっきとしては、例えば、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融55%アルミニウム-亜鉛合金めっき、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき等が挙げられる。
【0034】
〈組織〉
本実施形態に係る鋼製下地材の鋼板の組織は、特に限定されないが、再結晶組織の面積率が20%未満であることが好ましい。再結晶組織の面積率が20%未満であることにより、高温における降伏強度をより確実に高めることができる。再結晶組織の面積率は10%未満であることがより好ましい。また、再結晶組織の面積率の下限値は特に限定されず、面積率が小さいほど、高温における降伏強度をより確実に高めることができる。再結晶組織の面積率は、光学顕微鏡を用いて撮影した鋼製下地材の断面における鋼板部分の写真を使用して求めることができる。
【0035】
〈製造方法〉
鋼製下地材の製造方法は、一般的な冷延鋼板の製造方法および溶融亜鉛めっき方法により行われる。鋼製下地材の製造方法の一例について以下に説明する。
【0036】
例えば、まず、所望の化学組成を有する鋼を鋳造し、鋳造した鋼を熱間圧延し、酸洗、冷間圧延を施した後、連続焼鈍ライン(CALまたはCAPL)、または連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)等のプロセスで熱処理を施し、500℃における降伏強度が250MPa以上、かつ、600℃における降伏強度が125MPa以上である鋼板を得ることができる。また、前記連続焼鈍ライン(CALまたはCAPL)等のプロセスで熱処理を施した後、溶融亜鉛めっきラインもしくは電気めっきラインで亜鉛めっきを付与、または、前記連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)のプロセスで熱処理及び溶融亜鉛めっきを付与することによって、500℃における降伏強度が250MPa以上、かつ、600℃における降伏強度が125MPa以上である亜鉛めっき鋼板を得ることができる。得られた鋼板及び亜鉛めっき鋼板を所定の大きさ、形状に加工して、鋼板下地材として用いることができる。
【0037】
前記冷延鋼板の熱処理の条件は、前記鋼の化学組成や、前記冷間圧延の条件により適宜変更することができるため、特に限定されないが、例えば、冷延鋼板を常温から650~900℃の焼鈍温度まで加熱し、焼鈍温度で1~1800s保持することが好ましい。この焼鈍処理により、鋼板の組織において、再結晶組織の面積率を20%未満とすることができる。焼鈍温度は、好ましくは680℃以上であり、また、好ましくは880℃以下である。また、焼鈍温度での保持時間(焼鈍時間)は、好ましくは5s以上であり、また、好ましくは1500s以下である。
【0038】
焼鈍処理後の鋼板は、600~400℃まで、冷却速度3~100℃/sで冷却することが好ましい。
【0039】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下にまとめる。
【0040】
上述したように、本発明の一局面に係る鋼製下地材は、500℃における降伏強度が250MPa以上、かつ、600℃における降伏強度が125MPa以上である鋼板を有する。
【0041】
このような構成の鋼板を鋼製下地材として用いることによって、鋼製下地材および耐火被覆材を備える建築物の耐火構造において、使用する耐火被覆材が少なくても耐火性能を確保することが可能な鋼製下地材を提供することができる。
【0042】
上記構成の鋼製下地材における前記鋼板は、室温での降伏強度が250MPa以上であってもよい。
【0043】
このような構成の鋼板を鋼製下地材として用いることによって、耐火性能を確保するだけでなく、室温においてより十分な強度も確保することが可能な鋼製下地材を提供することができる。
【0044】
上記構成の鋼製下地材は、さらに、前記鋼板の表面に形成された金属めっきを有してもよい。
【実施例0045】
〈試料〉
試料は、以下に説明する鋼板Aと鋼板Bを使用した。鋼板Aは、比較例であり、JIS G 3302:2019に規定されている市販の溶融亜鉛めっき鋼板(SGCC)で、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、V(バナジウム)が添加されていないものである。また、鋼板Bは、その成分組成として、C(炭素):0.06質量%、Si(ケイ素):0.02質量%、Mn(マンガン):1.45質量%、Nb(ニオブ)0.02質量%、Ti(チタン):0.04質量%を含み、残部がFe(鉄)及び不可避的不純物であり、下記の製造条件でラボ作製した冷延鋼板であり、本実施形態の要件を満たす本発明例である。
【0046】
製造条件
・熱延条件、冷延条件
スラブを1200℃で加熱し、3.6mmまで圧延し、巻取りを模擬するため550℃の保持炉に挿入し、30分保持後、炉冷した。冷却した熱延鋼板の表裏面を研削して1.6mmとした。これは実際の製造設備で、1.6mmの熱延鋼板を模擬するためのラボ上のプロセスである。その後、1.6mmの熱延鋼板を0.8mmまで冷間圧延した。
【0047】
・焼鈍条件
冷延鋼板を、700℃において60s保持し、冷却速度10℃/sで200℃以下まで冷却し、その後、放冷し、鋼板Bを得た。鋼板Bは亜鉛めっき鋼板の理想的な状態をラボで検証するために、めっきを付与していない。
【0048】
なお、製造した鋼板Bの再結晶組織の面積率は0.5%であった。なお、鋼板Aにおける鋼板の再結晶組織の面積率は100%であった。再結晶組織の面積率は、光学顕微鏡を用いて撮影した鋼板の写真を使用して求めた。
【0049】
〈評価〉
鋼板A、鋼板Bから、JIS Z 2241:2022で規定されるJIS13B号の引張試験片を採取し、JIS G 0567:2020に準じて20℃~750℃の各温度で引張試験を行い、降伏強度を測定した。100℃以上の温度では、各温度で10分間保持した後、引張試験を行った。引張試験機での引張速度は降伏強度まで0.004min-1とした。
【0050】
図1は、測定結果に基づき作成した、降伏強度と温度との関係を示すグラフである。鋼板Aの20℃における降伏強度は159MPaであり、500℃における降伏強度は123MPaであり、600℃における降伏強度は101MPaである。鋼板Bの20℃における降伏強度は901MPaであり、500℃における降伏強度は382MPaであり、600℃における降伏強度は167MPaである。図1より、鋼板Bの方が、鋼板Aに比べて各温度における降伏強度が高く、特に500℃および600℃の高温における降伏強度に優れることがわかる。
【0051】
次に、鋼板A、鋼板Bを鋼製下地材として用いたときの加熱による変型挙動について、有限要素解析(FEM)によるシミュレーションを行った。FEMには、上記の測定値に加え、鋼板A、鋼板Bの縦弾性率、横弾性率および線膨張係数を使用した。
【0052】
FEMによるシミュレーションの条件は、以下の通りとした。加熱面を四角筒形状の鋼製下地材の1つの面のみとしたのは、火災時の加熱状態を模したものだからである。
【0053】
鋼製下地材の寸法、形状
・板厚:0.8mm
・断面:一辺の長さ45mmの正方形
・長さ:2000m
・加熱面:4つの側面のうち1つのみ
・拘束条件:鋼製下地材の長手方向両端を拘束
・加熱開始時間からの時間t(min)における各面の温度T(℃)
・加熱面:T(t)=900×log10(1+0.08t)
・加熱面に対向する面:T(t)=900×log10(1+0.045(t-5))、ただし、加熱開始から5分までは室温(20℃)
・温度T(℃)における鋼板Aおよび鋼板Bの縦弾性率E(kgf/cm)および横弾性率G(kgf/cm
・縦弾性率E:E=2.14×10×exp(-0.000374T)
・横弾性率G:G=8.30×10×exp(-0.000409T)
・鋼板A、Bの線膨張係数α(1/℃):α=0.000012
また、参考例として、降伏強度がない完全弾性体についてもFEMを行った。
【0054】
図2は、上記FEMによって求めた、加熱時間(秒)と加熱面の長さ方向の歪み量との関係を示すグラフである。図2によると、比較例の鋼板Aは、加熱開始後約600sで塑性変形(座屈)を開始した。一方、本発明例の鋼板Bは、加熱開始後約1800sで塑性変形を開始した。これらのことから、鋼板Bは、鋼板Aに比べて耐火性能に優れていることがわかる。なお、図2から、参考例の完全弾性体では、塑性変形は生じていないことがわかる。
【0055】
この出願は、2022年9月22日に出願された日本国特許出願特願2022-151271号を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0056】
本発明を表現するために、前述において具体例や図面等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、建築物に使用される鋼製下地材に関する技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。
図1
図2