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特開2024-46713光学顕微鏡用治具及び光学顕微鏡の観察方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046713
(43)【公開日】2024-04-04
(54)【発明の名称】光学顕微鏡用治具及び光学顕微鏡の観察方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/34 20060101AFI20240328BHJP
   G02B 21/26 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
G02B21/34
G02B21/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152027
(22)【出願日】2022-09-23
(71)【出願人】
【識別番号】520436770
【氏名又は名称】有限会社ウィン
(74)【代理人】
【識別番号】110003454
【氏名又は名称】弁理士法人友野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷹橋 浩幸
【テーマコード(参考)】
2H052
【Fターム(参考)】
2H052AB01
2H052AB10
2H052AC05
2H052AC16
2H052AD16
2H052AD34
2H052AE05
2H052AE06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】検体の指定された領域を余すところなく観察することができる光学顕微鏡用治具及び光学顕微鏡の観察方法を提供する。
【解決手段】光学顕微鏡の観察視野から視線を離すことなく、検体を含む標本を移動させる観察方向に、(実視野/√2)以下の間隔で位置を設定し、視線が前記光学顕微鏡の観察視野の中央に集中させられる視野誘導機能を有する。特に、四つの角が全て等しい四角形のスライドグラス又はカバーグラスであって、視野誘導機能を発現するための基本単位として、少なくとも一方の対辺の近傍で、対辺に平行な直線を対称軸として略線対称の位置に設けられた一対の標識が、対辺に沿って、(実視野/√2)以下の間隔で複数設けられていることが好ましい。また、光学顕微鏡のXYステージが、所定の距離を交互に反対方向に移動させるX軸方向の操作と、一方向に(実視野/√2)以下の距離を移動させるY軸方向の操作とを交互に組み合わせる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学顕微鏡を用いて、検体の観察を遺漏なく実行するための視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具であって、
観察者が、前記光学顕微鏡の観察視野から視線を離すことなく、前記検体を含む標本を移動させる観察方向に、(実視野/√2)以下の間隔で位置を設定し、前記視線が前記光学顕微鏡の観察視野の中央に集中させられる機能を備えることを特徴とする、光学顕微鏡用治具。
【請求項2】
前記光学用顕微鏡用治具が、四つの角が全て等しい四角形のスライドグラスであって、
視野誘導機能を発現するための基本単位として、少なくとも一方の対辺の近傍で、前記対辺に平行な直線を対称軸として略線対称の位置に設けられた一対の標識が、前記対辺に沿って、(実視野/√2)以下の間隔で複数設けられているスライドグラスであることを特徴とする、請求項1に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項3】
前記一対の標識が、一対であることを識別できる表示となっていることを特徴とする請求項2に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項4】
前記光学用顕微鏡用治具が、四つの角が全て等しい四角形のカバーグラスであって、
視野誘導機能を発現するための基本単位として、少なくとも一方の対辺の近傍で、前記対辺に平行な直線を対称軸として略線対称の位置に設けられた一対の標識が、前記対辺に沿って、(実視野/√2)以下の間隔で複数設けられているカバーグラスであることを特徴とする、請求項1に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項5】
前記一対の標識が、一対であることを識別できる表示となっていることを特徴とする請求項4に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項6】
前記光学顕微鏡用治具が、XYステージのスライド機構と連動するX軸方向及び/又はY軸方向の可動ハンドルに備えられる、指先により触知可能な突起体であって、
前記スライド機構から算出される前記XYステージの前記X軸方向及び/又はY軸方向の移動量が(実視野/√2)以下であることを観察者に触知させる突起体であることを特徴とする、請求項1に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項7】
前記スライド機構が、送りネジ機構、ボールネジ機構、及び、ラック/ピニオン機構のいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項8】
前記光学顕微鏡用治具が、XYステージのX軸方向及び/又はY軸方向の可動ハンドルと連動するスライド機構に備えられ、前記可動ハンドルの操作において、指先により抵抗を触知可能であるが、前記XYステージの前記X軸方向及び/又はY軸方向の動作に影響を及ぼすことがないバネであって、
前記スライド機構の前記X軸方向及び/又はY軸方向の溝に、(実視野/√2)以下の間隔で備えられるバネであることを特徴とする、請求項1に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項9】
前記スライド機構が、送りネジ機構、ボールネジ機構、及び、ラック/ピニオン機構のいずれかであることを特徴とする請求項8に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項10】
前記一対の標識が、透明な線分によって結ばれていることを特徴とする請求項2に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項11】
前記線分が、金属酸化物で形成されていることを特徴とする請求項10に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項12】
前記一対の標識が、透明な線分によって結ばれていることを特徴とする請求項4に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項13】
前記線分が、金属酸化物で形成されていることを特徴とする請求項12に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項14】
請求項2に記載のスライドグラスと、
前記光学顕微鏡の接眼レンズを通して視認される正立虚像の円形観察視野の略中央で、前記検体を移動させて観察する方向に、(前記円形観察視野の直径/√2)以下であり、かつ、前記円形観察視野における前記標識の間隔を越える幅の一本の縞の明部と、前記明部以外の暗部とを形成する光量制御板と、
の組合せであることを特徴とする、光学顕微鏡用治具。
【請求項15】
請求項4に記載のカバーグラスと、
前記光学顕微鏡の接眼レンズを通して視認される正立虚像の円形観察視野の略中央で、前記検体を移動させて観察する方向に、(前記円形観察視野の直径/√2)以下であり、かつ、前記円形観察視野における前記標識の間隔を越える幅の一本の縞の明部と、前記明部以外の暗部とを形成する光量制御板と、
の組合せであることを特徴とする、光学顕微鏡用治具。
【請求項16】
前記光量制御板が、前記接眼レンズの筒の内部に挿入され、前記光学顕微鏡の光源から放射される光の光軸と直交するように構設され、前記明部と前記暗部を形成するように異なる光透過率の領域が形成された光学フィルターであることを特徴とする請求項14又は15に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項17】
前記光量制御板が、前記光学顕微鏡の光源から対物レンズまでの光軸が通過する所定の位置に、前記光軸と直交するように構設され、前記明部と前記暗部を形成するように異なる光透過率の領域が形成された光学スリットであることを特徴とする請求項14又は15に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項18】
請求項6~9のいずれか一項に記載の光学顕微鏡用治具と、
前記光学顕微鏡の接眼レンズを通して視認される正立虚像の円形観察視野の略中央で、検体を移動させて観察する方向に、(前記円形観察視野の直径/√2)以下である幅の一本の縞の明部と、前記明部以外の暗部とを形成する光量制御板と、
の組合せであることを特徴とする、光学顕微鏡用治具。
【請求項19】
前記光量制御板が、前記接眼レンズの筒の内部に挿入され、前記光学顕微鏡の光源から放射される光の光軸と直交するように構設され、前記明部と前記暗部を形成するように異なる光透過率の領域が形成された光学フィルターであることを特徴とする請求項18に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項20】
前記光量制御板が、前記光学顕微鏡の光源から対物レンズまでの光軸が通過する所定の位置に、前記光軸と直交するように構設され、前記明部と前記暗部を形成するように異なる光透過率の領域が形成された光学スリットであることを特徴とする請求項18に記載の光学顕微鏡用治具。
【請求項21】
観察を開始する位置に前記光学顕微鏡のXYステージを設定する第一操作を実行し、
前記第一操作が完了する位置で、前記XYステージをX軸方向のいずれか一方に所定の距離を移動させる第二操作を実行し、
前記第二操作が完了する位置で、前記XYステージをY軸方向のいずれか一方に(実視野/√2)以下の距離を移動させる第三操作を実行し、
前記第三操作が完了する位置で、前記XYステージを前記X軸方向の前記いずれか一方とは反対方向に前記所定の距離を移動させる第四操作を実行し、
前記第四操作が完了する位置で、前記XYステージを前記Y軸方向の前記いずれか一方と同一方向に(実視野/√2)以下の距離を移動させる第五操作を実行し、
前記第五操作が完了する位置で、前記XYステージを前記X軸方向の前記いずれか一方と同一方向に前記所定の距離を移動させる第六操作を実行し、
前記第六操作が完了後、前記第二操作から前記第六操作を繰り返すことを特徴とする光学顕微鏡の観察方法。
【請求項22】
請求項21に記載の観察方法において、前記X軸方向を前記Y軸方向に切換えて操作することを特徴とする光学顕微鏡の観察方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学顕微鏡用治具及び光学顕微鏡の観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡を用いる癌を始めとする病理検査及び/又は病理診断における、組織検査及び/又は組織診断、並びに、細胞検査及び/又は細胞診断は、プレパラートの検体を遺漏なく観察することが強く求められ、熟練した技能を有する各種専門技師、専門医、及び、専門検査士に委ねられている(非特許文献1)。これは、組織検査及び/又は組織診断、並びに、細胞検査及び/又は細胞診断の結果が、患者の生命に直接深く関わるためである。
【0003】
具体的には、次のような工程を経て、患者の病変が疑われる組織や細胞の光学顕微鏡観察による検査及び/又は診断が行われている。組織検査及び/又は組織診断の場合では、まず、臨床検査技師によって、内視鏡や手術等により採取された臓器等の組織がパラフィンで固められ、1000分の数ミリの薄さの切片にして染色された後、スライドグラスに載置され、カバーガラスで覆われた半永久的なプレパラートが作製される。次いで、このプレパラートが、病理専門医又は病理医による光学顕微鏡観察が行われ、良性・悪性の鑑別、診断名、病変の本態や病変の広がり、更には、治療効果や予後の判定等の形態学的な診断が行われる。細胞検査及び/又は細胞診断の場合は、まず、尿・子宮頸部・子宮内膜・喀痰等の中にある細胞や乳腺・甲状腺等の組織から得られた細胞がスライドガラスに塗られ、染色された後カバーグラスで覆われ、プレパラートが作製される。次いで、臨床検査技師が、このプレパラートの光学顕微鏡観察を行い、異常な細胞が見つけ出し、病理専門医、病理医、細胞診専門医、又は、細胞検査士によって、この異常な細胞の診断・判定が行われる。
【0004】
このような一連の業務から分かるように、光学顕微鏡を用いる検査及び/又は診断は、そのためのプレパラートを作製するだけでも労力を要するが、患者数が極めて多いため、膨大な数量のプレパラートを作製し、検査及び/又は診断する必要があり、計り知れない労力を要する。それに加え、検査及び/又は診断の結果が、患者の生命に直接深く関わる上、日本における病理検査及び/又は病理診断において、組織検査及び/又は組織診断、並びに、細胞検査及び/又は細胞診断に従事する、臨床検査技師、臨床検査専門医、病理専門医、病理医、細胞診専門医、及び、細胞検査士が極めて少ないということも重なり、これらの業務に従事する各種専門技師、専門医、及び、専門検査士には、極めて多大な身体的及び精神的負担が掛かっている(非特許文献2)。特に、病理検査及び/又は病理診断は、検体である組織又は細胞、例えば、癌等の病変を示す異常な組織又は細胞を見落とせば、患者の生命を左右する可能性があり、正確性及び信頼性が極めて重視されるので、その従事者に係る身体的負担もさることながら、精神的負担を想像することはできない。見落とすことができないという精神に及ぼす圧迫感は当事者でなければ理解することが困難である。また、このような検査及び/又は診断の性質上、迅速性も求められるので、時間的負担及び経済的負担等も無視することはできない。従って、病理検査及び/又は病理診断の従事者には、高度な検査速度及び/又は診断速度と検査精度及び/又は診断精度が求められるので、心身共に疲弊する過酷な業務が日々続いているのである。
【0005】
そして、このような検査及び/又は診断に従事する者に重くのしかかる切実な問題は、光学顕微鏡観察を用いる検査及び/又は診断であるということ自体に大きな原因の一つがある。上記の通り、病理検査及び/又は病理診断は、人体より採集された組織又は細胞が、所定の方法でプレパラートに作製され、これらのプレパラートを光学顕微鏡で観察し、疾病の検査及び/又は診断に供され、その結果、疾患の良性・悪性を含めた疾病の具体的な病理診断名が下される。問題は、この光学顕微鏡の観察視野にある。光学顕微鏡の視野は円形であり、この円形観察視野内に映し出された組織又は細胞の全体を順次観察していくことにより、個々の疾患に特徴的な顕微鏡観察所見を提示するが、通常、組織の場合で20~40倍、細胞の場合で100~200倍の倍率で行われる観察に基づいて疾病の検査を行い、診断を下す。ここで、この検査及び/又は診断の根拠になる組織や細胞が非常に少ないことは稀ではなく、この数少ない組織や細胞を見落とすことが許されないという重大な障害が立ちはだかるのである。すなわち、人間の目は、円形観察視野の中心部に注意が払われがちであり、その視野の周辺部には意識が向けられにくいという特性があるため、所定の倍率で視野を変えながら観察していく際に、視野周辺部にある組織や細胞は見逃しやすいという事実が存在するのである。つまり、視野周辺部にある僅か1~2個の細胞であっても、例えば、その細胞が癌細胞であったとしたならば、それらを見落とすことは、患者の悪性疾患を正確に検査及び/又は診断をしなかったことになり、患者の生命に関わる重大な誤診となりえるのである。
【0006】
しかしながら、従来の光学顕微鏡観察を用いる組織検査及び/又は組織診断並びに細胞検査及び/又は細胞診断では、人間の目の特性を考慮し、身体的負担、精神的負担、時間的負担、及び、経済的負担等を積極的に軽減し、検査及び/又は診断の正確性及び信頼性を高める技術は存在しない、もしくは存在が認めらない。
【0007】
例えば、花粉検査、水質検査、血液検査及び/又は血液診断、並びに、尿検査及び/又は尿診断等において、標準計数板が開発され(特許文献1)、一般的には、格子状界線が形成された界線スライドグラスとして広く利用されている(非特許文献3及び4)。試料又は検体に境界を設け、試料又は検体中の花粉、微生物、血球、尿沈渣等の計数を主たる目的とするものであり、試料又は検体を観察する視野を正確に誘導し、見落とさないという着想は認められない。
【0008】
また、病理検査及び/又は病理診断において、それぞれの検査の仕様、並びに、試料又は検体の種類及び状態等に応じた印刷パターンが施されたスライドグラスが利用されている(非特許文献5)。例えば、リングマーク及び角形枠等のパターン、並びに、リング番号及び枠番号等の文字が、シルバーステイン印刷、フロストインク印刷、紫外線(UV)硬化型インク印刷、高撥水性フッ素樹脂ベースインク印刷等によりスライドグラスに形成されている。試料又は検体の位置及び領域の指示、並びに、液状の試料又は検体の保持等、検査及び/又は診断の効率化に一定の役割を果たしている。しかしながら、このような印刷パターン及び番号にも、試料又は検体を観察する視野を正確に誘導すると共に、円形観察視野の中心部に注意が払われがちな人間の目の特性を考慮した、見落とさないという着想は認められない。
【0009】
これは、界線や各種印刷パターン自体が、検体である組織又は細胞の中から検出すべき癌等の病変を示す異常な組織又は細胞を光学的に遮蔽する危険性を内在するものであることから明白である。つまり、1~2個の細胞が、上記界線や各種印刷パターンによって遮蔽されてしまうことが想定され、その細胞が癌細胞であったとしたならば、それらを見落とすことは、患者の悪性疾患を正確に検査及び/又は診断をしなかったことになり、患者の生命に関わる重大な誤診となりえるからである。また、観察する視野の正確な誘導も、円形観察視野の中心部に注意が払われがちな人間の目の特性も全く考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11-304672号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】マツダ病院臨床病理検査室,「病理細胞診検査」,[online],[2022年7月18日検索],インターネット<https://hospital.mazda.co.jp/section/rinsho_byori_07.html>
【非特許文献2】一般社団法人日本臨床検査医学会,「臨床検査専門医の声 臨床検査専門医と病理専門医」,[online],[2022年7月18日検索],インターネット<https://www.jslm.org/recognition/purpose/07.html>
【非特許文献3】松浪硝子工業株式会社,「界線スライドグラス」,[online],[2022年7月18日検索],インターネット<http://www.matsunami-glass.co.jp/product/gene/boundary_line_glass_slide/>
【非特許文献4】環境省花粉観測システム(はなこさん),「花粉ライブラリ,3.ダーラム法に関して(抜粋)」,[online],[2022年7月18日検索],インターネット<http://kafun.taiki.go.jp/Library.html>
【非特許文献5】松浪硝子工業株式会社,「印刷スライドグラス」,[online],[2022年7月18日検索],インターネット<http://www.matsunami-glass.co.jp/product/technical/printing_glass_slide/>
【非特許文献6】株式会社渋谷光学,「接眼ミクロメーターについての知識」,[online],[2022年7月18日検索],インターネット<https://www.shibuya-opt.co.jp/opt_manual.html>
【非特許文献7】カールツァイスメディテック株式会社,「スリットランプ SL115 Classic」,[online],[2022年7月18日検索],インターネット<https://www.info.pmda.go.jp/ygo/pack/200519/13B1X00119001080_A_01_02/>
【非特許文献8】オリムベクスタ株式会社,「Nо.12 自作しなくていいんです!装置ユニットで「設計・調達・組立・検査」の大幅削減に貢献」,[online],[2022年8月18日検索],インターネット<https://www.orimvexta.co.jp/support/specialcontents/mecha_unit_assy_servise/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
背景技術で説明したように、病理検査及び/又は病理診断には、患者の生命を担う重大な責務を伴うため、これらに従事する臨床検査技師、臨床検査専門医、病理専門医、病理医、細胞診専門医、及び、細胞検査士には、日々過酷な業務が続いている。従って、これら病理検査及び/又は病理診断の従事者の心身の疲労の低減、安心した業務の遂行に繋がる技術を創出することが、本技術分野における急務となっている。
【0013】
本発明は、上述した諸々の問題に対して解決策を与えることを企図したものであり、光学顕微鏡を用いる癌を始めとする病理検査及び/又は病理診断における、組織検査及び/又は組織診断、並びに、細胞検査及び/又は細胞診断等において、これらに従事する各種専門技師、専門医、及び、専門検査士が、接眼レンズから眼を離すことなく、すなわち、観察視野から視線を離すことなく、プレパラート(標本)に調製された検体の指定された領域を余すところなく観察することができ、この領域内に存在する数少ない病変とされる細胞も遺漏なく視認できることによって、誤診に繋がることがない正確な検査及び/又は診断を迅速に行える上、労力を低減し、安心して業務を遂行することができる、言い換えれば、身体的負担、精神的負担、時間的負担、及び、経済的負担等を積極的に軽減し、検査及び/又は診断の正確性及び信頼性を高める、光学顕微鏡用治具及び光学顕微鏡の観察方法の提供を目的としている。ここで、観察視野から視線を離すことなく細胞検査及び/又は病理診断を行えることも、検体を見落とさない上で重要な因子であることは明白である。
【0014】
そして、本発明の技術的本質は、光学顕微鏡による検査及び/又は診断であるということ自体に起因する課題を克服するために、すなわち、光学顕微鏡観察の接眼レンズから視える円形観察視野の中心部に注意が払われがちで、その視野の周辺部には意識が向けられにくいという人間の目の特性による検体の観察の遺漏、特に、検体の中の異常な組織又は細胞等の特異点の視認の遺漏を克服するために、観察視野から視線を離すことなく、観察者の視線が正確に誘導されることにあり、本発明の目的は、このような視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具及び光学顕微鏡の観察方法を提供することにある。
【0015】
ここで、本発明の光学顕微鏡用治具とは、光学顕微鏡観察による細胞検査及び/又は細胞診断等が、検体を含む標本の指定された領域を余すところなく観察するという作業を、多数の標本で繰り返し行われるため、迅速かつ正確で、安心して作業が行えるように、観察視野から視線を離すことなく検体の位置を精度よく設定することができる機能及び機構を備えている光学顕微鏡に特徴的な用具、器具、器械、部品等の総称であり、特に限定されるものではない。本明細書では、本願発明を、標本製作用具、光学顕微鏡に付設する用具及び部品等を例示して説明するが、本願発明の技術的思想は、観察視野から視線を離すことなく、検体の位置を精度よく設定する機能にあり、その解決手段は、明細書に記載された技術に限定されるものではない。また、光学顕微鏡の観察方法は、既存の光学顕微鏡装置を用いて実施することが可能であるため、本発明の光学顕微鏡用治具を用いる方法に限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上述した課題の解決にあたり、まず、人体より採集された細胞をスライドガラスに塗り、染色をした後、カバーグラスを覆って作製されたプレパラートを光学顕微鏡で観察し、異常な細胞が見つけ出すと共に、見つけ出された細胞から、患者の疾病を診断及び/又は判定する細胞検査及び/又は細胞診断に長年携わってきた豊富な経験をもとに試行錯誤を繰り返した結果、光学顕微鏡の円形観察視野の周辺部には意識が向けられ難く、その中心部に注意が払われがちであるという特性という人間の目の特性を利用し、スライドグラス又はカバーグラスの周縁に視野を誘導する標識を設けることによって、観察視野の中央部を検体が通過するように視野を移動させることができ、検体を余すところなく観察可能であるばかりか、検体の中の異常組織又は細胞等の特異点の視認の遺漏を観察視野から視線を離すことなく克服できることを見出した。また、このことから、光学顕微鏡のXYステージの動作の制御によっても、全く同様の効果を奏することを着想した。更に、スライドグラス又はカバーグラスの周縁に視野を誘導する標識間に透明な線分を形成すること、又は、観察視野の中央部に縞状の明部を形成することによって、観察視野中央部に視線をより集中させることができ、検査及び/診断の精度及び速度がより高まることも見出し、本発明の完成に至った。
【0017】
すなわち、本発明の第1の態様に係る光学顕微鏡用治具は、光学顕微鏡を用いて、検体の観察を遺漏なく実行するための視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具であって、観察者が、光学顕微鏡の観察視野から視線を離すことなく、検体を含む標本を移動させる観察方向に、(実視野/√2)以下の間隔で位置を設定し、視線が光学顕微鏡の観察視野の中央に集中させられることを特徴とする。
【0018】
このような光学顕微鏡用治具は、観察視野から視線を離すことなく検体の位置を精度よく設定することができる機能及び機構を備えている光学顕微鏡に特徴的な用具、器具、器械、部品等であれば、特に限定されるものではないが、以下の光学顕微鏡用治具であることが好ましい。
【0019】
まず、本発明の第2の態様として、第1の態様において、視野誘導機能を付与した標本作製用具のスライドグラスであり、このスライドグラスは、四つの角が全て等しい四角形のスライドグラスであって、視野誘導機能を発現するための基本単位として、少なくとも一方の対辺の近傍で、対辺に平行な直線を対称軸として略線対称の位置に設けられた一対の標識が、対辺に沿って、(実視野/√2)以下の間隔で複数設けられているスライドグラスであるとしてもよい。光学顕微鏡を用いた検体の遺漏のない観察の実行とは、プレパラートの検体の指定された領域を余すところない観察を実行することができる上、この領域内に存在する数少ない特異点を遺漏なく視認することが実行可能であることを意味する。なお、近傍とは、長辺又は短辺上の点を中心として任意の半径で円を描いたときの円内の点全体の集合であり、以下同様の意味で用いられる。
【0020】
標識は、正確な位置が指示され認識されることができ、一対の標識の一端から他端にスライドグラスを移動させて、一対の標識間の観察を完了した後、他端で認識される標識に対して、一対の標識を結ぶ直線と垂直方向に、(実視野/√2)以下の距離で隣接する標識へスライドグラスを正確に移動させることができる視野誘導機能を有する記号であれば、特に限定されるものではない。記号とは、このような正確な移動が行うことができる、文字・符号・標章等を含み、符号は、線分、矢印、図形等をふくむ。ただし、光学顕微鏡のXYステージの精度が悪い場合に、隣接する一対の標識を見誤る可能性があるため、少なくとも隣接する一対の標識が識別できるように表示されていることが好ましい(本発明の第3、第5の態様とすることができる)。ある一対の標識が同一であり、それと異なる隣接する一対の標識であってもよいし、隣接する一対の標識の近辺に目印を付けてもよい。
【0021】
標識の対辺に沿った間隔は、(実視野/√2)の距離の場合、プレパラートの全領域を余すところなく観察することができる最大の長さになる。しかし、標識の位置精度により誤差を生じ、観察されない領域が僅かに生成されることが想定されるため、(実視野/√2)×0.95以下であることが好ましく、(実視野/√2)×0.85以下であることがより好ましく、(実視野/√2)×0.75以下であることがより更に好ましい。しかし、この間隔が、(実視野/√2)×0.50未満になると、重複して観察される領域が増加し、検査及び/又は診断時間が長くなるため、(実視野/√2)×0.50以上であることが好ましく、(実視野/√2)×0.55以上であることがより好ましく、(実視野/√2)×0.60以上であることがより更に好ましい。
【0022】
また、視野誘導機能を発現するための基本単位となる一対の標識を設ける位置は、スライドグラスの対辺の近傍で、その対辺に平行な直線を対称軸として略線対称の位置であり、所定の間隔で対辺に沿って設けられるのであるが、この位置関係を満足すれば、スライドグラスの表面から裏面に至るどこに設けられても問題はない。しかし、焦点を合わせる操作に無駄がないためには、検体と同一面であるスライドグラス表面に、標識が設けられることが好ましい。
【0023】
ところで、スライドグラスは、一般的に、長方形であるが、本発明のスライドグラスは、四つの角が全て等しい四角形であれば、特に限定されるものではなく、長方形の特殊な場合である四辺が全て等しい正方形でも問題はない。このスライドグラスが四つの角がすべて等しい四角形である必要性は、本発明の標識を設けているスライドガラスが、光学顕微鏡のXYステージと同期して移動することができ、視野誘導機能を十分に発現できる条件を満足する形状であることに基づいている。
【0024】
本発明の視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具に関する上記説明では、具体性を欠くため、視野誘導機能を発現する根源となる標識を特定し、標識を設けたスライドグラスが、視野を誘導する光学顕微鏡用治具として機能する機構を視覚的に説明する。
【0025】
例えば、標識を短い線分とし、視野誘導機能を発現するための基本単位となる一対の標識が、検体が載置されている長方形のスライドグラスの表面の、光学顕微鏡のXYステージのX軸に平行な対辺に垂直に交わり、線対称の位置関係にある短い二本の線分であるとする。長方形のスライドグラスは、正方形でも良く、視野を誘導する標識は、検体の観察の弊害とならない、位置を特定できるものであれば、スライドグラス周縁部に向かう短い矢印や点等の記号でもよく、特に限定されるものではない。この一対の標識が、対辺に沿って(実視野/√2)の間隔で複数配置され、左端の一対の標識、左端の一対の標識に隣接する一対の標識を第一の標識とすれば、順に、第二の一対の標識、第三の一対の標識と命名することができ、右端の一対の標識まで一対の標識が配置される。そして、プレパラートは、観察すべき検体が、左端の一対の標識と右端の一対の標識の間に載置されるように調製される。このように標識が設けられたスライドグラスを用いたプレパラートの、標識が設けられている対辺の上端から下端への視野の移動(プレパラートは逆に移動)及びその逆の移動、並びに、もう一方の対辺の左端から右端への視野の移動(プレパラートは逆に移動)及びその逆の移動を適宜選択し組み合わせ、検査及び/又は診断のための観察が実行されると、次のような効果を奏する。
【0026】
まず、光学顕微鏡観察の接眼レンズから視える正立虚像の円形観察視野に、プレパラート上端の左端の一対の標識が認識できるように、プレパラートを移動させると共に、この標識と隣接する第一の一対の標識の上端の標識が、円形観察視野内に収まるようにプレパラートを左に微調整すれば、左端の一対の標識を結ぶ直線より右側に検体があるので、観察すべき検体が円形観察視野の中央部に存在するようになる。
【0027】
次いで、下端で隣接する左端の一対の標識と第一の一対の標識が正立虚像の円形観察視野内で認識できるまで、プレパラートを対辺の直角方向(XYステージのY軸方向)に上端から下端へと移動させると、スライドグラスに設けられた隣接する左端の一対の標識と第一の一対の標識で囲まれた長方形の検体を遺漏なく観察できる上、円形観察視野の中央部を検体が通過するため、人間の目の特徴である視野周辺部には意識が向けられにくいという問題を解決し、検体中の数少ない特異点を遺漏なく視認することができる。しかも、スライドグラスには、観察すべき検体の領域を識別するためのような、検体を光学的に遮蔽するものが何も形成されていないので、検体中の数少ない特異点を見落とすことはない。
【0028】
この観察が完了すれば、プレパラートを左に移動させると、上記円形観察視野で認識されている左端の一対の標識に隣接する第一の一対の標識が左側に移動し、上記円形観察視野で認識されていた隣接する一対の標識と同様、第一の一対の標識と第二の一対の標識が円形観察視野内に認識されるようにできる。
【0029】
そして、先程とは逆に、上端で隣接する第一の一対の標識と第二の一対の標識が認識できるまで、プレパラートを対辺の直角方向に下端から上端へ移動させると、新しく隣接する第一の一対の標識と第二の一対の標識で囲まれた長方形の検体を観察できる。
【0030】
この一連の操作を、右端の一対の標識を結ぶ直線まで行うことによって、検体を遺漏なく観察できる上、円形観察視野の中央部を検体が常に通過するため、人間の目の特徴である視野周辺部には意識が向けられにくいという問題を解決し、検体中の数少ない特異点を遺漏なく視認することができる。
【0031】
円形観察視野の中央部を検体が通過させるためには、一対の標識の間隔が狭い程好ましいが、検体の全領域を観察するための移動距離が長くなるため、適度な間隔で行われる必要がある。また、一対の標識が、長辺に平行な対称軸を中心に線対称な位置に設けられているため、プレパラートのXYステージ上での移動やXYステージ自体の不具合を見出すこともできる。
【0032】
また、上記のように、対辺の上端の左端の一対の標識が認識できるように、プレパラートを移動させた後、この標識と隣接する第一の一対の標識が円形観察視野内に収まるようにプレパラートを左に微調整する必要はなく、対辺の上端の左端の一対の標識と一対を成す対辺の下端の左端の一対の標識が認識できるまで、プレパラートを直角方向に上端から下端へ移動させてもよい。この観察が完了すれば、プレパラートを左側に移動させ、左端の一対の標識と隣接する第一の一対の標識の下端の第一の一対の標識を、左端の一対の標識の下端の位置に移動させ、先程とは逆に、プレパラートを直角方向に下端から上端へ移動させ、この一連の操作を繰り返すと、隣接する一対の標識に囲まれる長方形を次々と観察することができる。この場合は、一対の標識を結ぶ直線付近が、円形観察視野の中央部となるが、検体を遺漏なく観察できる上、円形観察視野の中央部を検体が常に通過するため、人間の目の特徴である視野周辺部には意識が向けられにくいという問題を解決し、検体中の数少ない特異点を遺漏なく視認することに変わりはない。
【0033】
上記説明では、長方形のスライドグラスの長辺に標識を設けた場合を例示したが、短辺に標識を設けてもよいが、双方に標識を設けておくことが好ましい。プレパラートを移動させる観察方向が、観察者によって異なるためである。
【0034】
従って、視野誘導機能を発現するための基本単位として、長辺及び/又は短辺の近傍で、長辺及び/又は短辺に平行な直線を対称軸として略線対称の位置に設けられた一対の標識が、長辺及び/又は短辺に沿って、(実視野/√2)以下の間隔で複数設けられているスライドグラスは、視野を適切に誘導することによって、検体を遺漏なく観察できる上、円形観察視野の中央部を検体が常に通過するため、人間の目の特徴である視野周辺部には意識が向けられにくいという問題を解決し、検体中の数少ない特異点を遺漏なく視認することができる光学顕微鏡用治具として機能するのである。しかも、接眼レンズを通して観察される視野に、このスライドグラスに設けられた標識が視認され、観察者の視野が誘導されるので、観察者は、接眼レンズから眼を離すことなく、すなわち、観察視野から視線を離すことなく、全ての検体を遺漏なく観察することができる。
【0035】
ところで、上記本発明の標識は、既に説明したように、視野誘導機能を有する記号であれば、特に限定されるものではないが、検体の観察の弊害にならず、位置を正確に特定して指示することができるという観点から、記号や文字等を用いることができるが、線分、矢印、多角形、及び、正負等の符号が好ましい。また、標識の形成方法も、光学顕微鏡観察のための試料の染色等の処理に対する物理的及び化学的安定性を備えている標識を形成可能な方法であれば限定されるものではないが、特に、ガラスのフロスト加工、エッチング加工、及び、ステイン加工、並びに、UV硬化印刷、及び、熱硬化印刷等が好ましい。
【0036】
検体の観察を遺漏なく実行するための視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具として、このような標識が設けられたスライドグラスの機能は、全く同様の標識が設けられたカバーグラスの機能にも適合する。すなわち、本発明の第4の態様に係る光学顕微鏡用治具として、第1の態様において、四つの角が全て等しい四角形のカバーグラスであって、視野誘導機能を発現するための基本単位として、少なくとも一方の対辺の近傍で、対辺に平行な直線を対称軸として略線対称の位置に設けられた一対の標識が、対辺に沿って、(実視野/√2)以下の間隔で複数設けられているカバーグラスであるようにしてもよい。
【0037】
標識の性状、間隔、及び、位置、並びに、その効果等については、スライドグラスの場合と全く同様であるため、説明を省略する。ただし、カバーグラスは、正方形が一般的ではあるが、スライドグラスと比較して、形状が多様化しており、円形や長方形等のカバーグラスも使用されている。本発明のカバーグラスは、視野誘導機能を発現しなければならないため、スライドグラス同様、四つの角が全て等しい四角形に限定される。すなわち、カバーグラスの形状は長方形又は正方形であって、正方形の場合は、四つの辺の長さがすべて等しい特殊なカバーグラスとして考えることができる。
【0038】
このようなスライドグラス及びカバーグラスに設けられる標識は、これらを用いたプレパラートが載置されるXYステージを精度よく移動させて、視野を誘導するものである。このことは、XYステージを精度よく移動させることができれば、スライドグラス及びカバーグラスに視野を誘導する標識を設ける必要はないことを意味し、既に、送りネジ機構、ボールネジ機構、及び、ラック/ピニオン機構等のスライド機構にマイクロメータを備えることによって実現されている。従って、問題は、観察視野から視線を離すことなく、XYステージを精度よく移動することにある。
【0039】
そこで、本発明者らは、XYステージの可動ハンドルの回転運動を、XYステージの直線運動に変換させるスライド機構の特徴を利用して、スライドグラス及びカバーグラスに設けた標識同様、観察視野から視線を離すことなく、XYステージ、すなわち、プレパラートを精度よく移動させる方法を検討した。その結果、可動ハンドル又はスライド機構に治具を設置すれば、観察視野から視線を離すことなく、XYステージを(実視野/√2)以下の一定の間隔で移動させることが可能であることを見出した。
【0040】
すなわち、本発明の第6の態様として、第1の態様において、XYステージのスライド機構と連動するX軸方向及び/又はY軸方向の可動ハンドルに備えられる、指先により触知可能な突起体であって、スライド機構から算出されるXYステージのX軸方向及び/又はY軸方向の移動量が(実視野/√2)以下であることを観察者に触知させる突起体であるとしてもよい。
【0041】
スライド機構としては、スライド機構からXYステージの移動量が算出し易い、送りネジ機構、ボールネジ機構、及び、ラック/ピニオン機構のいずれかであることが好ましい(本発明の第7の態様とすることができる)。これは、これらのスライド機構の場合、可動ハンドルの1回転をXYステージのX軸方向及び/又はY軸方向の移動量と同期させることができるためである。
【0042】
この移動量は、段落0021に示した標識の対辺に沿った間隔と同様、(実視野/√2)の距離の場合、プレパラートの全領域を余すところなく観察することができる最大の長さになる。しかし、標識の位置精度により誤差生じ、観察されない領域が僅かに生成されることが想定されるため、(実視野/√2)×0.95以下であることが好ましく、(実視野/√2)×0.85以下であることがより好ましく、(実視野/√2)×0.75以下であることがより更に好ましい。しかし、この間隔が、(実視野/√2)×0.50未満になると、重複して観察される領域が増加し、検査及び/又は診断時間が長くなるため、(実視野/√2)×0.50以上であることが好ましく、(実視野/√2)×0.55以上であることがより好ましく、(実視野/√2)×0.60以上であることがより更に好ましい。
【0043】
このような可動ハンドルに備えられる突起体は、光学顕微鏡用治具として、可動ハンドルに脱着可能な突起体としてもよいが、可動ハンドルに一体的に成形される、指により触知可能な形状であってもよく、その形状は、特に限定されるものではない。
【0044】
また、上記方法とは異なる、XYステージを精度良く移動させることが可能な本発明の別の態様に係る光学顕微鏡用治具として、第8の態様として、本発明の第1の態様において、XYステージのX軸方向及び/又はY軸方向の可動ハンドルと連動するスライド機構に備えられ、可動ハンドルの操作において、指先により抵抗を触知可能であるが、XYステージのX軸方向及び/又はY軸方向の動作に影響を及ぼすことがないバネであって、スライド機構のX軸方向及び/又はY軸方向の溝に、(実視野/√2)以下の間隔で備えられるものとしてもよい。
【0045】
この場合は、バネの脱着性という観点から、スライド機構として、送りネジ機構、ボールネジ機構、及び、ラック/ピニオン機構のいずれかを選択することが好ましい(本発明の第9の態様とすることができる)。移動量は、スライドグラス及びカバーグラスに備えられる標識、並びに、上記ハンドルに備えられる突起体の場合と同様であるので、説明を省略する。
【0046】
バネは、ゴムバネ、流体バネであることが好ましい。ゴムバネの場合、復元性に優れた、ウレタンゴム、シリコンゴム、及び、天然ゴムが好ましく、摺動性に優れたシリコンゴムであることが特に好ましい。流体バネの場合は、ゴムに、気体、液体、及び、気体と液体が密閉された物が好ましく、ゴムの材質は、ゴムバネと同様である。また、その形状は、ネジの溝及びラックの溝の谷部に沿って挿入される、バネだけで固定可能なリング状が適している。
【0047】
更に、光学顕微鏡の円形観察視野の中心部に注意が払われがちで、その視野の周辺部には意識が向けられにくいという人間の目の特性をより積極的に利用することに着目し、円形観察視野の中心部をより一層注視させることができる視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具を創案した。
【0048】
この発明には、二つの方法がある。第一の方法は、標識を備えているスライドグラス又はカバーグラスにおいて、更に、対辺に備えられている一対の標識間を結ぶ透明な線分を設けた光学顕微鏡用治具とする方法である(本発明の第10、第12の態様とすることができる)。この透明な線分によって視野が誘導されると共に規制され、更に、視野誘導機能と円形観察視野の中心部に視線を集中させる機能を高める効果を奏することができる。第二の方法は、標識を備えているスライドグラス若しくはカバーグラス、又は、XYステージを精度よく移動させる治具と、観察視野に明暗部を形成する光量制御板とを組み合わせた光学顕微鏡用治具である(本発明の第18の態様とすることができる)。この光量制御板は、光学顕微鏡の接眼レンズを通して視認される正立虚像の円形観察視野の略中央で、検体を移動させて観察する方向に、(正立虚像の円形観察視野の直径/√2)以下であり、かつ、スライドグラス又はカバーグラスの標識の正立虚像の円形観察視野における間隔を越える幅の一本の縞状の明部と、この明部以外の暗部とを形成するものであり(本発明の第14、第15の態様とすることができる)、暗部では検体を視認することができず、円形観察視野の中心部に視線を集中させる機能を高める効果を奏する。
【0049】
上記第一及び第二の方法は、従来技術の問題点を解決したものでもある。従来の界線スライドグラスや印刷スライドグラス等に形成される記号は、ガラスのフロスト加工、エッチング加工、及び、ステイン加工、並びに、UV硬化印刷、熱硬化印刷等で形成された不透明な記号であるため、人間の目を光学顕微鏡の円形観察視野の中心部に誘導及び規制するための記号としてスライドグラス又はカバーグラスの中央部に設けると、記号で光学的に遮蔽される僅かな検体の異常な組織及び/又は細胞を見落とす可能性がある(非特許文献3~5)。これは、患者の悪性疾患を正確に検査及び/又は診断をしなかったことになり、患者の生命に関わる重大な誤診となる。この問題を解決するために、本発明のスライドグラス又はカバーグラスは、周縁部に標識が設けられるが、その中央部には、検体を光学的に遮蔽するものが何も形成されていないのである。
【0050】
しかし、第一の方法である標識を結ぶ透明な線分であれば、検体を光学的に遮蔽することがなく、円形観察視野の中心部を更に注視するように、視野を誘導及び規制することができる。第一の方法である。特に、段落0022~0028に例示したように、隣接する一対の標識を結ぶ透明な線分二本が円形観察視野に入るように観察することが好ましい。また、このような透明な線分に直行する線分を所定の間隔で設けることがより更に好ましい。これによって、円形観察視野の移動方向への視野も規制され、円形観察視野の中心部をより一層注視することができるようになる。
【0051】
第二の方法も、第一の方法と同じ目的であるが、第一の方法では、透明な線分が、光学的に遮蔽することなく、円形観察視野の中心部に視野を誘導して規制する機能を果たすのに対し、第二の方法では、暗部及び明暗が形成する境界が、その機能を担っている。
【0052】
上記二つの方法は、同じ目的であるため、同じように利用され、同じような効果を奏するので、一例として、第二の方法について、例えば、段落0022~0028で説明したスライドグラスである光学顕微鏡用治具と、そのスライドグラスの標識に対応した光量制御板を組み合わせた場合の観察状況を詳しく説明する。
【0053】
接眼レンズを通して視認される正立虚像の円形観察視野には、光量制御板によって形成される縞状の明部と暗部は次のように視認される。ここでも、光量制御板によって正立虚像の円形観察視野で視認される縞状の明部の幅を、一例として、(正立虚像の円形観察視野の直径/√2)の場合について説明する。光学顕微鏡観察の接眼レンズから視える正立虚像の円形観察視野に、プレパラート上端の左端の一対の標識が認識できるように、プレパラートを移動させると共に、この標識と隣接する第一の一対の標識の上端の標識が、円形観察視野内に収まるようにプレパラートを左に微調整する。このようにプレパラートの位置を調整すると、光量制御板で形成される縞は、検体を移動させて観察する方向である、プレパラートの上端から下端に向かって、一対の標識を結ぶ直線と平行して認められる。そして、明部と暗部の境界線が、左端の一対の標識を結ぶ直線と、第一の一対の標識を結ぶ直線と一致するように形成される。このように、円形観察視野の左端の一対の標識を結ぶ直線と第一の一対の標識を結ぶ直線の両外側は暗部となり、人間の目で観察されることはないので、検体を移動させて観察する領域が、常に円形観察視野の中央部に位置するため、円形観察視野に明部と暗部がない場合よりも集中した検査及び/又は診断を実行することができる。このことは、段落0022~0028の一連の操作において、一対の標識が結ぶ直線に沿って明部と暗部の境界が移動するため、検体を遺漏なく観察できる上、円形観察視野の中央部だけを観察可能な検体が常に通過するため、人間の目の特徴である視野周辺部には意識が向けられにくいという問題を解決し、検体中の数少ない特異点を遺漏
なく視認することができる。また、この場合も、明部と暗部との境界で組織又は細胞が遮
蔽されることはない。
【0054】
段落0029のように、対辺の上端の左端の一対の標識が認識できるように、プレパラートを移動させた後、この標識と隣接する第一の一対の標識が円形観察視野内に収まるようにプレパラートを左に微調整することなく、対辺の上端の左端の一対の標識と一対を成す対辺の下端の左端の一対の標識が認識できるまで、プレパラートを直角方向に上端から下端へ移動させる場合においても同様に、光量制御板が形成する円形観察視野の明部と暗部は機能する。左端の一対の標識を結ぶ直線を明部の領域に入るように、即ち、左端の一対の標識の上端の標識を明部の領域に入るようにして、段落0029と同様にプレパラートを移動すれば、明部を次々と観察することになり、検体の全領域を遺漏することなく観察できる上、円形観察視野の中央部を検体が常に通過するため、人間の目の特徴である視野周辺部には意識が向けられにくいという問題を解決し、明部と暗部がない場合と比較して、検体中の数少ない特異点を遺漏なく視認する精度が高められる。
【0055】
そして、第一の方法の透明な線分を形成する方法としては、ガラスに形成された金属酸化物薄膜のエッチング加工、透明性の高い色素及び顔料を用いたUV硬化インキ又は熱硬化インキによる印刷等を挙げることができる(本発明の第11、第13の態様とすることができる)。この線分の可視光線透過率(T%)は、線分と検体の視認性という観点から、波長550nmの可視光線について、15%≦T≦70%であることが好ましく、20%≦T≦65%であることがより好ましく、25%≦T≦60%であることがより更に好ましい。
【0056】
特に、デイスプレイの分野で透明導電膜として使用されている金属酸化物薄膜のエッチング加工によって形成される透明な線分が、均一な膜厚による均一な光透過率で、視認性に優れると共に、物理的及び化学的安定性に優れており、プレパラートの作製方法によらず好ましく用いられる。このような金属酸化物薄膜としては、酸化インジウム錫(In、Indium Tin Oxide、ITO)系透明導電膜、酸化亜鉛(Zinc Oxide、ZnO)系透明導電膜、酸化錫(Tin Oxide、SnO)系透明導電膜等を挙げることができる。この場合、導電性に優れている必要がないため、各種透明導電膜で使用されるドーピング剤は必ずしも必要としない。
【0057】
一方、接眼レンズを通して視認する正立虚像の円形観察視野に、縞状の明部とそれ以外の暗部を形成することが可能な光量制御板も、特に限定されるものではないが、簡易に製造でき、脱着が容易であるという利便性という観点から、次に示す光学顕微鏡用治具であるものが好ましい。
【0058】
第一に、光量制御板が、接眼レンズの筒の内部に挿入され、光学顕微鏡の光源から放射される光の光軸と直交するように構設され、縞状の明部とそれ以外の暗部を形成するように異なる光透過率の領域が形成された光学フィルターであることを特徴とするものである(本発明の第16、第19の態様とすることができる)。
【0059】
これは、光学顕微鏡の接眼レンズを通して視る正立虚像の円形観察視野において、検体
の大きさを計測することができる接眼ミクロメーターの技術を適用するものである(非特許文献6)。従って、この光学フィルターは、視野数より僅かに短い直径の円形板であって、例えば、スライドグラスの対辺に設けられた一対の標識の間隔が(実視野/√2)の場合、(対物レンズの倍率×実視野/√2)=(視野数/√2)以上の幅の光透過率の高い縞状領域が、円形板の中央に形成され、それ以外の部分は、光透過率の低い物質が形成され、遮光される。このようにして形成される円形板上の光透過率の高い縞状領域の図形の点対称の位置は、円形板の中心と一致する。
【0060】
光学フィルターは、ガラス板や透明な樹脂板であることが好ましく、光量を制御し、遮光する方法としては、特に限定されるものではないが、光吸収タイプ及び光反射タイプであるものが好ましい。物理蒸着等でガラス板や透明樹脂板に形成された金属や金属酸化物等の薄膜のエッチング、カーボンブラック等を顔料とした遮光性インキの印刷、ガラスのステイン印刷、及び、スリガラス状のフロスト加工等の方法で形成することができる。
【0061】
第二に、光量制御板が、光学顕微鏡の光源から対物レンズまでの光軸が通過する所定の位置に、この光軸と直交するように構設され、縞状の明部とそれ以外の暗部を形成するように異なる光透過率の領域が形成された光学スリットであることを特徴とするものである(本発明の第17、第20の態様とすることができる)。
【0062】
これは、検眼用器具として使用される細隙灯顕微鏡のスリットランプの技術を適用し、細い幅の光の縞状の明部が、接眼レンズを通して視る正立虚像の円形観察視野において形成されるものである(非特許文献7)。
【0063】
この光学スリットは、光学顕微鏡の照明系の光路に構設される位置は、特に限定されないが、コレクタレンズの後方に光学スリットを設けることが好ましい。また、光学スリットは、スライドグラス又はカバーグラスに設けられる標識の間隔に対応できるように、スリット幅を制御できる可変式光学スリットであることが好ましい。
【0064】
以上、本発明の光学顕微鏡用治具について説明してきたが、その技術的本質は、光学顕微鏡による検査及び/又は診断であるということ自体に起因する、光学顕微鏡観察の接眼レンズから視える円形観察視野の中心部に注意が払われがちで、その視野の周辺部には意識が向けられにくいという人間の目の特性による検体の観察の遺漏、特に、検体の中の異常な組織又は細胞等の特異点の視認の遺漏という課題を克服するために、観察視野から視線を離すことなく、観察者の視線が正確に誘導されることにある。この技術的本質に鑑みると、本発明の光学顕微鏡用治具を用いた光学顕微鏡の観察方法には、全て次のような共通点がある。光学顕微鏡のXYステージが、所定の距離を交互に反対方向に移動させるX軸方向の操作と、一方向に(実視野/√2)以下の距離を移動させるY軸方向の操作とを交互に組み合わせることによって移動され、プレパラートの観察が行われることである。又、光学顕微鏡のXYステージが、X軸とY軸を切換えて移動され、プレパラートの観察が行われることである。従って、本発明は、観察を開始する位置に光学顕微鏡のXYステージを設定する第一操作を実行し、第一操作が完了する位置で、XYステージをX軸方向のいずれか一方に所定の距離を移動させる第二操作を実行し、第二操作が完了する位置で、XYステージをY軸方向のいずれか一方に(実視野/√2)以下の距離を移動させる第三操作を実行し、第三操作が完了する位置で、XYステージをX軸方向の上記いずれか一方とは反対方向に所定の距離を移動させる第四操作を実行し、第四操作が完了する位置で、XYステージをY軸方向の上記いずれか一方と同一方向に(実視野/√2)以下の距離を移動させる第五操作を実行し、第五操作が完了する位置で、XYステージをX軸方向の上記いずれか一方と同一方向に所定の距離を移動させる第六操作を実行し、第六操作が完了後、第二操作から第六操作を繰り返すことを特徴とする光学顕微鏡の観察方法(本発明の第21の態様とすることができる)、及び、この(本発明の第21の態様に係る)観察方法におけるX軸方向をY軸方向に切換えて操作する光学顕微鏡の観察方法(本発明の第22の態様とすることができる)をも提供するものである。
【0065】
上記観察方法は、本発明の光学顕微鏡用治具を用いて実施することができるが、高精度で自動的に移動し、移動経路がプログラミング可能な既存のXYステージを用いても実施可能である。
【発明の効果】
【0066】
本発明により、光学顕微鏡による検査及び/又は診断であるということ自体に起因する、光学顕微鏡観察の接眼レンズから視える円形観察視野の中心部に注意が払われがちで、その視野の周辺部には意識が向けられにくいという人間の目の特性による検体の観察の遺漏、特に、検体の中の異常な組織又は細胞等の特異点の視認の遺漏という課題を克服することができる。
【0067】
この課題の克服によって、光学顕微鏡を用いる癌を始めとする病理検査及び/又は病理診断における組織検査及び/又は組織診断、並びに、細胞検査及び/又は細胞診断等において、これらに従事する各種専門技師、専門医、及び、専門検査士が、プレパラートに調製された検体の指定された領域を余すところなく観察することができ、この領域内に存在する数少ない病変とされる細胞も遺漏なく視認できることによって、誤診に繋がることがない正確な検査及び/又は診断を迅速に行える上、労力を低減し、安心して業務を遂行することができるという効果を奏する。言い換えれば、本発明により、検査及び/又は診断に従事する人の身体的負担、精神的負担、時間的負担、及び、経済的負担等を積極的に軽減し、検査及び/又は診断の正確性及び信頼性を高めるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】従来のスライドグラスによる光学顕微鏡を用いた検体の観察において、検体の遺漏が生起する可能性があることを示すメカニズムを説明するための模式図である。(a)は、試料を含む直径10mmの円形の実視野を描いたスライドガラス、(b)は、(a)の実視野を2倍の対物レンズで拡大した視野数20mmの倒立実像、(c)は、(b)の倒立実像が10倍の接眼レンズで拡大されて観察される正立虚像である。
図2】本発明の一実施形態に係る、光学顕微鏡を用いた検体の観察を遺漏なく実行することができる視野を誘導する標識が長辺に設けられた、視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具であるスライドグラスを示している。(a)は、直径10mmの円形の実視野を描いたスライドガラス、(b)は、実視野を2倍の対物レンズで拡大した視野数20mmの倒立実像、(c)は、(b)の倒立実像が10倍の接眼レンズで拡大されて観察される正立虚像である。
図3】本発明の一実施形態に係る、光学顕微鏡を用いた検体の観察を遺漏なく実行することができる視野を誘導する標識が長辺に設けられた、視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具であるスライドグラスを示している。(a)は、スライドグラス全体像、(b)は、視野を誘導する標識を2倍の対物レンズで拡大した倒立立像である。
図4】本発明の一実施形態に係る、光学顕微鏡を用いた検体の観察を遺漏なく実行することができる視野を誘導する標識が長辺に設けられた、視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具であるスライドグラス本体を示している。本発明の光学顕微鏡用治具の実態を明確にするために、図2及び3に描かれている仮想線や拡大図等を削除している。
図5】本発明の一実施形態に係る、光学顕微鏡を用いた検体の観察を遺漏なく実行することができる視野を誘導する標識が長辺に設けられ、透明なITO薄膜の線分が長辺に平行な直線に対し線対称な標識間に設けられた、視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具であるスライドグラス本体を示している。
図6】本発明の一実施形態に係る、光学顕微鏡を用いた検体の観察を遺漏なく実行することができる視野を誘導する標識が短辺に設けられた、視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具であるスライドグラスを示している。(a)は、直径10mmの円形の実視野を描いたスライドガラス、(b)は、実視野を2倍の対物レンズで拡大した視野数20mmの倒立実像、(c)は、(b)の倒立実像が10倍の接眼レンズで拡大されて観察される正立虚像である。
図7】本発明の一実施形態に係る、光学顕微鏡を用いた検体の観察を遺漏なく実行することができる視野を誘導する標識が短辺に設けられた、視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具であるスライドグラスを示している。(a)は、スライドグラス全体像、(b)は、視野を誘導する標識を2倍の対物レンズで拡大した倒立立像である。
図8】本発明の一実施形態に係る、光学顕微鏡を用いた検体の観察を遺漏なく実行することができる視野を誘導する標識が短辺に設けられた、視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具であるスライドグラス本体を示している。本発明の光学顕微鏡用治具の実態を明確にするために、図6及び7に描かれている仮想線や拡大図等を削除している。
図9】本発明の一実施形態に係る、光学顕微鏡を用いた検体の観察を遺漏なく実行することができる視野を誘導する標識が短辺に設けられ、透明なITO薄膜の線分が短辺に平行な直線に対し線対称な標識間に設けられた、視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具であるスライドグラス本体を示している。
図10】本発明の一実施形態に係る、検体を観察する方向に、(実視野/√2)以下の幅の一本の縞の明部と、明部以外の暗部とを形成する光学スリットが、光源から対物レンズまでの光軸と直交するように、コレクタレンズに隣接して構設されている光学顕微鏡の模式図である。
図11】本発明の一実施形態に係る、検体を観察する方向に、(実視野/√2)以下の幅の一本の縞の明部と、明部以外の暗部とを形成する光学フィルターが、光源から放射される光の光軸と直交するように接眼レンズの筒の内部に構設されている接眼レンズの断面模式図(a)、光学フィルター本体の斜視模式図(b)、光学フィルターを装着して観察される正立虚像(c)である。
図12】光学顕微鏡のXYステージの動作を説明するための一般的な精密XYステージの斜視模式図である。
図13】本発明の一実施形態に係る、観察視野から眼を離すことなく位置設定が可能な位置設定ボタンが稼働ハンドルに備えられている、ボールネジ式スライダの正面模式図(a)及びラック/ピニオン式スライダの正面模式図(b)である。
図14】本発明の一実施形態に係る、観察視野から眼を離すことなく位置設定が可能な、位置設定リング状バネプランジャーが備えられているボールネジ式スライダの要部模式図(a)及び位置設定バー状バネプランジャーが備えられているラック/ピニオン式スライダの要部模式図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下、本発明の視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能であり、特許請求の範囲に記載した技術思想によってのみ限定されるものである。
【0070】
図1は、従来のスライドグラスによる光学顕微鏡を用いた検体の観察において、検体の遺漏が生起する可能性があることを示すメカニズムを説明するための模式図である。(a)は、試料を含む直径10mmの円形の実視野を描いたスライドガラス、(b)は、(a)の実視野を2倍の対物レンズで拡大した視野数20mmの倒立実像、(c)は、(b)の倒立実像が10倍の接眼レンズで拡大されて観察される正立虚像である。
【0071】
通常の組織検査及び/又は診断、並びに、細胞検査及び/又は診断において、2~20倍の対物レンズと10~100倍の接眼レンズを組み合わせ、それぞれ、20~40倍、並びに、100~200倍の観察倍率で行われ、疾病の検査が行われ、診断が下される。図1では、一例として、対物レンズの倍率を2倍、接眼レンズの倍率を10倍とした。図2、3、5、及び、6も同様の倍率である。ただし、図1~3、並びに、図5及び6の寸法は、説明の中で記載している寸法と一致するものではなく、模式的に描いたものである。
【0072】
ρは、実視野(Field Of View、FOV)20の直径で、一例として、10mmとした。ρ1は、FOVを対物レンズで2倍に拡大された倒立実像21におけるFOVの直径×2、すなわち、視野数(Field Number、FN)で、20mmである。ρ2は、対物レンズで拡大されたFNが接眼レンズで拡大された正立虚像22において視認されるFOVの直径×20で、200mmである。例えば、FOVにおける試料(矢印)100は、その長手方向の大きさを1mmとすれば、α1は、FNが20mmの円形視野において観察される試料100の倒立実像110の長手方向の大きさで、2mmに、α2は、この倒立実像が接眼レンズで10倍に拡大された円形観察視野において観察される試料100の正立虚像120の長手方向の大きさで、20mmに拡大されて観察される。従って、図1(c)に示す円形観察視野において検査及び/又は診断が行われ、α=1mmの実視野の試料100が、α2=20mmの正立虚像120として観察される。
【0073】
ここで重要なことは、まず、検査及び/又は診断が、図1(a)のスライドグラス10の上端から下端に移動させ、スライドグラス上の検体が円形観察視野を通して観察されて行われるため、円形観察視野を広範囲にかつ正確に移動させなければ、検体を見落とす可能性が生じることである。また、円形観察視野の中央部に視線が集中する人間の目の特性を考えれば、検体をかなり重複して観察しなければ、遺漏のない検体の観察は困難である。
【0074】
更に、次のような重要な検体の見落としが容易に想定されることである。FOV20の直径ρの間隔で、スライドグラス10の長辺の上端から下端に、スライドグラス10の長辺に直角方向に移動させることは、XYステージを用いて容易に行え、FOV20をスライドグラス10の短辺方向に移動させることによって、FOV20の長辺方向の直径とFOV20の円周との交点が、対向する長辺の間に形成すると仮想される軌跡20-1を描く。ここで、何らかの方法で、この軌跡20-1の間隔(FOV20の直径)で、正確にスライドグラス10をその長辺方向に移動させて、20倍に拡大される円形観察視野を通して検体を観察することが可能であると仮定する。このように、重複することなく正確にスライドグラス10が移動できた場合においても、上記軌跡20-1と、一辺がスライドグラス10の長辺に対して直角及び平行な位置関係にあり、一辺の長さがFOV/√2、ここでは、τ=10/√2mmであるFOV20に内接する仮想正方形30が、上記スライドグラス10の移動に伴って、一辺の長さが10/√2mmであるFOV20に内接する正方形の長辺に直角な一辺が、対向する長辺の間に形成すると仮想される軌跡30-1との間に、人間の目の注意が散漫な領域が生成し、この領域に存在する検体の異常な組織又は細胞等の特異点を見落とす可能性がある。しかも、この領域は、図1(a)から分かるように、スライドグラス10の長辺の上端から下端への一回の移動で、およそ{(ρ-τ)×スライドグラス短辺の長さ}の面積となり、検体が載置されているスライドグラス10の全体に亘って観察されると、[{(ρ-τ)×スライドグラス10の短辺の長さ}×スライドグラス10の長辺の上端から下端への移動回数]のかなり広い面積に及ぶ。更に、この正確なスライドグラス10の移動であっても、スライドグラス10の長辺の両端には、視野が円形であるため、全く観察されない領域も生成される。
【0075】
そこで、本発明のスライドグラス10-1は、図2に示すように、スライドグラス10-1の長辺の上端及び下端に、長辺に平行な直線を対称軸として略線対称の位置に設けられる一対の標識40-1が、長辺に沿って、τ=ρ/√2=10/√2の間隔で複数設けられている。この標識に従って、この間隔ずつスライドグラス10-1を移動させることによって、人間の目の視野が、常に円形観察視野の中央部に集中し、検体220の観察を行え、全く観察されない領域も生成されない。実際には、図2(c)に示す接眼レンズを通して観察される正立虚像22に認められる隣接する矢印42-1の間隔τ2ずつ、矢印42-1の標識に従って、スライドグラス10-1をスライドグラス10-1の長辺と平行な左方向へ移動させていけばよい。ただし、検体220は、左端の一対の標識40-1を結ぶ直線、すなわち、矢印52-1より右側に載置して、プレパラートを調製する必要がある。
【0076】
図2では、正立虚像22に内接する正方形32が常に認められるように、スライドグラス10-1を移動させる説明となっているが、スライドグラス10-1の長辺に備えられる一対の標識40-1が、少なくとも正立虚像22の円形観察視野に視認され、その標識40-1を次々と正立虚像22の円形観察視野に観察されるように移動させることによっても、同様の効果を奏する。ただし、必ずρ≧τの関係になければならず、τは小さい程、円形観察視野の中央部に人間の目が集中し、検体及び検体中の特異点を遺漏なく観察できる。しかし、τが小さすぎると、重複して観察する領域が多くなり、スライドグラス10-1の移動距離が長くなり、検査及び/又は診断に掛かる時間が長くなる。
【0077】
図3には、図2を分かり易くするため、図2(c)の接眼レンズを通して観察される正立虚像22の図を削除すると共に、視野を移動した際に描かれるFOVの軌跡20-1及びFOVに内接する正方形の軌跡30-1の一部を除き削除し、図2(a)のスライドグラス全体を描いた。図3(b)は、図2(b)のスライドグラス10-1の長辺の上端のFOV20を対物レンズで拡大した倒立実像21から、実際には視認されないFOV20に内接する正方形30を削除した倒立実像と、その倒立実像と線対称にあるスライドグラス10-1の長辺の下端のFOV20を対物レンズで拡大した倒立実像21で、同様に、実際には視認されないFOV20に内接するにおける正方形31が削除されている。また、検体を載置する領域が、左端の一対の標識が結ぶ直線より右側と、右端の一対の標識が結ぶ直線より左側であることを、矢印50-1及び50-3で示している。
【0078】
そして、本発明の視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具であるスライドグラス10-1を図4に示した。図4から明らかなように、本発明のスライドグラス10-1は、スライドグラス10-1の長辺の両端に、視野を誘導する標識となる矢印40-1、40-3が形成されているだけ、視野を遮蔽するものは何一つ形成されていない。
【0079】
図5には、接眼レンズを通して視る円形観察視野の中央部に人間の目がより集中し、検体及び検体中の特異点をより一層遺漏なく観察できるように、視野を誘導する一対の標識が、長辺に平行な直線に対し線対称で、対向する長辺に複数設けられている上に、これら複数の一対の標識40-1、40-3を結ぶ透明なITO薄膜の線分40-13が設けられた、視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具であるスライドグラス本体を示している。このITO薄膜の線分により、円形観察視野の円とこの線分に囲まれた領域に人間の目が集中され易くなる。透明なITO薄膜の線分40-13は、スパッタリングでスライドグラス上に成膜形成されたITO薄膜のフォトファブリケーション法により形成され、このITO薄膜の波長550nmの光透過率は約64%であり、線分上の検体の組織及び/又は細胞の異常を十分に視認することができた。
【0080】
図6~9は、本発明の視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具の機能を発現する根源となる、スライドグラスの対辺にτ=ρ/√2の間隔で設けられる標識を短辺側に形成したこと以外、図2~5と全く同じ趣旨の図である。図2~4に示すスライドグラス10-1及び図5に示すスライドグラス10-11、並びに、図6~8に示すスライドグラス10-2及び図9に示すスライドグラス10-12は、それぞれ独立して使用することができるが、スライドグラスの長辺と短辺の両方に標識を設けてもよい。検査及び/又は診断に従事する人の習慣により、観察方向が異なるためである。
【0081】
図2~9には、スライドガラスに標識を設ける実施例を示したが、カバーグラスに標識を設けた場合も、スライドグラスと全く同様の機能を有する光学顕微鏡用治具となる。ただし、カバーグラスは、正方形が一般的であるが、長方形、円形等のカバーグラスも使用されるが、本発明のカバーグラスの場合、視野誘導機能を発現するためには、正方形又は長方形に限定される。また、カバーグラスは、スライドグラスの相似形であり、スライドグラスに匹敵する大きさである方が、広い領域の観察ができるが、使用目的に応じた形状を選択することができる。
【0082】
図10及び11には、図5及び図9の標識を備えているスライドグラス又はカバーグラスに透明な線分を追加したスライドグラス又はカバーグラスと同じ目的ではあるが、手段が異なる光量制御板を示す。これらの光量制御板は、スライドグラス又はカバーグラスと併用することによって、本発明の目的である、検体及び検体中の異常な組織又は細胞等の特異点、特に僅かしか存在しない特異点を遺漏なく視認できる視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具として機能する。光量制御板によって、接眼レンズを通して視える円形観察視野の中央部に、スライドグラス又はカバーグラスの隣接する一対の標識が形成する縞状明部とそれ以外の暗部が生成され、上記目的の効果を向上させることができる。
【0083】
図10は、光量制御板として、正立型光学顕微鏡60の照明系62の光路に挿入される光学スリット62-10を用いる実施例である。図10から分かるように、この光量制御板は、光源62-1から放射された光が、コレクタレンズ62-2を通過した後に通過できる位置に構設されることが好ましく、スライドグラス及びカバーグラスに設けられる標識の間隔に対応可能な可変式光学スリットである。検眼用器具として使用される細隙灯顕微鏡のスリットランプの技術を応用することができる。
【0084】
図11は、光量制御板として、正立型光学顕微鏡60の観察系64の接眼レンズ64-2に構設される光学フィルターを用いる実施例である。図11(b)に示すように、接眼レンズ64-2に装着される光学フィルター64-25で、FOVが対物レンズで拡大されたFNの直径の光学フィルター64-52が用いられる。図11(a)に示す接眼レンズ64-2の断面模式図のように、光学フィルター筒64-26の中の所定の位置に、光学フィルター受け64-27と光学フィルター固定リング64-28で、接眼レンズ64-2に構設され、視度調整ネジ64-24によって、スライドグラス及びカバーグラスに設けられる標識の間隔に応じた縞状明部の大きさが制御される。図11(c)のように接眼レンズ64-2を通し視える円形観察視野において、縞状明部が視認される。この光量制御板は、接眼ミクロメーターの技術を応用することができる。
【0085】
図13及び14には、光学顕微鏡を用いた検体の観察を遺漏なく実行するための視野誘導機能を有し、光学顕微鏡のXYステージに付設し、XYステージのハンドルを操作する指先に触知させることによって、観察視野から視線を離すことなく、検体の位置を正確に制御できる光学顕微鏡用治具を示している。図13は、本発明の一実施形態に係る、観察視野から眼を離すことなく位置設定が可能な位置設定ボタンが稼働ハンドルに備えられている、ボールネジ式スライダの正面模式図(a)及びラック/ピニオン式スライダの正面模式図(b)である。図14は、本発明の一実施形態に係る、観察視野から眼を離すことなく位置設定が可能な、位置設定リング状バネプランジャーが備えられているボールネジ式スライダの要部模式図(a)及び位置設定バー状バネプランジャーが備えられているラック/ピニオン式スライダの要部模式図(b)である。
【0086】
一般的な光学顕微鏡のXYステージ63-3は、図10に示すように、X軸(左右)方向移動ハンドル63-41とY軸(前後)方向移動ハンドルとが同じ位置で上下に備えられたXYステージ移動ハンドル63-4の指先による回転運動が、直線運動に変換され、所望の位置に移動される。しかし、本発明のXYステージのハンドルを操作する指先に触知させ、観察視野から視線を離すことなくXYステージの位置を正確に制御する機能及び機構を備えている光学顕微鏡用治具を分かりやすく説明するため、図12には、光学顕微鏡のXYステージと機能及び機構が同一であるが、X軸方向とY軸方向の移動操作が分離されており、ボールネジによってXYステージが移動する一般的な精密XYステージを取り上げ、その斜視模式図を示した。
【0087】
この一般的な精密XYステージ70から明らかなように、XYテーブル72は、X軸ボールネジ75-1が、X軸可動ハンドル76-1によるボールネジシャフトの回転運動を、ガイドレール73-1及びスライドブロック73-2のX軸方向への直線運動に変換すると共に、ベースプレート71に備えられたY軸ボールネジ75-2が、Y軸可動ハンドル76-2によるボールネジシャフトの回転運動を、ガイドレール74-1及びスライドブロック74-2のY軸方向への直線運動に変換することによって制御されており、XY平面を自在に移動する。この機構は、光学顕微鏡のXYステージ63-3の機構と基本的には変わりない。また、光学顕微鏡においても、その種類や移動精度等に応じて、ボールネジの代わりに、送りネジ及びラック/ピニオンが採用されている。
【0088】
この図12から、X軸方向のボールネジ式スライダ80だけを取り上げ、図13(a)の正面模式図に示し、図13(a)のボールネジ式スライダ80をラック/ピニオン式スライダ90に置換した場合を、図13(b)の正面模式図に示した。
【0089】
ボールネジ式スライダ80の場合、ボールネジシャフト82のネジのピッチが一定ならば、ボールネジシャフトが一回転した時の移動距離(リード)が一定であるため、可動ハンドル84が1回転した時のリードを(実視野/√2)以下となるようにボールネジを設計すれば、例えば、図13(a)に示すように、可動ハンドル84に指先で触知できる位置設定ボタン86を付設しておけば、観察視野から視線を離すことなく、(実視野/√2)以下の精度で、検体を含むプレパラートを正確にX軸方向に移動させることができる。そして、この位置で、Y軸方向にXYステージを移動させて検体の観察を行い、これらのX軸方向の正確な移動とY軸方向への自在な移動を繰り返して行うことによって、検体を遺漏なく観察できる。
【0090】
一方、ラック/ピニオン式スライダ90の場合も、スライダブロック93に内蔵されているピニオン93-1の回転角とラック92の移動量は同期するので、可動ハンドル94が1回転した時のラック92の移動距離を(実視野/√2)以下となるようにラック/ピニオンを設計すれば、例えば、図13(b)に示すように、可動ハンドル94に指先で触知できる位置設定ボタン96を付設しておけば、観察視野から視線を離すことなく、(実視野/√2)以下の精度で、検体を含むプレパラートを正確にX軸方向に移動させることができる。そして、この位置で、Y軸方向にXYステージを移動させて検体の観察を行い、これらのX軸方向の正確な移動とY軸方向への自在な移動を繰り返して行うことによって、検体を遺漏なく観察できる。
【0091】
ここでは、X軸方向の可動ハンドル84、94に位置設定ボタン86、96を付設する例を説明したが、その逆に、又、双方に付設してもよい。
【0092】
図14は、XYステージのX軸方向及び/又はY軸方向の可動ハンドルと連動するスライド機構に備えられ、観察視野から視線を離すことなく、(実視野/√2)以下の精度で、検体を含むプレパラートを正確に移動させることができるバネ式プランジャーを装着した状態を示している。
【0093】
図14(a)は、図13(a)のボールネジスライド機構部82の断面模式図で、可動ハンドル84の操作において、指先により抵抗を触知可能であるが、XYステージのX軸方向の動作に影響を及ぼすことがないリング状バネプランジャー87が、ボールネジシャフト82のネジ溝82-1に(実視野/√2)以下の間隔で装着されている状態である。このようなリング状バネプランジャー87を通過するボールネジ80のボール82-2、すなわち、ボールネジシャフト82に抵抗が働き、可動ハンドル84を操作する指先に触知されるので、観察視野から視線を離すことなく、(実視野/√2)以下の精度で、検体を含むプレパラートを正確にX軸方向に移動させることができる。そして、この位置で、Y軸方向にXYステージを移動させて検体の観察を行い、これらのX軸方向の正確な移動とY軸方向への自在な移動を繰り返して行うことによって、検体を遺漏なく観察できる。
【0094】
一方、図14(b)は、図13(b)のラック/ピニオンスライド機構部91の断面模式図で、同じ機能及び構造のバー状バネプランジャー97が、ラック92の溝92-2に(実視野/√2)以下の間隔で装着し固定されている状態である。このようなバー状バネプランジャー97を通過するピニオン93-1の山93-11に抵抗が働き、その抵抗が可動ハンドル94を操作する指先に触知されるので、観察視野から視線を離すことなく、(実視野/√2)以下の精度で、検体を含むプレパラートを正確にX軸方向に移動させることができる。そして、この位置で、Y軸方向にXYステージを移動させて検体の観察を行い、これらのX軸方向の正確な移動とY軸方向への自在な移動を繰り返して行うことによって、検体を遺漏なく観察できる。
【0095】
ここでは、X軸方向のボールネジシャフト82のネジ溝82-1及びX軸方向のラック92の溝92-1にバネプランジャー87、97を装着する例を説明したが、その逆に、又、双方に付設してもよい。
【0096】
なお、光学顕微鏡の観察方法については、発明を実施するための形態に説明した内容から理解されるので、説明を省略した。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、光学顕微鏡を用いる癌を始めとする病理検査及び/又は病理診断における組織検査及び/又は組織診断、並びに、細胞検査及び/又は細胞診断等において、これらに従事する人の身体的負担、精神的負担、時間的負担、及び、経済的負担等を積極的に軽減し、検査及び/又は診断の正確性及び信頼性を高めるという効果を奏する視野誘導機能を有する光学顕微鏡用治具、及び、光学顕微鏡の観察方法である。
【0098】
しかし、本発明の本質的な技術は、光学顕微鏡による検査及び/又は診断であるということ自体に起因する、光学顕微鏡観察の接眼レンズから視える円形観察視野の中心部に注意が払われがちで、その視野の周辺部には意識が向けられにくいという人間の目の特性による検体の観察の遺漏、特に、検体の中の異常な組織又は細胞等の特異点の視認の遺漏という課題を克服したことにある。従って、本発明の技術は、光学顕微鏡観察による観察全般において広く利用することができる。更に、顕微鏡分野だけでなく、全産業分野における「観察」、「視認」等という行為を伴う技術に広く利用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0099】
10 スライドグラス
10-1 長辺近傍に視野誘導機能を有する標識が設けられているスライドグラス
10-11 長辺近傍に視野誘導機能を有する標識と標識間を結ぶ透明なITO(Indium Tin Oxide)薄膜の線分とが設けられているスライドグラス
10-2 短辺近傍に視野誘導機能を有する標識が設けられているスライドグラス
10-21 短辺近傍に視野誘導機能を有する標識と標識間を結ぶ透明なITO(Indium Tin
Oxide)薄膜の線分とが設けられているスライドグラス
12-1 接眼レンズで拡大された正立虚像における10-1
12-2 接眼レンズで拡大された正立虚像における10-2
20 直径10mmの円形の実視野(Field
of View,FOV)
20-1 スライドグラスを短辺方向に移動させることによって、FOVの長辺方向の直径とFOVの円周との交点が、対向する長辺の間に形成すると仮想される軌跡
20-2 スライドグラスを長辺方向に移動させることによって、FOVの短辺方向の直径とFOVの円周との交点が、対向する短辺の間に形成すると仮想される軌跡
21 FOVを2倍の対物レンズで拡大した視野数(Field Number,FN)20mmの倒立実像
22 FN20mmの倒立実像を10倍の接眼レンズで拡大して観察される正立虚像
22-1 接眼レンズで拡大された正立虚像における20-1
22-2 接眼レンズで拡大された正立虚像における20-2
30 一辺がスライドグラスの長辺に対して直角及び平行な位置関係にあり、一辺の長さがFOV/√2であるFOVに内接する仮想正方形であって、縦横に連接して移動させることによって検体の観察が遺漏なく実行されるための基本となる観察領域
30-1 スライドグラスを短辺方向に移動させることによって、一辺の長さがFOV/√2であるFOVに内接する正方形の長辺に直角な一辺が、対向する長辺の間に形成すると仮想される軌跡
30-2 スライドグラスを長辺方向に移動させることによって、一辺の長さがFOV/√2であるFOVに内接する正方形の短辺に直角な一辺が、対向する短辺の間に形成すると仮想される軌跡
31 FN20mmの倒立実像における30
32 接眼レンズで拡大された正立虚像における30
32-1 接眼レンズで拡大された正立虚像における30-1
32-2 接眼レンズで拡大された正立虚像における30-2
40 検体の観察が遺漏なく実行されるために視野を誘導する標識
40-1 スライドグラスの長辺の一方に設けられている、検体の観察が遺漏なく実行されるために視野を誘導する標識
40-2 スライドグラスの短辺の一方に設けられている、検体の観察が遺漏なく実行されるために視野を誘導する標識
40-3 スライドグラスの長辺の他方に設けられている、検体の観察が遺漏なく実行されるために視野を誘導する標識
40-4 スライドグラスの短辺の他方に設けられている、検体の観察が遺漏なく実行されるために視野を誘導する標識
40-13 スライドグラスの長辺に設けられている標識間を結ぶ透明なITO薄膜の線分
40-24 スライドグラスの短辺に設けられている標識間を結ぶ透明なITO薄膜の線分
41 FN20mmの倒立実像において視認される40
41-1 FN20mmの倒立実像において視認される40-1
41-2 FN20mmの倒立実像において視認される40-2
41-3 FN20mmの倒立実像において視認される40-3
41-4 FN20mmの倒立実像において視認される40-4
42 接眼レンズで拡大された正立虚像において視認される40
42-1 接眼レンズで拡大された正立虚像において視認される40-1
42-2 接眼レンズで拡大された正立虚像において視認される40-2
41-3 接眼レンズで拡大された正立虚像において視認される40-3
41-4 接眼レンズで拡大された正立虚像において視認される40-4
50 スライドグラス上で、検体が一定範囲内に納められる観察領域の境界を示す矢印
50-1 FOVが描かれているスライドグラス上で、検体が一定範囲内に納められる観察領域の長辺方向の一方の境界を示す矢印
50-2 FOVが描かれているスライドグラス上で、検体が一定範囲内に納められる観察領域の短辺方向の一方の境界を示す矢印
50-3 FOVが描かれているスライドグラス上で、検体が一定範囲内に納められる観察領域の長辺方向の他方の境界を示す矢印
50-4 FOVが描かれているスライドグラス上で、検体が一定範囲内に納められる観察領域の短辺方向の他方の境界を示す矢印
52 接眼レンズで拡大された正立虚像における50
52-1 接眼レンズで拡大された正立虚像における50-1
52-2 接眼レンズで拡大された正立虚像における50-2
60 正立型光学顕微鏡
61 鏡基(スタンド)
61-1 鏡台
61-2 鏡柱
61-3 鏡腕
62 照明系
62-1 光源
62-2 コレクタレンズ
62-3 フィルター
62-4 視野絞り
62-5 反射鏡
62-6 フィールドレンズ
62-7 開口絞り
62-8 コンデンサレンズ
62-9 コンデンサレンズ高さ調節ハンドル
62-10 光学スリット
63 結像系
63-1 対物レンズ
63-2 レボルバ
63-3 XYステージ
63-4 XYステージ移動ハンドル
63-41 X軸(左右)方向移動ハンドル
63-42 Y軸(前後)方向移動ハンドル
63-5 XYステージ制御装置
63-6 焦準ハンドル
64 観察・記録系
64-1 鏡筒
64-2 接眼レンズ
64-21 凸レンズ
64-22 目当てゴム
64-23 レンズ筒
64-24 視度調整ネジ
64-25 光学フィルター
64-26 光学フィルター筒
64-27 光学フィルター受け
64-28 光学フィルター固定リング
64-3 撮像装置
70 一般的な精密XYステージ
71 ベースプレート
72 XYテーブル
73 X軸移動アリ溝式スライドユニット
73-1 ガイドレール
73-2 スライドブロック
74 Y軸移動アリ溝式スライドユニット
74-1 ガイドレール
74-2 スライドブロック
75 ボールネジ
75-1 X軸ボールネジ
75-2 Y軸ボールネジ
76 XYテーブル移動ハンドル
76-1 X軸可動ハンドル
76-2 Y軸可動ハンドル
80 位置設定ボタンを備えているボールネジ式スライダ
81 ボールネジスライド機構部
82 ボールネジシャフト
82-1 ネジ溝
82-2 ランド
83 スライダブロック
83-1 ナット
83-11 ナット溝
83-12 リターンチューブ
83-2 ボール
84 可動ハンドル
85 テーブル支持プレート
86 位置設定ボタン
87 位置設定リング状バネプランジャー
90 位置設定ボタンを備えているラック/ピニオン式スライダ
91 ラック/ピニオンスライド機構部
92 ラック
92-1 歯
92-2 溝
93 スライダブロック
93-1 ピニオン
93-11 山
93-12 谷
94 可動ハンドル
95 テーブル支持プレート
96 位置設定ボタン
97 位置設定バー状バネプランジャー
100 FOVにおいて観察される試料
110 FN20mmの倒立実像において観察される試料
120 接眼レンズで拡大された正立虚像において観察される試料
α FOVにおいて観察される試料の長手方向の大きさ
α FN20mmの倒立実像において観察される試料の長手方向の大きさ
α 接眼レンズで拡大された正立虚像において観察される試料の長手方向の大きさ
ρ FOVの直径
ρ FNの直径
ρ 接眼レンズで拡大された正立虚像において視認されるFOVの直径
τ 一辺がスライドグラスの長辺に対して直角及び平行な位置関係にあるFOV内の仮想正方形の一辺の長さ
τ FN20mmの倒立実像におけるτ
τ 接眼レンズで拡大された正立虚像におけるτ
図1
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図10
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