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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046775
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】複合部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20240329BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20240329BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C23C26/00 C
C04B41/87 U
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152051
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】土生 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】高木 海人
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA12C
4F100AA14C
4F100AA17B
4F100AA17C
4F100AA31B
4F100AB03A
4F100AD04C
4F100AD10B
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100EJ48
4F100JJ03
4K044AA02
4K044AA06
4K044AA09
4K044BA12
4K044BA18
4K044BB03
4K044BC00
4K044BC02
4K044CA04
4K044CA07
4K044CA11
4K044CA13
4K044CA14
(57)【要約】
【課題】希土類元素を含む金属の付着を低減できる複合部材を提供する。
【解決手段】複合部材は、順に基材、第1の皮膜、第2の皮膜を含み、第1の皮膜は硼化物を主成分とし、第2の皮膜は窒化物を主成分とする。複合部材の断面において、基材と第1の皮膜とが接している第1の界面の算術平均粗さは2.0μm以上15.0μm以下であり、第1の皮膜の厚さの平均値を第2の皮膜の厚さの平均値で除した値は1.0以上18.0以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
順に基材、第1の皮膜、第2の皮膜を含む複合部材であって、
前記第1の皮膜は硼化物を主成分とし、
前記第2の皮膜は窒化物を主成分とし、
前記複合部材の断面において、前記基材と前記第1の皮膜とが接している第1の界面の算術平均粗さは2.0μm以上15.0μm以下であり、
前記第1の皮膜の厚さの平均値を前記第2の皮膜の厚さの平均値で除した値は1.0以上18.0以下である複合部材。
【請求項2】
前記第1の皮膜および前記第2の皮膜は、前記複合部材の断面において、酸化物を面積比で10%以下含む請求項1記載の複合部材。
【請求項3】
前記第1の皮膜の気孔率を前記第2の皮膜の気孔率で除した値は0.2以上2.4以下である請求項1又は2に記載の複合部材。
【請求項4】
前記複合部材の断面において、前記第1の界面における拡散層の厚さは3.0μm以下である請求項1又は2に記載の複合部材。
【請求項5】
前記複合部材の断面において、前記第1の皮膜と前記第2の皮膜とが接している第2の界面における拡散層の厚さは3.0μm以下である請求項1又は2に記載の複合部材。
【請求項6】
前記硼化物は、硼化ジルコニウム、硼化チタン、硼化クロムの1種以上を含み、
前記窒化物は、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化クロム、窒化ジルコニウムの1種以上を含む請求項1又は2に記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基材と基材に設けられた皮膜とを含む複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の層からなる皮膜を基材に設けた複合部材に係る先行技術は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術では被削材(金属)が希土類元素を含む場合に、複合部材に金属が付着するおそれがある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、希土類元素を含む金属の付着を低減できる複合部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の複合部材は、順に基材、第1の皮膜、第2の皮膜を含み、第1の皮膜は硼化物を主成分とし、第2の皮膜は窒化物を主成分とする。複合部材の断面において、基材と第1の皮膜とが接している第1の界面の算術平均粗さは2.0μm以上15.0μm以下であり、第1の皮膜の厚さの平均値を第2の皮膜の厚さの平均値で除した値は1.0以上18.0以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合部材によれば、希土類元素を含む金属の付着を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施の形態における複合部材からなる成形型の斜視図である。
図2】成形型の分解立体図である。
図3】複合部材の断面図である。
図4図3の一部を拡大した複合部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。本実施形態では複合部材(後述する)を適用した成形型10を例示して説明する。図1は複合部材で作られた一実施の形態における成形型10の斜視図である。成形型10は加圧によって被成形体Mの形を作るための型である。図1の矢印は被成形体Mの加圧方向を示している。
【0010】
成形型10は、被成形体Mの加圧方向に沿った切断面12で少なくとも2つに分割されている第1の型11と、第1の型11の加圧方向の端を塞ぐ第2の型14と、を備えている。本実施形態では被成形体Mの形は円柱であり、第1の型11は2分割されている。第2の型14は、被成形体Mの軸方向の両側から被成形体Mを加圧する。成形型10を使用するときは、第1の型11の切断面12が互いに離れないようにするため、第1の型11は枠などの固定部材(図示せず)にはまっている。
【0011】
被成形体Mは、希土類元素を含む金属を含む。被成形体Mに含まれる金属の形体は、粉末、粒および板の少なくとも1種が挙げられる。金属に含まれる希土類元素はSc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luが挙げられる。希土類元素の機能の発現のため、金属は希土類元素を25-50質量%含むのが好ましい。成形型10に被成形体Mが配置された状態で成形型10を加熱しても良い。成形型10は真空中や不活性ガス雰囲気など、適宜の雰囲気で使われる。
【0012】
図2は成形型10の分解立体図である。第1の型11の切断面12を合わせてできる円筒状の内面13の軸方向の両端が第2の型14で塞がれると、成形型10に、第1の型11の内面13と第2の型14の円形の端面15とに囲まれた中空の空間16ができる。被成形体M(図1参照)は空間16に配置される。被成形体Mの付着を防ぐため、少なくとも第1の型11の内面13及び第2の型14の端面15に皮膜(後述する)が設けられる。
【0013】
図3は複合部材20の断面図である。図3は第1の型11(図2参照)の内面13又は第2の型14の端面15を含む複合部材20の断面が図示されている。複合部材20は、順に基材21、第1の皮膜23、第2の皮膜25を含む。図3には基材21、第1の皮膜23及び第2の皮膜25の断面の一部が図示されている。被成形体M(図1参照)は第2の皮膜25に接する。
【0014】
基材21は、複合部材20の元になる部材である。基材21の材料は、超硬合金、Ni合金、Co合金、Mo合金、高融点材料の耐火金属、鋼、カーボン(黒鉛)が例示される。超硬合金は金属および硬質の金属間化合物からなり、硬質相の主成分が炭化タングステンであるものが挙げられる。超硬合金はCr,Ti,Ta,Nb等の炭化物や炭窒化物が硬質相に含まれることがある。Ni合金はNi-Cr-Fe系合金、Ni-Mo-Fe系合金、Ni-Cu系合金、Ni-Fe系合金が例示される。Co合金はCo-Cr系合金が例示される。耐火金属はV,Cr,Nb,Mo,Zr,Hf,W,Ta,Reの1種以上を含む体心立方格子(bcc)構造を有する合金であって、融点が例えば1800℃以上の材料が挙げられる。鋼は、炭素量が約0.02%以上2.1%以下の炭素鋼、Si,Mn,Ni,Cr,Mo,V,Nb,Ti等の元素の1種以上を含むステンレス鋼などの合金鋼が例示される。
【0015】
基材21は、炭素繊維などの強化繊維が複合化していても良い。基材21は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。例えば基材21の材料が超硬合金の場合、その表面に脱β層が形成されていても良い。基材21の材料が鋼の場合、その表面に浸炭層が形成されていたり、その表面が窒化されていたりしても良い。焼入れ、焼き戻し等の各種の熱処理が施された鋼を基材21の材料に採用することは当然可能である。
【0016】
第1の皮膜23は、基材21と第2の皮膜25との間に介在し、第2の皮膜25を基材21に結合する機能、及び、希土類元素を含む金属の付着を抑制する機能を有する。第1の皮膜23は、基材21のうち第1の型11(図2参照)の内面13や第2の型14の端面15に相当する部分だけでなく、基材21の全ての面に設けられても良い。第1の型11の内面13の一部や第2の型14の端面15の一部に第1の皮膜23が設けられていない部分があっても差し支えない。
【0017】
第1の皮膜23の材料は硼化物を主成分とする。硼化物は、ホウ素よりも電気陰性度が小さい元素とホウ素との化合物である。硼化物が主成分とは、第1の皮膜23の材料のうち硼化物の割合が50質量%を超えること、好ましくは75質量%以上であること、特に好ましくは90質量%以上であることをいう。
【0018】
第1の皮膜23は、硼化物以外に、酸化物が含まれていても差し支えない。酸化物の割合は5質量%以下が好ましい。第1の皮膜23は、第1の皮膜23の機能を損なわない範囲において、窒化物、炭化物等の不可避不純物が含まれていても良い。不可避不純物の割合は、第1の皮膜23の材料全体に対して1質量%以下である。
【0019】
第1の皮膜23に含まれる硼化物は、硼化ジルコニウム、硼化チタン、硼化クロムの1種以上が好適である。硼化ジルコニウムは融点や硬度が高く、さらに電気伝導性や熱伝導性に優れる。硼化チタンは硬度が高く、さらに耐食性に優れる。硼化クロムは耐酸化性に優れる。硼化ジルコニウム、硼化チタン及び硼化クロムは、ZrB,ZrB,TiB,TiB,CrB,CrBのような化学量論組成のみならず、ZrB1-Xのような非化学量論組成も含まれる。
【0020】
第2の皮膜25は基材21を保護する機能、及び、希土類元素を含む金属の付着を抑制する機能を有する。第2の皮膜25は、第1の皮膜23の全体に設けられているのが好ましいが、第1の皮膜23の一部に第2の皮膜25が設けられていない部分があっても差し支えない。
【0021】
第2の皮膜25の材料は窒化物を主成分とする。窒化物は、窒素よりも陽性な元素と窒素との化合物である。第2の皮膜25は窒化物を主成分とするので、硼化物を主成分とする第1の皮膜23の線膨張係数に第2の皮膜25の線膨張係数を近づけることができる。窒化物が主成分とは、第2の皮膜25の材料のうち窒化物の割合が50質量%を超えること、好ましくは75質量%以上であること、特に好ましくは90質量%以上であることをいう。
【0022】
第2の皮膜25は、窒化物以外に、酸化物が含まれていても差し支えない。酸化物の割合は5質量%以下が好ましい。第2の皮膜25は、第2の皮膜25の機能を損なわない範囲において、炭化物、硼化物等の不可避不純物が含まれていても良い。不可避不純物の割合は、第2の皮膜25の材料全体に対して1質量%以下である。
【0023】
第2の皮膜25に含まれる窒化物は、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化クロム、窒化ジルコニウムの1種以上が好適である。これらは耐食性、熱伝導性、電気伝導性に優れる。窒化ホウ素、窒化チタン、窒化クロム及び窒化ジルコニウムは、BN,TiN,CrN,ZrNのような化学量論組成のみならず、BN1-Xのような非化学量論組成も含まれる。
【0024】
第1の皮膜23の材料や第2の皮膜25の材料は、例えばX線回折法(XRD)によって特定できる。第1の皮膜23及び第2の皮膜25は、蒸着や溶射によって膜を設けた後、加熱して作ることができる。ホットプレスによって第1の皮膜23や第2の皮膜25を作ることもできる。複合部材20は、第1の界面22において基材21と第1の皮膜23とが接しており、第2の界面24において第1の皮膜23と第2の皮膜25とが接している。
【0025】
複合部材20の断面に現出する第1の界面22の算術平均粗さRaは2.0μm以上15.0μm以下に設定される。Raが2.0μm以上15.0μm以下であると、基材21に第1の皮膜23が密着しやすくなり、さらに第1の界面22に働く第1の皮膜23の応力が低減するので、第1の皮膜23の剥がれの発生を低減できる。
【0026】
Raを求めるには、まず走査電子顕微鏡(SEM)による複合部材20の断面画像の画像解析により、第1の界面22の平均線の方向に第1の界面22から基準長さL(例えば500μm)だけを抜き取る。平均線は、最小二乗法により第1の界面22を直線に置き換えた線である。次に、抜き取った部分の平均線の方向にX軸を取り、X軸と直交するY軸を縦倍率の方向に取り、第1の界面22をy=f(x)で表したときの次の式(1)によりRaを求める。
【0027】
【数1】
複合部材20の断面に現出する第1の皮膜23の厚さの平均値を第2の皮膜25の厚さの平均値で除した値は1.0以上18.0以下である。第2の皮膜25の厚さを確保すると共に、第1の皮膜23の応力が過大にならないようにし、第1の皮膜23の割れの発生を低減できる。
【0028】
第1の皮膜23の厚さの平均値を求めるには、まずSEMによる複合部材20の断面画像の画像解析により、第1の皮膜23の平均線の方向に第1の皮膜23から基準長さ(100μm)だけを抜き取る。平均線は、最小二乗法により第1の界面22と第2の界面24との間を直線に置き換えた線である。次に、抜き取った部分の平均線の方向にX軸を取り、X軸と直交するY軸を縦倍率の方向に取り、X軸に沿って基準長さの全長に亘って1μmごとに第1の界面22と第2の界面24との間隔をY軸の方向に測定し、求めた間隔の総和を間隔の数で除して平均値を求める。
【0029】
第2の皮膜25の厚さの平均値を求めるには、まずSEMによる複合部材20の断面画像の画像解析により、第2の皮膜25の平均線の方向に第2の皮膜25から基準長さ(100μm)だけを抜き取る。平均線は最小二乗法により第2の界面24と第2の皮膜25の表面26との間を直線に置き換えた線である。次に、抜き取った部分の平均線の方向にX軸を取り、X軸と直交するY軸を縦倍率の方向に取り、X軸に沿って基準長さの全長に亘って1μmごとに第2の界面24と表面26との間隔をY軸の方向に測定し、求めた間隔の総和を間隔の数で除して平均値を求める。
【0030】
第1の皮膜23の断面に現出する酸化物の面積の、第1の皮膜23の断面の面積に対する割合、及び、第2の皮膜25の断面に現出する酸化物の面積の、第2の皮膜25の断面の面積に対する割合は、それぞれ10%以下であると好ましい。第1の皮膜23の主成分である硼化物や第2の皮膜25の主成分である窒化物の機能が損なわれないようにするためである。
【0031】
第1の皮膜23に含まれる酸化物は、ホウ素よりも電気陰性度が小さい元素と酸素との化合物であり、例えば酸化クロム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が挙げられる。第2の皮膜25に含まれる酸化物は、窒素よりも陽性の元素と酸素との化合物であり、例えば酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ホウ素等が挙げられる。酸化物は化学量論組成のみならず非化学量論組成も含まれる。
【0032】
第1の皮膜23の断面に現出する酸化物の面積や第2の皮膜25の断面に現出する酸化物の面積は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いた波長分散型X線分光器(WDS)による皮膜23,25の断面の分析で求められる。酸化物の面積を、分析した皮膜23,25の断面の面積で除して割合(%)が得られる。精度を確保するため、皮膜23,25の断面は500μm以上の面積を分析するのが好ましい。XRDとEPMAとを組み合わせて分析し、第1の皮膜23の断面に現出する酸化物の面積や第2の皮膜25の断面に現出する酸化物の面積を求めることもできる。
【0033】
第1の皮膜23の気孔率を第2の皮膜25の気孔率で除した値は0.2以上2.4以下であると好ましい。皮膜23,25に存在する気孔は皮膜23,25の応力を低減するので、皮膜23,25の割れや剥がれの発生を低減できるからである。
【0034】
皮膜23,25に存在する気孔は、SEMによる複合部材20の断面画像の画像解析により検出できる。観察した皮膜23,25の断面の面積で、その断面に現出する気孔の総面積を除して気孔率(%)がそれぞれ得られる。精度を確保するため、皮膜23,25の断面は500μm以上の面積を分析するのが好ましい。
【0035】
図4図3の一部を拡大した複合部材20の断面図である。第1の界面22に拡散層27がみられることがある。拡散層27は、基材21を構成する元素および第1の皮膜23を構成する元素の拡散が認められる層である。元素の拡散はEPMAを用いたWDS分析により検出できる。WDS分析により元素の拡散が検出できる点から検出できない点(WDSの検出限界未満)に切り替わるところが拡散層27の境界である。拡散層27の厚さは3.0μm以下であることが好ましい。第1の皮膜23の剥がれの発生を低減し、耐久性を向上するためである。拡散層27の厚さは、拡散層27の任意の3か所の厚さの平均値である。
【0036】
第2の界面24には、第1の皮膜23の成分と第2の皮膜25の成分とが移動した拡散層28がみられることがある。拡散層28は、第1の皮膜23を構成する元素および第2の皮膜25を構成する元素の拡散が認められる層である。元素の拡散はEPMAを用いたWDS分析により検出できる。WDS分析により元素の拡散が検出できる点から検出できない点(WDSの検出限界未満)に切り替わるところが拡散層28の境界である。拡散層28の厚さは3.0μm以下であることが好ましい。第2の皮膜25の剥がれの発生を低減し、耐久性を向上するためである。拡散層28の厚さは、拡散層28の任意の3か所の厚さの平均値である。
【実施例0037】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0038】
(サンプルの作製)
縦30mm横30mmの矩形の底面を有する高さ5mmの直方体の基材21を準備し、ブラスト処理により基材21の底面の表面粗さを調整した。基材21の底面に第1の皮膜23をホットプレス(不活性雰囲気中)により形成し、ブラスト処理により第1の皮膜23の表面粗さを調整した後、第1の皮膜23の上に第2の皮膜25をホットプレスにより形成した。種々の基材および成膜材料を用いて表1に示すNo.1-26における複合部材のサンプルを複数ずつ得た。
【0039】
【表1】
No.2,22,24の基材21(超硬合金)の主な化学成分はW:72-78質量%、Ti:10-15質量%、Co:5-6質量%、C:7-9質量%であった。No.3の基材21(Ni合金)の主な化学成分はNi:61質量%、Cr:22質量%、Mo:9質量%、Fe:2.5質量%であった。No.4の基材21(炭素鋼)の主な化学成分はC:0.10-0.15質量%、Si:0.15-0.35質量%。Mn:0.30-0.60質量%、残部がFeであった。炭素鋼は焼入れ・焼き戻し処理を施した。No.7の第1の皮膜23はTiBが61質量%含まれCrBが37質量%含まれていた。No.2の第2の皮膜25はSiが78質量%含まれTaNが19質量%含まれていた。
【0040】
(第1の界面の算術平均粗さRa)
各サンプルの基材21、第1の界面22、第1の皮膜23、第2の界面24及び第2の皮膜25が全て現出した一断面のSEM画像の画像解析により、基準長さ500μmにおける第1の界面22の算術平均粗さRaを前述の式(1)により求めた。これを基材の「Ra」の欄に記した。
【0041】
(拡散層の厚さ)
Raを求めた断面のEPMAを用いたWDS分析により、第1の界面22における拡散層27の厚さ(3か所の平均値)を求めた。これを表1の基材の欄と第1の皮膜の欄との間の「拡散層」の欄に記した。
【0042】
同じ断面のEPMAを用いたWDS分析により、第2の界面24における拡散層28の厚さ(3か所の平均値)を求めた。これを表1の第1の皮膜の欄と第2の皮膜の欄との間の「拡散層」の欄に記した。
【0043】
(酸化物の割合)
Raを求めた断面のEPMAを用いたWDS分析により、第1の皮膜23の断面に現出する酸化物の面積を求め、第1の皮膜23の面積に対する酸化物の面積の割合(%)を求めた。これを表1の第1の皮膜の「酸化物」の欄に記した。第1の皮膜23は断面の中の500μmの面積を分析した。
【0044】
同じ断面のEPMAを用いたWDS分析により、第2の皮膜25の断面に現出する酸化物の面積を求め、第2の皮膜25の面積に対する酸化物の面積の割合(%)を求めた。これを表1の第2の皮膜の「酸化物」の欄に記した。第2の皮膜25は断面の中の500μmの面積を分析した。
【0045】
各サンプルの拡散層の厚さが異なったり各サンプルの皮膜23,25に含まれる酸化物の割合が異なったりするのは、皮膜23,25を設けるときのホットプレスの圧力、温度、保持時間のいずれか1以上を異ならせたからである。
【0046】
(皮膜の厚さ)
Raを求めた断面のSEM画像の画像解析により、第1の皮膜23の平均線の方向に第1の皮膜23から基準長さ(100μm)だけを抜き取り、抜き取った部分の平均線の方向にX軸を取り、X軸と直交するY軸を縦倍率の方向に取った。次にX軸に沿って基準長さの全長に亘って1μmごとに第1の界面22と第2の界面24との間隔をY軸の方向に測定し、求めた間隔の総和を間隔の数で除して第1の皮膜23の厚さの平均値を求めた。これを表1の第1の皮膜の「厚さ」の欄に記した。
【0047】
同じSEM画像の画像解析により、第2の皮膜25の平均線の方向に第2の皮膜25から基準長さ(100μm)だけを抜き取り、抜き取った部分の平均線の方向にX軸を取り、X軸と直交するY軸を縦倍率の方向に取った。次にX軸に沿って基準長さの全長に亘って1μmごとに第2の界面24と表面26との間隔をY軸の方向に測定し、求めた間隔の総和を間隔の数で除して第2の皮膜25の厚さの平均値を求めた。これを表1の第2の皮膜の「厚さ」の欄に記した。第1の皮膜の厚さの平均値を第2の皮膜の厚さの平均値で除した値を表1の「厚さの比」の欄に記した。
【0048】
(気孔率)
Raを求めた断面のSEM画像の画像解析により、第1の皮膜23の面積500μmの断面に現出する気孔の総面積を、500μmで除して気孔率(%)を求めた。これを表1の第1の皮膜の「気孔率」の欄に記した。
【0049】
同じ断面のSEM画像の画像解析により、第2の皮膜25の面積500μmの断面に現出する気孔の総面積を、500μmで除して気孔率(%)を求めた。これを表1の第2の皮膜の「気孔率」の欄に記した。第1の皮膜の気孔率を第2の皮膜の気孔率で除した値を表1の「気孔率の比」の欄に記した。各サンプルの皮膜23,25の気孔率が異なるのは、皮膜23,25を設けるときのホットプレスの圧力、温度、保持時間のいずれか1以上を異ならせたからである。
【0050】
(耐溶着性試験)
1000℃に加熱したAr雰囲気の炉内に、希土類元素を含む金属製の押付部材と各サンプルとを入れ、第2の皮膜25の表面に押付部材の面を平行に保ちながら偏荷重がかからないように50MPaの圧力で第2の皮膜25の表面26に押付部材を10分間押し付けた後、炉からサンプルを取り出し、第2の皮膜25のうち押付部材を押し付けた部分の画像を撮影した。画像解析により、第2の皮膜25に押付部材を押し付けた面積に対する、第2の皮膜25に付着した金属の面積の割合(%)を求めた。なお、金属製の押付部材を第2の皮膜25に押し付けた面積は500mmであった。金属製の押付部材は希土類元素を含む合金(例えば磁石材料)であり、化学成分はCo:51質量%、Sm:26質量%、Fe:17質量%、Cu:6質量%であった。
【0051】
第2の皮膜に溶着(付着)した金属の面積の割合が3%以下のものをA、3%を超え5%以下のものをB、5%を超えたものをCと判定した。結果は表1の「溶着」の欄に記した。
【0052】
(凹み)
1000℃に加熱したAr雰囲気の炉内に、希土類元素を含む金属製の押付部材と各サンプルとを入れ、第2の皮膜25の表面に押付部材の面を平行に保ちながら偏荷重がかからないように50MPaの圧力で第2の皮膜25の表面に押付部材を5分間押し付けた後、圧力を5MPaに変更して第2の皮膜25に押付部材を5分間押し付けた。これを1サイクルとして50サイクルを繰り返した後、炉からサンプルを取り出し、非接触式の表面粗さ計により、第2の皮膜25に押付部材を押し付けた面積に対する、皮膜23,25が凹んだ部分(以下「凹み」と称す)の面積の割合(%)を求めた。なお、金属製の押付部材を第2の皮膜25に押し付けた面積は300mmであった。金属製の押付部材は希土類元素を含む合金(例えば磁石材料)であり、化学成分はCo:51質量%、Sm:26質量%、Fe:17質量%、Cu:6質量%であった。
【0053】
凹みの面積の割合が3%以下のものをA、3%を超え5%以下のものをB、5%を超え10%以下のものをC、10%を超えたものをDと判定した。結果は表1の「凹み」の欄に記した。
【0054】
(剥がれ)
凹みの面積の割合を求めたサンプルの画像解析およびエネルギー分散型X線分光法(EDS)による分析により、皮膜23,25が剥がれた部分(以下「剥がれ」と称す)の面積を測定し、第2の皮膜25に金属を押し付けた面積に対する剥がれの面積の割合(%)を求めた。剥がれの面積の割合が3%以下のものをA、3%を超え5%以下のものをB、5%を超えたものをCと判定した。結果は表1の「剥がれ」の欄に記した。
【0055】
(評価)
サンプルNo.1-24は溶着の判定がA又はBであったのに対し、No.25,26は溶着の判定がCであった。No.25は硼化物を含む第1の皮膜が設けられておらず、No.26は窒化物を含む第2の皮膜が設けられていなかった。第1の皮膜および第2の皮膜は耐溶着性の確保に効果があることがわかった。
【0056】
サンプルNo.1-20は凹みの判定がA-Cであり、剥がれの判定がA又はBであった。一方、サンプルNo.21-24は凹みの判定がDであり、剥がれの判定がCであった。No.21-24は皮膜の厚さの比が1.0未満または18.0を超えていたのに対し、No.1-20は界面の算術平均粗さRaが2.0μm以上15.0μm以下であり、皮膜の厚さの比が1.0以上18.0以下であった。No.1-20はRaが2.0μm以上15.0μm以下なので、アンカー効果による皮膜の接合力の確保と皮膜の応力の低減とが達成され、凹みや剥がれが低減されたと推定する。またNo.1-20は皮膜の厚さの比が1.0以上18.0以下なので、皮膜の応力を低減し凹みや剥がれが低減されたと推定する。
【0057】
サンプルNo.1-4は溶着の判定がBであったが、No.5-20は溶着の判定がAであった。No.5-20は第1の皮膜が硼化ジルコニウム、硼化チタン、硼化クロムの1種以上を含み、第2の皮膜が窒化ホウ素、窒化チタン、窒化クロム、窒化ジルコニウムの1種以上を含むのに対し、No.1-4は皮膜がそれ以外の硼化物または窒化物からなる点で相違した。上記の特定の硼化物および窒化物は、皮膜の耐溶着性の向上に効果があることがわかった。
【0058】
サンプルNo.1-4は凹みの判定がCであったが、No.5-20は凹みの判定がA又はBであった。No.5-20は第1の皮膜および第2の皮膜に含まれる酸化物の割合が10%以下であったのに対し、No.1-4は酸化物の割合が10%を超える点で相違した。第1の皮膜および第2の皮膜に含まれる酸化物の割合を10%以下にすることは、皮膜の凹みの発生の低減に効果があることがわかった。
【0059】
サンプルNo.5-10は凹みの判定がBであったが、No.11-20は凹みの判定がAであった。No.11-20は、気孔率の比が0.2以上2.4以下であったのに対し、No.5-10は0.2未満または2.4を超える点で相違した。気孔率の比を0.2以上2.4以下にすることは、皮膜の線膨張係数の差の低減による熱応力の低減などにより、皮膜の凹みの発生の低減に効果があることがわかった。
【0060】
サンプルNo.1-15は剥がれの判定がBであったが、No.16-20は剥がれの判定がAであった。No.16-20は、拡散層の厚さが3.0μm以下であったのに対し、No.1-15は3.0μmを超える点で相違した。拡散層の厚さを3.0μm以下にすることは、拡散層の応力の低減などにより、皮膜の剥がれの発生の低減に効果があることがわかった。
【0061】
複合部材20は、例えば成形型10など、高温下で第2の皮膜25に圧力がかかるものに使われることがある。実施例において説明したとおり、複合部材20によれば希土類元素を含む金属の付着を低減できることが明らかになった。従って複合部材20を用いて作られた成形型10には、被成形体Mに含まれる希土類元素を含む金属が付着しにくくなる。成形型10の耐久性を向上できるので、成形型10を長い間使用できる。
【0062】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0063】
実施形態では成形型10の空間16に配置される被成形体Mが円柱の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。被成形体Mの形状は適宜選択される。第1の型11の分割数や形も適宜選択される。
【0064】
実施形態では複合部材20で成形型10を作る場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。複合部材20の用途に制限はない。複合部材20の他の用途は例えば金属を熱処理するための容器が挙げられる。
【0065】
実施例では、第2の皮膜25の表面(平面)に押付部材の面(平面)を押し付ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。押付部材の面およびその面が押し付けられる第2の皮膜25の表面は曲面であっても構わない。押付部材の曲面が凸の場合、その面が押し付けられる第2皮膜25の曲面は、凸に対応した凹である。押付部材の曲面が凹の場合、その面が押し付けられる第2皮膜25の曲面は、凹に対応した凸である。押付部材の曲面が凹凸の場合、その面が押し付けられる第2皮膜25の曲面は、凹凸に対応した凹凸である。
【符号の説明】
【0066】
20 複合部材
21 基材
22 第1の界面
23 第1の皮膜
24 第2の界面
25 第2の皮膜
27,28 拡散層
図1
図2
図3
図4