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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046776
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】成形型
(51)【国際特許分類】
   B30B 11/02 20060101AFI20240329BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20240329BHJP
   B21J 5/02 20060101ALI20240329BHJP
   B21J 13/02 20060101ALI20240329BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B30B11/02 F
B21J5/00 C
B21J5/02 C
B21J5/00 B
B21J13/02 L
B22F3/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152052
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】土生 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】高木 海人
【テーマコード(参考)】
4E087
4K018
【Fターム(参考)】
4E087AA09
4E087CA14
4E087EC42
4E087ED05
4E087ED06
4K018BA20
4K018CA13
4K018CA17
(57)【要約】
【課題】簡易に補修できる成形型を提供する。
【解決手段】成形型は、内部に空間を有し、空間に配置された被成形体を加圧成形するためのものである。成形型は、基材と、基材に接し空間に面する皮膜と、を含む複合部材からなり、加圧方向に沿った切断面で、少なくとも2つに分割されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間を有し、前記空間に配置された被成形体を加圧成形するための成形型であって、
基材と、前記基材に接し前記空間に面する皮膜と、を含む複合部材からなり、
加圧方向に沿った切断面で、少なくとも2つに分割されている成形型。
【請求項2】
前記皮膜は、前記基材に接する第1の皮膜と、
前記第1の皮膜に接する第2の皮膜と、を含み、
前記第1の皮膜は硼化物を主成分とし、
前記第2の皮膜は窒化物を主成分とする請求項1記載の成形型。
【請求項3】
前記第1の皮膜の厚さの平均値を前記第2の皮膜の厚さの平均値で除した値は1.5以上4.6以下である請求項2記載の成形型。
【請求項4】
前記第1の皮膜と前記第2の皮膜とを合わせた厚さの平均値は40μm以上120μm以下である請求項2又は3に記載の成形型。
【請求項5】
前記硼化物は、硼化ジルコニウム、硼化チタン、硼化クロムの1種以上を含み、
前記窒化物は、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化クロム、窒化ジルコニウムの1種以上を含む請求項2又は3に記載の成形型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加圧成形に用いられる成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
中空の空間に配置された被成形体の加圧成形に用いられる成形型の材料をサイアロンにする先行技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-225807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サイアロンは加工が困難なため、先行技術では成形型が変質したり破損したりしたときに補修が難しいという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、簡易に補修できる成形型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明は、内部に空間を有し、空間に配置された被成形体を加圧成形するための成形型であって、基材と、基材に接し空間に面する皮膜と、を含む複合部材からなり、加圧方向に沿った切断面で、少なくとも2つに分割されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の成形型によれば、基材と、基材に接し空間に面する皮膜と、を含む複合部材からなり、加圧方向に沿った切断面で少なくとも2つに分割されている。基材の上に皮膜を作りやすいので、成形型を簡易に補修できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】複合部材からなる第1実施の形態における成形型の斜視図である。
図2】成形型の分解立体図である。
図3】複合部材の断面図である。
図4】第2実施の形態における成形型の分解立体図である。
図5】第3実施の形態における成形型の分解立体図である。
図6】第4実施の形態における成形型の分解立体図である。
図7】第5実施の形態における成形型の分解立体図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は複合部材(後述する)で作られた一実施の形態における成形型10の斜視図である。成形型10は加圧によって被成形体Mの形を作るための型である。図1の矢印は被成形体Mの加圧方向を示している。
【0010】
成形型10は、複数の型の組合せからなる第1の型11と、第1の型11の加圧方向の端を塞ぐ第2の型14と、を備えている。第1の型11は、被成形体Mの加圧方向に沿った切断面12で分割されている。切断面12は、被成形体Mの加圧方向(加圧軸)に対して傾いていても良く、例えば加圧軸に対して±5°の範囲に切断面12が存在する場合も含まれる。
【0011】
本実施形態では被成形体Mの形は円柱であり、第1の型11は単一の切断面12によって2分割されている。第2の型14は、被成形体Mの軸方向の両側から被成形体Mを加圧する。成形型10を使用するときは、加圧された被成形体Mに押されて第1の型11の切断面12が互いに離れないようにするため、第1の型11は枠などの固定部材(図示せず)にはまっている。
【0012】
被成形体Mは、希土類元素を含む金属を含む。被成形体Mに含まれる金属の形体は、粉末、粒および板の少なくとも1種が挙げられる。金属に含まれる希土類元素はSc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luが挙げられる。希土類元素の機能の発現のため、金属は希土類元素を25-50質量%含むのが好ましい。成形型10に被成形体Mが配置された状態で成形型10を加熱しても良い。成形型10は真空中や不活性ガス雰囲気など、適宜の雰囲気で使われる。
【0013】
図2は成形型10の分解立体図である。第1の型11の切断面12を合わせてできる円筒状の内面13の軸方向の両端が第2の型14で塞がれると、成形型10に、第1の型11の内面13と第2の型14の円形の端面15とに囲まれた中空の円柱状の空間16ができる。切断面12は空間16の中心を通る。被成形体M(図1参照)は空間16に配置される。被成形体Mの付着を防ぐため、少なくとも第1の型11の内面13及び第2の型14の端面15に皮膜(後述する)が設けられる。
【0014】
図3は複合部材20の断面図である。図3は第1の型11(図2参照)の内面13又は第2の型14の端面15を含む複合部材20の断面が図示されている。複合部材20は、順に基材21、第1の皮膜23、第2の皮膜25を含む。図3には基材21、第1の皮膜23及び第2の皮膜25の断面の一部が図示されている。被成形体M(図1参照)は第2の皮膜25に接する。
【0015】
基材21は、複合部材20の元になる部材である。基材21の材料は、超硬合金、Ni合金、Co合金、Mo合金、高融点材料の耐火金属、鋼、カーボン(黒鉛)が例示される。超硬合金は金属および硬質の金属間化合物からなり、硬質相の主成分が炭化タングステンであるものが挙げられる。超硬合金はCr,Ti,Ta,Nb等の炭化物や炭窒化物が硬質相に含まれることがある。Ni合金はNi-Cr-Fe系合金、Ni-Mo-Fe系合金、Ni-Cu系合金、Ni-Fe系合金が例示される。Co合金はCo-Cr系合金が例示される。耐火金属はV,Cr,Nb,Mo,Zr,Hf,W,Ta,Reの1種以上を含む体心立方格子(bcc)構造を有する合金であって、融点が例えば1800℃以上の材料が挙げられる。鋼は、炭素量が約0.02%以上2.1%以下の炭素鋼、Si,Mn,Ni,Cr,Mo,V,Nb,Ti等の元素の1種以上を含むステンレス鋼などの合金鋼が例示される。
【0016】
基材21は、炭素繊維などの強化繊維が複合化していても良い。基材21は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。例えば基材21の材料が超硬合金の場合、その表面に脱β層が形成されていても良い。基材21の材料が鋼の場合、その表面に浸炭層が形成されていたり、その表面が窒化されていたりしても良い。焼入れ、焼き戻し等の各種の熱処理が施された鋼を基材21の材料に採用することは当然可能である。
【0017】
第1の皮膜23は、基材21と第2の皮膜25との間に介在し、第2の皮膜25を基材21に結合する機能、及び、希土類元素を含む金属の付着を抑制する機能を有する。第1の皮膜23は、基材21のうち第1の型11(図2参照)の内面13や第2の型14の端面15に相当する部分だけでなく、基材21の全ての面に設けられても良い。第1の型11の内面13の一部や第2の型14の端面15の一部に第1の皮膜23が設けられていない部分があっても差し支えない。
【0018】
第1の皮膜23の材料は硼化物を主成分とする。硼化物は、ホウ素よりも電気陰性度が小さい元素とホウ素との化合物である。硼化物が主成分とは、第1の皮膜23の材料のうち硼化物の割合が50質量%を超えること、好ましくは75質量%以上であること、特に好ましくは90質量%以上であることをいう。
【0019】
第1の皮膜23は、硼化物以外に、酸化物が含まれていても差し支えない。酸化物の割合は5質量%以下が好ましい。第1の皮膜23は、第1の皮膜23の機能を損なわない範囲において、窒化物、炭化物等の不可避不純物が含まれていても良い。不可避不純物の割合は、第1の皮膜23の材料全体に対して1質量%以下である。
【0020】
第1の皮膜23に含まれる硼化物は、硼化ジルコニウム、硼化チタン、硼化クロムの1種以上が好適である。硼化ジルコニウムは融点や硬度が高く、さらに電気伝導性や熱伝導性に優れる。硼化チタンは硬度が高く、さらに耐食性に優れる。硼化クロムは耐酸化性に優れる。硼化ジルコニウム、硼化チタン及び硼化クロムは、ZrB,ZrB,TiB,TiB,CrB,CrBのような化学量論組成のみならず、ZrB1-Xのような非化学量論組成も含まれる。
【0021】
第2の皮膜25は基材21を保護する機能、及び、希土類元素を含む金属の付着を抑制する機能を有する。第2の皮膜25は、第1の皮膜23の全体に設けられているのが好ましいが、第1の皮膜23の一部に第2の皮膜25が設けられていない部分があっても差し支えない。
【0022】
第2の皮膜25の材料は窒化物を主成分とする。窒化物は、窒素よりも陽性な元素と窒素との化合物である。第2の皮膜25は窒化物を主成分とするので、硼化物を主成分とする第1の皮膜23の線膨張係数に第2の皮膜25の線膨張係数を近づけることができる。窒化物が主成分とは、第2の皮膜25の材料のうち窒化物の割合が50質量%を超えること、好ましくは75質量%以上であること、特に好ましくは90質量%以上であることをいう。
【0023】
第2の皮膜25は、窒化物以外に、酸化物が含まれていても差し支えない。酸化物の割合は5質量%以下が好ましい。第2の皮膜25は、第2の皮膜25の機能を損なわない範囲において、炭化物、硼化物等の不可避不純物が含まれていても良い。不可避不純物の割合は、第2の皮膜25の材料全体に対して1質量%以下である。
【0024】
第2の皮膜25に含まれる窒化物は、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化クロム、窒化ジルコニウムの1種以上が好適である。これらは耐食性、熱伝導性、電気伝導性に優れる。窒化ホウ素、窒化チタン、窒化クロム及び窒化ジルコニウムは、BN,TiN,CrN,ZrNのような化学量論組成のみならず、BN1-Xのような非化学量論組成も含まれる。
【0025】
第1の皮膜23の材料や第2の皮膜25の材料は、例えばX線回折法によって特定できる。第1の皮膜23及び第2の皮膜25は、蒸着や溶射によって膜を設けた後、加熱して作ることができる。ホットプレスによって第1の皮膜23や第2の皮膜25を作ることもできる。複合部材20は、第1の界面22において基材21と第1の皮膜23とが接しており、第2の界面24において第1の皮膜23と第2の皮膜25とが接している。
【0026】
複合部材20の断面に現出する第1の皮膜23の厚さの平均値を第2の皮膜25の厚さの平均値で除した値は1.5以上4.6以下であると好ましい。第2の皮膜25の厚さを確保して補修できるようにすると共に、第1の皮膜23の応力が過大にならないようにできるので、第1の皮膜23の割れの発生を低減できる。
【0027】
第1の皮膜23の厚さの平均値を求めるには、まず走査電子顕微鏡(SEM)による複合部材20の断面画像の画像解析により、第1の皮膜23の平均線の方向に第1の皮膜23から基準長さ(100μm)だけを抜き取る。平均線は、最小二乗法により第1の界面22と第2の界面24との間を直線に置き換えた線である。次に、抜き取った部分の平均線の方向にX軸を取り、X軸と直交するY軸を縦倍率の方向に取り、X軸に沿って基準長さの全長に亘って1μmごとに第1の界面22と第2の界面24との間隔をY軸の方向に測定し、求めた間隔の総和を間隔の数で除して平均値を求める。
【0028】
第2の皮膜25の厚さの平均値を求めるには、まずSEMによる複合部材20の断面画像の画像解析により、第2の皮膜25の平均線の方向に第2の皮膜25から基準長さ(100μm)だけを抜き取る。平均線は最小二乗法により第2の界面24と第2の皮膜25の表面26との間を直線に置き換えた線である。次に、抜き取った部分の平均線の方向にX軸を取り、X軸と直交するY軸を縦倍率の方向に取り、X軸に沿って基準長さの全長に亘って1μmごとに第2の界面24と表面26との間隔をY軸の方向に測定し、求めた間隔の総和を間隔の数で除して平均値を求める。
【0029】
第1の皮膜23と第2の皮膜25とを合わせた厚さの平均値は40μm以上120μm以下であると好ましい。皮膜23,25による耐溶着性を確保すると共に、皮膜23,25の剥がれの一因である皮膜23,25の応力が過大にならないようにするためである。
【0030】
第1の皮膜23と第2の皮膜25とを合わせた厚さの平均値を求めるには、まずSEMによる複合部材20の断面画像の画像解析により、第1の皮膜23の平均線の方向に第1の皮膜23及び第2の皮膜25から基準長さ(100μm)だけを抜き取る。平均線は最小二乗法により第1の界面22と第2の皮膜25の表面26との間を直線に置き換えた線である。次に、抜き取った部分の平均線の方向にX軸を取り、X軸と直交するY軸を縦倍率の方向に取り、X軸に沿って基準長さの全長に亘って1μmごとに第1の界面22と表面26との間隔をY軸の方向に測定し、求めた間隔の総和を間隔の数で除して平均値を求める。第1の皮膜23の平均値に第2の皮膜25の平均値を加えた値を、第1の皮膜23と第2の皮膜25とを合わせた厚さの平均値としても良い。
【0031】
図2に戻って説明する。成形型10の第1の型11は切断面12で分割されているので、内面13の任意の法線を無限の長さにできる。これにより第1の型11の内面13に第1の皮膜23及び第2の皮膜25を溶射や蒸着、ホットプレス等によって形成しやすくできる。従って成形型10の内面13が変質したり破損したりしたときに内面13を簡易に補修できる。
【0032】
図4を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施形態では、第2の型14の形が円柱の場合について説明した。これに対し第2実施形態では、第2の型34の形が角柱の成形型30について説明する。第1実施形態において説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図4は第2実施の形態における成形型30の分解立体図である。
【0033】
成形型30は、複数の型の組合せからなる第1の型31と、第1の型31の加圧方向の端を塞ぐ第2の型34と、を備えている。第1の型31は、被成形体M(図1参照)の加圧方向に沿った切断面32で分割されている。切断面32は、被成形体Mの加圧方向(加圧軸)に対して傾いていても良く、例えば加圧軸に対して±5°の範囲に切断面32が存在する場合も含まれる。本実施形態では被成形体Mの形は角柱であり、第1の型31は単一の切断面32によって2分割されている。
【0034】
第1の型31の内面33は、互いに向かい合う第1面33a、及び、第1面33aの間に位置する第2面33bからなる。本実施形態では第2面33bは第1面33aに垂直である。切断面32を合わせてできる角筒状の第1の型31の軸方向の両端が第2の型34で塞がれると、成形型30に、第1の型31の内面33と第2の型34の矩形の端面35とに囲まれた中空の角柱状の空間36ができる。切断面32は空間36の中心を通る。被成形体M(図1参照)は空間36に配置される。
【0035】
被成形体Mの付着を防ぐため、少なくとも第1の型31の内面33及び第2の型34の端面35に第1の皮膜23(図3参照)及び第2の皮膜25が設けられる。第1の型31は切断面32で分割されているので、第1面33aにほぼ垂直な直線を任意に引くことができ、さらに第2面33bの任意の法線を無限の長さにできる。よって第1の型31の内面33に第1の皮膜23及び第2の皮膜25を溶射や蒸着、ホットプレス等により形成しやすくできる。従って成形型30の内面33が変質したり破損したりしたときに簡易に補修できる。
【0036】
図5を参照して第3実施の形態について説明する。第1実施形態および第2実施形態では、第1の型11,31が単一の切断面12,32によってそれぞれ分割されている場合について説明した。これに対し第3実施形態では、第1の型41が2つの切断面42,43によって分割されている場合について説明する。第1実施形態および第2実施形態において説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図5は第3実施の形態における成形型40の分解立体図である。
【0037】
成形型40は、複数の型の組合せからなる第1の型41と、第1の型41の加圧方向の端を塞ぐ第2の型34と、を備えている。第1の型41は、被成形体M(図1参照)の加圧方向に沿った切断面42,43で分割されている。切断面42,43は、被成形体Mの加圧方向(加圧軸)に対して傾いていても良く、例えば加圧軸に対して±5°の範囲に切断面42,43が存在する場合も含まれる。本実施形態では被成形体Mの形は角柱であり、第1の型41は互いに直交する切断面42,43によって2分割されている。切断面42,43によって分割された第1の型41の内面44には、互いに垂直な第1面44a及び第2面44bができる。
【0038】
被成形体Mの付着を防ぐため、少なくとも第1の型41の内面44及び第2の型34の端面35に第1の皮膜23(図3参照)及び第2の皮膜25が設けられる。第1の型41は切断面42,43で分割されているので、第1面44a及び第2面44bの任意の法線を無限の長さにできる。よって第1の型41の内面44に第1の皮膜23及び第2の皮膜25を溶射や蒸着、ホットプレス等により形成しやすくできる。従って成形型40の内面44が変質したり破損したりしたときに簡易に補修できる。
【0039】
図6を参照して第4実施の形態について説明する。第1実施形態から第3実施形態では第1の型11,31,41の加圧方向の端を塞ぐ2つの第2の型14,34が、両方とも第1の型11,31,41と分離している場合について説明した。これに対し第4実施形態では、第1の型11の加圧方向の端を塞ぐ第2の型14が、1つだけ第1の型11と分離している場合について説明する。第1実施形態において説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図6は第4実施の形態における成形型50の分解立体図である。
【0040】
成形型50は、加圧方向に沿う切断面12で2分割された第1の型11と、第1の型11の加圧方向の端を塞ぐ第2の型14と、を備えている。片方の第1の型11には、第2の型14によって加圧される加圧方向の端に底部51が結合している。底部51は、第2の型14と直径が等しく、第2の型14よりも軸方向の長さが小さい円柱である。底部51の円形の端面52は、第1の型11の内面13につながっている。第2の型14の圧力面は、底部51の端面52に対面する。切断面12を合わせてできる有底円筒状の第1の型11の軸方向の端が第2の型14で塞がれると、成形型50に、第1の型11の内面13、底部51の円形の端面52、及び、第2の型14の円形の端面15に囲まれた中空の円柱状の空間16ができる。
【0041】
被成形体M(図1参照)の付着を防ぐため、少なくとも第1の型11の内面13、底部51の端面52、及び、第2の型14の端面15に第1の皮膜23(図3参照)及び第2の皮膜25が設けられる。第1の型11は切断面12で分割されているので、内面13及び端面52の任意の法線を無限の長さにできる。よって第1の型11の内面13及び端面52に第1の皮膜23及び第2の皮膜25を溶射や蒸着、ホットプレス等により形成しやすくできる。従って成形型50の内面13や端面52が変質したり破損したりしたときに簡易に補修できる。
【0042】
図7を参照して第5実施の形態について説明する。第1実施形態から第4実施形態では第1の型11,31,41がそれぞれ2分割されている場合について説明した。これに対し第5実施形態では、第1の型61,62,63が3分割されている場合について説明する。第2実施形態において説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図7は第5実施の形態における成形型60の分解立体図である。
【0043】
成形型60は、複数の第1の型61,62,63と、第1の型61,62,63の加圧方向の端を塞ぐ第2の型34と、を備えている。第1の型61,63と第1の型62とは切断面64によって分割されている。第1の型61と第1の型63とは切断面65によって分割されている。切断面64,65は互いにほぼ平行な面である。切断面64,65は、被成形体Mの加圧方向(加圧軸)に対して傾いていても良く、例えば加圧軸に対して±5°の範囲に切断面64,65が存在する場合も含まれる。
【0044】
第1の型63には、第2の型34によって加圧される加圧方向の端に底部66が結合している。底部66は、第2の型34と加圧面の大きさ及び形が等しく、第2の型34よりも軸方向の長さが小さい角柱である。底部66の矩形の端面67は、第1の型63の内面68につながっている。第2の型34の圧力面は、底部66の端面67に対面する。
【0045】
被成形体Mの付着を防ぐため、少なくとも第1の型61,62,63の内面および底部66の端面67に第1の皮膜23(図3参照)及び第2の皮膜25が設けられる。第1の型61,62,63は切断面64,65で分割されているので、第1の型61,62,63の内面および端面67の任意の法線を無限の長さにできる。よって第1の型61,62,63の内面および端面67に第1の皮膜23及び第2の皮膜25を溶射や蒸着、ホットプレス等により形成しやすくできる。従って成形型60の内面や端面67が変質したり破損したりしたときに簡易に補修できる。
【0046】
第1実施形態、第2実施形態および第3実施形態における成形型10,30,40は、2つの第2の型14,34が、両方とも第1の型11,31,41と分離しているので、第4実施形態および第5実施形態における成形型50,60と比較して、被成形体Mの圧力分布のばらつきを低減できる点で好ましい。
【実施例0047】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(サンプルの作製)
縦30mm横30mmの矩形の底面を有する高さ5mmの直方体の基材21を準備し、ブラスト処理により基材21の底面の表面粗さを調整した。基材21の底面に第1の皮膜23をホットプレス(不活性雰囲気中)により形成し、ブラスト処理により第1の皮膜23の表面粗さを調整した後、第1の皮膜23の上に第2の皮膜25をホットプレスにより形成した。種々の基材および成膜材料を用いて表1に示すNo.1-23における複合部材のサンプルを複数ずつ得た。
【0049】
【表1】
No.2,22の基材21(超硬合金)の主な化学成分はW:72-78質量%、Ti:10-15質量%、Co:5-6質量%、C:7-9質量%であった。No.3の基材21(Ni合金)の主な化学成分はNi:61質量%、Cr:22質量%、Mo:9質量%、Fe:2.5質量%であった。No.4の基材21(炭素鋼)の主な化学成分はC:0.10-0.15質量%、Si:0.15-0.35質量%。Mn:0.30-0.60質量%、残部がFeであった。炭素鋼は焼入れ・焼き戻し処理を施した。No.7の第1の皮膜23はTiBが61質量%含まれCrBが37質量%含まれていた。No.2の第2の皮膜25はSiが78質量%含まれTaNが19質量%含まれていた。
【0050】
(皮膜の厚さ)
各サンプルの基材21、第1の界面22、第1の皮膜23、第2の界面24及び第2の皮膜25が全て現出した一断面のSEM画像の画像解析により、第1の皮膜23の平均線の方向に第1の皮膜23から基準長さ(100μm)だけを抜き取り、抜き取った部分の平均線の方向にX軸を取り、X軸と直交するY軸を縦倍率の方向に取った。次にX軸に沿って基準長さの全長に亘って1μmごとに第1の界面22と第2の界面24との間隔をY軸の方向に測定し、求めた間隔の総和を間隔の数で除して第1の皮膜23の厚さの平均値を求めた。これを表1の第1の皮膜の「厚さ」の欄に記した。
【0051】
同じSEM画像の画像解析により、第2の皮膜25の平均線の方向に第2の皮膜25から基準長さ(100μm)だけを抜き取り、抜き取った部分の平均線の方向にX軸を取り、X軸と直交するY軸を縦倍率の方向に取った。次にX軸に沿って基準長さの全長に亘って1μmごとに第2の界面24と表面26との間隔をY軸の方向に測定し、求めた間隔の総和を間隔の数で除して第2の皮膜25の厚さの平均値を求めた。これを表1の第2の皮膜の「厚さ」の欄に記した。
【0052】
第1の皮膜の厚さの平均値を第2の皮膜の厚さの平均値で除した値を表1の「厚さの比」の欄に記した。第1の皮膜の厚さの平均値に第2の皮膜の厚さの平均値を加えた値を表1の「厚さの計」の欄に記した。
【0053】
(耐溶着性試験)
1000℃に加熱したAr雰囲気の炉内に、希土類元素を含む金属製の押付部材と各サンプルとを入れ、第2の皮膜25の表面に押付部材の面を平行に保ちながら偏荷重がかからないように50MPaの圧力で第2の皮膜25の表面26に押付部材を10分間押し付けた後、炉からサンプルを取り出し、第2の皮膜25のうち押付部材を押し付けた部分の画像を撮影した。画像解析により、第2の皮膜25に押付部材を押し付けた面積に対する、第2の皮膜25に付着した金属の面積の割合(%)を求めた。なお、金属製の押付部材を第2の皮膜25に押し付けた面積は300mmであった。金属製の押付部材は希土類元素を含む合金(例えば磁石材料)であり、化学成分はCo:51質量%、Sm:26質量%、Fe:17質量%、Cu:6質量%であった。
【0054】
第2の皮膜に溶着(付着)した金属の面積の割合が3%以下のものをA、3%を超え5%以下のものをB、5%を超えたものをCと判定した。結果は表1の「溶着」の欄に記した。
【0055】
(凹み)
1000℃に加熱したAr雰囲気の炉内に、希土類元素を含む金属製の押付部材と各サンプルとを入れ、第2の皮膜25の表面に押付部材の面を平行に保ちながら偏荷重がかからないように50MPaの圧力で第2の皮膜25の表面に押付部材を5分間押し付けた後、圧力を5MPaに変更して第2の皮膜25に押付部材を5分間押し付けた。これを1サイクルとした。押付部材の押し付けを1サイクル終えたサンプルを炉から取り出し、第2の皮膜25のうち押付部材を押し付けた部分の画像を撮影した。
【0056】
再び1000℃に加熱したAr雰囲気の炉内で、押付部材の押し付けを50サイクル繰り返した。50サイクルを終えたサンプルを炉から取り出し、第2の皮膜25のうち押付部材を押し付けた部分の画像を撮影した。
【0057】
非接触式の表面粗さ計により、第2の皮膜25に押付部材を押し付けた面積に対する、皮膜23,25が凹んだ部分(以下「凹み」と称す)の面積の割合(%)を求めた。なお、金属製の押付部材を第2の皮膜25に押し付けた面積は300mmであった。金属製の押付部材は希土類元素を含む合金(例えば磁石材料)であり、化学成分はCo:51質量%、Sm:26質量%、Fe:17質量%、Cu:6質量%であった。
【0058】
凹みの面積の割合が3%以下のものをA、3%を超え5%以下のものをB、5%を超え10%以下のものをC、10%を超えたものをDと判定した。結果は表1の「凹み」の欄に記した。
【0059】
(耐久性)
凹みの評価のための試験の1サイクル後に撮影した画像の画像解析により、第2の皮膜25に付着した金属の面積S1を測定した。同じ試験の50サイクル後に撮影した画像の画像解析により、第2の皮膜25に付着した金属の面積S2を測定した。次いで第2の皮膜25に押付部材を押し付けた面積に対する、面積S2から面積S1を減じた面積の割合(%)を求めた。この割合が10%以下のものをA、10%を超え20%以下のものをB、20%を超えたものをCと判定した。結果は表1の「耐久性」の欄に記した。
【0060】
(評価)
サンプルNo.1-21は溶着の判定がA又はBであったのに対し、No.22,23は溶着の判定がCであった。No.1-21は窒化物を含む第2の皮膜が設けられていたのに対し、No.22は窒化物を含む第2の皮膜が設けられておらず、No.23は皮膜が全く設けられていなかった。第2の皮膜は耐溶着性の確保に効果があることがわかった。
【0061】
サンプルNo.1-20は凹みの判定がA-Cであり、耐久性の判定がA又はBであった。一方、サンプルNo.21は凹みの判定がDであり、耐久性の判定がCであった。No.1-20は硼化物を含む第1の皮膜および窒化物を含む第2の皮膜が設けられていたが、No.21は硼化物を含む第1の皮膜が設けられていなかった。第1の皮膜および第2の皮膜は凹みの低減や耐久性の向上に効果があることがわかった。
【0062】
サンプルNo.1-4は溶着の判定がBであったが、No.5-20は溶着の判定がAであった。No.5-20は第1の皮膜が硼化ジルコニウム、硼化チタン、硼化クロムの1種以上を含み、第2の皮膜が窒化ホウ素、窒化チタン、窒化クロム、窒化ジルコニウムの1種以上を含むのに対し、No.1-4は皮膜がそれ以外の硼化物または窒化物からなる点で相違した。上記の特定の硼化物および窒化物は、皮膜の耐溶着性の向上に効果があることがわかった。
【0063】
サンプルNo.1-4は凹みの判定がCであったが、No.5-20は凹みの判定がA又はBであった。No.5-20は第1の皮膜の厚さの平均値を第2の皮膜の厚さの平均値で除した値が1.5以上4.6以下であったのに対し、No.1-4は、その値が1.5未満または4.6を超える点で相違した。第1の皮膜の厚さの平均値を第2の皮膜の厚さの平均値で除した値を1.5以上4.6以下にすることは、皮膜の凹みの発生の低減に効果があることがわかった。これは皮膜の応力の低減によるものと推定する。
【0064】
サンプルNo.5-10は凹みの判定および耐久性の判定がBであったが、No.11-20は凹みの判定および耐久性の判定がAであった。No.11-20は、第1の皮膜と第2の皮膜とを合わせた厚さの平均値が40μm以上120μm以下であったのに対し、No.5-10は厚さの平均値が40μm未満である点で相違した。第1の皮膜と第2の皮膜とを合わせた厚さの平均値を40μm以上120μm以下にすることは、皮膜の応力の低減などにより、皮膜の凹みの発生の低減や耐久性の向上に効果があることがわかった。
【0065】
複合部材20は、例えば成形型10,30,40,50,60など、高温下で第2の皮膜25に圧力がかかるものに使われることがある。実施例において説明したとおり、複合部材20によれば希土類元素を含む金属の付着を低減できることが明らかになった。従って複合部材20を用いて作られた成形型10,30,40,50,60には、被成形体Mに含まれる希土類元素を含む金属が付着しにくくなる。成形型10,30,40,50,60の耐久性を向上できるので、成形型10,30,40,50,60を長い間使用できる。
【0066】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0067】
実施形態では成形型10,30,40,50,60の空間16,36に配置される被成形体Mが円柱または角柱の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。被成形体Mの形状は一例であり適宜選択される。第1の型11,31,41,61,62,63の分割数や形状も一例であり適宜選択される。
【0068】
実施例では、第2の皮膜25の表面(平面)に押付部材の面(平面)を押し付ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。押付部材の面およびその面が押し付けられる第2の皮膜25の表面は曲面であっても構わない。押付部材の曲面が凸の場合、その面が押し付けられる第2皮膜25の曲面は、凸に対応した凹である。押付部材の曲面が凹の場合、その面が押し付けられる第2皮膜25の曲面は、凹に対応した凸である。押付部材の曲面が凹凸の場合、その面が押し付けられる第2皮膜25の曲面は、凹凸に対応した凹凸である。
【符号の説明】
【0069】
10,30,40,50,60 成形型
12,32,42,43,64,65 切断面
16,36 空間
20 複合部材
21 基材
23 第1の皮膜
25 第2の皮膜
M 被成形体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7