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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004678
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】膜厚評価方法および膜厚評価システム
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/06 20060101AFI20240110BHJP
   G01N 27/20 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01B7/06 R
G01N27/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104413
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 幸平
【テーマコード(参考)】
2F063
2G060
【Fターム(参考)】
2F063AA16
2F063BA04
2F063BD13
2F063DA02
2F063DA05
2F063FA10
2G060AA08
2G060AD03
2G060AE01
2G060AF03
2G060AF07
2G060AG03
2G060AG11
2G060EA06
2G060EB03
2G060EB05
2G060HA02
2G060HC15
2G060KA11
(57)【要約】
【課題】光学的な評価が困難な比較的に厚い保護膜についても膜厚を適切に評価する。
【解決手段】膜厚評価処理は、基材を被覆する保護膜であって、非晶質の炭素膜と、基材と炭素膜との間の中間層とを含む保護膜の膜厚を評価する方法である。膜厚評価処理は、保護膜の電気抵抗Rを測定する抵抗測定工程Saと、電気抵抗Rと膜厚Tとの相関を利用して、抵抗測定工程Saにより測定された電気抵抗Rに対応する膜厚Tを特定する膜厚特定工程Sbとを含む。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を被覆する保護膜であって、非晶質の炭素膜と、前記基材と前記炭素膜との間の中間層とを含む保護膜の膜厚を評価する方法において、
前記保護膜の電気抵抗を測定する抵抗測定工程と、
電気抵抗と膜厚との相関を利用して、前記抵抗測定工程により測定された電気抵抗に対応する膜厚を特定する膜厚特定工程と
を含む膜厚評価方法。
【請求項2】
前記中間層は、ビッカース硬度が1000Hv以上の薄膜である
請求項1の膜厚評価方法。
【請求項3】
前記中間層は、SiC、WC、TiC、SiO、Al、TiN、ZrN、CrN、TiCN、TiAlN、TiCrN、ZrO、CoNiCrAlYから選択される1以上の無機化合物を含む
請求項1の膜厚評価方法。
【請求項4】
前記中間層の膜厚は、1μm以上かつ500μm以下である
請求項1の膜厚評価方法。
【請求項5】
前記炭素膜の膜厚は、100nm以上かつ8μm以下である
請求項1の膜厚評価方法。
【請求項6】
前記抵抗測定工程において測定された電気抵抗が閾値を下回る場合に、前記保護膜に欠陥が存在すると判定する欠陥検知工程
をさらに含む請求項1の膜厚評価方法。
【請求項7】
前記抵抗測定工程においては、
前記基材に接触する第1電極と、
前記保護膜に接触する電解液に挿入された第2電極と、
を利用した電気化学インピーダンス測定により、前記保護膜の電気抵抗を測定する
請求項1の膜厚評価方法。
【請求項8】
基材を被覆する保護膜であって、非晶質の炭素膜と、前記基材と前記炭素膜との間の中間層とを含む保護膜の膜厚を評価するシステムにおいて、
前記保護膜の電気抵抗を測定する抵抗測定部と、
電気抵抗と膜厚との相関を利用して、前記抵抗測定部により測定された電気抵抗に対応する膜厚を特定する膜厚特定部と
を具備する膜厚評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薄膜の膜厚を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜の膜厚を評価するための各種の技術が従来から提案されている。例えば特許文献1には、分光測色計により光学的に測定された炭素薄膜の明度から、当該炭素薄膜の膜厚を評価する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-132876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術のもとでは、炭素薄膜について評価可能な膜厚が100nm以下の範囲に限定される。したがって、膜厚が100nmを上回る薄膜については評価できない。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、光学的な評価が困難な比較的に厚い保護膜についても膜厚を適切に評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本開示に係る膜厚評価方法は、基材を被覆する保護膜であって、非晶質の炭素膜と、前記基材と前記炭素膜との間の中間層とを含む保護膜の膜厚を評価する方法において、前記保護膜の電気抵抗を測定する抵抗測定工程と、電気抵抗と膜厚との相関を利用して、前記抵抗測定工程により測定された電気抵抗に対応する膜厚を特定する膜厚特定工程とを含む。
【0006】
本開示に係る膜厚評価システムは、基材を被覆する保護膜であって、非晶質の炭素膜と、前記基材と前記炭素膜との間の中間層とを含む保護膜の膜厚を評価するシステムにおいて、前記保護膜の電気抵抗を測定する抵抗測定部と、電気抵抗と膜厚との相関を利用して、前記抵抗測定部により測定された電気抵抗に対応する膜厚を特定する膜厚特定部とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態における蒸気タービン部材の部分的な断面図である。
図2】膜厚評価システムの構成図である。
図3】保護膜のインピーダンスと膜厚との関係を表すグラフである。
図4】保護膜の電気抵抗と膜厚との相関を表すグラフである。
図5】相関データの説明図である。
図6】膜厚評価処理のフローチャートである。
図7】第2実施形態における膜厚評価処理のフローチャートである。
図8】保護膜の欠陥に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、各図面においては、各要素の寸法および縮尺が実際の製品とは相違する場合がある。また、以下に説明する形態は、本開示を実施する場合に想定される例示的な一形態である。したがって、本開示の範囲は、以下に例示する形態には限定されない。
【0009】
A:第1実施形態
A-1:蒸気タービン部材10の構成
図1は、第1実施形態における蒸気タービン部材10の部分的な断面図である。蒸気タービン部材10は、例えば地熱発電所等の発電施設に利用され、地熱蒸気に接触する構造体である。例えば蒸気タービン静翼、蒸気タービン動翼、軸受機構、筐体または蒸気弁等の各種の部材が、蒸気タービン部材10として想定される。
【0010】
図1に例示される通り、蒸気タービン部材10は、基材11と保護膜12とを具備する。基材11は、蒸気タービン部材10を構成する基本的な部材(母材)である。基材11の材料は任意であるが、例えば、耐腐食性と耐熱性と耐摩耗性とを有するステンレス鋼材等の鋼材により基材11が構成される。
【0011】
保護膜12は、基材11を被覆する膜体である。保護膜12は、中間層13と炭素膜14との積層により構成される。炭素膜14は、非晶質の炭素を主成分として含有する薄膜であり、保護膜12の表層(最表層)を構成する。具体的には、炭素膜14は、総質量の50%以上の炭素を含有する。炭素膜14は、化学蒸着(CVD)または物理蒸着(PVD)等の蒸着技術により成膜される。非晶質の炭素は、例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)である。炭素膜14の膜厚は、例えば100nm以上かつ8μm以下であり、さらに好適には1μm以上かつ6μm以下である。なお、炭素膜14は、水素、窒素または酸素を含んでもよい。また、炭素膜14は、シリコン(Si)等の非金属元素を含んでもよい。
【0012】
基材11上に炭素膜14が形成されない構成では、地熱蒸気中のシリカ、カルシウムまたは硫化鉄等の物質が蒸気タービン部材10の表面に析出するという問題(スケーリング)がある。スケーリングの蓄積により発電施設の稼働率が停止し、結果的に発電量が低下する可能性がある。第1実施形態においては、蒸気タービン部材10の表層が炭素膜14により構成されるから、蒸気タービン部材10におけるスケーリングを抑制できる。
【0013】
中間層13は、基材11と炭素膜14との間に位置する膜体である。すなわち、基材11上に中間層13が積層され、中間層13上に炭素膜14が積層される。中間層13の硬度は、基材11の硬度を上回る。具体的には、中間層13は、ビッカース硬度が1000Hv以上の硬質な薄膜である。中間層13は、例えばセラミック材料で形成される。具体的には、中間層13の材料は、例えば、SiC、WC、TiC、SiO、Al、TiN、ZrN、CrN、TiCN、TiAlN、TiCrN、ZrO、CoNiCrAlYから選択される1以上の無機化合物を含む。
【0014】
中間層13は、1以上の材料で形成された単層、または、相異なる材料で形成された複数層で構成される。中間層13が複数層の積層で構成される形態において、基材11に近い層は低硬度の材料で形成され、炭素膜14に近い層は高硬度の材料で形成されてもよい。中間層13の膜厚は、例えば1μm以上かつ500μm以下であり、さらに好適には10μm以上かつ25μm以下である。ひとつの態様において中間層13は炭素膜14よりも厚い。
【0015】
地熱蒸気には、蒸気から析出したシリカ等のほか、砂粒等の固形物が含まれる。基材11と炭素膜14との間に中間層13が形成されない構成においては、地熱蒸気中の固形物の衝突により炭素膜14が破損および剥離する可能性がある。具体的には、固形物の衝突による基材11の変形に炭素膜14が追従できず、炭素膜14の破損および剥離が発生すると推定される。第1実施形態においては、硬質な中間層13が炭素膜14の下地として形成されるから、固形物の衝突に起因した炭素膜14の変形が抑制される。したがって、炭素膜14の破損および剥離を抑制できる。また、中間層13は、基材11と炭素膜14との密着性の向上にも寄与し得る。
【0016】
なお、中間層13と炭素膜14との間に他層が介在してもよい。例えば、中間層13と炭素膜14との密着性を向上させるための密着層が、中間層13と炭素膜14との間に積層されてもよい。密着層は、例えばシリコン(Si)等の材料により例えば0.1nm以上かつ10nm以下の膜厚に形成される。
【0017】
A-2:膜厚評価システム100
図2は、膜厚評価システム100の構成図である。膜厚評価システム100は、以上に説明した蒸気タービン部材10における保護膜12の膜厚Tを評価するコンピュータシステムである。膜厚評価システム100は、電気化学インピーダンス測定を利用して保護膜12の膜厚Tを測定する。図2に例示される通り、膜厚評価システム100は、測定電極部20と測定装置30と情報処理装置40とを具備する。
【0018】
測定電極部20は、第1電極21と第2電極22と測定セル23とを含む。第1電極21は、蒸気タービン部材10の基材11に接触する作用極である。他方、第2電極22は、電気化学インピーダンス測定における参照極および対極として兼用される電極である。第1電極21および第2電極22は、例えば白金等の低抵抗な導電材料により形成される。なお、参照極と対極とが相互に別体で構成されてもよい。
【0019】
測定セル23は、保護膜12に接触する電解液24を収容する容器である。電解液24は、例えば塩化ナトリウム等の電解質を純水等の溶媒に溶解した液体である。測定セル23の開口を介して電解液24が保護膜12に接触する。具体的には、電解液24は炭素膜14に接触する。基材11および中間層13は、電解液24に接触しない。第2電極22は、測定セル23に挿入されることで電解液24に接触する。なお、第2電極22が設置された容器内の電解液24に炭素膜14が浸漬されてもよい。
【0020】
測定装置30は、電気化学インピーダンス測定を実行する測定器であり、交流電源31と解析装置32とを具備する。交流電源31は、周波数が連続的に変化する交流電圧を第1電極21と第2電極22との間に印加するポテンショスタットである。他方、解析装置32は、測定電極部20に印加される交流電圧と当該測定電極部20から供給される電流信号とからインピーダンスZを測定する周波数分析器である。
【0021】
情報処理装置40は、測定装置30が測定したインピーダンスZから保護膜12の膜厚Tを評価する。情報処理装置40は、例えばパーソナルコンピュータまたはタブレット端末等の情報装置により実現される。具体的には、情報処理装置40は、制御装置41と記憶装置42と表示装置43とを具備する。なお、情報処理装置40は、単体の装置により実現されるほか、相互に別体で構成された複数の装置でも実現される。
【0022】
制御装置41は、情報処理装置40の各要素を制御する単数または複数のプロセッサで構成される。具体的には、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の1種類以上のプロセッサにより、制御装置41が構成される。
【0023】
表示装置43は、制御装置41による制御のもとで画像を表示する。具体的には、表示装置43は、保護膜12の膜厚Tを評価した結果を表示する。なお、情報処理装置40とは別体の表示装置43が、情報処理装置40に対して有線または無線により接続されてもよい。
【0024】
記憶装置42は、制御装置41が実行するプログラムと制御装置41が使用するデータとを記憶する単数または複数のメモリである。記憶装置42は、例えば磁気記録媒体または半導体記録媒体等の公知の記録媒体で構成される。なお、複数種の記録媒体の組合せにより記憶装置42が構成されてもよい。
【0025】
図3は、電気化学インピーダンス測定により測定されるインピーダンスZと保護膜12の膜厚Tとの関係を表すグラフ(ナイキスト線図)である。図3の横軸はインピーダンスZの実数軸(電気抵抗R)であり、縦軸はインピーダンスZの虚数軸(電気容量)である。図3には、膜厚が相違する複数の保護膜12についてインピーダンスZが併記されている。実数軸上でインピーダンスZとの交点における数値が、保護膜12の電気抵抗Rに相当する。なお、保護膜12の電気抵抗Rと比較して基材11の電気抵抗は充分に小さいから、インピーダンスZに対する基材11の影響は無視できる。
【0026】
図4は、保護膜12の電気抵抗Rと膜厚Tとの相関を表すグラフである。図3および図4から把握される通り、保護膜12の膜厚Tが大きいほど当該保護膜12の電気抵抗Rは大きい、という相関がある。第1実施形態の情報処理装置40は、電気抵抗Rと膜厚Tとの間に成立する以上の相関を利用して、測定装置30が測定した保護膜12のインピーダンスZから当該保護膜12の膜厚Tを評価する。
【0027】
記憶装置42は、電気抵抗Rと膜厚Tとの相関を表す相関データDを記憶する。相関データDは、図5に例示される通り、保護膜12の電気抵抗Rの各数値(R1,R2,…)と膜厚Tの各数値(T1,T2,…)との対応を表すデータテーブルである。相関データDに登録された電気抵抗Rと膜厚Tとの間には、図3および図4に例示した相関が成立する。
【0028】
相関データDは、保護膜12の膜厚Tが既知である蒸気タービン部材10の複数のサンプルを利用して事前に用意される。具体的には、前述の電気化学インピーダンス測定により複数のサンプルの各々について電気抵抗Rが測定され、電気抵抗Rの測定値(R1,R2,…)と既知の膜厚T(T1,T2,…)との関係が相関データDとして登録される。保護膜12の膜厚Tは、例えば走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)または透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)等の観測機器を利用して測定される。
【0029】
A-3:膜厚評価方法
図6は、膜厚評価システム100が保護膜12の膜厚Tを評価する処理(以下「膜厚評価処理」と言う)の具体的な手順を例示するフローチャートである。保護膜12の膜厚Tを評価する管理者は、蒸気タービン部材10の基材11に第1電極21を接触させ、測定セル23に充填された電解液24を保護膜12に接触させた状態で第2電極22を測定セル23に挿入する。以上の状態において、管理者は、膜厚評価システム100に測定の開始を指示する。管理者からの指示を契機として図6の膜厚評価処理が開始される。膜厚評価処理は「膜厚評価方法」の一例である。
【0030】
膜厚評価処理が開始されると、保護膜12の電気抵抗Rを測定する工程(以下「抵抗測定工程」という)Saが実行される。具体的には、測定装置30(交流電源31)は、第1電極21と第2電極22との間に交流電圧を印加する(Sa1)。測定装置30(解析装置32)は、交流電圧の印加により発生する電流信号からインピーダンスZを測定する(Sa2)。そして、制御装置41は、測定装置30が測定したインピーダンスZから保護膜12の電気抵抗Rを特定する(Sa3)。以上の説明から理解される通り、制御装置41は、保護膜12の電気抵抗Rを測定する要素(抵抗測定部)として機能する。抵抗測定工程Sa(Sa1~Sa3)は、第1電極21と第2電極22とを利用した電気化学インピーダンス測定により、保護膜12の電気抵抗Rを測定する工程である。
【0031】
抵抗測定工程Saにより保護膜12の電気抵抗Rを測定すると、保護膜12の膜厚Tを特定する工程(以下「膜厚特定工程」という)Sbが実行される。膜厚特定工程Sbには、事前に準備された電気抵抗Rと膜厚Tとの相関が利用される。具体的には、膜厚特定工程Sbにおいて、制御装置41は、記憶装置42に記憶された相関データDを利用して保護膜12の膜厚Tを特定する。すなわち、制御装置41は、抵抗測定工程Saにより測定された電気抵抗Rに対応する膜厚Tを、相関データDから検索する。
【0032】
なお、抵抗測定工程Saにより測定された電気抵抗Rが相関データDに存在しない場合、制御装置41は、当該電気抵抗Rの周囲の複数の電気抵抗Rを相関データDから取得し、各電気抵抗Rに対応する複数の膜厚Tを補間することで、保護膜12の膜厚Tを算定する。以上の説明から理解される通り、制御装置41は、電気抵抗Rと膜厚Tとの相関を利用して保護膜12の電気抵抗Rに対応する膜厚Tを特定する要素(膜厚特定部)として機能する。
【0033】
膜厚特定工程Sbにより保護膜12の膜厚Tを特定すると、膜厚Tの評価の結果を管理者に報知する工程(以下「結果報知工程」という)Scが実行される。具体的には、制御装置41は、膜厚特定工程Sbにより特定された膜厚Tの適否を判定する(Sc1)。例えば、制御装置41は、膜厚Tが所定の範囲(以下「適正範囲」という)内の数値であるか否かを判定する。保護膜12の膜厚Tが適正範囲内の数値である場合、制御装置41は、当該膜厚Tが適切な数値であると判定する。他方、保護膜12の膜厚Tが適正範囲外の数値である場合、制御装置41は、当該膜厚Tが不適切な数値と判定する。
【0034】
制御装置41は、膜厚Tに関する判定の結果を表示装置43に表示する(Sc2)。具体的には、膜厚Tの適否が表示装置43に表示される。なお、制御装置41は、膜厚Tの数値自体を表示装置43に表示してもよい。管理者は、表示装置43に表示される膜厚Tを参照することで、当該膜厚Tの適否を判断する。以上の説明から理解される通り、結果報知工程Sc(Sc1~Sc2)は、膜厚評価システム100による膜厚Tの評価結果(適否または数値)を管理者に報知する工程である。制御装置41は、結果報知工程Scを実行することで、膜厚Tの評価の結果を管理者に報知する要素(結果報知部)として機能する。
【0035】
以上に説明した通り、第1実施形態においては、電気抵抗Rと膜厚Tとの既知の相関を利用して、保護膜12の電気抵抗Rから当該保護膜12の膜厚Tが特定される。したがって、光学的な測定方法の適用が困難な比較的に厚い保護膜12についても、膜厚Tを適切に評価できる。
【0036】
なお、保護膜12の膜厚Tを評価する方法としては、特許文献1のような光学的な方法だけでなく、保護膜12を部分的に研磨し、例えば電子顕微鏡等の観測機器により研磨面を観察することで保護膜12の膜厚Tを測定する方法(以下「対比例1」という)も想定される。しかし、対比例1においては、保護膜12を部分的に損傷する必要がある。したがって、保護膜12において損傷した箇所を起点として蒸気タービン部材10が破損する可能性がある。対比例1とは対照的に、第1実施形態においては、電気抵抗Rと膜厚Tとの相関を利用して保護膜12の膜厚Tが評価されるから、保護膜12を部分的に損傷する必要はない。したがって、保護膜12の部分的な損傷に起因した蒸気タービン部材10の破損を防止できる。蒸気タービン部材10の破損を防止できるという以上の効果は、長期間にわたり耐久性が要求される蒸気タービン部材10にとって重要な利点である。
【0037】
また、保護膜12の膜厚Tを評価する方法としては、例えば蒸気タービン部材10の基材11に保護膜12を形成する環境のもとで特定の試験片にも同様の保護膜12(以下「試験保護膜」という)を形成し、試験保護膜を部分的にすることで当該試験保護膜の膜厚Tを測定する方法(以下「対比例2」という)も想定される。しかし、保護膜12の膜厚Tは下地面の形態にも依存する。したがって、試験片上に形成された試験保護膜と、実際の蒸気タービン部材10の基材11上に形成された保護膜12との間では膜厚Tが相違する可能性がある。すなわち、対比例2では、保護膜12の正確な膜厚Tを評価できないという問題がある。第1実施形態によれば、試験片上に保護膜12を形成する必要はないから、実際の蒸気タービン部材10における保護膜12の膜厚Tを正確に評価できる。
【0038】
B:第2実施形態
本開示の第2実施形態を説明する。なお、以下に例示する各態様において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明と同様の符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。蒸気タービン部材10の構成(図1)および膜厚評価システム100の構成(図2)は、第1実施形態と同様である。
【0039】
図7は、第2実施形態における膜厚評価処理のフローチャートである。第2実施形態の膜厚評価処理は、第1実施形態と同様の工程に加えて欠陥検知工程Sd(Sd1~Sd2)を含む。欠陥検知工程Sdは、保護膜12の欠陥17を検知するための工程である。
【0040】
図8は、保護膜12の欠陥17に関する説明図である。図8に例示される通り、保護膜12には欠陥17が存在する可能性がある。保護膜12の欠陥17は、膜厚Tが設計値と比較して極端に小さい局所的な箇所である。欠陥17は、例えば保護膜12の製造工程において発生した製造上の欠陥、または固形物の衝突等の何らかの事情で製造後に発生した損傷である。
【0041】
欠陥17の箇所では膜厚Tが極端に小さいから、抵抗測定工程Saにおいて測定される電気抵抗Rが極端に小さい数値となる。以上の事情を考慮して、第2実施形態の欠陥検知工程Sdにおいては、抵抗測定工程Sa(Sa1~Sa3)において測定された電気抵抗Rが所定の閾値Hを下回るか否かを判定する(Sd1)。閾値Hは、適正な電気抵抗Rの範囲を充分に下回る数値に設定される。保護膜12の欠陥17が存在する場合、電気抵抗Rは閾値Hを下回る。したがって、電気抵抗Rが閾値Hを下回るか否かの判定は、保護膜12に欠陥17があるか否かの判定に相当する。
【0042】
制御装置41は、電気抵抗Rに関する判定の結果を表示装置43に表示する(Sd2)。例えば、制御装置41は、電気抵抗Rが閾値Hを上回る場合には、保護膜12に欠陥17が観測されないことを表示装置43に表示し、電気抵抗Rが閾値Hを下回る場合には、保護膜12に欠陥17が存在することを表示装置43に表示する。以上の説明から理解される通り、欠陥検知工程Sdは、保護膜12の電気抵抗Rが閾値Hを下回る場合に、当該保護膜12に欠陥17が存在すると判定する工程である。すなわち、制御装置41は、電気抵抗Rに応じて保護膜12の欠陥17を検知する要素(欠陥検知部)として機能する。
【0043】
以上に説明した欠陥検知工程Sdの実行後に、第1実施形態と同様の膜厚特定工程Sbおよび結果報知工程Scが実行される。なお、電気抵抗Rが閾値Hを下回る場合(すなわち保護膜12の欠陥17がある場合)、制御装置41は、膜厚特定工程Sbおよび結果報知工程Scを実行することなく膜厚評価処理を終了してもよい。また、膜厚特定工程Sbまたは結果報知工程Scの実行後に、欠陥検知工程Sdが実行されてもよい。
【0044】
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第2実施形態においては、保護膜12の電気抵抗Rと所定の閾値Hとの比較により、当該保護膜12における欠陥17の有無が判定される。すなわち、抵抗測定工程Saにより測定される電気抵抗Rが、保護膜12の膜厚Tの特定(膜厚特定工程Sb)と、保護膜12における欠陥17の有無の判定(欠陥検知工程Sd)とに兼用される。したがって、膜厚特定工程Sbとは独立した仕組みにより保護膜12の欠陥17を検知する構成と比較して、膜厚評価処理の手順および膜厚評価システム100の構成が簡素化されるという利点がある。
【0045】
C:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0046】
(1)前述の各形態においては、保護膜12の電気抵抗Rの各数値(R1,R2,…)と膜厚Tの各数値(T1,T2,…)との対応を表すデータテーブルを相関データDとして利用したが、膜厚特定工程Sbにおいて電気抵抗Rと膜厚Tとの相関を利用するための処理および構成は、以上の例示に限定されない。例えば、図4から理解される通り、保護膜12の膜厚Tは、電気抵抗Rを変数とする関数(以下「膜厚関数」という)として表現される。膜厚特定工程Sbにおいて、制御装置41は、抵抗測定工程Saにより測定された電気抵抗Rを膜厚関数に代入する演算により、膜厚Tを算定してもよい。
【0047】
(2)前述の各形態においては、地熱発電所等の発電施設に実際に利用される蒸気タービン部材10を評価対象として例示したが、膜厚評価システム100による評価対象は以上の例示に限定されない。例えば、蒸気タービン部材10の基材11に保護膜12を形成する環境のもとで特定の試験片にも同様の保護膜12(試験保護膜)を形成し、前述の各形態における膜厚評価処理を試験保護膜に対して実行してもよい。
【0048】
(3)前述の各形態における膜厚評価処理が実行される時期は任意である。例えば、蒸気タービン部材10が製造された直後の検査工程において膜厚評価処理が実行されてもよいし、蒸気タービン部材10が実際に使用される過程で定期的に実施される検査工程において膜厚評価処理が実行されてもよい。蒸気タービン部材10が使用される過程において膜厚評価処理を実行すれば、保護膜12の経年的な摩耗または固形物の衝突等に起因した保護膜12の欠陥17を適切に評価できる。
【0049】
(4)前述の各形態においては、中間層13と炭素膜14とを含む保護膜12の膜厚Tを評価した。炭素膜14の膜厚の誤差は中間層13の膜厚の誤差と比較して小さい。以上の傾向を考慮すると、制御装置41は、膜厚特定工程Sbにより特定された保護膜12の膜厚Tから、炭素膜14に想定される所定の膜厚(例えば設計上の寸法)を減算することで、中間層13の膜厚を算定してもよい。
【0050】
(5)前述の各形態においては、膜厚T等の測定結果を表示装置43に表示したが、測定結果を管理者に報知するための構成および方法は以上の例示に限定されない。例えば、測定結果をスピーカ装置により音声として再生する形態、または、測定結果を用紙に印刷する形態等、測定結果の出力には各種の構成および方法が採用される。
【0051】
(6)前述の各形態に係る情報処理装置40の機能は、前述の通り、制御装置41を構成する単数または複数のプロセッサと、記憶装置42に記憶されたプログラムとの協働により実現される。以上に例示したプログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体に格納された形態で提供されてコンピュータにインストールされ得る。記録媒体は、例えば非一過性(non-transitory)の記録媒体であり、CD-ROM等の光学式記録媒体(光ディスク)が好例であるが、半導体記録媒体または磁気記録媒体等の公知の任意の形式の記録媒体も包含される。なお、非一過性の記録媒体とは、一過性の伝搬信号(transitory, propagating signal)を除く任意の記録媒体を含み、揮発性の記録媒体も除外されない。また、配信装置が通信網を介してプログラムを配信する構成では、当該配信装置においてプログラムを記憶する記録媒体が、前述の非一過性の記録媒体に相当する。
【符号の説明】
【0052】
10…蒸気タービン部材、11…基材、12…保護膜、13…中間層、14…炭素膜、17…欠陥、20…測定電極部、21…第1電極、22…第2電極、23…測定セル、24…電解液、30…測定装置、31…交流電源、32…解析装置、40…情報処理装置、41…制御装置、42…記憶装置、43…表示装置。
図1
図2
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図8