IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大和ハウス工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-体温異常検知システム 図1
  • 特開-体温異常検知システム 図2
  • 特開-体温異常検知システム 図3
  • 特開-体温異常検知システム 図4
  • 特開-体温異常検知システム 図5
  • 特開-体温異常検知システム 図6
  • 特開-体温異常検知システム 図7
  • 特開-体温異常検知システム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046787
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】体温異常検知システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20240329BHJP
   G08B 25/04 20060101ALI20240329BHJP
   G08B 21/02 20060101ALI20240329BHJP
   A42B 3/04 20060101ALI20240329BHJP
   A61B 5/01 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
A61B5/00 102B
G08B25/04 K
G08B21/02
A42B3/04
A61B5/01 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152071
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162031
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 豊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175721
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 秀文
(72)【発明者】
【氏名】森 朋仁
【テーマコード(参考)】
3B107
4C117
5C086
5C087
【Fターム(参考)】
3B107EA19
4C117XA07
4C117XB01
4C117XB02
4C117XB04
4C117XB12
4C117XC11
4C117XD01
4C117XE23
4C117XE52
4C117XJ13
4C117XJ46
4C117XJ47
4C117XL01
5C086AA22
5C086CA30
5C086FA11
5C087AA02
5C087AA19
5C087BB18
5C087BB74
5C087DD03
5C087EE18
5C087FF01
5C087FF02
5C087FF04
5C087GG08
5C087GG10
5C087GG83
(57)【要約】
【課題】コストの削減を図ることが可能な体温異常検知システムを提供する。
【解決手段】作業者の体温に関する温度情報を測定する温度センサ10と、作業者の体温に異常があるか否かを判定するための判定基準に関する基準情報を測定する環境センサ40と、温度情報及び基準情報を用いて、作業者の体温の異常を検知するサーバ50と、具備し、温度センサ10は、作業者が着用するヘルメットに設けられると共に、温度情報として、ヘルメット内の温度を測定するように構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の体温に関する温度情報を測定する第1測定部と、
前記対象者の体温に異常があるか否かを判定するための判定基準に関する基準情報を測定する第2測定部と、
前記温度情報及び前記基準情報を用いて、前記対象者の体温の異常を検知する検知部と、
具備する、
体温異常検知システム。
【請求項2】
前記第1測定部は、
前記対象者が着用するヘルメットに設けられると共に、前記温度情報として、前記ヘルメット内の温度を測定するように構成される、
請求項1に記載の体温異常検知システム。
【請求項3】
前記第2測定部は、
前記基準情報として、前記対象者が活動する所定の対象場所の気温を測定するように構成される、
請求項2に記載の体温異常検知システム。
【請求項4】
前記検知部は、
前記温度情報に基づいて前記ヘルメット内の温度の上昇率を算出すると共に、前記基準情報に基づいて前記対象場所の気温の上昇率を算出し、
前記ヘルメット内の温度の上昇率と前記対象場所の気温の上昇率とを比較することによって、前記対象者の体温の異常を検知する、
請求項3に記載の体温異常検知システム。
【請求項5】
前記対象場所に設けられ、前記第1測定部及び前記第2測定部と前記検知部との通信を中継可能な中継部をさらに具備し、
前記第2測定部は、
前記中継部に設けられる、
請求項3又は請求項4に記載の体温異常検知システム。
【請求項6】
前記第2測定部は、
屋内及び屋外にそれぞれ設けられる、
請求項5に記載の体温異常検知システム。
【請求項7】
前記第2測定部は、
前記基準情報として、前記対象者が活動する所定の対象場所において、複数の比較者の体温に関する情報を測定するように構成される、
請求項2に記載の体温異常検知システム。
【請求項8】
前記検知部は、
複数名の前記対象者の体温の異常を検知可能であり、
前記比較者には、
前記複数名のうち一の前記対象者の体温の異常を検知する場合の、残りの前記対象者が含まれる、
請求項7に記載の体温異常検知システム。
【請求項9】
前記検知部は、
暑さに関する条件を満たし、かつ、前記対象者の体温の異常を検知した場合、熱中症に関する報知を行うように構成される、
請求項1に記載の体温異常検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体温の異常を検知するための体温異常検知システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、体温の異常を検知するための体温異常検知システムの技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1に記載のウエアラブル熱中症判定装置は、体温計(深部体温計)及び演算部等を具備する。演算部は、体温計で測定された被験者の体温の異常(例えば体温上昇)に基づいて、被験者が熱中症である可能性があることを検知する。
【0004】
特許文献1にあるような体温計は医療機器であり、また医療機器は一般的に高価なものであるため、特許文献1に記載のウエアラブル熱中症判定装置は、コストの増大が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-104327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、コストの削減を図ることが可能な体温異常検知システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、対象者の体温に関する温度情報を測定する第1測定部と、前記対象者の体温に異常があるか否かを判定するための判定基準に関する基準情報を測定する第2測定部と、前記温度情報及び前記基準情報を用いて、前記対象者の体温の異常を検知する検知部と、具備するものである。
【0009】
請求項2においては、前記第1測定部は、前記対象者が着用するヘルメットに設けられると共に、前記温度情報として、前記ヘルメット内の温度を測定するように構成されるものである。
【0010】
請求項3においては、前記第2測定部は、前記基準情報として、前記対象者が活動する所定の対象場所の気温を測定するように構成されるものである。
【0011】
請求項4においては、前記検知部は、前記温度情報に基づいて前記ヘルメット内の温度の上昇率を算出すると共に、前記基準情報に基づいて前記対象場所の気温の上昇率を算出し、前記ヘルメット内の温度の上昇率と前記対象場所の気温の上昇率とを比較することによって、前記対象者の体温の異常を検知するものである。
【0012】
請求項5においては、前記対象場所に設けられ、前記第1測定部及び前記第2測定部と前記検知部との通信を中継可能な中継部をさらに具備し、前記第2測定部は、前記中継部に設けられるものである。
【0013】
請求項6においては、前記第2測定部は、屋内及び屋外にそれぞれ設けられるものである。
【0014】
請求項7においては、前記第2測定部は、前記基準情報として、前記対象者が活動する所定の対象場所において、複数の比較者の体温に関する情報を測定するように構成されるものである。
【0015】
請求項8においては、前記検知部は、複数名の前記対象者の体温の異常を検知可能であり、前記比較者には、前記複数名のうち一の前記対象者の体温の異常を検知する場合の、残りの前記対象者が含まれるものである。
【0016】
請求項9においては、前記検知部は、暑さに関する条件を満たし、かつ、前記対象者の体温の異常を検知した場合、熱中症に関する報知を行うように構成されるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0018】
請求項1においては、コストの削減を図ることができる。
【0019】
請求項2においては、第1測定部を着用する手間を省くことができる。
【0020】
請求項3においては、対象場所の気温を用いて、対象者の体温の異常を検知することができる。
【0021】
請求項4においては、対象場所の気温の上昇度合いに対して、対象者の体温が異常に上昇したのを検知することができる。
【0022】
請求項5においては、中継部及び第2測定部の設置スペースの削減を図ることができる。
【0023】
請求項6においては、屋内及び屋外の気温をそれぞれ考慮して、対象者の体温の異常を精度よく検知することができる。
【0024】
請求項7においては、比較者の体温に関する情報を用いて、対象者の体温の異常を検知することができる。
【0025】
請求項8においては、複数の対象者の中で体温に異常がある者を検知することができる。
【0026】
請求項9においては、対象者に熱中症の疑いがあることを早期に発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る体温異常検知システムの構成を示すブロック図。
図2】温度センサが設けられたヘルメットを示す図。
図3】(a)受信機の配置を示す建築現場の概略正面図。(b)同じく、概略平面断面図。
図4】温度センサの測定結果がサーバへ送信される様子を示す図。
図5】受信機が信号をリレーする様子を示す図。
図6】体温異常検知システムの動作を示すフローチャート。
図7】熱中症の疑いがある作業員を検知する具体例を示す図。
図8】グループ分けされた作業者を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の説明においては、図中に記した矢印に従って、上下方向、左右方向及び前後方向をそれぞれ定義する。
【0029】
以下では、本発明の一実施形態に係る体温異常検知システム1について説明する。
【0030】
図1に示す体温異常検知システム1は、対象者の体温の異常を検知するためのものである。本実施形態の体温異常検知システム1は、作業者S(図4参照)の体温の異常を検知するために、戸建て住宅Jの建築現場に設けられる。体温異常検知システム1は、温度センサ10、発信機20、受信機30、環境センサ40及びサーバ50を具備する。
【0031】
温度センサ10は、作業者S(対象者)の体温に関する温度情報を測定するためのものである。温度情報は、作業者Sの体温を判断可能な情報である。温度情報は、例えば作業者Sの体温そのものであってもよいし、作業者Sの体温に応じて変化するその他の情報であってもよい。例えば作業者Sの体温が上昇すると、当該作業者Sの周囲の温度は上昇すると考えられる。よって温度情報は、作業者Sの周囲の温度等であってもよい。
【0032】
本実施形態の温度センサ10は、体温ではなく、気温を測定可能に構成される。温度センサ10は、発信機20に内蔵されることによって、図2に示すヘルメットH内の温度(作業者Sの周囲の温度)を測定する。
【0033】
図1及び図2に示す発信機20は、所定の通信規格に応じた信号を周囲に向けて発信するためのものである。本実施形態の通信規格には、近距離で無線通信するための既存の通信規格、具体的にはBluethooth(登録商標)が採用されるものとするが、通信規格の種類は特に限定されるものではない。例えば、Bluethoothとは異なる既存の通信規格や独自の通信規格が採用されるものでもよい。発信機20は、温度センサ10の測定結果を取得可能に構成される。発信機20は、作業者Sが着用するヘルメットHの内側に設けられる。また発信機20は、建築現場で作業する各作業者SのヘルメットH(図4参照)にそれぞれ設けられる。図1に示すように、発信機20は、警報部21を具備する。
【0034】
警報部21は、所定の警告を発するためのものである。警報部21は、例えば音(アラーム音)や光を出力可能に構成される。警報部21は、ヘルメットHから発信機20が取り外された場合に音や光を出力させて警報を発することができる。
【0035】
発信機20は、内蔵の電池から電力が供給されることによって動作する。より詳細には発信機20は、温度センサ10及び警報部21を動作させたり、周囲に向けて信号を発信させたりする。この信号には、例えば、温度センサ10の測定結果(ヘルメットH内の温度)、前記電池の残量及び発信機20の識別情報(例えば機器固有の番号等)が含まれる。
【0036】
図1に示す受信機30は、発信機20からの信号を受信するためのものである。受信機30は、発信機20からの信号の受信強度に基づいて、発信機20までの距離を測定可能に構成される。また受信機30は、GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用して、自身の位置情報を特定可能に構成される。図3に示すように、受信機30は建築現場に複数設けられる。
【0037】
より詳細には受信機30は、戸建て住宅Jの内部及び戸建て住宅Jの外部(例えば足場A等)にそれぞれ設けられる。図4に示すように、受信機30は、発信機20からの信号を受信した場合、当該信号に含まれる情報(温度センサ10の測定結果等)、受信機30の識別情報(機器固有の番号等)、発信機20までの距離及び受信機30の位置情報等を後述するサーバ50に送信可能に構成される。このようにして受信機30は、発信機20(温度センサ10)とサーバ50との通信を中継する。なお受信機30の位置を特定するための手段は、GNSSに限定されるものではない。例えば受信機30は、GPS(Global Positioning System)を利用して、自身の位置情報を特定することも可能である。
【0038】
本実施形態では、複数の受信機30が1つの発信機20から信号を受信した場合、その受信結果に基づいて、発信機20の詳細な位置(例えばcm単位まで割り出された位置)を測定可能に構成される。
【0039】
図1に示す環境センサ40は、設置された場所の環境情報を測定するセンサである。環境情報は、作業者Sが快適に作業できるか否かを判断可能な情報である。本実施形態の環境情報には、例えば、気温、湿度、風速及び明るさ等が含まれる。図3に示すように、環境センサ40は、受信機30と一体的に形成される。こうして環境センサ40は、各受信機30の設置場所における環境情報を測定する。また環境センサ40は、環境情報を定期的に(例えば1分ごとに)測定し、当該測定結果を自身と一体形成された受信機30に送信する。図4に示すように、受信機30は、環境センサ40の測定結果をサーバ50に送信する。
【0040】
なお以下では、戸建て住宅Jの外部(屋外)に設けられる環境センサ40を「屋外環境センサ41」と称する。また、戸建て住宅Jの内部(屋内)に設けられる環境センサ40を「屋内環境センサ42」と称する。
【0041】
図1及び図4に示すサーバ50は、外部の機器からの要求に応じて種々の演算処理を行うためのものである。サーバ50は、体温異常検知システム1の動作に関する演算処理を実行可能に構成される。サーバ50は、例えばクラウドサーバ(厳密にはクラウドサーバ内に構築された仮想のサーバ)によって構成される。またサーバ50は、受信機30から送信された各種情報(温度センサ10及び環境センサ40の測定結果等)を記憶可能に構成される。またサーバ50は、受信機30からの情報(例えば発信機20の識別情報)に基づいて、作業者Sの個人情報(氏名等)を取得可能に構成される。
【0042】
なお図示は省略しているが、サーバ50は、戸建て住宅Jの建築現場とは異なる建築現場に設けられた受信機30からも情報を受信可能に構成される。これによって、複数の建築現場の環境情報や、複数の建築現場で作業する作業者SのヘルメットH内の温度を共通のサーバ50で一元管理することができる。
【0043】
またサーバ50は、外部の機器と通信することで所定の情報を報知可能に構成される。例えばサーバ50は、発信機20の電池の残量が所定の閾値以下である場合、電池の残量に関する情報を報知可能に構成される。これにより、電池切れが起こるのを防止することができる。またサーバ50は、体温の異常を報知可能に構成される。なお、体温の異常の報知については後述する。
【0044】
またサーバ50は、建築現場の暑さに関する暑さ情報を取得可能に構成される。暑さ情報は、建築現場で熱中症が発生する可能性がある否かを判断可能な情報である。サーバ50は、例えば、環境庁からの情報提供や建築現場に設置された所定のセンサとの通信により、暑さ情報としてWBGT(湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature)を取得する。なお暑さ情報は、WBGTに限定されるものではなく、熱中症の発生有無を判断可能なその他の情報であってもよい。例えば暑さ情報は、建築現場の気温、湿度、天候等であってもよい。
【0045】
ここで、受信機30は設置場所によっては(例えば電波が悪い場所では)サーバ50と直接通信できないおそれがある。そこで本実施形態では、図5に示すように、ある受信機30から別の受信機30へと信号をリレー(中継)することで、特定の受信機30(図5では白と黒が反転した受信機30)に情報が送信される。この特定の受信機30(以下、「親受信機31」と称する)は、送信された情報を遠距離通信可能な手段によってサーバ50に送信可能に構成される。例えば親受信機31は、5G等の移動体通信網によってサーバ50と通信可能に構成される。
【0046】
このような構成によると、例えば電波が悪い場所に受信機30が設置されたとしても、当該受信機30の信号をリレーしてサーバ50に送信することができる。これによって、受信機30を設置可能な範囲(発信機20の信号を受信可能な範囲)を拡大することができる。
【0047】
ここで、ヘルメットH内の温度は、作業者Sの体温に応じて変化する。例えば、作業者Sの体温が上昇すると、ヘルメットH内の温度も上昇する。本実施形態のサーバ50は、このヘルメットH内の温度と作業者Sの体温との関係を利用して、作業中の作業者Sの体温の異常を検知するように構成される。
【0048】
以下では図3及び図6を参照し、サーバ50が体温の異常を検知する処理の一例について説明する。
【0049】
図6に示すように、まずサーバ50は、作業者Sが建築現場に入場した際(入場時)のヘルメットH内の温度を取得する(ステップS10)。より詳細には、建築現場ではヘルメットHの着用が義務付けられる場合が多いため、作業者Sは、ヘルメットHを着用した状態で建築現場に入場すると考えられる。そこでサーバ50は、作業当日に最初に発信機20から受信した温度センサ10の測定結果を、入場時のヘルメットH内の温度として記憶(取得)する。またサーバ50は、発信機20から受信した識別番号に基づいて、入場時のヘルメットH内の温度を発信機20(作業者S)ごとに取得する。
【0050】
サーバ50は、入場時のヘルメットH内の温度を取得した後で、作業時のヘルメットH内の温度を取得する(ステップS20)。この際サーバ50は、作業当日に発信機20から受信した最新の温度センサ10の測定結果を、作業時のヘルメットH内の温度として記憶(取得)する。なおサーバ50は、作業時のヘルメットH内の温度についても、入場時と同様に、作業者Sごとに取得する。
【0051】
サーバ50は、作業時のヘルメットH内の温度を取得した後で、温度の上昇率を算出する(ステップS30)。この際サーバ50は、ヘルメットH内の温度に基づいて、作業当日のヘルメットH内の温度の上昇率を算出すると共に、建築現場の気温に基づいて、作業当日の建築現場の気温の上昇率を算出する。具体的にはサーバ50は、入場時(ステップS10)に対する作業時(ステップS20)のヘルメットH内の温度の上昇率を求めることによって、作業当日のヘルメットH内の温度の上昇率を算出する。
【0052】
またサーバ50はステップS30において、入場時(ステップS10)に対する作業時(ステップS20)の建築現場の気温の上昇率を求めることによって、作業当日の建築現場の気温の上昇率を算出する。図3に示すように、本実施形態では、環境センサ40により、複数箇所で建築現場の気温が測定される。このためサーバ50は、建築現場の気温の上昇率の平均値を求めることで、建築現場の気温の上昇率を算出する。
【0053】
なお本実施形態では、入場時を基準に各上昇率を算出するものとしたが、作業の開始前と考えられるその他の時間を基準に各上昇率を算出することも可能である。例えば、作業の開始時間を基準として、各上昇率を算出することも可能である。
【0054】
また本実施形態では、建築現場の気温の上昇率を算出する際に、上昇率の平均値を求めるものとしたが、平均値とは異なるその他の値を求めることも可能である。例えばサーバ50は、気温の上昇率の中央値や最大値や最小値等を求めることで、気温の上昇率を算出することも可能である。このように、サーバ50は、建築現場の複数箇所の気温を用いて所定の値を求めることで、気温の上昇率を算出可能である。
【0055】
また本実施形態では、環境センサ40が設置された全ての地点(各観測地点)における気温を用いて建築現場の気温の上昇率を算出するものとしたが、前記上昇率は、各観測地点の少なくとも一部の気温を用いて算出するものであればよい。例えば、各観測地点のうち、作業者Sが担当している場所との関連性が高い地点の気温を用いて、前記上昇率を算出することも可能である。より詳細には、作業者Sが屋外での作業を担当する場合、屋外の気温の上昇率の平均値を求めることで、前記上昇率を算出することも可能である。
【0056】
図6に示すように、サーバ50は各上昇率を算出した後で、作業者Sの体温の異常を検知する(ステップS40)。例えばサーバ50は、建築現場の気温の上昇率に対してヘルメットH内の温度の上昇率が所定以上(本実施形態では1.5倍以上)高い作業者Sがいる場合、当該作業者SのヘルメットH内の温度を監視する。一方サーバ50は、ヘルメットH内の温度の上昇率が所定以上高い作業者Sがいない場合、温度の監視を行わない。なお温度を監視するか否かを決定する閾値(1.5倍)は、体温の異常と考えられる任意の値が設定されてよい。例えば体温の異常に関する実験の結果等により、本実施形態とは異なる値(2倍等)を設定することも可能である。サーバ50は、ヘルメットH内の温度が高い状態が所定時間以上続いた場合に、作業者Sの体温の異常を検知する。
【0057】
またサーバ50は、WBGTが所定の閾値(例えば28度)以上である場合、体温の異常を検知した作業者Sに熱中症の疑いがあることを検知する。サーバ50は、こうして検知した作業者Sの個人情報を、発信機20の識別情報に基づいて取得する。サーバ50は、当該個人情報を予め登録された者(事業主、職長、作業者S及び建築現場の代理等人等)に報知する。例えばサーバ50は、メッセージアプリ等を利用して、事業主等が携帯するスマートフォン等にメッセージを送信する。
【0058】
なおサーバ50は、WBGTが所定の閾値未満である場合、体温の異常を検知した作業者Sに熱中症以外の病気の疑いがあることを報知してもよい。サーバ50は、上述したステップS20~S40を繰り返し実行することにより、作業中に作業者Sの体温に異常がないかを常時監視する。なおサーバ50は、上述した温度の監視時にヘルメットH内の温度が高い状態が所定時間以上続かなかった場合、作業者Sの体温の異常を検知しない。
【0059】
本実施形態のサーバ50はステップS40において、建築現場の気温の上昇率を基準として、作業者Sの体温に異常があるか否かを判定している。これによってサーバ50は、体温の異常を精度よく検知することができる。
【0060】
例えば、建築現場の気温が比較的高い場合、作業中に作業者Sの体温が比較的上昇し易くなると考えられる。仮に作業者Sの体温と所定の閾値との大小関係だけで体温の異常を検知する場合、この建築現場の気温の影響で、体調に異常がない作業者S、例えば平熱が比較的高い作業者Sの体温が異常であると誤検知されるおそれがある。
【0061】
これに対して本実施形態のサーバ50は、建築現場の気温の上昇率とヘルメットH内の温度の上昇率とを比較することで、建築現場の気温の上昇率に対して、想定以上に体温が上昇している作業者Sを検知することができる。これによって、作業者Sの平熱に関わらず、発熱の疑いがある作業者Sを精度よく検知することができる。
【0062】
また温度センサ10としては、体温を測定可能でなくとも、半密閉された空間内の温度を計測可能な種々のセンサを用いることができる。これにより、比較的安価なセンサを用いて体温の異常を検知することができるため、コストの削減を図ることができる。また体温を測定する場合と比較して、温度を容易に測定することができる。
【0063】
また温度センサ10及び発信機20は、各作業者Sが着用するヘルメットHにそれぞれ設けられる。これによって各作業者Sは、ヘルメットH、温度センサ10及び発信機20をまとめて着用することができ、着用の手間を省くことができる。また建築現場ではヘルメットHの着用が義務付けられることが多いため、作業者Sが温度センサ10等の着用を忘れるのを防止することもできる。またヘルメットHは一般的には使い回すことがないと考えられるため、ヘルメットHに設けられる発信機20の識別情報に基づいて作業者Sを容易に特定することができる。
【0064】
以下では図7を参照し、体温の異常を検知する処理の具体例について説明する。なお本具体例では説明を簡略化するために、一部の環境センサ40(図7に示す3つの環境センサ40)で測定された環境情報に基づいて体温の異常を検知するものとする。また本具体例では、屋外で作業する3人の作業者S1~S3の体温に異常がないかを検知するものとする。また本具体例ではWGBTが28度以上であり、体温の異常に基づいて熱中症の疑いが検知されるものとする。
【0065】
まずサーバ50は、入場時の作業者S1~S3のヘルメットH内の温度(35度、36度、36度)を取得する(ステップS10)。次にサーバ50は、作業時の作業者SのヘルメットH内の温度(37度、38度、41度)を取得する(ステップS20)。
【0066】
その後サーバ50は、温度の上昇率を算出する(ステップS30)。本具体例においてサーバ50は、作業者S1について、作業時(37度)と入場時(35度)との温度差(2度)を入場時の温度で除算することにより、作業者S1のヘルメットH内の温度の上昇率(5.7%)を算出する。またサーバ50は、他の作業者S2・S3についても同様の計算処理により、ヘルメットH内の温度の上昇率(5.5%、14.1%)を算出する。
【0067】
また本具体例においてサーバ50は、環境センサ40の測定結果に基づいて、建築現場の気温の上昇率を算出する。具体的にはサーバ50は、屋内環境センサ42について、作業時(30度)と入場時(28度)との気温差(2度)を入場時の気温(28度)で除算することにより、屋内の気温の上昇率(7.1%)を算出する。またサーバ50は、屋外環境センサ41についても同様の計算処理により、屋外の気温の上昇率(6.6%、9.6%)を算出する。サーバ50は、こうして算出した気温の上昇率の平均値(7.7%)を算出する。
【0068】
サーバ50は、作業者S1~S3のヘルメットH内の温度の上昇率(5.7%、5.5%及び14.1%)と前記平均値(7.7%)とを比較する。本具体例では作業者S3のヘルメットH内の温度の上昇率(14.1%)が前記平均値に対して1.5倍以上高いため、サーバ50は、作業者S3のヘルメットH内の温度を監視する。
【0069】
サーバ50は、作業者S3のヘルメットH内の温度が高い状態が所定時間(例えば数分)続いた場合、当該作業者S3に熱中症の疑いがあることを事業主等に報知する。事業主等は当該報知に基づいて、作業者S3を休憩させると共に、作業者S3のバイタル情報(体温、血圧及び心拍数等)を測定する。これにより熱中症のチェックを早期に行うことができるため、体調不良が発生する前に作業者S3に適切な処置を行うことができる。
【0070】
なおサーバ50は、作業者S3に熱中症の疑いがあることに加えて、作業者S3の位置情報や現在の体温を事業主等に報知することも可能である。作業者S3の位置情報は、受信機30からサーバ50に送信される情報に基づいて適宜算出可能である。例えばサーバ50は、受信機30の位置情報、及び受信機30と発信機20との距離に基づいて、作業者Sの位置情報を算出することができる。
【0071】
以上の如く、本実施形態に係る体温異常検知システム1は、作業者S(対象者)の体温に関する温度情報(ヘルメットH内の温度)を測定する温度センサ10(第1測定部)と、前記作業者Sの体温に異常があるか否かを判定するための判定基準(気温の上昇率)に関する基準情報(建築現場の気温)を測定する環境センサ40(第2測定部)と、前記温度情報及び前記基準情報を用いて、前記作業者Sの体温の異常を検知するサーバ50(検知部)と、具備するものである。
【0072】
このように構成することにより、コストの削減を図ることができる。例えば気温を測定可能な温度センサ10を用いることで、比較的安価な構成で温度情報を測定することができるため、コストの削減を図ることができる。
【0073】
また、前記温度センサ10は、前記作業者Sが着用するヘルメットHに設けられると共に、前記温度情報として、前記ヘルメットH内の温度を測定するように構成されるものである(図2参照)。
【0074】
このように構成することにより、作業者Sが温度センサ10を着用する手間を省くことができる。
【0075】
また、前記環境センサ40は、前記基準情報として、前記作業者Sが活動する建築現場(所定の対象場所)の気温を測定するように構成されるものである。
【0076】
このように構成することにより、建築現場の気温を用いて、作業者Sの体温の異常を検知することができる。
【0077】
また、前記サーバ50は、前記温度情報(ヘルメットH内の温度)に基づいて前記ヘルメットH内の温度の上昇率を算出すると共に、前記基準情報(建築現場の気温)に基づいて前記建築現場の気温の上昇率を算出し、前記ヘルメットH内の温度の上昇率と前記建築現場の気温の上昇率とを比較することによって、前記作業者Sの体温の異常を検知するものである(ステップS40)。
【0078】
このように構成することにより、建築現場の気温の上昇度合いに対して、作業者Sの体温が異常に上昇したのを検知することができる。
【0079】
また、前記建築現場に設けられ、前記温度センサ10及び前記環境センサ40と前記サーバ50との通信を中継可能な受信機30(中継部)をさらに具備し、前記環境センサ40は、前記受信機30に設けられるものである。
【0080】
このように構成することにより、受信機30及び環境センサ40の設置スペースの削減を図ることができる。
【0081】
また、前記環境センサ40は、屋内及び屋外にそれぞれ設けられるものである(図3に示す屋外環境センサ41及び屋内環境センサ42参照)。
【0082】
このように構成することにより、屋内及び屋外の気温をそれぞれ考慮して、作業者Sの体温の異常を精度よく検知することができる。
【0083】
また、前記サーバ50は、暑さに関する条件(WGBTが28度以上との条件)を満たし、かつ、前記作業者Sの体温の異常を検知した場合、熱中症に関する報知を行うように構成されるものである。
【0084】
このように構成することにより、作業者Sに熱中症の疑いがあることを早期に発見することができる。
【0085】
なお、本実施形態に係る温度センサ10は、本発明に係る第1測定部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る環境センサ40は、本発明に係る第2測定部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係るサーバ50は、本発明に係る検知部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る受信機30は、本発明に係る中継部の実施の一形態である。
【0086】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0087】
例えば、体温異常検知システム1は、戸建て住宅Jの建築現場に設けられるものとしたが、体温異常検知システム1が設けられる場所はこれに限定されるものではない。体温異常検知システム1は、体温の異常の検知が求められる適宜の場所に設けられてよい。例えば体温異常検知システム1は、戸建て住宅Jとは異なる種類の建物の建築現場や、介護及び医療の現場等に設けられてよい。またサーバ50は、体温異常検知システム1の設置場所と体温の異常との関係を考慮して、熱中症以外の症状を報知することも可能である。例えばサーバ50は、介護及び医療の現場で体温の上昇を検知した場合、発熱を伴う感染症の疑いを報知することも可能である。
【0088】
また温度センサ10は、作業者SのヘルメットH内の温度を測定するものとしたが、温度センサ10が測定する温度は、作業者Sの体温に異常があるかを判断できる温度あればよく、本実施形態のヘルメットH内に限定されるものではない。温度センサ10は、例えば作業者Sの背中や腰付近の温度を測定するものでもよい。また温度センサ10は、作業者Sの周辺の温度ではなく、作業者Sの体温を測定するものでもよい。
【0089】
また発信機20は、ヘルメットH内の温度をサーバ50に送信するものとしたが、これに加えて別の情報を送信することも可能である。例えば、ヘルメットH内の湿度や衝撃度を送信することも可能である。発信機20が湿度を送信することで、サーバ50は、例えば作業者Sの体調を管理することができる。また発信機20が衝撃度を検知することで、サーバ50は、転倒等のトラブルの疑いを検知することができる。
【0090】
また発信機20(温度センサ10)は、ヘルメットHに設けられるものとしたが、発信機20の設置場所は特に限定されるものではない。なお発信機20は、建築現場で作業者Sが身に着ける物(作業着やウェアラブル端末等)に設けられることが望ましい。これによって本実施形態と同様に、発信機20の着用を忘れるのを防止することができる。
【0091】
また環境センサ40は、建築現場に複数設けられるものとしたが、環境センサ40の設置個数は特に限定されるものではない。例えば環境センサ40は、建築現場に1つだけ設置されるものでもよい。またサーバ50は、ある建築現場で体温の異常を検知する場合に、当該建築現場とは異なる場所(例えば近くの建築現場)に設置された環境センサ40の測定結果を利用することも可能である。こうして他の場所の環境情報を利用することで、コストの削減を図ることができる。
【0092】
またサーバ50の構成は、本実施形態のようなクラウドサーバに限定されるものではなく、例えばオンプレミス環境で動作するものであってもよい。当該サーバ50が親受信機31の近くに配置される場合、Wi-Fi等の近距離通信可能な手段によって親受信機31がサーバ50に信号を送信することも可能である。
【0093】
また本実施形態では、建築現場の気温を用いて体温の異常を検知するものとしたが、サーバ50は、統計学(偏差値)を用いることで、建築現場の気温を用いることなく体温の異常を検知することも可能である。例えばサーバ50は、図4に示す6人の作業者SのヘルメットH内の温度の上昇率を算出し、当該算出結果に基づいて上昇率の偏差値を作業者Sごとに算出する。サーバ50はこうして算出した偏差値が所定の閾値以上である場合、体温の異常を検知する。これによってサーバ50は、各作業者Sの中で体温が異常に高い作業者Sを検知することができる。
【0094】
以上の如く、前記温度センサ10(第2測定部)は、前記基準情報として、前記対象者が活動する所定の対象場所(建築現場)において、複数の比較者(各作業者S)の体温に関する情報(ヘルメットH内の温度)を測定するように構成されるものである。
【0095】
このように構成することにより、比較者(各作業者S)の体温に関する情報を用いて、作業者Sの体温の異常を検知することができる。
【0096】
また、前記サーバ50は、複数名の前記対象者の体温の異常を検知可能であり、前記比較者には、前記複数名のうち一の前記対象者の体温の異常を検知する場合の、残りの前記対象者が含まれるものである。
【0097】
このように構成することにより、複数の対象者(各作業者S)の中で体温に異常がある者を検知することができる。
【0098】
またサーバ50は、作業者Sのグループ分けを行うことで、グループに属する作業者Sの中で体温の比較を行うことも可能である。以下、図8を用いてその一例を説明する。図8では、屋外にいる3人の作業者S1~S3に装着される発信機20の信号が、屋外に設置された受信機30で受信される。また図8では、屋内にいる3人の作業者S4~S6に装着される発信機20の信号が、屋内に設置された受信機30で受信される。
【0099】
図8に示すサーバ50は、発信機20からの信号を受信する受信機30に基づいて、作業者S1~S6のグループ分けを行う。例えばサーバ50は、屋外の受信機30で信号が受信される3人の作業者S1~S3を第1グループG1、屋内の受信機30で信号が受信される3人の作業者S4~S6を第2グループG2に分ける。サーバ50は、こうして分けたグループG1・G2ごとに、ヘルメットH内の温度の上昇率の偏差値を算出する。
【0100】
サーバ50は、こうして算出した偏差値が想定以上に高い場合に、体温の異常を検知する。これによってサーバ50は、比較的共通点が多い(例えば距離が近かったり、共通の作業をしている)作業者S1~S3・S4~S6同士の体温を比較することができるため、体温の異常を精度よく検知することができる。
【0101】
なおグループ分けの基準は、発信機20からの信号の受信状況に限定されるものではない。例えばサーバ50は、作業者S1~S6の年齢や発信機20の位置情報等に基づいて作業者S1~S6をグループ分けすることも可能である。
【0102】
またサーバ50は、必ずしも温度の上昇率に基づいて体温の異常を検知する必要はなく、体温の異常を判断可能なその他の指標に基づいて体温の異常を検知することも可能である。例えばサーバ50は、温度の上昇率ではなく、上昇値に基づいて体温の異常を検知することも可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 体温異常検知システム
11 温度センサ
30 環境センサ
40 サーバ
S 作業者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8