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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046827
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】回転電機及び回転電機の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/04 20060101AFI20240329BHJP
   H02K 15/085 20060101ALI20240329BHJP
   H02K 3/34 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
H02K15/04 F
H02K15/085
H02K3/34 B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152142
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】宮下 圭太
(72)【発明者】
【氏名】木村 泰之
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 匠
(72)【発明者】
【氏名】細田 雄一
【テーマコード(参考)】
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB03
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604DB26
5H604PB03
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB02
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP14
5H615QQ03
5H615QQ07
5H615QQ12
5H615QQ27
5H615SS04
5H615SS09
5H615SS10
(57)【要約】
【課題】コイルエンド部を構成するセグメントコイルの曲げ半径を十分に小さくでき、スロット内の絶縁部材に対してダメージを与えるおそれのない回転電機を提供すること。
【解決手段】複数のセグメントコイルの直線部を、絶縁部材が装着されたステータコアのスロット内に挿入し、ステータコアの一方端面から突出する直線部をステータコアの周方向に折り曲げることによってコイルエンド部を形成した回転電機であって、コイルエンド部を形成する直線部は、少なくとも屈曲部において塑性変形して伸長している。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセグメントコイルの直線部を、絶縁部材が装着されたステータコアのスロット内に挿入し、前記ステータコアの一方端面から突出する前記直線部を前記ステータコアの周方向に折り曲げることによってコイルエンド部を形成した回転電機であって、
前記コイルエンド部を形成する前記直線部は、少なくとも屈曲部において塑性変形して伸長している、回転電機。
【請求項2】
複数のセグメントコイルの直線部を、絶縁部材が装着されたステータコアのスロット内に挿入し、前記ステータコアの一方端面から突出する前記直線部を前記ステータコアの周方向に折り曲げることによってコイルエンド部を形成した回転電機の製造方法であって、
前記直線部を前記ステータコアの周方向に折り曲げる際に、前記直線部に対して延び方向に張力を掛けながら折り曲げることによって、少なくとも屈曲部において塑性変形させて伸長させる、回転電機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機及び回転電機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータコアのスロット内に挿入されてステータコアの一方端面から突出するセグメント導体をステータコアの周方向に斜めに折り曲げるステータコイルの成形方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この方法において、ステータコアから突出するセグメント導体の突出部は、保持装置によって軸方向の相対移動を規制するように把持される。保持装置は、ステータコアに対して近接する方向に相対的に移動させながら周方向に相対的に回転し、セグメント導体を、ステータコアのスロット近傍と保持装置による把持部位の近傍を屈曲部として、ステータコアの周方向に斜めに折り曲げる。これによって、セグメント導体の屈曲部の曲げ半径を小さく抑えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-36469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、折り曲げ時に屈曲部に加わる力が弱く、且つ、折り曲げ後にスプリングバックが発生することによって、屈曲部の曲げ半径を十分に小さくすることができず、コイルエンド部の高さが高くなる。コイルエンド部の高さを低くするために、ステータコアにさらに近づくように折り曲げると、スロット内に装着される絶縁部材が折り曲げられたセグメントコイルに圧縮されてスロットの角に食い込み、損傷することによって絶縁性が低下するおそれもある。
【0006】
本発明は、コイルエンド部を構成するセグメントコイルの曲げ半径を十分に小さくでき、スロット内の絶縁部材に対してダメージを与えるおそれのない回転電機及び回転電機の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明に係る回転電機は、複数のセグメントコイル(例えば、後述のセグメントコイル6)の直線部(例えば、後述の直線部61)を、絶縁部材(例えば、後述の絶縁部材8)が装着されたステータコア(例えば、後述のステータコア5)のスロット(例えば、後述のスロット52)内に挿入し、前記ステータコアの一方端面(例えば、後述の端面5b)から突出する前記直線部を前記ステータコアの周方向(例えば、後述のX方向)に折り曲げることによってコイルエンド部(例えば、後述のコイルエンド部60)を形成した回転電機(例えば、後述の回転電機1)であって、前記コイルエンド部を形成する前記直線部は、少なくとも屈曲部(例えば、後述の第1の屈曲部BP1、第2の屈曲部BP2)において塑性変形して伸長している、回転電機である。
【0008】
(2) 本発明に係る回転電機の製造方法は、複数のセグメントコイル(例えば、後述のセグメントコイル6)の直線部(例えば、後述の直線部61)を、絶縁部材(例えば、後述の絶縁部材8)が装着されたステータコア(例えば、後述のステータコア5)のスロット(例えば、後述のスロット52)内に挿入し、前記ステータコアの一方端面(例えば、後述の端面5b)から突出する前記直線部を前記ステータコアの周方向(例えば、後述のX方向)に折り曲げることによってコイルエンド部(例えば、後述のコイルエンド部60)を形成した回転電機(例えば、後述の回転電機1)の製造方法であって、前記直線部を前記ステータコアの周方向に折り曲げる際に、前記直線部に対して延び方向に張力を掛けながら折り曲げることによって、少なくとも屈曲部(例えば、後述の第1の屈曲部BP1、第2の屈曲部BP2)において塑性変形させて伸長させる、回転電機の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コイルエンド部を構成するセグメントコイルの曲げ半径を十分に小さくでき、スロット内の絶縁部材に対してダメージを与えるおそれのない回転電機及び回転電機の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の回転電機を模式的に示す断面図である。
図2】本実施形態の回転電機におけるステータの分解斜視図である。
図3】本実施形態の回転電機におけるステータコアのスロットに束ねられたセグメントコイルが挿入される様子を示す斜視図である。
図4】本実施形態の回転電機におけるステータコアのスロットに全てのセグメントコイルが挿入された状態を示す斜視図である。
図5】本実施形態の回転電機における折り曲げられたセグメントコイルの直線部によって形成されるコイルエンド部を示す斜視図である。
図6】本実施形態の回転電機の製造方法に使用される折り曲げ治具を示す図である。
図7図6中のA部に示す1つの把持部を示す拡大図である。
図8】本実施形態の回転電機の製造方法に用いられる4つの折り曲げ治具の一部を底面側から見た図である。
図9】本実施形態の回転電機の製造方法に用いられる折り曲げ治具の2つの把持溝にセグメントコイルの直線部が挿入された状態を示す図である。
図10】本実施形態の回転電機の製造方法に用いられる折り曲げ治具によってセグメントコイルの直線部を斜めに折り曲げる動作を説明する図である。
図11】本実施形態の回転電機の製造方法によって折り曲げられたセグメントコイルにおけるステータコア近傍の屈曲点を示す図である。
図12】本実施形態の回転電機の製造方法によって折り曲げられた2本のセグメントコイルが交差する部位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態の回転電機及び回転電機の製造方法について図面を参照して詳細に説明する。図1に示す回転電機1は、ハウジング2と、ロータ3と、ステータ4と、を備える。回転電機1は、例えばインナーロータ型であり、U相、V相、W相の3相交流のブラシレスDCモータである。回転電機1及びステータ4において、周方向は、ロータ3の回転軸31の回転方向に沿うX方向である。径方向は、ロータ3の回転軸31を中心とする放射方向に沿うY方向である。軸方向は、ロータ3の回転軸31の長さ方向に沿うZ方向である。
【0012】
ハウジング2は、銅、アルミニウム等の熱伝導性の良い金属材によって円筒状に形成される。ハウジング2の内部には、冷媒を流通させる冷媒流路21が形成されている。ハウジング2の内周面2aにステータ4が固定される。
【0013】
ロータ3は、回転軸31の外周に図示しない界磁用の複数の永久磁石が配列されている。ロータ3の回転軸31は、図示しないモータハウジング等に回転可能に支持される。
【0014】
ステータ4は、図1及び図2に示すように、ステータコア5と、ステータコア5に装着される複数のセグメントコイル6と、を含んで構成される。
【0015】
ステータコア5は、例えば、薄肉のコアプレートが複数積層された積層体からなる円環部51と、円環部51を軸方向に貫通する複数のスロット52と、を有する。複数のスロット52は、ステータコア5の中心を軸方向に貫通する貫通孔50の周囲に、周方向に一定の間隔をおいて放射状に配列されている。
【0016】
セグメントコイル6は、例えば、断面矩形状の平角線からなる導体を略U字形状に成形することによって構成される。セグメントコイル6は、図2及び図3に示すように、一対の平行な直線部61と、その一対の直線部61の一方端部同士を連結する連結部62と、をそれぞれ有する。本実施形態では、図3に示すように、4本のセグメントコイル6がステータコア5の径方向に積層されて束ねられている。束ねられた4本のセグメントコイル6は、一方の直線部61と他方の直線部61とを異なる2つのスロット52,52にそれぞれ挿入することによって、ステータコア5に装着される。
【0017】
本実施形態では、1つのスロット52に、束ねられた4本のセグメントコイル6の直線部61と、別に束ねられた4本のセグメントコイル6の直線部61とが、ステータコア5の径方向に重ねられて挿入される。これによって、各スロット52内には、8本のセグメントコイル6の直線部61が挿入され、ステータコア5の径方向に8層に積層される。スロット52に挿入された各セグメントコイル6の両端部に配置される直線部61,61は、図4に示すように、ステータコア5の軸方向の挿入側の端面5aとは反対側の端面(一方端面)5bから直立するように突出する。なお、ステータコア5のスロット52内にはそれぞれ絶縁部材が挿入されるが、図3及び図4に示すステータコア5では、絶縁部材は図示省略されている。
【0018】
全てのセグメントコイル6がステータコア5の全てのスロット52に挿入された後、ステータコア5の端面5bから突出する直線部61は、図5に示すように、それぞれステータコア5の周方向に折り曲げられてコイルエンド部60を形成する。コイルエンド部60を形成する各直線部61は、ステータコア5の周方向に斜めに折り曲げられた斜行部611と、斜行部611の先端側がステータコア5の軸方向に立ち上がるように折り曲げられた立上がり部612と、をそれぞれ有する。
【0019】
各スロット52内の径方向の同一位置に配置される直線部61の斜行部611は、折り曲げ方向が同一方向となるように折り曲げられ、且つ径方向に隣り合う直線部61,61の斜行部611,611は、折り曲げ方向が互いに反対方向となるように折り曲げられる。折り曲げられた同相のセグメントコイル6の直線部61,61の立上がり部612,612同士は、径方向に揃えられ、図示しない溶接装置によって溶接されることによって接合される。
【0020】
なお、セグメントコイル6の全体は、樹脂製の絶縁被膜6Aによって被覆されるが、セグメントコイル6のそれぞれの直線部61の先端部61aだけは、所定の長さに亘って絶縁被膜6Aが完全に剥離されている。これによって、直線部61の先端部61aに、被膜剥離部6Bがそれぞれ形成されている。立上がり部612は、被膜剥離部6Bのみによって形成されている。
【0021】
次に、ステータコア5の端面5bから突出するセグメントコイル6の直線部61を折り曲げる具体的な方法について説明する。本実施形態のセグメントコイル6の直線部61は、図6に示す折り曲げ治具7を用いて折り曲げられる。
【0022】
折り曲げ治具7は、ステータコア5の周方向に配列されるセグメントコイル6の直線部61の先端部61aをそれぞれ1本ずつ収容して把持する複数の把持溝71を有する。把持溝71は、図7に示すように、略縦長矩形状に形成され、各折り曲げ治具7の下面7a及び外側面にそれぞれ開放している。把持溝71の長手方向は、折り曲げ治具7の下面7aに対して垂直方向に配置され、折り曲げ治具7の軸方向に沿って延びている。折り曲げ治具7の下面7aは、ステータコア5の端面5bに対して平行に配置される。
【0023】
把持溝71は、折り曲げ治具7の下面7aに開口し、セグメントコイル6の立上がり部612を導入する下面開口部711を有する。下面開口部711は、上方の把持溝71の内部よりも折り曲げ治具7の周方向に幅広く開口している。下面開口部711の開口幅は、セグメントコイル6の立上がり部612の幅よりも大きい。
【0024】
把持溝71において折り曲げ治具7の周方向に対向して配置される2つの側面71a,71bのうちの一方の側面71aの下端部には、下面開口部711から上方に向かうに従って次第に溝幅を狭くする傾斜面712が形成されている。詳しくは、傾斜面712は、把持溝71の内部において、セグメントコイル6の直線部61を折り曲げ成形する際の折り曲げ治具7の回転移動方向側(図7の例ではX1方向側)に配置される側面71aの下端部に配置される。折り曲げ治具7は、下面開口部711から導入したセグメントコイル6の立上がり部612を、傾斜面712によって案内しながら把持溝71内の所定位置に円滑に導入することができる。
【0025】
把持溝71の内部における傾斜面712が配置される側面71aと反対側の側面71bの下端には、第1の突起部713が形成される。第1の突起部713は、下面開口部711の開口縁に配置され、折り曲げ治具7の下面7aに平行な方向で、且つ下面開口部711を部分的に幅狭にする方向に突出している。
【0026】
把持溝71の内部における傾斜面712が配置される側面71aには、傾斜面712の上端との境界部に、第2の突起部714が形成される。第2の突起部714は、折り曲げ治具7の下面7aに平行な方向で、且つ把持溝71の内部の溝幅を部分的に幅狭にする方向に突出している。すなわち、第1の突起部713と第2の突起部714とは、互いに向かい合う方向に突出している。第2の突起部714は、第1の突起部713よりも下面開口部711から遠い位置に配置されるが、把持溝71の深さ方向(図7における上下方向)の中央部よりも下面開口部711に十分に近い位置に配置される。
【0027】
図8は、同心円状に配置される4つの折り曲げ治具7を示している。4つの折り曲げ治具7は、ステータコア5のスロット52内において径方向に積層される8層の直線部61のうち、径方向外方側又は径方向内方側の4層の直線部61の先端部61aをそれぞれ把持する。4つの折り曲げ治具7は、図示しない駆動部の駆動によって周方向に回転移動するとともに、上下方向に一体的に直線移動する。4つの折り曲げ治具7は、図8中の矢印で示すように、図示しない駆動部の駆動によって、それぞれの回転方向が時計方向(X1方向)及び反時計方向(X2方向)に交互に反対になるように回転移動可能に構成される。4つの折り曲げ治具7は、外径が異なる以外は、図6及び図7に示す構成と実質的に同一の構成を有する。但し、図7に示す折り曲げ治具7と回転移動方向が反対となる折り曲げ治具7の把持溝71の構成は、図7に示す把持溝71の構成と左右対称になる。
【0028】
折り曲げ治具7は、図9に示すように、直線部61の先端部61aの被膜剥離部6Bの部位を、下面開口部711からそれぞれ把持溝71内に導入して把持する。把持溝71に導入された直線部61の先端部61aは、把持溝71内の第1の突起部713と第2の突起部714との間に挟着されて保持される。このとき、折り曲げ治具7の下面7aは、直線部61の絶縁被膜6Aと被膜剥離部6Bとの境界部6Cよりも先端側に配置される。したがって、折り曲げ治具7は、境界部6Cよりも被膜剥離部6B側を把持溝71に収容して把持し、絶縁被膜6Aを把持しない。
【0029】
直線部61の先端部61aを把持した折り曲げ治具7は、図10に示すように、ステータコア5の周方向に沿う一方向(図10の例ではX1方向)に所定角度で回転移動しながらステータコア5の端面5bに向けて軸方向に所定距離を直線移動する。ステータコア5の端面5bから突出する直線部61は、端面5bの近傍を第1の曲げ起点として、ステータコア5に近づくように一方向(図10の例ではX1方向)に斜めに折り曲げられる。これによって、第1の曲げ起点において直線部61に第1の屈曲部BP1が形成され、斜行部611が形成される。
【0030】
折り曲げ治具7は、把持溝71によって把持した直線部61の先端部61aの直立姿勢を維持したまま回転移動及び直線移動する。そのため、直線部61が斜めに折り曲げられるのと同時に、第1の突起部713が接触している折り曲げ治具7の下面7aの近傍を第2の曲げ起点として、先端部61aが斜行部611の折り曲げ方向と反対方向(図10の例ではX2方向)に折り曲げられる。これによって、第2の曲げ起点において直線部61に第2の屈曲部BP2が形成され、斜行部611の先端側に立上がり部612が形成される。
【0031】
なお、図10は、ステータコア5の1つのスロット52とそのスロット52内に挿入されたセグメントコイル6の1つの直線部61を示している。スロット52内のステータコア5と直線部61との間には、絶縁部材8が収容されている。ステータコア5の端面5bには、スロット52からはみ出す絶縁部材8のカフス部81(図11参照)をスロット52の両側から支持するための一対のカフスガイド部材9が配置されている。
【0032】
本実施形態の製造方法において、直線部61を斜めに折り曲げる際、直線部61に対して延び方向に張力Fを掛けながら折り曲げている。詳しくは、折り曲げ時、折り曲げ治具7を、通常の回転角度よりも大きな回転角度で回転移動させることよって、通常よりも余計に回転移動させている。これによって、第1の屈曲部BP1及び第2の屈曲部BP2には、第1の屈曲部BP1と第2の屈曲部BP2との間の斜行部611を通常よりも伸長させようとする応力が掛かる。その結果、少なくとも第1の屈曲部BP1及び第2の屈曲部BP2は、塑性変形して伸長する。
【0033】
折り曲げ時に直線部61における第1の屈曲部BP1が塑性変形して伸長することによって、図11に示すように、第1の屈曲部BP1の曲げ半径Rは、折り曲げ時に張力Fを掛けない場合に比べて小さくなる。これによって、第1の屈曲部BP1における直線部61の第1の曲げ起点の位置は、ステータコア5の端面5bよりもスロット52内に近いP0位置からステータコア5の端面5bよりもスロット52の外方へ離れるP1位置へシフトする。そのため、スロット52内の絶縁部材8のカフス部81が、折り曲げられた直線部61とステータコア5との間で圧縮されても、スロット52の角に食い込んで損傷することは回避される。絶縁部材8の損傷を回避するために、直線部61を緩やかに折り曲げて斜行部611の傾斜角度を大きくする必要はないため、コイルエンド部60の仕上がり高さが従来に比べて大きくなることはない。
【0034】
また、第2の屈曲部BP2の曲げ半径も小さくなるため、立上がり部612は、ステータコア5の端面5bに対して、より垂直に近く立ち上がるように成形される。そのため、図12に示すように、折り曲げ方向が異なる斜行部611,611同士の交差部CPは、絶縁被膜6Aと被膜剥離部6Bとの間の境界部6Cよりもステータコア5に近い位置に配置される。そのため、交差部CPでは、絶縁被膜6A,6A同士が接触するため、絶縁性を確保することができる。
【0035】
このように直線部61に対して張力Fを掛けながら折り曲げる際、直線部61の先端部61aは、図9に示すように、折り曲げ治具7の把持溝71に挿入された状態で、第1の突起部713と、それよりもやや上方に配置される第2の突起部714と、によってステータコア5の周方向の両側から挟持されている。先端部61aが第1の突起部713を中心にくの字状に屈曲した際、第2の突起部714が屈曲部位よりも先端側で、先端部61aに突き当たることによって、先端部61aが把持溝71から抜け出ることを阻止するように機能する。そのため、先端部61aは把持溝71内に強固に保持され、折り曲げ時に抜け出てしまうおそれはない。
【0036】
ステータコア5の端面5bから突出する全てのセグメントコイル6の直線部61に斜行部611及び立上がり部612が形成された後、ステータコア5の径方向に隣接する同相のセグメントコイル6の立上がり部612,612同士が径方向に揃えられて溶接される。回転電機1は、このようにして得られたステータ4をハウジング2の内周面2aに固定することによって製造される。
【0037】
本実施形態の回転電機1及び回転電機1の製造方法によれば、以下の効果を奏する。
【0038】
本実施形態に係る回転電機1は、複数のセグメントコイル6の直線部61をステータコア5のスロット52内に挿入し、ステータコア5の一方端面5bから突出する直線部61をステータコア5の周方向に折り曲げることによってコイルエンド部60を形成した回転電機1であって、コイルエンド部60を形成する直線部61は、少なくとも屈曲部(第1の屈曲部BP1及び第2の屈曲部BP2)において塑性変形して伸長している。
【0039】
これによれば、コイルエンド部60を構成するセグメントコイル6の曲げ半径を十分に小さくでき、スロット52内の絶縁部材8に対してダメージを与えるおそれのない回転電機1を提供することができる。
【0040】
本実施形態に係る回転電機1の製造方法は、複数のセグメントコイル6の直線部61をステータコア5のスロット52内に挿入し、ステータコア5の一方端面5bから突出する直線部61をステータコア5の周方向に折り曲げることによってコイルエンド部60を形成した回転電機1の製造方法であって、直線部61をステータコア5の周方向に折り曲げる際に、直線部61に対して延び方向に張力Fを掛けながら折り曲げることによって、少なくとも屈曲部(第1の屈曲部BP1及び第2の屈曲部BP2)において塑性変形させて伸長させる。
【0041】
これによれば、コイルエンド部60を構成するセグメントコイル6の曲げ半径を十分に小さくでき、スロット52内の絶縁部材8に対してダメージを与えるおそれのない回転電機1を容易に得ることができる製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 回転電機
4 ステータ
5 ステータコア
5b 端面(一方端面)
52 スロット
6 セグメントコイル
60 コイルエンド部
61 直線部
8 絶縁部材
BP1 第1の屈曲部
BP2 第2の屈曲部
F 張力

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12