(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046836
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】分類方法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240329BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240329BHJP
C12N 5/073 20100101ALN20240329BHJP
【FI】
G06T7/00 612
C12Q1/04
C12N5/073
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152156
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 涼
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
5L096
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AC20
4B065CA46
5L096AA06
5L096AA09
5L096BA06
5L096BA13
5L096EA13
5L096FA32
5L096FA33
5L096FA69
5L096GA51
5L096KA04
5L096MA07
(57)【要約】
【課題】分割期の胚を、三次元画像に基づいて定量的に分類できる技術を提供する。
【解決手段】まず、光干渉断層撮影により、胚の三次元画像D2を取得する。次に、三次元画像D2において、個々の割球が占める割球領域と、フラグメンテーションが占めるフラグメンテーション領域とを、抽出する。次に、個々の割球領域の体積およびフラグメンテーション領域の体積を、算出する。続いて、割球領域の体積に基づいて、胚における割球の体積のばらつきを示す第1指標値P1を算出する。また、フラグメンテーション領域の体積に基づいて、胚におけるフラグメンテーションの割合を示す第2指標値P2を算出する。その後、第1指標値P1および第2指標値P2に基づいて、胚を分類する。これにより、分割期の胚を、三次元画像D2に基づいて定量的に分類することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割期の胚を分類する分類方法であって、
a)光干渉断層撮影により、前記胚の三次元画像を取得する工程と、
b)前記三次元画像において、個々の割球が占める割球領域と、フラグメンテーションが占めるフラグメンテーション領域とを、抽出する工程と、
c)個々の前記割球領域の体積および前記フラグメンテーション領域の体積を、算出する工程と、
d)前記割球領域の体積に基づいて、前記胚における前記割球の体積のばらつきを示す第1指標値を算出する工程と、
e)前記フラグメンテーション領域の体積に基づいて、前記胚における前記フラグメンテーションの割合を示す第2指標値を算出する工程と、
f)前記第1指標値および前記第2指標値に基づいて、前記胚を分類する工程と、
を有する、分類方法。
【請求項2】
請求項1に記載の分類方法であって、
前記工程f)では、前記第1指標値および前記第2指標値に基づいて、前記胚をグレード1~グレード5の5段階に分類する、分類方法。
【請求項3】
請求項1に記載の分類方法であって、
前記工程f)では、前記第1指標値および前記第2指標値に基づいて、前記胚を良好胚と非良好胚の2種類に分類する、分類方法。
【請求項4】
請求項1に記載の分類方法であって、
コンピュータが、機械学習アルゴリズムに基づいて、前記第1指標値および前記第2指標値と、前記胚の分類結果との関係を学習することにより、学習済みモデルを生成する工程
をさらに備え、
前記工程f)では、コンピュータが、前記学習済みモデルに前記第1指標値および前記第2指標値を入力し、前記学習済みモデルから出力される分類結果に基づいて、前記胚を分類する、分類方法。
【請求項5】
請求項1に記載の分類方法であって、
前記工程f)では、前記第1指標値および前記第2指標値と、予め設定された閾値とに基づいて、前記胚を分類する、分類方法。
【請求項6】
請求項1に記載の分類方法であって、
前記工程d)では、前記割球領域の数が2のべき乗に該当しない場合、体積の大きい一部の割球領域を2つの割球領域に分けることによって割球領域の数を2のべき乗となるように変更し、変更後の複数の割球領域について、前記第1指標値を算出する、分類方法。
【請求項7】
請求項1に記載の分類方法であって、
前記工程d)では、前記割球領域の体積を平均値または中央値で除算することにより標準化し、標準化後の体積に基づいて、前記第1指標値を算出する、分類方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の分類方法を、コンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割期の胚を分類する分類方法、および当該分類方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
不妊治療を目的とする生殖補助医療では、体外で受精させた胚を一定期間培養した後、胚を体内に戻すことが行われている。このような生殖補助医療においては、妊娠の成功率を高めるために、複数の胚の状態を的確に評価し、良好な胚を体内に戻すことが重要である。
【0003】
従来、分割期の胚の評価には、主にVeeck分類が使用されている。Veeck分類は、卵割により生じた割球の大きさの均一性と、フラグメンテーションの割合とに基づき、胚をグレード1~グレード5の5段階に分類するものである。従来の生殖補助医療では、胚培養士が、胚の顕微鏡画像を見ながら、Veeck分類の基準に沿って胚を評価していた。
【0004】
しかしながら、従来、胚培養士が評価に使用する顕微鏡画像は、胚を一方向から見た二次元画像であるため、胚の立体的な構造を正確に把握することは難しい。このため、各割球の大きさや、フラグメンテーションの大きさについては、胚培養士の主観的な判断に委ねられていた。
【0005】
そこで、近年、胚を光干渉断層撮影(Optical Coherence Tomography;OCT)により撮影し、得られた三次元画像を、胚の観察に利用することが提案されている。胚を光干渉断層撮影により撮影する従来の技術については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ただし、光干渉断層撮影により得られた三次元画像に基づいて、胚の状態を定量的に分類する方法については、まだ十分に確立されていない。上述した胚培養士による主観的な判断では、胚培養士の技量によって判断に差が生じる場合がある。生殖補助医療の成功率をより高めるために、胚培養士の技量に依存することなく、三次元画像に基づいて、胚の状態を定量的に分類できる技術が求められている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、分割期の胚を、三次元画像に基づいて定量的に分類できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、分割期の胚を分類する分類方法であって、a)光干渉断層撮影により、前記胚の三次元画像を取得する工程と、b)前記三次元画像において、個々の割球が占める割球領域と、フラグメンテーションが占めるフラグメンテーション領域とを、抽出する工程と、c)個々の前記割球領域の体積および前記フラグメンテーション領域の体積を、算出する工程と、d)前記割球領域の体積に基づいて、前記胚における前記割球の体積のばらつきを示す第1指標値を算出する工程と、e)前記フラグメンテーション領域の体積に基づいて、前記胚における前記フラグメンテーションの割合を示す第2指標値を算出する工程と、f)前記第1指標値および前記第2指標値に基づいて、前記胚を分類する工程と、を有する。
【0010】
本願の第2発明は、第1発明の分類方法であって、前記工程f)では、前記第1指標値および前記第2指標値に基づいて、前記胚をグレード1~グレード5の5段階に分類する。
【0011】
本願の第3発明は、第1発明の分類方法であって、前記工程f)では、前記第1指標値および前記第2指標値に基づいて、前記胚を良好胚と非良好胚の2種類に分類する。
【0012】
本願の第4発明は、第1発明の分類方法であって、コンピュータが、機械学習アルゴリズムに基づいて、前記第1指標値および前記第2指標値と、前記胚の分類結果との関係を学習することにより、学習済みモデルを生成する工程をさらに備え、前記工程f)では、コンピュータが、前記学習済みモデルに前記第1指標値および前記第2指標値を入力し、前記学習済みモデルから出力される分類結果に基づいて、前記胚を分類する。
【0013】
本願の第5発明は、第1発明の分類方法であって、前記工程f)では、前記第1指標値および前記第2指標値と、予め設定された閾値とに基づいて、前記胚を分類する。
【0014】
本願の第6発明は、第1発明の分類方法であって、前記工程d)では、前記割球領域の数が2のべき乗に該当しない場合、体積の大きい一部の割球領域を2つの割球領域に分けることによって割球領域の数を2のべき乗となるように変更し、変更後の複数の割球領域について、前記第1指標値を算出する。
【0015】
本願の第7発明は、第1発明の分類方法であって、前記工程d)では、前記割球領域の体積を平均値または中央値で除算することにより標準化し、標準化後の体積に基づいて、前記第1指標値を算出する。
【0016】
本願の第8発明は、コンピュータプログラムであって、第1発明から第7発明までのいずれか1発明の分類方法を、コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0017】
本願の第1発明~第8発明によれば、分割期の胚を、三次元画像に基づいて定量的に分類することができる。
【0018】
特に、本願の第2発明によれば、従来、二次元の顕微鏡画像に基づいて、観察者が主観的な判断で行っていたVeek分類を、三次元画像に基づいて客観的に行うことができる。
【0019】
特に、本願の第3発明によれば、三次元画像に基づいて、良好胚を容易に選択できる。
【0020】
特に、本願の第4発明によれば、機械学習を利用することにより、分類のための閾値をユーザが設定することなく、胚を分類できる。
【0021】
特に、本願の第5発明によれば、予め設定された閾値に基づいて、胚を分類できる。
【0022】
特に、本願の第6発明によれば、胚の中に、分割後の割球と分割直前の割球とが混在している場合でも、割球の体積のばらつきを示す第1指標値を、適切に算出できる。
【0023】
特に、本願の第7発明によれば、卵割の世代による第1指標値の変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図3】胚の分類を行うためのコンピュータの機能を、概念的に示したブロック図である。
【
図5】胚の分類処理の流れを示したフローチャートである。
【
図6】第1指標値の算出処理の流れを示したフローチャートである。
【
図8】第1指標値を算出するための第1の手法を説明するための図である。
【
図9】第1指標値を算出するための第2の手法を説明するための図である。
【
図10】第1指標値を算出するための第2の手法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
<1.観察装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る胚分類装置1の構成を示した図である。この胚分類装置1は、試料容器90内に保持された胚9の光干渉断層撮影を行い、得られた三次元画像に基づいて、胚9の状態を分類する装置である。胚9は、受精卵が分割を開始した後、桑実胚に至るまでの分割期の胚である。胚9は、一例としてはヒトの胚であるが、非ヒト動物の胚であってもよい。
【0027】
図1に示すように、胚分類装置1は、ステージ10、撮像部20、およびコンピュータ30を備えている。
【0028】
ステージ10は、試料容器90を支持する支持台である。試料容器90には、例えば、ウェルプレートが使用される。ウェルプレートは、複数のウェル(凹部)901を有する。各ウェル901は、U字状またはV字状の底部を有する。胚9は、各ウェル901の底部付近に、培養液とともに保持される。試料容器90の材料には、光を透過する透明な樹脂またはガラスが使用される。
【0029】
ステージ10は、上下方向に貫通する開口部11を有する。試料容器90は、ステージ10の当該開口部11に嵌め込まれた状態で、水平に支持される。したがって、試料容器90の下面は、ステージ10に覆われることなく、撮像部20へ向けて露出する。
【0030】
撮像部20は、試料容器90内の胚9を撮影するユニットである。撮像部20は、ステージ10に支持された試料容器90の下方に配置されている。撮像部20は、胚9の断層画像および三次元画像を取得することが可能な、光干渉断層撮影(Optical Coherence Tomography;OCT)装置である。
【0031】
図1に示すように、撮像部20は、光源21、物体光学系22、参照光学系23、検出部24、および光ファイバカプラ25を有する。光ファイバカプラ25は、第1光ファイバ251~第4光ファイバ254が、接続部255において連結されたものである。光源21、物体光学系22、参照光学系23、および検出部24は、光ファイバカプラ25により構成される光路を介して、互いに接続されている。
【0032】
光源21は、LED等の発光素子を有する。光源21は、広帯域の波長成分を含む低コヒーレンス光を出射する。胚9を侵襲することなく、胚9の内部まで光を到達させるために、光源21から出射される光は、近赤外線であることが望ましい。光源21は、第1光ファイバ251に接続されている。光源21から出射される光は、第1光ファイバ251へ入射し、接続部255において、第2光ファイバ252へ入射する光と、第3光ファイバ253へ入射する光とに、分岐される。
【0033】
第2光ファイバ252は、物体光学系22に接続されている。接続部255から第2光ファイバ252へ進む光は、物体光学系22へ入射する。物体光学系22は、コリメータレンズ221および対物レンズ222を含む複数の光学部品を有する。第2光ファイバ252から出射された光は、コリメータレンズ221および対物レンズ222を通って、試料容器90内の胚9に照射される。このとき、対物レンズ222により、光が胚9へ向けて収束する。そして、胚9において反射した光(以下「観察光」と称する)は、対物レンズ222およびコリメータレンズ221を通って、再び第2光ファイバ252へ入射する。
【0034】
図1に示すように、物体光学系22は、走査機構223に接続されている。走査機構223は、コンピュータ30からの指令に従って、物体光学系22を、鉛直方向および水平方向に微小移動させる。これにより、胚9に対する光の入射位置を、鉛直方向および水平方向に微小移動させることができる。
【0035】
また、撮像部20は、図示を省略した移動機構により、水平方向に移動可能となっている。これにより、撮像部20の視野を、複数のウェル901の間で切り替えることができる。
【0036】
第3光ファイバ253は、参照光学系23に接続されている。接続部255から第3光ファイバ253へ進む光は、参照光学系23へ入射する。参照光学系23は、コリメータレンズ231およびミラー232を有する。第3光ファイバ253から出射された光は、コリメータレンズ231を通って、ミラー232へ入射する。そして、ミラー232により反射された光(以下「参照光」と称する)は、コリメータレンズ231を通って、再び第3光ファイバ253へ入射する。
【0037】
図1に示すように、ミラー232は、進退機構233に接続されている。進退機構233は、コンピュータ30からの指令に従って、ミラー232を、光軸方向に微小移動させる。これにより、参照光の光路長を変化させることができる。
【0038】
第4光ファイバ254は、検出部24に接続されている。物体光学系22から第2光ファイバ252へ入射した観察光と、参照光学系23から第3光ファイバ253へ入射した参照光とは、接続部255において合流して、第4光ファイバ254へ入射する。そして、第4光ファイバ254から出射された光は、検出部24へ入射する。このとき、観察光と参照光との間で、位相差に起因する干渉が生じる。この干渉光の分光スペクトルは、観察光の反射位置の高さによって異なる。
【0039】
検出部24は、分光器241および光検出器242を有する。第4光ファイバ254から出射された干渉光は、分光器241において波長成分ごとに分光されて、光検出器242へ入射する。光検出器242は、分光された干渉光を検出し、その検出信号を、コンピュータ30へ出力する。
【0040】
コンピュータ30の後述する画像取得部41は、光検出器242から得られる検出信号をフーリエ変換することで、観察光の鉛直方向の光強度分布を求める。また、走査機構223により、物体光学系22を水平方向に移動させつつ、上記の光強度分布の算出を繰り返すことにより、三次元空間の各座標における観察光の光強度分布を求めることができる。その結果、コンピュータ30は、胚9の断層画像および三次元画像を得ることができる。
【0041】
断層画像は、二次元座標上に配列された複数の画素(ピクセル)により構成され、画素毎に輝度値が規定されたデータである。三次元画像は、三次元座標上に配列された複数の画素(ボクセル)により構成され、画素毎に輝度値が規定されたデータである。すなわち、断層画像および三次元画像は、いずれも、所定の座標上に輝度値が分布した撮影画像である。
【0042】
コンピュータ30は、撮像部20を動作制御する制御部としての機能を有する。また、コンピュータ30は、撮像部20から入力される検出信号に基づいて断層画像および三次元画像を作成し、得られた断層画像および三次元画像に基づいて、胚9を分類するデータ処理部としての機能を有する。
【0043】
図2は、胚分類装置1の制御ブロック図である。
図2中に概念的に示したように、コンピュータ30は、CPU等のプロセッサ31、RAM等のメモリ32、およびハードディスクドライブ等の記憶部33を有する。記憶部33内には、胚分類装置1内の各部を動作制御するためのコンピュータプログラムである制御プログラムCP1と、断層画像D1および三次元画像D2を作成して胚9を分類するためのコンピュータプログラムであるデータ処理プログラムCP2とが、記憶されている。
【0044】
制御プログラムCP1およびデータ処理プログラムCP2は、CDやDVDなどのコンピュータ30により読み取り可能な記憶媒体から読み取られて、記憶部33に記憶される。ただし、制御プログラムCP1およびデータ処理プログラムCP2は、ネットワーク経由でコンピュータ30にダウンロードされるものであってもよい。
【0045】
また、
図2に示すように、コンピュータ30は、上述した光源21、走査機構223、進退機構233、および光検出器242と、それぞれ通信可能に接続されている。また、コンピュータ30は、液晶ディスプレイ等の表示部70とも、通信可能に接続されている。コンピュータ30は、制御プログラムCP1に従って、上記の各部を動作制御する。これにより、試料容器90に保持された胚9の撮影処理が進行する。
【0046】
図3は、胚9の分類を行うためのコンピュータ30の機能を、概念的に示したブロック図である。
図3に示すように、コンピュータ30は、画像取得部41、領域抽出部42、体積算出部43、第1指標値算出部44、第2指標値算出部45、および分類部46を有する。画像取得部41、領域抽出部42、第1指標値算出部44、第2指標値算出部45、および分類部46の各機能は、コンピュータ30のプロセッサ31が、上述したデータ処理プログラムCP2に従って動作することにより、実現される。画像取得部41、領域抽出部42、第1指標値算出部44、第2指標値算出部45、および分類部46が実行する処理の詳細については、後述する。
【0047】
<2.胚の分類処理について>
続いて、上記の胚分類装置1を使用した胚9の分類処理について、説明する。
【0048】
図4は、分割期の胚9の構造を示した図である。胚9は、透明または半透明である。
図4に示すように、分割期の胚9は、複数の細胞である割球92が、球面状の透明帯91の中に収容された状態となっている。卵割が進むにつれて、割球92の数は、2個、4個、8個…のように増加する。胚9の培養が良好に進行している状態では、複数の割球92は、同程度の大きさを有する。
【0049】
また、
図4に示すように、胚9は、透明帯91の中にフラグメンテーション93を有する場合がある。フラグメンテーション93は、細胞が不規則に分割することにより形成された細かい細胞片の集合である。胚9の培養が良好に進行している状態では、胚9に含まれるフラグメンテーション93の割合は小さい。
【0050】
この胚分類装置1は、良好に培養が進んでいる胚9を選別するために、割球92の体積の均一性と、胚9におけるフラグメンテーション93の割合とに基づいて、胚9の状態を分類する。
【0051】
図5は、胚9の分類処理の流れを示したフローチャートである。胚分類装置1において胚9の分類を行うときには、まず、ステージ10に試料容器90をセットする(ステップS1,準備工程)。試料容器90内には、培養液とともに胚9が保持されている。
【0052】
次に、胚分類装置1は、撮像部20により、胚9の撮影を行う(ステップS2,画像取得工程)。撮像部20は、光干渉断層撮影を行う。具体的には、光源21から光を出射し、走査機構223により物体光学系22を微少移動させながら、観察光および参照光の干渉光を、波長成分ごとに、光検出器242で検出する。コンピュータ30の画像取得部41は、光検出器242から出力される検出信号に基づいて、胚9の各座標位置における光強度分布を算出する。これにより、胚9の断層画像D1および三次元画像D2が得られる。
【0053】
胚分類装置1は、1つの胚9について、複数の断層画像D1と、1つの三次元画像D2とを取得する。また、胚分類装置1は、撮影対象となるウェル901を変更しながら、ステップS2の処理を繰り返すことにより、複数の胚9の断層画像D1および三次元画像D2を取得する。得られた断層画像D1および三次元画像D2は、コンピュータ30の記憶部33に記憶される。また、コンピュータ30は、得られた断層画像D1および三次元画像D2を、表示部70に表示する。
【0054】
次に、コンピュータ30の領域抽出部42は、胚9の三次元画像D2において、複数の領域を抽出する(ステップS3,領域抽出工程)。具体的には、領域抽出部42は、胚9の三次元画像D2において、胚9全体が占める胚全体領域、透明帯91が占める透明帯領域、複数の割球92が占める割球集合領域、およびフラグメンテーション93が占めるフラグメンテーション領域を、それぞれ抽出する。これらの各領域は、例えば、公知のLocal Thickness法などを利用して抽出することができる。
【0055】
また、領域抽出部42は、上述した割球集合領域において、各割球92の境界を特定する。これにより、割球集合領域を、割球92毎の領域である割球領域に分割する。割球92の境界は、例えば、公知のWatershedアルゴリズムなどを利用して特定することができる。三次元画像D2において、個々の割球92に対応する割球領域が特定されると、コンピュータ30は、割球領域の数(すなわち、当該胚9における割球92の数)を計測して、記憶部33に記憶する。
【0056】
コンピュータ30は、領域抽出部42により抽出された胚全体領域、透明帯領域、複数の割球領域、およびフラグメンテーション領域を、記憶部33にする。また、コンピュータ30は、表示部70に表示された三次元画像D2において、透明帯領域、複数の割球領域、およびフラグメンテーション領域を、領域毎に色分けするなどして表示してもよい。
【0057】
続いて、コンピュータ30の体積算出部43は、抽出された複数の領域の体積を、それぞれ算出する(ステップS4,体積算出工程)。具体的には、体積算出部43は、胚全体領域の体積、透明帯領域の体積、個々の割球領域の体積、およびフラグメンテーション領域の体積を、それぞれ算出する。各領域の体積は、例えば、当該領域を構成するボクセルの数によって表すことができる。ただし、体積算出部43は、実空間中における1ボクセルあたりの体積に、ボクセルの数を乗算することにより、実空間における各領域の体積を算出してもよい。
【0058】
次に、コンピュータ30の第1指標値算出部44が、胚9における割球92の体積のばらつきを示す第1指標値P1を算出する(ステップS5,第1指標値算出工程)。ここでは、第1指標値算出部44は、上述のステップS4において算出された各割球領域の体積に基づいて、割球92の体積のばらつきを示す第1指標値P1を算出する。
【0059】
図6は、第1指標値P1の算出処理の流れを示したフローチャートである。
図6に示すように、第1指標値算出部44は、まず、上述したステップS3において抽出された割球領域の数が、2のべき乗に該当するか否かを判定する(ステップS51)。2のべき乗に該当するとは、例えば、割球領域の数が2個、4個、8個の場合である。2のべき乗に該当しないとは、例えば、割球領域の数が、3個、5個、6個、7個の場合である。
【0060】
割球領域の数が2のべき乗に該当しない場合(ステップS51:No)、胚9の中に、分割後の割球92と、分割直前の割球92とが、混在していると考えられる。この場合、第1指標値算出部44は、割球領域の調整を行う(ステップS52)。
【0061】
図7は、三次元画像D2において割球領域を調整する様子を示す図である。
図7中に破線で示したように、第1指標値算出部44は、抽出された複数の割球領域92Aのうち、体積の大きい一部の割球領域92Aを2等分する。すなわち、複数の割球92のうち、分割直前の割球92を分割したものとして扱う。これにより、割球領域92Aの数を2のべき乗に変更する。
【0062】
図7のように、割球領域92Aの数が3つの場合、第1指標値算出部44は、最も大きい1つの割球領域92Aを2等分することにより、割球領域92Aの数を4つに変更する。また、割球領域の数が5つの場合、第1指標値算出部44は、最も大きい3つの割球領域を2等分することにより、割球領域の数を8つに変更する。また、割球領域の数が6つの場合、第1指標値算出部44は、最も大きい2つの割球領域を2等分することにより、割球領域の数を8つに変更する。また、割球領域の数が7個の場合、第1指標値算出部44は、最も大きい1つの割球領域を2等分することにより、割球領域の数を8つに変更する。
【0063】
ステップS51において、割球領域の数が2のべき乗に該当する場合(ステップS51:Yes)、または、ステップS52において、割球領域を調整して割球領域の数を2のべき乗に変更した場合、次に、第1指標値算出部44は、複数の割球領域の体積に基づいて、第1指標値P1を算出する(ステップS53)。以下では、第1指標値P1を算出するための3通りの手法について説明する。
【0064】
まず、第1指標値P1を算出するための第1の手法について説明する。
図8は、割球領域の数が4つの場合を例として、第1の手法を説明するための図である。第1の手法では、最も大きい割球領域の体積Vmaxと、最も小さい割球領域の体積Vminととの差Vmax-Vminに基づいて、第1指標値P1を算出する。具体的には、当該胚9における割球領域の体積の平均値をVm、割球領域の数をNとして、次の数式(1)により、第1指標値P1を算出する。
P1=(Vmax/Vm-Vmin/Vm)/N ・・・(1)
【0065】
通常、卵割により胚9の世代が進むにつれて、割球92の平均的な体積は小さくなる。このため、上記の数式(1)では、割球領域の体積Vmax,Vminを、平均値Vmで除算することにより、体積を標準化(正規化)している。これにより、卵割の世代による第1指標値P1の変動を抑えている。また、通常、割球領域の体積の最大値と最小値との差分値は、割球92の総数に応じて変動する。このため、上記の数式(1)では、標準化された差分値(Vmax/Vm-Vmin/Vm)を、割球領域の数Nで除算することにより、割球領域の体積のばらつきの割合を算出している。
【0066】
次に、第1指標値P1を算出するための第2の手法について説明する。
図9は、割球領域の数が4つの場合を例として、第2の手法を説明するための図である。第2の手法では、割球領域の体積の累積値に基づいて、第1指標値P1を算出する。具体的には、当該胚9におけるn番目の割球領域の体積をVn、割球領域の体積の平均値をVm、割球領域の数をNとして、次の数式(2)により、第1指標値P1を算出する。
P1=(Σ(Vn/Vm)-Vmin/Vm)/N ・・・(2)
【0067】
第1の手法との違いは、最も大きい割球領域の体積Vmaxの代わりに、当該胚9における割球領域の体積の合計値ΣVnを使用している点である。このようにすれば、割球領域の体積の最大値と最小値だけではなく、それらの間の大きさの割球領域の体積も考慮することができる。したがって、割球領域の体積のばらつきを示す第1指標値P1を、より精度よく算出することができる。
【0068】
次に、第1指標値P1を算出するための第3の手法について説明する。
図10は、割球領域の数が4つの場合を例として、第3の手法を説明するための図である。第3の手法では、各割球領域の体積Vnと平均値Vmとの差分|Vm-Vn|に基づいて、第1指標値P1を算出する。具体的には、当該胚9におけるn番目の割球領域の体積をVn、割球領域の体積の平均値をVm、割球領域の数をNとして、次の数式(1)により、第1指標値P1を算出する。
P1=(Σ(|Vm-Vn|/Vm)/N ・・・(3)
【0069】
この第3の手法によれば、割球領域ごとに、体積の平均値Vmからのずれ量|Vm-Vn|を算出し、全ての割球領域の上記ずれ量を合計する。このため、全ての細胞領域の体積の平均値からのずれ量を考慮することができる。したがって、割球領域の体積のばらつきを示す第1指標値P1を、より精度よく算出することができる。
【0070】
以上のように、第1指標値P1を算出するための3通りの手法を説明したが、第1指標値P1の算出方法は、上記の第1の手法~第3の手法に限定されるものではない。例えば、上述した平均値Vmの代わりに、中央値、最小値、または最大値を使用してもよい。また、標準偏差や分散などを使って、割球領域の体積のばらつきを示す第1指標値P1を算出してもよい。
【0071】
算出された第1指標値P1は、コンピュータ30の記憶部33に記憶される。また、コンピュータ30は、算出された第1指標値P1を、表示部70に表示する。
【0072】
次に、コンピュータ30の第2指標値算出部45が、胚9におけるフラグメンテーション93の割合を示す第2指標値P2を算出する(ステップS6,第2指標値算出工程)。ここでは、上述のステップS4において算出されたフラグメンテーション領域の体積に基づいて、第2指標値P2を算出する。
【0073】
第2指標値算出部45は、例えば、フラグメンテーション領域の体積を、胚全体領域の体積で除算することにより、第2指標値P2を算出する。ただし、第2指標値算出部45は、フラグメンテーション領域の体積を、全ての割球領域の体積の合計値(割球集合領域の体積)で除算することにより、第2指標値P2を算出してもよい。また、第2指標値算出部45は、フラグメンテーション領域の体積を、割球集合領域の体積とフラグメンテーション領域の体積の合計値で除算することにより、第2指標値P2を算出してもよい。
【0074】
その後、分類部46が、第1指標値P1および第2指標値P2に基づいて、胚9を分類する(ステップS7,分類工程)。本実施形態では、分類部46が、上記の第1指標値P1および第2指標値P2に基づいて、胚9の状態をグレード1~グレード5の5段階に分類する、いわゆるVeeck分類を行う。
【0075】
図3に示すように、分類部46は、予め作成された学習済みモデルMを有する。具体的には、コンピュータ30の記憶部33に、学習済みモデルMが記憶されている。学習済みモデルMは、第1指標値P1および第2指標値P2に基づいて、胚9の分類結果(グレード1~グレード5のVeeck分類結果)を推定するための推論モデルである。すなわち、学習済みモデルMの入力変数は、第1指標値P1および第2指標値P2である。学習済みモデルMの出力変数は、胚9の分類結果である。
【0076】
コンピュータ30は、
図5の分類処理よりも前に、予め、学習済みモデルMを作成するための学習処理を行う。具体的には、コンピュータ30は、教師あり機械学習アルゴリズムに基づいて、第1指標値P1および第2指標値P2と、胚9の分類結果との関係を学習する。その際、第1指標値P1および第2指標値P2と、それに対応する既知の分類結果とのセットを、教師データとする。そして、既知の教師データを多数用意して、教師あり機械学習を行う。その結果、第1指標値P1および第2指標値P2を入力することにより、胚9の分類結果を精度よく出力することが可能な、学習済みモデルMが生成される。
【0077】
ステップS7では、分類部46が、この学習済みモデルMに、第1指標値P1および第2指標値P2を入力する。そうすると、学習済みモデルMから分類結果が出力される。分類部46は、学習済みモデルMから出力される分類結果に基づいて、胚9をグレード1~グレード5のいずれかに分類する。コンピュータ30は、胚9の分類結果を記憶部33に記憶する。また、コンピュータ30は、胚9の分類結果を表示部70に表示する。
【0078】
このように、本実施形態では、コンピュータ30が、三次元画像D2に基づいて、割球92の体積のばらつきを示す第1指標値P1と、フラグメンテーション93の割合を示す第2指標値P2とを算出する。そして、コンピュータ30が、第1指標値P1および第2指標値P2に基づいて、胚9を分類する。このため、従来、二次元の顕微鏡画像に基づいて胚培養士が行っていた胚9のVeeck分類を、三次元画像D2に基づいて定量的に行うことができる。これにより、三次元画像D2に基づく精度のよいVeeck分類結果を得ることができる。したがって、本実施形態の分類方法を使用すれば、生殖補助医療における胚盤胞到達率、着床率、妊娠率などの成績を向上させることができる。また、胚培養士の負担を減らすことができるとともに、胚培養士の技量に依存しない客観的なVeeck分類結果を得ることができる。
【0079】
特に、本実施形態では、コンピュータ30が、機械学習により生成された学習済みモデルMを利用して、胚9のVeeck分類を行う。このようにすれば、分類のための閾値をユーザが設定することなく、胚9を分類できる。
【0080】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0081】
<3-1.第1変形例>
上記の実施形態では、第1指標値P1および第2指標値P2を学習済みモデルMに入力することにより、分類結果を出力していた。しかしながら、分類部46は、第1指標値P1および第2指標値P2と、予め設定された閾値とに基づいて、胚9を分類してもよい。例えば、分類結果のグレード毎に、第1指標値P1がクリアすべき第1閾値と、第2指標値P2がクリアすべき第2閾値とを設定してもよい。その場合、分類部46は、第1指標値P1が第1閾値をクリアし、かつ、第2指標値P2が第2閾値をクリアした場合に、その胚9を当該閾値のグレードに分類すればよい。
【0082】
あるいは、分類部46は、第1指標値P1と第1閾値とに基づいて、第1指標値P1に基づく胚9の仮グレードを決定してもよい。また、分類部46は、第2指標値P2と第2閾値とに基づいて、第2指標値P2に基づく胚9の仮グレードを決定してもよい。そして、分類部46は、上記の2つの仮グレードに基づいて、最終的な胚9のグレードを決定してもよい。
【0083】
<3-2.第2変形例>
上記の実施形態では、分類部46が、胚9のVeeck分類を行っていた。しかしながら、分類部46は、Veeck分類以外の分類態様で、胚9を分類するものであってもよい。例えば、分類部46は、第1指標値P1および第2指標値P2に基づいて、胚9を「良好胚」と「非良好胚」の2種類のみに分類するものであってもよい。
【0084】
<3-3.他の変形例>
上記の実施形態では、第1指標値P1を算出した後に、第2指標値P2を算出していた。しかしながら、第1指標値P1と第2指標値P2の算出の順序は逆であってもよい。また、第1指標値P1および第2指標値P2は、同じタイミングで並行して算出されてもよい。
【0085】
上記の実施形態では、試料容器90が、複数のウェル(凹部)901を有するウェルプレートであった。そして、各ウェル901に、1つの胚9が保持されていた。しかしながら、胚9を保持する試料容器90は、ウェルプレートには限らない。例えば、試料容器90は、1つの凹部のみを有するディッシュであってもよい。
【0086】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 胚分類装置
9 胚
10 ステージ
20 撮像部
21 光源
22 物体光学系
23 参照光学系
24 検出部
25 光ファイバカプラ
30 コンピュータ
41 画像取得部
42 領域抽出部
43 体積算出部
44 第1指標値算出部
45 第2指標値算出部
46 分類部
70 表示部
90 試料容器
91 透明帯
92 割球
93 フラグメンテーション
CP1 制御プログラム
CP2 データ処理プログラム
D1 断層画像
D2 三次元画像
M 学習済みモデル
P1 第1指標値
P2 第2指標値