(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046846
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】工作機械の保全方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/00 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
B23Q17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152173
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】591286982
【氏名又は名称】株式会社MSTコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】溝口 春機
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029EE01
(57)【要約】
【課題】工作機械の稼働頻度や使用条件にかかわらず、効率的に工作機械を保全することが可能な工作機械の保全方法を提供する。
【解決手段】工具が着脱可能に取り付けられる主軸2と、主軸2を回転可能に支持する主軸ベアリング7と、主軸2を回転駆動する主軸モータ8とを有する工作機械の保全方法において、主軸2の振れ精度を定期的に測定し、その測定により得られる主軸2の振れ精度が予め設定されたしきい値を超えたときに、工作機械の全体の点検を行なう。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具が着脱可能に取り付けられる主軸(2)と、前記主軸(2)を回転可能に支持する主軸ベアリング(7)と、前記主軸(2)を回転駆動する主軸モータ(8)とを有する工作機械の保全方法において、
前記主軸(2)の振れ精度を定期的に測定し、その測定により得られる前記主軸(2)の振れ精度が予め設定されたしきい値を超えたときに、前記工作機械の全体の点検を行なうことを特徴とする工作機械の保全方法。
【請求項2】
前記工作機械は、前記工具で加工するワークが取り付けられるテーブル(3)と、前記主軸(2)と前記主軸ベアリング(7)と前記主軸モータ(8)とで構成される主軸ヘッド(9)とを左右方向に相対移動させるX軸送り装置(10)と、前記テーブル(3)と前記主軸ヘッド(9)とを前後方向に相対移動させるY軸送り装置(20)と、前記テーブル(3)と前記主軸ヘッド(9)とを上下方向に相対移動させるZ軸送り装置(30)とを有するマシニングセンタ(1)であり、
前記X軸送り装置(10)は、X軸リニヤガイド(11)とX軸ボールねじ(12)とX軸モータ(13)とで構成され、
前記Y軸送り装置(20)は、Y軸リニヤガイド(21)とY軸ボールねじ(22)とY軸モータ(23)とで構成され、
前記Z軸送り装置(30)は、Z軸リニヤガイド(31)とZ軸ボールねじ(32)とZ軸モータ(33)とで構成され、
前記測定により得られる前記主軸(2)の振れ精度が予め設定されたしきい値を超えたときに、前記主軸ベアリング(7)と前記主軸モータ(8)と前記X軸リニヤガイド(11)と前記X軸ボールねじ(12)と前記X軸モータ(13)と前記Y軸リニヤガイド(21)と前記Y軸ボールねじ(22)と前記Y軸モータ(23)と前記Z軸リニヤガイド(31)と前記Z軸ボールねじ(32)と前記Z軸モータ(33)の点検を行なう請求項1に記載の工作機械の保全方法。
【請求項3】
前記マシニングセンタ(1)は、前記主軸ヘッド(9)に冷却油を循環させる冷却ポンプ(41)を更に有し、
前記測定により得られる前記主軸(2)の振れ精度が予め設定されたしきい値を超えたときに、前記冷却ポンプ(41)の点検を併せて行なう請求項2に記載の工作機械の保全方法。
【請求項4】
前記マシニングセンタ(1)は、複数種類の前記工具を収容する工具マガジン(42)と前記主軸(2)との間で前記工具を交換する自動工具交換装置(40)を更に有し、
前記測定により得られる前記主軸(2)の振れ精度が予め設定されたしきい値を超えたときに、前記自動工具交換装置(40)の点検を併せて行なう請求項2または3に記載の工作機械の保全方法。
【請求項5】
前記マシニングセンタ(1)は、前記ワークの加工空間を囲むスプラッシュガード(4)と、前記スプラッシュガード(4)の前面開口(5)を開閉するフロントドア(6)とを有し、
前記測定により得られる前記主軸(2)の振れ精度が予め設定されたしきい値を超えたときに、前記フロントドア(6)の点検を併せて行なう請求項2または3に記載の工作機械の保全方法。
【請求項6】
円周振れの大きさが1μm以下の円筒状の外周面をもつ棒状の検査治具(50)、または、円周振れの大きさが3μm以下の円筒状の外周面をもち、かつ、その振れの位相と実測値とが外周にマーキングされた棒状の検査治具(50)を使用し、前記検査治具(50)を前記主軸(2)に取り付け、その主軸(2)を回転させたときの前記検査治具(50)の外周面の振れをダイヤルゲージ(54)で測定することで、前記主軸(2)の振れ精度の測定を行なう請求項1から3のいずれかに記載の工作機械の保全方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マシニングセンタ等の工作機械の保全方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを切削加工するとき、マシニングセンタ等の工作機械が使用される。工作機械は、一般に、多くの可動部を有する。
【0003】
例えば、マシニングセンタは、可動部として、工具が着脱可能に取り付けられる主軸と、その主軸を回転可能に支持する主軸ベアリングと、主軸を回転駆動する主軸モータとを有する。主軸と主軸ベアリングと主軸モータは、主軸ヘッドを構成している。
【0004】
さらに、マシニングセンタは、可動部として、ワークが取り付けられるテーブルと主軸ヘッドとを左右方向に相対移動させるX軸送り装置と、テーブルと主軸ヘッドとを前後方向に相対移動させるY軸送り装置と、テーブルと主軸ヘッドとを上下方向に相対移動させるZ軸送り装置とを有する。X軸送り装置は、X軸リニヤガイドとX軸ボールねじとX軸モータとを有し、Y軸送り装置は、Y軸リニヤガイドとY軸ボールねじとY軸モータとを有し、Z軸送り装置は、Z軸リニヤガイドとZ軸ボールねじとZ軸モータとを有する。
【0005】
上記以外にも、マシニングセンタは、可動部として、主軸ヘッドに冷却油を循環させるための冷却ポンプや、複数種類の工具を収容する工具マガジンと主軸との間で工具の交換を自動で行なう自動工具交換装置(いわゆるATC)や、ワークの加工空間を囲むスプラッシュガードの前面開口を開閉するフロントドアなどを有する。
【0006】
上記のような工作機械の可動部(主軸ベアリング、主軸モータ、X軸リニヤガイド、X軸ボールねじ、X軸モータ、Y軸リニヤガイド、Y軸ボールねじ、Y軸モータ、Z軸リニヤガイド、Z軸ボールねじ、Z軸モータ、冷却ポンプ、自動工具交換装置、フロントドアなど)は、使用を繰り返すうちに、摩耗等により次第に劣化する。
【0007】
ここで、従来、工作機械の可動部のうち、主軸ベアリングについては、定期的に主軸の振れ精度を測定することで、その劣化を点検することが行なわれていた(例えば、特許文献1)。
【0008】
一方、主軸ベアリング以外の可動部については、定期的な点検は特に行われておらず、何らかの故障が発生したときに、修理あるいは部品交換を行なうのが一般的であった。
【0009】
しかしながら、可動部に何らかの故障が発生したときに修理あるいは部品交換を行なうのでは、加工中のワークが不良品となったり、その可動部の修理あるいは部品交換が完了するまでの間、工作機械が停止することで、納品の遅れが生じたりするなど、大きな損失を生じるおそれがある。
【0010】
そこで、本願の発明者は、工作機械の可動部が故障するのを未然に防ぐため、工作機械の全体の点検を一定期間ごとに(例えば3年ごとに)行なうという保全方法を検討した。
【0011】
しかしながら、一定期間ごとに工作機械の全体の点検を行なうのでは、工作機械の稼働頻度が高かったり、工作機械の使用条件が過酷であったりする場合に、点検時期が到来するよりも前に、可動部の故障が生じるおそれがある。一方、工作機械の稼働頻度が低かったり、工作機械の使用条件が緩やかであったりする場合に、点検時期が到来しても、工作機械の可動部がそれほど摩耗等の劣化を生じておらず、無用の時間とコストをかけて点検することとなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明が解決しようとする課題は、工作機械の稼働頻度や使用条件にかかわらず、効率的に工作機械を保全することが可能な工作機械の保全方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の発明者は、工作機械が稼働するとき、工作機械の主軸だけでなくそれ以外の可動部も同時に使用されることから、主軸を支持する主軸ベアリングが摩耗等により劣化するとき、主軸ベアリング以外の可動部も同時に劣化する点に着目した。
【0015】
すなわち、工作機械の稼働頻度が高かったり、工作機械の使用条件が過酷であったりする場合は、主軸ベアリングの劣化が比較的早く進行し、このとき主軸ベアリング以外の可動部の劣化も比較的早く進行する。一方、工作機械の稼働頻度が低かったり、工作機械の使用条件が緩やかであったりする場合は、主軸ベアリングの劣化は比較的ゆっくりと進行し、このとき主軸ベアリング以外の可動部の劣化も比較的ゆっくりと進行する。ここで、主軸ベアリングの劣化は、主軸の振れ精度を測定することで、容易に検知することができる。そのため、主軸の振れ精度を定期的に測定し、その測定により得られる主軸の振れ精度が大きくなったタイミングで、工作機械の全体の点検を行なうようにすれば、工作機械の稼働頻度や使用条件にかかわらず、適切なタイミングで工作機械の可動部を点検することができ、効率的に工作機械を保全することが可能となる。
【0016】
この着想に基づき、この発明では、上記の課題を解決するため、以下の構成の工作機械の保全方法を提供する。
[構成1]
工具が着脱可能に取り付けられる主軸と、前記主軸を回転可能に支持する主軸ベアリングと、前記主軸を回転駆動する主軸モータとを有する工作機械の保全方法において、
前記主軸の振れ精度を定期的に測定し、その測定により得られる前記主軸の振れ精度が予め設定されたしきい値を超えたときに、前記工作機械の全体の点検を行なうことを特徴とする工作機械の保全方法。
【0017】
この構成を採用すると、主軸の振れ精度を定期的に測定し、その測定により得られる主軸の振れ精度が予め設定されたしきい値を超えたときに、工作機械の全体の点検を行なうので、工作機械の稼働頻度が高かったり、工作機械の使用条件が過酷であったりする場合は、定期的な測定により得られる主軸の振れ精度が、比較的早い時期にしきい値を超え、その結果、比較的早いタイミングで工作機械の全体の点検を行なうこととなり、可動部に故障が発生するよりも前に、可動部の劣化を発見することが可能となる。一方、工作機械の稼働頻度が低かったり、工作機械の使用条件が緩やかであったりする場合は、定期的な測定により得られる主軸の振れ精度が、比較的遅い時期にしきい値を超え、その結果、工作機械の可動部がある程度の劣化を生じた遅いタイミングで、工作機械の全体の点検を行なうこととなる。このように、工作機械の稼働頻度や使用条件にかかわらず、適切なタイミングで工作機械の可動部を点検することができ、効率的に工作機械を保全することが可能となる。
【0018】
[構成2]
前記工作機械は、前記工具で加工するワークが取り付けられるテーブルと、前記主軸と前記主軸ベアリングと前記主軸モータとで構成される主軸ヘッドとを左右方向に相対移動させるX軸送り装置と、前記テーブルと前記主軸ヘッドとを前後方向に相対移動させるY軸送り装置と、前記テーブルと前記主軸ヘッドとを上下方向に相対移動させるZ軸送り装置とを有するマシニングセンタであり、
前記X軸送り装置は、X軸リニヤガイドとX軸ボールねじとX軸モータとで構成され、
前記Y軸送り装置は、Y軸リニヤガイドとY軸ボールねじとY軸モータとで構成され、
前記Z軸送り装置は、Z軸リニヤガイドとZ軸ボールねじとZ軸モータとで構成され、
前記測定により得られる前記主軸の振れ精度が予め設定されたしきい値を超えたときに、前記主軸ベアリングと前記主軸モータと前記X軸リニヤガイドと前記X軸ボールねじと前記X軸モータと前記Y軸リニヤガイドと前記Y軸ボールねじと前記Y軸モータと前記Z軸リニヤガイドと前記Z軸ボールねじと前記Z軸モータの点検を行なう構成1に記載の工作機械の保全方法。
【0019】
この構成を採用すると、マシニングセンタの稼働頻度や使用条件にかかわらず、主軸ベアリングと主軸モータの点検と、X軸送り装置を構成するX軸リニヤガイドとX軸ボールねじとX軸モータの点検と、Y軸送り装置を構成するY軸リニヤガイドとY軸ボールねじとY軸モータの点検と、Z軸送り装置を構成するZ軸リニヤガイドとZ軸ボールねじとZ軸モータの点検とを適切なタイミングで行なうことが可能となる。そのため、X軸送り装置の劣化による左右方向のワークの加工精度の低下や、Y軸送り装置の劣化による前後方向のワークの加工精度の低下や、Z軸送り装置の劣化による上下方向のワークの加工精度の低下を効果的に防止することができる。
【0020】
[構成3]
前記マシニングセンタは、前記主軸ヘッドに冷却油を循環させる冷却ポンプを更に有し、
前記測定により得られる前記主軸の振れ精度が予め設定されたしきい値を超えたときに、前記冷却ポンプの点検を併せて行なう構成2に記載の工作機械の保全方法。
【0021】
この構成を採用すると、マシニングセンタの稼働頻度や使用条件にかかわらず、主軸ヘッドに冷却油を循環させる冷却ポンプの点検を適切なタイミングで行なうことが可能となる。
【0022】
[構成4]
前記マシニングセンタは、複数種類の前記工具を収容する工具マガジンと前記主軸との間で前記工具を交換する自動工具交換装置を更に有し、
前記測定により得られる前記主軸の振れ精度が予め設定されたしきい値を超えたときに、前記自動工具交換装置の点検を併せて行なう構成2または3に記載の工作機械の保全方法。
【0023】
この構成を採用すると、マシニングセンタの稼働頻度や使用条件にかかわらず、自動工具交換装置の点検を適切なタイミングで行なうことが可能となる。
【0024】
[構成5]
前記マシニングセンタは、前記ワークの加工空間を囲むスプラッシュガードと、前記スプラッシュガードの前面開口を開閉するフロントドアとを有し、
前記測定により得られる前記主軸の振れ精度が予め設定されたしきい値を超えたときに、前記フロントドアの点検を併せて行なう構成2から4のいずれかに記載の工作機械の保全方法。
【0025】
この構成を採用すると、マシニングセンタの稼働頻度や使用条件にかかわらず、スプラッシュガードの前面開口を開閉するフロントドアの点検を適切なタイミングで行なうことが可能となる。
【0026】
[構成6]
円周振れの大きさが1μm以下の円筒状の外周面をもつ棒状の検査治具、または、円周振れの大きさが3μm以下の円筒状の外周面をもち、かつ、その振れの位相と実測値とが外周にマーキングされた棒状の検査治具を使用し、前記検査治具を前記主軸に取り付け、その主軸を回転させたときの前記検査治具の外周面の振れをダイヤルゲージで測定することで、前記主軸の振れ精度の測定を行なう構成1から5のいずれかに記載の工作機械の保全方法。
【0027】
この構成を採用すると、主軸の振れ精度を短時間で正確に測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
この発明の工作機械の保全方法は、主軸の振れ精度を定期的に測定し、その測定により得られる主軸の振れ精度が予め設定されたしきい値を超えたときに、工作機械の全体の点検を行なうので、工作機械の稼働頻度が高かったり、工作機械の使用条件が過酷であったりする場合は、定期的な測定により得られる主軸の振れ精度が、比較的早い時期にしきい値を超え、その結果、比較的早いタイミングで工作機械の全体の点検を行なうこととなり、可動部に故障が発生するよりも前に、可動部の劣化を発見することが可能である。一方、工作機械の稼働頻度が低かったり、工作機械の使用条件が緩やかであったりする場合は、定期的な測定により得られる主軸の振れ精度が、比較的遅い時期にしきい値を超え、その結果、工作機械の可動部がある程度の劣化を生じた遅いタイミングで、工作機械の全体の点検を行なうこととなる。このように、工作機械の稼働頻度や使用条件にかかわらず、適切なタイミングで工作機械の可動部を点検することができ、効率的に工作機械を保全することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】この発明の実施形態にかかる工作機械の保全方法を実施するマシニングセンタを示す正面図
【
図2】
図1のマシニングセンタのスプラッシュガードの内部の構成を概略的に示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1に、この発明の実施形態にかかる工作機械の保全方法を実施する工作機械を示す。この工作機械は、主軸2に取り付けられる図示しない工具で、テーブル3に固定された図示しないワークの加工を行なうマシニングセンタ1である。
【0031】
マシニングセンタ1は、ワークの加工空間を囲むスプラッシュガード4と、スプラッシュガード4の前面開口5を開閉するフロントドア6とを有する。スプラッシュガード4は、ワークの加工により生じる切り屑や、ワークの加工点に向けて噴射される切削液が外部に飛散するのを防ぐための囲いである。フロントドア6は、スプラッシュガード4の前面開口5を閉鎖する閉鎖位置と、スプラッシュガード4の前面開口5を開放する開放位置との間を左右にスライド可能に設けられている。
【0032】
図2に示すように、マシニングセンタ1は、図示しない工具が着脱可能に取り付けられる主軸2と、その主軸2を回転可能に支持する主軸ベアリング7と、主軸2を回転駆動する主軸モータ8とを有する。主軸2と主軸ベアリング7と主軸モータ8は、主軸ヘッド9を構成している。
【0033】
さらに、マシニングセンタ1は、図示しないワークが取り付けられるテーブル3と、テーブル3と主軸ヘッド9とを左右方向に相対移動させるX軸送り装置10と、テーブル3と主軸ヘッド9とを前後方向に相対移動させるY軸送り装置20と、テーブル3と主軸ヘッド9とを上下方向に相対移動させるZ軸送り装置30とを有する。
【0034】
X軸送り装置10は、X軸リニヤガイド11とX軸ボールねじ12とX軸モータ13とで構成されている。X軸リニヤガイド11は、左右方向に延びるX軸レール14と、X軸レール14で左右方向にスライド可能に支持されたX軸スライダ15とを有する。X軸ボールねじ12は、左右方向に延びるX軸ねじ軸16と、X軸ねじ軸16にねじ係合するX軸ボールナット17とを有する。
【0035】
X軸スライダ15およびX軸ボールナット17は、テーブル3と一体に左右方向に移動するようにテーブル3に連結されている。X軸モータ13は、X軸ボールねじ12を回転駆動するようにX軸ボールねじ12に連結されている。X軸モータ13は、モータの回転角度を検出するセンサを内蔵し、そのセンサで検出されるモータの回転角度と目標角度との差に基づいてフィードバック制御を行なうサーボモータである。
【0036】
Y軸送り装置20は、Y軸リニヤガイド21とY軸ボールねじ22とY軸モータ23(
図3参照)とで構成されている。Y軸リニヤガイド21は、前後方向に延びるY軸レール24と、Y軸レール24で前後方向にスライド可能に支持されたY軸スライダ25とを有する。Y軸ボールねじ22は、前後方向に延びるY軸ねじ軸26と、Y軸ねじ軸26にねじ係合するY軸ボールナット27とを有する。
【0037】
図3に示すように、Y軸スライダ25およびY軸ボールナット27は、テーブル3と一体に前後方向に移動するようにテーブル3に連結されている。Y軸モータ23は、Y軸ボールねじ22を回転駆動するようにY軸ボールねじ22に連結されている。Y軸モータ23は、X軸モータ13と同様のサーボモータである。
【0038】
Z軸送り装置30は、Z軸リニヤガイド31とZ軸ボールねじ32とZ軸モータ33とで構成されている。Z軸リニヤガイド31は、上下方向に延びるZ軸レール34と、Z軸レール34で上下方向にスライド可能に支持されたZ軸スライダ35とを有する。Z軸ボールねじ32は、上下方向に延びるZ軸ねじ軸36と、Z軸ねじ軸36にねじ係合するZ軸ボールナット37とを有する。
【0039】
Z軸スライダ35およびZ軸ボールナット37は、主軸ヘッド9と一体に上下方向に移動するように主軸ヘッド9に連結されている。Z軸モータ33は、Z軸ボールねじ32を回転駆動するようにZ軸ボールねじ32に連結されている。Z軸モータ33は、X軸モータ13と同様のサーボモータである。
【0040】
図2に示すように、マシニングセンタ1は、自動工具交換装置40と、主軸ヘッド9に冷却油を循環させる冷却ポンプ41とを有する。自動工具交換装置40は、複数種類の工具を収容する工具マガジン42と主軸2との間で工具を交換する装置(いわゆるATC)である。
【0041】
上記構成のマシニングセンタ1の保全方法の一例を説明する。
【0042】
一定の期間ごと(例えば、1ヶ月ごと)に、主軸2の振れ精度を測定する。主軸2の振れ精度は、次のようにして測定することができる。まず、
図4に示すように、主軸2の振れ精度を測定するための専用の検査治具50を準備する。この検査治具50は、主軸2の工具取り付け用のテーパ穴51に挿入されるシャンク部52と、円周振れの大きさが1μm以下の円筒状の外周面をもつ棒状部53とを有する。ここで、検査治具50として、円周振れの大きさが1μm以下の特に高精度の外周面をもつ棒状部53を有するものを使用すると、主軸2の振れ精度の測定作業を特に短時間で正確に行なうことが可能であるが、検査治具50として、円周振れの大きさが1μm以上3μm以下の円筒状の外周面をもつ棒状部53を有し、その棒状部53の振れの位相(つまり、棒状部53の円周振れを実測したときに振れが最大値をとる角度位置)とその振れの実測値(つまり、あらかじめ棒状部53の円周振れを実測して得られる1μm以上3μm以下の既知の値)とが外周にマーキングされたものを使用してもよい。このようにすると、検査治具50の準備コストを抑えながら、主軸2の振れ精度の測定作業を短時間で正確に行なうことが可能である。
【0043】
次に、検査治具50を主軸2に取り付け、検査治具50の棒状部53の外周面に、テーブル3に設置したダイヤルゲージ54の測定子を接触させる。その状態で主軸2を低速で回転させ、検査治具50の外周面の振れをダイヤルゲージ54で測定することで、主軸2の振れ精度の測定を行なう。この方法で主軸2の振れ精度を測定すると、10分程度の作業時間で振れ精度の測定を行なうことが可能であり、1ヶ月に1回の頻度で主軸2の振れ精度を測定したとしても、1年間で2時間程度の作業時間であり、作業負担が小さい。
【0044】
そして、上記の測定により得られる主軸2の振れ精度が、予め設定されたしきい値(例えば、10~20μmの範囲で設定される振れ)を超えているか否かを判定し、主軸2の振れ精度がしきい値を超えているときは、マシニングセンタ1の全体の点検を行なう。
【0045】
具体的には、主軸2の振れ精度がしきい値(例えば15μm)を超えているときは、マシニングセンタ1の全体点検日を設定し、その全体点検日に、
図2に示す主軸ベアリング7と主軸モータ8の点検と、X軸送り装置10を構成するX軸リニヤガイド11とX軸ボールねじ12とX軸モータ13の点検と、
図3に示すY軸送り装置20を構成するY軸リニヤガイド21とY軸ボールねじ22とY軸モータ23の点検と、Z軸送り装置30を構成するZ軸リニヤガイド31とZ軸ボールねじ32とZ軸モータ33の点検と、
図2に示す冷却ポンプ41と自動工具交換装置40の点検と、
図1に示すフロントドア6の点検とを行なう。そして、その点検により摩耗等の劣化が進行していると判定された部品の修理あるいは交換を行なう。
【0046】
ところで、マシニングセンタ1が稼働するとき、マシニングセンタ1の主軸2だけでなくそれ以外の可動部(主軸ベアリング7、主軸モータ8、X軸リニヤガイド11、X軸ボールねじ12、X軸モータ13、Y軸リニヤガイド21、Y軸ボールねじ22、Y軸モータ23、Z軸リニヤガイド31、Z軸ボールねじ32、Z軸モータ33、冷却ポンプ41、自動工具交換装置40、フロントドア6等)も同時に使用されることから、主軸2を支持する主軸ベアリング7が摩耗等により劣化するとき、主軸ベアリング7以外の可動部も同時に劣化する。
【0047】
そのため、この実施形態の方法でマシニングセンタ1の保全を行なうと、マシニングセンタ1の稼働頻度が高かったり、マシニングセンタ1の使用条件が過酷であったりする場合は、定期的な測定により得られる主軸2の振れ精度が、比較的早い時期にしきい値を超え、その結果、比較的早いタイミングでマシニングセンタ1の全体の点検を行なうこととなり、可動部に故障が発生するよりも前に、可動部の劣化を発見することが可能である。一方、マシニングセンタ1の稼働頻度が低かったり、マシニングセンタ1の使用条件が緩やかであったりする場合は、定期的な測定により得られる主軸2の振れ精度が、比較的遅い時期にしきい値を超え、その結果、マシニングセンタ1の可動部がある程度の劣化を生じた遅いタイミングで、マシニングセンタ1の全体の点検を行なうこととなる。このように、マシニングセンタ1の稼働頻度や使用条件にかかわらず、適切なタイミングでマシニングセンタ1の可動部を点検することができ、効率的にマシニングセンタ1を保全することが可能である。
【0048】
上記実施形態では、保全を行なう工作機械として、3軸マシニングセンタ1を例に挙げて説明したが、この発明は、5軸マシニングセンタなど、他の形式の複合加工機にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 マシニングセンタ
2 主軸
3 テーブル
4 スプラッシュガード
6 フロントドア
7 主軸ベアリング
8 主軸モータ
9 主軸ヘッド
10 X軸送り装置
11 X軸リニヤガイド
12 X軸ボールねじ
13 X軸モータ
20 Y軸送り装置
21 Y軸リニヤガイド
22 Y軸ボールねじ
23 Y軸モータ
30 Z軸送り装置
31 Z軸リニヤガイド
32 Z軸ボールねじ
33 Z軸モータ
40 自動工具交換装置
41 冷却ポンプ
42 工具マガジン
50 検査治具
54 ダイヤルゲージ