(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046847
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】高電圧電気部品
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
H01F37/00 M
H01F37/00 H
H01F37/00 S
H01F37/00 C
H01F37/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152174
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板倉 康仁
(72)【発明者】
【氏名】服部 文哉
(72)【発明者】
【氏名】河野 真吾
(57)【要約】
【課題】放電のリスクを抑え、かつ冷却を十分に行うことが可能な高電圧電気部品を提供すること。
【解決手段】高電圧電気部品は、保持部材と、高周波電力伝送線路と、絶縁性の樹脂と、1対の位置決め部材と、を備える。前記保持部材は、冷媒流路として機能する中空部を有する円筒形状の絶縁体で構成される。前記高周波電力伝送線路は、本体部および端子部を有し、前記本体部が前記保持部材の外周の長軸方向に沿って設けられる。前記絶縁性の樹脂は、前記高周波電力伝送線路の前記本体部を封止するように前記保持部材の外周側に配置される。前記1対の位置決め部材は、前記保持部材の中空部に接続される冷媒流路を有し、前記高周波電力伝送線路の下方位置が接地面に対して所定の位置になるように前記保持部材の前記長軸方向の両端において前記保持部材を位置決めする絶縁体で構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒流路として機能する中空部を有する円筒形状の絶縁体で構成された保持部材と、
本体部および端子部を有し、前記本体部が前記保持部材の外周の長軸方向に沿って設けられた高周波電力伝送線路と、
前記高周波電力伝送線路の前記本体部を封止するように前記保持部材の外周側に配置された絶縁性の樹脂と、
前記保持部材の中空部に接続される冷媒流路を有し、前記高周波電力伝送線路の下方位置が接地面に対して所定の位置になるように前記保持部材の前記長軸方向の両端において前記保持部材を位置決めする絶縁体で構成された1対の位置決め部材と、
を備える高電圧電気部品。
【請求項2】
前記高周波電力伝送線路は、螺旋状に形成されている、
請求項1に記載の高電圧電気部品。
【請求項3】
前記保持部材の前記長軸方向に沿って延伸しており、前記高周波電力伝送線路を前記螺旋状に形成するためのガイドをさらに備えた、
請求項2に記載の高電圧電気部品。
【請求項4】
前記保持部材は、前記長軸方向に沿って、前記ガイドを位置決めする凹部を有する、
請求項3に記載の高電圧電気部品。
【請求項5】
前記高周波電力伝送線路は、メッキによって形成されている、
請求項2に記載の高電圧電気部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧電気部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェハや液晶基板を製造する工程で用いられるプラズマ処理装置では、例えば、パルス状の電圧(パルス電圧)を発生させるパルス電源装置のように、高電圧を発生させる電源装置が設けられている(例えば、特許文献1参照)。パルス電源装置は、例えば、直流電力をインバータ回路で交流電力に変換した後、変圧器により異なる電圧値の交流電力に変換し、整流平滑回路で整流・平滑し、さらにスイッチング回路等によりパルス電圧を発生させるよう構成されている。
【0003】
近年、高周波電力が使用される分野(例えば、プラズマ処理分野)では、高電圧化(例えば、絶対値が10kV以上)、および大電力化の要望が高まっている。このため、パルス電源装置から出力する電圧値(絶対値)が高くなってきている。上記のようなパルス電源装置は、例えば、絶対値が10kV程度の高電圧の電位を有するパルス電圧を出力する。その都合上、整流平滑回路やスイッチング回路等では絶対値が10kV程度の高電圧が印加される部位(以下、高電位部位)が生じる。このため、パルス電源装置の内部の「高周波電力伝送線路」には高電圧が印加されることがある。
【0004】
「高周波電力伝送線路」のインピーダンスが同じであれば、電圧値の上昇によって発熱量が増加する。このため、高電圧になるほど、「高周波電力伝送線路」での発熱対策が必要になる。加えて、高周波電力伝送線路に供給される高周波電力の電圧成分の周波数が高くなるほど放電し易くなるため、放電リスクが高まる。
【0005】
これらの問題への対策として、発熱対策の観点では、特許文献2のように、円筒部材に巻き付けられたコイルを冷却のために、円筒部材内部に冷却水を流通させてコイルを冷却する技術が提案されているが、円筒部材に接していないコイルの部分に関する冷却は十分でない可能性がある。また、特許文献2では、高電圧回路を目的としていないため、放電リスクが低減できる技術ではない。
【0006】
また、これらの問題への対策として、特許文献3のように、放熱性の高い絶縁電線を用いたコイルの技術が提案されているが、放熱効率を向上させるために実施されることを目的としておらず、コイルの冷却は十分でない。加えて、また、特許文献3では、放電リスクを低減することを目的としていないため、放電リスクが低減できる技術ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-125729号公報
【特許文献2】特開2020-119645号公報
【特許文献3】特開平8-167529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、放電のリスクを抑え、かつ冷却を十分に行うことが可能な高電圧電気部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る高電圧電気部品は、保持部材と、高周波電力伝送線路と、絶縁性の樹脂と、1対の位置決め部材と、を備える。前記保持部材は、冷媒流路として機能する中空部を有する円筒形状の絶縁体で構成される。前記高周波電力伝送線路は、本体部および端子部を有し、前記本体部が前記保持部材の外周の長軸方向に沿って設けられる。前記絶縁性の樹脂は、前記高周波電力伝送線路の前記本体部を封止するように前記保持部材の外周側に配置される。前記1対の位置決め部材は、前記保持部材の中空部に接続される冷媒流路を有し、前記高周波電力伝送線路の下方位置が接地面に対して所定の位置になるように前記保持部材の前記長軸方向の両端において前記保持部材を位置決めする絶縁体で構成される。
【0010】
本実施形態に係る高電圧電気部品にあっては、前記高周波電力伝送線路は、螺旋状に形成されている。また、本実施形態に係る高電圧電気部品にあっては、前記保持部材の長軸方向に沿って延伸しており、前記高周波電力伝送線路を前記螺旋状に形成するためのガイドをさらに備える。また、本実施形態に係る高電圧電気部品にあっては、前記保持部材は、前記長軸方向に沿って、前記ガイドを位置決めする凹部を有する。また、本実施形態に係る高電圧電気部品にあっては、前記高周波電力伝送線路は、メッキによって形成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高電圧が印可される高周波電力伝送線路を熱伝導性の高い絶縁性の樹脂にて封止して排熱可能な保持部材への伝熱経路を増やすことで、高周波電力伝送線路の冷却効率を向上させ、かつ高周波電力伝送線路に対して放電のリスクを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、高電圧電気部品の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、高電圧電気部品の外観の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、保持部材にらせん状に巻きつけられた高周波電力伝送線路の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す高周波電力伝送線路が絶縁性の樹脂により封止された一例を示す図である。
【
図5】
図5は、1対の位置決め部材と4本のロッドと4つのナットとの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、ガイドの3面図と、保持部材の2面図と、絶縁性の樹脂に封止された高周波電力伝送線路の断面との一例を示す図である。
【
図7】
図7は、絶縁性の樹脂による高周波電力伝送線路の封止の有無による表面温度の違いの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る高電圧電気部品の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態により本願発明が限定されるものではない。以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は、同様であるものとして、重複する説明は適宜省略する。
【0014】
図1は、高電圧電気部品1の構成の一例を示す図である。また、
図2は、高電圧電気部品1の外観の一例を示す斜視図である。
図1に示すように、高電圧電気部品1は、保持部材3と、高周波電力伝送線路5と、絶縁性の樹脂7と、1対の位置決め部材8と、複数のロッド83と、複数のナット85と、ガイド10とを備える。
【0015】
高電圧電気部品1は、例えば、パルス電源装置等の一部として用いられる。パルス電源装置は、例えば、直流電力をインバータ回路で交流電力に変換した後、変圧器により異なる電圧値の交流電力に変換し、整流平滑回路で整流・平滑し、さらにスイッチング回路等によりパルス状の電圧(パルス電圧)を発生させる。パルス電源装置は、プラズマ処理分野などの高周波電力が使用される分野において、例えば、絶対値が10kV程度の高電圧の電位を有するパルス電圧を出力する。このため、高周波電力伝送線路5には高電圧が印加される。なお、パルス状の電圧波形の周波数は数百kHz程度であるが、用途によって様々な周波数が用いられる。例えば、数十kHz程度の場合もあるし、1MHz程度の場合もある。また、高電圧電気部品1は、例えば、プラズマを生成するための高周波電源の一部として用いることもできる。
【0016】
高周波電力は、例えば、その電圧成分の周波数が無線周波数帯域である電力を意味している。また、無線周波数帯域は、例えば、数百kHz程度からいわゆるマイクロ波帯の下限の周波数である300MHz程度までの交流の周波数帯域を意味している。なお、上述の無線周波数帯域の上限および下限の閾値は、一例であって、これに限定されない。また、上記交流とは、電圧成分の波形が正弦波状であってもよいし、矩形波であってもよい。なお、高周波電力の電圧成分の周波数は、例えば、400kHz、2MHz、13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz等の工業用の周波数である。
【0017】
以下、説明を具体的にするために、高電圧電気部品1は、リアクトル(Reactor)として機能するものとする。リアクトルは、例えば、インダクタ(inductor)を利用した受動素子である。インダクタは、流れる電流によって形成される磁場にエネルギーを蓄えることができる受動素子であって、例えばコイルにより形成される。高電圧電気部品1がリアクトル(Reactor)としての機能を有する場合、高周波電力伝送線路5は、インダクタとして機能する。
【0018】
なお、高電圧電気部品1は、リアクトルとして機能する場合に限定されない。例えば、高電圧電気部品1は、抵抗器として機能するように構成されてもよい。このとき、高周波電力伝送線路5は、抵抗体として機能する。
【0019】
保持部材3は、冷媒流路として機能する中空部31を有する円筒形状の絶縁体で構成される。冷媒としては、例えば、工業用水などの水が利用される。なお、冷媒は、水に限定されず他の冷却用の流体であってもよい。高周波電力伝送線路5によりインダクタが形成される場合、保持部材3は、ボビンにより実現される。このとき、ボビンは、高絶縁性および高放熱性を有する。また、ボビンには例えば水冷のための配管穴が中空部31として設けられる。保持部材3は、長軸方向に沿って、ガイド10を位置決めする凹部を有する。なお、ガイド10が不要の場合、保持部材3における凹部は、不要となる。保持部材3は、例えば、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミ等のセラミックスにより形成される。すなわち、ボビンとして通常使用される樹脂だと熱伝導性は期待できないが、本実施形態ではセラミックスを用いることで、高絶縁性および高熱伝導性を実現できる。
【0020】
高周波電力伝送線路5は、本体部51および端子部53を有する。高周波電力伝送線路5の本体部51は、保持部材3の外周の長軸方向に沿って設けられる。これにより、高周波電力伝送線路5は、保持部材3の中空部31を流れる冷媒によって、効率よく冷却される。
図1に示す高周波電力伝送線路5は、螺旋状に形成されている。これにより、高周波電力伝送線路5は、インダクタとして機能し、高電圧電気部品1は、リアクトルとして機能する。高周波電力伝送線路5は、例えば、リッツ線、エナメル線、またはメッキなどにより実現される。
【0021】
なお、高周波電力伝送線路5がメッキで実現される場合、当該メッキは、例えば、保持部材3の外周に対する表面処理により形成されてもよい。このとき、ガイド10は、不要となる。高周波電力伝送線路5がメッキにより形成される場合、保持部材3に対する高周波電力伝送線路5の寸法精度を向上させることができる。これにより、高電圧電気部品1における電気特性の安定化を向上させることができる。加えて、ガイド10が不要となるため、高電圧電気部品1の製造コストおよび製造工数を低減することができる。
【0022】
図3は、保持部材3にらせん状に巻きつけられた高周波電力伝送線路5の一例を示す図である。
図3では、高周波電力伝送線路5の一例としてエナメル線55とリッツ線57とが示されている。リッツ線57には、端子部53が取り付けられている。もちろん、エナメル線55にも端子部53が取り付けられるが、
図3では省略している。
図3に示すように、エナメル線55とリッツ線57とは、保持部材3の外周の長軸方向に沿って、保持部材3の外周に対して螺旋状に巻き付けられている。高周波電力伝送線路5の端子部53には、高電圧電気部品1の外部の配線などが電気的に接続される。
【0023】
絶縁性の樹脂7は、高周波電力伝送線路5の本体部51を封止するように保持部材3の外周側に配置される。絶縁性の樹脂7の絶縁性は、空気の絶縁性(空気の絶縁耐力:3.0kV/mm)より高い絶縁性を有する。また、絶縁性の樹脂7は、空気の熱伝導性(空気の熱伝導率:0.0241W/m・K)より高い熱伝導性を有する。また、絶縁性の樹脂7は、高電圧の印加により発熱する高周波電力伝送線路5の温度より高い耐熱性を有する。また、高周波電力伝送線路5の封止の際に加温により絶縁性の樹脂7が硬化される場合、当該絶縁性の樹脂7は、熱硬化性を有する。
【0024】
絶縁性の樹脂7としては、例えば、シリコーンゴムが用いられる、シリコーンゴムは、例えば20~30kV/mm程度の絶縁耐力を有する。また、シリコーンゴムは、例えば0.1~5.1W/m・K程度の熱伝導率を有する。また、絶縁性の樹脂7として、例えば、熱伝導率が4W/m・K程度以上のエポキシ系の樹脂を用いることができる。本実施形態における絶縁性の樹脂7としては、高電圧電気部品1の用途に合わせて、様々なシリコーン等の絶縁材から絶縁耐力や熱伝導率を考慮して、適切な材料を選択することができる。絶縁性の樹脂7は、モールド材に相当する。
【0025】
図4は、
図3に示す高周波電力伝送線路5が絶縁性の樹脂7により封止された一例を示す図である。
図4に示すように、高周波電力伝送線路5における本体部51は、端子部53を除いて、絶縁性の樹脂7により封止される。すなわち、
図4に示すように、高周波電力伝送線路5は、端子部53のみが封止されずに露出している。
【0026】
絶縁性の樹脂(モールド材)7は、高周波電力伝送線路5を封止している。このため、高周波電力伝送線路5と絶縁性の樹脂7とが密着する。その結果、絶縁性の樹脂(モールド材)7が放熱部材として機能して、高周波電力伝送線路5の温度上昇を抑制する。具体的には、高周波電力伝送線路5は、絶縁性の樹脂7と保持部材3とを介して、中空部31を流れる冷媒により冷却される。加えて、絶縁性の樹脂(モールド材)7は、高周波電力伝送線路5を封止し、かつ絶縁性の樹脂(モールド材)7の絶縁耐力は空気よりも大きいため、高周波電力伝送線路5と接地面9との間における放電リスクは低減される。
【0027】
また、プラズマ処理分野などの高周波電力が使用される分野では、高電圧および高周波電力が用いられるため、高周波電力伝送線路5における発熱量が増加し、且つ、放電が生じ易くなる。このため、上記のような絶縁性の樹脂(モールド材)7によって、発熱量が抑制され、かつ放電リスクが低下するという効果は、当該分野で用いられる高電圧電気部品1としては、非常に有用となる。
【0028】
また、高周波電力伝送線路5がリアクトル(インダクタ)として機能する場合、高周波電力伝送線路5は、インダクタンス成分を有する。このため、高周波電力伝送線路5において、高周波によるインピーダンス上昇が生じ、結果として電圧上昇が生じうる。これらにことから、高電圧電気部品1がリアクトルとして機能する場合、絶縁性の樹脂(モールド材)7による発熱量の抑制と、放電リスクの低下という効果は、より有用(顕著)となる。
【0029】
1対の位置決め部材8は、保持部材3の中空部31に接続される冷媒流路81を有する。1対の位置決め部材8は、高周波電力伝送線路5の下方位置が接地面9に対して所定の位置になるように、保持部材3の長軸方向の両端において保持部材3を位置決めする。すなわち、1対の位置決め部材8は、自身が有する冷媒流路81と、保持部材3の中空部31とを密着して位置決め可能に、保持部材3を支持する。1対の位置決め部材8としては、例えば、ポリエーテルイミド(polyetherimide)などの絶縁性を有する樹脂が使用される。なお、1対の位置決め部材8の材質は、ポリエーテルイミドに限定されず、他の絶縁性の部材が用いられてもよい。
【0030】
図5は、1対の位置決め部材8と4本のロッド83と4つのナット85との一例を示す図である。
図1、
図2、および
図5に示すように、1対の位置決め部材8は、複数のロッド83と保持部材3とを介して、複数のロッド83の長軸の両端に設けられたネジ山88に対する複数のナット85の締め付けにより接続される。すなわち、
図1、
図2に示すように、仮組された複数のロッド83に対する複数のナット85の締め付けにより、1対の位置決め部材8が互いに引き寄せられる。これにより、高電圧電気部品1が組み上がる。
【0031】
また、
図1および
図2に示すように、保持部材3の両端部は、1対の位置決め部材8に勘合され、保持部材3は、接地面9から所定の距離だけ離れて1対の位置決め部材8により支持される。
図1および
図5に示すように、1対の位置決め部材8は、保持部材3が勘合される凹部87を有する。
【0032】
また、
図1および
図5に示すように、1対の位置決め部材8において、保持部材3が勘合される凹部87には、Oリング89が設けられる。すなわち、1対の位置決め部材8の凹部87において、冷媒流路81の外周の外側にOリング89が配置される。放電に伴うオゾン発生による腐食のリスクを低減するため、Oリング89の材質としては、例えば、オゾン耐性の強いフッ素系の弾性体が使用される。Oリング89は、1対の位置決め部材8と保持部材3との接続時において変形する。これにより、1対の位置決め部材8と保持部材3との密着性が向上し、1対の位置決め部材8と保持部材3との位置ずれ、および1対の位置決め部材8と保持部材3との間からの冷媒漏れを防止する。
【0033】
高周波電力伝送線路5と接地面9との距離は、放電に影響する。このため、放電が生じないように高周波電力伝送線路5と接地面9との距離が設計されることで、1対の位置決め部材8における凹部87の位置が形成される。また、1対の位置決め部材8は、保持部材(アルミナ等のセラミックス)3とは別の部品になっているため、接地面9から保持部材3まで高さ方向の距離(すなわち、接地面9と保持部材3との間の距離)は、高電圧電気部品1の用途、高周波電力伝送線路5に印加される電圧、および/または高周波電力の周波数などに応じて、適宜調整可能である。また、上記のように、高周波電力伝送線路5は、絶縁性の樹脂(モールド材)7で封止されているため、高周波電力伝送線路5が接地面9に直接接触することはない。このため、実施形態に係る高電圧電気部品1によれば、放電のリスクを低減させることができる。
【0034】
ガイド10は、保持部材3に設けられた凹部に勘合される。ガイド10は、保持部材3の長軸方向に沿って延伸しており、高周波電力伝送線路5を螺旋状に形成する。保持部材3に設けられた凹部とガイド10とが勘合することで、ガイド10の位置決め精度が向上する。これにより、本高電圧電気部品1によれば、より安定した高周波電力伝送線路5の形状での保持部材3への配置が可能となる。
【0035】
ガイド10は、絶縁性を有する材質により構成される。ガイド10を構成する材質は、例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン(Poly Ether Ether Ketone)樹脂である。なお、ガイド10の材質はPEEK樹脂に限定されず、絶縁性および熱伝導性を有する他の材質により構成されてもよい。
【0036】
図6は、ガイド10の3面図(上面
図101、側面
図103、および正面
図105)と、保持部材3の2面図(側面
図301および正面
図302)と、絶縁性の樹脂7に封止された高周波電力伝送線路5に関する断面59との一例を示す図である。
図6に示すように、保持部材3の側面には、ガイド10を勘合させる凹部33が設けられる。これにより、ガイド10の位置決めの精度が向上し、より安定した高周波電力伝送線路5の形状を、保持部材3に形成することができる。
【0037】
保持部材3の凹部33における凹みの深さは、例えば、ガイド10の正面
図105におけるガイド10の厚み107に対応する。これにより、ガイド10が保持部材3の凹部33に勘合された場合においても、高周波電力伝送線路5と保持部材3との密着性は、ガイド10を用いない場合と同様に維持される。すなわち、高周波電力伝送線路5は、ガイド10を用いない場合と同様に、保持部材3に密着する。
【0038】
また、
図6に示すように、ガイド10は、高周波電力伝送線路5をガイド可能であって、保持部材3への高周波電力伝送線路5の巻き付けにおいて、高周波電力伝送線路5を支持する。また、
図6に示すように、ガイド10により配列された高周波電力伝送線路5の本体部51の間には、加圧による絶縁性の樹脂7の封止により、当該絶縁性の樹脂7が流入する。これらにより、本高電圧電気部品1によれば、ガイド10の有無に関わらず高周波電力伝送線路5に対する冷却効率を保ったまま、より安定した高周波電力伝送線路5の形状での保持部材3への配置が可能となる。
【0039】
図7は、絶縁性の樹脂7による高周波電力伝送線路5の封止の有無による表面温度の違いの一例を示す図である。
図7に示すように、高周波電力伝送線路5を封止している絶縁性の樹脂7の表面温度は、特に、保持部材3の長軸方向の端部おいて、封止されていない高周波電力伝送線路5の表面温度より低くなっている。このため、本高電圧電気部品1によれば、絶縁性の樹脂7と保持部材3と保持部材3における中空部31の冷媒とにより、高周波電力伝送線路5が効果的に冷却されている。
【0040】
以上のことから本実施形態に係る高電圧電気部品1は、冷媒流路として機能する中空部31を有する円筒形状の絶縁体で構成された保持部材3と、本体部51および端子部53を有し、本体部51が保持部材3の外周の長軸方向に沿って設けられた高周波電力伝送線路5と、高周波電力伝送線路5の本体部51を封止するように保持部材3の外周側に配置された絶縁性の樹脂7と、保持部材3の中空部31に接続される冷媒流路81を有し、高周波電力伝送線路5の下方位置が接地面9に対して所定の位置になるように保持部材3の長軸方向の両端において保持部材3を位置決めする絶縁体で構成された1対の位置決め部材8と、を備える。
【0041】
高電圧電気部品1を上記のように構成すると、絶縁性の樹脂(モールド材)7によって高周波電力伝送線路5を封止するので、高周波電力伝送線路5と絶縁性の樹脂7とが密着する。その結果、絶縁性の樹脂(モールド材)7が放熱部材および保持部材3までの伝熱部材として機能して、高周波電力伝送線路5の温度上昇を抑制する。加えて、本高電圧電気部品1によれば、絶縁性の樹脂(モールド材)7によって高周波電力伝送線路5を封止しているので、絶縁性の樹脂(モールド材)7の絶縁耐力が空気よりも大きいことから、放電リスクを低下させることができる。
【0042】
また、本実施形態に係る高電圧電気部品1によれば、高周波電力伝送線路5と接地面9との距離も放電リスクの低減に影響するため、放電が生じないように高周波電力伝送線路5と接地面9との距離を設計することができる。本実施形態では、1対の位置決め部材8が保持部材3と別の部品になっているので、接地面9からの高さ方向の調整が容易である。加えて、上記高電圧電気部品1によれば、高周波電力伝送線路5は、絶縁性の樹脂7で封止されているので、高周波電力伝送線路5が接地面9に直接接触することはない。
【0043】
これらのことから、高周波電力が使用される分野において高電圧化および大電力化が要求されて従来よりも発熱量が増加し、且つ、放電が生じ易くなったとしても、本実施形態に係る高電圧電気部品1によれば、上記のような絶縁性の樹脂(モールド材)7によって、発熱量を抑制し(すなわち冷却効率を向上させ)、かつ放電リスクを低減することができる。
【0044】
実施形態に係る高電圧電気部品1において、高周波電力伝送線路5は、螺旋状に形成されている。
【0045】
上記のように高周波電力伝送線路5が螺旋状に形成されると、高周波電力伝送線路5をリアクトル(インダクタ)として機能させることができる。この場合、高電圧電気部品1はインダクタンス成分を有するので、高周波によるインピーダンス上昇が生じ、結果として電圧上昇が生じうる。このため、実施形態に係る高電圧電気部品1によれば、絶縁性の樹脂(モールド材)7による発熱量の抑制(冷却効率の向上)と、放電リスクの低減という効果は、更に有用となる。
【0046】
実施形態に係る高電圧電気部品1は、保持部材3の長軸方向に沿って延伸しており、高周波電力伝送線路5を螺旋状に形成するためのガイド10をさらに備える。
【0047】
例えば、撚り線(リッツ線)57が高周波電力伝送線路5として用いられる場合、寸法精度良く螺旋状に形成することは困難である。しかしながら、上記のようなガイド10を実施形態に係る高電圧電気部品1が備えることによって、撚り線(リッツ線)57などの高周波電力伝送線路5を螺旋状に保持部材3に配置させる寸法精度を向上させることができる。これにより、実施形態に係る高電圧電気部品1によれば、電気特性の安定化を向上させることができる。
【0048】
実施形態に係る高電圧電気部品1によれば、保持部材3は、長軸方向に沿って、ガイド10を位置決めする凹部33を有する。
【0049】
これにより、実施形態に係る高電圧電気部品1によれば、保持部材3における上記ガイド10の位置決めの精度を向上させることができる。このため、実施形態に係る高電圧電気部品1によれば、より安定した高周波電力伝送線路5の形状を形成することができる。
【0050】
実施形態に係る高電圧電気部品1によれば、高周波電力伝送線路5は、メッキによって形成されている。
【0051】
これにより、実施形態に係る高電圧電気部品1によれば、高周波電力伝送線路5の寸法精度を向上させることができる。これにより、実施形態に係る高電圧電気部品1によれば、高周波電力伝送線路5のガイド10を用いることなく、電気特性の安定化を向上させることができる。
【0052】
以上のことから、本実施形態に係る高電圧電気部品1によれば、高電圧が印可される高周波電力伝送線路5を熱伝導性の高い絶縁性の樹脂7にて封止して排熱可能な保持部材3への伝熱経路を増やすことで、高周波電力伝送線路5の冷却効率を向上させ、かつ、当該絶縁性の樹脂7による高周波電力伝送線路5の封止と、高周波電力伝送線路5の下方位置が接地面9に対して所定の位置になるように保持部材3の長軸方向の両端において保持部材3を位置決めすることで、高周波電力伝送線路5に関する放電のリスクを抑えることができる。
【0053】
なお、上述の実施形態は、適宜組み合わせ可能であり、また例示であって発明の範囲を限定するものではない。また、上述の実施形態および変形例は、発明の範囲、要旨に含まれ、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1 高電圧電気部品、3 保持部材、5 高周波電力伝送線路、7 絶縁性の樹脂、8 1対の位置決め部材、9 接地面、10 ガイド、31 中空部、33 保持部材の凹部、51 本体部、53 端子部、55 エナメル線、57 リッツ線、59 絶縁性の樹脂に封止された高周波電力伝送線路に関する断面、81 冷媒流路、83 ロッド、85 ナット、87 保持部材が勘合される凹部、88 ネジ山、89 Oリング、101 ガイドの上面図、103 ガイドの側面図、105 ガイドの正面図、107 ガイドの厚み、301 保持部材の側面図、302 保持部材の正面図