(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046855
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有するDNAアプタマー
(51)【国際特許分類】
C12N 15/115 20100101AFI20240329BHJP
A61K 47/66 20170101ALI20240329BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240329BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240329BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240329BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240329BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
A61K47/66
A61K31/7088
A61P35/00
A61P21/00
A61P21/04
A61K49/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152183
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】根岸 洋一
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大和
(72)【発明者】
【氏名】野水 基義
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC26
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C085HH20
4C085KA26
4C085KB92
4C085LL17
4C085LL20
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086NA13
4C086ZA94
4C086ZB26
(57)【要約】
【課題】インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有するDNAアプタマーを提供する。
【解決手段】以下の(1-1)または(2-1)の塩基配列を含み、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する、アプタマー:
(1-1)配列番号1~33からなる群から選択される塩基配列;および
(2-1)配列番号1~33からなる群から選択される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1-1)または(2-1)の塩基配列を含み、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する、アプタマー:
(1-1)配列番号1~33からなる群から選択される塩基配列;および
(2-1)配列番号1~33からなる群から選択される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列。
【請求項2】
以下の(1-2)または(2-2)の塩基配列を含み、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する、請求項1に記載のアプタマー:
(1-2)配列番号1~4、11、18、20、25および27からなる群から選択される塩基配列;および
(2-2)配列番号1~4、11、18、20、25および27からなる群から選択される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列。
【請求項3】
以下の(1-3)または(2-3)の塩基配列を含み、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する、請求項1に記載のアプタマー:
(1-3)配列番号1~4からなる群から選択される塩基配列;および
(2-3)配列番号1~4からなる群から選択される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列。
【請求項4】
分子プローブとして使用される、請求項1に記載のアプタマー。
【請求項5】
請求項1に記載のアプタマーと機能性物質とを含む、複合体。
【請求項6】
前記機能性物質は、標識用物質、薬物送達媒体、薬物および親和性物質からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項5に記載の複合体。
【請求項7】
請求項1に記載のアプタマーまたは請求項5に記載の複合体を含む、医薬。
【請求項8】
請求項1に記載のアプタマーまたは請求項5に記載の複合体を含む、インテグリンα7β1受容体を検出するための試薬。
【請求項9】
請求項1に記載のアプタマーおよび薬物を含む、または請求項5に記載の複合体を含み、前記複合体は機能性物質として薬物を含む、インテグリンα7β1受容体を発現する細胞に前記薬物を送達するための薬物送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有するDNAアプタマーに関する。
【背景技術】
【0002】
特定のタンパク質特異的に結合する一本鎖核酸(RNA、DNA;アプタマー)の創製研究は広く行われている。インテグリン受容体に対するアプタマーとして、インテグリンαvβ3(DNAアプタマー)、インテグリンα6β4(DNAアプタマー)、インテグリンα5β1(RNAアプタマー)などの報告がある(例えば、特許文献1および2)。しかし、インテグリンα7β1受容体選択的に結合するDNAアプタマーの報告はない。
【0003】
インテグリンα7β1受容体は、筋細胞選択的に高発現することが知られている。例えば、非特許文献1は、筋細胞選択的な一本鎖核酸を同定したものとしてRNAアプタマーを報告しているが、標的分子および受容体は不明である。筋細胞への薬物送達を可能とする分子プローブとしては、抗体、ペプチドなどを用いた例が報告されているが、DNAアプタマーを用いた例はほとんどない。また、インテグリンα7β1受容体に対して結合する一本鎖核酸配列は同定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/118458号
【特許文献2】国際公開第2014/021630号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Philippou S, Mastroyiannopoulos NP, Makrides N, Lederer CW, Kleanthous M, Phylactou LA. Selection and Identification of Skeletal-Muscle-Targeted RNA Aptamers. Mol Ther Nucleic Acids. 2018 Mar 2;10:199-214.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有するDNAアプタマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、配列番号1~33で表される塩基配列を含むDNAアプタマーによって、上記課題を解決することを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明の一形態は、以下の(1-1)または(2-1)の塩基配列を含み、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する、アプタマーである:
(1-1)配列番号1~33からなる群から選択される塩基配列;および
(2-1)配列番号1~33からなる群から選択される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有するDNAアプタマーが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例におけるDNAアプタマー配列のアライメントを示す。
【
図2】
図2は、DNAアプタマー71Ap-1~4の二次構造予測の結果を示す。
【
図3】
図3は、フローサイトメトリーによるインテグリンα7β1リコンビナントタンパク質への結合活性評価の結果を示す。
【
図4】
図4は、フローサイトメトリーによる筋芽細胞C2C12表面への結合活性評価の結果を示す。
【
図5】
図5は、分化C2C12細胞に対する結合能評価の結果を示す。
【
図6】
図6は、分化C2C12細胞に対する結合能評価の結果を示す。
【
図7】
図7は、筋切片(心筋および前脛骨筋)に対する結合能評価の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0012】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0013】
<アプタマー>
本発明の一態様は、以下の(1-1)または(2-1)の塩基配列を含み、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する、アプタマーである:
(1-1)配列番号1~33からなる群から選択される塩基配列;および
(2-1)配列番号1~33からなる群から選択される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列。
【0014】
配列番号1~33の塩基配列を以下に示す。
【0015】
【0016】
【0017】
アプタマーとは標的物質に特異的に結合する分子を意味する。本発明に係るアプタマーは、核酸アプタマーであり、一本鎖のDNAから構成される。
【0018】
インテグリンα7β1受容体は、筋細胞選択的に高発現していることが知られている。筋細胞を標的とした薬物送達法の開発には、抗体が汎用されている。しかし、筋細胞表面受容体に強固に結合する抗体を用いた薬物送達法の開発では、抗体の分子量が大きいことに加え、抗体表面の分子修飾が非常に難しく、煩雑な操作を必要とする。よって、より安価かつ簡便に利用可能な筋細胞標的分子プローブの開発が強く望まれている。
【0019】
本発明者らは、インテグリンα7β1受容体に結合する一本鎖DNAとして、配列番号1~33で表される塩基配列を含むアプタマーを見出した。本発明に係るアプタマーは、核酸医薬、低分子化合物などの選択的な筋細胞デリバリー(送達)を可能とする分子プローブとして応用および実用化が可能である。これまで困難であった筋細胞選択的な薬物送達法の開発、各種遺伝性筋疾患に対する新規化学療法剤の創製、ならびに遺伝子治療戦略の確立に大きく貢献することができる。本発明に係るアプタマーは、安価かつ安定的に合成が可能であると同時に、その5’末端および3’末端への化学修飾も容易である。よって、これまでの筋細胞選択的薬物送達に汎用されてきた抗体、ペプチドなどと比べて優位であるといえる。
【0020】
本明細書において、「1または複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列」における「1または複数個」の範囲は、例えば1~20個、1~15個、1~10個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個である。
【0021】
好ましい実施形態では、本発明に係るアプタマーは、以下の(1-2)または(2-2)の塩基配列を含み、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する:
(1-2)配列番号1~4、11、18、20、25および27からなる群から選択される塩基配列;および
(2-2)配列番号1~4、11、18、20、25および27からなる群から選択される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列。
【0022】
さらに好ましい実施形態では、本発明に係るアプタマーは、以下の(1-3)または(2-3)の塩基配列を含み、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する:
(1-3)配列番号1~4からなる群から選択される塩基配列;および
(2-3)配列番号1~4からなる群から選択される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列。
【0023】
特に好ましい実施形態では、本発明に係るアプタマーは、上記(1-1)の塩基配列、上記(1-2)の塩基配列、または上記(1-3)の塩基配列からなる。
【0024】
本発明に係るアプタマーの塩基長は、例えば75~85merであり、好ましくは78~82merであり、より好ましくは79~81merであり、特に好ましくは80merである。
【0025】
本発明に係るアプタマーは、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する。そのため、本発明に係るアプタマーは、SELEX(Systematic Evolution of Ligands by Exponential enrichment)法と呼ばれるスクリーニング法により取得することができる。SELEX法としては、例えばT. Wang et al., A detailed protein-SELEX protocol allowing visual assessments of individual steps for high success rate, Human gene therapy, 30 (1):1-16, 2019に記載のProtein-SELEX法を使用することができる。
【0026】
具体的には、以下の方法により本発明に係るアプタマーを取得することができる:
(1)ランダム配列を含む一本鎖DNA(ssDNA)ライブラリーを、標的とするインテグリンα7β1リコンビナントタンパク質を表面に担持させた磁気ビーズと結合させる;
(2)洗浄を行い、標的に結合していない、またはアフィニティの弱いssDNAを除去する;
(3)ssDNAを単離後、PCRにて複製し二本鎖DNAを得た後、水素結合を乖離させることで再度ssDNAへと変換する;
(4)(1)~(3)の工程を、条件を種々変更しながら繰り返すことで、標的とするインテグリンα7β1リコンビナントタンパク質に対して高親和性に結合する分子を濃縮する;ならびに
(5)DNAシーケンスを行うことで、インテグリンα7β1受容体に対して高親和性に結合するアプタマー配列を決定する。
【0027】
上記の方法により得られたアプタマーは、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する。
【0028】
また、本発明に係るアプタマーは、従来公知の方法により化学合成することができる。
【0029】
アプタマーのインテグリンα7β1受容体に対する結合能を評価する場合には、例えばフローサイトメトリー、蛍光顕微鏡による観察などで評価することができる(実施例参照)。
【0030】
本発明に係るアプタマーは、その塩基配列に応じて、特有の高次構造を取ることができる。例えば、アプタマーの二次構造予測については、NUPACK(http://www.nupack.org/)にて行うことができる。本発明に係るアプタマーのフォールディングについては、従来公知の方法により行うことができる。例えば、PBS(-)、2.5mM MgCl2および4.5g/Lグルコースを含むバッファー(pH7.4)中でアプタマーを100℃にて10分間インキュベートした後、氷上にて10分間急冷することによって、アプタマーのフォールディングを行うことができる。
【0031】
<複合体>
本発明の一実施形態は、本発明に係るアプタマーと機能性物質とを含む、複合体である。本発明に係る複合体は、本発明に係るアプタマーと同様に、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する。
【0032】
本発明に係るアプタマーと機能性物質との間の結合は、複合体がインテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する限り、共有結合であってもよく、非共有結合であってもよい。本発明に係るアプタマーと機能性物質とは、直接結合していてもよく、リンカーを介して結合していてもよい。リンカーとしては、従来公知のものを使用することができる。
【0033】
本発明に係る複合体は、本発明に係るアプタマーと少なくとも1つの機能性物質とが結合している。本発明に係るアプタマーに結合する機能性物質が2以上である場合、機能性物質は、同一の物質であっても異なる物質であってもよい。
【0034】
本明細書において、機能性物質とは、本発明に係るアプタマーと共に使用され、何らかの機能を有する物質である、または本発明に係るアプタマーが有する特性を変化させうる物質である。
【0035】
機能性物質としては、例えばタンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂質、糖質、単糖、ポリヌクレオチド、ヌクレオチド;標識用物質、薬物送達媒体、薬物、親和性物質、酵素、毒素などが挙げられる。
【0036】
一実施形態では、機能性物質は、標識用物質、薬物送達媒体、薬物、親和性物質、酵素および毒素からなる群から選択される少なくとも1つであり、好ましくは標識用物質、薬物送達媒体、薬物および親和性物質からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0037】
標識用物質としては、例えば蛍光物質、発光物質、放射性同位体などが挙げられる。薬物送達媒体としては、例えばリポソーム、ミクロスフェア、ペプチド、ポリエチレングリコール、コレステロールなどが挙げられる。薬物としては、例えばドキソルビシン、シスプラチンなどの抗悪性腫瘍薬、エキソンスキップ薬に代表される核酸医薬(アンチセンスオリゴヌクレオチド)、抗体医薬などが挙げられる。親和性物質としては、例えば標的相補配列に対して親和性を有するポリヌクレオチド、抗体などが挙げられる。
【0038】
<用途>
本発明に係るアプタマーは、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有するため、分子プローブ、好ましくは筋細胞へのターゲティング分子(分子プローブ)として使用することができる。
【0039】
本発明に係るアプタマーおよび複合体は、例えば医薬(検査薬および診断薬を含む)、試薬、薬物送達システムなどにおいて使用することができる。
【0040】
本発明の一実施形態は、本発明に係るアプタマーおよび/または複合体を含む、医薬である。
【0041】
本発明に係るアプタマーおよび複合体は、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有するため、筋疾患または癌を治療および/または予防するための医薬として有用である。
【0042】
筋疾患としては、ジストロフィン異常症(デュシェンヌ型/ベッカー型筋ジストロフィー)、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、福山型先天性筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、癌増悪に伴う筋萎縮、加齢による筋脆弱などが挙げられる。
【0043】
癌としては、肝臓癌、膵臓癌、乳癌、食道癌などが挙げられる。
【0044】
本発明に係る医薬は、薬学的に許容される担体を含むことができる。薬学的に許容される担体としては、特に限定されないが、乳糖、ショ糖、マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等の賦形剤;シリカ、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、デキストリン、ゼラチン等の結合剤;アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トコフェロール等の酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤;ホウ酸塩、重炭酸塩、Tris-HCl、クエン酸塩、リン酸塩、他の有機酸等の緩衝剤;注射用水、生理食塩水、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、マクロゴール、オリーブ油、トウモロコシ油等の溶媒;プルロニック(登録商標)、ポリエチレングリコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、トリトン(登録商標)、レシチン、コレステロール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤または湿潤剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、ブドウ糖、ソルビトール、マンニトール等の等張化剤;安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン等の保存剤;錯化剤;アミノ酸;抗菌剤;着色剤;フレーバー剤および希釈剤;乳化剤;ナトリウム等の塩形成対イオン;搬送ビヒクル;希釈剤などが挙げられる(Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第18版, A.R. Gennaro監修, Mack Publishing Company, 1990)。
【0045】
本発明に係る医薬の投与経路は、特に制限されず、経口投与であっても非経口投与であってもよい。
【0046】
本発明に係る医薬の投与量は、限定されないが、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、投与する患者の体重、年齢、病状等の特性、あるいは医師の判断等に応じて適宜選択される。例えば患者の体重1kgあたり約0.01μg~約100mg、好ましくは約0.1μg~約1mg程度の範囲である。投与量は1日1~数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
【0047】
本発明の一実施形態は、本発明に係るアプタマーおよび/または複合体を含む、インテグリンα7β1受容体を検出するための試薬である。
【0048】
本発明に係るアプタマーおよび複合体は、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有するため、インテグリンα7β1受容体の検出に使用することができる。検出方法としては、酵素免疫測定法(EIA)(例えば直接競合ELISA、間接競合ELISA、サンドイッチELISAなど)、放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、ウエスタンブロット法、免疫組織化学的染色法、セルソーティング法などが挙げられる。
【0049】
本発明の一実施形態は、本発明に係るアプタマーおよび薬物を含む、または本発明に係る複合体を含み、前記複合体は機能性物質として薬物を含む、インテグリンα7β1受容体を発現する細胞に前記薬物を送達するための薬物送達システムである。
【0050】
インテグリンα7β1受容体を発現する細胞としては、筋細胞、癌細胞(例えば、肝臓癌、膵臓癌、乳癌、食道癌)などが挙げられる。
【0051】
本発明に係る薬物送達システムは、本発明に係るアプタマーおよび薬物を含む場合、本発明に係るアプタマーと薬物とが一体化していない形態である。本発明に係るアプタマーと薬物とが相互作用により一体化した形態は、本発明に係る複合体の形態である。複合体の例としては、本発明に係るアプタマーと薬物を封入したリポソームとの複合体、本発明に係るアプタマーと薬物とが直接またはリンカーを介して結合した複合体などが挙げられる。
【0052】
<実施形態>
以下に、本発明の実施形態を例示する。
[1]以下の(1-1)または(2-1)の塩基配列を含み、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する、アプタマー:
(1-1)配列番号1~33からなる群から選択される塩基配列;および
(2-1)配列番号1~33からなる群から選択される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列。
[2]以下の(1-2)または(2-2)の塩基配列を含み、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する、[1]に記載のアプタマー:
(1-2)配列番号1~4、11、18、20、25および27からなる群から選択される塩基配列;および
(2-2)配列番号1~4、11、18、20、25および27からなる群から選択される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列。
[3]以下の(1-3)または(2-3)の塩基配列を含み、インテグリンα7β1受容体に対する結合能を有する、[1]または[2]に記載のアプタマー:
(1-3)配列番号1~4からなる群から選択される塩基配列;および
(2-3)配列番号1~4からなる群から選択される塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列。
[4]分子プローブとして使用される、[1]~[4]のいずれか1つに記載のアプタマー。
[5][1]~[4]のいずれか1つに記載のアプタマーと機能性物質とを含む、複合体。
[6]前記機能性物質は、標識用物質、薬物送達媒体、薬物および親和性物質からなる群から選択される少なくとも1つである、[5]に記載の複合体。
[7][1]~[4]のいずれか1つに記載のアプタマーまたは[5]もしくは[6]に記載の複合体を含む、医薬。
[8][1]~[4]のいずれか1つに記載のアプタマーまたは[5]もしくは[6]に記載の複合体を含む、インテグリンα7β1受容体を検出するための試薬。
[9][1]~[4]のいずれか1つに記載のアプタマーおよび薬物を含む、または[5]もしくは[6]に記載の複合体を含み、前記複合体は機能性物質として薬物を含む、インテグリンα7β1受容体を発現する細胞に前記薬物を送達するための薬物送達システム。
【実施例0053】
以下に具体例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0054】
<アプタマー取得に用いたプライマーとランダムライブラリー配列>
実施例で使用したプライマーおよびランダムライブラリー配列を表1に示す。全てのプライマーおよびランダムssDNAライブラリーは、IDT社から購入した。
【0055】
【0056】
<SELEX法によるインテグリンα7β1受容体に結合するDNAアプタマーの取得>
インテグリンα7β1受容体に結合するDNAアプタマーの取得は、T. Wang et al., A detailed protein-SELEX protocol allowing visual assessments of individual steps for high success rate, Human gene therapy, 30 (1):1-16, 2019を参考に行った。
【0057】
(バッファー組成)
結合バッファー:pH7.4、PBS(-)(ナカライテスク株式会社、catalog#05150-45)、2.5mM MgCl2、0.02% Tween 20(東京化成工業、catalog#T0543)、およびSalmon sperm ssDNA(Invitrogen社、catalog#15632011)(Salmon sperm ssDNAはSELEXサイクルごと、および実験ごとに容量を変更した);
洗浄バッファー:pH7.4、PBS(-)、2.5mM MgCl2、および0.02% Tween 20;
リフォールディングバッファー:pH7.4、PBS(-)、2.5mM MgCl2、および4.5g/Lグルコース。
【0058】
(Protein-SELEX)
磁気ビーズ(Dynabeads His-Tag Isolation & Pulldown、Life technologies社、catalog#DB10103)(Cycle毎に容量を変更)に対してインテグリンタンパク質(Recombinant mouse integrin α7β1 protein、R&D systems社、catalog#7958-A7-050)を結合バッファー中にて10分室温にて結合させ、ビーズ表面にタンパク質を担持および固定化した。結合バッファー中のSalmon sperm ssDNAの濃度は、SELEXのサイクルごとに変更し、125μg/mL(1サイクル目)、16.66μg/mL(2~4サイクル目)および10μg/mL(5~8サイクル目)であった。
【0059】
次に500μLの洗浄バッファーにて5回洗浄した。別のチューブにおいて、Salmon sperm DNAを加えた結合バッファーに3nmolのランダムssDNAライブラリーを加え、95℃で10分間加熱した後、氷上にて10分間インキュベートすることにより、ssDNAをフォールディングさせた。
【0060】
次に、上記で準備したインテグリンタンパク質を結合させた磁気ビーズと混合し、1時間、室温にてインキュベートした。500μLの洗浄バッファーにて複数回洗浄(サイクル毎に変更)した後、100μLのTEバッファーを加えて、PCRテンプレートとした(ビーズ懸濁液)。PCRには、KOD Dash(登録商標)(東洋紡株式会社、catalog#LDP-101)を用いた。PCRの実行には、Takara Thermal Cycle Dice(タカラバイオ株式会社)を用いた。KOD Dashのプロトコールに従って、ビーズ懸濁液2μLを使ってPCRを行った(1st PCR)。PCRは、フォワードプライマーおよびリバースプライマーを用いて94℃ 2分、(94℃ 30秒、51.6℃ 40秒、68℃ 45秒)、68℃、5分にて実施した。サイクル数は、8回、10回、12回、14回、16回、または18回と変更することで、適切なサイクル数を選択した。
【0061】
次に、決定したサイクル数を用いて、残りの98μLのビーズ懸濁液を用いた2nd PCRを実施した。1st PCRと同条件にてPCRを実施し、PCR反応終了後、全ての反応溶液を回収した。得られたPCR産物を12%尿素ページにて分離し、目的のDNAサイズのバンドを切り出した。続けて3.5kDaのカットオフ値を有する透析膜に入れた後、0.5X TBEバッファー中にて100V、1時間で電気溶出した。得られたPCR産物は、スピードバックにて濃縮した後、エタノール沈澱を行うことによって、1st SELEXサイクル産物とした。
【0062】
以降のSELEX反応は、得られたSELEX産物を各々の濃度に調整し同様の手法で行い合計8サイクル行った。
【0063】
SELEX条件を表2に示す。
【0064】
【0065】
<TAクローニング>
上記のProtein-SELEXを8サイクル行った後、得られたSELEX産物を用いて、TAクローニングを行った。TAクローニングは、TArget Clone(東洋紡株式会社)を用いて、添付プロトコールに従って実施した。コンピテントセルには大腸菌DH5αを用い、得られたコロニー49種類を回収後、LB培地にて再度培養した。得られた大腸菌からTAクローニング後のプラスミドをQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社)を用いて精製し、DNAシーケンスをEurofin genomics社にて受託で行った。得られたシーケンス結果を基に、49種類のDNAアプタマー配列(No.1~6および8~50)を得た(表3)。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
DNAアプタマー配列のアライメントをClustalXソフトウェアを用いて実施した。結果を
図1に示す。
図1に示すように、33種類のDNAアプタマー配列が得られた。
【0070】
DNAアプタマー配列のうち、その相同性の高い配列から順に71Ap-1(配列番号1の塩基配列からなるアプタマー)、71Ap-2(配列番号2の塩基配列からなるアプタマー)、71Ap-3(配列番号3の塩基配列からなるアプタマー)、および71Ap-4(配列番号4の塩基配列からなるアプタマー)とした。
【0071】
<二次構造予測>
71Ap-1~4の二次構造予測は、NUPACK(http://www.nupack.org/)にて37℃条件下で行った。結果を
図2に示す。
【0072】
図2に示すように、71Ap-1~4は、それぞれ異なる二次構造を取り得ることが予測される。
【0073】
<蛍光分子修飾DNAアプタマー71Ap-1~4の合成>
各SELEX産物をテンプレートに、蛍光修飾結合フォワードプライマー1または2およびリバースプライマーを用いて、Protein-SELEXと同条件にてPCRを行った。尿素ページ、電気溶出、濃縮、およびエタノール沈澱を行うことによって、蛍光修飾SELEX産物を得た。得られた蛍光修飾SELEX産物をリフォールディングバッファーに適切な濃度で溶解し、100℃にて10分間インキュベートした後、氷上にて10分間急冷することによってリフォールディングさせた。
【0074】
<フローサイトメトリーによるインテグリンα7β1リコンビナントタンパク質への結合活性評価>
上記Protein-SELEXと同様の手法により、磁気ビーズに対してインテグリンα7β1タンパク質を結合させた後、結合バッファー(Salmon sperm ssDNA濃度:0.2μL/mL)に対して、リフォールディングしたAlexa488修飾DNAアプタマー71Ap-1~4を最終濃度200nMとなるように添加し、37℃にて30分間インキュベートした。その後、洗浄バッファーにて3回洗浄し、FACS Celesta(BD社)にて結合能を測定した。得られたデータは、FlowJoソフトウェア(BD社)にて解析した。結果を
図3に示す。コントロールとして、Alexa488修飾のランダムssDNAライブラリー(陰性コントロール)を使用した。
【0075】
図3に示すように、71Ap-1~4は、インテグリンα7β1タンパク質へ結合することが分かる。
【0076】
<フローサイトメトリーによる筋芽細胞C2C12表面への結合活性評価>
C2C12細胞を90%コンフルエントとなるように培養し、PBS(-)にて洗浄後、アキュターゼを用いて細胞をプレートから剥離した。得られた細胞(1×10
6cells/mL)を、グルコース(4.5g/L)およびBSA(1mg/mL)含有の結合バッファー(Salmon sperm ssDNA濃度:0.2mg/mL)に懸濁し、FAM修飾DNAアプタマー71Ap-1を2500nM、1250nM、625nM、312.5nM、156.25nM、78.125nMまたは0nM添加した後、37℃にて30分間インキュベートした。細胞を3回洗浄バッファーにて洗浄したのち、FACS Celesta(BD社)にて結合能を測定した。得られたデータは、FlowJoソフトウェア(BD社)にて解析した。結果を
図4に示す。
図4中、FAM-libraryは、FAM修飾DNAアプタマー71Ap-1の代わりにFAM修飾ランダムssDNAライブラリーを使用した結果を示す。
【0077】
図4に示すように、71Ap-1は、C2C12細胞表面に結合し、その結合は濃度依存的であることが分かる。
【0078】
<分化C2C12細胞に対する結合能評価>
(C2C12細胞の筋管への分化誘導)
C2C12細胞をDMEM+10%FBS中にて90%コンフルエントとなるように培養した。PBS(-)にて1度洗浄後、分化誘導培地(DMEM+2%ウマ血清)へと置換した。2日毎に培地交換を行い、10日経過後、活性評価に用いた。
【0079】
(結合能評価)
分化誘導を行ったC2C12細胞をPBS(-)にて1度洗浄後、10mg/mLのBSA/PBS(-)にてブロッキングを行った。その後、1000倍希釈のDAPI溶液を加えて、10分室温にてインキュベートすることで核染色を行った後、2回洗浄バッファーにて洗浄した。続けて、リフォールディングしたFAM修飾DNAアプタマー71Ap-1~4を最終濃度5μMにて添加し、室温にて1時間インキュベートした。2回洗浄バッファーにて洗浄したのち、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-X800(株式会社キーエンス製)を用いて顕微鏡観察を行った。結果を
図5に示す(スケールバー:50μm)。
図5中、コントロールは、アプタマー溶液を添加していないもの(陰性コントロール)を使用した結果を示す。すなわち、細胞そのものであり、DAPI以外の処理においてFAM修飾DNAアプタマー71Ap-1~4を添加せず、それ以外はすべて同様の処理を行ったものであった。また、FAM-libraryは、FAM修飾ランダムssDNAライブラリーを使用した結果を示す。
【0080】
図5は、蛍光顕微鏡による観察画像であり、
図6は、相対FAM染色エリア(倍率)を示すグラフである。
図5および
図6に示すように、71Ap-1~4は、コントロールおよびFAM-libraryと比べて、分化C2C12細胞表面に強く結合することが分かる。
【0081】
<筋切片(心筋および前脛骨筋)に対する71Ap-1~4の結合能評価>
以下のマウスを用いた動物実験に関しては、東京薬科大学実験動物施設管理運営委員会
の承認(承認番号:P20-55)を得て実施した。
【0082】
オスの7週齢C57BL/6マウス(東京実験動物株式会社から購入)から心筋および前脛骨筋それぞれの凍結組織をスライスした後、10分間冷風にて固定した。10mg/mL BSA溶液にて1時間室温にてインキュベートすることによってブロッキングを行い、PBS(-)にて2回洗浄した。続けて、1000倍希釈のDAPI溶液を加え、室温にて10分間インキュベートすることにより核染色を行った後、PBS(-)にて2回洗浄した。その後、フォールディングしたFAM修飾DNAアプタマー71Ap-1~4を最終濃度5μMにて添加し、1時間室温にてインキュベートした。その後、Vectashield antifade mounting medium (Vectorlab製)にて包埋処理を行い、オールインワン蛍光顕微鏡BZ-X800(株式会社キーエンス製)を用いて蛍光顕微鏡にて観察を行った。結果を
図7に示す。
図7中、FAM-libraryは、FAM修飾ランダムssDNAライブラリーを使用した結果を示す。
【0083】
図7に示すように、71Ap-1~4は、FAM-libraryと比べて、心筋および前脛骨筋の筋細胞表面に強く結合することが分かる。また、71Ap-1~4は、筋管に沿って適切に結合することが分かる。