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特開2024-46857複数の台木を有する接ぎ木苗およびその作成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046857
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】複数の台木を有する接ぎ木苗およびその作成方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 2/30 20180101AFI20240329BHJP
【FI】
A01G2/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152186
(22)【出願日】2022-09-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・農業生産技術管理学会令和3年度大会、令和3年10月2日開催。 ・掲載年月日、令和3年9月28日、http://nodaiweb.university.jp/jsatm/nenkai.html。 ・園芸学会令和4年度春季大会、令和4年3月20日開催。 ・園芸学会発行、園芸学研究第21巻別冊1、第76頁、令和4年3月17日発行。
(71)【出願人】
【識別番号】512224729
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100196391
【弁理士】
【氏名又は名称】萩森 学
(72)【発明者】
【氏名】山崎 基嘉
(57)【要約】
【課題】本願発明が解決しようとする課題は、既存の接ぎ木苗よりもさらに草勢が強く増収効果の大きい接ぎ木苗及び該接ぎ木苗の簡便な作成方法を提供することである。
【解決手段】1本の穂木に複数の台木を接ぎ木する。接ぎ木の第一の方法は穂木の茎を切断し断面にV字状の溝を切り複数の台木の切断面を前記穂木の切断面に密着させて接合する方法である。第二の方法は穂木の茎切断面と穂木の茎の側面に台木を接合する方法である。第三の方法は穂木の茎切断面に第一の台木を接合し該台木の茎の側面に第一の台木とは種類の異なる第二の台木を接合する方法である。第四の方法は地上部と地下部を保持した穂木の茎の側面に複数の台木を接合する方法である。第四の方法では穂木は定植直前に根を含む下部を切除する。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穂木の茎切断面に接合された複数の台木を有することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗。
【請求項2】
穂木の茎切断面に接合された台木と穂木の茎の側面に接合された台木を有することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗。
【請求項3】
穂木の茎切断面に接合された台木と該台木の茎の側面に接合された別の台木を有することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗。
【請求項4】
地上部と地下部を保持した穂木と該穂木の茎の側面に接合された複数の台木よりなることを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗
【請求項5】
上記の複数の台木が同一の種である
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の複数の台木を有する接ぎ木苗。
【請求項6】
上記の複数の台木が互いに異なる種である
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の複数の台木を有する接ぎ木苗。
【請求項7】
穂木がナスである
ことを特徴とする請求項5に記載の複数の台木を有する接ぎ木苗。
【請求項8】
穂木がナスである
ことを特徴とする請求項6に記載の複数の台木を有する接ぎ木苗。
【請求項9】
穂木の茎切断面に複数の台木を接合する
ことを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法。
【請求項10】
穂木の茎切断面と、穂木の茎の側面に、台木を接合することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法
【請求項11】
穂木の茎切断面に台木を接合し、該台木の茎の側面に別の台木を接合することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法。
【請求項12】
地上部と地下部を保持した穂木の茎の側面に複数の台木を接合する
ことを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法。
【請求項13】
上記の複数の台木が同一の種である
ことを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法。
【請求項14】
上記の複数の台木が互いに異なる種である
ことを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法。
【請求項15】
穂木がナスである
ことを特徴とする請求項13に記載の複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法。
【請求項16】
穂木がナスである
ことを特徴とする請求項14に記載の複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の台木を有する接ぎ木苗およびその作成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
接ぎ木は栽培対象とする植物の根部を含む下部を切除し、残った生長点を含む上部を、逆に大部分の地上部を切除した別の植物に接合する技術である。このようにして作成した苗を接ぎ木苗と称する。また接ぎ木苗において生長点を含む上部を穂木と称し、地上部を切除され穂木を接合された該別の植物を台木と称する。
【0003】
接ぎ木はナス科のトマト、ナス、ピーマンなどや、ウリ科のスイカ、メロン、キュウリなどにおいて広く行われている。接ぎ木苗を用いる利点は、高品質の果実を生産するが土壌病害に弱い作物を栽培する時、この作物を穂木とし、土壌病害に強い植物を台木とする接ぎ木苗を栽培すれば、土壌病害の被害を受けることなく高品質の果実を安定生産することができる。ナス科の青枯れ病やウリ科のつる割れ病は代表的な土壌病害であり、トマトやナスの栽培品種に青枯れ病の抵抗性を育種的に付与することや、メロン、スイカ、キュウリにつる割れ病抵抗性を育種的に付与することは非常に困難である。しかし、ナス科の野生種やウリ科のカボチャなどにはこれらの病害に強い抵抗性を持つ系統があり、これらを台木とする接ぎ木苗が広く利用されている(非特許文献1、2)。接ぎ木苗の効果としては、土壌病害抵抗性の他に、低温伸長性の向上や生育旺盛性の向上も挙げることができる。ナス科野菜やウリ科野菜など野菜の経済栽培、すなわち生産農家において収穫物を出荷するために行われる栽培においては、土壌病害を回避し生産を安定させるため、接ぎ木苗が専ら用いられている。
【0004】
接ぎ木は果樹などでも広く利用されている。果樹の接ぎ木の目的は前記のナス科野菜やウリ科野菜における目的とは異なり、枝変わりなどの突然変異で発生した優秀な系統を迅速に増殖するために行われている。突然変異品種は遺伝的に固定していないので種子繁殖すると親の優秀な形質は雑種第1代には受け継がれず、雑種第1代は親とは全く異なる多様な集団となり品種とは言えない。優秀な親をクローン増殖する簡易な方法が接ぎ木である。親株から得られる多数の枝を適切な台木植物に接ぎ木することにより、親株と全く同じ形質を有する接ぎ木株を多数得ることができる(非特許文献3)。しかし、本願発明はこのようなクローン増殖を目的とするものではなく、穂木とする作物に台木の有利な性質を付与することを目的とするものである。
【0005】
接ぎ木の方法は、挿し接ぎ法、割接ぎ法、呼び接ぎ法、断根接ぎ、呼び挿し接ぎ、抱き接ぎなど様々な方法が開発されている(非特許文献4)。また、自動接ぎ木装置なども提案されている(特許文献1、非特許文献5)。
【0006】
ナス科野菜やウリ科野菜など野菜の経済栽培において用いられる接ぎ木苗は全て台木1株に穂木1株を接ぎ木したものであると言ってよい。上記の非特許文献4及び5、特許文献1で記載されている方法も全て台木1株に穂木1株を接ぎ木する方法である。
そうした中、1本の穂木を2種類の台木に接ぎ木する方法が提案されている(特許文献2)。これはスイカを穂木とし、これをカンピョウ台木に挿し接ぎし12~13日育苗した後、南瓜台木と呼び接ぎするというものである。南瓜の耐病性と生育旺盛性を穂木に付与し、南瓜台木を用いることによるスイカ果実品質の低下をカンピョウ台木により防ぐことを目的としたものである。しかしこの接ぎ木方法はスイカ経済栽培への普及には至っていない。この方法では第1回目の接ぎ木操作をした後第2回目の接ぎ木をするまでに12~13日の接ぎ木養生と育苗期間が必要であり、第2回目の接ぎ木操作をした後に定植までにさらに20~25日の接ぎ木養生と育苗期間が必要であるので、接ぎ木苗の作成に手間と時間がかかりすぎるためであると考えられる。
なお、接ぎ木養生とは接ぎ木操作をした後、穂木と台木の接合部分が癒合して活着し、穂木と台木の師管同士と導管同士が結合し、物理的支持や高湿条件が無くても接合部が脱離しなくなり、台木の根が吸収した水が穂木に供給され穂木が萎れなくなるまで高湿適温条件下で接ぎ木苗を保護育苗することを言う。
【0007】
接ぎ木苗は、以前は栽培農家自身が作成していたが、栽培農家の経営規模拡大とともに作物栽培と苗生産の分業が進み、現在では市場出荷を目的とする栽培(以下経済栽培という)に用いられる接ぎ木苗の大半が接ぎ木苗製造企業から購入した苗であると考えられる。
【0008】
ナス、トマト、ピーマン、パプリカ、キュウリなどは、栄養生長と生殖生長が同時並行で進むので収穫期間が比較的長期間にわたる。例えば大阪府内で行われている水ナスの露地栽培では4月中旬に苗を定植し収穫は6月上旬から開始し11月中旬まで約5カ月にわたって継続する(非特許文献6)。経済栽培では青枯れ病や半枯れ病などの土壌病害を回避するため専ら接ぎ木苗が用いられているが、8月以降には草勢が弱り収量が伸びないという問題が有る。「トルバム」など草勢の強い種を台木とする接ぎ木苗も試みられているが増収効果は高いとは言えない。
【0009】
また、接ぎ木苗は自根苗(接ぎ木をしない苗)に比べ、第1花(栽培を開始して最初に咲く花)の開花が遅れるという問題が有る(非特許文献7)。第1花の開花が遅れると出荷開始が遅れ市場価格の高い時期を逃がすことになり生産農家にとって不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2020-036575
【特許文献2】特開昭59-146514
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】各種接ぎ木法とポイント、森下正博、森川信也、農業技術体系、野菜編、第5巻、基189-192。
【非特許文献2】接ぎ木の判断と台木の選択、中住晴彦、農業技術体系、野菜編、第4巻、基221-222。
【非特許文献3】接ぎ木、町田英夫、農業技術体系、果樹編、第8巻、共通技術、3-11。
【非特許文献4】各種接ぎ木法の特徴とポイント、中住晴彦、農業技術体系、野菜編、第4巻、基225-228。
【非特許文献5】接ぎ木ロボットのタイプと活用、小田雅行、農業技術体系、野菜編、第2巻、基307-310。
【非特許文献6】水ナスの栽培方法、https://nasu-den.com/mizunasu-saibai.html#top
【非特許文献7】トマトの第1花房着生節位に及ぼす育苗時の条件の影響、野川徳三・成田久夫、岐阜県中山間農業技術研究所研究報告、1、30-38、2001.
【非特許文献8】ナス・ピーマンの育苗とその生産力に関する研究 (第3報) 育苗鉢の大きさの影響、加藤 徹・楼 恵寧、Environment Control in Biology Environment Control in Biology 25(1)、 19-23、1987.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願発明が解決しようとする課題は、既存の接ぎ木苗よりもさらに草勢が強く増収効果の大きい接ぎ木苗及び該接ぎ木苗の簡便な作成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者は鋭意検討を重ねた結果、複数の台木を穂木に接合することにより作成した接ぎ木苗が、従来の台木1株に穂木1株を接ぎ木した接ぎ木苗に比べ定植後の生長が旺盛で収量も高くなることを見出した。特に、地上部と地下部を保持した穂木と該穂木の茎の側面に接合された複数の台木よりなることを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗は定植前までは穂木の本来の根と台木の根を有しており定植時に穂木の台木との接合部以下を切除して本圃に定植する。こうすることにより、従来の接ぎ木苗の問題であった第1花の開花の遅れは少なくなることを見出した。
さらに1株の穂木に複数の台木を接合する方法としては、複数の台木を穂木の茎の切断面に接合する方法と、穂木の茎切断面と接ぎ木の茎側面に台木を接合する方法と、地上部と地下部を保持した穂木の茎の側面に複数の台木を接合する方法を開発した。
なお、穂木の地上部とは、穂木とする植物を圃場あるいは鉢栽培する時、穂木植物の地面より上に露出している部分であり茎、葉、花、実などである。また地下部とは、穂木植物の地面より下に位置する部分であり主として根である。
図1に本願発明に係る接ぎ木苗1の模式図を示す。図1中の左側の図は穂木2の茎の切断面に2本の台木3を接合する方法により作成した2本の台木を有する接ぎ木苗、中央の図は穂木2の茎切断面に1本の台木3、茎側面に2本の台木3を接合する方法により作成した3本の台木を有する接ぎ木苗、右側の図は地上部と地下部を保持した穂木2の茎の側面に3本の台木3を接合する方法により作成した3本の台木を有する接ぎ木苗を示す。
本願発明に係る接ぎ木苗の作成方法は、従来の1本の台木に1本の穂木を接合する接ぎ木方法のいずれとも全く異なる方法であり、発明者が知る唯一の複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法(特許文献2)とも全く異なるものである。本願発明に係る方法はいずれも接ぎ木操作をセル苗の様な幼苗の段階で、一段階で行うことができるので簡便であり、接ぎ木苗の養生育苗も1回で済み、苗のサイズを流通に適したコンパクトなセル苗サイズにすることができる。以下のそれぞれの方法について詳述する。
【0014】
<穂木の茎切断面に複数の台木を接合することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法>
本葉が数枚展開した穂木の苗の第1本葉より下の部位で茎を切断し、切断面より下の部分は捨てる。茎切断面に接ぎ木する台木の本数と同数のV字状の切り込みを入れる。図2は穂木2の茎切断面にV字状の切り込み4を2箇所入れた状態を示す。台木は第1本葉より下の部位で茎を切断し切断面より上の部分は捨てる。台木の切断面を穂木の茎切断面に形成したV字状の切り込みに隙間なく篏合するように楔状に成形する。この台木の楔状の部分を穂木の茎切断面のV字状の切り込みに挿しこみ穂木と台木の切断面同士が密着するようにし接ぎ木クリップ等で固定する。
この方法により穂木の茎切断面に接合された複数の台木を有することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗を作成することができる。
【0015】
<穂木の茎切断面に接合された台木と穂木の茎の側面に接合された台木を有することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の方法>
本葉が数枚展開した穂木の苗の第1本葉より下の部位で茎を切断し、切断面より下の部分は捨てる。茎切断面の1箇所あるいは2か所にV字状の切り込みを入れる。さらに、穂木の茎の側面にV字状の切り込みをV字の開口部が斜め下向きになるように必要箇所数入れる。茎切断面のV字状切込みの数と茎側面のV字状切込みの数の合計がこの苗に接ぎ木する台木の本数となるようにする。台木は第1本葉より下の部位で茎を切断し切断面より上の部分は捨てる。台木の切断面を穂木の茎切断面に形成したV字状の切り込みに隙間なく篏合するように楔状に成形する。この台木の楔状の部分を穂木の茎切断面のV字状の切り込み及び穂木の茎側面のV字状切込みに挿しこみ穂木と台木の切断面同士が密着するようにし接ぎ木クリップ等で固定する。
図3にこの方法により作成した複数の台木を有する苗の模式図を示す。図3は左から順に、茎切断面と茎側面に1本ずつ、合計2本の台木を有する接ぎ木苗、茎切断面に2本、茎側面に1本の合計3本の台木を有する接ぎ木苗、茎切断面に1本、茎側面に2本の合計3本の台木を有する接ぎ木苗、茎切断面に2本、茎側面に2本の合計4本の台木を有する接ぎ木苗を示す。
【0016】
<穂木の茎切断面に接合された台木と該台木の茎の側面に接合された別の台木を有することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の方法>
穂木の茎切断面に上記のように1本の台木を接合する。接合した台木の茎の側面にV字状の切り込みをV字の開口部が斜め下向きになるように入れ、この台木の茎側面に形成したV字状の切り込みに別の台木を接合する。図4にこの方法により作成した複数の台木を有する接ぎ木苗の模式図を示す。該接ぎ木苗は穂木2の茎切断面に台木3が接合され、該台木3の茎側面に別の台木5が接合されている。
【0017】
<地上部と地下部を保持した穂木の茎の側面に複数の台木を接合することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法>
この方法では接ぎ木操作の段階では穂木の茎を切断せず、穂木の地上部と地下部全体を維持する。穂木の茎の側面にV字状の切り込みをV字の開口部が斜め下向きになるように、接ぎ木する台木の本数と同数の箇所に入れる。台木は第1本葉より下の部位で茎を切断し切断面より上の部分は捨てる。台木の切断面を穂木の茎切断面に形成したV字状の切り込みに隙間なく篏合するように楔状に成形する。この台木の楔状の部分を穂木の茎切断面のV字状の切り込み及び穂木の茎側面のV字状切込みに挿しこみ穂木と台木の切断面同士が密着するようにし接ぎ木クリップ等で固定する。
この方法において接ぎ木する台木は直根の基部のみを残して、それ以外の根は切除したものを用いることもできる。このようにすれば、台木側の根鉢がなくなり、接ぎ木操作の作業性が非常に向上する。このようにして作成した接ぎ木苗の台木の根も問題なく発根することを確認している。
図5にこの方法により作成した複数の台木を有する苗の模式図を示す。図5は左から順に、茎側面に2本の台木を有する接ぎ木苗、茎側面に2本の直根の基部以外の根を切除した台木を有する接ぎ木苗、茎側面に3本の台木を有する接ぎ木苗、そして茎側面に3本の直根の基部以外の根を切除した台木を有する接ぎ木苗を示す。
この方法により地上部と地下部を保持した穂木と該穂木の茎の側面に接合された複数の台木よりなることを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗を作成することができる。
なおこのタイプの接ぎ木苗は、本圃に定植する際、穂木の台木との接合部以下の部分は切除する。つまり定植後は土壌病害抵抗性等有利な性質を持つ台木の根のみを有し、土壌病害罹病性等不利な性質を持つ穂木の根は有さない状態となる。
【0018】
図6に接合した部位を、接ぎ木クリップ6を用いて固定している様子を示す。図6の左図は接ぎ木クリップ6で固定した接ぎ木苗の全体図、右図は接ぎ木クリップ6で固定した接合部分の拡大図である。
【0019】
1本の穂木に接合する複数の台木は同一の種であっても良くまた互いに異なる種であっても良い。複数の同一種に属する台木を有する接ぎ木苗は1本の台木を有する通常の接ぎ木苗に比べて生育が旺盛になり、その結果として収量が向上することが期待できる。
また互いに異なる種に属する複数の台木を有する接ぎ木苗の利点としては以下のような例が考えられる。水ナスの半促成栽培では収穫期は1月から7月に亘る。1月から3月の低温期は水ナスの市場価格が高いが、水ナスは低温伸長性が低いので低温期には収量が低い。また、5月から7月の高温期は青枯れ病が発生しやすく、水ナス自体には青枯れ病抵抗性が無いので、青枯れ病抵抗性の台木を用いた接ぎ木苗を利用することが必須である。しかし、低温伸長性と青枯れ病抵抗性を兼ね備えた水ナスに適した台木は存在しない。
そこで、本願発明に係る、茎切断面に青枯れ病抵抗性の台木品種を有し、この台木の茎側面に低温伸長性の台木品種を接合した接ぎ木苗(図4)を用いることにより、低温期である定植時期には低温伸長性が強くて生長が旺盛となり収量が向上し、高温期には青枯れ病抵抗性が発揮され罹病することが無く、安定的に高収量を得ることができる。なお、低温伸長性台木には青枯れ病抵抗性が無く、青枯れ病に罹患すれば低温伸長性台木の部分は枯れるが、低温伸長性台木の導管に侵入した青枯れ病菌は台木の茎には侵入できないので穂木部分が青枯れ病によって影響を受けることは無い。
【0020】
第1の発明は穂木の茎切断面に接合された複数の台木を有することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗である。
【0021】
第2の発明は穂木の茎切断面に接合された台木と穂木の茎の側面に接合された台木を有することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗である。
【0022】
第3の発明は穂木の茎切断面に接合された台木と該台木の茎の側面に接合された別の台木を有することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗である。
【0023】
第4の発明は地上部と地下部を保持した穂木と該穂木の茎の側面に接合された複数の台木よりなることを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗である。
【0024】
第5の発明は第1ないし第4のいずれか1の発明に係る複数の台木を有する接ぎ木苗であって、上記の複数の台木が同一の種であることを特徴とするものである。
【0025】
第6の発明は第1ないし第4のいずれか1の発明に係る複数の台木を有する接ぎ木苗であって、上記の複数の台木が互いに異なる種であることを特徴とするものである。
【0026】
第7の発明は第5の発明に係る複数の台木を有する接ぎ木苗であって、穂木がナスであることを特徴とするものである。
【0027】
第8の発明は第6の発明に係る複数の台木を有する接ぎ木苗であって、穂木がナスであることを特徴とするものである。
【0028】
第9の発明は穂木の茎切断面に複数の台木を接合することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法である。
【0029】
第10の発明は穂木の茎切断面と、穂木の茎の側面に、台木を接合することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法である。
【0030】
第11の発明は穂木の茎切断面に台木を接合し、該台木の茎の側面に別の台木を接合することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法である。
【0031】
第12の発明は地上部と地下部を保持した穂木の茎の側面に複数の台木を接合することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法である。
【0032】
第13の発明は第9乃至第12のいずれか1の発明に係る複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法であって、上記の複数の台木が同一の種であることを特徴とするものである。
【0033】
第14の発明は第9乃至第12のいずれか1の発明に係る複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法であって、上記の複数の台木が互いに異なる種であることを特徴とするものである。
【0034】
第15の発明は第13の発明に係る複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法であって、上記の穂木がナスであることを特徴とするものである。
【0035】
第16の発明は第14の発明に係る複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法であって、上記の穂木がナスであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0036】
本願発明に係る接ぎ木苗は従来の接ぎ木苗に比べ定植後の生長が旺盛で収量も高くなる。さらに互いに異なる種に属する複数の台木を有する接ぎ木苗は、ナスの青枯れ病抵抗性と低温伸長性のようにこれらを兼ね備えている台木が無く、従来の1本の穂木に1本の台木を接ぐ接ぎ木ではどちらか一方の性質しか付与できない2つの性質を、一方の性質を有する台木品種ともう一方の性質を有する台木品種を台木とすることにより、兼ね備えることができる。さらに、本願発明に係る地上部と地下部を保持した穂木の茎の側面に複数の台木を接合することを特徴とする接ぎ木苗は、従来の接ぎ木苗の問題であった第1花の開花の遅れが少ないため出荷開始の時期の遅れも少ない。また本願発明に係る接ぎ木苗の作成方法は、接ぎ木操作を幼苗の段階で、一段階で行うことができるので簡便であり、苗のサイズを流通に適したコンパクトなサイズにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】複数の台木を有する接ぎ木苗の模式図である。
図2】穂木の茎切断面にV字状の切り込みを入れた状態を示す模式図である。
図3】穂木の茎切断面に接合された台木と穂木茎の側面に接合された台木を有することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の模式図である。
図4】穂木の茎切断面に接合された台木と該台木の茎の側面に接合された別の台木を有することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の模式図である。
図5】地上部と地下部を保持した穂木の茎の側面に複数の台木を接合することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の模式図である。
図6】接ぎ木クリップで固定した接ぎ木操作直後の接ぎ木苗を示す図である。
図7】実施例1における定植苗の生育状況を示す表である。
図8】実施例1における定植株あたりの直径1mm以上の根の数と収量との関係を示すグラフである。
図9】実施例1における定植株の主茎の太さを示すグラフである。
図10】実施例2における無接ぎ木、S、W及びTの1株当たりの果実収量を示すグラフである。
図11】実施例2における無接ぎ木、S、W及びTの1株当たりの直径1mm以上の根の本数を示すグラフである。
図12】実施例3におけるS、W、Tの開花段位ごとの開花日を示す図である。
図13】実施例3におけるS、W、Tの展開葉数の経時変化を示す図である。
図14】実施例3におけるS、W、Tの最大葉の葉面積の経時変化を示す図である。
図15】実施例3におけるS、W、Tの試験終了時の主枝長と第2主枝長を示す図である。
図16】実施例3におけるS、W、Tの試験終了時の台木と穂木の主茎の太さを示す図である。
図17】実施例3におけるS、W、Tの試験終了時の根重量と根長と根本数を示す図である。
図18】実施例3におけるS、W、Tの試験終了時の1株あたりの炭素量と窒素量を示す図である。
図19】実施例4における自根苗、S、W、Tの第1花の開花日を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
つぎに、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において様々な変更や修正が可能であることは言うまでもない。
【0039】
なお、本明細書において用いている「主茎」という言葉と「主枝」という言葉を説明する。「主茎」は種子が発芽して最初に発生する茎が生長したものを指し腋芽の茎は該当しない。これに対して「主枝」は果実を実らせるために生長させる茎を指し、本明細書では「主茎」も「主枝」に含まれる。トマトやナスでは腋芽が節ごとに発生し、これを放置しておくと腋芽が生長し繁茂しすぎて各葉の日照量が低下したり、過密になって病害が発生しやすくなるので却って収量は低下する。そのため経済栽培においては、腋芽は適宜摘除される。しかし最大収量を得るために、腋芽を1ないし2摘除せず生長させ、腋芽にも結実させることが行われる。腋芽を1だけ生長させる仕立て方を2本仕立てとよび、生長させた腋芽を本明細書では第2主枝と呼び、主茎を主枝とも呼ぶ。腋芽を2残して生長させる仕立て方は3本仕立てと言う。
【実施例0040】
すべての穂木、台木には鳥飼ナス(地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所保有系統)を用いた.2020年2月14日に128穴のセルトレイに播種し育苗した。同年4月8日に接ぎ木を行った。穂木に1本乃至3本の台木を上記の穂木の茎切断面に複数の台木を接合する方法で接合した。台木を接合した後、接合部を、接ぎ木クリップ(接ぎ木フレンド瓜科用、北越農事)を用いて固定した。図6に接ぎ木クリップで固定した接ぎ木操作直後の苗を示す。
以下、穂木に台木を1本接合した接ぎ木苗をシングル接ぎ木苗(S)、穂木に台木を2本接合した接ぎ木苗をダブル接ぎ木苗(W)、穂木に台木を3本接合した苗をトリプル接ぎ木苗(T)と呼ぶ。W及びTの作成に当たっては、128穴のトレイにWの台木用としては2粒、Tの台木用としては3粒ずつ播種して台木用苗とし、接ぎ木作業時には一段階でWあるいはTを完成して養生した.また、接ぎ木をしない自根苗(以下無接ぎ木と呼ぶ)も作成した。作成した苗を育苗し、最終5号ポットまで鉢上げしたのち、5月22日に生育調査を行った後、畝間1.6m、基肥として炭酸苦土石灰125kg/10a、綿実油粕125kg/10a(10a当たり窒素7.5kg、リン酸2.5kg、カリ1.6kg)を施用した露地圃場に株間95cm間隔で定植した.
果実の収穫は6月22日から8月21日まで毎週2回ずつ行い、その都度収穫した果実重量を測定した.また、9月6日から9月13日までの期間に、加藤ら(1987)の方法(非特許文献8)に倣って株を堀上げ、直径1mm以上の根の本数を数えると同時に主茎の太さを測定した。
【0041】
図7に5月22日に実施した定植苗の生育調査の結果を示す。無接ぎ木と接ぎ木苗との間では、無接ぎ木の方が、生育が大きい傾向であった。S、W及びTの間には生育差は無かった.図8に無接ぎ木、S、W、Tのそれぞれの果実総収量と各株の直径1mm以上根の本数との関係を示す。果実総収量は無接ぎ木に対して、Sでは3%減収、Wでは12%増収、Tでは22%増収であった。また、直径1mm以上の根の本数は、無接ぎ木に比較してS では9% 減、Wでは17% 増、Tでは55%増であった。このように、根の数と果実収量の間には正の相関関係が認められた。収穫調査終了後に、地際部10 cmの高さの主茎の太さを測定した結果、Sと比較してW及びTの方が太かった(図9)。以上の結果から、鳥飼ナスの栽培では、複数台木苗を栽培に用いることにより根数が増加し、増収効果が期待できることが実証された。また、複数台木苗は無接ぎ木や通常の接ぎ木苗(S)に比べ主茎が太くなったことは、栽培中の栄養状態が無接ぎ木や通常の接ぎ木苗(S)に比べ良くなったことを示しており、このことがなり増収に繋がったと推察される。
【実施例0042】
穂木には水ナス(貝塚市生産者より提供された)、台木には‘トナシム’(タキイ種苗株式会社)を用いた。穂木は、2021 年2 月26 日に200穴セルトレイに播種し、4月12日に2 号ポットへ鉢上げした。台木は同年2 月15 日に200穴セルトレイに播種し、4月16 日に2 号ポットへ鉢上げしたが、この段階で、W用およびT用には1ポットにそれぞれ2株あるいは3株ずつ鉢上げした。5月6日に接ぎ木作業を実施した。穂木に1本乃至3本の台木を上記の穂木の茎切断面に複数の台木を接合する方法で接合した。接ぎ木苗は、暖房した室内において、半透明プラスチックコンテナ内で養生処理した。5月13日には接ぎ木が活着した株を4号ポットに鉢上げしてハウス内で育苗した。5月26日に、これ等の接ぎ木苗を無接ぎ木苗と共に露地圃場に各5株ずつ定植した。定植後の管理は主枝3本仕立てとし、トマトトーン50倍液散布により着果を促進した。収穫調査は果実重量が150~200g程度の果実を収穫の目安として10月末まで行った。また、根数については、2021年11月5日~24日に加藤ら(1987)の方法(非特許文献8)により調査した。
【0043】
6月22日に収穫を開始した。6月22日から10月31日までの無接ぎ木及びS、W、Tの月ごとの果実収量を図10に示す。8月と9月の収量部分及び各棒の上部に記されたa、b、abの文字については、異なる文字間にはTukeyの多重検定による5%の有意差があることを示す。8月の収量は無接ぎ木がbであるのに対してW及びTではaであり、8月の収量は無接ぎ木がW及びTに比べ有意に高かった。Sの8月の収量はabであり、無接ぎ木の収量ともW及びTの収量とも有意差は無かった。これに対し9月の収量は無接ぎ木がbであるのに対してWはaでありWが無接ぎ木より有意に高かった。棒の上の文字は全期間の総収量の有意差の有無を示している。総収量は無接ぎ木に比べWが有意に高かった。またSとTの総収量はWの総収量と有意差は無く又無接ぎ木の総収量とも有意差は無かった。
図11に根数の調査結果を示す。上記と同様に各棒の上部に記されたa、b、abの文字は、異なる文字間にはTukeyの多重検定による5%の有意差があることを示す。根数については、無接ぎ木に対してTは有意に多かった。しかし、S、W、T の間及び無接ぎ木とS、Wの間には有意差はなかった。以上の結果から、複数の台木を有する接ぎ木苗は、無接ぎ木に比較して増収になること、および栽培期間を通して根を増加させる能力があることが示された。
【実施例0044】
穂木として水ナス(貝塚市生産者から提供された系統)、台木として品種「台太郎」(タキイ種苗株式会社)を2021年8月23日に200穴セルに播種した。9月13日に、穂木(水ナス)を7cmポットに1株ずつ鉢上げした。一方、台木(台太郎)は9cmポットに、1株ずつ、2株ずつ及び3株ずつ鉢上げして、それぞれS用、W用及びT用の台木とした。9月27日に接ぎ木作業を実施した。Wは穂木の茎切断面に複数の台木を接合する方法で接合した。Tでは穂木の茎切断面に2本の台木を接合し接合された台木と茎の側面に1本の台木を接合する方法により接合した。S、W、T、各8株ずつ接ぎ木作業を行った。穂木には展開葉を1枚又は2枚付け、台木には葉を付けずに接ぎ木に供した。接ぎ木作業後、縦55cm×横38cm×高さ31cmの透明なプラスチックコンテナ内で14日間養生した。養生終了時点でSでは2株の活着不良がみられたが、WとTではすべての接ぎ木が成功し、生育の旺盛度合いはS<W<Tと台木数が多いほど生育が旺盛であった。
【0045】
10月11日にS、W、Tの各接ぎ木苗を5株ずつ、培養土に肥料(大阪南化成8号(全農)1.6gおよびマイクロロング肥料微量要素入りハイコントロールマイクロ280-70 12-8-10 (ジェイカムアグリ(株))1.6g、炭酸苦土石灰2g)を混和したものを詰めた1/5000aワグネルポットへ定植した。これをビニールハウス内で栽培した。栽培中に開花段位ごとの開花日、展開葉数の経時変化、最大葉の葉面積の経時変化を調査した。
図12にS、W、Tの開花段位ごとの開花日を示す。花芽の着生および開花については、SよりもW、Tの方が早く発達して開花が早かった。図13に展開葉数の経時変化を示す。展開葉数は、SよりもW、Tの方が多かった。図14に最大葉の葉面積の経時変化を示す。最大葉の葉面積は、SよりもW、Tの方が常に大きかった。なお各図のデータラベルに付したa、b、abの文字については、異なる文字間にはTukeyの多重検定による5%の有意差があることを示す。
【0046】
12月3日に栽培を終了し、各株について主茎の長さ(地際部から主茎の茎頂まで)及び第2主枝の長さ(主茎からの分岐点から第2主枝の茎頂まで)を測定するとともに、台木及び穂木の主茎の太さを測定した。なお第2主枝は第1花の直下の腋芽を生長させたものである。
台木太さは地際部からおよそ3cm位の高さの位置で測定し、穂木の太さは接ぎ木部位の直上部で測定した。
その後、各株について、すべての根を切らないように抜き出して、丁寧に土壌を洗い流して水分をぬぐい取り、根重量を測定した。また根の分岐部における太さ1mm以上の根について、根長と根本数を調査した。さらに、地上部と根部の生重を測定し、乾燥させた後、炭素および窒素含有率をC/Nコーダ(株式会社ジェイ・サイエンス、JM3000)を用いて分析し、乾物重の数値から逆算して地上部と根部の株あたりの炭素量、窒素量を算出した。
図15にS(シングル)、W(ダブル)、T(トリプル)の試験終了時の主茎長と第2主枝長を示す。主茎長はSよりもWとTが長かった。また第2主枝長はWとTでは有意差が無かったが、WとTはSよりも有意に長く、この時点ではSに対してWは4倍以上、Tは5倍以上であった。
図16にS(シングル)、W(ダブル)、T(トリプル)の試験終了時の台木と穂木の主茎の太さを示す。台木の太さはSがW及びTより太かったが、穂木の太さはSに比べWとTが有意に太く、WとTでは有意差は無かった。
図17にS(シングル)、W(ダブル)、T(トリプル)の試験終了時の根重量と根長と根本数を示す。根重量と根長と根本数全て、SよりもWが上回り、WよりもTが上回った。すなわち台木の数が多いほど根の発達は良くなることが示された。
図18にS(シングル)、W(ダブル)、T(トリプル)の試験終了時の株あたりの炭素量と窒素量を示す。炭素量と窒素量のいずれもSよりもWが上回り、WよりもTが上回った。すなわち台木の数が多いほど株の生長量が大きいことが示された。
なお図15~18中のa、b、ab、cの文字については、異なる文字間にはTukeyの多重検定による5%の有意差があることを示す。
これ等の結果は、接ぎ木苗の台木の数が多いほど株の栄養状態は良くなり茎の伸長、肥大、根の生長が良くなること、つまり株全体の生長が増進することを示している。
【実施例0047】
本実施例ではS以外のWとTについては地上部と地下部を保持した穂木の茎の側面に複数の台木を接合することを特徴とする複数の台木を有する接ぎ木苗の作成方法により作成した。
台木品種のトナシム(タキイ)を2022年2月7日に、穂木品種の水ナス(泉州絹川水ナス‘柿本種苗’)を2022年2月18日にそれぞれ200穴セルに播種した。4月14日に接ぎ木処理をし、S40株、W27株、T24株を作成した。作成した接ぎ木苗を7cmポットに1株ずつ鉢上げし、縦55cm×横38cm×高さ31cmの透明なプラスチックコンテナ内で10日間養生した。4月21日に養生を終了し7cmポットから9cmポットに鉢上げした。これらをビニールハウス内で栽培し、4月28日に12cmポットに鉢上げした。なお、2月18日に播種した穂木品種の水ナスの40株は接ぎ木処理せず自根苗として4月14日に7cmポットに鉢上げしビニールハウスで栽培し、4月21日に9cmポットに鉢上げしビニールハウスで栽培を継続し4月28日に12cmポットに鉢上げした。
5月12日に自根苗、S、W、Tを、炭酸苦土石灰150kg/10a、綿実油粕により窒素成分で10kg/10a施用した1.2m幅の畝に株間65cm間隔に定植した。定植の際、W及びTについては、穂木品種の茎の側面接ぎ木部位から下1cm程度以下の部分を切除した。即ち、定植した株は台木の根のみを有し、穂木の根は有さない状態にした。
定植後、一番花が開花した日付を全株について調査した。図19に自根苗、S、W、Tの第1花の開花日を示す。第1花の開花日は自根苗では5月19日であったのに対してSは5月28日であり自根苗より開花が9日遅かった。これに対してWは5月22日、Tは5月21日であり、自根苗に対する第1花の開花の遅れはそれぞれ3日と2日であり、複数の台木を有する接ぎ木苗を用いることにより、接ぎ木苗が自根苗に比べ第1花の開花日が遅れるという問題は大幅に緩和されることが示された。なお図19中のa、b、ab、cの文字については、異なる文字間にはTukeyの多重検定による5%の有意差があることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本願発明に係る接ぎ木苗及び接ぎ木苗作成方法は、トマト、ピーマン、パプリカ、キューリ、スイカ、メロンなどの野菜のみならず、茶樹やバラ等の花卉類にも効果的なものである。
【符号の説明】
【0049】
1 接ぎ木苗
2 穂木
3 台木
4 V字状の切り込み
5 別の台木
6 接ぎ木クリップ
図1
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