(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046862
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】露光方法、データ処理方法および露光装置
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
G03F7/20 521
G03F7/20 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152195
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮
(72)【発明者】
【氏名】水端 稔
(72)【発明者】
【氏名】中井 一博
(72)【発明者】
【氏名】北村 清志
【テーマコード(参考)】
2H197
【Fターム(参考)】
2H197AA28
2H197CB04
2H197DA03
2H197DA09
2H197DB06
2H197HA02
2H197HA03
2H197HA04
(57)【要約】
【課題】描画データに基づき変調した光ビームを被露光物に照射する技術において、より滑らかなパターン描画を、簡単なデータ処理で行うことのできる技術を提供する。
【解決手段】本発明は、描画データに基づき変調した光ビームを被露光物に照射する露光方法であって、描画すべきパターンを表す設計データに基づき、パターンを目標グリッドサイズでラスタライズしたラスターデータを作成するデータ作成工程と、ラスターデータに基づき光変調器を制御して、光ビームをパターンに応じて変調し、被露光物に照射する露光工程とを備えている。データ作成工程では、目標グリッドサイズを(1/N)倍(Nは2以上の整数)にした仮グリッドサイズで設計データをラスタライズして2値のラスターデータを作成し、目標グリッドサイズの一の画素に対し、仮グリッドサイズの連続するN個の画素の画素値の合計に応じて(N+1)段階の階調値のうち一を割り当てる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
描画データに基づき変調した光ビームを被露光物に照射する露光方法であって、
描画すべきパターンを表す設計データに基づき、前記パターンを所定の目標グリッドサイズでラスタライズしたラスターデータを作成するデータ作成工程と、
前記ラスターデータに基づき光変調器を制御して、光源から照射される光ビームを前記パターンに応じて変調し、前記被露光物に照射する露光工程と
を備え、
前記データ作成工程では、
前記目標グリッドサイズを(1/N)倍(Nは2以上の整数)にした仮グリッドサイズで前記設計データをラスタライズして2値のラスターデータを作成し、
前記仮グリッドサイズの連続するN個の画素を前記目標グリッドサイズの一の画素とし、当該一の画素の画素値として、(N+1)段階の階調値のうち前記N個の画素の画素値の合計に応じた一を割り当てる、露光方法。
【請求項2】
前記露光工程では、変調された前記光ビームを出射する露光部と、前記被露光物とを相対的に主走査方向に移動させながら前記光ビームを前記被露光物に照射し、
前記データ作成工程では、前記主走査方向とその直交方向とにそれぞれ対応する方向をグリッド方向として前記ラスタライズを実行し、
前記グリッド方向のうち前記主走査方向に対応する方向に沿って前記目標グリッドサイズをN等分することで前記仮グリッドサイズを決定する、請求項1に記載の露光方法。
【請求項3】
描画データに基づき変調した光ビームを被露光物に照射する露光方法であって、
描画すべきパターンを表す設計データに基づき、前記パターンを所定の目標グリッドサイズでラスタライズしたラスターデータを作成するデータ作成工程と、
前記ラスターデータに基づき光変調器を制御して、光源から照射される光ビームを前記パターンに応じて変調し、前記被露光物に照射する露光工程と
を備え、
前記パターンが一定幅のラインパターンであるとき、前記データ作成工程では、
前記設計データに基づき、前記ラインパターンの延びる方向と前記ラスタライズ時のグリッド設定方向との間の角度を求め、
前記ラスタライズ後の各画素の階調値を前記角度に応じて補正して前記ラスターデータを作成する、露光方法。
【請求項4】
前記ラスターデータに対し、前記被露光物への前記光ビームの入射位置を調整するための補正処理を行い、補正後のデータに基づき前記光変調器を制御する、請求項1ないし3のいずれかに記載の露光方法。
【請求項5】
描画すべきパターンを表す設計データから、前記パターンを所定の目標グリッドサイズでラスタライズしたラスターデータを作成するためのデータ処理方法であって、
前記目標グリッドサイズを(1/N)倍(Nは2以上の整数)にした仮グリッドサイズで前記設計データをラスタライズして2値のラスターデータを作成する工程と、
前記仮グリッドサイズの連続するN個の画素を前記目標グリッドサイズの一の画素とし、当該一の画素の画素値として、(N+1)段階の階調値のうち前記N個の画素の画素値の合計に応じた一を割り当てる工程と
を備える、データ処理方法。
【請求項6】
前記N個の画素の画素値の合計が大きいほど高い階調値を割り当てる、請求項5に記載のデータ処理方法。
【請求項7】
前記仮グリッドサイズは、前記目標グリッドサイズを一のグリッド方向に沿ってN等分したものである、請求項5に記載のデータ処理方法。
【請求項8】
前記(N+1)段階の階調値は、最小階調値から最大階調値までを均等に分割したものである、請求項7に記載のデータ処理方法。
【請求項9】
描画すべき一定幅のラインパターンを表す設計データから、前記ラインパターンを所定の目標グリッドサイズでラスタライズしたラスターデータを作成するためのデータ処理方法であって、
前記設計データに基づき、前記ラインパターンの延びる方向と前記ラスタライズ時のグリッド設定方向との間の角度を求める工程と、
前記設計データに基づきラスタライズを実行する工程と、
前記ラスタライズ後の各画素の階調値を前記角度に応じて補正して前記ラスターデータを作成する工程と
を備える、データ処理方法。
【請求項10】
前記角度と前記階調値の補正量とを対応付けたテーブルが予め準備される、請求項9に記載のデータ処理方法。
【請求項11】
前記テーブルは、ユーザー操作により編集可能である、請求項10に記載のデータ処理方法。
【請求項12】
被露光物を保持する保持部と、
光源から出射される光ビームを多階調に変調可能な光変調器を有し、変調された前記光ビームを前記被露光物に照射する露光部と、
描画すべきパターンを表す設計データに基づき、請求項5ないし11のいずれかに記載のデータ処理方法を実行してラスターデータを作成し、前記ラスターデータに基づき前記光変調器を制御する制御部と
を備える、露光装置。
【請求項13】
前記光変調器は、微小電気機械システムにより駆動される回折格子を用いた回折光学素子を含む空間光変調器である、請求項12に記載の露光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば半導体基板、半導体パッケージ基板、プリント配線基板、ガラス基板等の基板にパターンを描画するために基板を露光する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、半導体パッケージ基板、プリント配線基板、ガラス基板等の各種基板に配線パターン等のパターンを形成する技術として、基板表面に形成された感光層に、露光データに応じて変調された光ビームを入射し、感光層を露光させるものがある。例えば特許文献1には、描画すべきパターンをベクターデータとして表したCADデータ(設計データ)から露光制御に適したランレングスデータへの変換(すなわちラスタライズ)に際して、画像濃度を高濃度の「1」、低濃度の「0」の2段階に設定するのみでなく、注目領域とその周辺領域とにおける画像要素の配置に基づき、これらの中間的な値である「0.5」に設定可能とすることで中間調が実現されている。これにより、パターンに現れる階段状のエッジ(ジャギー)を低減させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
描画品質への要求はさらに高まっており、より高精細で滑らかなパターン描画を行うことが求められるようになってきている。パターンの滑らかさをさらに向上させる手段としては、ラスタライズにおける分解能を高める、つまりグリッドサイズをより細かくする方法も考えられる。しかしながら、実際に露光を行う際の分解能は、使用デバイスの構造・仕様や動作速度等のハードウェア上の条件によって制約される。
【0005】
このため、ハードウェアの改善による高精細化には限界があり、データ処理の改善により、同じグリッドサイズでもより滑らかな描画を行えるようにすることが求められる。その1つの方法が、ラスタライズ時に階調表現をさらに多段階とすることである。しかしながら、特許文献1には、3段階の階調表現に特化したデータ処理方法が記載されるのみであり、より多階調の表現への拡張は原理的に不可能である。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、描画データに基づき変調した光ビームを被露光物に照射する露光技術において、これまでより滑らかなパターン描画を、簡単なデータ処理で行うことのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る露光方法は、描画データに基づき変調した光ビームを被露光物に照射する露光方法であって、描画すべきパターンを表す設計データに基づき、前記パターンを所定の目標グリッドサイズでラスタライズしたラスターデータを作成するデータ作成工程と、前記ラスターデータに基づき光変調器を制御して、光源から照射される光ビームを前記パターンに応じて変調し、前記被露光物に照射する露光工程とを備えている。
【0008】
その第1の態様において、前記データ作成工程では、前記目標グリッドサイズを(1/N)倍(Nは2以上の整数)にした仮グリッドサイズで前記設計データをラスタライズして2値のラスターデータを作成し、前記仮グリッドサイズの連続するN個の画素を前記目標グリッドサイズの一の画素とし、当該一の画素の画素値として、(N+1)段階の階調値のうち前記N個の画素の画素値の合計に応じた一を割り当てる。
【0009】
また、第2の態様において、前記パターンが一定幅のラインパターンであるとき、前記データ作成工程では、前記設計データに基づき、前記ラインパターンの延びる方向と前記ラスタライズ時のグリッド設定方向との間の角度を求め、前記ラスタライズ後の各画素の画素値を前記角度に応じて補正して前記ラスターデータを作成する。
【0010】
このように構成された発明では、グリッド化による制約を受ける画素のエッジと設計データにより規定されるパターンのエッジとの乖離の程度が当該画素の階調値に反映される。したがって、同じグリッドサイズでも、パターンのエッジ部分の現れ方により画素の階調値が異なることになる。
【0011】
具体的には、第1の態様では、目標グリッドサイズを(1/N)倍にした仮グリッドサイズで2値ラスターデータを作成することで、目標グリッドサイズの1つの画素をN個の画素に分割する。グリッドが細分化されることにより、設計データが表すパターンのエッジとラスターデータが表すパターンのエッジとの乖離は小さくなる。そして、目標グリッドサイズの1つの画素を構成する細分化されたN個の画素が有する画素値が、元の1つの画素の階調値に反映される。つまり、細分化された画素の状態に応じて、目標グリッドサイズの画素が多階調表現される。
【0012】
また、第2の態様では、グリッド設定方向の違いによって、設計データが表すパターンの太さとラスターデータが表すパターンの太さとに乖離が生じ、しかもその乖離の程度がグリッド線に対するラインパターンの傾き角度に依存するという本願発明者の知見に基づき、ラスタライズされた画素の階調値をパターンの傾き角度に応じて補正する。
【0013】
このように、本発明では、単純なラスタライズではデータに反映されず欠落してしまうパターンのエッジ部分に関する情報を画素の階調値に反映させる方法が規定されている。このようにすることで、ジャギーの発生を抑えてエッジの滑らかさを向上させることが可能である。
【0014】
また、本発明に係るデータ処理方法の第1の態様は、描画すべきパターンを表す設計データから、前記パターンを所定の目標グリッドサイズでラスタライズしたラスターデータを作成するためのデータ処理方法であって、前記目標グリッドサイズを(1/N)倍(Nは2以上の整数)にした仮グリッドサイズで前記設計データをラスタライズして2値のラスターデータを作成する工程と、前記目標グリッドサイズの一の画素の画素値として、当該一の画素を構成する前記仮グリッドサイズのN個の画素の画素値の合計に応じて、(N+1)段階の階調値の一を割り当てる工程とを備えている。
【0015】
また、本発明に係るデータ処理方法の第2の態様は、描画すべき一定幅のラインパターンを表す設計データから、前記ラインパターンを所定の目標グリッドサイズでラスタライズしたラスターデータを作成するためのデータ処理方法であって、前記設計データに基づき、前記ラインパターンの延びる方向と前記ラスタライズ時のグリッド設定方向との間の角度を求める工程と、前記設計データに基づきラスタライズを実行する工程と、前記ラスタライズ後の各画素の階調値を前記角度に応じて補正して前記ラスターデータを作成する工程とを備えている。
【0016】
詳しくは後述するが、これらの発明に係るデータ処理方法では、多くの演算量を必要としない比較的簡単なデータ処理により、設計データ上のエッジと実際のエッジとの乖離の程度を各画素の階調値に反映させることができる。したがって、上記のようなラスターデータの作成に好適なデータ処理方法として適用可能なものである。
【0017】
また、この発明の他の一の態様は、被露光物を保持する保持部と、光源から出射される光ビームを多階調に変調可能な光変調器を有し、変調された前記光ビームを前記被露光物に照射する露光部と、描画すべきパターンを表す設計データに基づき、上記したデータ処理方法のいずれかを実行してラスターデータを作成し、前記ラスターデータに基づき前記光変調器を制御する制御部とを備える、露光装置である。
【0018】
このように構成された発明では、上記原理により、ジャギーの少ない滑らかなパターンを露光により形成することが可能である。このため、実質的な分解能はハードウェアにより規定されるグリッドサイズによる制約を超えるものとなり得る。このため、グリッドサイズをより微細化するためのハードウェアの改良によらずに、パターンの高精細化を図ることが可能である。
【発明の効果】
【0019】
上記のように、本発明によれば、描画データに基づき変調した光ビームを被露光物に照射する露光技術において、ラスタライズ後の各画素の画素値に、当該画素が形成するエッジと設計データ上のエッジとの乖離の程度が反映される。このため、これまでより滑らかなパターン描画を、簡単なデータ処理で行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明にかかる露光装置の概略構成を模式的に示す正面図である。
【
図2】
図1の露光装置が備える電気的構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】露光ヘッドが備える詳細構成の一例を模式的に示す図である。
【
図4】この露光装置により実行される処理を示すフローチャートである。
【
図5】ベクターデータとラスターデータとのパターンの違いを示す図である。
【
図6】ラスターデータ作成処理の第1実施形態の原理を説明する図である。
【
図7】ラスターデータ作成処理の第1実施形態を示すフローチャートである。
【
図9】第1実施形態の第1の変形例を示す図である。
【
図10】第1実施形態の第2の変形例を示す図である。
【
図11】ラスターデータ作成処理の第2実施形態の原理を説明する図である。
【
図12】ラスターデータ作成処理の第2実施形態を示すフローチャートである。
【
図13】第2実施形態におけるラスターデータの補正方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<装置の構成および動作>
図1は本発明にかかる露光装置の概略構成を模式的に示す正面図であり、
図2は
図1の露光装置が備える電気的構成の一例を示すブロック図である。
図1および以下の図では、水平方向であるX方向、X方向に直交する水平方向であるY方向、鉛直方向であるZ方向およびZ方向に平行な回転軸を中心とする回転方向θを適宜示す。
【0022】
露光装置1は、レジストなどの感光材料の層が形成された基板S(被露光物)に所定のパターンのレーザー光を照射することで、感光材料にパターンを描画する。基板Sとしては、例えばプリント配線基板、各種表示装置用のガラス基板、半導体基板、半導体パッケージ基板などの各種基板を適用可能である。
【0023】
露光装置1は本体11を備え、本体11は、本体フレーム111と、本体フレーム111に取り付けられたカバーパネル(図示省略)とで構成される。そして、本体11の内部と外部とのそれぞれに、露光装置1の各種の構成要素が配置されている。
【0024】
露光装置1の本体11の内部は、処理領域112と受け渡し領域113とに区分されている。処理領域112には、主として、ステージ2、ステージ駆動機構3、露光ユニット4およびアライメントユニット5が配置される。また、本体11の外部には、アライメントユニット5に照明光を供給する照明ユニット6が配置されている。受け渡し領域113には、処理領域112に対して基板Sの搬出入を行う搬送ロボット等の搬送装置7が配置される。さらに、本体11の内部には制御部9が配置されており、制御部9は、露光装置1の各部と電気的に接続されて、これら各部の動作を制御する。
【0025】
本体11の内部の受け渡し領域113に配置された搬送装置7は、図示しない外部の搬送装置または基板保管装置から未処理の基板Sを受け取って処理領域112に搬入(ローディング)するとともに、処理領域112から処理済みの基板Sを搬出(アンローディング)し外部へ払い出す。未処理基板Sのローディングおよび処理済基板Sのアンローディングは制御部9からの指示に応じて搬送装置7により実行される。
【0026】
ステージ2は、平板状の外形を有し、その上面に載置された基板Sを水平姿勢に保持する。ステージ2の上面には、複数の吸引孔(図示省略)が形成されており、この吸引孔に負圧(吸引圧)を付与することによって、ステージ2上に載置された基板Sをステージ2の上面に固定する。このステージ2はステージ駆動機構3により駆動される。
【0027】
ステージ駆動機構3は、ステージ2をY方向(主走査方向)、X方向(副走査方向)、Z方向および回転方向θ(ヨー方向)に移動させるX-Y-Z-θ駆動機構である。ステージ駆動機構3は、Y方向に延設された単軸ロボットであるY軸ロボット31と、Y軸ロボット31によってY方向に駆動されるテーブル32と、テーブル32の上面においてX方向に延設された単軸ロボットであるX軸ロボット33と、X軸ロボット33によってX方向に駆動されるテーブル34と、テーブル34の上面に支持されたステージ2をテーブル34に対して回転方向θに駆動するθ軸ロボット35とを有する。
【0028】
したがって、ステージ駆動機構3は、Y軸ロボット31が有するY軸サーボモーターによってステージ2をY方向に駆動し、X軸ロボット33が有するX軸サーボモーターによってステージ2をX方向に駆動し、θ軸ロボット35が有するθ軸サーボモーターによってステージ2を回転方向θに駆動することができる。これらのサーボモーターについては図示を省略する。また、ステージ駆動機構3は、
図1では図示を省略するZ軸ロボット37によってステージ2をZ方向に駆動することができる。かかるステージ駆動機構3は、制御部9からの指令に応じて、Y軸ロボット31、X軸ロボット33、θ軸ロボット35およびZ軸ロボット37を動作させることで、ステージ2に載置された基板Sを移動させる。
【0029】
露光ユニット4は、ステージ2上の基板Sより上方に配置された露光ヘッド41と、光源駆動部42、レーザー出射部43および照明光学系44を含み露光ヘッド41に対してレーザー光を照射する光照射部40とを有する。露光ユニット4は、X方向に位置を異ならせて複数設けられてもよい。
【0030】
光源駆動部42の作動によりレーザー出射部43から射出されたレーザー光が、照明光学系44を介して露光ヘッド41へと照射される。露光ヘッド41は、光照射部から照射されたレーザー光を空間光変調器によって変調して、その直下を移動する基板Sに対して落射する。こうして基板Sをレーザー光ビームによって露光することで、パターンが基板Sに描画される(露光動作)。
【0031】
アライメントユニット5は、ステージ2上の基板Sより上方に配置されたアライメントカメラ51を有する。このアライメントカメラ51は、鏡筒、対物レンズおよびCCDイメージセンサを有し、その直下を移動する基板Sの上面に設けられたアライメントマークを撮像する。アライメントカメラ51が備えるCCDイメージセンサは、例えばエリアイメージセンサ(二次元イメージセンサ)により構成される。
【0032】
照明ユニット6は、アライメントカメラ51の鏡筒と光ファイバー61を介して接続され、アライメントカメラ51に対して照明光を供給する。照明ユニット6から延びる光ファイバー61によって導かれる照明光は、アライメントカメラ51の鏡筒を介して基板Sの上面に導かれ、基板Sでの反射光が、対物レンズを介してCCDイメージセンサに入射する。これによって、基板Sの上面が撮像されて撮像画像が取得されることになる。アライメントカメラ51は制御部9と電気的に接続されており、制御部9からの指示に応じて撮像画像を取得して、この撮像画像を制御部9に送信する。
【0033】
制御部9は、アライメントカメラ51により撮像された撮像画像が示すアライメントマークの位置を取得する。また制御部9は、アライメントマークの位置に基づき露光ユニット4を制御することで、露光動作において露光ヘッド41から基板Sに照射するレーザー光のパターンを調整する。そして、制御部9は、描画すべきパターンに応じて変調されたレーザー光を露光ヘッド41から基板Sに照射させることで、基板Sにパターンを描画する。
【0034】
制御部9は、上記した各ユニットの動作を制御することで各種の処理を実現する。この目的のために、制御部9は、CPU(Central Processing Unit)91、メモリー(RAM)92、ストレージ93、入力94、表示部95およびインターフェース部96などを備えている。CPU91は、予めストレージ93に記憶されている制御プログラム931を読み出して実行し、後述する各種の動作を実行する。メモリー92はCPU91による演算処理に用いられ、あるいは演算処理の結果として生成されるデータを短期的に記憶する。ストレージ93は各種のデータや制御プログラムを長期的に記憶する。具体的には、ストレージ93は、フラッシュメモリー記憶装置、ハードディスクドライブ装置などの不揮発性記憶装置であり、CPU91が実行する制御プログラム931の他に例えば、描画すべきパターンの内容を表す設計データであるCAD(Computer Aided Design)データ932を記憶している。
【0035】
入力部94は、ユーザーからの操作入力を受け付け、この目的のために、キーボード、マウス、タッチパネル等の適宜の入力デバイス(図示省略)を有している。表示部95は、各種の情報を表示出力することでユーザーに報知し、この目的のために適宜の表示デバイス、例えば液晶表示パネルを有している。インターフェース部96は外部装置との間の通信を司る。例えば、この露光装置1が制御プログラム931およびCADデータ932を外部から受け取る際に、インターフェース部96が機能する。この目的のために、インターフェース部96は、外部記録媒体からデータを読み出すための機能を備えていてもよい。
【0036】
CPU91は、制御プログラム931を実行することにより、露光データ生成部911、露光制御部912、フォーカス制御部913、ステージ制御部914などの機能ブロックをソフトウェア的に実現する。なお、これらの機能ブロックのそれぞれは、少なくとも一部が専用ハードウェアにより実現されてもよい。
【0037】
露光データ生成部911は、ストレージ93から読み出されたCADデータ932に基づき、光ビームをパターンに応じて変調するための露光データ911を生成する。基板Sに歪み等の変形がある場合には、露光データ生成部911は、基板Sの歪み量に応じて露光データを修正することで、基板Sの形状に合わせた描画が可能となる。露光データは露光ヘッド41に送られ、該露光データに応じて露光ヘッド41が、光照射部40から出射されるレーザー光を変調する。こうしてパターンに応じて変調された変調光ビームが基板Sに照射され、基板S表面が部分的に露光されてパターンが描画される。
【0038】
露光制御部912は、光照射部40を制御して、所定のパワーおよびスポットサイズを有するレーザー光ビームを出射させる。フォーカス制御部913は、露光ヘッド41に設けられた投影光学系(後述)を制御してレーザー光ビームを基板Sの表面に収束させる。
【0039】
ステージ制御部914はステージ駆動機構3を制御して、アライメント調整のためのステージ2の移動および露光時の走査移動のためのステージ2の移動を実現する。アライメント調整においては、ステージ2に載置された基板Sと露光ヘッド41との間における露光開始時の相対的な位置関係が予め定められた関係となるように、ステージ2の位置がX方向、Y方向、Z方向およびθ方向に調整される。一方、走査移動においては、ステージ2を一定速度でY方向に移動させることで基板Sを露光ヘッド41の下方を通過させる主走査移動と、一定ピッチでのX方向へのステップ送り(副走査移動)とが組み合わせられる。
【0040】
図3は露光ヘッドが備える詳細構成の一例を模式的に示す図である。
図3に示すように、露光ヘッド41では、回折光学素子411を有する空間光変調器410が設けられている。具体的には、露光ヘッド41に上下方向(Z方向)に延設された支柱400の上部に取り付けられた空間光変調器410は、回折光学素子411の反射面を下方に向けた状態で、可動ステージ412を介して支柱400に支持されている。
【0041】
露光ヘッド41において、回折光学素子411は、その反射面の法線が入射光ビームLの進行方向に対して傾斜して配置されており、照明光学系53から射出された光は、支柱400の開口を通してミラー413に入射し、ミラー413によって反射された後に回折光学素子411に照射される。そして、回折光学素子411の各チャンネルの状態が露光データに応じて制御部9によって切り換えられて、回折光学素子411に入射したレーザー光ビームLが変調される。
【0042】
そして、回折光学素子411から0次回折光として反射されたレーザー光が投影光学系414のレンズへ入射する一方、回折光学素子411から1次以上の回折光として反射されたレーザー光は投影光学系414のレンズへ入射しない。つまり、基本的には回折光学素子411で反射された0次回折光のみが投影光学系414へ入射するように構成されている。0次回折光が(-Z)方向へ出射されるように、回折光学素子411は配置されている。
【0043】
回折光学素子411としては、一定光量の入射光に対し出射光の光量を多段階に変更可能な、つまり入射光を多段階の階調レベルで変調して出射することのできる各種の素子を用いることができる。例えば、リボン型の回折格子をMEMS(Micro Electro Mechanical System;微小電気機械システム)により駆動する、シリコン・ライト・マシーンズ社のGLV(Grating Light Valve;「GLV」は同社の登録商標)素子を好適に適用可能である。この素子では、入射光を最大1024段階の強度に変調した光を出射することが可能である。
【0044】
投影光学系414のレンズを通過した光は、フォーカシングレンズ415により収束され、(-Z)方向を進行方向とする、つまり下向きの露光ビームとして所定の倍率にて基板S上へ導かれる。投影光学系414は縮小光学系を構成している。このフォーカシングレンズ415はフォーカス駆動機構416に取り付けられている。そして、制御部9のフォーカス制御部913からの制御指令に応じてフォーカス駆動機構416がフォーカシングレンズ415を鉛直方向(Z軸方向)に沿って昇降させることで、フォーカシングレンズ415から射出された露光ビームの収束位置が基板Sの上面に調整される。
【0045】
図3に一点鎖線で示されるレーザー光ビームLの光路に沿って示すように、光照射部40から露光ヘッド41へ案内されるレーザー光ビームLは、X方向を長軸方向、Z方向を短軸方向としてX方向に均一に細長く延びるビームスポット形状を有している。一方、光変調器410により変調された後の変調レーザー光ビームLmは、X方向を長軸方向、Y方向を短軸方向としており、しかも、X方向の各位置における強度が露光データに応じて変調されている。さらに、投影光学系414から基板Sに向けて出射される露光ビームLeは、変調されたレーザー光ビームLmをX方向およびY方向に縮小したものとなっている。このようにスポットサイズが絞り込まれた露光ビームLeを基板Sの被露光面に入射させることで、基板Sの表面に微細なパターンを描画することができる。
【0046】
露光データに応じて変調された露光ビームLeを基板Sに入射させながら、露光ヘッド41と基板SとをY方向に相対移動させることで、基板Sのうち、露光ビームLeのX方向におけるスポットサイズと同等の幅を有しY方向に延びる帯状の領域を露光することができる。X方向における露光ヘッド41と基板Sとの相対位置を順次変更しながら露光を繰り返し行うことで、最終的には基板Sの全体を露光することができる。
【0047】
このように、露光ヘッド41と基板Sとの間で、Y方向への走査移動とX方向への走査移動とを組み合わせることで、基板Sの全体に描画を行うことができる。本明細書では、Y方向への走査移動を「主走査移動」と称し、Y方向を「主走査方向Dm」と称する。一方、X方向への走査移動を「副走査移動」と称し、Y方向を「副走査方向Ds」と称する。この実施形態では、固定された露光ヘッド41に対し基板Sを支持するステージ2が移動することで、これらの走査移動が実現される。
【0048】
上記のような構成を有する露光ユニット4については、X方向に位置を異ならせて複数設けることが可能である。この実施形態では、互いに同一の構成を有する露光ユニット4が5組設けられており、これらが並列的に露光ビームLeを出射し描画を行うことで、描画処理のスループット向上が図られている。なお、これらの露光ユニット4は互いに独立して動作し得るが、構造上、基板Sに対する走査移動については画一的である。
【0049】
図4は上記のように構成された露光装置により実行される処理を示すフローチャートである。この動作は、制御部9のCPU91がストレージ93に予め記録された制御プログラム931を実行し、上記した装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。
【0050】
露光対象となる基板Sがステージ2にセットされると(ステップS101)、ステージ2上における基板Sの姿勢と描画パターンとの位置を合わせるためのアライメント調整が行われる(ステップS102)。アライメント調整の方法については多くの公知技術があるため、ここでは説明を省略する。
【0051】
これと並行して、または前後して、露光データ生成部911は、ストレージ93に保存されているCADデータ932を読み出し(ステップS103)、これに基づきラスターデータを作成する(ステップS104)。描画すべきパターンの形状やサイズ等を表す設計データであるCADデータ932は、一般にベクターデータとして作成されている。一方、空間光変調器410、より具体的には回折光学素子411の制御に適しているのは、パターンを所定のグリッドサイズで分割した画素単位で表現したラスターデータ(ビットマップデータ)である。
【0052】
そこで、露光データ生成部911は、ベクターデータを変換してラスターデータを作成するためのデータ処理を実行する(ステップS104)。この場合のデータ処理の詳細については、後に2つの具体的な実施形態を例示して説明する。
【0053】
こうしてアライメント調整およびラスターデータ作成により得られた結果に基づき、露光データ生成部911は、実際に空間光変調器410に与えられる露光データを作成する(ステップS105)。ステージ2への載置時の位置ずれや基板S自体の歪み等に起因して、作成されたラスターデータをそのまま空間光変調器410の制御に適用した場合、基板S上での描画位置が所期のものからずれてしまうことがあり得る。この問題を解消するため、ラスターデータに対し、アライメント調整の結果を反映させた補正を施すことにより、最終的に空間光変調器410に与えられる露光データが作成される(ステップS105)。この目的のための補正方法については公知であるため、ここでは説明を省略する。
【0054】
その後、ステージ2が所定の描画開始位置に位置決めされ(ステップS106)、露光ヘッド41に対する基板Sの主走査方向移動が開始されるとともに(ステップS107)、露光ヘッド41から露光ビームLeを基板Sに照射して描画を行う(露光動作)。1回の主走査移動で露光される領域を、ここでは「ストライプ」と称する。また、1枚の基板Sに対する一連の処理を、1つの「ジョブ」と称する。
【0055】
1ストライプ分の露光が終了するまで(ステップS108においてNO)、露光動作は継続される。1ストライプ分の露光が終了すると(ステップS108においてYES)、1ジョブ分の処理が終了したか否かが判断される(ステップS109)。処理が終了していなければ(ステップS109においてNO)、つまり未露光の領域が残っていれば、ステージSが副走査方向(X方向)へ所定のピッチだけステップ送りされる(副走査移動、ステップS110)。そして、ステップS107に戻って次の1ストライプ分の露光動作が行われる。
【0056】
1ジョブ分の処理が終了していれば(ステップS109においてYES)、露光ヘッド41からの光照射およびステージ2の移動は停止され、露光された基板Sが搬出される(ステップS111)。これにより、1枚の基板Sに対する処理が完了する。
【0057】
次に、CADデータ932からラスターデータを作成する際のデータ処理、すなわちラスタライズ処理について説明する。ラスターデータは描画パターンを所定のグリッドサイズで区分した画素単位で画素値が与えられるものである一方で、一般にベクターデータであるCADデータ932にはこのようなグリッドサイズの制約がない。このため、以下に説明するように、CADデータ932で表される本来のパターンと、ラスターデータで近似的に表されるパターンとではある程度の乖離が生じることが避けられない。
【0058】
図5はベクターデータおよびラスターデータで表されるパターンの違いを模式的に示す図である。ここでは一般的な事例として、ラスターデータは、互いに直交する主走査方向Dmおよび副走査方向Dsに対応する方向をそれぞれグリッド方向とするグリッドGを用いて作成されるものとする。
図1等に示される座標系と、データ処理上の概念である画像平面内での座標とを区別するため、以下では、主走査方向Dm(Y方向)に対応するグリッドG内の座標軸をy軸、副走査方向Ds(X方向)に対応する画像平面内の座標軸をx軸により、それぞれ表すこととする。
【0059】
この露光装置1では、光照射部40から空間光変調器410および投影光学系414を介して基板Sに照射されるラインビームはX方向を長手方向としており、空間光変調器410においても、回折光学素子411はX方向に延びている。したがって、ラスターデータにおいて、x方向のグリッドサイズは主として回折光学素子411の格子構造に基づく分解能により規制され、y方向のグリッドサイズは主として回折光学素子411の動作速度(動作周波数)により規制される。
【0060】
図5(a)に示すように、ベクターデータで表されるパターンPvは、ラスターデータのグリッドGとは無関係に、本来的に描画されるべきパターンの形状を表している。ここでは、グリッド方向に対して斜交する帯状のパターンPvを考える。一方、
図5(b)に示すように、グリッドで区分される画素単位で表されるラスターデータ上のパターンPrは、グリッドサイズに応じた階段状のジャギーを含み得る。特に、ベクターデータで表されるパターンPvのエッジ形状と、ラスターデータで表されるパターンPrのエッジ形状との間で明確な違いが現れる。この乖離の大きさがパターンの滑らかさを減殺させる一因となっている。
【0061】
グリッドサイズをより小さくすることでこの乖離を小さくしパターンをより滑らかにすることは可能であるが、上記した通り、グリッドサイズについては、ハードウェア上の制約からその微細化には限度がある。以下では、ベクターデータで表されるパターンPvのエッジと、ラスターデータで表されるパターンPrのエッジとの乖離の大きさを、当該エッジを含む画素またはその周辺画素の階調値に反映させることにより、グリッドサイズを変えることなくより滑らかなパターンを得ることのできる2つの実施形態について説明する。これらの2つの処理は、
図4におけるステップS104での処理として選択的に実行可能なものである。基本的には、パターンのエッジを含む画素については露光量を減らすことでパターンの膨張を防止する一方、エッジを含まないがそれに近い画素については露光量を増やしてパターンを膨張させることで、それぞれ本来の位置に近づけてエッジを形成することができる。
【0062】
<第1実施形態>
図6はラスターデータ作成処理の第1実施形態の原理を説明する図である。また、
図7はこの処理を示すフローチャートである。この実施形態では、
図6(a)に示すように、点線で示されるグリッドをさらに細かいグリッドに分割する。ここでは、各グリッドがy方向(主走査方向Dmに相当)に沿って、つまりy方向に延びる直線(破線)を用いて、等間隔に分割される。この例では1つのグリッドが4等分されてy方向に細長い4つのグリッドが生成される。x方向のグリッドサイズを4等分するとも言える。ここでのグリッドの分割はデータ処理上の仮想的なものであり、後述するように、最終的に露光に使用されるラスターデータは元のグリッドサイズに準拠したものとなる。
【0063】
本明細書では、露光時に使用されるラスターデータにおける本来のグリッドを「目標グリッドGt」、そのサイズを「目標グリッドサイズ」と称することとする。また、データ処理の過程で設定される仮想的なグリッドを「仮グリッドGc」、そのサイズを「仮グリッドサイズ」と称することにする。この分割例では、x方向における仮グリッドサイズSxcは目標グリッドサイズSxtの(1/4)となる一方、y方向のグリッドサイズSyは不変である。
【0064】
なお、目標グリッドサイズから仮グリッドサイズへの分割数は任意であり、制御部9の演算処理能力が及ぶ限りにおいて、ハードウェアによる制約を受けない。一般化すれば、2以上の整数Nを用いて、グリッドをN等分する、と言うことができる。グリッドサイズとしては、分割により(1/N)倍になると言える(ステップS201)。
【0065】
次に、分割後のグリッドサイズ(仮グリッドサイズ)を適用して、CADデータ932からラスターデータへの変換(ラスタライズ)が実行される(ステップS202)。ここでのラスタライズはパターンを2値で表すものである。例えば、露光されるべき画素に対して画素値1、そうでない画素に対して画素値0を与えることで、2値ラスターデータが得られる。
【0066】
分割後の細かいグリッドGcでラスタライズが実行されることで、
図6(b)に示すように、
図5(b)のパターンPrと比較してより本来のパターンPvに近い、つまりより滑らかなパターンPr2が得られる。ただし、こうして得られたラスターデータは、そのまま空間光変調器410の制御に使うことはできないものである。そこで、この結果を目標グリッドサイズの各画素の画素値(階調値)に反映させることで、滑らかなパターンの実現を図る。
【0067】
すなわち、目標グリッドで区分される1つの注目画素に対し、当該注目画素に含まれるパターンの本来のエッジと、ラスタライズにより設定される計算上のエッジとの乖離の大きさ(以下、「エッジ乖離度」ということがある)に応じた重みを有する階調値を与える。言い換えれば、当該注目画素に画素値「1」を与えて露光したときに形成されるエッジが本来のエッジに近いほど、高い階調値が注目画素に与えられる。
【0068】
より具体的には、目標グリッドGtで区分される1つの注目画素に含まれる、仮グリッドGcで区分される4つの画素の画素値の合計に応じて、当該注目画素の階調値を設定する(ステップS203)。より具体的には、この合計が大きいほど値が大きくなるように、注目画素の階調値が設定される。例えば、仮グリッドサイズで2値ラスタライズされた4つの画素全てに画素値「1」が与えられているとき、これらを含む画素には階調値「100%」が割り当てられる。階調値「100%」は、二値化データにおける画素値「1」に対応する。
【0069】
同様に、4つの画素のうち3つが画素値「1」のとき階調値「75%」が、4つの画素のうち2つが画素値「1」のとき階調値「50%」が、4つの画素のうち1つが画素値「1」のとき階調値「25%」が、それらを含む目標グリッドサイズの注目画素に割り当てられる。4つの画素が全て画素値「0」である場合には、それらを含む目標グリッドサイズの画素にも階調値「0%」が割り当てられる。階調値「0%」は、二値化データにおける画素値「0」に対応する。つまり、最小階調値0%と最大階調値100%との間が4等分(一般化すればN等分)されて各階調値が設定される。そして、それらの階調値の割り当ては、上記の通り、注目画素内の画素値の合計に応じたものとなる。
【0070】
図6(c)は、このようにして多階調化されたラスターデータを視覚化したものであり、このときのパターンPr3では、各画素に付与された階調値が濃淡に置き換えて表現されている。これからわかるように、パターンPr3のうち元のパターンPvの内部に含まれる画素については100%の階調値が与えられる一方、エッジを含む画素については、当該画素により表現されるエッジと本来のエッジとの乖離の程度に応じた階調値が与えられる。
【0071】
このようなラスターデータに基づく露光を行うことで、エッジ乖離度に応じて各画素の露光量が増減される。低い階調値が与えられた、つまり露光量が弱められた画素は、強いエッジを形成せず隣接する画素を膨張させるように作用するため、ジャギーの発生が抑えられて滑らかなパターンを得ることが可能となる。
【0072】
図8は第1実施形態の効果を例示する図である。
図1に示す露光装置1を用いて基板S上に曲線を含むパターンを形成する露光を行い、形成されたパターンの評価を行った。
図8(a)は比較例であり、CADデータから直接目標サイズのラスタライズを行って露光したときの結果パターンおよびその一部拡大図を示している。一方、
図8(b)は本実施形態のデータ処理を適用した例であり、
図8(a)のパターンと比較して、より滑らかな描画結果が得られることが示されている。
【0073】
<第1実施形態の変形例>
図9は第1実施形態の第1の変形例を示す図である。特許文献1に示されるように、ラスターデータが主走査方向の画素の連続性に着目したランレングスデータにより表されているケースも多い。例えばステップS202における仮グリッドサイズでのラスタライズの結果をランレングスデータとして表した場合、
図9に示すように、ラスターデータではy方向に連続する一連の画素が1本のランRとして表される。
【0074】
このような場合には、目標グリッドサイズの各画素の階調値を、当該画素を通るランRの本数に応じて定めればよい。例えば注目画素内に4本のランRが並ぶ場合には階調値100%を、3本のランRが並ぶ場合には階調値75%をそれぞれ与えることができる。このように画素内のラン本数に応じて階調値を割り当てることによっても、各画素にエッジ乖離度に応じた階調値を与えることができ、それにより、ジャギーを抑えた滑らかなパターンを得ることが可能となる。
【0075】
図10は第1実施形態の第2の変形例を示す図である。上記実施形態では、仮グリッドサイズの設定に際し、各画素はy方向の直線で4等分される。しかしながら、
図9に示すように、x方向およびy方向のそれぞれで細分化されたグリッドGc2を適用することによっても、同様の効果を得ることが可能である。ただし、ラスターデータをランレングス化する場合には、グリッドの細分化に伴いランの単位長さも小さくなってしまうため、元の目標グリッドサイズのデータに変換する際の処理が複雑になるという問題が生じる。この点においては上記実施形態の手法がより好ましいと言える。
【0076】
<第2実施形態>
図11はラスターデータ作成処理の第2実施形態の原理を説明する図である。また、
図12はこの処理を示すフローチャートである。第2実施形態のラスターデータ作成処理は、特にパターンが一定幅のラインパターンであるときに有効なものである。このようなラインパターンの作成において生じるジャギーは、パターン幅の変動をもたらす。例えば電子デバイスの配線としてパターンが形成される場合、パターン幅の変動は製造されたデバイスの特性が不安定にさせる原因となり得る。
【0077】
この実施形態では、第1実施形態よりも巨視的な観点でパターンの特徴を把握しそれを反映させたラスタライズを行うことで、ラインパターンの幅の均一性を保っている。具体的には、
図11に示すように、グリッド方向に対してラインパターンのエッジがなす角度θを、描画すべきパターンの形状を規定したCADデータ932から算出する(ステップS301)。ベクターデータであるCADデータ932には、エッジの延びる方向を規定する情報が含まれているから、それを用いて角度θを求めることが可能である。
図11に示すように、角度θについては、系として一貫している限りにおいて、x方向に対する角度、y方向に対する角度のいずれで定義されてもよい。この実施形態では、x方向に対してパターンがなす角度θを用いるものとする。
【0078】
続いて、CADデータ932に基づくラスタライズを実行して、ラスターデータを作成する(ステップS302)。この場合のラスタライズは目標グリッドサイズでの処理でよく、また結果としての階調数も任意である。例えば第1実施形態の処理が適用されてもよい。そして、こうして求められたラスターデータにより表される各画素の画素値を、角度θの値に応じて補正する(ステップS303)。
【0079】
本願発明者の知見によれば、グリッドの粗さによって生じるジャギーに起因するパターン幅の変動は、グリッド方向に対するパターンの角度に対する依存性を有する。具体的には、パターンの傾きが小さい(例えばθ=10°程度)のとき、ラスタリングによりパターンのエッジ部分が除外されやすい(すなわち露光に反映されない)傾向があり、パターン幅は本来より狭くなる。一方、傾きが大きい(例えばθ=80°程度)のとき、上記とは逆にパターン幅が広くなる傾向がある。
【0080】
そこで、この実施形態では、ラスタライズにより2値またはそれ以上の多値で表される各画素の画素値に対し、パターンの角度θに応じた補正を行うこととしている。こうすることで、パターンの傾きに起因するパターン幅の変動を抑えることが可能となる。具体的な補正方法は以下の通りである。
【0081】
図13は第2実施形態におけるラスターデータの補正方法を示す図である。
図13(a)に示すように、この実施形態では、パターンの角度θと、それに対応する補正係数Cと、最終的に得られる照射光量(ドーズ量)Dとの関係がテーブル化されて予めストレージ93に記憶保存されている。
図12に示す処理のステップS301,S302により、パターンの角度θとラスタライズ後の各画素の画素値とが求まると、ステップS303ではこのテーブルTを参照して画素値が補正される。具体的には、各画素の画素値に対して、角度θに応じた補正係数Cを乗じた値が、補正後の画素値とされる。
【0082】
例えば階調値100%(または画素値1)の画素に対するドーズ量Dについては、角度θの変数として次式:
D(θ)=C(θ)・D0
により表すことができる。ここで、記号D0は角度θがゼロ、つまりパターンがx軸に平行な場合のドーズ量を表す。ドーズ量D0の値は基板Sに形成された感光材料によって異なる。階調値が100%より小さい場合には、それに応じてドーズ量も低減される。このようにして中間調を実現することにより、パターンの傾きに応じて露光量が増減されることとなり、パターン幅の変動を抑えることができる。この補正は、当該パターンに含まれる全ての画素に対して適用されてもよく、またそのうちパターンのエッジ近傍の画素に対してのみ適用されてもよい。
【0083】
前述の通り、角度θが小さいときにパターン幅は本来より狭く、逆に角度θが大きいときにはパターン幅が本来より太くなる傾向がある。また、角度θが0°および90°のとき、傾きに起因するパターン幅の増減は原理的になく、したがって補正は不要であり補正係数Cは100%である。
【0084】
このことから、補正係数Cは、角度θに対し例えば
図13(b)に示すような変化傾向を示す。ただし、実際の角度ごとの補正係数Cの値については、感光層の感度や照射光の波長、グリッドサイズ、主走査移動における移動速度等、種々の複合的な要因によって決まるため、一概に定められるものではない。このため具体的な数値の記載は省く。例えば事前の実験によって角度θとパターン幅の変動量との関係を把握し、それに基づいてテーブルTを作成しておくことができる。補正係数Cを角度θによらず100%とした状態が、傾きに応じた補正を行わない従来技術に相当することとなる。
【0085】
また、ユーザーがその目的等に応じてテーブルTを事後的に編集することができる機能を設けておくことが好ましい。例えば表示部95にテーブルTを表示し、入力部94を介したユーザーの編集操作入力を受け付けるようにすることで、このような機能を実現することが可能である。このとき、ドーズ量Dについては上式により自動的に求められるため、ユーザーは角度θに応じた補正係数Cの値のみを編集すればよい。なお、角度θの刻みについては図示のものに限定されず任意であり、また例えば角度値自体をユーザーが編集することができるようにしてもよい。
【0086】
なお、
図13(b)に示されるように、本来より細くなるパターン幅を補うために、補正係数Cは100%を超える場合があり得る。100%を超える照射光出力を実現可能とするために、この実施形態における階調値「100%」は、入力階調に対する回折光学素子411の応答が概ね線形である領域のうち、その上限からいくらか下がった(例えば上限値の90%に相当する)点に設定されることが望ましい。こうすることで、100%を超える領域にマージンを設けることができ、このマージン分を用いて必要な補正を行うことができる。
【0087】
この実施形態においても、ラスタライズによって生じるエッジと実際のパターンエッジとの乖離の程度(エッジ乖離度)が、画素の集まりを巨視的に見たときのパターンの傾き(角度θ)というファクターを介して画素値の重みに反映されていると言える。
【0088】
<その他>
以上説明したように、上記説明においては基板Sが本発明の「被露光物」に相当している。そして、本実施形態の露光装置1においては、ステージ2、露光ヘッド41、制御部9が、それぞれ本発明の「保持部」、「露光部」、「制御部」として機能している。また、空間光変調器410が本発明の「光変調器」として機能しており、そのうち回折光学素子411が、本発明の「空間光変調素子」として機能している。
【0089】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記説明で使用した描画パターンPvはその一例を示したものであり、本発明はこれに限定されず各種の形状を有するパターンに対して有効である。
【0090】
また例えば、上記実施形態の露光装置1は、本発明に係るデータ処理方法およびそれを用いた露光方法を実行するための制御プログラムを予め実装されたものである。しかしながら、光変調器が光ビームを多階調(例えば4段階以上)に変調する機能を有し、かつ十分な演算能力を有していれば、既存の露光装置に制御プログラムを実装することで、当該既存装置で本発明を実行させることも可能である。
【0091】
この意味において、本発明は、本発明に係るデータ処理方法およびそれを用いた露光方法の少なくとも一方をコンピューターに実行させるコンピュータープログラムとして、また当該コンピュータープログラムを非一時的に記録した記録媒体として実施することも可能である。
【0092】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る露光方法の第1の態様において、例えば露光工程では、変調された光ビームを出射する露光部と、被露光物とを相対的に主走査方向に移動させながら光ビームを被露光物に照射し、データ作成工程では、主走査方向とその直交方向とにそれぞれ対応する方向をグリッド方向としてラスタライズを実行し、グリッド方向のうち主走査方向に対応する方向に沿って目標グリッドサイズをN等分することで仮グリッドサイズを決定することができる。
【0093】
このような構成によれば、仮グリッドサイズで作成されるラスターデータを、主走査方向に一列に並ぶ画素をまとめたランレングスデータとして表すことが可能である。これにより、ラスタライズ後のデータ量を小さくすることが可能である。同様の理由により、本発明に係るデータ処理方法の第1の態様では、仮グリッドサイズは、目標グリッドサイズを一のグリッド方向に沿ってN等分したものとすることができる。
【0094】
また、本発明に係る露光方法においては、例えば、ラスターデータに対し被露光物への光ビームの入射位置を調整するための補正処理を行い、補正後のデータに基づき光変調器を制御する構成とされてもよい。被露光物の設置状況や変形などにより、被露光物に対する光ビームの入射位置が所期の位置からずれることがあり得る。これらに対応してラスターデータを補正することで、被露光物の適正位置を露光することが可能である。
【0095】
また、本発明に係るデータ処理方法の第1の態様では、例えば、N個の画素の画素値の合計が大きいほど、それらの画素を構成要素とする目標グリッドサイズの画素に、高い階調値が与えられるようにすることができる。このような構成によれば、N個の画素が有する重みを階調値に置き換えて表現することが可能である。また例えば、(N+1)段階の階調値は、最小階調値から最大階調値までを均等に分割したものとすることができる。仮グリッドサイズの画素は2値表現されているから、それらN個の画素値の合計が取り得る値は(N+1)段階であり、しかも隣り合う値の差は一定である。このことは、画像値の合計を階調値に表す際の階調値を(N+1)段階とし、しかも隣り合う階調値の差も一定とすればよいことを意味している。最小階調値から最大階調値までの間をN等分することにより、これを実現することが可能である。
【0096】
また、本発明に係るデータ処理方法の第2態様では、角度と画素値の補正量とを対応付けたテーブルが予め準備されてもよい。このような構成によれば、パターンの角度が求められれば、テーブル参照により、直ちに補正量を決定することができる。さらに、当該テーブルは、ユーザー操作により編集可能とされてもよい。こうすることで、ユーザーの目的に応じてパターン幅の出来栄えを調整することが可能となる。
【0097】
また、本発明に係る露光装置において、光変調器として、例えば微小電気機械システムにより駆動される回折格子を用いた回折光学素子を含む空間光変調器を用いることができる。このような構成によれば、回折光学素子に与える電気信号により変調光の階調レベルを多段階に変更設定することができ、本発明を実施するのに好適である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
この発明は、例えば半導体基板、半導体パッケージ基板、プリント配線基板あるいはガラス基板等の基板にパターンを形成するために基板を露光する技術分野に好適である。
【符号の説明】
【0099】
1 露光装置
2 ステージ(保持部)
3 ステージ移動機構
9 制御部
41 露光ヘッド(露光部)
410 空間光変調器(光変調器)
411 回折光学素子(空間光変調素子)
932 CADデータ(設計データ)
Dm 主走査方向
Ds 副走査方向
L レーザー光ビーム
Le 露光ビーム
S 基板(被露光物)
Sxc 仮グリッドサイズ
Sxt 目標グリッドサイズ