(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046879
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】ハイブリッド車の制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 20/15 20160101AFI20240329BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20240329BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240329BHJP
B60K 6/543 20071001ALI20240329BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240329BHJP
【FI】
B60W20/15
B60K6/48 ZHV
B60W10/08 900
B60K6/543
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152226
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】渡部 哲平
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB16
3D202CC04
3D202CC24
3D202DD01
3D202DD18
3D202DD24
3D202DD26
3D202DD33
3D202DD38
3D202FF05
3D202FF13
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA02
5H125CA09
5H125CC01
5H125EE08
5H125EE44
(57)【要約】
【課題】エンジンが停止されるとともに、エンジンと無段変速機との間に介装されるクラッチが解放され、電動モータのみにより車両が駆動されるEV走行時に車両が急減速した場合であっても、無段変速機の駆動力伝達部材(チェーン等)のスリップをより確実に防止することが可能なハイブリッド車の制御システムを提供する。
【解決手段】ハイブリッド車の制御システム1を構成するTCU74は、エンジン10が停止されるとともに、エンジン10と無段変速機50との間に介装される前進クラッチ32及び後進ブレーキ33が解放され、電動モータ40のみにより車両が駆動されるEV走行時に、所定の許可条件が成立した場合に、急減速判定許可フラグを送出し、MCU72は、急減速判定許可フラグを受信した場合に、車両の急減速判定を実行し、急減速が生じていると判定したときに、電動モータ40の出力トルクを低減する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び電動モータそれぞれとトルク伝達可能に接続されるプライマリプーリ、駆動輪とトルク伝達可能に接続されるセカンダリプーリ、及び、前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとの間に巻き掛けられる駆動力伝達部材を有する無段変速機を制御するトランスミッションコントロールユニットと、前記電動モータを制御するモータコントロールユニットと、前記トランスミッションコントロールユニット及び前記モータコントロールユニットそれぞれと通信ネットワークを介して互いに通信可能に接続され、前記エンジン及びハイブリッド車を統括的に制御するエンジン-ハイブリッド車統合コントロールユニットと、を備えるハイブリッド車の制御システムにおいて、
前記トランスミッションコントロールユニットは、前記エンジンが停止されるとともに、前記エンジンと前記無段変速機との間に介装されるクラッチが解放され、前記電動モータのみにより車両が駆動されるEV走行時に、所定の許可条件が成立した場合に、急減速判定許可情報を送出し、
前記モータコントロールユニットは、前記急減速判定許可情報を受信した場合に、車両の急減速判定を実行し、急減速が生じていると判定したときに、前記電動モータの出力トルクを低減することを特徴とするハイブリッド車の制御システム。
【請求項2】
前記モータコントロールユニットは、前記トランスミッションコントロールユニットよりも処理周期が短いことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車の制御システム。
【請求項3】
前記モータコントロールユニットには、車速を検出する車速センサよりも高分解能であり、かつ、センシング周期が短いモータ回転数センサが接続されており、
前記モータコントロールユニットは、前記モータ回転数センサの検出値を用いて車両の急減速判定を行うことを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車の制御システム。
【請求項4】
前記エンジン-ハイブリッド車統合コントロールユニットは、前記急減速判定許可情報が送出された場合に、前記急減速判定許可情報を前記モータコントロールユニットに対して中継することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車の制御システム。
【請求項5】
前記モータコントロールユニットは、前記電動モータのトルク低減を開始した後、所定時間が経過したときに、前記電動モータのトルク低減を解除することを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンと電動モータとを併用することで車両の燃料消費率(燃費)を効果的に向上させることができるハイブリッド車(HEV)が広く実用化されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エンジンとモータとの間に設けられ両者間を締結状態または遮断状態とする油圧クラッチと、モータ側にプライマリプーリ、車軸側にセカンダリプーリを有し、変速比を変化させる無段変速機と、油圧クラッチのエンジン側およびモータ側それぞれに接続され、エンジンおよびモータのうちの回転が速い方によって駆動される油圧ポンプとを備えるハイブリッド車両の制御装置が開示されている。
【0004】
特許文献1のハイブリッド車両の制御装置では、HEVCU、TCU、ECUおよびMCUそれぞれが協働して、エンジンが停止状態かつ油圧クラッチが遮断状態となるモータによる走行中に車速が急激に低下したときに、油圧クラッチの遮断状態を維持しつつエンジンを始動させる。これにより、モータによる走行中に急減速したとしても(モータの回転数が低下したとしても)エンジンを始動させて油圧ポンプを駆動することにより、無段変速機に充分な油液を供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術によれば、EV走行中に急減速が生じた場合に、エンジンが再始動され、油圧ポンプが駆動される。そして、無段変速機に油圧が供給される。しかしながら、例えば、車速等のセンシングの遅れ、各コントロールユニット間の通信の遅れ、急減速判定等の処理の遅れ、さらに、急減速していると判定されてから、エンジンがクランキングされて再始動され、オイルポンプが駆動されて油圧が立ち上がるまでの遅れ等により、急減速に伴うオイルポンプの回転数低下による油圧低下に対して、エンジン再始動による油圧の立ち上りが間に合わず、無段変速機(バリエータ)のチェーン等(駆動力伝達部材)がスリップするおそれがある。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、エンジン及び電動モータそれぞれとトルク伝達可能に接続されるプライマリプーリ、駆動輪とトルク伝達可能に接続されるセカンダリプーリ、及び、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間に巻き掛けられる駆動力伝達部材(チェーン等)を有する無段変速機を制御するトランスミッションコントロールユニットと、電動モータを制御するモータコントロールユニットと、トランスミッションコントロールユニット及びモータコントロールユニットそれぞれと通信ネットワークを介して互いに通信可能に接続され、エンジン及びハイブリッド車を統括的に制御するエンジン-ハイブリッド車統合コントロールユニットと、を備えるハイブリッド車の制御システムにおいて、エンジンが停止されるとともに、エンジンと無段変速機との間に介装されるクラッチが解放され、電動モータのみにより車両が駆動されるEV走行時に車両が急減速した場合であっても、無段変速機の駆動力伝達部材(チェーン等)のスリップをより確実に防止することが可能なハイブリッド車の制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るハイブリッド車の制御システムは、エンジン及び電動モータそれぞれとトルク伝達可能に接続されるプライマリプーリ、駆動輪とトルク伝達可能に接続されるセカンダリプーリ、及び、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間に巻き掛けられる駆動力伝達部材を有する無段変速機を制御するトランスミッションコントロールユニットと、電動モータを制御するモータコントロールユニットと、トランスミッションコントロールユニット及びモータコントロールユニットそれぞれと通信ネットワークを介して互いに通信可能に接続され、エンジン及びハイブリッド車を統括的に制御するエンジン-ハイブリッド車統合コントロールユニットと、を備えるハイブリッド車の制御システムであって、トランスミッションコントロールユニットが、エンジンが停止されるとともに、エンジンと無段変速機との間に介装されるクラッチが解放され、電動モータのみにより車両が駆動されるEV走行時に、所定の許可条件が成立した場合に、急減速判定許可情報を送出し、モータコントロールユニットが、急減速判定許可情報を受信した場合に、車両の急減速判定を実行し、急減速が生じていると判定したときに、電動モータの出力トルクを低減することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エンジン及び電動モータそれぞれとトルク伝達可能に接続されるプライマリプーリ、駆動輪とトルク伝達可能に接続されるセカンダリプーリ、及び、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間に巻き掛けられる駆動力伝達部材(チェーン等)を有する無段変速機を制御するトランスミッションコントロールユニットと、電動モータを制御するモータコントロールユニットと、トランスミッションコントロールユニット及びモータコントロールユニットそれぞれと通信ネットワークを介して互いに通信可能に接続され、エンジン及びハイブリッド車を統括的に制御するエンジン-ハイブリッド車統合コントロールユニットと、を備えるハイブリッド車の制御システムにおいて、エンジンが停止されるとともに、エンジンと無段変速機との間に介装されるクラッチが解放され、電動モータのみにより車両が駆動されるEV走行時に車両が急減速した場合であっても、無段変速機の駆動力伝達部材(チェーン等)のスリップをより確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係るハイブリッド車の制御システム、及び、該制御システムが適用されたハイブリッド車の要部の構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係るハイブリッド車の制御システムによる急減速時チェーンスリップ防止制御の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】実施形態に係るハイブリッド車の制御システム、及び、比較例に係るハイブリッド車の制御システム(従来制御システム)それぞれの、EV走行中の急減速時におけるモータトルク、プライマリプーリ軸回転数、実ライン圧の変化の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0012】
まず、
図1を用いて、実施形態に係るハイブリッド車の制御システム1、及び、該制御システム1が適用されたハイブリッド車の要部の構成について説明する。
図1は、ハイブリッド車の制御システム1、及び、該制御システム1が適用されたハイブリッド車の要部の構成を示す図である。
【0013】
エンジン10は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の筒内噴射式4気筒ガソリンエンジンである。エンジン10では、エアクリーナ(図示省略)から吸入された空気が、吸気管に設けられた電子制御式のスロットルバルブにより絞られ、インテークマニホールドを通り、エンジン10に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量はエアフローメータ83により検出される。さらに、スロットルバルブには、該スロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサが配設されている。各気筒には、燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている。また、各気筒には混合気に点火する点火プラグ、及び、該点火プラグに高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイルが取り付けられている。エンジン10の各気筒では、吸入された空気とインジェクタによって噴射された燃料との混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管を通して排出される。
【0014】
上述したエアフローメータ83、スロットル開度センサに加え、エンジン10のカムシャフト近傍には、エンジン10の気筒判別を行うためのカム角センサが取り付けられている。また、エンジン10のクランク軸15近傍には、クランク軸15の回転位置(回転速度)を検出するクランク角センサ84が取り付けられている。これらのセンサは、後述するエンジン-ハイブリッド車統合コントロールユニット(以下「ENG-HEV統合CU」という)70に接続されている。また、ENG-HEV統合CU70には、エンジン10の冷却水の温度を検出する水温センサ等の各種センサも接続されている。
【0015】
エンジン10のクランク軸15の一方(車両前方側)の端部には、ISG11が取り付けられている。ISG11の出力軸とクランク軸15との間には駆動力を伝達するベルト12が掛け渡されている。これにより、ISG11は、エンジン10のクランク軸15との間で動力伝達可能とされる。ISG11は、エンジン10を始動するスタータモータ、及び、発電機(ジェネレータ)として動作する。
【0016】
エンジン10のクランク軸15の他方(車両後方側)の端部には、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ20、及び、前後進切替機構30を介して、エンジン10からの駆動力を変換して出力する無段変速機50が接続されている。
【0017】
トルクコンバータ20は、主として、ポンプインペラ21、タービンランナ22、及び、ステータ23から構成されている。クランク軸15に接続されたポンプインペラ21がオイルの流れを生み出し、ポンプインペラ21に対向して配置されたタービンランナ22がオイルを介してエンジン10の動力を受けてタービン軸25を駆動する。両者の間に位置するステータ23は、タービンランナ22からの排出流(戻り)を整流し、ポンプインペラ21に還元することでトルク増幅作用を発生させる。
【0018】
また、トルクコンバータ20は、入力と出力とを直結状態にするロックアップクラッチ24を有している。トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ24が締結されていないとき(非ロックアップ状態のとき)はエンジン10の駆動力をトルク増幅して無段変速機50に伝達し、ロックアップクラッチ24が締結されているとき(ロックアップ時)はエンジン10の駆動力を無段変速機50に直接伝達する。トルクコンバータ20を構成するタービンランナ22の回転数(タービン回転数)は、タービン回転センサ87により検出される。検出されたタービン回転数は、後述するトランスミッションコントロールユニット(以下「TCU」という)74に出力される。
【0019】
前後進切替機構30は、駆動輪の正転と逆転(車両の前進と後進)とを切り替えるものである。前後進切替機構30は、主として、ダブルピニオン式の遊星歯車列31、前進クラッチ32及び後進ブレーキ33を備えている。前後進切替機構30では、前進クラッチ32、及び、後進ブレーキ33それぞれの状態を制御することにより、エンジン駆動力の伝達経路を切り替えることが可能に構成されている。
【0020】
より具体的には、Dレンジ(前進走行レンジ)が選択された場合には、前進クラッチ32を締結して後進ブレーキ33を解放することにより、タービン軸25の回転がそのまま後述するプライマリ軸51に伝達され、車両を前進走行させることが可能となる。また、Rレンジ(後進走行レンジ)が選択された場合には、前進クラッチ32を解放して後進ブレーキ33を締結することにより、遊星歯車列31を作動させてプライマリ軸51の回転方向を逆転させることができ、車両を後進走行させることが可能となる。なお、Nレンジ又はPレンジが選択された場合には、前進クラッチ32及び後進ブレーキ33を解放することにより、タービン軸25とプライマリ軸51とは切り離され(エンジン駆動力の伝達が遮断され)、前後進切替機構30はプライマリ軸51に動力を伝達しないニュートラル状態となる。
【0021】
前進クラッチ32及び後進ブレーキ33の動作(締結、解放)は、後述するTCU74、及び、コントロールバルブ75によって制御される。なお、電動モータ40のみにより車両が駆動されるEV走行時には、前進クラッチ32及び後進ブレーキ33が解放され、エンジン10が切り離される。すなわち、前進クラッチ32及び後進ブレーキ33は、特許請求の範囲に記載のクラッチとして機能する。
【0022】
無段変速機50は、前後進切替機構30を介してトルクコンバータ20のタービン軸25と接続されるプライマリ軸51と、該プライマリ軸51と平行に配設されたセカンダリ軸55とを有している。
【0023】
プライマリ軸51には、プライマリプーリ52が設けられている。プライマリプーリ52は、プライマリ軸51に接合された固定シーブ52aと、該固定シーブ52aに対向して、プライマリ軸51の軸方向に摺動自在に装着された可動シーブ52bとを有し、それぞれのシーブ52a,52bのコーン面間隔、すなわちプーリ溝幅を変更できるように構成されている。一方、セカンダリ軸55には、セカンダリプーリ53が設けられている。セカンダリプーリ53は、セカンダリ軸55に接合された固定シーブ53aと、該固定シーブ53aに対向して、セカンダリ軸55の軸方向に摺動自在に装着された可動シーブ53bとを有し、プーリ溝幅を変更できるように構成されている。
【0024】
プライマリプーリ52とセカンダリプーリ53との間には駆動力を伝達するチェーン54(特許請求の範囲に記載の駆動力伝達部材に相当)が巻き掛けられている。プライマリプーリ52及びセカンダリプーリ53の溝幅を変化させて、各プーリ52、53に対するチェーン54の巻き掛け径の比率(プーリ比)を変化させることにより、変速比が無段階に変更される。ここで、チェーン54のプライマリプーリ52に対する巻き掛け径をRpとし、セカンダリプーリ53に対する巻き掛け径をRsとすると、変速比iは、i=Rs/Rpで表される。よって、変速比iは、プライマリプーリ回転数Npをセカンダリプーリ回転数Nsで除算する(i=Np/Ns)ことにより求められる。
【0025】
ここで、プライマリプーリ52の可動シーブ52bの背面側には油圧室52cが形成されている。一方、セカンダリプーリ53の可動シーブ53bの背面側には油圧室53cが形成されている。プライマリプーリ52、セカンダリプーリ53それぞれの溝幅は、プライマリプーリ52の油圧室52cに導入されるプライマリ油圧と、セカンダリプーリ53の油圧室53cに導入されるセカンダリ油圧とを調節することにより設定・変更される。
【0026】
無段変速機50のプライマリ軸51には、電動モータ40がトルク伝達可能に接続されている。電動モータ40は、例えば、三相交流タイプの交流同期モータである。なお、本実施形態では、電動モータ40として、回転子に永久磁石を用い、固定子にコイルを用いるタイプのものを採用した。電動モータ40は、主として車両を駆動する駆動力源として動作し、回生時等には発電機として働く所謂モータジェネレータである。なお、電動モータ40では、回転子にコイルを用い、固定子に永久磁石を用いてもよい。また、電動モータ40として、交流同期モータに代えて、例えば、交流誘導モータや直流モータ等を用いてもよい。
【0027】
無段変速機50には、無段変速機50や、前後進切替機構30、電動モータ40等に用いられるオイルを圧送するためにオイルポンプ35が設けられている。オイルポンプ35は、オイルパン(図示省略)に貯留されているオイルを吸入し、昇圧して、無段変速機50や、前後進切替機構30、電動モータ40等に圧送する。オイルポンプ35としては、例えば、トロコイドポンプやベーンポンプなどが用いられる。オイルポンプ35の駆動軸は、例えば、チェーン等を介して、ポンプインペラ21(クランク軸15)及びプライマリ軸51それぞれとトルク伝達可能に接続されている。すなわち、オイルポンプ35は、エンジン10及び電動モータ40それぞれによって駆動可能に構成されている。
【0028】
より具体的には、オイルポンプ35の駆動軸は、第1のワンウェイクラッチ36を介してエンジン10とトルク伝達可能に接続されるとともに、第2のワンウェイクラッチ37を介して電動モータ40とトルク伝達可能に接続されている。そのため、オイルポンプ35は、エンジン10及び電動モータ40のうち、いずれか回転数の高い方によって駆動される。
【0029】
無段変速機50のセカンダリ軸55は、一対のギヤ(リダクションドライブギヤ、リダクションドリブンギヤ)からなるリダクションギヤ(セカンダリリダクションギヤ)59を介して、カウンタ軸60につながれており、無段変速機50で変換された駆動力は、リダクションギヤ59を介して、カウンタ軸60に伝達される。カウンタ軸60には、出力クラッチ61、及び、パーキング機構を構成するパーキングギヤ62が取り付けられている。
【0030】
出力クラッチ61は、無段変速機50のセカンダリ軸55と駆動輪との間に設けられ、無段変速機50(エンジン10及び電動モータ40)と駆動輪との間のトルク伝達を断続するものであり、例えば、停車中に、エンジン10で電動モータ40を回して発電する際に、エンジン10や電動モータ40と車輪側とを切り離すために、解放される。よって、出力クラッチ61は、それ以外のときは(例えば走行中は)締結される。なお、出力クラッチ61の制御(締結、解放)は、後述するTCU74によって行われる。なお、停車中に発電をしない構成(仕様)であれば、出力クラッチ61は省略してもよい。
【0031】
カウンタ軸60は、一対のギヤ(カウンタドライブギヤ、カウンタドリブンギヤ)からなるカウンタギヤ63を介して、フロントドライブシャフト66につながれている。カウンタ軸60に伝達された駆動力は、カウンタギヤ63、及び、フロントドライブシャフト66を介してフロントデファレンシャル(以下「フロントデフ」ともいう)67に伝達される。フロントデフ67は、例えば、ベベルギヤ式の差動装置である。フロントデフ67からの駆動力は、左前輪ドライブシャフトを介して左前輪に伝達されるとともに、右前輪ドライブシャフトを介して右前輪に伝達される。
【0032】
一方、上述したカウンタ軸60上のカウンタギヤ63(カウンタドライブギヤ)の後段には、リヤデファレンシャル(以下「リヤデフ」ともいう)69に伝達される駆動力を調節するトランスファクラッチ64が介装されている。トランスファクラッチ64は、4輪の駆動状態(例えば前輪のスリップ状態等)やエンジントルクなどに応じて締結力(すなわち後輪へのトルク分配率)が制御される。よって、カウンタ軸60に伝達された駆動力は、トランスファクラッチ64の締結力に応じて分配され、後輪側にも伝達される。
【0033】
より具体的には、カウンタ軸60の後端は、一対のギヤ(トランスファドライブギヤ、トランスファドリブンギヤ)からなるトランスファギヤ65を介して、車両後方へ延在するプロペラシャフト68とつながれている。よって、カウンタ軸60に伝達され、トランスファクラッチ64によって調節(分配)された駆動力は、トランスファギヤ65(トランスファドリブンギヤ)から、プロペラシャフト68を介してリヤデフ69に伝達される。
【0034】
リヤデフ69には左後輪ドライブシャフト及び右後輪ドライブシャフトが接続されている。リヤデフ69からの駆動力は、左後輪ドライブシャフトを介して左後輪に伝達されるとともに、右後輪ドライブシャフトを介して右後輪に伝達される。
【0035】
上述したように構成されているため、このハイブリッド車では、エンジン10と電動モータ40の2つの動力で車輪(車両)を駆動することができる。また、電動モータ40を用いて減速回生や発電を行うことができる。さらに、電動モータ40のみで車両を駆動するEV走行を行うことができる。
【0036】
車両の駆動力源であるエンジン10、電動モータ40、及び、無段変速機50は、ENG-HEV統合CU70、モータコントロールユニット(以下「MCU」という)72、TCU74、ビークルダイナミクスコントロールユニット(以下「VDCU」という)76等を有して構成される制御システムによって総合的に制御される。
【0037】
ENG-HEV統合CU70、MCU72、TCU74、VDCU76それぞれは、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、その記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/F等を有して構成されている。
【0038】
ENG-HEV統合CU70、MCU72、TCU74、VDCU76それぞれは、CAN(Controller Area Network)100(特許請求の範囲に記載の通信ネットワークに相当)を介して、相互に通信可能に接続されている。
【0039】
ENG-HEV統合CU70には、例えば、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダル操作量を検出するアクセルペダルセンサ81などを含む各種センサが接続されている。また、ENG-HEV統合CU70は、CAN100を介して、MCU72、TCU74、VDCU76等から、例えば、プライマリプーリ回転数、セカンダリプーリ回転数、ブレーキ操作量、ステアリングホイールの操舵角、ヨーレート、車速等の各種情報を受信する。
【0040】
ENG-HEV統合CU70は、取得したこれらの各種情報に基づいて、エンジン10、電動モータ40、及び、無段変速機50の駆動を統括的(総合的)に制御する。ENG-HEV統合CU70は、例えば、アクセルペダル操作量(運転者の要求駆動力)、エンジン回転数、モータ回転数、プライマリプーリ回転数、セカンダリプーリ回転数、車両の運転状態(車速や操舵角等)、高電圧バッテリ73の充電状態(SOC)などの各種情報に基づいて、エンジン10の要求出力、電動モータ40のトルク指令値、及び、無段変速機50の目標変速比を求める。そして、ENG-HEV統合CU70は、求めたトルク指令値、目標変速比などをCAN100を介して出力する。
【0041】
ENG-HEV統合CU70では、上述したカム角センサの出力から気筒が判別され、クランク角センサ84の出力によって検出されたクランク軸15の回転位置の変化からエンジン回転数(回転速度)が求められる。また、ENG-HEV統合CU70では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、アクセルペダル操作量、混合気の空燃比、及び、水温等の各種情報が取得される。そして、ENG-HEV統合CU70は、取得したこれらの各種情報、及び、要求出力に基づいて、燃料噴射量や点火時期、並びに、電子制御式スロットルバルブ等の各種デバイスを制御することによりエンジン10を制御する。
【0042】
また、ENG-HEV統合CU70は、例えば、エアフローメータ83により検出された吸入空気量やエンジン回転数等に基づいて、エンジン10のエンジン実トルク(出力トルク)を算出する。そして、ENG-HEV統合CU70は、CAN100を介して、エンジン回転数(回転速度)、エンジン実トルク等の情報をTCU74等に送信する。
【0043】
MCU72には、例えば、電動モータ40の回転位置(回転速度)を検出するレゾルバ82(特許請求の範囲に記載のモータ回転数センサに相当)などを含む各種センサが接続されている。MCU72は、ENG-HEV統合CU70からの上記トルク指令値に基づいて、インバータ72aを介して、電動モータ40を駆動する。ここで、インバータ72aは、高電圧バッテリ73の直流電力を三相交流の電力に変換して電動モータ40に供給する。一方、インバータ72aは、回生時などに、電動モータ40で発電した交流電圧を直流電圧に変換して高電圧バッテリ73を充電する。
【0044】
また、MCU72は、急減速判定許可フラグを受信した場合に、車両の急減速判定を実行し(車両が急減速しているか否かを判定し)、急減速が生じていると判定したときに、電動モータ40の出力トルクを低減する(例えば0Nmにする)。なお、詳細は後述する。
【0045】
VDCU76には、ブレーキペダルが踏まれているか否かを検出するブレーキスイッチ89や、ブレーキアクチュエータのマスタシリンダ圧力(ブレーキ油圧)を検出するブレーキ液圧センサ90が接続されている。また、VDCU76には、車両の各車輪の回転速度(車速)を検出する車輪速センサ91等も接続されている。なお、車輪速センサ91としては例えば磁気ピックアップ等が用いられる。
【0046】
VDCU76は、ブレーキペダルの操作量(踏み込み量)に応じてブレーキアクチュエータを駆動して車両を制動するとともに、車両挙動を各種センサ(例えば車輪速センサ91、操舵角センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ等)により検知し、自動加圧によるブレーキ制御とエンジン10等のトルク制御により、横滑りを抑制し、旋回時の車両安定性を確保する。また、VDCU76は、急制動や滑りやすい路面で制動した場合に生じる車輪ロックを防止し、各車輪のスリップ率を適正に保つことで、制動時の方向安定性と操舵性を確保するとともに、最適な制動力を得るアンチロックブレーキ機能(ABS機能)、及び、滑りやすい路面や過大な駆動力によって生ずる駆動輪の空転を抑えて、発進時や加速時の車両安定性と加速性を確保するトラクションコントロール機能(TCS機能)を兼ね備えている。
【0047】
VDCU76は、検出したブレーキスイッチ89やブレーキ液圧等の制動情報(ブレーキ操作情報)や車輪速(車速)等を、CAN100を介してTCU74、ENG-HEV統合CU70等に送信する。
【0048】
TCU74には、プライマリプーリ52の回転数を検出するプライマリプーリ回転センサ85や、セカンダリプーリ53の回転数(車速に対応)を検出するセカンダリプーリ回転センサ86などが接続されている。また、TCU74には、タービン回転センサ87、出力クラッチ回転センサ88等も接続されている。
【0049】
また、TCU74は、CAN100を介して、ENG-HEV統合CU70からエンジン実トルク、モータ実トルクやアクセルペダル操作量等の情報を受信し、VDCU76から車速やブレーキ操作情報等を受信する。
【0050】
TCU74は、取得したこれらの各種情報(車両の運転状態)、及び、ENG-HEV統合CU70からの目標変速比に基づいて無段変速機50の変速比を無段階に変更する。
【0051】
その際に、TCU74は、上述したコントロールバルブ75を構成するソレノイドバルブ(電磁弁)の駆動を制御することにより、プライマリプーリ52の油圧室52c及びセカンダリプーリ53の油圧室53cに供給する油圧を調節して、無段変速機50の変速比を変更する。また、TCU74は、上述したコントロールバルブ75を構成する前進クラッチソレノイドの駆動を制御することにより、前進クラッチ32に供給、排出するオイル量を調節して、前進クラッチ32の締結、解放を行う。同様に、TCU74は、コントロールバルブ75を構成する後進ブレーキソレノイドの駆動を制御することにより、後進ブレーキ33に供給、排出するオイル量を調節して、後進ブレーキ33の締結、解放を行う。
【0052】
また、TCU74は、上述したコントロールバルブ75を構成するソレノイドバルブの駆動を制御することにより、トランスファクラッチ64に供給する油圧を調節(すなわち締結力を調節)して、後輪へ伝達される駆動力の分配比率を調節する。さらに、TCU74は、上述したコントロールバルブ75を構成するソレノイドバルブの駆動を制御することにより、出力クラッチ61の締結、解放を制御する。
【0053】
特に、ENG-HEV統合CU70、MCU72、TCU74は、協調して、エンジン10が停止されるとともに、エンジン10と無段変速機50との間に介装される前進クラッチ32及び後進ブレーキ33が解放され、電動モータ40のみにより車両が駆動されるEV走行時に車両が急減速した場合、すなわち、EV走行中に機械式オイルポンプ35のみで無段変速機50の油圧を確保している状況において、低μ路面等でタイヤがロックするような急減速が生じた場合であっても、無段変速機50(バリエータ)のチェーン54(駆動力伝達部材)のスリップをより確実に防止する機能を有している。ENG-HEV統合CU70、MCU72、TCU74では、EEPROM等に記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、当該機能が実現される。
【0054】
TCU74は、エンジン10が停止されるとともに、前進クラッチ32及び後進ブレーキ33が解放され、電動モータ40のみにより車両が駆動されるEV走行時に、所定の許可条件(急減速が生じるとチェーンスリップが生じ得る条件、詳細は後述する)が成立した場合に、CAN100を介して、急減速判定許可フラグ(特許請求の範囲に記載の急減速判定許可情報に相当)を送出(送信)する。
【0055】
MCU72は、CAN100を介して急減速判定許可フラグを受信した場合に、車両の急減速判定を実行し(車両が急減速しているか否かを判定し)、急減速が生じていると判定したときに、電動モータ40の出力トルクを低減する(例えば0Nmにする)。
【0056】
ここで、MCU72の処理周期(演算周期)は、例えば1msecであり、TCU74の処理周期(演算周期)は、例えば10msecである。すなわち、MCU72は、TCU74よりも車両の急減速判定の処理周期(演算周期)が短い。
【0057】
また、上述したように、MCU72には、車速を検出する車速センサ(磁気ピックアップ)よりも高分解能であり、かつ、センシング周期が短いレゾルバ82が接続されている。そして、MCU72は、レゾルバ82の検出値(モータ回転数)を用いて車両の急減速判定を行う。
【0058】
ところで、ENG-HEV統合CU70は、TCU74から急減速判定許可フラグが送出(送信)された場合に、急減速判定許可フラグをMCU72に対して中継する(すなわちゲートウェイとしてのみ働く)。
【0059】
また、MCU72は、電動モータ40のトルク低減(0Nm)を開始した後、所定時間(例えば0.5sec)が経過したときに、電動モータ40のトルク低減を解除する(通常制御に戻る)。なお、上記所定時間は、例えば、エンジン10が再始動されて、エンジン10によりオイルポンプ35が駆動されるまでの時間等を考慮して設定される。
【0060】
次に、
図2を参照しつつ、ハイブリッド車の制御システム1の動作について説明する。
図2は、ハイブリッド車の制御システム1による急減速時チェーンスリップ防止制御の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、ENG-HEV統合CU70、MCU72、TCU74それぞれにおいて、所定のタイミングで(例えば、MCU72では1msec毎、TCU74では10msec毎に)繰り返して実行される。
【0061】
TCU74では、ステップS100において、エンジン10が停止されるとともに、前進クラッチ32及び後進ブレーキ33が解放され、電動モータ40のみにより車両が駆動されるEV走行中であるか否かについての判断が行われる。ここで、EV走行中である場合には、ステップS102に処理が移行する。一方、EV走行中でないときには、急減速判定許可フラグがクリアされた後、本処理から一旦抜ける。
【0062】
ステップS102では、車速が所定速度以下であるか否かについての判断が行われる。ここで、車速が所定速度以下である場合には、ステップS104に処理が移行する。一方、車速が所定速度以下でないときには、急減速判定許可フラグがクリアされた後、本処理から一旦抜ける。
【0063】
ステップS104では、プライマリプーリ回転数が所定回転数以下であるか否かについての判断が行われる。ここで、プライマリプーリ回転数が所定回転数以下である場合には、ステップS108に処理が移行する。一方、プライマリプーリ回転数が所定回転数以下でないときには、急減速判定許可フラグがクリアされた後、本処理から一旦抜ける。
【0064】
ステップS108では、急減速判定許可フラグがセットされる。そして、CAN100を介して、急減速判定許可フラグが送出(送信)される。
【0065】
急減速判定許可フラグが送出(送信)された場合に、ENG-HEV統合CU70では、ステップS200において、CAN100を介して、急減速判定許可フラグがMCU72に対して中継される(ゲートウェイ)。
【0066】
急減速判定許可フラグが受信された場合に、MCU72では、ステップS300において、エンジン回転数が所定回転数以下であるか否かについての判断が行われる。ここで、エンジン回転数が所定回転数以下である場合には、ステップS302に処理が移行する。一方、エンジン回転数が所定回転数以下でないときには、本処理から一旦抜ける。
【0067】
ステップS302では、モータ回転数が所定回転数以下であるか否かについての判断が行われる。ここで、モータ回転数が所定回転数以下である場合には、ステップS304に処理が移行する。一方、モータ回転数が所定回転数以下でないときには、本処理から一旦抜ける。
【0068】
ステップS304では、車輪速が所定速度以下であるか否かについての判断が行われる。ここで、車輪速が所定速度以下である場合には、ステップS306に処理が移行する。一方、車輪速が所定速度以下でないときには、本処理から一旦抜ける。
【0069】
ステップS306では、モータ回転数の減速度が所定値よりも大きいか否か(急減速しているか否か)についての判断が行われる。ここで、モータ回転数の減速度が所定値よりも大きい場合(急減速している場合)には、ステップS308に処理が移行する。一方、モータ回転数の減速度が所定値よりも大きくないとき(急減速していないとき)には、本処理から一旦抜ける。
【0070】
ステップS308では、電動モータ40の出力トルクが低減される(例えば0Nmにされる)。
【0071】
次に、ステップS310では、電動モータ40のトルク低減(0Nm)が開始された後、所定時間(例えば0.5秒)が経過したか否かについての判断が行われる。ここで、電動モータ40のトルク低減(0Nm)が開始された後、所定時間が経過した場合には、ステップS312に処理が移行する。一方、まだ所定時間が経過していないときには、所定時間が経過するまで、本処理が繰り返して実行される。
【0072】
ステップS312では、電動モータ40のトルク低減が解除される(通常制御に戻る)。そして、その後、本処理から一旦抜ける。
【0073】
次に、上述した急減速時チェーンスリップ防止制御の効果を
図3に示す。
図3は、ハイブリッド車の制御システム1、及び、比較例に係るハイブリッド車の制御システム(従来制御システム)それぞれの、EV走行中の急減速時におけるモータトルク、プライマリプーリ軸回転数、実ライン圧(油圧)の変化の一例を示すタイミングチャートである。
【0074】
図3の横軸は時刻であり、縦軸は、上から順に、モータトルク(Nm)、プライマリプーリ軸回転数(≒オイルポンプ回転数)(rpm)、実ライン圧(MPa)である。
図3では、本実施形態に係るハイブリッド車の制御システム1の各波形を実線で示した。また、比較例に係るハイブリッド車の制御システム(従来制御システム)、すなわち、例えば、TCUで車速を用いて急減速判定を行い、急減速していると判定された場合には、CANを介して、ENG-HEV統合CU、MCUに対して、モータトルクの低減(0Nm)を要求(指示)する制御システムの各波形を破線で示した。
【0075】
図3に破線で示されるように、比較例に係る制御システム(従来制御システム)では、急減速時に、プライマリプーリ軸回転数が急低下した後も電動モータ40が負トルクを出し続け、その結果、ライン圧の落ち込みが大きく、復帰も遅くなった(すなわち電動モータ40の負トルクがオイルポンプ回転数に影響して吐出量が低下した)。より詳細には、モータトルクを0Nmに維持できず(負トルクが発生し)、プライマリ軸回転数の落ち込みが大きくなる(-230rpmまで低下)ことにより、ライン圧(油圧)の落ち込みが大きくなった(0.2MPaまで低下した)。
【0076】
一方、本実施形態に係るハイブリッド車の制御システム1では、急減速時に、モータトルクが迅速に0Nmとされることでプライマリプーリ軸回転数の低下が抑制され、ライン圧の復帰も早くなることが確認された。より詳細には、モータトルクが0Nmに維持され(負トルクが発生せず)、プライマリ軸回転数の落ち込みが小さく抑えられる(-100rpmまで低下)ことにより、ライン圧(油圧)の落ち込みが小さくなる(0.3MPaまで低下)ことが確認された。
【0077】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、エンジン10が停止されるとともに、前進クラッチ32及び後進ブレーキ33が解放され、電動モータ40のみにより車両が駆動されるEV走行時に、所定の許可条件が成立した場合に、TCU74から急減速判定許可フラグが送出(送信)される。そして、MCU72により、急減速判定許可フラグが受信された場合に、車両の急減速判定が実行され、急減速が生じていると判定されたときに、電動モータ40の出力トルクが低減される(例えば0Nmにされる)。すなわち、所定の許可条件が成立した場合に、MCU72で急減速判定を行うことにより、例えば、TCU74で急減速判定を行い、CAN100を介して、ENG-HEV統合CU70に対してモータトルクの低減を要求し、ENG-HEV統合CU70がMCU72に対してモータトルクの低減を指示する場合と比較して、CAN100を介した通信遅れ等を短縮(解消)することができる。また、ENG-HEV統合CU70の制御介入を防ぐことができる。そして、急減速(急制動)によってオイルポンプ回転数が低下し、ライン圧の低下が懸念される場合には(すなわち、チェーンスリップが生じるおそれがあるときには)、迅速に電動モータ40の出力トルクが低減され、チェーンスリップを防止することができる。その結果、エンジン10が停止されるとともに、前進クラッチ32及び後進ブレーキ33が解放され、電動モータ40のみにより車両が駆動されるEV走行時に車両が急減速した場合であっても、無段変速機50(バリエータ)のチェーン54(駆動力伝達部材)のスリップをより確実に防止することが可能となる。
【0078】
また、本実施形態によれば、TCU74よりも車両の急減速判定の処理周期(演算周期)が短いMCU72によって急減速判定が行われるため、処理遅れを短縮することができる。また、急減速判定の判定精度を向上することができる。
【0079】
さらに、本実施形態によれば、MCU72には、車速センサ(例えば磁気ピックアップ)よりも高分解能であり、かつ、センシング周期が短いレゾルバ82が接続されており、MCU72は、レゾルバ82の検出値を用いて車両の急減速判定を行う。そのため、センシング遅れを短縮でき、また、急減速判定の判定精度を向上させることができる。
【0080】
本実施形態によれば、TCU74から急減速判定許可フラグが送出(送信)された場合に、該急減速判定許可フラグがENG-HEV統合CU70によりMCU72に対して中継される(ゲートウェイ)。そのため、ENG-HEV統合CU70の制御介入を受けることなく、確実にモータトルクを低減することが可能となる。また、急減速判定、及び、チェーンスリップ防止制御がMCU72で実行されることをENG-HEV統合CU70に認識させることができる。
【0081】
本実施形態によれば、MCU72により、電動モータ40のトルク低減(0Nm)が開始された後、所定時間(例えば0.5sec)が経過したときに、電動モータ40のトルク低減が解除される。そのため、例えば、エンジン10が再始動されて、エンジン10によりオイルポンプ35が駆動されるまでの時間等を考慮して、適切に解除することができる。
【0082】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、電動モータ40を無段変速機50のプライマリ軸51に接続したが、電動モータ40の接続位置は無段変速機50のセカンダリプーリ53の下流側でもよい。
【0083】
上記実施形態では、通信ラインとしてCAN100を用いたが、通信ラインはCANには限られない。また、上記実施形態では、前進クラッチ32、後進ブレーキ33、トランスファクラッチ64、出力クラッチ61として油圧式のものを用いたが、例えば電磁式のものを用いることもできる。
【0084】
上記実施形態では、本発明をチェーン式の無段変速機50に適用したが、チェーン式の無段変速機50に代えて、例えば、ベルト式の無段変速機等にも適用することができる。
【0085】
上記実施形態では、ENG-HEV統合CU70を一体のハードウェアで構成したが、別々のハードウェアで構成してもよい。すなわち、エンジン10を制御するECUとハイブリッド車を総合的に制御するHEVCUとに分離された構成としてもよい。
【0086】
なお、VDCU76を備えていない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 ハイブリッド車の制御システム
10 エンジン
15 クランク軸
20 トルクコンバータ
21 ポンプインペラ
22 タービンランナ
23 ステータ
24 ロックアップクラッチ
25 タービン軸
30 前後進切替機構
31 遊星歯車列
32 前進クラッチ
33 後進ブレーキ
35 オイルポンプ
40 電動モータ
50 無段変速機
51 プライマリ軸
52 プライマリプーリ
53 セカンダリプーリ
54 チェーン
55 セカンダリ軸
59 リダクションギヤ(セカンダリリダクションギヤ)
60 カウンタ軸
61 出力クラッチ
62 パーキングギヤ
63 カウンタギヤ
64 トランスファクラッチ
65 トランスファギヤ
66 フロントドライブシャフト
67 フロントデファレンシャル
68 プロペラシャフト
69 リヤデファレンシャル
70 ENG-HEV統合CU
72 MCU
73 高電圧バッテリ
74 TCU
75 コントロールバルブ
76 VDCU
81 アクセルペダルセンサ
82 レゾルバ
83 エアフローメータ
84 クランク角センサ
85 プライマリプーリ回転センサ
86 セカンダリプーリ回転センサ
87 タービン回転センサ
88 出力クラッチ回転センサ
89 ブレーキスイッチ
90 ブレーキ液圧センサ
91 車輪速センサ
100 CAN