(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046887
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 3/02 20060101AFI20240329BHJP
H03H 9/24 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
H03H3/02 B
H03H9/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152238
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】金井 俊起
(72)【発明者】
【氏名】黒川 賢一
(72)【発明者】
【氏名】山内 幸夫
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108BB01
5J108CC06
5J108DD05
5J108KK01
5J108KK02
5J108MM08
5J108MM11
(57)【要約】
【課題】共振周波数のばらつきを抑えることが可能な、デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】素子50と、素子50を駆動するための素子電極61,62と、素子50の周囲に配置された枠部70と、枠部70に配置され素子電極61,62に接続された電極パッド80と、を有する素子基板10と、素子基板10の一方面側に接合された支持基板20と、を備えたデバイスの製造方法であって、エッチング液に耐性を有し、素子50の外形と枠部70との間の第1開口部201と、電極パッド80上の第2開口部202と、を有する保護膜200を、枠部70の他方面側、及び素子50の他方面側に形成する工程と、エッチング液により第1開口部201を通して支持基板20をエッチングし、素子50と支持基板20との間に空間90を形成する工程と、を含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子と、前記素子を駆動するための素子電極と、前記素子の周囲に配置された枠部と、前記枠部に配置され前記素子電極に接続された電極パッドと、を有する素子基板と、
前記素子基板の一方面側に接合された支持基板と、
を備えたデバイスの製造方法であって、
エッチング液に耐性を有し、前記素子の外形と前記枠部との間の第1開口部と、前記電極パッド上の第2開口部と、を有する保護膜を、前記枠部の他方面側、及び前記素子の他方面側に形成する工程と、
前記エッチング液により前記第1開口部を通して前記支持基板をエッチングし、前記素子と前記支持基板との間に空間を形成する工程と、
を含む、デバイスの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のデバイスの製造方法であって、
前記電極パッドは、前記第2開口部から露出する面に窒化チタンが配置されている、デバイスの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のデバイスの製造方法であって、
前記保護膜は、酸化シリコンである、デバイスの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のデバイスの製造方法であって、
前記支持基板は、シリコン基板であり、
前記エッチング液は、水酸化テトラメチルアンモニウムである、デバイスの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のデバイスの製造方法であって、
前記保護膜を形成する工程の後に、前記第1開口部及び前記第2開口部を同時に形成する工程を有する、デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、振動デバイスを形成するために、振動部の上や電極パッドの上に形成されたシリコン酸化膜をマスクとしてウェットエッチングを行い、振動部の下側にキャビティ(空洞)を形成し、その後、電極パッド上のシリコン酸化膜を除去するために、更に、ウェットエッチングを行い、電極パッドの表面を露出させる、振動デバイスの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、電極パッド上のシリコン酸化膜を除去した際に、振動部の周囲に配置され、共振周波数の補正に用いられるシリコン酸化膜も除去してしまうことから、振動素子の共振周波数のバラツキが大きくなるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
デバイスの製造方法は、素子と、前記素子を駆動するための素子電極と、前記素子の周囲に配置された枠部と、前記枠部に配置され前記素子電極に接続された電極パッドと、を有する素子基板と、前記素子基板の一方面側に接合された支持基板と、を備えたデバイスの製造方法であって、エッチング液に耐性を有し、前記素子の外形と前記枠部との間の第1開口部と、前記電極パッド上の第2開口部と、を有する保護膜を、前記枠部の他方面側、及び前記素子の他方面側に形成する工程と、前記エッチング液により前記第1開口部を通して前記支持基板をエッチングし、前記素子と前記支持基板との間に空間を形成する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】
図1に示す振動デバイスのA-A線に沿う断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
まず、
図1及び
図2を参照しながら、振動デバイス100の構成を説明する。
【0008】
図1及び
図2に示すように、振動デバイス100は、素子基板10と、素子基板10の一方面側に接合された支持基板20と、を備えている。具体的には、振動デバイス100は、素子基板10と支持基板20との間にBOX(Buried Oxide)層30を有するSOI(Silicon on Insulator)基板40を有している。
【0009】
SOI基板40は、シリコン層10aと、酸化シリコン(SiO2)層30aと、シリコン層20aとが、この順で積層された基板である。シリコン層10aは、例えば、単結晶シリコンで構成される。素子基板10は、シリコン層10aを有する。支持基板20は、シリコン層20aを有する。
【0010】
素子基板10は、素子50と、素子50を駆動するための素子電極61,62と、素子50の周囲に配置された枠部70と、枠部70に配置され素子電極61,62と電気的に接続された電極パッド80と、を有する。
【0011】
素子50は、酸化シリコン層30aの一部と、シリコン層10aの一部と、からなる基部11を有する。更に、素子50は、基部11側から順に、素子調整層12aと、圧電駆動部60と、素子調整層12bと、保護膜200と、を有する。なお、本実施形態の振動デバイス100は、素子50を3つ有している。
【0012】
素子50と支持基板20との間には、素子50が振動する領域である空間90(キャビティとも称する)が設けられている。
【0013】
素子調整層12a,12bは、素子50の共振周波数の温度特性を補正するために設けられている。シリコンは、温度が高くなるにつれて低下する共振周波数を有しており、一方、シリコン酸化膜は、温度が高くなるにつれて上昇する共振周波数を有している。従って、素子50の周囲に、酸化シリコンである素子調整層12a,12bを配設することにより、共振周波数の温度特性をフラットに近付けることができる。
【0014】
圧電駆動部60は、第1素子電極61と、圧電体層63と、第2素子電極62と、を含んでいる。第1素子電極61及び第2素子電極62は、圧電体層63を挟むように配設されている。
【0015】
第1素子電極61の材料は、例えば、モリブデン(Mo)である。圧電体層63の材料は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)である。第2素子電極62の材料は、例えば、モリブデン(Mo)である。
【0016】
電極パッド80は、平面視で、素子50の両側の枠部70に2つ配置されている。なお、本実施形態では、素子50が3つ配置されている。この場合、両端の2つの素子50の第2素子電極62と電極パッド80Aとが電気的に接続されている。また、真ん中の素子50の第2素子電極62と電極パッド80Bとが電気的に接続されている。なお、3つの素子50の第1素子電極61(
図2参照)は、互いに同電位に電気的に接続されている。
【0017】
電極パッド80は、例えば、アルミニウム(Al)に銅(Cu)を微量添加して構成された下部電極パッド81と、窒化チタン(TiN)で構成された上部電極パッド82と、が積層されている。このように、窒化チタンで構成された上部電極パッド82が、第2開口部202を介して上面に露出しているので、空間90を形成するためのエッチング処理によって、下部電極パッド81がエッチングされることを抑えることができる。
【0018】
2つの電極パッド80を介して、第1素子電極61と第2素子電極62との間に電圧が印加されると、それによって圧電体層63が伸縮して、隣り合う素子50が互いに逆相で振動する。その振動は固有の共振周波数において大きく励起されて、インピーダンスが最小となる。その結果、この素子50を発振回路に接続することで、主に素子50の共振周波数によって決定される発振周波数で発振する。
【0019】
保護膜200は、振動デバイス100における素子50及び枠部70の他方面側を覆うように設けられている。素子50の外形と枠部70との間の保護膜200には、第1開口部201が設けられている。電極パッド80の上の保護膜200には、第2開口部202が設けられている。
【0020】
保護膜200は、エッチング液に耐性を有する材料で構成されている。保護膜200の材料としては、例えば、酸化シリコン(SiO2)が挙げられる。エッチング液は、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)である。
【0021】
次に、
図3~
図8を参照しながら、振動デバイス100の製造方法を説明する。
【0022】
まず、
図3に示す工程では、素子基板10としてシリコン層10a、BOX層30として酸化シリコン層30a、支持基板20としてシリコン層20a、が積層されたSOI基板40を準備する。
【0023】
素子基板10の厚みは、例えば、5μmである。BOX層30の厚みは、例えば、1μmである。支持基板20の厚みは、例えば、600μmである。
【0024】
次に、
図4に示す工程では、SOI基板40の上に、圧電駆動部60を形成する。具体的には、まず、SOI基板40に熱処理を施し、SOI基板40の表面に、1μm程度の酸化シリコンからなる熱酸化膜12aを形成する。この熱酸化膜12aの一部は、後の素子調整層12aとなる。
【0025】
次に、第1素子電極61となるモリブデン膜61aを、例えば、スパッタ装置を用いて、100nm成膜する。その後、モリブデン膜61aの上に、圧電体層63となる窒化アルミニウム膜63aを、例えば、スパッタ装置を用いて、300nm成膜する。次に、第2素子電極62となるモリブデン膜62aを、例えば、スパッタ装置を用いて、100nm成膜する。
【0026】
次に、モリブデン膜62aの上に、レジストを塗布し、フォトリソグラフィー法を用いて、レジストをパターニングしてレジストパターンを形成する。その後、レジストパターンをマスクとして、モリブデン膜62aをエッチング処理(例えば、ドライエッチング)することにより、第2素子電極62を完成させる。次に、レジストパターンを剥離した後、同様に、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を施すことにより、圧電体層63と第1素子電極61を形成する。以上により、圧電駆動部60が完成する。
【0027】
次に、
図5に示す工程では、枠部70の領域に、電極パッド80を形成する。具体的には、まず、圧電駆動部60及び熱酸化膜12aを覆うように、酸化シリコン膜12bを成膜する。酸化シリコン膜12bの製造方法としては、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法が用いられる。この酸化シリコン膜12bの一部は、後の素子調整層12bとなる。
【0028】
次に、電極パッド80となるアルミニウム(Al)に銅(Cu)を微量添加したアルミニウム合金膜80aと、窒化チタン(TiN)膜80bと、を成膜する。成膜する方法としては、例えば、スパッタ装置が挙げられる。アルミニウム合金膜80aの厚みは、例えば、300nmである。窒化チタン膜80bの厚みは、例えば、100nmである。その後、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を施すことにより、電極パッド80が完成する。
【0029】
次に、
図6に示す工程では、素子50の周囲及び枠部70の周囲に保護膜200を形成する。具体的には、まず、電極パッド80及び酸化シリコン膜12bを覆うように、酸化シリコン膜12cを成膜する。次に、素子50となる部分を一括ドライエッチングで酸化シリコン層30aまで形成する。その後、エッチング液である、水酸化テトラメチルアンモニウムに対して、耐性のある保護膜200を、素子50や枠部70の他方面側に、全面成膜する。
【0030】
保護膜200は、シリコン(Si)に対するエッチング選択比が、1000以上ある酸化シリコン(SiO2)である。保護膜200を成膜する方法としては、例えば、高密度プラズマCVD法が挙げられる。保護膜200の厚みは、例えば、500nmである。これにより、素子50の上面や側壁、枠部70の上面や側壁に、保護膜200が成膜される。
【0031】
次に、
図7に示す工程では、素子50の外形と枠部70との間に第1開口部201を形成し、電極パッド80の上に第2開口部202を形成する。なお、保護膜200に形成する第1開口部201と第2開口部202とは、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を用いて、同時に形成する。
【0032】
この場合、第1開口部201は、支持基板20の上であり、第2開口部202は、電極パッド80の上となり、段差にして、およそ7μmある。よって、フォトリソグラフィー法を用いた場合、第1開口部201及び第2開口部202を同時にフォーカスすることが難しい。
【0033】
しかしながら、振動特性に直結する空間90の形成に比べて、電極パッド80の上は寸法要求精度が低いため、第1開口部201にフォーカスして開口することにより、素子50の特性ばらつきを低減することができる。
【0034】
なお、ドライエッチングの際は、第1開口部201の部分では、支持基板20であるシリコン層20aでエッチングがストップするように、また、第2開口部202の部分では、窒化チタンで構成された上部電極パッド82でエッチングがストップするように、エッチングの加工条件とオーバーエッチ率を調整する必要がある。
【0035】
次に、
図8に示す工程では、エッチング液により第1開口部201を通して、支持基板20をエッチング処理し、素子50と支持基板20との間に、空間90を形成する。具体的には、エッチング液は、11%濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)である。
【0036】
空間90は、素子50が振動した際に、底部に接触しない深さまでエッチングする必要があり、例えば、深さが75μmである。酸化シリコンからなる保護膜200と、窒化チタンからなる上部電極パッド82とは、どちらも、水酸化テトラメチルアンモニウムに対して極めて高い選択比をもつため、殆ど削れることなく、素子50を形成することができる。
【0037】
2つの素子電極61,62を通して、素子50に特定の周波数で交流電圧を印加することにより、3つの素子50がウォークモードで共振し、安定したクロックを生成するタイミングデバイスとして動作する。
【0038】
以上述べたように、本実施形態の振動デバイス100の製造方法は、素子50と、素子50を駆動するための素子電極61,62と、素子50の周囲に配置された枠部70と、枠部70に配置され素子電極61,62に接続された電極パッド80と、を有する素子基板10と、素子基板10の一方面側に接合された支持基板20と、を備えた振動デバイス100の製造方法であって、エッチング液に耐性を有し、素子50の外形と枠部70との間の第1開口部201と、電極パッド80上の第2開口部202と、を有する保護膜200を、枠部70の他方面側、及び素子50の他方面側に形成する工程と、エッチング液により第1開口部201を通して支持基板20をエッチングし、素子50と支持基板20との間に空間90を形成する工程と、を含む。
【0039】
この方法によれば、第1開口部201及び第2開口部202を有しエッチング液に耐性を有する保護膜200を、枠部70の他方面側、及び素子50の他方面側に形成してからエッチングを行うので、第1開口部201を通して、素子50と支持基板20との間に空間90を形成できると共に、第2開口部202によって、電極パッド80の表面を露出させることができる。また、保護膜200によって素子50がエッチングされることが抑えられるので、素子50の共振周波数のバラツキを低減することができる。
【0040】
また、本実施形態の振動デバイス100の製造方法において、電極パッド80は、第2開口部202から露出する面に窒化チタンからなる上部電極パッド82が配置されていることが好ましい。この方法によれば、第2開口部202から、エッチング液に対して高い耐性を有する上部電極パッド82が露出しているので、エッチングを行った際に、下部電極パッド81が損傷することを抑えることができる。
【0041】
また、本実施形態の振動デバイス100の製造方法において、保護膜200は、酸化シリコンであることが好ましい。この方法によれば、保護膜200が酸化シリコンであるので、エッチング液に対して耐性を有すると共に、エッチングを行った後に、そのまま素子50として用いることができる。
【0042】
また、本実施形態の振動デバイス100の製造方法において、支持基板20は、シリコン基板であり、エッチング液は、水酸化テトラメチルアンモニウムであることが好ましい。この方法によれば、エッチング液に水酸化テトラメチルアンモニウムを用いるので、シリコン基板に、シリコンの結晶方位に従って空間90を形成することができる。
【0043】
また、本実施形態の振動デバイス100の製造方法において、保護膜200を形成する工程の後に、第1開口部201及び第2開口部202を同時に形成する工程を有することが好ましい。この方法によれば、第1開口部201及び第2開口部202を同時に形成するので、製造工程を少なくすることが可能となり、かかる工数を少なくすることができる。
【0044】
以下、上記した実施形態の変形例を説明する。
【0045】
上記したように、MEMSデバイスとして、三つの素子50を有する振動デバイス100の構成を説明したが、これに限定されない。MEMSデバイスは、二つの素子50を備えた音叉型の振動素子、角速度センサー素子、加速度センサー素子、圧力センサー素子、などにも適用することができる。また、圧電膜を用いた超音波センサーやタイミングデバイスで使われる共振子などが挙げられる。
【符号の説明】
【0046】
10…素子基板、10a…シリコン層、11…基部、12a…熱酸化膜(素子調整層)、12b…酸化シリコン膜(素子調整層)、12c…酸化シリコン膜、20…支持基板、20a…シリコン層、30…BOX層、30a…酸化シリコン層、40…SOI基板、50…素子、60…圧電駆動部、61…第1素子電極、61a…モリブデン膜、62…第2素子電極、62a…モリブデン膜、63…圧電体層、63a…窒化アルミニウム膜、70…枠部、80…電極パッド、80a…アルミニウム合金膜、80b…窒化チタン膜、81…下部電極パッド、82…上部電極パッド、90…空間、100…振動デバイス、200…保護膜、201…第1開口部、202…第2開口部。