(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004689
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】溺水検出システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
G08B 21/08 20060101AFI20240110BHJP
G08B 25/04 20060101ALI20240110BHJP
F24H 15/196 20220101ALI20240110BHJP
A61H 33/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G08B21/08
G08B25/04 K
F24H15/196 301H
F24H15/196 301P
F24H15/196 301X
F24H15/196 301Y
A61H33/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104441
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西口 絵里子
(72)【発明者】
【氏名】仙谷 幸法
【テーマコード(参考)】
3L024
4C094
5C086
5C087
【Fターム(参考)】
3L024DD21
3L024FF17
3L024FF18
3L024GG12
3L024GG43
4C094AA01
4C094BB14
4C094CC09
4C094FF17
4C094GG12
5C086AA22
5C086BA04
5C086CA15
5C086CB16
5C086CB40
5C086DA40
5C086FA01
5C086FA11
5C087AA02
5C087AA07
5C087AA31
5C087DD03
5C087DD49
5C087EE18
5C087FF02
5C087FF04
5C087GG08
5C087GG66
5C087GG70
5C087GG83
(57)【要約】 (修正有)
【課題】入浴者の溺水の発生を早期かつ精度良く検出する溺水検出システムおよびプログラムを提供する。
【解決手段】溺水検出システム(1)は、浴槽(9)の底面(91)に設けられ、入浴者の浸水体積に応じて変化する圧力を感知する圧力センサ(2)と、圧力センサが感知した圧力値に基づき、入浴中の姿勢が、通常座位姿勢および頭部が浸水した溺水姿勢のいずれであるかを判定する姿勢判定部(5)を有する溺水検出部(3)と、姿勢判定部(5)が溺水姿勢と判定したことに応じて、溺水の発生を外部に通知する通知部(6)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽の底面に設けられ、入浴者の浸水体積に応じて変化する圧力を感知する圧力センサと、
前記圧力センサが感知した圧力値に基づき、入浴中の姿勢が、通常座位姿勢および頭部が浸水した溺水姿勢のいずれであるかを判定する姿勢判定手段と、
前記姿勢判定手段により溺水姿勢と判定されたことに応じて、溺水の発生を外部に通知する通知手段とを備える、溺水検出システム。
【請求項2】
前記姿勢判定手段は、前記浴槽の底面にかかる圧力値が入浴者の体重の所定割合以下となった場合に、溺水姿勢であると判定する、請求項1に記載の溺水検出システム。
【請求項3】
前記浴槽内の湯の水深と入浴開始時の圧力値とにより入浴者の体重を算出する算出手段をさらに備える、請求項2に記載の溺水検出システム。
【請求項4】
前記圧力センサは体圧分布センサであり、
前記圧力センサが感知した圧力値および体圧分布の変化を検出することにより、入浴開始動作および入浴終了動作を含む入浴行動を推定する行動推定手段をさらに備える、請求項1に記載の溺水検出システム。
【請求項5】
前記姿勢判定手段により溺水姿勢と判定されたことに応じて、前記浴槽の排水口を開放する制御を行う排水制御手段をさらに備える、請求項1~4のいずれかに記載の溺水検出システム。
【請求項6】
浴槽の底面に設けられた圧力センサから、入浴者の浸水体積に応じて変化する圧力値を取得するステップと、
取得した圧力値に基づき、入浴中の姿勢が、通常座位姿勢および頭部が浸水した溺水姿勢のいずれであるかを判定するステップと、
溺水姿勢と判定されたことに応じて、溺水の発生を外部に通知するステップとをコンピュータに実行させる、溺水検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溺水検出システムおよびプログラムに関し、特に、入浴中における溺水を検出するための溺水検出システムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ドローン映像と行動認識AIを用いて溺水の発生を検出する技術がある。しかし、この技術は海やプールなどの屋外でしか利用できず、屋内の狭い浴室で利用することができない。また、元気な方の溺れ行動を検出することができても、意識喪失などでの静かな溺れを検出することができない。
【0003】
浴室での溺水検出に特化した技術としては、天井部に設置した赤外線センサを利用した監視システム(「浴室あんしん安全システム」、JVCケンウッドグループ)が実用化されている。
【0004】
また、特許文献としては、次のような技術が提案されている。たとえば特開2002-349955号公報(特許文献1)および特開2020-112850号公報(特許文献2)では、浴槽の水位に基づいて入浴者の体動の有無を判定し、体動なしの判定が所定時間継続した場合に警報を発生するシステムが開示されている。特開2003-070756号公報(特許文献3)では、浴槽の背もたれ面にバイタルセンサを設置し、入浴者のバイタル情報に異常がある場合に、入浴者自身に危険を報知する警報を発し、警報がリセットされなければ、浴槽から一定量の湯を抜くとともに外部に緊急事態発生を通知するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-349955号公報
【特許文献2】特開2020-112850号公報
【特許文献3】特開2003-070756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
入浴時の事故は高齢者が95%以上を占めており、高齢者の不慮の溺水を早期に発見できるシステムが求められている。
【0007】
赤外線センサを用いた監視システムは、入浴者の頭部の位置のみを検知対象として溺水発生を推定するため、誤判定が多くなる。そのため、このような誤判定による通報を避けるため、当該システムでは本人への意識確認が必須となっている。しかし、この場合、溺水発生が推定されてから所定時間経過しても確認が取れない時にはじめて、外部に通報されることになるため、入浴者の溺水を早期に発見することができない。また、本人への意思確認が頻繁に通知される可能性があり、入浴者が煩わしさを感じる可能性がある。
【0008】
また、特許文献1および2のように体動無しの時間により溺水を判定するシステムでは、溺れ始めの動いている状態を検出することができないため、通報が遅くなる。そのため、この場合も同様に、入浴者の溺水を早期に発見することができず、手遅れとなる可能性がある。
【0009】
また、特許文献3のシステムでは、バイタルセンサが設置された背もたれ面にもたれて入浴することが求められるため、バイタル情報を検知可能な入浴方向(背中の向き)が固定されてしまうことに加え、入浴者のバイタル情報だけで溺水の発生を検出することは困難である。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、入浴者の溺水の発生を早期かつ精度良く検出することのできる溺水検出システムおよびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明のある局面に従う溺水検出システムは、浴槽の底面に設けられ、入浴者の浸水体積に応じて変化する圧力を感知する圧力センサと、圧力センサが感知した圧力値に基づき、入浴中の姿勢が、通常座位姿勢および頭部が浸水した溺水姿勢のいずれであるかを判定する姿勢判定手段と、姿勢判定手段により溺水姿勢と判定されたことに応じて、溺水の発生を外部に通知する通知手段とを備える。
【0012】
好ましくは、姿勢判定手段は、浴槽の底面にかかる圧力値が入浴者の体重の所定割合以下となった場合に、溺水姿勢であると判定する。この場合、溺水検出システムは、浴槽内の湯の水深と入浴開始時の圧力値とにより入浴者の体重を算出する算出手段をさらに備えることが望ましい。
【0013】
好ましくは、圧力センサは体圧分布センサである。この場合、溺水検出システムは、圧力センサが感知した圧力値および体圧分布の変化を検出することにより、入浴開始動作および入浴終了動作を含む入浴行動を推定する行動推定手段をさらに備えることが望ましい。
【0014】
好ましくは、溺水検出システムは、姿勢判定手段により溺水姿勢と判定されたことに応じて、浴槽の排水口を開放する制御を行う排水制御手段をさらに備える。
【0015】
この発明の他の局面に従う溺水検出プログラムは、浴槽の底面に設けられた圧力センサから、入浴者の浸水体積に応じて変化する圧力値を取得するステップと、取得した圧力値に基づき、入浴中の姿勢が、通常座位姿勢および頭部が浸水した溺水姿勢のいずれであるかを判定するステップと、溺水姿勢と判定されたことに応じて、溺水の発生を外部に通知するステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、入浴者の溺水を早期かつ精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る溺水検出システムの概略構成を示す模式図である。
【
図2】(A)は通常入浴時の姿勢(通常座位姿勢)を模式的に示す図であり、(B)は溺れ時の姿勢(溺水姿勢)を模式的に示す図である。
【
図3】(A)は通常座位姿勢における体圧分布を示すイメージ図であり、(B)は溺水姿勢における体圧分布を示すイメージ図である。
【
図4】本発明の実施の形態における溺水検出処理を示すフローチャートである。
【
図5】入浴開始動作時に、浴槽の底面にかかる体圧分布の変化を模式的に示す図である。
【
図6】入浴終了動作時に、浴槽の底面にかかる体圧分布の変化を模式的に示す図である。
【
図7】入浴中に通常座位姿勢から各種の溺水姿勢に変化した場合に、浴槽の底面にかかる体圧分布の変化を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0019】
<溺水検出システムの構成>
図1は、本実施の形態に係る溺水検出システム1の概略構成を示す模式図である。溺水検出システム1は、浴室Rに設置された浴槽9の底面91にかかる圧力をセンシングすることにより、入浴中における溺水を検出するシステムである。浴室Rは、たとえば高齢者住宅の個室内に設けられており、一人で入浴する入浴者(高齢者)の溺水を検出する。
【0020】
溺水検出システム1は、主に、圧力センサ2と、溺水検出部3と、通知部6と、排水制御部7とを備えている。溺水検出部3、通知部6、および排水制御部7の機能は、プロセッサおよびメモリを含む制御装置(図示せず)により実現される。
【0021】
圧力センサ2は、浴槽9の底面91に設けられ、入浴者の浸水体積に応じて変化する圧力(すなわち入浴者の荷重)を感知する。「浸水体積」とは、入浴者の全身のうち、湯Wに浸かっている部分の体積を表わす。圧力センサ2は、典型的にはシート状の体圧分布センサ(感圧センサ)により構成され、浴槽9の底面91の略全体を覆うように敷かれている。なお、底面91の排水口(図示せず)がある場合、圧力センサ2は、排水口を塞がないように配置されていることが望ましい。圧力センサ2は、浴槽9の底部に組み込まれていてもよい。
【0022】
溺水検出部3は、圧力センサ2からの信号を入力し、底面91にかかる圧力変化を分析することにより、溺水を検出(判定)する。本実施の形態における溺水検出部3は、行動推定部4と、姿勢判定部5とを含む。
【0023】
行動推定部4は、圧力センサ2が感知した圧力値および体圧分布の変化を検出することにより、入浴開始動作および入浴終了動作を含む入浴行動を推定する。入浴開始動作は、入浴者が(立ち上った状態で)浴槽9外から浴槽9内に足を踏み入れて、座るまでの動作であり、入浴終了動作は、入浴者が立ち上がり、そのまま浴槽9外に出る動作である。
【0024】
姿勢判定部5は、行動推定部4によって入浴開始動作の終了(つまり「入浴中」の状態への移行)が推定された場合に作動する。姿勢判定部5は、圧力センサ2が感知した圧力値に基づき、入浴中の姿勢が、「通常座位姿勢」および「溺水姿勢」のいずれであるかを判定する。これらの姿勢については、
図2を参照して説明する。なお、入浴者10の全身は、首よりも上の頭部10hと、首よりも下のボディ部10bとにより構成されており、ボディ部10bは、臀部(お尻)を含む胴体と両足とを含むものとする。
【0025】
図2(A)に示されるように、通常入浴時の入浴者10は、浴槽9の底面91に臀部および足裏をついて座っており、この姿勢を「通常座位姿勢」という。浴槽9の長手方向を「X方向」、横幅方向を「Y方向」で表わすと(
図3参照)、典型的な通常座位姿勢は、頭部10hがX方向一方側に位置し、ボディ部10bの足先はX方向他方側に位置する姿勢である。
【0026】
入浴者10が通常座位姿勢のとき、圧力センサ2は、入浴者10の臀部および(2つの)足裏に接触する領域(範囲)において圧力を感知する。この場合の体圧分布のイメージ図が
図3(A)に示されている。通常座位姿勢においては、基本的に、頭部10hが湯面よりも上に位置し、ボディ部10bのみが湯Wに浸かる(頭部10hは湯Wに浸からない)。なお、通常座位姿勢であっても、頭部10hのうちの顎先部分が湯Wに浸かる場合もある。
【0027】
図2(B)に示されるように、溺れ時における入浴者10は、頭部10hのうち口および鼻の少なくとも一方が湯Wに浸かる。すなわち、ボディ部10bだけでなく頭部10hの全部または半分程度が湯Wに浸かる。このように、頭部10hが浸水した姿勢が「溺水姿勢」である。
【0028】
入浴中に、通常座位姿勢から溺水姿勢に移行する際、図示されるように、たとえば重心がX方向に沿って移動することにより、臀部の位置が足の方にずれる。この場合の体圧分布のイメージ図が
図3(B)に示されている。溺水姿勢における入浴者10の浸水体積は、通常座位姿勢における浸水体積よりも大きくなる。そのため、浮力の影響により、圧力センサ2が感知する圧力値は、通常座位姿勢において感知される圧力値よりも小さくなる(
図3(A),(B)のグラフ参照)。
【0029】
人の体重と浮力との関係について具体的に説明する。平均的な成人体型の場合、鎖骨、首付近から上の体積(頭部10hおよび首の体積)は全体の10%程度と考えられることから、たとえば首まで湯Wに浸かると入浴者10の体重の約90%免荷され、胸付近まで浸かった場合は体重の約%70が免荷される。そのため、通常座位姿勢において底面91にかかる圧力値(荷重)は入浴者10の体重の10%~30%の値となることが想定される。溺水姿勢においては、頭部10hまで湯Wに浸かるため、入浴者10の体重の93%以上(または95%以上)が免荷され、底面91にかかる圧力値(荷重)は入浴者10の体重の7%以下となると考えられる。
【0030】
そこで、たとえば体重の7%相当の値を閾値とし、姿勢判定部5は、入浴中に、圧力センサ2から取得した圧力値が閾値よりも大きければ通常座位姿勢と判定し、閾値以下であれば溺水姿勢と判定することができる。このように、底面91にかかる圧力値を、入浴者10の体重を考慮した閾値と比較することにより、入浴者10の姿勢が溺水姿勢となったか否かを推定することができる。なお、姿勢判定部5は、体圧分布(圧力反応のある領域のX方向位置)の変化を加味して、入浴者10の姿勢が溺水姿勢となったか否かを判定してもよい。
【0031】
通知部6は、姿勢判定部5により溺水姿勢と判定されたことに応じて、アラートを発報し、溺水の発生を外部に通知する。通知部6は、たとえば、通信インターフェイスを介して、高齢者住宅のスタッフ室やセキュリティ会社に設置されたPC等にアラート信号を送信する。あるいは、たとえば浴室Rの付近に設置された警報機に作動指令を送信してもよい。
【0032】
排水制御部7は、姿勢判定部5により溺水姿勢と判定されたことに応じて、浴槽9の排水口を開放する制御を行う。たとえば既存の自動排水システム(図示せず)と連携し、自動排水システムに排水を指示してもよい。これにより、排水口に設けられた電磁弁92が閉状態から開状態に変更され、浴槽9内の湯Wが排水される。
【0033】
このように、入浴中に溺水姿勢が検出されると即座に、外部への通知および排水制御が実行されるので、溺水状態の入浴者10を早期発見することができるとともに、入浴者10の溺死のリスクを軽減することができる。
【0034】
<溺水検出方法>
図4~
図7を参照して、溺水検出部3による溺水検出方法の一例について説明する。
図4は、本実施の形態における溺水検出処理を示すフローチャートである。溺水検出処理は、制御装置のプロセッサがソフトウェアを実行することにより実現される。
図5は、入浴開始動作時に、浴槽9の底面91にかかる体圧分布の変化を模式的に示す図である。
図6は、入浴終了動作時に、浴槽9の底面91にかかる体圧分布の変化を模式的に示す図である。
図7は、入浴中に通常座位姿勢から各種の溺水姿勢に変化した場合に、浴槽9の底面91にかかる体圧分布の変化を模式的に示す図である。なお、
図5~
図7の模式図では、圧力反応のある領域を示すマークの濃淡により、圧力値の大小が表わされている。
【0035】
図4を参照して、はじめに、底面91への圧力反応を検知すると(ステップS2にてYES)、行動推定部4は、「入浴開始動作」が開始されたと判断し、圧力反応のある領域を足領域として認識する(ステップS4)。入浴開始動作時の体勢の変化に伴う体圧分布の変化が、
図5に示されている。入浴開始時において、入浴者10の体勢は、浴槽9外で立ち上った状態から、(1)片足を踏み入れた状態、(2)両足を入れた状態、(3)座った状態、へと順に移行する。行動推定部4は、(1)の状態において1つの足領域A1を認識し、(2)の状態において2つの足領域A2を認識することになる。
【0036】
たとえば、行動推定部4により2つの足領域A2が認識されたタイミングで(つまり、上記(2)の状態となった場合に)、足領域A2における圧力値Paを特定する。なお、この圧力値Paは、(1)の状態の足領域A1における圧力値よりも小さい。
【0037】
ここで、溺水検出部3は、ステップS4で特定された荷重Paに基づいて、入浴者10の体重を推定する(ステップS6)。たとえば浴槽9内の湯Wの水深と荷重Paとを所定の数式に当てはめることにより、体重を算出することができる。湯Wの水深は、給湯設備8から浴槽9への給湯量と浴槽9の大きさとに基づき算出することができる。このように、溺水検出部3は、浴槽9内の湯Wの水深と入浴開始の圧力値Paとにより入浴者10の体重を算出する機能を有していることが望ましい。
【0038】
なお、(2)の状態の足領域A2における圧力値に代えて、(1)の状態の足領域A1における圧力値を用いて体重を算出してもよい。あるいは、入浴者10の体重は予め入力され、メモリに記憶されていてもよい。
【0039】
その後、2つの足領域A2の他に、足領域A2よりも広い領域B1がX方向において出現すると(ステップS8でYES)、行動推定部4は、入浴行動が「入浴開始動作」から通常座位姿勢での「入浴中」に移行したと判定し(ステップS10)、その領域B1を臀部領域(お尻の位置)として認識する(ステップS12)。入浴中への移行時に検出される足領域A2の圧力値Pnaおよび臀部領域B1の圧力値Pnbを、通常座位姿勢での基準圧力値(入浴時の初期荷重)として特定する。
【0040】
通常座位姿勢での入浴が正常終了する場合、入浴者10は浴槽9内で立ち上がってから浴槽9外に出る。このような入浴終了動作時の体勢の変化に伴う体圧分布の変化が、
図6に示されている。入浴終了動作時の体勢は、(1)通常座位姿勢で入浴中の状態から、(2)お尻を持ち上げた状態、(3)片足を持ち上げた状態、(4)もう片方の足も浴槽9外に出た状態、へと順に移行する。
【0041】
そのため、臀部領域B1の圧力値が基準圧力値Pnbよりも減少し(ステップS14にてYES)、かつ、足領域A2の圧力値が基準圧力値Pnaよりも増加した場合に(ステップS16にてYES)、入浴者10の体勢が(1)の状態から(2)および(3)の状態へ移行したと判断できる。また、その後、残りの1つの足領域A3の圧力反応も無くなり、底面91への局所的な圧力反応が無くなったことを検知すると(ステップS18にてYES)、入浴者の体勢が(3)の状態から(4)の状態に移行したと判断できる。つまり、行動推定部4は、入浴が正常終了したと判定する(ステップS20)。これにより、一連の溺水検出処理が終了する。
【0042】
これに対し、臀部領域B1の圧力が減少したとしても(ステップS14にてYES)、足領域A2の圧力が増加せず(ステップS16にてNO)、かつ、臀部領域B1の圧力値Pbが、ステップS6で推定した体重の7%以下(閾値以下)となった場合に(ステップS22にてYES)、姿勢判定部5は、入浴者10の姿勢が「通常座位姿勢」から「溺水姿勢」に変化したと判定する(ステップS24)。
【0043】
このようにして溺水が検出される(ステップS26)と、通知部6によるアラート発報などが行われる。
【0044】
図7には、溺水事故で多い溺水姿勢の種類ごとの体圧分布例が、通常座位姿勢での体圧分布例と比較して示されている。例1では、座位のまま頭部10hの全部または半分程度が湯Wに浸かった姿勢、および、背臥位(仰向け)となって頭部10hの全部または半分程度が湯Wに浸かった姿勢における体圧分布例が示されている。前者の座位溺水姿勢では、足領域A3および臀部領域B2が、通常座位姿勢における足領域A2および臀部領域B1よりもX方向一方側(足側)に位置している。後者の背臥位溺水姿勢では、足領域A4および臀部領域B3が、通常座位姿勢における足領域A2および臀部領域B1よりもX方向一方側に位置し、かつ、臀部領域B3の面積が小さくなっている。あるいは、臀部が完全に浮き上がり、臀部領域B3が検知されないケースもある。
【0045】
例2では、側臥位(横向き)となって頭部10hの全部または半分程度が湯Wに浸かった姿勢における体圧分布例が示されている。この側臥位溺水姿勢では、足領域A5がたとえば一つになり、臀部領域B4の面積が通常座位姿勢における臀部領域B1の面積よりも小さくなっている。この姿勢においても、臀部が完全に浮き上がり、臀部領域B4が検知されないケースもある。
【0046】
例3では、うつ伏せとなって頭部10h全体が湯Wに浸かった姿勢における体圧分布例が示されている。入浴中の姿勢が通常座位姿勢からうつ伏せ溺水姿勢に変化した場合においても、臀部領域B5の面積が通常座位姿勢における臀部領域B1の面積よりも小さくなり、あるいは、臀部領域B5が検知されないケースもある。また、図示しないケースとして、臀部領域B5が無くなる代わりに、頭部領域が検知されるケースも想定される。また、このケースでは、2つの足領域A6がX方向他方側(足側)に位置することもある。
【0047】
上述のいずれの溺水姿勢においても、圧力反応のある各領域の圧力値は通常座位姿勢における臀部領域B1の基準圧力値Pnbよりも低下するため、圧力反応のある領域の圧力値の変化を検出することにより、溺水姿勢の種類に関わらず、溺水を検出することができる。なお、
図7に示したような体圧分布の変化パターンに基づいて、溺水姿勢の種類を推定してもよい。
【0048】
以上説明したように、本実施の形態に係る溺水検出システム1によれば、圧力センサ2から得られる圧力値、すなわち入浴者10の荷重をリアルタイムで検知することによって、溺水検出部3において、入浴者10の入浴行動の推定と入浴中における入浴者10の姿勢判定とを行うことができる。すなわち、浴槽9の底面91に圧力センサ2を設けるという簡易な構成で、入浴者10の溺水を、早期かつ精度良く検出することができる。
【0049】
また、溺水検出部3(姿勢判定部5)により溺水が検出されると、入浴者10への意識確認を行うことなく即座に、通知部6により溺水発生を示すアラートが発報されるので、溺水状態の入浴者10を早期に発見することができる。さらに、アラートの発報と同時、または直後に、排水制御部7により浴槽9から(たとえば全量の)湯Wが排水されるので、入浴者10の溺死のリスクをさらに軽減することができる。
【0050】
<変形例>
本実施の形態では、溺水検出部3が行動推定部4および姿勢判定部5を含むこととしたが、少なくとも姿勢判定部5を含んでいればよく、行動推定部4は必須ではない。この場合、たとえば浴槽9の付近に、通常座位姿勢での入浴開始時に操作する操作手段(図示せず)を設置し、入浴者10が操作手段を操作したタイミングで姿勢判定部5を作動するようにしてもよい。
【0051】
また、本実施の形態における姿勢判定部5は、入浴中に底面91にかかる圧力値が入浴者10の体重の所定割合以下である場合に溺水姿勢であると判定することとしたが、このような例に限定されない。たとえば、入浴者10に接触しているいずれかの領域の圧力値が、臀部領域B1の基準圧力値Pnbの所定割合以下に低下した場合に、入浴中の姿勢が通常座位姿勢から溺水姿勢に移行したと判定してもよい。なお、本実施の形態では、姿勢判定部5が入浴者10の体重を用いて姿勢判定するので、入浴者10が通常座位姿勢をとることなく入浴直後に溺水するようなケースにも対応できるメリットがある。
【0052】
また、本実施の形態では、通常座位姿勢は、臀部を底面91につけて座る姿勢(2つの足領域A2および1つの臀部領域B1が検知される姿勢)であるとして説明したが、通常座位姿勢が、臀部を底面91につけずに座って入浴する姿勢(2つの足領域A2のみが検知される姿勢)を含むようにすることも可能である。具体的には、2つの足領域A2の圧力値が、たとえば入浴者10の体重の7%(閾値)以上かつ15%以下の範囲内にある場合に、(臀部領域B1が検知されなくても)通常座位姿勢での入浴中であると判定することができる。
【0053】
本実施の形態では、溺水検出システム1が、高齢者住宅の浴室Rに適用された例について説明したが、このような例に限定されず、一般的な住宅や施設に設けられた浴室(典型的には一人用の浴室)に適用することも可能である。
【0054】
なお、溺水検出システム1の制御装置により実行される溺水検出方法を、プログラムとして提供してもよい。このようなプログラムは、CD-ROM(Compact Disc-ROM)などの光学媒体や、メモリカードなどのコンピュータ読取り可能な一時的でない(non-transitory)記録媒体にて記録させて提供することができる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0055】
本発明にかかるプログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0056】
また、本発明にかかるプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0057】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
1 溺水検出システム、2 圧力センサ、3 溺水検出部、4 行動推定部、5 姿勢判定部、6 通知部、7 排水制御部、8 給湯設備、9 浴槽、10 入浴者、10b ボディ部、10h 頭部、91 底面、92 電磁弁、R 浴室、W 湯。