(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046951
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】ろ過装置及びろ過処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 24/00 20060101AFI20240329BHJP
B01D 29/62 20060101ALI20240329BHJP
B03D 1/02 20060101ALI20240329BHJP
B03D 1/24 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B01D29/08 520A
B01D29/08 530D
B01D29/08 540A
B01D29/38 580A
B03D1/02
B03D1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152341
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000197746
【氏名又は名称】株式会社石垣
(72)【発明者】
【氏名】氏家 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】富澤 仁貴
【テーマコード(参考)】
4D116
【Fターム(参考)】
4D116AA01
4D116BA04
4D116BA05
4D116DD01
4D116FF02A
4D116FF03A
4D116KK04
4D116QA18C
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4D116QA29C
4D116QA29D
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4D116QA31C
4D116QA31D
4D116QA31F
4D116QA39C
4D116QA39D
4D116QA39F
4D116QC04A
4D116QC19
4D116QC29
4D116RR01
4D116RR03
4D116RR12
4D116RR24
4D116UU14
4D116VV07
(57)【要約】
【課題】ろ材層の圧密状態を維持するとともに、懸濁物質を泡沫分離しながらろ過を行うことで安定したろ過処理を継続できるろ過装置及びろ過処理方法を提供する。
【解決手段】
ろ過処理工程S4の前段で沈降性の粒状繊維ろ材を圧密し、戻り防止部材9にて圧密状態を維持する下向流式のろ過装置において、円筒状の枠体23に通水孔を有する網体21を張設し、ろ材表層部11近傍に静置して圧密状態を維持する昇降可能な戻り防止部材9と、戻り防止部材9と一体的に構成し、微細気泡を噴出する泡沫分離装置12と、を備えたことで、懸濁物質を浮上濃縮しながらろ過を継続できるため、ろ過効率が低下しない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過処理工程(S4)の前段で沈降性の粒状繊維ろ材を圧密し、戻り防止部材(9)にて圧密状態を維持する下向流式のろ過装置において、
円筒状の枠体(23)に通水孔を有する網体(21)を張設し、ろ材表層部(11)近傍に静置して圧密状態を維持する昇降可能な戻り防止部材(9)と、
戻り防止部材(9)と一体的に構成し、微細気泡を噴出する泡沫分離装置(12)と、を備えた
ことを特徴とするろ過装置。
【請求項2】
前記泡沫分離装置(12)は、微細気泡をろ材表層部(11)に向けて噴出する噴出部(15A)を備えた
ことを特徴とする請求項1に記載のろ過装置。
【請求項3】
前記戻り防止部材(9)に、ろ材表層部(11)で捕捉された懸濁物質を撹拌する撹拌流体噴出装置(13)を備えるとともに、
泡沫分離装置(12)の噴出部(15A)を上向きに設けた
ことを特徴とする請求項1に記載のろ過装置。
【請求項4】
前記泡沫分離装置(12)は、枠体(23)の枠体内壁(30)に亘って形成された配管(16A)と、
配管(16A)に形成され、微細な噴出孔(14A)を有する噴出部(15A)と、を備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のろ過装置。
【請求項5】
沈降性の粒状繊維ろ材で形成したろ材層(4)で被処理液中の懸濁物質を捕捉する下向流式のろ過処理方法において、
ろ過槽(2)内に所定の水位まで圧密水を貯留する圧密水貯留工程(S1)と、
貯留した圧密水排出時の水流によりろ材層(4)を圧密する圧密工程(S2)と、
網体(21)を張設した戻り防止部材(9)をろ材表層部(11)近傍に静置してろ材層(4)の圧密状態を維持する戻り防止工程(S3)を行った後、ろ過処理工程(S4)を開始するとともに、
ろ過処理工程(S4)の際に、
戻り防止部材(9)に一体的に取り付けた泡沫分離装置(12)から微細気泡を噴出し、懸濁物質を泡沫分離する
ことを特徴とするろ過処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状繊維ろ材を用いて被処理液のろ過を行う下向流式ろ過装置に関し、ろ材から剥離した懸濁物質を除去しながらろ過を行うろ過装置及びろ過処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、沈降した不定形ろ材に被処理液を下向流で通水してろ過処理を行うろ過装置が知られている。ろ過時間の経過とともに、ろ材の内部や表面に懸濁物質が付着し、ろ過性能が低下するため、定期的にろ材を洗浄する必要があった。ろ材洗浄は、ろ過処理工程後に実施しており、排水側からの逆洗浄通水、曝気、機械撹拌、あるいはこれらの組み合わせ等により行っていた。
【0003】
例えば、特許文献1には、ろ材層の洗浄時に底部から空気を供給し、ろ材を流動させて懸濁物質を離した後、ろ材層上部に具備した微細気泡発生装置から微細気泡を供給して懸濁物質を浮上濃縮させ、浮上濃縮した懸濁物質を底部から供給した洗浄水にてろ過装置上部から排出するろ材洗浄技術が開示されている。また、ろ過工程時に、微細気泡を導入した原水を供給し、ろ材に付着した懸濁物質を浮上濃縮させて排出する技術も記されている。
【0004】
特許文献2の
図7には、ろ過装置底部から洗浄処理液を注水した後、曝気してろ材操作部材を上方へ移動させた状態でろ材を撹拌してろ材に付着した懸濁物質を剥離し、ろ過装置上部から排出するろ材洗浄技術が開示されている。また、ろ過処理時における懸濁物質の捕捉率を高めるために、ろ過装置内部にろ材操作部材を配置し、底部で排水する際の流れの圧力によって、ろ材の間隙を縮める技術も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のろ材洗浄技術では、ろ材を撹拌洗浄するため洗浄効果は高いが、ろ過処理時にろ過装置内に積層された粒状繊維ろ材が十分に圧密されておらず、ろ材層の空隙率が高くなっている。これに伴い、上部より供給された被処理液に微小な粒子が多く含まれていた場合には、含有する懸濁物質がろ材層で十分に捕捉されないまま下部より排出されるため、ろ過精度を高めることができなかった。
【0007】
特許文献1には、ろ過工程において、微細気泡を導入した原水をろ過装置に供給し、懸濁物質を浮上濃縮させて除去する技術が開示されているが、ろ材が十分に圧密されていないないため、懸濁物質を効率よく捕捉できず、懸濁物質の除去率を低減できなかった。また、ろ材洗浄時において、空気供給管より供給された空気によってろ材から剥離した懸濁物質を、微細気泡発生装置にて浮上濃縮させているが、微細気泡発生装置が昇降可能である等の記載及び示唆はない。そのため、ろ材層の位置が変化した際、所望の位置に微細気泡を供給できず、懸濁物質を効率よく除去できなかった。
【0008】
特許文献2の技術は、ろ材層上方にろ材操作部材を設けているため、ろ過処理時に粒状繊維ろ材同士を十分に圧密させることが可能であるが、ろ材操作部材の押圧力および開放力が原水の通水量や懸濁物質の含有量、曝気量等に依存しているため、安定的なろ過処理を行うことが困難であった。また、ろ過処理中において、ろ材層を圧密した状態でろ材の洗浄を行うことはできなかった。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、ろ過処理工程時に、ろ材層の戻り防止部材をろ材表層部で静置させて均一な空隙率のろ材層を形成するとともに、ろ材から剥離した懸濁物質を浮上濃縮して除去することで、安定したろ過運転を継続できるろ過装置及びろ過処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ろ過処理工程の前段で沈降性の粒状繊維ろ材を圧密し、戻り防止部材にて圧密状態を維持する下向流式のろ過装置において、円筒状の枠体に通水孔を有する網体を張設し、ろ材表層部近傍に静置して圧密状態を維持する昇降可能な戻り防止部材と、戻り防止部材と一体的に構成し、微細気泡を噴出する泡沫分離装置と、を備えたことで、ろ材層の圧密状態を維持できるとともに微細気泡を所望の位置から噴出可能であるため、ろ過槽内を浮上する懸濁物質を効率よく除去できる。
【0011】
前記泡沫分離装置は、微細気泡をろ材表層部に向けて噴出する噴出部を備えたことで、ろ材表層部に向かって噴出した微細気泡によってろ材表層部より懸濁物質を剥離できるとともに浮上分離できる。
【0012】
前記戻り防止部材に、ろ材表層部で捕捉された懸濁物質を撹拌する撹拌流体噴出装置を備えるとともに、泡沫分離装置の噴出部を上向きに設けたことで、撹拌流体噴出装置から噴出された撹拌流体でろ材表層部から懸濁物質を剥離した後、剥離した懸濁物質を泡沫分離装置から噴出された微細気泡で浮上分離できる。
【0013】
前記泡沫分離装置は、枠体の枠体内壁に亘って形成された配管と、配管に形成され、微
細な噴出孔を有する噴出部と、を備えたことで、配管内に供給された流体を噴出部から微細気泡として噴出できる。
【0014】
沈降性の粒状繊維ろ材で形成したろ材層で被処理液中の懸濁物質を捕捉する下向流式のろ過処理方法において、ろ過槽内に所定の水位まで圧密水を貯留する圧密水貯留工程と、貯留した圧密水排出時の水流によりろ材層を圧密する圧密工程と、網体を張設した戻り防止部材をろ材表層部近傍に静置してろ材層の圧密状態を維持する戻り防止工程を行った後、ろ過処理工程を開始するとともに、ろ過処理工程の際に、戻り防止部材に一体的に取り付けた泡沫分離装置から微細気泡を噴出し、懸濁物質を泡沫分離することで、均一で高い圧密度のろ材層を維持した状態でろ過処理を行うことが可能になるとともに、懸濁物質を効率よく除去できるため、安定したろ過処理を継続できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のろ過装置及びろ過処理方法は、泡沫分離装置を昇降可能な戻り防止部材に一体的に設けたものであり、戻り防止部材をろ材表層部近傍に静置することで、ろ材層の圧密を維持した状態での運転が可能となるため、長時間にわたって安定したろ過を継続できる。また、微細気泡を所望の位置より噴出できるため、供給された被処理液中に含まれる懸濁物質を効率よく除去できる。ろ過工程中に泡沫分離を行うことで、ろ材で捕捉できない微小な懸濁物質も除去されるため、懸濁物質の除去率を向上させることができる。さらに、撹拌流体噴出装置によって、ろ材表層部に向けて撹拌流体を噴出することで、ろ材表層部への懸濁物質の堆積を防止できるため、ろ材表層部の目詰まりが発生し難い。これに伴い、ろ過工程後に行うろ材洗浄の時間や頻度の低減も可能となる。特に、空隙率が高く圧縮性の大きい繊維ろ材に有効であり、ろ過処理工程中においても均一で高い圧密度を維持した状態で運転を継続することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】同じく、ろ過処理の運転立上時の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明に係るろ過装置の縦断面図である。
ろ過装置1は、円筒状のろ過槽2を立設し、内部に繊維ろ材を充填してろ過槽2下方の流出防止スクリーン3上にろ材層4を形成している。繊維ろ材は、沈降性の粒状繊維ろ材であって、球状や柱状等、形を限定しない。上方の被処理液管5から被処理液を供給し、ろ材層4にて懸濁物質を捕捉して処理水を下方の処理液管6から外部に排出する。また、必要に応じて、被処理液管5側への繊維ろ材の流出を防止するスクリーンをろ過槽2の上方に張設してもよい。
【0018】
ろ過槽2の内部には、圧縮したろ材層4が上方の開放方向に緩み、ろ材層4の空隙率が不均一となることを防止する戻り防止機構を配設している。
【0019】
戻り防止機構は、ろ過槽2の上方に設置した駆動機7と、駆動機7の動力にて駆動する送りねじ部材8と、送りねじ部材8に螺合して昇降する戻り防止部材9と、送りねじ部材8の端部を回転自在に支持する支持杆10で構成している。支持杆10は、ろ過槽2の内壁から送りねじ部材8まで延設しており、端部には送りねじ部材8を挿通可能な筒状部材34を有している。筒状部材34は、戻り防止部材9を貫通して下方に延設された送りねじ部材8端部の振れ止めとして機能する。なお、本実施形態では送りねじ部材8を3本用いており、そのうち、1本は駆動機7に連結して正逆回転可能に構成し、残りは駆動機7から伝達された動力にて駆動できる構成としている。駆動機7の動力は、各送りねじ部材8に設けた駆動プーリー31及び従動プーリー32に懸架したタイミングベルト等の駆動伝達部材33にて伝達される。
【0020】
各送りねじ部材8は、ろ過槽2の軸心と並行となるように垂直方向に垂設してあり、周面には、少なくとも戻り防止部材9の昇降範囲に亘って螺旋状のスクリューねじで形成されている。スクリューねじのピッチや駆動機7との連結方式(直結またはウォームギア等)は、ろ過装置1の仕様や昇降速度に応じて適宜選択する。
【0021】
戻り防止部材9は、ろ材層4に供給される被処理液中の懸濁物質を微細気泡により浮上分離してろ過槽2上方の排出管20から泡沫とともに排出する泡沫分離装置12と、ろ材表層部11に堆積する懸濁物質に撹拌流体(気体又は液体)を噴射して撹拌する撹拌流体噴出装置13とを一体的に備えている。泡沫分離装置12と撹拌流体噴出装置13には、戻り防止部材9の昇降作用に応じて伸縮可能な可撓式の供給管18を接続している。供給管18には、流体供給源19を接続しており、泡沫分離装置12及び撹拌流体噴出装置13に流体を供給できる構成としてある。
【0022】
本実施形態では、戻り防止部材9を複数の送りねじ部材8に螺合させているが、送りねじ部材8を、ろ過槽2の中心部に1本垂設した形態としてもよい。この形態で、軸心から偏心する位置にガイドバー(図示しない)を垂設することで、戻り防止部材9の前後左右へのブレを防止できる。このように戻り防止部材9を昇降できる機構であれば、送りねじ部材8の本数や、昇降機構の形態等は本実施形態に限定されない。
【0023】
図2は戻り防止部材の上面図である。
戻り防止部材9は、ろ材表層部11近傍に静置してろ材層4の圧密状態を維持する部材であり、所定の厚みを有する円筒状の枠体23内に、微小な通水孔を有する網体21を張設している。枠体23は、
図1に示すろ過槽2の内壁に近接させており、ろ過槽2との間に形成される間隙からろ材が通過できないように設定している。必要に応じて、枠体23の外周に摺動部材を周設してもよい。
【0024】
網体21は、微小孔を貫設した板材や、メッシュ部材等で形成している。網体21の通水孔は、被処理液管5からの被処理水をろ材層4へ通水可能で、且つ、上方へのろ材の流出を防止できる径とする。
【0025】
戻り防止部材9の中心部から偏心する位置には、各送りねじ部材8と螺合する螺旋状のねじ溝27を形成している。本実施形態では、ねじ溝27を、網体21上に設置した所定の高さを有する筒状部材35の内周面に形成してある。筒状部材35は、網体21に形成された開口部(図示しない)と連通するように配設されているため、送りねじ部材8を上方から挿通可能であり、送りねじ部材8を挿通させた状態で回動させることで、戻り防止部材9が上下方向に昇降できる。本実施形態におけるねじ溝27及び筒状部材35等の構成は一例であり、送りねじ部材8を係合可能な構成であればこれに限定されない。
【0026】
なお、戻り防止部材9の鉛直方向に必要に応じて補強用リブを追加してもよい。また、所定の間隔をあけて網体21を上下二段で設けた場合、下段の網体21から流出した繊維ろ材を上段の網体21で捕捉できる。
【0027】
本実施形態では、戻り防止部材9に配管16A(主管17A、枝管26A)及び噴出部15Aを有する泡沫分離装置12を一体的に設置している。主管17A及び枝管26Aは、枠体内壁30に亘って形成してある。具体的には、供給管18に接続した主管17Aを枠体23に架橋し、主管17Aから複数の枝管26Aを鉛直方向に分岐した構成としている。配管16A(主管17A、枝管26A)は、枠体23あるいは網体21に公知の方法にて固定する。
【0028】
配管16Aは、上面に多数の噴出孔14Aを形成した噴出部15Aを複数装着し、供給管18から主管17A及び枝管26A内に流入する圧縮空気を、微細気泡として上方に向かって噴出する。各噴出部15Aは、配管16Aに脱着可能に取り付けており、噴出孔14Aが閉塞した場合に任意の噴出部15Aのみメンテナンスできるため、維持管理性が高い。
【0029】
各噴出部15Aは、上面に合成樹脂膜や合成ゴム膜に、多数の微細孔(噴出孔14A)を設けた公知のメンブレン式のものを用いて微細気泡を発生させている。配管16A内に供給された圧縮空気によってメンブレンが膨らみ、微細孔(噴出孔14A)が開くことによって、散気が行われる。圧縮空気の供給を停止した際には、微細孔(噴出孔14A)は、閉じた状態にある。
【0030】
なお、微細気泡を発生できる装置であればよいため、散気式ではなくその他の微細気泡発生機構を用いてもよい。また、配管16の材質は、金属や合成樹脂、セラミック等、条件に応じて適宜選択する。
【0031】
図3は戻り防止部材の下面図である。
本実施形態では、戻り防止部材9に配管16B(主管17B、枝管26B)及び噴出部15Bを有する撹拌流体噴出装置13を、
図2で詳述した戻り防止部材9の下部に一体的に設置している。主管17B及び枝管26Bは、枠体内壁30に亘って形成してある。配管16B(主管17B、枝管26B)は、泡沫分離装置12と同様に、枠体23あるいは網体21に公知の方法にて固定する。
【0032】
配管16Bには、下向きに複数の噴射孔14B形成した噴出部15Bを有しており、主管17Bの周面に接続された供給管18から導入した撹拌流体を噴出できる。主管17Bを省略して供給管18を枝管26Bに直接接続する構成としてもよい。本実施形態では、
撹拌流体噴出装置13を複数の配管16Bにて構成したが、ろ材表層部11に堆積する懸濁物質を撹拌できる機構であれば、これに限定されない。
【0033】
なお、泡沫分離装置12及び撹拌流体噴出装置13を構成する配管16A、16Bは、網体21から所定の間隔をあけて設置することが望ましい。これにより、設置した配管16によって網体21の通水孔を塞ぎ、通水効率が低下することを防止できる。また、戻り防止部材9とともに昇降できればよいため、配管16A、16Bを枠体内壁30に架橋しても、枠体内壁30から離間する形態としてもよい。さらに、主管17Bから分岐する枝管26Bは、放射線状、同心円状に分岐してもよく、枝管26Bからさらに分岐してもよい。主管17Bに枝管26Bを重設して連通させてもよい。
【0034】
撹拌流体として微細気泡を使用する際には、泡沫分離装置12と撹拌流体噴出装置13を構成する主管17を共通とし、主管17の上方に噴出部15Aを設け下方に噴出部15Bを設ける構成としてもよい。
【0035】
泡沫分離装置12及び撹拌流体噴出装置13を構成する噴出部15A、15Bの数量や位置及び噴出孔14A、14Bの径や形状、噴出角度等に関しても設計条件に応じて適宜選択する。
【実施例0036】
本実施形態では、以下に記載の
図4~
図7の工程を実施した後、
図8のろ過処理工程を
行う。
図4はろ過処理の運転立上時の模式図である。
ろ過槽2に新たにろ材を投入、あるいはろ過処理工程S4後に繊維ろ材を洗浄した後、ろ過槽2の水を排水した際に、繊維ろ材が流出防止スクリーン3上に堆積した状態となっている。戻り防止部材9は、ろ過槽2の上方に上昇させてあり、繊維ろ材の交換時やろ材洗浄工程S5時に邪魔にならない位置で静置している。
【0037】
ろ材層4は、自然沈降した状態であり、繊維ろ材間で大きな空隙を有している。この状態で被処理液を通水すると、被処理液中の懸濁物質が繊維ろ材で捕捉されずに、ろ材層4を通過して処理液と共に排出されてしまうため、ろ過処理工程S4の前段で、ろ材層4を圧密する各工程S1~S3を行う。
【0038】
<圧密水貯留工程S1>
図5は圧密水貯留工程の模式図である。
圧密水貯留工程S1では、ろ過槽2内に圧密水の貯留を行う。被処理液管5からろ過槽2内に圧密水を供給する。処理液管6に介装する弁V2は閉止してあり、圧密水はろ過槽2内に貯留されていく。このとき、排出管20に介装する弁V3は開放し、ろ過槽2上方より空気を吸入及び排出できるようにしておく。所定の水位まで圧密水を貯留すると、圧密水の供給を停止する。このとき、戻り防止部材9は、ろ材表層部11の近傍まで近接させておくことが望ましい。
【0039】
本実施形態では、圧密水として、新たに外部からろ過槽2に供給しているが、ろ材洗浄工程S5後にろ過槽2に貯留している洗浄液を圧密水として利用してもよい。
【0040】
<圧密工程S2>
図6は圧密工程の模式図である。
圧密工程S2では、繊維ろ材を圧密してろ材層4を形成する。所定の水位まで圧密水を
貯留した後、処理液管6に介装する弁V2を開放し、圧密水を下方に向かって一気に排出する。このとき、ろ過槽2底部に向かう水流によって、繊維ろ材は流出防止スクリーン3の上方で圧密され、十分な圧密度を有するろ材層4を形成する。圧密工程S2を行うと繊維ろ材間の間隙が小さくなり、自然沈降時と比較してろ材層4の高さが低くなる。必要に応じて、ろ過槽2に圧密水を貯留して排出する圧密工程S2を複数回行ってもよい。
【0041】
<戻り防止工程S3>
図7は戻り防止工程の模式図である。
戻り防止工程S3では、戻り防止部材9をろ材表層部11近傍に静置させて、ろ材層4の圧密状態を維持する。圧密工程S2と同時に駆動機7を駆動し、駆動機7と連結する送りねじ部材8を正転させる。送りねじ部材8と螺合しながら戻り防止部材9が下降を開始する。
【0042】
圧密水により適度に圧縮されたろ材表層部11まで戻り防止部材9が下降したことを検知すると、駆動機7を停止し、戻り防止部材9をその位置で静置させる。戻り防止部材9の下降検知は、例えば、ろ過槽2に配置した回転計24や位置検知装置25、駆動機7の連結部に配置したトルク計28等によって判断する。
【0043】
回転計24は、送りねじ部材8あるいは、駆動機の7の回転数を計測するもので、予め定めた回転数に到達すると、駆動機7に停止信号を送信する。
【0044】
また、位置検知装置25は、公知の接触あるいは、非接触型の装置を用いて、戻り防止部材9が予め定めた位置に到達すると、駆動機7に停止信号を送信する。
【0045】
さらに、トルク計28は、戻り防止部材9がろ材表層部11に到達した際に、急増するトルクを計測するもので、予め定めた計測値以上のトルクを計測すると、駆動機7に停止信号を送信する。なお、下降検知は上記手法に限らず、条件に応じ適宜決定する。
【0046】
戻り防止部材9の下降速度は、圧密工程S2時の圧密水による繊維ろ材の下降速度より遅くすることが望ましい。繊維ろ材が圧密水によって圧縮される前に、戻り防止部材9で圧縮されると、ろ材層4上方部の圧縮率のみが高くなり、均一な空隙率のろ材層4の形成が阻害される。条件によって、繊維ろ材の下降速度よりも速い速度を設定した場合には、下降するろ材表層部11を追い越さないように調整する。
【0047】
ろ材表層部11近傍で静置した戻り防止部材9は、送りねじ部材8と螺合しているため、圧縮されたろ材層4の反発力により上方に移動することはない。同様に、ろ過処理工程S4時に被処理液を通水する際に、下方のろ材層4を押圧することがない。
【0048】
本実施形態では、圧密工程S2と戻り防止工程S3を同時に行っているが、ろ材層4が圧密された直後に、戻り防止部材9をろ材表層部11まで下降させる形態であればよい。例えば、圧密工程S2より前に戻り防止工程S3を開始する場合、ゆっくりと戻り防止部材9を下降させつつ、圧密水によりろ材層4を圧密し、圧縮されたろ材層4の上方の開放方向への緩みが発生する前に戻り防止部材9をろ材表層部11に到達するようにしてもよい。
【0049】
圧密水にてろ材層4を圧密し、通水可能な戻り防止部材9をろ材表層部11に摺接させて、圧縮したろ材層4による開放方向への緩みを防止した状態でろ過処理工程S4を開始する。ろ材層4は圧密水により均一で圧密度が高いろ材層4を形成しているため、運転初期から安定したろ過処理を行うことができる。
【0050】
<ろ過処理工程S4>
図8はろ過処理工程の模式図である。
ろ過処理工程S4では、被処理液をろ過槽2内に供給してろ過処理を行う。被処理液管5からろ過槽2内に被処理液を供給し、ろ過槽2内に充填されたろ材層4を通過させる。このとき、処理液管6に介装する弁V2を開放し、ろ材層4通過後の処理液を排出できるようにしておく。また、排出管20に介装する弁V3も開放しておき、槽内に供給されるエアによってエア溜まりが発生するため、エア抜きを実施してろ過槽2内の圧力が上昇しすぎないように調整しておく。
【0051】
被処理液の供給を開始し、被処理液が所定の水位まで上昇した後、泡沫分離装置12に接続された流体供給源19を駆動し、供給管18から配管16Aに向かって圧縮空気を供給する。圧縮空気は、
図2に示す主管17A(配管16A)に流入した後、各枝管26A(配管16A)を介して各噴出部15Aに形成された噴出孔14Aから微細気泡として上方に向かって噴出される。本実施形態では、ろ過処理工程S4中に微細気泡を常時噴出するため、ろ過中に生じる懸濁物質を効率よく浮上分離できる。なお、圧縮空気の供給開始のタイミングは、条件に応じて適宜決定する。
【0052】
噴出された多数の微細気泡は、上方より供給される被処理液中に混在する懸濁物質や、水圧等の影響を受けてろ材層4から自然に剥離した懸濁物質を吸着し、水面に向かって浮上する。そして、次々と浮上してくる懸濁物質を吸着した気泡が水面に集まって、水面に泡沫を形成する。水面に形成された泡沫は、ろ過槽2上方の排出管20より排出される。
【0053】
ろ過処理工程S4開始から所定時間経過後、ろ材層4を通過する被処理液中に含まれる懸濁物質がろ材表層部11に徐々に堆積する。本実施形態ではろ材表層部11に戻り防止部材9を静置し、均一な圧密状態を維持した状態でろ過処理を行うため、ろ材間にて効率よく懸濁物質を捕捉できるが、ろ過時間の経過とともに、ろ材表層部11に懸濁物質が堆積して短時間でろ過圧力が上昇し、ろ過効率の低下を引き起こすことがある。
【0054】
そこで、本実施形態では、ろ過処理工程S4中にろ材表層部11に向かって撹拌流体を噴出し、ろ材表層部11に堆積する懸濁物質を剥離しながらろ過を行う。
【0055】
ろ材表層部11の撹拌は、戻り防止部材9の下部に設けた撹拌流体噴出装置13とろ材表層部11との間に所定の隙間Xが形成されたタイミングで行う。形成される所定の隙間Xは、数cm~十数cm程度であり、ろ過処理中にろ材表層部11が被処理液の供給圧を受けて徐々に圧密されることで形成される。本実施形態では、圧縮性の高い繊維ろ材を使用しているため、被処理液の水圧を受けてろ材層4が圧密され、所定の隙間Xが形成される。
【0056】
所定の隙間Xが形成された後、撹拌流体噴出装置13に接続した流体供給源19を駆動し、供給管18から
図3に示す主管17B(配管16B)に向かって撹拌流体を供給する。主管17B(配管16B)に供給された撹拌流体は、主管17B(配管16B)に連通する複数の枝管26Bに形成された噴出孔14Bからろ材表層部11に向かって噴出される。
【0057】
ろ材層表層部11は、撹拌流体が噴出された後、撹拌され、懸濁物質が剥離する。剥離した懸濁物質は、戻り防止部材9の網体21に開口した通水孔を抜けて上方へと浮上し、泡沫分離装置12からろ過槽2内に常時供給される微細気泡に吸着された後、水面に向かってさらに浮上していく。そして、次々と浮上する気泡によって水面に泡沫が形成される。
【0058】
なお、所定の隙間Xの確認は、例えば、ろ過槽2の一部に設けた検視窓から位置を測定できるセンサにより確認する方法や、撮像装置を用いて撮影して確認する方法等とする。その他、ろ過槽2内の圧力を継続的に計測し、計測値が所定値を示した際にろ材層4の厚みが変化したと認識して行う方法等であってもよい。また、本実施形態では、ろ過槽表層部11近傍に戻り防止部材9を静置させているため、ろ材層4が上方または下方に移動することはないが、例えば、ろ材表層部11から撹拌流体噴出装置13までの間隔が所定の隙間X以上が望ましい場合等には、撹拌流体噴出装置13を移動させて任意の位置からろ材撹拌流体を噴出してもよい。
【0059】
水面に形成された泡沫は、散気部15から上方に向かって常時噴出される微細気泡とともに排出管20から排出される。排出管20に介装する弁V3は、ろ過工程中に常時開放状態としてあるため、ろ過槽2内の水面に形成された泡沫は、散気部15から排出管20に向かって常時排出される微細気泡とともに排出される。
【0060】
このとき、弁V3の開度は、排出管20に設けたろ過槽2内の水位を計測するレベル計29の値に応じて適宜調整する。本実施形態では、ろ過槽2内の水位を一定に保った状態でろ過を行うために、排出管20にレベル計29を設け、常時水位を計測しているが、計測された水位が事前に定めた所定値から外れた場合、弁V3の開度を調整する。例えば、計測された水位が所定値よりも低い場合、弁の開度を大きくし、泡沫及び微細気泡の排出量を増やして水位を所定値まで上昇させる。ろ過槽2上方に大量の空気が滞留すると、ろ過槽2内の水位低下につながるため、レベル計29の計測値をもとに上記操作を実施する。なお、泡沫の排出方法は、本実施形態に限定されず、排出管20から常時オーバーフローさせながら排出させる形態等としてもよい。
【0061】
ろ過処理工程S4終了後、被処理液の供給を停止し、弁V1を閉める。同時に流体供給源19の駆動を停止し、泡沫分離操作を終了する。なお、被処理液の供給は、泡沫分離時のみならず、ろ材表層部11の撹拌時も継続的に行い、予め定めた所定時間や所定時刻、所定圧力等に到達した時点で終了する。
【0062】
また、撹拌流体噴出の開始及び終了のタイミングに関しても、予め定めた所定時間や所定時刻、所定圧力等を指標として行う。撹拌流体は連続的に噴出しても、断続的に噴出してもよい。
【0063】
本実施形態では、戻り防止部材9の下方に撹拌流体噴出装置13を設置し、上方に泡沫分離装置12を設置したことで、撹拌流体噴出装置13から供給された撹拌流体にて剥離された直後の懸濁物質に、微細気泡を供給できる。そのため、懸濁物質が水面に浮上するまでの間に微細気泡に吸着することが可能となり、効率よく泡沫を生成できる。また、泡沫分離装置12及び撹拌流体噴出装置13が昇降可能であるため、ろ材表層部11近傍に撹拌流体噴出装置13を配設可能となり、ろ材表層部11に懸濁物質が堆積することを防ぐ。
【0064】
そして、ろ過処理工程S4時のろ材表層部11は、常時洗浄された状態となるため、ろ過効率が低下しない。このように常時、ろ材表層部11を洗浄しながらろ過を継続することで、早期のろ過圧力上昇を防止し、ろ過継続時間を延ばすとともに、ろ材洗浄の時間や頻度を低減できる。
【0065】
本実施形態では、泡沫分離装置12の噴出部15を上向きに構成したが、噴出部15を下向きにして戻り防止部材9に設置し、1つの装置でろ材の表層撹拌及び泡沫分離を実施できる形態としてもよい。この形態とする場合には、網体21と泡沫分離装置12との間に所定の隙間を設け、網体21の上方から微細気泡を噴出できる構成とすることが望ましい。網体21上方に所定の隙間を設けることで、被処理液の圧密によって所定の隙間Xが形成される前からろ材表層部の撹拌を実施できる。また、噴出口を上方に向けた泡沫分離装置12のみを戻り防止部材9と一体的に設置した構成とし、ろ過処理工程S4中において、泡沫分離のみ行う形態としてもよい。
【0066】
<ろ材洗浄工程S5>
ろ材洗浄工程S5では、
図4に示すように、ろ材表層部11に摺接している戻り防止部材9を所定位置まで引き上げ、処理液管6からろ過槽2内に洗浄液を供給して繊維ろ材の洗浄を行う。ろ材を洗浄した後の洗浄排液は、排出管20より排出される。このとき、弁V2及び弁V3は開放状態である。本実施形態では、公知の方法にてろ材洗浄を実施しているが、ろ材洗浄工程S5前段で懸濁物質を除去しながらろ過を行っているため、ろ材表層部11の目詰まりが発生し難い。従って、ろ材洗浄の時間や頻度等を低減できる。
【0067】
本発明は、上記に詳述した実施形態に限られるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形実施可能である。
本発明は、ろ材層の圧密状態を維持した状態でろ材表層部に堆積する懸濁物質を除去しながらろ過を行うため、ろ材層の目詰まりが発生し難く、安定したろ過処理を継続できる。また、ろ材洗浄工程の前段で懸濁物質を除去するため、長時間にわたってろ過運転を継続可能となり、ろ材洗浄の時間や頻度を低減できる。表層ろ過になりやすい凝集ろ過や高濁度水、あるいは、プール等の高清澄度が要求される特殊な用途にも捕捉率の高い繊維ろ材を使用でき、深層ろ過を行うことで、洗浄頻度が少なく長時間のろ過処理工程を行うことができる有益なろ過処理方法となる。