(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046958
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】可変容量圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 27/12 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
F04B27/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152348
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】小澤 篤史
(72)【発明者】
【氏名】田部井 俊治
(72)【発明者】
【氏名】松嵜 淑恵
【テーマコード(参考)】
3H076
【Fターム(参考)】
3H076AA06
3H076BB13
3H076BB26
3H076BB43
3H076CC20
3H076CC27
3H076CC84
3H076CC97
(57)【要約】
【課題】可変容量圧縮機において冷媒の吐出容量を制御する容量制御弁への異物の流入を軽減する。
【解決手段】可変容量圧縮機の一例である斜板式圧縮機100は、吸入室150と、その冷媒を圧縮する圧縮機構と、圧縮機構で圧縮された冷媒が吐出される吐出室152と、内部圧力に応じて圧縮機構の状態を変化させるクランク室110と、吐出室152とクランク室110とを連通する圧力供給通路156に配置され、吐出室152からクランク室110へと供給される冷媒の流量を増減することで、クランク室110の内部圧力を変化させて冷媒の吐出容量を制御する容量制御弁200と、容量制御弁200の複数の導入ポートの周囲に取り付けられたフィルタ210と、圧力供給通路156の先端開口から容量制御弁200へと供給される冷媒の供給方向を変向する変向部材と、を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が導入される吸入室と、
前記吸入室の冷媒を吸入して圧縮する圧縮機構と、
前記圧縮機構によって圧縮された冷媒が吐出される吐出室と、
内部圧力に応じて前記圧縮機構の状態を変化させる制御圧室と、
前記吐出室と前記制御圧室とを連通する連通路に配置され、前記吐出室から前記制御圧室へと供給される冷媒の流量を増減することで、前記制御圧室の内部圧力を変化させて前記冷媒の吐出容量を制御する円柱形状の容量制御弁と、
前記容量制御弁の冷媒の複数の導入ポートの周囲に取り付けられた短尺形状かつ円筒形状のフィルタと、
前記連通路の先端開口から前記容量制御弁へと供給される冷媒の供給方向を変向する変向部材と、
を有する、可変容量圧縮機。
【請求項2】
前記変向部材が、前記容量制御弁に設けられた、
請求項1に記載の可変容量圧縮機。
【請求項3】
前記変向部材は、前記連通路の先端開口に対面する前記フィルタの外周の一部に取り付けられ、前記先端開口から供給された冷媒が衝突する円弧形状の閉塞部材である、
請求項2に記載の可変容量圧縮機。
【請求項4】
前記変向部材は、前記容量制御弁の前記フィルタの周囲に取り付けられ、前記連通路の先端開口から供給された冷媒が衝突するテーパ形状の外周面を有する円筒部材である、
請求項2に記載の可変容量圧縮機。
【請求項5】
前記変向部材は、前記フィルタの軸方向の中間部に取り付けられ、前記連通路の先端開口から供給された冷媒が衝突するリング部材である、
請求項2に記載の可変容量圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒の吐出容量を可変可能な可変容量圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
可変容量圧縮機では、吐出室とクランク室とを連通する連通路に、例えば、吐出室からクランク室へと供給される冷媒の流量を増減させてクランク室の圧力を変化させることで、冷媒及び冷媒と混合した潤滑油の吐出容量を制御する容量制御弁が配置されている。吐出室から供給される冷媒には、可変容量圧縮機に内蔵された可動部の摩耗などによって発生した異物が混入されている可能性がある。冷媒に混入している異物が容量制御弁の内部に流入すると、容量制御弁の内部に収容された弁体の駆動が阻害されて、冷媒の吐出容量を制御できなくなってしまうおそれがある。このため、特開2004-137922号公報(特許文献1)に記載されるように、容量制御弁において、吐出室から供給された冷媒を導入する導入ポートにフィルタを取り付け、冷媒に混入されている異物が内部に流入し難くする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、容量制御弁の動作を阻害する異物のサイズよりもフィルタの目開きが一般的に大きく、かつ容量制御弁に流入する冷媒の流速が比較的速いことから、冷媒に混入している異物がフィルタを通過して、容量制御弁に流入してしまう可能性が依然としてあった。
【0005】
そこで、本発明は、冷媒の吐出容量を制御する容量制御弁への異物の流入を軽減可能な、可変容量圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
可変容量圧縮機は、冷媒が導入される吸入室と、吸入室の冷媒を吸入して圧縮する圧縮機構と、圧縮機構によって圧縮された冷媒が吐出される吐出室と、内部圧力に応じて圧縮機構の状態を変化させる制御圧室と、吐出室と制御圧室とを連通する連通路に配置された円柱形状の容量制御弁と、容量制御弁の冷媒の複数の導入ポートの周囲に取り付けられた短尺形状かつ円筒形状のフィルタと、を有している。ここで、容量制御弁は、吐出室から制御圧室へと供給される冷媒の流量を増減することで、制御圧室の内部圧力を変化させて冷媒の吐出容量を制御する。そして、可変容量圧縮機は、連通路の先端開口から容量制御弁へと供給される冷媒の供給方向を変向する変向部材を更に有している。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、可変容量圧縮機において、冷媒の吐出容量を制御する容量制御弁への異物の流入を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】可変容量圧縮機の一例として挙げられる斜板式圧縮機の縦断面図である。
【
図2】シリンダヘッドの内部構造の一例を示す斜視図である。
【
図3】容量制御弁の取付構造の一例を示す要部断面図である。
【
図4】変向部材の第1実施形態を示す正面図である。
【
図5】変向部材の第1実施形態を示す側面図である。
【
図6】変向部材の第1実施形態の作用及び効果の説明図である。
【
図7】変更部材の第2実施形態を示す要部断面図である。
【
図8】変更部材の第2実施形態の作用及び効果の説明図である。
【
図9】変向部材の第3実施形態を示す斜視図である。
【
図10】第3実施形態の変向部材の変形例を示す斜視図である。
【
図11】第3実施形態の変向部材の変形例を示す縦断面図である。
【
図12】第3実施形態の変向部材の変形例を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、可変容量圧縮機の一例として挙げられる斜板式圧縮機100の一例を示している。斜板式圧縮機100は、例えば、図示しない車両の空調システムの冷媒循環回路に組み込まれ、冷媒循環回路の低圧側から冷媒を吸入して圧縮し、気体循環回路の高圧側に圧縮した冷媒を吐出する。なお、可変容量圧縮機としては、図示の斜板式圧縮機100に限らず、当業者にとって周知の圧縮機であってもよい。
【0010】
斜板式圧縮機100は、複数のシリンダボア102Aが形成されたシリンダブロック102と、シリンダブロック102の軸方向の一端に接合されたフロントハウジング104と、シリンダブロック102の軸方向の他端にバルブプレート106を介して接合されたシリンダヘッド108と、を有している。
【0011】
シリンダブロック102とフロントハウジング104とによってクランク室110が形成され、このクランク室110の内部を軸方向に貫通するように駆動軸112が配置されている。クランク室110は、内部圧力に応じて、シリンダブロック102のシリンダボア102A、ピストン146及び斜板114を含んで構成された圧縮機構の状態を変化させる、冷媒の吐出容量を変化させる制御圧室を構成する。クランク室110の内部には、円板形状の斜板114が配置されている。斜板114の中央部には貫通孔114Aが形成されており、駆動軸112は斜板114の貫通孔114Aを貫通している。また、斜板114は、駆動軸112に一体的に固定された円板形状のロータ116に対して、リンク機構118を介して連結されている。
【0012】
リンク機構118は、ロータ116に突設された第1のアーム116Aと、斜板114に突設された第2のアーム114Bと、第1のアーム116Aの先端部と第2のアーム114Bの先端部とを連結するリンクアーム120と、を含んでいる。リンクアーム120の一端部は、第1の連結ピン122を介して第1のアーム116Aに相対回転可能に連結されている。また、リンクアーム120の他端部は、第2の連結ピン124を介して第2のアーム114Bに相対回転可能に連結されている。従って、斜板114は、リンク機構118によって、駆動軸112と一体的に回転するとともに、駆動軸112の軸線方向に沿って傾斜角が変更可能になっている。
【0013】
斜板114の貫通孔114Aは、斜板114が最小傾斜角と最大傾斜角との間の範囲で傾動可能な形状に形成されている。具体的には、貫通孔114Aには、駆動軸112の外周面と当接することによって、傾斜角を小さくする方向への斜板114の傾斜角変位(傾動)を規制する最小傾斜角規制部が形成されている。また、貫通孔114Aには、駆動軸112の外周面と当接することによって、傾斜角を大きくする方向への斜板114の傾動を規制する最大傾斜角規制部が形成されている。従って、斜板114は、駆動軸112の軸方向に対して、最小傾斜角規制部によって規制される最小傾斜角と最大傾斜角規制部によって規制される最大傾斜角との間で、自由に傾動することができる。
【0014】
駆動軸112には、傾斜角を減少させる方向に斜板114を付勢する傾斜角減少バネ126と、傾斜角を増加させる方向に斜板114を付勢する傾斜角増加バネ128と、が斜板114を挟んで配置されている。具体的には、傾斜角減少バネ126は、斜板114とロータ116との間に配置され、傾斜角増加バネ128は、斜板114と駆動軸112に固定又は形成された円板形状のバネ支持部材130との間に配置されている。
【0015】
ここで、傾斜角増加バネ128の付勢力は、斜板114の傾斜角が最小傾斜角であるときに、傾斜角減少バネ126の付勢力よりも大きくなるように設定されている。従って、駆動軸112が回転していないとき、即ち、斜板式圧縮機100が停止しているときに、斜板114は、傾斜角減少バネ126の付勢力と傾斜角増加バネ128の付勢力とが釣り合う傾斜角(>最小傾斜角)に位置することとなる。傾斜角減少バネ126の付勢力と傾斜角増加バネ128の付勢力とが釣り合う傾斜角は、後述するピストン146による圧縮動作が確保される最小の傾斜角範囲として設定されており、例えば、斜板114が駆動軸112の軸方向に対して直交するときの傾斜角を0度(最小傾斜角)とすると、1~3度の範囲に設定することができる。
【0016】
駆動軸の一端部は、フロントハウジング104の円筒形状のボス部104Aを貫通してその外側まで延在し、電磁クラッチ132を介して、ボス部104Aの外周面に対して相対回転可能に嵌合されたプーリ134に連結されている。また、駆動軸112及びロータ116は、ラジアル方向には軸受136及び138によって支持され、スラスト方向には軸受140及びスラストプレート142によって支持されている。なお、駆動軸112の他端部とスラストプレート142との間隔は、調整ネジ144によって所定の隙間を有するように調整されている。
【0017】
そして、図示しない電動モータやエンジンからの回転駆動力がプーリ134に伝達されている状態で、電磁クラッチ132を作動すると、プーリ134と駆動軸112とが連結されて駆動軸112が回転駆動される。なお、電磁クラッチ132を停止させると、プーリ134と駆動軸112とが切り離されるので、斜板式圧縮機100を停止させることができる。
【0018】
また、斜板式圧縮機100は、シリンダブロック102に形成された複数のシリンダボア102Aと同数のピストン146を有している。それぞれのピストン146は、シリンダボア102Aに対して軸方向に移動可能に配置されたピストン本体146Aと、ピストン本体146Aからクランク室110の内部に向かって軸方向に延出する延出部146Bと、を有している。
【0019】
ピストン146の延出部146Bには、斜板114の周縁部近傍を挟んで配置された一対のシュー148を収容可能な収容部146Cが形成されている。即ち、ピストン146は、斜板114の周縁部近傍を挟んで配置された一対のシュー148を介して、斜板114に連結されている。従って、ピストン146は、斜板114の回転によって、シリンダブロック102のシリンダボア102Aを往復運動するようになっている。
【0020】
シリンダヘッド108には、
図2に示すように、中央部に配置された吸入室150と、吸入室150を環状に取り囲むように配置された複数の吐出室152と、が夫々形成されている。吸入室150は、バルブプレート106に形成された吸入孔106A、及び吸入弁(図示せず)を介して、シリンダブロック102の各シリンダボア102Aと連通している。吐出室152は、バルブプレート106に形成された複数の吐出孔106B及び吐出弁(図示せず)を介して、シリンダブロック102の各シリンダボア102Aと連通している。
【0021】
ここで、フロントハウジング104、シリンダブロック102、バルブプレート106、及びシリンダヘッド108などは、必要に応じて各部材の間にガスケット(図示せず)が配置された状態で、複数の通しボルト154によって相互に締結されて、圧縮機ハウジングが形成されている。
【0022】
シリンダヘッド108には、
図1に示すように、空調システムの低圧側の冷媒循環回路と吸入室150とを連通する吸入通路108Aと、空調システムの高圧側の冷媒循環回路と吐出室152とを連通する吐出通路108Bと、が夫々形成されている。また、シリンダヘッド108には、吐出通路108Bを開閉する逆止弁(図示せず)が配置されている。この逆止弁は、その上流の吐出室152の圧力とその下流の吐出通路108Bの圧力との圧力差に応答して動作し、この圧力差が所定値より小さい場合に吐出通路108Bを遮断し、この圧力差が所定値以上の場合に吐出通路108Bを開通させる。
【0023】
シリンダヘッド108の所定箇所には、吐出室152とクランク室110とを連通する圧力供給通路156の開度を調整することで、吐出室152からクランク室110へと供給される高圧の冷媒の流量を増減し、クランク室110の内部圧力を変化させて冷媒の吐出容量を制御する円柱形状の容量制御弁200が取り付けられている。また、クランク室110の内部に存在する冷媒は、シリンダブロック102に形成された連通路102B及び空間102C、並びにバルブプレート106に形成されたオリフィス106Cによって形成される放圧通路158を介して、吸入室150へと流入するようになっている。従って、容量制御弁200によってクランク室110の圧力を変化させることによって、斜板114の傾斜角、つまりピストン146のストロークを変化させて、斜板式圧縮機100の吐出容量を可変制御できるようになっている。ここで、圧力供給通路156が連通路の一例として挙げられる。
【0024】
容量制御弁200は、
図3に示すように、シリンダヘッド108の側面から内部に向かって形成された段付形状の制御弁取付孔108Cに嵌合して固定される。容量制御弁200は、外部からの入力信号に応じて圧力供給通路156の開度を調整する電磁式の制御弁であって、その外周面の軸方向に離間した2位置に、吐出室152から供給される高圧の冷媒を内部に導入する複数の導入ポート(図示せず)と、流量が調整された高圧の冷媒を吐出する複数の吐出ポート(図示せず)と、が夫々形成されている。
【0025】
また、容量制御弁200の外周面であって、複数の導入ポートを覆う位置、及び複数の吐出ポートを覆う位置には、短尺形状かつ円筒形状のフィルタ210及び220が夫々取り付けられている。また、容量制御弁200の外周面であって、2つのフィルタ210及び220の間に位置する部位、2つのフィルタ210及び220の両外方に位置する部位には、シリンダヘッド108の制御弁取付孔108Cの内周面とのシールを行うOリング230が夫々取り付けられている。従って、容量制御弁200の外周面に取り付けられた3つのOリング230によって、少なくとも導入ポート及び吐出ポートを気密状態で仕切ることができる。さらに、シリンダヘッド108には、容量制御弁200の外周面に取り付けられた2つのフィルタ210及び220の外周面の周囲に、円環形状の隙間108D及び108Eが夫々形成されている。なお、2つの隙間108D及び108Eは、相互に連通していないことに留意されたい。
【0026】
そして、シリンダヘッド108の吐出室152と制御弁取付孔108Cに形成された隙間108Dとを連通する圧力供給通路156は、制御弁取付孔108Cに容量制御弁200が嵌合固定された状態において、その導入ポートの周囲に取り付けられたフィルタ210の外周面に対面した位置に開口するように直線的に延びている。従って、圧力供給通路156を介して吐出室152から供給された高圧の冷媒は、容量制御弁200の導入ポートの周囲に取り付けられたフィルタ210の外周面に直接当たる。圧力供給通路156を通って容量制御弁200の周囲に形成された隙間108Dに供給された高圧の冷媒は、フィルタ210とシリンダヘッド108の制御弁取付孔108Cとの間に形成された隙間108Dの周囲を流通しながら、フィルタ210の濾材を通過して複数の導入ポートから容量制御弁200の内部へと流入する。
【0027】
フィルタ210は、従来は、容量制御弁200の軸方向の離間した2位置に嵌合固定される2つのリング部材210Aと、2つのリング部材210Aを連結する棒状の4つの連結部材210Bと、2つのリング部材210A及び連結部材210Bによって区画される矩形形状の領域に取り付けられる濾材210Cと、を有している。ここで、4つの連結部材210Bは、リング部材210Aの中心軸の周囲を90度の角度をもって4分割した位置に夫々配置されているが、その数及び配置位置は任意であってもよい(以下同様)。
【0028】
ここで、かかる斜板式圧縮機100の作用について説明する。
電動モータやエンジンの回転駆動力がプーリ134に伝達されている状態で電磁クラッチ132を作動させると、電磁クラッチ132を介してプーリ134と駆動軸112とが連結されて、駆動軸112が回転し始める。駆動軸112が回転すると、これと一体化されているロータ116、及びリンク機構118を介してロータ116と連結されている斜板114も回転する。斜板式圧縮機100の停止中には、上述したように、斜板114はピストン146による圧縮動作が確保される最小の傾斜角範囲にあるので、斜板114に連結されたピストン146がシリンダブロック102のシリンダボア102A内を往復運動する。ピストン146が
図1の左方(フロント側)に移動すると、ピストン146とシリンダボア102Aとで区画される圧縮室の容積が増加して負圧となり、冷媒循環回路の低圧側から吸入通路108Aを介して吸入室150へと導入された低圧の冷媒は、バルブプレート106に形成された吸入孔106A及び吸入弁を通って圧縮室へと吸入される。そして、ピストン146が
図1の右方(リヤ側)に移動すると、圧縮室の容積が減少して正圧となり、圧縮室に存在する高圧の冷媒は、バルブプレート106に形成された吐出孔106B及び吐出弁を通って吐出室152へと吐出される。
【0029】
吐出室152へと吐出された高圧の冷媒の大部分又は全量は、シリンダヘッド108に取り付けられたオイルセパレータ(図示せず)によって潤滑油と高圧の冷媒とに分離され、高圧の冷媒が吐出通路108Bを介して冷媒循環回路の高圧側に吐出されるとともに、潤滑油が潤滑油通路(図示せず)を介してクランク室110の下部へと戻される。また、吐出室152へと吐出された高圧の冷媒の一部は、吐出室152とクランク室110とを連通する圧力供給通路156を介して容量制御弁200へと供給される。容量制御弁200は、外部からの作動信号に応答して圧力供給通路156の開度を調整し、圧力供給通路156を介して、作動信号に応じた流量の高圧の冷媒をその下流に位置するクランク室110へと供給する。このとき、容量制御弁200は、吸入室150の内部圧力を感知して弁体のリフト量を変化させて、吸入室150の内部圧力が一定になるようにクランク室110の内部圧力を自動的に調整する。
【0030】
クランク室110に高圧の冷媒が供給されると、クランク室110の内部圧力が上昇して斜板114の傾動角を減少させる。斜板114の傾動角が減少すると、リンク機構118を介して斜板114に連結されているピストン146のストロークが減少し、斜板式圧縮機100の吐出容量も減少する。そして、圧縮室から吐出室152へと吐出される高圧の冷媒の流量が減少し、その結果、斜板式圧縮機100から冷媒循環回路の高圧側へと吐出される高圧の冷媒の流量も減少する。
【0031】
ところで、圧力供給通路156を介して吐出室152から容量制御弁200へと供給された高圧の冷媒は、
図2及び
図3から把握できるように、容量制御弁200の導入ポートの周囲に取り付けられたフィルタ210の外周面に直接当たる。このとき、フィルタ210の外周面に直接当たる高圧の冷媒の流速が比較的速いことから、冷媒に混入している異物がフィルタ210の濾材210Cの目開きを通過して、容量制御弁200の導入ポートから内部へと流入されてしまう可能性がある。容量制御弁200の内部に異物が流入されると、例えば、弁体の移動に支障が生じて正常に移動しなくなることから、斜板式圧縮機100の吐出容量を変更できなくなってしまうおそれがある。
【0032】
そこで、本実施形態では、斜板式圧縮機100の所定箇所に、吐出室152と容量制御弁200とを連通する圧力供給通路156の先端開口から、容量制御弁200の外周面に供給される冷媒の供給方向を変向する変向部材を取り付けることで、容量制御弁200に供給される冷媒の流速を低下させる。そして、容量制御弁200に供給される冷媒の流速を低下させることで、冷媒に混入している異物がフィルタ210の目開きを通過して内部に流入することを低減し、斜板式圧縮機100の吐出容量が変更できなくなることを抑制する。以下、変向部材の詳細について説明する。
【0033】
<<第1実施形態>>
図5及び
図6は、変向部材の第1実施形態を示している。
第1実施形態では、変向部材は、吐出室152と容量制御弁200とを連通する圧力供給通路156の先端開口に対面するフィルタ210の外周の一部に取り付けられた閉塞部材210Dである。具体的には、容量制御弁200の導入ポートの周囲に取り付けられたフィルタ210の外周面の一部、例えば、圧力供給通路156の先端開口に対面する箇所であって、2つのリング部材210Aと2つの連結部材210Bによって区画される矩形形状の領域に、濾材210Cに代えて異物を含んだ高圧の冷媒及び潤滑油を通過させない薄板の円弧形状の閉塞部材210Dが取り付けられる。
【0034】
このようにすれば、
図7に示すように、圧力供給通路156の先端開口から容量制御弁200へと供給された異物を含んだ高圧の冷媒及び潤滑油は、最初に、フィルタ210の閉塞部材210Dに衝突し、潤滑油と共に部材に異物が捕捉される。また、その表面で高圧の冷媒が周囲に分散して、その流速が低下する。流速が低下した高圧の冷媒は、シリンダヘッド108に形成された円環形状の隙間108Dの周囲を通過しつつ、フィルタ210の濾材210Cを通過して容量制御弁200の内部へと流入する。このとき、高圧の冷媒の流速が低下したため、そこに混入されている異物がフィルタ210の濾材210Cで捕捉され易くなり、容量制御弁200の内部へと流入する異物が少なくなる。従って、容量制御弁200において、その内部に流入する異物が少なくなるため、異物によって弁体の移動を阻害することが減り、斜板式圧縮機100の吐出容量を変更できなくなる可能性が低下する。
【0035】
<<第2実施形態>>
図8は、変向部材の第2実施形態を示している。
第2実施形態では、変向部材は、容量制御弁200のフィルタ210の周囲に取り付けられた、テーパ形状の外周面を有する円筒部材210Eである。具体的には、容量制御弁200の導入ポートの周囲に取り付けられたフィルタ210の外周に、截頭円錐形状(頭部を切り取った円錐形状)の外周面を有する円筒部材210Eが取り付けられている。ここで、円筒部材210Eは、その小径部を介して容量制御弁200の外周面に嵌合固定され、その大径部とフィルタ210の外周面との間に所定間隔の隙間ができるように形成されている。
【0036】
このようにすれば、
図9に示すように、圧力供給通路156の先端開口から容量制御弁200へと供給された高圧の冷媒は、最初に、フィルタ210の外周に取り付けられた円筒部材210Eのテーパ形状の外周面に衝突する。円筒部材210Eの外周面に衝突した高圧の冷媒は、潤滑油と共に部材に異物が捕捉される。また、テーパ形状の外周面によって小径部の方向に分散して冷媒の流速が低下し、隙間108Dの周囲を通過しつつ円筒部材210Eの大径部からフィルタ210へと向かって冷媒が流れる。そして、流速が低下した高圧の冷媒は、フィルタ210の濾材210Cを通過して容量制御弁200の内部へと流入する。このとき、高圧の冷媒の流速が低下したため、そこに混入されている異物がフィルタ210の濾材210Cで捕捉され易くなり、容量制御弁200の内部へと流入する異物が少なくなる。なお、他の作用及び効果は、先の第1実施形態と同様であるため、重複説明を排除する目的でその説明を省略する。必要があれば、先の第1実施形態の説明を参照されたい(以下同様)。
【0037】
<<第3実施形態>>
図10は、変向部材の第3実施形態を示している。
第3実施形態では、変向部材は、フィルタ210の軸方向の中間部に取り付けられた、リンク形状を有するリング部材210Fである。具体的には、フィルタ210の2つのリング部材210Aの中間部に、このリング部材210Aの直径より小さな直径を有するリング部材210Fが配置されている。そして、フィルタ210の連結部材210Bは、2つのリング部材210Aとそれらの中間部に位置するリング部材210Fとを連結する。また、フィルタ210の濾材210Cは、軸方向の外方に位置するリング部材210A、2つのリング部材210Aの中間部に位置するリング部材210F、及び連結部材210Bによって区画される矩形形状の領域に夫々取り付けられる。従って、フィルタ210の濾材210Cは、フィルタ210の側方から見ると、外周に向かうにつれて間隔が徐々に広くなるV字形状に配置される。そして、シリンダヘッド108に形成された圧力供給通路156の軸線は、フィルタ210のリング部材210Fの外周面の中間部を通るように形成される。なお、圧力供給通路156の形状を変更する代わりに、シリンダヘッド108に対する容量制御弁200の位置を変更し、圧力供給通路156から供給された高圧の冷媒がリング部材210Fの外周面に当たるようにしてもよい。
【0038】
このようにすれば、圧力供給通路156の先端開口から容量制御弁200へと供給された高圧の冷媒は、最初に、フィルタ210の2つのリング部材210Aの中間部に配置されたリング部材210Fの外周面に衝突する。リング部材210Fの外周面に衝突した高圧の冷媒は、潤滑油と共に部材に異物が捕捉される。また、リング部材210Fの外周面で跳ね返って分散して冷媒の流速が低下し、その一部が濾材210Cを通過して容量制御弁200に流入するとともに、その大部分が隙間108Dの周囲を通過しながら濾材210Cを通過して容量制御弁200に流入する。このとき、高圧の冷媒の流速が低下したため、そこに混入されている異物がフィルタ210の濾材210Cで捕捉され易くなり、容量制御弁200の内部へと流入する異物が少なくなる。
【0039】
図11~
図13は、リング部材210Fを有するフィルタ210の変形例を示す。
フィルタ210は、軸方向の離間した2位置に配置された2つの第1の円筒部材210Gと、2つの第1の円筒部材210Gの間に配置された第2の円筒部材210Hと、2つの第1の円筒部材210Gの外方を向く端面を閉塞する2つの円板部材210Iと、第1の円筒部材210Gの内方を向く端面と第2の円筒部材210Hとを複数個所において連結する連結部材210Jと、を有している。第1の円筒部材210Gは、容量制御弁200の導入ポートが形成されている外周面より大きな内径を有している。第2の円筒部材210Hは、容量制御弁200の導入ポートが形成されている外周面より大きな内径を有するとともに、第1の円筒部材210Gの内径より小さな外径を有している。また、円板部材210Iは、薄板円板形状を有し、その中央部に容量制御弁200の外周面に嵌合固定するための貫通孔THが形成されている。さらに、連結部材210Jは、本実施形態では4つ設けられ、フィルタ210の軸心周りに90度の角度を隔てて夫々配置されている。そして、第1の円筒部材210G、第2の円筒部材210H及び連結部材210Jにより区画される矩形形状の領域に、冷媒に混入された異物を捕捉する濾材210Kが取り付けられている。このフィルタ210では、その側方から見ると、円板部材210Iと平行な面上に濾材210Kが配置されている。ここで、第2の円筒部材210Hが、リング部材の一例として挙げられる。
【0040】
このようにすれば、圧力供給通路156の先端開口から容量制御弁200へと供給された高圧の冷媒は、最初に、フィルタ210の2つの第1の円筒部材210Gの中間部に配置された第2の円筒部材210Hの外周面に衝突する。第2の円筒部材210Hの外周面に衝突した高圧の冷媒は、潤滑油と共に部材に異物が捕捉される。また、第2の円筒部材210Hの外周面で跳ね返って分散して冷媒の流速が低下し、シリンダヘッド108に形成された制御弁取付孔108Cの内周面、第1の円筒部材210G、第2の円筒部材210H及び濾材210Kによって区画される円環形状の空間(隙間108Dに相当する)を流れる。そして、円環形状の空間を流れる高圧の冷媒は、濾材210Kを通過して容量制御弁200に流入する。このとき、高圧の冷媒の流速が低下したため、そこに混入されている異物がフィルタ210の濾材210Cで捕捉され易くなり、容量制御弁200の内部へと流入する異物が少なくなる。なお、このようなフィルタ210を使用する場合には、フィルタ210によって隙間108Dに相当する空間が形成されるため、シリンダヘッド108に隙間108Dを形成する必要はない。
【0041】
なお、当業者であれば、様々な上記実施形態の技術的思想について、その一部を省略したり、その一部を相互に適宜組み合わせたり、その一部を周知技術に置換したりすることで、新たな実施形態を生み出せることを容易に理解できるであろう。
【0042】
その一例を挙げると、ロータ116と斜板114とを結合するリンク機構118は、上記で説明した構成に限らず、周知のリンク機構であってもよい。また、斜板式圧縮機100は、電動モータやエンジンの回転駆動力が伝達されるプーリ134、及びプーリ134と駆動軸112とを連結する電磁クラッチ132を必ずしも有していなくてもよい。
【符号の説明】
【0043】
100 斜板式圧縮機(可変容量圧縮機)
102A シリンダボア(圧縮機構)
110 クランク室(制御圧室)
114 斜板(圧縮機構)
146 ピストン(圧縮機構)
150 吸入室
152 吐出室
156 圧力供給通路(連通路)
200 容量制御弁
210 フィルタ
210D 閉塞部材(変向部材)
210E 円筒部材(変向部材)
210F リング部材(変向部材)
210H 第2の円筒部材(変向部材)