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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046961
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】可変容量圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 27/12 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
F04B27/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152351
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】士反 正俊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 順也
(72)【発明者】
【氏名】松嵜 淑恵
【テーマコード(参考)】
3H076
【Fターム(参考)】
3H076AA06
3H076BB13
3H076BB26
3H076BB43
3H076CC20
3H076CC27
3H076CC84
(57)【要約】
【課題】可変容量圧縮機において、冷媒の吐出容量を制御する容量制御弁への異物の流入を軽減させる。
【解決手段】容量可変圧縮機の一例として挙げられる斜板式圧縮機100は、吸入室150と、その冷媒を吸入して圧縮する圧縮機構と、これによって圧縮された冷媒が吐出される吐出室152と、内部圧力に応じて圧縮機構の状態を変化させるクランク室110と、吐出室152とクランク室110とを連通する圧力供給通路156に配置された容量制御弁200と、を有している。容量制御弁200は、複数の導入ポート有し、吐出室152からクランク室110へと供給される冷媒の流量を増減することで、クランク室110の内部圧力を変化させて冷媒の吐出容量を制御する。そして、吐出室152に開口する圧力供給通路156の断面積が、容量制御弁200の複数の導入ポートの総断面積よりも大きくなっている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が導入される吸入室と、
前記吸入室の冷媒を吸入して圧縮する圧縮機構と、
前記圧縮機構によって圧縮された冷媒が吐出される吐出室と、
内部圧力に応じて前記圧縮機構の状態を変化させる制御圧室と、
前記吐出室と前記制御圧室とを連通する連通路に配置され、前記吐出室から前記制御圧室へと供給される冷媒の流量を増減することで、前記制御圧室の内部圧力を変化させて冷媒の吐出容量を制御する、複数の導入ポートが形成された容量制御弁と、
を有し、
前記吐出室に開口する前記連通路の断面積が、前記容量制御弁の複数の導入ポートの総断面積よりも大きい、可変容量圧縮機。
【請求項2】
前記連通路の断面積が、前記吐出室から前記容量制御弁へと向かう途中で小さくなる、
請求項1に記載の可変容量圧縮機。
【請求項3】
前記容量制御弁の上流に位置する前記連通路が複数形成されることで、前記吐出室に開口する前記複数の連通路の総断面積が、前記容量制御弁の複数の導入ポートの総断面積よりも大きくなっている、
請求項1に記載の可変容量圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒の吐出容量を可変可能な可変容量圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
可変容量圧縮機では、特開2017-31834号公報(特許文献1)に記載されるように、吐出室とクランク室(制御圧室)とを連通する連通路の途上に、冷媒の吐出容量を制御する容量制御弁が配置されている。容量制御弁は、吐出室からクランク室へと供給される冷媒の流量を増減させてクランク室の内部圧力を変化させることで、冷媒を圧縮する圧縮機構の状態を変化させて冷媒の吐出容量を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-31834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、吐出室とクランク室とを連通する連通路の断面積などが最適化されていないため、特に、吐出室内の冷媒の流速が比較的遅い状況において、冷媒が連通路の開口によって絞られて流速が上昇し、冷媒及び冷媒と混合した潤滑油に混入している異物が連通路に流入し易くなってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、冷媒の吐出容量を制御する容量制御弁への異物の流入を軽減可能な、可変容量圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
可変容量圧縮機は、冷媒が導入される吸入室と、吸入室の冷媒を吸入して圧縮する圧縮機構と、圧縮機構によって圧縮された冷媒が吐出される吐出室と、内部圧力に応じて圧縮機構の状態を変化させる制御圧室と、吐出室と制御圧室とを連通する連通路に配置された容量制御弁と、を有している。容量制御弁は、複数の導入ポート有し、吐出室から制御圧室へと供給される冷媒の流量を増減することで、制御圧室の内部圧力を変化させて冷媒の吐出容量を制御する。そして、吐出室に開口する連通路の断面積が、容量制御弁の複数の導入ポートの総断面積よりも大きくなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、可変容量圧縮機において、冷媒の吐出容量を制御する容量制御弁への異物の流入を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】可変容量圧縮機の一例として挙げられる斜板式圧縮機の縦断面図である。
図2】シリンダヘッドの内部構造の一例を示す斜視図である。
図3】容量制御弁の取付構造の一例を示す要部断面図である。
図4】圧力供給通路が形成されたシリンダヘッドの一例を示す正面図である。
図5】圧力供給通路が形成されたシリンダヘッドの一例を示す要部断面図である。
図6】圧力供給通路の変形例を示す要部断面図である。
図7】圧力供給通路の変形例を示す要部断面図である。
図8】圧力供給通路が形成されたシリンダヘッドの他の例を示す正面図である。
図9図8におけるB-B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、可変容量圧縮機の一例として挙げられる斜板式圧縮機100の一例を示している。斜板式圧縮機100は、例えば、図示しない車両の空調システムの冷媒循環回路に組み込まれ、冷媒循環回路の低圧側から冷媒を吸入して圧縮し、冷媒循環回路の高圧側に圧縮した冷媒を吐出する。なお、可変容量圧縮機としては、図示の斜板式圧縮機100に限らず、当業者にとって周知の圧縮機であってもよい。
【0010】
斜板式圧縮機100は、複数のシリンダボア102Aが形成されたシリンダブロック102と、シリンダブロック102の軸方向の一端に接合されたフロントハウジング104と、シリンダブロック102の軸方向の他端にバルブプレート106を介して接合されたシリンダヘッド108と、を有している。
【0011】
シリンダブロック102とフロントハウジング104とによってクランク室110が形成され、このクランク室110の内部を軸方向に貫通するように駆動軸112が配置されている。クランク室110の内部には、円板形状の斜板114が配置されている。斜板114の中央部には貫通孔114Aが形成されており、駆動軸112は斜板114の貫通孔114Aを貫通している。また、斜板114は、駆動軸112に一体的に固定された円板形状のロータ116に対して、リンク機構118を介して連結されている。ここで、クランク室110は、内部圧力に応じて、シリンダブロック102のシリンダボア102A、後述するピストン146及び斜板114を含んで構成される圧縮機構の状態を変化させる制御圧室を構成する。
【0012】
リンク機構118は、ロータ116に突設された第1のアーム116Aと、斜板114に突設された第2のアーム114Bと、第1のアーム116Aの先端部と第2のアーム114Bの先端部とを連結するリンクアーム120と、を含んでいる。リンクアーム120の一端部は、第1の連結ピン122を介して第1のアーム116Aに相対回転可能に連結されている。また、リンクアーム120の他端部は、第2の連結ピン124を介して第2のアーム114Bに相対回転可能に連結されている。従って、斜板114は、リンク機構118によって、駆動軸112と一体的に回転するとともに、駆動軸112の軸線方向に沿って傾斜角が変更可能になっている。
【0013】
斜板114の貫通孔114Aは、斜板114が最小傾斜角と最大傾斜角との間の範囲で傾動可能な形状に形成されている。具体的には、貫通孔114Aには、駆動軸112の外周面と当接することによって、傾斜角を小さくする方向への斜板114の傾斜角変位(傾動)を規制する最小傾斜角規制部が形成されている。また、貫通孔114Aには、駆動軸112の外周面と当接することによって、傾斜角を大きくする方向への斜板114の傾動を規制する最大傾斜角規制部が形成されている。従って、斜板114は、駆動軸112の軸方向に対して、最小傾斜角規制部によって規制される最小傾斜角と最大傾斜角規制部によって規制される最大傾斜角との間で、自由に傾動することができる。
【0014】
駆動軸112の斜板114を挟んだ位置には、傾斜角を減少させる方向に斜板114を付勢する傾斜角減少バネ126と、傾斜角を増加させる方向に斜板114を付勢する傾斜角増加バネ128と、が夫々配置されている。具体的には、傾斜角減少バネ126は、斜板114とロータ116との間に配置され、傾斜角増加バネ128は、斜板114と駆動軸112に固定又は形成された円板形状のバネ支持部材130との間に配置されている。
【0015】
ここで、傾斜角増加バネ128の付勢力は、斜板114の傾斜角が最小傾斜角であるときに、傾斜角減少バネ126の付勢力よりも大きくなるように設定されている。従って、駆動軸112が回転していないとき、即ち、斜板式圧縮機100が停止しているときに、斜板114は、傾斜角減少バネ126の付勢力と傾斜角増加バネ128の付勢力とが釣り合う傾斜角(>最小傾斜角)に位置することとなる。傾斜角減少バネ126の付勢力と傾斜角増加バネ128の付勢力とが釣り合う傾斜角は、後述するピストン146による圧縮動作が確保される最小の傾斜角範囲として設定されており、例えば、斜板114が駆動軸112の軸方向に対して直交するときの傾斜角を0度(最小傾斜角)とすると、1~3度の範囲に設定することができる。
【0016】
駆動軸112の一端部は、フロントハウジング104の円筒形状のボス部104Aを貫通してその外側まで延在し、電磁クラッチ132を介して、ボス部104Aの外周面に対して相対回転可能に嵌合されたプーリ134に連結されている。また、駆動軸112及びロータ116は、ラジアル方向には軸受136及び138によって支持され、スラスト方向には軸受140及びスラストプレート142によって支持されている。なお、駆動軸112の他端部とスラストプレート142との間隔は、調整ネジ144によって所定の隙間を有するように調整されている。
【0017】
そして、図示しない電動モータやエンジンからの回転駆動力がプーリ134に伝達されている状態で、電磁クラッチ132を作動させると、プーリ134と駆動軸112とが連結されて駆動軸112が回転駆動される。なお、電磁クラッチ132を停止させると、プーリ134と駆動軸112とが切り離されるので、斜板式圧縮機100を停止させることができる。
【0018】
また、斜板式圧縮機100は、シリンダブロック102に形成された複数のシリンダボア102Aと同数のピストン146を有している。それぞれのピストン146は、シリンダボア102Aに対して軸方向に移動可能に配置されたピストン本体146Aと、ピストン本体146Aからクランク室110の内部に向かって軸方向に延出する延出部146Bと、を有している。
【0019】
ピストン146の延出部146Bには、斜板114の周縁部近傍を挟んで配置された一対のシュー148を収容可能な収容部146Cが形成されている。即ち、ピストン146は、斜板114の周縁部近傍を挟んで配置された一対のシュー148を介して、斜板114に連結されている。従って、ピストン146は、斜板114の回転によって、シリンダブロック102のシリンダボア102Aを往復運動するようになっている。
【0020】
シリンダヘッド108には、図2に示すように、中央部に配置された吸入室150と、吸入室150を環状に取り囲むように配置された吐出室152と、が夫々形成されている。吸入室150は、バルブプレート106に形成された吸入孔106A及び吸入弁(図示せず)を介して、シリンダブロック102の各シリンダボア102Aと連通している。吐出室152は、バルブプレート106に形成された複数の吐出孔106B及び吐出弁(図示せず)を介して、シリンダブロック102の各シリンダボア102Aと連通している。
【0021】
ここで、フロントハウジング104、シリンダブロック102、バルブプレート106、及びシリンダヘッド108などは、必要に応じて各部材の間にガスケット(図示せず)が配置された状態で、複数の通しボルト154によって相互に締結されて、圧縮機ハウジングが形成されている。
【0022】
シリンダヘッド108には、図1に示すように、空調システムの冷媒循環回路の低圧側と吸入室150とを連結する吸入通路108Aと、空調システムの冷媒循環回路の高圧側と吐出室152とを連通する吐出通路108Bと、が夫々形成されている。また、シリンダヘッド108には、吐出通路108Bを開閉する逆止弁(図示せず)が配置されている。この逆止弁は、その上流の吐出室152の圧力とその下流の吐出通路108Bの圧力との圧力差に応答して動作し、この圧力差が所定値より小さい場合に吐出通路108Bを閉鎖し、この圧力差が所定値以上の場合に吐出通路108Bを開通させる。
【0023】
シリンダヘッド108の所定箇所には、吐出室152とクランク室110とを連通する圧力供給通路156の開度を調整する、円柱形状の容量制御弁200が取り付けられている。容量制御弁200は、圧力供給通路156の開度を調整することで、吐出室152からクランク室110へと供給される高圧の冷媒の流量を増減し、クランク室110の内部圧力を変化させて冷媒の吐出容量を制御する。また、クランク室110の内部に存在する冷媒は、シリンダブロック102に形成された連通路102B及び空間102C、並びにバルブプレート106に形成されたオリフィス106Cによって形成される放圧通路158を介して、吸入室150へと流入するようになっている。従って、容量制御弁200によってクランク室110の内部圧力を変化させることで、斜板114の傾斜角、つまりピストン146のストロークを変化させて、斜板式圧縮機100の吐出容量を可変制御できるようになっている。ここで、圧力供給通路156が、連通路の一例として挙げられる。
【0024】
容量制御弁200は、図3に示すように、シリンダヘッド108の側面から内部に向かって形成された段付形状の制御弁取付孔108Cに嵌合固定されている。容量制御弁200は、外部からの入力信号に応じて圧力供給通路156の開度を調整する電磁式の制御弁である。そして、容量制御弁200の外周面の軸方向に離間した2位置には、吐出室152から供給される高圧の冷媒を内部に導入する複数の導入ポート(図示せず)と、圧力供給通路156の開度変化に応じて流量が調整された高圧の冷媒を吐出する複数の吐出ポート(図示せず)と、が夫々形成されている。ここで、複数の導入ポート、及び複数の吐出ポートは、例えば、容量制御弁200の中心軸の周囲を等分割した各位置に夫々配置されている。
【0025】
また、容量制御弁200の外周面であって、複数の導入ポートを覆う位置、及び複数の吐出ポートを覆う位置には、短尺形状かつ円筒形状のフィルタ210及び220が夫々取り付けられている。また、容量制御弁200の外周面であって、2つのフィルタ210及び220の間に位置する部位、2つのフィルタ210及び220の軸方向の両外方に位置する部位には、シリンダヘッド108の制御弁取付孔108Cの内周面とのシールを行うOリング230が夫々取り付けられている。従って、容量制御弁200の外周面に取り付けられた3つのOリングによって、少なくとも導入ポート及び吐出ポートを気密状態で仕切ることができる。なお、シリンダヘッド108には、容量制御弁200の外周面に取り付けられた2つのフィルタ210及び220の外周面の周囲に、高圧の冷媒が流通する円環形状の隙間(空間)が夫々形成されている。
【0026】
そして、容量制御弁200の上流に位置する圧力供給通路156は、制御弁取付孔108Cに容量制御弁200が嵌合固定された状態において、容量制御弁200の導入ポートの周囲に取り付けられたフィルタ210の外周面に対面した位置で開口するように直線的に延びている。従って、圧力供給通路156を介して吐出室152から供給された高圧の冷媒は、容量制御弁200の導入ポートの周囲に取り付けられたフィルタ210の外周面に直接当たる。そして、フィルタ210の外周面へと供給された高圧の冷媒は、フィルタ210の周囲に形成された円環形状の隙間を流通しつつ、フィルタ210の濾材を通過して複数の導入ポートから容量制御弁200の内部へと流入する。その後、容量制御弁200の複数の吐出ポートから吐出された高圧の冷媒は、複数の吐出ポートの周囲に取り付けられたフィルタ220を通過して隙間へと流入し、その隙間を流通して容量制御弁200の下流に位置する圧力供給通路156に入り込んでクランク室110へと供給される。
【0027】
ここで、かかる斜板式圧縮機100の作用について説明する。
電動モータやエンジンなどの回転駆動力がプーリ134に伝達されている状態で電磁クラッチ132を作動させると、電磁クラッチ132を介してプーリ134と駆動軸112とが連結されて、駆動軸112が回転し始める。駆動軸112が回転し始めると、これと一体化されているロータ116及びリンク機構118を介して、ロータ116と連結されている斜板114も回転し始める。斜板式圧縮機100の停止中には、上述したように、斜板114はピストン146による圧縮動作が確保される最小の傾斜角範囲にあるので、斜板114に連結されたピストン146がシリンダブロック102のシリンダボア102A内を往復運動する。ピストン146が図1の左方(フロント側)に移動すると、ピストン146とシリンダボア102Aとで区画される圧縮室の容積が増加して負圧となり、冷媒循環回路の低圧側から吸入通路108Aを介して吸入室150へと導入された低圧の冷媒は、バルブプレート106に形成された吸入孔106A及び吸入弁を通って圧縮室へと吸入される。そして、ピストン146が図1の右方(リヤ側)に移動すると、圧縮室の容積が減少して正圧となり、圧縮室に存在する高圧の冷媒は、バルブプレート106に形成された吐出孔106B及び吐出弁を通って吐出室152へと吐出される。
【0028】
吐出室152へと吐出された高圧の冷媒の大部分又は全量は、シリンダヘッド108に取り付けられたオイルセパレータ(図示せず)によって潤滑油と高圧の冷媒とに分離され、高圧の冷媒が吐出通路108Bを介して冷媒循環回路の高圧側に吐出されるとともに、潤滑油が潤滑油通路(図示せず)を介してクランク室110の下部へと戻される。また、吐出室152へと吐出された高圧の冷媒の一部は、吐出室152とクランク室110とを連通する圧力供給通路156を介して容量制御弁200へと供給される。容量制御弁200へと供給された高圧の冷媒は、フィルタ210の周囲に形成された円環形状の隙間を流通しつつフィルタ210を通過することで異物が捕捉された後、複数の導入ポートから容量制御弁200の内部へと流入する。
【0029】
容量制御弁200は、外部からの作動信号に応答して内部の通路の開度を増減することで、複数の導入ポートから流入した高圧の冷媒の流量を調整しつつ、複数の吐出ポートから高圧の冷媒を吐出する。このとき、容量制御弁200は、吸入室150の内部圧力を感知して弁体のリフト量を変化させて、吸入室150の内部圧力が一定になるようにクランク室110の内部圧力を自動的に調整する。そして、複数の吐出ポートから吐出された高圧の冷媒は、複数の吐出ポートの周囲に取り付けられたフィルタ220で異物が捕捉された後、フィルタ220の周囲に形成された円環形状の隙間を流通し、容量制御弁200の下流に位置する圧力供給通路156へと流入してクランク室110へと供給される。
【0030】
クランク室110への高圧の冷媒の供給が遮断されると、クランク室110の内部圧力が減少して斜板114の傾斜角を増加させる。斜板114の傾斜角が増加すると、リンク機構118を介して斜板114に連結されているピストン146のストロークが増加し、圧縮室からの吐出容量も増加する。そして、圧縮室から吐出室152へと吐出される高圧の冷媒の流量が増加する結果、斜板式圧縮機100から冷媒循環回路の高圧側へと吐出される高圧の冷媒の流量も増加する。
【0031】
ところで、容量制御弁200の上流に位置する圧力供給通路156の断面積などについて、吐出室152から容量制御弁200へと供給される高圧の冷媒の流速を考慮して最適化していないと、特に、吐出室152内の高圧の冷媒の流速が比較的遅い状況において、次のような不具合が発生する可能性がある。即ち、吐出室152における高圧の冷媒の流速が比較的遅い状況において、吐出室152から圧力供給通路156へと高圧の冷媒が流入する状態を考察すると、圧力供給通路156への入口が絞りとして機能するため、吐出室152から圧力供給通路156へと流入する高圧の冷媒の流速が上昇する。圧力供給通路156へと流入する高圧の冷媒の流速が上昇すると、例えば、オイルセパレータによって潤滑油が分離される前の高圧の冷媒が圧力供給通路156へと流入し易くなり、その結果、高圧の冷媒に含まれる潤滑油に混入している異物も圧力供給通路156へと流入し易くなってしまう。圧力供給通路156へと流入した異物の大部分は、容量制御弁200のフィルタ210により補足可能であるが、異物のサイズがフィルタ210の目開きより小さいため、容量制御弁200の内部に流入して弁体の動作を阻害し、冷媒の吐出容量を制御できなくなる可能性がある。
【0032】
そこで、本実施形態では、図4及び図5に示すように、吐出室152に開口する圧力供給通路156の断面積が、容量制御弁200の複数の導入ポートの総断面積よりも大きくなるように形成する。即ち、容量制御弁200の複数の導入ポートの総断面積を求め、この総断面積より大きくなるように、吐出室152に開口する圧力供給通路156の断面積、要するに、容量制御弁200の上流に位置する圧力供給通路156の断面積を求める。そして、このように求められた断面積に適合するドリルを使用して、容量制御弁200の上流に位置する部分が全長に亘って一様な断面積を有する圧力供給通路156を形成する。
【0033】
このようにすれば、容量制御弁200の上流に位置する圧力供給通路156の断面積が複数の導入ポートの総断面積より大きくなるため、圧力供給通路156への入口における絞り機能が弱くなり、吐出室152から圧力供給通路156へと流入する高圧の冷媒の流速が低下する。圧力供給通路156へと流入する高圧の冷媒の流速が低下すると、例えば、オイルセパレータによって潤滑油が分離される前の高圧の冷媒が圧力供給通路156へと流入し難くなり、その結果、高圧の冷媒に含まれる潤滑油に混入している異物も圧力供給通路156へと流入し難くなる。そして、圧力供給通路156へと流入する異物が減ることから、容量制御弁200の内部へと流入する異物も減り、容量制御弁200の弁体の移動が異物によって阻害され難くなって、冷媒の吐出容量を制御できなくなることを抑制することができる。
【0034】
<<第1変形例>>
容量制御弁200の上流に位置する圧力供給通路156の断面積を全長に亘って一様にすると、容量制御弁200側において、圧力供給通路156が、容量制御弁200のフィルタ210の軸方向の両側に配置されているOリング230と干渉してしまう場合がある。この場合、図6及び図7に示すように、圧力供給通路156の断面積が、吐出室152から容量制御弁200へと向かう途中で小さくなるようにする。具体的には、図6に示す第1変形例では、圧力供給通路156の断面積が、容量制御弁200の近傍で小さくなるようにする。また、図7に示す第1変形例では、圧力供給通路156の断面積が、吐出室152から容量制御弁200へと向かう中間部で小さくなるようにする。
【0035】
このようにすれば、圧力供給通路156とOリング230との干渉が避けられ、例えば、圧力供給通路156を形成可能な範囲が広がって、圧力供給通路156の延びる方向などを最適化することができる。なお、吐出室152から容量制御弁200へと向かう途中で圧力供給通路156の断面積が小さくなることで、高圧の冷媒の流速が上昇するが、圧力供給通路156に流入する異物の絶対量が減っていることから、大きな影響を及ぼすことはない。
【0036】
<<第2変形例>>
可変容量圧縮機100のシリンダヘッド108のレイアウトによっては、容量制御弁200の上流に位置する圧力供給通路156の断面積を変更することが困難である場合がある。この場合、図8及び図9に示すように、容量制御弁200の上流に位置する圧力供給通路156を複数(図示の例では2つ)形成し、吐出室152に開口する圧力供給通路156の総断面積が、容量制御弁200の複数の導入ポートの総断面積より大きくなるようにする。図示の例では、シリンダヘッド108のレイアウトを考慮して、シリンダヘッド108に形成された吐出室152の所定距離離間した2位置から、容量制御弁200へと斜めに延びる圧力供給通路156が夫々形成されている。
【0037】
このようにすれば、シリンダヘッド108のレイアウトによって圧力供給通路156の断面積を変更することができなくても、容量制御弁200の上流に位置する圧力供給通路156を複数形成することで、吐出室152に開口する複数の圧力供給通路156の総断面積が、容量制御弁200の複数の導入ポートの総断面積よりも大きくなる。従って、多様なレイアウトを有するシリンダヘッド108であっても、吐出室152に開口する複数の圧力供給通路156の総断面積を、容量制御弁200の複数の導入ポートの総断面積よりも大きくすることができる。
【0038】
なお、当業者であれば、様々な上記実施形態の技術的思想について、その一部を省略したり、その一部を相互に適宜組み合わせたり、その一部を周知技術に置換したりすることで、新たな実施形態を生み出せることを容易に理解できるであろう。
【0039】
その一例を挙げると、ロータ116と斜板114とを結合するリンク機構118は、上記で説明した構成に限らず、周知のリンク機構であってもよい。また、斜板式圧縮機100は、電動モータやエンジンの回転駆動力が伝達されるプーリ134、及びプーリ134と駆動軸112とを連結する電磁クラッチ132を必ずしも有していなくてもよい。
【符号の説明】
【0040】
100 斜板式圧縮機(可変容量圧縮機)
102A シリンダボア(圧縮機構)
110 クランク室(制御圧室)
114 斜板(圧縮機構)
146 ピストン(圧縮機構)
150 吸入室
152 吐出室
156 圧力供給通路(連通路)
200 容量制御弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9