(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046965
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】金属化合物の微粒子の製造方法、金属化合物の微粒子
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20240329BHJP
B01D 9/02 20060101ALI20240329BHJP
B01F 23/43 20220101ALI20240329BHJP
B01F 23/57 20220101ALI20240329BHJP
B01F 25/42 20220101ALI20240329BHJP
B01F 25/50 20220101ALI20240329BHJP
B01F 27/13 20220101ALI20240329BHJP
B01F 27/2122 20220101ALI20240329BHJP
B01F 27/2123 20220101ALI20240329BHJP
B01F 27/81 20220101ALI20240329BHJP
H01M 4/525 20100101ALN20240329BHJP
H01M 4/505 20100101ALN20240329BHJP
【FI】
C01G53/00 A
B01D9/02 601E
B01D9/02 602E
B01D9/02 603B
B01D9/02 604
B01D9/02 609A
B01D9/02 625Z
B01F23/43
B01F23/57
B01F25/42
B01F25/50
B01F27/13
B01F27/2122
B01F27/2123
B01F27/81
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152356
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】504298291
【氏名又は名称】月島機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100206391
【弁理士】
【氏名又は名称】柏野 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】津崎 裕也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 修二
(72)【発明者】
【氏名】八色 真
【テーマコード(参考)】
4G035
4G048
4G078
5H050
【Fターム(参考)】
4G035AB38
4G035AB44
4G035AC01
4G035AC31
4G035AE02
4G035AE13
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G078AA20
4G078AB01
4G078AB11
4G078BA05
4G078CA08
4G078DC06
4G078EA10
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050FA17
5H050GA10
5H050HA03
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA10
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】球形度が高く、ニッケル含有量が物質量比で90%以上と高く、かつ平均粒子径d50が3μm以下の金属化合物の微小粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】径方向に貫通する複数の孔を備えるとともに中心軸回りに回転可能な撹拌翼と、前記撹拌翼を同心状に内部に収容可能な有底円筒状の反応槽と、前記反応槽に設けられるとともに前記反応槽の内部に第1の反応液を供給可能な第1給液部と、前記撹拌翼に設けられるとともに前記反応槽の内部に第2の反応液を供給可能な第2給液部と、を備える晶析装置を使用し、前記第1給液部から前記第1の反応液を供給するとともに前記第2給液部から前記第2の反応液を供給し、前記撹拌翼を25m/s以上の周速で回転させることにより前記第1の反応液と前記第2の反応液を反応させ、金属化合物の微粒子を析出させることを特徴とする金属化合物の微粒子の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に貫通する複数の孔を備えるとともに中心軸の回りに回転可能な撹拌翼と、
前記撹拌翼を同心状に内部に収容可能な有底円筒状の反応槽と、
前記反応槽に設けられるとともに前記反応槽の内部に第1の反応液を供給可能な第1給液部と、
前記撹拌翼に設けられるとともに前記反応槽の内部に第2の反応液を供給可能な第2給液部と、
を備える晶析装置を使用し、
前記第1給液部から前記第1の反応液を供給するとともに前記第2給液部から前記第2の反応液を供給し、
前記撹拌翼を略25m/s以上の周速で回転させることにより前記第1の反応液と前記第2の反応液を反応させ、金属化合物の微粒子を析出させることを特徴とする金属化合物の微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記晶析装置の前記撹拌翼は、
円筒状の円筒部と、
前記円筒部の内周面に外縁部が固定される円盤状の円盤部と、
前記円盤部の平面視の中心から前記中心軸に沿って上方に延びる回転軸と、を備え、
前記円盤部と前記回転軸との内部を前記第2の反応液が流通可能であり、前記円盤部の前記外縁部に前記第2給液部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の金属化合物の微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記晶析装置の前記第2給液部は下方に向けて開口していることを特徴とする請求項2に記載の金属化合物の微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記晶析装置の前記円盤部より上側の前記円筒部において、前記径方向に貫通する複数の孔が閉塞されているとともに、前記円筒部の内周面に外縁部が固定される円盤状の第2円盤部が前記円筒部の上端部に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の金属化合物の微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記晶析装置の前記円盤部が前記円筒部の上端部に設けられることを特徴とする請求項3に記載の金属化合物の微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記晶析装置の前記円筒部の外周面と前記反応槽の内周面との間のクリアランスをL3とし、前記円筒部の高さをHeとした場合に、He/L3が10以上であることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の金属化合物の微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記晶析装置の前記第2給液部は複数設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の金属化合物の微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記晶析装置と、
前記晶析装置の排出口から排出される前記微粒子を含むスラリを流動させ前記晶析装置の前記第1給液部から前記晶析装置内に前記スラリを循環させる循環管路と、
前記スラリを前記晶析装置と前記循環管路との間で循環させる循環ポンプと、を備え、
前記循環管路は、蛇行形状をなす屈曲部を有する晶析システムを用いるとともに、前記晶析システムに投入される金属系原料のうちニッケルが物質量比で90%以上であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の金属化合物の微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記第1の反応液と前記第2の反応液との混合液のpHと、前記微粒子の前記晶析システムにおける滞留時間とを一定に維持することを特徴とする請求項8に記載の金属化合物の微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記撹拌翼の前記周速を調節することで、前記微粒子の平均粒子径d50を調整することを特徴とする請求項8に記載の金属化合物の微粒子の製造方法。
【請求項11】
平均粒子径d50が3μm以下であり、かつニッケルの物質量比が90%以上である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の製造方法により製造された、金属化合物の微粒子。
【請求項12】
前記微粒子は、ニッケル、コバルト、マンガンから構成される三元系金属水酸化物の微粒子であることを特徴とする請求項11に記載の金属化合物の微粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物の微粒子の製造方法、金属化合物の微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の高機能化や全固体電池などの次世代電池向けの正極材において、高容量、高出力化が求められている。
【0003】
高容量、高出力の達成のために、正極材料中のニッケル含有量の増加と粒子径(二次粒子径)の微粒子化の研究が進められている。
【0004】
正極材の原料である金属水酸化物の製造方法として共沈法が一般的に用いられている。正極材の高容量化のために金属水酸化物中のニッケル含有量を増加させるほど、共沈法で得られる金属水酸化物の粒子径は増大し易くなり、高出力を得るための微粒子化と相反する。高容量と高出力の両立のために、ニッケル含有量が高く、且つ微粒子化する技術の検討が進められている。
【0005】
ニッケル含有量が高く、且つ微粒子化する方法として、反応槽内における結晶の滞留時間を短くしたり、pHを高くしたりするなどの方法がある。これにより、二次粒子径を小さくすることは可能であるが、過度の滞留時間の短縮や高いpHは、一次粒子の微細化や二次粒子の形状悪化(球形度の低下)など結晶品質の低下につながるため、結晶品質の維持の限界が上記のような方法での調整の限界となる。ここで、球形度は、(粒子投影像の面積円相当径)/(粒子投影像の外接最小円の直径)により定義される。
【0006】
反応装置における撹拌力や剪断力を上昇させることで粒子径の成長を抑制することが研究されているが、非常に反応時間が短い金属水酸化物の微小反応場へ高効率にて高い撹拌力や剪断力を伝達することが求められる。特にニッケル含有量が高い金属水酸化物で、平均粒子径d50=3μm以下の超微粒子を製造する場合、球形度を高くするには、高い撹拌力と剪断力とを高効率に微小反応場へ伝達することが課題である。
【0007】
特許文献1には、平均粒子径が1.00μm~3.0μmであり、ニッケルの含有率が最大で80%となる非水系電解質二次電池用正極活物質を、ポンプと、プロペラ型の回転翼を撹拌機として用いて製造することが開示されている。
特許文献2には、平均粒子径が3~15μmであり、ニッケルの物質量比が最大で30%である、リチウムイオン二次電池用正極活物質前駆体が開示されている。
特許文献3には、平均粒子径d50が1.0~5.0μmである全固体リチウムイオン電池用酸化物系正極活物質を、タービン翼を撹拌翼として使用して製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】再公表WO2019/117027号公報
【特許文献2】特開2021-136096号公報
【特許文献3】国際公開第2020/202602号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような背景の下になされ、次世代電池向けの正極材に使用可能な程度に高容量及び高出力化を実現可能な、ニッケル含有量が高く、かつ微粒子化を実現した、金属化合物の微粒子の製造方法と金属化合物の微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明の第1の態様は、径方向に貫通する複数の孔を備えるとともに中心軸の回りに回転可能な撹拌翼と、前記撹拌翼を同心状に内部に収容可能な有底円筒状の反応槽と、前記反応槽に設けられるとともに前記反応槽の内部に第1の反応液を供給可能な第1給液部と、前記撹拌翼に設けられるとともに前記反応槽の内部に第2の反応液を供給可能な第2給液部と、を備える晶析装置を使用し、前記第1給液部から前記第1の反応液を供給するとともに前記第2給液部から前記第2の反応液を供給し、前記撹拌翼を略25m/s以上の周速で回転させることにより前記第1の反応液と前記第2の反応液を反応させ、金属化合物の微粒子を析出させることを特徴とする金属化合物の微粒子の製造方法である。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、平均粒子径が微小であり、かつ高い球形度を備える、金属化合物の微粒子を、得ることができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記晶析装置の前記撹拌翼は、円筒状の円筒部と、前記円筒部の内周面に外縁部が固定される円盤状の円盤部と、前記円盤部の平面視の中心から前記中心軸に沿って上方に延びる回転軸と、を備え、前記円盤部と前記回転軸との内部を前記第2の反応液が流通可能であり、前記円盤部の前記外縁部に前記第2給液部が設けられていることを特徴とする金属化合物の微粒子の製造方法である。
【0013】
本発明の第2の態様によれば、第2の反応液を剪断力が高い撹拌翼の内外周から至近距離の範囲に供給することができ、平均粒子径が微小であり、かつ高い球形度を備える、金属化合物の微粒子を、得ることができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記晶析装置の前記第2給液部は下方に向けて開口していることを特徴とする金属化合物の微粒子の製造方法である。
【0015】
本発明の第3の態様によれば、第2の反応液を剪断力が高い撹拌翼の内外周から至近距離の範囲に供給することができ、平均粒子径が微小であり、かつ高い球形度を備える、金属化合物の微粒子を、得ることができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記晶析装置の前記円盤部より上側の前記円筒部において、前記径方向に貫通する複数の孔が閉塞されているとともに、前記円筒部の内周面に外縁部が固定される円盤状の第2円盤部が前記円筒部の上端部に設けられていることを特徴とする金属化合物の微粒子の製造方法である。
【0017】
本発明の第4の態様によれば、撹拌翼を回転させるための動力を抑え、平均粒子径が微小であり、かつ高い球形度を備える、金属化合物の微粒子を、得ることができる。
【0018】
本発明の第5の態様は、第3の態様において、前記晶析装置の前記円盤部が前記円筒部の上端部に設けられることを特徴とする金属化合物の微粒子の製造方法である。
【0019】
本発明の第5の態様によれば、撹拌翼を回転させるための動力を抑え、平均粒子径が微小であり、かつ高い球形度を備える、金属化合物の微粒子を、得ることができる。
【0020】
本発明の第6の態様は、第2から第5いずれか一つの態様において、前記晶析装置の前記円筒部の外周面と前記反応槽の内周面との間のクリアランスをL3とし、前記円筒部の高さをHeとした場合に、He/L3が10以上であることを特徴とする金属化合物の微粒子の製造方法である。
【0021】
本発明の第6の態様によれば、平均粒子径が微小であり、かつ高い球形度を備える、金属化合物の微粒子を、得ることができる。
【0022】
本発明の第7の態様は、第1から第6のいずれか一つの態様において、前記晶析装置の前記第2給液部は複数設けられていることを特徴とする金属化合物の微粒子の製造方法である。
【0023】
本発明の第7の態様によれば、第2の反応液を円盤部の周方向に均一に供給することができ、平均粒子径が微小であり、かつ高い球形度を備える、金属化合物の微粒子を、得ることができる。
【0024】
本発明の第8の態様は、第1から第7のいずれか一つの態様において、前記晶析装置と、前記晶析装置の排出口から排出される前記微粒子を含むスラリを流動させ前記晶析装置の前記第1給液部から前記晶析装置内に前記スラリを循環させる循環管路と、前記スラリを前記晶析装置と前記循環管路との間で循環させる循環ポンプとを備え、前記循環管路は、蛇行形状をなす屈曲部を有する晶析システムを用い、前記晶析システムに投入される金属系原料はニッケルが物質量比で90%以上であることを特徴とする金属化合物の微粒子の製造方法である。
【0025】
本発明の第8の態様によれば、ニッケルの含有量が高く、平均粒子径が微小であり、かつ高い球形度を備える、金属化合物の微粒子を、得ることができる。
【0026】
本発明の第9の態様は、第8の態様において、前記第1の反応液と前記第2の反応液との混合液のpHと、前記微粒子の前記晶析システムにおける滞留時間とを一定に維持することを特徴とする金属化合物の微粒子の製造方法である。
【0027】
本発明の第9の態様によれば、ニッケルの含有量が高く、平均粒子径が微小であり、かつ高い球形度を備える、金属化合物の微粒子を、得ることができる。
【0028】
本発明の第10の態様は、第8または第9の態様において、前記撹拌翼の前記周速を調節することで、前記微粒子の平均粒子径d50を調整することを特徴とする金属化合物の微粒子の製造方法である。
【0029】
本発明の第10の態様によれば、ニッケルの含有量が高く、平均粒子径が微小であり、かつ高い球形度を備える、金属化合物の微粒子を、得ることができる。つまり、主として撹拌翼の周速を調節させることで、得られる金属化合物の微粒子の平均粒子径を制御することができる。即ち、撹拌翼の周速を調節することで、剪断力と循環流を個別に調節できるようにしたことで、反応槽では剪断力の伝達に特化した攪拌が可能となる。この機構改良による大きなメリットは、主として攪拌翼の周速調整で粒子径の制御が可能となることである。従来の滞留時間やpH値の調整に頼った粒子径制御から、滞留時間、pH値の設定値は製品品質の低下が無い条件で一定のまま、主として攪拌翼の周速調整で粒子径の制御が可能なため、粒子径の制御性能は飛躍的に向上する。この機能性向上により、粒子形状の悪化を引き起こさない滞留時間、および、pH値を維持したまま、粒子径を制御することができ、平均粒子径が微小、且つ、球形度が高い高品質のニッケル含有率の高い金属水酸化物を得ることができる。
【0030】
本発明の第11の態様は、第1から第10のいずれか一つの態様に係る前記製造方法により製造された、平均粒子径d50が3μm以下であり、かつニッケルの物質量比が90%以上である、金属化合物の微粒子である。
【0031】
本発明の第11の態様によれば、高い球形度を備え、ニッケルの含有率が高く、かつ平均粒子径が3μm以下の、金属化合物の微粒子を得ることができる。
【0032】
本発明の第12の態様は、第11の態様において、前記微粒子は、ニッケル、コバルト、マンガンから構成される三元系金属水酸化物の微粒子である金属化合物の微粒子である。
【0033】
本発明の第12の態様によれば、高い球形度を備え、ニッケルの含有率が高く、かつ平均粒子径が3μm以下の、ニッケル、コバルト、マンガンから構成される三元系金属水酸化物の微粒子を得ることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、次世代電池向けの正極材に使用可能な程度に高容量及び高出力化を実現可能な、ニッケル含有量が高く、かつ微粒子化を実現した、金属化合物の製造方法と金属化合物の微粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明に係わる第1実施形態の晶析システムの概略図である。
【
図2】本発明に係わる第1実施形態の晶析システムの要部拡大図である。
【
図3】本発明に係わる第1実施形態の晶析システムを使用して製造される微粒子の平均粒子径と撹拌翼の周速の関係を示すグラフである。
【
図4】本発明に係わる第1実施形態の晶析システムを使用して製造される微粒子の写真である。
【
図5】従来技術の晶析システムを使用して製造された微粒子の写真である。
【
図6】本発明に係わる第1実施形態の晶析システムの第2又は第3の変形例を使用して製造される微粒子の写真である。
【
図7】本発明に係わる第1実施形態の第1の変形例の晶析システムの概略図である。
【
図8】本発明に係わる第1実施形態の第2の変形例の晶析システムの概略図である。
【
図9】本発明に係わる第1実施形態の第3の変形例の晶析システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る晶析システム10Aを、
図1を参照しながら説明する。
【0037】
晶析システム10Aは、複数の原料溶液を混合して、これら複数の原料溶液の中の原料に由来する粒子を生成させる晶析装置4と、晶析装置4の下流に設けられ、晶析装置4の排出口6から排出されるスラリD1を晶析装置4の導入口(第1給液部)5aまで循環させる循環管路Poと、スラリD1を晶析装置4と循環管路Poとの間で循環させる循環ポンプ30と、を備える。なお、以下の説明において、粒子を微粒子、又は金属化合物の微粒子と表記する場合がある。
【0038】
循環管路Poは、蛇行形状の管路である屈曲部Ppを備えている。さらに、循環管路Poは、晶析装置4と屈曲部Ppとを接続する配管22と、循環ポンプ30と屈曲部Ppとを接続する配管23と、循環ポンプ30と晶析装置4とを接続する配管24と、を備えている。なお、屈曲部Ppは、蛇行形状に限定されず、螺旋形状をなしていても良い。
【0039】
循環ポンプ30は、スラリD1を、晶析装置4と屈曲部Ppとの間で流量を調整可能に循環させる機能を有する循環ポンプである。しかしながら、同様の機能を有する装置であれば必ずしも循環ポンプに限定されず、例えば、回転数を制御可能な羽根車が配管23或いは配管24に設けられていても良い。
【0040】
晶析装置4は、鉛直方向を向いた中心軸O1を備える有底円筒状の反応槽1と、円筒状の撹拌翼Wcと、を備える。撹拌翼Wcは、撹拌翼Wcの平面視の中心から中心軸O1に沿って上方に延びる中空の回転軸3を中心に回転可能であり、中心軸O1を同一の中心軸として反応槽1の内部に収容されている。回転軸3は、晶析装置4の外部に設けられる原動機MからベルトBを介して供給される回転力により回転する。なお、原動機Mはモータやエンジンなど回転動力を発生させる装置であれば特に限定されない。また、回転力を回転軸3に伝達するベルトBはチェーンや歯車など回転力を伝達できれば特に限定されない。なお、反応槽1の底面は、図示されるような平面状である他に、下方に対して凸となるコーン形状であっても良い。反応槽1の上部には反応槽1で生成された粒子(結晶)を含むスラリを次工程に排出可能な排出口6が設けられている。排出口6から配管22に排出されたスラリD1の圧力を維持又は調節する圧力指示調整計(Pressure Indication Controller)が配管22に設けられている。撹拌翼Wcの詳細は後述する。
【0041】
反応槽1の下部には第1の反応液L1と循環管路Poを流動したスラリD1が供給される導入口5aが設けられている。第1の反応液L1は、外部の副原料SAやSBを貯蔵する不図示のタンクから副原料SAやSBが供給され混合されることで生成される。第1の反応液L1の副原料SAやSBの流量は、流量指示調節計(Flow Indication Controller)FIC2、FIC3で維持又は調節される。第1の反応液L1は、導入口5aから反応槽1に所定の量だけ供給される。第1の反応液L1の導入口5aからの供給量は、例えば循環ポンプ30の回転数を調節することで所定の量に調整することができる。第1の反応液L1が流れる配管24には必要に応じて圧力計(Pressure Indicator)PI1が設けられる。
また、撹拌翼Wcに設けられる給液部(第2給液部)5bから第2の反応液L2が反応槽1の中に供給される。第2の反応液L2は、外部の主原料SMを貯蔵する不図示のタンクから供給される。第2の反応液L2の流量は、流量指示調節計FIC1で維持又は調節される。
反応槽1の中に供給された第1の反応液L1と第2の反応液L2とが反応することで、析出され結晶化された金属化合物の微粒子が生成される。スラリD1は、この金属化合物の微粒子を含んだ流体である。
【0042】
屈曲部Ppは、互いに間隔を空けて略同じ方向を向くように配置された内径r2の複数の直管部(Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6)と、隣接する複数の直管部Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6同士を分離可能、或いは着脱可能に連結する内径r3の複数の曲管部C(C
1、C
2、C
3、C
4、C
5)と、複数の直管部を固定する固定板21と、から構成されている。複数の曲管部Cが分離可能であるとは、例えば、直管部Po5及び直管部Po6とを接続するように設けられている曲管部C
5を、直管部Po5及び直管部Po6とから分離させることができることを意味する。
曲管部C
5と、直管部Po5及び直管部Po6との着脱方法としては、不図示のフランジ部が曲管部C
5の両端部と、直管部Po5及び直管部Po6の左端部に設けられており、ボルトやナット等を用いてフランジ部を締め付けたり緩めたりすることで、直管部Po5及び直管部Po6に対して、曲管部C
5を着脱しても良い。着脱方法はこれに限定されず、着脱自在であれば、例えば、フランジ部を使用する方法に限らず、直管部Po5及び直管部Po6の左端部に曲管部C
5の両端を螺合させることで着脱しても良い。
固定板21は、
図1では矩形状となっているが、複数の直管部Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6が固定板21に固定された状態で保持できれば、その素材や形状は特に限定されない。
上記のように、分離可能な、複数の直管部と複数の曲管部Cにおいては、分離させることで容易に直管部及び曲管部Cの内周面を清掃することができるので、晶析システム10Aのメンテナンス性を向上させることができる。
【0043】
図1の例では、直管部は、直管部Po1、直管部Po2、直管部Po3、直管部Po4、直管部Po5、直管部Po6の6つの直管部により構成されており、曲管部Cは、曲管部C
1、曲管部C
2、曲管部C
3、曲管部C
4、曲管部C
5の5つの曲管部から構成されているが、この例に限定されない。
直管部Poは、6つ以上の直管部Poから構成されていても良いし、6つ以下の直管部Poから構成されていても良い。直管部Poの個数に合わせて、曲管部Cの個数も増減する。例えば、
図1の例において、直管部Po3の右端部に第一端が接続されている曲管部C
2の第二端を配管22の左端部に接続しても良い。この場合、曲管部C
2に伸縮及び湾曲自在の蛇腹部が設けられていることにより、曲管部C
2が伸縮自在であっても良い。
【0044】
このように、屈曲部Ppの管路長、即ち、直管部と曲管部Cの合計の長さ(直管部と曲管部Cの個数)は、スラリD1を所望の滞留時間だけ、滞留させることを目的に要望に応じて調節することができる。即ち、より長い滞留時間が望まれる場合には、直管部と曲管部Cの数を増して屈曲部Ppの管路長を長くすることが望ましく、より短い滞留時間が望まれる場合には、直管部と曲管部Cの数を減らして屈曲部Ppの管路長を短くすることが望ましい。
【0045】
ここで、スラリD1の流速は、スラリD1を構成する粒子の比重と径により決まる。即ち、スラリD1を構成する粒子の比重と径により、スラリD1を構成する粒子の沈降速度が決まるので、スラリD1が配管内で沈降することなく流通されるようにスラリD1の流速を決める。そのため、所望のスラリD1の滞留時間と、スラリD1を沈降させないためのスラリD1の流速とから、屈曲部Ppの管路長を求めることができる。
【0046】
晶析装置4と屈曲部Ppは内径r1の配管22により接続されている。屈曲部Ppと循環ポンプ30は内径r4の配管23により接続されている。循環ポンプ30と晶析装置4は内径r5の配管24により接続されている。
図1の例では、循環管路Poの内径、即ち、配管22の内径r1、直管部Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6の内径r2、曲管部C
1、C
2、C
3、C
4、C
5の内径r3、配管23の内径r4、配管24の内径r5は、同一とされている。この場合、配管22、直管部Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6、曲管部C
1、C
2、C
3、C
4、C
5、配管23、配管24の断面積が一定となるため、管路を流れるスラリD1の流動解析が容易となる。しかしながら、上記の例に限定されず、循環管路Poの内径、即ち、配管22の内径r1、直管部Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6の内径r2、曲管部C
1、C
2、C
3、C
4、C
5の内径r3、配管23の内径r4、配管24の内径r5が互いに異なっていても良い。その場合、異なった内径を考慮して流動解析を行えばよい。
【0047】
屈曲部Ppから排出されるスラリD1が流れる配管23には、スラリ排出ポンプ31に接続される管路が接続されている。この管路が配管23からスラリD1を引き抜き、これを集積する事で製品となる。スラリ排出ポンプ31の近傍に流量指示調節計(Flow Indication Controller)FIC4が設けられ、晶析システム10Aの外部に引き抜かれるスラリD1の流量の維持又は調節を行う。スラリ排出ポンプ31は、循環ポンプ30と同様に、流量を調整可能な機能を有するスラリ排出ポンプである。しかしながら、配管23からスラリD1を引き抜く機能を有する装置であれば必ずしもスラリ排出ポンプに限定されず、例えば、回転数を制御可能な羽根車が管路に設けられていても良い。
スラリD1が外部に引き抜かれた直後の配管23におけるスラリD1の圧力を必要に応じて圧力計(Pressure Indicator)PI2でモニターする。
【0048】
晶析システム10Aでは、屈曲部Ppの少なくとも一部が温度調節槽13の中に設けられている。
温度調節槽13は、不図示のポンプ等により、冷水等の冷媒CWが温度調節槽13の内部を一方向に流れる状態を維持している部材である。このような温度調節槽13の中に、屈曲部Ppの少なくとも一部を設けた場合、屈曲部Ppの直管部Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6に冷媒が衝突する。この場合、屈曲部Ppの直管部Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6を流れるスラリD1と冷媒CWとの間で、直管部Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6を構成する部材を介して熱交換が行われる。よって、スラリD1を冷却又は加熱することができる。
ここで、
図1の場合は、冷媒CWの流れ方向に対して直管部Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6が略垂直に設けられているが、必ずしも冷媒CWの流れ方向に対して直管部Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6が略垂直に設けられていなくとも良く、垂直ではない角度を付けて設けられていても良い。また、屈曲部Ppの曲管部Cにおいて冷媒CWとの熱交換が行われても良いし、屈曲部Ppの直管部と曲管部Cとの両方で冷媒CWとの熱交換が行われても良い。
【0049】
ここで、屈曲部Ppのうち、直管部Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6の長さ、或いは直管部Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6の数を調節することで、スラリD1に対する温度調整能力を調整することができる。例えば、直管部Po1を流れる熱量Qを有するスラリD1から熱量Q1が熱交換により冷媒CWに移動したとすると、直管部Po2を流れる熱量(Q-Q1)を有するスラリD1から熱量Q2が熱交換により冷媒CWに移動する。さらに、直管部Po3を流れる熱量(Q-(Q1+Q2))を有するスラリD1から熱量Q3が熱交換により冷媒CWに移動すると、直管部Po4を流れるスラリD1の熱量は(Q-(Q1+Q2+Q3))となる。これを所望の回数繰り返すことで、スラリD1の熱量を低減させることができるので、スラリD1を所望の量だけ冷却することができる。スラリD1を加熱する場合も同様である。
【0050】
このような屈曲部Ppを有する循環管路Poを備える晶析システム10Aによれば、晶析装置4において生成される粒子を含むスラリD1を、循環ポンプ30の流量制御により、容易に完全均一混合することができる。さらに、晶析装置4において生成される粒子を含むスラリD1を、屈曲部Ppの管路長を調節することで、滞留槽を必須とすることなく、所望の時間だけ滞留させることができる。従って、滞留槽を用いる場合に要求されたスラリD1の複雑な流動解析を行うことなく、屈曲部PpにおけるスラリD1の滞留時間を調節することができる。なお、不図示の滞留槽を晶析システム10Aに加えても良い。
【0051】
また、このような晶析システム10Aによれば、冷媒CWと熱交換が行われる屈曲部Ppの管路長、即ち、直管部Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6の管路長、或いは数を調節することで、スラリD1を所望の量だけ冷却又は加熱することができる。
【0052】
次に、晶析システム10Aの撹拌翼Wcについて詳細に説明する。撹拌翼Wcは、円筒部2と、円筒部2の内周面2iに外縁部が固定される円盤状の円盤部8と、円筒部2の上端部の内周面2iに外縁部が固定される第2円盤部15と、を備えている。
円盤部8は、円筒部2の高さが概ね半分となる位置に設けられるが、この例に限定されず、円筒部2の高さの概ね半分よりも下側や上側に設けられても良い。円盤部8の平面視の中心に回転軸3が固定されている。
第2円盤部15は、円盤部8よりも上側に設けられる円盤状の部材であり、その平面視の中心に回転軸3が貫通する孔を有する。回転軸3が貫通する孔を除き、中心軸O1方向に第2円盤部15を貫通する孔はない。従って、第2円盤部15の内側に第1の反応液L1、第2の反応液L2、及びその混合液が入り込むことはない。
回転軸3の中空の内部は管路P1とされている。円盤部8の内部には複数の管路P2が中心から放射状に外縁部に向かって延びている。回転軸3の管路P1と円盤部8の管路P2とは連通している。撹拌翼Wcの回転軸3には、晶析装置4の外部に設けられる主原料SMを貯蔵する不図示のタンクから第2の反応液L2が供給される。第2の反応液L2は、ロータリージョイントRを介して回転軸3の中空の管路P1に供給され、その後、円盤部8の管路P2に供給される。管路P2の反応槽1の径方向外側の先端は下方に向けて開口しており第2の反応液L2が排出される給液部(第2給液部)5bとされている。従って、円盤部8には、給液部5bが円盤部の周方向に間隔を空けて複数設けられている。給液部5bの個数は例えば8個設けられている。給液部5bの個数は限定されないが、中心軸O1に対して対称に設けることが望ましい。
【0053】
本実施形態においては、撹拌翼Wcの円筒部2の内周面2iと給液部5bの中心との距離は2mm以下とされている。また、
図2に示されるように、撹拌翼Wcの円筒部2の外周面2oと反応槽1の内周面1iとの距離(クリアランス)をL3、撹拌翼Wc(円筒部2)の中心軸O1に沿う高さをHeとすると、HeとL3との比であるHe/L3が10以上であることが好ましい。また、He/L3が25以上であることがより好ましい。従って、この実施形態と異なるサイズの装置を使用する場合であっても、この比を基に同様の装置を製作することができる。撹拌翼Wcは、5m/秒以上50m/秒以下の周速で回転する。なお、He/L3の比率は、目的によって、上述の比率と異なる場合がある。例えば、結晶破砕を抑制したい場合には、比率を上記の値から下げても良い。
【0054】
撹拌翼Wcの円筒部2には、円筒部2の径方向に貫通する複数の孔hが円盤部8よりも下側に設けられている。これらの孔hは、第1の反応液L1、第2の反応液L2、或いはその混合液が流通可能とされている。そのため、第1の反応液L1、第2の反応液L2、或いはその混合液は、複数の孔hを通じて、撹拌翼Wcの内側から外側に、又は撹拌翼Wの外側から内側に移動可能である。このように、円筒部2の径方向に貫通する複数の孔hが円盤部8よりも下側に設けられている場合、複数の孔hが円盤部8の下側と上側の両方に設けられている場合に比べて、より少ない動力で撹拌翼Wcを回転させることができる。
このような円筒部2は、円筒部2の高さ方向に亘って均等に孔hが設けられている加工前の円筒部2を、円盤部8より上側の孔hを閉塞するように加工することで、円盤部8より下側のみに孔hが設けられている円筒部2を形成してもよい。または、円筒部2において、円盤部8より下側のみに孔hを設ける加工を行い、円盤部8よりも上側には孔hを設ける加工を行わないように円筒部2を形成しても良い。
【0055】
このような撹拌翼Wcを備える晶析装置4において、導入口5aから所定量の第1の反応液L1を反応槽1に供給する。供給される第1の反応液L1の量は、反応槽1を満たす程度(満液状態)でも良いし、或いは、撹拌翼Wが回転した際に第1の反応液L1が反応槽1の中心軸O1を中心として円運動を行うことにより第1の反応液L1に発生する遠心力により反応槽1の内周面1iに押し付けられて、反応槽1の内周面1iに第1の反応液L1の液膜が形成される程度に供給しても良い。以下では、第1の反応液L1が満液状態になる程度供給される場合を想定して説明する。また、第1の反応液L1を上述の満液状態または液膜形成状態となる程度に供給した後に第1の反応液L1の供給を止めてから反応槽1で反応をさせても良いし(後述のバッチ方式)、第1の反応液L1を上述の満液状態または液膜形成状態となる程度の流量に維持しながら反応槽1での反応を継続的に行っても良い(後述の連続方式)。
例えば、排出口6に不図示の開度調整バルブを設け、この開度調整バルブの開度を調整することにより、反応槽1を、満液状態と液膜が形成される液膜状態とのいずれかに選択することができる。
【0056】
反応槽1が第1の反応液L1で満たされた状態において、撹拌翼Wcを回転させるとともに、第2の反応液L2を給液部5bから撹拌翼Wcの円筒部2の内周面2iに沿って排出することで、第2の反応液L2を反応槽1内に供給する。こうすることで、給液部5bから撹拌翼Wcの円筒部2の内周面2iに沿って排出された第2の反応液L2が、第1の反応液L1で満たされた反応槽1のうちで撹拌翼Wcの円筒部2の内周面2i近傍で撹拌翼Wcの回転に伴って回転している第1の反応液L1と接触する。こうして第1の反応液L1と第2の反応液L2とが接触することにより反応が発生して粒子が生成される。
【0057】
この際、第1の反応液L1に、5m/秒以上50m/秒以下の周速で回転している撹拌翼Wcの給液部5bから第2の反応液L2を供給することで、第2の反応液L2を第1の反応液L1と均一に混合することができる。
【0058】
ここで、撹拌翼Wcの回転に伴って回転している第1の反応液L1と、5m/秒以上50m/秒以下の周速で回転している撹拌翼Wcの給液部5bから排出される第2の反応液L2と、これらの混合液に発生する遠心力により、第1の反応液L1、第2の反応液L2、及び混合液(以下、まとめて混合液と呼ぶ場合がある)は撹拌翼Wcの円筒部2の径方向外側に移動し、撹拌翼Wcの円筒部2に設けられた複数の孔hを通って反応槽1の内周面1iに衝突し、その後、反応槽1の内周面1iに沿って上下方向に移動する。主に下方に移動した混合液は、撹拌翼Wcの回転により生じる遠心力に起因する径方向外側に向かう流れに引き寄せられて再び撹拌翼Wcの円筒部2に設けられた複数の孔hを通って反応槽1の内周面1iに衝突し、その後、反応槽1の内周面1iに沿って上下方向に移動することで対流が生まれる。ここで、複数の孔hを混合液が通過する際、絞り流路の効果により、混合液は径方向外側に加速されるので、混合液の径方向外向きの流速は、複数の孔h近傍で最も高い。さらに、5m/秒以上50m/秒以下の周速で回転する撹拌翼Wcの円筒部2の外周面2o及び内周面2iと固定されている反応槽1の内周面1iとの間に存在する混合液には、周方向に剪断力が与えられる。混合液に与えられる剪断力は撹拌翼Wcの円筒部2の内周面2iと外周面2oとに近ければ近い程大きい。混合液に与えられる剪断力は、得られる粒子の粒子径と均一性を決定する大きな要因となる。特に与えられる剪断力が大きければ大きい程、微細な粒子径を持つ粒子を得ることができる。
【0059】
本実施形態の晶析装置4では、給液部5bが、円盤部8の外縁部に設けられている。具体的には上記のように撹拌翼Wcの円筒部2の内周面2iと給液部5bの中心との距離が2mm以下とされている。そのため、給液部5bから撹拌翼Wcの円筒部2の内周面2iに沿って排出される第2の反応液L2と、撹拌翼Wcの円筒部2の内周面2i近傍で撹拌翼Wcの回転に伴って回転している第1の反応液L1と、が初めて接触して反応を開始する反応開始ポイントには、遠心力と絞り流路の効果による径方向外側に向かう流れに加えて剪断力が最大限に与えられる。よって、与えられる剪断力が最も大きい領域を反応開始ポイントとすることができる。具体的には、撹拌翼Wcの円筒部2の内周面2iと外周面2oから至近距離、例えば2mm以内、の領域に反応開始ポイントを形成することができる。ここで、混合液は上記の複数の孔hを通って円筒部2の内周側から外周側に移動可能である。従って、反応開始ポイントにおける第1の反応液L1と第2の反応液L2との撹拌が剪断力により促進される。そのため、より均一な第1の反応液L1と第2の反応液L2との混合が反応開始ポイントから開始され、混合液の流れに沿って反応が起こる場である反応場で混合及び反応が行われることで微細かつ均一な径を有する粒子を生成することができる。ここで、反応開始ポイントは反応が開始される領域を指し、反応場は反応が起きる場全体を指す。従って、反応開始ポイントは反応場に含まれる。
なお、撹拌翼Wcの上部に相当する反応槽1の内周面に
図2に示すバッフル(邪魔板)7が設けられていても良い。バッフル7は、反応槽1が満液の状態においては、渦の発生を抑制し混合液の撹拌を促進させる効果がある。一方、反応槽1が満液ではなく混合液の液膜が形成される状態においてはバッフル7を設ける必要はない。
なお、バッフル7は必須の構成ではなく、設けなくても良い。例えば、反応槽1における回転軸3が挿入される箇所に不図示のメカニカルシールを設け、気相部の無い完全な満液状態とする場合、渦の発生が抑制されるため、バッフル7を設けなくても良い。バッフル7を設けない場合、流路抵抗が低減され、原動機Mの動力を低減できる。
【0060】
なお、満液状態ではなく液膜が形成される状態においても満液状態の場合と同様の効果が得られる。
【0061】
このような晶析装置4を含む晶析システム10Aによれば、晶析装置4における反応生成物の粒子径、粒度分布、真球度などの粒子品質に影響を与える剪断力、第1の反応液L1の循環量、スラリの滞留時間を個別に調整することができ、より一層、粒子品質の制御性能を向上することができる。
【0062】
このような晶析システム10Aの晶析装置4には、原動機Mの回転速度を制御可能な制御部CONがさらに設けられている。従って、制御部CONにより原動機Mの回転速度を制御することで、撹拌翼Wcの回転速度(周速)を制御することができる。
制御部CONは、晶析システム10Aの操作者による操作等に基づいて、原動機Mの回転速度を制御するコンピュータである。即ち、制御部CONは、上記のような制御を実施できるようなCPU,RAM,ROM等を含む公知の計算機でもよい。制御部CONによる制御の詳細は、ユーザーが任意に変更または更新可能なソフトウェアにより定義されても良い。
図1や
図2に示すように、制御部CONは、電気的あるいは電子的に原動機Mに接続されている。また、制御部CONには撹拌翼Wc(回転軸3)の回転数を計測する回転数センサが含まれていても良く、回転数センサから受信した回転数信号が所望の周速に対応する回転数となるように制御部CONは原動機Mの回転数を制御しても良い。例えば、原動機Mがモータの場合、制御部CONは、モータの駆動電圧を制御することで、モータの回転数を制御しても良い。原動機Mがエンジンの場合、制御部CONは、エンジンへの燃料供給量を制御することで、エンジンの回転数を制御しても良い。
【0063】
このような晶析システム10Aを用いて、反応槽1を含む晶析システム10A内における結晶の滞留時間と反応槽1内における第1反応液L1と第2反応液L2の混合液のpHを一定の条件に固定或いは維持し、撹拌翼Wcの周速を変化させた場合に得られた微粒子の平均粒子径d50を測定した。その結果、撹拌翼Wcの周速が20m/sの時に得られた微粒子の平均粒子径d50は3.79μmであった(測定点a)。撹拌翼Wcの周速が40m/sの時に得られた微粒子の平均粒子径d50は1.71μmであった(測定点b)。撹拌翼Wcの周速が50m/sの時に得られた微粒子の平均粒子径d50は1.32μmであった(測定点c)。
【0064】
得られた測定点a、b、cを公知の方法で補間することで得られたグラフを
図3に示す。
図3より、撹拌翼Wcの周速を大きくするに連れて、より微小な平均粒子径d50を備える微粒子が得られることが確認された。また、
図3より、周速が略25m/s以上で、得られる平均粒子径d50は3μm以下となることが確認された。ここで、略25m/s以上の周速とは、平均粒子径d50が3μm以下となる場合の、周速23m/sから周速25m/s以上の間を指す。
【0065】
図3の結果から、晶析システム10Aを用いて、撹拌翼Wcの周速を略25m/s以上とする微粒子の製造方法を用いることで、平均粒子径d50が3μm以下の微粒子が得られることが確認された。
なお、
図3で得られた微粒子は、ニッケル、コバルト、マンガンを含む金属化合物である。より具体的には、ニッケル、コバルト、マンガンから構成される三元系金属水酸化物である。この微粒子において、ニッケルの物質量比は90%以上である。ここで言う物質量比が90%以上とは、ニッケル、コバルト、マンガンの合計の物質量を100とした場合に、ニッケルの物質量が90以上であることを言う。従って、ニッケルの含有率が高い状態にもかかわらず、平均粒子径d50が3μm以下という微小な微粒子が得られることが確認された。
なお、微粒子は、ニッケル、コバルト、マンガンから構成される三元系金属水酸化物の微粒子に必ずしも限定されず、ニッケル、コバルト、アルミニウムから構成される金属化合物の微粒子であっても良い。
【0066】
ここで、
図3の結果は、晶析システム10Aを連続方式で運転した際に得られた。連続方式とは、
図1に示す晶析システム10Aを運転中に、主原料S
Mと副原料S
AやS
Bが連絡的に供給され、生成された微粒子を含むスラリD1が連続的に晶析システム10Aから外部に排出される運転形式を言う。晶析システム10Aで製造されるニッケル、コバルト、マンガンから構成される三元系金属水酸化物のニッケルの物質量比は90%以上であるため、晶析システム10Aに投入される金属系原料においてもニッケルの物質量比が90%以上である。
なお、連続方式の運転の他にバッチ方式の運転がある。これは、晶析システム10Aの運転中には主原料S
Mと副原料S
AやS
Bを供給せずに、晶析システム10Aの運転を開始する前に所定量の主原料S
Mと副原料S
AやS
Bを晶析システム10Aに供給した後、晶析システム10Aを運転し、晶析システム10Aの運転を止めてから生成された微粒子を含むスラリD1を外部に排出する運転方式である。
【0067】
図4は、このような連続方式で、撹拌翼Wcの周速が略25m/s以上となるように晶析システム10Aを運転して得られた微粒子の電子顕微鏡写真である。粒子の球形度は平均値で0.85以上であり、高いことが分かる。この場合の平均粒子径d50は1.32μmであった。
図5は、晶析システム10Aの撹拌翼Wcのような形状の撹拌翼を使用しない従来技術で得られた微粒子の電子顕微鏡写真である。
図4の微粒子と比較すると、微粒子の球形度が明らかに低いことが分かる。この場合の平均粒子径d50は1.37μmであった。
【0068】
図6は、後述の晶析システム10C又は晶析システム10Dをバッチ方式で運転して得られた微粒子の電子顕微鏡写真である。
図4に示す連続方式で得られた微粒子と同様に、バッチ方式で運転しても、粒子の球形度は平均値で0.9以上であり、高い球形度の微粒子が得られることが分かる。さらに、連続方式に比べ、粒度分布の均一性が大幅に向上し、スパン:(d90-d10)/d50=0.7以下を達成する。この場合の平均粒子径d50は1.40μmであった。
【0069】
上記のような撹拌翼Wcの周速を制御可能な制御部CONを備える晶析装置4を含む晶析システム10Aを用いることで、球形度が高く、ニッケルの含有量が物質量比で90%以上と高く、かつ平均粒子径d50が3μm以下と微小である、ニッケル、コバルト、マンガンから構成される三元系金属水酸化物の微粒子を、製造することができる。さらに、制御部CONの制御の下で主として撹拌翼Wcの周速を調節させることで、得られる金属化合物の微粒子の平均粒子径d50を制御することができる。即ち、撹拌翼Wcの周速を制御可能な制御部CONが設けられ、剪断力と循環流を個別に調節できるようにしたことで、反応槽1では剪断力の伝達に特化した攪拌が可能となる。即ち、撹拌翼Wcの周速を調節することで反応槽1内の混合液に与える剪断力を調節し、
図1の循環ポンプ30の回転数を調節することで循環流を調節する。この機構改良による大きなメリットは、主として攪拌翼Wcの周速調整で粒子径の制御が可能となることである。従来の滞留時間やpH値の調整に頼った粒子径制御から、滞留時間、pH値の設定値は製品品質の低下が無い条件で一定のまま、主として攪拌翼Wcの周速調整で粒子径の制御が可能なため、粒子径の制御性能は飛躍的に向上する。この機能性向上により、粒子形状の悪化を引き起こさない滞留時間、および、pH値を維持したまま、粒子径を制御することができ、平均粒子径d50が微小、且つ、球形度が高い高品質のニッケル含有率の高い金属水酸化物を得ることができる。
【0070】
<第1実施形態の第1の変形例>
図7は、本発明の第1実施形態の第1の変形例に係る晶析システム10Bを示す概略図である。以下の説明では、第1実施形態に係る晶析システム10Aとの差異のみを説明する。
【0071】
晶析システム10Bは、撹拌翼Wdの形状が、晶析システム10Aの撹拌翼Wcと異なっている点と、屈曲部Ppが温度調節槽13の中に設けられていない点で晶析システム10Aと異なっている。
【0072】
撹拌翼Wdは、
図7に示されるように、円盤部8が円筒部2の上端部に設けられている点において撹拌翼Wcと異なっている。また、円筒部2の高さが撹拌翼Wcの円筒部2の高さの半分程度である。このような撹拌翼Wdを備える晶析装置4dを用いることでも、撹拌翼Wcを備える晶析装置4と同様の効果を奏することができる。また、円盤部8よりも上方に円筒部2が設けられていないため、撹拌翼Wdを撹拌翼Wcよりも軽量とすることができる。また撹拌翼Wdを簡易な構造とすることができるので、撹拌翼Wcよりも少ない動力で撹拌翼Wdを運転することができ、晶析装置4dの省エネ化と、撹拌翼Wdの製造の容易化が期待できる。さらに、円筒部2の高さが短く抑えられているため、晶析装置4dを小型化することができる。
【0073】
このような晶析装置4dを含む第1の変形例に係る晶析システム10Bを用いても、晶析システム10Aを使用した場合と同様に、球形度が高く、ニッケルの含有量が物質量比で90%以上と高く、かつ平均粒子径d50が3μm以下と微小である、ニッケル、コバルト、マンガンから構成される三元系金属水酸化物の微粒子を、製造することができる。
なお、晶析システム10Bに、晶析システム10Aに使用される温度調節槽13が設けられても良い。その場合、晶析システム10Aと同様にスラリD1を所望の量だけ冷却又は加熱することができる。
【0074】
<第1実施形態の第2の変形例>
図8は、本発明の第1実施形態の第2の変形例に係る晶析システム10Cを示す概略図である。以下の説明では、第1実施形態に係る晶析システム10Aとの差異のみを説明する。
【0075】
晶析システム10Cは、晶析システム10Aの屈曲部Ppに代わり、滞留槽10が設けられている点で晶析システム10Aと異なっている。
【0076】
晶析システム10Aと晶析システム10Bが連続方式で運転する場合に採用される構成であるのに対し、晶析システム10Cはバッチ方式で運転する場合に採用される構成である。この場合、屈曲部Ppを用いる場合よりも装置容量が多く確保できるので、運転中に晶析システム10Cを形成する系が外部に対して閉ざされるバッチ方式において、1回の運転でより多くの微粒子を製造することができる。よって、効率の良い微粒子の製造を行うことができる。このような晶析システム10Cをバッチ方式で運転した場合にも、
図6に示すような、球形度が高く、ニッケル含有量が物質量比で90%以上と高く、かつ平均粒子径d50が3μm以下の微小粒子を製造することができる。さらに、バッチ方式で微粒子を製造した場合、連続方式に比べ、粒度分布の均一性が大幅に向上し、スパン:(d90-d10)/d50=0.7以下を達成することができる。
なお、晶析システム10Cの滞留槽10に不図示の撹拌機が設けられていても良い。撹拌機として、例えばスクリュウタイプの公知の撹拌機が設けられていても良い。この場合、滞留槽10での更なる流動性の向上と、滞留槽10にも原料や添加剤を添加する際の分散性を向上することができる。
【0077】
<第1実施形態の第3の変形例>
図9は、本発明の第1実施形態の第3の変形例に係る晶析システム10Dを示す概略図である。以下の説明では、第1実施形態の第2の変形例に係る晶析システム10Cとの差異のみを説明する。
【0078】
晶析システム10Dは、晶析システム10Cの滞留槽10に濃縮機11が接続されている点で晶析システム10Cと異なっている。
【0079】
晶析システム10Dのように、濃縮機11と組合せることで、装置内のスラリ濃度を上昇させ、単位容量当たりの生産量を向上させることができる。原理的には、スラリの流動性があり、ポンプ搬送できる濃度までスラリ濃度を上昇させることができる。濃縮機11には、ろ過機、遠心分離機、シックナーなどを適用することができる。このような晶析システム10Dを用いた場合にも、
図6に示すような、球形度が高く、ニッケル含有量が物質量比で90%以上と高く、かつ平均粒子径d50が3μm以下の微小粒子を製造することができる。
なお、晶析システム10Dの滞留槽10に不図示の撹拌機が設けられていても良い。撹拌機として、例えばスクリュウタイプの公知の撹拌機が設けられていても良い。この場合、滞留槽10での更なる流動性の向上と、滞留槽10にも原料や添加剤を添加する際の分散性を向上することができる。
【0080】
ここで、撹拌翼Wc又は撹拌翼Wdを用いる場合の利点を異なる観点から説明する。特許文献3に開示されるようなフラットディスクタービンを用いた場合と比較すると、同じ動力で運転した場合、フラットディスクタービンの1.25倍の翼径を備える撹拌翼Wc又は撹拌翼Wdを、フラットディスクタービンの周速の3.3倍の周速で運転することができる。従って、撹拌翼Wc又は撹拌翼Wdを用いる場合、従来技術よりも、より大きな剪断力を金属水酸化物の微小反応場に与えることができる。これは、フラットディスクタービンに比べると、撹拌翼Wc又は撹拌翼Wdを回転させたときに水から受ける抵抗がより少ないためであると考えられる。そのため、より高速で撹拌翼Wc又は撹拌翼Wdを回転させることができるので、より大きな剪断力を金属水酸化物の微小反応場に与えることができると考えられる。
【0081】
以上、この発明の実施形態とその変形例について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態とその変形例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等や実施形態と変形例の相互の組み合わせも含まれる。
【符号の説明】
【0082】
1 反応槽
2 円筒部
3 回転軸
4、4d 晶析装置
5a 導入口(第1給液部)
5b 給液部(第2給液部)
6 排出口
8 円盤部
h 孔
10A、10B、10C、10D 晶析システム
22、23、24 配管
30 循環ポンプ
31 第2循環ポンプ
Po 循環管路
Pp 屈曲部
Po1、Po2、Po3、Po4、Po5、Po6 直管部
C、C1、C2、C3、C4、C5 曲管部
Wc、Wd 撹拌翼