(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046966
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
G01C15/00 105S
G01C15/00 103A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152358
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽
(72)【発明者】
【氏名】森田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 裕晃
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優人
(72)【発明者】
【氏名】南口 修一
(72)【発明者】
【氏名】西田 信幸
(72)【発明者】
【氏名】松本 秀之
(57)【要約】
【課題】測量装置のチルトオフセットの取得に係る作業を効率化する。
【解決手段】傾斜センサと、前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部と、前記チルトオフセットの変動の要因となる事象の変数を計測する手段と、前記事象の変数を計測する手段の出力に基づき、前記チルトオフセットの取得の有無を判定する判定部とを備えるトータルステーション100。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜センサと、
前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部と、
前記チルトオフセットの変動の要因となる事象の変数を計測する手段と、
前記事象の変数を計測する手段の出力に基づき、前記チルトオフセットの取得の有無を判定する判定部と
を備える測量装置。
【請求項2】
前記チルトオフセットの変動の要因となる事象は、温度の変化、気圧の変化、衝撃、時間の経過の少なくとも一つである請求項1に記載の測量装置。
【請求項3】
前記事象の変数を計測する手段は、温度センサ、気圧センサ、加速度センサ、時計の少なくとも一つである請求項1に記載の測量装置。
【請求項4】
傾斜センサと、
前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部と、
前記傾斜センサの温度または前記傾斜センサが配置された環境の温度を計測する温度センサと、
前記温度センサの出力に基づき、前記チルトオフセットの取得の有無を判定する判定部と
を備える測量装置。
【請求項5】
傾斜センサと、
前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部と、
前記傾斜センサに加わる加速度を検出する加速度センサと、
前記加速度センサの出力に基づき、前記チルトオフセットの取得の有無を判定する判定部と
を備える測量装置。
【請求項6】
傾斜センサと、
前記傾斜センサのチルトオフセット値を取得するチルトオフセット取得部と、
前回のチルトオフセットの取得からの経過時間に基づき、前記チルトオフセットの取得の有無を判定する判定部と
を備える測量装置。
【請求項7】
傾斜センサと、
前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部と、
前記チルトオフセットの変動の要因となる事象の変数を計測する手段と
を備えた測量装置の動作方法であって、
前記事象の変数を計測する手段の出力に基づき、前記チルトオフセットの取得の有無の判定を行う測量装置の動作方法。
【請求項8】
傾斜センサと、
前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部と、
前記チルトオフセットの変動の要因となる事象の変数を計測する手段と
を備えた測量装置の動作を制御するコンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、
前記事象の変数を計測する手段の出力に基づき、当該コンピュータに前記チルトオフセットの取得の有無の判定を実行させるプログラム。
【請求項9】
計測装置を備えた水平回転部と、
前記水平回転部に配置された傾斜センサと、
前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部と
を備え、
前記水平回転部を水平回転させながら前記計測装置による周囲環境の計測を行う際に前記チルトオフセットの取得が行われる測量装置。
【請求項10】
前記水平回転部を支える非回転部と、
前記非回転部に配置された他の傾斜センサと
を更に備える請求項9に記載の測量装置。
【請求項11】
前記水平回転部の前記水平回転時に前記他の傾斜センサにより当該測量装置自体の傾きの変動が計測される請求項10に記載の測量装置。
【請求項12】
測量機能を有する測量装置であって、
傾斜センサと、
前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部と
を備え、
前記測量機能を用いた特定の測量の実行が指示されたことを契機として前記チルトオフセットの取得が行われる測量装置。
【請求項13】
前記傾斜センサが配置された水平回転部と、
前記水平回転部を支える非回転部と、
前記非回転部に配置された他の傾斜センサと
を更に備える請求項12に記載の測量装置。
【請求項14】
前記水平回転部の前記水平回転時に前記他の傾斜センサにより当該測量装置自体の傾きの変動が計測される請求項13に記載の測量装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測量装置を用いた測量の効率化に関する。
【背景技術】
【0002】
測量装置は、傾斜センサを備える。傾斜センサは、チルトオフセットを把握する必要がある。測量装置の傾斜に関係する技術としては、例えば特許文献1や特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第06490477号公報
【特許文献2】特許第04996371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、チルトオフセットの取得は、測量装置を機械点に設置する毎に行われる。この作業に手間がかかる問題がある。
【0005】
このような背景において、本発明は、測量装置におけるチルトオフセットの取得に係る作業を効率化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、傾斜センサと、前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部と、前記チルトオフセットの変動の要因となる事象の変数を計測する手段と、前記事象の変数を計測する手段の出力に基づき、前記チルトオフセットの取得の有無を判定する判定部とを備える測量装置である。
【0007】
本発明において、前記チルトオフセットの変動の要因となる事象は、温度の変化、気圧の変化、衝撃、時間の経過の少なくとも一つである態様が挙げられる。本発明において、前記事象の変数を計測する手段は、温度センサ、気圧センサ、加速度センサ、時計の少なくとも一つである態様が挙げられる。
【0008】
本発明は、傾斜センサと、前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部と、前記傾斜センサの温度または前記傾斜センサが配置された環境の温度を計測する温度センサと、前記温度センサの出力に基づき、前記チルトオフセットの取得の有無を判定する判定部とを備える測量装置である。
【0009】
本発明は、傾斜センサと、前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部と、前記傾斜センサに加わる加速度を検出する加速度センサと、前記加速度センサの出力に基づき、前記チルトオフセットの取得の有無を判定する判定部とを備える測量装置である。
【0010】
本発明は、傾斜センサと、前記傾斜センサのチルトオフセット値を取得するチルトオフセット取得部と、前回のチルトオフセットの取得からの経過時間に基づき、前記チルトオフセットの取得の有無を判定する判定部とを備える測量装置である。
【0011】
本発明は、傾斜センサと、前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部と、前記チルトオフセットの変動の要因となる事象の変数を計測する手段とを備えた測量装置の動作方法であって、前記事象の変数を計測する手段の出力に基づき、前記チルトオフセットの取得の有無の判定を行う測量装置の動作方法である。
【0012】
本発明は、傾斜センサと、前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部と、前記チルトオフセットの変動の要因となる事象の変数を計測する手段とを備えた測量装置の動作を制御するコンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、前記事象の変数を計測する手段の出力に基づき、当該コンピュータに前記チルトオフセットの取得の有無の判定を実行させるプログラムである。
【0013】
本発明は、計測装置を備えた水平回転部と、前記水平回転部に配置された傾斜センサと、前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部とを備え、前記水平回転部を水平回転させながら前記計測装置による周囲環境の計測を行う際に前記チルトオフセットの取得が行われる測量装置である。本発明において、前記水平回転部を支える非回転部と、前記非回転部に配置された他の傾斜センサとを更に備える態様が挙げられる。この態様において、前記水平回転部の前記水平回転時に前記他の傾斜センサにより当該測量装置自体の傾きの変動が計測される態様が挙げられる。
【0014】
本発明は、測量機能を有する測量装置であって、傾斜センサと、前記傾斜センサのチルトオフセットを取得するチルトオフセット取得部とを備え、前記測量機能を用いた特定の測量の実行が指示されたことを契機として前記チルトオフセットの取得が行われる測量装置である。本発明において、前記傾斜センサが配置された水平回転部と、前記水平回転部を支える非回転部と、前記非回転部に配置された他の傾斜センサとを更に備える態様が挙げられる。この態様において、前記水平回転部の前記水平回転時に前記他の傾斜センサにより当該測量装置自体の傾きの変動が計測される態様が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測量装置におけるチルトオフセットの取得に係る作業を効率化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】温度変化の積算値を判定の対象とする場合の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.第1の実施形態
(測量装置)
図1には、測量装置の一例であるトータルステーション100が示されている。測量装置としては、トータルステーションの他に、レーザースキャン装置やセオドライトが挙げられる。
【0018】
トータルステーション100は、三脚101により支えられている。三脚101の上には、自動整準機構110(整準台)が配置され、自動整準機構110の上に水平回転が可能な水平回転部102が配置されている。水平回転部102は、鉛直回転が可能な鉛直回転部103を備えている。鉛直回転部103には、測距光を外部に放射し、またその反射光を受光する光学部104を備えている。なお、光学部104は、測量時の視準を行う望遠鏡の光学系も兼ねている。
【0019】
説明は省略するが、鉛直回転部103には、ターゲット(例えば、反射プリズム等の測量用ターゲット)を捕捉および追尾する補足追尾用レーザー光を放射および検出する光学系も備えている。また、トータルステーション100は、測量用ターゲットの捕捉および追尾のための水平回転部102の水平回転、および鉛直回転部103の鉛直回転を行う。これは、市販のトータルステーションが備えている機能である。
【0020】
自動整準機構110によって水平回転部102の水平が確保されている。自動整準機構については、例えば特許第06490477号公報に記載されている。
図2は、自動整準機構110の概念図である。自動整準機構110は、
図1の三脚101の上部に固定される座板2と、座板2によって下方から支持され、座板2に対する傾斜が調整可能な整準板4を有している。
【0021】
整準板4は、その下部に3本の支持ピン5,6,7を有し、各支持ピンの下端が座板2の上面に接触している。支持ピン5,6,7は、軸方向(上下方向)から見て三角形の各頂点の位置に配置されている。支持ピン6,7の下端は、モータ駆動により、整準板4に対して上下に移動(伸縮)が可能であり、この移動により、座板2に対する整準板4の傾きが調整される。
【0022】
すなわち、支持ピン6は軸中心に雄ネジ部8を有し、この雄ネジ部8が整準板4に回転可能な状態で固定されたナット部9に噛み合っている。ナット部9は大歯車10と一体化され、大歯車10はモータ11により駆動される小歯車13と噛み合っている。また、支持ピン6は、図示しないガイド機構により、整準板4に対して回転できず、上下に移動が可能な状態とされている。
【0023】
モータ11を回転させると、その回転力が小歯車13を介して大歯車10に伝わり、ナット部9が回転する。ナット部9が回転することで、ネジの作用により、ナット部9に対して雄ネジ部8が軸方向で移動する。これにより、整準板4から下方に突出した支持ピン6の長さ(突出長)が変化する。
【0024】
支持ピン7も支持ピン6と同様な上下動機構を有し、支持ピン6と独立にモータ12により整準板4から下方に突出した支持ピン7の長さを調整できる。すなわち、モータ11を回転させることで、指示ピン6の整準板4からの突出長が調整され、モータ12を回転させることで、指示ピン7の整準板4からの突出長が調整される。これにより、整準板4の傾きの調整が行われる。
【0025】
整準板4の上面に
図2の水平回転部102を回転可能な状態で保持するベース部105(
図1では見えていない)が固定される。ベース部105に対して、水平回転部102が回転する。よって、整準板4の傾斜を調整することで、水平回転部102の傾斜が調整される。水平回転部102の内部には、傾斜センサ19が配置されている。傾斜センサ19により、水平回転部102の水平からの傾きが計測される。上記の仕組みにより、整準版4の傾きを調整することで、水平回転部102の傾きの調整が行われる。
【0026】
例えば、前回整準時の最後の状態を初期状態とする。この状態で傾斜センサ19の計測値に基づき、水平回転部102(トータルステーション100本体)の水平からの傾きを検出し、その値が規定値以下であれば、自動整準処理を終了する。
【0027】
上記傾きが規定値以下でなければ、上記傾きの検出値が規定値以下となるように、整準板4からの支持ピン6と7の少なくとも一方の突出長の調整がモータドライブにより行われる。この調整が自動整準の処理において行われる。
【0028】
また、自動整準機構110は、手動での整準も可能である。手動での整準は、図示省略した微動ダイヤルを手で動かし、支持ピン6と7の少なくとも一方の突出長を調整することで行われる。
【0029】
(ブロック図)
図4は、トータルステーション100のブロック図である。トータルステーション100は、傾斜センサ19、温度センサ111、気圧センサ112、加速度センサ113、時計114,校正処理の有無判定部115、チルトオフセット取得部116、自動整準制御部121、整準用モータ駆動部122、発光部123、受光部124、測距部125、方向計測部126、測位部127、データ記憶部128、水平回転部駆動部129、鉛直回転部駆動部130、制御処理部132を備える。
【0030】
校正処理の有無判定部115、チルトオフセット取得部116、自動整準制御部121、測距部125、方向計測部126、測位部127、データ記憶部128、制御処理部132の各機能部は、コンピュータにより実現されている。これら機能部の一または複数を専用の電子回路により構成することもできる。
【0031】
傾斜センサ19は、気泡を用いて傾斜を検出するセンサユニットである。他の原理により傾斜を計測するタイプの傾斜センサを利用することも可能である。
【0032】
温度センサ111は、傾斜センサ19の温度または傾斜センサ19が配置された環境の温度を計測する。温度は、極力傾斜センサ19の温度が検出されるようにする。例えば、直射日光が当たると、気温は変化しなくても、トータルステーション100の筐体の内部に配置された傾斜センサ19の温度が上昇する場合がある。このような場合は、外気温でなく、筐体内部の傾斜センサ19の温度を検出することが重要となる。
【0033】
気圧センサ112は、傾斜センサ19に加わる気圧を計測する。加速度センサ113は、傾斜センサ19に加わる加速度を計測する。各センサの計測値は、計測時刻と関連付けされてデータ記憶部128に記憶される。時計114は、時刻を計測する。
【0034】
校正処理の有無判定部115は、温度センサ111、気圧センサ112、加速度セン113、前回の校正(オフセットチルトの取得)からの経過時間、異常検出の有無の一または複数に基づき、校正処理(チルトオフセットの取得に係る処理)を行うか否か、の判定を行う。
【0035】
傾斜センサ19が計測する傾斜角の値は、チルトオフセットと呼ばれるオフセット値を含んでいる。チルトオフセットは、温度、衝撃、振動等の影響を受け、また時間が経過すると変動する。
【0036】
校正処理の有無判定部115は、チルトオフセットの変動が予想される状況を判定し、チルトオフセットの変動が予想される場合にチルトオフセットの校正処理を行う旨を判定する。他方において、チルトオフセットの変動が予想されない場合は、新たにチルトオフセットの取得が不要と判定する。これにより、チルトオフセットの取得に要する時間の浪費を避けることができる。
図4に判定の手順の一例を示す。詳細は後述する。
【0037】
チルトオフセット取得部116は、傾斜センサ19のチルトオフセットを取得する。以下にチルトオフセットを取得する方法の一例を説明する。まず、水平回転部102を特定の方向(以下、正方向)に向け、傾斜センサ19のX傾斜角X1およびY傾斜角Y1を取得する。次に、水平回転部102を正方向から180°回転(反転)させ、反方向とし、その状態において傾斜センサ19のX傾斜角X2およびY傾斜角Y2を取得する。
【0038】
次に、Xオフセット=(X1+X2)/2、Yオフセット=(Y1+Y2)/2を算出する。XオフセットとYオフセットが、チルトオフセットとなる。このチルトオフセットを補正値として傾斜センサ16の計測値を補正することで、水平回転部102の水平からの傾き角が得られる。
【0039】
自動整準制御部121は、傾斜センサ19が検出する水平回転部102(トータルステーション100本体)の水平からの傾き角が規定の値以下となるように、
図2のモータ11と12の動作を制御する制御信号を生成する。整準用モータ駆動部122は、自動整準制御部121が生成した制御信号に基づき、モータ11と12の駆動を行う。
【0040】
発光部123は、発光素子、周辺回路および光学系を含み、測距用の測距光(レーザーパルス光)を発光する。受光部124は、受光素子、周辺回路および光学系を含み、対象から反射された測距光を受光し、受光信号を出力する。
【0041】
測距部125は、測距光を反射した反射点までの距離を算出する。この例では、発光部123から出力された測距光は2分岐され、一方が光学部104から外部に照射され、他方がトータルステーション100の内部に配置された基準光路に導かれる。受光部124には、対象から反射されて戻ってきた測距光と基準光路を伝搬した測距光とが入射する。
【0042】
基準光路は短いので、最初に基準光路を伝搬した測距光が検出され、その後に対象から反射されてきた測距光が検出される。この2つの測距光の検出信号の位相差からトータルステーション100の光学原点から反射点までの距離が算出される。測距光の飛翔時間を計測することで、距離を算出する形態も可能である。
【0043】
方向計測部126は、測距光の照射方向を計測する。水平回転部102の水平回転角と、鉛直回転部103の鉛直回転角は、エンコーダにより精密に測定されている。発光タイミングを基準として、測距光の照射方向が計測される。この方向がトータルステーション100から見た測距光の反射点(測定点)の方向として取得される。
【0044】
測位部127は、測定点の3次元位置を算出する。ここでは、トータルステーション100の光学原点を原点として、そこからの距離と方向のデータとして測定点の3次元位置が算出される。ここで、トータルステーション100の絶対座標系における外部標定要素(位置と姿勢)が既知あれば、得られる測定点の絶対座標系における座標が得られる。
【0045】
データ記憶部128は、トータルステーション100の動作に必要なデータやプログラム、動作の過程や結果で得られたデータを記憶する。
【0046】
水平回転部駆動部129は、水平回転部102を水平回転させるためのモータの駆動を行う。鉛直回転部駆動部130は、鉛直回転部103を鉛直回転(仰角および俯角の制御)させるためのモータの駆動を行う。
【0047】
制御処理部132は、トータルステーション100の動作を制御する制御コンピュータである。
図3のブロック図に示す機能部の一部をこの制御コンピュータにより実現する形態も可能である。
【0048】
(処理の一例)
以下、チルトオフセットの校正に係る処理の一例を説明する。
図4は、処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図4に示す処理を実行するためのプログラムは、データ記憶部128や適当な記録媒体に記録され、制御処理部132を構成するコンピュータのCPUにより実行される。
【0049】
まず、ユーザによりトータルステーション100が測量現場の機械点に設置される。トータルステーション100の設置後に、
図4の処理が開始される。なお、この時点において、既に前の段階でチルトオフセットの取得が行われているとする。
【0050】
まず、温度の変化の有無を判定する(ステップS101)。ここでは、前回のチルトオフセットの取得を行った以降における温度センサ111が検出した温度の変動幅が予め定めた範囲を超えているか否か、が判定される。
【0051】
判定に利用する温度の変動幅の閾値は、予め温度変化とチルトオフセットの関係を調べ、それに基づいて決めておく。
【0052】
以下、ステップS101の一例を説明する。例えば、予め定めた許容される温度の変動幅が5℃であるとする。この場合において、前回のチルトオフセットの取得時の検出温度が25℃であり、ステップS101の判定時における検出温度が32℃であるとする。この場合、温度の変動幅は7℃であるので、ステップS101の判定はYESとなる。
【0053】
また例えば、前回のチルトオフセットの取得時の検出温度が25℃であり、その後に33℃に上昇し、その後に検出温度が低下し、上記判定時の検出温度が26℃の場合、温度の変動幅の最大値が8℃であるので、ステップS101の判定はYESとなる。
【0054】
また例えば、前回のチルトオフセットの取得時の検出温度が25℃であり、その後に検出温度が28℃に上昇し、その後に検出温度が低下し、上記判定時の検出温度が22℃の場合、温度の変動幅の最大値が6℃であるので、ステップS101の判定はYESとなる。
【0055】
ステップS101の判定において、「温度変化あり」と判定された場合、ステップS106に進み、チルトオフセット取得部116に係る説明の部分で説明したチルトオフセットの取得を行う。
【0056】
ステップS101の判定がNOである場合、ステップS102に進み、そうでなければ、ステップS106に進み、チルトオフセットの取得を行う。ステップS102では、前回にチルトオフセットの取得をした以降における規定の変動幅を超える気圧の変化の有無が判定され、気圧の変動があれば、ステップS106に進み、そうでなければステップS103に進む。
【0057】
ステップS103では、前回にチルトオフセットの取得をした以降における加速度センサ113が検出した加速度の値の絶対値が予め定めた上限値を超えているか否か、が判定される。この上限値は、予め傾斜センサ19に加わる加速度とチルトオフセットの関係を調べ、それに基づいて決めておく。
【0058】
ステップS103の処理により、衝撃によるチルトオフセットの変動の可能性が判定される。予め定めた上限値を超えた衝撃があったと判定された場合、ステップS106に進み、そうでない場合、ステップS104に進む。
【0059】
ステップS104では、前回にチルトオフセットの取得をした以降における経過時間が予め定めた時間以上であるか否か、の判定が行われる(ステップS104)。経過時間としては、15分~30分が採用される。
【0060】
ステップS104において、前回にチルトオフセットの取得をした以降における経過時間が予め定めた時間以上である場合、ステップS106に進み、そうでない場合、ステップS105に進む。
【0061】
ステップS105では、前回にチルトオフセットの取得をした以降における傾斜センサ19、温度センサ111、気圧センサ112、加速度センサ113の計測値に異常値が観測されたか否か、の判定が行われる。通常の動作では考えられない計測値、計測値の異常な変動や飛び、センサの出力が得られない状態が見られた場合、異常が観察されたとみなし、ステップS105の判定がYESとなり、ステップS106に進む。
【0062】
ステップS105の判定がNOである場合、およびステップS106のチルトオフセットの取得を行った後、処理を終了する。
【0063】
(優位性)
傾斜センサ19は、温度の変化、気圧の変化、衝撃の影響等により、チルトオフセットが変化する。また、時間の経過に従い、傾斜センサ19のチルトオフセットは徐々に変動する。
図4の処理によれば、傾斜センサ19のチルトオフセットの変動が予想される場合は、チルトオフセットの再取得を行い(ステップS106)、そうでない場合はチルトオフセットの取得は行わない。
【0064】
例えば、第1の機械点でトータルステーション100を用いた測量を行い、次に第2の機械点にトータルステーション100を移動させ、そこで次の測量を行うとする。この際、第1の機械点でチルトオフセットの取得および自動整準が行われているとする。
【0065】
この場合、第2の機械点にトータルステーション100を据え付けた後に、
図4の処理が行われ、そこでステップ101~ステップS105の判定が全てYESである場合、第2の機械点におけるチルトオフセットの取得が省略される。これにより、チルトオフセットの取得に要する時間を省くことができ、測量作業を効率化できる。この優位性は、機械点の数が多い場合に特に顕著となる。
【0066】
2.第2の実施形態
温度変化を評価する方法として、起点(前回のチルトオフセットの取得時)での温度からの変化の積算値を用いる方法も可能である。
図5に上記積算値を求める場合の一例を示す。この場合、当該積算値に閾値を設定し、ステップS101の判定を行う。この考え方は、気圧や衝撃に関する判定に利用することもできる。
【0067】
3.第3の実施形態
軟弱な地盤や床の上に測量装置を設置した場合、チルトオフセットの取得のための処理中に測量装置の傾きが変動する可能性が考えられる。この場合の対処として以下の方法を採用する。この場合、水平回転部102の回転時に回転しない非回転部であるベース部105等に第2の傾斜センサを配置する。この第2の傾斜センサを利用して、チルトオフセットの処理の間における測量装置自体の傾きの変動を計測する。そして、この変動が閾値を超える場合、エラー報知を行う。あるいは当該変動が閾値を超える場合、変動幅の中央値を採用する等の補正を行い、取得されるチルトオフセットの値の誤差を低減する。ここで述べた第2の傾斜センサを用いる構成は、他の実施形態に利用することもできる。
【0068】
4.第4の実施形態
例えば、カメラを備えた測量装置(トータルステーションやレーザースキャン装置)を用いた測量に際して、カメラによる周囲の写真撮影や計測手段による予備的な計測のために、測量装置の水平回転部を180°~360°水平回転させる場合がある。この際に当該動作を契機としてオフセットチルトの取得を行う。これにより、チルトオフセットの取得に係る時間を短縮できる。
【0069】
例えば、水平回転部102にカメラが配置されているとする。ここで、測量に先立ち、周囲の撮影を行うために水平回転部102を回転させ、上記のカメラによる周囲の撮影を行う。この際、周囲の撮影のために水平回転部102を180°水平回転させ、その際にチルトオフセットの取得を行う。
【0070】
例えば、水平回転部と鉛直回転部を備えたレーザースキャン装置を考える、ここで、水平回転部にカメラが配置されているとする。ここで、測量に先立ち、周囲の撮影を行うために水平回転部102を回転させ、上記のカメラによる周囲の撮影を行う。この際、水平回転部102を180°水平回転させ、その際にチルトオフセットの取得を行う。
【0071】
また、レーザースキャン装置の水平回転部を180°水平回転させ、周囲環境のレーザースキャンデータを取得する場合がある。この際にチルトオフセットの取得を行う。また例えば、トータルステーションによってUAVを追尾しつつUAVの位置の測定を行う技術がある。この場合、UAVを発射台や地上に置き、その状態でトータルステーションによってUAV搭載のターゲット(反射プリズム等)をロックし、その後にUAVの飛行が開始され、トータルステーションによる飛行するUAVの追尾と測位が行われる。
【0072】
例えば、上記の動作において、飛行前におけるUAVのロックを行う旨の指示がトータルステーションに指示されたことを契機として、チルトオフセットの取得を行う。
【符号の説明】
【0073】
100…トータルステーション、101…三脚、102…水平回転部、103…鉛直回転部、104…光学部、110…整準機構、2…座板、4…整準板、5…支持ピン、6…支持ピン、7…支持ピン、8…雄ネジ部、9…ナット部、10…大歯車、11…モータ、12…モータ、13…小歯車、19…傾斜センサ。