(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046976
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】電気化学測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/27 20060101AFI20240329BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20240329BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
G01N27/27 B
G01N27/26 371A
G01N27/416 351B
G01N27/26 381A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152375
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】ブイイ ギヨーム ジャクエ
(57)【要約】
【課題】できるだけ短時間のプレコンディショニング及び校正によって十分な測定精度を発揮することができる電気化学測定装置を提供する。
【解決手段】被検液に浸漬されて該被検液の電気化学特性に応じた信号を出力するセンサであって、互いに相関関係にある異なる電気化学特性に応じた信号をそれぞれ出力する複数種類のセンサと、前記各センサのうち少なくとも2種類以上のセンサからから出力される各信号を用いて算出される測定値であって前記被検液の前記電気化学特性に関する測定値を算出する算出部と、を備え、前記算出部が、前記測定値に関する教師データに基づいて得られた機械学習モデルを用いて、前記測定値を算出するものであることを特徴とする電気化学測定装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検液に浸漬されて該被検液の電気化学特性に応じた信号を出力するセンサであって、互いに相関関係にある異なる電気化学特性に応じた信号をそれぞれ出力する複数種類のセンサと、
前記各センサのうち少なくとも2種類以上のセンサからから出力される各信号を用いて算出される測定値であって前記被検液の前記電気化学特性に関する測定値を算出する算出部と、を備え、
前記算出部が、前記測定値に関する教師データに基づいて得られた機械学習モデルを用いて、前記測定値を算出するものであることを特徴とする電気化学測定装置。
【請求項2】
前記算出部が、前記機械学習モデルを用いて、前記各センサからの出力値を補正して前記測定値を算出するものである、請求項1に記載の電気化学測定装置。
【請求項3】
前記教師データが、様々な被検液について予め測定された測定値と、該測定値を算出するための信号を取得した時点における被検液の温度と、前記センサを被検液に浸漬してから前記信号を取得した時点までの経過時間とを含むものである、請求項1又は2に記載の電気化学測定装置。
【請求項4】
前記教師データが、前記センサの製造過程に関する情報、前記センサが製造されてから測定時点までの時間に関する情報、サンプル情報、前記測定値に関する校正情報及び前記測定値を取得した測定場所に関する情報のうちの少なくとも1つ以上の情報をさらに含むものである、請求項3に記載の電気化学測定装置。
【請求項5】
前記測定値と、該測定値を算出するための信号を取得した時点における被検液の温度と、前記センサを被検液に浸漬してから前記信号を取得した時点までの経過時間とを含む教師データに基づいて、機械学習モデルを生成する機械学習部をさらに備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の電気化学測定装置。
【請求項6】
前記2種類のセンサの少なくとも1つがイオン選択性電極である、請求項1~5のいずれか一項に記載の電気化学測定装置。
【請求項7】
前記被検液の電位を測定する共通電極をさらに備え、
前記2種類のセンサがいずれもイオン選択性電極であり、これら2種類のイオン選択性電極からそれぞれ検出力される信号と前記共通電極から出力される信号とに基づいて、前記2種類のイオン濃度比を算出するものである、請求項6に記載の電気化学測定装置。
【請求項8】
前記2種類のイオン選択性電極として、ナトリウム選択性電極及びカリウム選択性電極とを備える、請求項7に記載の電気化学測定装置。
【請求項9】
被検液に浸漬されて該被検液の電気化学特性に応じた信号を出力するセンサであって、互いに相関関係にある異なる電気化学特性に応じた信号をそれぞれ出力する複数種類のセンサから出力される該被検液の電気化学特性に応じた各信号のうち少なくとも2種類以上のセンサから出力される信号に基づいて被検液の電気化学特性に関する測定値を算出する電気化学測定方法であって、
前記測定値と、該測定値を算出するための信号を取得した時点における被検液の温度と、前記センサを被検液に浸漬してから前記信号を取得した時点までの経過時間とを含む教師データに基づいて得られた機械学習モデルを用いて、前記センサから出力される信号に基づいて、前記電気化学特性に関する測定値を算出することを特徴とする電気化学測定方法。
【請求項10】
被検液に浸漬されて該被検液の電気化学特性に応じた信号を出力するセンサであって、互いに相関関係にある異なる電気化学特性に応じた信号をそれぞれ出力する複数種類のセンサから出力される該被検液の電気化学特性に応じた各信号のうち少なくとも2種類以上のセンサから出力される信号に基づいて被検液の電気化学特性に関する測定値を算出するためのプログラムであって、
前記測定値と、該測定値を算出するための信号を取得した時点における被検液の温度と、前記センサを被検液に浸漬してから前記信号を取得した時点までの経過時間とを含む教師データに基づいて得られた機械学習モデルを用いて、前記センサから出力される信号に基づいて、前記電気化学特性に関する測定値を算出する算出部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする電気化学測定プログラム。
【請求項11】
被検液に浸漬されて該被検液の電気化学特性に応じた信号を出力するセンサであって、互いに相関関係にある異なる電気化学特性に応じた信号をそれぞれ出力する複数種類のセンサから出力される該被検液の電気化学特性に応じた各信号のうち少なくとも2種類以上のセンサから出力される信号に基づいて被検液の電気化学特性に関する測定値を算出するために用いられる機械学習方法であって、
前記測定値と、該測定値を算出するための信号を取得した時点における被検液の温度と、前記センサを被検液に浸漬してから前記信号を取得した時点までの経過時間とを含む教師データを取得し、
取得された前記教師データに基づいて機械学習モデルを生成する機械学習方法。
【請求項12】
被検液に浸漬されて該被検液の電気化学特性に応じた信号を出力するセンサであって、互いに相関関係にある異なる電気化学特性に応じた信号をそれぞれ出力する複数種類のセンサから出力される該被検液の電気化学特性に応じた各信号のうち少なくとも2種類以上のセンサから出力される信号に基づいて被検液の電気化学特性に関する測定値を算出する電気化学測定装置に用いられる機械学習装置用のプログラムであって、
前記測定値と、該測定値を算出するための信号を取得した時点における被検液の温度と、前記センサを被検液に浸漬してから前記信号を取得した時点までの経過時間とを含む教師データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部によって取得された前記教師データに基づいて機械学習モデルを生成する機械学習モデル生成部としての機能をコンピュータに発揮させる、機械学習プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気化学測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被検液の電気化学特性を測定するためのセンサを備えた電気化学測定装置においては、該センサを被検液に浸漬させてからしばらくの間は測定値が不安定であり徐々に変化する(ドリフトする)ことが知られている。
【0003】
そこで、電気化学測定装置による測定精度を高めるためには、センサを数分から数時間にわたって予め被検液に浸漬させて測定値を安定させるプレコンディショニングを行うことが推奨されている。
【0004】
一方で、専門的な教育を受けた技術者ではなく、例えば、日常的な健康管理等に電気化学測定装置を使用するユーザの場合にはこのプレコンディショニング及びに費やす時間は1分程度しか許容されないと言われている。なお、この1分には電気化学測定装置の表示値を校正するための時間も含まれる。
また、電気化学測定装置の使用用途によっては、そもそもプレコンディショニングや校正のための時間を十分に確保することができない場合もある。
【0005】
そこで、できるだけ短時間のプレコンディショニング及び校正によって十分な測定精度を発揮することができる電気化学測定装置が求められている。
【0006】
プレコンディショニング及び校正に必要な時間を従来よりも短縮する方法としては、例えば、特許文献1のように、センサとして2種類のイオン選択性電極を備えた電気化学測定装置において、電気化学特性が既知の被検液を測定した場合における前記2種類のセンサ間における測定電位差(測定値)の時間経過によるズレ(ドリフト量)の単位時間当たりの変化量(ドリフト速度)を調べ、このドリフト速度に基づいてネルンスト式を用いたドリフト補正式を設定した上で、前記測定電位差を補正することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、センサの状態等のネルンスト式によって補正できない要因の存在によって、十分な精度で測定値を補正することができない場合があることを本発明者は見出した。
【0009】
本発明は、特許文献1に記載されたような従来の方法とは全く異なる発想に基づいて完成されたものであり、センサの状態等のネルンスト式によって補正できない要因が存在する場合であっても、プレコンディショニング及び校正の時間を従来よりも十分に短くしながら、十分な測定精度を発揮させることができる電気化学測定装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係る電気化学測定装置は、被検液に浸漬されて該被検液の電気化学特性に応じた信号を出力するセンサであって、互いに相関関係にある異なる電気化学特性に応じた信号をそれぞれ出力する複数種類のセンサと、
前記各センサのうち少なくとも2種類以上のセンサからから出力される各信号を用いて算出される測定値であって前記被検液の前記電気化学特性に関する測定値を算出する算出部と、を備え、
前記算出部が、前記測定値に関する教師データに基づいて得られた機械学習モデルを用いて、前記測定値を算出するものであることを特徴とする。
【0011】
このように構成した電気化学測定装置によれば、電気化学測定装置が備えるセンサの状態等に関らず、プレコンディショニング及び校正の時間をできるだけ短くしながらも十分な測定精度を発揮させることができる。
また、機械学習モデルは教師データが蓄積されるたびに改善されるため、従来のネルンスト式を用いたドリフト補正式とは異なり、測定精度を最適化させ続けることができることも大きなメリットである。
【0012】
ネルンスト式によって補正できない要因の具体例としては、前述したようにセンサの電気化学的な状態変化等を挙げることができる。センサの電気化学的な状態変化に影響を代表的な与える要素としては、センサを被検液に浸漬してから測定時点までの経過時間(測定時間)を挙げることができる。
また、電気化学測定装置において算出される測定値は、例えば、イオン濃度等の測定対象となる電気化学特性だけではなく、被検液のその他の電気化学的ポテンシャルの変化によっても影響を受ける。被検液の電気化学ポテンシャルの変化に影響を与える代表的な要因としては、測定時点の被検液の温度を挙げることができる。
【0013】
そこで、測定値だけではなく、被検液の測定対象以外の電気化学的ポテンシャルの変化やセンサの電気化学的な状態変化の要因となる成分をも含む教師データを蓄積し、これらに基づいた機械学習の結果得られた機械学習モデルを用いて測定値を算出することによって、プレコンディショニング及び校正の時間を短縮した場合であっても、十分な測定精度を確保することができる。
【0014】
また、教師データに含まれる前述した各成分(被検液の温度や測定時間)は、センサの数や状態を選ばずに取得できる情報であり、被検液にセンサを浸漬して該被検液の電気化学特性を測定する電気化学測定装置に広く応用することができる。
【0015】
ところで、前記測定値のズレ(ドリフト)には使用するセンサの応答速度が影響を与えることが知られている。
前記センサの応答速度には、該センサの製造過程や製造からの年数等の被検液の電気化学的特性には直接関係のない外的要因が影響を与えていることが考えられる。
そこで、センサの製造過程に関する情報やセンサが製造されてから測定時点までの時間に関する情報等の外的要因についても前記教師データの成分に含めておくことが好ましい。
このような構成によれば、外的要因による応答速度の影響を排除するために必要であるとされていた、専門の技術者による複雑なフィッティング作業を省くことができ、その結果コストや手間を大幅に削減することができる。
【0016】
本発明の具体的な実施態様としては、前記センサがイオン選択性電極であるものを挙げることができる。
【0017】
前記センサとして、互いに異なる2種類のイオンに応答する2種類のイオン選択性電極と被検液の電位を測定する共通電極とを備え、前記2種類のイオン選択性電極からそれぞれ検出力される信号と前記共通電極から出力される信号に基づいて、一定の基準電位を設けることなく、前記2種類のイオン濃度比を算出するものであれば、比較電極によって一定の基準電位を設定する場合に比べて、2種類のイオン選択性電極から出力される各信号同士の対称性が高いために、これらからの出力信号に基づいて算出される測定のドリフトを相殺しやすい。その結果、測定値をより高精度に補正できる可能性がある。
【0018】
前記2種類のイオンの具体例としては、例えば、ナトリウムとカリウムとの組み合わせを挙げることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電気化学測定装置が備えるセンサの状態等の従来は考慮されていなかったネルンスト式を用いて補正することができない要因が存在する場合であっても、これらを教師データとして含むことができる機械学習モデルを用いて測定値を算出するので、プレコンディショニング及び校正の時間をできるだけ短くしながらも十分な測定精度を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電気化学測定装置の全体模式図。
【
図2】本実施形態に係る電気化学測定装置のセンサユニットの断面模式図。
【
図3】本実施形態に係る電気化学測定装置による機械学習モデルを用いて測定値を算出する場合の測定手順及び測定結果を示す模式図。
【
図4】本実施形態に係る電気化学測定装置による機械学習モデルを用いずに測定値を算出する場合の測定手順及び測定結果を示す模式図。
【
図5】本発明に係る他の実施形態に係る機械学習装置を示す模式図。
【
図6】本発明に係る他の実施形態に係る電気化学測定装置を示す模式図。
【
図7】本発明に係る他の実施形態に係る電気化学測定装置を用いた測定結果を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
<本実施形態に係る電気化学測定装置の基本構成>
本実施形態に係る電気化学測定装置100は、例えば、被検液の電気化学特性であるナトリウムイオン/カリウムイオン濃度比を測定するものであり、被検液と接触して被検液の電気化学特性に応じた電気化学信号を検出するセンサ11を備えたセンサユニット1と、該センサユニット1から出力される電気化学信号を受け付けて、これを処理しナトリウム/カリウムイオン濃度比を算出する情報処理ユニット2とを備えるものである。
【0023】
本実施形態に係る電気化学測定装置100は、物理的には、例えば
図1に示すように、その先端部にセンサユニット1が設けられた測定器Aと、前記測定器Aと有線又は無線で通信可能に構成されたコンピュータ等からなる情報処理装置Bとを備えたものである。
本実施形態に係る測定器Aには、例えば、表示部31及び操作部32を備える表示・操作部3と、図示しない電源部及びマイクロコンピュータ等からなる情報処理ユニットの一部が設けられている。
【0024】
センサユニット1は、本実施形態においては、例えば、前記センサ11として互いに異なるイオンに対してそれぞれ応答する2種類のイオン選択性電極111と、これら2種類のイオン選択性電極111において検出される電位に基づいて2種類のイオンの濃度比を算出するための電位を出力する共通電極112と、温度センサ(不図示)を備えるものである。本実施形態において、センサユニット1は、前述した複数のセンサ11が各センサ11の試料溶液に接する面が略同一面状に配置されるように同一基板上に形成された複合型のものとなっている。
【0025】
本実施形態において、前述した2種類のイオン選択性電極111は、ナトリウムイオン選択性電極111Nとカリウムイオン選択性電極111Kである。
これらナトリウムイオン選択性電極111N及びカリウムイオン選択性電極111K、そしてこれらの対極として共通して用いられる共通電極112の構造は、例えば
図2のようなものである。
前記ナトリウムイオン選択性電極111Nは、基板111Naと、該基板111Na上に形成された例えば、銀電極などからなる内部電極111Nbと該内部電極111Nb上に取り付けられたイオン感応膜111Ncと、かつ該内部電極111Nbと前記イオン感応膜111Ncとの両方に触れるように、これらの間に取り付けられ前記作用極と前記イオン応答膜との間に配置されてこれらを電気的に接続するイオン-電子変換層111Ndとを備えるものである。
前記カリウムイオン選択性電極111Kは、該基板111Ka上に形成された例えば、銀電極などからなる内部電極111Kbと該内部電極111Kb上に取り付けられたイオン感応膜111Kcと、かつ該内部電極111Kbと前記イオン感応膜111Kcとの両方に触れるように、これらの間に取り付けられ前記作用極と前記イオン応答膜との間に配置されてこれらを電気的に接続するイオン-電子変換層111Kdとを備えるものである。
【0026】
前記ナトリウムイオン感応膜111Ncは、ポリ塩化ビニル(PVC)に可塑剤とナトリウムイオノフォアを加えた後、テトラヒドロフラン(THF)等の有機溶媒で溶解したものを、ポッティングやインクジェット印刷法等によって塗布し、その後、加熱して有機溶媒を蒸発させて固体状のナトリウムイオン感応膜111Ncとして形成したものである。ナトリウムイオノフォアとしては、例えば、Bis(12-crown-4)等を挙げることができる。また、前記ナトリウムイオン感応膜111Ncを形成するための溶液は、ポリ塩化ビニル(PVC)に可塑剤とナトリウムイオノフォア以外にイオン性添加剤などとしては、ホウ酸フェニル系のイオン性添加剤などを含有するものとしても良い。
【0027】
カリウムイオン感応膜111Kcは、カリウムイオノフォアを用いたこと以外はナトリウムイオン感応膜111Ncと同様にして形成する。カリウムイオノフォアとしては、例えばBis(benzo-15-crown-5)等を挙げることができる。
【0028】
前記イオン-電子変換層111Nd、111Kdは、イオン-電子変換物質と接着剤とを含有するものである。
【0029】
前記イオン-電子変換物質としては、例えば、炭素微小構造体を使用することができる。
前記炭素微小構造体としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノウォール、フラーレン、グラファイト及びグラフェン等から選ばれる1種又は2種以上を含むものを使用することができる。本実施形態では、前記イオン-電子変換物質の一例として、カーボンナノチューブを使用している。
前記炭素微小構造体の前記イオン-電子変換層121c中の含有量は、0.001質量%以上12.0質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以上0.02質量%以下とするのがより好ましく、0.003質量%以上0.01質量%以下であることがさらに好ましい。
前記接着剤としては、ポリ塩化ビニル(PVC) 、ポリスチレン 、アクリレート、ポリビニルブチラール 、ポリアミド 、ポリイミド、ポリウレタン 、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリシロキサン、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVDF-HFP)及びフルオロポリシロキサンから選ばれる一種又は二種以上を含有するものであることが好ましい。これら接着剤は単独で使用しても良いし、複数種類を組み合わせて使用しても良い。また、前記接着剤は、前述した成分以外に可塑剤などを含有するものとしても良い。
【0030】
共通電極112は、ナトリウムイオン選択性電極111Nとカリウムイオン選択性電極111Kの参照電極として機能するものであり、基板112aと該基板112a上に配置された、例えば、銀電極などからなる内部電極112bと該内部電極112b上に取り付けられた塩橋層112cと、前記内部電極112bと前記塩橋層112cとの間に配置されてこれらを電気的に接続するイオン-電子変換層112dとを備えるものである。イオン-電子変換層112dは、本実施形態においては、前述したイオン-電子変換層111Nd、111Kdと同じ組成のものを採用している。このイオン-電子変換層111Nd、111Kd及び112dの組成は全てを同じ組成のものとする必要はなく、それぞれ異なる組成のものとしてもよい。
前記塩橋層112cは、例えば、疎水性のイオン性液体と接着剤とを含有するものである。
前記疎水性のイオン性液体としては、既知のもの、例えば、WO2021/177178A1に記載されているもの、特にP444MOEBETI(トリブチル(2-メトキシエチル)ホスホニウム・ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド)等を使用することができる。
前記接着剤としては、ポリ塩化ビニル(PVC) 、ポリスチレン 、アクリレート、ポリビニルブチラール 、ポリアミド 、ポリイミド、ポリウレタン 、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリシロキサン、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVDF-HFP)及びフルオロポリシロキサンから選ばれる一種又は二種以上を含有するものであることが好ましい。これら接着剤は単独で使用しても良いし、複数種類を組み合わせて使用しても良い。また、前記接着剤は、前述した成分以外に可塑剤などを含有するものとしても良い。
【0031】
本実施形態においては、これらナトリウムイオン選択性電極111Nとカリウムイオン選択性電極111Kと、共通電極112とを構成する基板111Na、111Ka、112aは一枚の同一基板となっているがこれに限られない。
【0032】
前記各センサ11は、例えば、各センサ11の内部電極111Nb、111Kb、112bにそれぞれ電気的に接続されたリード線等を介して測定器Aに内蔵されて情報処理ユニット2の一部を構成している電気回路基板等と電気的に接続されている。
【0033】
センサユニット1は、前述した全てのセンサ11の試料溶液と接する面が形成されている範囲全体を側方から囲むように測定器Aの先端部に形成され、全てのセンサ11の表面に被検液が接するように被検液を保持する被検液ホルダ12を備えている。
【0034】
情報処理ユニット2は、バッファ、増幅器などを有したアナログ電気回路と、CPU、メモリ、DSPなどを有したデジタル電気回路と、それらの間に介在するA/Dコンバータ等を有したものである。
【0035】
該情報処理ユニット2は、メモリに格納した所定のプログラムにしたがってCPUやその周辺機器が協動することにより、各センサから出力される信号を取得するデータ取得部21と、取得したデータに基づいてセンサ11間の電位差やイオン濃度比等の測定値を算出する算出部22としての機能を発揮する。
【0036】
<本実施形態に係る電気化学測定装置による基本的な電気化学測定方法>
このように構成された電気化学測定装置100を用いて被検液中のナトリウムイオン/カリウムイオン濃度比を測定する手順は以下の通りである。
まず、共通電極112、ナトリウムイオン感応膜111Nc及びカリウムイオン感応膜111Kcに被検液が触れるように、被検液ホルダに12適量の被検液を滴下する。
【0037】
すると、ナトリウムイオン感応膜111Nc及びカリウムイオン感応膜111Kcにおいて、内部液の代わりに配置されたイオン-電子変換層111Nd、111Kdと被検液との間に各イオン濃度に応じた起電力が生じる。この起電力を、ナトリウムイオン選択性電極111Nの内部電極111Nb及びカリウムイオン選択性電極111Kの内部電極111Kbと、共通電極112の内部電極112bが検出する被検液の電位との間の電位差(電圧)として検出し、検出された信号に基づいて情報処理ユニット2が備える算出部22が既知の方法に基づいて、これらの電位差とこの電位差に基づくイオン濃度比等を算出する。
【0038】
本実施形態に係る電気化学測定方法においては、測定対象であるイオンの濃度が未知の試料溶液を被検液として測定を行う前に、測定対象であるイオンの濃度が既知の緩衝液である標準液を測定することによって、電気化学測定装置100の測定値を校正するようにしている。
そして、この校正を行った後に、イオン濃度が未知の試料溶液を被検液として用いて実際の測定を行うようにしている。
【0039】
なお、通常は、基準電位を得るためには共通電極112にもイオン-電子変換層や内部液が必要となるが、例えば、本実施形態のようにAg等からなる内部電極112bを備えた共通電極112を用い、かつゼロ校正用及びスパン校正用の標準液の塩化物イオンの活量を同じにすることで、共通電極112についてイオン-電子変換層や内部液を必須の構成としないものとすることが可能である。
【0040】
<本実施形態に係る電気化学測定装置の特徴構成>
本実施形態に係る情報処理ユニット2は、データ取得部21が受け付けた教師データを記憶し蓄積する記憶部23と、該記憶部23に蓄積された教師データに基づいて機械学習を行うことによって機械学習モデルを生成する機械学習部24とをさらに備えるものとしてある。
そして、算出部22は、前記機械学習部24によって生成された機械学習モデルを用いて、前記測定値を算出するように構成されている。
【0041】
本実施形態の場合には、測定値が2種類のイオン選択性電極111N、111K間の電位差であるものとしているので、例えば、
図3に示すように、まずは標準液を測定している校正時及び試料溶液を測定している測定時の両方において、2つのイオン選択性電極間の電位差が変動することを抑えて、実際に測定したい試料溶液である被検液について算出されるイオン濃度比の算出精度を向上させることができるようにしてある。
【0042】
<本実施形態に係る測定値算出方法の特徴点>
以下に、本実施形態において、機械学習部24が前記機械学習モデルを生成する方法について説明する。
まず、機械学習のために教師データを記憶部23に蓄積することが求められる。
教師データを蓄積するために、ナトリウムイオン及びカリウムイオンについて各イオン濃度が既知の緩衝液である標準液を用意し、乾燥した状態のセンサ11の全てに被検液が触れるように、被検液ホルダ12に被検液として前述した標準液を滴下して測定を行い、電気化学測定装置100の校正を一点校正で行う。
【0043】
この時、標準液を滴下してから校正のための測定の時間を60秒と設定し、60秒経過した直後に各センサ11を水道水で5秒間すすぎ、すぐに水道水を除去した後に測定対象となる被検液(教師データを得る場合には、イオン濃度が既知の標準液)を被検液ホルダ12に滴下して測定を60秒間行う。
この一連の操作を電気化学測定装置100の測定レンジに含まれる様々な濃度の標準液について繰り返し行う。
【0044】
さらに、センサユニット1が備える温度センサを用いて、イオン濃度比を測定している間の被検液の温度を温度センサによって測定しておくようにする。
【0045】
そして、被検液に触れた各センサ11からそれぞれ出力される信号をデータ取得部21が受付け、データ取得部21が受付けた各センサ11からの信号に基づいて算出部22が機械学習モデルを用いずに測定値を算出するようにしておく。このように算出21部が機械学習モデルを用いずに測定値を算出するものとすると、
図4に示すように、校正時に標準液を測定している間の電位差が時間によって変化しており、60秒という短い時間で安定させることは難しく、試料溶液を測定している間にも電位差が時間とともに変動していることが分かる。
【0046】
このように算出された測定値(本実施形態では、各センサ11間の電位差の実測値)と、該測定値を取得した時点における被検液の温度と、標準液を滴下してから前記測定値を取得した時点までの経過時間(水道水によってセンサをすすいでいる間の時間も含む)とを成分として含む一組のデータセットを教師データとして記憶部23に記憶させ蓄積させる。
前述した経過時間は、センサ11が使い捨ての場合や、乾燥させたセンサ11を使用する場合には、例えば、以下の式1で表すことができる。
(経過時間)=t1(標準液への浸漬時間)+ t2(水道水によるすすぎ時間)+ t3(測定値が得られる時点までの試料溶液への浸漬時間)・・・(1)
この式1に示すように、経過時間は、センサ11を標準液に浸漬した時点から測定値が得られる時点までに、センサ11が標準液、水道水等の洗浄液及び試料溶液等の液体に接触している合計時間を意味する。ここでセンサを浸漬させるとは、センサユニット1をビーカーなどに貯留した試料溶液の中に浸す場合や、センサ11の表面に液体を滴下する等によって液体を供給しセンサ11の表面を液体に浸漬させる場合を含む。
前述したタイマーとしての機能は、例えば、情報処理装置Bが担う。
例えば、センサ11が標準溶液等の液体に浸漬されると、センサ11から情報処理装置Bに対して信号が出力される。この信号はセンサ11が液体に浸漬されている間は、例えば、1秒毎などの予め設定された間隔で定期的に出力されるようになっており、情報処理装置Bはこの信号を受け付けて、経過時間とともに教師データとして出力される測定値が得られた時点までに受け付けた信号の回数から経過時間を算出するように構成されている。
標準液への浸漬時間(t1)は、例えば、センサ11が標準液に浸漬されることによってセンサ11からの信号が出力され始めた時点から、ユーザが測定器Aの校正ボタンを押したことが情報処理装置Bに通知された後予め設定された校正時間(例えば60秒)が経過した時点、又はユーザが測定器Aの校正ボタンを押したことが情報処理装置Bに通知された後であってセンサ11からの出力値のブレが許容範囲内に収まった時点までの時間を意味する。
なお、測定値が得られた時点とは、ユーザが測定器Aの測定ボタンを押したことが情報処理装置Bに通知されてから予め設定された測定時間(例えば60秒)が経過した時点、又はユーザが測定器Aの測定ボタンを押したことが情報処理装置Bに通知された後であってセンサ11からの出力値のブレが許容範囲内に収まった時点を意味する。
センサ11の表面(イオン感応膜)が濡れたままの状態で、該センサ11を繰り返し測定に使用する場合には、センサを最初に標準液に浸漬した時点からある測定値が得られる時点までに、センサが水道水等ですすがれている時間及び標準液や試料溶液などの水溶液中に浸されている時間の合計時間を意味する。これら経過時間は、電気化学測定装置が備えるタイマー又は別途用意したタイマー等によって自動的にカウントされるようにしても良い。
例えば、センサ11が標準溶液等の液体に浸漬されると、センサ11から情報処理装置Bに対して信号が出力される。この信号はセンサ11が液体に浸漬されている又はセンサ11の表面が液体で覆われている間は、例えば、1秒毎などの予め設定された間隔で定期的に出力されるようになっており、情報処理装置Bはこの信号を受け付けて、経過時間とともに教師データとして出力される測定値が得られた時点までに受け付けた信号の回数から経過時間を算出するように構成されている。
【0047】
次に、機械学習部24は、前述記憶部23に蓄積された教師データに基づいて、各センサ11間の電位差の変動をできるだけ小さくするために、各センサ11の電位差をどのように補正すればよいかを示す機械学習モデルを生成する。
【0048】
このようにして生成された機械学習モデルは、教師データが多く蓄積される程より精度が良くなることが予想できるが、どの程度の量の教師データが蓄積されていれば十分な精度が達成されるのかについての確認作業を行うことが好ましい。
【0049】
そこで、本実施形態においては、例えば、教師データがある程度蓄積された段階で算出部に機械学習モデルを用いて各イオン濃度が既知の標準液について、全く同じ手順で測定値を算出させて、機械学習モデルを用いた場合の測定値における実測値と理論値との差が所定の範囲内であることが確かめられた場合には、実際の測定対象である各イオンについてのイオン濃度が未知の試料を測定することができるものと判断するようにしてある。
【0050】
この判断は、確認操作を行う人が行うものとしても良いし、情報処理ユニット2が判断部25をさらに備えるものとした上で、この判断部25が判断するようにしても良い。
【0051】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る電気化学測定装置100によれば、以下のような効果を奏することができる。
算出部22が、測定値だけではなく、従来は測定値の補正に用いることができなかった該測定値を得た時点での被検液の温度及び測定開始からの経過時間を成分とする教師データに基づいて生成された機械学習モデルを用いているため、プレコンディショニング及び校正の時間を従来よりも短くしながらも、測定値と理論値との誤差をできるだけ小さく抑えることができる。
【0052】
2種類のイオン選択性電極111N、111Kについて、イオン感応膜111Nc、111Kcに使用するイオノフォアのみ異なるものとして電極の構造的な対称性を向上させることによって、これら電極111N、111K同士の反応速度をより近いものとすることができるので、反応速度を相殺する補正によって電位差の変動をより小さく抑え、電気化学測定装置100によるイオン濃度比の測定精度をさらに向上させることができる。
【0053】
共通電極112の内部液が不要であり、さらにイオン選択性電極111N、111Kについても内部液の代わりに内部液の機能を果たす固体のイオン-電子変換層111Nd、111Kdを用いているので、内部液を保持する筐体などが不要でありセンサユニット1を従来よりも薄型化することができる。
【0054】
なお、前述した実施形態ではナトリウムイオン/カリウムイオン濃度比を算出するものを説明したが、ナトリウムイオン濃度とカリウムイオン濃度をそれぞれ算出することも可能である。
また、共通電極112の内部電極112bには、Ag電極以外の金属からなる電極やAg/AgCl電極、Ag/AgBr電極、Ag/AgI電極等広く用いることができる。
【0055】
<本発明に係るその他の実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、前述した実施形態では、電気化学測定装置が備えるセンサの一例としてイオン選択性電極を挙げたが、これに限らず、本発明は、被検液の電気化学特性を検出することができるものであって、被検液に浸漬してからしばらくの間測定値が変動することが知られているセンサであって、互いに相関関係のある信号を出力するセンサを2種類以上備えた電気化学測定装置に広く適用することができるものである。
また、これらセンサとともに使用する対極や比較電極等についても、目的に応じて適切なものを選択することができる。
そのため、測定される対象が、前述したナトリウムイオンやカリウムイオンに限られないことは言うまでもない。またセンサの数についても、2種類以上のセンサがあればよくセンサの種類は3種類であっても4種類であってもそれ以上であっても良い。
【0056】
また、温度センサやタイマー等、電気化学特性以外の教師データ成分を測定するための測定装置は、測定器に備えられているものとしても良いし、独立した測定装置を用いるものとしても良い。
教師データの成分としては、前述したものに限られず、例えば、前記センサの製造過程に関する情報、前記センサが製造されてから測定時点までの時間に関する情報、サンプル情報、前記測定値に関する校正情報及び前記測定値を取得した測定場所に関する情報からなる群より選ばれる1種以上をさらに含むものとしてもよい。
【0057】
前記センサの製造過程に関する情報や前記センサが製造されてから測定時点までの時間に関する情報としては、例えば、各センサのロット番号等を挙げることができる。
サンプル情報とは、例えば、被検液のメーカーや品番、ロット番号あるいは保存状態等を挙げることができる。
校正情報としては、例えば、電気化学測地装置についての測定値を得る前であって直近の多点校正がどのような方法でいつ行われたか等の情報を挙げることができる。
測定場所についての情報としては、例えば、測定時の室温や湿度などを挙げることができる。
【0058】
前述した実施形態では、測定値として電位差を例に挙げて説明したが、測定値はセンサユニットが備える複数のセンサから例えば同時に出力される複数種類の信号を用いて算出部によって四則演算用いて算出される値であればよく、例えば、前述した例の場合にはイオン濃度比やイオン濃度等であっても良い。装置構成によっては前記複数種類の信号が複数のセンサから同時に出力されたものでなくても良く、例えば、同一の試料溶液について別々に測定された信号であってもよい。
【0059】
前述した実施形態においては、機械学習モデルを測定値の算出精度の向上のために用いていたが、これ以外にも機械学習モデルを膜の破れなどの異常を検知するために使用ことも考えられる。
【0060】
情報処理ユニットの一部が例えば、インターネットなどを介して複数の測定器との間で通信可能な、独立したサーバ装置等で構成された機械学習装置であっても良く、不特定多数のユーザが使用している測定器から教師データを収集して、機械学習モデルを用いて算出した測定値又は機械学習モデルを複数の各測定器に対して配信するものとしても良い。
【0061】
この場合の機械学習装置としては、例えば、
図5に示すように、教師データを受け付けるデータ取得部と、記憶部と、機械学習部(機械学習モデル生成部)とを備え、複数の測定器から出力される教師データを蓄積し、機械学習モデルを生成して、各測定器に対して生成した機械学習モデルを出力するものを挙げることができる。
【0062】
前述した実施形態においては、2種類のイオン選択性電極と、これらに共通する共通電極とを備えた電気化学測定装置について説明したが、試料溶液中のイオン濃度を測定するために広く用いられている電気化学測定装置としては、イオン選択性電極と比較電極との2種類のセンサを備え、これら電極間の電位差からイオン濃度を測定するイオン濃度測定装置がある。このような従来のイオン濃度測定装置においては、イオン選択性電極と比較電極とが全く異なる構造となっている。
例えば、液膜式のイオン感応膜を備えたイオン選択性電極は、特定のイオンに対して感受性を有する化学物質(イオノフォア)が添加された可塑化PVC膜(イオン感応膜)を備えている。一方で、このイオン選択性電極とともに使用されている一般的な比較電極は、安定した電位を発生させる多孔質の塩橋を備えている。
【0063】
これらイオン選択性電極と比較電極とを試料溶液に浸漬させた場合、イオン選択性電極においては、イオン感応膜が水和して電位が安定するまでに通常数分から数時間のプレコンディショニングのための時間を必要とする。一方で、多孔質の塩橋を備えた比較電極は数秒のうちにその電位を安定させることが可能である。
そのため、一般的なイオン選択性電極と比較電極とを備えたイオン濃度測定装置においては、結局数分から数時間にわたるプレコンディショニングの時間が必要となってしまう。
【0064】
このようなイオン濃度測定装置において、プレコンディショニングの時間をできるだけ短くするには、共に試料溶液に浸漬されるイオン選択性電極と比較電極との構造をできるだけよく似たものとして、これら各電極から出力される信号の対称性を向上させ、これら各電極間の電位差をできるだけ一定にすることが考えられる。
【0065】
しかしながら、このようなイオン濃度測定装置を実現することは難しいと考えられている。比較電極をイオン選択性電極の構造に近づけるためには、塩橋を形成するために必要なKCl等の親水性の塩とPVCとを同時に溶解させることができる溶媒が必要であるが、従来そのような溶媒は知られていないからである。
【0066】
本発明者は、このような従来の課題を解決する手段として、イオン性液体を含有する塩橋を用いた比較電極を用いることを考えた。
【0067】
イオン性液体は、親水性の化合物と疎水性のポリマーとをどちらも溶解させることが可能であるので、イオン性液体を含有する塩橋(イオン性液体塩橋ともいう。)は、様々なポリマーマトリクスを用いて製造することができる。例えば、イオン性液体塩橋は、イオン性液体とPVCと可塑剤とを混合し、イオン選択性電極のイオン感応膜を製造する場合とよく似た手順で製造することも可能である。また、イオン性液体とシリコーンゴムとを混合したイオン性液体塩橋を備えた比較電極の製造方法について、WO2021/177178A1に記載されている。
さらに、イオン性液体塩橋によれば、イオン性液体塩橋自体が従来の内部液としての機能を果たすことができるために、内部液を別途備える必要がない。そこで、内部液を配置する代わりに、表面積が比較的大きい炭素材料や、PEDOT:PSS等の様々な新しい性質を有するポリマー等からなる固体の内部層を比較電極に取り入れることも可能である。
【0068】
このようなイオン選択性電極と比較電極との組み合わせの具体例について、以下に説明するが、イオン選択性電極と比較電極の組み合わせは、これらに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0069】
イオン選択性電極111’は、例えば、
図6(a)及び(b)に示すように、PETからなる基板111a’上に銀電極111b′を印刷し、この銀電極111b′上にカーボンナノチューブなどの炭素材料を含む固体の内部層Cを形成し、このカーボン層C上にイオン感応膜111c’を形成することによって製造することができる。
図6(a)は、イオン選択性電極111’及び比較電極Rを試料溶液と接する面側から視た図である。
図6(b)は、
図6(a)をA-A’線で切った断面図を示す。
イオン感応膜111c’は、例えば、予め可塑剤と混合したPVCと、イオノフォアと、イオン性添加剤とを溶剤中で混合した混合物を固体の内部層C上に滴下して形成することができる。
可塑剤としては、例えば、n-DOP等を用いることができる。イオノフォアとしては、試料溶液中のイオンと選択的に結合できるものであればどのような化合物であっても良いが、例えば、4-Nonadecylpyeidine for H
+, BIS[(12-crown-4)methyl]dodecyl methylmalonate for Na+ or 4,5-Bis-[N’-(butyl)thioureido]-2,7-di-tert-butyl-9,9-dimethylxanthene for Cl
-等を用いることができる。イオン性添加剤としては、測定中におけるイオン感応膜111c’の電荷を中性に保つようにイオノフォアの機能を補助するものであれば良く特に限定されないが、例えば、カチオン膜用の化合物としてはテトラフェニルほう酸カリウム(Potassium tetraphenylborate)等を、またアニオン膜用の化合物としてはトリドデシル(メチル)アンモニウム(Tridodecyl methylammonium chloride)等用いることができる。溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)等を用いることができる。
【0070】
比較電極Rは、例えば、
図6に示すように、PETからなる基板Ra上にイオン選択性電極111’と同じ組成の銀電極Rbを印刷し、この銀電極Rb上にイオン選択性電極111’の内部層C同じ組成の内部層Cを形成し、この内部層C上にイオン性液体塩橋Rcを形成することによって製造することができる。
イオン性液体塩橋Rcは、例えば、イオン選択性電極111’のイオン感応膜111c’に使用したものと同じく予め可塑剤と混合したPVCと、イオン性液体とを溶剤中で混合したものを固体の内部層(カーボン基層、C)上に滴下してイオン性液体塩橋を形成することによって製造することができる。イオン性液体塩橋の疎水性度や抵抗値については、イオン液体の濃度を変化させることによってイオン選択性電極111’と同じ疎水性度及び抵抗値に調整することができる。
【0071】
このようなイオン性液体塩橋Rcを用いれば、
図6に示すように、イオン選択性電極111’と比較電極Rとを同じポリマーマトリクス及び同じ内部層を用いて構成することができる。このようにイオン選択性電極111’と比較電極Rとをほとんど同じ構造とすることによって、イオン選択性電極111’と比較電極Rとを試料に浸漬した場合に、同じくPVCをベースとし、同じ抵抗値を有するイオン感応膜111c’と塩橋Rcとをできるだけ同じペースで水和させることができ、さらに使用回数による劣化度合い等についても2つの電極間で同じくすることができるために、
図7に示すように、これら各電極111’、Rによって測定される電位差をできるだけ一定に保つことができる。
なお、
図7(a)は、
図6に示したイオン選択性電極111’と多孔質の塩橋を備えた従来の比較電極とを試料溶液中に浸漬した場合に測定されるこれら電極間の電位差を示す図である。
図7(b)は、
図6に示した比較電極Rと、従来の比較電極とを試料溶液中に浸漬した場合に測定されるこれら電極間の電位差を示す図である。
図7(c)は、
図6に示したイオン選択性電極111’と比較電極Rとを試料溶液中に浸漬した場合に測定されるこれら電極間の電位差を示す図である。
【0072】
以上に説明したように、
図6に示すように、互いに構造的な対称性を有するイオン選択性電極111’と比較電極Rとを備えたイオン濃度測定装置によれば、プレコンディショニング及び校正の時間を短縮しながらも、十分な測定精度を確保することができるという点で、ユーザが日常的に家庭等で体調管理などに用いる健康医療器具において特にその効果を発揮することができると考えられる。
【0073】
PVCをベースポリマーとしたイオン選択性電極111’及び比較電極Rは、前述した以外にも目的に応じて様々な機能を有するものとすることが可能であり、また大量に生産することも可能である。そのため、今後さらに多様な分野に応用することができる可能性がある。さらに、使用するポリマーマトリクスの種類は特に限定されないため、目的に応じてPVC以外のベースポリマーを用いることも十分に可能である。
【0074】
さらに、以上に説明したような、互いに構造的な対称性を有するイオン選択性電極111’と比較電極Rとの組み合わせを、本願発明に係る機械学習モデルを用いて測定値を算出する電気化学測定装置のセンサとして用いることにより、プレコンディショニングや校正に係る時間のさらなる短縮や、測定精度のさらなる向上が期待できるであろう。
【0075】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0076】
100・・・電気化学測定装置
1 ・・・センサユニット
11 ・・・センサ
2 ・・・情報処理ユニット
21 ・・・算出部
24 ・・・機械学習部