(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047005
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】ステータおよび回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/48 20060101AFI20240329BHJP
H02K 9/19 20060101ALN20240329BHJP
【FI】
H02K3/48
H02K9/19 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152411
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】福井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎二
(72)【発明者】
【氏名】涌井 隆至
(72)【発明者】
【氏名】八木 紀幸
【テーマコード(参考)】
5H604
5H609
【Fターム(参考)】
5H604AA03
5H604AA05
5H604CC01
5H604CC13
5H604PB03
5H609PP02
5H609PP06
5H609PP09
5H609QQ05
(57)【要約】
【課題】コイルの出力の確保および冷媒流路における圧力損失の低減を両立しつつ、スロットに対するコイルの固定力を確保しやすいステータおよび回転電機を提供する。
【解決手段】ステータは、複数のスロットを有する筒状のステータコアと、前記複数のスロットに挿通され軸方向に延びるセグメント導体を有する複数のコイルと、を備え、前記スロットにおいて、前記セグメント導体の外周面と前記スロットの内周面との間には、冷媒が流れる冷媒流路が形成されており、前記セグメント導体の外周面は、径方向に向く第1平坦面と、周方向に向く第2平坦面と、前記第1平坦面と前記第2平坦面とを結ぶ角部曲面と、を含み、前記角部曲面は、前記第1平坦面と連続する第1曲面と、前記第2平坦面と連続する第2曲面と、を含み、軸方向に垂直な断面視において、前記第1曲面の曲率半径は、前記第2曲面の曲率半径よりも大きい。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向において間隔を空けて形成された複数のスロットを有する筒状のステータコアと、
前記複数のスロットに挿通され軸方向に延びるセグメント導体を有する複数のコイルと、を備え、
前記スロットにおいて、前記セグメント導体の外周面と前記スロットの内周面との間には、冷媒が流れる冷媒流路が形成されており、
前記セグメント導体の外周面は、径方向に向く第1平坦面と、周方向に向く第2平坦面と、前記第1平坦面と前記第2平坦面とを結ぶ角部曲面と、を含み、
前記角部曲面は、前記第1平坦面と連続する第1曲面と、前記第2平坦面と連続する第2曲面と、を含み、
軸方向に垂直な断面視において、前記第1曲面の曲率半径は、前記第2曲面の曲率半径よりも大きい、
ステータ。
【請求項2】
軸方向に垂直な断面視において、前記第2平坦面の長さをY[mm]とし、前記セグメント導体の断面積をX[mm2]とするとき、Y[mm]≧0.28[/mm]×X[mm2]が成立する、
請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
前記スロットの内部に配置され、前記セグメント導体を前記スロットの内部に固定する発泡接着シートをさらに備える、
請求項1または2に記載のステータ。
【請求項4】
前記発泡接着シートは、加熱により発泡して膨張する発泡接着層と、加熱により発泡しない非発泡接着層と、を有し、
前記セグメント導体は、前記発泡接着シートのうち前記非発泡接着層と接触している、
請求項3に記載のステータ。
【請求項5】
前記スロットにおいて、前記発泡接着シートは、周方向において前記セグメント導体の片側のみに配置されている、
請求項3に記載のステータ。
【請求項6】
一つの前記スロットに対して、径方向に並ぶ複数の前記セグメント導体が挿通されており、前記発泡接着シートは前記複数のセグメント導体の全てと接触している、
請求項3に記載のステータ。
【請求項7】
請求項1または2に記載のステータを備える、
回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータおよび回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、筒状のステータコアと、複数のコイルと、を備える電動モータのステータが開示されている。このステータコアは、周方向において間隔を空けて形成された複数のスロットを有する。各スロットには、コイルを構成するセグメント導体が挿通される。特許文献1においては、セグメント導体の角部を、軸方向に垂直な断面視において円弧状(いわゆるR形状)の曲面とする構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動モータの分野においては、電動モータの冷却効率を高めることを目的として、コイルを冷媒に浸す(例えば、油没させる)冷却方式が採用される場合がある。この方式において、油等の冷媒は、セグメント導体の外周面とスロットの内周面との間に形成される隙間(冷媒流路)を流れる。
【0005】
ここで、セグメント導体の角部が、特許文献1のように円弧状の形状を有している場合、次のような問題があった。すなわち、冷却効率を高めるためにセグメント導体とスロットとの間の隙間を大きくしようとすると、コイルの断面積が小さくなり、コイルの出力が弱まる可能性があった。一方、コイルの出力を高めるためにセグメント導体の断面積を大きくすると、上記の隙間が小さくなり、冷媒に生じる圧力損失が増大して冷却効率が低下する可能性があった。また、セグメント導体とスロットとの接触面積が小さくなると、スロットに対してセグメント導体を固定しようとする力が弱まり、セグメント導体の位置ずれや振動が生じる可能性があった。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされ、コイルの出力の確保および冷媒流路における圧力損失の低減を両立しつつ、スロットに対するコイルの固定力を確保しやすいステータおよび回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するために、本発明の態様1は、周方向において間隔を空けて形成された複数のスロットを有する筒状のステータコアと、前記複数のスロットに挿通され軸方向に延びるセグメント導体を有する複数のコイルと、を備え、前記スロットにおいて、前記セグメント導体の外周面と前記スロットの内周面との間には、冷媒が流れる冷媒流路が形成されており、前記セグメント導体の外周面は、径方向に向く第1平坦面と、周方向に向く第2平坦面と、前記第1平坦面と前記第2平坦面とを結ぶ角部曲面と、を含み、前記角部曲面は、前記第1平坦面と連続する第1曲面と、前記第2平坦面と連続する第2曲面と、を含み、軸方向に垂直な断面視において、前記第1曲面の曲率半径は、前記第2曲面の曲率半径よりも大きい、ステータである。
【0008】
(2)また、本発明の態様2は、態様1のステータにおいて、軸方向に垂直な断面視において、前記第2平坦面の長さをY[mm]とし、前記セグメント導体の断面積をX[mm2]とするとき、Y[mm]≧0.28[/mm]×X[mm2]が成立する。
【0009】
(3)また、本発明の態様3は、態様1または態様2のステータにおいて、前記スロットの内部に配置され、前記セグメント導体を前記スロットの内部に固定する発泡接着シートをさらに備える。
【0010】
(4)また、本発明の態様4は、態様3のステータにおいて、前記発泡接着シートは、加熱により発泡して膨張する発泡接着層と、加熱により発泡しない非発泡接着層と、を有し、前記セグメント導体は、前記発泡接着シートのうち前記非発泡接着層と接触している。
【0011】
(5)また、本発明の態様5は、態様3または態様4のステータにおいて、前記スロットにおいて、前記発泡接着シートは、周方向において前記セグメント導体の片側のみに配置されている。
【0012】
(6)また、本発明の態様6は、態様3から態様5のいずれか一つのステータにおいて、一つの前記スロットに対して、径方向に並ぶ複数の前記セグメント導体が挿通されており、前記発泡接着シートは前記複数のセグメント導体の全てと接触している。
【0013】
(7)また、本発明の態様7は、態様1から態様6のいずれか一つのステータを備える、回転電機である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の態様1によれば、コイルの出力の確保および冷媒流路における圧力損失の低減を両立しつつ、スロットに対するコイルの固定力を確保しやすいステータを提供できる。
本発明の態様2によれば、スロットに対するコイルの固定をより安定させることができる。
本発明の態様3によれば、スロットに対するコイルの固定力を高めることができる
本発明の態様4によれば、発泡接着層の発泡に起因して冷媒流路が狭まってしまう可能性を低減することができる。
本発明の態様5によれば、セグメント導体の断面積を大きくとり、コイルの出力をより確保しやすくなる。
本発明の態様6によれば、コイルの出力を高めることができる。また、複数のセグメント導体をスロットに対して確実に固定することができる。
本発明の態様7によれば、コイルの出力の確保および冷媒流路における圧力損失の低減を両立しつつ、スロットに対するコイルの固定力を確保しやすい回転電機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る回転電機を示す一部破断図である。
【
図2】
図1に示す領域A1を拡大して示す図である。
【
図3A】本発明の実施形態に係る発泡接着シートについて説明する図である。
【
図4A】
図2に示す領域A2を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るステータおよび回転電機について図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る回転電機(電動モータ)2を示す一部破断図である。
図1に示すように、本実施形態に係る回転電機2は、ステータ1と、ステータ1を収容するケース3とを、備える。ステータ1は、ケース3に固定されている。ステータ1は、筒状のステータコア10と、ステータコア10に取り付けられた複数のコイル20と、を有する。
【0018】
ステータコア10の内側には、ロータ(不図示)が配置される。ロータは、ステータ1が発生させる磁界によって回転軸線Oまわりに回転する。ロータは、例えば、回転軸線Oに沿って延びるシャフトと、永久磁石を有しシャフトに固定されたロータコアと、を有する。ただし、ステータ1が発生させる磁界によって回転軸線Oまわりに回転可能であれば、ロータの種類や構成は特に限定されない。
【0019】
(方向定義)
ここで、本実施形態では、回転軸線Oと平行な方向をZ方向または軸方向Zと称する。軸方向Zに垂直な断面を、横断面と称する。軸方向Zから見て、回転軸線Oに直交する方向を、径方向と称する。径方向に沿って、回転軸線Oに接近する向きを、径方向内側と称し、回転軸線Oから離反する向きを、径方向外側と称する。軸方向Zから見て、回転軸線Oまわりに周回する方向を、周方向と称する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係るステータコア10は、回転軸線Oを中心とする略円筒状の形状を有する。ステータコア10は、例えば複数の磁性鋼鈑を積層することによって形成される。本実施形態に係るステータコア10は、複数のティース11と、複数のスロット12と、を有する。
【0021】
複数のスロット12は、周方向において間隔(例えば、等間隔)を空けて形成されている。スロット12は、コイル20を構成するセグメント導体21が挿通される、軸方向Zに延びる空間である。具体的に、本実施形態に係るステータコア10には、
図2に示すように、ステータコア10の内周面に開口する複数のスロット孔Hが形成されている。複数のスロット孔Hは、ステータコア10の全周にわたって、周方向において間隔を空けて配置される。そして、
図2に示すように、各スロット孔Hには絶縁部13が挿入されており、絶縁部13に形成された孔がスロット12となっている。
【0022】
絶縁部13は、横断面視において、スロット孔Hの内周面と全周にわたって接触している。また、絶縁部13は、スロット孔Hの開口部Haを閉塞している。絶縁部13は、導電性を有さない材料(例えば、樹脂)によって形成される。絶縁部13は、セグメント導体21(コイル20)とティース11(ステータコア10)とが電気的に接続されることを防いでいる。
【0023】
複数のティース11は、周方向において間隔(例えば、等間隔)を空けて設けられている。各ティース11は、周方向において隣接する2つのスロット12の間に位置している。本実施形態において、各ティース11は、周方向において2つの絶縁部13と隣接している。また、各ティース11は、径方向内側に向けて突出した形状を有し(
図1も参照)、径方向においてロータ(不図示)と対向する。
【0024】
コイル20は、軸方向Zに延びてスロット12に挿通されるセグメント導体21と、コイルエンド(不図示)と、を有する。これらセグメント導体21とコイルエンドとにより、各ティース11にコイル20が巻回された形になる。複数のコイル20は、例えば、3相で構成されている。すなわち、複数のコイル20には、U相、V相、W相の各々に対応するコイルが少なくとも一つずつ含まれている。本実施形態においては、1つのスロット12に対して複数(図示の例においては5本)のセグメント導体21が挿通されている。また、1つのスロット12に挿通された複数のセグメント導体21は、横断面視において径方向に並んでいる。
【0025】
コイル20が通電されると、ステータ1の各ティース11に、ロータの回転に寄与する磁界が発生する。当該磁界がロータに及ぼす磁気的な吸引力や反発力により、ロータの継続的な回転が実現される。
【0026】
図2に示すように、各セグメント導体21の外周面21sは、一対の第1平坦面41と、一対の第2平坦面42と、4つの角部曲面43と、を含む。各第1平坦面41は、径方向を向く平坦面である。各第2平坦面42は、周方向を向く平坦面である。各角部曲面43は、横断面視においてセグメント導体21の角部に位置し、第1平坦面41と第2平坦面42とを結ぶ曲面である。つまり、セグメント導体21は、横断面視において略矩形状を有する。
【0027】
以降、一対の第1平坦面41のうち径方向外側(紙面上側)を向く面には符号41aを付し、径方向内側(紙面内側)を向く面には符号41bを付して説明する場合がある。また、第1平坦面41a、41bの両者を区別しない場合には単に「第1平坦面41」と称する場合がある。また、一対の第2平坦面42のうち周方向における一方(紙面右側)を向く面には符号42aを付し、他方(紙面左側)を向く面には符号42bを付して説明する場合がある。また、第2平坦面42a、42bの両者を区別しない場合には単に「第2平坦面42」と称する場合がある。また、4つの角部曲面43のうち第1平坦面41aと第2平坦面42aとを結ぶ面には符号43aを付し、第1平坦面41aと第2平坦面42bとを結ぶ面には符号43bを付し、第1平坦面41bと第2平坦面42bとを結ぶ面には符号43cを付し、第1平坦面41bと第2平坦面42aとを結ぶ面には符号43dを付して説明する場合がある。また、角部曲面43a、43b、43c、43dの4つを区別しない場合には単に「角部曲面43」と称する場合がある。
【0028】
本実施形態において、各スロット12の内部には、発泡接着シート30が1枚ずつ配置されている。発泡接着シート30は、径方向および軸方向Zに延びるシートである。発泡接着シート30は、セグメント導体21をスロット12の内部に固定する役割を有する。言い換えれば、発泡接着シート30は、コイル20をステータコア10に固定する役割を有する。各スロット12において、発泡接着シート30は、径方向に並んだ複数のセグメント導体21の全てと接触している。また、発泡接着シート30は、周方向においてセグメント導体21の片側のみに配置されている。言い換えれば、発泡接着シート30は、セグメント導体21が有する一対の第2平坦面42a、42bのうち第2平坦面42aのみと接触するように配置されている。
【0029】
図3Aに示すように、本実施形態に係る発泡接着シート30は、発泡接着層31と、基材32と、非発泡接着層33と、を有する。基材32は、周方向に向く第1面32aと、第1面32aとは反対側に位置する第2面32bと、を有する。発泡接着層31は、基材32の第1面32aに形成されており、非発泡接着層33は、基材32の第2面32bに形成されている。つまり、発泡接着層31、基材32、および非発泡接着層33は、周方向においてこの順に積層されている。
【0030】
発泡接着層31は、接着性を有し、かつ、加熱により発泡して膨張する層である(
図3B参照)。本実施形態においては、発泡接着層31とスロット12の内周面とが接触することにより、発泡接着シート30がスロット12の内部に固定される。発泡接着層31は、例えばエポキシ樹脂によって形成される。
【0031】
非発泡接着層33は、接着性を有し、かつ、加熱により発泡しない層である。本実施形態においては、非発泡接着層33と各セグメント導体21の外周面21s(第2平坦面42a)とが接触することにより、非発泡接着層33が各セグメント導体21に固定される。非発泡接着層33は、例えばエポキシ樹脂によって形成される。
【0032】
以上のように構成された発泡接着シート30を用いてセグメント導体21をスロット12に固定するためには、各セグメント導体21をスロット12に挿通した後に発泡接着シート30を加熱すればよい。これにより、発泡接着層31が膨張し、非発泡接着層33が全てのセグメント導体21に接触する。したがって、スロット12の内部においてセグメント導体21の位置にバラつきがある場合においても、全てのセグメント導体21をスロット12に対し確実に固定することができる。
【0033】
図2に示すように、各スロット12において、セグメント導体21の外周面21sとスロット12の内周面との間には、セグメント導体21および発泡接着シート30のいずれも配置されていない隙間が形成されている。この隙間は、コイル20を冷却するための冷媒(例えば、油等)が流れる冷媒流路Cとして利用される。なお、このように冷媒流路Cとしての隙間が生じるのは、各セグメント導体21の外周面21sに角部曲面43が設けられているためである。径方向に並ぶ複数のセグメント導体21が互いに接触している場合、スロット12の内周面と角部曲面43b、43cとによって囲まれる空間、および、非発泡接着層33と角部曲面43a、43dとによって囲まれる空間が、冷媒流路Cとなる。
【0034】
ここで、コイル20の冷却効率を高める観点からは、セグメント導体21の断面積を小さくして冷媒流路Cを広げ、冷媒流路Cにおいて冷媒に生じる圧力損失を低減することが望ましい。一方、コイル20の出力を高める観点からは、セグメント導体21の断面積を大きくすることが望ましい。また、スロット12に対するコイル20の固定力を確保する観点からは、セグメント導体21とスロット12との接触面積およびセグメント導体21と発泡接着シート30との接触面積(すなわち、第2平坦面42の面積)を大きくすることが望ましい。
【0035】
本実施形態に係るステータ1においては、コイル20の出力の確保と、冷媒流路Cにおける圧力損失の低減と、スロット12に対するコイル20の固定力の確保と、を同時に達成すべく、角部曲面43に次の特徴を適用する。すなわち、本実施形態に係る角部曲面43は、
図4Aに示すように、第1平坦面41に連続する第1曲面S1と、第2平坦面42に連続する第2曲面S2と、を含んでいる。また、横断面視において、第1曲面S1の曲率半径R1は、第2曲面S2の曲率半径R2よりも大きい。なお、角部曲面43a~43dの形状は互いに同一である。
【0036】
図4Aは、径方向において隣接する2つのセグメント導体21が有する角部曲面43を拡大して示す図である。
図4Bは、曲率半径がRで一定な従来の角部曲面43´を拡大して示す図である。
図4Aおよび
図4Bに示すように、本実施形態に係る角部曲面43の方が、従来の角部曲面43´と比較して、第1平坦面41と角部曲面43との接続点P1が、セグメント導体21の周方向内側(紙面左側)に入り込む。これにより、冷媒流路Cの周方向における寸法Lが大きくなる。したがって、本実施形態に係る角部曲面43を採用することにより、冷媒流路Cの断面積(横断面視における面積)を大きくし、冷媒流路Cにおいて冷媒に生じる圧力損失を低減することができる。
【0037】
また、
図4Bの例において、冷媒流路C´の断面積を大きくするためには、角部曲面43´の曲率半径Rを大きくする必要がある。このとき、第1平坦面41aと角部曲面43aとの接続点P1はセグメント導体21の周方向内側(紙面左側)に移動し、第2平坦面42aと角部曲面43b、43dとの接続点P2を径方向内側(紙面下側)に移動する。この接続点P1、P2の移動により、第2平坦面42aの面積およびセグメント導体21の断面積が小さくなる。一方、
図4Aに示す角部曲面43においては、例えば曲面S1、S2のうち第2曲面S2の曲率半径R2のみを大きくすることにより、接続点P2の位置を大きく変更せずとも、冷媒流路Cの断面積を拡大することができる。したがって、第2平坦面42aの面積およびセグメント導体21の断面積の減少を抑えることができる。よって、冷媒流路Cにおける圧力損失の低減と、スロット12に対するコイル20の固定力およびコイル20の出力の確保と、の両立を実現しやすくなる。
【0038】
ところで、コイル20をスロット12に対して安定的に固定するのに要する力(必要固定力)は、コイル20の出力に比例する。また、コイル20の出力はセグメント導体21の断面積に依存する。したがって、セグメント導体21の断面積が大きいほど、セグメント導体21とスロット12との接触面積およびセグメント導体21と発泡接着シート30との接触面積(すなわち、第2平坦面42の面積)を大きくする必要がある。本願発明者らが鋭意検討した結果、以下の式aが成立するようにセグメント導体21を設計することで、コイル20をスロット12に対して安定的に固定できることが判った。なお、式aにおいて、Y[mm]は横断面視における第2平坦面42の長さであり、X[mm2]はセグメント導体21の横断面視における断面積である。
a:Y[mm]≧0.28[/mm]×X[mm2]
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係るステータ1は、周方向において間隔を空けて形成された複数のスロット12を有する筒状のステータコア10と、複数のスロット12に挿通され軸方向Zに延びるセグメント導体21を有する複数のコイル20と、を備え、スロット12において、セグメント導体21の外周面21sとスロット12の内周面との間には、冷媒が流れる冷媒流路Cが形成されており、セグメント導体21の外周面21sは、径方向に向く第1平坦面41と、周方向に向く第2平坦面42と、第1平坦面41と第2平坦面42とを結ぶ角部曲面43と、を含み、角部曲面43は、第1平坦面41と連続する第1曲面S1と、第2平坦面42と連続する第2曲面S2と、を含み、横断面視において、第1曲面S1の曲率半径R1は、第2曲面S2の曲率半径R2よりも大きい。
【0040】
この構成により、冷媒流路Cの周方向における寸法Lを大きくすることで冷媒流路Cの断面積を大きくすることができる。これにより、冷媒流路Cにおいて冷媒に生じる圧力損失を低減することができる。また、第2平坦面42aの面積およびセグメント導体21の断面積の減少を抑え、スロット12に対するコイル20の固定力およびコイル20の出力を確保しやすくなる。すなわち、コイル20の出力の確保および冷媒流路Cにおける圧力損失の低減を両立しつつ、スロット12に対するコイル20の固定力を確保しやすいステータを提供できる。
【0041】
また、横断面視において、第2平坦面42の長さをY[mm]とし、セグメント導体21の断面積をX[mm2]とするとき、Y[mm]≧0.28[/mm]×X[mm2]が成立してもよい。この構成によれば、スロット12に対するコイル20の固定をより安定させることができる。
【0042】
また、本実施形態に係るステータ1は、スロット12の内部に配置され、セグメント導体21をスロット12の内部に固定する発泡接着シート30をさらに備える。この構成により、スロット12に対するコイル20の固定力を高めることができる。
【0043】
また、発泡接着シート30は、加熱により発泡して膨張する発泡接着層31と、加熱により発泡しない非発泡接着層33と、を有し、セグメント導体21は、発泡接着シート30のうち非発泡接着層33と接触している。仮に発泡接着層31がセグメント導体21に接触している場合、発泡した発泡接着層31の一部が角部曲面43に接着し、冷媒流路Cが狭まる可能性がある。非発泡接着層33がセグメント導体21に接触するよう発泡接着シート30の向きを設定することにより、発泡接着層31の発泡に起因する冷媒流路Cの狭まりを抑制することができる。
【0044】
また、スロット12において、発泡接着シート30は、周方向においてセグメント導体21の片側のみに配置されている。この構成により、発泡接着シート30がセグメント導体21の両側に配置されている場合と比較して、セグメント導体21の断面積を大きくとることができる。これにより、コイル20の出力をより確保しやすくなる。
【0045】
また、一つのスロット12に対して、径方向に並ぶ複数のセグメント導体21が挿通されており、発泡接着シート30は複数のセグメント導体21の全てと接触している。この構成により、一つのスロット12に対してセグメント導体21が1本のみ挿通されている場合と比較して、コイル20の出力を高めることができる。また、発泡接着シート30が複数のセグメント導体21の全てと接触しているため、全てのセグメント導体21をスロット12に対して確実に固定することができる。
【0046】
また、本実施形態に係る回転電機2は、上記のステータ1を備えている。この構成により、コイル20の出力の確保および冷媒流路Cにおける圧力損失の低減を両立しつつ、スロット12に対するコイル20の固定力を確保しやすい回転電機を提供できる。
【0047】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0048】
例えば、発泡接着シート30は、発泡接着層31がセグメント導体21と接触するように配置されていてもよい。また、各スロット12において、周方向におけるセグメント導体21の両側に発泡接着シート30が配置されていてもよい。また、各スロット12において、発泡接着シート30は一部のセグメント導体21と接触していなくてもよい。この場合、発泡接着シート30はセグメント導体21に対して周方向ではなく径方向から接触していてもよい。また、発泡接着シート30がセグメント導体21に対して周方向および径方向の双方から接触していてもよい。あるいは、コイル20をステータコア10に固定可能であれば、ステータ1は発泡接着シート30を備えていなくてもよい。
【0049】
また、各スロット12を挿通するセグメント導体21の数は適宜変更可能である。すなわち、各スロット12に対し1本以上4本以下のセグメント導体21が挿通されていてもよいし、6本以上のセグメント導体21が挿通されていてもよい。
【0050】
また、図示の例において複数のセグメント導体21は第1平坦面41a、41b同士が接触していたが、第1平坦面41a、41b同士の間に隙間が生じていてもよい。この場合、第1平坦面41a、41b同士の間の隙間も冷媒流路Cとして機能する。
【0051】
また、図示の例において、第1曲面S1と第2曲面S2とは接続点P3において互いに接続されていたが、第1曲面S1と第2曲面S2との間に別の曲面が設けられていてもよい。この場合においても接続点P1から接続点P2に向かうにつれて曲率半径が大きくなるような形状を角部曲面43に適用することにより、前記実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0052】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…ステータ 2…回転電機 10…ステータコア 12…スロット 20…コイル 21…セグメント導体 21s…セグメント導体の外周面 30…発泡接着シート 31…発泡接着層 33…非発泡接着層 41…第1平坦面 42…第2平坦面 43…角部曲面 S1…第1曲面 S2…第2曲面