(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047018
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F02D 41/34 20060101AFI20240329BHJP
F02D 41/06 20060101ALI20240329BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20240329BHJP
F01M 1/08 20060101ALI20240329BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20240329BHJP
F02D 41/40 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
F02D41/34
F02D41/06
F01N3/20 D
F01M1/08 B
F02D43/00 301J
F02D41/40
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152428
(22)【出願日】2022-09-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】山本 和成
【テーマコード(参考)】
3G091
3G301
3G313
3G384
【Fターム(参考)】
3G091BA02
3G091CA01
3G091CB03
3G091EA18
3G091FA04
3G091FC07
3G301HA02
3G301JA23
3G301KA05
3G301LB11
3G301MA18
3G301NE12
3G301PD12A
3G313BA02
3G313BC04
3G313CA06
3G313CA25
3G313EA02
3G313EA03
3G313EA05
3G384AA03
3G384AA06
3G384BA18
3G384BA41
3G384BA42
3G384CA01
3G384CA03
3G384CA04
3G384CA16
3G384DA14
3G384DA54
3G384EB03
3G384EB04
3G384EB10
3G384FA14Z
3G384FA16Z
3G384FA46Z
3G384FA56Z
(57)【要約】
【課題】排ガス浄化装置を昇温させる際にエンジンの失火が起こることを抑制する。
【解決手段】エンジン気筒で発生した排ガスを浄化する排ガス浄化装置の温度が閾値以上である場合に、エンジン気筒内へ燃料を噴射するインジェクタにより第1のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射させ、排ガス浄化装置の温度が閾値未満である場合に、第1のタイミングより遅い第2のタイミングでインジェクタによりエンジン気筒内へ燃料を噴射させる噴射制御部222と、噴射制御部222が第1のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、エンジンのピストンへオイルを供給し、噴射制御部222が第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、ピストンへのオイルの供給を停止する供給制御部223と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン気筒で発生した排ガスを浄化する排ガス浄化装置の温度が閾値以上である場合に、前記エンジン気筒内へ燃料を噴射するインジェクタにより第1のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させ、前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満である場合に、前記第1のタイミングより遅い第2のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる噴射制御部と、
前記噴射制御部が前記第1のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、エンジンのピストンへオイルを供給し、前記噴射制御部が前記第2のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、前記ピストンへのオイルの供給を停止する供給制御部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記供給制御部は、前記噴射制御部が前記第2のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合であっても、前記噴射制御部が前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ噴射させる燃料が所定量以上である場合に、前記ピストンへのオイルを供給する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記供給制御部は、前記噴射制御部が前記第2のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合であっても、エンジン回転数が所定値以上である場合に、前記ピストンへのオイルの供給を停止しない、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
エンジン気筒内へ燃料を噴射するインジェクタを制御して、前記エンジン気筒内へ燃料を噴射するタイミングを制御する噴射制御部と、
エンジンのピストンへのオイルの供給を制御する供給制御部と、
を有し、
前記噴射制御部は、
前記エンジンの排ガスを浄化する排ガス浄化装置の温度が閾値以上である場合に、第1のタイミングで前記気筒内へ燃料を噴射させ、
前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満であり、且つ、前記供給制御部が前記ピストンへオイルを供給する場合に、前記第1のタイミングよりも遅い第2のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させ、
前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満であり、且つ、前記供給制御部が前記ピストンへのオイルの供給を停止する場合に、前記第2のタイミングより遅い第3のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる、制御装置。
【請求項5】
コンピュータが実行する、
エンジン気筒で発生した排ガスを浄化する排ガス浄化装置の温度が閾値以上である場合に、前記エンジン気筒内へ燃料を噴射するインジェクタにより第1のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させ、前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満である場合に、前記第1のタイミングより遅い第2のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させるステップと、
前記第1のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、エンジンのピストンへオイルを供給し、前記第2のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、前記ピストンへのオイルの供給を停止するステップと、
を備える、制御方法。
【請求項6】
コンピュータに、
エンジン気筒で発生した排ガスを浄化する排ガス浄化装置の温度が閾値以上である場合に、前記エンジン気筒内へ燃料を噴射するインジェクタにより第1のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させ、前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満である場合に、前記第1のタイミングより遅い第2のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させるステップと、
前記第1のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、エンジンのピストンへオイルを供給し、前記第2のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、前記ピストンへのオイルの供給を停止するステップと、
を実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス浄化装置の温度が低い場合に、排ガス浄化装置を昇温する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、圧縮上死点近傍での主噴射の燃料噴射時期を遅角状態に制御することで、排気温度を上昇させて排ガス浄化装置を昇温させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された方法では、燃料噴射時期を遅角状態に制御することに起因して、エンジン気筒内の温度が低下する。このため、エンジンの失火が起こりやすいという問題があった。
【0005】
本発明はこの点に鑑みてなされたものであり、排ガス浄化装置を昇温させる際にエンジンの失火が起こることを抑制することができる制御装置、制御方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の制御装置は、エンジン気筒で発生した排ガスを浄化する排ガス浄化装置の温度が閾値以上である場合に、前記エンジン気筒内へ燃料を噴射するインジェクタにより第1のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させ、前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満である場合に、前記第1のタイミングより遅い第2のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる噴射制御部と、前記噴射制御部が前記第1のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、エンジンのピストンへオイルを供給し、前記噴射制御部が前記第2のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、前記ピストンへのオイルの供給を停止する供給制御部と、を備える。
【0007】
前記供給制御部は、前記噴射制御部が前記第2のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合であっても、前記噴射制御部が前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ噴射させる燃料が所定量以上である場合に、前記ピストンへのオイルを供給してもよい。
【0008】
前記供給制御部は、前記噴射制御部が前記第2のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合であっても、エンジン回転数が所定値以上である場合に、前記ピストンへのオイルの供給を停止しなくてもよい。
【0009】
本発明の第2の態様の制御装置は、エンジン気筒内へ燃料を噴射するインジェクタを制御して、前記エンジン気筒内へ燃料を噴射するタイミングを制御する噴射制御部と、エンジンのピストンへのオイルの供給を制御する供給制御部と、を有し、前記噴射制御部は、前記エンジンの排ガスを浄化する排ガス浄化装置の温度が閾値以上である場合に、第1のタイミングで前記気筒内へ燃料を噴射させ、前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満であり、且つ、前記供給制御部が前記ピストンへオイルを供給する場合に、前記第1のタイミングよりも遅い第2のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させ、前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満であり、且つ、前記供給制御部が前記ピストンへのオイルの供給を停止する場合に、前記第2のタイミングより遅い第3のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる。
【0010】
本発明の第3の態様の制御方法は、コンピュータが実行する、エンジン気筒で発生した排ガスを浄化する排ガス浄化装置の温度が閾値以上である場合に、前記エンジン気筒内へ燃料を噴射するインジェクタにより第1のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させ、前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満である場合に、前記第1のタイミングより遅い第2のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させるステップと、前記第1のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、エンジンのピストンへオイルを供給し、前記第2のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、前記ピストンへのオイルの供給を停止するステップと、を備える。
【0011】
本発明の第4の態様のプログラムは、コンピュータに、エンジン気筒で発生した排ガスを浄化する排ガス浄化装置の温度が閾値以上である場合に、前記エンジン気筒内へ燃料を噴射するインジェクタにより第1のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させ、前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満である場合に、前記第1のタイミングより遅い第2のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させるステップと、前記第1のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、エンジンのピストンへオイルを供給し、前記第2のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、前記ピストンへのオイルの供給を停止するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、排ガス浄化装置を昇温させる際にエンジンの失火が起こることを抑制するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態の車両の概要を示す図である。
【
図3】噴射制御部による燃料の噴射のタイミングの例を示す。
【
図4】制御装置による排ガス浄化装置の昇温の処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】第2の実施形態の噴射制御部による燃料の噴射のタイミングの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の実施形態>
[制御装置の概要]
図1は第1の実施形態の車両100の概要を示す図である。車両100は、エンジン1及び制御装置2を備える。エンジン1は、例えば、ディーゼルエンジンである。エンジン1内では、インジェクタ11は、エンジン気筒内へ燃料を噴射する。
【0015】
ピストン12は、クランクシャフト13の取付位置(
図1中のP)に取り付けられている。インジェクタ11がエンジン気筒内へ燃料を噴射したときにエンジン気筒内において発火により膨張した燃料は、ピストン12を押し下げることにより、クランクシャフト13を回転させる。
【0016】
オイルジェット14は、ピストン12へオイルを噴射する。
図1中の矢印で示すように、ピストン12へ噴射されたオイルは、ピストン12の底面を流れることにより、ピストン12を冷却する。温度センサ101は、エンジン1の後段の排ガス浄化装置GSの温度を測定する。温度センサ101は、排ガス浄化装置GSの温度の測定結果を制御装置2に入力する。
【0017】
制御装置2は、例えば、コンピュータにより車両100の各部を電子的に制御するECU(Electronic Control Unit)である。制御装置2は、温度センサ101の測定結果に基づいて、エンジン1の後段の排ガス浄化装置GSの温度を特定する。排ガス浄化装置GSは、エンジン気筒で発生した排ガスを浄化する。排ガス浄化装置GSは、例えば、ディーゼルエンジンの排気中の窒素酸化物(NOx)を浄化する尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒を備える。排ガス浄化装置GSは、一酸化炭素(CO)等を酸化するDOC(Diesel Oxidation Catalyst)触媒等を備えてもよい。排ガス浄化装置GSは、低温の状態では、排気ガスを浄化する効率が低下する。
【0018】
制御装置2は、特定した排ガス浄化装置GSの温度が閾値以上である場合に、制御装置2がインジェクタ11により第1のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射させる。制御装置2は、特定した排ガス浄化装置GSの温度が閾値未満である場合に、第1のタイミングより遅い第2のタイミングでインジェクタ11によりエンジン気筒内へ燃料を噴射させる。
【0019】
制御装置2が第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射させた場合、第1のタイミングで燃料を噴射させた場合に比べて、エンジン1において燃料の燃焼により生じたエネルギーをピストン12の運動エネルギーに変換する効率が低下する。運動エネルギーに変換されなかったエネルギーは、排気ガスの熱エネルギーとして排出される。制御装置2は、排ガス浄化装置GSにこの排気ガスを通過させることにより、排ガス浄化装置GSを昇温させることができる。このため、制御装置2は、排ガス浄化装置GSが低温であることに起因して、排ガス浄化装置GSによる排気ガスの浄化の効率が低下することを抑制することができる。
【0020】
制御装置2が第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合、第1のタイミングで燃料を噴射させる場合に比べてエンジン気筒内の温度が低いことに起因して、失火が起こるリスクがある。そこで、制御装置2は、第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、オイルジェット14によるピストン12へのオイルの供給を停止する。このとき、ピストン12へ噴射されるオイルによりピストン12が冷却されなくなるので、エンジン気筒内の温度が上昇する。このようにして、制御装置2は、エンジン気筒内へ燃料を噴射するタイミングを遅延させる際のエンジン気筒内の温度の低下を抑制することにより、失火が起こるリスクを低減させることができる。
【0021】
[車両100の構成]
図2は、車両100の構成を示す。車両100は、制御装置2、温度センサ101、インジェクタ11及びオイルジェット14を備える。制御装置2は、記憶部21及び制御部22を備える。制御部22は、例えば、CPU(Central Processing Unit)又はECU(Electronic Control Unit)などの演算装置(プロセッサ)である。制御部22は、記憶部21に記憶されたプログラムを実行することにより、特定部221、噴射制御部222及び供給制御部223を備える。
【0022】
温度センサ101は、エンジン1の後段の排ガス浄化装置GSの温度を測定する。温度センサ101は、排ガス浄化装置GSの温度の測定結果を特定部221に入力する。
【0023】
記憶部21は、例えば、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の記憶媒体を有する。記憶部21は、制御部22を機能させるための各種プログラムや各種データを記憶する。制御部22は、記憶部21に記憶されたプログラムを実行することにより、特定部221、噴射制御部222及び供給制御部223として機能する。
【0024】
特定部221は、排ガス浄化装置GSの温度を測定する温度センサ101により排ガス浄化装置GSの温度を特定(取得)する。特定部221は、特定した排ガス浄化装置GSの温度を示す情報を噴射制御部222及び供給制御部223へ出力する。
【0025】
噴射制御部222は、エンジン気筒内へ燃料を噴射するインジェクタ11によりエンジン気筒内へ燃料を噴射させる。噴射制御部222は、特定部221が特定した排ガス浄化装置GSの温度が閾値以上である場合に、第1のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射する。噴射制御部222は、特定部221が特定した排ガス浄化装置GSの温度が閾値未満である場合に、第1のタイミングより遅い第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射する。
図3は、噴射制御部222による燃料の噴射のタイミングを、クランクシャフト13におけるピストン12の取付位置で示した模式図である。
【0026】
図3の三角印は、噴射制御部222による燃料噴射時のピストン12の取付位置(
図1中のP)を示す。
図3において、ピストン12の取付位置は
図1と同様に、時計回りに回転する。すなわち、
図3において、時間の経過に応じて時計回り方向に取付位置が進む。
図3(a)は、排ガス浄化装置GSの温度が閾値以上である場合における噴射制御部222による燃料の噴射のタイミング(第1のタイミング)の例を示す。
図3(b)は、排ガス浄化装置GSの温度が閾値未満である場合における噴射制御部222による燃料の噴射のタイミング(第2のタイミング)の例を示す。
【0027】
図3(a)に示すように、噴射制御部222は、特定部221が特定した排ガス浄化装置GSの温度が閾値以上である場合、ピストン12の取付位置が上死点付近に達した第1のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射する。上死点は、ピストン12がクランクシャフト13の回転軸から最も遠くなる取付位置である。上死点は、ピストン12の位置が、最もシリンダ内に押し込まれたときの取付位置であるともいえる。上死点付近に達した第1のタイミングでエンジン気筒内へ噴射された燃料が燃焼されたエネルギーの大部分は、ピストン12を押し下げるエネルギーに変換される。したがって、燃料の燃焼により生じたエネルギーのうち、排ガスの熱エネルギーとして後段の排ガス浄化装置GSに入力される熱エネルギーが後述する場合よりも低下し、排ガス浄化装置GSの昇温を抑制することができる。
【0028】
図3(b)に示すように、噴射制御部222は、特定部221が特定した排ガス浄化装置GSの温度が閾値未満である場合、ピストン12の位置が上死点に達した後の第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射する。ここで、第2のタイミングは第1のタイミングよりも遅いタイミングである。具体的には、第2のタイミングは、第1のタイミングに相当するピストン12の取付位置よりも、ピストン12の取付位置が時計回りに進んだ位置に対応するタイミングである。
【0029】
噴射制御部222が第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射する場合、第1のタイミングで燃料を噴射する場合に比べて、燃料の燃焼により生じたエネルギーをピストン12の運動エネルギーに変換する効率が低くなる。第1のタイミングよりも遅れた第2のタイミングにおいては、すでにピストン12がクランクシャフト側に移動している。そのため、ピストン12を押し下げるために必要とされるエネルギーは、第1のタイミングで燃料を噴射した場合よりも小さい。したがって、燃料の燃焼により生じたエネルギーのうち、ピストン12の運動エネルギーに変換される量が低下する。したがって、燃焼により生じたエネルギーのうち、排気ガスの熱エネルギーに変換される割合が、第1のタイミングで燃料を噴射した場合に比べて増加する。この排気ガスが排ガス浄化装置GSを通過することにより、排ガス浄化装置GSが、第1のタイミングで燃料を噴射した場合に比べて、昇温される。
【0030】
供給制御部223は、ピストンの冷却を目的として、オイルジェット14によりエンジン1のピストン12へのオイルの供給を制御する。供給制御部223は、噴射制御部222が第1のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、ピストン12へオイルを供給する。排ガス浄化装置GSの温度が閾値以上である場合に噴射制御部222が第1のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射させることから、供給制御部223は、排ガス浄化装置GSの温度が閾値以上である場合に、ピストン12へオイルを供給するともいえる。
【0031】
供給制御部223は、噴射制御部222が第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合には、燃料を噴射するタイミングの遅延によりエンジン気筒内の温度が低下する。このとき、供給制御部223は、エンジン気筒内の温度低下に起因する失火を抑制するため、ピストン12へのオイルの供給を停止する。排ガス浄化装置GSの温度が閾値未満である場合に噴射制御部222が第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射させることから、供給制御部223は、排ガス浄化装置GSの温度が閾値未満以上である場合に、ピストン12へオイルの供給を停止するともいえる。
【0032】
噴射制御部222による燃料噴射量が多い場合には、ピストン12へ加えられる熱量が大きくなる。このとき、供給制御部223がピストン12へのオイルの供給を停止すると、ピストン12が高熱で損傷又は溶融する可能性がある。このため、供給制御部223は、噴射制御部222が第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射する場合においても、噴射制御部222がインジェクタ11によりエンジン気筒内へ噴射させる燃料が所定量以上である場合に、ピストン12へのオイルの供給を停止しない。所定量は、例えば、オイルジェット14によるピストン12へのオイルの供給が停止した状態でピストン12に損傷又は溶融が発生する可能性がある燃料の噴射量の最小値未満の値である。
【0033】
一方、供給制御部223は、噴射制御部222が第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射し、且つ、噴射制御部222がインジェクタ11によりエンジン気内へ噴射させる燃料が所定量未満である場合には、ピストン12へのオイルの供給を停止する。このようにして、供給制御部223は、インジェクタ11による燃料の噴射量が多い場合に、ピストン12へのオイルの供給を停止することによりピストン12の損傷又は溶融が生じることを抑制することができる。
【0034】
同様に、エンジン回転数が高い場合には、ピストン12へ加えられる単位時間当りの熱量が大きくなる。このとき、供給制御部223がピストン12へのオイルの供給を停止すれば、ピストン12が高熱で損傷又は溶融する可能性がある。このため、供給制御部223は、噴射制御部222が第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射する場合においても、エンジン回転数が基準値以上である場合に、ピストン12へのオイルの供給を停止しない。基準値は、例えば、オイルジェット14によるピストン12へのオイルの供給が停止した状態でピストン12に損傷又は溶融が発生する可能性がある燃料のエンジン回転数の最小値未満の値である。
【0035】
一方、供給制御部223は、噴射制御部222が第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射し、且つ、エンジン回転数が基準値未満である場合に、ピストンへ12のオイルの供給を停止する。このようにして、供給制御部223は、エンジン回転数が大きい場合に、ピストン12へのオイルの供給を停止することによりピストン12の損傷又は溶融が生じることを抑制することができる。
【0036】
[制御装置2による排ガス浄化装置GSの昇温の処理手順]
図4は、制御装置2による排ガス浄化装置GSの昇温の処理手順を示すフローチャートである。この処理手順は、例えば、車両100のエンジン1の始動直後、アイドリング中又は低速走行中に開始する。まず、特定部221は、排ガス浄化装置GSの温度を測定する温度センサ101により排ガス浄化装置GSの温度を特定する(S101)。
【0037】
噴射制御部222は、特定した温度が閾値以上か否かを判定する(S102)。噴射制御部222は、特定した排ガス浄化装置GSの温度が閾値以上であると判定した場合に(S102のYES)、第1のタイミングでエンジン気筒内へインジェクタ11により燃料を噴射する(S103)。供給制御部223は、エンジン1のピストン12へオイルジェット14によりオイルを供給する(S104)。特定部221は、エンジン1が停止したか否かを判定する(S105)。特定部221は、エンジン1が停止したと判定した場合に(S105のYES)、処理を終了する。
【0038】
噴射制御部222は、S102の判定において特定した排ガス浄化装置GSの温度が閾値未満であると判定した場合に(S102のNO)、第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射する(S106)。供給制御部223は、オイルジェット14によるピストン12へのオイルの供給を停止し(S107)、S105の判定に進む。特定部221は、S105の判定においてエンジン1が停止していないと判定した場合に(S105のNO)、S101の処理に戻る。
【0039】
<第2の実施形態>
第2の実施形態における噴射制御部222は、インジェクタ11を制御して、排ガス浄化装置GSの温度と、オイルジェット14によりピストン12へオイルを供給しているか否かに応じて、エンジン気筒内への燃料噴射のタイミングを制御する。噴射制御部222は、供給制御部223がオイルジェット14によるピストン12へのオイルの供給を停止している場合に、オイルジェット14によるピストン12へのオイルの供給をしている場合よりも、エンジン気筒内への燃料噴射のタイミングを遅延させる時間を増加させる。
【0040】
図5は、第2の実施形態の噴射制御部222による燃料の噴射のタイミングの例を示す。噴射制御部222は、特定部221が特定した排ガス浄化装置GSの温度が閾値以上である場合に、第1の実施形態と同様に、インジェクタ11により第1のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射させる。
図5の例では、第1のタイミングは、
図3と同様にピストン12の取付位置が上死点付近に達したときである。
【0041】
噴射制御部222は、特定部221が特定した排ガス浄化装置GSの温度が閾値未満であり、供給制御部223がピストン12へオイルを供給する状態では、
図5に示すように、第1のタイミングよりも遅い第2のタイミングでインジェクタ11によりエンジン気筒内へ燃料を噴射させる。燃料を噴射させるタイミングを遅らせることにより、上述したように、燃料の燃焼によるエネルギーのうち排ガスの熱エネルギーに変換される割合が増加し、排ガス浄化装置GSの温度を高めることが可能となる。
【0042】
上述したように、排ガス浄化装置GSの温度が閾値未満である場合であっても、ピストン12へのオイル供給が必要な場合がある。一例として、供給制御部223は、特定部221が特定した排ガス浄化装置GSの温度が閾値未満である場合であっても、エンジン回転数が基準値以上であれば、ピストン12へのオイルの供給を停止しない。噴射制御部222は、供給制御部223がピストン12へのオイルの供給を停止しない場合に、第2のタイミングでインジェクタ11によりエンジン気筒内へ燃料を噴射させる。
【0043】
一方、噴射制御部222は、特定部221が特定した排ガス浄化装置GSの温度が閾値未満であり、供給制御部223がピストン12へのオイルの供給を停止している状態では、第2のタイミングよりさらに遅い第3のタイミングでインジェクタ11によりエンジン気筒内へ燃料を噴射させる。供給制御部223がピストン12へのオイルの供給を停止した状態では、ピストン12が冷却されないので、エンジン筒内の温度が高くなる。
【0044】
このため、噴射制御部222がエンジン気筒内への燃料噴射のタイミングを遅延させる時間を増加させたとしても、エンジン1の失火は起こりにくい。そこで、噴射制御部222は、エンジン気筒内への燃料噴射のタイミングを遅延させる時間を第2のタイミングよりも遅くすることができる。これにより、第2のタイミングで燃料を噴射した場合に比べて、さらに、燃料の燃焼によるエネルギーを排ガスの熱エネルギーに変換する割合を増加させることが可能となり、排ガス浄化装置GSの昇温に要する時間を短縮することができる。
【0045】
[本開示の制御装置による効果]
第1及び第2の実施形態によれば、供給制御部223は、噴射制御部222が第2のタイミングでエンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合に、オイルジェット14によるピストン12へのオイルの供給を停止する。このとき、ピストン12へ噴射されるオイルによりピストン12が冷却されなくなるので、エンジン気筒内の温度が上昇する。このようにして、供給制御部223は、エンジン気筒内へ燃料を噴射するタイミングを遅延させる際のエンジン気筒内の温度の低下を抑制することにより、失火が起こるリスクを低減させることができる。
【0046】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0047】
1 エンジン
2 制御装置
11 インジェクタ
12 ピストン
13 クランクシャフト
14 オイルジェット
21 記憶部
22 制御部
100 車両
101 温度センサ
221 特定部
222 噴射制御部
223 供給制御部
【手続補正書】
【提出日】2023-07-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン気筒内へ燃料を噴射するインジェクタを制御して、前記エンジン気筒内へ燃料を噴射するタイミングを制御する噴射制御部と、
エンジンのピストンへのオイルの供給を制御する供給制御部と、
を有し、
前記噴射制御部は、
前記エンジンの排ガスを浄化する排ガス浄化装置の温度が閾値以上である場合に、第1のタイミングで前記気筒内へ燃料を噴射させ、
前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満であり、且つ、前記供給制御部が前記ピストンへオイルを供給する場合に、前記第1のタイミングよりも遅い第2のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させ、
前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満であり、且つ、前記供給制御部が前記ピストンへのオイルの供給を停止する場合に、前記第2のタイミングより遅い第3のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる、制御装置。
【請求項2】
前記供給制御部は、前記噴射制御部が前記第2のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合であっても、前記噴射制御部が前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ噴射させる燃料が所定量以上である場合に、前記ピストンへのオイルを供給する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記供給制御部は、前記噴射制御部が前記第2のタイミングで前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる場合であっても、エンジン回転数が所定値以上である場合に、前記ピストンへのオイルの供給を停止しない、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
コンピュータが実行する、
エンジン気筒内へ燃料を噴射するインジェクタを制御して、前記エンジン気筒内へ燃料を噴射するタイミングを制御するステップと、
エンジンのピストンへのオイルの供給を制御するステップと、
を有し、
前記燃料を噴射するタイミングを制御するステップでは、
前記エンジンの排ガスを浄化する排ガス浄化装置の温度が閾値以上である場合に、第1のタイミングで前記気筒内へ燃料を噴射させ、
前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満であり、且つ、前記ピストンへオイルを供給する場合に、前記第1のタイミングよりも遅い第2のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させ、
前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満であり、且つ、前記ピストンへのオイルの供給を停止する場合に、前記第2のタイミングより遅い第3のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる、制御方法。
【請求項5】
コンピュータに、
エンジン気筒内へ燃料を噴射するインジェクタを制御して、前記エンジン気筒内へ燃料を噴射するタイミングを制御するステップと、
エンジンのピストンへのオイルの供給を制御するステップと、
を実行させるプログラムであって、
前記燃料を噴射するタイミングを制御するステップでは、
前記エンジンの排ガスを浄化する排ガス浄化装置の温度が閾値以上である場合に、第1のタイミングで前記気筒内へ燃料を噴射させ、
前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満であり、且つ、前記ピストンへオイルを供給する場合に、前記第1のタイミングよりも遅い第2のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させ、
前記排ガス浄化装置の温度が前記閾値未満であり、且つ、前記ピストンへのオイルの供給を停止する場合に、前記第2のタイミングより遅い第3のタイミングで前記インジェクタにより前記エンジン気筒内へ燃料を噴射させる、
プログラム。