(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047049
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】熱管理システム
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
B60H1/22 651C
B60H1/22 651B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152462
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 佳之
(72)【発明者】
【氏名】張 洪銘
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 航大
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA01
3L211BA14
3L211BA22
3L211CA19
3L211DA26
3L211GA26
(57)【要約】
【課題】熱媒体回路の流路切り替えによって、熱管理モードの切り替えを行う熱管理システムにおいて、モード切替え時に、温調対象の温度管理を安定的に継続できるようにすること、また、適宜のモード切替えを行いながら、熱管理システムを安定的に運転できるようにすること。
【解決手段】熱管理システムは、冷凍サイクルを実行する冷媒回路と、冷媒回路の冷媒と熱交換する熱媒体を循環させる熱媒体回路とを備え、冷媒回路の放熱によって加熱された高温熱媒体と冷媒回路の吸熱で冷却された低温熱媒体を用いて、温調対象の熱管理を行うシステムであって、熱媒体回路は、複数の熱管理モードを実行するための流路切り替えを行う流路切替手段を備え、流路切替手段により流路を切り替える際に、温調対象の温度管理を優先する遷移モードを経由して、所定の熱管理モードへの切り替えを行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍サイクルを実行する冷媒回路と、前記冷媒回路の冷媒と熱交換する熱媒体を循環させる熱媒体回路とを備え、前記冷媒回路の放熱によって加熱された高温熱媒体と前記冷媒回路の吸熱で冷却された低温熱媒体を用いて、温調対象の熱管理を行う熱管理システムであって、
前記熱媒体回路は、複数の熱管理モードを実行するための流路切り替えを行う流路切替手段を備え、
前記流路切替手段により流路を切り替える際に、前記温調対象の温度管理を優先する遷移モードを経由して、所定の熱管理モードへの切り替えを行うことを特徴とする熱管理システム。
【請求項2】
前記遷移モードは、前記熱管理モードの切り替え時に前記流路切替手段の動作量が少ない切り替え動作を優先することを特徴とする請求項1記載の熱管理システム。
【請求項3】
前記遷移モードは、前記熱管理モードの切り替え時に前記流路切替手段の動作時間が短い切り替え動作を優先することを特徴とする請求項1記載の熱管路システム。
【請求項4】
前記遷移モードは、前記熱媒体回路の循環ポンプを停止させて行うことを特徴とする請求項1記載の熱管理システム。
【請求項5】
前記遷移モードは、前記流路切替手段の切り替えに連動して、前記温調対象に熱媒体を優先的に流すバイパス流路を形成することを特徴とする請求項1記載の熱管理システム。
【請求項6】
前記温調対象は、車室内空気と熱交換する空調用の熱交換器であることを特徴とする請求項1記載の熱管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱管理システムは、冷凍サイクルを実行する冷媒回路と、冷媒回路の冷媒と熱交換する熱媒体を循環させる熱媒体回路とを備え、冷媒回路の放熱によって加熱された高温熱媒体と冷媒回路の吸熱で冷却された低温熱媒体を用いて、温調対象の熱管理を行うものである。
【0003】
このような熱管理システムでは、熱媒体回路の流路を切り替えて、高温熱媒体による温調対象の加熱や低温熱媒体による温調対象の冷却、或いは、高温熱媒体と低温熱媒体の混合による熱媒体の温度調整などを行うことで、各種の熱管理モードが実行される。この際、熱媒体回路の流路切り替えは、流路切替弁の切り替え動作によって行われている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱管理システムにおいて、熱媒体回路の流路切り替え時に、熱媒体の循環ポンプは継続的に作動している。これに対して、流路切替弁の切り替え動作のタイムラグや流路切替弁の構造・機構上の問題で、熱媒体回路における熱媒体の流れが流路切り替え時に一時的に停止する事態が生じる。このため、特定の温調対象の温度管理を実行しながら、所定の熱管理モードから別の熱管理モードへの切り替えを行う場合に、前述した熱媒体の流れの一時的な停止によって、特定の温調対象の温度管理が一時的に寸断されてしまう問題が生じる。
【0006】
特に、温調対象として車室内の空調を行っている場合には、前述したように熱媒体の流れが一時的に停止すると、空調装置から吐出される空気の温度が空調の設定温度に対して変化する事態が生じることになり、空調の快適性が一時的に損なわれることになる。
【0007】
また、熱管理システムにおいて、熱媒体回路の循環ポンプを作動させた状態で流路切替弁の切り替えを行うと、前述したように熱媒体の流れが一時的に停止することで、流路内に大きな圧力変動(ウォーターハンマー)が生じることがある。このような圧力変動が生じると、騒音の発生や流路の耐久性の低下などが起こり、熱管理システムを安定的に運転する上での障害になる問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題に対処することを課題としている。すなわち、熱媒体回路の流路切り替えによって、熱管理モードの切り替えを行う熱管理システムにおいて、モード切替え時に、温調対象の温度管理を安定的に継続できるようにすること、また、適宜のモード切替えを行いながら、熱管理システムを安定的に運転できるようにすること、などが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
冷凍サイクルを実行する冷媒回路と、前記冷媒回路の冷媒と熱交換する熱媒体を循環させる熱媒体回路とを備え、前記冷媒回路の放熱によって加熱された高温熱媒体と前記冷媒回路の吸熱で冷却された低温熱媒体を用いて、温調対象の熱管理を行う熱管理システムであって、前記熱媒体回路は、複数の熱管理モードを実行するための流路切り替えを行う流路切替手段を備え、前記流路切替手段により流路を切り替える際に、前記温調対象の温度管理を優先する遷移モードを経由して、所定の熱管理モードへの切り替えを行うことを特徴とする熱管理システム。
【発明の効果】
【0010】
このような特徴を有する本発明によると、熱媒体回路の流路切り替えによって、熱管理モードの切り替えを行う熱管理システムにおいて、熱管理モードの切替え時に、温調対象の温度管理を安定的に継続させることができる。また、適宜のモード切替えを行うに際して、熱管理システムを安定的に運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る熱管理システムの構成例を示した説明図。
【
図2】本発明の実施形態に係る熱管理システムのモード切替え時の制御フロー例を示した説明図。
【
図3】本発明の他の実施形態に係る熱管理システムの構成例を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。なお、ここでは車室内の空調を行う車両用の熱管理システムを例にして説明するが、本発明の実施形態は、特に車両用に限定されるものではない。
【0013】
図1に示すように、熱管理システム1は、冷媒回路10と熱媒体回路20を備えている。冷媒回路10は、冷媒を循環させて、圧縮、凝縮、膨張、気化の冷凍サイクルを実行する回路であり、回路構成として、圧縮機11、放熱用熱交換器12,12A、膨張弁13(13A,13B)、吸熱用熱交換器14,14Aを備えている。ここで、放熱用熱交換器12Aは、車外に熱を放出する車外熱交換器であり、吸熱用熱交換器14Aは、空調装置内の冷却器として用いることができるものである。
【0014】
熱媒体回路20は、冷媒回路10の冷媒と熱交換する熱媒体を循環させる循環ポンプ20Pを有し、放熱用熱交換器12を通過することで、冷媒回路10の放熱によって加熱された高温熱媒体が流れる高温熱媒体流路21と、吸熱用熱交換器14を通過することで、冷媒回路10の吸熱によって冷却された低温熱媒体が流れる低温熱媒体流路22を有する。
【0015】
熱媒体回路20の高温熱媒体流路21と低温熱媒体流路22は、流路切替手段20Vを介することで様々な流路に接続されている。このような熱媒体回路20は、流路切替手段20Vを経由して、各種の熱交換器23,24,25,26に所定温度の熱媒体を流す。ここで、各種の熱交換器23~26は、一例として、熱交換器23がバッテリ温調用熱交換器、熱交換器24がモータ温調用熱交換器、熱交換器25がラジエータ、熱交換器26が空調用の加熱器などになる。
【0016】
そして、熱管理システム1の熱媒体回路20は、流路切替手段20Vによる流路の切り替えによって、複数の熱管理モードを実行する。流路切替手段20Vの切り替えは、制御装置(ECU:Electronic Control Unit)20Cによって制御されている。制御装置20Cは、前述した流路切替手段20Vの切り替え制御に加えて、熱媒体回路20における循環ポンプ20Pの作動・停止を制御している。
【0017】
図2は、制御装置20Cによるモード切替え時の制御フロー例を示している。熱管理モードの切替えが開始されると、制御装置20Cの演算処理によって切り替え先の目標モードが設定される(ステップS01)。ここで、直ちに目標モードへの切り替えを実行するのではなく、現在の熱管理モードから目標モードに移行するに際して、制御装置20Cの演算処理によって遷移モードを設定する(ステップS02)。そして、現在の熱管理モードから設定された遷移モードへの移行を実行し(ステップS03)、その後に、遷移モードから目標モードへの移行を実行する(ステップS04)。
【0018】
ここでの遷移モードは、一例として、循環ポンプ20Pの動作を一時的に停止する制御モードを含む。このように、遷移モードとして、循環ポンプ20Pの動作を一時的に停止させると、熱媒体回路20の流路切替手段20Vの切り替え時に大きな圧力変動が生じることが無く、円滑な流路の切り替えが可能になる。これによって、適宜の熱管理モードの切替えを行うに際して、熱管理システム1を安定的に運転することができる。
【0019】
そして、遷移モードにおいても冷媒回路10は常時運転しているので、冷媒回路10における吸熱用熱交換器14Aによって空調運転は継続される。これによって、空調の温度管理の継続が維持され、空調装置から吐出される空気の温度が空調の設定温度に対して変化する事態を回避することができるので、空調の快適性が一時的に損なわれることを抑止することができる。
【0020】
図3は、他の実施形態に係る熱管理システム1Aを示している。この熱管理システム1Aの冷媒回路10は、圧縮機11と放熱用熱交換器12と膨張弁13と吸熱用熱交換器14で構成される。また、この熱管理システム1Aの熱媒体回路20は、前述した例と同様に、循環ポンプ20Pを備え、高温用熱媒体流路21と低温用熱媒体流路22が、流路切替手段20Vを介して、複数の温調対象用の熱交換器23~27に接続されている。
【0021】
ここでの温調対象用の熱交換器23~27は、前述した例と同様に、熱交換器23がバッテリ温調用熱交換器、熱交換器24がモータ温調用熱交換器、熱交換器25がラジエータ、熱交換器26が空調用の加熱器、熱交換器27が空調用の冷却器になっている。
【0022】
そして、この熱管理システム1Aにおいては、制御装置20Cは、流路切替手段20Vの切り替えを制御すると共に、空調用の加熱器である熱交換器26への熱媒体の流通を継続させるために、バイパス流路30,31,32における開閉弁30V,31V,32Vを開閉制御し、また、空調用の冷却器である熱交換器27への熱媒体の流通を継続させるために、バイパス流路40,41,42における開閉弁40V,41V,42Vを開閉制御している。ここでのバイパス流路30~32,40~42は、流路切替手段20Vを介することなく熱媒体を熱交換器20,27に流す流路を形成している。
【0023】
この熱管理システム1Aにおいても、制御装置20は、
図2に示す制御フローで、熱管理モードの切替え制御を行う。そして、ここでの遷移モードは、流路切替手段20Vの切り替えに連動して、開閉弁30V,31V,32V或いは開閉弁40V,41V,42Vを開状態にして、温調対象である空調用の熱交換器26,27に熱媒体を優先的に流すバイパス流路30,31,32或いはバイパス流路40,41,42を形成している。これにより、流路切替手段20Vの切り替えで熱媒体回路20の流れが一時的に停止した場合であっても、熱交換器26,27への熱媒体の流れを継続させ、空調の温度管理を継続的に維持することができる。なお、ここでは、空調用の熱交換器26,27に対するバイパス流路を例に説明したが、バイパス流路は、その他の温調対象の熱交換器に対するものであっても構わない。
【0024】
前述した遷移モードを実行するに際しては、流路切替手段20Vの構造や機構を考慮して、適正な切り替え動作を選択することが好ましい。一例としては、遷移モードを実行するに際して、流路切替手段20Vの切り替え動作が複数存在する場合に、動作量の少ない切り替え動作を優先する。他の例としては、遷移モードを実行するに際して、流路切替手段20Vの切り替え動作が複数存在する場合に、動作時間の短い切り替え動作を優先する。このような切り替え動作の選択によると、モード切替え時の流路切り替えをより効率的に行うことができる。
【0025】
特に、流路切替手段20Vが、マルチポート弁である場合、流路の切り替え動作には適宜の考慮が必要になる。例えば、マルチポート弁が1軸モータとリンク機構を組み合わせた循環方式である場合には、現在の熱管理モードから遷移モードを経由して目的モードに切り替える際に、切り替えステップ(操作量)がより少なくなるように、遷移モードを選択することが好ましい。また、マルチポート弁の耐久性や寿命を優先する場合は、制御装置20Cが弁の切り替え履歴を記憶して、全ての弁機構が万遍なく使用されるように、遷移モードを選択することが好ましい。
【0026】
このような特徴の熱管理システム1,1Aによると、熱媒体回路20の流路切り替えによって、熱管理モードの切り替えを行うに際して、温調対象の温度管理を安定的に継続させることができる。また、適宜のモード切替えを行うに際して、熱管理システムを安定的に運転することができる。
【0027】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1,1A:熱管理システム,
10:冷媒回路,11:圧縮機,12,12A:放熱用熱交換器,
13,13A,13B:膨張弁,14,14A:吸熱用熱交換器,
20:熱媒体回路,20P:循環ポンプ,20C:制御装置,
20V:流路切替手段,21:高温用熱媒体流路,22:低温用熱媒体流路,
23~27:熱交換器,30~32,40~42:バイパス流路,
30V~32V,40V~42V:開閉弁