(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047058
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】光検出素子、及び光検出素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20240329BHJP
H01L 31/08 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
H01L31/10 A
H01L31/08 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152473
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 和利
(72)【発明者】
【氏名】藤原 弘康
(72)【発明者】
【氏名】董 偉
【テーマコード(参考)】
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
5F149AA03
5F149AB03
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(57)【要約】
【課題】ヘテロPN接合を利用しつつ受光領域の大面積化を図ることができる光検出素子、及び光検出素子の製造方法を提供する。
【解決手段】光検出素子1Aは、単結晶状に形成されたN型のシリコン層2と、多結晶状に形成されており、シリコン層2との間でヘテロPN接合を成しているP型のゲルマニウム含有層3と、シリコン層2に電気的に接続された第1電極4と、ゲルマニウム含有層3に電気的に接続された第2電極5と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶状に形成されたN型のシリコン層と、
多結晶状に形成されており、前記シリコン層との間でヘテロPN接合を成しているP型のゲルマニウム含有層と、
前記シリコン層に電気的に接続された第1電極と、
前記ゲルマニウム含有層に電気的に接続された第2電極と、を備える、光検出素子。
【請求項2】
前記ゲルマニウム含有層の厚さは、1μm以上である、請求項1に記載の光検出素子。
【請求項3】
前記シリコン層は、第1表面、及び前記第1表面とは反対側の第2表面を有し、
前記ゲルマニウム含有層は、前記第1表面に配置されており、
前記第1電極は、前記第1表面のうち前記ゲルマニウム含有層が配置されていない領域に配置されており、
前記第2電極は、前記シリコン層とは反対側の前記ゲルマニウム含有層の表面に配置されている、請求項1に記載の光検出素子。
【請求項4】
前記第1電極は、前記ゲルマニウム含有層の外縁に沿って延在している、請求項3に記載の光検出素子。
【請求項5】
前記第2電極は、前記ゲルマニウム含有層の外縁に沿って延在しており、
前記ゲルマニウム含有層の前記表面のうち前記第2電極の内側の領域には、反射防止膜が形成されている、請求項3に記載の光検出素子。
【請求項6】
前記第2表面には、反射防止膜が形成されている、請求項3に記載の光検出素子。
【請求項7】
請求項1に記載の光検出素子の製造方法であって、
前記シリコン層上に、ゲルマニウムを含む層を成膜する第1ステップと、
前記第1ステップの後に、前記ゲルマニウムを含む層を加熱することで、前記ゲルマニウムを含む層を多結晶化し、前記ゲルマニウム含有層を形成する第2ステップと、を備える、光検出素子の製造方法。
【請求項8】
前記第2ステップにおいては、500℃以上の温度で1時間以上、前記ゲルマニウムを含む層を加熱する、請求項7に記載の光検出素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2ステップにおいては、700℃以上の温度で、前記ゲルマニウムを含む層を加熱する、請求項8に記載の光検出素子の製造方法。
【請求項10】
前記第2ステップにおいては、1時間以上、前記ゲルマニウムを含む層を加熱する、請求項8に記載の光検出素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出素子、及び光検出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
短波赤外線領域の光に対して感度を有する光検出素子として、高コストな化合物半導体基板に代えてシリコン基板をベースとした光検出素子の研究が盛んである。このような光検出素子は、バイオ分野における各種分析、自動運転の制御技術等において、有効なデバイスとなり得る。例えば、特許文献1には、シリコン基板と、シリコン基板上に形成された絶縁層と、絶縁層に形成された開口部内においてシリコン基板とヘテロ接合領域を形成している単結晶のゲルマニウム結晶と、を備える受光素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的には、受光素子の性能を向上させるために、単結晶シリコン基板上に単結晶ゲルマニウム領域をいかに高い品質で形成し得るかに着目して研究が進められている。しかし、単結晶シリコン基板上に単結晶ゲルマニウム領域を大面積で形成すること(すなわち、受光領域の大面積化)は困難であり、特許文献1に記載の受光素子のように、絶縁層に形成された開口部内に単結晶のゲルマニウム結晶を形成するにとどまっている。
【0005】
本発明は、ヘテロPN接合を利用しつつ受光領域の大面積化を図ることができる光検出素子、及び光検出素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光検出素子は、[1]「単結晶状に形成されたN型のシリコン層と、多結晶状に形成されており、前記シリコン層との間でヘテロPN接合を成しているP型のゲルマニウム含有層と、前記シリコン層に電気的に接続された第1電極と、前記ゲルマニウム含有層に電気的に接続された第2電極と、を備える、光検出素子」である。
【0007】
上記[1]に記載の光検出素子では、単結晶状に形成されたN型のシリコン層との間でヘテロPN接合を成しているP型のゲルマニウム含有層が多結晶状に形成されている。これにより、ゲルマニウム含有層を大面積で形成することができ、また、大面積で形成されたゲルマニウム含有層の剥離等を抑制することができる。よって、上記[1]に記載の光検出素子によれば、ヘテロPN接合を利用しつつ受光領域の大面積化を図ることができる。
【0008】
本発明の光検出素子は、[2]「前記ゲルマニウム含有層の厚さは、1μm以上である、上記[1]に記載の光検出素子」であってもよい。当該[2]に記載の光検出素子によれば、短波赤外線領域の光に対して高い吸収性を確保することができる。
【0009】
本発明の光検出素子は、[3]「前記シリコン層は、第1表面、及び前記第1表面とは反対側の第2表面を有し、前記ゲルマニウム含有層は、前記第1表面に配置されており、前記第1電極は、前記第1表面のうち前記ゲルマニウム含有層が配置されていない領域に配置されており、前記第2電極は、前記シリコン層とは反対側の前記ゲルマニウム含有層の表面に配置されている、上記[1]又は[2]に記載の光検出素子」であってもよい。当該[3]に記載の光検出素子によれば、第1電極が単結晶のシリコン層上に形成されることになるため、取り出される電流信号に重畳されるノイズを抑制することができる。
【0010】
本発明の光検出素子は、[4]「前記第1電極は、前記ゲルマニウム含有層の外縁に沿って延在している、上記[3]に記載の光検出素子」であってもよい。当該[4]に記載の光検出素子によれば、シリコン層とゲルマニウム含有層との境界領域に形成される空乏層から効率良く電流信号を取り出すことができる。
【0011】
本発明の光検出素子は、[5]「前記第2電極は、前記ゲルマニウム含有層の外縁に沿って延在しており、前記ゲルマニウム含有層の前記表面のうち前記第2電極の内側の領域には、反射防止膜が形成されている、上記[3]又は[4]に記載の光検出素子」であってもよい。当該[5]に記載の光検出素子によれば、シリコン層とは反対側のゲルマニウム含有層の表面から検出対象の光を効率良く入射させることができ、更にその場合に、シリコン層とゲルマニウム含有層との境界領域に形成される空乏層から効率良く電流信号を取り出すことができる。
【0012】
本発明の光検出素子は、[6]「前記第2表面には、反射防止膜が形成されている、上記[3]又は[4]に記載の光検出素子」であってもよい。当該[6]に記載の光検出素子によれば、ゲルマニウム含有層とは反対側のシリコン層の第2表面から検出対象の光を効率良く入射させることができ、更にその場合に、シリコン層とゲルマニウム含有層との境界領域に形成される空乏層から効率良く電流信号を取り出すことができる。
【0013】
本発明の光検出素子の製造方法は、[7]「上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の光検出素子の製造方法であって、前記シリコン層上に、ゲルマニウムを含む層を成膜する第1ステップと、前記第1ステップの後に、前記ゲルマニウムを含む層を加熱することで、前記ゲルマニウムを含む層を多結晶化し、前記ゲルマニウム含有層を形成する第2ステップと、を備える、光検出素子の製造方法」である。
【0014】
上記[7]に記載の光検出素子の製造方法によれば、ゲルマニウム含有層を大面積で形成することができる。
【0015】
本発明の光検出素子の製造方法は、[8]「前記第2ステップにおいては、500℃以上の温度で1時間以上、前記ゲルマニウムを含む層を加熱する、上記[7]に記載の光検出素子の製造方法」であってもよい。当該[8]に記載の光検出素子の製造方法によれば、ゲルマニウムを含む層を確実に多結晶化することができる。
【0016】
本発明の光検出素子の製造方法は、[9]「前記第2ステップにおいては、700℃以上の温度で、前記ゲルマニウムを含む層を加熱する、上記[8]に記載の光検出素子の製造方法」であってもよい。当該[9]に記載の光検出素子の製造方法によれば、ゲルマニウムを含む層をより確実に多結晶化することができ、短波赤外線領域の光に対して高い吸収性を有するゲルマニウム含有層を得ることができる。
【0017】
本発明の光検出素子の製造方法は、[10]「前記第2ステップにおいては、1時間以上、前記ゲルマニウムを含む層を加熱する、上記[8]又は[9]に記載の光検出素子の製造方法」であってもよい。当該[10]に記載の光検出素子の製造方法によれば、ゲルマニウムを含む層を多結晶化することができ、短波赤外線領域の光に対して高い吸収性を有するゲルマニウム含有層を得ることができる。。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ヘテロPN接合を利用しつつ受光領域の大面積化を図ることができる光検出素子、及び光検出素子の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】
図1に示される光検出素子の製造方法を示す図である。
【
図4】
図1に示される光検出素子の製造方法を示す図である。
【
図5】X線回折による結晶性の評価結果を示す図である。
【
図6】X線回折による結晶性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1実施形態]
【0021】
図1は、第1実施形態の光検出素子1Aの断面図であり、
図2は、
図1に示される光検出素子1Aの平面図である。
図1及び
図2に示されるように、光検出素子1Aは、シリコン層2と、ゲルマニウム含有層3と、第1電極4と、第2電極5と、反射防止膜6と、を備えている。なお、
図2では、反射防止膜6の図示が省略されている。
【0022】
シリコン層2は、単結晶状に形成されたN型のシリコン層である。シリコン層2は、第1表面2a、及び第1表面2aとは反対側の第2表面2bを有している。一例として、シリコン層2は、矩形板状の単結晶シリコン基板である。シリコン層2の厚さは、例えば数百μm程度であり、シリコン層2の厚さ方向から見た場合におけるシリコン層2の一辺の長さは、例えば数mm程度である。
【0023】
ゲルマニウム含有層3は、多結晶状に形成されており、シリコン層2との間でヘテロPN接合を成しているP型のゲルマニウム含有層である。ゲルマニウム含有層3は、シリコン層2の第1表面2aに配置されている。シリコン層2とゲルマニウム含有層3との境界領域には、空乏層Dが形成されている。なお、シリコン層2のキャリヤ濃度(N型の不純物の濃度)は、空乏層Dがシリコン層2側よりもゲルマニウム含有層3側に優先的に形成されるように(すなわち、空乏層Dのうちゲルマニウム含有層3側に形成される領域の厚さが、空乏層Dのうちシリコン層2側に形成される領域の厚さよりも大きくなるように)調整されている。
【0024】
シリコン層2の厚さ方向(すなわち、第1表面2aに垂直な方向)から見た場合に、ゲルマニウム含有層3の外縁は、シリコン層2の外縁の内側に位置している。換言すれば、シリコン層2の厚さ方向から見た場合に、ゲルマニウム含有層3は、第1表面2aのうちゲルマニウム含有層3が配置されていない領域に包囲されている。ゲルマニウム含有層3は、例えば、円形膜状に形成されている。シリコン層2の厚さ方向から見た場合におけるゲルマニウム含有層3の直径は、例えば、数μm~数mm程度である。
【0025】
ゲルマニウム含有層3は、「ゲルマニウムによって形成された層」、「ゲルマニウム及びスズの混晶物によって形成された層」又は「ゲルマニウム及びシリコンの混晶物によって形成された層」である。つまり、ゲルマニウム含有層3は、「ゲルマニウム単体からなる層」又は「ゲルマニウムを主体とし、周期律表においてIV族のスズ若しくはシリコンを含む混晶物の層」である。ゲルマニウム含有層3のキャリヤ濃度は、ゲルマニウム含有層3内に空乏層Dが拡がるように、成膜条件等によって最適化されている。ゲルマニウム含有層3の厚さは、1μm以上2μm以下である。なお、ゲルマニウム含有層3が「ゲルマニウムによって形成された層」である場合よりも、ゲルマニウム含有層3が「ゲルマニウム及びスズの混晶物によって形成された層」である場合のほうが、エネルギーバンドギャップが狭くなるため、より長波長側の光感度を増強することが可能となる。
【0026】
第1電極4は、シリコン層2に電気的に接続されている。第1電極4は、シリコン層2の第1表面2aのうちゲルマニウム含有層3が配置されていない領域に配置されている。第1電極4は、シリコン層2の厚さ方向から見た場合に、ゲルマニウム含有層3の外縁の外側において、ゲルマニウム含有層3の外縁に沿って延在している。第1電極4は、例えば円環状に延在している。第1電極4は、例えば、チタン、又は、チタン及び金の積層体によって形成されている。
【0027】
第2電極5は、ゲルマニウム含有層3に電気的に接続されている。第2電極5は、シリコン層2とは反対側のゲルマニウム含有層3の表面3aに配置されている。第2電極5は、シリコン層2の厚さ方向から見た場合に、ゲルマニウム含有層3の外縁の内側において、ゲルマニウム含有層3の外縁に沿って延在している。第2電極5は、例えば円環状に延在している。第2電極5は、例えば、金、白金、又は、白金と金との積層体によって形成されている。
【0028】
反射防止膜6は、ゲルマニウム含有層3の表面3aのうち第2電極5の内側の領域に形成されている。本実施形態では、ゲルマニウム含有層3の表面3aのうち第2電極5の外側の領域、ゲルマニウム含有層3の側面、シリコン層2の第1表面2aのうちゲルマニウム含有層3と第1電極4との間の領域、及びシリコン層2の第1表面2aのうち第1電極4の外側の領域にも、反射防止膜6が形成されており、これらの領域に形成された反射防止膜6は、保護膜として機能する。反射防止膜6は、例えば、酸化シリコン又は窒化シリコンによって形成されている。
【0029】
以上のように構成された光検出素子1Aでは、ゲルマニウム含有層3の表面3aに形成された反射防止膜6を介してゲルマニウム含有層3に検出対象の光hνが入射すると、光hνがゲルマニウム含有層3において吸収され、ゲルマニウム含有層3において光電変換が起こる。これにより発生したキャリヤが、空乏層Dから第1電極4及び第2電極5を介して、電流信号として取り出される。なお、検出対象の光hνは、短波赤外線領域の光である。
【0030】
次に、光検出素子1Aの製造方法について説明する。
図3及び
図4は、
図1に示される光検出素子1Aの製造方法を示す図である。なお、
図3及び
図4には、一つの光検出素子1Aに相当する部分が図示されているが、実際には、複数の光検出素子1Aに相当する複数の部分を含むウェハのレベルで各ステップが実施され、最後に、ウェハがダイシングされることで複数の光検出素子1Aが得られる。
【0031】
まず、
図3の(a)に示されるように、シリコン層2上に、ゲルマニウムを含む層30が成膜される(第1ステップ)。一例として、第1ステップは、100℃以上150℃以下(例えば、125℃)に加熱された成膜装置(例えば、RFスパッタリング装置)内において実施される。
【0032】
続いて、
図3の(b)に示されるように、ゲルマニウムを含む層30が加熱されることで、ゲルマニウムを含む層30が多結晶化され、ゲルマニウム含有層3が形成される(第2ステップ)。一例として、第2ステップは、不活性ガス(例えば、窒素)が満たされた熱処理装置(例えば、電気炉)内において実施される。第2ステップにおいては、ゲルマニウムを含む層30が500℃以上の温度で加熱されることが好ましく、ゲルマニウムを含む層30が700℃以上の温度で加熱されることがより好ましい。第2ステップにおいては、ゲルマニウムを含む層30が1時間以上加熱されることが好ましい。
【0033】
続いて、
図3の(c)に示されるように、ゲルマニウム含有層3の表面3a、ゲルマニウム含有層3の側面、及びシリコン層2の第1表面2aのうちゲルマニウム含有層3が配置されていない領域に、反射防止膜6が形成される。続いて、
図4の(a)に示されるように、反射防止膜6がパターニングされ、
図4の(b)に示されるように、反射防止膜6が除去された領域に第1電極4及び第2電極5が形成される。
【0034】
図5及び
図6は、X線回折による結晶性の評価結果(具体的には、2θ-ωスキャン結果)を示す図である。
図5の(a)における評価対象は、通常仕様のシリコンウェハ上に所定条件でゲルマニウムを成膜し、窒素で満たされた電気炉内において「400℃で5時間」加熱することで、得られたものである。
図5の(b)における評価対象は、通常仕様のシリコンウェハ上に所定条件でゲルマニウムを成膜し、窒素で満たされた電気炉内において「500℃で5時間」加熱することで、得られたものである。
図6の(a)における評価対象は、通常仕様のシリコンウェハ上に所定条件でゲルマニウムを成膜し、窒素で満たされた電気炉内において「600℃で5時間」加熱することで、得られたものである。
図6の(b)における評価対象は、通常仕様のシリコンウェハ上に所定条件でゲルマニウムを成膜し、窒素で満たされた電気炉内において「700℃で5時間」加熱することで、得られたものである。
【0035】
図5の(a)に示されるように、「400℃で5時間」加熱されたものについては、ゲルマニウムの結晶性を示す回折ピークが現れていない。
図5の(b)並びに
図6の(a)及び(b)に示されるように、「500℃で5時間」加熱されたもの、「600℃で5時間」加熱されたもの、及び「700℃で5時間」加熱されたものについては、ゲルマニウムの結晶性を示す複数の回折ピークが現れており、温度が高いほど、ゲルマニウムの結晶性を示す回折ピークの数及び強度が増えている。このことから、ゲルマニウムの多結晶化には、500℃以上の温度での加熱が好ましいことが分かる。ただし、例えば加熱時間を長くすれば、500℃未満の温度での加熱でも、ゲルマニウムの多結晶化を実現し得る。なお、
図6の(b)に示されるように、「700℃で5時間」加熱されたものについても、シリコンの面方位(001)に沿った(004)の回折ピーク(66.0°)が現れていないから、ゲルマニウムの多結晶化は、支持基板であるシリコンウェハの結晶方位とは無関係に進行したことが分かる。
【0036】
図7は、透過率の評価結果を示す図である。
図7における評価対象は、上述した
図5及び
図6に示される評価結果と同様に、通常仕様のシリコンウェハ上に上記所定条件でゲルマニウムを成膜し、異なる条件で加熱することで、得られたものである。
図7の(a)に示されるように、700℃、800℃で加熱されたものでは、500℃、600℃で加熱されたものに比べ、短波赤外線領域の光に対する透過率が大きく低下している。このことから、短波赤外線領域の光に対する高い吸収性の確保には、700℃以上の温度での加熱が好ましいことが分かる。また、
図7の(b)に示されるように、700℃で加熱した場合には、1時間以上加熱したすべてのものにおいて短波赤外線領域の光に対する透過率が十分低く、このことから、少なくとも1時間加熱すればよいことが分かる。
【0037】
以上説明したように、光検出素子1Aでは、単結晶状に形成されたN型のシリコン層2との間でヘテロPN接合を成しているP型のゲルマニウム含有層3が多結晶状に形成されている。これにより、ゲルマニウム含有層3を大面積で形成することができ、また、大面積で形成されたゲルマニウム含有層3の剥離等を抑制することができる。よって、光検出素子1Aによれば、ヘテロPN接合を利用しつつ受光領域の大面積化を図ることができる。
【0038】
光検出素子1Aでは、ゲルマニウム含有層3の厚さが1μm以上である。これにより、短波赤外線領域の光hνに対して高い吸収性を確保することができる。なお、波長1.0~1.6μmの光に対するゲルマニウムの吸収係数α(αは「I(x)=I0exp(-αx)」から導出される)は約106m-1であり、1μm(αの逆数)の深さで強度が1/e(=0.37)になるとされることから、ゲルマニウム含有層3の厚さは1μm以上であることが好ましい。また、ゲルマニウム含有層3の厚さが2μmを超えると、ゲルマニウム含有層3の剥離等が生じやすくなったり、或いは、光検出素子1Aの製造時に、ゲルマニウムを含む層30の全体が多結晶化されにくくなったりする。したがって、ゲルマニウム含有層3の厚さは2μm以下であることが好ましい。
【0039】
光検出素子1Aでは、ゲルマニウム含有層3がシリコン層2の第1表面2aに配置されており、第1電極4が、シリコン層2の第1表面2aのうちゲルマニウム含有層3が配置されていない領域に配置されており、第2電極5が、シリコン層2とは反対側のゲルマニウム含有層3の表面3aに配置されている。これにより、第1電極4が単結晶のシリコン層2上に形成されることになるため、取り出される電流信号に重畳されるノイズを抑制することができる。
【0040】
なお、P型のゲルマニウム含有層3内にN型の不純物領域を形成することで、ゲルマニウム含有層3内にPN接合を形成する構成も考えられる。しかし、その場合、第1電極4及び第2電極5の両方を多結晶状のゲルマニウム含有層3上に設ける必要が生じるため、取り出される電流信号に重畳されるノイズが増大するおそれがある。それに対し、N型のシリコン層2とP型のゲルマニウム含有層3との間でヘテロPN接合を成している光検出素子1Aでは、第1電極4及び第2電極5の両方を多結晶状のゲルマニウム含有層3上に設ける必要がないため、光検出素子1Aは、取り出される電流信号に重畳されるノイズを抑制し得る点で有利である。
【0041】
光検出素子1Aでは、第1電極4がゲルマニウム含有層3の外縁に沿って延在している。これにより、シリコン層2とゲルマニウム含有層3との境界領域に形成される空乏層Dから効率良く電流信号を取り出すことができる。
【0042】
光検出素子1Aでは、第2電極5がゲルマニウム含有層3の外縁に沿って延在しており、ゲルマニウム含有層3の表面3aのうち第2電極5の内側の領域に反射防止膜6が形成されている。これにより、シリコン層2とは反対側のゲルマニウム含有層3の表面3aから検出対象の光hνを効率良く入射させることができ、更にその場合に、シリコン層2とゲルマニウム含有層3との境界領域に形成される空乏層Dから効率良く電流信号を取り出すことができる。
【0043】
光検出素子1Aの製造方法は、シリコン層2上に、ゲルマニウムを含む層30を成膜する第1ステップと、第1ステップの後に、ゲルマニウムを含む層30を加熱することで、ゲルマニウムを含む層30を多結晶化し、ゲルマニウム含有層3を形成する第2ステップと、を備える。これにより、ゲルマニウム含有層3を大面積で形成することができる。
【0044】
光検出素子1Aの製造方法では、第2ステップにおいて、500℃以上の温度で1時間以上、ゲルマニウムを含む層30を加熱する。これにより、ゲルマニウムを含む層30を確実に多結晶化することができる。
【0045】
光検出素子1Aの製造方法では、第2ステップにおいて、700℃以上の温度で、ゲルマニウムを含む層30を加熱する。これにより、ゲルマニウムを含む層30をより確実に多結晶化することができ、短波赤外線領域の光hνに対して高い吸収性を有するゲルマニウム含有層3を得ることができる。
【0046】
光検出素子1Aの製造方法では、第2ステップにおいて、1時間以上、ゲルマニウムを含む層30を加熱する。これにより、短波赤外線領域の光hνに対して高い吸収性を有するゲルマニウム含有層3を得ることができる。
[第2実施形態]
【0047】
図8は、第2実施形態の光検出素子1Bの断面図であり、
図9は、
図8に示される光検出素子1Bの底面図である。
図8及び
図9に示されるように、光検出素子1Bは、シリコン層2と、ゲルマニウム含有層3と、第1電極4と、第2電極5と、反射防止膜6と、保護膜7と、を備えている。なお、
図9では、保護膜7の図示が省略されている。
【0048】
光検出素子1Bにおいて、シリコン層2、ゲルマニウム含有層3及び第1電極4の構成は、上述した光検出素子1Aと同一である。光検出素子1Bでは、第2電極5がゲルマニウム含有層3の表面3aの略全体に形成されており、反射防止膜6がシリコン層2の第2表面2bに形成されている。保護膜7は、ゲルマニウム含有層3の表面3aのうち第2電極5の外側の領域、ゲルマニウム含有層3の側面、シリコン層2の第1表面2aのうちゲルマニウム含有層3と第1電極4との間の領域、及びシリコン層2の第1表面2aのうち第1電極4の外側の領域に形成されている。保護膜7は、例えば、酸化シリコン又は窒化シリコンによって形成されている。光検出素子1Bでは、第1電極4及び第2電極5が検出対象の光hνの入射側とは反対側に配置されているため、集積回路等に第1電極4及び第2電極5をバンプ等によって接続することができる。
【0049】
以上のように構成された光検出素子1Bでは、シリコン層2の第2表面2bに形成された反射防止膜6を介してシリコン層2に検出対象の光hνが入射すると、光hνがシリコン層2を透過してゲルマニウム含有層3において吸収され、ゲルマニウム含有層3において光電変換が起こる。これにより発生したキャリヤが、空乏層Dから第1電極4及び第2電極5を介して、電流信号として取り出される。なお、検出対象の光hνは、短波赤外線領域の光である。
【0050】
なお、光検出素子1Bの製造方法は、上述した光検出素子1Aの製造方法と同様に、シリコン層2上に、ゲルマニウムを含む層30を成膜する第1ステップと、第1ステップの後に、シリコン層2を加熱することで、ゲルマニウムを含む層30を多結晶化し、ゲルマニウム含有層3を形成する第2ステップと、を備える。
【0051】
以上説明したように、光検出素子1Bでは、単結晶状に形成されたN型のシリコン層2との間でヘテロPN接合を成しているP型のゲルマニウム含有層3が多結晶状に形成されている。これにより、ゲルマニウム含有層3を大面積で形成することができ、また、大面積で形成されたゲルマニウム含有層3の剥離等を抑制することができる。よって、光検出素子1Bによれば、ヘテロPN接合を利用しつつ受光領域の大面積化を図ることができる。
【0052】
光検出素子1Bでは、ゲルマニウム含有層3の厚さが1μm以上である。これにより、短波赤外線領域の光hνに対して高い吸収性を確保することができる。
【0053】
光検出素子1Bでは、ゲルマニウム含有層3がシリコン層2の第1表面2aに配置されており、第1電極4が、シリコン層2の第1表面2aのうちゲルマニウム含有層3が配置されていない領域に配置されており、第2電極5が、シリコン層2とは反対側のゲルマニウム含有層3の表面3aに配置されている。これにより、第1電極4が単結晶のシリコン層2上に形成されることになるため、取り出される電流信号に重畳されるノイズを抑制することができる。
【0054】
光検出素子1Bでは、第1電極4がゲルマニウム含有層3の外縁に沿って延在している。これにより、シリコン層2とゲルマニウム含有層3との境界領域に形成される空乏層Dから効率良く電流信号を取り出すことができる。
【0055】
光検出素子1Bでは、シリコン層2の第2表面2bに反射防止膜6が形成されている。これにより、ゲルマニウム含有層3とは反対側のシリコン層2の第2表面2bから検出対象の光hνを効率良く入射させることができ、更にその場合に、シリコン層2とゲルマニウム含有層3との境界領域に形成される空乏層Dから効率良く電流信号を取り出すことができる。
【0056】
なお、P型のゲルマニウム含有層3内にN型の不純物領域を形成することで、ゲルマニウム含有層3内にPN接合を形成する構成では、ゲルマニウム含有層3内の空乏層に光hνが到達する前に、ゲルマニウム含有層3において光hνの一部が吸収されるおそれがある。それに対し、光検出素子1Bでは、シリコン層2を透過してゲルマニウム含有層3に到達した光hνが、ゲルマニウム含有層3の空乏層Dにおいて吸収されることになるため(つまり、光hνがシリコン層2を透過して、ゲルマニウム含有層3の空乏層Dのうち電界強度が最も高い領域に直接到達するため)、光検出素子1Bは、光電変換によって発生したキャリヤを確実に捉え得る点で有利である。
【0057】
光検出素子1Bの製造方法は、シリコン層2上に、ゲルマニウムを含む層30を成膜する第1ステップと、第1ステップの後に、ゲルマニウムを含む層30を加熱することで、ゲルマニウムを含む層30を多結晶化し、ゲルマニウム含有層3を形成する第2ステップと、を備える。これにより、ゲルマニウム含有層3を大面積で形成することができる。
【0058】
光検出素子1Bの製造方法では、第2ステップにおいて、500℃以上の温度で1時間以上、ゲルマニウムを含む層30を加熱する。これにより、ゲルマニウムを含む層30を確実に多結晶化することができる。
【0059】
光検出素子1Bの製造方法では、第2ステップにおいて、700℃以上の温度で、ゲルマニウムを含む層30を加熱する。これにより、ゲルマニウムを含む層30をより確実に多結晶化することができ、短波赤外線領域の光hνに対して高い吸収性を有するゲルマニウム含有層3を得ることができる。
【0060】
光検出素子1Bの製造方法では、第2ステップにおいて、1時間以上、ゲルマニウムを含む層30を加熱する。これにより、短波赤外線領域の光hνに対して高い吸収性を有するゲルマニウム含有層3を得ることができる。
[変形例]
【0061】
本発明は、上記実施形態に限定されない。例えば、第1電極4及び第2電極5の形状及び位置等は、上述したものに限定されない。第1電極4は、シリコン層2に電気的接続されるものであればよく、第2電極5は、ゲルマニウム含有層3に電気的に接続されるものであればよい。また、ゲルマニウム含有層3の厚さは、1μm未満であってもよく、2μm以上であってもよい。また、反射防止膜6は、シリコン層2の第2表面2b及びゲルマニウム含有層3の表面3aの両方に形成されていなくてもよいし、或いは、シリコン層2の第2表面2b及びゲルマニウム含有層3の表面3aの両方に形成されていてもよい。また、各光検出素子1A,1Bは、ゲルマニウム含有層3によって構成される一つの受光部を備えるものに限定されず、ゲルマニウム含有層3によって構成される複数の受光部を備えるものであってもよい。また、シリコン層2は、単結晶状に形成されたN型のシリコン層であれば、単結晶シリコン基板に限定されず、例えば、シリコン基板上に形成されたエピタキシャル成長層であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1A,1B…光検出素子、2…シリコン層、2a…第1表面、2b…第2表面、3…ゲルマニウム含有層、3a…表面、4…第1電極、5…第2電極、6…反射防止膜、7…保護膜、30…ゲルマニウムを含む層。