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特開2024-4713血流抽出画像形成装置、血流抽出画像形成方法、及び、血流抽出画像形成プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004713
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】血流抽出画像形成装置、血流抽出画像形成方法、及び、血流抽出画像形成プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
A61B8/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104477
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 紘資
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD03
4C601EE04
4C601JC06
4C601JC16
4C601JC23
4C601KK31
(57)【要約】
【課題】微細血管を抽出した血流抽出画像におけるクラッタ成分をより低減する。
【解決手段】相関行列演算部40は、フレームデータFの各データ要素Eについての、複数のフレームデータFにおける信号値の相関を示す相関行列Rzxを演算する。特異値分解演算部42は、相関行列Rzxを特異値分解する。血流輝度画像形成部44aは、特異値分解により得られた、第1閾値ランク以下のランクの固有値λ及び当該固有値λに対応する固有ベクトルw,w に基づいて血流抽出フィルタPk,Nを構成し、フレームデータFに血流抽出フィルタPk,Nを適用することで血流輝度画像Uk,Nを形成する。組織画像形成部44bは、複数のフレームデータFを構成する各データ要素Eの信号値に基づいて、組織成分を含む組織画像を形成する。血流抽出画像形成部44cは、血流輝度画像Uk,Nから組織画像を差し引くことで、血流抽出画像Uoutを形成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して超音波を送受信する超音波プローブが同一の走査面に対して複数回超音波を送信し、前記被検体からの前記超音波の反射波を受信することにより得られた複数の受信信号に基づいて生成された、前記反射波の信号強度を示す信号値を有する、複数フレーム分の複数のフレームデータを取得するフレームデータ取得部と、
前記フレームデータから形成される超音波画像の各画素に対応する前記フレームデータの各データ要素についての、前記複数のフレームデータにおける前記信号値の相関を示す相関行列を演算する相関行列演算部と、
前記相関行列を特異値分解することで、その大きさ順にランクが定義された複数の特異値、及び、各特異値に対応する複数の特異ベクトルを演算する特異値分解演算部と、
予め設定された第1閾値ランク以下のランクの前記特異値及び当該特異値に対応する前記特異ベクトルから構成される血流抽出フィルタを前記フレームデータに適用して、血流輝度画像を形成する血流輝度画像形成部と、
前記複数のフレームデータを構成する各前記データ要素の前記信号値に基づいて組織画像を形成する組織画像形成部と、
前記血流輝度画像から前記組織画像を差し引いて血流抽出画像を形成する血流抽出画像形成部と、
を備えることを特徴とする血流抽出画像形成装置。
【請求項2】
前記組織画像形成部は、前記第1閾値ランクより大きいランクの前記特異値及び当該特異値に対応する前記特異ベクトルから構成される組織抽出フィルタを前記フレームデータに適用して、前記組織画像を形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の血流抽出画像形成装置。
【請求項3】
前記フレームデータにおいて、組織に対応する前記データ要素を含む演算対象領域を特定する演算対象領域特定部、
をさらに備え、
前記相関行列演算部は、前記演算対象領域に限定して前記相関行列の演算を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の血流抽出画像形成装置。
【請求項4】
前記演算対象領域特定部は、前記フレームデータを構成する一部の前記データ要素を間引いた間引きフレームデータを前記演算対象領域とする、
ことを特徴とする請求項3に記載の血流抽出画像形成装置。
【請求項5】
前記演算対象領域特定部は、前記フレームデータを構成する複数の前記データ要素のうち、前記信号値が閾値信号値以上の前記データ要素の集合を前記演算対象領域として特定する、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の血流抽出画像形成装置。
【請求項6】
前記演算対象領域特定部は、前記複数のフレームデータを特異値分解することで第2閾値ランクより大きいランクの信号成分から構成される上位ランク抽出データを取得し、前記上位ランク抽出データを構成する一部の前記データ要素を間引いた間引きフレームデータを前記演算対象領域とする、
ことを特徴とする請求項3に記載の血流抽出画像形成装置。
【請求項7】
前記演算対象領域特定部は、前記複数のフレームデータを特異値分解することで第2閾値ランクより大きいランクの信号成分から構成される上位ランク抽出データを取得し、前記上位ランク抽出データを構成する複数の前記データ要素のうち、前記信号値が閾値信号値以上の前記データ要素の集合を前記演算対象領域として特定する、
ことを特徴とする請求項3又は6に記載の血流抽出画像形成装置。
【請求項8】
前記血流抽出画像形成部は、前記血流輝度画像から、係数を乗じた前記組織画像を差し引いて前記血流抽出画像を形成する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の血流抽出画像形成装置。
【請求項9】
前記血流抽出画像形成部は、ユーザからの入力に基づいて前記係数を決定する、
ことを特徴とする請求項8に記載の血流抽出画像形成装置。
【請求項10】
被検体に対して超音波を送受信する超音波プローブが同一の走査面に対して複数回超音波を送信し、前記被検体からの前記超音波の反射波を受信することにより得られた複数のの受信信号に基づいて生成された、前記反射波の信号強度を示す信号値を有する、複数フレーム分の複数のフレームデータを取得するフレームデータ取得部と、
前記フレームデータから形成される超音波画像の各画素に対応する前記フレームデータのデータ要素であって、組織に対応するデータ要素を含む演算対象領域を前記フレームデータにおいて特定する演算対象領域特定部と、
前記フレームデータを構成する各前記データ要素についての、前記複数のフレームデータにおける前記信号値の相関を示す相関行列を演算する相関行列演算部であって、前記演算対象領域に限定して前記相関行列の演算を行う相関行列演算部と、
前記相関行列を特異値分解することで、その大きさ順にランクが定義された複数の特異値、及び、各特異値に対応する複数の特異ベクトルを演算する特異値分解演算部と、
予め設定された第1閾値ランク以下のランクの前記特異値及び当該特異値に対応する前記特異ベクトルから構成される血流抽出フィルタを前記フレームデータに適用して、血流輝度画像を形成する血流輝度画像形成処理、又は、前記第1閾値ランクより大きいランクの前記特異値及び当該特異値に対応する前記特異ベクトルから構成される組織抽出フィルタを前記フレームデータに適用して、組織画像を形成する組織画像形成処理の少なくとも一方を実行する画像処理部と、
を備えることを特徴とする血流抽出画像形成装置。
【請求項11】
被検体に対して超音波を送受信する超音波プローブが同一の走査面に対して複数回超音波を送信し、前記被検体からの前記超音波の反射波を受信することにより得られた複数の受信信号に基づいて生成された、前記反射波の信号強度を示す信号値を有する、複数フレーム分の複数のフレームデータを取得するフレームデータ取得ステップと、
前記フレームデータから形成される超音波画像の各画素に対応する前記フレームデータの各データ要素についての、前記複数のフレームデータにおける前記信号値の相関を示す相関行列を演算する相関行列演算ステップと、
前記相関行列を特異値分解することで、その大きさ順にランクが定義された複数の特異値、及び、各特異値に対応する複数の特異ベクトルを演算する特異値分解演算ステップと、
予め設定された第1閾値ランク以下のランクの前記特異値及び当該特異値に対応する前記特異ベクトルから構成される血流抽出フィルタを前記フレームデータに適用して、血流輝度画像を形成する血流輝度画像形成ステップと、
前記複数のフレームデータを構成する各前記データ要素についての前記信号値に基づいて組織画像を形成する組織画像形成ステップと、
前記血流輝度画像から前記組織画像を差し引いて血流抽出画像を形成する血流抽出画像形成ステップと、
を含むことを特徴とする血流抽出画像形成方法。
【請求項12】
コンピュータを、
被検体に対して超音波を送受信する超音波プローブが同一の走査面に対して複数回超音波を送信し、前記被検体からの前記超音波の反射波を受信することにより得られた複数の受信信号に基づいて生成された、前記反射波の信号強度を示す信号値を有する、複数フレーム分の複数のフレームデータを取得するフレームデータ取得部と、
前記フレームデータから形成される超音波画像の各画素に対応する前記フレームデータの各データ要素についての、前記複数のフレームデータにおける前記信号値の相関を示す相関行列を演算する相関行列演算部と、
前記相関行列を特異値分解することで、その大きさ順にランクが定義された複数の特異値、及び、各特異値に対応する複数の特異ベクトルを演算する特異値分解演算部と、
予め設定された第1閾値ランク以下のランクの前記特異値及び当該特異値に対応する前記特異ベクトルから構成される血流抽出フィルタを前記フレームデータに適用して、血流輝度画像を形成する血流輝度画像形成部と、
前記複数のフレームデータを構成する各前記データ要素についての前記信号値に基づいて組織画像を形成する組織画像形成部と、
前記血流輝度画像から前記組織画像を差し引いて血流抽出画像を形成する血流抽出画像形成部と、
として機能させることを特徴とする血流抽出画像形成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、血流抽出画像形成装置、血流抽出画像形成方法、及び、血流抽出画像形成プログラムを開示する。特に、被検体からの超音波の反射波の信号強度を示す超音波信号に基づいて被検体の血流を描出した血流抽出画像を形成するDFI(Detective Flow Imaging)の改良を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波診断装置は、目視できない被検体(本明細書においては生体)内の情報を数値又は超音波画像の形態で提示する医療用検査装置として広く利用されている。基本的な超音波画像の形成方法としては、被検体内の撮像対象に向けて超音波を送信し、被検体からの超音波の反射波の信号強度を輝度に変換する。これにより、形成された超音波画像において組織の形態が示される。
【0003】
近年、超音波信号に対する主成分分析を行うことで、被検体の血流を示す超音波画像を形成する技術が開発されている。主成分分析は、特異値分解(固有値分解含む)の解析方法に基づく統計分析の手法である。超音波信号に主成分分析を適用する場合、元の超音波信号(超音波画像)をよりよく再現する情報(例えば、組織の境界や実質などの比較的高輝度の成分)が上位の主成分に分類され、逆に、情報支配率として低い情報(例えば、組織に比べて反射率が低く、動的な血流成分)は下位の主成分に分類される。この特性を利用して、超音波信号から血流成分を特異的に抽出し画像化することが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、被検体に対する超音波の送受波により得られたドプラ信号(複数の超音波信号に対して自己相関演算などの処理により算出された位相シフト(ドプラシフト周波数)を示す信号)に対して主成分分析を実行し、体位の変化や呼吸や心臓の拍動などによる組織の移動に由来した成分(クラッタ成分)を抑圧し、血流画像の品質を高める手法が開示されている。例えば、ドプラ信号のクラッタ成分に対応する第1主成分から第3主成分までが除去され、血流成分に対応する第4主成分から第6主成分までが維持されるように、主フィルタ行列が演算される。ドプラ信号に主フィルタ行列を適用することにより、クラッタ成分を抑圧した画像が形成される。具体的には、第1の特定主成分(例えば第1主成分)、及び第2の特定主成分(例えば第6主成分)をドプラ信号から抽出し、その比を指標にして輝度の調整(重み付け)を行う。例えば、第1主成分に対する第6主成分の比率を指標とする場合、血管内に位置する画素であれば指標は1に近く、臓器組織に位置する画素であれば指標は0に近くなる。これにより、臓器組織に位置する画素はほとんど描画されずに、結果としてクラッタ成分が除去される。また、特許文献2には、主成分分析で得られた情報に対して、画像化する固有次を適応的に変動させる手法、更に映像化する信号の信号強度を固有次数に応じて調整する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-54938号公報
【特許文献2】特開2020-185122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1とは異なり、ドプラ信号ではなく、被検体からの超音波の反射波の信号強度を示す超音波信号に基づいて、被検体の血流を抽出した血流抽出画像を形成する場合を考える。上述の通り、この技術はDFIとも呼ばれる。DFIでは、反射波の信号強度を示す超音波信号に対して特異値分解を行う。超音波信号に対する特異値分解により得られる下位ランクの信号成分に基づいて構成される血流抽出フィルタは、主に血流成分を抽出し組織成分が除去されるようなフィルタとなる。したがって、超音波信号に対して血流抽出フィルタを適用することにより、微細血管(血流)を抽出した血流抽出画像を形成することができる。
【0007】
ここで、血流抽出フィルタにより抽出された信号成分には、血流を示す信号成分の他、被検体の体動などに起因する組織由来の信号成分であるクラッタ成分が含まれる場合がある。したがって、超音波信号に対して血流抽出フィルタを適用することにより形成された血流抽出画像に、当該クラッタ成分も現れてしまう場合がある。例えば肝臓の場合、心臓付近では拍動の影響を強く受けるため、微細血管に関する信号がクラッタ成分に埋没し、微細血管の視認性が著しく低下する。
【0008】
好適な血流抽出画像を得るには、血流抽出フィルタにより抽出された信号成分のうちの真に血流を示す信号成分を損なうことなく、クラッタ成分を抑制することが必要となる。
【0009】
本明細書に係る血流抽出画像形成装置、血流抽出画像形成方法、又は、血流抽出画像形成プログラムの目的は、微細血管を抽出した血流抽出画像におけるクラッタ成分をより低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に係る血流抽出画像形成装置は、被検体に対して超音波を送受信する超音波プローブが同一の走査面に対して複数回超音波を送信し、前記被検体からの前記超音波の反射波を受信することにより得られた複数の受信信号に基づいて生成された、前記反射波の信号強度を示す信号値を有する、複数フレーム分の複数のフレームデータを取得するフレームデータ取得部と、前記フレームデータから形成される超音波画像の各画素に対応する前記フレームデータの各データ要素についての、前記複数のフレームデータにおける前記信号値の相関を示す相関行列を演算する相関行列演算部と、前記相関行列を特異値分解することで、その大きさ順にランクが定義された複数の特異値、及び、各特異値に対応する複数の特異ベクトルを演算する特異値分解演算部と、予め設定された第1閾値ランク以下のランクの前記特異値及び当該特異値に対応する前記特異ベクトルから構成される血流抽出フィルタを前記フレームデータに適用して、血流輝度画像を形成する血流輝度画像形成部と、前記複数のフレームデータを構成する各前記データ要素の前記信号値に基づいて組織画像を形成する組織画像形成部と、前記血流輝度画像から前記組織画像を差し引いて血流抽出画像を形成する血流抽出画像形成部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
相関行列を特異値分解することで得られる下位ランク(第1閾値ランク以下のランク)の特異値及び特異ベクトルに基づく血流抽出フィルタをフレームデータに適用することで得られる血流輝度画像には、微細血管(血流)を表す血流成分が多く含まれる。ただし、血流輝度画像にはクラッタ成分も含まれ得る。一方、組織画像には、血流成分はあまり含まれていないが組織成分及びクラッタ成分が含まれている。したがって、上記構成により、血流輝度画像から組織画像を差し引くことで、血流輝度画像に含まれる血流成分を残しつつ、血流輝度画像からクラッタ成分が除去された血流抽出画像を得ることができる。
【0012】
前記組織画像形成部は、前記第1閾値ランクより大きいランクの前記特異値及び当該特異値に対応する前記特異ベクトルから構成される組織抽出フィルタを前記フレームデータに適用して、前記組織画像を形成するとよい。
【0013】
上記構成によれば、組織画像に含まれる血流成分をより低減でき、血流輝度画像に含まれる血流成分をより残しつつ、血流輝度画像からクラッタ成分が除去された血流抽出画像を得ることができる。
【0014】
前記フレームデータにおいて、組織に対応する前記データ要素を含む演算対象領域を特定する演算対象領域特定部、をさらに備え、前記相関行列演算部は、前記演算対象領域に限定して前記相関行列の演算を行うとよい。特に、前記演算対象領域特定部は、前記フレームデータを構成する一部の前記データ要素を間引いた間引きフレームデータを前記演算対象領域とするとよい。あるいは、前記演算対象領域特定部は、前記フレームデータを構成する複数の前記データ要素のうち、前記信号値が閾値信号値以上の前記データ要素の集合を前記演算対象領域として特定するとよい。あるいは、前記演算対象領域特定部は、前記複数のフレームデータを特異値分解することで第2閾値ランクより大きいランクの信号成分から構成される上位ランク抽出データを取得し、前記上位ランク抽出データを構成する一部の前記データ要素を間引いた間引きフレームデータを前記演算対象領域とするとよい。あるいは、前記演算対象領域特定部は、前記複数のフレームデータを特異値分解することで第2閾値ランクより大きいランクの信号成分から構成される上位ランク抽出データを取得し、前記上位ランク抽出データを構成する複数の前記データ要素のうち、前記信号値が閾値信号値以上の前記データ要素の集合を前記演算対象領域として特定するとよい。
【0015】
相関行列は、これを特異値分解することによって血流抽出フィルタ又は組織抽出フィルタを構成するためのものである。したがって、相関行列を特異値分解した結果、上位ランクの信号成分に基づいて組織抽出フィルタが構成可能であり、下位ランクの信号成分に基づいて血流抽出フィルタが構成可能である限りにおいて、必ずしもフレームデータの全体についての相関行列を得る必要はない。したがって、当該構成によれば、相関行列の演算対象が限定されるから、相関行列を求めるための演算量を低減することができる。
【0016】
前記血流抽出画像形成部は、前記血流輝度画像から、係数を乗じた前記組織画像を差し引いて前記血流抽出画像を形成するとよい。
【0017】
当該構成によれば、係数を調整することで、血流輝度画像から差し引く信号の量を調整することができる。
【0018】
前記血流抽出画像形成部は、ユーザからの入力に基づいて前記係数を決定するとよい。
【0019】
当該構成によれば、ユーザは、血流輝度画像から所望の量の信号が差し引かれた血流抽出画像を得ることができる。
【0020】
また、本明細書に係る血流抽出画像形成装置は、被検体に対して超音波を送受信する超音波プローブが同一の走査面に対して複数回超音波を送信し、前記被検体からの前記超音波の反射波を受信することにより得られた複数のの受信信号に基づいて生成された、前記反射波の信号強度を示す信号値を有する、複数フレーム分の複数のフレームデータを取得するフレームデータ取得部と、前記フレームデータから形成される超音波画像の各画素に対応する前記フレームデータのデータ要素であって、組織に対応するデータ要素を含む演算対象領域を前記フレームデータにおいて特定する演算対象領域特定部と、前記フレームデータを構成する各前記データ要素についての、前記複数のフレームデータにおける前記信号値の相関を示す相関行列を演算する相関行列演算部であって、前記演算対象領域に限定して前記相関行列の演算を行う相関行列演算部と、前記相関行列を特異値分解することで、その大きさ順にランクが定義された複数の特異値、及び、各特異値に対応する複数の特異ベクトルを演算する特異値分解演算部と、予め設定された第1閾値ランク以下のランクの前記特異値及び当該特異値に対応する前記特異ベクトルから構成される血流抽出フィルタを前記フレームデータに適用して、血流輝度画像を形成する血流輝度画像形成処理、又は、前記第1閾値ランクより大きいランクの前記特異値及び当該特異値に対応する前記特異ベクトルから構成される組織抽出フィルタを前記フレームデータに適用して、組織画像を形成する組織画像形成処理の少なくとも一方を実行する画像処理部と、を備えることを特徴とする。
【0021】
また、本明細書に係る血流抽出画像形成方法は、被検体に対して超音波を送受信する超音波プローブが同一の走査面に対して複数回超音波を送信し、前記被検体からの前記超音波の反射波を受信することにより得られた複数の受信信号に基づいて生成された、前記反射波の信号強度を示す信号値を有する、複数フレーム分の複数のフレームデータを取得するフレームデータ取得ステップと、前記フレームデータから形成される超音波画像の各画素に対応する前記フレームデータの各データ要素についての、前記複数のフレームデータにおける前記信号値の相関を示す相関行列を演算する相関行列演算ステップと、前記相関行列を特異値分解することで、その大きさ順にランクが定義された複数の特異値、及び、各特異値に対応する複数の特異ベクトルを演算する特異値分解演算ステップと、予め設定された第1閾値ランク以下のランクの前記特異値及び当該特異値に対応する前記特異ベクトルから構成される血流抽出フィルタを前記フレームデータに適用して、血流輝度画像を形成する血流輝度画像形成ステップと、前記複数のフレームデータを構成する各前記データ要素についての前記信号値に基づいて組織画像を形成する組織画像形成ステップと、前記血流輝度画像から前記組織画像を差し引いて血流抽出画像を形成する血流抽出画像形成ステップと、を含むことを特徴とする。
【0022】
また、本明細書に係る血流抽出画像形成プログラムは、コンピュータを、被検体に対して超音波を送受信する超音波プローブが同一の走査面に対して複数回超音波を送信し、前記被検体からの前記超音波の反射波を受信することにより得られた複数の受信信号に基づいて生成された、前記反射波の信号強度を示す信号値を有する、複数フレーム分の複数のフレームデータを取得するフレームデータ取得部と、前記フレームデータから形成される超音波画像の各画素に対応する前記フレームデータの各データ要素についての、前記複数のフレームデータにおける前記信号値の相関を示す相関行列を演算する相関行列演算部と、前記相関行列を特異値分解することで、その大きさ順にランクが定義された複数の特異値、及び、各特異値に対応する複数の特異ベクトルを演算する特異値分解演算部と、予め設定された第1閾値ランク以下のランクの前記特異値及び当該特異値に対応する前記特異ベクトルから構成される血流抽出フィルタを前記フレームデータに適用して、血流輝度画像を形成する血流輝度画像形成部と、前記複数のフレームデータを構成する各前記データ要素についての前記信号値に基づいて組織画像を形成する組織画像形成部と、前記血流輝度画像から前記組織画像を差し引いて血流抽出画像を形成する血流抽出画像形成部と、として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本明細書に係る血流抽出画像形成装置、血流抽出画像形成方法、又は、血流抽出画像形成プログラムによれば、微細血管を抽出した血流抽出画像におけるクラッタ成分をより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係る超音波診断装置の構成概略図である。
図2】血流描出部の構成概略図である。
図3】複数のフレームデータを示す概念図である。
図4】血流抽出画像の形成処理の流れを示す概念図である。
図5】ランクと当該ランクのフィルタ適用後のフレームデータの信号値の分散値との関係を示すグラフである。
図6A】組織画像の係数を決定するための画面の第1の例を示す図である。
図6B】組織画像の係数を決定するための画面の第2の例を示す図である。
図7A】演算対象領域特定部が行う処理の内容を示す第1の概念図である。
図7B】演算対象領域特定部が行う処理の内容を示す第2の概念図である。
図7C】演算対象領域特定部が行う処理の内容を示す第3の概念図である。
図7D】演算対象領域特定部が行う処理の内容を示す第4の概念図である。
図7E】演算対象領域特定部が行う処理の内容を示す第5の概念図である。
図7F】演算対象領域特定部が行う処理の内容を示す第6の概念図である。
図8】本実施形態に係る超音波診断装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本実施形態に係る血流抽出画像形成装置としての超音波診断装置10の構成概略図である。超音波診断装置10は、病院などの医療機関に設置され、生体である被検体に対する超音波の送受波により得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成及び表示する装置である。
【0026】
特に、超音波診断装置10においては、詳しくは後述するように、被検体からの超音波の反射波の信号強度を示す超音波信号(本実施形態では複数のフレームデータ)に基づいて、被検体の微細血管(血流)を描出した血流抽出画像を形成する。すなわち、超音波診断装置10においては、DFIの機能を有している。
【0027】
超音波プローブであるプローブ12は、超音波の送信及び反射波の受信を行うデバイスである。具体的には、プローブ12は、被検体の体表に当接され、被検体に向けて超音波を送信し、被検体内の組織において反射した反射波を受信する。プローブ12内には、複数の振動素子からなる振動素子アレイが設けられている。振動素子アレイに含まれる各振動素子には、後述の送信部14から電気信号である送信信号が供給され、これにより、超音波ビームが生成される。また、振動素子アレイに含まれる各振動素子は、被検体からの反射波を受信し、反射波を電気信号である受信信号に変換して後述の受信部16に送信する。
【0028】
送信部14は、送信ビームフォーマとして機能する。送信部14は、超音波の送信時において、複数の送信信号をプローブ12(詳しくは振動素子アレイ)に対して並列的に供給する。これにより、プローブ12から超音波ビームが送信される。具体的には、送信信号に基づいて、超音波ビームが走査面内において走査される。本実施形態では、同一の走査面において、複数回(互いに異なるタイミングで)超音波ビームが走査される。
【0029】
フレームデータ取得部としての受信部16は、受信ビームフォーマとして機能する。受信部16は、反射波の受信時において、プローブ12(詳しくは振動素子アレイ)からの複数の受信信号を並列的に受け取る。受信部16は、受信信号に対して、整層加算処理などの処理を実施し、これにより受信ビームデータを生成する。受信ビームデータは、被検体の深さ方向に並ぶ、被検体の各深度からの反射波の信号強度を示す複数の信号値を有する。走査面に対応する複数の受信ビームデータであって1枚のBモード画像(反射波の振幅強度が輝度に変換された断層画像)に相当する複数の受信ビームデータによってフレームデータが生成される。上述の通り、本実施形態では、同一の走査面に対して複数回、超音波が送信されるため、同一の走査面に対応し、互いに異なるタイミングで得られた複数フレーム分の複数のフレームデータが生成される。
【0030】
信号処理部18は、受信部16からのフレームデータ(各受信ビームデータ)に対して、検波処理、対数増幅処理、ゲイン補正処理、あるいはフィルタ処理などを含む各種信号処理を行う。
【0031】
シネメモリ20は、信号処理部18で処理された複数のフレームデータを記憶するメモリである。シネメモリ20は、信号処理部18からのフレームデータを入力された順番に出力するFIFO(First In First Out)バッファである。
【0032】
血流描出部22は、同一の走査面に対して複数回超音波を送信することで得られた複数のフレームデータ(反射波の信号強度を示す超音波信号)に基づいて、微細血管(血流)が抽出された血流抽出画像を形成する。血流描出部22が行う処理の詳細については後述する。
【0033】
表示制御部24は、血流描出部22で形成された血流抽出画像を含む種々の画像を、例えば液晶パネルなどにより構成されるディスプレイ26に表示させる。
【0034】
入力インターフェース28は、例えばボタン、トラックボール、あるいはタッチパネルなどから構成される。入力インターフェース28は、ユーザの指示を超音波診断装置10に入力するためのものである。
【0035】
メモリ30は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、eMMC(embedded Multi Media Card)、ROM(Read Only Memory)あるいはRAM(Random Access Memory)などを含んで構成される。メモリ30には、超音波診断装置10の各部を動作させるための血流抽出画像形成プログラムが記憶される。なお、血流抽出画像形成プログラムは、USB(Universal Serial Bus)メモリ又はCD-ROMなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納することもできる。超音波診断装置10は、そのような記憶媒体から血流抽出画像形成プログラムを読み取って実行することができる。
【0036】
制御部32は、汎用的なプロセッサ(例えばCPU(Central Processing Unit)など)、及び、専用のプロセッサ(例えばGPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、あるいは、プログラマブル論理デバイスなど)の少なくとも1つを含んで構成される。制御部32としては、1つの処理装置によるものではなく、物理的に離れた位置に存在する複数の処理装置の協働により構成されるものであってもよい。制御部32は、メモリ30に記憶された血流抽出画像形成プログラムに従って、超音波診断装置10の各部を制御する。
【0037】
なお、送信部14、受信部16、信号処理部18、血流描出部22、及び、表示制御部24の各部は、1又は複数のプロセッサ、チップ、電気回路などによって構成されている。これらの各部がハードウェアとソフトウエアとの協働により実現されてもよい。
【0038】
図2は、血流描出部22の構成概略図である。以下、図2以降の図面を参照しつつ、血流描出部22における処理の詳細を説明する。
【0039】
まず、血流描出部22の処理対象となる複数のフレームデータについて説明する。図3は、複数のフレームデータFを示す概念図である。上述の通り、1つのフレームデータFは、それが有する反射波の信号強度が輝度に変換されると1枚のBモード画像が形成される。本明細書では、Bモード画像の各画素に対応するフレームデータFのデータ部分をデータ要素Eと呼ぶ。1つのフレームデータFにおいては、各データ要素Eは、方位方向(X軸)及び深度方向(Z軸)の2次元に並んでいる。各データ要素Eは、反射波の信号強度を示す信号値(以下、単に「信号値」と記載する場合がある)を有している。
【0040】
上述の通り各フレームデータFは互いに異なるタイミングで取得されるから、複数の(N個の)フレームデータFは時間方向に並んでいる。N個のフレームデータFを用いて血流抽出画像が形成される。Nが大きい方が、より正確な(よりクラッタ成分が低減された)血流抽出画像を形成し得るが、その分演算量が大きくなる。本実施形態では、Nは10~20程度の値に設定される。
【0041】
複数のフレームデータFが時間方向に並んでいるため、ある1つのデータ要素Eに着目すると、複数のフレームデータF間における対応するデータ要素Eの集合であって、時間方向に並ぶデータ要素Eの集合(N個のデータ要素E)を定義することができる。本明細書においては、このようなN個のデータ要素Eを要素として持つベクトルを定義し、これをベクトルuzxと記載する。例えば、u11は、各フレームデータFの(z,x)=(1,1)に位置するN個のデータ要素Eを要素として持つベクトルである。そして、ベクトルuzx(z=1~Z,x=1~X)を要素として持つ行列を行列Uと記載する。行列Uは、血流抽出画像を形成するための複数のフレームデータFを示すものであり、以下のように示される。
【数1】
【0042】
相関行列演算部40は、フレームデータFの各データ要素Eについての、複数のフレームデータFにおける信号値の相関を示す相関行列を演算する。すなわち、相関行列演算部40は、各ベクトルuzxについて、ベクトルuzxに含まれる各要素間の相関を演算する。なお、本実施形態では、相関行列演算部40は、フレームデータFの全体(つまり全てのベクトルuzx(z=1~Z,x=1~X))についての相関行列を演算する。
【0043】
相関行列(自身との共分散行列)は、ベクトルuzxと、自身の転置との積で表すことができるため、相関行列Rzxは以下の式1で演算される。
【数2】
各ベクトルuzxについての各相関行列Rzxは、N×Nの正方行列となる。
【0044】
また、相関行列演算部40は、各ベクトルuzxについての各相関行列Rzxを全データ要素Eで平均化する。平均相関行列は、以下の式2で表される。
【数3】
仮に、各相関行列Rzx毎に、以下の特異値分解を行うとすると、その演算量が膨大となり得る。それに加え、特異値分解の対象となる相関行列Rzxが、組織成分のみ又は血流成分のみに関するものとなる場合が存在し得、適切な特異値分解が困難となる場合もある。したがって、本実施形態では、各相関行列Rzxを平均化した平均相関行列を演算し、平均相関行列を特異値分解の対象としている。
【0045】
特異値分解演算部42は、相関行列演算部40により演算された相関行列を特異値分解する。本実施形態では、特異値分解演算部42は、平均相関行列を特異値分解する。本実施形態では、平均相関行列は正方行列であるから、特異値分解演算部42は、平均相関行列を固有値分解する。平均相関行列の固有値分解は、以下の式3で表される。なお、特異値分解の対象となる行列が非正方行列である場合については後述する。
【数4】
式3において、行列Λは、対角要素にN個の特異値としての固有値λが並べられた対角行列であり、以下のように表される。
【数5】
行列Wは、N個の固有値λにそれぞれ対応するN個の特異ベクトルとしての固有ベクトルwを並べた行列である。このように、固有値分解により、平均相関行列は、N個の固有値λと、各固有値λに対応するN個の固有ベクトルw,w との積和で表されることになる。換言すれば、特異値分解演算部42は、固有値分解により、平均相関行列を表すN個の固有値λと、各固有値λに対応するN個の固有ベクトルw,w を演算する。
【0046】
行列Λにおいて、複数の固有値λは、その大きさ順に並べられる。すなわち、λ>λ>・・・>λとなっている。また、複数の固有値λは、その大きさ順にランクが定義される。例えば、λがランク1の固有値、λがランク2の固有値、λがランクNの固有値、の如くである。
【0047】
ここで、上位ランク(ランク1により近い)の固有値λと、それに対応する固有ベクトルw,w には、平均相関行列をよりよく再現する情報が含まれ、下位ランク(ランクNにより近い)の固有値λと、それに対応する固有ベクトルw,w には、平均相関行列の再現にはあまり関係のない情報が含まれることになる。
【0048】
画像形成部44は、行列Uに基づいて、被検体の微細血管(血流)が描出された血流抽出画像を形成する。図2に示す通り、画像形成部44は、血流輝度画像形成部44a、組織画像形成部44b、及び、血流抽出画像形成部44cとしての機能を発揮する。図4は、画像形成部44による血流抽出画像の形成処理の流れを示す概念図である。以下、画像形成部44が有する各機能の詳細を説明するが、適宜図4を参照されたい。
【0049】
血流輝度画像形成部44aは、まず、特異値分解演算部42により演算された複数の固有値λ及び固有ベクトルw,w のうち、予め設定された第1閾値ランク以下のランクの固有値λ及び当該固有値λに対応する固有ベクトルw,w に基づいて、血流抽出フィルタを構成する。なお、本明細書における「閾値ランク以下」という表現は、閾値ランクよりも大きい値ランクを意味する。例えば、閾値ランクk以下とは、ランクk~Nまでのランクを意味する。同様に、「閾値ランク以上」又は「閾値ランクより大きい」という表現は、閾値ランクよりも小さいランクを意味する。例えば、閾値ランクk以上とは、ランク1~kまでのランクを意味する。
【0050】
具体的には、血流抽出フィルタPk,Nは以下の式4で表される。
【数6】
式4において、kが第1閾値ランクを表す。すなわち、血流抽出フィルタPk,Nは、第1閾値ランク(kランク)以下の各ランクの固有値λと固有ベクトルw,w との積を足し合わせて構成される。
【0051】
平均相関行列を特異値分解して得られた下位ランク(第1閾値ランク以下のランク)の固有値λ及び当該固有値λに対応する固有ベクトルw,w に基づいて構成された血流抽出フィルタPk,Nは、複数のフレームデータF(つまり行列U)に適用された場合に、微細血管(血流)を表す血流成分を抽出し、被検体の組織を表す組織成分をカットするように働くフィルタとなる。
【0052】
次いで、血流輝度画像形成部44aは、フレームデータFに構成した血流抽出フィルタPk,Nを適用することで、血流輝度画像Uk,Nを形成する。本実施形態では、血流輝度画像形成部44aは、行列Uで表される複数のフレームデータFのそれぞれに血流抽出フィルタPk,Nを適用し、適用後の複数のフレームデータFの各信号値を平均することで血流輝度画像Uk,Nを形成する。血流輝度画像Uk,Nは以下の式5で表される。
【数7】
【0053】
上述の通り、血流抽出フィルタPk,Nは、行列Uに適用された場合に、微細血管(血流)を表す血流成分を抽出し、被検体の組織を表す組織成分をカットするように働くフィルタであるから、行列Uに血流抽出フィルタPk,Nを適用することで、組織成分がカットされ血流成分が残ることになる。したがって、血流輝度画像Uk,Nは、血流成分を表す画像となる。ただし、上述の通り、血流輝度画像Uk,Nには、被検体の体動などに起因する組織由来の信号成分であるクラッタ成分が含まれ得る。
【0054】
組織画像形成部44bは、複数のフレームデータFを構成する各データ要素Eの信号値(すなわち行列U)に基づいて、組織成分を含む組織画像を形成する。
【0055】
本実施形態では、組織画像形成部44bは、まず、特異値分解演算部42により演算された複数の固有値λ及び固有ベクトルw,w のうち、第1閾値ランクより大きいランクの固有値λ及び当該固有値λに対応する固有ベクトルw,w に基づいて、組織抽出フィルタを構成する。
【0056】
具体的には、組織抽出フィルタP2,Nは以下の式6で表される。
【数8】
式6が示す通り、本実施形態では、ランク2(第1閾値ランクkは2よりも大きいとする)の固有値λ及び固有ベクトルw,w に基づいて組織抽出フィルタP2,Nが構成されている。なお、本実施形態では、ランク2の固有値λ及び固有ベクトルw,w に基づいて組織抽出フィルタP2,Nが構成されているが(その理由については後述する)、第1閾値ランクkよりも大きく、かなり上位のランクであれば、その他のランクの固有値λ及び固有ベクトルw,w に基づいて組織抽出フィルタP2,Nが構成されてもよい。また、複数のランク(例えばランク1~3)の固有値λと固有ベクトルw,w との積を足し合わせて組織抽出フィルタP2,Nが構成されてもよい。
【0057】
平均相関行列を特異値分解して得られた上位ランクの固有値λ及び当該固有値λに対応する固有ベクトルw,w に基づいて構成された組織抽出フィルタP2,Nは、複数のフレームデータF(つまり行列U)に適用された場合に、被検体の組織を表す組織成分を抽出し、微細血管(血流)を表す血流成分をカットするように働くフィルタとなる。
【0058】
次いで、組織画像形成部44bは、フレームデータFに構成した組織抽出フィルタP2,Nを適用することで、組織画像U2,Nを形成する。本実施形態では、組織画像形成部44bは、行列Uで表される複数のフレームデータFのそれぞれに組織抽出フィルタP2,Nを適用し、適用後の複数のフレームデータFの各信号値の分散値を得ることで組織画像U2,Nを形成する。組織画像U2,Nは以下の式7で表される。
【数9】
【0059】
上述の通り、組織抽出フィルタP2,Nは、行列Uに適用された場合に、被検体の組織を表す組織成分を抽出し、微細血管(血流)を表す血流成分をカットするように働くフィルタであるから、行列Uに組織抽出フィルタP2,Nを適用することで、血流成分がカットされ組織成分が残ることになる。したがって、組織画像U2,Nは、組織成分を表す画像となる。また、組織画像U2,Nには、被検体の体動などに起因する組織由来の信号成分であるクラッタ成分が含まれる。
【0060】
特に、組織抽出フィルタP2,Nの適用後の複数のフレームデータFの各信号値の分散値には、クラッタ成分が多く含まれる。図5は、固有値及び固有ベクトルから構成されるフィルタのランクと、当該ランクのフィルタの適用後の複数のフレームデータFの各信号値の分散値との関係を表すグラフである。図5に示すグラフのうち、グラフAはクラッタ成分を表し、グラフBは組織成分を表し、グラフCは血流成分を表し、グラフDは、血流の分岐部に対応する分岐成分を表している。図5に示されるように、上位ランクにおいて、グラフAの分散値が大きくなっている。つまり、上位ランクの固有値λ及び固有ベクトルw,w から構成される組織抽出フィルタP2,Nを行列Uに適用することで得られる組織画像U2,Nには、組織成分のみならずクラッタ成分が多く含まれる。
【0061】
図5のグラフAを見ると、ランク1よりも、ランク1の少し下のランク(例えばランク2)の方が、クラッタ成分の分散値が大きくなっている。これは、ランク1のフィルタで抽出される信号成分は、時間的に安定的な信号成分が多く含まれる傾向にあり、ランク2以降のランクの方が時間的及び空間的に変動する信号成分が多く含まれるためである。したがって、本実施形態では、ランク2の固有値λ及び固有ベクトルw,w に基づいて組織抽出フィルタP2,Nを構成している。
【0062】
組織抽出フィルタP2,Nの適用後の複数のフレームデータFの各信号値の分散値とフィルタのランクとの関係は図5に示す通りであるが、組織抽出フィルタP2,Nの適用後の複数のフレームデータFの各信号値の平均値とフィルタのランクとの関係も、図5に類似する関係を示す。したがって、組織抽出フィルタP2,Nの適用後の複数のフレームデータFの各信号値の平均値を得ることで組織画像U2,Nを形成するようにしてもよい。
【0063】
上述のように、本実施形態では、組織画像形成部44bは、組織抽出フィルタP2,Nに基づいて組織画像U2,Nを形成していたが、組織抽出フィルタを形成せずに組織画像を形成するようにしてもよい。具体的には、複数のフレームデータFの各信号値(すなわち行列U)の分散値を取ることで組織画像を形成するようにしてもよい。その場合、組織画像Uorg,Nは以下の式8で形成される。
【数10】
【0064】
後述のように、クラッタ成分が低減された血流抽出画像を形成するためには、組織画像にはクラッタ成分が多く含まれているとよい。図5に示される通り、上位ランクから下位ランクに亘って、クラッタ成分の分散値(グラフA)は比較的大きい値を取っている。したがって、組織抽出フィルタ適用せずに、行列Uの分散値を取ることでも、クラッタ成分が多く含まれる組織画像Uorg,Nを得ることができる。
【0065】
血流抽出画像形成部44cは、血流輝度画像形成部44aが形成した血流輝度画像Uk,Nから、組織画像形成部44bが形成した組織画像U2,N(又は組織画像Uorg,N)を差し引くことで、血流抽出画像を形成する。すなわち、血流抽出画像Uoutは、以下の式9で表される。
【数11】
【0066】
上述の通り、血流輝度画像Uk,Nにはクラッタ成分が含まれ得るところ、組織画像U2,Nにおいては、血流成分がカットされており、且つ、クラッタ成分が多く含まれている。また、組織画像Uorg,Nにおいては、血流成分はカットされていないが、元より、行列Uにおいては、血流成分はクラッタ成分に比して信号強度が低い。したがって、血流輝度画像Uk,Nから組織画像U2,N(又は組織画像Uorg,N)を差し引くことで、血流輝度画像Uk,Nから血流成分を残しつつ、クラッタ成分を除去して血流抽出画像Uoutを得ることができる。
【0067】
式9におけるαは、組織画像U2,N(又は組織画像Uorg,N)に係る係数である。すなわち、本実施形態では、血流抽出画像形成部44cは、血流輝度画像Uk,Nから、係数を乗じた組織画像U2,N(又は組織画像Uorg,N)を差し引いて血流抽出画像Uoutを形成している。係数αを調整することで、血流輝度画像Uk,Nから差し引く信号の量を調整することができる。すなわち、係数αを大きくすると、血流輝度画像Uk,Nからクラッタ成分がより低減されるが、血流成分や組織成分もより低減されることにもなり得る。係数αを小さくすると、血流輝度画像Uk,Nからクラッタ成分があまり低減されなくなるが、血流成分や組織成分の低減量も抑制される。
【0068】
血流抽出画像形成部44cは、超音波診断装置10のユーザからの入力に基づいて係数αを決定するとよい。これにより、ユーザは、血流輝度画像Uk,Nから所望の量の信号が差し引かれた血流抽出画像Uoutを得ることができる。例えば、表示制御部24が、図6A及び図6Bに示すような、係数調整操作子(スライドバー)50をディスプレイ26に表示させ、ユーザは、入力インターフェース28を用いて係数調整操作子50を操作して係数αを調整可能となっているとよい。また、係数αを変更することで血流抽出画像Uoutがどのようになるかをユーザが容易に把握可能なように、表示制御部24は、当該画面において、調整された係数αにて演算された血流抽出画像52も表示させるとよい。
【0069】
図2に戻り、血流描出部22は、演算対象領域特定部46を有していてもよい。上述の実施形態では、相関行列演算部40は、フレームデータFの全体(全てのベクトルuzx(z=1~Z,x=1~X))についての相関行列Rzxを演算していた。しかしながら、相関行列Rzxは、これを特異値分解することによって血流抽出フィルタPk,N又は組織抽出フィルタP2,Nを構成するためのものである。したがって、相関行列Rzxを特異値分解した結果、上位ランクの信号成分に基づいて組織抽出フィルタP2,Nが構成可能であり、下位ランクの信号成分に基づいて血流抽出フィルタPk,Nが構成可能である限りにおいて、必ずしもフレームデータFの全体についての相関行列Rzxを得る必要はない。したがって、当該構成によれば、相関行列Rzxの演算対象が限定されるから、相関行列Rzxを求めるための演算量を低減することができる。
【0070】
上記に鑑み、演算対象領域特定部46は、相関行列演算部40が相関行列Rzxを演算するに先立って、フレームデータFの一部のデータ要素E(ベクトルuzx)を、相関行列Rzxの演算対象である演算対象領域として特定する。相関行列演算部40は、特定された演算対象領域に限定して相関行列Rzxを演算する。これにより、相関行列演算部40による相関行列Rzxを求めるための演算量及び平均相関行列Rzxを求めるための演算量が低減される。
【0071】
演算対象領域特定部46は、種々の方法で演算対象領域を特定することができる。ただし、演算対象領域が、微細血管(血流)に対応するデータ要素Eのみを含むものであると、相関行列演算部40が、組織抽出フィルタP2,N及び血流抽出フィルタPk,Nを構成するための適切な相関行列Rzxを演算することができないため、演算対象領域特定部46は、少なくとも組織に対応するデータ要素Eを含む演算対象領域を特定する。
【0072】
演算対象領域の第1の特定方法として、演算対象領域特定部46は、図7Aに示すように、フレームデータFを構成する一部のデータ要素Eを間引いた間引きフレームデータを演算対象領域とすることができる。間引きの方法の一例としては、X軸方向及びZ軸方向(図3参照)において、演算対象領域に含めるデータ要素Eと演算対象領域に含めないデータ要素Eとが交互に並ぶようにすることである。しかし、間引きの方法は、演算対象領域に組織に対応するデータ要素Eが含まれる限りにおいてどのような方法であってもよい。
【0073】
演算対象領域の第2の特定方法として、演算対象領域特定部46は、図7Bに示すように、フレームデータFを構成する複数のデータ要素Eのうち、信号値が閾値信号値以上のデータ要素Eの集合を演算対象領域として特定することができる。一般に、組織に対応するデータ要素Eの信号値は比較的大きいものとなる。したがって、信号値が閾値信号値以上のデータ要素Eの集合を演算対象領域とすることで、組織に対応するデータ要素Eを含む演算対象領域を特定することができる。
【0074】
演算対象領域の第3の特定方法として、演算対象領域特定部46は、第1の特定方法と第2の特定方法を組み合わせた方法を用いることができる。すなわち、図7Cに示すように、演算対象領域特定部46は、フレームデータFを構成する複数のデータ要素Eのうち、信号値が閾値信号値以上のデータ要素Eの集合を抽出した後、抽出された複数のデータ要素Eの一部のデータ要素Eを間引いた間引きフレームデータを演算対象領域とすることができる。又は、演算対象領域特定部46は、フレームデータFを構成する一部のデータ要素Eを間引いた間引きフレームデータ得た後、当該間引きフレームデータを構成する複数のデータ要素Eのうち、信号値が閾値信号値以上のデータ要素Eの集合を演算対象領域とすることができる。
【0075】
演算対象領域の第4の特定方法として、演算対象領域特定部46は、まず、複数のフレームデータFを特異値分解する。当該特異値分解により、上位ランクには、信号値が大きい信号成分(例えば組織成分)が多く含まれ、下位ランクには信号値が小さい信号成分(例えば血流成分)が多く含まれる。したがって、まず、図7Dに示すように、演算対象領域特定部46は、特異値分解により得られた上位ランク(詳しくは予め定められた第2閾値ランクより大きいランク)の信号成分から構成される上位ランク抽出データを取得する。上位ランク抽出データは主に組織成分を表すデータである。その上で、演算対象領域特定部46は、取得した上位ランク抽出データを構成する一部のデータ要素Eを間引いた間引きフレームデータを演算対象領域とすることができる。
【0076】
演算対象領域の第5の特定方法として、演算対象領域特定部46は、第4の特定方法と同様に上位ランク抽出データを取得し、図7Eに示すように、演算対象領域特定部46は、取得した上位ランク抽出データを構成する複数のデータ要素Eのうち、信号値が閾値信号値以上のデータ要素Eの集合を演算対象領域として特定することができる。
【0077】
演算対象領域の第6の特定方法として、演算対象領域特定部46は、第4の特定方法と第5の特定方法を組み合わせた方法を用いることができる。すなわち、図7Fに示すように、演算対象領域特定部46は、上位ランク抽出データを取得し、取得した上位ランク抽出データを構成する複数のデータ要素Eのうち、信号値が閾値信号値以上のデータ要素Eの集合を抽出した後、抽出された複数のデータ要素Eの一部のデータ要素Eを間引いた間引きフレームデータを演算対象領域とすることができる。又は、演算対象領域特定部46は、取得した上位ランク抽出データを構成する一部のデータ要素Eを間引いた間引きフレームデータ得た後、当該間引きフレームデータを構成する複数のデータ要素Eのうち、信号値が閾値信号値以上のデータ要素Eの集合を演算対象領域とすることができる。
【0078】
上述のように、相関行列Rzxは、血流抽出フィルタPk,N又は組織抽出フィルタP2,Nを構成するためのものである。したがって、本実施形態のように、血流輝度画像Uk,N及び組織画像U2,Nに基づいて血流抽出画像Uoutを得る処理を行う場合において、演算対象領域特定部46が演算対象領域を特定することで、相関行列Rzxを求めるための演算量などが低減されるという効果が得られる他、血流抽出フィルタPk,N又は組織抽出フィルタP2,Nを用いて行う種々の処理を行う場合においても、相関行列Rzxを求めるための演算量などが低減されるという効果が得られる。例えば、画像形成部44が血流抽出フィルタPk,NをフレームデータF(例えば行列U)に適用して血流輝度画像Uk,Nを形成する血流輝度画像形成処理を行って、表示制御部24が当該血流輝度画像Uk,Nをディスプレイ26に表示させる場合、又は、画像形成部44が組織抽出フィルタP2,NをフレームデータF(例えば行列U)に適用して組織画像U2,Nを形成する組織画像形成処理を行って、表示制御部24が当該組織画像U2,Nをディスプレイ26に表示させる場合などにおいても、相関行列Rzxを求めるための演算量などが低減されるという効果が得られる。
【0079】
上述の実施形態では、特異値分解の対象である相関行列Rzx(詳しくは平均相関行列)が正方行列であり、特異値分解演算部42は、正方行列に対して固有値分解を行っていたが、特異値分解の対象となる行列は非正方行列であり、特異値分解演算部42は、非正方行列に対して特異値分解を行うようにしてもよい。
【0080】
この場合、相関行列演算部40は、シネメモリ20に記憶された複数のフレームデータF(すなわち行列U)に基づいて、行方向に空間(ZX(図3におけるZ軸方向及びX軸方向))、列方向に時間(N)を配した時空間行列Sを相関行列として生成する。時空間行列Sは、ZX×Nの行列であり、非正方行列である。特異値分解演算部42は、非正方行列である時空間行列Sに対して特異値分解を実行する。ここでの特異値分解は、以下の式10で表される
【数12】
式10において、Vは左特異ベクトルであってZX×ZXの正方行列であり、Wは右特異ベクトルであってN×Nの正方行列であり、行列Λは、特異値λが大きさ順に並べられたZN×Nの行列である。複数の特異値λは、その大きさ順にランクが定義される。ここでは、上位ランクの特異値λ及び特異ベクトルv,w には、被検体の組織を表す組織成分が多く含まれ、下位ランクの特異値λ及び特異ベクトルw,w には、微細血管(血流)を表す血流成分が多く含まれることになる。
【0081】
血流輝度画像形成部44aは、第1閾値ランク以下のランクの特異値λ及び当該特異値λに対応する特異ベクトルv,w を血流成分として抽出し、行方向をX、列方向をZとして、各要素がN方向に並ぶベクトルとなるように行列を再変換して血流成分行列Sk,Nを得る。血流成分行列Sk,Nは以下の式11で表される。
【数13】
【0082】
次いで、血流輝度画像形成部44aは、血流成分行列Sk,Nを平均することで、血流輝度画像Sk,avgを形成する。血流輝度画像Sk,avgは、以下の式12で表される。
【数14】
【0083】
組織画像形成部44bは、第1閾値ランクより大きいランク(ここではランク2)の特異値λ及び当該特異値λに対応する特異ベクトルv,w を組織成分として抽出し、行方向をX、列方向をZとして、各要素がN方向に並ぶベクトルとなるように行列を再変換して組織成分行列S2,Nを得る。組織成分行列S2,Nは以下の式13で表される。
【数15】
【0084】
次いで、組織画像形成部44bは、組織成分行列S2,Nの分散を得ることで、組織画像S2,varを形成する。組織画像S2,varは、以下の式14で表される。
【数16】
【0085】
血流抽出画像形成部44cは、血流輝度画像形成部44aが形成した血流輝度画像Sk,avgから、組織画像形成部44bが形成した組織画像S2,varを差し引くことで、血流抽出画像Uoutを形成する。血流抽出画像Uoutは、以下の式15で表される。
【数17】
【0086】
本実施形態に係る超音波診断装置10の構成概要は以上の通りである。以下、図8に示すフローチャートに従って、超音波診断装置10の処理の流れについて説明する。
【0087】
ステップS10において、プローブ12が、送信部14からの送信信号に応じて同一の走査面に対して複数回超音波を送信し、受信部16が、被検体からの超音波の反射波を受信することにより得られた複数の受信信号に基づいて複数のフレームデータFを生成する。これにより、反射波の信号強度を示す信号値を有する複数のフレームデータFが取得される。ステップS10はフレームデータ取得ステップに相当する。
【0088】
ステップS12において、演算対象領域特定部46は、上述の方法のいずれかによって、フレームデータFにおいて相関行列Rzxの演算対象である演算対象領域を特定する。
【0089】
ステップS14において、相関行列演算部40は、ステップS10で取得されたフレームデータFに含まれるデータ要素Eのうち、ステップS12で特定された演算対象領域に含まれる各データ要素Eについての、複数のフレームデータFにおける信号値の相関を示す相関行列Rzxを演算する(式1参照)。ステップS14は相関行列演算ステップに相当する。
【0090】
ステップS16において、相関行列演算部40は、各ベクトルuzxについての各相関行列Rzxを全データ要素Eで平均化して平均相関行列を得る(式2参照)。
【0091】
ステップS18において、特異値分解演算部42は、ステップS16で得られた平均相関行列を特異値分解して、複数の特異値(ここでは固有値)λ及び各固有値に対応する複数の特異ベクトルw,w (ここでは固有ベクトル)を演算する(式3参照)。ステップS18が特異値分解演算ステップに相当する。
【0092】
ステップS20において、血流輝度画像形成部44aは、ステップS18で演算された複数の固有値λ及び固有ベクトルw,w のうち、予め設定された第1閾値ランク以下のランクの固有値λ及び当該固有値λに対応する固有ベクトルw,w に基づいて、血流抽出フィルタPk,Nを構成する(式4参照)。
【0093】
ステップS22において、血流輝度画像形成部44aは、血流輝度画像形成部44aは、行列Uで表される複数のフレームデータFのそれぞれに血流抽出フィルタPk,Nを適用し、適用後の複数のフレームデータFの各信号値を平均することで血流輝度画像Uk,Nを形成する(式5参照)。ステップS20は血流輝度画像形成ステップに相当する。
【0094】
ステップS24において、組織画像形成部44bは、ステップS18で演算された複数の固有値λ及び固有ベクトルw,w のうち、第1閾値ランクより大きいランク(ここではランク2)の固有値λ及び当該固有値λに対応する固有ベクトルw,w に基づいて、組織抽出フィルタP2,Nを構成する(式6参照)。
【0095】
ステップS26において、組織画像形成部44bは、行列Uで表される複数のフレームデータFのそれぞれに組織抽出フィルタP2,Nを適用し、適用後の複数のフレームデータFの各信号値の分散値を得ることで組織画像U2,Nを形成する(式7参照)。ステップS26は組織画像形成ステップに相当する。
【0096】
ステップS28において、血流抽出画像形成部44cは、ステップS22で形成された血流輝度画像Uk,Nから、ステップS26で形成された組織画像U2,Nを差し引くことで、血流抽出画像Uoutを形成する(式9参照)。ステップS28は血流抽出画像形成ステップに相当する。
【0097】
ステップS30において、表示制御部24は、ステップS28で形成された血流抽出画像Uoutをディスプレイ26に表示させる。
【0098】
以上、本開示に係る血流抽出画像形成装置を説明したが、本開示に係る血流抽出画像形成装置は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0099】
例えば、本実施形態では、血流抽出画像形成装置が超音波診断装置10であったが、血流抽出画像形成装置は超音波診断装置10に限られず、その他のコンピュータであってもよい。この場合、血流抽出画像形成装置としてのコンピュータが、血流描出部22の機能を発揮する。具体的には、血流抽出画像形成装置としてのコンピュータは、超音波診断装置から複数のフレームデータを受信し、当該複数のフレームデータに対して、相関行列Rzxの演算、血流抽出フィルタPk,N及び組織抽出フィルタP2,Nの生成処理、並びに、血流輝度画像Uk,N、組織画像U2,N(又は組織画像Uorg,N)、及び血流抽出画像Uoutの形成処理を実行する。
【0100】
また、上記実施形態では、血流描出部22の処理対象は複数のフレームデータFであって、行列Uは各フレームデータFの各データ要素の信号値を示すものであったが、血流描出部22の処理対象は、複数のフレームデータFの信号値を輝度値に変換して生成された超音波画像(Bモード画像)であってもよい。この場合、行列Uは、各超音波画像の各画素の輝度値を示すものとなる。
【符号の説明】
【0101】
10 超音波診断装置、12 プローブ、14 送信部、16 受信部、18 信号処理部、20 シネメモリ、22 血流描出部、24 表示制御部、26 ディスプレイ、28 入力インターフェース、30 メモリ、32 制御部、40 相関行列演算部、42 特異値分解演算部、44 画像形成部、44a 血流輝度画像形成部、44b 組織画像形成部、44c 血流抽出画像形成部、46 演算対象領域特定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8