(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047139
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20240329BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
H01S5/183
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152586
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】長澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】上山 智
【テーマコード(参考)】
5F045
5F173
【Fターム(参考)】
5F045AB14
5F045AB17
5F045AD13
5F045AD14
5F045AD15
5F045CA09
5F045DA52
5F173AC03
5F173AC14
5F173AG01
5F173AH22
5F173AQ10
(57)【要約】
【課題】GaN系面発光レーザーの共振器形成中において、(その場で並行して測定した反射率スペクトルなどを用いて)高精度、高再現にて所望の共振器長に制御し得る窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物半導体発光素子の製造方法は、多層膜反射鏡11を積層して形成する多層膜反射鏡積層工程と、多層膜反射鏡積層工程の実行後、多層膜反射鏡の表面にGaN共振器12を積層する共振器積層工程と、共振器積層工程を実行しつつ、GaN共振器12の反射率を計測する反射率計測工程とを備え、反射率計測工程において用いられる光の波長は、室温における多層膜反射鏡11の共振波長よりも長い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層膜反射鏡を積層して形成する多層膜反射鏡積層工程と、
前記多層膜反射鏡積層工程の実行後、前記多層膜反射鏡の表面に共振器を積層する共振器積層工程と、
前記共振器積層工程を実行しつつ、前記共振器の反射率を計測する反射率計測工程と、
を備え、
前記反射率計測工程において用いられる光の波長は、室温における前記多層膜反射鏡の共振波長よりも長い、窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記反射率計測工程において用いられる光の波長は、室温における前記多層膜反射鏡の前記共振波長よりも11.8nmから26.7nm大きい、請求項1に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
成長温度における前記多層膜反射鏡の反射中心波長は、室温における前記多層膜反射鏡の前記共振波長、及び成長温度の二つのパラメータに基づいてシフト量を求め、前記シフト量を前記共振波長に加えて求められる、請求項1又は請求項2に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記共振器積層工程の実行中に前記共振器内に吸収領域を積層する吸収領域積層工程を更に備え、
前記吸収領域積層工程において積層される前記吸収領域は、
室温においては、室温における前記多層膜反射鏡の前記共振波長の光を吸収せず、
成長温度においては、室温における前記多層膜反射鏡の前記共振波長よりも長波長の光を吸収する、請求項1又は請求項2に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記吸収領域積層工程を実行することによって、前記共振器の全体を前記吸収領域として設定する請求項4に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記共振器の全体を前記吸収領域とする場合、前記吸収領域における吸収係数は、100cm-1以上、かつ30000cm-1以下である請求項5に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記吸収領域積層工程を実行することによって、前記共振器の積層方向の一部区間を前記吸収領域として設定する請求項4に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記吸収領域における前記積層方向の厚みは、0.3nm以上、且つ10nm以下である、請求項7に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記吸収領域は、活性層である、請求項7に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体発光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
垂直共振器型面発光レーザーでは、共振器はウエハ表面に対して垂直な方向に形成される。レーザーの共振器長は、一般的に発振波長の半分(1/2波長)の整数倍にすることによって、その共振条件が満たされ、素子本来の性能が発揮される。ここで、共振器長は、共振器の厚みと同義である。ゆえに面発光レーザーにおいて所望の共振器長を形成するためには、共振器形成時に(すなわち、多くの場合、エピタキシャル成長時に)共振器長を制御する必要が生じる。このような制御をするためには、共振器を構成する各層の成長速度を全て把握し、各設計層厚と併せて成長時間を割り出し、それに基づいてエピタキシャル成長を遂行する。ここで課題となるのが、全ての層の成長速度を精度よく把握できないこと、さらに把握できたとしても、実際に共振器を形成する際には、その値から経時変化する可能性が考えられ、必ずしも所望の共振器長を高精度、高再現性にて形成できない点である。
【0003】
上記の課題に対し、実用化されたGaAs系の赤外面発光レーザーでは、共振器を形成するエピタキシャル成長中に、成長中のウエハの反射率スペクトル(波長依存性含む)をその場で並行して測定することによって、高い精度で共振器長の制御が可能になっている。この手法では、エピタキシャル成長の進行に伴い(すなわち、共振器長が厚くなるにつれて)その共振波長における反射率の変化を利用している。具体的には、共振条件と非共振条件での共振波長における反射率の変化を利用している。
【0004】
ここで、一般に、結晶成長する際における成長温度(以下、単に成長温度ともいう)での半導体材料の屈折率の値は、室温(およそ20度前後)での値よりも大きい値に変化する。成長温度は室温よりも高い。このため、成長温度での共振波長は、室温での共振波長より長波長化する。したがって、温度変化による共振波長の波長シフトを考慮した、室温とは異なる共振波長で反射率の値を測定する必要がある。GaAs系材料では、屈折率の値などの物性値の温度依存性が詳細に調べられており、それを用いることで室温における共振波長から、成長温度における共振波長を算出することができる。さらに固定されたひとつの波長での反射率測定ではなく、ある波長範囲(例えば、数100nmの範囲)での各反射率、すなわち反射率スペクトルを測定することで、様々な成長温度に対する共振波長に対応させることが可能である。
【0005】
これに対して、これまで、GaN系の面発光レーザーでは、共振器形成中の(すなわち、成長温度における)反射率スペクトルの測定は報告されていない。一方、成長温度における反射率測定という観点では、非特許文献1において室温における共振波長という固定された一波長での反射率の値のみが観測されている(非特許文献1の
図4右参照)。すなわち、GaN系の面発光レーザーの製造時における成長温度では、もはや共振波長ではない波長にて反射率の変化が観測されている。ゆえに、反射率の値の振動が観測されていても、共振波長ではないため、得られた反射率の値の振動をこのまま用いても、所望の共振器長を高い精度で制御することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tien-Chang Lu、Jun-Rong Chen、Shih-Wei Chen、Hao-Chung Kuo、Chien-Cheng Kuo、Cheng-Chung Lee、and Shing-Chung Wang、"Development of GaN-Based Vertical-Cavity Surface-Emitting Lasers"、IEEE JOURNAL OF SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS、VOL.15、NO.3、2009年、p850.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1において、成長温度における共振波長が用いられなかった理由は、成長温度でのGaNなどの屈折率の値、あるいは、室温から成長温度まで変化させた際の共振波長の波長シフト量が明らかになっていないからである。さらに、成長温度での共振波長がわかったとしても、共振器形成中に共振器長が厚みを増すに従って、適切に観測できる程度にその波長における反射率が大きく変化、より具体的には共振状況に則して振動するかどうかも不明である。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、GaN系面発光レーザーの共振器形成中において、(その場で並行して測定した反射率スペクトルなどを用いて)高精度、高再現にて所望の共振器長に制御し得る窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、
多層膜反射鏡を積層して形成する多層膜反射鏡積層工程と、
前記多層膜反射鏡積層工程の実行後、前記多層膜反射鏡の表面に共振器を積層する共振器積層工程と、
前記共振器積層工程を実行しつつ、前記共振器の反射率を計測する反射率計測工程と、
を備え、
前記反射率計測工程において用いられる光の波長は、室温における前記多層膜反射鏡の共振波長よりも長い。
【0010】
この構成によれば、窒化物半導体発光素子を積層して結晶成長させる際の成長温度では、窒化物半導体発光素子における共振波長が長波長化するため、反射率計測工程において用いられる光の波長を室温における多層膜反射鏡の共振波長(反射中心波長)よりも長くすることによって、窒化物半導体発光素子を結晶成長させつつ、共振器長を高精度・高再現性にて制御するための適切な共振波長にて測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(A)は、室温における共振波長が417nmのAlInN/GaN多層膜反射鏡における反射率スペクトルの温度依存性を示すグラフであり、(B)は、室温における共振波長が527nmのAlInN/GaN多層膜反射鏡における反射率スペクトルの温度依存性を示すグラフである。
【
図2】
図2は、2種類の異なる共振波長のAlInN/GaN多層膜反射鏡の反射中心波長、すなわち共振波長における基板温度に対する波長シフト量の関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、従来において、AlInN/GaN多層膜反射鏡をエピタキシャル成長して結晶成長を進め、共振器長を厚くしていった場合における、反射率の推移を理論計算した結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、成長温度におけるAlInN/GaN多層膜反射鏡の反射率スペクトルの実測結果を示すグラフである。
【
図5】成長温度における共振波長に対して、(A)は、GaN共振器全体を吸収領域としたサンプルの構造を示す模式図であり、(B)は、GaN共振器の積層方向の一部区間を吸収領域としたサンプルの構造を示す模式図である。
【
図6】
図6は、厚みが1波長のGaN共振器内全体を、成長温度における共振波長に対する吸収領域とした場合で、かつ、吸収領域の吸収係数が0から100000cm
-1まで変化させた場合の反射率スペクトルの計算結果を示すグラフである。
【
図7】(A)は、共振器を結晶成長しつつ、5種類の異なる共振器長に対して、その場で並行して測定した反射率スペクトルであり、(B)は、(A)のAlInN/GaN多層膜反射鏡の反射率スペクトルにおける反射中心波長、すなわち共振波長439nmにおける反射率強度の結晶成長時間(すなわち、共振器長)に対する依存性を示すグラフである。
【
図8】
図8は、n-GaN層、GaInN発光層、及びp-GaN層を含むGaN共振器の結晶成長時において、成長温度での共振波長における反射率強度の結晶成長時間(すなわち、共振器長)に対する依存性を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例3におけるサンプルの構造を示す模式図である。
【
図10】
図10は、
図9におけるn-GaInN吸収層の厚みを4段階に変化させて反射率スペクトルを計算した結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例4におけるサンプルの構造を示す模式図である。
【
図12】
図12は、実施例4のGaN共振器において、成長温度における共振波長での反射率の推移を計算した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0013】
反射率計測工程において用いられる光の波長は、室温における多層膜反射鏡の共振波長(反射中心波長)よりも11.8nmから26.7nm大きくし得る。この構成によれば、窒化物半導体発光素子から発光し得る波長(375~675nm)における、室温から成長温度までの波長シフトの範囲をほぼカバーできる。ゆえに、室温における所望の共振波長を有する共振器を結晶成長している際の波長シフトを考慮した共振波長での反射率を測定することができる。
【0014】
成長温度における多層膜反射鏡の反射中心波長(共振波長)は、室温における共振波長、及び成長温度の二つのパラメータに基づいてシフト量を求め、このシフト量を室温における多層膜反射鏡の共振波長に加えて求められ得る。この構成によれば、室温における共振波長、及び成長温度の二つのパラメータが決定すれば、多層膜反射鏡の成長温度における反射中心波長(共振波長)を容易に求めることができる。
【0015】
共振器積層工程の実行中に共振器内に吸収領域を積層する吸収領域積層工程を更に備え、吸収領域積層工程において積層される吸収領域は、室温においては、室温における多層膜反射鏡の共振波長の光を吸収せず、成長温度においては、室温における多層膜反射鏡の共振波長よりも長波長の光を吸収し得る。この構成によれば、吸収領域によって、室温における共振波長よりも長波長の光を成長温度において吸収することができ、これによって、共振器積層工程を実行中、すなわち成長温度における共振器の共振波長での反射率の変化量を大きくして観測し易くできる。
【0016】
吸収領域積層工程を実行することによって、共振器の全体を吸収領域として設定し得る。この構成によれば、共振器内の光を確実に吸収することができる。
【0017】
共振器全体を吸収領域とする場合、吸収領域における吸収係数は、100cm-1以上、かつ30000cm-1以下であり得る。この構成によれば、共振器の反射率の変化量を1%以上の大きさにすることができる。
【0018】
吸収領域積層工程を実行することによって、共振器の積層方向の一部区間を吸収領域として設定し得る。この構成によれば、共振器の一部区間を吸収領域として設定すればよいため、吸収領域を除いた部分の共振器の構成を改変しなくて済む。
【0019】
吸収領域における積層方向の厚みは、0.3nm以上、且つ10nm以下であり得る。この構成によれば、この構成によれば、共振器の品質を保ちつつ、共振器の反射率の変化量を1%以上の大きさにすることができる。
【0020】
吸収領域は、活性層であり得る。この構成によれば、吸収領域として活性層を利用できるので、吸収領域を単独で設ける手間が省ける。
【0021】
<実施例1>
GaN面発光レーザーとして、積層方向における下部にAlInN/GaN多層膜反射鏡を有し、その表面にGaN共振器を積層して形成する場合において、結晶成長させつつ、その場で並行して反射率スペクトルを測定することについて説明する。
【0022】
[成長温度における室温からの共振波長のシフト量について]
成長温度における室温からの共振波長のシフト量を明らかにするために、2種類の異なる共振波長のAlInN/GaN多層膜反射鏡における温度依存性を検討した。ここで、共振波長とは、AlInN/GaN多層膜反射鏡における反射中心波長である。多層膜反射鏡の反射中心波長は、設計波長と一致し、多層膜反射鏡の性能を最も有効に利用できる。このため、通常の素子設計では、この反射中心波長を共振波長と一致させるからである。室温におけるAlInN/GaN多層膜反射鏡の共振波長に関して、サンプルの一つは417nmであり、他方の共振波長は527nmである。これらのサンプルをそれぞれ、基板温度を上昇させながら、その場で並行して反射率スペクトルを測定することができる測定装置(以下、単に測定装置ともいう)が組み込まれた有機金属化合物気相成長(MOVPE)装置内に配置する。ここでは、結晶成長を行わず、窒素雰囲気下にて基板温度を室温よりも高い温度に変化させて、測定装置を用いて反射率スペクトルを測定した。こうして得られた反射率スペクトルを
図1(A)、(B)に示す。予想通り、基板温度が上昇するのに伴い、共振波長は、長波長化することが明らかになった。
【0023】
基板温度に対する共振波長の波長シフト量を
図2に示す。多くの場合、GaN共振器の大部分の成長温度は、900℃以上、1100℃以下である。このことから、
図2に示すように、この2種類のサンプルに関して、室温と成長温度との間における共振波長のシフト量は、およそ16nmから25nmであることがわかった。GaAs系多層膜反射鏡では、屈折率の温度依存性から、室温と成長温度との間の共振波長のシフト量は、50nmから70nm程度と想定される。つまり、従来のGaAs系における共振波長のシフト量は、GaN系の共振波長のシフト量は異なる範囲であるので、従来のGaAs系における共振波長のシフト量からGaN系の共振波長のシフト量は、推察することができない。
【0024】
上記の実験結果より、室温よりも高い温度である成長温度におけるGaN系の多層膜反射鏡の反射中心波長(これを共振波長に設定する)は、室温における共振波長λ及び成長温度Tの二つのパラメータを用いた関数に基づいて共振波長のシフト量Δλを求め、このシフト量Δλを室温における共振波長λに加えて求め得ることがわかった。この構成によれば、室温における共振波長λ、及び成長温度Tの二つのパラメータが決定すれば、多層膜反射鏡の成長温度における共振波長(反射中心波長)を容易に求めることができる。この二つのパラメータ(室温における共振波長λ、成長温度T)を用いて波長のシフト量Δλ(λ、T)を一次関数として近似して導出すると、式1の数式の関係を有していることが本検討にて判明した。
【0025】
【0026】
GaInN量子井戸活性層を有するGaN系面発光レーザーの場合、室温における共振波長は、375nmから675nmまでが想定される。さらに、多くの場合、GaN共振器の成長温度は、900℃以上、1100℃以下である。このことから、共振波長の範囲(375nmから675nm)と、成長温度の範囲(900℃以上、1100℃以下)におけるシフト量Δλを式1によって求めた結果は、表1に示すように、11.8nmから26.7nmの範囲内であることがわかる。表1から、室温の共振波長が長くなるほど共振波長のシフト量が小さくなること、及び成長温度が高くなるほど共振波長のシフト量が大きくなることがわかる。
【0027】
【0028】
[成長温度における共振波長の反射率の強度変化について]
次に、成長温度における共振波長の反射率の強度変化について検討した。ここで、室温において共振波長が417nmの40ペアのAlInN/GaN多層膜反射鏡を選択し、GaN共振器を1000℃で成長させる場合を考える。この場合、式1よりΔλ=22が得られる。したがって、成長温度1000℃での共振波長は、417nm+22nm=439nmであることがわかる。
【0029】
このような仕様を満たすAlInN/GaN多層膜反射鏡をエピタキシャル成長して結晶成長を進め、共振器長を厚くしていった場合における、反射率の推移を理論計算した。なお、反射率を計測する際にAlInN/GaN多層膜反射鏡に照射する光の共振波長は、439nmとした。その結果を
図3に示す。
図3に示すように、共振波長の反射率の強度は、1/2波長ごとに明瞭に振動することがわかったが、共振波長の反射率の強度の振動幅は、わずか0.4%程度であった。
【0030】
ここで、AlInN/GaN多層膜反射鏡の成長温度における反射率スペクトルの実測結果を
図4に示す。
図4に示すように、実際に反射率スペクトルを測定すると、測定時に様々なノイズが内包されてスペクトルの波形が乱れてしまう。こうした乱れのため、1%未満の強度振動を精度よく観測することは、極めて困難であり非現実的であることもわかった。
【0031】
共振波長における反射率の強度を共振器長に応じて大きく変化させるには、共振状態と、非共振状態とで、共振波長の反射光、すなわち基板表面側に戻ってくる光の割合を大きく変化させれば良い。ここで、共振状態と、非共振状態とでは、その共振波長の光が結晶成長中の共振器内に蓄積される量が異なる。具体的には、共振状態では比較的多くの量の光が共振器内に蓄積し、非共振状態では比較的少ない量の光が共振器内に蓄積する。一方で、
図3が示す、最終的に反射して入射側に戻る(すなわち反射する)光の量に関して、共振状態(例えば、0.5λや1.0λ)と非共振状態(例えば、0.75λや1.25λ)の差はわずか1%未満であり、大きく変化しない。なぜなら、ウエハの下部に高反射率を有する反射鏡が存在するような共振器内では、共振器内に蓄積した光も最終的には下部の反射鏡に反射されて入射側、すなわちウエハの表面に戻ってくるからである。
【0032】
したがって、共振状態と、非共振状態と、において、入射側に戻る光の量を大きく変化させることができればよい。その一つの方法として、共振器内に積極的に光を吸収する吸収領域を設ける方法が考えられる。共振状態では、多くの量の光が共振器内に蓄積するため、光の吸収量が多くなり、最終的に反射して入射側に戻る光の量が少なくなる。そして、非共振状態では、共振器内における光の吸収量が少ないため、最終的に入射側に反射する光はあまり変化しない。一方で、共振器内での光の吸収量が大きすぎると、非共振状態でも光が吸収されてしまい、入射側に戻る反射光の量は減るものの、共振状態と、非共振状態との反射率の違いがなくなってしまう。
【0033】
そこで、このAlInN/GaN多層膜反射鏡及びGaN共振器を備えた窒化物半導体発光素子において、GaN共振器内に光を吸収する吸収領域を意図的に設けることを検討した。ここでは、
図5(A)に示すように、GaN共振器12全体を吸収領域Ab1として光を吸収する設定とした場合と、
図5(B)に示すように、GaN共振器112の積層方向(
図5における上下方向)の一部区間を吸収領域Ab2として光を吸収する設定とした二つの場合について検討した。
【0034】
<実施例2>
[共振器の全体で光を吸収する場合]
GaN共振器12の全体で光を吸収する場合(
図5(A)参照)を検討する。具体的には、多層膜反射鏡積層工程を実行して、40ペアのAlInN/GaN多層膜反射鏡11を積層する。そして、多層膜反射鏡積層工程の実行後、共振器積層工程を実行し、AlInN/GaN多層膜反射鏡11の表面に、共振器であるGaN共振器12を積層する。GaN共振器12の厚みは、1波長(共振状態に相当)である。GaN共振器12の全体を吸収領域Ab1として設定した場合の反射率スペクトルの計算結果を
図6に示す。成長温度での共振波長は、実施例1と同様439nm(室温では417nm)とした。共振状態なので、439nmの光がGaN共振器12内に蓄積しているが、吸収係数α=0cm
-1の場合には、共振波長での反射率は高いままである(
図3における1λの位置に相当し、反射率はおよそ99.6%)。一方で、吸収係数α=100cm
-1以上になると、共振波長439nmにおける反射率が、吸収係数α=0cm
-1の場合よりも1%以上低下することがわかる。
【0035】
さらに、GaN共振器12における光の吸収量を増大させる(すなわち、吸収係数αを大きくする)と、吸収係数α=30000cm-1までは、共振波長439nmにおいて明瞭に反射率が低下した。一方で、吸収係数αを100000cm-1まで大きくしてしまうと、もはや共振波長439nmの光において選択的に反射率が低下する現象はあらわれず、共振器長の把握のための情報が得られないこともわかった。吸収係数α=100000cm-1という値は、GaNをはじめとする窒化物半導体のバンド間吸収の値と同等である。ゆえに、共振器内全体に対してバンド間吸収するほどの量の光の吸収をさせてしまうと、共振器長の把握のための情報を得るという目的が達成できないことがわかった。
【0036】
共振器を構成する半導体結晶の吸収係数αを変化させる方法として、バンド間吸収又は不純物準位間吸収の利用を前提として、そのバンドギャップやドーピング量の調整をすることが挙げられる。ただし、成長温度の共振波長では吸収するが、室温での共振波長では吸収しないことが必須である。なぜなら、室温での共振波長でも吸収してしまうと素子特性を大幅に劣化させてしまうからである。一方、成長温度の共振波長(例えば、439nm)は、室温での共存波長(例えば、417nm)よりも11.8nmから26.7nm大きい。一般的にバンド間遷移では、バンドギャップに相当する波長(これを吸収端という)よりも短波長であると全て吸収し、長波長であると急激に吸収量が減少し、吸収端から十分離れた波長では全く吸収しない。したがって、上記の要件を満たすことができないように見える。実はバンドギャップや不純物準位も温度依存性を有しており、室温から成長温度では、約60nm長波長化し、その波長シフト量は上記の共振波長の波長シフト量(30nm未満)よりも大きい。ゆえに、本実施例での共振器を構成する半導体材料として、例えば、GaN(バンドギャップ:3.4eV)を選ぶと、室温での吸収端は370nmであり、室温での共振波長417nmでは吸収しない。一方で、成長温度では、吸収端は430nm付近まで長波長化し、成長温度での共振波長439nmでは上記バンド間吸収の影響を適度に受けることで、共振波長の反射率は共振器長に応じて振動する。この考えに基づいて、共振波長を短波長(375nm寄り)に設定した場合は、GaNではなく、バンドギャップの大きいAlGaNなどを用いればよい。また、共振波長を長波長(675nm寄り)に設定した場合は、バンドギャップの小さいGaInNなどを用いればよい。
【0037】
続いて、実際に成長温度1000℃において、共振波長が439nmであり、厚みが1波長のGaN共振器12全体に吸収係数α=11000cm-1を導入した場合を検討した。ここでは、上述したように、温度上昇するのに伴いGaNのバンド間吸収(正確にはバンド間吸収が完全に起こるよりも若干長い波長であり、その吸収係数αはバンド間吸収よりも小さい値)が長波長化する性質を利用した。詳しくは、1000℃(成長温度)では、439nmにおいて、吸収係数α=11000cm-1(バンド間吸収(吸収係数α=100000cm-1)よりも少ない)の吸収領域Ab1をGaN共振器12全体に存在させる。言い換えると、共振器積層工程の実行中において、吸収領域Ab1をGaN共振器12内に積層する吸収領域積層工程を実行する。吸収領域Ab1は、成長温度では、417nmのみならず、439nmの光を吸収係数α=11000cm-1で吸収するが、室温では、439nmのみならず417nmの光も吸収しない。つまり、吸収領域Ab1は、室温においては、室温における多層膜反射鏡の共振波長(417nm)の光を吸収せず、成長温度においては、室温における多層膜反射鏡の共振波長(417nm)よりも長波長の光(439nm)を吸収する。
【0038】
いずれにせよ、GaN共振器12全体を吸収領域Ab1とする場合は、吸収領域Ab1における吸収係数αが100cm-1以上、かつ30000cm-1以下になるように設定すればよい。より好ましくは、吸収領域Ab1における吸収係数αは、1000cm-1から30000cm-1になるように設定する。この場合、吸収係数αが0cm-1である場合に比べ、成長温度における反射率を10%以上変化させることが可能である。また、室温で光を吸収してしまうと、窒化物半導体発光素子として効率よくレーザー発振することができなくなってしまうので、室温における共振波長(ここでは417nm)では光の吸収が生じない方法であることも必要である。言い換えると、吸収領域Ab1は、室温では共振波長の光(ここでは、417nm)を吸収せず、成長温度では、共振波長の光(ここでは、439nm)を吸収する機能を有する。
【0039】
反射率スペクトルを測定するために以下の実験を行った。多層膜反射鏡積層工程を実行して40ペアのAlInN/GaN多層膜反射鏡11を形成し、さらに共振器積層工程を実行して、AlInN/GaN多層膜反射鏡11の表面に1/4波長の厚みのGaN共振器12を積層して形成した。ゆえに、この時点でGaN共振器12の共振器長は1/4波長である。このウエハをその場で並行して反射率スペクトルを測定することができる測定装置を有するMOVPE装置の反応炉内に設置し、成長温度1000℃、水素雰囲気下で共振器積層工程を継続して、さらにGaN共振器12を結晶成長させた。Ga原料としてトリメチルガリウム、N原料としてアンモニアを供給した。なお、必要に応じて、n型電気伝導が得られるSiや、p型電気伝導が得られるMgを添加してもよい。さらに、発光層を挿入してもよい。そして、共振器積層工程を実行しつつ、GaN共振器12の反射率を計測する反射率計測工程を実行する。
図7に、5種類の異なる共振器長を有するサンプルを結晶成長させつつ、反射率計測工程を実行し、その場で並行して測定した反射率スペクトルと、共振波長439nmにおける反射率強度の共振器の厚みに対する依存性を示す。反射率計測工程において用いられる光の波長(439nm)は、室温におけるAlInN/GaN多層膜反射鏡11の共振波長(417nm)よりも22nm長波長である。
【0040】
ここで、
図7(A)におけるdのスペクトルは、
図6におけるα=10000cm
-1にほぼ相当し、
図6における吸収係数α=10000cm
-1とほぼ同等なスペクトルが観測できていることがわかる。
図7(A)に示すように、1/4波長の奇数倍(a、c、e)では、非共振状態の条件が成立し、共振波長における反射率が高くなっている。一方、1/2波長の整数倍(b、d)では、共振状態の条件が成立し、共振波長における反射率が大幅に低下している。
図7(B)にGaN共振器12の成長時間(すなわち共振器の厚み)に対する共振波長での反射率の値の推移を示す。
図7(B)に示すように、共振器長が1/2波長(0.5λ)ごとに反射率が大きく振動するように変化する。このように、共振器積層工程の実行中において吸収領域積層工程を実行し、適切な吸収係数αに設定された吸収領域Ab1をGaN共振器12の全体に導入すると、成長温度において反射率の変化が明瞭に観測でき、結晶成長中のGaN共振器12の厚みをその場で並行して精度良く把握することができるようになり、GaN共振器12を形成しながら高い精度でGaN共振器12の厚みを制御することができる。
【0041】
実際には、GaN共振器12の内部には、
図8に示すように、n-GaN層12A、GaInN発光層12B、及びp-GaN層12Cなどが存在する。この場合の成長温度における共振波長(ここでは431nm)における反射率の共振器の厚みに対する依存性を
図8に示す。ここでは、反射率の推移を観測するためにp-GaN層12Cの厚みを実際の設計値よりも厚く形成している。室温にて良好に機能する窒化物半導体発光素子を得るには、設計値の一例として、GaN共振器12の厚みを3.7波長に設定したい。このため、GaN共振器12の成長を
図8における3.7波長(点線の時刻)のところで共振器積層工程の実行を終了すれば、設計値通りのGaN共振器12を形成することができる。こうして、GaN面発光レーザーにおける窒化物半導体層のエピタキシャル成長を終了する。
【0042】
次に、完成したウエハを用いて電流の注入が可能な素子の形成を行う。先ず、直径40μmの円形形状のメサ構造を形成する。詳しくは、フォトリソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いてメサ構造を形成する。このとき、メサ構造はp-GaN層12Cの表面を円形形状のフォトレジストで覆い、円形形状のフォトレジストの周囲に対して、GaN共振器12内のn-GaN層12Aの表面が露出する深さおよそ100nmのエッチングを行う。
【0043】
次に、メサ構造の表面の中心部に直径8μmのレジストを形成し、10nmのSiO2膜を蒸着した後、リフトオフする。これにより、メサ構造の表面の中心部に直径8μmの開口が形成され、メサ構造の側面を覆う10nm厚のSiO2膜を形成する。
【0044】
次に、SiO2膜の表面と、SiO2膜の開口が形成されたメサ構造の表面とに、フォトレジストでパターニング、成膜、及びリフトオフを繰り返すことによって、pコンタクト電極となる20nmのITO層、及び32nmのNb2O5層を積層する。これらのプロセスにより、上述の3.7波長共振器を有するGaN面発光レーザー上にITO層とNb2O5層が堆積されて、ちょうど4波長の共振器が完成する。エピタキシャル成長で形成したGaN共振器12は、その場で並行して反射率スペクトル測定を実行することによって、その層厚を高い精度で制御して形成されているため、ITO層とNb2O5層も設計値通りの厚みで積層すればよく、GaN共振器12のずれを考慮した調整などは必要ない。
【0045】
次に、pパッド電極、及びnコンタクト電極を形成する。pパッド電極はITO層の表面の外周縁部に形成する。nコンタクト電極はエッチングで露出させたn-GaN層12Aの表面に形成する。pパッド電極、及びnコンタクト電極は、Cr/Ni/Au(10/20/370nm)で構成される。最後に、Nb2O5層の表面に、反射率が99.9%以上の高反射率となる誘電体の8ペアのNb2O5/SiO2の多層膜反射鏡を積層すれば、窒化物半導体発光素子としてのGaN面発光レーザーが完成する。共振器長の厚みが高い精度で制御されているため、発光層の有する利得波長と共振器の共振波長が設計値通りの適切な関係で形成でき、再現性良く素子本来の性能を引き出すことが可能となる。
【0046】
窒化物半導体発光素子の製造方法は、AlInN/GaN多層膜反射鏡11を積層して形成する多層膜反射鏡積層工程と、多層膜反射鏡積層工程の実行後、AlInN/GaN多層膜反射鏡11の表面にGaN共振器12を積層する共振器積層工程と、共振器積層工程を実行しつつ、GaN共振器12の反射率を計測する反射率計測工程とを備え、反射率計測工程において用いられる光の波長は、室温における多層膜反射鏡の反射中心波長、すなわち共振波長よりも長い。この構成によれば、窒化物半導体発光素子を積層して結晶成長させる際の成長温度では、窒化物半導体発光素子における共振波長が長波長化するため、反射率計測工程において用いられる光の波長を室温におけるAlInN/GaN多層膜反射鏡11の共振波長(反射中心波長)よりも長くすることによって、窒化物半導体発光素子を結晶成長させつつ、結晶成長中のGaN共振器12の反射率を良好に測定することができる。
【0047】
共振器積層工程の実行中にGaN共振器12内に吸収領域Ab1を積層する吸収領域積層工程を更に備え、吸収領域積層工程において積層される吸収領域Ab1は、室温においては、室温におけるAlInN/GaN多層膜反射鏡11の共振波長の光を吸収せず、成長温度においては、室温におけるAlInN/GaN多層膜反射鏡11の共振波長よりも長波長の光を吸収する。この構成によれば、吸収領域Ab1によって室温におけるAlInN/GaN多層膜反射鏡11の共振波長よりも長波長の光を成長温度において吸収することができ、これによって、共振器積層工程を実行中、すなわち成長温度におけるGaN共振器12の反射率の変化量を大きくでき、共振器積層工程を実行中におけるGaN共振器12の共振波長での反射率の変化量を大きくして観測し易くできる。
【0048】
吸収領域積層工程を実行することによって、GaN共振器12の全体を吸収領域Ab1として設定する。この構成によれば、GaN共振器12内の光を確実に吸収することができる。
【0049】
GaN共振器12の全体を吸収領域Ab1とする場合、吸収領域Ab1における吸収係数αは、100cm-1以上、かつ30000cm-1以下である。この構成によれば、GaN共振器12の反射率の変化量を1%以上の大きさにすることができる。
【0050】
<実施例3>
[共振器の一部で吸収させる場合]
GaN共振器112の一部で光を吸収する場合(
図5(B)参照)として、室温での共振波長が520nmの場合を検討する。具体的には、
図9に示すように、多層膜反射鏡積層工程を実行して積層した46ペアのAlInN/GaN多層膜反射鏡111の表面にGaN共振器212を積層する。GaN共振器212は、共振波長の光を吸収しない4波長(共振状態に相当)の厚みを有している。そして、共振器積層工程の実行中において、吸収領域積層工程を実行することによって、GaN共振器212の積層方向の一部区間を共振波長の光を吸収する吸収領域Ab2としてn-GaInN吸収層212Aを設ける。
【0051】
図9に示すように、GaN共振器212は、4波長の厚みのGaN共振器212において、下端から上向きに1波長の位置に厚み方向の中心が一致するようにn-GaInN吸収層212Aを配置する。n-GaInN吸収層212Aは、2つのn-GaN層212Bによって上下方向に挟まれている。上側のn-GaN層212Bの表面には、GaInN量子井戸などで形成されたGaInN発光層212Cが積層されている。さらに、GaInN発光層212Cの表面には、p-GaN層212Dが積層されている。GaInN発光層212Cは、n-GaN層212B及びp-GaN層212Dに上下方向に挟まれているため、電流注入が可能である。また、n-GaInN吸収層212Aは、Siなどが添加されてn型になっており、上記電流注入を妨げない。
【0052】
n-GaInN吸収層212Aは、成長温度での共振波長の光を吸収し、室温での共振波長の光を吸収しないことが求められる。室温での共振波長を520nm、GaN共振器212の成長温度を1000℃とすると、式1から成長温度での共振波長は、520nmから18nm長波長化して538nmであることがわかる。ゆえに、n-GaInN吸収層212Aは、成長温度において少なくとも共振波長がおよそ540nmの光を十分に吸収する必要がある。ここで、室温におけるGaNの吸収端は、370nmであり、成長温度では430nm近くまで(約60nm程度)長波長化することは実施例2において述べたとおりである。
【0053】
ここで、成長温度において共振波長が550nmの光を吸収するn-GaInN吸収層212Aに設定したとすると、室温における吸収端は490nmとなり、室温での素子動作波長である520nmよりも30nmと十分短波長であるため素子特性に大きな影響を与えない。このように、n-GaInN吸収層212Aにおいて適切な吸収波長を選択してやればよい。ここでは、n-GaInN吸収層212Aを吸収領域Ab2として用いた。バンド間吸収が起こっているため、n-GaInN吸収層212Aにおける吸収係数αは100000cm-1である。
【0054】
ここで、n-GaInN吸収層212Aにおいて必要十分な量の光を吸収させるために、n-GaInN吸収層212Aの厚みをどの程度にするか決定することが重要である。ここで、n-GaInN吸収層212Aの厚みを0.01nm、0.1nm、1nm、及び10nmの4段階に変化させた反射率スペクトルの理論計算結果を
図10に示す。
図10に示すように、厚みが0.1nm以上で共振波長の反射率が1%以上低下することが判明した。10nmでは、反射率は50%以下である35%になり、反射率の変化を明瞭に観測できることがわかる。ただし、GaInNなど窒化物半導体の1原子層の厚み、すなわち、もっとも薄い層は0.3nmである。これより薄い層は均一な膜にならない。また、n-GaInN吸収層212Aの厚みを10nmよりも厚くすると、n-GaInN吸収層212Aの格子不整合により結晶性悪化の懸念が生じる。よって、GaN共振器212の厚みを制御する目的で、GaN共振器212の厚み方向の一部のみに吸収領域Ab2であるn-GaInN吸収層212Aを導入する場合、その積層方向の厚みは、0.3nm以上、且つ10nm以下にするとよい。より好ましいn-GaInN吸収層212Aの厚みは、反射率が10%以上変化する1nm以上、且つ10nm以下である。
【0055】
反射率計測工程を実行して反射率の推移を測定しつつ、共振器積層工程を実行してGaN共振器212を結晶成長させる。そして、GaN共振器212が所望の厚みになったところで共振器積層工程を終了して結晶成長を終了させる。こうして、GaN面発光レーザーの窒化物半導体層形成のためのエピタキシャル成長を終了する。そして、実施例2と同様に窒化物半導体発光素子としてのGaN面発光レーザーの素子形成をする。素子形成の方法は実施例2と同様であるため、説明は省略する。
【0056】
吸収領域積層工程を実行することによって、GaN共振器212の積層方向の一部区間を吸収領域Ab2として設定する。この構成によれば、GaN共振器212の一部区間を吸収領域Ab2として設定すればよいため、吸収領域Ab2を除いた部分のGaN共振器212の構成を改変しなくて済む。
【0057】
吸収領域Ab2における積層方向の厚みは、0.3nm以上、且つ10nm以下である。この構成によれば、GaN共振器212の品質を保ちつつ、GaN共振器212の反射率の変化量を1%以上の大きさにすることができる。
【0058】
<実施例4>
[吸収領域が発光層を兼ねる場合]
GaN共振器112の一部で光を吸収する場合(
図5(B)参照)の別の例として、窒化物半導体発光素子の発光層の量子井戸を用いる場合の一例を示す。具体的には、
図11に示すように、吸収領域Ab2であるGaInN吸収層312Aが発光層を兼ねる場合について検討した。室温での共振波長を520nmに設定すると、GaInN吸収層312A(発光層)の発光波長は、510nm程度に設定される。この場合、GaN共振器312の成長温度である1000℃のときには、吸収端は570nmまで長波長化する。このため、式1から見積もられる成長温度における共振波長が538nmの場合でも吸収領域Ab2が光を吸収する。一般的に活性層(発光層)には、厚さ2nmから3nmの量子井戸を1から5個形成する。ゆえに、活性層には厚さとして、およそ2nmから15nmの量子井戸が存在する。この量子井戸の厚みは、実施例3における吸収層の厚みの検討結果から、光を吸収するのに必要十分な厚みであることがわかる。ゆえに、式1を用いて成長温度での共振波長を見積もることができれば、GaInN吸収層312Aを発光層として兼ねることも可能である。
【0059】
ただし、発光層の最適構造と本発明の目的を達成するための最適構造が必ずしも一致しない場合があるため、いかなる場合においても吸収領域Ab2が発光層を兼ねる構成が成立するとは限らない。また、この場合、
図11に示すように、発光層(GaInN吸収層312A)は、GaN共振器312の積層方向の上寄りに(ここでは、下から3波長、上から1波長の位置に厚み方向の中心が位置するように)配置されることが多い。詳しくは、発光層(GaInN吸収層312A)は、n-GaN層312Bの表面に積層され、p-GaN層312Cは発光層の表面に積層される。これはp層の抵抗がn層の抵抗より100倍程度高いため、p層の厚みを極力抑えて低抵抗化させるためである。
【0060】
この場合の成長温度における共振波長での反射率の推移を
図12に示す。
図12に示すように、発光層(GaInN吸収層312A)が形成されるまで(すなわち、n-GaN層312Bの厚みが3波長分積層されるまで)反射率の明瞭な上下振動が観察されず、GaN共振器312の共振器長の途中経過がわからない。GaInN吸収層312A(発光層)の形成が終了すると、反射率が大きく振動し始め、その振動が測定装置で検出可能となり、所望の厚みでGaN共振器312の形成を終了することが可能となる。
【0061】
そして、GaN共振器312の共振器長が所望の厚みになったところで結晶成長を終了させる。そして、実施例2と同様に窒化物半導体発光素子としてのGaN面発光レーザーの素子形成をする。素子形成の方法は実施例2と同様であるため、説明は省略する。
【0062】
吸収領域Ab2は、活性層である。この構成によれば、吸収領域Ab2として活性層を利用できるので、吸収領域Ab2を単独で設ける手間が省ける。
【0063】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
(1)上記実施例3とは異なり、共振器内における吸収領域の数は、2つ以上であってもよい。
(2)上記実施例2とは異なり、多層膜反射鏡の反射中心波長に応じて、反射率計測工程において用いられる光の波長は、所望とする共振波長と、その成長温度に応じた値とすればよく、表1に示すシフト量の範囲に設定すればよい。具体的には、室温における多層膜反射鏡の反射中心波長、すなわち共振波長よりも11.8nmから26.7nm大きければよい。つまり、反射率計測工程において用いられる光の波長は、室温におけるAlInN/GaN多層膜反射鏡の共振波長(反射中心波長)よりも11.8nmから26.7nm大きい。この構成によれば、窒化物半導体発光素子から発光し得る波長(375nmから675nm)における、室温から成長温度までの波長シフトの範囲をほぼカバーできる。ゆえに、室温における所望の共振波長を有する共振器を結晶成長している際の波長シフトを考慮した共振波長での反射率を測定することができる。
(3)多層膜反射鏡の材質は、実施例1から4に開示された材質と異なっていてもよい。
(4)実施例では、共振器長は1波長、あるいは4波長であったが、必要な素子特性に応じて最適な共振器長を選択しつつ、吸収領域の吸収量を調整すればよい。
【符号の説明】
【0064】
11,111…AlInN/GaN多層膜反射鏡(多層膜反射鏡)
12,112,212,312…GaN共振器(共振器)
312A…GaInN吸収層(活性層)
Ab1,Ab2…吸収領域
α…吸収係数