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特開2024-47149圧力モータ式マスダンパの性能諸元の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047149
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】圧力モータ式マスダンパの性能諸元の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/00 20190101AFI20240329BHJP
   G01M 7/02 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
G01M13/00
G01M7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152599
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179453
【弁理士】
【氏名又は名称】會田 悠介
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 久也
(72)【発明者】
【氏名】尾家 直樹
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AA09
2G024BA11
2G024CA06
2G024CA11
2G024DA12
2G024EA01
(57)【要約】
【課題】マスダンパの性能諸元を精度良く評価できるとともに、性能諸元の調整を容易に行うことができる圧力モータ式マスダンパの性能諸元の評価方法を提供する。
【解決手段】作動油HFが連通路4を流動せず、かつ歯車モータ5が作動不能に構成されたマスダンパ1の試験体1E(第1試験体)を試験装置51に反力治具59を介して設置・加振するとともに、検出された入力加振力及び変位(ダンパ力Fd及び変位x)に基づき、マスダンパ1の作動油HF、作動油HF以外のばね要素、及び反力治具59を縮約した縮約ばね要素の剛性kbと、リリーフ特性crを算出し、作動油HFが連通路4を流動し、かつ歯車モータ5が作動可能である本来のマスダンパ1(第2試験体)を試験装置51に設置・加振するとともに、検出された入力加振力及び変位と、縮約ばね要素の剛性kb及びリリーフ特性crに基づき、マスダンパ1の等価質量md及び減衰係数cdを算出する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が充填されたシリンダと、当該シリンダ内に摺動自在に設けられ、当該シリンダ内を第1及び第2流体室に区画するピストンと、当該ピストンに内蔵され、前記第1及び第2流体室内の一方の圧力が所定圧に達したときに開弁し、当該圧力を前記第1及び第2流体室内の他方に逃がすリリーフ弁と、前記ピストンをバイパスし、前記シリンダの連通口を介して前記第1及び第2流体室に連通する連通路と、当該連通路に設けられた圧力モータと、当該圧力モータに連結された回転マスを有し、構造物の振動時、前記ピストンが前記シリンダに対して往復動するのに伴い、前記連通路における作動流体の流動により前記圧力モータが作動したときの前記回転マスによる回転慣性質量効果と、前記連通路・前記圧力モータ内を流動する作動流体による粘性減衰効果によって、前記構造物の振動を抑制するための圧力モータ式のマスダンパの性能を表す性能諸元を評価する方法であって、
作動流体が前記連通路を流動せず、かつ前記圧力モータが作動不能に構成された前記マスダンパを、第1試験体として準備する第1試験体準備工程と、
当該第1試験体を試験装置に反力治具を介して設置し、加振するとともに、入力された加振力及び変位を検出する第1加振工程と、
当該第1加振工程中に検出された加振力及び変位に基づき、前記マスダンパの作動流体、作動流体以外のばね要素、及び前記反力治具を縮約した縮約ばね要素の剛性と、前記リリーフ弁のリリーフ特性を算出する第1性能諸元算出工程と、
作動流体が前記連通路を流動し、かつ前記圧力モータが作動可能である本来の構成の前記マスダンパを、第2試験体として準備する第2試験体準備工程と、
当該第2試験体を前記試験装置に設置し、加振するとともに、入力された加振力及び変位を検出する第2加振工程と、
当該第2加振工程中に検出された加振力及び変位と、前記第1性能諸元算出工程で算出された縮約ばね要素の剛性及び前記リリーフ特性に基づき、前記マスダンパの等価質量及び減衰係数を算出する第2性能諸元算出工程と、を備えることを特徴とする圧力モータ式マスダンパの性能諸元の評価方法。
【請求項2】
前記第1性能諸元算出工程の後、前記算出された縮約ばね要素の剛性及び前記リリーフ特性が、それぞれの所定の許容範囲内に収まっているか否かを判定する第1判定工程と、
当該第1判定の結果、前記縮約ばね要素の剛性及び前記リリーフ特性の少なくとも一方が前記許容範囲内に収まっていないときに、当該少なくとも一方を前記許容範囲内に収まるように調整する第1調整工程と、をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の圧力モータ式マスダンパの性能諸元の評価方法。
【請求項3】
前記第1試験体は、前記本来の構成のマスダンパに対し、前記連通路、前記圧力モータ及び前記回転マスを省略するとともに、前記シリンダの前記連通口を蓋材で密閉することによって構成されていることを特徴とする、請求項2に記載の圧力モータ式マスダンパの性能諸元の評価方法。
【請求項4】
前記第2性能諸元算出工程の後、前記算出されたマスダンパの等価質量及び減衰係数が、それぞれの所定の許容範囲内に収まっているか否かを判定する第2判定工程と、
当該第2判定の結果、前記等価質量及び減衰係数の少なくとも一方が前記許容範囲内に収まっていないときに、当該少なくとも一方を前記許容範囲内に収まるように調整する第2調整工程と、をさらに備えることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の圧力モータ式マスダンパの性能諸元の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力モータで駆動される回転マスによる回転慣性質量効果によって、構造物の振動を抑制する圧力モータ式マスダンパに関し、その性能を表す性能諸元の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、マスダンパ(回転慣性質量ダンパ)の性能諸元を評価するための試験装置を、例えば特許文献1に開示している。このマスダンパは、ボールねじ式のものであり、振動時に発生する内筒とねじ軸との間の相対変位が、回転マスの回転運動に変換されることによって、回転マスによる回転慣性質量効果(慣性力)と、回転マスと内筒の間に配置された粘性体による粘性減衰効果(粘性力)が発揮されることで、振動抑制効果が得られる。
【0003】
試験装置は、鋼材を井桁状に組み立てた試験フレーム内に、アクチュエータ、マスダンパ及び連結部材(反力治具)を順に配置するとともに、ロードセルや変位センサを設けたものである。そして、アクチュエータからマスダンパに定常加振力を入力したときに検出されたダンパ抵抗力とダンパ変位との関係から、マスダンパの性能諸元として、等価質量(回転慣性質量)や減衰係数が算出(評価)される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-36982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来のボールねじ式マスダンパに対する性能諸元の評価方法を、圧力モータ式のマスダンパに採用した場合には、以下のような問題がある。周知のように、圧力モータ式マスダンパは、例えば、作動流体が充填されたシリンダと、シリンダ内に摺動自在に設けられ、リリーフ弁を有するピストンと、ピストンをバイパスし、シリンダの第1及び第2流体室に連通する連通路を備える。連通路には圧力モータ(例えば歯車モータ)が設けられ、圧力モータの出力軸には回転マスが連結されている。
【0006】
以上の構成の圧力モータ式マスダンパでは、振動時にピストンがシリンダに対して往復動するのに伴い、連通路における作動流体の流動が、圧力モータにより回転マスの回転運動に変換されることによって、回転マスによる回転慣性質量効果が発揮されると同時に、連通路・圧力モータ内を流動する作動流体による粘性減衰効果が発揮されることで、振動抑制効果が得られる。また、第1又は第2流体室の一方の作動流体の圧力が所定圧に達したときに、リリーフ弁が開弁することによって、作動流体が他方の流体室に逃がされ、ダンパ反力の過大化が防止される。
【0007】
以上のような圧力モータ式マスダンパを対象として、加振試験を行い、性能諸元を評価する場合、評価すべき性能諸元の要素は、マスダンパの作動流体の圧縮剛性、作動流体以外のばね要素の剛性、リリーフ弁のリリーフ特性(リリーフ荷重、リリーフ前後の減衰係数)、マスダンパの等価質量及び減衰係数と、試験装置の反力治具の剛性の計6つであり、ボールねじ式の場合よりもかなり多くなる。このため、前述した従来の試験装置のように、試験フレーム内にマスダンパを組み込み、アクチュエータからマスダンパに定常加振力を入力したときに検出されたダンパ抵抗力とダンパ変位との関係から、性能諸元を評価する方法では、6つの要素の性能諸元をそれぞれ精度良く算出・評価することは困難である。
【0008】
また、算出された性能諸元、例えばリリーフ特性が許容範囲内に収まっていない場合には、その調整のために、マスダンパから、連通路などの配管類や、圧力モータ及び回転マス、ピストンなどを一旦、取り外し、その状態で調整を行った後、再度、組み立てることが必要である。このため、性能諸元の調整作業の効率が低く、マスダンパの製造コストの増加の原因になる。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、圧力モータ式マスダンパの性能諸元を精度良く評価できるとともに、性能諸元の調整を容易に行うことができる圧力モータ式マスダンパの性能諸元の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、作動流体が充填されたシリンダと、シリンダ内に摺動自在に設けられ、シリンダ内を第1及び第2流体室に区画するピストンと、ピストンに内蔵され、第1及び第2流体室内の一方の圧力が所定圧に達したときに開弁し、当該圧力を第1及び第2流体室内の他方に逃がすリリーフ弁と、ピストンをバイパスし、シリンダの連通口を介して第1及び第2流体室に連通する連通路と、連通路に設けられた圧力モータと、圧力モータに連結された回転マスを有し、構造物の振動時、ピストンがシリンダに対して往復動するのに伴い、連通路における作動流体の流動により圧力モータが作動したときの回転マスによる回転慣性質量効果と、連通路・圧力モータ内を流動する作動流体による粘性減衰効果によって、構造物の振動を抑制するための圧力モータ式のマスダンパの性能を表す性能諸元を評価する方法であって、作動流体が連通路を流動せず、かつ圧力モータが作動不能に構成されたマスダンパを、第1試験体として準備する第1試験体準備工程と、第1試験体を試験装置に反力治具を介して設置し、加振するとともに、入力された加振力及び変位を検出する第1加振工程と、第1加振工程中に検出された加振力及び変位に基づき、マスダンパの作動流体、作動流体以外のばね要素、及び反力治具を縮約した縮約ばね要素の剛性と、リリーフ弁のリリーフ特性を算出する第1性能諸元算出工程と、作動流体が連通路を流動し、かつ圧力モータが作動可能である本来の構成のマスダンパを、第2試験体として準備する第2試験体準備工程と、第2試験体を試験装置に設置し、加振するとともに、入力された加振力及び変位を検出する第2加振工程と、第2加振工程中に検出された加振力及び変位と、第1性能諸元算出工程で算出された縮約ばね要素の剛性及びリリーフ特性に基づき、マスダンパの等価質量及び減衰係数を算出する第2性能諸元算出工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明が適用されるマスダンパは、上述した構成を有する圧力モータ式のものであり、構造物の振動時、ピストンがシリンダに対して往復動するのに伴い、連通路における作動流体の流動により圧力モータが作動したときの回転マスによる回転慣性質量効果と、連通路・圧力モータ内を流動する作動流体による粘性減衰効果が発揮されることによって、構造物の振動を抑制するように構成されている。
【0012】
また、本発明の圧力モータ式マスダンパの性能諸元の評価方法では、まず、本来の構成のマスダンパに対して、作動流体が連通路を流動せず、かつ圧力モータが作動不能に構成したものを、第1試験体として準備する。次に、第1加振工程において、この第1試験体を試験装置に反力治具を介して設置し、加振するとともに、第1試験体に入力された加振力及び変位を検出する。そして、第1性能諸元算出工程において、第1加振工程中に検出された加振力及び変位に基づき、マスダンパの作動流体、作動流体以外のばね要素、及び反力治具を縮約した縮約ばね要素の剛性と、リリーフ弁のリリーフ特性を算出する。
【0013】
以上のように、第1加振工程では、上述した構成の第1試験体を加振することにより、連通路における作動流体の流動と圧力モータの作動が阻止された状態で、第1試験体に入力された加振力及び変位が検出される。その結果、検出された加振力及び変位には、回転マスによる回転慣性質量効果や、連通路・圧力モータ内の作動流体による粘性減衰効果がまったく影響しない。また、マスダンパ及び試験装置に関する3つのばね要素、すなわち、互いに直列に接続された、マスダンパの作動流体から成るばね要素、作動流体以外のばね要素、及び反力治具から成るばね要素は、これらと等価の単一の縮約ばね要素に縮約され、その剛性が評価される。以上から、上記の3つのばね要素の剛性を、単一の縮約ばね要素の剛性として容易にかつ精度良く算出するとともに、リリーフ弁のリリーフ特性を精度良く算出することができる。
【0014】
次に、作動流体が連通路を流動し、かつ圧力モータが作動可能である本来の構成のマスダンパを、第2試験体として準備するとともに、第2加振工程において、第2試験体を加振するとともに、第2試験体に入力された加振力及び変位を検出する。そして、第2性能諸元算出工程において、第2加振工程中に検出された加振力及び変位と、第1性能諸元算出工程で算出された縮約ばね要素の剛性及びリリーフ特性に基づき、マスダンパの等価質量及び減衰係数を算出する。
【0015】
以上のように、第2加振工程では、本来の構成のマスダンパを第2試験体として加振することにより、作動流体が連通路を流動し、圧力モータが作動した状態で、第2試験体に入力された加振力及び変位が検出される。その結果、検出された加振力及び変位には、回転マスによる回転慣性質量効果と連通路・圧力モータ内を流動する作動流体による粘性減衰効果の影響が、良好に反映される。したがって、これらの加振力及び変位と、第1性能諸元算出工程で算出された縮約ばね要素の剛性及びリリーフ特性に基づき、マスダンパの等価質量及び減衰係数を精度良く算出することができる。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の圧力モータ式マスダンパの性能諸元の評価方法において、第1性能諸元算出工程の後、算出された縮約ばね要素の剛性及びリリーフ特性が、それぞれの所定の許容範囲内に収まっているか否かを判定する第1判定工程と、第1判定の結果、縮約ばね要素の剛性及びリリーフ特性の少なくとも一方が許容範囲内に収まっていないときに、当該少なくとも一方を許容範囲内に収まるように調整する第1調整工程と、をさらに備えることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、第1性能諸元算出工程において算出された縮約ばね要素の剛性及び/又はリリーフ特性が、所定の許容範囲から外れていると判定された場合、そのように判定された性能諸元を許容範囲内に収まるように調整することができる。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の圧力モータ式マスダンパの性能諸元の評価方法において、第1試験体は、本来の構成のマスダンパに対し、連通路、圧力モータ及び回転マスを省略するとともに、シリンダの連通口を蓋材で密閉することによって構成されていることを特徴とする。
【0019】
この構成の第1試験体では、本来の構成のマスダンパにおける連通路、圧力モータ及び回転マスが存在しておらず、シリンダの連通口が蓋材で密閉されている。したがって、縮約ばね要素の剛性及び/又はリリーフ特性を許容範囲内に収めるための第1調整工程における調整を、連通路や、圧力モータ、回転マスの取外し作業を必要とすることなく、ばね要素やリリーフ弁に直接、アクセスしながら、容易に行うことができ、調整作業を最小化することができる。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項1~3のいずれかに記載の圧力モータ式マスダンパの性能諸元の評価方法において、第2性能諸元算出工程の後、算出されたマスダンパの等価質量及び減衰係数が、それぞれの所定の許容範囲内に収まっているか否かを判定する第2判定工程と、第2判定の結果、等価質量及び減衰係数の少なくとも一方が許容範囲内に収まっていないときに、当該少なくとも一方を許容範囲内に収まるように調整する第2調整工程と、をさらに備えることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、第2性能諸元算出工程において算出された等価質量及び/又は減衰係数が、それぞれの所定の許容範囲内に収まっていないと判定された場合、その性能諸元を許容範囲内に収まるように適切に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】圧力モータ式マスダンパの性能諸元を評価するための試験装置を、マスダンパとともに概略的に示す図である。
図2】マスダンパを示す断面図である。
図3】試験装置の制御装置などを示すブロック図である。
図4】(a)マスダンパ、(b)マスダンパ及び試験装置、並びに(c)(b)の複数のばね要素を単一のばね要素に縮減したマスダンパ及び試験装置を、それぞれモデル化して示す図である。
図5】マスダンパの性能諸元を評価・調整する手順を示すフローチャートである。
図6図5の第1ステップで用いられるマスダンパの試験体を示す、図2と同様の図である。
図7図6の試験体及び試験装置をモデル化して示す、図4(c)に対応する図である。
図8】第1ステップの加振試験によって得られるアクチュエータ変位及びダンパ力や、算出される性能諸元などを示す図である
図9】マスダンパの(a)減衰係数、及び(b)等価質量の算出方法を説明するための図である。
図10】圧力モータ式マスダンパの性能諸元を評価するための、図1と異なる試験装置を、マスダンパとともに概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1は、マスダンパ(回転慣性質量ダンパ)1を試験装置51に設置した状態を示す。このマスダンパ1は、圧力モータとして歯車モータ5を用いた歯車モータ式のものであり、例えば建物などの構造物に設けられ、その振動時、ダンパ力を発生させることによって、構造物の振動を抑制するものである。まず、この歯車モータ式のマスダンパ1の構成及び動作について、以下に説明する。
【0024】
図2に示すように、マスダンパ1は、円筒状のシリンダ2と、シリンダ2内に摺動自在に設けられたピストン3と、ピストン3をバイパスし、シリンダ2内に連通する連通路4と、連通路4に配置された、圧力モータとしての歯車モータ5と、歯車モータ5の出力軸8に連結されたフライホイール9などを備える。
【0025】
シリンダ2は、周壁2aと、周壁2aの両端部に設けられた第1及び第2端壁2b、2cを有する。第1端壁2bには、ロッド収容室2gを有する突出部2dが同心状に設けられ、その端部には、自在継手を介して第1取付具FL1が設けられている。
【0026】
ピストン3は、シリンダ2内に摺動自在に設けられており、シリンダ2の内部空間を第1流体室2eと第2流体室2fに区画している。第1及び第2流体室2e、2fと連通路4には、作動油HFが充填されている。作動油HFは、適度な粘性を有する通常のものである。
【0027】
ピストン3には、ピストンロッド10が同心状に一体に設けられている。ピストンロッド10は、ピストン3の両側に延びており、第2端壁2cの側では、そのロッド案内孔を液密に貫通し、外方に延びている。ピストンロッド10の外端部には、自在継手を介して第2取付具FL2が設けられている。また、ピストンロッド10は、第1端壁2bの側では、そのロッド案内孔を液密に貫通し、突出部2dのロッド収容室2g内に延びており、その端部にピストン部アキュムレータ31が設けられている。
【0028】
ピストン部アキュムレータ31は、作動油HFの温度膨張などによる圧力を蓄えるためのものであり、ピストンロッド10の端部に形成された中空のケーシング部32と、ケーシング部32内に摺動自在に設けられ、ピストン3側に油室33を画成するピストン34と、ピストン34を油室33側に付勢するセットばね35を有する。また、ピストンロッド10には、これに沿ってロッド連通孔10aが形成されている。ロッド連通孔10aは、一端部において油室33に連通し、他端部側はピストン3の中央まで延びている。
【0029】
一方、ピストン3には、軸線方向に貫通し、第1及び第2流体室2e、2fに連通する第1及び第2連通孔と、第1及び第2連通孔をつなぐように上下方向に延び、ロッド連通孔10aに連通する第3連通孔が形成されている。第1連通孔には、第3連通孔の両側に、逆止弁36、36が設けられている。各逆止弁36は、第3連通孔側から第1又は第2流体室2e、2f側への作動油HFの流れのみを許容するように構成されている。また、第2連通孔には、第3連通孔の両側に、オリフィス37、37が設けられている。
【0030】
以上の構成では、作動油HFの温度上昇などに伴ってシリンダ2内の作動油HFの圧力が上昇すると、作動油HFが、第1及び第2流体室2e、2fから、ピストン3の第2連通孔、オリフィス37、37、第3連通孔、及びロッド連通孔10aを介して、ピストン部アキュムレータ31の油室33に緩やかに流入する。これに伴い、ピストン34を介してセットばね35が圧縮されることによって、作動油HFの圧力がピストン部アキュムレータ31に蓄えられ、それにより、温度上昇などによる作動油HFの圧力上昇に起因する不具合が回避される。
【0031】
また、ピストン3には、軸線方向に貫通するリリーフ用の第1連通路3d及び第2連通孔3eが形成されている。第1及び第2連通路3d、3eにはそれぞれ第1リリーフ弁11及び第2リリーフ弁12が設けられている。第1及び第2リリーフ弁11、12は、互いに同じ構成を有し、常閉弁として構成されており、弁体と、弁体を閉弁方向に付勢するばねを有する。
【0032】
第1リリーフ弁11は、第1流体室2e内の作動油HFの圧力が所定圧に達するまで、第1連通路3dを閉鎖し、所定圧に達したときに、第1連通路3dを開放する。これにより、第1流体室2e内の圧力が、第1連通路3dを介して第2流体室2f側に逃がされ、所定圧にリリーフ後の減衰係数の影響が加算された圧力以下に制限される。同様に、第2リリーフ弁12は、第2流体室2f内の圧力が所定圧に達するまで、第2連通路3eを閉鎖し、所定圧に達したときに、第2連通路3eを開放する。これにより、第2流体室2f内の圧力が、第2連通路3eを介して第1流体室2e側に逃がされ、所定圧にリリーフ後の減衰係数の影響が加算された圧力以下に制限される。
【0033】
歯車モータ5は、例えば内接式のものであり、連通路4の中央に配置されている。歯車モータ5は、2つの出入口6a、6aを介して、連通路4に連通するハウジング6と、ハウジング6に収容され、互いに噛み合う回転自在の入力ギヤ及び出力ギヤ(いずれも図示せず)と、出力ギヤに一体に設けられた出力軸8を有する。ハウジング6は、シリンダ2の周壁2aに支持されている。また、ハウジング6内には、作動油HFを排出するためのドレン通路(図示せず)が設けられている。出力軸8は、シール(図示せず)を介して、ハウジング6に液密に支持されている。
【0034】
ハウジング6のドレン通路にはドレン配管41の一端部が接続され、ドレン配管41の他端部は、シリンダ2の突出部2d、ピストン部アキュムレータ31のケーシング部32及びピストン34を貫通し、油室33に連通している。この構成では、ハウジング6内の作動油HFの圧力が上昇したときに、ハウジング6内の作動油HFを、ドレン通路からドレン配管41を介してピストン部アキュムレータ31の油室33に排出し、圧力を逃がすことによって、ハウジング6内の過度の高圧化が防止される。
【0035】
フライホイール9は、比重が比較的大きな材料、例えば鋼材などで構成され、例えば円板状に形成されており、出力軸8に同軸状に一体に設けられている。
【0036】
以上の構成のマスダンパ1は、例えば構造物内の相対変位する2つの部位の間に、第1及び第2取付具FL1、FL2を介して取り付けられ、制震装置として用いられる。地震時などに構造物が振動すると、上記の2つの部位間の相対変位に応じて、ピストン3がシリンダ2内を移動する。それに伴い、第1又は第2流体室2e、2f内の作動油HFが、ピストン3で押し出されることによって、連通路4に流出し、歯車モータ5のハウジング6を流れた後、第2又は第1流体室2f、2eに流入する。
【0037】
この作動油HFの流動による圧力が、歯車モータ5の入力ギヤ及び出力ギヤの回転運動に変換され、出力軸8と一体のフライホイール9が回転駆動されることによって、回転慣性質量効果(慣性力)が発揮される。また、作動油HFが連通路4や歯車モータ5内などを流動する際の粘性抵抗による粘性減衰効果(粘性力)が発揮されることで、回転慣性質量効果と併せて構造物の振動抑制効果が得られる。
【0038】
また、上述した構成及び動作から、マスダンパ1は、図4(a)のようにモデル化される。すなわち、(a)フライホイール9及び作動油HFから成る、等価質量mdの慣性質量要素と、(b)連通路4や歯車モータ5を流動する作動油HFから成る減衰係数cdの粘性要素との並列体に、(c)マスダンパ1の作動油HFから成る圧縮剛性kdsのばね要素、(d)マスダンパ1の作動油HF以外の剛性kdoのばね要素、及び(e)第1及び第2リリーフ弁11、12から成るリリーフ特性crのリリーフ要素(リリーフ前の減衰係数c1の粘性要素、リリーフ荷重Frの制限要素、及びリリーフ後の減衰係数c2の粘性要素)が、直列に接続されたモデルになる。
【0039】
次に、図1及び図3を参照しながら、試験装置51について説明する。なお、以下の説明では、便宜上、図1の上側及び下側をそれぞれ「上」及び「下」、左側及び右側を「左」及び「右」、手前側及び奥側を「前」及び「後」とする。図1に示すように、試験装置51は、井桁状に一体に組み立てた上下左右のフレーム52、53、54、55で構成され、マスダンパ1が収容される試験フレーム56と、マスダンパ1に加振力を入力するためのアクチュエータ57と、アクチュエータ57をマスダンパ1に連結するための連結部材58と、右フレーム55に連結され、マスダンパ1の反力を受ける反力治具59と、下フレーム53に設けられ、連結部材58の左右方向の移動を案内するガイド機構60を備える。
【0040】
上下左右のフレーム52~55、連結部材58及び反力治具59は、H型鋼などの鋼材で構成されている。マスダンパ1は、その軸線方向が左右方向に延びるように配置されており、第1取付具FL1を介して連結部材58に連結され、第2取付具FL2を介して反力治具59に連結されている。
【0041】
アクチュエータ57は、例えばソレノイドで構成されており、左フレーム54に取り付けられた本体部57aと、ロードセル61を介して連結部材58に連結されたプランジャ57bを有する。アクチュエータ57は、制御装置63(図3参照)によって制御され、それにより、プランジャ57bから加振力が出力される。
【0042】
図3に示すように、試験装置51はさらに、前記ロードセル61と、マスダンパ1に設けられた変位センサ62と、アクチュエータ57を制御する制御装置63を備える。ロードセル61は、例えばひずみゲージ式のものであり、連結部材58に作用する荷重を、マスダンパ1に作用する力(以下「ダンパ力」という)Fdとして検出し、その検出信号を制御装置63に出力する。
【0043】
変位センサ62は、例えばレーザー式のものであり、アクチュエータ57の本体部57aに対するプランジャ57bの変位を、アクチュエータ57からマスダンパ1に入力される変位(以下「アクチュエータ変位」という)xとして検出し、その検出信号を制御装置63に出力する。制御装置63は、アクチュエータ57を駆動するための電源や、整流器、CPU、RAM、ROM,I/Oインターフェースなど(いずれも図示せず)の組み合わせで構成されている。
【0044】
以上の試験装置51の構成から、マスダンパ1を試験装置51に設置したときのモデルは、図4(b)のように表される。すなわち、同図(a)に示されるマスダンパ1のリリーフ特性crのリリーフ要素が、反力治具59から成る剛性kbjのばね要素を介して、不動体に接続されるとともに、マスダンパ1の反対側にアクチュエータ57が接続されたモデルになる。
【0045】
また、図4(b)の3つのばね要素(圧縮剛性kds、剛性kdo、及び剛性kbj)は、互いに直列関係にあることから、1つのばね要素に縮約(合成)することが可能であり、その場合、図4(b)のモデルは、図4(c)のように表される。また、縮約されたばね要素(以下「縮約ばね要素」という)の剛性kbは、次式(1)で表される。
1/kb = 1/kds+1/kdo+1/kbj ・・・(1)
【0046】
また、図4(b)及び(c)のモデルにおける要素間の変位の関係は、次式(2)で表される。
x = xbj+xiHGD = xb+xr+xd ・・・(2)
ここで、 x:アクチュエータ変位
xbj:反力治具ばね要素の変位
xiHGD:ダンパ変位
xb:縮約ばね要素の変位
xr:リリーフ要素の変位
xd:慣性質量要素(粘性要素)の変位
【0047】
また、図4(b)及び(c)のモデルにおける要素間の力(荷重)の関係は、第1及び第2リリーフ弁11、12のリリーフ条件に応じて、次式(3)及び(4)で表される。
・|Fd|≦Frのとき(リリーフ前の条件)
Fd = kbj・xbj = kb・xb
= c1・vr = md・αd+cd・vd ・・・(3)
・|Fd|>Frのとき(リリーフ後の条件)
Fd = kbj・xbj = kb・xb
= sgn(vr)・Fr+c2・(vr-sgn(vr)・Fr/c1)
= md・αd+cd・vd ・・・(4)
ここで、Fd:アクチュエータ加振力(=ダンパ力)
Fr:リリーフ荷重
c1:リリーフ前の減衰係数
c2:リリーフ後の減衰係数
vr:xrの速度
vd:xdの速度
αd:xdの加速度
md:慣性質量要素の等価質量
cd:粘性要素の減衰係数
【0048】
次に、図5図9を参照しながら、マスダンパ1の諸元性能の評価方法について説明する。この評価方法は、試験装置51を用いてマスダンパ1の加振試験を行うとともに、そのときに検出されたダンパ力とダンパ変位との関係から、マスダンパ1の諸元性能として、縮約ばね要素の剛性kbや、リリーフ特性cr(リリーフ荷重Fr、リリーフ前後の減衰係数c1、c2)、等価質量md、粘性係数cdなどを算出するものである。また、算出された性能諸元が所定の許容範囲に収まっていない場合には、許容範囲に収まるようマスダンパ1の調整が行われる。
【0049】
まず、図5の第1工程(「S1」と図示。以下同じ)では、第1ステップを実行する。この第1ステップでは、作動油HFが連通路4を流れず、歯車モータ5が作動しないように構成されたマスダンパ1の試験体1Eを対象とし、試験装置51を用いて加振試験を行い、その加振結果から、縮約ばね要素の剛性kbとリリーフ特性crを算出する。図6に示すように、この試験体1Eは、図2のマスダンパ1に対し、連通路4や、歯車モータ5、フライホイール9、ドレン配管41を有しない(取り付けられていない)とともに、連通路4に連通するシリンダ2の各連通口2hを、蓋板71で密閉したものである。
【0050】
この構成では、試験体1Eが加振されても、作動油HFは連通路4に流れず、歯車モータ5は作動しない。このため、試験体1Eと試験装置51を併せたモデルは、図7に示すように、図4(c)のモデルから慣性質量要素と粘性要素が除去され、リリーフ要素と縮約ばね要素が接続されたモデルになる。したがって、これらの要素間の変位の関係は、次式(5)で表される。
x = xb+xr ・・・(5)
【0051】
この第1ステップでは、試験体1Eを試験装置51にセットし、アクチュエータ57から試験体1Eへの正弦波加振(例えば正弦波の変位制御)を、リリーフ荷重Frに達するリリーフ前の加振レベルの条件と、リリーフ荷重Frに達したリリーフ後の加振レベルの条件で、それぞれ行う。そして、それぞれの条件でサンプリング・記憶された、図8に示すようなアクチュエータ変位xとダンパ力Fdとの関係から、縮約ばね要素の剛性kbとリリーフ特性crを算出する。
【0052】
具体的には、まずリリーフ前の条件の加振結果(図8(a)~(c))に基づき、ダンパ力Fdの最大値とそのときのアクチュエータ変位xとの関係と前記式(3)から、縮約ばね要素の剛性kbを算出する。次に、この剛性kbとダンパ力Fdから、縮約ばね要素の変位xbを算出するとともに、この変位xbをアクチュエータ変位xから減算することによって、リリーフ要素の変位xrを算出する。そして、変位xrを微分することで、リリーフ要素の速度vrを算出するとともに、この速度vrとダンパ力Fdから、式(3)に基づき、リリーフ要素のリリーフ前の減衰係数c1を算出する。
【0053】
その後、リリーフ後の条件の入力レベルに応じた加振結果(図8(d)~(f)はその1つのケースを示す)に基づき、リリーフ荷重Frを算出するとともに、リリーフ荷重Frとリリーフ前の減衰係数c1から、式(4)に基づき、リリーフ要素のリリーフ後の減衰係数c2を算出する。以上により、図8(g)に示すようなバイリニアなリリーフ特性crが得られる。
【0054】
以上のように、第1ステップでは、図6に示す試験体1Eを加振することにより、マスダンパ1の場合と異なり、連通路4における作動油HFの流動と歯車モータ5の作動が阻止された状態で、試験体1Eに入力されたダンパ力F及びアクチュエータ変位xが検出される。その結果、検出されたダンパ力F及びアクチュエータ変位xには、回転マスによる回転慣性質量効果や、連通路内の作動流体による粘性減衰効果がまったく影響しない。また、マスダンパ1に関する3つのばね要素、すなわち、互いに直列に接続された、マスダンパ1の作動油HFから成るばね要素、作動油HF以外のばね要素、及び反力治具から成るばね要素は、これらと等価の単一の縮約ばね要素に縮約され、その剛性が評価される。以上から、上記の3つのばね要素の剛性kbs、kdo、kbjを、単一の縮約ばね要素の剛性kbとして容易にかつ精度良く算出するとともに、第1及び第2リリーフ弁11、12のリリーフ特性crを精度良く算出することができる。
【0055】
次の第2工程では、第1ステップで算出された性能諸元(縮約ばね要素の剛性kb、リリーフ特性cr(リリーフ荷重Fr、リリーフ前後の減衰係数c1、c2))が、それぞれの所定の許容範囲に収まっているか否かを判定する。その判定結果がNOで、剛性kb及びリリーフ特性crの少なくとも一方が許容範囲から外れている場合には、第3工程に進み、その性能諸元を許容範囲に収まるように調整する。この調整は、例えばリリーフ荷重Frが許容範囲から外れている場合には、第1及び第2リリーフ弁11、12をピストン3から取り外し、そのばねの剛性や初期歪み量(与圧)などを調整することによって、行われる。このような調整を行った後、第1ステップを再度、実行し、縮約ばね要素の剛性kbとリリーフ特性crを算出する。
【0056】
以上のように、第2工程において、第1ステップで算出された縮約ばね要素の剛性kb及び/又はリリーフ特性crが、所定の許容範囲から外れていると判定されたときには、第3工程において、その性能諸元を調整し、許容範囲内に収めることができる。また、第1ステップの加振試験に用いられる試験体1Eは、マスダンパ1に対し、連通路4や歯車モータ5、フライホイール9、ドレン配管41が取り付けられていないものである。このため、縮約ばね要素の剛性kb及び/又はリリーフ特性crを許容範囲内に収めるための第3工程における調整を、連通路4や、歯車モータ5及びフライホイール9の取外し作業を必要とすることなく、ばね要素や第1及び第2リリーフ弁11、12に直接、アクセスしながら、容易に行うことができ、調整作業を最小化することができる。
【0057】
第2工程の判定結果がYESで、縮約ばね要素の剛性kbとリリーフ特性crが許容範囲に収まっている場合には、第4工程に進み、第2ステップを実行する。この第2ステップでは、第1ステップにおける試験体1Eに代えて、連通路4や歯車モータ5などを取り付けた、図2に示す本来の構成のマスダンパ1を、第2試験体として試験装置51にセットし、アクチュエータ57からマスダンパ1への正弦波加振を、リリーフ前の加振レベルの条件で行う。そして、その加振結果からサンプリング・記憶されたアクチュエータ変位x及びダンパ力Fdなどに基づき、縮約ばね要素の変位xbと慣性質量要素(粘性要素)の変位xdを算出する。
【0058】
具体的には、加振結果から得られたダンパ力Fdと第1ステップで算出されたリリーフ前の減衰係数c1から、式(3)に基づき、リリーフ要素の速度vrを算出するとともに、この速度vrを積分することで、リリーフ要素の変位xrを算出する。また、ダンパ力Fdと第1ステップで算出された縮約ばね要素の剛性kbから、式(3)に基づき、縮約ばね要素の変位xbを算出する。そして、算出された変位xr及び変位xbを用い、式(2)を変形した次式(6)によって、慣性質量要素(粘性要素)の変位xdを算出する。
xd = x-xb-xr ・・・(6)
【0059】
次の第5工程では、第3ステップを実行し、上記第2ステップで得られた慣性質量要素(粘性要素)の変位xdから、粘性要素の減衰係数cdと慣性質量要素の等価質量mdを算出する。具体的には、図9(a)に示すように、変位xdを微分した粘性要素の速度vdが最大速度vmaxのとき(変位xdが0のとき)のダンパ力Fdを、最大減衰力Qvとしてサンプリングする。この場合、最大減衰力Qvとして、変位xdの正負に応じて、正値の+Qvと負値の-Qvが得られる。このため、最大減衰力Qvは、+Qv値と-Qvの絶対値との平均値として算出される。次に、この最大減衰力Qvを最大速度vmaxで除算することによって、減衰係数cdを算出する。
【0060】
また、慣性質量要素の等価質量mdについては、図9(b)に示すように、変位xdが最大値+δmaxになったとき(マスダンパ1が最も伸びたとき)、又は変位xdが最小値-δmaxになったとき(マスダンパ1が最も縮んだとき)のダンパ力Fdを、最大慣性力Qiとしてサンプリングする。次に、変位xdを2回微分することによって得られた加速度αdの最大値(最大加速度)αdmaxを算出し、最大慣性力Qiを最大加速度αdmaxで除算することによって、等価質量mdを算出する。
【0061】
以上のように、第2及び第3ステップでは、図2に示す本来の構成のマスダンパ1を加振することにより、作動油HFが連通路4を流動し、歯車モータ5が作動した状態で、マスダンパ1に入力されたダンパ力Fd及びアクチュエータ変位xが検出される。その結果、検出されたダンパ力Fd及びアクチュエータ変位xには、フライホイール6による回転慣性質量効果と連通路4・歯車モータ5内を流動する作動油HFによる粘性減衰効果の影響が、良好に反映される。したがって、これらのダンパ力Fd及びアクチュエータ変位xと、第1ステップで算出された縮約ばね要素の剛性kb及びリリーフ特性crに基づき、マスダンパ1の等価質量md及び減衰係数cdを精度良く算出することができる。
【0062】
次の第6工程では、算出された等価質量md及び減衰係数cdが、それぞれの所定の許容範囲に収まっているか否かを判定する。その判定結果がNOで、等価質量md及び減衰係数cdの少なくとも一方が許容範囲に収まっていない場合には、第7工程に進み、その性能を許容範囲に収まるように調整する。この調整は、例えば等価質量mdが許容範囲から外れている場合には、フライホイール6の大きさや重さなどを調整することによって、行われる。このような調整を行った後、第2及び第3ステップを再度、実行し、等価質量mdと減衰係数cdを算出する。
【0063】
以上のように、第6工程において、第3ステップで算出された等価質量md及び/又は減衰係数cdが、所定の許容範囲から外れていると判定されたときには、第7工程において、その性能諸元を調整し、許容範囲内に収めることができる。
【0064】
そして、第6工程の判定結果がYESになり、等価質量md及び減衰係数cdが許容範囲に収まった場合には、すべての性能諸元の算出と確認が完了したとして、図5の評価作業を終了する。
【0065】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第2及び第3ステップにおいて等価質量md及び減衰係数cdを評価するための加振試験を、図10に示す試験装置81を用いて行ってもよい。図1との比較から明らかなように、試験装置81は、試験装置51の連結部材58の右側(マスダンパ1側)に、加振用治具として、皿ばねユニットやゴムユニットから成る柔部材82を設けたものである。
【0066】
この場合、柔部材82から成るばね要素が、これまでに述べた縮約ばね要素(剛性kb)に対して直列に配置された関係になるので、その剛性をkbsとすると、縮約ばね要素を併せた全体ばね要素の剛性kallは、次式(7)で表される。
1/kall = 1/kb+1/kbs ・・・(7)
【0067】
この関係から、等価質量mdの慣性質量要素と剛性kallの全体ばね要素で構成される付加振動系の固有周期を、柔部材82の剛性kbsを調整することによって、自由に長く設定できる。その結果、付加振動系の固有周期を、例えば制振対象の構造物の固有周期近傍に設定した状態で、マスダンパ1の加振試験を行うことが可能になる。
【0068】
また、第1ステップにおける加振試験を、連通路4における作動油HFの流動と歯車モータ5の作動が阻止された状態で行うために、図2のマスダンパ1から連通路4や歯車モータ5、フライホイール6を除去し、シリンダ2の連通口2hを蓋板71で密閉した、図6の試験体1Eを用いているが、これに限らず、同じ状態が得られる他の構成の試験体を用いてもよい。
【0069】
例えば、図示しないが、図2のマスダンパ1の構成を維持するとともに、シリンダ2の連通口2hに手動の開閉弁を設け、閉弁状態に維持することで、連通路4に作動油HFが流れないようにしてもよい。あるいは、歯車モータ5の入力ギヤや出力ギヤなどの回転をロックすることで、作動油HFが流れないようにしてもよい。ただし、これらの2つの例では、図6の試験体1Eの場合と異なり、例えば第2工程においてリリーフ特性crが許容範囲から外れていると判定されたときには、その調整のために、連通路4や歯車モータ5などをマスダンパ1から取り外すことが必要になる。
【0070】
また、マスダンパ1の圧力モータとして、歯車モータを用いているが、作動流体の流動を回転運動に変換するものである限り、他の形式の圧力モータを用いてもよく、例えばピストンモータやベーンモータ、ねじモータを用いてもよい。また、実施形態では、ダンパの作動流体として、通常の作動油を用いると説明したが、他の適当な作動流体を用いてもよいことはもちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 マスダンパ(第2試験体)
1E 試験体(第1試験体)
2 シリンダ
2e 第1流体室
2f 第2流体室
2h 連通口
3 ピストン
4 連通路
5 歯車モータ(圧力モータ)
9 フライホイール(回転マス)
11 第1リリーフ弁(リリーフ弁)
12 第2リリーフ弁(リリーフ弁)
51 試験装置
59 反力治具
61 ロードセル
62 変位センサ
71 蓋板(蓋材)
81 試験装置
HF 作動油(作動流体)
Fd ダンパ力(入力される加振力)
x アクチュエータ変位(入力される変位)
kb 縮約ばね要素の剛性(性能諸元)
cr リリーフ特性(性能諸元)
md 慣性質量要素の等価質量(性能諸元)
cd 粘性要素の減衰係数(性能諸元)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10