(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047151
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】電波伝搬シミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
G06N 20/20 20190101AFI20240329BHJP
H04B 17/391 20150101ALI20240329BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20240329BHJP
【FI】
G06N20/20
H04B17/391
G06N20/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152607
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【弁理士】
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】西川 善紀
(57)【要約】
【課題】 複数種類の電波伝搬モデルのアンサンブル学習により得られた予測結果を利用して予測精度を向上させる電波伝搬シミュレーション装置を提供する。
【解決手段】 学習用データとしての複数の受信電力の予測値の内、複数の既存の電波伝搬モデルにより算出した受信電力の予測値を合成したものを受信電力の推定式予測値として用い、学習モデル構築部4が、その学習用データと、対応する座標の受信電力の実測データを正解データとして機械学習させて構築させた機械学習モデルを使用して電波伝搬のシミュレーションを行う電波伝搬シミュレーション装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波伝搬のシミュレーションを行う電波伝搬シミュレーション装置であって、
座標毎の複数の受信電力の予測値を学習用データとして入力し、対応する座標の受信電力の実測データを正解データとして機械学習させて構築させた機械学習モデルを使用して電波伝搬のシミュレーションを行うことを特徴とする電波伝搬シミュレーション装置。
【請求項2】
前記学習用データとしての複数の受信電力の予測値の内、複数の既存の電波伝搬モデルにより算出した受信電力の予測値を合成したものを受信電力の推定式予測値として用いることを特徴とする請求項1記載の電波伝搬シミュレーション装置。
【請求項3】
前記学習用データに、座標毎の受信電力のレイトレース予測値、当該予測地点へ到達するまでの平均遅延時間、前記予測地点までの距離及び前記予測地点が見通せるか否かの見通し情報を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の電波伝搬シミュレーション装置。
【請求項4】
前記機械学習モデルに、座標毎に新たな受信電力の推定式予測値、新たな受信電力のレイトレース予測値、当該予測地点へ到達するまでの平均遅延時間、前記予測地点までの距離及び前記予測地点が見通せるか否かの見通し情報を入力して、座標毎に受信電力の予測値を推論し、予測結果を出力することを特徴とする請求項3記載の電波伝搬シミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波伝搬のシミュレーションを行う電波伝搬シミュレーション装置に係り、特に、電波伝搬モデルのアンサンブル学習による予測精度を向上させることができる電波伝搬シミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来の技術]
従来、電波伝搬モデルによって電波伝搬のシミュレーションを行い、無線機器の設置条件を求めるものがある。
但し、この電波伝搬モデルにおいて、比較的に精度が高いモデルを用いたとしても、ある程度の誤差が発生するものである。
【0003】
[関連技術]
尚、関連する先行技術として、特開2011-033583号公報「電波伝搬推定システム、電波伝搬推定方法および電波伝搬推定プログラム」(特許文献1)がある。
特許文献1には、電波伝搬を推定するもので、送信点と受信点との間の地形情報、地形物の高さに基づいて伝搬損失を推定することで推定精度を向上させることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電波伝搬シミュレーションでは、無線機器の設置を設計するための電波伝搬モデルでは誤差が生じるため、設置後に所望の受信電力を満たすことができず、無線機器の設置条件を見直すことになるという問題点があった。
【0006】
尚、特許文献1には、複数種類の電波伝搬モデルのアンサンブル学習により得られた予測結果を利用して予測精度を向上させる構成についての記載がない。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、複数種類の電波伝搬モデルのアンサンブル学習により得られた予測結果を利用して予測精度を向上させる電波伝搬シミュレーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、電波伝搬のシミュレーションを行う電波伝搬シミュレーション装置であって、座標毎の複数の受信電力の予測値を学習用データとして入力し、対応する座標の受信電力の実測データを正解データとして機械学習させて構築させた機械学習モデルを使用して電波伝搬のシミュレーションを行うことを特徴とする。
【0009】
本発明は、上記電波伝搬シミュレーション装置において、学習用データとしての複数の受信電力の予測値の内、複数の既存の電波伝搬モデルにより算出した受信電力の予測値を合成したものを受信電力の推定式予測値として用いることを特徴とする。
【0010】
本発明は、上記電波伝搬シミュレーション装置において、学習用データに、座標毎の受信電力のレイトレース予測値、当該予測地点へ到達するまでの平均遅延時間、予測地点までの距離及び予測地点が見通せるか否かの見通し情報を用いることを特徴とする。
【0011】
本発明は、上記電波伝搬シミュレーション装置において、機械学習モデルに、座標毎に新たな受信電力の推定式予測値、新たな受信電力のレイトレース予測値、当該予測地点へ到達するまでの平均遅延時間、予測地点までの距離及び予測地点が見通せるか否かの見通し情報を入力して、座標毎に受信電力の予測値を推論し、予測結果を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、座標毎の複数の受信電力の予測値を学習用データとして入力し、対応する座標の受信電力の実測データを正解データとして機械学習させて構築させた機械学習モデルを使用して電波伝搬のシミュレーションを行う電波伝搬シミュレーション装置としているので、予測精度を向上させることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る電波伝搬シミュレーション装置(本装置)は、座標毎の複数の受信電力の予測値を学習用データとして入力し、対応する座標の受信電力の実測データを正解データとして機械学習させて構築させた機械学習モデルを使用して電波伝搬のシミュレーションを行うものであり、学習用データとしての複数の受信電力の予測値の内、複数の既存の電波伝搬モデルにより算出した受信電力の予測値を合成したものを受信電力の推定式予測値として用いるようにしているので、複数種類の電波伝搬モデルのアンサンブル学習により得られた予測結果を利用して予測精度を向上させることができるものである。
【0015】
[本装置:
図1]
本装置について
図1を参照しながら説明する。
図1は、本装置の構成ブロック図である。
本装置は、
図1に示すように、目的変数記憶部1と、シミュレーション実行部2と、説明変数記憶部3と、学習モデル構築部4とを基本的に有している。
そして、学習モデル構築部4は、前処理部5と、学習部6と、推論部7とを備えている。
【0016】
[本装置の各部]
本装置の各部について具体的に説明する。
[目的変数記憶部1]
目的変数記憶部1は、機械学習モデルを構築するための正解データとして実測データを記憶するものであり、具体的には目的変数として測定器等を使用して収集した受信電力値(RSSI:Received Signal Strength Indicator)[dBm]のデータを記憶する。
【0017】
[シミュレーション実行部2]
シミュレーション実行部2は、既存のエリアシミュレータ等を使用して既存の電波伝搬モデルによるシミュレーションを実行して、受信電力値の予測値を算出する。
具体的には、既存電波伝搬モデルとして、推定式屋内電波伝搬モデルである「Multi Wall Model」(第1の既存モデル)、「Motley Keenan Model」(第2の既存モデル)、「One Slope Model」(第3の既存モデル)により予測値を算出する。
【0018】
また、シミュレーション実行部2は、レイトレース(Ray Trace)法により予測値(RSSI_レイトレース予測値)を算出する。
レイトレース法は、電波を光に見立て、伝搬経路を探索する手法で、幾何光学的理論に基づき送信点から受信点へ到達する電波を追跡することにより、伝搬損失(受信レベル)、遅延時間、出射方向、到来方向を算出するものである。その計算は、反射・透過・回折の回数を拘束条件とする。
【0019】
更に、シミュレーション実行部2は、レイトレース法により算出した複数のレイ(1地点当たり20本)の予測地点へ到達するまでの各遅延時間、予測地点の座標、直線で見えるか否かを示す見通し情報(見通し内[見通し可能]/見通し外[見通し不可])のデータを算出又は設定する。
【0020】
[説明変数記憶部3]
説明変数記憶部3は、シミュレーション実行部2で算出等された既存電波伝搬モデルの予測値データ、レイトレース法の予測値(RSSI_レイトレース予測値)データ、予測地点へ到達するまでの各遅延時間のデータ、予測地点の座標のデータ、見通し情報のデータを、説明変数の学習用データとして記憶する。
ここで、「RSSI_レイトレース予測値」は、複数のレイを合計したものである。説明変数の詳細は後述する。
【0021】
[学習モデル構築部4]
学習モデル構築部4は、学習用データを機械学習モデルの入力データとして利用できるように特徴量を整形する前処理を行う前処理部5と、整形した特徴量を用いて学習モデルを構築する学習部6と、構築した学習モデルを使用して電波伝搬シミュレーションを行い、予測結果を推論する推論部7と備えている。
【0022】
学習モデル構築部4の各部を具体的に説明する。
[前処理部5]
前処理部5は、機械学習モデルの入力データとして利用するために説明変数記憶部3に記憶されたデータの特徴量の整形を行う。
【0023】
具体的には、第1に、前処理部5は、既存電波伝搬モデル(第1~3の既存モデル)で算出した予測値の合成を行う。上記3つの予測値は、基本的に類似の予測結果となるため、互いに強い相関を持つから、合成を行うことにより、アンサンブル学習を効果的に実現できるものである。
合成には、線形回帰などで各予測値のウエイトを算出し、「RSSI_推定式予測値」として1つの値に合成する。
【0024】
第2に、前処理部5は、レイトレース法により算出した複数のレイ(約20本)の予測地点へ到達するまでの各遅延時間を算術平均することで「平均遅延時間」を取得する。
送信アンテナの座標から予測地点の座標までに電波が複数の予測経路で到達することになるが、最短の到達時間に対する遅延時間の平均を求めるものである。
また、前処理部5は、各予測地点の座標と送信アンテナの座標から2地点間の「距離」を算出する。
前処理部5において、得られるデータの特徴量は
図2に示す通りとなる。
図2の詳細は後述する。
【0025】
[学習部6]
学習部6は、機械学習モデルとしてLightGBM(Light Gradient Boosting Machine/LGBM)を使用し、前処理部5で整形された特徴量のデータと目的変数記憶部1の正解データを入力して、機械学習を行い、学習モデルを構築する。LGBMは、決定木アルゴリズムをベースとした学習である。
尚、学習部6でLGBMを使用するので、前処理部5では、特徴量の標準化、欠損値の補間等は行わないものである。
【0026】
[推論部7]
推論部7は、学習部6で構築された学習モデルを使用して、予測を推論するために、新たに取得した
図2の特徴量のデータを入力して電波伝搬シミュレーションを行い、予測結果を出力する。
予測結果は、送信アンテナの設置予定の地点の座標毎にRSSIの予測値を出力する。
【0027】
[説明変数:
図2]
次に、本装置で使用する説明変数について
図2を参照しながら説明する。
図2は、説明変数の例を示す概略図である。
説明変数は、前処理部5に表形式で保持されるものであり、
図2に示すように、設置しようとする送信アンテナの座標に対応して、RSSI_推定式予測値、RSSI_レイトレース予測値、平均遅延時間、距離、見通しのデータが保持される。
上述したように、前処理部5が、説明変数記憶部3からデータを入力して特徴量の整形を行い、
図2の説明変数を生成する。
【0028】
RSSI_推定式予測値は、上述した既存電波伝搬モデル(第1~3の既存モデル)で算出した予測値の合成値であり、RSSI_レイトレース予測値(複数レイの合計値)、平均遅延時間、距離、見通しのデータは、レイトレース法で算出したものである。尚、見通しは、送信アンテナから予測地点が見通せる場合は「1」で、見通せない場合は「0」が設定される。
【0029】
つまり、
図2は、縦軸に設置予定の送信アンテナの座標が設定され、その座標に対応するRSSI_推定式予測値、RSSI_レイトレース予測値、平均遅延時間、距離、見通しのデータが横軸に設定されている。
そして、座標に対する横方向の1行が機械学習の場合は学習部6の学習モデルに入力され、推論を行う場合は推論部7の学習済みモデルに入力されることになる。
【0030】
[前処理部の処理:
図3]
前処理部5の処理について
図3を参照しながら説明する。
図3は、前処理部の処理を示すフロー図である。
前処理部5は、
図3に示すように、送信アンテナの座標毎に、既存電波伝搬モデル(第1~3の既存モデル)で算出した予測値の合成を行い、「RSSI_推定式予測値」を算出する(S1)。
【0031】
次に、前処理部5は、レイトレース法で算出された「RSSI_レイトレース予測値」を上記座標に対応して説明変数記憶部3から取得する(S2)。
そして、前処理部5は、レイトレース法により算出した当該座標からの複数のレイが予測地点へ到達するまでの各遅延時間の平均を「平均遅延時間」として算出する(S3)。
【0032】
次に、前処理部5は、各予測地点の座標と送信アンテナの座標から2地点間の「距離」を算出する(S4)。
そして、前処理部5は、上記座標に対応して見通しデータを説明変数記憶部3から取得する(S5)。
このようにして、学習用データとしての特徴量のデータが整形されて、
図2の説明変数のデータが得られる。
【0033】
[推論部の処理:
図4]
推論部7の処理について
図4を参照しながら説明する。
図4は、推論部の処理を示すフロー図である。
推論部7は、
図4に示すように、学習部6で構築された学習モデルに、実際に予測を推論するために、新たに(別の座標で)シミュレーション実行で取得した
図2の特徴量のデータを入力する(S11)。
つまり、シミュレーション実行部2で新たな時間でシミュレーションを実行し、説明変数記憶部3にシミュレーション結果のデータを記憶させ、前処理部5で特徴量のデータを整形し、推論部7に入力する。
【0034】
次に、推論部7は、学習部6で構築された学習モデルで上記入力された特徴量のデータを使用して電波伝搬シミュレーションを行い、予測結果(送信アンテナの設置予定の地点の座標毎にRSSIの予測値)を出力する(S12)。
この予測結果は、無線機器の設置の適正化に役立つものである。
【0035】
[実施の形態の効果]
本装置によれば、シミュレーション実行部3で座標毎の複数の受信電力の予測値を算出して、学習用データとして学習モデル構築部4に入力し、学習モデル構築部4では、対応する座標の受信電力の実測データを正解データとして機械学習させて構築させた機械学習モデルを使用して電波伝搬のシミュレーションを行うものであり、学習用データとしての複数の受信電力の予測値の内、複数の既存の電波伝搬モデルにより算出した受信電力の予測値を合成したものを受信電力の推定式予測値として用いるようにしているので、複数種類の電波伝搬モデルのアンサンブル学習により得られた予測結果を利用して予測精度を向上させることができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、複数種類の電波伝搬モデルのアンサンブル学習により得られた予測結果を利用して予測精度を向上させる電波伝搬シミュレーション装置に好適である。
【符号の説明】
【0037】
1…目的変数記憶部、 2…シミュレーション実行部、 3…説明変数記憶部、 4…学習モデル構築部、 5…前処理部、 6…学習部、 7…推論部