(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047163
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】成形枠、それを使って成形した繊維補強セメント製成型品、及び繊維補強セメント製成型品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 7/00 20060101AFI20240329BHJP
B28B 1/14 20060101ALI20240329BHJP
E04H 1/12 20060101ALI20240329BHJP
E04H 6/02 20060101ALI20240329BHJP
E04C 1/39 20060101ALI20240329BHJP
E04C 1/00 20060101ALI20240329BHJP
E02D 27/08 20060101ALI20240329BHJP
E02D 27/42 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B28B7/00 D
B28B1/14 B
E04H1/12 306A
E04H1/12 306B
E04H6/02 C
E04H6/02 H
E04C1/39 108
E04C1/00 Z
E02D27/08
E02D27/42 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152626
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】来栖 徳治
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐亮
【テーマコード(参考)】
2D046
4G053
【Fターム(参考)】
2D046BA13
2D046DA35
2D046DA36
4G053BD19
4G053EA02
4G053EA50
(57)【要約】
【課題】スペーサーを使わずに補強筋の位置ずれを防ぐ成形枠、それを使って成形した繊維補強セメント製成型品、及び繊維補強セメント製成型品の製造方法を提供する。
【解決手段】補強筋2が埋め込まれた繊維補強セメント製成型品10を成形するための成形枠1である。繊維補強セメント製成型品10の形状を成す内部空間4を囲む複数の枠板5を備える。枠板5は、その内壁面7から突出し補強筋2の両端部を支持する一対の環状突起20を有する。環状突起20は、中央に補強筋2の端部を嵌めることが可能な凹部22を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強筋が埋め込まれた繊維補強セメント製成型品を成形するための成形枠であって、
前記繊維補強セメント製成型品の形状を成す内部空間を囲む複数の枠板を備え、
前記枠板は、その内壁面から突出し前記補強筋の両端部を支持する一対の環状突起を有し、
前記環状突起は、中央に前記補強筋の端部を嵌めることが可能な凹部を有する、成形枠。
【請求項2】
前記環状突起の外側面及び前記凹部の内側面は、頂部側が互いへ向けて傾くテーパーを有する、請求項1に記載の成形枠。
【請求項3】
前記環状突起は、前記内壁面に固着された中空の円錐台形状又は中空の多角錐台形状の保持用型部材であり、
前記保持用型部材は、前記凹部として、貫通する中空部を有し、
前記凹部の底部は、前記内壁面である、請求項2に記載の成形枠。
【請求項4】
一対の前記環状突起は、対向して位置し、
一対の前記環状突起の頂部の間の距離は、前記補強筋を湾曲させて前記凹部に嵌め込むときの該補強筋の両端部の直線距離である、請求項1に記載の成形枠。
【請求項5】
前記繊維補強セメント製成型品は、柱体形状又は錘台形状の中空が貫通する筒部材であり、
前記枠板は、前記筒部材の外面の形状を成す外枠と、
前記筒部材の前記中空の形状を成す中子枠と、を有し、
前記外枠は、対向して立設する一対の妻板を有し、
前記中子枠は、前記中空の柱体形状又は錘台形状の上面と下面にあたる両端部が一対の前記妻板の中央部にそれぞれ連結し、
前記環状突起は、一対の前記妻板の前記内壁面から前記外枠と前記中子枠の間に位置する前記内部空間へ向けて突出する、請求項1に記載の成形枠。
【請求項6】
請求項1~5のうちの何れかの一項に記載した成形枠を使用する繊維補強セメント製成型品の製造方法であって、
一対の前記環状突起の前記凹部に前記補強筋の両端部を嵌め込み、
前記内部空間に繊維補強セメントを投入し、
前記繊維補強セメントが硬化した後に、前記環状突起ごと前記枠板を取り外す、繊維補強セメント製成型品の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のうちの何れかの一項に記載の成形枠を使って成形した繊維補強セメント製成型品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強筋が埋設された繊維補強セメント製成型品の成形枠、それを使って成形した繊維補強セメント製成型品、及び繊維補強セメント製成型品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
駐輪場やバス停等に使用されるルーフ構造物は、複数の支柱と、支柱の上端部から横に張り出す屋根を備えた、屋根の下が閉鎖空間になっていない建物である。本願の出願人は、ルーフ構造物の支柱を支持し、屋根の下を風が吹き上げたときに支柱に生じる転倒モーメントや引張力に抵抗するための支持材を提案した。この支持材は、特許文献1に開示されている。
繊維補強セメント製成型品の例として、例えばこの支持材を挙げることができる。
【0003】
図1は、支持材の説明図である。
図1(A)は支持材の側面図である。この図において、100は支持材、101は筒部材、102は底盤板部材、103は繊維補強セメント、104は成形枠、105は補強筋、106はスペーサー、107はボルトである。
この図に示すように、支持材100は、筒部材101と底盤板部材102を有している。筒部材101と底盤板部材102は繊維補強セメント103で成形されている。繊維補強セメント103は、セメントに鋼繊維、ガラス繊維、ポリプロピレン繊維、又は炭素繊維などの繊維材を混ぜたものである。繊維補強セメント103は、繊維が混ざることによってセメント単体で使用するよりも引張強度と靭性が高まり、耐力が上昇する特徴がある。
【0004】
筒部材101は、繊維補強セメント103が、上下に延びる中空101aを有する中空筒型の形状に成形された部材である。この中空101aの中に支柱の下端部を挿入し、中空101aの内部を根固め用コンクリートで打設することによって、ルーフ構造物の支柱の下端部を筒部材101に固定する。筒部材101の正面(
図1(A)の左側)と両側面の下端部には、鍔101bが設けられている。
【0005】
底盤板部材102は、繊維補強セメント103で板状に成形された部材である。支持材100を組み立てる際は、底盤板部材102の上に筒部材101を載せ、筒部材101の正面と両側面にある鍔101bと底盤板部材102をボルト107で連結する。これにより支持材100は、底盤板部材102が筒部材101の下端部から横方向(
図1(A)の左方向)に延びる構造となる。
【0006】
図1(B)は従来の筒部材101の製造過程における繊維補強セメント103を入れた成形枠104の縦断面図を表している。また、
図1(C)は樹脂製のスペーサー106の正面図であり、
図1(D)は金属製のスペーサー106の正面図である。
筒部材101を成形するための成形枠104は、筒部材101の外面形状を形作る外枠104aと、中空101aを形作る内枠104bを有する。外枠104aは、筒部材101の背面側(
図1(A)における右側)が開いた器型となっており、内部に内枠104bが固定される。
【0007】
成形枠104を使用する際は、筒部材101の正面側(
図1(A)の左側)となる面を下にして成形枠104を設置し、成形枠104の上側(筒部材101の背面側)から繊維補強セメント103を流し込む。内枠104bは、筒部材101の壁厚の分、外枠104aから離して固定されている。
【0008】
支持材100のような繊維補強セメント製成型品において、巾や厚さを抑えながら強度を上げるために、補強筋を埋設することがある。支持材100を成形する際には、筒部材101の正面を成す外枠104aと内枠104bの間の隙間に、補強筋105を設置していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、支持材100を製造する際には、例えば
図1(C)や
図1(D)に図示するようなスペーサー106を補強筋105に取り付けて位置決めしていた。
しかし、スペーサー106は補強筋105の両端部の中間部の周りを囲って支持するため、スペーサー106が成形枠104に投入された繊維補強セメント103の繊維の流れを妨げてしまうことがある。例えば繊維補強セメント103がスペーサー106の周りに行き渡らず、空隙ができてしまうことがある。これにより繊維の連続性が途絶え、スペーサー106の部分で支持材100の曲げ強度等が低下してしまう可能性があった。
【0011】
また、スペーサー106は、支持材100の成型品に埋め込まれたままとなるので、使い回せない。そのため、支持材100は、スペーサー106の価格分、製品コストが高くなってしまっていた。
また、スペーサー106は、
図1(C)や
図1(D)に示した図の真ん中の穴106aに補強筋105を嵌め込んで使用する。そのため、支持材100を成形する度に、補強筋105にスペーサー106を取り付ける手間が生じていた。
【0012】
さらに、成形枠104にスペーサー106が固定されていないので、投入された繊維補強セメント103に押されて計画した位置から補強筋105がずれやすい。そのため、既製のスペーサー106とは別に補強筋105の位置ずれを防ぐ工夫や特注のスペーサーが要る場合があった。
【0013】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、スペーサーを使わずに補強筋の位置ずれを防ぐ成形枠、それを使って成形した繊維補強セメント製成型品、及び繊維補強セメント製成型品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、補強筋が埋め込まれた繊維補強セメント製成型品を成形するための成形枠であって、
前記繊維補強セメント製成型品の形状を成す内部空間を囲む複数の枠板を備え、
前記枠板は、その内壁面から突出し前記補強筋の両端部を支持する一対の環状突起を有し、
前記環状突起は、中央に前記補強筋の端部を嵌めることが可能な凹部を有する、成形枠が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、上述した成形枠を使用する繊維補強セメント製成型品の製造方法であって、
一対の前記環状突起の前記凹部に前記補強筋の両端部を嵌め込み、
前記内部空間に繊維補強セメントを投入し、
前記繊維補強セメントが硬化した後に、前記環状突起ごと前記枠板を取り外す、繊維補強セメント製成型品の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、上述した成形枠を使って成形した繊維補強セメント製成型品が提供される。
【発明の効果】
【0017】
上述した本発明によれば、成形枠の内壁面に環状突起があり、その環状突起で補強筋の両端部だけを支持するので、繊維補強セメントの繊維の連続性が妨げられていない繊維補強セメント製成型品を成形することができる。したがって、曲げ強度が均等に高い高品質な繊維補強セメント製成型品を成形することができる。
【0018】
また枠板の内壁面にある環状突起だけで補強筋を支持するので、成形する度にスペーサーを消費しなくて済む。したがって、スペーサーを使わない分、繊維補強セメント製成型品の製品コストを低く抑えることができる。
【0019】
その上、枠板が環状突起を有するので、成形の度に常に同じ位置に補強筋を配置できる上に、スペーサーの取り付け工程が無い分、作業効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図3】保持用型部材の各実施例の平面図(上段)とそのG-G断面図(下段)である。
【
図4】第1施形態の成形枠を使用した繊維補強セメント製成型品の製造方法の説明図である。
【
図7】内部空間に繊維補強セメントを流し込んだ成形枠の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0022】
(第1実施形態)
図2は、第1実施形態の成形枠1の斜視図である。
成形枠1は、繊維補強セメント3から繊維補強セメント製成型品10を成形するための金型又は木型である。繊維補強セメント製成型品10は、繊維補強セメント3で成形され、その内部に補強筋2が埋め込まれたものである。繊維補強セメント3とは、鋼繊維、ガラス繊維、ポリプロピレン繊維、炭素繊維などの繊維材を混ぜたセメントである。以下、繊維補強セメント製成型品10を単に成型品10と呼ぶ。
成形枠1は、成型品10の形状を成す内部空間4の側面と底面を囲む複数の枠板5を備える。成形枠1の内部空間4は、成型品10の形状(この図では直方体形状)に構成されている。
【0023】
成形枠1は、複数の枠板5が組み合わさって構成されている。複数の枠板5のうち少なくとも一対の枠板5は、内壁面7を互いに向けながら、対向するように設けられている。例えばこの図の枠板5は、内部空間4の底面の形状を成す底板5aと、底板5aから立設し互いに対向する一対の妻板5bと、妻板5b以外の内部空間4の側面の形状を成す枠板5である側板5cを有している。これらの枠板5を連結する連結具6は、例えばボルト等であってもよい。
【0024】
複数ある枠板5のうちの互いに対向する一対の枠板5(
図2の例の妻板5b)の内壁面7には、環状突起20が設けられている。環状突起20は、補強筋2の両端部を支持できる形状となっている。環状突起20は、例えば鋳造やプレス加工によって妻板5bと一体成型されていてもよい。もしくは環状突起20は、枠板5とは別個に設けられた保持用型部材21が、一対の枠板5の内壁面7に対向するように固着されたものであってもよい。この保持用型部材21は、例えば中空の円錐台形状又は中空の多角錐台形状をしたものであることが好ましい。
保持用型部材21が枠板5とは別個に設けられたものである場合、保持用型部材21は枠板5と同じ材質であることが好ましい。例えば枠板5が鉄製であるときは、保持用型部材21も鉄製とし、溶接によって妻板5bと保持用型部材21を一体にすることが好ましい。なお、枠板5と保持用型部材21が分離しており、使用時に組み合わせてもよい。
【0025】
環状突起20は、環状突起20の平面視における中央に補強筋2の端部を嵌めることが可能な凹部22を有している。この環状突起20の外側面20aと凹部22の内側面22aは、頂部20b側が互いへ向けて傾くテーパーを有していることが好ましい。
【0026】
この構成により、成形枠1は、枠板5の内壁面7にある環状突起20で補強筋2の両端部を支持し、補強筋2のそれ以外の部位を支持するスペーサー106を必要としないので、繊維補強セメント3の繊維の連続性を妨げずに補強筋2を支持できる。これにより、成型品10の曲げ強度等が部分的に低下することが無いため、高品質な成型品10を提供することができる。
また成形枠1は、環状突起20以外に補強筋2を支持する物を必要としないので、補強筋2の位置ずれを防ぐのにスペーサー106を必要としない。これにより、成型品10を成形する度に新しいスペーサー106を消費する必要がなく、環状突起20や保持用型部材21を使い回すことができるので、スペーサー106を使わない分、成型品10の製品コストを低く抑えることができる。
【0027】
また環状突起20や保持用型部材21が固着によって又は一体成型によって枠板5と一体化されているので、その成形枠1を使用する限り常に同じ場所に補強筋2の両端部を位置決めできる。したがって同じ成形枠1を使用する限り常に同じ位置に補強筋2の両端部がある成型品10を成形できるので、成型品10の品質を一定に保つことができる。その上、成形の度に行っていたスペーサー106の取り付け工程を省くことができ、作業効率を上げることができる。
さらに枠板5の内壁面7に固定された環状突起20や保持用型部材21だけで補強筋2の位置ずれを防げるため、特注のスペーサー106を用意する手間やコストをなくすことができる。
【0028】
図3は、保持用型部材21の各実施例の平面図(上段)とそのG-G断面図(下段)である。
図3(A)に円錐台形状、
図3(B)は四角錐台形状、
図3(C)は角を面取りした四角錐台形状の保持用型部材21を表している。
【0029】
保持用型部材21は、例えば
図3(A)~
図3(C)に示すように中空の円錐台形状、中空の多角錐台形状、又は角を面取りした中空の多角錐台形状であることが好ましい。例えば直径15mm、厚さ3.2mmであってもよい。保持用型部材21は、錘台形状においての上面と底面を貫通する中空部21aを有している。保持用型部材21の中空部21aは、環状突起20の凹部22に該当する。なお、
図3(A)~
図3(C)の形状は、枠板5と一体成型されている環状突起20の形状においても同様である。
この図のように、底面21bを枠板5の内壁面7に固着させた保持用型部材21においては、中空部21aの内側に位置する枠板5の内壁面7が凹部22の底部22bとなる。
【0030】
保持用型部材21の外側面20aと中空部21aの内側面22aは、頂部20b側が互いへ向けて傾くテーパーを有していることが好ましい。
保持用型部材21の外側面20aと中空部21aの内側面22aの両方が、互いへ頂部20b側を向けて傾くテーパーを有しているので、保持用型部材21が枠板5に固着していても、成型品10から保持用型部材21ごと枠板5を容易に外すことができる。
【0031】
しかし枠板5を保持用型部材21ごと外せるのであれば、保持用型部材21の形状は、枠板5の内壁面7に垂直な外側面20aと凹部22の内側面22aを有する円筒形状や多角形の筒形状であってもよい。
【0032】
図4は、第1実施形態の成形枠1を使用した繊維補強セメント製成型品10の製造方法の説明図である。
図4(A)は、成形枠1に補強筋2を嵌めている工程の斜視図、
図4(B)は成形枠1に繊維補強セメント3を投入している工程の斜視図、
図4(C)は完成した繊維補強セメント製成型品10の斜視図である。
【0033】
(ステップ1)
まず、本実施形態の成形枠1、補強筋2、及び繊維補強セメント3を準備する。
【0034】
成形枠1は、枠板5を組み立て、連結具6で固定する。成形枠1を組み立てる時点で既に枠板5に保持用型部材21を溶接などで固着してあるため、枠板5の組み立てを完成させるだけで環状突起20を補強筋2の両端部を支持するのに適した位置に設置することができる。これにより、スペーサー106の設置作業にかかる時間を省くことができる。組み立てが完成した成形枠1の内壁面7には、少なくとも一対の環状突起20が互いに頂部20bを向けて対向して設けられている。
【0035】
また補強筋2の準備として、手で補強筋2を湾曲させたときの補強筋2の両端部間の直線距離L1が対向する一対の環状突起20の頂部20bの間の距離L2と同じか距離L2より僅かに小さくなるように補強筋2を切り揃える。補強筋2は、ステンレス等の腐食しにくい素材であることが好ましい。
【0036】
さらに鋼繊維、ガラス繊維、ポリプロピレン繊維、炭素繊維などの繊維材とセメントを混ぜた繊維補強セメント3を準備する。
【0037】
(ステップ2)
次に、
図4(A)に示すように、補強筋2を手で湾曲させ、その両端部を、対向して位置する一対の環状突起20の凹部22に嵌め込む。その後、補強筋2から手を離すと、湾曲させた補強筋2が弾性変形によって元の真っ直ぐに伸び、補強筋2の両端部が凹部22の奥に押し込まれる。このように両端部を凹部22に合わせて補強筋2を撓ませ、その後、手を放すだけで、補強筋2の弾性力を利用して容易に環状突起20の凹部22に補強筋2の両端部を嵌め込むことができ、容易に補強筋2を位置決めすることができる。
【0038】
(ステップ3)
次に、
図4(B)に示すように環状突起20に補強筋2が嵌まった成形枠1の内部空間4に、繊維補強セメント3を投入し、硬化させる。
(ステップ4)
次いで繊維補強セメント3が硬化した後に、
図4(C)に示すように連結具6を外し、成型品10から枠板5を取り外す。このとき、環状突起20は枠板5に固着しており、外側面20aと凹部22の内側面22aに、環状突起20の頂部20b側が互いへ向けて傾くテーパーを有しているため、容易に環状突起20ごと枠板5を取り外すことができる。
この図に示すように、成形枠1を使って成形した成型品10は、環状突起20の形の窪みの真ん中から補強筋2の両端部が露出する。補強筋2は、ステンレス等の腐食しにくい素材で出来ているので、補強筋2の両端部が露出したまま成型品10を使用することができる。その上、環状突起20の凹部22の底部22bがその環状突起20が設けられている内壁面7であるため、補強筋2が成型品10の側面より外側へ突出することなく、成型品10の端から端まで延びることができる。これにより、可能な限り成型品10の強度を高めることができる。
【0039】
また補強筋2が成型品10の側面より外側に突出しないので、補強筋2が鉄鋼製の鉄筋等であっても、環状突起20の形状の窪みに充填材等を充填するだけで補強筋2の端部を隠すことができる。これにより補強筋2が腐食しやすい素材で出来ていたとしても、容易に補強筋2の腐食を防ぐことができる。
【0040】
次に、本実施形態の成形枠1と成型品10の具体的な実施例について説明する。
(第1実施例)
図5は、第1実施例の成型品10の説明図である。
第1実施例の成型品10は、ルーフ構造物30の支柱31の下端部を支持する支持材32の部品の1つである筒部材10である。ルーフ構造物30は、間隔を隔てて立設された複数の支柱31と、支柱31の上端部から横に張り出す屋根を備え、屋根の下が閉鎖空間になっていない建物である。このルーフ構造物30は、例えば、街中で通行人が自由に歩行できる回廊、駐輪場、バス停、カーポート、あずまや、等である。
【0041】
図5(A)は、筒部材10の使用例を表している。図のように筒部材10は、支柱31の下端部を中空11に挿入してコンクリートで固め、地中で支柱31を支持する。筒部材10の底面は、ルーフ構造物30の屋根が張り出す方向に延びる底盤板部材33にボルトで固定され、一体となっている。これにより支持材32は、底盤板部材33の上に載った土、路盤、及び土間コンクリートの重量と、土によって筒部材10の側面にかかる側圧とによって、屋根の下を風が吹き上げたときに支柱31に生じる転倒モーメントや引張力に抵抗することができる。
【0042】
図5(B)は、筒部材10の斜視図である。
筒部材10は、の中空11が貫通する繊維補強セメント製成型品である。中空11の形状は、多角錘台や円錐台等の錘台形状であることが好ましいが、多角柱体や円柱体等の柱体形状でもよい。この図には、中空11が四角錐台形状である場合を例示している。
【0043】
筒部材10の下端部の正面側と両側面側には、ボルトを通す穴12があいた鍔13が設けられている。筒部材10の背面は面一になっている。また、筒部材10の筒構造を構成する壁部分14の内部には、補強筋2が埋め込まれている。
筒部材10は、繊維補強セメント3の中でも特にGRCで製造されていることが好ましい。GRCはガラス繊維でセメントが補強された素材であり、曲げ強度が強くなるため、強度を保ったまま部材の厚みを薄く製造することができるからである。その上、GRCは、錆びず、耐久性が高いという特徴を有している。
【0044】
図6は、筒部材10を成形する成形枠1の説明図である。
図6(A)は、筒部材10の底面側から見た斜視図であり、
図6(B)は成形枠1の側面図である。
筒部材10の成形枠1の枠板5は、外枠5dと中子枠5eを有する。
【0045】
外枠5dは、内部空間4で筒部材10の外面の形状を成す枠板5であり、妻板5b、底板5a、及び側板5cを有する。この妻板5b、底板5a、及び側板5cがボルト等の連結具6で連結されて、外枠5dの内部空間4を形成する。
妻板5bは、対向して立設する枠板5であり、少なくとも一対設けられる。
【0046】
底板5aと側板5cの筒部材10における底面側は、外側へ折り曲がり、筒部材10の鍔13を形作る内部空間4を形成する。
また筒部材10の底面側にあたる妻板5bには、鍔13にボルト用の穴12を形成するための杭部材9が取り付けられている。杭部材9は、妻板5bを貫通して底板5a又は側板5cまで延び、鍔13となる内部空間4を横切る。
【0047】
中子枠5eは筒部材10の中空11の形状を成す枠板5である。中子枠5eは、柱体形状又は錘台形状の中空11の上面と下面にあたる両端部8が、一対の妻板5bの中央部にそれぞれ連結している。これにより、中子枠5eの両方の側方と下方には、外枠5dとの間に隙間が維持される。この外枠5dと中子枠5eの間に位置する内部空間4に繊維補強セメント3が流し込まれ、筒部材10の壁部分14が形成される。
【0048】
図7は、内部空間4に繊維補強セメント3を流し込んだ成形枠1の説明図である。
図7(A)は筒部材10の底面側から見た斜視図であり、
図7(B)は補強筋2が見える平面で切断した断面図である。
筒部材10の保持用型部材21は、一対の妻板5bの内壁面7の底板側に設けられており、妻板5bの内壁面7から外枠5dと中子枠5eの間の内部空間4へ向けて突出する。この図の例の枠板5は鉄製であるため、保持用型部材21も鉄製で製造されている。保持用型部材21は、溶接によって妻板5bの内壁面7に固定されている。
【0049】
筒部材10を成形する際は、中子枠5eを妻板5bに固定する前に保持用型部材21の中空部21aに補強筋2の両端部を嵌め込む。これにより、成形の度に同じ位置に補強筋2を配置することができる。
繊維補強セメント3の硬化後は、外枠5dを外し、中子枠5eを引き抜くことによって、
図5(B)のように筒部材10が完成する。必要に応じて保持用型部材21の形に凹んだ窪みに充填材を充填してもよい。このように、成形枠1の枠板5に環状突起20があることによって、容易に補強筋2を位置決めして筒部材10を成形することができる。
【0050】
上述した本発明によれば、成形枠1に固着した保持用型部材21で、補強筋2の両端部だけを支持するので、繊維補強セメント3の繊維の連続性が妨げられていない筒部材10を成形できる。したがって、曲げ強度が均等に高い高品質な筒部材10を成形することができる。
【0051】
保持用型部材21だけで補強筋2を支持し、その保持用型部材21が妻板5bに固着しているので、成形する度にスペーサー106を消費しなくて済む。したがって、スペーサー106を使わない分、筒部材10の製品コストを低く抑えることができる。
【0052】
その上、溶接などによって保持用型部材21が妻板5bに固定されているので、常に同じ位置に補強筋2を配置できる上に、スペーサー106の取り付け工程が無い分、作業効率を上げることができる。
【0053】
なお本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0054】
1 成形枠、2 補強筋、3 繊維補強セメント、
4 内部空間、
5 枠板、5a 底板、5b 妻板、5c 側板、5d 外枠、5e 中子枠、
6 連結具、7 内壁面、8 中子枠の端部、9 杭部材、
10 繊維補強セメント製成型品(成型品,筒部材)、
11 中空、12 ボルトを通す穴、13 鍔、14 壁部分、
20 環状突起、20a 外側面、20b 頂部、
21 保持用型部材、21a 中空部、21b 底面、
22 凹部、22a 凹部(保持用型部材の中空部)の内側面、
22b 凹部の底部、
30 ルーフ構造物、31 支柱、32 支持材、
100 支持材、
101 筒部材、101a 中空、101b 鍔、102 底盤板部材、
103 繊維補強セメント、
104 成形枠、104a 外枠、104b 内枠、
105 補強筋、106 スペーサー、106a 穴、107 ボルト、
L1 補強筋を湾曲させたときの補強筋の両端部間の直線距離、
L2 一対の環状突起の頂部の間の距離