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特開2024-4720異常音検知システム及び異常音検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004720
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】異常音検知システム及び異常音検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 3/00 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
G01H3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104486
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000202361
【氏名又は名称】綜合警備保障株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114306
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 史郎
(72)【発明者】
【氏名】加沢 徹
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB13
2G064AB15
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC43
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】動作音を発する移動体の運用下において異常音を高精度に検知する。
【解決手段】異常音検知システムを、周囲の音を測定するマイクと、移動体が発する基準音に関する基準音情報から再現された基準音と、移動体が発した基準音をマイクで測定して得られた音とに基づいて、移動体とマイクとの間の音響伝播特性を特定する音響伝播特性特定部と、移動体が発する動作音に関する動作音情報から再現された動作音と、音響伝播特性とに基づいて、移動体が発する動作音をマイクで測定して得られる音を推定した推定動作音を生成する推定動作音生成部と、マイクで測定して得られた音から推定動作音をキャンセルして、残った音から異常音を検知する異常音検知部とによって構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲の音を測定するマイクと、
移動体が発する基準音に関する基準音情報から再現された基準音と、前記移動体が発した前記基準音を前記マイクで測定して得られた音とに基づいて、前記移動体と前記マイクとの間の音響伝播特性を特定する音響伝播特性特定部と、
前記移動体が発する動作音に関する動作音情報から再現された動作音と、前記音響伝播特性とに基づいて、前記移動体が発する動作音を前記マイクで測定して得られる音を推定した推定動作音を生成する推定動作音生成部と、
前記マイクで測定して得られた音から前記推定動作音をキャンセルして、残った音から異常音を検知する異常音検知部と
を備えることを特徴とする異常音検知システム。
【請求項2】
前記音響伝播特性特定部は、前記移動体が発する基準音の時間波形を、前記移動体が発する基準音を前記マイクで測定して得られる音の時間波形に変換する変換情報を含む音響伝播特性を特定し、
前記推定動作音生成部は、前記動作音情報から再現された前記移動体が発する動作音の時間波形を、前記変換情報によって変換した前記推定動作音の時間波形を生成し、
前記異常音検知部は、前記マイクで測定して得られた音の時間波形から前記推定動作音の時間波形をキャンセルして残った音の時間波形から異常音を検知する
ことを特徴とする請求項1に記載の異常音検知システム。
【請求項3】
前記移動体から、前記移動体に含まれる駆動部の回転数に関する情報を含む移動体情報を受信する通信部
をさらに備え、
前記推定動作音生成部は、前記駆動部の回転数と前記移動体が発する動作音とを関連付けた情報を含む前記動作音情報を参照して、前記移動体情報に基づいて特定した前記駆動部の回転数に対応する動作音から前記推定動作音を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の異常音検知システム。
【請求項4】
前記音響伝播特性特定部は、前記移動体が所定の時間間隔で発した前記基準音を前記マイクで測定して音響伝播特性を更新し、
前記推定動作音生成部は、更新された前記音響伝播特性を用いて前記推定動作音を更新し、
前記異常音検知部は、前記マイクで測定した音から、更新された前記推定動作音をキャンセルして、残った音から異常音を検知する
ことを特徴とする請求項1に記載の異常音検知システム。
【請求項5】
異常音を検知する異常音検知システムが実行する異常音検知方法であって、
移動体が発した基準音をマイクで測定する工程と、
予め準備された基準音情報から再現した基準音と、前記マイクで前記基準音を測定して得られた音とに基づいて、前記移動体と前記マイクとの間の音響伝播特性を特定する工程と、
予め準備された動作音情報から再現した前記移動体の動作音と、前記音響伝播特性とに基づいて、前記移動体が発する動作音を前記マイクで測定して得られる音を推定した推定動作音を生成する工程と、
前記マイクで測定して得られた音から前記推定動作音をキャンセルして、残った音から異常音を検知する工程と
を含むことを特徴とする異常音検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常音検知システム及び異常音検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異常音の発生に基づいて異常事態の発生を検知する異常音検知システムが利用されている。異常音検知システムは、例えば、異常事態の検出対象とする警戒領域の音をマイクによって継続して測定し、通常は測定されない異常音が測定されたことに基づいて異常事態の発生を検知する。警戒領域では、ドローン等の移動体を巡回させて警戒活動に利用することも多い。移動体が発する動作音が大きいと、異常音の検知に影響する可能性がある。移動体が利用される環境で異常音を検知するためには、移動体の動作音を低減したり、マイクによる測定音から移動体の動作音をキャンセルしたりすることが望ましい。
【0003】
例えば、特許文献1には、ドローンの動作音を低減するための消音技術が開示されている。共鳴器を利用する消音ユニットをドローンの回転翼それぞれに対応して設けることにより、回転翼の回転に起因する騒音を低減する。例えば、特許文献2には、音の干渉を利用するノイズキャンセル技術が開示されている。騒音源近傍に配置されたセンサによって騒音を測定し、得られた騒音と逆位相のキャンセル音を生成する。騒音源となる装置の内部とその近傍に複数のスピーカを配置してキャンセル音を再生することにより、騒音の一部が打ち消されて騒音が低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-40511号公報
【特許文献2】特開平9-222895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように移動体に消音ユニットを装着する技術は、移動体の大型化や重量増加につながる。移動体の重量増加に対応するために新たに大型の回転翼やモータを採用すると再び騒音が増大するという悪循環が生ずる可能性がある。特許文献2のノイズキャンセル技術で効果を得るためには、移動体の動作音を正確に測定して逆位相のキャンセル音を生成する必要がある。警戒領域で異常音を検知するマイクは、周囲の音を測定する。測定音には移動体の動作音以外にも多くの音が含まれるため、測定音から移動体の動作音を正確に取得することは難しい。
【0006】
本開示は、上記課題を含む従来技術を鑑みてなされたもので、その目的の1つは、移動体の運用下においても、異常音を高精度に検知することができる異常音検知システム及び異常音検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る異常音検知システムは、周囲の音を測定するマイクと、移動体が発する基準音に関する基準音情報から再現された基準音と、前記移動体が発した前記基準音を前記マイクで測定して得られた音とに基づいて、前記移動体と前記マイクとの間の音響伝播特性を特定する音響伝播特性特定部と、前記移動体が発する動作音に関する動作音情報から再現された動作音と、前記音響伝播特性とに基づいて、前記移動体が発する動作音を前記マイクで測定して得られる音を推定した推定動作音を生成する推定動作音生成部と、前記マイクで測定して得られた音から前記推定動作音をキャンセルして、残った音から異常音を検知する異常音検知部とを備える。
【0008】
上記構成において、前記音響伝播特性特定部は、前記移動体が発する基準音の時間波形を、前記移動体が発する基準音を前記マイクで測定して得られる音の時間波形に変換する変換情報を含む音響伝播特性を特定し、前記推定動作音生成部は、前記動作音情報から再現された前記移動体が発する動作音の時間波形を、前記変換情報によって変換した前記推定動作音の時間波形を生成し、前記異常音検知部は、前記マイクで測定して得られた音の時間波形から前記推定動作音の時間波形をキャンセルして残った音の時間波形から異常音を検知してもよい。
【0009】
上記構成において、前記移動体から、前記移動体に含まれる駆動部の回転数に関する情報を含む移動体情報を受信する通信部をさらに備え、前記推定動作音生成部は、前記駆動部の回転数と前記移動体が発する動作音とを関連付けた情報を含む前記動作音情報を参照して、前記移動体情報に基づいて特定した前記駆動部の回転数に対応する動作音から前記推定動作音を生成してもよい。
【0010】
上記構成において、前記音響伝播特性特定部は、前記移動体が所定の時間間隔で発した前記基準音を前記マイクで測定して音響伝播特性を更新し、前記推定動作音生成部は、更新された前記音響伝播特性を用いて前記推定動作音を更新し、前記異常音検知部は、前記マイクで測定した音から、更新された前記推定動作音をキャンセルして、残った音から異常音を検知してもよい。
【0011】
本開示に係る異常音検知方法は、異常音を検知する異常音検知システムが実行する異常音検知方法であって、移動体が発した基準音をマイクで測定する工程と、予め準備された基準音情報から再現した基準音と、前記マイクで前記基準音を測定して得られた音とに基づいて、前記移動体と前記マイクとの間の音響伝播特性を特定する工程と、予め準備された動作音情報から再現した前記移動体の動作音と、前記音響伝播特性とに基づいて、前記移動体が発する動作音を前記マイクで測定して得られる音を推定した推定動作音を生成する工程と、前記マイクで測定して得られた音から前記推定動作音をキャンセルして、残った音から異常音を検知する工程とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る異常音検知システム及び異常音検知方法によれば、移動体の運用下においても、移動体の動作音による影響を抑制して異常音を高精度に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態に係る異常音検知システムの概要を説明するための図である。
図2図2は、異常音検知装置が実行する推定動作音の生成処理を説明するための図である。
図3図3は、異常音検知装置が実行する異常音の検知処理を説明するための図である。
図4図4は、異常音検知装置の構成例を示すブロック図である。
図5図5は、異常音検知装置が実行する処理の例を示すフローチャートである。
図6図6は、異常音検知システムの利用例を示す図である。
図7図7は、音響伝播特性を説明するための図である。
図8図8は、異常音検知装置によって得られる音を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本開示に係る異常音検知システム及び異常音検知方法の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態に係る異常音検知システム1の概要を説明するための図である。
【0015】
異常音検知システム1は、移動体100が運用される環境下で、マイク20によって測定した音から、異常音検知装置10によって異常音を検知する。移動体100には、空中を飛行しながら地上を監視する無人航空機や、地上を走行しながら周囲を監視する無人車両が含まれる。移動体100の種類は特に限定されないが、以下、ドローンと呼ばれるマルチコプター型の無人航空機を例に説明を続ける。移動体100は、複数のモータそれぞれに取り付けられた回転翼を回転させることによって空中を移動する。空中を移動する間、移動体100からは、モータの回転数に応じた動作音が発生する。
【0016】
[音響伝播特性の特定]
移動体100は、スピーカを含み、予め設定された基準音をスピーカで再生する。異常音検知装置10は、移動体100が発した基準音をマイク20で測定し、得られた音を利用して音響伝播特性を特定する(S11)。
【0017】
基準音は、マイク20で測定される他の音に埋もれないように、予め周波数、音圧及び再生方法が設定された音である。すなわち、移動体100の動作音や、マイク20が設置された場所で測定される他の音に埋もれることなく、マイク20によって測定可能な音が基準音として設定されている。
【0018】
例えば、所定周波数の所定音圧の音が基準音として設定される。移動体100が発した基準音は、マイク20へ到達するまでの間に、障害物、気候等の様々な影響因子による影響を受けて変化する。例えば、反射、吸収、回折、減衰等の影響を受けて、マイク20が基準音を測定して得られる音が、移動体100が発した基準音とは異なる音になる場合がある。また、例えば、移動体100が移動しながら基準音を発した場合、マイク20で測定される音は、移動体100とマイク20との相対速度に応じたドップラーシフトの影響を受ける。異常音検知装置10は、予め設定された基準音と、基準音をマイク20で実際に測定して得られた音とを比較することにより、移動体100とマイク20の間の音響伝播特性を特定する。
【0019】
音響伝播特性は、移動体100が発した音から、この音をマイク20で測定した音を特定するために必要な情報である。例えば、音響伝播特性は、移動体100が発した音の時間波形から、この音をマイク20で測定して得られる時間波形を得ることができる情報である。音の時間波形は、例えば縦軸を音圧、横軸を時間として表した波形で、周波数及び位相の情報を含んでいる。時間波形をフーリエ変換することによって、時間波形が示す音の周波数及び位相を得ることができる。
【0020】
音響伝播特性は、信号処理及び音響処理の分野で知られる従来技術を利用して取得できるため詳細な説明は省略するが、例えば、基準音の時間波形を入力信号、基準音をマイク20で測定して得られた測定音の時間波形を出力信号とする伝達関数を得て、これを音響伝播特性として利用すればよい。
【0021】
伝達関数を取得する際、基準音と無関係な音をノイズとして事前にマイク20の測定音からキャンセルしてもよい。基準音は、マイク20で測定される他の音から区別可能に設定された音であるため、他の音をノイズとしてキャンセルすることによって比較的容易に抽出することができる。ノイズキャンセル技術は従来知られているため詳細な説明は省略するが、例えば、基準音と無関係な周波数域の音をフィルタリングによってキャンセルすればよい。
【0022】
異常音検知装置10は、移動体100の動作音をマイク20で測定して得られる音を推定するために、音響伝播特性を利用する。移動体100の動作音を推定可能な音響伝播特性を得ることができれば、移動体100が発する基準音の内容及び再生方法は特に限定されない。
【0023】
基準音は、単一周波数の音であってもよいし、複数周波数の音を離散的に含んでいてもよいし、複数周波数の音から成る所定周波数域の音であってもよい。移動体100が発する動作音と、これをマイク20で測定した音との周波数、振幅及び位相の関係を示す音響伝播特性を得るためには、移動体100の動作音に応じた複数周波数の基準音を再生することが好ましい。例えば、移動体100が1kHz及び2kHzにピークを有する周波数特性の動作音を発する場合は、動作音のピーク周波数に近い周波数でかつ動作音に埋もれることがない1.5kHzの単一周波数の音を基準音とすればよい。例えば、1kHzのピーク周波数に対応させた800Hz及び1.2kHzと、2kHzのピーク周波数に対応させた1.8kHz及び2.2kHzというように、動作音のピーク周波数を含む周波数領域で複数の周波数を基準音に設定してもよい。また、例えば500Hz~2.5kHzというように、動作音のピーク周波数を含む周波数域の基準音を設定してもよい。
【0024】
基準音が複数周波数の音で構成される場合は、各音が同時に再生されてもよいし、1つずつ順に再生されてもよい。基準音が所定の周波数域の音である場合は、周波数域をスイープしながら基準音が再生されてもよい。基準音が、1回だけ再生される態様であってもよいし、所定の時間間隔、又は移動体100の移動距離に応じた所定の距離間隔で、繰り返し再生されてもよい。マイク20の配置位置に応じて、予め基準音を再生する位置が1又は複数設定され、移動体100が設定位置を通過する際に基準音が再生されてもよい。移動体100が空中を移動しながら基準音を再生してもよいし、空中で停止した状態で基準音を再生してもよい。ドップラーシフトの影響を抑制するためには、移動体100が停止した状態又は低速移動する状態で基準音が再生されることが好ましい。基準音の内容及び再生方法は、移動体100が発する動作音、マイク20の設置環境における背景音、検知対象とする異常音等に基づいて、適宜設定すればよい。
【0025】
例えば、移動体100は、5秒毎又は20m毎というように、所定の時間間隔又は所定の移動距離間隔で、基準音を複数回連続して再生する。異常音検知装置10は、基準音を測定する度に、音響伝播特性を特定して更新する。これにより、異常音検知システム1では、移動体100が移動して音響伝播特性が変化する場合でも、最新の音響伝播特性を特定できるようになっている。
【0026】
[移動体の動作音推定]
異常音検知装置10は、移動体100と無線通信を行って移動体情報を取得する。異常音検知装置10は、移動体情報に基づいて再現した移動体100の動作音から、この動作音をマイク20で測定して得られる音を推定する(図1のS12)。移動体情報には、移動体100が発している動作音の時間波形を再現するための情報が含まれている。
【0027】
モータによって回転翼を回転させて飛行する移動体100は、モータの回転数によって異なる動作音を発生する。このため、駆動部として動作するモータの回転数と、各回転数で発生する動作音の波形情報とが関連付けられて、予め準備される。
【0028】
モータの回転数と各回転数で発生する動作音の波形情報とが、移動体100の記憶部に保存されていてもよい。この場合、移動体100は、現在のモータの回転数に対応する波形情報を、移動体情報として、異常音検知装置10に送信する。移動体情報を受信した異常音検知装置10は、波形情報から、移動体100の動作音の時間波形を再現することができる。
【0029】
モータの回転数と、各回転数の動作音の波形情報とが、異常音検知装置10又はサーバ装置の記憶部に保存される態様であってもよい。この場合、移動体100は、モータの回転数を示す情報を、移動体情報として異常音検知装置10に送信する。移動体情報を受信した異常音検知装置10は、回転数に基づいて記憶部を参照し、得られた波形情報から、移動体100の動作音の時間波形を再現することができる。
【0030】
移動体100がマイクを備え、マイクで測定した動作音の時間波形を、波形情報として異常音検知装置10に送信してもよい。この場合、異常音検知装置10は、受信した動作音の波形情報をそのまま利用すればよい。移動体100が、マイクで動作音を記録した音データを、そのまま異常音検知装置10に送信する態様であってもよい。
【0031】
複数の移動体100が利用される場合には、モータの回転数と各回転数の波形情報とを、各移動体100を一意に識別するための識別情報と関連付けて利用すればよい。移動体100が、識別情報及び回転数を移動体情報に含めて送信すれば、異常音検知装置10は、識別情報に基づいて移動体100を特定して、この移動体100の波形情報を取得することができる。
【0032】
移動体情報に基づいて移動体100の動作音の時間波形を再現した異常音検知装置10は、先に特定した音響伝播特性を利用して、マイク20で測定される移動体100の動作音を推定した推定動作音の時間波形を生成する。
【0033】
図2は、異常音検知装置10が実行する推定動作音の生成処理を説明するための図である。図2に示すように、音響伝播特性は、予め設定されている基準音Srの時間波形と、移動体100が発した基準音Srをマイク20で測定して得られた測定音S1の時間波形との関係から特定される。
【0034】
異常音検知装置10は、移動体情報を利用して再現した移動体100の動作音Sdの時間波形と、基準音を利用して得られた音響伝播特性とに基づいて、推定動作音Seの時間波形を生成する。推定動作音Seは、移動体100が発した動作音Sdを、マイク20で測定して得られる音の時間波形を推定したものになる。例えば、基準音Srの時間波形を入力することにより測定音S1の時間波形が出力される伝達関数を音響伝播特性として利用する場合、波形情報から再現した動作音Sdの時間波形を伝達関数に入力することにより、推定動作音Seの時間波形を得ることができる。
【0035】
[異常音の検知]
異常音検知装置10は、マイク20で測定した音から推定動作音をキャンセルして、残った音から異常音を検知する(図1のS13)。図3は、異常音検知装置10が実行する異常音の検知処理を説明するための図である。図3に示すように、異常音検知装置10のマイク20は、周囲音Scと、移動体100の動作音Sdとを測定する。周囲音Scは、通常は背景音Sbのみであるが(Sc=Sb)、異常事態が発生した場合、周囲音Scには、背景音Sbに加えて異常音Saが含まれる(Sc=Sa+Sb)。
【0036】
移動体100の動作音Sdは、反射、吸収、回折、減衰、ドップラーシフト等の影響によって、マイク20で測定される際には、動作音Sdとは異なる測定動作音Sfに変化している。マイク20の測定音S2には、周囲音Sc及び測定動作音Sfが含まれる(S2=Sc+Sf)。測定音S2から、測定動作音Sfをキャンセルすることにより、周囲音Scを得ることができる(Sc=S2-Sf)。
【0037】
推定動作音Seは、移動体100の動作音Sdと、移動体100とマイク20の間の音響伝播特性とに基づいて、測定動作音Sfを推定した音である(Se≒Sf)。異常音検知装置10は、推定動作音Seを利用して、測定音S2から測定動作音Sfをキャンセルした音を取得する。具体的には、異常音検知装置10は、測定音S2から推定動作音Seをキャンセルした音を、測定音S2から測定動作音Sfをキャンセルした音として利用する。測定動作音Sfを推定して得られた、疑似測定動作音である推定動作音Seを、測定音S2からキャンセルすることにより、周囲音Scを得ることができる(Sc=S2-Se)。例えば、異常音検知装置10は、推定動作音Seの時間波形から逆位相のキャンセル音の時間波形を生成し、測定音S2の時間波形と合成することによって、周囲音Scの時間波形を得る。
【0038】
マイク20の測定音S2から測定動作音Sfのみを抽出できる場合は、測定音S2から測定動作音Sfを直接キャンセルすることができる。また、動作音Sdと、測定音S2から抽出した測定動作音Sfから、移動体100とマイク20の間の音響伝播特性を特定することもできるが、実際には、測定音S2には、測定動作音Sf以外にも様々な音が含まれている。このため、測定音S2から測定動作音Sfだけを抽出して、キャンセルしたり音響伝播特性を特定したりすることは難しい場合がある。異常音検知装置10は、マイク20の測定音S1から容易に抽出可能な基準音Srを利用して音響伝播特性を特定することにより、動作音Sd及び音響伝播特性から、測定動作音Sfを推定した推定動作音Seを生成することができる。異常音検知装置10は、推定動作音Seを利用することにより、測定音S2から測定動作音Sfを効果的にキャンセルすることができる。
【0039】
マイク20の測定音S2から測定動作音Sfをキャンセルするために、測定音S2から推定動作音Seをキャンセルして、周囲音Scを得た異常音検知装置10は、図3に示すように、さらに、周囲音Scから背景音Sbをキャンセルすることによって異常音Saを検知する。異常音を検知する方法は特に限定されないが、例えば音圧の閾値を予め設定して、音圧が閾値を超える大きな音を検知した場合に、異常音を検知したと判定すればよい。また、例えば、異常音検知用のAI(Artificial Intelligence)を利用して異常音を検知してもよい。異常音の検知に利用されるAIは従来知られているため詳細な説明は省略するが、例えば、異常事態が発生していない通常時の音を機械学習して異常音を検知するAIを利用すれば、異常音を高精度に検知することができる。
【0040】
異常音検知装置10は、マイク20による測定を継続して行い、移動体100の基準音Srを検知する度に音響伝播特性を更新し、更新した音響伝播特性を利用して推定動作音Seを更新する。同様に、異常音検知装置10は、移動体100のモータ回転数が変更されて動作音Sdが変化した場合も、移動体情報に基づいてこれを検知して、推定動作音Seを更新する。異常音検知装置10は、更新した推定動作音Seを用いて測定音S2から測定動作音Sfをキャンセルした周囲音Scを対象として、異常音Saを検知する。音響伝播特性が変化した場合や移動体100の動作音Sdが変化した場合も、変化後の音響伝播特性及び動作音Sdに基づく推定動作音Seを利用して、異常音が高精度に検知される。
【0041】
なお、図3には基準音Srを示していないが、マイク20の測定音S2に基準音Srを測定した音が含まれる場合は、この音を測定音S2からキャンセルして異常音検知処理を実行すればよい。例えば、測定動作音Sfのキャンセル処理と同様に、音響伝播特性及び基準音Srを利用して、マイク20で基準音Srを測定して得られる音を推定した推定基準音を生成し、異常音検知時に推定基準音をキャンセルすればよい。マイク20で測定した音から推定基準音をキャンセルする処理を先に実行し、得られた音を測定音S2として上述した各処理を実行する態様であってもよい。
【0042】
異常音を検知した異常音検知装置10は、検知結果を報知する報知処理を実行することができる。報知方法は特に限定されないが、例えば、異常音検知装置10が表示装置を備え、異常事態を示す情報を表示装置に表示して報知してもよい。異常音検知装置10がスピーカを備え、異常事態を示す音をスピーカで再生して報知してもよい。異常音検知装置10が、異常事態を外部装置に通知して、外部装置が表示や音によって異常事態を報知する態様であってもよい。
【0043】
[異常音検知装置の構成]
異常音検知装置10の構成例を説明する。図4は、異常音検知装置10の構成例を示すブロック図である。異常音検知装置10は、マイク20に加えて、制御部30、記憶部40及び通信部50を備える。異常音検知装置10が、さらに、表示部、操作部、スピーカ等を備えていてもよい。
【0044】
マイク20は、異常事態の検出対象に設定された警戒領域の音を測定する。通信部50は移動体100と無線通信を行う。通信部50が有線又は無線で外部装置と通信してもよい。
【0045】
制御部30は、動作音特定部31、音響伝播特性特定部32、推定動作音生成部33、推定動作音キャンセル部34、異常音検知部35及び報知部36を含む。記憶部40には、基準音データ41及び動作音データ42が保存されている。記憶部40は、制御部30の動作に必要な各種データの保存にも利用される。制御部30が、記憶部40に保存された各種データを利用しながら各部を制御することにより、本実施形態に記載する異常音検知装置10の機能及び動作が実現される。
【0046】
動作音データ42には、複数の移動体100の識別情報それぞれに対応して、動作音の波形情報が保存されている。具体的には、移動体100それぞれについて、移動体100が備えるモータの回転数と、各回転数で移動体100が発生する動作音の時間波形を再現可能な波形情報とが関連付けて保存されている。
【0047】
動作音特定部31は、通信部50を介して、識別情報とモータ回転数とを含む移動体情報を移動体100から受信する。動作音特定部31は、識別情報及びモータ回転数に基づいて動作音データ42を参照することにより、移動体100の動作音に対応する波形情報を取得する。
【0048】
基準音データ41には、複数の移動体100の識別情報それぞれに対応して、基準音の波形情報が保存されている。音響伝播特性特定部32は、移動体100の識別情報に基づいて基準音データ41を参照することにより、基準音の波形情報を取得して、基準音の時間波形を生成する。また、音響伝播特性特定部32は、マイク20で基準音を測定して得られた音の時間波形を取得する。音響伝播特性特定部32は、基準音データ41から生成した基準音の時間波形と、実際に基準音を測定して得られた時間波形とに基づいて、音響伝播特性を特定する。
【0049】
なお、上述したように、動作音データ42が、サーバ装置等の外部装置に保存され、動作音特定部31が、外部装置から動作音の波形情報を取得する態様であってもよいし、記憶部40に動作音データ42が保存されず、動作音特定部31が移動体100から動作音の波形情報を受信する態様であってもよい。同様に、基準音データ41が、サーバ装置等の外部装置に保存され、音響伝播特性特定部32が、外部装置から基準音の波形情報を取得する態様であってもよいし、記憶部40に基準音データ41が保存されず、音響伝播特性特定部32が移動体100から基準音の波形情報を受信する態様であってもよい。
【0050】
推定動作音生成部33は、動作音特定部31が生成した移動体100の動作音と、音響伝播特性特定部32が特定した音響伝播特性とに基づいて、推定動作音を生成する。推定動作音生成部33は、動作音特定部31が生成した動作音の時間波形に音響伝播特性を適用して、移動体100の動作音をマイク20で測定して得られる測定動作音を推定した時間波形を生成し、これを推定動作音とする。
【0051】
推定動作音キャンセル部34は、マイク20の測定音から、推定動作音生成部33が生成した推定動作音をキャンセルする。すなわち、推定動作音キャンセル部34は、推定動作音を利用して、測定音から測定動作音をキャンセルした音を得る。推定動作音キャンセル部34は、推定動作音の時間波形と逆位相のキャンセル音の時間波形を生成して、マイク20の測定音の時間波形と合成することによって、推定動作音をキャンセルした時間波形を生成することができる。すなわち、推定動作音キャンセル部34は、推定動作音の時間波形を利用して、測定音から測定動作音をキャンセルした音の時間波形を生成することができる。
【0052】
異常音検知部35は、推定動作音キャンセル部34がマイク20の測定音から推定動作音をキャンセルして得られた音の時間波形、すなわち測定音から測定動作音をキャンセルした音の時間波形を利用して、異常音を検知する。異常音の検知は、異常音検知用の音圧の閾値、AI等を利用して行われる。マイク20の測定音に基準音が含まれる場合、測定音から基準音をキャンセルした後、異常音の検知処理が実行される。
【0053】
報知部36は、異常音検知部35が異常音を検知した際に、これを報知する報知処理を実行する。報知処理は、異常事態の発生を示す情報の表示部への表示、音の再生、外部装置への通知等によって実行される。
【0054】
[異常音検知処理]
異常音検知装置10が実行する処理の例を説明する。図5は、異常音検知装置10が実行する処理の例を示すフローチャートである。図6は、異常音検知システム1の利用例を示す図である。図7は、音響伝播特性を説明するための図である。図8は、異常音検知装置10によって得られる音を説明するための図である。図4及び図6図8を参照しながら、図5に示す各処理について説明する。なお、図7及び図8に示す音の時間波形は、各処理を説明するための模式図であり、実際の音を示すものではない。
【0055】
異常音検知装置10の動作音特定部31は、移動体100から通信部50に移動体情報を受信したか否かを監視している(ステップS101;No)。通信部50に移動体情報を受信すると(ステップS101;Yes)、動作音特定部31は、移動体情報に含まれる識別情報及びモータ回転数に基づいて記憶部40の基準音データ41及び動作音データ42を参照して、移動体100が発している基準音及び動作音の波形情報を取得する(ステップS102)。
【0056】
音響伝播特性特定部32は、移動体100の基準音が検知されたか否かを監視している(ステップS103)。例えば、音響伝播特性特定部32は、移動体100から通信部50に受信した移動体情報に基づいて記憶部40の基準音データ41を参照して、基準音の周波数、再生方法等の特徴を認識し、この特徴に基づいて、マイク20による測定音に基準音が含まれているか否かを監視する。測定音に基準音が含まれていることを検知すると、音響伝播特性特定部32は、基準音データ41に含まれる波形情報から基準音を再現した時間波形と、マイク20によって実際に基準音を測定して得られた音の時間波形との関係から、音響伝播特性を特定する(ステップS104)。
【0057】
例えば、図6に示すように、基準音を発する移動体100とマイク20との間にある様々な障害物201、202によって、移動体100が発する基準音の一部で反射、吸収、回折、減衰等が生ずる。この結果、基準音をマイク20で測定して得られた音は、移動体100が発する基準音と完全には一致しなくなる。図7に示すように、基準音データ41から再現された基準音の時間波形301が、障害物201、202による影響を受けて異なる時間波形302となった場合に、音響伝播特性特定部32は、時間波形301と時間波形302の関係から音響伝播特性を特定する。
【0058】
推定動作音生成部33は、動作音特定部31によって再現された移動体100の動作音の時間波形と、音響伝播特性特定部32によって得られた音響伝播特性とに基づいて、推定動作音を生成する(ステップS105)。
【0059】
推定動作音キャンセル部34は、マイク20の測定音から、推定動作音生成部33が生成した推定動作音をキャンセルすることにより、周囲音を取得する(ステップS106)。すなわち、推定動作音キャンセル部34は、測定音から測定動作音をキャンセルした周囲音を取得する。例えば、図8(b)に破線で示すように、図8(a)に示す動作音をマイク20で測定して得られる測定動作音の時間波形405は、動作音の時間波形401とは異なるものになる。動作音の時間波形401に音響伝播特性を適用することによって、図8(b)に実線で示す推定動作音の時間波形402が得られる。推定動作音の時間波形402は、測定動作音の時間波形405と近似した波形となる。図8(c)に示すマイク20の測定音の時間波形403から、推定動作音の時間波形402をキャンセルすることにより、図8(d)に示す周囲音の時間波形が得られる。図8(b)に示すように、推定動作音の時間波形402は、測定動作音の時間波形405と略同じになる。このため、測定音から推定動作音をキャンセルして得られた周囲音の時間波形404を、測定音から測定動作音をキャンセルして得られた周囲音の時間波形として利用することができる。
【0060】
異常音検知部35は、推定動作音キャンセル部34によって得られた周囲音の時間波形404を対象に異常音検知処理を実行する(ステップS107)。周囲音の時間波形404は、実際にマイク20で測定された音から、推定動作音の時間波形402、すなわち移動体100の動作音をマイク20で測定した測定動作音の時間波形405をキャンセルした音の波形となる。このため、異常音検知部35は、移動体100の動作音による影響を受けることなく、異常音を高精度に検知することができる。異常音検知部35が異常音を検知した場合、報知部36により、異常事態を知らせるための報知処理が実行される。
【0061】
なお、マイク20の測定音に、移動体100が発する基準音が含まれる場合は、測定音から基準音をキャンセルしてから異常音検知処理が実行される。また、図5では1回の処理を示しているが、異常音検知装置10は各処理を継続して実行する。異常音検知装置10が基準音を検知すると音響伝播特性が更新されて、音響伝播特性が更新されると推定動作音が更新される。移動体情報を受信した異常音検知装置10が、移動体100の動作音が変わったことを検知すると、動作音が更新されて、動作音が更新されると推定動作音が更新される。異常音検知装置10は、マイク20による音の測定を継続し、マイク20の測定音から、更新された推定動作音、すなわち更新された測定動作音をキャンセルして、残った音を対象に異常音検知処理を実行する。
【0062】
本実施形態では、音の時間波形を利用する例を説明したが、時間波形に代えて音の周波数波形(周波数特性)を利用する態様であってもよい。異常音の検知精度を高めるためには、周波数に加えて位相の情報を含む時間波形を利用することが好ましいが、周波数特性を対象に、上述した各処理を実行する態様であってもよい。周波数特性を対象とする場合も、マイク20の測定音から、移動体100の動作音を効果的にキャンセルすることができる。
【0063】
本実施形態では、回転翼をモータで回転しながら飛行する移動体100の例を説明したが、移動体100が、エンジンで回転翼を回転駆動する態様であってもよいし、回転翼を利用せずジェットエンジンを利用して移動する態様であってもよい。移動体100が、モータ、エンジン又はジェットエンジンを利用して、車輪によって地上を移動する車両であってもよい。エンジンを利用する場合は、エンジンの回転数毎に移動体100の動作音を予め準備して、推定動作音を生成すればよい。ジェットエンジンを利用する場合はタービンの回転数毎に移動体100の動作音を予め準備して、推定動作音を生成すればよい。また、移動体100の動作音が回転数毎に準備される態様に限定されず、移動体100の移動速度毎に準備される態様であってもよい。この場合、移動体情報に移動速度を含めて、移動速度から動作音を特定して、上述した核処理を実行すればよい。
【0064】
上述したように、本実施形態に係る異常音検知システム及び異常音検知方法によれば、異常音検知装置は、移動体が発する基準音を利用して、移動体とマイクの間の音響伝播特性を特定することができる。異常音検知装置は、移動体の動作音の情報と音響伝播特性から、移動体の動作音をマイクで測定して得られる音を推定して、マイクで測定した音からキャンセルすることができる。これにより、異常音検知装置は、移動体の動作音による影響を抑制して、マイクで測定した音から高精度に異常音を検知することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本開示に係る異常音検知システム及び異常音検知方法は、移動体の運用下においても、異常音を高精度の検知することができるために有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 異常音検知システム
10 異常音検知装置
20 マイク
30 制御部
31 動作音特定部
32 音響伝播特性特定部
33 推定動作音生成部
34 推定動作音キャンセル部
35 異常音検知部
36 報知部
40 記憶部
50 通信部
100 移動体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8