(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047240
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】水素同位体移送装置及び水素同位体移送方法
(51)【国際特許分類】
B01D 59/38 20060101AFI20240329BHJP
G21B 1/11 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B01D59/38
G21B1/11 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152760
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】520084881
【氏名又は名称】京都フュージョニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117514
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敦朗
(72)【発明者】
【氏名】小西 哲之
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水素同位体の移送において、装置の構成材料を改良することにより、装置の構成や機能の応用範囲を拡げる。
【解決手段】水素イオンないし水素を含むイオンを電荷担体とする固体電解質セラミックを平板状ないし曲面状に成形したプロトン導電体2と、水素透過性を有し且つ導電性を有し水素以外の気体に対しては気密状態となる固体によって形成され水素イオン導電性固体を挟み込んで配置される一対の水素透過性電極体31,32と、これらプロトン導電体2及び一対の水素透過性電極体31,32を挟み込むようにして配置される一対の媒体41,42と、一対の水素透過性電極体31,32間に電圧を印加して電流を誘起させる電源5とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素イオンないし水素を含むイオンを電荷担体とする固体電解質セラミックを平板状ないし曲面状に成形した水素イオン導電性固体と、
水素透過性を有し且つ導電性を有し、水素以外の気体に対しては気密状態となる固体によって形成され、前記水素イオン導電性固体を挟み込むように配置される少なくとも一対の水素透過性電極体と、
前記水素イオン導電性固体を挟み込んだ状態の前記一対の水素透過性電極体を挟み込むようにして配置される一対の媒体と、
前記一対の水素透過性電極体間に電圧を印加して、電流を誘起させる印加手段と
を備えることを特徴とする水素同位体移送装置。
【請求項2】
誘起された前記電流により、前記水素イオン導電性固体及び前記一対の水素透過性電極体で仕切られ、前記一対の媒体がそれぞれ属する二つの空間に対し、前記空間内の水素同位体を除去又は付加することによって、ガス組成が異なる二つの空間を生成することを特徴とした請求項1に記載の水素同位体移送装置。
【請求項3】
前記水素イオン導電性固体上に設置され、前記印加手段とは電気的に独立した単数ないし複数の水素透過性電極体により、前記水素イオン導電性固体中の化学ポテンシャル差によって生じる水素濃淡起電力を測定する起電力測定手段と、
前記起電力測定手段による測定値を参照して、前記印加手段によって印加される電圧を調整し、前記水素イオン導電性固体及び前記一対の水素透過性電極体を通じた水素の移送量、移送速度若しくは両媒体間の水素同位体濃度の比を制御する制御手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の水素同位体移送装置。
【請求項4】
前記一対の媒体のうち、一方の媒体の気相と、他方の媒体の物質との間における水素以外の物質の移動を規制することを特徴とする請求項1に記載の水素同位体移送装置。
【請求項5】
前記水素イオン導電性固体及び前記一対の水素透過性電極体を通じた前記媒体間における水素の移送の過程で生じる水素同位体の移送特性の差を利用して前記水素同位体を分離する機能をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の水素同位体移送装置。
【請求項6】
前記水素イオン導電性固体及び前記一対の水素透過性電極体を通じた前記媒体間における水素の移送に伴って生じる反応物を分離する機能をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の水素同位体移送装置。
【請求項7】
水素イオンないし水素を含むイオンを電荷担体とする固体電解質セラミックを平板状ないし曲面状に成形した水素イオン導電性固体を、水素透過性を有し且つ導電性を有し水素以外の気体に対しては気密状態となる固体によって形成された一対の水素透過性電極により、挟み込んで配置するステップと、
前記水素イオン導電性固体を挟み込んだ状態の前記一対の水素透過性電極体を一対の媒体により挟み込み、前記一対の水素透過性電極間に電圧を印加して、前記電圧により誘起される電流によって前記水素イオン導電性固体及び前記一対の水素透過性電極体を介して一方の前記媒体から他方の媒体へ水素同位体を移送するステップと
を含むことを特徴とする水素同位体移送方法。
【請求項8】
誘起された前記電流により、前記水素イオン導電性固体及び前記一対の水素透過性電極体で仕切られ、前記一対の媒体がそれぞれ属する二つの空間に対し、前記空間内の水素を除去又は付加することによって、ガス組成が異なる二つの空間を生成するステップをさらに含むことを特徴とした請求項7に記載の水素同位体移送方法。
【請求項9】
前記水素イオン導電性固体上に設置され、前記印加手段とは電気的に独立した単数ないし複数の水素透過性電極体により、前記水素イオン導電性固体中の化学ポテンシャル差によって生じる水素濃淡起電力を測定するステップと、
前記起電力測定手段による測定値を参照して、前記水素イオン導電性固体及び前記一対の水素透過性電極体に印加される電圧を調整し、前記水素イオン導電性固体及び前記一対の水素透過性電極体を通じた水素の移送量若しくは移送速度を制御するステップと
をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の水素同位体移送方法。
【請求項10】
前記一対の媒体のうち、一方の媒体の気相と、他方の媒体の物質との間における水素以外の物質の移動を規制するステップをさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の水素同位体移送方法。
【請求項11】
前記水素イオン導電性固体及び前記一対の水素透過性電極体を通じた前記媒体間における水素の移送の過程で生じる水素同位体の移送特性の差を利用して前記水素同位体を分離するステップをさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の水素同位体移送方法。
【請求項12】
前記水素イオン導電性固体及び前記一対の水素透過性電極体を通じた前記媒体間における水素の移送に伴って生じる反応物を分離するステップをさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の水素同位体移送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、核融合炉におけるトリチウムの分離、濃縮、除去、重水炉における重水のアップグレーディングやトリチウムの濃縮、除去、核燃料再処理におけるトリチウムの分離、除去、その他一般の試験、研究に使用したトリチウムの分離、回収および除去、さらには、水素製造などトリチウム以外の水素同位体の分離にも有用な、水素同位体移送装置及び水素同位体移送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核融合炉では、重水素と三重水素(トリチウム)を含む混合燃料を真空容器内でプラズマ化して保持し、核融合反応で生じる一次中性子からエネルギーを取り出して発電を行う。核融合炉では、核融合反応により生成される中性子の捕獲によるトリチウム生成と、核融合反応により生じる熱の回収とを行うために、真空容器の内面にブランケットが配置される。また、核融合反応に使われなかったプラズマの排ガスを排出するダイバータも設置される。
【0003】
ブランケット材ではリチウムが中性子と反応して水素の同位体であるトリチウム(3T)が生成される。生成されたトリチウムを燃料として再利用するために効率の良いトリチウム回収が重要である。またダイバータから排気される未燃焼ガスからの重水素とトリチウムも回収が必要である。従来、このトリチウムの回収効率を向上させる方法が種々開発されており、その一つとして、特許文献1に開示されたトリチウムの抽出・移送方法がある。
【0004】
この方法では、主として水素イオンを電荷担体とする物質(例えば、イオン交換樹脂の他、β”-アルミナ、モンモリロナイト、水素化リン酸ウラニル水和物などの固体電解質等)を水素透過性金属膜電極ではさんだプロトン導電性電解質からなる隔膜を用い、両電極間に電流を通じて一方の電極に接したトリチウムを含む媒体からトリチウムを連続的に分離抽出する一方、他方の電極より隔膜によって媒体から隔てられた空間に純トリチウムガスを放出する。この方法によれば、複雑な装置や操作を用いることなく、媒体中の低分圧のトリチウムを、純粋で利用しやすい圧力のトリチウムガスへの抽出、移送することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたトリチウムの抽出、移送法では、トリチウムを分離抽出するための隔膜にプロトン導電性電解質を用いるものであり、このプロトン導電性電解質は液体若しくは非定型性の物質であり自立性がないことから、材料的に取り扱いが難しく、装置構成及びその運用手順が複雑化し、また装置の構成部材としての十分な成形性、強度、硬度が得られないため、装置の構成や機能の多様化・汎用化に一定の限界があり、その応用範囲にも限りがあった。
【0007】
そこで、本発明はこのような問題を解決するもので、トリチウムの移送において、装置の構成材料を改良することにより、装置やその運用手順をシンプルなものにしつつ、その応用範囲を拡げて多様な面形状により機能・用途を実現できる水素同位体移送装置及び水素同位体移送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の水素移送装置は、水素イオンないし水素を含むイオンを電荷担体とする固体電解質セラミックを平板状ないし曲面状に成形した水素イオン導電性固体と、水素透過性を有し且つ導電性を有し、水素以外の気体に対しては気密状態となる固体電極によって形成され、水素イオン導電性固体を挟み込むように配置される少なくとも一対の水素透過性電極体と、水素イオン導電性固体を挟み込んだ状態の一対の水素透過性電極体を挟み込むようにして配置される一対の媒体と、一対の水素透過性電極体間に電圧を印加して、電流を誘起させる印加手段とを備える。
【0009】
また、本発明の水素移送方法は、
水素イオンないし水素を含むイオンを電荷担体とする固体電解質セラミックを平板状ないし曲面状に成形した水素イオン導電性固体を、水素透過性を有し且つ導電性を有し水素以外の気体に対しては気密状態となる固体によって形成された一対の水素透過性電極により、挟み込んで配置するステップと、
水素イオン導電性固体を挟み込んだ状態の一対の水素透過性電極体を一対の媒体により挟み込み、一対の水素透過性電極間に電圧を印加して、電圧により誘起される電流によって水素イオン導電性固体及び前記一対の水素透過性電極体を介して一方の媒体から他方の媒体へ水素を移送するステップと
を含む。
【0010】
上記発明では、誘起された電流により、水素イオン導電性固体及び一対の水素透過性電極体で仕切られ、一対の媒体がそれぞれ属する二つの空間に対し、空間内の水素を除去又は付加することによって、ガス組成が異なる二つの空間を生成することが好ましい。
【0011】
また、上記発明では、水素イオン導電性固体上に設置され、印加手段とは電気的に独立した単数ないし複数の水素透過性電極体により、水素イオン導電性固体中の化学ポテンシャル差によって生じる水素濃淡起電力を測定する起電力測定手段と、起電力測定手段による測定値を参照して、印加手段によって印加される電圧を調整し、水素イオン導電性固体及び前記一対の水素透過性電極体を通じた水素の移送量若しくは移送速度を制御する制御手段とを用いることが好ましい。
【0012】
上記発明では、一対の媒体のうち、一方の媒体の気相と、他方の媒体の物質と、の間における水素以外の物質の移動を規制することが好ましい。上記発明では、水素イオン導電性固体及び一対の水素透過性電極体を通じた媒体間における水素の移送の過程で生じる水素同位体の移送特性の差を利用して水素同位体を分離することが好ましい。さらに、上記発明では、水素イオン導電性固体及び一対の水素透過性電極体を通じた媒体間における水素の移送に伴って生じる反応物を分離することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、トリチウムの移送において、媒体間に配置される移送ポンプに、水素イオンないし水素を含むイオンを電荷担体とする固体電解セラミックを平板状ないし曲面状に成形した水素イオン導電性固体を用いる。この水素イオン導電性固体は固体電解質セラミックで成形され、定形性が高く硬度及び強度を十分に有することから、装置の構成部材として取り扱いが容易であるとともに、様々な形状の部品に加工できるため、装置設計の自由度が高められるとともにその運用手順の省力化が図れ、設備費・運用費の低コスト化を期待することができる。
【0014】
これらの結果、本発明によれば、例えば、トリチウムの分離、濃縮、除去、重水炉における重水のアップグレーディングやトリチウムの濃縮、除去、核燃料再処理におけるトリチウムの分離、除去、その他一般の試験、研究に使用したトリチウムの分離、回収および除去、さらには、重水製造などトリチウム以外の水素同位体の分離など、水素移送装置・方法の多様化・汎用化、及び応用範囲の拡充を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係る水素移送装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【
図2】第2実施形態に係る水素移送装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【
図3】第3発明の実施形態に係る水素移送装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について詳述する。以下に示す各実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
以下に説明する各実施形態のように、本発明によれば、水素移送装置の構成や機能の応用範囲を拡げることができ、例えば、トリチウムの分離、濃縮、除去、重水炉における重水のアップグレーディングやトリチウムの濃縮、除去、核燃料再処理におけるトリチウムの分離、除去、その他一般の試験、研究に使用したトリチウムの分離、回収および除去、さらには、重水製造などトリチウム以外の水素同位体の分離にも応用できる。
【0018】
[第1実施形態]
(装置の構成)
先ず、本発明の第1実施形態について以下に説明する。
図1に本実施形態に係る水素移送装置1の概略構成を示す。本実施形態にかかる水素移送装置及び移送方法は、トリチウムの分離抽出、昇圧、移送を一個の単純な装置で行うことを目的としたものであり、トリチウムの選択的なポンプの構成及び方法に適用することができる。本実施形態では、
図1に示すように、主として、プロトン導電体2を、一対の水素透過性電極体31,32で挟み込むようにして配置してプロトン移送ポンプ3として機能させる。プロトン導電体2は、水素イオンないし水素を含むイオンを電荷担体とする固体電解質セラミックを平板状ないし曲面状に成形した水素イオン導電性固体である。
【0019】
プロトン導電体2は、電気伝導性を持つとともに、その電荷担体が水素イオン(H+)、水酸イオン(OH-)、ヒドロニウムイオン(H3O+)など、水素を原子団内に含むイオン性物質(電解質)であり、数種の酸化物系の固体電解質セラミックを適宜用いることができ、装置の構成部材としての成形性や強度、硬度を有しており、装置の一部として独立して組み付けられたり、センサーの電極など他の部品が取り付けられて支持できる十分な自立性、定型性を備えている。プロトン導電体2は、例えば、大きな面積を持つ固体板として平板や曲面を持つ容器や管に成形したり、タイル状に複数を面内に配置することで、二つの異なる空間を形成し、気体や液体、固体など種々の媒体を封入する空間を仕切った容器として用いることができる。
【0020】
また、プロトン移送ポンプ3は、水素透過性電極体31,32が電極として機能し、電源5により電圧が印加されることによりプロトン導電体2中のイオンに電荷を供給する一方、他方の面において他の媒体から水素イオンを電気化学的に交換する機能を持つ。この水素透過性電極体31,32としては、パラジウム、ニッケル、白金、コバルト及びそれらの合金などを用いることができ、水素に対して選択的に透過性を持つ一方、電子やホールによる電導性を持ち、さらに多孔質やハニカム構造物などで機械的に補強することもできる。なお、金属でなくとも、水素と電子・ホール電導の両方の移動する物質があれば水素透過性電極体31,32として用いることができる。
【0021】
水素移送装置1全体としては、さらにプロトン移送ポンプ3を挟み込むようにして配置される一対の媒体41,42と、水素透過性電極体31,32間に電圧を印加して電流を誘起させる印加手段としての電源5とが備えられており、プロトン移送ポンプ3を媒体41及び42の間に介在させて、電源5により電圧を印加することにより、このプロトン移送ポンプ3を通じて一方の媒体41から他方の媒体42へ水素を移送する。
【0022】
特に、プロトン導電体2としての水素イオン導電性固体は水素以外の気体に対しては気密状態となる固体によって形成され、このようなプロトン導電体2を水素透過性電極体31,32で挟み込んでプロトン移送ポンプ3を形成する。このプロトン移送ポンプ3を機能させることにより、プロトン移送ポンプ3によって仕切られ、媒体41、42がそれぞれ属する二つの空間のガス組成を、誘起された電流によって変化させることができ、一方の媒体の水素が除去された空間と、他方の媒体の水素が付加された空間というように、ガス組成が異なる二つの空間が各媒体41,42のそれぞれを含む形で生成される。
【0023】
媒体41,42は、低圧または真空に近い純トリチウム含有水素同位体ガス、トリチウムを含む混合ガスの他、溶融金属や溶融塩などの液体、あるいはトリチウムの溶存する固体などが考えられ、そのいずれに対しても本法は原理的には実施可能である。またトリチウムがH2O、NH3などのように化合物となっている場合でも、十分な電圧をかけた場合には電気分解により化合物中からトリチウムのみを回収することもできる。
【0024】
電源5は、一対の水素透過性電極体31,32間に電圧を印加して、電流を誘起させる印加手段であり、電源5により一対の水素透過性電極体31,32間に電圧を印加して、電圧により誘起される電流によってプロトン移送ポンプ3を介して一方の媒体41から他方の媒体42へ水素を移送する。
【0025】
このような構成を有する水素移送装置1では、プロトン移送ポンプ3外部において、プロトン移送ポンプ3を介して一方側の媒体の気相と、他方側の媒体の物質と、の間において水素以外の物質の移動を規制することができるとともに、プロトン移送ポンプ3を通じた水素の移送の過程において生じる水素同位体の移送特性の差を利用して水素同位体を分離する同位体分離手段として用いることができる。ここで同位体の移送特性とは、例えば水素であれば、同位体である水素、重水素、三重水素(トリチウム)のそれぞれが有する、電極の種類に応じた、電位差に対する反応強度、移送量、移送速度、化学ポテンシャルなどが含まれ、この移送特性の差にしたがって、水素透過性電極体31,32間の電圧電流を調整することで、媒体間を移送される同位体の割合バランスを変化させることができ、所望する同位体の割合を高くすることにより、その同位体の純度を高めていくことができる。
【0026】
例えば、媒体41をトリチウム(図中、水素Hとして示す。)を含む物質とし、ここからトリチウムHは水素透過性電極体31中へ解離溶解し、拡散透過により水素透過性電極体32とプロトン導電体2の界面に達する。ここでトリチウムはイオン化し(図中、水素H+として示す。)、両電極31,32間にかけられた電位差に従ってプロトン導電体2中を泳動し、水素透過性電極体32へと達する。
【0027】
トリチウムは水素透過性電極体32で再び原子状となり、水素透過性電極体32中を透過した後トリチウムガスとなって媒体42へと放出される。この一連の過程によりトリチウムは媒体41から42へと移送され、媒体41からの分離抽出と42の純トリチウムガスへの精製、昇圧が行われる。
【0028】
なお、本発明の水素移送装置は、媒体41,42を圧力差の比較的小さいトリチウムガスとした場合には移送ポンプとして用いることができる他、媒体42を密封容器ないし流通する管路とした場合にはトリチウムの回収、貯蔵、供給装置として使用でき、媒体42側を固体表面とした場合は固体のトリチウム透過漏洩防止方法として適用することもできる。
【0029】
(作用・効果)
このように、本実施形態では、プロトン導電体2と水素透過性電極体31,32で構成された板状の構造物をプロトン移送ポンプ3として機能させることにより、この板状の構造物であるプロトン移送ポンプ3は容器壁やその一部として二つの空間を仕切り、その両側が接する物質をそれぞれ媒体41,42とし、媒体41,42のそれぞれが水素を含有するとき、水素透過性電極体31,32に電圧をかけることによって、媒体41から媒体42へと水素を移送することができる。
【0030】
このとき、媒体中の他の元素は移動しないため、例えば、媒体41,42とも水素ガスであるならば、このプロトン移送ポンプ3は、単純な水素の昇圧ポンプとして作用する。また、媒体41が水素と他のガスの混合ガスであるときは、水素の除去・抽出装置となり、媒体42側では純水素が得られることとなる。
【0031】
なお、媒体41,42間の水素の移動量は、水素の存在量の対数がかけられた電圧に比例し、媒体41,42間の電流に比例することとなる。この電圧による効果は非常に大きく、10の10乗程度の濃度差をつけることができ、例えば極めて媒体41の水素濃度を極めて少なくしたり、逆に媒体42側の水素圧力を100気圧程度にすることも可能である。
【0032】
また、プロトン導電体2は水素を含むイオンと他のイオンを内部に含むため、それらの酸化還元電位より高い電圧をかけると電気化学的に分解することから、この電圧より高い電圧を負荷しないように電源5を制御する。
【0033】
これらの結果、本実施形態によれば、複雑な装置や操作によることなしに構造の簡単な電気化学セル構造のプロトン移送ポンプ3を用いて媒体中の低分圧のトリチウムを純粋で利用しやすい圧力のトリチウムガスへと抽出または移送することが可能になる。
【0034】
特に、媒体41,42間に配置されるプロトン移送ポンプ3に、固体電解質セラミックを平板状ないし曲面状に成形した水素イオン導電性固体2を用い、この水素イオン導電性固体2は固体電解質セラミックで成形されていることから、定形性が高く硬度及び強度を十分に有し、装置の構成部材として取り扱いが容易であるとともに、様々な形状の部品に加工できる。このため、本実施形態によれば、装置設計の自由度が高められるとともにその運用手順の省力化が図れ、設備費・運用費の低コスト化を期待することができる。
【0035】
[第2実施形態]
次いで、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、プロトン導電体2上に、水素イオン導電性固体中の化学ポテンシャル差により水素濃淡起電力を測定する起電力測定手段と、起電力測定手段による測定値を参照して水素の移送量若しくは移送速度を制御する制御手段とを設けたことを要旨とする。
図2に、本実施形態に係る水素移送装置の概略構成を示す。なお、本実施形態において、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その機能等は特に言及しない限り同一であり、その説明は省略する。
【0036】
図2に示すように、本実施形態に係る水素移送装置10は、上述した第1実施形態で説明した水素移送装置1の構成に加えて、起電力測定手段61,62と、制御手段としてのポテンシオスタット6とを備えている。
【0037】
起電力測定手段61,62は、プロトン導電体2上に設置され、印加手段とは電気的に独立した単数ないし複数の水素透過性電極体であり、プロトン導電体2中の化学ポテンシャル差により水素濃淡起電力を測定する。本実施形態では、プロトン導電体2の上部延長部分2aを挟み込むように一対の水素透過性電極体として起電力測定手段61,62が配置されており、起電力測定手段61は上部延長部分2aの媒体41側の側面に取り付けられ、起電力測定手段62は上部延長部分2aの媒体42側の側面に取り付けられている。
【0038】
これら起電力測定手段61,62は、水素透過性電極体31,32から離間してプロトン導電体2に接続され、水素透過性電極体31、32からは電気的に独立している。なお、起電力測定手段61,62は、プロトン導電体2に固定されて支持されており、プロトン導電体2を挟む一対を一組として、複数組の電極を相互に離間させて、電気的に独立させてプロトン導電体2の表面に配置することができる。
【0039】
ポテンシオスタット6は、本実施形態では上述した電源5に代えて設けられ、起電力測定手段61,62を参照電極とするとともに、水素透過性電極体31,32を作用電極として機能し、本発明の印加手段と制御手段としての機能を兼ね備える電源装置である。
【0040】
ポテンシオスタット6は、起電力測定手段61,62による測定値を参照して、この参照電極に対する水素透過性電極体31,32間の電位を一定に維持して一対の水素透過性電極体31,32間に印加する電圧を調整し、プロトン導電体2内で誘起される電流を変化させるとともに、その時の電極反応速度(電流)の変化を追跡することにより、水素透過性電極体31,32における電極反応を任意の電位となるように調節して,プロトン移送ポンプ3を通じた水素の移送量若しくは移送速度を制御する。
【0041】
また、起電力測定手段61,62の電極に生じる起電力により、媒体41,42間の水素濃度の比が測定されるため、その電圧を測定し制御することによって、両者の間の水素濃度の比を制御することができる。本実施形態においてプロトン導電体2は固体の板であるが、媒体41及び42へ構成成分が流出して失われ、プロトン導電性が劣化することが知られている。本実施形態では、プロトン導電体2を水素以外の蒸発を阻止できる水素透過性の水素透過性電極体31,32で覆っているため、プロトン導電体2の性能が長期間変化しない状態で継続的に水素の移送に使用することができる。
【0042】
なお、水素透過性電極体31,32における水素の取り込みと、プロトン導電体2における水素イオンの移送速度には、同位体ごとに異なる性質、すなわち移送特性がみられる。一般に水素の同位体は軽いほうが移動も早いので、媒体41に水素、重水素の混合物があるとき、媒体42では少量の軽水素が濃縮されることから、本実施形態によれば、この性質を利用して水素同位体を分離することができる。
【0043】
本実施形態に係る水素移送装置1の媒体41及び媒体42は、プロトン移送ポンプ3によって区切られた空間であり、媒体41及び媒体42の一方ないし両方をガスが流通するように構成することで、流れ方向に各組成中における成分の割合を変化させることができる。本実施形態では、プロトン導電体2に複数の電極を取り付けることで、生成するガス、例えば水素などの成分濃度を制御でき、これにより水素移送装置10を化学反応装置として応用することができる。
【0044】
[第3実施形態]
次いで、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、上述した第1実施形態で説明した水素移送装置1を、水素の移送に伴い生じる反応物を分離する反応物分離手段として用いることを要旨とする。
図3に、本実施形態に係る水素移送装置の概略構成を示す。なお、本実施形態において、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その機能等は特に言及しない限り同一であり、その説明は省略する。
【0045】
媒体41と媒体42を満たす気体は、水素同位体ガスに限らず、例えば媒体41が水や水蒸気であるとき、そこからプロトン移送ポンプ3を通じて水素イオンを抜き出して媒体42に与え、例えば媒体42がCO2を封入した閉空間であったとするとCHOの化合物に変化させることができる。この反応では、例えば、CO2+3H2=CH3OH+H2Oなど、媒体41が属する空間内のCO2を、媒体42が属する他の空間内において他の有用な化合物に変化させることもできる。すなわち、本実施形態によれば、上記水素移送装置1を、水素の関与した化学反応を意図するように起こす電気化学反応装置としても応用できる。
【0046】
[変形例]
なお、本発明は、上記した各実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【0047】
例えば、プロトン移送ポンプ3の構成としては、固体のプロトン導電体2を水素透過性電極体31,32で挟んだ構造を持っていればよく、平板に限られるものではなく、大きな比表面積を持った複雑な面構造を持たせたり、多数の片側封じ管を多数並べることで大きな電極面積を限られた空間に設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…水素移送装置
2…プロトン導電体
2a…上部延長部分
3…プロトン移送ポンプ
5…電源
6…ポテンシオスタット
10…水素移送装置
31,32…水素透過性電極体
41,42…媒体
61,62…起電力測定手段