(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047242
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】測量システム、測量方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
G01C15/00 103E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152762
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽
(57)【要約】
【課題】測量作業の自動化を可能とする。
【解決手段】測量装置による測量が行われると、測量条件の取得(ステップS103,測量データ取得(ステップS104)、画像データ取得(ステップS105)および環境データ取得(ステップS106)を行い、これらデータを関連付けしたものを学習データとして記憶する(ステップS107)。この学習データに基づき、測量対象の画像データと測量現場の環境データに基づき、測量条件を推定するAI推定モデルを作成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測量を行う手段と、
前記測量の対象を撮影するカメラと、
前記測量が行われる現場の環境のデータを取得する手段と、
前記測量を行う手段に設定される測量の条件、前記カメラが撮影した前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータを関連付けして記憶する手段と
を備える測量システム。
【請求項2】
前記測量を行う手段に設定される測量の条件、前記カメラが撮影した前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータを関連付けしたデータを学習データとして作成され、新たに取得された測量の対象の撮影画像および環境のデータに基づき、前記測量を行う手段に設定される新たな測量の条件を推定するAI推定モデルを作成するAI学習部を備える請求項1に記載の測量システム。
【請求項3】
前記測量を行う手段に設定される測量の条件、前記カメラが撮影した前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータを関連付けしたデータを学習データとして作成され、新たに取得された測量の対象の撮影画像および環境のデータに基づき、前記測量を行う手段に設定される新たな測量の条件を推定するAI推定モデルを備えたAI推定部を備える請求項1に記載の測量システム。
【請求項4】
前記測量を行う手段による測量が行われることを契機として、
前記測量を行う手段に設定される測量の条件、前記カメラが撮影した前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータの関連付けおよび記憶が実行される請求項1に記載の測量システム。
【請求項5】
GNSS航法衛星からの航法信号に基づく位置の測量を行うGNSS位置測定装置を備え、
前記GNSS位置測定装置が測量した位置情報に基づき、前記環境のデータの少なくとも一部の取得が行われる請求項1に記載の測量システム。
【請求項6】
前記測量の対象から得た位置情報に基づき、前記環境データの少なくとも一部の取得が行われる請求項1に記載の測量システム。
【請求項7】
GNSS航法衛星からの航法信号に基づく位置の測定を行うGNSS位置測定装置を備え、
前記環境のデータには、前記測量が行われる現場の天候のデータが含まれ、
前記GNSS位置測定装置が測定した位置情報に基づき、インターネット上から前記測量が行われる現場の前記天候のデータの取得が行われる請求項1に記載の測量システム。
【請求項8】
前記環境のデータに基づき、前記測量の条件を推定する推定部を備え、
前記測量の結果に基づき、前記推定の妥当性の判定が行われ、
前記判定において、前記推定が妥当と判定された場合に、前記測量を行う手段に設定される測量の条件、前記カメラが撮影した前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータを関連付けして記憶する処理が行われる請求項1に記載の測量システム。
【請求項9】
測量装置による測量を行うステップと、
前記測量の対象を撮影するステップと、
前記測量が行われる現場の環境のデータを取得するステップと、
前記測量を行う際に前記測量装置に設定された測量の条件、前記撮影により得た前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータを関連付けして記憶するステップと
を備える測量方法。
【請求項10】
コンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、
コンピュータに
測量装置による測量を行うステップと、
前記測量の対象を撮影するステップと、
前記測量が行われる現場の環境のデータを取得するステップと、
前記測量を行う際に前記測量装置に設定された測量の条件、前記撮影により得た前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータを関連付けして記憶するステップと
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測量技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー測距装置を用いて道路環境などの基礎データを収集する技術が知られている。(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザー光を用いた測量は、天候や環境の影響を受ける。この問題に対しては、測量装置を操作する作業者が現場の状況に合わせて、各種の設定を行うことで対応している。他方において、近年、測量作業の自動化が求められている。測量作業の自動化を進めるには、上記の各種の設定の自動化が必要となる。
【0005】
このような背景において、本発明は、測量作業の自動化を可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、測量を行う手段と、前記測量の対象を撮影するカメラと、前記測量が行われる現場の環境のデータを取得する手段と、前記測量を行う手段に設定される測量の条件、前記カメラが撮影した前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータを関連付けして記憶する手段とを備える測量システムである。
【0007】
本発明において、前記測量を行う手段に設定される測量の条件、前記カメラが撮影した前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータを関連付けしたデータを学習データとして作成され、新たに取得された測量の対象の撮影画像および環境のデータに基づき、前記測量を行う手段に設定される新たな測量の条件を推定するAI推定モデルを作成するAI学習部を備える態様が挙げられる。
【0008】
本発明において、前記測量を行う手段に設定される測量の条件、前記カメラが撮影した前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータを関連付けしたデータを学習データとして作成され、新たに取得された測量の対象の撮影画像および環境のデータに基づき、前記測量を行う手段に設定される新たな測量の条件を推定するAI推定モデルを備えたAI推定部を備える態様が挙げられる。
【0009】
本発明において、前記測量を行う手段による測量が行われることを契機として、前記測量を行う手段に設定される測量の条件、前記カメラが撮影した前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータの関連付けおよび記憶が実行される態様が挙げられる。本発明において、GNSS航法衛星からの航法信号に基づく位置の測量を行うGNSS位置測定装置を備え、前記GNSS位置測定装置が測量した位置情報に基づき、前記環境のデータの少なくとも一部の取得が行われる態様が挙げられる。本発明において、測量対象から得た位置情報に基づき、前記環境データの少なくとも一部の取得が行われる態様が挙げられる。
【0010】
本発明において、GNSS航法衛星からの航法信号に基づく位置の測定を行うGNSS位置測定装置を備え、前記環境のデータには、前記測量が行われる現場の天候のデータが含まれ、前記GNSS位置測定装置が測定した位置情報に基づき、インターネット上から前記測量が行われる現場の前記天候のデータの取得が行われる態様が挙げられる。
【0011】
本発明において、前記環境のデータに基づき、前記測量の条件を推定する推定部を備え、前記測量の結果に基づき、前記推定の妥当性の判定が行われ、前記判定において、前記推定が妥当と判定された場合に、前記測量を行う手段に設定される測量の条件、前記カメラが撮影した前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータを関連付けして記憶する処理が行われる態様が挙げられる。
【0012】
本発明は、測量装置による測量を行うステップと、前記測量の対象を撮影するステップと、前記測量が行われる現場の環境のデータを取得するステップと、前記測量を行う際に前記測量装置に設定された測量の条件、前記撮影により得た前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータを関連付けして記憶するステップとを備える測量方法である。
【0013】
本発明は、コンピュータに読み取らせて実行させるプログラムであって、コンピュータに測量装置による測量を行うステップと、前記測量の対象を撮影するステップと、前記測量が行われる現場の環境のデータを取得するステップと、前記測量を行う際に前記測量装置に設定された測量の条件、前記撮影により得た前記測量の対象の撮影画像および前記環境のデータを関連付けして記憶するステップとを実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、測量作業の自動化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.第1の実施形態
(測量装置)
図1には、測量装置の一例であるトータルステーション100が示されている。測量装置としては、トータルステーションの他に、レーザースキャン装置やセオドライトが挙げられる。
【0017】
トータルステーション100は、三脚101により支えられている。三脚101の上には、自動整準機構110(整準台)が配置され、自動整準機構110の上に水平回転が可能な水平回転部102が配置されている。水平回転部102は、カメラ111と鉛直回転が可能な鉛直回転部103を備えている。
【0018】
カメラ111は、静止画像を撮影する。カメラ111として動画を撮影する動画カメラを用いることもできる。カメラ111は測量の対象を撮影する。
【0019】
鉛直回転部103には、測距光を外部に放射し、またその反射光を受光する光学部104を備えている。なお、光学部104は、測量時の視準を行う望遠鏡の光学系も兼ねている。カメラ111の光軸の方向と光学部104の光軸の方向は一致するように設定されている。カメラを筐体の内部に配置し、光学部104を介してカメラが撮影を行う構造も可能である。
【0020】
鉛直回転部103は、ターゲット(例えば、反射プリズム等の測量用ターゲット)を捕捉および追尾する補足追尾用レーザー光を放射および検出する光学系112も備えている。自動整準機構110によって水平回転部102の水平が確保されている。自動整準機構については、例えば日本国特許第06490477号公報に記載されている。
【0021】
(ブロック図)
図2は、トータルステーション100のブロック図である。水平回転制御部121は、水平回転部102の水平回転を行うためのモータの制御を行う。鉛直回転制御部122は、鉛直回転部103の鉛直回転を行うためのモータの制御を行う。水平回転角計測部123は、水平回転部102の水平回転を検出するエンコーダおよびその周辺回路を含み、水平回転部102の水平回転角を計測する。鉛直回転角計測部124は、鉛直回転部103の鉛直回転を検出するエンコーダおよびその周辺回路を含み、鉛直回転部103の鉛直回転角(仰角または俯角)を計測する。
【0022】
カメラ111は、静止画を撮影するデジタルスチールカメラである。カメラ111は、光学部104(レーザー測量を行う光学系)との外部標定要素の関係が既知である。カメラ111として動画を撮影するカメラを利用することもできる。画像データ受付部126は、カメラ111が撮影した画像の画像データを受け付ける。
【0023】
ターゲット捕捉追跡部127は、光学系112から照射される補足追尾用レーザー光を用いてターゲット(例えば、反射プリズム等の測量用ターゲット)を捕捉および追尾する。この技術については、例えば特許第5124319号公報に記載されている。
【0024】
発光部128は、発光素子、周辺回路および光学系を含み、測距用の測距光(レーザーパルス光)を発光する。受光部129は、受光素子、周辺回路および光学系を含み、対象から反射された測距光を受光し、受光信号を出力する。
【0025】
測距部130は、測距光を反射した反射点までのトータルステーション100の光学原点からの距離を算出する。この例では、発光部128から出力された測距光は2分岐され、一方が光学部104から外部に照射され、他方がトータルステーション100の内部に配置された基準光路に導かれる。受光部129には、対象から反射されて戻ってきた測距光と基準光路を伝搬した測距光とが入射する。
【0026】
基準光路は短いので、最初に基準光路を伝搬した測距光が検出され、その後に対象から反射されてきた測距光が検出される。この2つの測距光の検出信号の位相差からトータルステーション100の光学原点から反射点までの距離が算出される。測距光の飛翔時間を計測することで、距離を算出する形態も可能である。
【0027】
測位部131は、測量点(測距光の反射点)の3次元位置を算出する。ここでは、トータルステーション100の光学原点を原点として、そこからの距離と方向のデータとして測量点の3次元位置が算出される。ここで、トータルステーション100の絶対座標系における外部標定要素(位置と姿勢)が既知あれば、得られる測量点の絶対座標系における座標(三次元位置)が得られる。
【0028】
GNSS位置測量装置132は、GPS衛星等の航法衛星からの航法信号を利用した位置の測量を行う。機能は、一般的なGPS受信機と同じである。
【0029】
温度センサ133は、トータルステーション100が設置された環境の気温および筐体の内部温度を計測する。湿度センサ134は、トータルステーション100が設置された環境の湿度を計測する。気圧センサ135は、トータルステーション100が設置された環境の気圧を計測する。時計136は、日時(日付と時刻)を計測する。
【0030】
環境データ取得部137は、トータルステーション100が設置された現場の環境データを取得する。環境データには、天候(晴れ、雨、曇り、霧)、気温、湿度、気圧、標高、地形(平地、森、林、草原、市街地、砂地、河原、海岸、山林、山岳、沢)、屋内であれば屋内の様子を記述するデータの複数が含まれる。
【0031】
ここで、気温、湿度、気圧は、トータルステーション100が備えるセンサが計測した値を取得する。天候,標高、地形のデータは、インターネット上から取得する。トータルステーション100は、GNSS位置測量装置132を備え、設置された絶対座標系における位置の情報が得られる。絶対座標系とは、地図やGNSSで利用される座標系である。
【0032】
位置の情報を得ることができれば、インターネット上からその位置の天候,標高、地形のデータを得ることができる。
【0033】
環境データ取得部137が取得した環境データは、測量を行った日時、カメラ111が撮影したターゲットの撮影画像、トータルステーション100が行った測量の結果および測量条件と関連付けされる。この関連付けされたデータは、後述するAI推定モデルを作成するための学習データとして記憶部138に記憶される。
【0034】
記憶部138は、トータルステーション100の動作に必要なデータおよびプログラム、動作の結果得られたデータを記憶する。また、記憶部138には、上述した学習データが記憶される。
【0035】
記憶部138に記憶されるデータ構造の一例を表1に示す。表1において、ラベルにより対象の反射プリズムの画像データと測量条件が関連付けされる。表1に示すデータ以外にも検出した測距光の強度や受光素子の波形データ等もラベルに関連付けされて記憶される。また、移動する対象の測量を行った場合、時間に対する測量結果の変化も記憶される。
【0036】
【0037】
通信装置139は、インターネット回線を用いた通信、無線LANを用いた通信を行う。動作制御部140は、トータルステーション100の動作を制御するコンピュータである。例えば、後述する
図3のフローの制御が動作制御部140によって実行される。
【0038】
測量条件取得部141は、トータルステーション100が実施した測量の測量条件を取得する。測量条件としては、対象の選択に関する条件、対象の種別に関する条件(例えば、対象が反射プリズムである点や、特定の形状を対象とする点等)、測量を行う際の測距光のパワー、減光フィルタの有無、測距光のパルス数、対象の数、データの処理方法等が挙げられる。また、対象の追跡を行うための条件等も測量条件となる。
【0039】
例えば、トータルステーション100を用いた測設の作業では、図面上で特定された位置への反射プリズムの誘導、そこでの反射プリズムを用いた位置の特定が繰り返し行われる。この際における反射プリズムの検出、追尾、位置の測定に係る処理の条件が測量条件となる。
【0040】
また例えば、反射プリズムを備えた重機の位置の測定をトータルステーションで行い、重機の移動経路や刃先位置のデータ化を行う技術がある。この際における反射プリズムの検出、追尾、位置の測定に係る処理の条件が測量条件となる。
【0041】
AI学習部142は、学習データを用いてAI推定モデルの作成するための学習を行う。学習データは、環境データ取得部137が取得した環境データ、測量を行った日時、カメラ111が撮影したターゲットの撮影画像、トータルステーション100が行った測量の結果および測量条件(測量条件取得部141が取得した測量条件)を関連付けすることで得られるデータである。ここで、測量の結果には、測距値や測定した位置データの他に、検出した測距光の強度や検出波形(受光素子の出力波形)が含まれる。
【0042】
AI推定部143は、上記AI推定モデルを用いた測量条件の推定を行う。AI推定部では、AI推定モデルにカメラ111の撮影画像と環境データを入力し、測量条件の推定が行われる。AI推定モデルは、環境データ、撮影画像および測量条件の関係を学習することで得ている。このAI推定モデルに環境データと撮影画像を入力することで、未知パラメータとなる測量条件の推定が行われる。
【0043】
測量条件設定部144は、上記推定された測量条件をトータルステーション100に設定する。操作受付部145は、トータルステーション100に対するユーザ(作業者)による各種の設定、調整、操作を受け付ける。操作は、専用の操作端末、スマートフォン、
図1に図示されていないトータルステーション100が備えた操作パネルを用いて行われる。
【0044】
(処理の一例)
以下、トータルステーション100の動作の一例を説明する。
図3は、処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図3の処理を実行するためのプログラムは、記憶部138または適当な記憶媒体に記憶され、
図2に示すハードウェアにより実行される。
【0045】
処理に先立ち、後述するステップS103~S106の処理により測量条件を推定するAI推定モデルを作成しておき、利用できる状態としておく。
【0046】
トータルステーション100が測量の現場に設置され、測量が開始されると、
図3の処理が開始される。まず、測量モードが自動か手動が判定される(ステップS101)。自動または手動の設定はユーザにより予め選択されている。
【0047】
ここで、自動の測量モードは、AI推定モデルを用いて測量条件を推定し、この推定された測量条件に従って、トータルステーション100により自動あるいは半自動(一部が手動)の測量が行われるモードである。手動の測量モードは、従来と同様に作業者がトータルステーション100を操作して測量を行うモードである。
【0048】
測量モードが自動でない場合(手動の場合)、ステップS101からステップS102に進む。ステップS102では、トータルステーション100を用いた測量(例えば、ターゲットの位置の測量)が開始されたか否か、の判定が行われる。測量が開始された場合、測量条件の取得(ステップS103)、測量データの取得(ステップS104)、画像データの取得(ステップS105)、および環境データの取得(ステップS106)が行われる。
【0049】
ここで、測量条件は、ステップS102において判定の対象となったトータルステーション100が行う測量の条件である。ステップS103で取得する測量条件は、トータルステーションを操作する作業者によって設定された測量条件である。
【0050】
画像データは、ここで測量の対象となっている物体のカメラ111による撮影画像のデータである。環境データは、天候(晴れ、雨、曇り、霧)、気温、湿度、気圧、標高のデータである。環境データは、トータルステーション100を測量現場に設置した段階で得ておき、それを取得する形態、ステップS101がYESとなった段階で入手に係る処理を行う形態のいずれであってもよい。
【0051】
ステップS106の後、ステップS103~S106で取得したデータを関連付けしたものを学習データとして記憶する(ステップS107)。この学習データは、後述するステップS110における測量条件の推定を行うAI推定モデルを得るための学習に利用される。
【0052】
ステップS101の判定において、測量のモードが自動である場合、ステップS101からステップS108に進み、画像データの取得(ステップS108)および環境データの取得(ステップS109)を行う。画像データは、測量の対象の撮影画像の画像データであり、環境のデータはステップS106の場合と同じである。
【0053】
次に、ステップS108とステップS109で得たデータをAI推定モデルに入力し、ステップS108とステップS109で得たデータに対応した測量条件の推定を行う(ステップS110)。
【0054】
測量条件を推定したら、推定された測量条件に基づくトータルステーション100を用いた測量(例えば、反射プリズムの位置の測量)を行う(ステップS111)。
【0055】
次に、ステップS111の測量の結果に基づき、ステップS110において推定された測量条件が妥当であるか否か、が判定される(ステップ112)。
【0056】
ステップS112における測量条件の妥当性の判定は、以下のようにして行われる。まず、測量条件の推定時に測量結果の傾向を学習データに基づき推定する。この事前に推定した測量結果の傾向と、実際の測量の結果とを比較し、整合性を判定する。ここで、整合性がある場合、ステップS112の判定はYES、そうでない場合はNOとなる。
【0057】
例えば、反射プリズムを対象とした測量の場合、反射プリズムは反射効率が高いので、測距光の発光強度を下げる、光路に減光フィルタを挿入する、といった測量条件が採用され、測距光の検出強度が適切な値となるようにする。よって、反射プリズムを対象とした測量の測量条件が推定された場合、推定される測量結果の傾向には、上述の調整された測距光の検出強度の値の内容が含まれる。この場合、推定される測量結果の傾向は、例えば測距光の検出レベルの範囲として把握される。
【0058】
ここで仮に、対象が反射プリズムであるのに、反射プリズム用の測量条件が採用されていないとする。この場合、実際の測量時において、反射プリズムからの強い反射光が検出され、その値は、上記の推定される測量結果の傾向と整合しない。この場合、ステップS112の判定はNOとなる。
【0059】
また例えば、UAVをトータルステーションで追尾する測量を行う場合の測量条件が推定される場合、推定される測量結果には、UAVの飛行経路の傾向が含まれる。この場合、この推定された飛行経路の傾向が実際に測量されたUAVの飛行経路と整合するか否か、の判定がステップS112において行われる。
【0060】
また例えば、地中に打ち込む支柱の打ち込み量をトータルステーションで計測する場合の測量条件が推定される場合、推定される測量結果は、下方に向かって測量の対象が直線的に漸次移動する内容が含まれる。この場合、この推定される測量結果と実際の測量結果の整合性がステップS112において判定される。
【0061】
ステップS112の判定がNOの場合、エラー処理となる(ステップS113)。エラー処理となった場合、自動モードの実行に問題が生じた旨の報知がユーザに対して行われる。例えば、ユーザのスマートフォンに報知信号が送信され、その旨の表示が当該スマートフォンに表示される。
【0062】
ステップS112の判定がYESの場合、ステップS108~S111の内容が関連付けされ、学習データとして記憶される(ステップS107)。この学習データを利用してAI推定モデルの追学習や修正が行われる。追学習や修正の頻度は、特定の時間間隔や特定の測量回数毎に行われる。
【0063】
(優位性)
測量の対象を撮影した画像と測量現場の環境データに基づき、測量の条件を推定することで、測量の条件に設定に係る作業者の負担を減らすことができ、測量作業の自動化や半自動化が可能となる。
【0064】
例えば、幹線道路や高規格道路の建設の場合、同じような測量が日々繰り返し行われる。この際、日々の測量において学習データを利用して、測量条件の推定を行うAI推定モデルを作成する。この場合、工事の初期には、測量装置に対する測量条件の設定が作業者による手動で行われる。そして、作業が進むにつれてAI推定モデルの推定精度が向上し、測量装置に対する測量条件の設定の自動化が進む。これにより、作業員の負担が軽減され、また作業が効率化される。
【0065】
2.第2の実施形態
AI推定モデルを複数種類用意する形態も可能である。例えば、「天候:晴れ」の場合の学習データを利用して構成した「晴れ用AI推定モデル」、「天候:雨」の場合の学習データを利用して構成した「雨用AI推定モデル」、「天候:雪」の場合の学習データを利用して構成した「雪用AI推定モデル」を用意する。そして、実際の天候の状況に応じて利用するAI推定モデルを選択する。天候の状況の取得は、ユーザが行う形態、機械点の位置情報に基づきインターネット上の天気情報サービスから取得する形態等が挙げられる。
【0066】
3.第3の実施形態
AI学習部142とAI推定部143とをインターネットに接続されたサーバ上におき、クラウド処理により、測量条件の推定を行う形態も可能である。
【0067】
4.第4の実施形態
環境データの入手方法としてカメラによる撮影画像を用いる方法がある。例えば、地形の状態をカメラで撮影し、その撮影画像を環境データとして取得する。この場合、測量の対象が撮影画像中に写っていなくてもよい。
【0068】
例えば、屋内が測量現場である場合、撮影画像による環境データの取得が有効となる。例えば、建築物内部の内装工事がされていない状態、内装工事がされている状態、内装工事が途中の状態といった環境の学習データは、撮影画像による把握が適当である。また、同じ建築物内部でも居住用と倉庫用では環境が異なるが、その違いは撮影画像により把握するのが適当である。
【0069】
5.第5の実施形態
この例では、ターゲットが再帰反射板であり、現場の天候が雨である場合を学習データとして、AI推定モデルが事前に作成されているとする。もちろん、他の対象を測量する場合や他の天候条件での学習も行われている。
【0070】
この前提において、ターゲットが再帰反射板であり、天候が雨である場合に測量を行うとする。この場合、
図3のステップS101からステップS108に進む。ステップS108では、再帰反射板の画像が撮影される。また、ステップS109において、現場の天候が雨である旨のデータが取得される。
【0071】
そして、ステップS110において、上述したAI推定モデルを用いた測量条件の推定が行われる。この際、学習データとして、ターゲットが再帰反射板であり、現場の天候が雨である場合が学習されているので、その状況に合った測量条件が推定される。
【0072】
具体的には、再帰反射板および雨の状況に合ったに測距光のパワーあるいは受光条件(減光フィルタの減衰量)の選択が行われる。
【0073】
6.第6の実施形態
以下、反射プリズムを用いた測設作業の場合を説明する。測設作業では、ポールの先端に反射プリズムが付いた構造のターゲット装置を、ポールを立てた状態で作業者が手で支え(持ち)、測量現場で移動する。この際、反射プリズムの位置をトータルステーションで測定し、図面上で位置を特定している点を測量現場の地面上で特定する。そして特定された点に目印となる杭やアンカーが打たれる。
【0074】
この例では、作業者が手に持った上記ターゲット装置の撮影画像が事前に学習データとして取得され、それを用いたAI推定モデルの学習が行われているとする。また天候についても学習されているとする。
【0075】
この場合、測量現場において、作業者が支えた状態の上記ターゲット装置が撮影され、その撮影画像と環境データに基づき、AI推定モデルにより、測量条件の推定が行われる。
【0076】
この場合、事前の学習に基づき、上記のターゲット装置を用いた測設作業に適した測距光の照射条件あるいは受光条件が設定され、また測設の作業に適したパルス数や測位の間隔が推定される。
【0077】
7.第7の実施形態
この例では、ターゲットが重機に配置した反射プリズムであり、現場の天候が晴れである場合を学習データとしてAI推定モデルが事前に作成されているとする。もちろん、他の対象を測量する場合や他の天候条件での学習も行われている。
【0078】
この前提において、ターゲットが反射プリズムであり、天候が晴れである場合に測量を行うとする。この場合、
図3のステップS101からステップS108に進む。ステップS108では、反射プリズムが配置された重機の画像が撮影される。また、ステップS109において、現場の天候が晴れである旨のデータが取得される。
【0079】
そして、ステップS110において、上述したAI推定モデルを用いた測量条件の推定が行われる。この際、学習データとして、ターゲットが重機に搭載した反射プリズムであり、現場の天候が晴れである場合が学習されているので、その状況に合った測量条件が推定される。
【0080】
具体的には、重機の移動速度に対応した間隔で測位が行われ、また反射プリズムを対象とした場合に適した測量の条件が推定される。
【0081】
8.第8の実施形態
この例では、ターゲットが測量現場に配置した反射プリズムであり、現場の天候が晴れである場合を学習データとしてAI推定モデルが事前に作成されているとする。もちろん、他の対象を測量する場合や他の天候条件での学習も行われている。
【0082】
この前提において、ターゲットが反射プリズムであり、天候が晴れである場合に測量を行うとする。この場合、
図3のステップS101からステップS108に進む。ステップS108では、現場に設置された反射プリズムの画像が撮影される。また、ステップS109において、現場の天候が晴れである旨のデータが取得される。
【0083】
そして、ステップS110において、上述したAI推定モデルを用いた測量条件の推定が行われる。この際、学習データとして、反射プリズムであり、現場の天候が晴れである場合が学習されているので、その状況に合った測量条件が推定される。またこの例において、AI推定モデルは、撮影画像の中から反射プリズムの探索および自動検出を行う機能を有する。ステップS110では、撮影画像の中からの反射プリズムの探索および自動検出と当該反射プリズムの測量条件の推定が行われる。
【0084】
測量の現場では、反射プリズムの設置、この反射プリズムのトータルステーションによる位置の測定、が繰り返し行われる場合がある。この際、トータルステーションが反射プリズムを自働認識し、自動で測量が行なえると便利である。
【0085】
この場合、同じ環境で繰り返し同じ反射プリズムを対象とした測量が行われる。よって、その状況を機械学習により学習することで、当該反射プリズムの自働認識の精度を高め、更に自動測量における条件を測量装置の側で自律的に設定することができる。すなわち、その現場にカスタマイズしたAI推定モデル構築し、繰り返し行われる反射プリズムを対象とした測量作業の自動化を実現できる。
【0086】
9.第9の実施形態
測量装置の位置情報を測量基準点から得る態様も可能である。この場合、測量の対象となる測量基準点に絶対座標系における座標が与えられており、その座標値を用いて後方交会法を用いて測量装置の位置と姿勢が求められる。この場合、測量対象から得た位置情報に基づき、環境データの少なくとも一部の取得が行われる。この方法は、GNSSが利用できない環境で有用となる。もちろん、GNSSと本実施形態を併用することもできる。
【符号の説明】
【0087】
100…トータルステーション、101…三脚、102…水平回転部、103…鉛直回転部、104…光学部、110…整準機構、111…カメラ。