(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047243
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】リーン型車両
(51)【国際特許分類】
B62K 5/08 20060101AFI20240329BHJP
B62K 5/10 20130101ALI20240329BHJP
【FI】
B62K5/08
B62K5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152764
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000144810
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 武巳
【テーマコード(参考)】
3D011
【Fターム(参考)】
3D011AA02
3D011AA07
3D011AD01
3D011AD03
(57)【要約】
【課題】ステアリング操作のタイミングに拘らず安定した旋回姿勢を保つことができるリーン型車両を提供する。
【解決手段】リーン型車両は、車体と、左前輪4L、及び、右前輪4Rと、ステアリング12と、リーン機構25と、リーン連動部と、を備えている。左前輪4L、及び、右前輪4Rは、車体の前部に車幅方向に離間して配置される。ステアリング12は、回動操作によって左前輪4L、及び、右前輪4Rの操向方向を変更可能とされている。リーン機構25は、車体の前部を鉛直方向に対して左右に傾動可能とされている。リーン連動部は、車体の前部が車両の旋回中心側に下方傾斜するように、リーン機構25の動作をステアリングの回動操作に連動させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体の前部に車幅方向に離間して配置される左前輪、及び、右前輪と、
回動操作によって前記左前輪、及び、右前輪の操向方向を変更可能なステアリングと、
前記車体の前部を鉛直方向に対して左右に傾動可能なリーン機構と、
前記車体の前部が車両の旋回中心側に下方傾斜するように、前記リーン機構の動作を前記ステアリングの回動操作に連動させるリーン連動部と、を備えていることを特徴とするリーン型車両。
【請求項2】
前記リーン機構は、
前記車体に、前後方向に沿う回動軸線回りに回動可能に支持されるとともに、前記回動軸線を中心として左側方と右側方に延びる左アーム部、及び、右アーム部を有するスプリングサポートと、
前記左アーム部に支持されて、前記左前輪を下方に付勢する第1スプリングと、
前記右アーム部に支持されて、前記右前輪を下方に付勢する第2スプリングと、を備え、
前記リーン連動部は、前記スプリングサポートを前記ステアリングの回動操作に連動させて前記回動軸線回りに回動させる回動連動機構を備えていることを特徴とする請求項1に記載のリーン型車両。
【請求項3】
前記回動連動機構は、
前記ステアリングと同方向に同期して旋回する能動カム部と、
前記スプリングサポートに設けられ、前記能動カム部と当接して前記能動カム部から当該スプリングサポートを回動させる押圧力を受ける受動カム部と、を備えていることを特徴とする請求項2に記載のリーン型車両。
【請求項4】
前記受動カム部は、
前記ステアリングが一方向に回動操作されるときに前記能動カム部から押圧力を受ける第1カム面と、
前記ステアリングが他方向に回動操作されるときに前記能動カム部から押圧力を受ける第2カム面と、を有し、
前記第1カム面と前記第2カム面は、前記ステアリングが操舵中立位置にある状態において、前記能動カム部が同時に当接可能な略V字形状に形成されていることを特徴とする請求項3に記載のリーン型車両。
【請求項5】
前記能動カム部は、回転可能な転動体によって構成されていることを特徴とする請求項4に記載のリーン型車両。
【請求項6】
前記リーン機構は、
左右の端部に前記左前輪と前記右前輪が夫々支持される車軸アームと、
前記車軸アームの延出方向の略中央部を前記ステアリングの軸部に同期回動可能に連結する屈曲可能な継手部と、
前記ステアリングの軸部に対する前記車軸アームの傾きを初期位置に戻すように付勢する付勢スプリングと、を備え、
前記リーン連動部は、
前記車軸アームのうちの前記継手部の下部側の回動軸線の前方または後方に離間した位置に配置されたアーム側カム部と、
前記車体に固定され、前記アーム側カム部と当接する車体側カム部と、を備え、
前記車体側カム部には、前記ステアリングが操舵中立位置にあるときに前記アーム側カム部が当接する初期当接部に対して、前記アーム側カム部の左右の旋回方向に向かって当接部高さが漸増するカム面が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のリーン型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の傾動が可能なリーン型車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
左前輪と右前輪を持つ四輪車両や三輪車両の一形態として、運転者の重心移動に応じて車体を左右に傾斜させることができるリーン型車両が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
特許文献1に開示されるリーン型車両は、車体(車体フレーム)の前部に平行リンク機構を介して左前輪と右前輪が支持されている。このリーン型車両では、平行リンク機構が車体のリーン挙動を許容するリーン機構を構成している。また、このリーン型車両では、車体(車体フレーム)の前部に、運転者によって回動操作されるステアリングの軸部が回動可能に支持されている。ステアリングの軸部は、操舵用のリンク機構を介して左前輪と右前輪の各ナックル部に連結されている。操舵用のリンク機構は、運転者によるステアリング操作を左前輪と右前輪に転舵動作として伝達する。
特許文献1に開示されるこのリーン型車両では、運転者の重心移動による車体の傾動とステアリング操作による前輪(左前輪、及び、右前輪)の転舵の組み合わせによって、車両を所望の方向に旋回させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のリーン型車両は、ステアリングの操作が運転者の重心移動とほぼ同じタイミングであれば、車体が旋回中心側にスムーズに下方傾斜して安定した旋回姿勢を保つことができる。しかし、運転者が重心移動を開始する前にステアリングを大きく操舵した場合には、起立姿勢の車体に大きな遠心力が働き、車両の旋回姿勢が不安定になり易い。
【0006】
そこで本発明は、ステアリング操作のタイミングに拘らず安定した旋回姿勢を保つことができるリーン型車両を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るリーン型車両は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
即ち、本発明に係るリーン型車両は、車体と、前記車体の前部に車幅方向に離間して配置される左前輪、及び、右前輪と、回動操作によって前記左前輪、及び、右前輪の操向方向を変更可能なステアリングと、前記車体の前部を鉛直方向に対して左右に傾動可能なリーン機構と、前記車体の前部が車両の旋回中心側に下方傾斜するように、前記リーン機構の動作を前記ステアリングの回動操作に連動させるリーン連動部と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
上記の構成において、運転者がステアリングを旋回方向に回動操作すると、リーン連動部の機能によってリーン機構がステアリングの回動操作に連動し、車体の前部が車両の旋回中心側に下方傾斜する。このため、旋回方向への運転者の重心移動が充分に行われる前にステアリングが旋回方向に回動操作される場合であっても、車体の前部が旋回中心側に下方傾斜して車両の安定した旋回姿勢が維持される。
【0009】
前記リーン機構は、前記車体に、前後方向に沿う回動軸線回りに回動可能に支持されるとともに、前記回動軸線を中心として左側方と右側方に延びる左アーム部、及び、右アーム部を有するスプリングサポートと、前記左アーム部に支持されて、前記左前輪を下方に付勢する第1スプリングと、前記右アーム部に支持されて、前記右前輪を下方に付勢する第2スプリングと、を備え、前記リーン連動部は、前記スプリングサポートを前記ステアリングの回動操作に連動させて前記回動軸線回りに回動させる回動連動機構を備えるようにしても良い。
【0010】
この場合、運転者がステアリングを旋回方向に回動操作すると、回動連動機構の機能により、ステアリングの回動操作に連動してスプリングサポートが回動軸線回りに回動する。このとき、第1スプリングと第2スプリングの一方側が下方に強く押し付けられ、スプリングサポートの一方のアーム部に作用する反力が増大する。この結果、車体はスプリングサポートに作用する反力を受け、旋回中心側が下方傾斜するように傾動する。
本構成では、路面から左前輪に伝達される振動と右前輪に伝達される振動を夫々第1スプリングと第2スプリングによって独立して吸収することができる。したがって、本構成を採用した場合には、前輪側の振動吸収性能を良好に維持しつつ、ステアリングの操舵に連動した車両のリーン動作を得ることができる。
【0011】
前記回動連動機構は、前記ステアリングと同方向に同期して旋回する能動カム部と、前記スプリングサポートに設けられ、前記能動カム部と当接して前記能動カム部から当該スプリングサポートを回動させる押圧力を受ける受動カム部と、を備えるようにしても良い。
【0012】
この場合、運転者がステアリングを旋回方向に回動操作すると、能動カム部がステアリングと同方向に同期して旋回し、その旋回方向で能動カム部からスプリングサポートの受動カム部に作用する押圧部が増大する。この結果、スプリングサポートは能動カム部によって押圧される方向に回動し、車体はスプリングサポートからの反力を受けてスプリングサポートの回動方向と逆向きに傾動する。
本構成を採用した場合には、簡単な構成でありながら、前輪側の振動吸収性能を良好に維持しつつ、ステアリングの操舵に連動した車両のリーン動作を得ることができる。
【0013】
前記受動カム部は、前記ステアリングが一方向に回動操作されるときに前記能動カム部から押圧力を受ける第1カム面と、前記ステアリングが他方向に回動操作されるときに前記能動カム部から押圧力を受ける第2カム面と、を有し、前記第1カム面と前記第2カム面は、前記ステアリングが操舵中立位置にある状態において、前記能動カム部が同時に当接可能な略V字形状に形成されるようにしても良い。
【0014】
この場合、ステアリングが操舵中立位置にあるときに、略V字状に傾斜した第1カム面と第2カムとに能動カム部が同時に当接するため、ステアリングの操舵位置を操舵中立位置の付近で安定させることができる。したがって、本構成を採用した場合には、リーン型車両の直進安定性を高めることができる。
【0015】
前記能動カム部は、回転可能な転動体によって構成されるようにしても良い。
【0016】
この場合、ステアリングを操舵したときに、能動カム部が第1カム面や第2カム面の上で転動することにより、スプリングサポートをスムーズに回動させることが可能になる。したがって、本構成を採用した場合には、ステアリングの操作性を高めることができる。
【0017】
前記リーン機構は、左右の端部に前記左前輪と前記右前輪が夫々支持される車軸アームと、前記車軸アームの延出方向の略中央部を前記ステアリングの軸部に同期回動可能に連結する屈曲可能な継手部と、前記ステアリングの軸部に対する前記車軸アームの傾きを初期位置に戻すように付勢する付勢スプリングと、を備え、前記リーン連動部は、前記車軸アームのうちの前記継手部の下部側の回動軸線の前方または後方に離間した位置に配置されたアーム側カム部と、前記車体に固定され、前記アーム側カム部と当接する車体側カム部と、を備え、前記車体側カム部には、前記ステアリングが操舵中立位置にあるときに前記アーム側カム部が当接する初期当接部に対して、前記アーム側カム部の左右の旋回方向に向かって当接部高さが漸増するカム面が設けられるようにしても良い。
【0018】
この場合、運転者がステアリングを旋回方向に回動操作すると、車軸アームが継手部を介してステアリングと同期して回動するようになる。このとき、車軸アームの両端部に支持された左前輪と右前輪が車軸アームとともに旋回して操向方向を変化させる。また、このときアーム側カム部が、車体側カム部のカム面のうちの旋回方向に向かって当接部高さが漸増する領域と対向するようになる。アーム側カム部がカム面の当接部高さの漸増する領域に当接すると、車体側カム部がアーム側カム部から押圧力を受け、ステアリングの軸部と車軸アームが継手部において屈曲する。これにより、ステアリングを支持する車体は、旋回中心側が下方傾斜するように傾動する。
本構成では、簡単な構成でありながら、ステアリングの操舵に連動した車両のリーン動作を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るリーン型車両は、リーン連動部を備えているため、運転者がステアリングを旋回方向に回動操作すると、リーン連動部の機能によって車体の前部が車両の旋回中心側に下方傾斜するようになる。したがって、本発明に係るリーン型車両を採用した場合には、ステアリング操作のタイミングに拘らず安定した旋回姿勢を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、第1実施形態のリーン型車両の斜視図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態のリーン型車両の操舵時の挙動を示す正面図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態のリーン型車両の要部の正面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態のリーン型車両の要部の側面図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態のリーン型車両のステアリング操舵時の作動を示す平面図である。
【
図8】
図7は、第2実施形態のリーン型車両のステアリング操舵時の作動を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下で説明する各実施形態では、共通部分に同一符号を付し、重複する説明を一部省略するものとする。
以下で説明するリーン型車両については、進行方向に向かって前方側を「前」と称し、それと逆側を「後」と称する。また、進行方向に向かって左側を「左」と称し、それと逆側を「右」と称する。図面の適所には、前方を指す矢印FRと、鉛直上方を指す矢印UPと、左側方を指す矢印LHが記されている。
【0022】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態のリーン型車両1を前側の左上方から見た斜視図である。
図2は、
図1のII-II線に沿う断面図であり、
図3は、
図1のIII-III線に沿う断面図である。
本実施形態のリーン型車両1は、上面視が前後に長い略矩形状の車体ベース2、車体ベース2の前端部の略中央に固定されたステアリング支持ブロック3と、を備え、車体ベース2の前部領域の左右に、左前輪4Lと右前輪4Rを夫々上下揺動可能に支持する前サスペンションアーム5が取り付けられている。各前サスペンションアーム5は、基部側が車体ベース2に回動可能に支持されるとともに、スプリング20L,20Rによって夫々下方に付勢されている。
【0023】
同様に、車体ベース2の後部領域の左右には、左後輪6Lと右後輪6Rを夫々上下揺動可能に支持する後サスペンションアーム7が取り付けられている。後サスペンションアーム7は、基部側が車体ベース2に回動可能に支持されるとともに、スプリング21によって下方に付勢されている。
本実施形態では、車体ベース2とステアリング支持ブロック3が車体10の主要部を構成している。また、本実施形態では、スプリング20Lが、左前輪4Lを下方に付勢する第1スプリングを構成し、スプリング20Rが、右前輪4Rを下方に付勢する第2スプリングを構成している。
【0024】
車体ベース2は、上下方向に充分な厚みを持つ矩形板状のブロックによって構成され、その上面の中央には、運転者が着座するためのシート8が設置されている。車体ベース2の上面のシート8の前側位置は、シート8に着座した運転者が足を載せ置く足載せ部9とされている。
本実施形態では、左後輪6Lと右後輪6Rが図示しないモータによって駆動可能とされている。なお、本実施形態では、左後輪6Lと右後輪6Rがモータによって駆動可能とされているが、左前輪4Lと右前輪4Rが駆動されるようにしても良く、全車輪が駆動されるようにしても良い。
【0025】
ステアリング支持ブロック3は、車体ベース2の前端部から上方に起立する起立壁3aと、起立壁3aの上端部から前方に延びる前方延出壁3bと、を備えている。前方延出壁3bには、上下方向に貫通するステアリング支持孔11が形成されている。ステアリング支持孔11には、図示しない軸受を介してステアリング12の軸部12aが回動可能に支持されている。ステアリング12の軸部12aは、略鉛直方向に沿う回動軸線c1回りに回動可能とされている。ステアリング12の軸部12aの上端部には、略水平方向に延びるバーハンドル12bが連結されている。バーハンドル12bの延出端には、駆動用のモータを操作するための図示しない操作スイッチ等が配置されている。
ステアリング12は、バーハンドル12bを把持した運転者が軸部12aを回動操作することによって左前輪4Lと右前輪4Rの操向方向を変更することができる。
【0026】
ステアリング12の軸部12aの下端には、操舵ブラケット13が一体回動可能に取り付けられている。操舵ブラケット13には、左前輪4Lと右前輪4Rの各ナックル部14に連結される一対のタイロッド15が連結されている。各タイロッド15は、操舵ブラケット13と各前輪のナックル部14に対して揺動可能に連結されている。各タイロッド15は、ステアリング12の軸部12aの回動動作を左前輪4Lと右前輪4Rにナックル部14を首振りさせる動作として伝達する。
【0027】
スアリング支持ブロック3の起立壁3aの下部寄りの前面には、正面視が略V字状のスプリングサポート16が回動可能に支持されている。スプリングサポート16は、起立壁3aの前面から前方側に向かって突出する支持軸17に回転可能に支持されている。支持軸17は、車体の車幅方向中央位置から前後方向に沿って前方に延びている。スプリングサポート16は、支持軸17の軸心を通る回動軸線c2の回りに回動可能とされている。
【0028】
スプリングサポート16は、回動軸線c2を中心として左側方と右方向に夫々延びる左アーム部18Lと右アーム部18Rとを有する。スプリングサポート16は、当該スプリングサポート16が後述する中立回動位置にあるときに、左アーム部18Lと右アーム部18Rが夫々左上方と右上方に同角度傾くように略V字状の正面視形状に形成されている。左アーム部18Lと右アーム部18Rは、夫々ダンパ装置22を介して左右の各前サスペンションアーム5に連結されている。各ダンパ装置22は、各アーム部18L,18Rと前サスペンションアーム5に対して揺動可能に連結されている。また、左右の各ダンパ装置22には、スプリング20L,20Rが夫々外装されている。スプリング20L,20Rは、左右の各ダンパ装置22とともにリーン型車両の前部サスペンションを構成している。
【0029】
左側のスプリング20Lは、左右の対応するダンパ装置22を介してスプリングサポート16の左アーム部18Lに支持され、右側のスプリング20Rは、左右の対応するダンパ装置22を介してスプリングサポート16の右アーム部18Rに支持されている。左アーム部18Lに支持された左側のスプリング20は、左側の前サスペンションアーム5を介して、左前輪4Lを下方に付勢している。右側のアーム部18Rに支持された右側のスプリング20は、右側の前サスペンションアーム5を介して、右前輪4Rを下方に付勢している。
【0030】
スプリングサポート16と、スプリングサポート16の左アーム部18Lを介して左前輪4Lを下方に付勢するスプリング20Lと、スプリングサポート16の右アーム部18Rを介して右前輪4Rを下方に付勢するスプリング20Rは、運転者の体重移動に応じた車体10の傾動を許容するリーン機構25を構成している。ステアリング12が操舵中立位置にあるときに、運転者が左右に重心移動を行わない状態では、スプリングサポート16は、左右のアーム部18L,18Rの傾斜角度が左右で同じになる中立回転位置となる(
図2参照)。この状態において、運転者が左右のいずれかに重心を移動させると、重心移動方向のアーム部18L,18Rがスプリング20L,20Rを押し縮めつつ、車体10の重心移動方向の傾動を許容する。
【0031】
ステアリング12の軸部12aのうちのステアリング支持ブロック3よりも下方位置には、支持ブラケット27を介して転動体であるローラ28が回転可能に支持されている。ローラ28は、ステアリング12の回動軸線c1と直交する方向に延びる回動軸線s1回りに回転可能とされている。ローラ28の回動軸線s1は、
図2,
図3に示すように、ステアリング12が操舵中立位置にある状態のときに、車両後方側に向くように設定されている。
【0032】
スプリングサポート16の左アーム部18Lと右アーム部18Rの各上面は、ローラ28の外周面が当接可能な第1カム面18Laと第2カム面18Raとされている。ローラ28は、ステアリング12が操舵中立位置にあって、当該ローラ28の回動軸線s1が後方側に向くときに、左アーム部18Lと右アーム部18Rの中間位置において、第1カム面18Laと第2カム面Raとに同時に当接する。
なお、スプリングサポート16の第1カム面18Laと第2カム面18Raは、ステアリング12が操舵中立位置にある状態において、ローラ28が同時に当接可能な略V字形状に形成されている。
【0033】
図4は、ステアリング12を左に操舵したときにおけるリーン型車両1の挙動を示す正面図である。
図4に示すように、ステアリング12を一方向に回動操作すると、ステアリング12の軸部12aに支持されたローラ28が軸部12aと一体に同方向に旋回する。このとき、例えば、ステアリング12が上方から見て反時計回りに回動操作されたときには、ローラ28は、スプリングサポート16の第2カム面18Ra上を転動し、スプリングサポート16の右アーム部18Rを下方に押し下げようにとする。このとき、右前輪4Rを下方に付勢するスプリング20Rの反力がスプリングサポート16を介してステアリング12の軸部12aに作用し、軸部12aと車体10が、その反力を受けて旋回中心側に下方傾斜するようになる。
本実施形態では、能動カム部であるローラ28と、受動カム部であるスプリングサポート16の第1カム面18La、及び、第2カム面18Raが回動連動機構30を構成している。回動連動機構30は、スプリングサポート16をステアリング12の回動操作に連動させて回動軸線c2回りに回動させる。回動連動機構30は、本実施形態におけるリーン連動部の主要部を構成している。リーン連動部は、ステアリング12の操舵時に、車体の前部が車両の旋回中心側に下方傾斜するように、リーン機構25の動作をステアリング12の回動操作に連動させる。
【0034】
以上のように、本実施形態のリーン型車両1は、ステアリング12の操舵時に、車体10の前部が車両の旋回中心側に下方傾斜するように、リーン機構25の動作をステアリング12の回動操作に連動させるリーン連動部を備えている。このため、旋回方向への運転者の重心移動が充分に行われる前にステアリング12が旋回方向に回動操作される場合であっても、車体10の前部が旋回中心側に下方傾斜して車両の安定した旋回姿勢が維持される。したがって、本実施形態のリーン型車両1を採用した場合には、ステアリング操作のタイミングに拘らず安定した旋回姿勢を保つことができる。
【0035】
また、本実施形態のリーン型車両1は、リーン機構25が、車体10に回動可能に支持されたスプリングサポート16と、スプリング20L,20Rとを備えている。そして、一方のスプリング20Lは、スプリングサポート16の左アーム部18Lに支持されて左前輪4Lを下方に付勢し、他方のスプリング20Rは、スプリングサポート16の右アーム部18Rに支持されて右前輪4Rを下方に付勢している。また、リーン連動部は、スプリングサポート16をステアリング12の回動操作に連動させて回動軸線c2回りに回動させる回動連動機構30を主要素として構成されている。
このため、運転者がステアリング12を旋回方向に回動操作したときには、回動連動機構30の機能により、ステアリング12の回動操作に連動してスプリングサポート16が回動軸線c2回りに回動する。このとき、スプリング20L,20Rの一方側が下方に強く押し付けられ、スプリングサポート16の一方のアーム部18L,18Rに作用する反力が増大する。したがって、本構成を採用した場合には、ステアリング12の操舵時には、ステアリング12がスプリングサポート16に作用する反力を受け、旋回中心側が下方傾斜するように車体10を確実に傾動させることができる。
さらに、本構成のリーン型車両1では、路面から左前輪4Lに伝達される振動と右前輪4Rに伝達される振動を夫々スプリング20L,20Rによって独立して吸収することができる。したがって、本構成を採用した場合には、前輪側の振動吸収性能を良好に維持しつつ、ステアリング12の操舵に連動した車両のリーン動作を得ることができる。
【0036】
また、本実施形態のリーン型車両1は、回動連動機構30が、ステアリング12と同方向に同期して旋回する能動カム部(ローラ28)と、能動カム部(ローラ28)と当接して能動カム部(ローラ28)から押圧力を受ける受動カム部(スプリングサポート16)と、を備えた構成とされている。したがって、本構成を採用した場合には、簡単な構成でありながら、前輪側の振動吸収性能を良好に維持しつつ、ステアリング12の操舵に連動した車両のリーン動作を得ることができる。
【0037】
さらに、本実施形態のリーン型車両1は、ステアリング12が一方向に回動操作されるときにローラ28から押圧力を受ける第1カム面18Laと、ステアリング12が他方向に回動操作されるときにローラ28から押圧力を受ける第2カム面18Raがスプリングサポート16に設けられている。そして、第1カム面18Laと第2カム面18Raは、ステアリング12が操舵中立位置にあるときに、ローラ28が同時に当接するように略V字形状に形成されている。このため、ステアリング12が操舵中立位置にあるときには、略V字状に傾斜した第1カム面18Laと第2カム18Raに対してローラ28が同時に当接することにより、ステアリング12の操舵位置を操舵中立位置の付近で安定させることができる。したがって、本構成を採用した場合には、リーン型車両1の直進安定性を高めることができる。
【0038】
本実施形態のリーン型車両1では、スプリングサポート16の第1カム面18Laと第2カム面18Raに当接する能動カムとして転動体であるローラ28を採用している。このため、ステアリング12を操舵したときには、転動体であるローラ28が第1カム面18Laや第2カム面18Raの上で転動することにより、スプリングサポート16をスムーズに回動させることが可能になる。したがって、本構成を採用した場合には、ステアリング12の操作性を良好にすることができる。
【0039】
<第2実施形態>
図5は、本実施形態のリーン型車両101の要部の正面図であり、
図6は、リーン型車両101の要部の左側面図である。なお、
図5,
図6においては、内部構造を理解し易くするために一部の部品を仮想線で示している。
本実施形態のリーン型車両101は、車幅方向に延びる車軸アーム40の両側の端部に左前輪4Lと右前輪4Rが回転可能に支持されている。本実施形態のリーン型車両101は、車軸アーム40が、延出方向の中央部を中心として略水平方向に回動することにより、左前輪4Lと右前輪4Rの操向方向の変更が可能とされている。
【0040】
ステアリング12の軸部12aは、第1実施形態と同様に、ステアリング支持ブロック3(車体10)に回動可能に支持されている。ステアリング支持ブロック3を貫通したステアリング12の軸部12aの下端には、連結ブロック65が固定されている。連結ブロック65は、車軸アーム40の延出方向の中央部の上面と対向している。連結ブロック65には継手ベース45aが連結されている。継手ベース45aの下面には、一対の連結フランジ45f,45rが前後に離間して突設されている。なお、継手ベース45aに関しての前後とは、ステアリング12が操舵中立位置にあるときにおける前後を意味する。
【0041】
車軸アーム40の延出方向の中央部の上面には、一対の連結フランジ40f,40rが前後方向に離間して突設されている。一対の連結フランジ40f,40rは、継手ベース45a側の一対の連結フランジ45f,45rの間に配置される。これらの連結フランジ40f,45f,45r,40rは、これらを厚み方向に貫通する連結軸70によって回動可能に連結されている。継手ベース45aと車軸アーム40の中央部とは、連結軸70の軸心部である回動軸線c3回りに回動可能(屈曲可能)に連結されている。
本実施形態では、車軸アーム40側の連結フランジ40f,40rと、継手ベース45a側の連結フランジ45f,45rと、連結軸70とが、車軸アーム40の延出方向の中央部をステアリング12の軸部12aに同期回転可能に連結する継手部45を構成している。継手部45は、回動軸線c3を中心として屈曲可能とされている。したがって、車軸アーム40は、ステアリング12の軸部12aと常時同期回転するが、回動軸線c3回りには揺動可能となっている。
【0042】
また、車軸アーム40の延出方向の中央部を間に挟む両側位置には、一対のスプリング50L,50Rが配置されている。これらのスプリング50L,50Rは、車軸アーム40の上面とステアリング12側の継手ベース45aの下面との間に介装されている。これらのスプリング50L,50Rは、ステアリング12の軸部12に対する回動軸線c3回りの車軸アーム40の傾きを初期位置戻すように付勢する付勢スプリングを構成している。
本実施形態では、車軸アーム40と、車軸アーム40の中央部をステアリング12の軸部12aに同期回転可能に連結する屈曲可能な継手部45と、一対のスプリング50L,50Rとが車体の前部の傾動を許容するリーン機構125を構成している。
【0043】
また、車軸アーム40の延出方向の略中央部の前部には、支持ブラケット54を介してアーム側カム部55が取り付けられている。支持ブラケット54とアーム側カム部55は、継手部45の下部側の回動軸線c1Lの前方側に所定距離離間した位置に配置されている。アーム側カム部55は、支持ブラケット54の上部に固定され、その頂部が略球面状に形成されている。
なお、本実施形態では、アーム側カム部55が回動軸線c1Lの前方側に離間して配置されているが、アーム側カム部55は、回動軸線c1Lの後方側に離間して配置するようにしても良い。
【0044】
ステアリング支持ブロック3(車体10)の前部寄りの下面(ステアリング12の軸部12aよりも前方側の下面)には、アーム側カム部55と当接する車体側カム部60が固定されている。車体側カム部60の下面には、正面視が山型状のカム面63が形成されている。カム面63は、車幅方向の中央の上方側に最も窪む部分が、ステアリング12が操舵中立位置にあるときにアーム側カム部55の頂部が当接する初期当接部63aとされている。カム面63は、初期当接部63aの車幅方向両側に、車幅方向外側に向かって下方傾斜する旋回側当接部63L,63Rが形成されている。旋回側当接部63L,63Rは、アーム側カム部55の左右の旋回方向に向かって当接部高さ(下方に向かう突出高さ)が漸増する。
【0045】
図7,
図8は、ステアリング操舵時における車体側カム部60とアーム側カム部55の挙動を示す平面図と正面図である。
これらの図に示すように、ステアリング12が操舵中立位置にあるときには、アーム側カム部55の頂部が車体側カム部60の中央の初期当接部63aに当接している。この状態からステアリング12が一方向に回動操作されると、車軸アーム40が継手部45を介してステアリング12の軸部12aと同期して一方向に回動する。このとき、アーム側カム部55は、
図7中の矢印で示すように、車軸アーム40とともに回動軸線c1(c1L)回りに一方向に旋回する。
【0046】
こうして、アーム側カム部55が一方向に旋回すると、車体側カム部60との当接位置が初期当接部63aから旋回側当接部63Lまたは63Rへと移動する。このとき、車体側カム部60は、アーム側カム部55から受ける押圧力が増大する。これにより、アーム側カム部55から受ける押圧力が軽減される方向に、ステアリング12の軸部12aと車軸アーム40との間の屈曲が継手部45において生じる。この結果、車体10がステアリング12の軸部12aとともに車両の旋回中心側に下方傾斜するように傾動する。
なお、本実施形態では、アーム側カム部55と車体側カム部60がリーン連動部を構成している。
【0047】
以上のように、本実施形態のリーン型車両101の場合も、ステアリング12の操舵時に、車体10の前部が車両の旋回中心側に下方傾斜するように、リーン機構125の動作をステアリング12の回動操作に連動させるリーン連動部を備えている。このため、旋回方向への運転者の重心移動が充分に行われる前にステアリング12が旋回方向に回動操作される場合であっても、車体10の前部を旋回中心側に下方傾斜させて車両の安定した旋回姿勢を維持することができる。
【0048】
また、本実施形態のリーン型車両101は、簡単な構成でありながら、ステアリング12の操舵に連動した車両の確実なリーン動作を得ることができる。
【0049】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
例えば、上記の実施形態では、前輪や後輪がモータによって駆動されるが、リーン型車両の駆動源は、エンジン等であっても良い。また、リーン型車両は、ペダル操作等の人力駆動によって車輪を駆動するものであっても良い。
また、上記の実施形態のリーン型車両は、前二輪、後二輪の四輪車両であるが、リーン型車両は前二輪、後一輪の三輪車両であっても良い。ただし、後輪の数は、特に限定されず三つ以上であっても良い。
【符号の説明】
【0050】
1,101…リーン型車両
4L…左前輪
4R…右前輪
10…車体
12…ステアリング
16…スプリングサポート
18L…左アーム部
18La…第1カム面(受動カム部)
18R…右アーム部
18Ra…第2カム面(受動カム部)
20L…スプリング(第1スプリング)
20R…スプリング(第2スプリング)
25,125…リーン機構
28…ローラ(能動カム部、転動体)
30…回動連動機構
40…車軸アーム
45…継手部
50…スプリング(付勢スプリング)
55…アーム側カム部
60…車体側カム部
63…カム面
63a…初期当接部
c2…回動軸線