(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047249
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152771
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(71)【出願人】
【識別番号】000147350
【氏名又は名称】株式会社精工技研
(74)【代理人】
【識別番号】100148688
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 裕行
(72)【発明者】
【氏名】清水 建登
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寛斗
(72)【発明者】
【氏名】田多井 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】近藤 広男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正己
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 憲宏
(72)【発明者】
【氏名】飯田 有人
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AC05
4F206AD05
4F206AG03
4F206JA07
4F206JB12
4F206JF01
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】成形基材の外面に液状コーティング剤をコーティングする工程と所望の模様を形成する工程とを同時に行う金型内コーティング成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】第一金型1に成形基材2を装着し、その第一金型1を第二金型3に成形基材2を覆うように突き当て、第二金型3の内面と成形基材2の外面との間にコーティングギャップ4を形成し、コーティングギャップ4に液状コーティング剤(塗料5)を注入して成形基材2の外面に付着させた金型内コーティング成形品28の製造方法であって、第二金型3の内面に、成形基材2の外面に施したい所望の模様に応じた凸部30が、コーティングギャップ4に応じた高さHに形成されており、その第一金型1を第二金型3に突き当てて凸部30を成形基材2の外面に押し当て、その状態でコーティングギャップ4に液状コーティング剤5を注入する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一金型に成形基材を装着し、該成形基材が装着された前記第一金型を第二金型に前記成形基材を覆うように突き当て、該第二金型の内面と前記成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成し、該コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して前記成形基材の外面に付着させた金型内コーティング成形品の製造方法であって、
前記第二金型の内面に、前記成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、前記コーティングギャップに応じた高さに形成されており、前記成形基材が装着された前記第一金型を前記第二金型に前記成形基材を覆うように突き当てたとき、前記第二金型の内面に形成された前記凸部が前記成形基材の外面に接し、この状態で前記コーティングギャップに前記液状コーティング剤を注入することで前記凸部が接した部分以外の前記成形基材の外面に前記液状コーティング剤を付着させ、前記成形基材の外面に前記液状コーティング剤によって前記所望の模様の部分を除いてコーティングを施す、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項2】
前記第二金型の内面に形成された前記凸部が前記コーティングギャップを僅かに上回る高さに形成されており、前記成形基材が装着された前記第一金型を前記第二金型に前記成形基材を覆うように突き当てたとき、前記第二金型の内面に形成された前記凸部が前記成形基材の外面に押し付けられることで、前記コーティングギャップに前記液状コーティング剤を注入した際、前記凸部と前記成形基材の外面との間に前記液状コーティング剤が浸入することを抑える、ことを特徴とする請求項1に記載の金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項3】
第一金型に成形基材を装着し、該成形基材が装着された前記第一金型を第二金型に前記成形基材を覆うように突き当て、該第二金型の内面と前記成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成し、該コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して前記成形基材の外面に付着させた金型内コーティング成形品の製造方法であって、
前記成形基材の外面に、前記成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、前記コーティングギャップに応じた高さに形成されており、前記成形基材が装着された前記第一金型を前記第二金型に前記成形基材を覆うように突き当てたとき、前記成形基材の外面に形成された前記凸部が前記第二金型の内面に接し、この状態で前記コーティングギャップに前記液状コーティング剤を注入することで前記凸部が接した部分以外の前記成形基材の外面に前記液状コーティング剤を付着させ、前記成形基材の外面に前記液状コーティング剤によって前記所望の模様の部分を除いてコーティングを施す、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項4】
前記成形基材の外面に形成された前記凸部が前記コーティングギャップを僅かに上回る高さに形成されており、前記成形基材が装着された前記第一金型を前記第二金型に前記成形基材を覆うように突き当てたとき、前記成形基材の外面に形成された前記凸部が前記第二金型の内面に押し付けられることで、前記コーティングギャップに前記液状コーティング剤を注入した際、前記凸部と前記成形基材の外面との間に前記液状コーティング剤が浸入することを抑える、ことを特徴とする請求項3に記載の金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項5】
前記液状コーティング剤に熱硬化塗料を用い、該熱硬化塗料を前記第二金型の内面と前記成形基材の外面との間に形成されたコーティングギャップに注入した後、前記第二金型を熱源とした熱反応によって前記熱硬化塗料が硬化して前記成形基材の外面に付着する、ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型であって、
前記第二金型の内面に、前記成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、前記コーティングギャップに応じた高さに形成されており、前記成形基材が装着された前記第一金型を前記第二金型に前記成形基材を覆うように突き当てたとき、前記第二金型の内面に形成された前記凸部が前記成形基材の外面に接する、ことを特徴とする金型内コーティング成形品用金型。
【請求項7】
請求項2に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型であって、
前記第二金型の内面に、前記成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、前記コーティングギャップを僅かに上回る高さに形成されており、前記成形基材が装着された前記第一金型を前記第二金型に前記成形基材を覆うように突き当てたとき、前記第二金型の内面に形成された前記凸部が前記成形基材の外面に押し付けられる、ことを特徴とする金型内コーティング成形品用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の金型に挟まれた成形基材の外面と金型の内面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させるようにした金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型に係り、特に、成形基材の外面の所望の箇所に液状コーティング剤を付着させないようにして所望の模様を形成するようにした金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題への関心が高まる中、有機溶剤を使用せず且つCO2排出削減効果の高い塗装代替技術として、金型内コーティング方法(インモールドコーティング:IMC)が注目されている。IMCとは、成形に用いられた金型を利用して、成形基材の外面と金型の内面との隙間に機能性液状コーティング剤(例えば塗料)を注入し、加熱により成形基材の外面に被膜(例えば塗膜)を形成する技術である(特許文献1参照)。
【0003】
IMCの特徴としては、(1)一般的なスプレー塗装で用いられる有機溶剤を使用しないので環境及び人体に優しい、(2)塗装工程を行うための設備(スプレー吹付、オーブン熱処理)が不要、(3)塗料を有機溶剤で希釈しないので塗布前の材料(塗料)が成形基材の外面に塗膜として形成される割合(塗着効率)が非常に高く無駄が極めて少ない、等が挙げられる。
【0004】
樹脂成形品に塗装を行う目的は、材料素材本来の外表面に、練り込みでは得られない鮮明な色調や光沢、メタリック調を付与する、或いは、成形時に発生した外観不良を目隠しするなど、意匠性を高め、製品としての高級感を与えることにある。更に視認性を高め、かつ操作性を考慮した機能を持つ製品が、我々の日常生活において数多く見られる。この種の製品として、例えば、パソコン用キーボードのキーの表面に文字や記号等が表示されたものが挙げられる。
【0005】
パソコン用キーボードのキーの表面に、記号や文字を印刷及び塗装する場合、通常、キーの表面の印刷及び塗装面が平面であればシルクメッシュを使用したスクリーン印刷が用いられ、曲面であれば弾力性のあるシリコンゴムを利用したパッド印刷が用いられる。しかし、双方とも有機溶剤で希釈された塗料が使用され、オーブン処理が必要とする従来の方法であり、環境への影響が大きい。
【0006】
一方、室内や車内、夜間など照明の少ない環境に用いられる機能性の高いスイッチ部品として、例えば、
図12に示すものが知られている。
図12(a)はスイッチ部品の斜視図、
図12(b)は
図12(a)のb-b線断面図である。このスイッチ部品は、表面が全体的には黒色で、部分的に白色の模様(星形の絵柄)が表示されており、白色の模様(星形の絵柄)の部分に光を透過する材料が用いられている。照明が少なく暗い室内、車内、夜間などで使用される機器において、主電源が入るとスイッチ部品の裏側にあるライト(図示せず)が点灯し、白抜きの範囲(白色の模様(星形の絵柄)の部分)が発光し認識でき、周囲が暗い環境でも使用できる。
【0007】
この種のスイッチ部品は、通常、透明または半透明の樹脂によって頂面が覆われた円筒状の成形基材2を成形し、その成形基材2の外面の全領域に一旦黒色等の光を透過しない塗装を施して塗膜27を形成し、頂面の中央の意匠領域である星形の絵柄の部分31のみの塗膜27を除去して製造される。この塗膜27を部分的に除去する手法として、レーザー光線の照射により、意匠領域(星形の絵柄の部分31)のみの黒色の塗膜27を気化、蒸発させ、除去させるレーザー照射法が知られている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3617807号公報
【特許文献2】特開2002-146558号公報
【特許文献3】特開2005-7403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、レーザー照射法は高熱処理であるため、
図12(a)において、レーザー光線の照射により塗膜27を除去することで露出した成形基材2の意匠領域(星形の絵柄の部分31:白色)と塗装された塗膜27の部分(黒色)との境界の鮮明さを確保しつつ、成形基材2そのものへの熱影響を最小限に抑えるためには、レーザー光線のスポット径を小さくする必要があり、照射エネルギーを大きく出来ないという制約がある。かかる制約により、生産性を上げるためには成形基材2の外面に形成する塗膜27を極力薄く(例えば50μm以下)する必要があり、きめ細かな塗膜厚さのコントロールが必要であり、コストアップを招く。
【0010】
加えてレーザー加工設備は装置導入のイニシャルコストが大きく、加工は小さなスポットの一筆書きであるので広い面積の加工では極めて長い加工時間を要し、製造コストを大きく押し上げる要因となっている。
【0011】
また、レーザー照射法においては、成形基材2の外面に塗装する工程と、塗装された塗膜27の一部をレーザー光線によって除去する工程との2工程が必要なため、工数が嵩んで製造時間が掛かってしまい、コストアップが避けられない。
【0012】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、一対の金型に挟まれた成形基材の外面と金型の内面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させるようにした金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型において、成形基材の外面の所望の箇所に液状コーティング剤が存在しない領域を設けて所望の模様を形成する際、レーザー光線の照射が不要であり、製造時間を短縮でき、コストダウンを図った金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく創案された本発明によれば、第一金型に成形基材を装着し、成形基材が装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当て、第二金型の内面と成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させた金型内コーティング成形品の製造方法であって、第二金型の内面に、成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、コーティングギャップに応じた高さに形成されており、成形基材が装着された第一金型を第二金型に前記成形基材を覆うように突き当てたとき、第二金型の内面に形成された凸部が成形基材の外面に接し、この状態でコーティングギャップに液状コーティング剤を注入することで凸部が接した部分以外の成形基材の外面に液状コーティング剤を付着させ、成形基材の外面に液状コーティング剤によって所望の模様の部分を除いてコーティングを施す、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造方法が提供される(請求項1)。
【0014】
この金型内コーティング成形品の製造方法においては、第二金型の内面に形成された凸部がコーティングギャップを僅かに上回る高さに形成されており、成形基材が装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当てたとき、第二金型の内面に形成された凸部が成形基材の外面に押し付けられることで、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入した際、凸部と成形基材の外面との間に液状コーティング剤が浸入することを抑えるようにしてもよい(請求項2)。
【0015】
また、本発明によれば、第一金型に成形基材を装着し、成形基材が装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当て、第二金型の内面と成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させた金型内コーティング成形品の製造方法であって、成形基材の外面に、成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、コーティングギャップに応じた高さに形成されており、成形基材が装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当てたとき、成形基材の外面に形成された凸部が第二金型の内面に接し、この状態でコーティングギャップに液状コーティング剤を注入することで凸部が接した部分以外の成形基材の外面に液状コーティング剤を付着させ、成形基材の外面に液状コーティング剤によって所望の模様の部分を除いてコーティングを施す、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造方法が提供される(請求項3)。
【0016】
この金型内コーティング成形品の製造方法においては、成形基材の外面に形成された凸部がコーティングギャップを僅かに上回る高さに形成されており、成形基材が装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当てたとき、成形基材の外面に形成された凸部が第二金型の内面に押し付けられることで、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入した際、凸部と成形基材の外面との間に液状コーティング剤が浸入することを抑えるようにしてもよい(請求項4)。
【0017】
上述した請求項1から4の何れか1項に記載の金型内コーティング成形品の製造方法においては、液状コーティング剤に熱硬化塗料を用い、熱硬化塗料を第二金型の内面と成形基材の外面との間に形成されたコーティングギャップに注入した後、第二金型を熱源とした熱反応によって熱硬化塗料が硬化して成形基材の外面に付着するようにしてもよい(請求項5)。
【0018】
また、本発明によれば、請求項1に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型であって、第二金型の内面に、成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、コーティングギャップに応じた高さに形成されており、成形基材が装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当てたとき、第二金型の内面に形成された凸部が成形基材の外面に接する、ことを特徴とする金型内コーティング成形品用金型が提供される(請求項6)。
【0019】
また、本発明によれば、請求項2に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型であって、第二金型の内面に、成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、コーティングギャップを僅かに上回る高さに形成されており、成形基材が装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当てたとき、第二金型の内面に形成された凸部が成形基材の外面に押し付けられる、ことを特徴とする金型内コーティング成形品用金型が提供される(請求項7)。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型によれば、次のような効果を発揮できる。
(1)請求項1に係る発明によれば、第一金型に成形基材を装着し、その第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当て、第二金型の内面と成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させるようにした金型内コーティング成形品の製造方法において、第二金型の内面に、成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、コーティングギャップに応じた高さに形成されており、成形基材が装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当てたとき、第二金型の内面に形成された凸部が成形基材の外面に接し、この状態でコーティングギャップに液状コーティング剤を注入することで凸部が接した部分以外の成形基材の外面に液状コーティング剤を付着させ、成形基材の外面に液状コーティング剤によって所望の模様の部分を除いてコーティングを施すようにしたので、成形基材の外面を塗装する工程と成形基材の外面に所望の模様を形成する工程とを同時に行うことができ、製造時間を短縮でき、コストダウンを推進できる。
(2)請求項3に係る発明によれば、第一金型に成形基材を装着し、その第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当て、第二金型の内面と成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させるようにした金型内コーティング成形品の製造方法において、成形基材の外面に、成形基材の外面に施したい所望の模様に応じた凸部が、コーティングギャップに応じた高さに形成されており、成形基材が装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当てたとき、成形基材の外面に形成された凸部が第二金型の内面に接し、この状態でコーティングギャップに液状コーティング剤を注入することで凸部が接した部分以外の成形基材の外面に液状コーティング剤を付着させ、成形基材の外面に液状コーティング剤によって所望の模様の部分を除いてコーティングを施すようにしたので、成形基材の外面を塗装する工程と成形基材の外面に所望の模様を形成する工程とを同時に行うことができ、製造時間を短縮でき、コストダウンを推進できる。
(3)従来のように、成形基材の外面の全領域に施された塗装のうち所望の模様の部分をレーザー光線で除去する必要がないため、レーザー加工設備を導入するイニシャルコストが掛からない。また、レーザー光線で所望の模様の部分の塗膜を除去する場合、生産性を上げるためには塗膜を極力薄く(例えば50μm以下)する必要があるが、本発明ではレーザー光線で塗膜を除去しないので塗膜を薄くする必要はなく、塗膜を薄く管理するためのコストが掛からない。また、本発明は塗膜が或る程度厚くしても成立するため、塗膜を厚くすることで経年使用時の塗膜の耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型を構成する第一金型及び第二金型の説明図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のb-b線断面図である。
【
図2】
図1(b)の第一金型を第二金型から離間させて、成形基材、スプルー及びランナーを取り出した様子を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態に用いる成形基材の説明図であり(a)は斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図である。
【
図4】
図2のIV-IV線矢視図であり、第二金型に形成されたキャビティ及びキャビティの内面に形成された凸部を示す斜視図である。
【
図9】(a)は
図5のIXa-IXa線断面図であり、(b)は
図6のIXb-IXb線断面図である。
【
図10】(c)は
図7のXc-Xc線断面図であり、(d)はコーティングギャップに液状コーティング剤を注入した様子を示す断面図である。
【
図11】(e)は
図10(d)に続く工程を示す断面図であり、(f)は
図11(e)に続く工程を示す断面図であって
図8のXIf-XIf線断面図に相当する。
【
図12】第1実施形態において、成形基材に所望の模様の部分を除いてコーティングを施した金型内コーティング成形品の説明図であり(a)は斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図である。
【
図13】本発明の第2実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型を構成する第一金型及び第二金型の説明図であり、(a)は第一金型を第二金型に突き当てて成形基材を射出成形する様子を示す断面図、(b)は第一金型を第二金型から離間させて成形基材を取り出す様子を示す断面図である。
【
図14】(c)は
図13(b)に続く工程を示し成形基材を塗装金型部の塗装コアに付け替えた様子を示す断面図であり、(d)は(c)に続く工程を示し第一金型を第二金型に突き当ててコーティングギャップを形成した様子を示す断面図である。
【
図15】(e)は
図14(d)に続く工程を示しコーティングギャップに液状コーティング剤を注入する様子を示す断面図であり、(f)は(e)に続く工程を示し第一金型を第二金型から離間させてコーティング済みの金型内コーティング成形品を取り出す様子を示す断面図である。
【
図16】第2実施形態において、成形基材に所望の模様の部分を除いてコーティングを施した金型内コーティング成形品の説明図であり(a)は斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。係る実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
(金型内コーティング成形品の製造方法の概要)
本発明係る金型内コーティング成形品の製造方法は、
図9(a)、
図9(b)に示すように第一金型1に成形基材2を装着し、成形基材2が装着された第一金型1を
図10(c)に示すように第二金型3に成形基材2を覆うように突き当てて、第二金型3の内面と成形基材2の外面との間にコーティングギャップ4を形成し、
図10(d)に示すようにコーティングギャップ4に液状コーティング剤5(塗料等)を注入して成形基材2の外面に付着させた金型内コーティング成形品の製造方法が前提となる。
【0024】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法の特徴は、
図4及び
図9(a)に示すように、第二金型3の内面に、成形基材2の外面に施したい所望の模様に応じた凸部30が、
図10(c)に示すコーティングギャップ4に応じた高さHに形成されており、
図10(c)に示すように、成形基材2が装着された第一金型1を第二金型3に成形基材2を覆うように突き当てたとき凸部30が成形基材2の外面に接し、
図10(d)に示すように、この状態でコーティングギャップ4に液状コーティング剤5(塗料等)を注入することで、
図11(e)に示すように、凸部30が接した部分以外の成形基材2の外面に液状コーティング剤5(塗料等)を付着させ、
図11(f)及び
図12に示すように、成形基材2の外面に液状コーティング剤5(塗料等)によって所望の模様の部分31を除いてコーティング(塗装)を施して塗膜27を形成する点にある。
【0025】
以下、第1実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型について詳述する。
【0026】
(金型内コーティング成形品用金型)
図1(a)、
図1(b)、
図2に、本発明の第1実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型の一例を示す。この金型は、凸状の成形コア9及び塗装コア10が形成された下側の第一金型1と、凹状の成形キャビティ11及び塗装キャビティ12が形成された上側の第二金型3とから構成されており、成形コア9及び成形キャビティ11からなる成形金型部13と、塗装コア10及び塗装キャビティ12からなる塗装金型部14とを備えている。なお、第一金型1と第二金型3とは、上下配置(竪型)に限られず、左右配置(横型)でもよく、第一金型1を第二金型3に突き当てて型締めし、離間させて成形品を取り出すアクチュエータには、油圧や電動など様々な機構が用いられる。
【0027】
図2の状態から第一金型1を第二金型3に近付け、
図1(b)に示すように第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てたとき、成形コア9が成形キャビティ11に差し込まれてこれらの間に成形基材2を成形するための成形ギャップ15が形成され、これと同時に塗装コア10が塗装キャビティ12に差し込まれ、後述するように塗装コア10に装着された成形基材2と塗装キャビティ12との間にコーティングギャップ4(
図10(c)参照)が形成される。ここで、成形コア9及び成形キャビティ11が成形金型部13を構成し、塗装コア10及び塗装キャビティ12が塗装金型部14を構成することになる。
【0028】
図2に示すように、第二金型3の内部には、成形キャビティ11と塗装キャビティ12との中間に位置してスプルー通路16が上下方向に形成されており、第二金型3の上面には、スプルー通路16に成形基材を成形するための樹脂を注入する樹脂注入口17が形成されている。第二金型3の突き当て面7には、一端がスプルー通路16に接続され他端がゲート18を介して成形キャビティ11に接続されたランナー溝部19が形成されており、
図1(b)に示すように、第二金型3の突き当て面7に第一金型1の突き当て面6が突き当てられたとき、ランナー溝部19が第一金型1の突き当て面6で覆われてランナー通路20となる。また、第二金型3の内部には、一端がゲート21を介して塗装キャビティ12に接続された塗料通路22が形成されており、第二金型3の側面には、塗料通路22の他端に塗料5(液状コーティング剤)を注入するための塗料注入口23が形成されている。
【0029】
(成形基材2を成形する樹脂)
図1(b)に示すように、成形金型部13において成形基材2を成形するために樹脂注入口17に注入される樹脂には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の何れも使用できる。
【0030】
樹脂注入口17に注入される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニルポリマーといったポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール等の結晶性汎用樹脂、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール等の結晶性エンジニアリングプラスチック、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、PMMA樹脂等の非晶性汎用樹脂、ポリカーボネート、変性PPO、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド等の非晶性エンジニアリングプラスチック、その他、ポリスチレン樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらは混合して用いることも可能である。また、熱可塑性を維持する範囲で上述した各種の熱可塑性樹脂に他の成分、例えば、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を混合したものを用いることもできる。更に、これらの各種材料にカーボン繊維やガラス繊維等の各種繊維を添加した複合材料を用いることも可能である。
【0031】
また、樹脂注入口17に注入される熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等をマトリックスとするバルクモールディング コンポウンド(BMC)、タフモールディング コンポウンド(TMC)と呼ばれる成形用コンポウンドが挙げられる。
【0032】
(液状コーティング剤5としての塗料)
図10(d)に示すように、塗装金型部14において、成形基材2の外面をコーティングするため塗料注入口23に注入される液状コーティング剤5には、例えば塗料5が用いられ、塗料5には一例として熱硬化塗料が用いられる。以下、液状コーティング剤5の概念には、塗料5、熱硬化塗料5が含まれる。熱硬化塗料5は、塗料注入口23から第二金型3の塗装キャビティ12の内面と成形基材2の外面との間に形成されたコーティングギャップ4に注入された後、第二金型3を熱源とした熱反応によって硬化し、成形基材2の外面に付着される。コーティングギャップ4内の熱硬化塗料5を加熱硬化させるため、第二金型3にはヒーターが内蔵されている。ヒーターとしては、例えば、ニクロム線等の電気抵抗線を第二金型3の塗装キャビティ12の近傍に配設したものが考えられる。また、加熱方法として、温度制御性が求められ、設定温度が120℃以下の場合は水温調、120℃を越える場合は油温調等が用いられる。
【0033】
塗料注入口23に注入される塗料5としては、アルキド樹脂系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、ビニル樹脂系等の熱硬化型塗料の他、エポキシアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、これら各種オリゴマーとエチレン性不飽和モノマーからなるラジカル重合型塗料、アルキド樹脂系、エポキシ樹脂エステル系、脂肪酸変性ウレタン樹脂系等の酸化重合型塗料、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、不飽和ポリエステル系等の多液反応型塗料、或いはこれらの塗料に金属粉や顔料、紫外線吸収剤等を添加した機能性塗料、フッ素樹脂系ラッカー、シリコン樹脂系ラッカー、シラン系ハードコート剤等を用いることができる。
【0034】
(凸部30)
図2のIV-IV線矢視図である
図4に示すように、第二金型3の塗装キャビティ12の内面には、成形基材2の外面に施したい所望の模様に応じた凸部30が、コーティングギャップ4(
図10(c)参照)に応じた高さH(
図9(a)参照)に形成されている。コーティングギャップ4とは、
図10(c)に示すように、塗装コア10に成形基材2が装着された第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てたとき、成形基材2の外面と第二金型3の塗装キャビティ12の内面との間に形成される隙間である。このコーティングギャップ4が、液状コーティング剤5(塗料)によって成形基材2の外面に形成されるコーティング(塗装)の膜厚に相当する。なお、
図2に示す塗装キャビティ12は成形キャビティ11よりも全体的に一回り大きく形成されており、
図10(c)に示すコーティングギャップ4は、成形基材2の上面と塗装キャビティ12の天井面との間のみならず、成形基材2の側面と塗装キャビティ12の側面との間にも形成される。
【0035】
図9(b)に示すように、塗装コア10に成形基材2が装着された第一金型1を上昇させ、
図10(c)に示すように、第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てたとき、第一金型1の塗装コア10に装着された成形基材2が第二金型3の塗装キャビティ12に差し入れられ、成形基材2の上面の一部(所望の模様を施す部分)が塗装キャビティ12の天井面に形成された凸部30に接する。この状態で、
図10(d)に示すように、コーティングギャップ4に液状コーティング剤5(塗料)を注入すると、凸部30が接した部分以外の成形基材2の外面に液状コーティング剤5(塗料)が付着し、成形基材2の外面に液状コーティング剤5(塗料)によって所望の模様の部分を除いてコーティングが施される。すなわち、凸部30は、液状コーティング剤5(塗料)を成形基材2の外面に付着させないためのマスキング部材として機能する。
【0036】
図4に示すように、凸部30の形状は、本実施形態においては星形となっているが、これに限らず、丸形、三角形、四角形、文字、アルファベット、記号など、成形基材2の外面に施したい所望の模様に応じた様々な形状であってもよい。なお、凸部30の形状の一部又は全部がリング状(四角リング状、三角リング状等の閉じた形状)となっている場合、リングの外側から内側に液状コーティング剤5(塗料)を導くことができずリングの内側をコーティングできないため、リングの一部を切除してその除去部分を通じて液状コーティング剤5(塗料)をリングの外側から内側に導いてリングの内側をコーティングするようにする。但し、塗料5(熱硬化塗料)が熱硬化樹脂であれば、その粘度は極めて低いので、上記リングの一部を除去する幅が0.1mm以下で足り、肉眼で観察できる外観を損なうものではない。
【0037】
また、
図9(a)に示す凸部30の高さHは、
図10(c)に示すコーティングギャップ4と等しい高さでもよいが、コーティングギャップ4を僅かに上回る高さでもよい。凸部30の高さHがコーティングギャップ4を僅かに上回る高さの場合、
図10(c)に示すように、第一金型1の突き当て面6が第二金型3の突き当て面7に突き当てられたとき、凸部30の下面が成形基材2の上面に押し付けられて成形基材2(樹脂製)が僅かに弾性変形し、凸部30の下面エッジ部が成形基材2に僅かに食い込む。この結果、凸部30によるマスキング機能が強化され、
図10(d)に示すように、コーティングギャップ4に液状コーティング剤5(塗料)を注入したとき、液状コーティング剤5(塗料)が意に反して凸部30の下面と成形基材2の上面との間に浸入し、マスキング不良となる事態を防止できる。例えば、コーティングギャップ4が50μmの場合、凸部30の高さは、コーティングギャップ4と等しい50μmでもよいが、コーティングギャップ4を10~20%上回る55~60μmとしてもよい。
【0038】
図4に示すように、第二金型3の突き当て面7に形成される塗装キャビティ12、および塗装キャビティ12に形成される凸部30の加工方法としては、放電加工、エンドミルによるマシニング加工等が考えられ、いずれの方法でも良い。市販されている直径0.2mm、刃先R=0.05mmのスクエアエンドミルを用いたマシニング加工であれば、液状コーティング剤5(塗料)の膜厚(即ちコーティングギャップ4)が50μm以上であれば段差加工も0.05mm以上となるため、シャープエッジの効いたデザイン表現が出来、肉眼で認識出来ないレベルまでの微細な形状の加工が可能である。膜厚が大きい程、金型加工が容易となると共に意匠形状のコントラストがより鮮明となり、製造上のマージンが増えて品質は安定して生産することが出来る。
【0039】
(各工程について)
以下、第一実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法の工程を説明する。
【0040】
先ず、
図1(a)、
図1(b)に示すように、第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てた状態で、樹脂注入口17から樹脂(本実施例では熱可塑性樹脂)を注入する。樹脂は、スプルー通路16、ランナー通路20及びゲート18を通り、成形コア9と成形キャビティ11との間に形成された成形ギャップ15に注入され、成形ギャップ15内において冷却固化して成形基材2となる。
【0041】
図2に示すように、第一金型1を第二金型3から離間させ、成形コア9に装着された状態となっている成形基材2を図示しない突き出し機構(イジェクト機構)で離型させ、同様にスプルー25及びランナー26を図示しない突き出し機構(イジェクト機構)で離型させる。なお、ランナー26と成形基材2とはゲート18の部分にて切り離される。
【0042】
図3(a)、
図3(b)に示すように、成形基材2は、本実施形態においては頂面が蓋され底面が開放された円筒体となっているが、この形状に限られず、底面が開放された直方体や立方体等でもよく、底面が開口されていなくてもよい。その後、
図2に矢印Xで示すように、成形コア9から離型された成形基材2を塗装コア10に装着する。この成形基材2の付け替えは、図示しないロボットアーム等によって行われる。
【0043】
図5、
図9(a)は、成形基材2を第一金型1の塗装コア10に装着する直前の様子を示す説明図であり、
図6、
図9(b)は、成形基材2を第一金型1の塗装コア10に装着した様子を示す説明図である。なお、成形基材2を、塗装コア10内に設けられた図示しない吸引機能によって塗装コア10に吸着するようにしてもよい。
【0044】
次に、
図7、
図10(c)に示すように、第一金型1を移動させて第二金型3に近付け、第一金型の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てる。この突き当てが完了したとき、第一金型1の塗装コア10に装着された成形基材2の外面と第二金型3の塗装キャビティ12の内面との間に、所定のコーティングギャップ4(例えば50μm)が形成され、同時に塗装キャビティ12の天井面に形成された凸部30の下面が塗装コア10に装着された成形基材2の上面に接し、その部分がマスキングされる。
【0045】
すなわち、
図1(b)、
図2に示すように、塗装キャビティ12は、成形キャビティ11よりも僅かに大きく形成されており、成形キャビティ11と成形コア9との間で成形された成形基材2を塗装コア10に装着し、塗装コア10に装着された成形基材2に塗装キャビティ12を被せて突き当て面6、7を突き当てたとき、
図10(c)に示すように、成形基材2の外面と塗装キャビティ12の内面との間には、所定のコーティングギャップ4が形成される。コーティングギャップ4は、成形基材2の上面と塗装キャビティ12の天井面との間のみならず、成形基材2の側面と塗装キャビティ12の側面との間にも形成される。
【0046】
このようにコーティングギャップ4が形成されると同時に、
図10(c)に示すように、塗装キャビティ12の天井面に形成された凸部30の下面が、塗装コア10に装着された成形基材2の上面に接し、接した部分がマスキングされる。ここで、
図9(a)に示す凸部30の高さHを
図10(c)に示すコーティングギャップ4と等しい高さとすると、凸部30が成形基材2に接した状態でマスキングされ、凸部30の高さHを
図10(c)に示すコーティングギャップ4を僅かに上回る高さとすると、凸部30が成形基材2に僅かに押し付けられ、凸部30の下面エッジ部が成形基材2に僅かに食い込んだ状態でマスキングされ、マスキング効果が高まる。
【0047】
次に、
図10(d)に示すように、塗料注入口23から液状コーティング剤5(例えば熱硬化性の塗料5)を注入する。この塗料5は、塗料通路22及びゲート21を通ってコーティングギャップ4に注入され、コーティングギャップ4内において硬化して成形基材2の外面に付着(コーティング)される。このとき、成形基材2の外面において、凸部30が接して或いは僅かに食い込んだ状態でマスキングされている部分には塗料5がコーティングされない。よって、成形基材2の外面には、凸部30によってマスキングされている部分を除いて塗料5がコーティングされる。
【0048】
コーティングギャップ4内の塗料5が硬化した後、
図11(e)に示すように、第一金型1を下降させ第二金型3から離間させる。このとき、成形基材2の外面に凸部30によってマスキングされていた部分31を除いて塗料5がコーティングされて塗膜27が形成された金型内コーティング成形品28(製品)は、塗装コア10に嵌まり込んだ状態となっている。
図11(f)に示すように、金型内コーティング成形品28を、図示しない突き出し機構(イジェクト機構)によって塗装コア10から離型させる。
【0049】
図12に、成形基材2の外面に凸部30によってマスキングされていた部分31を除いて塗膜27が形成された金型内コーティング成形品28(製品)を示す。図示するように、頂面が蓋され底面が開放された円筒体からなる成形基材2の外面には、凸部30によってマスキングされていた部分31を除き、コーティング剤(塗料5)の塗膜27が形成されている。塗膜27の厚さは、
図10(c)に示すコーティングギャップ4の間隔に応じた厚さとなる。
【0050】
(作用・効果)
第1実施形態に係る金型内コーティング成形品28の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型によれば、次のような効果を発揮できる。
【0051】
本実施形態においては、
図9(a)、
図9(b)に示すように、第一金型1の塗装コア10に成形基材2を装着し、
図10(c)に示すように、第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てて成形基材2を塗装キャビティ12によって覆い、塗装キャビティ12の内面と成形基材2の外面との間にコーティングギャップ4を形成し、
図10(d)に示すように、コーティングギャップ4に液状コーティング剤5(塗料)を注入して成形基材2の外面に付着させるようにした金型内コーティング成形品28の製造方法が前提となる。
【0052】
本実施形態の特徴とするところは、
図4に示すように、第二金型3の塗装キャビティ12の内面に、成形基材2の外面に施したい所望の模様(本実施形態においては星形)に応じた凸部30が、
図10(c)に示すコーティングギャップ4に応じた高さに形成されている点にある。これにより、
図10(c)に示すように、第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てて、塗装キャビティ12の内面と成形基材2の外面との間にコーティングギャップ4を形成したとき、凸部30が成形基材2の外面に接した状態となり、凸部30によって成形基材2の外面の一部(所望の模様(本実施形態においては星形)を施したい部分)がマスキングされる。ここで、
図9(a)に示す凸部30の高さHを、
図10(c)に示すコーティングギャップ4を僅かに上回る高さとすることで、第一金型の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てたとき、凸部30が成形基材2に押し付けられて僅かに食い込むため、マスキング効果が高まる。
【0053】
図10(c)に示すように、凸部30が成形基材2に接した或いは押し付けられた状態で、
図10(d)に示すように、コーティングギャップ4に液状コーティング剤5(塗料)を注入することで、凸部30が接した部分以外の成形基材2の外面に液状コーティング剤5(塗料)が付着される。すなわち、第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てることでコーティングギャップ4の形成と凸部30によるマスキングとを同時に行い、凸部30によってマスキングされた部分(所望の模様(本実施形態においては星形)の部分31)を除いて、成形基材2の外面に液状コーティング剤5(塗料)によってコーティングを施すようにしたので、成形基材2の外面を塗装する工程と成形基材2の外面に所望の模様を形成する工程とを同時に行うことができ、製造時間を短縮でき、コストダウンを推進できる。
【0054】
なお、
図1(b)に示す樹脂注入口17に注入される樹脂(成形基材2の材料となる樹脂)に光が透過する乳白色、透明、半透明、有色透明の材料を用い、
図10(d)に示す塗料注入口23に注入される液状コーティング剤5(成形基材2の外面を所望の模様の部分31を除いて付着される液状コーティング剤)に光が透過しない有色の塗料を用いてもよい。これにより、
図12(a)に示す金型内コーティング成形品28は、照明が少なく暗い室内、車内、夜間などで使用される機器において、主電源が入ると裏側にあるライト(図示せず)が点灯し、白抜きの範囲(白色の模様(星形の絵柄)の部分31)が発光するため、周囲が暗い環境でも使用できるスイッチ部品に流用できる。
【0055】
また、本実施形態によれば、従来例(特許文献2、3)のように、成形基材2の外面の全領域に施された塗装のうち所望の模様の部分をレーザー光線で除去してないため、レーザー加工設備を導入するイニシャルコストが掛からない。また、レーザー光線で所望の模様の部分の塗膜を除去する場合、生産性を上げるためには塗膜27を極力薄く(例えば50μm以下)する必要があったが、本発明ではレーザー光線で塗膜27(
図12参照)を除去しないので塗膜27を薄くする必要はなく、塗膜27を薄く管理するためのコストが掛からない。本発明は塗膜27が或る程度厚くしても成立し、厚くすることで経年使用時の塗膜27の耐久性が向上する。
【0056】
(その他)
図2に示すように、成形コア9から取り出した成形基材2を塗装コア10に取り付けた後、
図10(c)に示すように、第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てて、塗装コア10に取り付けられた成形基材2と塗装キャビティ12との間にコーティングギャップ4を形成すると共に凸部30によってマスキングをしたとき、
図1(b)に示すように、成形コア9が成形キャビティ11に差し入れられてそれらの間に成形ギャップ15が形成される。よって、
図10(d)に示すように、液状コーティング剤(塗料5)をコーティングギャップ4に注入する工程と、
図1(b)に示すように、樹脂を成形ギャップ15に注入する工程とを並行して行うことで、成形基材2の成形と成形基材2へのマスキング部分を除いた塗料5のコーティングとを同時に行うことができ、製造効率が向上する。
【0057】
すなわち、
図1(b)の右側の塗装金型部14にて塗装された成形基材2をイジェクトし、左側の成形金型部13にて成形された成形基材2を右側の塗装コア10に付け替えた後、第一金型1と第二金型3とを突き合わせ、右側の塗装金型部14にて成形基材2に凸部30によるマスキング部分を除いて液状コーティング剤(塗料5)をコーティングして塗膜27を形成すると共に、左側の成形金型部13にて次の成形基材2を成形するという工程を繰り返すことで、成形基材2の成形と成形基材2への凸部30によるマスキング部分を除いたコーティングとを一つの金型(対となる第一金型1及び第二金型3)で同時に行うことができ、製造効率が向上する。
【0058】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を
図13から
図16を用いて説明する。第2実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法の前提は、基本的には第1実施形態と同様であり、
図13(a)、
図13(b)に示すように射出成形によって得られた成形基材2aを、
図14(c)に示すように第一金型1に装着し、成形基材2aが装着された第一金型1を
図14(d)に示すように第二金型3に成形基材2aを覆うように突き当てて、第二金型3の内面と成形基材2aの外面との間にコーティングギャップ4aを形成し、
図15(e)に示すようにコーティングギャップ4aに液状コーティング剤5(塗料等)を注入し、
図15(f)に示すように成形基材2aの外面に付着させた金型内コーティング成形品28aの製造方法が前提となる。
【0059】
第2実施形態の第1実施形態との相違点は、
図9(b)に示すように第1実施形態において第二金型3の内面に形成されていた凸部30を廃止し、代わりに
図14(c)に示すように成形基材2aの外面に凸部30aを形成した点にある。すなわち、第2実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法においては、
図13(a)、
図13(b)に示すように、成形基材2aの外面に、成形基材2aの外面に施したい所望の模様に応じた凸部30aが、
図14(d)に示すコーティングギャップ4aに応じた高さHaに形成されており、
図14(c)、
図14(d)に示すように、成形基材2aが装着された第一金型1を第二金型3に成形基材2aを覆うように突き当てたとき、成形基材2aの外面に形成された凸部30aが第二金型3の内面に接し、
図15(e)に示すように、この状態でコーティングギャップ4aに液状コーティング剤5(塗料等)を注入することで凸部30aが第二金型3の内面に接した部分以外の成形基材2aの外面に液状コーティング剤5を付着させ、
図15(f)に示すように、成形基材2aの外面に液状コーティング剤5によって所望の模様の部分(凸部30a)を除いてコーティング(塗装)を施して塗膜27を形成し、金型内コーティング成形品28a(
図16参照)を製造する。
【0060】
第2実施形態に係る金型内コーティング成形品28aの製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型は、第1実施形態に係る金型内コーティング成形品28(
図12参照)の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型と同様の構成要素が多いため、同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、相違点について説明する。
【0061】
図13(a)、
図13(b)に示すように、成形キャビティ11の天井面には、成形基材2aの頂面に凸部30aを成形するための凹部32が形成されている。凹部32によって成形される凸部30aは、成形基材2aの外面に施したい所望の模様に応じた形状であり、本実施形態においては
図16に示すように星形となっているが、これに限らず、丸形、三角形、四角形、文字、アルファベット、記号など、所望の模様に応じた様々な形状であってもよい。他方、凹部32は、
図13(a)、
図13(b)に示すように、その凸部30aの凸凹を反転して形成されている。
【0062】
図13(a)に示すように、凹部32の最深部の位置(竪型締の場合は高さ)は、一点鎖線で示すように、塗装キャビティ12の天井面と一致している。これにより、
図13(b)に示すように、成形基材2aを成形コア9から塗装コア10に付け替え、
図14(c)、
図14(d)に示すように、第一金型1を第二金型3に突き当てたとき、塗装コア10に装着された成形基材2aの凸部30aの頂面が塗装キャビティ12の天井面に接し、接した部分がマスキングされる。なお、
図13(a)において、凹部32の最深部の位置を塗装キャビティ12の天井面より僅かに高い位置とすることで、
図14(c)、
図14(d)に示すように、第一金型1を第二金型3に突き当てたとき、塗装コア10に装着された成形基材2aの凸部30aが塗装キャビティ12の天井面に押されて僅かに圧縮され、その復元力によって凸部30aが塗装キャビティ12の天井面に押し付けられるため、マスキング効果が高まる。
【0063】
このように凸部30aが塗装キャビティ12の天井面に接し或いは押し付けられた状態で、
図15(e)に示すように、塗料注入口23から液状コーティング剤5(塗料等)がコーティングギャップ4aに注入される。すると、液状コーティング剤5は、凸部30aが塗装キャビティ12の天井面に接し或いは押し付けられてマスキングされている部分を除き、成形基材2aの外面に付着する。その後、
図15(f)に示すように、第一金型1を第二金型3から離間させ、塗装コア10に嵌まっている金型内コーティング成形品28a(製品)を、塗装コア10に設けられた図示しない突き出し機構(イジェクト機構)によって脱型させる。
【0064】
図16(a)、
図16(b)に第2実施形態によって製造された金型内コーティング成形品28a(製品)を示す。図示するように、頂面が蓋され底面が開放された円筒体からなる成形基材2aの外面には、型締時に塗装キャビティ12の天井面に接し或いは押し付けられていた凸部30aの部分を除き、コーティング剤(塗料5)の塗膜27が形成されている。
図14(c)に示す凸部30aの高さHaが、
図14(d)に示すコーティングギャップ4aに応じた高さに形成されているので、塗膜27の表面と凸部30aの頂面とは面一となり、この点が第1実施形態の製品(
図12参照)と相違する。塗膜27の厚さは、
図14(d)に示すコーティングギャップ4aの間隔に応じた厚さとなる。
【0065】
第2実施形態は、凸部30aによってマスキングする側とされる側が第1実施形態とは逆になったものであり、基本的な技術思想は第1実施形態と同様である。よって、第2実施形態の作用・効果は、第1実施形態と基本的に同様であり、説明を省略する。
【0066】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。例えば、マスキングする側とされる側が逆となっている第1実施形態と第2実施形態とを重畳的に備えた実施形態も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、一対の金型に挟まれた成形基材の外面と金型の内面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤(塗料)を注入して成形基材の外面に付着させるようにした金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型において、成形基材の外面の所望の箇所に液状コーティング剤を付着させないようにして所望の模様を形成するようにした金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型に利用できる。
【符号の説明】
【0068】
1 第一金型
2 成形基材
2a 成形基材(第2実施形態)
3 第二金型
4 コーティングギャップ
4a コーティングギャップ(第2実施形態)
5 液状コーティング剤(例えば塗料)
6 第一金型の突き当て面
7 第二金型の突き当て面
9 成形コア
10 塗装コア
11 成形キャビティ
12 塗装キャビティ
27 塗膜
28 金型内コーティング成形品
28a 金型内コーティング成形品(第2実施形態)
30 凸部
30a 凸部(第2実施形態)
31 所望の模様の部分
H 凸部30の高さ
Ha 凸部30の高さ(第2実施形態)