(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047257
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】基板処理方法、基板処理装置及び基板処理液
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
H01L21/304 651B
H01L21/304 648G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152781
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】國枝 省吾
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 悠太
(72)【発明者】
【氏名】塙 洋祐
【テーマコード(参考)】
5F157
【Fターム(参考)】
5F157AA09
5F157BF22
5F157BF33
5F157BF48
5F157BF52
5F157BF58
5F157BF59
5F157BF93
5F157DA21
5F157DB32
5F157DB33
(57)【要約】
【課題】基板の表面に形成されたパターンの倒壊を一層防止して、昇華乾燥を行うことが可能な基板処理方法、基板処理装置及び基板処理液を提供する。
【解決手段】本発明に係る基板処理方法は、基板Wのパターン形成面を処理する基板処理方法であって、前記パターン形成面に、昇華性物質及び溶媒を含む基板処理液を供給する供給工程と、前記供給工程で前記パターン形成面に供給された前記基板処理液の液膜中の溶媒を蒸発させて前記昇華性物質を析出させ、前記昇華性物質を含む固化膜を形成する固化工程と、前記固化膜を昇華させて、前記固化膜を除去する昇華工程と、を含み、前記昇華性物質が、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び3-トリフルオロメチル安息香酸の少なくとも何れかを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板のパターン形成面を処理する基板処理方法であって、
前記パターン形成面に、昇華性物質及び溶媒を含む基板処理液を供給する供給工程と、
前記供給工程で前記パターン形成面に供給された前記基板処理液の液膜中の溶媒を蒸発させて前記昇華性物質を析出させ、前記昇華性物質を含む固化膜を形成する固化工程と、
前記固化膜を昇華させて、前記固化膜を除去する昇華工程と、
を含み、
前記昇華性物質が、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び3-トリフルオロメチル安息香酸の少なくとも何れかを含む、基板処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の基板処理方法であって、
前記基板を、前記パターン形成面の垂直方向と平行な回転軸線まわりに第1回転速度で回転させることにより、前記パターン形成面上に前記供給工程で供給された基板処理液の液膜を薄膜化する薄膜化工程をさらに含み、
前記固化工程は、前記第1回転速度よりも大きい第2回転速度で前記基板を前記回転軸線まわりに回転させて、前記液膜中の溶媒を蒸発させる工程である、基板処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載の基板処理方法であって、
前記溶媒として、前記昇華性物質よりも常温における蒸気圧が大きいものを用いる、基板処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載の基板処理方法であって、
前記溶媒が、メタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンの少なくとも何れか1種である、基板処理方法。
【請求項5】
基板のパターン形成面を処理する基板処理装置であって、
前記基板を、前記パターン形成面の垂直方向と平行な回転軸線まわりに回転可能に保持する基板保持部と、
前記基板保持部により保持された前記基板のパターン形成面に、昇華性物質及び溶媒を含む基板処理液を供給する供給部と、
前記昇華性物質を含む固化膜を昇華させて、前記固化膜を除去する昇華部と、
を備え、
前記基板保持部は、
前記供給部が前記パターン形成面に供給した前記基板処理液の液膜中の溶媒を蒸発させて前記昇華性物質を析出させ、前記昇華性物質を含む固化膜を形成するものであり、
前記供給部が供給する前記基板処理液における前記昇華性物質が、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び3-トリフルオロメチル安息香酸の少なくとも何れかを含む、基板処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の基板処理装置であって、
前記基板保持部は、
前記基板を前記回転軸線まわりに回転させることにより、前記供給部が前記パターン形成面に供給した前記基板処理液の液膜を薄膜化し、
前記基板処理液の液膜を薄膜化させる際の第1回転速度よりも速い第2回転速度で、前記基板を前記回転軸線まわりに回転させて、前記液膜中の溶媒を蒸発させる、基板処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の基板処理装置であって、
前記溶媒として、前記昇華性物質よりも常温における蒸気圧が大きいものを用いる、基板処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の基板処理装置であって、
前記溶媒が、メタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンの少なくとも何れか1種である、基板処理装置。
【請求項9】
パターン形成面を有する基板上の液体の除去に用いる基板処理液であって、
昇華性物質と、
溶媒と、
を含み、
前記昇華性物質が、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び3-トリフルオロメチル安息香酸の少なくとも何れかを含む、基板処理液。
【請求項10】
請求項9に記載の基板処理液であって、
前記溶媒が、前記昇華性物質よりも常温における蒸気圧が大きいものである、基板処理液。
【請求項11】
請求項10に記載の基板処理液であって、
前記溶媒が、メタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンの少なくとも何れか1種である、基板処理液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板等の各種基板(以下、「基板」という。)に付着した液体を基板から除去する基板処理方法、基板処理装置及び基板処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板等の基板に形成されるパターンの微細化に伴い、凹凸を有するパターンの凸部におけるアスペクト比(パターン凸部における高さと幅の比)が大きくなってきている。このため、乾燥処理の際、パターンの凹部に入り込んだ洗浄液やリンス液等の液体と、液体に接する気体との境界面に作用する表面張力が、パターン中の隣接する凸部同士を引き寄せて倒壊させる、いわゆるパターン倒壊の問題がある。
【0003】
この様なパターンの倒壊の防止を目的とした乾燥技術として、例えば、特許文献1には、表面に凹凸のパターンが形成された基板上の液体を除去し、基板を乾燥させる基板乾燥方法が開示されている。この基板乾燥方法によれば、基板に昇華性物質の溶液を供給して、パターンの凹部内に溶液を充填し、溶液中の溶媒を乾燥させて、パターンの凹部内を固体の状態の前記昇華性物質で満たし、基板を昇華性物質の昇華温度より高い温度に加熱して、昇華性物質を基板から除去することが行われる。これにより、特許文献1では、基板上の液体の表面張力に起因して生じ得るパターンの凸状部を倒壊させようとする応力が、パターンの凸状部に作用するのを抑制し、パターン倒壊を防止することができるとされている。
【0004】
また、特許文献2には、微細なパターンが形成された半導体基板の表面の昇華乾燥を行うにあたって、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸等の析出物質を脂肪族炭化水素等の溶媒に溶解させた溶液を用いる製造方法が開示されている。この製造方法によれば、液体処理後の半導体基板の乾燥時に、パターン倒壊を抑制することが可能とされている。
【0005】
また、特許文献3及び4には、特許文献1及び2に開示の昇華乾燥方法と比較して、さらに良好にパターンの倒壊を抑制することが可能な昇華乾燥技術が開示されている。これらの特許文献によれば、昇華性物質としてのシクロヘキサノンオキシムとイソプロピルアルコールとを含む基板処理液を用いることにより、従来の基板処理液と比べ、部分的又は局所的な領域でのパターンの倒壊を良好に抑制することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-243869号公報
【特許文献2】特開2017-76817号公報
【特許文献3】特開2021-9988号公報
【特許文献4】特開2021-10002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前述のような昇華乾燥方法を用いたとしても、パターンの機械的強度が極めて小さい場合には、パターンの倒壊を十分に防止することができないという問題がある。
【0008】
本発明は、前記課題を鑑みなされたものであり、基板の表面に形成されたパターンの倒壊を一層防止して、昇華乾燥を行うことが可能な基板処理方法、基板処理装置及び基板処理液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る基板処理方法は、前記の課題を解決するために、前記パターン形成面に、昇華性物質及び溶媒を含む基板処理液を供給する供給工程と、前記供給工程で前記パターン形成面に供給された前記基板処理液の液膜中の溶媒を蒸発させて前記昇華性物質を析出させ、前記昇華性物質を含む固化膜を形成する固化工程と、前記固化膜を昇華させて、前記固化膜を除去する昇華工程と、を含み、前記昇華性物質が、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び3-トリフルオロメチル安息香酸の少なくとも何れかを含むことを特徴とする。
【0010】
前記構成の基板処理方法によれば、例えば、基板のパターン形成面上に液体が存在する場合に、昇華乾燥の原理により、パターンの倒壊を防止しつつ当該液体の除去を可能にする。具体的には、供給工程でパターン形成面に基板処理液を供給した後、固化工程で基板処理液の液膜中の溶媒を蒸発させることにより昇華性物質を析出させ、固化膜を形成する。続いて、固化膜を昇華させることにより、当該固化膜を除去する。ここで、前記の構成においては、基板処理液として、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び3-トリフルオロメチル安息香酸の少なくとも何れかの昇華性物質を含むものを用いる。これにより、従来の昇華性物質を用いた基板処理液と比べ、機械的強度が極めて小さいパターンの場合でも、パターンの倒壊を良好に抑制し昇華乾燥を行うことができる。
【0011】
前記の構成に於いて、前記基板を、前記パターン形成面の垂直方向と平行な回転軸線まわりに第1回転速度で回転させることにより、前記パターン形成面上に前記供給工程で供給された基板処理液の液膜を薄膜化する薄膜化工程をさらに含み、前記固化工程は、前記第1回転速度よりも大きい第2回転速度で前記基板を前記回転軸線まわりに回転させて、前記液膜中の溶媒を蒸発させる工程であることが好ましい。
【0012】
また前記の構成に於いては、前記溶媒として、前記昇華性物質よりも常温における蒸気圧が大きいものを用いることが好ましい。これにより、溶媒の蒸発による2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等の昇華性物質の析出を容易にし、昇華性物質を含む固化膜の形成を良好に行うことができる。
【0013】
さらに前記の構成に於いては、前記溶媒が、メタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンの少なくとも何れか1種であることが好ましい。
【0014】
また本発明に係る基板処理装置は、前記の課題を解決するために、基板のパターン形成面を処理する基板処理装置であって、前記基板を、前記パターン形成面の垂直方向と平行な回転軸線まわりに回転可能に保持する基板保持部と、前記基板保持部により保持された前記基板のパターン形成面に、昇華性物質及び溶媒を含む基板処理液を供給する供給部と、前記昇華性物質を含む固化膜を昇華させて、前記固化膜を除去する昇華部と、を備え、前記基板保持部は、前記供給部が前記パターン形成面に供給した前記基板処理液の液膜中の溶媒を蒸発させて前記昇華性物質を析出させ、前記昇華性物質を含む固化膜を形成するものであり、前記供給部が供給する前記基板処理液における前記昇華性物質が、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び3-トリフルオロメチル安息香酸の少なくとも何れかを含むことを特徴とする。
【0015】
前記構成の基板処理装置によれば、例えば、基板のパターン形成面上に液体が存在する場合に、昇華乾燥の原理により、パターンの倒壊を防止しつつ当該液体の除去を可能にする。具体的には、基板保持部が、基板を、そのパターン形成面の垂直方向と平行な回転軸線まわりに回転可能なように保持する。また、供給部が、基板保持部に保持された基板のパターン形成面に基板処理液を供給する。ここで、基板保持部は、基板を回転させることにより基板処理液の液膜から溶媒を蒸発させる。これにより、昇華性物質を析出させ、固化膜を形成することができる。続いて、昇華部が昇華性物質を含む固化膜を昇華させることにより、当該固化膜を除去することができる。ここで、前記の構成においては、基板処理液として、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び3-トリフルオロメチル安息香酸の少なくとも何れかの昇華性物質を含むものを用いる。これにより、従来の昇華性物質を用いた基板処理液と比べ、機械的強度が極めて小さいパターンの場合でも、パターンの倒壊を良好に抑制し昇華乾燥を行うことができる。
【0016】
前記の構成において、前記基板保持部は、前記基板を前記回転軸線まわりに回転させることにより、前記供給部が前記パターン形成面に供給した前記基板処理液の液膜を薄膜化し、前記基板処理液の液膜を薄膜化させる際の第1回転速度よりも速い第2回転速度で、前記基板を前記回転軸線まわりに回転させて、前記液膜中の溶媒を蒸発させることが好ましい。
【0017】
また前記の構成においては、前記溶媒として、前記昇華性物質よりも常温における蒸気圧が大きいものを用いることが好ましい。これにより、溶媒の蒸発による2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等の昇華性物質の析出を容易にし、昇華性物質を含む固化膜の形成を良好に行うことができる。
【0018】
さらに前記の構成においては、前記溶媒が、メタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンの少なくとも何れか1種であることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る基板処理液は、前記の課題を解決するために、パターン形成面を有する基板上の液体の除去に用いる基板処理液であって、昇華性物質と、溶媒と、を含み、前記昇華性物質が、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び3-トリフルオロメチル安息香酸の少なくとも何れかを含むことを特徴とする。
【0020】
前記の構成によれば、基板処理液に、昇華性物質として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び3-トリフルオロメチル安息香酸の少なくとも何れかを含有させることにより、従来の昇華性物質を用いた基板処理液と比べ、機械的強度が極めて小さいパターンの場合でも、パターンの倒壊を良好に抑制し昇華乾燥を行うことができる。
【0021】
また前記の構成においては、前記溶媒が、前記昇華性物質よりも常温における蒸気圧が大きいものであることが好ましい。これにより、溶媒の蒸発による2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等の昇華性物質の析出を容易にし、昇華性物質を含む固化膜の形成を良好に行うことができる。
【0022】
さらに前記の構成においては、前記溶媒が、メタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンの少なくとも何れか1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来の昇華性物質を含有した基板処理液と比較して、基板のパターン形成面におけるパターンの倒壊を抑制することができ、特に機械的強度が極めて小さいパターンであってもパターンの倒壊を良好に抑制することが可能な基板処理方法、基板処理装置及び基板処理液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る基板処理装置の概略構成を表す平面図である。
【
図2】基板処理装置における処理ユニットの概略を表す説明図である。
【
図3】
図3(a)は基板処理液貯留部の概略構成を示すブロック図であり、同図(b)は当該基板処理液貯留部の具体的構成を示す説明図である。
【
図4】基板処理装置に於ける気体貯留部の概略構成を示すブロック図である。
【
図5】本実施形態に係る基板処理装置を用いた基板処理方法を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図6(a)は、基板処理液供給工程終了後の基板Wの様子を表す模式図であり、同図(b)は、薄膜化工程終了後の基板Wの様子を表す模式図である。
【
図7】
図7(a)は固化工程開始の際の基板Wの様子を表す模式図であり、同図(b)は基板の表面上に固化膜が形成された様子を表す模式図であり、同図(c)は、固化膜が昇華により除去された様子を表す模式図である。
【
図8】溶媒の蒸発により基板W上の基板処理液の液膜(薄膜)の厚さが減少するイメージの一例を示すグラフである。
【
図9】基板処理液におけるシクロヘキサノンオキシムの濃度と、シクロヘキサノンオキシムからなる固化膜の膜厚との間における濃度検量線を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の一形態について、以下に説明する。
本明細書において、「基板」とは、半導体基板、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板等の各種基板をいう。また、本明細書において「パターン形成面」とは、平面状、曲面状又は凹凸状の何れであるかを問わず、基板において、任意の領域に凹凸パターンが形成されている面を意味する。また本明細書において、基板としては一方主面のみに回路パターン等(以下「パターン」と記載する)が形成されているものを例にしている。ここで、パターンが形成されているパターン形成面(主面)を「表面」と称し、その反対側のパターンが形成されていない主面を「裏面」と称する。また、下方に向けられた基板の面を「下面」と称し、上方に向けられた基板の面を「上面」と称する。尚、本実施形態では上面を表面として説明する。
【0026】
(基板処理液)
先ず、本実施形態に係る基板処理液について説明する。
本実施形態の基板処理液は、昇華性物質と溶媒とを含む。本実施形態の基板処理液は、昇華性物質及び溶媒のみからなる場合であってもよい。本実施の形態の基板処理液は、基板のパターン形成面に存在する液体を除去するための乾燥処理において、当該乾燥処理を補助する機能を果たす。尚、本明細書において「昇華性」とは、単体、化合物若しくは混合物が液体を経ずに固体から気体、又は気体から固体へと相転移する特性を有することを意味し、「昇華性物質」とはそのような昇華性を有する物質を意味する。
【0027】
昇華性物質としては、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び3-トリフルオロメチル安息香酸の少なくとも何れか(以下、「2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等」という場合がある。)を含む。昇華性物質は2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールまたは3-トリフルオロメチル安息香酸のみからなる場合であってもよい。
【0028】
2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールは以下の化学式(1)で表される。また、3-トリフルオロメチル安息香酸は以下の化学式(2)で表される。これらの化合物は、本実施形態の基板処理液では昇華性物質として機能することができる。
【0029】
【0030】
2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等は、基板処理液中において、溶媒に溶解した状態で存在するのが好ましい。ここで本明細書において「溶解した状態」とは、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等が、例えば、23℃の溶媒100gに対し、0.1g以上溶解することを意味する。
【0031】
2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等の含有量(濃度)は、例えば、基板のパターン形成面上に形成される基板処理液の固化膜の厚さ等に応じて適宜設定され得る。例えば、昇華性物質として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールを用いる場合、その含有量は、基板処理液の全体積に対し2vol%以上、10vol%以下であることが好ましく、2.3vol%以上、9.2vol%以下であることがより好ましく、3vol%以上、6vol%以下であることが特に好ましい。2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールの含有量を2vol%以上にすることにより、微細かつアスペクト比が大きいパターンを備えた基板に対しても、パターンの倒壊を一層良好に抑制することができる。その一方、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールの含有量を10vol%以下にすることにより、固化膜の膜厚が過度に大きくなり過ぎるのを抑制し、パターンの倒壊率が大きくなり過ぎるのを防止することができる。また、昇華性物質として3-トリフルオロメチル安息香酸を用いる場合、その含有量は、基板処理液の全体積に対し2vol%以上、6vol%以下であることが好ましく、2.2vol%以上、5vol%以下であることがより好ましく、2.2vol%以上、3vol%以下であることが特に好ましい。3-トリフルオロメチル安息香酸の含有量を2vol%以上にすることにより、微細かつアスペクト比が大きいパターンを備えた基板に対しても、パターンの倒壊を一層良好に抑制することができる。その一方、3-トリフルオロメチル安息香酸の含有量を6vol%以下にすることにより、固化膜の膜厚が過度に大きくなり過ぎるのを抑制し、パターンの倒壊率が大きくなり過ぎるのを防止することができる。
【0032】
尚、本実施形態においては、本発明の効果を損なわない範囲で、基板処理液中に2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等以外の公知の昇華性物質が含有されていてもよい。この場合、他の昇華性物質の含有量は、その種類等に応じて適宜設定することができる。
【0033】
溶媒は、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等を溶解させる溶媒として機能することができる。溶媒としては、常温における蒸気圧が、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等の昇華性物質の常温における蒸気圧よりも大きいものが好ましい。これにより、溶媒を蒸発させて2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等の昇華性物質を析出させるのを容易にする。尚、本明細書において「常温」とは、5℃以上35℃以下、10℃以上30℃以下、又は20℃以上25℃以下の温度範囲にあることを意味する。
【0034】
溶媒としては、メタノール、ブタノール及びイソプロピルアルコール等のアルコール類、並びにアセトンの少なくとも何れか1種であることが好ましい。これらの溶媒のうち、本実施形態ではイソプロピルアルコールが好ましい。イソプロピルアルコールの常温における蒸気圧は、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等の常温における蒸気圧よりも大きいからである。
【0035】
本実施形態に係る基板処理液の製造方法は特に限定されず、例えば、常温・大気圧下において、一定の含有量となるように2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等の結晶物を溶媒に添加する方法等が挙げられる。尚、「大気圧下」とは標準大気圧(1気圧、1013hPa)を中心に、0.7気圧以上1.3気圧以下の環境のことを意味する。
【0036】
基板処理液の製造方法においては、溶媒に2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等の結晶物を添加した後に、濾過を行ってもよい。これにより、基板処理液を基板のパターン形成面上に供給して液体の除去に用いた際に、当該パターン形成面上に基板処理液由来の残渣が発生するのを低減又は防止することができる。濾過方法としては特に限定されず、例えば、フィルター濾過等を採用することができる。
【0037】
本実施の形態の基板処理液は、常温での保管が可能である。但し、溶媒の蒸発に起因して2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等の濃度が変化するのを抑制するとの観点からは、低温(例えば、20℃程度)で保管しておくのが好ましい。また、溶媒の蒸発を防ぐためには、基板処理液を密閉暗所にて保管しておくのがより好ましい。低温で保管されている基板処理液を使用する際には、結露による水分の混入を防止するとの観点から、基板処理液の液温を使用温度又は室温等にした後に使用するのが好ましい。
【0038】
(基板処理装置)
<基板処理装置の全体構成>
本実施形態に係る基板処理装置について、
図1に基づき説明する。
図1は、本実施形態に係る基板処理装置100の概略構成を示す平面図である。
本実施形態の基板処理装置100は、基板に付着しているパーティクル等の汚染物質を除去するための洗浄処理(リンス処理を含む。)、及び洗浄処理後の乾燥処理に用いられる枚葉式の基板処理装置である。
【0039】
基板処理装置100は、
図1に示すように、基板Wに種々の処理を施す基板処理部110と、インデクサ部120とを備えている。
【0040】
インデクサ部120は、この基板処理部110に基板Wを供給し、又は基板処理部110から基板Wを回収する機能を有する。インデクサ部120は、具体的には、4つの容器保持部121を備えており、さらに各容器保持部121には、それぞれ1つの容器Cが設けられている。容器Cとしては、例えば、複数の基板Wを密閉した状態で収容するFOUP(Front Opening Unified Pod)、SMIF(Standard Mechanical Interface)ポッド、OC(Open Cassette)などが挙げられる。尚、本実施形態では、容器保持部121が4つの場合を例にして説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。容器保持部121は、複数であればよい。
【0041】
またインデクサ部120は、基板Wを搬送するための第1搬送部122をさらに備える。第1搬送部122は、容器保持部121と基板処理部110との間に設けられる。第1搬送部122は、装置筐体に固定されたベース部122aと、ベース部122aに対し鉛直軸まわりに回動可能に設けられた多関節アーム122bと、多関節アーム122bの先端に取り付けられたハンド122cとを備える。ハンド122cはその上面に基板Wを載置して保持することができる構造となっている。第1搬送部122は、容器保持部121に保持された容器Cにアクセスして、未処理の基板Wを容器Cから取り出したり、処理済みの基板Wを容器Cに収納したりすることができる。
【0042】
基板処理部110は、基板に対し洗浄処理(リンス処理を含む。)や洗浄処理後の乾燥処理を施す。基板処理部110は、平面視においてほぼ中央に配置された第2搬送部111と、この第2搬送部111を取り囲むように配置された4つの処理ユニット1とを備える。第2搬送部111としては、例えば、基板搬送ロボットを用いることができる。第2搬送部111は、各処理ユニット1に対してランダムにアクセスし基板Wを受け渡す。基板処理部110は、処理ユニット1を複数備えることにより、複数の基板Wの並列処理を可能にしている。
【0043】
<処理ユニットの構成>
次に、処理ユニット1の構成について、
図2~
図4に基づき説明する。
図2は、本実施形態に係る基板処理装置の概略を表す説明図である。
図3(a)は基板処理液貯留部の概略構成を示すブロック図であり、同図(b)は基板処理液貯留部の具体的構成を示す説明図である。
図4は、気体貯留部の概略構成を示すブロック図である。尚、
図2に於いては、図示したものの方向関係を明確にするために、適宜XYZ直交座標軸を表示する。同図に於いて、XY平面は水平面を表し、十Z方向は鉛直上向きを表す。
【0044】
処理ユニット1は、基板Wを収容する容器であるチャンバ11と、基板Wを保持する基板保持部51と、基板保持部51に保持される基板Wに基板処理液を供給する処理液供給部(供給部)21と、基板保持部51に保持される基板WにIPA(イソプロピルアルコール)を供給するIPA供給部31と、基板保持部51に保持される基板Wヘ気体を供給する気体供給部41(昇華部)と、基板保持部51に保持される基板Wへ供給され、基板Wの周録部外側へ排出されるIPAや基板処理液等を捕集する飛散防止カップ12と、処理ユニット1の各部の後述するアームをそれぞれ独立に旋回駆動させる旋回駆動部14とを少なくとも備える。
【0045】
基板保持部51は、回転駆動部52と、スピンベース53と、チャックピン54とを備える。スピンベース53は、基板Wよりも若干大きな平面サイズを有している。スピンベース53の周縁部付近には、基板Wの周縁部を把持する複数個のチャックピン54が立設されている。チャックピン54の設置数は特に限定されないが、円形状の基板Wを確実に保持するために、少なくとも3個以上設けることが好ましい。本実施形態では、スピンベース53の周縁部に沿って等間隔に3個配置する。各チャックピン54は、基板Wの周縁部を下方から支持する基板支持ピンと、基板支持ピンに支持された基板Wの外周端面を押圧して基板Wを保持する基板保持ピンとを備えている。
【0046】
尚、本実施形態では、スピンベース53とチャックピン54とで基板Wを保持する場合を例にして説明するが、本発明はこの基板保持方式に限定されるものではない。例えば、基板Wの裏面Wbをスピンチャック等の吸着方式により保持するようにしてもよい。
【0047】
スピンベース53は、回転駆動部52に連結される。回転駆動部52は、制御ユニット13の動作指令により、Z方向に沿った軸Alまわりに回転する。回転駆動部52は、公知のベルト、モータ及び回転軸により構成される。回転駆動部52が軸Alまわりに回転すると、これに伴いスピンベース53の上方でチャックピン54により保持される基板Wは、スピンベース53とともに、基板Wの表面Wfの垂直方向と平行な回転軸線まわり、すなわち軸Alまわりに回転する。
【0048】
次に、処理液供給部(供給部)21について説明する。
処理液供給部21は、基板Wのパターン形成面に基板処理液を供給するユニットである。処理液供給部21は、
図2に示すように、ノズル22と、アーム23と、旋回軸24と、配管25と、バルブ26と、基板処理液貯留部27とを少なくとも備える。
【0049】
ノズル22は、水平に延設されたアーム23の先端部に取り付けられて、スピンベース53の上方に配置される。アーム23の後端部は、Z方向に延設された旋回軸24により軸J1まわりに回転自在に支持され、旋回軸24はチャンバ11内に固設される。アーム23は、旋回軸24を介して旋回駆動部14に連結される。旋回駆動部14は、制御ユニット13と電気的に接続し、制御ユニット13からの動作指令によりアーム23を軸J1まわりに回動させる。アーム23の回動に伴って、ノズル22も移動する。尚、ノズル22は、通常は基板Wの周縁部より外側であって、飛散防止カップ12よりも外側の退避位置に配置される。アーム23が制御ユニット13の動作指令により回動すると、ノズル22は基板Wの表面Wfの中央部(軸A1又はその近傍)の上方位置に配置される。
【0050】
バルブ26は、制御ユニット13と電気的に接続しており、通常は閉栓されている。バルブ26の開閉は、制御ユニット13の動作指令によって制御される。制御ユニット13の動作指令によりバルブ26が開栓すると、基板処理液が配管25を通って、ノズル22から基板Wの表面Wfに供給される。
【0051】
基板処理液貯留部27は、
図3(a)及び
図3(b)に示すように、基板処理液貯留タンク271と、基板処理液貯留タンク271内の基板処理液を撹拌する撹拌部277と、基板処理液貯留タンク271を加圧して基板処理液を送出する加圧部274と、基板処理液貯留タンク271内の基板処理液を加熱する温度調整部272とを少なくとも備える。
【0052】
撹拌部277は、
図3(b)に示すように、基板処理液貯留タンク271内の基板処理液を撹拌する回転部279と、回転部279の回転を制御する撹拌制御部278を備える。撹拌制御部278は制御ユニット13と電気的に接続している。回転部279は、回転軸の先端(
図3(b)における回転部279の下端)にプロペラ状の攪拌翼を備えており、制御ユニット13が撹拌制御部278へ動作指令を行い、回転部279が回転することで、攪拌翼が基板処理液を撹拌し、基板処理液中の昇華性物質の濃度、及び基板処理液の温度を均一化する。
【0053】
また、基板処理液貯留タンク271内の基板処理液の濃度及び温度を均一にする方法としては、前述した方法に限られず、別途循環用のポンプを設けて基板処理液を循環する方法等、公知の方法を用いることができる。
【0054】
加圧部274は、基板処理液貯留タンク271内を加圧する不活性ガスの供給源である窒素ガスタンク275、窒素ガスを加圧するポンプ276及び配管273により構成される。窒素ガスタンク275は配管273により基板処理液貯留タンク271と管路接続されており、また配管273にはポンプ276が介挿されている。
【0055】
温度調整部272は制御ユニット13と電気的に接続しており、制御ユニット13の動作指令により基板処理液貯留タンク271に貯留されている基板処理液を加熱等して温度調整を行うものである。温度調整は、例えば、基板処理液中に溶解している昇華性物質が析出しないように行われる。尚、温度調整の上限としては、IPA等の溶媒の沸点よりも低い温度であることが好ましい。これにより、溶媒の蒸発を防止し、所望の組成の基板処理液が基板Wに供給できなくなるのを防止することができる。また、温度調整部272としては特に限定されず、例えば、抵抗加熱ヒータや、ペルチェ素子、温度調整した水を通した配管等、公知の温度調整機構を用いることができる。
【0056】
IPA供給部31は、
図2に示すように、基板保持部51に保持されている基板WにIPAを供給するユニットである。IPA供給部31は、ノズル32と、アーム33と、旋回軸34と、配管35と、バルブ36と、IPAタンク37とを備える。
【0057】
ノズル32は、水平に延設されたアーム33の先端部に取り付けられて、スピンベース53の上方に配置される。アーム33の後端部は、Z方向に延設された旋回軸34により軸J2まわりに回転自在に支持され、旋回軸34はチャンバ11内に固設される。アーム33は、旋回軸34を介して旋回駆動部14に連結される。旋回駆動部14は、制御ユニット13と電気的に接続し、制御ユニット13からの動作指令によりアーム33を軸J2まわりに回動させる。アーム33の回動に伴って、ノズル32も移動する。尚、ノズル32は、通常は基板Wの周縁部より外側であって、飛散防止カップ12よりも外側の退避位置に配置される。アーム33が制御ユニット13の動作指令により回動すると、ノズル32は基板Wの表面Wfの中央部(軸A1又はその近傍)の上方位置に配置される。
【0058】
バルブ36は、制御ユニット13と電気的に接続しており、通常は閉栓されている。バルブ36の開閉は、制御ユニット13の動作指令によって制御される。制御ユニット13の動作指令によりバルブ36が開栓すると、IPAが配管35を通って、ノズル32から基板Wの表面Wfに供給される。
【0059】
IPAタンク37は、配管35を介して、ノズル32と管路接続しており、配管35の経路途中にはバルブ36が介挿される。IPAタンク37には、IPAが貯留されており、図示しないポンプによりIPAタンク37内のIPAが加圧され、配管35からノズル32方向へIPAが送られる。
【0060】
尚、本実施形態では、IPA供給部31に於いてIPAを用いるが、本発明は、昇華性物質及び脱イオン水(DIW:Deionized Water)に対して溶解性を有する液体であればよく、IPAに限られない。本実施形態に於けるIPAの代替としては、メタノール、エタノール、アセトン、ベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、ヘキサン、デカリン、テトラリン、酢酸、シクロヘキサノール、エーテル、又はハイドロフルオロエーテル(Hydro Fluoro Ether)等が挙げられる。
【0061】
気体供給部41は、
図2に示すように、基板保持部51に保持されている基板Wへ気体を供給するユニットであり、ノズル42と、アーム43と、支持軸44と、配管45と、バルブ46と、気体貯留部47と、遮断板48と、昇降機構49と、遮断板回転機構(図示しない)とを備える。
【0062】
気体貯留部47は、
図4に示すように、気体を貯留する気体タンク471と、気体タンク471に貯留される気体の温度を調整する気体温度調整部472とを備える。気体温度調整部472は制御ユニット13と電気的に接続しており、制御ユニット13の動作指令により気体タンク471に貯留されている気体を加熱又は冷却して温度調整を行うものである。気体温度調整部472としては特に限定されず、例えば、ペルチェ素子、温度調整した水を通した配管等、公知の温度調整機構を用いることができる。
【0063】
また、気体貯留部47(より詳しくは、気体タンク471)は、
図2に示すように、配管45を介して、ノズル42と管路接続しており、配管45の経路途中にはバルブ46が介挿される。図示しない加圧手段により気体貯留部47内の気体が加圧され、配管45へ送られる。尚、加圧手段は、ポンプ等による加圧の他、気体を気体貯留部47内に圧縮貯留することによっても実現できるため、何れの加圧手段を用いてもよい。
【0064】
バルブ46は、制御ユニット13と電気的に接続しており、通常は閉栓されている。バルブ46の開閉は、制御ユニット13の動作指令によって制御される。制御ユニット13の動作指令によりバルブ46が開栓すると、気体タンク471に貯留されている窒素ガス等の不活性ガスが、配管45を通って、ノズル42から吐出される。
【0065】
ノズル42は、支持軸44の先端に設けられている。また、支持軸44は、水平方向に延設されたアーム43の先端部に保持されている。これにより、ノズル42は、スピンベース53の上方、より詳細には、基板Wの表面Wfの中央部(軸A1又はその近傍)の上方位置に配置される。
【0066】
アーム43は略水平方向に延設されており、その後端部が昇降機構49により支持されている。また、アーム43は、昇降機構49を介して昇降駆動部16と接続されている。そして、昇降駆動部16は制御ユニット13と電気的に接続しており、制御ユニット13からの動作指令により昇降機構49を上下方向に昇降させることで、アーム43も一体的に昇降される。これにより、ノズル42及び遮断板48をスピンベース53に近接させ、又は離間させることができる。具体的には、制御ユニット13が昇降機構49の動作を制御して、処理ユニット1に対して基板Wを搬入出させる際には、ノズル42及び遮断板48をスピンチャック55の上方の離間位置(
図2に示す位置)に上昇させる一方、後述する昇華工程を行う際には、基板Wの表面Wfに対して設定された離間距離となる様な高さ位置まで、ノズル42及び遮断板48を下降させる。尚、昇降機構49は、チャンバ11内に固定して設けられている。
【0067】
支持軸44は中空の略円筒形状を有しており、その内部にガス供給管(図示しない)が挿通されている。そして、ガス供給管は配管45と連通している。これにより、気体貯留部47に貯留されている窒素ガスがガス供給管を流れるのを可能にしている。また、ガス供給管の先端は、前述のノズル42に接続されている。
【0068】
遮断板48は、中心部に開口を有する任意の厚さの円板状の形状を有しており、支持軸44の下端部に略水平に取り付けられている。遮断板48の下面は基板Wの表面Wfに対向する基板対向面となっており、かつ、基板Wの表面Wfと略平行となっている。また、遮断板48は、基板Wの直径と同等以上の直径を有する大きさとなる様に形成されている。さらに、遮断板48は、その開口にノズル42が位置する様に設けられている。尚、遮断板48には、電動モータ等を含む構成の遮断板回転機構が接続されている。遮断板回転機構は、制御ユニット13からの動作回転指令に応じて、遮断板48を支持軸44に対して回転軸線C1まわりに回転させる。また、遮断板回転機構は、後述の昇華工程の際に、基板Wの回転に同期させて回転させることができる。
【0069】
気体タンク471には、基板処理液(昇華性物質)に対して少なくとも不活性なガス、より具体的には窒素ガスが貯留されている。また窒素ガスは、気体温度調整部472において、昇華性物質の凝固点以下の温度に調整されている。窒素ガスの温度は昇華性物質の凝固点以下の温度であれば特に限定されないが、通常は、0℃以上15℃以下の範囲内に設定することができる。窒素ガスの温度を0℃以上にすることにより、チャンバ11の内部に存在する水蒸気が凝固して基板Wの表面Wfに付着等するのを防止し、基板Wへ悪影響が生じるのを防止することができる。
【0070】
また、本実施形態で用いる窒素ガスは、その露点が0℃以下の乾燥気体であることが好ましい。窒素ガスを大気圧環境下で基板処理液の固化膜に吹き付けると、固化膜に含まれる昇華性物質が窒素ガス中に昇華する。窒素ガスは固化膜に供給され続けるので、昇華により発生した気体状態の昇華性物質の窒素ガス中に於ける分圧は、気体状態の昇華性物質の当該窒素ガスの温度に於ける飽和蒸気圧よりも低い状態に維持され、少なくとも固化膜表面に於いては、気体状態の昇華性物質がその飽和蒸気圧以下で存在する雰囲気下で満たされる。
【0071】
また、本実施形態では、気体貯留部47に貯留する気体として窒素ガスを用いるが、本発明の実施としては、昇華性物質に対して不活性な気体であればこれに限定されない。窒素ガスの代替となる気体としては、アルゴンガス、ヘリウムガス又は空気(窒素ガス濃度80%、酸素ガス濃度20%の気体)が挙げられる。あるいは、これら複数種類の気体を混合した混合気体を用いてもよい。また、これらの気体に含まれる水分量を一定の値以下に低減した乾燥不活性ガスを用いてもよい。乾燥不活性ガスに含まれる水分量としては1000ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、10ppm以下が特に好ましい。乾燥不活性ガス中の水分量を1000ppm以下にすることにより、昇華工程中における結露を防止することができる。
【0072】
尚、気体供給部41は、基板処理液供給部が組み込まれた構成であってもよい。この場合、基板処理液供給部のノズル22は、不活性ガス等を吐出するためのノズル42と併存する様に、支持軸44の先端に設けられる。また、支持軸44の内部には、基板処理液を供給するための供給管(図示しない)も挿通され、この供給管は配管25と連通した構成となる。これにより、基板処理液貯留部27に貯留されている基板処理液が供給管を流れるのを可能にする。
【0073】
飛散防止カップ12は、スピンベース53を取り囲むように設けられる。飛散防止カップ12は図示省略の昇降駆動機構に接続され、Z方向に昇降可能となっている。基板Wのパターン形成面に基板処理液やIPAを供給する際には、飛散防止カップ12が昇降駆動機構によって
図2に示すような所定位置に位置決めされ、チャックピン54により保持された基板Wを側方位置から取り囲む。これにより、基板Wやスピンベース53から飛散する基板処理液やIPA等の液体を捕集することができる。
【0074】
尚、本実施形態の基板処理装置100は処理ユニット1において、基板Wのパターン形成面に薬液を供給する薬液供給ユニット、及び当該パターン形成面にリンス液を供給するリンス液供給ユニットをさらに備えてもよい。
【0075】
薬液供給ユニット及びリンス液供給ユニットとしては、例えば、IPA供給部31と同様、ノズルと、アームと、旋回軸と、配管と、バルブと、薬液貯留タンクとを備えるものを採用することができる。従って、これらの詳細な説明については省略する。尚、薬液供給ユニットが供給する薬液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸、リン酸、酢酸、アンモニア水、過酸化水素水、有機酸(例えばクエン酸、シュウ酸等)、有機アルカリ(例えば、TMAH:テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等)、界面活性剤、及び腐食防止剤の少なくとも何れか1つを含むものが挙げられる。また、リンス液供給ユニットが供給するリンス液としては、例えば、脱イオン水(DIW:Deionized Water)、炭酸水、電解イオン水、水素水、オゾン水及び希釈濃度(例えば、10~100ppm程度)の塩酸水の何れかであってもよい。
【0076】
<制御ユニットの構成>
制御ユニット13は、処理ユニット1の各部と電気的に接続しており(
図2~
図4参照)、各部の動作を制御する。制御ユニット13は、演算処理部と、メモリとを有するコンピュータにより構成される。演算処理部としては、各種演算処理を行うCPUを用いる。また、メモリは、基板処理プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAM及び制御用ソフトウェアやデータ等を記憶しておく磁気ディスクを備える。磁気ディスクには、基板Wに応じた基板処理条件情報(処理レシピ)や処理ユニット1を制御するための制御条件情報等が、予め格納されている。CPUは、基板処理条件情報及び制御条件情報等をRAMに読み出し、その内容に従って処理ユニット1の各部を制御する。
【0077】
(基板処理方法)
次に、本実施形態の基板処理装置100を用いた基板処理方法について、
図5~
図8に基づき、以下に説明する。
図5は、本実施形態に係る基板処理装置100を用いた基板処理方法を説明するためのフローチャートである。
図6(a)は、基板処理液供給工程終了後の基板Wの様子を表す模式図であり、同図(b)は、薄膜化工程終了後の基板Wの様子を表す模式図である。
図7(a)は、固化工程開始の際の基板Wの様子を表す模式図であり、同図(b)は、基板Wの表面Wf上に固化膜63が形成された様子を表す模式図であり、同図(c)は、固化膜63が昇華により除去された様子を表す模式図である。
図8は、溶媒の蒸発により基板W上の基板処理液の液膜(薄膜)の厚さが減少するイメージの一例を示すグラフである。
【0078】
尚、基板W上には、凹凸のパターンWpが前工程により形成されている(
図6(a)等参照)。パターンWpは、凸部Wp1及び凹部Wp2を備えている。本実施形態において、凸部Wp1は、例えば100nm~600nmの範囲の高さであり、5nm~50nmの範囲の幅である。また、隣接する2個の凸部Wp1間に於ける最短距離(凹部Wp2の最短幅)は、例えば、5~150nmの範囲である。凸部Wp1のアスペクト比、即ち高さを幅で除算した値(高さ/幅)は、例えば、5~35の範囲である。
【0079】
本実施形態に係る基板処理方法は、基板搬入・基板の回転開始工程S1、薬液供給工程S2、リンス液供給工程S3、置換液供給工程S4、基板処理液供給工程S5、薄膜化工程S6、固化工程S7、昇華工程S8、及び基板の回転停止・基板搬出工程S9を含む。これらの各工程は、特に明示しない限り、大気圧環境下で処理される。ここで、大気圧環境とは標準大気圧(1気圧、1013hPa)を中心に、0.7気圧~1.3気圧の環境のことを指す。特に、基板処理装置100が陽圧となるクリーンルーム内に配置される場合には、基板Wの表面Wfの環境は、1気圧よりも高くなる。
【0080】
ステップS1:基板搬入・基板の回転開始工程
先ず、所定の基板Wに応じた基板処理プログラムがオペレータにより実行指示される。その後、基板Wを処理ユニット1に搬入する準備として、制御ユニット13が動作指令を行い以下の動作をする。即ち、回転駆動部52の回転を停止し、チャックピン54を基板Wの受渡しに適した位置へ位置決めする。また、バルブ26、36、46を閉栓し、ノズル22、32、42をそれぞれ退避位置に位置決めする。そして、チャックピン54を図示しない開閉機構により開状態とする。
【0081】
インデクサ部120の容器C内に密閉した状態で収容されている未処理の基板Wが、第1搬送部122及び第2搬送部111により処理ユニット1内に搬入され、チャックピン54上に載置されると、図示しない開閉機構によりチャックピン54を閉状態とする。これにより、未処理の基板Wが基板保持部51により保持される。未処理の基板Wは、基板保持部51により略水平姿勢となるように保持されている。
【0082】
続いて、制御ユニット13の動作指令により、基板保持部51の回転駆動部52がスピンベース53を回転させる。これにより、スピンベース53の上方でチャックピン54により保持される基板Wを回転軸線まわりに回転させる。スピンチャック55の回転速度(回転数)(基板Wの回転速度(回転数))としては、例えば約10rpm~3000rpm、好ましくは800~1200rpmの範囲内で設定することができる。
【0083】
ステップS2:薬液供給工程
次に、基板保持部51により基板Wを回転させた状態で、制御ユニット13の動作指令により、薬液供給ユニットから当該基板Wの表面Wf上に薬液が供給される。これにより、基板Wの表面Wfに形成されている自然酸化膜がエッチングされる。エッチングの終了後、薬液の供給は停止される。
【0084】
ステップS3:リンス液供給工程
次に、基板保持部51により基板Wを回転させた状態で、制御ユニット13の動作指令により、リンス液供給ユニットから当該基板Wの表面Wf上にリンス液が供給される。表面Wfに供給されたリンス液は、基板Wが回転することにより生ずる遠心力により、基板Wの表面Wf中央付近から基板Wの周線部に向かって流動し、基板Wの表面Wfの全面に拡散する。これにより、基板Wの表面Wfに付着する薬液がリンス液の供給によって除去され、基板Wの表面Wfの全面がリンス液で覆われる。基板Wの表面Wfの全面がリンス液で覆われた後、リンス液の供給は停止される。
【0085】
ステップS4:置換液供給工程
次に、基板保持部51により基板Wを回転させた状態で、当該基板Wの表面Wf上に置換液としてのIPAが供給される。すなわち、制御ユニット13が旋回駆動部14へ動作指令を行い、ノズル32を基板Wの表面Wf中央部へ位置決めする。そして、制御ユニット13がバルブ36へ動作指令を行い、バルブ36を開栓する。これにより、IPAを、IPAタンク37から配管35及びノズル32を介して、基板Wの表面Wfに供給する。
【0086】
基板Wの表面Wfに供給されたIPAは、基板Wが回転することにより生ずる遠心力により、基板Wの表面Wf中央付近から基板Wの周線部に向かって流動し、基板Wの表面Wfの全面に拡散する。これにより、基板Wの表面Wfに付着するリンス液がIPAの供給によって除去され、基板Wの表面Wfの全面がIPAで覆われる。基板Wの回転速度は、IPAからなる膜の膜厚が、表面Wfの全面に於いて、凸部Wp1の高さよりも高くなる程度に設定されるのが好ましい。また、IPAの供給量は特に限定されず、適宜設定することができる。置換液供給工程の終了の際、制御ユニット13はバルブ36へ動作指令を行い、バルブ36を閉栓する。また、制御ユニット13は旋回駆動部14へ動作指令を行い、ノズル32を退避位置に位置決めする。
【0087】
ステップS5:基板処理液供給工程
次に、IPAが付着した基板Wの表面Wfに、基板処理液を供給する。
すなわち、制御ユニット13が回転駆動部52へ動作指令を行い、基板Wを軸A1まわりに一定速度で回転させる。続いて、制御ユニット13が旋回駆動部14へ動作指令を行い、ノズル22を基板Wの表面Wf中央部へ位置決めする。そして、制御ユニット13がバルブ26へ動作指令を行い、バルブ26を開栓する。これにより、基板処理液を、基板処理液貯留タンク271から配管25及びノズル22を介して、基板Wの表面Wfに供給する。基板Wの表面Wfに供給された基板処理液は、基板Wが回転することにより生ずる遠心力により、基板Wの表面Wf中央付近から基板Wの周縁部に向かって流動し、基板Wの表面Wfの全面に拡散する。これにより、
図6(a)に示すように、基板Wの表面Wfに付着していたIPAが処理液の供給によって除去され、基板Wの表面Wfの全面が基板処理液で覆われて、当該基板処理液の液膜60が形成される。
【0088】
基板処理液供給工程の終了の際、制御ユニット13はバルブ26へ動作指令を行い、バルブ26を閉栓する。また、制御ユニット13は旋回駆動部14へ動作指令を行い、ノズル22を退避位置に位置決めする。
【0089】
ステップS6:薄膜化工程
続いて、基板Wの表面Wf上に形成された基板処理液の液膜60の薄膜化を行う。
すなわち、制御ユニット13が回転駆動部52へ動作指令を行い、基板Wを軸A1まわりに一定速度(第1回転速度)で回転させる。これにより、基板Wが回転することにより生ずる遠心力の作用を利用して、過剰な基板処理液を基板Wの表面Wfから振り切る。基板Wの表面Wfから振り切ることにより、
図6(b)に示すように、液膜60を最適な膜厚の薄膜61にすることができる。尚、基板処理液供給工程において、基板処理液の供給量や基板Wの回転速度等の制御により、液膜60の薄膜化が可能な場合には、本工程を省略してもよい。
【0090】
本工程において基板Wの第1回転速度は、液膜60の膜厚に応じて設定される。第1回転速度は、通常は、回転数で100rpm以上、1500rpm以下の範囲で設定され、好ましくは100rpm以上、1000rpm以下、より好ましくは100rpm以上、500rpm以下である。
【0091】
ステップS7:固化工程
次に、基板処理液の薄膜61から溶媒を蒸発させて昇華性物質を析出させ、固化膜を形成する。
すなわち、制御ユニット13が回転駆動部52へ動作指令を行い、基板Wを軸A1まわりに、第1回転速度よりも速い第2回転速度で回転させる。溶媒の蒸気圧は溶質に相当する昇華性物質の蒸気圧よりも高いため、溶媒は昇華性物質の蒸発速度よりも大きい蒸発速度で蒸発する。そのため、
図7(a)に示すように、薄膜61中の溶媒が蒸発を始める。そして、
図8に示すように、昇華性物質の濃度が徐々に増加しながら、薄膜61の膜厚が徐々に減少していく。
【0092】
さらに、薄膜61中の昇華性物質が過飽和の状態になると、昇華性物質が析出を始め、薄膜61の表層部分から固化膜62が形成され、その後、
図7(b)に示すように、基板Wの表面Wf全域を覆う固化膜63が形成される。
【0093】
ここで、固化膜63の膜厚は、パターン形成面における凸部Wp1(パターン)の高さHに対し、所定の割合の範囲内であることが好ましい。より具体的には、例えば、昇華性物質として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールを用いた場合、高さHに対し85%以上、365%以下の範囲が好ましく、89%以上、360%以下の範囲がより好ましい。また、昇華性物質として3-トリフルオロメチル安息香酸を用いた場合、高さHに対し80%以上、200%以下の範囲が好ましく、85%以上、190%以下の範囲がより好ましい。凸部Wp1の高さHに対する固化膜63の膜厚の割合がこれらの数値範囲内にあると、パターンの倒壊を一層良好に抑制することができる。
【0094】
尚、固化膜63の膜厚の制御は、基板処理液における昇華性物質の濃度を調整することにより可能である。そして、本発明においては、昇華性物質として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び3-トリフルオロメチル安息香酸を用いることにより、従来の昇華性物質と比較して、パターンの倒壊を良好に抑制できる固化膜の膜厚の範囲を比較的広くすることができる。すなわち、本発明の基板処理方法であると、固化膜63の膜厚に関し、パターンの倒壊を良好に抑制できる条件の範囲を広く設定することができ、プロセスウィンドウに優れる。
【0095】
ステップS8:昇華工程
続いて、基板Wの表面Wf上に形成された固化膜63を昇華させ除去する。
すなわち、制御ユニット13が昇降駆動部16に動作指令を行うことにより、昇降機構49がノズル42及び遮断板48を、基板Wの表面Wfとの離間距離が予め設定された値となるまで下降させ、当該基板Wに近接させる。ノズル42及び遮断板48が基板Wの表面Wfに対し、設定された離間距離にまで近接した後、制御ユニット13は、遮断板48を基板Wと同期させるように軸A1まわりに一定速度で回転させる。
【0096】
続いて、制御ユニット13がバルブ46へ動作指令を行い、バルブ46を開栓する。これにより、不活性ガスを、気体タンク471から配管45及びノズル42を介して、基板Wの表面Wfに向けて供給する。このとき、基板W及び遮断板48は同期して回転しているため、この回転で生ずる遠心力により、不活性ガスが基板Wの表面Wfの中心付近から基板Wの周線部に向かって流動し、基板Wの表面Wfの全面に拡散する。これにより、固化膜63と不活性ガスとの接触速度を増大させ、固化膜63の昇華を促進させることができる。
【0097】
また、基板Wの表面Wf上に存在する空気を不活性ガスに置換することができる。そして、不活性ガスに置換することで、表面Wfに形成された固化膜63を不活性ガスの流動下におき、空気等に曝されるのを防止し、基板Wと遮断板48との間の空間を低温状態に維持しながら固化膜63を昇華させることができる。そして、固化膜63の昇華に伴って昇華熱が奪われ、固化膜63が昇華性物質の凝固点(融点)以下に維持される。そのため、固化膜63に含まれる昇華性物質が融解することを効果的に防止できる。これにより、
図7(c)に示すように、基板Wの表面Wfのパターン間に液相が存在しないので、パターンの倒壊の発生を抑制しながら、基板Wを乾燥させることができる。
【0098】
不活性ガスの流量は、200l/min以下が好ましく、より好ましくは50l/min以上、200l/min以下、さらに好ましくは40l/min以上、50l/min以下である。不活性ガスの流量を200l/min以下にすることにより、当該不活性ガスの吹き付けに起因するパターンの倒壊を防止することができる。また、不活性ガスの吐出時間は、昇華性物質の昇華時間に応じて適宜設定することができる。
【0099】
昇華工程S8の開始から予め定める昇華時間が経過すると、制御ユニット13がバルブ46へ動作指令を行い、バルブ46を閉栓する。
【0100】
ステップS9:基板の回転停止・基板搬出工程
昇華工程S8の終了後、制御ユニット13は回転駆動部52へ動作指令を行いスピンベース53の回転を停止させる。また、制御ユニット13は、遮断板回転機構を制御して遮断板48の回転を停止させるとともに、昇降駆動部16を制御して遮断板48を遮断位置から上昇させて退避位置に位置決めする。
【0101】
その後、第2搬送部111がチャンバ11の内部空間に進入して、チャックピン54による保持が解除された処理済みの基板Wをチャンバ11外へと搬出し、一連の基板乾燥処理を終了する。
【0102】
以上のように、本実施形態では、基板処理液として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール及び3-トリフルオロメチル安息香酸の少なくとも何れかの昇華性物質を含むものを用いることで、従来の昇華性物質を用いた昇華乾燥技術と比較して、基板W上のパターンの倒壊を良好に抑制することができる。特に、本実施形態は、機械的強度が極めて小さいパターンである場合にも、極めて有効にパターンの倒壊の発生を抑制することができる。
【0103】
(変形例)
以上の説明に於いては、本発明の好適な実施態様について説明した。しかし、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではなく、その他の様々な形態で実施可能である。以下に、その他の主な形態を例示する。
【0104】
前述の実施形態では、固化工程S7を終了した後に、昇華工程S8を行う場合について説明した。しかし、本発明はこの態様に限定されるものではない。例えば、昇華工程S8は、固化工程S7の開始後に開始され、かつ、固化工程S7と並行して行ってもよい。前述の通り、固化膜は、溶媒の蒸発により昇華性物質が析出し液膜の表層部分から形成されていく。そのため、昇華工程S8は、固化工程S7の終了前に開始されてもよい。これにより、短期間で基板Wの昇華乾燥を行うことができる。
【0105】
また、前述の実施形態では、気体供給部が遮断板を備える場合を例にして説明した。しかし、本発明はこの態様に限定されるものではなく、例えば、遮断板を備えない気体供給部を用いて、昇華工程S8を行ってもよい。
【実施例0106】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0107】
(パターン付き基板)
パターン付き基板として、モデルパターンが表面に形成されたシリコン基板を準備し、当該シリコン基板から、一辺が1cm角のクーポン(供試体)を切り出した。モデルパターンとしては、高さ約300nmの円柱が配列されたパターンを採用した。
【0108】
(実施例1)
本実施例においては、前述のシリコン基板から切り出したクーポンを用いて、以下に述べる手順にてその昇華乾燥処理を行い、パターン倒壊の抑制効果を評価した。
【0109】
先ずクーポンを、濃度10質量%のフッ化水素酸に20秒間浸漬させた後(薬液供給工程)、DIWに1分間浸漬させてリンスした(リンス液供給工程)。さらに、DIWによるリンス後のクーポンをIPAに1分間浸漬させ、クーポン上のパターン形成面に存在するDIWをIPAに置換した(置換液供給工程)。
【0110】
続いて、IPAが表面に残存するクーポンを、常温(25℃)・大気圧(1atm)下で基板処理液(液温:25℃)に30秒間浸漬させ、クーポン上のパターン形成面に存在するIPAを基板処理液に置換した(基板処理液供給工程)。また、基板処理液としては、濃度2.3vol%の2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール(昇華性物質)と、IPAとからなるものを用いた。
【0111】
さらに、基板処理液供給後のクーポンを、回転軸線まわりに回転速度10rpmで5秒間回転させ、パターン形成面上の基板処理液の液膜を薄膜化した(薄膜化工程)。
【0112】
続いて、薄膜化工程後のクーポンを、回転軸線まわりに回転速度1500rpmで回転させ、IPAを蒸発させて2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールを析出させ、当該2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールからなる固化膜を形成した(固化工程)。
【0113】
クーポンのパターン形成面上に固化膜が形成された後、この固化膜に窒素ガスを吹き付けて昇華させた(昇華工程)。また昇華工程は、クーポンを、回転軸線まわりに回転速度1500rpmで回転させながら行った。さらに、窒素ガスの流量は、40/minとした。尚、固化工程及び昇華工程の全体の処理時間は120秒とした。
【0114】
以上のようにして得られた昇華乾燥後のクーポンについて、SEM画像からパターンの倒壊率を算出し、当該倒壊率により、パターン形成面に於けるパターン倒壊の抑制効果を評価した。尚、倒壊率は、任意の7つの領域における倒壊率を以下の式により算出し、さらにその平均値としたものである。
倒壊率(%)=(任意の領域における倒壊した凸部の数)÷(当該領域に於ける凸部の総数)×100
【0115】
その結果、乾燥処理前のクーポンのパターン形成面と比較して、乾燥処理後の倒壊率は7.83%であった。これにより、昇華性物質として2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールを用いた場合には、パターンの倒壊を極めて良好に抑制することができ、昇華乾燥に有効であることが確認された。
【0116】
また、本実施例で形成された2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールからなる固化膜の膜厚を、濃度検量線を用いて算出した。濃度検量線としては
図9に示すものを用い、当該濃度検量線から以下の式に基づき、固化膜の膜厚を算出した。その結果、本実施例においては、固化膜の膜厚は270nmであった。これは、クーポンにおけるパターンの高さ(300nm)の89%に相当するものであった。
固化膜の膜厚(nm)=検量線の傾き(115.8nm/vol%)×基板処理液における昇華性物質の濃度(vol%)
尚、
図9は、基板処理液におけるシクロヘキサノンオキシムの濃度と、シクロヘキサノンオキシムからなる固化膜の膜厚との間における濃度検量線を表すグラフである。濃度検量線の傾きは溶質である昇華性物質の種類によって大きく変化しないことから、本実験例では、シクロヘキサノンオキシムの濃度検量線を用いることとした。
【0117】
(実施例2)
本実施例においては、基板処理液における2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールの濃度を3.2vol%に変更した。それ以外は実施例1と同様にして、パターン形成面に於けるパターン倒壊の抑制効果を評価した。その結果、倒壊率は0.86%であった。
【0118】
また、実施例1と同様にして、固化膜の膜厚も
図9に示す濃度検量線を用いて算出した。その結果、固化膜の膜厚は370nmであった。これは、クーポンにおけるパターンの高さ(300nm)の124%に相当するものであった。
【0119】
(実施例3)
本実施例においては、基板処理液における2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールの濃度を4.8vol%に変更した。それ以外は実施例1と同様にして、パターン形成面に於けるパターン倒壊の抑制効果を評価した。その結果、倒壊率は1.69%であった。
【0120】
また、実施例1と同様にして、固化膜の膜厚も
図9に示す濃度検量線を用いて算出した。その結果、固化膜の膜厚は560nmであった。これは、クーポンにおけるパターンの高さ(300nm)の185%に相当するものであった。
【0121】
(実施例4)
本実施例においては、基板処理液における2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールの濃度を6.3vol%に変更した。それ以外は実施例1と同様にして、パターン形成面に於けるパターン倒壊の抑制効果を評価した。その結果、倒壊率は10.1%であった。
【0122】
また、実施例1と同様にして、固化膜の膜厚も
図9に示す濃度検量線を用いて算出した。その結果、固化膜の膜厚は730nmであった。これは、クーポンにおけるパターンの高さ(300nm)の243%に相当するものであった。
【0123】
(実施例5)
本実施例においては、基板処理液における2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールの濃度を9.2vol%に変更した。それ以外は実施例1と同様にして、パターン形成面に於けるパターン倒壊の抑制効果を評価した。その結果、倒壊率は3.70%であった。
【0124】
また、実施例1と同様にして、固化膜の膜厚も
図9に示す濃度検量線を用いて算出した。その結果、固化膜の膜厚は1100nmであった。これは、クーポンにおけるパターンの高さ(300nm)の360%に相当するものであった。
【0125】
(実施例6)
本実施例においては、昇華性物質として3-トリフルオロメチル安息香酸を用い、その濃度を基板処理液に対し2.2vol%に変更した。それら以外は実施例1と同様にして、パターン形成面に於けるパターン倒壊の抑制効果を評価した。その結果、倒壊率は3.27%であった。
【0126】
また、濃度検量線の傾きは溶質である昇華性物質の種類によって大きく変化しないことから、実施例1と同様、固化膜の膜厚も
図9に示す濃度検量線を用いて算出した。その結果、固化膜の膜厚は250nmであった。これは、クーポンにおけるパターンの高さ(300nm)の85%に相当するものであった。
【0127】
(実施例7)
本実施例においては、3-トリフルオロメチル安息香酸の濃度を基板処理液に対し3.2vol%に変更した。それ以外は実施例6と同様にして、パターン形成面に於けるパターン倒壊の抑制効果を評価した。その結果、倒壊率は13.2%であった。
【0128】
また、実施例6と同様にして、固化膜の膜厚も
図9に示す濃度検量線を用いて算出した。その結果、固化膜の膜厚は370nmであった。これは、クーポンにおけるパターンの高さ(300nm)の124%に相当するものであった。
【0129】
(実施例8)
本実施例においては、3-トリフルオロメチル安息香酸の濃度を基板処理液に対し5.0vol%に変更した。それ以外は実施例6と同様にして、パターン形成面に於けるパターン倒壊の抑制効果を評価した。その結果、倒壊率は11.1%であった。
【0130】
また、実施例6と同様にして、固化膜の膜厚も
図9に示す濃度検量線を用いて算出した。その結果、固化膜の膜厚は580nmであった。これは、クーポンにおけるパターンの高さ(300nm)の190%に相当するものであった。
【0131】