(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047308
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】プログラム、情報処理方法、情報処理装置及びモデル生成方法
(51)【国際特許分類】
G16H 50/00 20180101AFI20240329BHJP
【FI】
G16H50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152855
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】谷口 泰代
(72)【発明者】
【氏名】川本 英二
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】患者の症状から低栄養状態であるか否かを早期にかつ正確に判定することが可能なプログラム等を提供する。
【解決手段】コンピュータは、低栄養状態の診断の際に医療従事者が判断した患者の症状に関する症状情報を取得する。そして、コンピュータは、患者の前記症状情報を入力した場合に前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力するように学習された学習モデルに、取得した症状情報を入力して、前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低栄養状態の診断の際に医療従事者が判断した患者の症状に関する症状情報を取得し、
患者の前記症状情報を入力した場合に前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力するように学習された学習モデルに、取得した前記症状情報を入力して、前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力する
処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項2】
前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を、前記医療従事者の端末へ出力する
処理を前記コンピュータに実行させる請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記症状情報は、低栄養状態の診断の際に患者に対して行われた検査の結果を含む
請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記症状情報は、前記患者の身体機能に関する症状の情報、体重減少に関する症状の情報、認知機能に関する症状の情報、うつ症状に関する症状の情報、易転倒性に関する症状の情報、栄養状態に関する症状の情報、慢性疾患に関する症状の情報、SARC-Fのスクリーニング結果、下腿周囲径、握力、6m歩行テストの結果、及び、骨格筋量のうちの少なくとも1つを含む
請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項5】
前記症状情報は、CONUT(Controlling Nutrition Status)、MNA(Mini Nutritional Assessment)、SGA(Subjective Global Assessment)、及び、GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準の少なくとも1つの栄養スクリーニングツールで算出されたスコアを含む
請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項6】
前記症状情報を、前記患者に対応付けられている端末から取得する
処理を前記コンピュータに実行させる請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項7】
前記学習モデルは、前記患者の症状情報に係る時系列データを入力した場合に前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力するように学習してある
請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項8】
前記学習モデルは、サルコペニアの発症の有無、又は、サルコペニアの発症リスクを示す情報を出力するように学習してある
請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項9】
低栄養状態の診断の際に医療従事者が判断した患者の症状に関する症状情報を取得し、
患者の前記症状情報を入力した場合に前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力するように学習された学習モデルに、取得した前記症状情報を入力して、前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力する
処理をコンピュータが実行する情報処理方法。
【請求項10】
低栄養状態の診断の際に医療従事者が判断した患者の症状に関する症状情報を取得する取得部と、
患者の前記症状情報を入力した場合に前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力するように学習された学習モデルに、取得した前記症状情報を入力して、前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力する出力部と
を備える情報処理装置。
【請求項11】
低栄養状態の診断の際に医療従事者が判断した患者の症状に関する症状情報と、前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報とを含む訓練データを取得し、
取得した訓練データを用いて、前記患者の症状情報が入力された場合に、前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力する学習モデルを生成する
処理をコンピュータが実行するモデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プログラム、情報処理方法、情報処理装置及びモデル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、健康予測モデルを用いて被験者の購買履歴から被験者の健康症状の程度を予測する技術が開示されている。特許文献1に開示された技術では、所定の疾病だけでなく、疾病には該当しないが日常生活に支障を来す症状を伴う障害を予測し、対象者に注意喚起を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高齢者等において、健康的に生きるために必要な量の栄養素やエネルギーが取れていない低栄養状態が、「サルコペニア」「ロコモティブシンドローム」「フレイル」と呼ばれる症状につながることが知られている。「サルコペニア」は、加齢等に伴い全身の筋肉量が減少し、筋力が低下した状態であり、ICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)において疾病に分類されている。「ロコモティブシンドローム」は、筋肉、骨、関節、軟骨等の運動器の障害により、日常生活の動作に支障を来す状態であり、「フレイル」は、体重の減少及び筋力の低下等の身体的な変化に加えて気力の低下等の精神的な変化が生じている状態である。これらの症状は、要介護状態となるリスクが高いことが知られており、軽症のうちに、又は、これらの症状に至る前に、低栄養状態であることを早期に発見することが重要と考えられている。しかし、低栄養状態であることを早期にかつ正確に判断することは難しい。特許文献1では、低栄養状態の予測については言及されていない。
【0005】
一つの側面では、患者の症状から低栄養状態であるか否かを早期にかつ正確に判定することが可能なプログラム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
(1)低栄養状態の診断の際に医療従事者が判断した患者の症状に関する症状情報を取得し、
患者の前記症状情報を入力した場合に前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力するように学習された学習モデルに、取得した前記症状情報を入力して、前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力する
処理をコンピュータに実行させるプログラムである。
【0007】
ここで、本開示の実施形態において、
(2)上記(1)のプログラムは、前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を、前記医療従事者の端末へ出力する
処理を更に前記コンピュータに実行させることが好ましい。
【0008】
(3)上記(1)又は(2)のプログラムにおいて、
前記症状情報は、低栄養状態の診断の際に患者に対して行われた検査の結果を含むことが好ましい。
【0009】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載のプログラムにおいて、
前記症状情報は、前記患者の身体機能に関する症状の情報、体重減少に関する症状の情報、認知機能に関する症状の情報、うつ症状に関する症状の情報、易転倒性に関する症状の情報、栄養状態に関する症状の情報、慢性疾患に関する症状の情報、SARC-Fのスクリーニング結果、下腿周囲径、握力、6m歩行テストの結果、及び、骨格筋量のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0010】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つに記載のプログラムにおいて、
前記症状情報は、CONUT(Controlling Nutrition Status)、MNA(Mini Nutritional Assessment)、SGA(Subjective Global Assessment)、及び、GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準の少なくとも1つの栄養スクリーニングツールで算出されたスコアを含むことが好ましい。
【0011】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つに記載のプログラムにおいて、
前記症状情報を、前記患者に対応付けられている端末から取得する
処理を更に前記コンピュータに実行させることが好ましい。
【0012】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つに記載のプログラムにおいて、
前記学習モデルは、前記患者の症状情報に係る時系列データを入力した場合に前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力するように学習してあることが好ましい。
【0013】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つに記載のプログラムにおいて、
前記学習モデルは、サルコペニアの発症の有無、又は、サルコペニアの発症リスクを示す情報を出力するように学習してあることが好ましい。
【0014】
また、本開示は、(9)低栄養状態の診断の際に医療従事者が判断した患者の症状に関する症状情報を取得し、
患者の前記症状情報を入力した場合に前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力するように学習された学習モデルに、取得した前記症状情報を入力して、前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力する
処理をコンピュータが実行する情報処理方法である。
【0015】
また、本開示は、(10)低栄養状態の診断の際に医療従事者が判断した患者の症状に関する症状情報を取得する取得部と、
患者の前記症状情報を入力した場合に前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力するように学習された学習モデルに、取得した前記症状情報を入力して、前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力する出力部と
を備える情報処理装置である。
【0016】
また、本開示は、(11)低栄養状態の診断の際に医療従事者が判断した患者の症状に関する症状情報と、前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報とを含む訓練データを取得し、
取得した訓練データを用いて、前記患者の症状情報が入力された場合に、前記患者が低栄養状態であるか否かに関する情報を出力する学習モデルを生成する
処理をコンピュータが実行するモデル生成方法である。
【発明の効果】
【0017】
一つの側面では、患者の症状から低栄養状態であるか否かを早期にかつ正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】情報処理システムの構成例を示す説明図である。
【
図2】電子カルテDBのレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
【
図4】学習モデルの生成処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】サルコペニアの可能性の予測処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態2の学習モデルの構成例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示のプログラム、情報処理方法、情報処理装置及びモデル生成方法について、その実施形態を示す図面に基づいて詳述する。
【0020】
(実施形態1)
患者の症状から、当該患者が低栄養状態であるか否かを予測して、医師、歯科医師、薬剤師、栄養士、看護職員及び介護職員等の医療従事者に提示する情報処理システムについて説明する。本実施形態では、低栄養状態の1例として、患者がサルコペニアを発症しているか否か、及び、サルコペニアを発症するリスクが高いか否かを予測する。なお、低栄養状態としては、サルコペニアのほかに、フレイル又はロコモティブシンドロームについて、発症しているか否か、及び、発症するリスクが高いか否かを予測する構成でもよい。
【0021】
図1は情報処理システムの構成例を示す説明図である。本実施形態の情報処理システムは、サーバ10及び医療者用端末20等を含み、各機器はネットワークNを介して通信接続されている。ネットワークNは、インターネットであってもよく、情報処理システムが設けられている医療機関等の施設内に構築されたLAN(Local Area Network)であってもよい。サーバ10は、種々の情報処理及び情報の送受信が可能な情報処理装置であり、サーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ等である。サーバ10は、複数のコンピュータからなるマルチコンピュータであってもよく、ソフトウェアによって1台の装置内に仮想的に構築された仮想マシンであってもよい。また、サーバ10は、医療機関内に設置されたローカルサーバであってもよく、インターネットを介して通信接続されたクラウドサーバであってもよい。医療者用端末20は、医療従事者(医療者)が使用する情報端末である。医療者用端末20は、種々の情報処理及び情報の送受信が可能な情報処理装置であり、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォン等である。
【0022】
本実施形態では、サーバ10は、電子カルテDB12aを記憶しており、電子カルテシステムを提供するが、電子カルテシステムは別のサーバによって提供されてもよい。サーバ10は、患者の症状に関する症状情報に基づいて、当該患者がサルコペニアを発症しているか否かを予測し、予測結果を出力する処理を行う。具体的には後述のように、サーバ10は、所定の訓練データを学習する機械学習を行い、症状情報を入力として、当該症状情報の患者がサルコペニアを発症しているか否かを示す情報を出力する学習モデル12Mを予め用意してある。サーバ10は、患者の症状情報を学習モデル12Mに入力し、当該患者がサルコペニアを発症しているか否かを示す情報を学習モデル12Mから取得する。なお、サーバ10は、患者の症状情報を、例えば医療者用端末20から取得し、予測した結果を医療者用端末20へ出力する。
【0023】
サーバ10は、制御部11、記憶部12、通信部13、入力部14、表示部15、読み取り部16等を含み、これらの各部はバスを介して相互に接続されている。制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)又はAIチップ(AI用半導体)等の1又は複数のプロセッサを有する。制御部11は、記憶部12に記憶してあるプログラム12Pを適宜実行することにより、サーバ10が行うべき種々の情報処理、制御処理等を行う。
【0024】
記憶部12は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等を含む。記憶部12は、制御部11が実行するプログラム12P(プログラム製品)及びプログラム12Pの実行に必要な各種のデータ等を予め記憶している。また記憶部12は、制御部11がプログラム12Pを実行する際に発生するデータ等を一時的に記憶する。また記憶部12は、機械学習によって訓練データを学習済みの学習モデル12Mを記憶している。学習モデル12Mは、患者の症状情報が入力された場合に、当該患者がサルコペニアを発症しているか否かを示す情報(低栄養状態であるか否かに関する情報)を出力するように学習された学習済みモデルである。学習モデル12Mは、人工知能ソフトウェアを構成するプログラムモジュールとしての利用が想定される。学習モデル12Mは、入力値に対して所定の演算を行い、演算結果を出力するものであり、記憶部12には、この演算を規定する関数の係数や閾値等のデータが学習モデル12Mとして記憶される。また記憶部12は、後述する電子カルテDB12aを記憶している。電子カルテDB12aは、サーバ10に接続された他の記憶装置に記憶されてもよく、サーバ10が通信可能な他の記憶装置又は電子カルテ用サーバに記憶されてもよい。
【0025】
通信部13は、有線通信又は無線通信によってネットワークNに接続するための通信モジュールであり、ネットワークNを介して他の装置との間で情報の送受信を行う。入力部14は、ユーザによる操作入力を受け付け、操作内容に対応した制御信号を制御部11へ送出する。表示部15は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等であり、制御部11からの指示に従って各種の情報を表示する。入力部14及び表示部15は一体として構成されたタッチパネルであってもよい。なお、入力部14及び表示部15は必須ではなく、サーバ10は、接続された端末装置(例えば医療者用端末20)を通じて操作を受け付け、表示すべき情報を外部の表示装置(例えば医療者用端末20)へ出力する構成でもよい。
【0026】
読み取り部16は、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)カード等を含む可搬型記憶媒体10aに記憶された情報を読み取る。記憶部12に記憶されるプログラム12P及び各種のデータは、制御部11が読み取り部16を介して可搬型記憶媒体10aから読み取って記憶部12に記憶してもよい。また、記憶部12に記憶されるプログラム12P及び各種のデータは、制御部11が通信部13を介して他の装置からダウンロードして記憶部12に記憶してもよい。
【0027】
上述した構成のサーバ10において、プログラム12Pは、単一のコンピュータ上で、又は1つのサイトにおいて配置されて実行されてもよく、もしくは複数のサイトにわたって分散され、ネットワークNによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されるように展開することができる。
【0028】
医療者用端末20は、制御部21、記憶部22、通信部23、入力部24、表示部25等を含み、これらの各部はバスを介して相互に接続されている。医療者用端末20の制御部21、記憶部22、通信部23、入力部24、表示部25は、サーバ10の制御部11、記憶部12、通信部13、入力部14、表示部15と同様の構成であるので説明を省略する。
【0029】
図2は電子カルテDB12aのレコードレイアウトの一例を示す説明図である。電子カルテDB12aは、医療機関を利用する患者の電子カルテデータ(診療記録)を格納するデータベースである。
図2に示す電子カルテDB12aは、患者ID列、患者情報列、症状情報列等を含む。患者ID列は、各患者を識別するための識別情報(患者ID、患者コード)を記憶する。患者IDは例えば医療機関で発行された診察券の診察券番号であってもよい。患者情報列は、患者IDに対応付けて、患者に関する患者情報を記憶する。患者情報は、例えば患者の年齢及び性別を含む属性情報、氏名及び連絡先を含む個人情報、診断名、既往歴、身長及び体重等を含む。症状情報列は、患者IDに対応付けて、患者の症状に関する症状情報を記憶する。症状情報は、身体機能に関する情報、体重に関する情報、認知機能に関する情報、うつ症状に関する情報、易転倒性に関する情報、栄養状態に関する情報、慢性疾患に関する情報、SARC-Fのスクリーニング結果、下腿周囲径、握力、6m(メートル)歩行テストの結果、骨格筋量等を含み、これらの各情報は、診察日時、検査日時、診断日時等の日時に対応付けて各列に記憶される。
【0030】
症状情報に含まれる各情報はそれぞれ、医療従事者が患者から聞き取った情報(患者の自覚症状)、患者に対して行われた各種の検査の結果、聞き取った情報及び検査結果から医療従事者が判断(診断)した結果を含んでもよい。具体的には、身体機能に関する情報は、日常生活における活動量の低下、他者との交流の減少、疲れやすさの有無、食べ物が喉につかえやすい又は食べ物が飲み込み辛い等の嚥下機能障害の有無等、身体全体の機能の低下に関する情報を含む。体重に関する情報は、患者の体重、BMI(Body Mass Index)等を含む。なお、体重に関する情報は、所定期間(例えば1カ月、3カ月、6カ月、1年等)での体重の減少量を含んでもよい。認知機能に関する情報は、物忘れの増加(記憶障害の増加)、失語の増加、失行の増加、失認の増加、遂行機能障害の増加等、認知機能の低下に関する情報を含む。なお、認知機能に関する情報は、HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)又はMMSE(Mini-Mental State Examination)等の認知機能検査の結果を含んでもよい。うつ症状に関する情報は、うつ状態及びうつ病に関する患者の自覚症状、医療従事者による診断結果を含む。易転倒性に関する情報は、転倒しやすさの有無、所定期間(例えば1カ月)での転倒回数を含む。
【0031】
栄養状態に関する情報は、患者が普段食べている食事の内容又は摂取している栄養成分の摂取量、直近の所定期間(例えば1日、1週間等)に食べた食事の内容又は栄養成分の摂取量等を含む。また、栄養状態に関する情報は、患者が食べた食事を撮影した写真、当該写真から画像認識によって分析した食事の内容(料理の種類、使用されている食品及び食材の種類等)を含んでもよい。また、栄養状態に関する情報は、CONUT、MNA、SGA、GLIM基準等の栄養スクリーニングツールで算出されたスコアを含んでもよい。慢性疾患に関する情報は、高血圧症、糖尿病、高脂血症(脂質異常症)等に関する医療従事者による診断結果を含む。なお、慢性疾患に関する情報は、高血圧症、糖尿病、高脂血症等に関する患者の自覚症状を含んでもよい。
【0032】
SARC-Fのスクリーニング結果は、SARC-Fにおける各質問に対して患者が行った回答、各質問に対する回答に基づいて算出されたスコアを含む。下腿周囲径は、ふくらはぎの最も太い箇所の周囲径(周囲長)である。握力は、握力計を用いて計測される。なお、握力は、計測値に加えて、所定期間(例えば1カ月、3カ月、6カ月、1年等)での握力の低下量を含んでもよい。6m歩行テストの結果は、6mを歩行するのに要する時間であり、所定期間での変化量(例えば増加量)を含んでもよい。骨格筋量は、患者の身体全体の筋肉量であり、InBody(体成分分析装置)又はDXA(Dual-energy X-ray Absorptiometry:二重エネルギーX線吸収測定)装置等を用いて計測される。骨格筋量も、所定期間での変化量(例えば減少量)を含んでもよい。
【0033】
電子カルテDB12aの記憶内容は
図2に示す例に限定されない。例えば、患者から計測した体温、血圧、心拍数、呼吸数等のバイタルデータ、患者に実施した血液検査及び尿検査等の各種検査に関する検査情報、治療に関する治療情報、手術に関する手術情報、薬の服用歴、医師等が入力したコメント等、患者に関する各種の情報が記憶されてもよい。また、検査情報は、X線画像、超音波画像、CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影法)画像、MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像法)画像、PET(Positron Emission Tomography:陽電子放出断層撮影法)画像等の医用画像を含んでもよい。
【0034】
図3は学習モデル12Mの構成例を示す説明図である。
図3に示す学習モデル12Mは、患者の症状情報を入力とし、入力された各情報に基づいて、当該患者がサルコペニアを発症しているか否か及びサルコペニアの発症リスクが高いか否かを予測する演算を行い、演算した結果を出力するように学習してある。学習モデル12Mは、例えば深層学習によって生成されるニューラルネットワークモデルであるCNN(Convolutional Neural Network)で構成される。なお、学習モデル12Mは、CNNのほかに、RNN(Recurrent Neural Network)、LSTM(Long Short-Term Memory)、Transformer、決定木、ランダムフォレスト、SVM(Support Vector Machine)等のアルゴリズムを用いて構成されてもよく、複数のアルゴリズムを組み合わせて構成されてもよい。サーバ10は、所定の訓練データを学習する機械学習を行って学習モデル12Mを事前に生成しておく。そしてサーバ10は、医療者用端末20を介して入力された患者の症状情報又は電子カルテDB12aに登録してある患者の症状情報を学習モデル12Mに入力し、学習モデル12Mからの出力情報に基づいて、患者がサルコペニアを発症しているか否か及びサルコペニアの発症リスクが高いか否かを予測する。本実施形態では、学習モデル12Mに入力される各情報は、任意のタイミングで取得された情報とするが、定期的に取得された時系列データであってもよい。
【0035】
学習モデル12Mは、入力層、中間層及び出力層を有する。入力層は、複数の入力ノードを有しており、各入力ノードには、それぞれ入力すべき情報が対応付けられている。学習モデル12Mに入力される症状情報は、身体機能に関する情報、体重減少に関する情報、認知機能に関する情報、うつ症状に関する情報、易転倒性に関する情報、栄養状態に関する情報、慢性疾患に関する情報、SARC-Fのスクリーニング結果、下腿周囲径、握力、6m歩行テストの結果、骨格筋量を含み、各入力ノードに、各情報が対応付けられている。上述したような症状情報は、それぞれ対応付けられた入力ノードを介して学習モデル12Mに入力される。
【0036】
身体機能に関する情報は、身体機能の低下度合を示す情報であり、例えば身体機能の低下に関して予め用意された項目のうちで患者に該当する項目の数(割合)を用いることができる。体重減少に関する情報は、体重の減少度合を示す情報であり、例えば所定期間(1カ月、6カ月、1年等)に5kg以上又は体重の5%以上の減少の有無を示す情報を用いることができる。認知機能に関する情報は、認知機能の低下度合を示す情報であり、例えば認知機能検査によって算出されたスコアを用いることができる。うつ症状に関する情報は、うつ症状の有無を示す情報であり、患者の自覚症状又は医療従事者による診断結果を用いることができる。易転倒性に関する情報は、転倒しやすさの有無を示す情報、所定期間(例えば1カ月)での転倒回数等を用いることができる。栄養状態に関する情報は、患者が摂取している栄養状態に関する情報であり、例えばCONUT、MNA、SGA、GLIM基準等の栄養スクリーニングツールで算出されたスコアを用いることができる。慢性疾患に関する情報は、高血圧症、糖尿病、高脂血症(脂質異常症)等の有無を示す情報を用いることができる。SARC-Fのスクリーニング結果は、SARC-Fによって算出されたスコアを用いることができる。骨格筋量は、InBody又はDXA装置等で計測された筋肉量を用いることができる。
【0037】
中間層は、各種の関数及び閾値等を用いて、入力層を介して入力された各情報から出力値を算出し、算出した出力値を出力層へ出力する。出力層は複数の出力ノードを有しており、各出力ノードには、サルコペニアを発症しているか否か又はサルコペニアの発症リスクが高いか否かを示す項目がそれぞれ対応付けられており、各出力ノードから、対応付けられた項目(状態)であると判別すべき確率(確信度)を出力する。
図3に示す例では、出力ノード0は、重症のサルコペニアを発症していると判別すべき確率を出力し、出力ノード1は、重症ではないがサルコペニアを発症していると判別すべき確率を出力し、出力ノード2は、サルコペニアは発症していないがサルコペニアの発症リスクが高いと判別すべき確率を出力し、出力ノード3は、サルコペニアの発症リスクが中程度であると判別すべき確率を出力し、出力ノード4は、サルコペニアの発症リスクが低いと判別すべき確率を出力し、出力ノード5は、サルコペニアを発症しておらず発症リスクがほぼ無いと判別すべき確率を出力する。なお、各出力ノードに対応付けられる項目は、
図3に示す例に限定されず、サルコペニアを発症しているか否かを示す項目のみでもよく、サルコペニアの発症リスクに応じた項目のみでもよい。各出力ノードの出力値は例えば0~1.0の値であり、各出力ノードから出力された確率の合計が1.0(100%)となる。上述した構成により、学習モデル12Mは、患者の症状情報が入力された場合に、サルコペニアを発症しているか否か及びサルコペニアの発症リスクに関する情報(各項目に対する確信度)を出力する。
【0038】
サーバ10は、上述した学習モデル12Mにおいて、例えば、各出力ノードからの出力値のうちで最大の出力値(確信度)を出力した出力ノードに対応付けられている項目(状態)を、予測すべき患者の状態に特定する。なお、学習モデル12Mは、それぞれの項目(状態)に対する確信度を出力する複数の出力ノードを有する代わりに、確信度が最も高い項目(状態)を出力する1個の出力ノードを有する構成でもよい。
【0039】
学習モデル12Mは、訓練用の症状情報と、当該症状情報の患者がサルコペニアを発症しているか否か又はサルコペニアの発症リスクを示す情報(正解ラベル、低栄養状態であるか否かに関する情報)とを含む訓練データを用いて、未学習の学習モデルを機械学習させることにより生成される。訓練データは、サルコペニアを発症している患者について、患者の症状情報に対して、サルコペニアの症状(重症か否か)に応じたラベル(重症サルコペニア発症、サルコペニア発症)が付与されて生成される。また、訓練データは、サルコペニアを発症していないが発症リスクのある患者について、患者の症状情報に対して、発症リスクに応じたラベル(リスク高、リスク中、リスク低)が付与されて生成される。また、訓練データは、サルコペニアの発症リスクがほぼ無い患者の症状情報に対して、リスクなしのラベルが付与されて生成される。このように生成された訓練データは、例えば記憶部12に用意された訓練DB(図示せず)に記憶される。患者の症状情報、及び、患者がサルコペニアを発症しているか否かの情報又はサルコペニアの発症リスクは、電子カルテDB12aに記憶してある患者の情報から取得することができる。
【0040】
学習モデル12Mは、訓練データに含まれる症状情報が入力された場合に、正解ラベルが示す項目に対応する出力ノードからの出力値が1.0に近づき、他の出力ノードからの出力値が0.0に近づくように学習する。学習処理において学習モデル12Mは、入力された症状情報に基づく演算を行い、各出力ノードからの出力値を算出する。そして学習モデル12Mは、算出した各出力ノードの出力値と正解ラベルに応じた値(正解ラベルが示す項目に対応する出力ノードに対しては1、それ以外の出力ノードに対しては0)とを比較し、両者が近似するように、演算処理に用いるパラメータを最適化する。当該パラメータは、学習モデル12Mにおけるニューロン間の重み等である。パラメータの最適化の方法は特に限定されないが、誤差逆伝播法、最急降下法等を用いることができる。これにより、患者の症状情報が入力された場合に、サルコペニアを発症しているか否か及びサルコペニアの発症リスクを予測し、予測結果を出力するように学習された学習モデル12Mが得られる。
【0041】
学習モデル12Mの学習は他の学習装置で行われてもよい。他の学習装置で学習が行われて生成された学習済みの学習モデル12Mは、例えばネットワークN経由又は可搬型記憶媒体10a経由で学習装置からサーバ10にダウンロードされて記憶部12に記憶される。学習モデル12Mは、
図3に示す構成に限定されない。学習モデル12Mは、患者がサルコペニアを発症しているか否か又はサルコペニアの発症リスクを予測する際に用いられる各種の情報が入力される構成とすることができる。例えば、患者の症状情報に加えて、患者の年齢、性別、身長、既往歴、治療歴、薬剤服用歴等のいずれか又は複数が入力される構成でもよい。この場合、学習モデル12Mは、症状情報だけでなく、患者の各種の情報に基づいて、サルコペニアの発症の有無及び発症リスクを予測する構成となる。また、学習モデル12Mは、年齢層及び性別によって区分される属性毎に用意されてもよい。
【0042】
以下に、訓練データを学習して学習モデル12Mを生成する処理について説明する。
図4は学習モデル12Mの生成処理手順の一例を示すフローチャートである。以下の処理は、サーバ10の制御部11が、記憶部12に記憶してあるプログラム12Pに従って行うが、他の学習装置で行われてもよい。
【0043】
サーバ10の制御部11はまず、訓練データに用いる患者の情報を電子カルテDB12aから取得して訓練データを生成し、生成した訓練データを用いて学習モデル12Mの学習を行う。例えば制御部11は、電子カルテDB12aに記憶してある各患者の情報に基づいて、サルコペニアを発症している患者がいるか否かを判断する(S11)。なお、制御部11は、この時点でサルコペニアを発症している患者に加えて、過去にサルコペニアを発症したことがある患者を検索してもよい。サルコペニアを発症している患者がいると判断した場合(S11:YES)、制御部11は、当該患者の症状情報を電子カルテDB12aから取得する(S12)。例えば制御部11は、当該患者の身体機能に関する情報、体重(体重減少)に関する情報、認知機能に関する情報、うつ症状に関する情報、易転倒性に関する情報、栄養状態に関する情報、慢性疾患に関する情報、SARC-Fのスクリーニング結果、下腿周囲径、握力、6m歩行テストの結果、骨格筋量の各情報を電子カルテDB12aから読み出す。制御部11は、取得した症状情報に対して、当該患者のサルコペニアの症状レベルに応じた正解ラベルを付けて訓練データを生成し、記憶部12に記憶する(S13)。ここでは、制御部11は、当該患者が重症のサルコペニアを発症していた場合、「重症サルコペニア発症」を示す正解ラベルを症状情報に付与し、当該患者が重症ではないがサルコペニアを発症していた場合、「サルコペニア発症」を示す正解ラベルを症状情報に付与する。
【0044】
制御部11は、ステップS11の処理に戻り、サルコペニアを発症している他の患者がいるか否かを判断し、いると判断する都度(S11:YES)、ステップS12~S13の処理を行って訓練データを生成する。これにより、サルコペニアを発症している患者の情報に基づいて、学習モデル12Mの学習に用いる訓練データを生成して蓄積できる。制御部11は、サルコペニアを発症している患者がいないと判断した場合(S11:NO)、サルコペニアを発症していないが発症リスクのある患者がいるか否かを判断する(S14)。発症リスクのある患者がいると判断した場合(S14:YES)、制御部11は、当該患者の症状情報を電子カルテDB12aから取得する(S15)。ここでは制御部11は、ステップS12と同様の情報を電子カルテDB12aから読み出す。そして、制御部11は、取得した症状情報に対して、発症リスクに応じた正解ラベルを付けて訓練データを生成し、記憶部12に記憶する(S16)。ここでは、制御部11は、当該患者のサルコペニアの発症リスクが高い場合、「サルコペニアリスク高」を示す正解ラベルを症状情報に付与し、発症リスクが中程度である場合、「サルコペニアリスク中」を示す正解ラベルを症状情報に付与し、発症リスクが低い場合、「サルコペニアリスク低」を示す正解ラベルを症状情報に付与する。
【0045】
制御部11は、ステップS11の処理に戻り、サルコペニアを発症している患者がいないと判断した場合(S11:NO)、発症リスクのある他の患者がいるか否かを判断し(S14)、いると判断する都度(S14:YES)、ステップS15~S16の処理を行って訓練データを生成する。これにより、発症リスクのある患者の情報に基づいて、学習モデル12Mの学習に用いる訓練データを生成して蓄積できる。制御部11は、サルコペニアの発症リスクのある患者がいないと判断した場合(S14:NO)、サルコペニアを発症しておらず発症リスクがほぼ無い患者がいるか否かを判断する(S17)。発症リスクがほぼ無い患者がいると判断した場合(S17:YES)、制御部11は、当該患者の症状情報を電子カルテDB12aから取得する(S18)。そして、制御部11は、取得した症状情報に対して、「サルコペニアなし」を示す正解ラベルを付けて訓練データを生成し、記憶部12に記憶する(S19)。
【0046】
制御部11は、ステップS11の処理に戻り、サルコペニアを発症している患者がいないと判断し(S11:NO)、発症リスクのある患者がいないと判断した場合(S14:NO)、発症リスクがほぼ無い他の患者がいるか否かを判断し(S17)、いると判断する都度(S17:YES)、ステップS18~S19の処理を行って訓練データを生成する。これにより、サルコペニアを発症しておらず発症リスクがほぼ無い患者の情報に基づいて、学習モデル12Mの学習に用いる訓練データを生成して蓄積できる。
【0047】
制御部11は、発症リスクがほぼ無い患者がいないと判断した場合(S17:NO)、蓄積した訓練データを用いて学習モデル12Mの学習処理を行う(S20)。ここでは、制御部11は、訓練データに含まれる症状情報を学習モデル12Mに入力し、各出力ノードからの出力値を取得する。制御部11は、各出力ノードの出力値と、正解ラベルに応じた値(正解の項目に対応する出力ノードに対しては1、その他の出力ノードに対しては0)とを比較し、両者が近似するように、例えば誤差逆伝播法を用いて、学習モデル12Mにおけるニューロン間の重み等のパラメータを最適化する。
【0048】
制御部11は、ステップS13,S16,S19で蓄積した訓練データのうちで、学習処理が行われていない訓練データ(未処理の訓練データ)があるか否かを判断する(S21)。未処理の訓練データがあると判断した場合(S21:YES)、制御部11は、ステップS20の処理に戻り、未処理の訓練データを用いて学習処理を繰り返す。未処理の訓練データがないと判断した場合(S21:NO)、制御部11は一連の処理を終了する。
【0049】
上述した処理により、患者の症状情報が入力された場合に、当該患者がサルコペニアを発症しているか否か又は発症リスクを示す情報を出力するように学習された学習モデル12Mが生成される。なお、上述したような訓練データを用いた学習処理を繰り返し行うことにより、学習モデル12Mを更に最適化することができる。また、既に学習済みの学習モデル12Mについても、上述した処理を行うことによって再学習させることができ、この場合、判別精度がより高い学習モデル12Mを生成できる。また、年齢層及び性別によって区分される属性毎に訓練データを学習させることにより、各属性に応じた学習モデル12Mを生成してもよい。また、医療機関毎に訓練データを学習させることにより、各医療機関に応じた学習モデル12Mを生成してもよい。患者に行われる検査の種類及び治療内容は、医療機関における治療方針に応じて多少異なるので、医療機関毎に学習モデル12Mを生成することにより、各医療機関で行われる検査及び治療内容を考慮して、サルコペニアリスクを発症しているか否か又は発症リスクの予測が可能となる。
【0050】
以下に、例えば医師が患者の診察中に、上述した処理によって生成された学習モデル12Mを用いて、当該患者がサルコペニアを発症しているか否か及び発症リスクを予測して医師に提示する処理について説明する。
図5はサルコペニアの可能性の予測処理手順の一例を示すフローチャート、
図6は医療者用端末20の画面例を示す説明図である。以下の処理は、医療者用端末20の制御部21が、記憶部22に記憶してあるプログラム22Pに従って行うと共に、サーバ10の制御部11が、記憶部12に記憶してあるプログラム12Pに従って行う。
【0051】
例えば医師は、患者の診察中に、患者から症状に関する情報を聞き取り、聞き取った情報を、医療者用端末20を用いてサーバ10の電子カルテDB12aに登録する操作を行う。このとき、医師は、患者の各種の症状からサルコペニアを発症しているか否か又は発症リスクが高いか否か(以下では、サルコペニアの可能性という)を判断(診断)したい場合、サルコペニアの可能性を判断する際に用いる、患者の症状に関する情報を入力し、入力した情報に基づいてサルコペニアの可能性を予測する処理をサーバ10に実行させ、予測結果をサーバ10から取得する。よって、医療者用端末20の制御部21は、入力部24を介して、サルコペニアの可能性の予測処理の実行指示を受け付けた場合、患者の症状情報を入力するための症状入力画面を表示部25に表示する(S31)。
【0052】
図6Aは症状入力画面例を示しており、
図6Aに示す画面は、患者の患者ID、氏名、年齢、及び性別を表示している。これらの情報は、電子カルテDB12aから読み出されて症状入力画面に表示される。
図6Aに示す画面は、現在時刻を表示し、現在時刻における患者の症状に関する症状情報を入力するための入力欄を有する。具体的には、身体機能に関する情報の入力欄、体重減少に関する情報の入力欄、認知機能に関する情報の入力欄、うつ症状に関する情報の入力欄、易転倒性に関する情報の入力欄、栄養状態に関する情報の入力欄、慢性疾患に関する情報の入力欄、SARC-Fのスコアの入力欄、下腿周囲径の入力欄、握力の入力欄、6m歩行テストの結果の入力欄、骨格筋量の入力欄等が設けられている。各入力欄は、任意の情報又は数値を入力できる構成でもよく、複数の選択肢の中から任意の1つを選択できるプルダウンメニュー又はラジオボタンが設けられている構成でもよく、複数の選択肢の中から任意の複数を選択できるチェックボックスが設けられている構成でもよい。
図6Aに示す例では、身体機能に関する情報の入力欄には、身体機能の低下に関する各項目を選択できるチェックボックスが設けられており、認知機能に関する情報の入力欄には、認知機能の低下に関する各項目を選択できるチェックボックスが設けられている。うつ症状に関する情報の入力欄には、うつ症状の有無のいずれかを選択できるラジオボタンが設けられており、易転倒性に関する情報の入力欄には、易転倒性の有無のいずれかを選択できるラジオボタンが設けられている。栄養状態に関する情報の入力欄には、栄養状態の判定に用いるスクリーニングツールのいずれかを選択できるプルダウンメニューと、選択されたスクリーニングツールのスコアの入力欄とが設けられている。慢性疾患に関する情報の入力欄は、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、その他の疾患を選択できるチェックボックスと、その他の疾患の入力欄とが設けられている。
図6Aに示す画面は、上述した入力欄に加えて、サルコペニアの可能性の判断に用いられる他の症状情報の入力欄を有する構成でもよい。また
図6Aに示す画面は、各入力欄に入力された情報に基づいて、患者がサルコペニアを発症しているか否か又は発症リスク(サルコペニアの可能性)を判定する処理の実行を指示するための判定ボタンを有する。
【0053】
医師等の医療従事者は、
図6Aに示す画面中の各入力欄に対して、患者の症状を示す各情報を入力し、サルコペニアの可能性を判定したい場合に判定ボタンを操作する。医療者用端末20の制御部21は、
図6Aに示す画面中の各入力欄に対して、患者の症状情報の入力を受け付けたか否かを判断しており(S32)、受け付けていないと判断した場合(S32:NO)、待機する。制御部21は、患者の症状情報の入力を受け付けたと判断した場合(S32:YES)、入力された症状情報をそれぞれの入力欄に表示する(S33)。なお、各入力欄に対する情報は、医療者用端末20の入力部24を介して入力されるほかに、電子カルテDB12aに記憶されている情報をサーバ10から取得して入力されてもよい。また、医療者用端末20と、各種の計測器、あるいは、患者本人又は患者の家族等の端末とを連携させることにより、医療者用端末20が計測器による計測結果、並びに、患者本人又は患者の家族等が端末を用いて入力した情報を取得して各入力欄に入力する構成でもよい。例えば、医療者用端末20が、体重計で計測された患者の体重を体重計から取得し、過去の計測結果と比較して体重の減少量を算出し、算出した減少量を、体重減少の入力欄に入力してもよい。また、医療者用端末20が、握力計で計測された患者の握力を握力計から取得して握力の入力欄に入力してもよい。また、医療者用端末20が、下腿周囲径を計測したメジャーから計測結果を取得して下腿周囲径の入力欄に入力してもよく、6m歩行テストで使用したストップウォッチから計測結果を取得して6m歩行テストの入力欄に入力してもよい。また、医療者用端末20が、骨格筋量を計測したInBody又はDXA装置等から計測結果を取得して骨格筋量の入力欄に入力してもよい。なお、上述した各計測器による計測結果は、患者本人又は患者の家族等の端末を経由して医療者用端末20へ送信されてもよく、この場合、患者本人又は患者の家族等の端末が、各計測器から取得した計測結果を医療者用端末20へ送信する。
【0054】
制御部21は、
図6Aに示す画面中の判定ボタンが操作されたか否かを判断し(S34)、操作されていないと判断した場合(S34:NO)、ステップS32の処理に戻り、各入力欄に対する症状情報の入力受付を継続する。判定ボタンが操作されたと判断した場合(S34:YES)、制御部21は、入力された症状情報をサーバ10へ送信する(S35)。サーバ10の制御部11(取得部)は、医療者用端末20から送信された症状情報を取得し、取得した症状情報に基づいて、当該患者のサルコペニアの可能性を予測する(S36)。具体的には、制御部11は、医療者用端末20において
図6Aに示す画面を介して入力された症状情報を学習モデル12Mに入力し、学習モデル12Mからの出力値に基づいて、サルコペニアの可能性を予測する。例えば制御部11は、学習モデル12Mからの出力値のうちで最大の出力値(確信度)を出力した出力ノードを特定し、特定した出力ノードに対応付けられている項目を、当該患者のサルコペニアの可能性に特定する。
【0055】
なお、制御部11は、身体機能に関する情報として、
図6Aに示す画面に表示された項目のうちで選択された項目数の割合を算出し、算出した割合を学習モデル12Mに入力する。また制御部11は、認知機能に関する情報として、
図6Aに示す画面に表示された項目のうちで選択された項目数の割合を算出し、算出した割合を学習モデル12Mに入力する。又は、制御部11は、認知機能に関する情報として、選択された項目に対応する情報(入力値)を学習モデル12Mに入力してもよい。また制御部11は、うつ症状に関する情報として、有又は無に対応する情報(入力値)を学習モデル12Mに入力し、易転倒性に関する情報として、有又は無に対応する情報(入力値)、又は所定期間(例えば1カ月)での転倒回数を学習モデル12Mに入力する。また制御部11は、栄養状態に関する情報として、選択された栄養スクリーニングツールに対応する情報及び当該ツールで算出されたスコアを学習モデル12Mに入力する。また制御部11は、慢性疾患に関する情報として、
図6Aに示す画面に表示された病名のうちで選択された病名の割合、又は、選択された病名に対応する情報を学習モデル12Mに入力する。
【0056】
制御部11(出力部)は、予測した結果を医療者用端末20へ送信する(S37)。医療者用端末20の制御部21は、サーバ10から送信された予測結果を取得し、取得した予測結果を、例えば
図6Bに示すように症状入力画面の上に表示する(S38)。
図6Bに示す例では、サルコペニアのリスクが高いことを通知するメッセージが表示されて医療従事者に提示されている。これにより、医療従事者は、患者の症状情報に基づいて予測されたサルコペニアの可能性(例えば発症リスクが高いこと)を把握できる。なお、医療者用端末20がスピーカ等の音声出力部を有する場合、制御部21は、メッセージの表示に加えて、メッセージを音声出力することにより医療従事者に通知する構成でもよい。
【0057】
図6Bに示す画面によってサルコペニアの可能性を提示された場合、医師は、サルコペニアの発症の有無及び発症リスクについて確定診断を行い、確定診断の結果に基づいて、患者に必要な処置を決定する。ここでの処置は、患者に不足している栄養成分を摂取できる栄養剤の投与等の栄養介入に関する処置、スクワット又は散歩等の運動の実施等の運動介入に関する処置を含む。
【0058】
図6Bに示す画面には、サルコペニアの可能性に関するメッセージに加えて、当該メッセージ(予測結果)を電子カルテDB12aに保存する指示を行う保存ボタンと、当該メッセージの表示の終了指示を行う閉じるボタンとが設けられている。よって、保存ボタンが操作された場合、医療者用端末20の制御部21は、表示されたメッセージ(予測結果)をサーバ10へ送信して電子カルテDB12aに記憶させる。一方、閉じるボタンが操作された場合、制御部21は、メッセージの表示を終了すると共に、症状入力画面の表示を終了し、サルコペニアの可能性の判定処理を終了する。
【0059】
上述した処理により、患者の症状情報に基づいて当該患者がサルコペニアを発症しているか否か及びサルコペニアの発症リスクが予測されて通知される。よって、例えば医師が、患者に対してサルコペニアの確定診断を行う際に、患者の症状情報から予測されるサルコペニアの可能性を把握できる。サルコペニアの診断は、診断ガイドラインに準拠して行われるが、基礎疾患の有無等に応じて診断手順が複雑となり、早期にかつ正確に行うことは難しい。また現状では、例えば患者の体重が急激に減少して初めてサルコペニアを疑い、診断の結果、サルコペニアの発症が発覚することが多い。そこで、本実施形態では、サルコペニアを発症する前であってもサルコペニアの発症リスクを把握できるので、サルコペニアの発症前に対策を行うことが可能となる。また、本実施形態のシステムを用いることにより、医療従事者の経験値にかかわらず正確な診断が可能となり、例えば経験の浅い医師、栄養の知識が乏しい医師であっても、サルコペニアの発症の見落としを抑制して早期に発見することが可能となる。その結果、医療機関間で生じる診断精度の差異を抑制することが可能となる。また、本実施形態では、学習モデル12Mを用いて、患者の症状情報からサルコペニアの可能性を予測するので、膨大な訓練データを学習させた学習モデル12Mを用いる場合には、より正確に予測することが可能となる。
【0060】
サルコペニアを発症した場合、筋肉量の低減及び認知機能の低下が進み、要介護状態となるリスクが高まることが知られている。また、ガンの罹患患者がサルコペニアを発症した場合、化学療法(抗がん剤治療)における副作用が強く表れ、化学療法の継続率が低下することが知られている。更に、慢性疾患を有する患者がサルコペニアを発症した場合、予後が悪く、治療の継続が難しい場合が多いことが知られている。サルコペニアを発症した場合、回復するまでに時間を要し、また、回復が困難となる場合があるので、サルコペニアの発症前に、又は軽症のうちに、サルコペニアの発症の有無及び発症リスクを発見することが重要である。よって、本実施形態のシステムを用いて、例えばサルコペニアの発症前にサルコペニアの発症リスクを発見することにより、サルコペニアの発症リスクを早期にかつ正確に把握してサルコペニアの発症の予防及び早期介入を実現することが可能となる。これにより、要介護状態となるリスクを低減することができると共に、ガン又は慢性疾患等の患者に対しては必要な治療を行うことが可能となり、病気の回復が期待できる。
【0061】
本実施形態では、
図6Aに示す症状入力画面を介して患者の症状情報を医療従事者が入力する構成であるが、この構成に限定されない。例えば、医療者用端末20が、電子カルテDB12aに記憶してある情報をサーバ10から受信し、受信した情報を各入力欄に表示する構成でもよい。この場合、既に医師等が入力して電子カルテDB12aに登録されている情報については、症状入力画面への入力操作を省略することができ、医療従事者の操作負担を軽減できる。また、例えば患者本人、患者の家族又は介護者等が自身の端末を用いて各症状情報を入力し、入力した各情報を医療者用端末20へ送信することにより、医療者用端末20が各情報を受信して入力欄に表示する構成とすることもできる。この場合、医師等が、患者本人の端末等、患者に対応付けられている端末から取得した情報に基づいて、患者の症状及び状態を判断(診断)し、判断した結果を症状入力画面の各入力欄に入力してもよい。更に、医療者用端末20と各計測器とを連携させることにより、医療者用端末20が各計測器による計測結果を取得して各入力欄に入力する構成とすることもできる。例えば、医療者用端末20が、体重計で計測された患者の体重を取得し、過去の計測結果と比較して体重の減少量を算出し、算出した減少量を、体重減少の入力欄に入力してもよい。また、医療者用端末20が、握力計で計測された患者の握力を取得して握力の入力欄に入力してもよい。また、医療者用端末20が、下腿周囲径を計測したメジャーから計測結果を取得して下腿周囲径の入力欄に入力してもよく、6m歩行テストで使用したストップウォッチから計測結果を取得して6m歩行テストの入力欄に入力してもよい。また、医療者用端末20が、骨格筋量を計測したInBody又はDXA装置等から計測結果を取得して骨格筋量の入力欄に入力してもよい。
【0062】
また、症状入力画面は、同じ項目について、患者の自覚症状等のように患者又は患者の家族等が判断した症状情報と、医療従事者が判断した症状情報とを入力できるように構成されていてもよい。例えば、患者等が判断した症状情報の入力欄と、医療従事者が判断した症状情報の入力欄とを設けておくことにより、それぞれの症状情報の入力を受け付けることができる。患者等が判断した症状情報は、患者等が主観的に判断した結果であるが、検査等を行う必要がないので簡単にかつ迅速に取得することができ、医療従事者が判断した症状情報は、客観的で正確な情報であるので、両方の情報を収集することは好ましい。また、両方の情報を収集する構成の場合、学習モデル12Mの入力層に、同じ項目について、患者等が判断した症状情報の入力ノードと、医療従事者が判断した症状情報の入力ノードとが設けられていてもよい。この場合、患者等が判断した症状情報と、医療従事者が判断した症状情報との両方に基づいてサルコペニアの可能性を予測することができる。
【0063】
本実施形態において、サーバ10が学習モデル12Mを用いてサルコペニアの可能性を予測する処理(
図5中のステップS36の処理)を、医療者用端末20がローカルで行う構成とすることもできる。例えば、医療者用端末20の記憶部22に学習モデル12Mをダウンロードすることにより、
図5に示す全ての処理を医療者用端末20で実行することができる。この場合、医療者用端末20の制御部21は、
図5中のステップS31~S34の処理を行った後、ステップS36の処理を行い、その後、ステップS38の処理を行う。即ち、医療者用端末20が、症状入力画面において判定ボタンが操作された場合に、学習モデル12Mを用いてサルコペニアの可能性の予測処理を行い、予測した結果を表示部25に表示するように構成されてもよい。このような構成とした場合であっても、上述した本実施形態と同様の処理が可能であり、同様の効果が得られる。
【0064】
本実施形態では、患者の症状情報に基づいて、患者がサルコペニアを発症しているか否か及びサルコペニアの発症リスクを予測する構成であるが、サルコペニアの代わりに、ロコモティブシンドローム又はフレイル等の低栄養状態の可能性を予測する構成とすることもできる。ロコモティブシンドローム及びフレイルについても、サルコペニアと同様に早期発見及び早期介入が必要であり、本実施形態のシステムを用いることにより、発症前に又は軽症のうちに、正確に発症リスクを判断でき、また、医療従事者の経験値にかかわらず正確な診断が可能となる。
【0065】
(実施形態2)
患者の症状に関する時系列の症状情報に基づいて、当該患者が低栄養状態であるか否かを予測して医療従事者に提示する情報処理システムについて説明する。本実施形態においても、低栄養状態の1例として、患者がサルコペニアを発症しているか否か、及び、サルコペニアを発症するリスクが高いか否かを予測する。本実施形態の情報処理システムは、実施形態1の情報処理システムにおける各機器10,20と同様の機器を用いて実現できるので、各機器の構成についての説明は省略する。
【0066】
図7は実施形態2の学習モデルの構成例を示す説明図である。
図7Aに示すように、本実施形態の学習モデル12M1は、
図3に示す実施形態1の学習モデル12Mと同様の構成を有する学習モデル12M2と、体重減少認識モデル12M3とを有する。本実施形態の学習モデル12M1も、患者の症状情報が入力された場合に、当該患者がサルコペニアを発症しているか否か及び発症リスクを示す情報を出力する構成を有する。本実施形態の学習モデル12M1に入力される症状情報は、時系列データであり、例えば定期的に計測された計測結果及び定期的に判定された判定結果の時系列データであってもよい。例えば学習モデル12M1は、1カ月毎、3カ月毎、6カ月毎、1年毎の計測結果及び判定結果を時系列データとして入力されるように構成される。
図7Aに示す例では、学習モデル12M1に入力された体重の時系列データは、体重減少認識モデル12M3に入力され、体重減少認識モデル12M3が体重の時系列データに基づいて判定した体重の減少の有無が、学習モデル12M2に入力される。
【0067】
図7Bは体重減少認識モデル12M3の構成例を示しており、
図7Bに示す体重減少認識モデル12M3は、定期的に計測された体重の時系列データを入力とし、入力されたデータに基づいて、当該患者の体重が減少しているか否かを判別する演算を行い、演算した結果(体重減少の有無)を出力するように学習してある。体重減少認識モデル12M3は、例えばCNN、RNN等のアルゴリズムを用いて構成され、複数のアルゴリズムを組み合わせて構成されてもよい。
図7Bに示す体重減少認識モデル12M3は2つの出力ノードを有しており、出力ノード0は、体重減少が発生していると判別すべき確率を出力し、出力ノード1は、体重減少が発生していないと判別すべき確率を出力する。各出力ノードの出力値は例えば0~1.0の値であり、各出力ノードから出力された確率の合計が1.0(100%)となる。上述した構成により、体重減少認識モデル12M3は、患者の体重の時系列データが入力された場合に、患者に体重減少が発生しているか否かを示す情報(体重減少あり又は体重減少なしに対する確信度)を出力する。サーバ10は、上述した体重減少認識モデル12M3において、各出力ノードからの出力値のうちで最大(大きい方)の出力値(確信度)を出力した出力ノードに対応付けられている状態を、予測すべき状態に特定し、特定した結果を後段の学習モデル12M2に入力する。なお、体重減少認識モデル12M3は、体重減少の有無のそれぞれに対する確信度を出力する2つの出力ノードを有する代わりに、確信度が最も高い状態(体重減少あり又はなし)を出力する1つの出力ノードを有する構成でもよい。
【0068】
体重減少認識モデル12M3は、訓練用の体重の時系列データと、体重減少が発生しているか否かを示す情報(正解ラベル)とを含む訓練データを用いて、未学習の学習モデルを機械学習させることにより生成される。訓練データは、体重減少が発生している患者の体重の時系列データに対して、体重減少ありを示すラベルが付与されて生成される。また、訓練データは、体重減少が発生していない患者の体重の時系列データに対して、体重減少なしを示すラベルが付与されて生成される。なお、体重減少ありと判断される状況は、例えば1カ月以内に5kg以上又は体重の5%以上が減少した場合としてもよく、1年以内に5kg以上又は体重の5%以上が減少した場合としてもよい。体重減少認識モデル12M3は、訓練用の体重の時系列データが入力された場合に、正解ラベルが示す状態(体重減少の有無)に対応する出力ノードからの出力値が1.0に近づき、他の出力ノードからの出力値が0.0に近づくように学習する。ここでも、体重減少認識モデル12M3は、ニューロン間の重み等を、誤差逆伝播法、最急降下法等を用いて最適化して学習処理を行う。これにより、患者の体重の時系列データが入力された場合に、体重減少が発生しているか否かを予測し、予測結果を出力するように学習された体重減少認識モデル12M3が得られる。なお、体重減少認識モデル12M3は、例えば高齢者用、ガンの罹患患者用、慢性疾患の罹患患者用等、患者の状況毎に用意されてもよい。
【0069】
本実施形態の学習モデル12M1に入力される他の情報についても、体重の時系列データと同様に、各情報の時系列データから各症状に関する情報を認識するモデルを用意し、各モデルから出力された情報が学習モデル12M2に入力されるように構成してもよい。例えば、身体機能に関する時系列データに基づいて身体機能の低下の有無又は低下レベルを判定するモデルを用意し、当該モデルに身体機能に関する時系列データを入力し、当該モデルから出力された身体機能の低下の有無又は低下レベルが学習モデル12M2に入力される構成としてもよい。また、認知機能に関する時系列データに基づいて認知機能の低下の有無又は低下レベルを判定するモデルを用意し、当該モデルに認知機能に関する時系列データを入力し、当該モデルから出力された認知機能の低下の有無又は低下レベルが学習モデル12M2に入力される構成としてもよい。他の各情報についても同様であり、各情報の時系列データが学習モデル12M2に入力される構成でもよく、学習モデル12M2の前段に設けられた各モデルを用いて各情報の時系列データから各症状に関する情報を取得し、得られた情報が学習モデル12M2に入力される構成でもよい。
【0070】
上述した構成の学習モデル12M1を用いる場合であっても、医療者用端末20及びサーバ10は、
図5と同様の処理の実行が可能であり、患者の症状情報からサルコペニアの可能性を予測して提示する処理を行うことができる。なお、
図5中のステップS35において、医療者用端末20の制御部21は、症状入力画面を介して入力された症状情報に加えて、過去に症状入力画面を介して入力された症状情報をサーバ10へ送信する。これにより、サーバ10は、患者の症状情報の時系列データを取得することができる。なお、過去に症状入力画面を介して入力された症状情報は、電子カルテDB12aに記憶されていてもよく、この場合、制御部11は、過去の症状情報を電子カルテDB12aから読み出し、医療者用端末20から取得した症状状態と共に症状情報の時系列データとして取得する。また、
図5中のステップS36において、サーバ10の制御部11は、症状状態の時系列データを学習モデル12M1に入力する。その際、体重の時系列データは体重減少認識モデル12M3に入力され、体重の時系列データのように学習モデル12M2の前段に患者の症状を認識するためのモデルが用意された情報については、各情報の時系列データを各モデルに入力する。この場合、体重減少認識モデル12M3及び他のモデルから出力された各症状に関する情報が学習モデル12M2に入力され、制御部11は、学習モデル12M2からの出力値に基づいて、サルコペニアの可能性を予測できる。
【0071】
本実施形態においても、上述した実施形態1の情報処理システムと同様の効果が得られる。また本実施形態では、患者の症状情報の時系列データを用いて患者がサルコペニアを発症しているか否か及び発症リスクを予測するので、より精度の高い予測結果を得ることができる。
【0072】
上述した各実施形態において、学習モデル12M,12M1の出力層は、
図3及び
図7に示すように、サルコペニアを発症しているか否か及び発症リスクを示す情報に限定されない。例えば、現時点でサルコペニアを発症していることを示す項目、現時点ではサルコペニアを発症していないが所定期間(例えば3カ月、6カ月、1年)の経過後にサルコペニアを発症している可能性(高中低の各可能性)を示す項目が、各出力ノードに対応付けられていてもよい。この場合、現時点での発症リスクだけでなく、所定期間経過後の発症リスクを予測できるので、将来の発症リスクを考慮した対策を行うことによりサルコペニアを確実に予防することができる。なお、この場合、サルコペニアを発症した患者の症状情報のうちで、発症の所定期間前の症状情報を訓練データに用いて学習することにより、所定期間経過後の発症リスクを予測できる学習モデル12M,12M1を生成することができる。
【0073】
本実施形態の構成は、実施形態1の情報処理システムに適用可能であり、実施形態1の情報処理システムに適用した場合であっても同様の効果が得られる。また、本実施形態においても、上述した実施形態1で適宜説明した変形例の適用が可能である。
【0074】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
10 サーバ
11 制御部
12 記憶部
13 通信部
14 入力部
15 表示部
20 医療者用端末
21 制御部
22 記憶部
23 通信部
24 入力部
25 表示部
12a 電子カルテDB
12M 学習モデル
12M1 学習モデル