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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047320
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】樹脂ライニングの成型方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20240329BHJP
   B29C 45/78 20060101ALI20240329BHJP
   B29C 45/73 20060101ALI20240329BHJP
   B29C 35/04 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/78
B29C45/73
B29C35/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152872
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 浩史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼本 祐輔
【テーマコード(参考)】
4F202
4F203
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AD12
4F202AG03
4F202AG25
4F202AP05
4F202AR20
4F202CA11
4F202CB01
4F202CB12
4F202CN05
4F202CN13
4F202CN25
4F203AD12
4F203AG03
4F203AG25
4F203AP05
4F203AR20
4F203DA04
4F203DB01
4F203DC28
4F203DD09
4F203DK02
4F203DK08
4F203DM02
4F203DM09
4F206AD12
4F206AG03
4F206AG25
4F206AK02
4F206AP05
4F206AR20
4F206JA07
4F206JB12
4F206JF05
4F206JL02
4F206JM05
4F206JN43
4F206JP11
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】樹脂の結晶化度の信頼性の確保およびタクトタイムの短縮のトレードオフを解消することを課題とする。
【解決手段】樹脂ライニングの成型方法は、基材が装着された金型に樹脂を圧入する工程と、仕様として要求される樹脂の結晶化度の指定を受け付ける工程と、樹脂の結晶化度および樹脂の冷却を開始する冷却開始温度の対応関係が定義された対応関係データのうち、指定が受け付けられた結晶化度に対応する冷却開始温度に基づいて、金型への圧入後の樹脂を冷却する工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂ライニングの成型方法であって、
基材が装着された金型に樹脂を圧入する工程と、
仕様として要求される樹脂の結晶化度の指定を受け付ける工程と、
樹脂の結晶化度および前記樹脂の冷却を開始する冷却開始温度の対応関係が定義された対応関係データのうち、前記指定が受け付けられた結晶化度に対応する冷却開始温度に基づいて、前記金型への圧入後の樹脂を冷却する工程と、
を含むことを特徴とする成型方法。
【請求項2】
前記冷却する工程は、前記基材または前記金型の温度が測定される複数の測定点のうち温度が前記冷却開始温度まで低下した測定点から順に冷却を開始することを特徴とする請求項1に記載の成型方法。
【請求項3】
前記冷却する工程は、第1の位置に対応する第1の測定点の温度が前記冷却開始温度に低下した場合、前記第1の位置の高さまで水位を上昇させ、前記第1の位置よりも高い第2の位置に対応する第2の測定点の温度が前記冷却開始温度に低下した場合、前記第2の位置の高さまで水位を上昇させることを特徴とする請求項2に記載の成型方法。
【請求項4】
前記測定点の温度は、熱電対、放射温度計またはサーモカメラにより測定されることを特徴とする請求項2に記載の成型方法。
【請求項5】
前記冷却する工程は、前記指定が受け付けられた結晶化度に対応する冷却開始温度に前記樹脂の温度が低下するまで前記樹脂を徐冷し、前記樹脂の温度が前記冷却開始温度に低下すると前記樹脂を急冷することを特徴とする請求項1に記載の成型方法。
【請求項6】
前記対応関係データは、前記結晶化度の実測値および前記冷却開始温度の実測値を含む実測データに対する回帰分析により生成されることを特徴とする請求項1に記載の成型方法。
【請求項7】
前記基材は、電磁流量計検出器の測定管であることを特徴とする請求項1に記載の成型方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ライニングの成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ライニング材の1つとして、フッ素樹脂などの結晶性樹脂が用いられる。このような結晶性樹脂がライニング材として用いられる場合、融点以上まで加熱された樹脂を金型に圧入してから冷却する成型方法により、樹脂の成型品が製造される。
【0003】
樹脂の冷却に関する技術の例として、特許文献1~3に記載の技術がある。例えば、特許文献1の技術では、樹脂成形品の温度と結晶化度との相関関係に基づいて、樹脂温度分布データに対応した結晶化度分布データを作成し、この樹脂温度分布データ及びヤング率分布データを用いて、常温に冷却された樹脂成形品の変形を予測する。また、特許文献2の技術では、金型内に樹脂を充填した後、金型内を保圧し続けながら、少なくとも金型の周囲を冷却する冷却水Wの水位を金型のベント側からゲート側に向かって移動させる(上昇させる)ことで、ゲート側が固化しにくい温度分布を作る。さらに、特許文献3の技術では、押出金型からの管状溶融樹脂を冷却マンドレルで拡径し、冷却マンドレルのコイルに通水中の温水でこの拡径管状樹脂を徐冷する。これにより、冷却マンドレルを通過した管状樹脂は引張りにより縮径されつつフォーミングチューブへと走行されていく。この間、引張りにより、樹脂(の分子鎖)が強制的に伸ばされ、この伸びた状態で(分子鎖が)、直ちに冷却水槽による急冷で凍結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-154124号公報
【特許文献2】特開2004-276284号公報
【特許文献3】特開平08-066963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1~3に代表される従来技術では、樹脂の結晶化度の信頼性の低下、あるいはタクトタイムの長期化のいずれかを受け入れざるを得ない。例えば、金型への樹脂圧入後にタクトタイム短縮の側面から早いタイミングで冷却を開始しすぎると、成型状態として形状は良好であるものの、結晶化が十分に進行せず、信頼性を確保できない。一方、十分な結晶化度を確保しようとすると、冷却を開始するまでの期間が長期化するので、タクトタイムが長期化する。このように、樹脂の結晶化度の信頼性の確保およびタクトタイムの短縮のトレードオフを解消するのが困難である側面がある。
【0006】
さらに、たとえ特許文献1に記載された樹脂温度分布データにしたがって特許文献2や特許文献3に記載の冷却や急冷を行ったとしても、樹脂の結晶化度の信頼性の確保およびタクトタイムの短縮のトレードオフを解消するのは困難である。なぜなら、上記の特許文献1で言う「温度」は、そもそもシミュレーション解析における変形予測のためのパラメータであって樹脂の冷却を開始する温度を制御するためのものではないからである。このような樹脂温度分布データにしたがって冷却を実施したとしても、樹脂の結晶化度に過大なマージンが確保される裏側で膨大なタクトタイムが消費されるか、あるいはタクトタイムは短縮できても仕様上の最低限の結晶化度を確保できない事態に陥ることになる。
【0007】
本願はこのような課題を解決するためのものであり、樹脂の結晶化度の信頼性の確保およびタクトタイムの短縮のトレードオフを解消することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に係る樹脂ライニングの成型方法は、基材が装着された金型に樹脂を圧入する工程と、仕様として要求される樹脂の結晶化度の指定を受け付ける工程と、樹脂の結晶化度および前記樹脂の冷却を開始する冷却開始温度の対応関係が定義された対応関係データのうち、前記指定が受け付けられた結晶化度に対応する冷却開始温度に基づいて、前記金型への圧入後の樹脂を冷却する工程と、を含む。
【0009】
上記の樹脂ライニングの成型方法において、前記冷却する工程は、前記基材または前記金型の温度が測定される複数の測定点のうち温度が前記冷却開始温度まで低下した測定点から順に冷却を開始してもよい。
【0010】
上記の樹脂ライニングの成型方法において、前記冷却する工程は、第1の位置に対応する第1の測定点の温度が前記冷却開始温度に低下した場合、前記第1の位置の高さまで水位を上昇させ、前記第1の位置よりも高い第2の位置に対応する第2の測定点の温度が前記冷却開始温度に低下した場合、前記第2の位置の高さまで水位を上昇させてもよい。
【0011】
上記の樹脂ライニングの成型方法において、前記測定点の温度は、熱電対、放射温度計またはサーモカメラにより測定されてもよい。
【0012】
上記の樹脂ライニングの成型方法において、前記冷却する工程は、前記指定が受け付けられた結晶化度に対応する冷却開始温度に前記樹脂の温度が低下するまで前記樹脂を徐冷し、前記樹脂の温度が前記冷却開始温度に低下すると前記樹脂を急冷してもよい。
【0013】
上記の樹脂ライニングの成型方法において、前記対応関係データは、前記結晶化度の実測値および前記冷却開始温度の実測値を含む実測データに対する回帰分析により生成されてもよい。
【0014】
上記の樹脂ライニングの成型方法において、前記基材は、電磁流量計検出器の測定管であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
上記樹脂ライニングの成型方法によれば、樹脂の結晶化度の信頼性の確保およびタクトタイムの短縮のトレードオフを解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、樹脂ライニングの成型方法の流れを示すフローチャートである。
図2図2は、基材および金型の断面図である。
図3図3は、冷却開始温度および結晶化度の実測結果を示す図である。
図4図4は、対応関係データの一例を示す図である。
図5図5は、冷却開始温度の決定例を示す模式図である。
図6図6は、温度および水位の経時変化を示す図である。
図7図7は、段階注水を示す模式図である。
図8図8は、基材および金型の断面図である。
図9図9は、温度および水位の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本願に係る樹脂ライニングの成型方法の実施の形態(以下、「実施形態」と記載)について説明する。
【0018】
図1は、樹脂ライニングの成型方法の流れを示すフローチャートである。図1に示すように、ステップS1では、配管や容器などの基材に装着された金型へ樹脂が圧入される。
【0019】
図2は、基材および金型の断面図である。図2には、基材のあくまで一例として、電磁流量計検出器の測定管1が挙げられている。図2に示すように、測定管1には、測定管1の中空を介して下金型2Aおよび上金型2Bが装着される。
【0020】
例えば、測定管1の中空が下金型2Aの凸部により貫通された状態で、測定管1が下金型2Aの基部に載置される。さらに、測定管1の上面には、下金型2Aの凸部および上金型2Bの凹部が正対すると共に上金型2Bの凹部が鉛直方向Zの下方向に向けられた状態で、上金型2Bの凹部が載置される。このように測定管1に装着された下金型2Aおよび上金型2Bのことを指して「金型2」と表記する場合がある。
【0021】
これら測定管1の内面および金型2の外面の間には、ライニング材である樹脂4を充填させるためのギャップが設けられる。このギャップは、測定管1に被覆させるライニングの幅に応じて設定することができる。
【0022】
さらに、上金型2Bの上面には、樹脂POT3が載置される。例えば、樹脂POT3には、樹脂POT3の底部を貫通する開孔が設けられており、上金型2Bにも、上金型2Bの上面を貫通する開孔が設けられている。これら樹脂POT3の底部の開孔および上金型2Bの上面の開孔が正対する状態で樹脂POT3が上金型2Bの上面に載置される。
【0023】
このような成型設備の下、ステップS1では、樹脂4が樹脂POT3から測定管1および金型2のギャップへ圧入される。以下、測定管1の開口部のうち樹脂4が最初に充填される側(樹脂POT3側)のことを「ゲート側」と表記すると共に、樹脂4が最後に充填される側のことを「ベント側」と表記する。
【0024】
例えば、図2に示す例で言えば、樹脂POT3から圧入される樹脂4(ドット模様のハッチング部分)は、白抜きの矢印で示された通り、ゲート側に充填された後にベント側へ充填される。この結果、樹脂4は、図2に示すドット模様のハッチング部分の通り、測定管1および金型2のギャップに充填される。
【0025】
次に、ステップS2では、成型品の仕様として要求される樹脂の結晶化度の指定を受け付ける。このような仕様のあくまで一例として、成型品に備わるのが好ましい最低限度の結晶化度を受け付けることができる。
【0026】
最後に、ステップS3では、樹脂の結晶化度および樹脂の冷却を開始する冷却開始温度の対応関係が定義された対応関係データのうち、ステップS2で指定が受け付けられた結晶化度に対応する冷却開始温度に基づいて、金型2への圧入後の樹脂4を冷却する。
【0027】
ここで、上記の対応関係データの生成例について説明する。図3は、冷却開始温度および結晶化度の実測結果を示す図である。図3には、あくまで一例として、下記に挙げるパターン1~パターン3の3パターンの冷却条件における実証実験の結果が示されている。なお、図3に記載の「ゲート側」、「中央」および「ベント側」は、図2に示す測定点5A、測定点5Cおよび測定点5Eに対応する。
【0028】
パターン1では、口径「100A」の測定管1のゲート側、中央およびベント側に対する水冷による冷却が一括で開始された例が示されている。このように一括で冷却が開始されたタイミングにおけるゲート側、中央およびベント側の各々の温度の測定結果は、270℃、250℃、230℃である。
【0029】
このような温度測定は、あくまで一例として、測定管1の測定点5A、測定点5Cおよび測定点5Eの各々に熱電対を貼り付けることにより実現できる。これに限らず、温度測定は、放射温度計やサーモカメラなどの他の手段により実現されてよい。なお、ここでは、あくまで一例として、熱電対が指示する測定管1の測定点5の表面温度を測定点5の樹脂温度と仮定する例を挙げるが、樹脂温度そのものを測定することを妨げない。
【0030】
上記のパターン1の冷却条件で得られた測定管1は、水中置換法などに代表される比重測定手段により、測定管1のゲート側、中央およびベント側の各々における樹脂の比重を測定できる。
【0031】
上記の比重測定手段で測定された比重「2.142」、「2.146」および「2.15」と、あらかじめ導出済みである比重および結晶化度の相関データとが照合される。これにより、比重「2.142」、「2.146」および「2.15」は、結晶化度「38%」、「40%」および「41%」へ換算できる。
【0032】
また、パターン2では、口径「100A」の測定管1のゲート側、中央およびベント側の各々の温度が200℃になったタイミングで水冷による冷却が段階的に開始された例が示されている。
【0033】
上記のパターン2の冷却条件で得られた測定管1のゲート側、中央およびベント側の各々における樹脂の結晶化度は、結晶化度「43%」、「43%」および「43%」である。
【0034】
さらに、パターン3では、口径「200A」の測定管1のゲート側、中央およびベント側に対する水冷による冷却が一括で開始された例が示されている。このように一括で冷却が開始されたタイミングにおけるゲート側、中央およびベント側の各々の温度の測定結果は、275℃、265℃、270℃である。
【0035】
上記のパターン3の冷却条件で得られた測定管1のゲート側、中央およびベント側の各々における樹脂の比重は、「2.142」、「2.142」および「2.142」である。これらの比重から換算される測定管1のゲート側、中央およびベント側の各々における結晶化度は、「38%」、「38%」および「38%」である。
【0036】
これらパターン1~3に例示する冷却開始温度および結晶化度の実測結果から、上記の対応関係データを生成できる。例えば、パターン1からは、冷却開始温度および結晶化度の実測値のデータ(270,38)、(250,40)および(230,41)が得られる。さらに、パターン2からは、冷却開始温度および結晶化度の実測値のデータ(200,43)、(200,43)および(200,43)が得られる。さらに、パターン3からは、冷却開始温度および結晶化度の実測値のデータ(275,38)、(265,38)および(270,38)が得られる。
【0037】
以上の計10点の実測値のデータを図示すると図4に示す通りとなる。図4は、対応関係データの一例を示す図である。図4に示すグラフの横軸は、冷却開始温度[℃]を指し、縦軸は、結晶化度[%]を指す。図4には、図3に示された冷却開始温度および結晶化度の計10点の実測値のデータが丸印でプロットされている。このような実測値のデータに対する解析処理、例えば回帰分析を実行する。これにより、図4に点線で示された通り、冷却開始温度および結晶化度の対応関係を示す近似直線Lが対応関係データの一例として得られる。
【0038】
以下、ステップS3の冷却工程のあくまで一例として、タクトタイム短縮の側面から、樹脂4が圧入された時点で徐冷を開始し、上記の対応関係データのうちステップS2で指定が受け付けられた結晶化度に対応する冷却開始温度から急冷を開始する例を挙げる。この場合、上記の「冷却開始温度」は、「急冷開始温度」と読み替えることができる。
【0039】
図5は、冷却開始温度の決定例を示す模式図である。図5に示すように、(イ)仕様として要求される結晶化度として「39.5%」の指定が受け付けられる。この場合、(ロ)近似直線Lにおいて結晶化度「39.5%」に対応する冷却開始温度「250℃」以下で急冷を開始できることが判明する。なお、図5には、急冷開始温度の決定に近似直線を用いる例を挙げたが、冷却開始温度および結晶化度の対応関係がテーブル化されたルックアップテーブルなどの他の対応関係データを用いることができるのは言うまでもない。
【0040】
さらに、上記のステップS3の冷却工程で実施される急冷のあくまで一例として、水冷により実現される例を挙げる。ここで、測定管1および金型2のギャップに圧入された樹脂4が空冷により徐冷される場合、測定点5A~測定点5Eの各々の位置の間で温度が一律に低下するとは限らない。例えば、測定管1の例で言えば、金型2および樹脂4の温度の低下速度は、ゲート側よりもベント側の方が高い。このため、ベント側から中央、ゲート側の順に水位を段階的に上昇させる段階注水を実施することにより、冷却効率を高めることができる。
【0041】
このような段階注水の一例として、測定点5E、測定点5C、測定点5Aの順に水位を上昇させる例を挙げる。
【0042】
図6は、温度および水位の経時変化を示す図である。図7は、段階注水を示す模式図である。図6には、縦軸が温度[℃]および水位[mm]を指すと共に横軸が経過時間[min]を指すグラフが示されている。図6に示すように、時刻t0では、測定管1および金型2のギャップに圧入された樹脂4に対する徐冷が開始される。この時刻t0以降、3つの測定点5の温度が異なる速度で低下する。すなわち、ベント側に近い測定点5E、測定点5C、測定点5Aの順に温度が低下する速度が高いことが明らかである。その後、時刻t1になるまでは、測定点5E、測定点5Cおよび測定点5Aのいずれの測定点5においても温度が急冷開始温度まで低下していない。このため、時刻t0から時刻t1までの期間では、図7の(い)に示すように、一定の水準以下での注水が実施される。ここで言う「水準」とは、樹脂4を急冷しない程度を指す。例えば、樹脂4が充填された高さよりも低い位置まで給水することができる。これにより、測定点5Eの冷却を促進させることができる。このように、測定点5E、測定点5Cおよび測定点5Aのいずれの測定点5においても温度が急冷開始温度まで低下していない場合であっても、必ずしも水位はゼロでなくともよい。
【0043】
時刻t1になると、測定点5Aおよび測定点5Cの温度は急冷開始温度よりも高い一方で、測定点5Eの温度は冷却開始温度まで低下する。この場合、測定点5Eに対応する高さまで水位を上昇させる。その後、測定点5Cの温度が急冷開始温度に低下する時刻t2までは、図7の(ろ)に示すように、ベンド側から測定点5Eまでの部分に対する急冷が実施される一方で、測定点5Eからゲート側までの部分に対する徐冷が実施される。
【0044】
時刻t2になると、測定点5Aの温度は急冷開始温度よりも高い一方で、測定点5Cの温度は冷却開始温度まで低下する。この場合、測定点5Cに対応する高さまで水位を上昇させる。その後、測定点5Aの温度が急冷開始温度に低下する時刻t3までは、図7の(は)に示すように、ベンド側から測定点5Cの中央までの部分に対する急冷が実施される一方で、測定点5Cからゲート側までの部分に対する徐冷が実施される。
【0045】
時刻t3になると、測定点5Aの温度は冷却開始温度まで低下する。この場合、図7の(は)に示すように、測定点5Aに対応する高さ以上、例えば最高水位まで水位を上昇させた後、最高水位を任意の条件を満たすまで維持する。例えば、一定の時間にわたって最高水位を維持したり、全ての測定点5の温度が閾値以下になるまで最高水位を維持したりできる。これにより、測定管1全体で急冷が実施される。その上で、時刻t4になると、図7の(ほ)に示すように、全ての水を排水することにより冷却を終了する。
【0046】
上述してきたように、本実施形態に係る樹脂ライニングの成型方法は、基材が装着された金型に樹脂を圧入する工程と、仕様として要求される樹脂の結晶化度の指定を受け付ける工程と、樹脂の結晶化度および樹脂の冷却を開始する冷却開始温度の対応関係が定義されたデータのうち、指定が受け付けられた結晶化度に対応する冷却開始温度に基づいて、金型への圧入後の樹脂を冷却する工程と、を含む。
【0047】
このように、本実施形態に係る樹脂ライニングの成型方法によれば、結晶化度の実測値および冷却開始温度の実測値の対応関係のうち、仕様として要求される樹脂の結晶化度の指定を満たす冷却開始温度で金型への圧入後の樹脂の冷却を開始できる。
【0048】
それ故、結晶化度の仕様を最低限満たす範囲で樹脂の冷却を開始するタイミングを最大限早めることができる。このため、樹脂の結晶化度の信頼性の低下、あるいはタクトタイムの長期化のいずれかを甘受せずともよくなる。
【0049】
したがって、本実施形態に係る樹脂ライニングの成型方法によれば、樹脂の結晶化度の信頼性の確保およびタクトタイムの短縮のトレードオフを解消することが可能である。
【0050】
上述の実施形態は一例を示したものであり、種々の応用が可能である。
【0051】
例えば、上記の実施形態では、3段階の段階注水が実施される例を挙げたが、2段階の段階注水を実施することもできれば、4段階以上の段階注水を実施することができる。
【0052】
図8は、基材および金型の断面図である。図8には、図2に示す測定管1における3つの測定点5A、測定点5Cおよび測定点5Eに加え、測定点5Bおよび測定点5Dの2つの測定点を加えた計5個の測定点5が示されている。
【0053】
上記のステップS3では、図8に示す測定点5A~測定点5Eの5個の測定点で測定される温度に基づいて図9に示す5段階の段階注水を実施することもできる。
【0054】
図9は、温度および水位の経時変化を示す図である。図9には、図6のグラフと同様、縦軸が温度[℃]および水位[mm]を指すと共に横軸が経過時間[min]を指すグラフが示されている。
【0055】
図9に示すように、時刻t10では、測定管1および金型2のギャップに圧入された樹脂4に対する徐冷が開始される。この時刻t10以降、5つの測定点5の温度が異なる速度で低下する。すなわち、ベント側に近い測定点5E、測定点5D、測定点5C、測定点5B、測定点5Aの順に温度が低下する速度が高いことが明らかである。その後、時刻t11になるまでは、5つの測定点5のいずれにおいても温度が急冷開始温度まで低下していない。このため、時刻t10から時刻t11までの期間では、図7に示す(い)の例と同様、一定の水準以下での注水、例えば樹脂4が充填された高さよりも低い位置までの給水が実施される。
【0056】
時刻t11になると、測定点5A、測定点5B、測定点5Cおよび測定点5Dの温度は急冷開始温度よりも高い一方で、測定点5Eの温度は冷却開始温度まで低下する。この場合、測定点5Eに対応する高さまで水位を上昇させる。その後、測定点5Dの温度が急冷開始温度に低下する時刻t12までは、ベンド側から測定点5Eまでの部分に対する急冷が実施される一方で、測定点5Eからゲート側までの部分に対する徐冷が実施される。
【0057】
時刻t12になると、測定点5A、測定点5Bおよび測定点5Cの温度は急冷開始温度よりも高い一方で、測定点5Dの温度は冷却開始温度まで低下する。この場合、測定点5Dに対応する高さまで水位を上昇させる。その後、測定点5Cの温度が急冷開始温度に低下する時刻t13までは、ベンド側から測定点5Dまでの部分に対する急冷が実施される一方で、測定点5Dからゲート側までの部分に対する徐冷が実施される。
【0058】
時刻t13になると、測定点5Aおよび測定点5Bの温度は急冷開始温度よりも高い一方で、測定点5Cの温度は冷却開始温度まで低下する。この場合、測定点5Cに対応する高さまで水位を上昇させる。その後、測定点5Bの温度が急冷開始温度に低下する時刻t14までは、ベンド側から測定点5Cの中央までの部分に対する急冷が実施される一方で、測定点5Cからゲート側までの部分に対する徐冷が実施される。
【0059】
時刻t14になると、測定点5Aの温度は急冷開始温度よりも高い一方で、測定点5Bの温度は冷却開始温度まで低下する。この場合、測定点5Bに対応する高さまで水位を上昇させる。その後、測定点5Aの温度が急冷開始温度に低下する時刻t15までは、ベンド側から測定点5Bまでの部分に対する急冷が実施される一方で、測定点5Bからゲート側までの部分に対する徐冷が実施される。
【0060】
時刻t15になると、測定点5Aの温度は冷却開始温度まで低下する。この場合、測定点5Aに対応する高さ以上、例えば最高水位まで水位を上昇させた後、最高水位を任意の条件を満たすまで維持する。例えば、一定の時間にわたって最高水位を維持したり、全ての測定点5の温度が閾値以下になるまで最高水位を維持したりできる。これにより、測定管1全体で急冷が実施される。その上で、時刻t16になると、全ての水を排水することにより冷却を終了する。
【0061】
以上のように、ベント側からゲート側までの測定点5の数を増加させることにより、水位を上昇させる段階数もより増加させることができるので、より冷却効率を高めることが可能である。
【0062】
なお、ここでは、上記のステップS3で段階注水が実施される例を挙げたが、必ずしも段階注水が実施されずとよく、段階的に給水を停止せずに最低水位から最高水位まで連続的に水位を上昇させる無段階注水が実施されることとしてもよい。
【0063】
また、上記の実施形態では、結晶化度および冷却開始温度に関する1種類の対応関係データを例示したが、複数の対応関係データを適応的に選択して冷却開始温度を決定することもできる。例えば、徐冷の温度勾配ごとに当該温度勾配に対応する対応関係データを選択することもできれば、口径または製品型番ごとに口径または製品型番に対応する対応関係のパターンを選択することもできる。
【符号の説明】
【0064】
1 測定管
2A 下金型
2B 上金型
3 樹脂POT
4 樹脂
5A,5B,5C 測定点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9